(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6966415
(24)【登録日】2021年10月25日
(45)【発行日】2021年11月17日
(54)【発明の名称】制御方法、制御装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G05D 3/12 20060101AFI20211108BHJP
【FI】
G05D3/12 305Z
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-242846(P2018-242846)
(22)【出願日】2018年12月26日
(65)【公開番号】特開2020-106930(P2020-106930A)
(43)【公開日】2020年7月9日
【審査請求日】2020年5月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】長田 玲於
【審査官】
杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−052590(JP,A)
【文献】
国際公開第2018/163665(WO,A1)
【文献】
特開2016−024661(JP,A)
【文献】
特開平07−191757(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタコントローラからの指示に従って駆動機構により移動体を移動させる駆動システムにおける駆動機構の制御方法であって、
マスタコントローラによる制御ができない異常状態を検知する異常検知工程と、
前記異常検知工程において異常状態を検知したときに、前記移動体の現在の移動方向の移動限界位置までの残存距離を算出する残存距離算出工程と、
前記残存距離算出工程において算出した前記残存距離で停止できる前記移動体の限界減速度を算出する限界減速度算出工程と、
前記限界減速度と等しい減速度又は前記限界減速度よりも一定量だけ大きい減速度で前記移動体を停止させるよう前記駆動機構を制御する限界停止制御工程と、
を備える制御方法。
【請求項2】
前記異常検知工程において異常状態を検知したときに、予め設定される設定減速度で減速した場合に前記移動体が停止するまでに移動する停止距離を算出する停止距離算出工程と、
前記停止距離が前記残存距離以下である場合に、前記設定減速度で前記移動体を停止させるよう前記駆動機構を制御する通常停止制御工程と、
をさらに備え、
前記限界停止制御工程は、前記停止距離が前記残存距離を超える場合にのみ行われる請求項1に記載の制御方法。
【請求項3】
マスタコントローラからの指示に従って移動体を移動させる駆動機構を制御する制御装置であって、
マスタコントローラによる制御ができない異常状態を検知する異常検知部と、
前記異常検知部が異常状態を検知したときに、前記移動体の現在の移動方向の移動限界位置までの残存距離を算出する残存距離算出部と、
前記残存距離算出部が算出した前記残存距離で停止できる前記移動体の限界減速度を算出する限界減速度算出部と、
前記限界減速度と等しい減速度又は前記限界減速度よりも一定量だけ大きい減速度で前記移動体を停止させるよう前記駆動機構を制御する限界停止制御部と、
を備える制御装置。
【請求項4】
マスタコントローラからの指示に従って移動体を移動させる駆動機構を制御する制御装置のプログラムであって、
マスタコントローラによる制御ができない異常状態を検知する異常検知要素と、
前記異常検知要素が異常状態を検知したときに、前記移動体の現在の移動方向の移動限界位置までの残存距離を算出する残存距離算出要素と、
前記残存距離算出要素が算出した前記残存距離で停止できる前記移動体の限界減速度を算出する限界減速度算出要素と、
前記限界減速度と等しい減速度又は前記限界減速度よりも一定量だけ大きい減速度で前記移動体を停止させるよう前記駆動機構を制御する限界停止制御要素と、
を備えるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御方法、制御装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の駆動軸を有する工作機械等の中には、各駆動軸の駆動機構を個別の制御装置(スレーブコントローラ)によりそれぞれ制御し、マスタコントローラから各制御装置にそれぞれの駆動軸に要求される動作を指示することで、複数の駆動軸が協調して動作するよう制御される駆動システムを備えるものがある。
【0003】
駆動機構が移動体を直線移動させるものである場合、移動体の可動範囲が限られるため、マスタコントローラは、移動体を可動範囲内でのみ移動させるようスプログラミングされる。しかしながら、例えばマスタコントローラとスレーブコントローラとの間の通信異常等により、移動体が移動している間にマスタコントローラによるスレーブコントローラの制御ができない異常状態となった場合には、移動体が移動限界位置を超えて移動することで他の構成要素に衝突することがないよう、スレーブコントローラが独自の判断で移動体を停止させなければならない。
【0004】
このような異常時の移動体の停止方法としては、モータの最大トルクで減速して移動体を停止させる電流リミット停止、モータを制御せずにモータ及びモータを駆動する回路の損失や駆動機構の摩擦等によって自然に移動体を停止させるフリーラン停止、及び予め設定される一定の減速度(負の加速度)で移動体を停止させるよう制御する減速度停止が挙げられる。電流リミット停止は、移動体を最も短い距離で停止させられるが、振動を生じやすく駆動機構への負荷が大きい。一方、フリーラン停止及び減速度停止は、異常状態を検知したタイミングによっては、移動体が他の構成要素の衝突することを防止できないおそれがある。
【0005】
下記特許文献1には、前記減速度停止を採用して、移動体(ステージ)が移動限界位置を超えて移動して支持枠に衝突することを防止する技術が記載されている。具体的には、特許文献1には、ステージの検出位置における移動速度の許容値を一定の減速度で減速するものとして算出し、算出した許容値が検出された移動速度以下であるときに異常信号を発生させ、ステージの駆動を停止するとともにブレーキを作動させる位置決めステージ装置が記載されている。この方法では、減速度の設定を可能な限り大きくしなければステージが支持枠に衝突することを防止できないおそれや、通常のステージの可動範囲を小さく制限する必要がある。減速度の設定を大きくすることは振動生じる可能性が増大するため好ましくない、通常のステージの可動範囲を制限することも好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−191757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、マスタコントローラによる制御ができない異常状態が発生したときに、安全に移動体を停止させられる制御方法、制御装置及びプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 本発明に係る制御方法は、マスタコントローラ(例えば、後述するマスタコントローラ2)からの指示に従って駆動機構(例えば、後述する駆動機構4)により移動体(例えば、後述する移動体3)を移動させる駆動システム(例えば、後述する駆動システム1)における駆動機構の制御方法であって、マスタコントローラによる制御ができない異常状態を検知する異常検知工程(例えば、後述するステップS1の異常検知工程)と、前記異常検知工程において異常状態を検知したときに、前記移動体の現在の移動方向の移動限界位置までの残存距離を算出する残存距離算出工程(例えば、後述するステップS2の残存距離算出工程)と、前記残存距離算出工程において算出した前記残存距離で停止できる前記移動体の限界減速度を算出する限界減速度算出工程(例えば、後述するステップS5の限界減速度算出工程)と、前記限界減速度以上の減速度で前記移動体を停止させるよう前記駆動機構を制御する限界停止制御工程(例えば、後述するステップS6の限界停止制御工程)と、を備える。
【0009】
(2) (1)の制御方法は、前記異常検知工程において異常状態を検知したときに、予め設定される設定減速度で減速した場合に前記移動体が停止するまでに移動する停止距離を算出する停止距離算出工程(例えば、後述するステップS3の停止距離算出工程)と、前記停止距離が前記残存距離以下である場合に、前記設定減速度で前記移動体を停止させるよう前記駆動機構を制御する通常停止制御工程(例えば、後述するステップS7の通常停止制御工程)と、をさらに備え、前記限界停止制御工程は、前記停止距離が前記残存距離を超える場合にのみ行われてもよい。
【0010】
(3) 本発明に係る制御装置(例えば、後述するスレーブコントローラ5)は、マスタコントローラ(例えば、後述するマスタコントローラ2)からの指示に従って移動体(例えば、後述する移動体3)を移動させる駆動機構(例えば、後述する駆動機構4)を制御する制御装置であって、マスタコントローラによる制御ができない異常状態を検知する異常検知部(例えば、後述する異常検知部12)と、前記異常検知部が異常状態を検知したときに、前記移動体の現在の移動方向の移動限界位置までの残存距離を算出する残存距離算出部(例えば、後述する残存距離算出部13)と、前記残存距離算出部が算出した前記残存距離で停止できる前記移動体の限界減速度を算出する限界減速度算出部(例えば、後述する限界減速度算出部16)と、前記限界減速度以上の減速度で前記移動体を停止させるよう前記駆動機構を制御する限界停止制御部(例えば、後述する限界停止制御部17)と、を備える。
【0011】
(3) 本発明に係るプログラムは、マスタコントローラ(例えば、後述するマスタコントローラ2)からの指示に従って移動体(例えば、後述する移動体3)を移動させる駆動機構(例えば、後述する駆動機構4)を制御する制御装置のプログラムであって、マスタコントローラによる制御ができない異常状態を検知する異常検知要素と、前記異常検知要素が異常状態を検知したときに、前記移動体の現在の移動方向の移動限界位置までの残存距離を算出する残存距離算出要素と、前記残存距離算出要素が算出した前記残存距離で停止できる前記移動体の限界減速度を算出する限界減速度算出要素と、前記限界減速度以上の減速度で前記移動体を停止させるよう前記駆動機構を制御する限界停止制御要素と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、マスタコントローラによる制御ができない異常状態が発生したときに、安全に移動体を停止させられる制御方法、制御装置及びプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態の制御装置を備える駆動システムの構成を示す模式図である。
【
図2】
図1の制御装置における制御の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態の制御装置を備える駆動システム1の構成を示す模式図である。
図2は、
図1の制御装置における制御の手順を示すフローチャートである。
【0015】
駆動システム1は、マスタコントローラ2と、移動体3を駆動する駆動機構4と、駆動機構4を制御する本発明の一実施形態に係るスレーブコントローラ5とを備える。
【0016】
駆動システム1は、例えば工作機械において例えばテーブル等の移動体3の直線移動させるシステムであり、マスタコントローラ2の指示に従って移動体3を移動させる。駆動システム1は、マスタコントローラ2の指示に従って駆動される他の構成要素(不図示)を備えることができ、移動体3を他の構成要素の動きと協調して位置決めすることができる。一例として、駆動システム1は、移動体3に加工対象物(ワーク)を保持し、他の構成要素により位置決めされる工具との相対位置が制御されることによって、加工対象物に所望の加工を行う工作機械を構成するために用いることができる。
【0017】
マスタコントローラ2は、例えば数値制御装置等の制御装置である。マスタコントローラ2は、例えばCPU、メモリ等を有するコンピュータ装置に制御プログラムを読み込ませることによって実現することができる。
【0018】
駆動機構4は、スレーブコントローラ5からの入力信号に従って移動体3の位置決め制御することができるものであれよく、その構成は特に限定されないが、図示するように、スレーブコントローラ5からの入力信号に応じた電圧を出力するサーボアンプ6と、サーボアンプ6の出力電圧により駆動されるサーボモータ7と、サーボモータ7によって回転させられる送りねじ8と、送りねじ8に係合し、移動体3に固定されるナット9とを有する構成とすることができる。図示する駆動機構4では、送りねじ8の両端部を支持する支持体10,11によって移動体3の移動限界位置(可動範囲の両端)P1,P2が定められる。
【0019】
スレーブコントローラ5は、マスタコントローラ2からの指示に従って駆動機構4により移動体3を移動させる。つまり、マスタコントローラ2から指示される位置や速度で移動体3を移動及び位置決めするよう、サーボモータ7の回転速度を決定し、その情報をサーボアンプ6に入力する。
【0020】
スレーブコントローラ5は、本発明の一実施形態の制御方法を実施する装置である。スレーブコントローラ5は、集積回路等を有する専用の回路基盤やモジュールによって構成されてもよく、CPU、メモリ等を有するコンピュータに本発明に係るプログラムを読み込ませることによって実現される制御装置であってもよい。
【0021】
スレーブコントローラ5は、異常検知部12、残存距離算出部13、停止距離算出部14、距離比較部15、限界減速度算出部16、限界停止制御部17、及び通常停止制御部18を備える。これらの構成要素は、機能的に区分されるものであって、物理的又はスレーブコントローラ5を実現するためのプログラムにおいて独立していなくてもよい。
【0022】
スレーブコントローラ5が行う本発明の一実施形態の制御方法は、
図2に示すように、異常検知工程(ステップS1)、残存距離算出工程(ステップS2)、停止距離算出工程(ステップS3)、距離比較部工程(ステップS4)、限界減速度算出工程(ステップS5)、限界停止制御工程(ステップS6)、及び通常停止制御工程(ステップS7)を備える。スレーブコントローラ5の異常検知部12はステップS1の異常検知工程を実行する構成要素であり、残存距離算出部13はステップS2の残存距離算出工程を実行する構成要素であり、停止距離算出部14はステップS3の停止距離算出工程を実行する構成要素であり、距離比較部15はステップS4の停止距離算出工程を実行する構成要素であり、限界減速度算出部16はステップS5の限界減速度算出工程を実行する構成要素であり、限界停止制御部17はステップS6の限界停止制御工程を実行する構成要素であり、通常停止制御部18はステップS7の通常停止制御工程を実行する構成要素である。
【0023】
また、スレーブコントローラ5を実現する本発明の一実施形態のプログラムは、ステップS1の異常検知工程を実行するプログラム要素である異常検知要素と、ステップS2の残存距離算出工程を実行するプログラム要素である残存距離算出要素と、ステップS3の工程を実行するプログラム要素である停止距離算出要素と、ステップS4の停止距離算出工程を実行するプログラム要素である停止距離算出要素と、ステップS5の限界減速度算出工程を実行するプログラム要素である限界減速度算出要素と、ステップS6の限界停止制御工程を実行するプログラム要素である限界停止制御要素と、ステップS7の通常停止制御工程を実行するプログラム要素である通常停止制御要素とを備える。
【0024】
ステップS1の異常検知工程において、異常検知部12は、マスタコントローラ2による制御ができない異常状態を検知する。具体例としては、異常検知部12は、マスタコントローラ2からの制御信号が途絶した場合、マスタコントローラ2から異常信号を受信した場合等に異常状態であると判断するよう構成することができる。
【0025】
ステップS1の異常検知工程で異常検知部12が異常状態を検知したときは、ステップS2の残存距離算出工程において、残存距離算出部13は、移動体3の現在の移動方向の移動限界位置までの残存距離Srを算出する。
図1では、移動体3が右向きに移動しており、残存距離Srは、移動体3の現在位置P0から右側の移動限界位置P2まで距離である。なお、残存距離Srを算出する際に用いる移動限界位置P1,P2は、移動体3が支持体10,11に当接する位置としてもよく、一定のマージンを残した位置としてもよい。
【0026】
ステップS1の異常検知工程で異常検知部12が異常状態を検知したときは、ステップS3の停止距離算出工程において、停止距離算出部14は、現在の移動体3の速度Vを取得して、予め設定される設定減速度Dpで減速した場合に移動体3が停止するまでに移動する停止距離Spを算出する。具体的には、停止距離算出部14は、停止距離Spを、Sp=V
2/2Dpとして算出することができる。
【0027】
ステップS4の距離比較工程において、距離比較部15は、残存距離Srと停止距離Spとを比較する。スレーブコントローラ5は、停止距離Spが残存距離Srを超える場合(Sp>Sr)にはステップS5の限界減速度算出工程及びステップS6の限界停止制御工程を実行し、停止距離Spが残存距離Sr以下である場合(Sp≦Sr)にはステップS7の通常停止制御工程を実行する。
【0028】
停止距離Spが残存距離Srを超える場合に実行されるステップS5の限界減速度算出工程において、限界減速度算出部16は、現在の移動体3の速度Vを取得して、残存距離算出部13が算出した残存距離Srで停止できる移動体3の限界減速度(移動体3の速度がゼロになる瞬間までの移動量が残存距離Srと等しくなる減速度)Drを算出する。具体的には、限界減速度算出部16は、限界減速度Drを、Dr=V
2/2Srとして算出することができる。
【0029】
停止距離Spが残存距離Srを超える場合に実行されるステップS6の限界停止制御工程において、限界停止制御部17は、限界減速度Dr以上の減速度で移動体を停止させるよう駆動機構4を制御する。これによって、移動体3が止まり切れずに支持体10,11に衝突することを防止することができる。
【0030】
なお、実際の移動体3の減速度にはサーボアンプ6又はサーボモータ7の仕様により上限が存在するため、移動体3の速度Vが大きく、残存距離Srが短い場合には、移動体3を移動限界位置P1,P2に停止させることができない可能性がある。しかしながら、マスタコントローラ2が正常に機能している間は、移動体3を移動限界位置P1,P2の間に留めるよう制御されるため、マスタコントローラ2による制御ができなくなった場合に、遅滞なく本実施形態の制御方法を実行すれば、移動体3を移動限界位置P1,P2の間に停止させることができる。
【0031】
サーボモータ7等の特性によっては、異常検知部12による異常状態の検知が遅れ、スレーブコントローラ5が設定する減速度の値がサーボアンプ6又はサーボモータ7の限界を超えたときには、減速トルクが大きく低下する可能性がある。サーボモータ7がこのような特性を有する場合、スレーブコントローラ5が設定する減速度の値に上限を設定してもよい。つまり、異常検知部12による異常状態の検知が遅れて限界減速度Drが駆動機構4により実現可能な最大加速度を超えたときには、スレーブコントローラ5が設定する減速度の値を駆動機構4の最大加速度と同じ値としてもよい。
【0032】
移動限界位置P1,P2が一定のマージンを残した位置である場合、実際の減速度を限界減速度Drと等しく設定することが好ましく、逆に、実際の減速度を限界減速度Drと等しくできるよう、制御誤差を考慮して移動限界位置P1,P2を設定することが好ましい。また、移動限界位置P1,P2が十分なマージンを残していない位置である場合、実際の減速度を限界減速度Drよりも一定量だけ大きい値とすることにより、制御誤差があっても移動体3が支持体10,11に衝突しないようにすることができる。
【0033】
停止距離Spが残存距離Sr以下である場合に実行されるステップS7の通常停止制御工程において、通常停止制御部18は、設定減速度Dpで移動体3を停止させるよう駆動機構4を制御する。これによって、移動体3が停止するまでの時間が必要以上に長くなることを防止することができる。
【0034】
以上の説明から明らかなように、本発明の一実施形態に係るスレーブコントローラ5は、マスタコントローラ2からの指示に従って移動体3を移動させる駆動機構4を制御する制御装置であって、マスタコントローラ2による制御ができない異常状態を検知する異常検知部12と、異常検知部12が異常状態を検知したときに、移動体3の現在の移動方向の移動限界位置P1,P2までの残存距離Srを算出する残存距離算出部13と、残存距離算出部13が算出した残存距離Srで停止できる移動体3の限界減速度Drを算出する限界減速度算出部16と、限界減速度Dr以上の減速度で移動体3を停止させるよう駆動機構4を制御する限界停止制御部17と、を備える。これにより、マスタコントローラ2による制御ができない異常状態となった場合に移動体3が止まり切れずに支持体10,11に衝突することを防止することができるとともに、移動体3の減速度を必要最小限に留めて振動及び駆動機構4の負荷を抑制することができる。
【0035】
また、スレーブコントローラ5は、異常検知部12が異常状態を検知したときに、予め設定される設定減速度Dpで減速した場合に移動体3が停止するまでに移動する停止距離Spを算出する停止距離算出部14と、停止距離Spが残存距離Sr以下である場合に、設定減速度Dpで移動体3を停止させるよう駆動機構4を制御する通常停止制御部18と、をさらに備え、停止距離Spが残存距離Srを超える場合にのみ、限界停止制御部17によって限界減速度Dr以上の減速度で移動体3を停止させるよう駆動機構4を制御する。これにより、必要以上に移動体3の減速度を小さくせず、移動体3を迅速に停止させることができる。
【0036】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前述した実施形態に限るものではない。また、本実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【0037】
以上のスレーブコントローラ5の有利な効果は、本発明の一実施形態に係る制御方法、及び本発明の一実施形態に係るプログラムの有利な効果でもある。
【0038】
本発明に係る制御方法、制御装置及びプログラムは、マスタコントローラによる制御ができない異常状態を検知した場合は常に、限界減速度を算出して、限界減速度以上の減速度で前記移動体を停止させるよう駆動機構を制御してもよい。つまり、本発明に係る制御方法において、停止距離算出工程、距離比較工程及び通常停止制御工程は必須の構成ではなく、本発明に係る制御装置において、停止距離算出部、距離比較部及び通常停止制御部は必須の構成ではなく、本発明に係るプログラムにおいて、停止距離算出要素、距離比較要素及び通常停止制御要素は必須の構成ではない。
【0039】
本発明に係る制御方法、制御装置及びプログラムは、移動体を直線移動させる駆動機構以外にも適用することができる。具体的には、本発明に係る制御方法、制御装置及びプログラムは、例えば移動体を一定の範囲内で揺動させる駆動機構等、移動体の可動範囲が制限される任意の駆動機構の制御に適用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 駆動システム
2 マスタコントローラ
3 移動体
4 駆動機構
5 スレーブコントローラ(制御装置)
12 異常検知部
13 残存距離算出部
14 停止距離算出部
15 距離比較部
16 限界減速度算出部
17 限界停止制御部
18 通常停止制御部