特許第6966170号(P6966170)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6966170
(24)【登録日】2021年10月25日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】ねじ送り機構の診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 13/02 20190101AFI20211028BHJP
   F16H 25/20 20060101ALI20211028BHJP
   F16H 25/24 20060101ALI20211028BHJP
   F16C 23/06 20060101ALI20211028BHJP
【FI】
   G01M13/02
   F16H25/20 F
   F16H25/24 A
   F16C23/06
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-28109(P2018-28109)
(22)【出願日】2018年2月20日
(65)【公開番号】特開2019-144088(P2019-144088A)
(43)【公開日】2019年8月29日
【審査請求日】2020年10月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】村橋 俊彦
【審査官】 山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−298250(JP,A)
【文献】 特開2002−028836(JP,A)
【文献】 特開平11−114761(JP,A)
【文献】 特開平08−247248(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0229125(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00 − 13/045
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体を螺合させた送りねじ軸の両端が、軸受を備えた支持部によりそれぞれ回転可能に支持されて、前記送りねじ軸の回転により前記移動体をねじ送り移動可能であると共に、前記送りねじ軸の何れか一端側の前記軸受が、前記支持部内で軸方向に拘束されてなるねじ送り機構において、前記送りねじ軸のプリテンションを診断する方法であって、
前記送りねじ軸の温度を任意の第1温度に設定する第1温度設定ステップと、
前記第1温度の前記送りねじ軸を、所定の軸移動指令によって回転させ、前記移動体の第1実移動距離を取得する第1実移動距離取得ステップと、
前記送りねじ軸の温度を、前記第1温度と異なる任意の第2温度に設定する第2温度設定ステップと、
前記第2温度の前記送りねじ軸を、前記第1実移動距離取得ステップと同じ軸移動指令によって回転させ、前記移動体の第2実移動距離を取得する第2実移動距離取得ステップと、
前記第1実移動距離と前記第2実移動距離との差を算出する実移動距離差算出ステップと、
前記第1温度と前記第2温度との差から前記送りねじ軸の熱膨張量を算出する熱膨張量算出ステップと、
前記実移動距離の差と前記熱膨張量とに基づいて熱変位抑制率を算出する熱変位抑制率算出ステップと、
得られた前記熱変位抑制率に基づいて前記送りねじ軸のプリテンションを診断する診断ステップと、
を実行することを特徴とするねじ送り機構の診断方法。
【請求項2】
前記診断ステップでは、
前記熱変位抑制率と予め設定した前記送りねじ軸の剛性とから、前記送りねじ軸の支持剛性を算出する支持剛性算出ステップと、
前記送りねじ軸の支持剛性と予め設定されている閾値とを比較する支持剛性比較ステップと、を実行することを特徴とする請求項1に記載のねじ送り機構の診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械等に設けられて移動体を直線移動させるねじ送り機構において、送りねじ軸のプリテンションを診断する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械には、ボールねじ等の送りねじ軸の回動によりテーブルなどの移動体をねじ送りするねじ送り機構が備えられている。この送りねじ軸は、ナット部や送りねじ軸を支持する軸受の発熱によって熱膨張し、移動体に位置決め誤差を生じさせる。そのため、従来から特許文献1に開示の如く、送りねじ軸に予張力(プリテンション)を付与し、送りねじ軸の熱膨張を抑えて位置決め誤差を抑制する方法が広く行われている。
【0003】
ねじ送り機構において、送りねじ軸を支持する方法には一般に2通りあり、送りねじ軸を両端の軸受で軸方向に拘束する構造(以下「ダブルアンカー方式」と称す。)と、片方の軸受のみ拘束する構造(以下「シングルアンカー方式」と称す。)とが知られている。
前者は、プリテンションによる変形量以上に送りねじ軸が膨張した場合でも圧縮方向に拘束が可能なことから、継続して熱変位を抑制するとともに送りねじ軸の軸方向剛性も確保されるため、位置決め精度を低下させることはない。ただし、送りねじ軸の熱膨張量が大きくなり、軸受の許容荷重を越えると破損する恐れがある。
後者は、送りねじ軸の熱膨張による軸受破損はないが、プリテンション作用の範囲外では熱変位の抑制効果がなくなるとともに、軸方向剛性が減少し位置決め精度が低下する。特に、シングルアンカー方式では、プリテンション作用範囲外では上記の通り性能の悪化が著しいことからプリテンション量の管理が重要となる。
そこで従来では、ある軸動作を実施した場合における任意の軸位置による熱変位を測定し、経験的にその大小からプリテンション量の過不足を判断していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平4−92743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シングルアンカー方式のねじ送り機構において、熱変位を測定して経験的にプリテンション量の過不足を判断する従来の管理方法では、軸受や送りねじ軸の個体差による発熱量の違いや動作履歴により熱変位が異なるため、正確にプリテンション量の過不足を判断することができなかった。
【0006】
そこで、本発明は、シングルアンカー方式のねじ送り機構において、送りねじ軸のプリテンションの過不足を正確に判断することができ、プリテンションの過不足に起因する位置決め精度の低下や軸受寿命の低下を防ぐことができる診断方法を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、移動体を螺合させた送りねじ軸の両端が、軸受を備えた支持部によりそれぞれ回転可能に支持されて、送りねじ軸の回転により移動体をねじ送り移動可能であると共に、送りねじ軸の何れか一端側の軸受が、支持部内で軸方向に拘束されてなるねじ送り機構において、送りねじ軸のプリテンションを診断する方法であって、
送りねじ軸の温度を任意の第1温度に設定する第1温度設定ステップと、
第1温度の送りねじ軸を、所定の軸移動指令によって回転させ、移動体の第1実移動距離を取得する第1実移動距離取得ステップと、
送りねじ軸の温度を、第1温度と異なる任意の第2温度に設定する第2温度設定ステップと、
第2温度の送りねじ軸を、第1実移動距離取得ステップと同じ軸移動指令によって回転させ、移動体の第2実移動距離を取得する第2実移動距離取得ステップと、
第1実移動距離と第2実移動距離との差を算出する実移動距離差算出ステップと、
第1温度と第2温度との差から送りねじ軸の熱膨張量を算出する熱膨張量算出ステップと、
実移動距離の差と熱膨張量とに基づいて熱変位抑制率を算出する熱変位抑制率算出ステップと、
得られた熱変位抑制率から送りねじ軸のプリテンションを診断する診断ステップと、を実行することを特徴とする。
請求項に記載の発明は、請求項1の構成において、診断ステップでは、
熱変位抑制率と予め設定した送りねじ軸の剛性とから、送りねじ軸の支持剛性を算出する支持剛性算出ステップと、
送りねじ軸の支持剛性と予め設定されている閾値とを比較する支持剛性比較ステップと、を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シングルアンカー方式のねじ送り機構において、組付不良や部品精度不良による送りねじ軸のプリテンションの過不足や、軸受摩耗等に起因した軸受予圧の減少によるプリテンションの低下を正確に判断することができる。よって、ねじ送り機構を高品位に管理することができ、プリテンションの過不足に起因する位置決め精度の低下や軸受寿命の低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ねじ送り機構の説明図である。
図2】オイルコントローラによる温度設定手段及びレーザ測定機による実移動距離取得手段を備えたねじ送り機構の説明図である。
図3】診断方法のフローチャートである。
図4】実移動距離取得手段としてプローブセンサを用いたねじ送り機構の説明図である。
図5】実移動距離取得手段としてリニアスケールを用いたねじ送り機構の説明図である。
図6】送りねじ軸の軸方向の剛性モデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、NC工作機械に用いられるねじ送り機構の一例を示すものである。ねじ送り機構1は、大径のねじ部3と、その両端の小径部4,4とを有するボールねじ等の送りねじ軸2を備え、送りねじ軸2の小径部4,4を、基台となるベース5上に設置される支持部6A,6Bによって回転可能に支持してなる。送りねじ軸2のねじ部3には、送りねじナット7が螺合して、この送りねじナット7に移動体としてのテーブル8(図2)が固定されて、図示しないサーボモータによって送りねじ軸2が回転及び停止することで、送りねじナット7が軸方向にねじ送りされてテーブル8が直線移動可能且つ任意の位置で位置決め可能となっている。テーブル8の位置は、図示しない位置検出器によって検出可能である。
【0011】
支持部6Aは、ベース5上に固定される軸受ブラケット10を備え、軸受ブラケット10に形成された段付きの軸挿入孔11には、フランジ13を周設したスリーブ12が外側から挿入されて、フランジ13と軸受ブラケット10との間に設けたカラー14によってスリーブ12が位置決めされている。
スリーブ12内には、軸方向に3つの軸受15,15・・が並設されて、送りねじ軸2の小径部4を軸支している。軸受15の内輪は、スリーブ12の外側から小径部4に螺合された押えナット16により、ねじ部3の端部へ外方から押さえ付けられている。一方、軸受15の外輪は、スリーブ12の外側の開口に嵌合される蓋体17により、スリーブ12の内面に押さえ付けられている。これにより軸受15,15・・は、スリーブ12内で軸線方向に位置固定されて移動不能に支持されている。よって、ここではカラー14の軸線方向の幅(厚み)を調整することにより、送りねじ軸2に対して予張力(プリテンション)を与えることができる。
【0012】
一方、支持部6Bにおいても、軸受ブラケット10にフランジ13付きのスリーブ12が外側から挿入されて、スリーブ12内に並設された2つの軸受18,18により、送りねじ軸2の小径部4が軸支されている。ここでも軸受18の内輪は、スリーブ12の外側から小径部4に螺合された押えナット16により、ねじ軸3の端部へ外方から押さえ付けられているが、軸受18の外輪は蓋体等によって拘束されていない。よって、送りねじ軸2は、支持部6B側では、予張力がない状態において反力を受けずに軸線方向に膨張することができる。
【0013】
また、送りねじ軸2の軸心には、全長に亘って貫通孔20が設けられており、この貫通孔20は、図2に示すように、回転可能な継ぎ手21,21及び配管22,22を介してオイルコントローラ23に接続されている。よって、送りねじ軸2の貫通孔20には、オイルコントローラ23によって調温された媒体(ここではオイル)を流すことができるようになっている。オイルコントローラ23は、NC装置24に接続されて、オイルの制御温度や検出温度を相互にやり取り可能となっている。
さらに、ベース5には温度センサ25が、軸受ブラケット10,10には温度センサ26,26がそれぞれ取り付けられて温度測定部27に接続され、ベース5及び軸受15,18近傍の構造体である軸受ブラケット10,10の温度を計測可能となっている。
【0014】
以上の如く構成されたシングルアンカー方式のねじ送り機構1において、送りねじ軸2のプリテンションを診断する方法について、図3を用いて説明する。
まず、S1で、送りねじ軸2の温度を任意の第1温度T1(x)に設定する(第1温度設定ステップ)。温度設定手段は以下に例示するが、送りねじ軸2の温度が把握できれば設定する手法は問わない。
例えば、図2に示すように、送りねじ軸2の静止状態または、発熱が十分に小さいと判断される軸動作において、送りねじ軸2の貫通孔20内に、オイルコントローラ23で調温した温度Tcのオイルを流し、この温度Tcを送りねじ軸2の第1温度T1(x)とする。
【0015】
また、任意の送り動作または、静止状態における温度分布を、NC装置24から得た運転情報と温度センサ26から得た温度情報、またはそのどちらかから既知の方法により推定し、推定した温度分布の代表温度や平均温度を第1温度T1(x)としてもよい。
さらに、任意の送り動作または、静止状態における温度分布を、送りねじ内側に設置した光ファイバひずみ温度計(図示せず)により直接測定し、測定した温度分布の代表温度や平均温度を第1温度T1(x)としてもよい。
そして、同様に離散的に設置した熱電対等の直接温度検出手段(図示せず)により測定した温度情報と測定位置情報から温度分布を求め、この温度分布の代表温度や平均温度を第1温度T1(x)としてもよい。
【0016】
次に、S2で、NC装置24からサーボモータに任意の距離の軸移動指令を出力し、S1で設定した第1温度T1(x)における軸移動指令距離L0に対する第1実移動距離L1を取得する(第1実移動距離取得ステップ)。なお、実移動距離取得手段は以下に例示するが、実移動距離を取得できれば方法は問わない。
例えば、図2に示すように、レーザ測定機30を用いて、テーブル8上に載置されたターゲット31の移動距離を測定することで第1実移動距離L1を取得してもよい。レーザ測定機30はNC装置24に接続され、測定した距離情報や計測動作については相互にやり取りすることができる。
【0017】
また、図4に示すように、工作機械の主軸頭35に回転可能に支持された主軸36に、タッチ式で絶対長をL0’とするプローブセンサ37を取り付ける一方、テーブル8上に、既知の絶対長を有するバー38を設置して、プローブセンサ37によりバー38を計測することで、第1実移動距離としての計測距離L1’を取得してもよい。このとき、バー38はプローブセンサ37で送り軸方向の寸法が測定可能であれば、ベース5上を含みどこに設置しても構わない。プローブセンサ37はNC装置24と接続されており、バー38と接触したNC上の座標を認識することができる。また、バー38には温度センサ39を設けて温度測定部27と接続し、バー38の温度を検出可能としている。
【0018】
さらに、図5に示すように、リニアスケール40を有する、スケールフィードバックのテーブル8において、スケールフィードバックを無効にした状態における移動前後のリニアスケール40の検出位置の差から第1実移動距離L1を計測してもよい。ここではリニアスケール40のスライダ41がベース5に固定されたスライダ支持ブロック42により支持されている。また、リニアスケール40のスケールは、テーブル8に固定されている。スライダ41とNC装置24とは接続されており、テーブル8の位置を直接検出することができる。また、リニアスケール40には温度センサ43を設けて温度測定部27と接続し、リニアスケール40の温度を検出可能としている。
【0019】
次に、S3で、送りねじ軸2の温度を任意の第2温度T2(x)に設定する(第2温度設定ステップ)。温度設定手段は、送りねじ軸2の温度分布が把握できれば、設定する手法は問わない。
例えば第1温度の設定と同様に、図2に示すように、送りねじ軸2の静止状態または、発熱が十分に小さいと判断される軸動作において、送りねじ軸2の貫通孔20内に、オイルコントローラ23で調温した温度Thのオイルを流し、この温度Thを送りねじ軸2の第2温度T2(x)=Thとしてもよい。
また、任意の送り動作または、静止状態における温度分布を、NC装置24から得た運転情報と温度センサ26から得た温度情報、またはそのどちらかから既知の方法により推定し、推定した温度分布の代表温度や平均温度を第2温度T2(x)としてもよい。
さらに、任意の送り動作または、静止状態における温度分布を、送りねじ内側に設置した光ファイバひずみ温度計(図示せず)により直接測定し、測定した温度分布の代表温度や平均温度を第2温度T2(x)としてもよい。
そして、同様に離散的に設置した熱電対等の直接温度検出手段(図示せず)により測定した温度情報と測定位置情報から温度分布を求め、この温度分布の代表温度や平均温度を第2温度T2(x)としてもよい。
【0020】
但し、第1温度T1(x)における下記の送りねじ平均温度T1mと、第2温度T2(x)における下記の送りねじ平均温度T2mとの関係は、T1m≠T2mでなければならない。
【0021】
【数1】
【0022】
次に、S4で、NC装置24からサーボモータにS2と同じ距離の軸移動指令を出力し、S3で設定した第2温度T2(x)における軸移動指令距離L0に対する第2実移動距離L2を取得する(第2実移動距離取得ステップ)。なお、第2実移動距離L2の取得手段も第1実移動距離L1と同様に、レーザ測定機30やリニアスケール40を用いて実移動距離L2を取得したり、プローブセンサ37を用いて第2実移動距離として計測距離L2’を取得したりすればよく、方法は問わない。
次に、S5で、第1実移動距離と第2実移動距離との差ΔLを計算する(実移動距離差算出ステップ)。
S2、S4で取得したのがL1及びL2であった場合、ΔL=L2−L1とし、S2、S4で計測したのがL1’およびL2’であった場合、ΔL=L1’−L2’とする。また、既知の絶対長を有するバー38やリニアスケール40の温度が、第1実移動距離と第2実移動距離とを測定したときでそれぞれ異なる場合、その温度(温度センサ39や温度センサ43の検出値)とそれぞれの線膨張係数を用いてこれらの実移動距離の差を既知の手段で補正することができる。
【0023】
次に、S6で、送りねじ軸2の熱膨張量εを算出する(熱膨張量算出ステップ)。すなわち、軸方向への移動が抑制されていない送りねじ軸2の温度が、T1(x)からT2(x)まで変化した場合の熱膨張量εを、以下の式により算出する。
【0024】
【数2】
【0025】
次に、S7で、熱変位抑制率ηを以下の式により算出する(熱変位抑制率算出ステップ)。
η=ΔL/ε
次に、S8で、送りねじ軸2の支持剛性Ksを以下の式により算出する(支持剛性算出ステップ)。
【0026】
【数3】
【0027】
次に、S9で、送りねじ軸2のプリテンションを算出する(プリテンション算出ステップ)。すなわち、送りねじ軸2の軸方向の剛性モデルが図6で表されるとき、引張量δの時のプリテンションpは、以下の式で表される。なお、図6及び以下の式において、Kfは、軸受15を支持する構造体の軸方向剛性、Ktacfは、軸受15の軸方向剛性、Ktacrは、軸受18の軸方向剛性、Krは、軸受18を支持する構造体の軸方向剛性である。
【0028】
【数4】
【0029】
次に、S10で、プリテンションと閾値とを比較して診断を行う(プリテンション比較ステップ)。すなわち、S9で算出したプリテンションと、予めNC装置24に設定しておいた任意の閾値とを比較して、プリテンションの過不足を診断する(S8〜S10:診断ステップ)。この場合、閾値にある幅をもたせてプリテンションがその範囲内か否かで過不足を診断するようにしてもよいし、複数の閾値を等間隔に設定し、どの領域に属するかでプリテンションの過不足を診断するようにしてもよい。
そして、S11で、NC装置24の図示しないモニタなどに、S10の診断結果を表示する。
【0030】
このように、上記形態のねじ送り機構1の診断方法によれば、異なる温度間でそれぞれ同じ実移動距離を取得し、温度差から送りねじ軸の熱膨張量を、実移動距離差と熱膨張量とから熱変位抑制率をそれぞれ算出して、熱変位抑制率から支持剛性を算出してプリテンションを求め、得られたプリテンションを閾値と比較して診断するようにしているので、シングルアンカー方式のねじ送り機構1において、組付不良や部品精度不良による送りねじ軸2のプリテンションの過不足や、軸受15の摩耗等に起因した軸受予圧の減少によるプリテンションの低下を正確に判断することができる。よって、ねじ送り機構1を高品位に管理することができ、プリテンションの過不足に起因する位置決め精度の低下や軸受寿命の低下を防ぐことができる。
【0031】
なお、上記形態では、算出したプリテンションと予め設定した閾値とを比較してプリテンションの診断を行っているが、閾値は定数を設定するのではなく、プリテンションをかけたときの、設定プリテンション量δ0、送りねじ軸2の温度分布T0(x)、ベース5の温度Tb0、第1温度及び第2温度を少なくとも用いて、演算によって算出してもよい(閾値算出ステップ)。以下、この算出例を説明する。ここでは線膨張係数αとベース5の線膨張係数αbも併せて用いている。
まず、送りねじ軸2の温度分布がT1(x)、ベース5の温度がTb1のときのプリテンションp1は、以下の式で算出される。
【0032】
【数5】
【0033】
また、送りねじ軸2の温度分布がT2(x)、ベース5の温度がTb2のときのプリテンションp2は、以下の式で算出される。
【0034】
【数6】
【0035】
上記式を利用し、例えば、p1を下限またはその基準、p2を上限またはその基準とするような閾値とすればよい。
なお、ベースの温度は、温度分布が無視できるとして代表の温度としたが、送りねじ軸方向の温度分布を考慮し求めても構わない。
【0036】
そして、ここではプリテンションと閾値とを比較しているが、算出した送りねじ軸2の支持剛性Ksと、予め設定されている閾値とを比較して(支持剛性比較ステップ)、プリテンションの診断を実行してもよい。
その他、ねじ送り機構の具体的な構造や温度設定手段、実移動距離取得手段も上記形態に限定するものではなく、支持部における軸受の数や予張力の付与構造等も適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0037】
1・・ねじ送り機構、2・・送りねじ軸、3・・ねじ部、4・・小径部、5・・ベース、6A,6B・・支持部、7・・送りねじナット、8・・テーブル、10・・軸受ブラケット、12・・スリーブ、14・・カラー、15,18・・軸受、16・・押えナット、17・・蓋体、20・・貫通孔、23・・オイルコントローラ、24・・NC装置、25,26,39,43・・温度センサ、27・・温度測定部、30・・レーザ測定機、37・・プローブセンサ、40・・リニアスケール。
図1
図2
図3
図4
図5
図6