特許第6966094号(P6966094)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6966094
(24)【登録日】2021年10月25日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】車両用内装材
(51)【国際特許分類】
   B60R 13/02 20060101AFI20211028BHJP
   B60J 5/00 20060101ALI20211028BHJP
【FI】
   B60R13/02 B
   B60J5/00 501D
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-71366(P2019-71366)
(22)【出願日】2019年4月3日
(65)【公開番号】特開2020-168936(P2020-168936A)
(43)【公開日】2020年10月15日
【審査請求日】2020年11月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000225728
【氏名又は名称】南条装備工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 伸二
(72)【発明者】
【氏名】二川 将明
【審査官】 宮地 将斗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−049835(JP,A)
【文献】 特開2008−012946(JP,A)
【文献】 特開2017−132274(JP,A)
【文献】 特開2012−030714(JP,A)
【文献】 特開2007−083899(JP,A)
【文献】 特開平10−175491(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0260086(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 13/02
B60J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製の表皮を有する車両用内装材において、
前記表皮は、第1表皮構成部と、該第1表皮構成部よりも厚い第2表皮構成部と、該第1表皮構成部及び該第2表皮構成部の間に設けられ、該第1表皮構成部よりも薄い薄肉部を有し、該第1表皮構成部及び該第2表皮構成部の温度変化に起因する変形量の差を吸収する変形吸収部とを備え、
前記第1表皮構成部、前記第2表皮構成部及び前記変形吸収部は一体成形されていることを特徴とする車両用内装材。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用内装材において、
前記変形吸収部の前記薄肉部は、前記表皮の表面及び裏面がそれぞれ有する溝部によって形成されていることを特徴とする車両用内装材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両用内装材において、
前記変形吸収部の前記薄肉部は、前記表皮の表面が有する擬似インステッチ溝部によって形成され、
前記擬似インステッチ溝部には、疑似インステッチ模様が形成されていることを特徴とする車両用内装材。
【請求項4】
請求項3に記載の車両用内装材において、
前記変形吸収部は、第1薄肉部と第2薄肉部とを有し、
前記第1薄肉部は、前記表皮の表面が有する擬似インステッチ溝部によって形成され、
前記第2薄肉部は、前記表皮の表面が有するアウトステッチ溝部によって形成され、
前記アウトステッチ溝部には、アウトステッチ模様が糸によって形成されていることを特徴とする車両用内装材。
【請求項5】
請求項2に記載の車両用内装材において、
前記第1表皮構成部の表面には、シボが形成され、
前記第2表皮構成部の表面には、前記第1表皮構成部のシボとは異なるシボが形成され、
前記第1表皮構成部のシボと、前記第2表皮構成部のシボとの切り替わり部分が前記溝部の底部に位置していることを特徴とする車両用内装材。
【請求項6】
請求項2に記載の車両用内装材において、
前記第1表皮構成部の肉厚と、前記第2表皮構成部の肉厚との切り替わり部分が前記溝部に位置していることを特徴とする車両用内装材。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1つに記載の車両用内装材において、
前記車両用内装材は、車両のドアの車室内側に取り付けられるドアトリムが有するアームレストであり、
前記アームレストの上側に前記第1表皮構成部が設けられ、前記アームレストの下側に前記第2表皮構成部が設けられていることを特徴とする車両用内装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表皮を有する車両用内装材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両用内装材は、基材と表皮、または基材、クッション材及び表皮材を組み合わせて構成される場合があり、表皮としては、例えば本革に似せたシボを有する表皮が使用されるケースが多い。そして、そのような表皮を複数枚用意し、縫製により繋ぎ合わせて車両用内装材の表側に配置することで、意匠面の質感向上を図っている。
【0003】
特許文献1には、2枚の表皮材の端縁部を重ね合わせた状態で糸によって縫い合わせ、この縫い合わせた部分を起点として一方の表皮を折り返し、更に表皮が重なった部分を糸で縫う、いわゆるシングルステッチと呼ばれる方法が開示されている。シングルステッチで縫合した表皮には、2枚の表皮の継ぎ目にインステッチが現れるとともに、このインステッチと平行にアウトステッチが現れる。
【0004】
特許文献1のように実際に糸を使用して表皮を縫い合わせるようにすると、縫製の手間がかかるとともに、コストが増大することから、例えば特許文献2に開示されているように、樹脂材によって意匠面に擬似的なステッチ模様を形成することが行われている。特許文献2では、擬似ステッチとなる糸目部を表側に多数並べて形成した第1部材と、糸目部のみを露出させた状態で第1部材の表側を覆うように形成された第2部材とを組み合わせることにより、糸を使用することなく、ステッチ模様を形成するようにしている。第1部材と第2部材とは二色成形されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−184487号公報
【特許文献2】特開2016−147496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、例えばアームレストのような車両用内装材の場合、表皮のうち、手が触れやすい部分の肉厚を手が触れにくい部分の肉厚よりも薄くすることにより、手が触れやすい部分の柔軟性を向上させ、その結果、触感を高めることが考えられる。このようにした場合、表皮の手が触れやすい部分と手が触れにくい部分との肉厚が異なることになるので、特許文献2のように1枚の樹脂製の表皮材で部位によって肉厚の差を設けようとすると、成形時及び使用時に体積収縮差に起因する変形や波打ちが表皮の表面に現れて見栄えが悪化するという問題がある。この問題は、特許文献1のように別部材の表皮を縫い合わせるようにすれば解決するが、特許文献1の場合、上述したように手間とコストが問題となる。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、相対的に厚い部分と薄い部分とが樹脂材により一体成形された表皮において、厚い部分と薄い部分との境界及びその近傍に変形や波打ちが現れないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、第1の発明は、樹脂製の表皮を有する車両用内装材において、前記表皮は、第1表皮構成部と、該第1表皮構成部よりも厚い第2表皮構成部と、該第1表皮構成部及び該第2表皮構成部の間に設けられ、該第1表皮構成部よりも薄い薄肉部を有し、該第1表皮構成部及び該第2表皮構成部の温度変化に起因する変形量の差を吸収する変形吸収部とを備え、前記第1表皮構成部、前記第2表皮構成部及び前記変形吸収部は一体成形されていることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、第1表皮構成部が第2表皮構成部よりも薄くなるので、第1表皮構成部の柔軟性が向上し、手で触れたときの触感が高まる。第1表皮構成部と第2表皮構成部との肉厚に差があると、一体成形したときに体積収縮差に起因する変形や波打ちが境界部分に出やすくなり、また、一体成形後、使用時に雰囲気温度が大きく変化した場合も、同様に変形や波打ちが境界部分に出やすくなるが、本発明では、第1表皮構成部及び該第2表皮構成部の間の変形吸収部が体積収縮差に起因する変形や波打ちを吸収する。すなわち、体積収縮差によって変形吸収部に対して第1表皮構成部側及び第2表皮構成部側から圧縮力が作用すると、薄肉部が容易に変形することで圧縮力が緩和される。また、体積収縮差によって変形吸収部に対して引張力が作用した場合も、薄肉部が容易に変形することで引張力が緩和される。したがって、波打ち等が起こり難くなる。
【0010】
第2の発明は、前記変形吸収部の前記薄肉部は、前記表皮の表面及び裏面がそれぞれ有する溝部によって形成されていることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、表皮の両面に溝部が形成されることになるので、薄肉部がより一層変形しやすくなる。
【0012】
第3の発明は、前記変形吸収部の前記薄肉部は、前記表皮の表面が有する擬似インステッチ溝部によって形成され、前記擬似インステッチ溝部には、疑似インステッチ模様が形成されていることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、溝部にインステッチのような模様である疑似インステッチ模様が形成されているので、2枚の表皮を縫い合わせたような質感が得られる。この疑似インステッチ模様を形成する溝部を利用して変形量の差を吸収させることが可能になる。
【0014】
第4の発明は、前記変形吸収部は、第1薄肉部と第2薄肉部とを有し、前記第1薄肉部は、前記表皮の表面が有する擬似インステッチ溝部によって形成され、前記第2薄肉部は、前記表皮の表面が有するアウトステッチ溝部によって形成され、前記アウトステッチ溝部には、アウトステッチ模様が糸によって形成されていることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、擬似インステッチ溝部とアウトステッチ溝部とによって表皮の質感が高まる。そして、第1表皮構成部及び第2表皮構成部の温度変化に起因する変形量の差が大きい場合であっても、擬似インステッチ溝部とアウトステッチ溝部によって吸収することが可能になる。
【0016】
第5の発明は、前記第1表皮構成部の表面には、シボが形成され、前記第2表皮構成部の表面には、前記第1表皮構成部のシボとは異なるシボが形成され、前記第1表皮構成部のシボと、前記第2表皮構成部のシボとの切り替わり部分が前記溝部の底部に位置していることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、第1表皮構成部のシボと第2表皮構成部のシボとが異なっているので、2枚の表皮を縫い合わせたような質感が得られる。そして、第1表皮構成部のシボと、第2表皮構成部のシボとの切り替わり部分が溝部の底部に位置しているので、切り替わり部分が見えにくくなり、質感がより一層高まる。
【0018】
第6の発明は、前記第1表皮構成部の肉厚と、前記第2表皮構成部の肉厚との切り替わり部分が前記溝部に位置していることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、第1表皮構成部の肉厚と第2表皮構成部の肉厚との切り替わり部分が外観に現れにくくなる。
【0020】
第7の発明は、前記車両用内装材は、車両のドアの車室内側に取り付けられるドアトリムが有するアームレストであり、前記アームレストの上側に前記第1表皮構成部が設けられ、前記アームレストの下側に前記第2表皮構成部が設けられていることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、アームレストの上側の表皮の肉厚が相対的に薄くなるので、手が触れやすい部分の柔軟性が高まることになる。
【発明の効果】
【0022】
第1の発明によれば、第1表皮構成部と、第1表皮構成部よりも厚い第2表皮構成部との間に、第1表皮構成部よりも薄い薄肉部を有する変形吸収部を設けて体積収縮差に起因する変形や波打ちを吸収させることができるので、第1表皮構成部と第2表皮構成部との境界及びその近傍に変形や波打ちが現れないようにすることができる。
【0023】
第2の発明によれば、薄肉部がより一層変形しやすくなり、変形や波打ちを目立たなくすることができる。
【0024】
第3の発明によれば、疑似インステッチ模様を利用して第1表皮構成部及び第2表皮構成部の温度変化に起因する変形量の差を吸収させることができる。
【0025】
第4の発明によれば、第1表皮構成部及び第2表皮構成部の温度変化に起因する変形量の差が大きくても、擬似インステッチ溝部とアウトステッチ溝部とによってその差を吸収することができる。
【0026】
第5の発明によれば、第1表皮構成部の表面と第2表皮構成部の表面とに異なるシボを形成する場合に、シボの切り替わり部分を溝部の底部に位置付けたので、2枚の表皮を縫い合わせたような質感を高めることができる。
【0027】
第6の発明によれば、第1表皮構成部の肉厚と第2表皮構成部の肉厚との切り替わり部分が外観に現れにくくなり、見栄えをより一層良好にすることができる。
【0028】
第7の発明によれば、アームレストの上側の表皮の肉厚を相対的に薄くして触感を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の実施形態に係るアームレストを有するドアトリムを車室内側から見た図である。
図2】アームレストを車室内側から見た斜視図である。
図3図2のIII−III線における断面図である。
図4】表皮の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0031】
図1は、本発明の実施形態に係る車両用内装材としてのアームレスト1を備えたドアトリム100を示すものである。ドアトリム100は、自動車のドア(図示せず)の車室内側に取り付けられ、該ドアの車室内側を覆うように形成されている。このドアトリム100も車両用内装材である。ドアトリム100の車室内側の上側部分には、トリム上側表皮101が設けられており、このトリム上側表皮101はドアトリム100の上側部分において前後方向に延びている。また、ドアトリム100の車室内側のトリム上側表皮101よりも下側には、トリム下側表皮102が設けられている。トリム上側表皮101とトリム下側表皮102との色は異なっていてもよいし、同じであってもよい。尚、この実施形態の説明では、車両前側を単に「前」といい、車両後側を単に「後」というものとする。
【0032】
アームレスト1は、ドアトリム100の上下方向中間部に取り付けられ、車室内側へ膨出するとともに、前後方向に長い形状を有している。図3に示すように、この実施形態では、アームレスト1が基材10とクッション材20と表皮30とを有しているが、クッション材20は省略してもよい。
【0033】
尚、本発明の構成としては、例えば、表皮30単体で成形してアウトステッチを縫製した後、クッション材20と基材10に表皮30を被覆させる形態であってもよい。
【0034】
基材10は、クッション材20及び表皮30を構成する材料よりも硬い樹脂材からなり、アームレスト1の形状を維持可能な剛性を有している。基材10は、車室内外方向に延びる上板部11と、上板部11の車室内側から下方へ延びる縦板部12とを有しており、上板部11と縦板部12とは一体成形されている。上板部11の車室外側の端部には、上方へ突出して前後方向に延びる側壁部11aが形成されている。この側壁部11aの上端部には、車室外側へ突出して前後方向に延びるフランジ部11bが形成されている。
【0035】
上板部11の車室内側は下方へ湾曲しながら延びている。上板部11の車室内側の端部には、車室内側へ突出して前後方向に延びる横壁部11cが形成されている。横壁部11cの車室内側の端部に上記縦板部12の上端部が連続している。縦板部12は、下側へ行くほど車室外側に位置するように傾斜乃至湾曲しながら延びている。
【0036】
基材10の側壁部11aと横壁部11cの間にクッション材20が連続して設けられている。したがって、クッション材20は、アームレスト1の上面から車室内側の角部に亘って設けられることになり、乗員がアームレスト1に手を置いたときに触れやすい部分をカバーするようになっている。
【0037】
クッション材20は、例えば弾性を有する発泡材等で構成されている。クッション材20の裏面は、上板部11の上面に接合されるとともに、側壁部11aの内面及び横壁部11cの内面にも接合されて基材10とクッション材20とは一体化されている。基材10とクッション材20とは一体成形してもよいし、別々に成形した後、配置するようにしてもよい。
【0038】
表皮30は、柔軟性を有する樹脂材からなる上側表皮構成部(第1表皮構成部)31と、該上側表皮構成部31よりも厚い下側表皮構成部(第2表皮構成部)32と、変形吸収部33とを有している。表皮30は、基材10及びクッション材20に一体成形するようにしてもよいし、基材10及びクッション材20とは別に成形した後、基材10及びクッション材20を被覆するようにしてもよい。
【0039】
上側表皮構成部31は、クッション材20の略全体を覆うように形成されており、アームレスト1の上面から車室内側の角部に亘って設けられる。上側表皮構成部31の車室外側の端部は、基材10のフランジ部11bに沿って延びた後、フランジ部11bの裏側に沿って延びて側壁部11aの外面に周り込むように形成されている。上側表皮構成部31の車室外側の端部は、フランジ部11bの裏側及び側壁部11aの外面に接合されている。上側表皮構成部31の車室内側の端部は、基材10の上板部11と縦板部12との境界部分近傍に達するように形成されるとともに、横壁部11cまで延びている。
【0040】
下側表皮構成部32は、主に縦板部12を覆う部分であり、縦板部12に沿って上下方向に延びている。下側表皮構成部32の下端部は、縦板部12の下端部に達しており、この下端部を覆うように車室外側へ屈曲した後、上方へ折り曲げられて縦板部12の裏面に接合されている。
【0041】
図4に示すように、変形吸収部33は、上側表皮構成部31及び下側表皮構成部32の間に設けられ、該上側表皮構成部31よりも薄い上側薄肉部33a、中間薄肉部33b及び下側薄肉部33cを有し、上側表皮構成部31及び下側表皮構成部32の温度変化に起因する変形量の差を吸収する部分である。上側表皮構成部31、下側表皮構成部32及び変形吸収部33は、同じ樹脂材によって一体成形されている。中間薄肉部33bは、本発明の第1薄肉部に相当し、上側薄肉部33a及び下側薄肉部33cは、本発明の第2薄肉部に相当する。
【0042】
上側表皮構成部31の厚さT1は、例えば1.2mm〜1.4mm程度に設定されている。これにより、上側表皮構成部31の柔軟性が高まり、クッション材20のクッション性を活かした柔らかい触感にすることができる。一方、下側表皮構成部32の厚さT2は、例えば1.6mm以上に設定されている。この下側表皮構成部32は、クッション材20が無い部分、即ち基材10に直接設けられることになるので、上側表皮構成部31よりも厚くして上側表皮構成部31によってクッション性を得るようにしている。
【0043】
上側表皮構成部31の厚さT1と、下側表皮構成部32の厚さT2とが異なっていると、例えば、一体成形したときに体積収縮差に起因する変形や波打ちが境界部分に出やすくなり、また、一体成形後、使用時に雰囲気温度が大きく変化した場合も、同様に変形や波打ちが境界部分に出やすくなる。本実施形態では、上側表皮構成部31及び下側表皮構成部32の間の変形吸収部33が体積収縮差に起因する変形や波打ちを吸収する。
【0044】
すなわち、変形吸収部33は、上から下に順に、上側薄肉部33a、中間薄肉部33b及び下側薄肉部33cを有しているので、例えば、体積収縮差によって変形吸収部33に対して上下方向の圧縮力が作用すると、薄肉部33a、33b、33cが容易に変形することで圧縮力が緩和され、また、体積収縮差によって変形吸収部33に対して上下方向の引張力が作用した場合も、薄肉部33a、33b、33cが容易に変形することで引張力が緩和される。したがって、上側表皮構成部31及び下側表皮構成部32の境界部分及びその近傍に波打ち等が起こり難くなる。
【0045】
上側薄肉部33aは、表皮30の表面及び裏面がそれぞれ有する上側表面溝部34a及び上側裏面溝部34bによって形成されている。上側表面溝部34a及び上側裏面溝部34bの高さは略同じに設定されており、したがって、上側表面溝部34aが形成された部分の真裏を上側裏面溝部34bが上側表面溝部34aと同様に延びている。上側表面溝部34a及び上側裏面溝部34bを形成することで、上側薄肉部33aがより一層変形しやすくなる。上側表面溝部34a及び上側裏面溝部34bのうち、一方のみを形成してもよい。上側表面溝部34a及び上側裏面溝部34bの深さによって上側薄肉部33aの肉厚を任意に設定することができる。
【0046】
同様に、中間薄肉部33bは、表皮30の表面及び裏面がそれぞれ有する中間表面溝部35a及び中間裏面溝部35bによって形成され、また、下側薄肉部33cは、表皮30の表面及び裏面がそれぞれ有する下側表面溝部36a及び下側裏面溝部36bによって形成されている。上側薄肉部33a、中間薄肉部33b及び下側薄肉部33cの肉厚は、上述した圧縮力や引張力が作用した際に薄肉部33a、33b、33cが変形することにより、上側表皮構成部31及び下側表皮構成部32に変形が殆ど及ばないようにすることが可能な肉厚に設定されており、これは材料の硬度等によっても異なる。上側薄肉部33a、中間薄肉部33b及び下側薄肉部33cの厚さは同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0047】
また、上側薄肉部33a、中間薄肉部33b及び下側薄肉部33cは、上側表皮構成部31の下端部に沿って延びているので、薄肉ヒンジのように作用する。すなわち、変形吸収部33に対して上下方向の圧縮力が作用した場合には、変形吸収部33は、上側薄肉部33a近傍、中間薄肉部33b近傍、または下側薄肉部33c近傍で曲がるように変形し、このことによっても、上側表皮構成部31及び下側表皮構成部32の温度変化に起因する変形量の差が吸収される。
【0048】
中間表面溝部35aは擬似インステッチ溝部である。中間表面溝部35aは、その底部に近づくほど幅が狭くなるような断面形状を有しており、その断面形状は底部側へ向かって尖ったような形状になる。擬似インステッチ溝部は、地縫い溝部と呼ぶこともできる。中間表面溝部35aの底部には、疑似インステッチ模様となる突出部35cが形成されている。インステッチとは、2枚の布(表皮)を縫い合わせたとき(地縫いしたとき)にできるステッチ(針目)である。本実施形態では、2枚の表皮を使用せずに、2枚の表皮を縫い合わせた感じを出すようにしているので、実際にはインステッチは無い。このインステッチに似せたステッチ模様となる複数の突出部35cを中間表面溝部35aの長手方向に所定の間隔をあけて形成することで、中間表面溝部35aが、2枚の表皮を縫い合わせた後に互いに離れる方向に折り返してできたインステッチを有する溝部のように見える。突出部35cの間隔は、任意に設定することができるが、一般的なインステッチを再現できる程度の間隔に設定するのが好ましい。
【0049】
上側表面溝部34aは上側アウトステッチ溝部である。上側表面溝部34aも、その断面形状は底部側へ向かって尖ったような形状になっている。上側表面溝部34aには、アウトステッチ模様が糸34cによって形成されている。糸34cは、上側表面溝部34aに沿ってステッチを形成している部材であり、上側表皮構成部31を縫うことによってアウトステッチ模様を得ている。
【0050】
下側表面溝部36aは下側アウトステッチ溝部である。下側表面溝部36aも、その断面形状は底部側へ向かって尖ったような形状になっている。下側表面溝部36aには、アウトステッチ模様が糸36cによって形成されている。糸36cは、下側表面溝部36aに沿ってステッチを形成している部材であり、下側表皮構成部32を縫うことによってアウトステッチ模様を得ている。
【0051】
また、図示しないが、上側表皮構成部31の表面にはシボが形成され、また、下側表皮構成部32の表面にもシボが形成されている。下側表皮構成部32のシボは、上側表皮構成部31のシボとは異なっている。上側表皮構成部31のシボと、下側表皮構成部32のシボとの切り替わり部分は、中間表面溝部35aの底部に位置している。これにより、シボの切り替わり部分が目立ち難くなるとともに、上側表皮構成部31と下側表皮構成部32とのシボの切り替わりが自然になる。
【0052】
上側表皮構成部31の肉厚と、下側表皮構成部32の肉厚との切り替わり部分も中間表面溝部35aの底部に位置している。これにより、肉厚の切り替わり部分が目立ち難くなる。
【0053】
(実施形態の作用効果)
以上説明したように、この実施形態によれば、上側表皮構成部31が下側表皮構成部32よりも薄くなるので、上側表皮構成部31の柔軟性が向上し、手で触れたときの触感が高まる。
【0054】
また、上側表皮構成部31と下側表皮構成部32の体積収縮差によって変形吸収部33に対して上側表皮構成部31側及び下側表皮構成部32側から圧縮力が作用すると、薄肉部33a、33b、33cが容易に変形することで圧縮力が緩和され、また、体積収縮差によって変形吸収部33に対して引張力が作用した場合も、薄肉部33a、33b、33cが容易に変形することで引張力が緩和される。したがって、上側表皮構成部31と下側表皮構成部32の境界及びその近傍に変形や波打ちが現れないようにすることができ、見栄えを良好にすることができる。
【0055】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上説明したように、本発明に係る車両用内装材は、例えば、ドアトリムを構成する部材として使用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 アームレスト(車両用内装材)
30 表皮
30a 溝部
31 上側表皮構成部(第1表皮構成部)
32 下側表皮構成部(第2表皮構成部)
33 変形吸収部
33a 上側薄肉部(第2薄肉部)
33b 中間薄肉部(第1薄肉部)
33c 下側薄肉部(第2薄肉部)
34a 上側表面溝部(アウトステッチ溝部)
34c 糸
35a 中間表面溝部(擬似インステッチ溝部)
36a 下側表面溝部(アウトステッチ溝部)
36c 糸
100 ドアトリム
図1
図2
図3
図4