【文献】
H.XIONG et al.,Chemical reactivation of quenched fluorescent protein molecules enables resin−embedded fluorescence microimaging,Nature Communications,英国,Macmillan Publishers Limited,2014年6月2日,Vol.5,No.3992,pp.1−9,URL,https://doi.org/10.1038/ncomms4992
【文献】
T. KANAMORI et al.,Local endocytosis triggers dendritic thinning and pruning in Drosophila sensory neurons,Nature Communications,英国,Macmillan Publishers Limited,2015年 5月12日,Vol.6, No.6515,pp.1−14,URL,https://doi.org/10.1038/ncomms7515
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
結像サンプルにおける蛍光発色基の構造変化を制御することで蛍光の消光又は活性化を実現することにより、結像時にサンプル表層の蛍光基のみが励起され、サンプルの表層のみを結像することを実現する断層撮影の結像方法であって、
前記断層撮影の結像方法は、以下のステップ(1)〜(2)を含み、
ステップ(1)は活性化ステップであり、具体的には、蛍光を発しない原始生体組織サンプル又は特定波長範囲の蛍光のみを発する原始生体組織サンプルの表層蛍光を活性化することで、活性化された表層生体組織サンプルを得、前記原始生体組織サンプルは、タンパク質又は蛍光色素で標識した生体組織サンプルであり、
ステップ(2)は広視野結像ステップであり、具体的には、それ自体が断層撮影能力を有しない光学系によりサンプル表面を結像する広視野結像の方式により、ステップ(1)で得られた活性化された表層生体組織サンプルを蛍光励起して蛍光結像することで、前記活性化された表層生体組織サンプルの蛍光画像を得、得られた生体組織サンプルの蛍光画像の軸方向解像度の範囲は500〜2000nmであり、
前記断層撮影の結像方法は、以下のステップ(3)〜(5)をさらに含み、
ステップ(3)において、未活性化の新しい表層を露出させるように、前記活性化された表層生体組織サンプルを切削することで、新しい生体組織サンプルを得、該新しい生体組織サンプルを前記原始生体組織サンプルとし、
ステップ(4)において、前記原始生体組織サンプルの厚さが前記表層生体組織サンプルの厚さよりも小さくなるまで、前記ステップ(1)に戻ってステップ(1)を実行し、
ステップ(5)において、得られた各前記表層生体組織サンプルの蛍光画像を重ね合わせ処理することで、前記原始生体組織サンプルの完全な三次元画像を得、
前記蛍光を発しない原始生体組織サンプルは、特定の方法により蛍光が可逆的に消光されたタンパク質若しくは蛍光色素で標識した生体組織サンプルであり、前記特定波長範囲の蛍光のみを発する原始生体組織サンプルは、ある色の蛍光のみを発するが、特定波長の活性化光により活性化された後、別の波長の光により励起されて別の色の蛍光を発する生体組織サンプルであることを特徴とする断層撮影の結像方法。
前記活性化処理方法は、化学試薬処理又は光化学処理により、前記生体組織サンプル表層のタンパク質又は蛍光色素を活性化するが、サンプル表層以下のタンパク質又は蛍光色素を活性化しないことを含むことを特徴とする請求項1に記載の断層撮影の結像方法。
前記化学試薬処理方法は、タンパク質又は蛍光色素で標識した生体組織サンプルを化学試薬に浸漬することにより、サンプルの表層のみが化学試薬で浸透され、サンプルの表層蛍光のみが活性化されることを含み、
前記化学試薬処理方法は、好ましくは、アルカリ溶液による活性化処理、金属イオンキレート化剤による活性化処理、又はアルカリ溶液と金属イオンキレート化剤との相乗効果による活性化処理であることを特徴とする請求項4に記載の断層撮影の結像方法。
前記光化学処理方法は、特定波長の光による活性化を含み、該活性化に用いられる光が前記タンパク質又は蛍光色素で標識した生体組織サンプルの表層のみを透過できることで、サンプル表層蛍光のみが活性化されることを特徴とする請求項4に記載の断層撮影の結像方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の目的、技術解決策、及び利点をより明らかにするために、以下、図面及び実施例を結合して本発明をさらに詳細に説明する。本明細書で述べる具体的な実施例は本発明を解釈するものに過ぎず、本発明を限定しないことが理解されるべきである。また、以下に述べる本発明の各実施形態に係る技術特徴は、互いに矛盾がない限り、組み合わせることができる。
【0023】
本発明の提供する断層撮影の結像方法は、結像サンプルにおける蛍光発色基の構造変化を制御することで蛍光の消光又は活性化を実現することにより、結像時にサンプル表層の蛍光基のみが励起され、サンプルの表層のみを結像することを実現する。
【0024】
図1は、本発明の断層撮影の結像方法のフローチャートである。本発明の提供する断層撮影の結像方法は、以下のステップを含む。
ステップ(1)は、サンプルを準備するステップである。具体的には、タンパク質又は蛍光色素で生体組織サンプルを標識する。該生体組織サンプルは、蛍光を発しない又は特定の蛍光のみを発するものである。
ステップ(2)は、活性化ステップである。具体的には、蛍光を発しない又は特定波長範囲の蛍光のみを発する原始生体組織サンプルの表層蛍光を活性化することで、活性化された表層生体組織サンプルを得る。
ステップ(3)は、結像ステップである。具体的には、ステップ(2)で得られた活性化された表層生体組織サンプルを蛍光励起して蛍光結像することで、上記活性化された表層生体組織サンプルの蛍光画像を得る。
ステップ(4)において、未活性化の新しい表層を露出させるように、上記活性化された表層生体組織サンプルを切削することで、新しい生体組織サンプルを得、該新しい生体組織サンプルを上記原始生体組織サンプルとする。
ステップ(5)において、上記原始生体組織サンプルの厚さが上記表層生体組織サンプルの厚さよりも小さくなるまで、ステップ(2)に戻って実行する。
ステップ(6)において、得られた各上記表層生体組織サンプルの蛍光画像を重ね合わせ処理することで、上記原始生体組織サンプルの完全な三次元画像を得る。
【0025】
タンパク質は、蛍光タンパク質、及び/又は、リガンドと結合することで蛍光を励起できるタンパク質を含む。蛍光タンパク質は、pH感受型蛍光タンパク質、pH安定型蛍光タンパク質及び/又は光制御型蛍光タンパク質であることが好ましい。蛍光色素は、有機蛍光色素分子であることが好ましい。
【0026】
pH感受型蛍光タンパク質は、クラゲに由来する緑色蛍光タンパク質及びその誘導体、mOrange及びその誘導体、又はmApple及びその誘導体を含む。緑色蛍光タンパク質及びその誘導体は、BFP、EBFP、EBFP2、CFP、ECFP、GFP、EGFP、YFP又はEYFP等であり得、好ましくは、EGFP又はEYFPである。mApple及びその誘導体は、pHujiの赤色蛍光タンパク質である。
【0027】
光制御型蛍光タンパク質は、光活性化型蛍光タンパク質(Photoactivatable FPs,PAFPs)のうちの1種又は複数種(例えば、PAGFP、PAmCherry1等)、又は光変換型蛍光タンパク質(photoswitchable FPs,rsFPs)のうちの1種又は複数種(例えば、Dendra2、mEos3.1等)を含む。
【0028】
有機蛍光色素分子は、好ましくはAlexaシリーズ蛍光色素分子、より好ましくはAlexa 488、Alexa 514、Alexa 532及び/又はAlexa 546のうちの1種又は複数種である。
【0029】
pH安定型蛍光タンパク質は、好ましくは赤色蛍光タンパク質DsRedである。
【0030】
生体組織を標識するためのタンパク質又は蛍光色素は、それ自体が蛍光を発しない若しくは特定波長の蛍光のみを発するタンパク質又は蛍光色素であり、或いは、蛍光が可逆的に消光されたタンパク質又は蛍光色素である。
【0031】
それ自体が蛍光を発しない又は特定波長範囲の蛍光を発する光制御型蛍光タンパク質は、処理されずに、そのまま表層活性化されてもよい。
【0032】
それ自体が蛍光を発するタンパク質又は蛍光色素について、事前に蛍光を可逆的に消光する。可逆的に消光する方法は、化学試薬での浸漬により上記蛍光タンパク質又は蛍光色素の蛍光基を可逆的に消光する方法を含む。好ましくは、酸性化学試薬による処理、遷移金属イオン化合物溶液による処理、又は水素イオンと遷移金属イオンとの相乗効果による消光処理方法である。
【0033】
図2は、本発明の消光-活性化-結像-切削の断層撮影の結像方法の概略フロー図である。
図2に示すように、事前に消光される必要があるタンパク質又は蛍光色素の蛍光の生体組織サンプルの断層撮影結像について、サンプルを準備する際に、まず蛍光を発しないように蛍光を消光し、次いで表層活性化、表層結像、表層切削を行い、さらに、サンプル結像終了まで
表層再活性化-表層結像-表層切削を繰り返すことにより、生体組織サンプルの完全な画像を得る。
【0034】
活性化処理方法は、化学試薬処理又は光化学処理により、上記生体組織サンプル表層のタンパク質又は蛍光色素を活性化するが、サンプル表層以下のタンパク質又は蛍光色素を活性化しないことを含む。
【0035】
化学試薬処理方法は、タンパク質又は蛍光色素で標識した生体組織サンプルを化学試薬に浸漬することにより、サンプルの表層のみが化学試薬で浸透され、サンプルの表層蛍光のみが活性化されることを含む。化学試薬による活性化は、好ましくは、アルカリ溶液による活性化、金属イオンキレート化剤による活性化、又は水酸化物と金属イオンキレート化剤との相乗効果による活性化である。
【0036】
光化学方法は、特定波長の光による活性化を含み、該活性化に用いられる光が上記タンパク質又は蛍光色素で標識した生体組織サンプルの表層のみを透過できることで、サンプル表層蛍光のみが活性化される。タンパク質又は蛍光色素は、蛍光を発しないものであってもよいか、或いは、ある色の蛍光のみを発するが、特定波長の活性化光により活性化された後、別の波長の光により励起されて別の色の蛍光を発するものであってもよい。
【0037】
光制御型蛍光タンパク質で生体組織サンプルを標識する場合に、
生体組織サンプルを非結像光路上
において活性化光でサンプル表層の光制御型蛍光タンパク質を活性化し、その後結像光路上
において対応する波長の励起光で該蛍光タンパク質を励起して結像することができる。結像光路とは、スペクトル(即ち、蛍光信号)を送受信する光路であり、非結像光路とは、結像光路以外の光路である。「活性化」とは、光制御型蛍光タンパク質が特定波長の励起光の励起によりある波長範囲の蛍光を発しないが、別のある波長の「活性化光」により活性化されて初めて蛍光タンパク質が起動され、特定波長の励起光の励起により蛍光を発するようになることをいう。「励起」とは、蛍光タンパク質がある波長の光を吸収して蛍光を発する過程を指す。光活性化型蛍光タンパク質は、それ自体が蛍光を発せず、特定波長の活性化光によりサンプル表層を活性化されて初めて、表層が活性化された蛍光が別の特定波長の励起により蛍光結像できるようになる。光変換型蛍光タンパク質は、それ自体ある色の蛍光のみを発し、特定波長の活性化光によりサンプル表層を活性化された後、活性化された表層蛍光が別の波長の励起光の励起により蛍光結像を行う。
【0038】
活性化光は、サンプルの表層のみを活性化することができ、一般的に、励起光よりも波長が短く、組織を透過する能力が比較的低いため、活性化光が励起光
に比べてより表層の蛍光タンパク質のみを透過して活性化することができる。活性化光による活性化は、活性化光と活性化されるサンプルとの角度により制御できる。角度が小さいほど、表面反射が強くなるため、深いところに達する活性化光が少なくなるだけではなく、エネルギー密度も低くなる。従って、本発明は、サンプルの非結像光路上
において、活性化光でサンプル表層の光制御型蛍光タンパク質を活性化し、その後、結像光路上
において対応する波長の励起光で該蛍光タンパク質を励起して蛍光結像することにより、サンプルの表層結像を達成する。活性化光は、上記光制御型蛍光タンパク質
に適合する特定波長の活性化光である。励起光は、上記光制御型蛍光タンパク質
に適合する特定波長の励起光である。活性化光の方向と励起光の方向との夾角は0〜90°であり、好ましくは、60〜75°である。適宜な活性化光の波長、及び適宜な活性化光と励起光との夾角、即ち、適宜な活性化方向を選択することにより、サンプル表層の被活性化厚さを制御することができる。なお、サンプル表層の被活性化厚さは、サンプル蛍光画像の軸方向解像度である。
【0039】
pH感受型蛍光タンパク質で生体組織包埋サンプルを標識する場合に、酸液又は化学試薬を添加することにより溶液のpHを3〜5に調整し、pH感受性型蛍光タンパク質を消光することができる。次いで、活性化の際に、蛍光が消光されたサンプルをアルカリ溶液に浸漬すれば、サンプル表層のpH感受型蛍光タンパク質の蛍光を化学再活性化することができる。アルカリ溶液のpH値は、8〜13であり、好ましくは11〜12である。アルカリ溶液は、炭酸ナトリウム溶液、有機アミン溶液、アンモニア水又はその混合物であることが好ましい。
【0040】
アルカリ溶液による活性化の場合に、サンプルの切断面、即ち、機械切削面の表層のみが活性化され、他の非機械切削面の表面は、非常に滑らかで、表面張力が非常に大きいため、アルカリ溶液が浸透しにくい。また、非機械切削表面に疎水性物質を塗布することにより、アルカリ溶液が非機械切削面からサンプルに浸透することを防ぐことができる。
【0041】
アルカリ溶液の種類及び粘度、包埋剤の種類及び各成分の配合比率等の要素は、いずれもアルカリ溶液の、包埋サンプルの機械切削面への浸透速度に影響を与える。適宜なアルカリ溶液の浸透速度を制御することで蛍光結像の軸方向解像度を制御することにより、高解像度で迅速な結像を達成することができる。
【0042】
有機蛍光色素分子で生体組織を標識する場合に、遷移金属イオンを用いて有機蛍光色素分子と六員環を形成することで有機蛍光分子の共役π電子密度を低減させることにより、生体組織に標記された有機蛍光色素分子の蛍光を消光する。なお、消光は、制御可能で可逆的である。さらに、キレート剤を用いて金属イオンと配位結合(その結合力が金属イオンと有機蛍光分子との結合力より大きい)を形成することにより、金属イオンと有機蛍光分子との結合を破壊して共役π電子構造を恢復するため、有機蛍光色素分子の蛍光の再活性化が便利で、効果が良好であり、必要に応じて消光及び再活性化の蛍光輝度を正確に制御することができる。遷移金属イオン化合物は、好ましくは、Cr
2+、Mn
2+、Fe
2+、Fe
3+、Co
2+、Ni
2+、Cu
+及び/又はCu
2+のうちの1種又は複数種の化合物、より好ましくは、Fe
3+の化合物、さらに好ましくは、FeCl
3又はFe
2(SO
4)
3である。金属イオンキレート化剤は、EDTA-Na
4、8-ヒドロキシキノリン、N-オレオイルサルコシン、ジエチレンジアミン及び/又はデスフェリオキサミンキレート剤のうちの1種又は複数種であり、好ましくは、デスフェリオキサミン又はEDTA-Na
4である。
【0043】
pH非感受型蛍光タンパク質、例えば、赤色蛍光タンパク質DsRedで生体組織を標識する場合に、遷移金属イオンと水素イオンの相乗効果により赤色蛍光タンパク質で標識した生体組織の蛍光を消光し、金属イオンキレート化剤と水酸化物イオンとの相乗効果により蛍光が消光された生体組織の蛍光を再活性化することにより、DsRedで標識した生体組織の蛍光の正確な制御を達成する。
【0044】
生体組織サンプルの表層の被活性化厚さは、断層撮影結像時の軸方向解像度である。化学試薬による再活性化時の化学試薬の種類及び粘度、生体組織包埋時の包埋剤の種類及び各成分の配合比率等の要素は、化学試薬の、包埋サンプルの機械切削面への浸透速度に影響を与える。化学試薬のサンプル表面への適宜な浸透速度及び活性化時間を制御することで蛍光結像の軸方向解像度を制御することにより、高解像度で迅速な結像を達成することができる。
【0045】
各タンパク質又は蛍光色素で標識した生体組織サンプルの表層を活性化した後、その励起波長に対応するレーザーを励起光源として、ビーム整形した後対物レンズを透過してサンプル表面に照射し、該対物レンズで励起された蛍光を収集する。サンプルの深いところの蛍光が励起されないため、結像時に軸方向のバックグラウンド干渉がないため、それ自体が断層撮影能力を有しない光学系、例えば、広視野結像、時間遅延積分結像等を採用して結像することができる。
【0046】
本発明の提供する断層撮影の結像方法は、化学断層撮影の結像方法であると考えられることができる。該方法は、結像サンプルにおける蛍光発色基の構造変化を制御することで蛍光の消光又は活性化を実現することにより、結像時にサンプル表層の蛍光基のみが励起され、サンプルの表層のみを結像することを実現する。
【0047】
PAGFP(Photoactivatable Green Fluorescent Protein)光活性化型緑色蛍光タンパク質は、典型的な光活性化型蛍光タンパク質であり、その活性化過程は、不可逆的な過程である。未活性化の場合に、励起光(通常、488-515nm波長)で照射するときに、ほとんど蛍光を発しない。紫外光(通常、405nm波長)で活性化した後、発色基が脱プロトン化して蛍光発光可能な状態となり、蛍光強度が活性化前より約100倍強くなる。この過程を
図3に示す。
【0048】
mEosFPは、典型的な光変換型蛍光タンパク質である。mEos 3.1を例とすると、未活性化の状態下で、mEos 3.1が励起されて緑色蛍光を発することができ、紫外光(通常、405nm波長)で照射された後、蛍光分子における中特定の化学結合が開裂し、非可逆的な光変換(緑色蛍光から赤色蛍光への変換)を引き起こす。この過程を
図4に示す。
【0049】
EGFP(Enhanced Green Fluorescent Protein)強化型緑色蛍光タンパク質は、典型的なpH感受型蛍光タンパク質である。酸性環境にあるGFP発色基は、水素イオンの作用下でプロトン化するため、この状態にあるGFPは、励起光により蛍光が励起されることはない一方、プロトン化したGFPを塩基性環境に置くと、水酸化物イオンの存在により、発色基が脱プロトン化し、このときのGFPは、正常に蛍光が励起されることができる。この過程は可逆的な過程であり、
図5に示す。
【0050】
Alexa 488有機蛍光色素分子を例とすると、Alexa 488蛍光色素分子の発色団は、遷移金属イオンの作用下で、分子形態が蛍光が励起されることができない形態に変化する一方、金属キレート剤で非励起状態での蛍光色素分子を処理すると、金属イオンがキレート剤に奪われるため、発色団は、蛍光を励起できる形態に恢復する。この過程を
図6に示す。
【0051】
DsRedは、pH安定型蛍光タンパク質である。DsRedは、遷移金属イオンと水素イオンとの共同作用下で、発色基が可逆的に変化する。この形態で、蛍光が励起されることができない。その後、塩基性金属キレート剤で処理することにより、発色基は、可蛍光を励起できることができる形態に恢復する。この過程を
図7に示す。
【0052】
本発明の断層撮影の結像方法では、結像前に、一定の手段により結像時のバックグラウンド蛍光を意図的に除去する。例えば、蛍光タンパク質又は蛍光色素で標識した生体組織サンプルを化学試薬に浸漬することにより、その蛍光発色基を変化させて消光する。該消光は可逆的であり、活性化の際に、消光された蛍光を新たに活性化することができる。活性化の際に、活性化化学試薬で表層のみを活性化することで、表層の蛍光を活性化した後、励起して蛍光結像するときに、表層以下の蛍光が活性化されておらず、まだ消光状態にあるため、表層結像時にバックグラウンド干渉がない。
【0053】
あるタンパク質、例えば、光制御型蛍光タンパク質で生体組織サンプルを標識する場合に、光制御型蛍光タンパク質それ自体が蛍光を発しない又は特定波長の蛍光のみを発し、活性化時に表層のみを活性化し、表層を励起して蛍光結像するときに、特定波長の蛍光のみを発する表層が活性化された後、さらに活性化された表層を別の特定波長の励起光で励起するときに、表層以下の蛍光波長が表層の蛍光波長範囲と異なるため、バックグラウンド干渉の問題がない。
【0054】
本発明の断層撮影の結像方法は、サンプル表層の活性化厚さを制御することにより、高解像度の蛍光画像を得る。その軸方向解像度は、サブミクロンレベルであり、解像度の範囲が500〜2000nmである。
【0055】
本発明の断層撮影の結像方法は、バックグラウンド蛍光の干渉の問題がないため、面結像のモードを採用して結像データをハイスループットで取得することができ、結像速度が速く、生体組織サンプルのサイズ及び透明度に制限がなく、特に、大きな生体組織サンプルを結像するときのハイスループットの優位性がより顕著となり、結像時間が短縮される。本発明の断層撮影の結像方法は、予めサンプルにおける蛍光基を可逆的に消光し、結像時にサンプル表層の蛍光のみを活性化することにより、未活性化の
蛍光タンパク質が結像時の照明光によって
消光されないため、長時間の結像の間に消光現象による結像品質への影響が発生しない。
【0056】
本発明の生体組織サンプルは、樹脂包埋による生体組織包埋サンプルであり得る。
【0057】
サンプル表層の切削は、機械的切削によりサンプルの表層を切削することにより行わることができる。切削システムは、超薄切削、即ち、10μm厚さ以下で切削できる表面切削手段であり得るが、好ましくは、振動切削又はダイヤモンドナイフ切削である。
【0058】
本発明の結像システムは、三次元結像に用いられる任意の結像システムを使用できるが、好ましくは、サンプルを移動して結像することができる広視野結像システムである。
【0060】
実施例1
Thy1-EGFP-Mマウス脳全体の化学断層撮影結像は、以下のステップを含む。
【0061】
(1)サンプル固定
Thy1-EGFP-Mマウス脳全体を化学的固定手段で固定し、固定したマウス脳生体組織を得る。具体的には、
4℃で心臓を灌流した後、摘出したマウス脳全体を質量百分率が4%のPFA溶液(20ml/匹)に約12時間浸漬し、次いで、PBS溶液を用いて40ml/匹/回、4時間/回で3回リンスする。
【0062】
(2)サンプル脱水
固定したマウス脳組織に対してエタノール置換を行うことで上記生体組織を脱水し、脱水したEGFP標識マウス脳全体を得る。具体的には、
4℃で固定したマウス脳全体を順次に濃度勾配を有するエタノールの再蒸留水溶液20mlを通して2時間浸漬して脱水する。エタノールの再蒸留水溶液の濃度勾配は、エタノールの体積%で50%,75%,95%,100%,100%である。
【0063】
(3)包埋剤浸透及び蛍光消光処理
脱水したマウス脳全体をHM20包埋剤により浸透処理し、HM20包埋剤作動液で充填したマウス脳全体を得る。具体的には、
4℃で脱水したマウス脳全体を順次に濃度勾配を有するHM20のキシレン溶液(5ml以上)を通して包埋剤浸透を行う。HM20のキシレン溶液の勾配は、HM20の体積%で50%,75%,100%,100%,100%,100%である。最初の3つの濃度でそれぞれ2時間浸漬し、4番目及び5番目の濃度でそれぞれ24時間浸漬し、6番目の濃度で14時間浸漬し(6番目の濃度で浸漬する前に、樹脂作動液に酢酸(25〜30μl酢酸/5ml樹脂作動液)を加えて混合する)、樹脂作動液のpHを3.5〜4.0とする。
【0064】
(4)包埋剤重合
上記HM20包埋剤を重合反応させ、EGFP標識生体組織の樹脂包埋サンプルを得る。具体的には、無水酢酸を混合した1.1mLのHM2O包埋剤作動液を台座に取り付けられた口径9mmのゼラチンカプセルに注入し、次いで、HM20包埋剤作動液で充填したマウス脳全体をカプセルに入れ、位置を調整してカプセルカバーを覆った後、真空乾燥箱に移して段階的に昇温重合(37℃12時間,42℃3時間,45℃12時間,50℃3時間)を行う。
【0065】
(5)アルカリ溶液によるpH感受型蛍光タンパク質の再活性化
上記樹脂包埋マウス脳全体サンプルをpH11.2の0.05mol/Lの炭酸ナトリウム溶液に浸漬することで、活性化された表層を得る。アルカリ溶液の、樹脂包埋マウス脳全体サンプルにおける浸透速度が約1μm/minである。
【0066】
(6)蛍光顕微鏡断層結像
活性化された表層を励起して蛍光結像を行い、結像した活性化された表層を機械的に切削する。露出した新しい表層がアルカリ溶液に接した後、新しい表層の蛍光を再活性し、励起して結像する。次いで、サンプル全体の全ての二次元画像を得るまで、切削、活性化、結像を行って断層結像を繰り返す。得られた二次元画像が自動的にレジストレーションしてサンプルの三次元画像を得る(
図8)。
図8より、ニューロンの樹状突起棘(Spine)、軸索ボタン(axon bouton)等のサブミクロン構造を明確に見分けることができ、密集したニューロン軸索線維群から単一の軸索を区別でき、ニューロンの完全な投影形態を追跡することができる。
【0067】
実施例2
pH感受型蛍光タンパク質pHujiが過剰発現したマウス脳全体の化学断層撮影の結像方法は、以下のステップを含む。
【0068】
(1)サンプル固定
pHujiが過剰発現したマウス脳全体を化学的固定手段により固定し、固定したpHuji標識生体組織を得る。具体的には、4℃で心臓を灌流した後、摘出したマウス脳全体を質量百分率が4%のPFA溶液(20ml/匹)に12時間浸漬し、次いで、PBS溶液を用いて40ml/匹/回、4時間/回で3回リンスする。
【0069】
(2)サンプル脱水
固定したpHuji標識マウス脳全体に対してエタノール置換を行うことで上記生体組織を脱水し、脱水したpHuji標識マウス脳全体を得る。具体的には、4℃で固定したpHuji標識マウス脳全体を順次に濃度勾配を有するエタノールの再蒸留水溶液20mlを通して2時間浸漬して脱水する。エタノールの再蒸留水溶液の濃度勾配は、エタノールの体積%で50%,75%,95%,100%,100%である。
【0070】
(3)包埋剤浸透及び蛍光消光処理。
脱水したpHuji標識マウス脳全体をHM20包埋剤により浸透処理し、HM20包埋剤作動液で充填したpHuji標識マウス脳全体を得る。具体的には、4℃で脱水したpHuji標識マウス脳全体を順次に濃度勾配を有するHM20のキシレン溶液(5ml以上)を通して包埋剤浸透を行う。HM20のキシレン溶液の勾配は、HM20の体積%で50%,75%,100%,100%,100%,100%である。最初の3つの濃度でそれぞれ2時間浸漬し、4番目及び5番目の濃度でそれぞれ24時間浸漬し、6番目の濃度で14時間浸漬し(6番目の濃度で浸漬する前に、樹脂作動液に酢酸(25〜30μl酢酸/5ml樹脂作動液)を加えて混合する)、樹脂作動液のpHを4.5〜5.0とする。
【0071】
(4)包埋剤重合。
上記HM20包埋剤を重合反応させ、pHuji標識生体組織の樹脂包埋サンプルを得る。具体的には、無水酢酸を混合した1.1mLのHM2O包埋剤作動液を台座に取り付けられた口径9mmのゼラチンカプセルに注入し、次いで、HM20包埋剤作動液で充填したpHuji標識マウス脳全体をカプセルに入れ、位置を調整してカプセルカバーを覆った後、真空乾燥箱に移して段階的に昇温重合(37℃12時間,42℃3時間,45℃12時間,50℃3時間)を行う。
【0072】
(5)アルカリ溶液によるpH感受型蛍光タンパク質の再活性化
上記樹脂包埋マウス脳全体サンプルをpH 11.6の0.1 mol/Lの炭酸ナトリウム溶液に浸漬することで、厚さが0.5〜1μmの活性化表層を得る。アルカリ溶液の、樹脂包埋マウス脳全体サンプルにおける浸透速度が約1μm/minである。
【0073】
レーザーを用いてアルカリ溶液による活性化処理後のサンプル表面の蛍光タンパク質を励起し、蛍光結像を行う。アルカリ溶液による活性化処理後及びアルカリ溶液による活性化処理前の蛍光輝度を
図9に示す。
図9は、実施例2のアルカリ溶液による活性化前後の蛍光強度比較図である。
図9Aは、実施例2の樹脂包埋前の蛍光強度であり、
図9Bは、実施例2の樹脂包埋後であってアルカリ溶液による活性化前の蛍光強度であり、
図9Cは、樹脂包埋後であってアルカリ溶液による活性化後の蛍光強度である。
図9から明らかにになるように、消光処理後の樹脂包埋サンプルは、ほとんど蛍光を発しないが、サンプルがアルカリ溶液により活性化された後、蛍光強度が良好に恢復する。
【0074】
(6)蛍光顕微鏡断層結像
活性化された表層を励起して蛍光結像を行い、結像した活性化された表層を機械的に切削する。露出した新しい表層がアルカリ溶液に接した後、新しい表層の蛍光を再活性し、励起して結像する。次いで、サンプル全体の全ての二次元画像を得るまで、切削、活性化、結像を行って断層結像を繰り返す。得られた二次元画像が自動的にレジストレーションしてサンプルの三次元画像を得る。z方向解像度が0.5〜1μmである。
【0075】
実施例3
EYFPが過剰発現したマウス脳全体の化学断層撮影の結像方法は、以下のステップを含む。
【0076】
(1)サンプル固定
EYFPが過剰発現したマウス脳全体を化学的固定手段により固定し、固定したマウス脳生体組織を得る。具体的には、4℃で心臓を灌流した後、摘出したマウス脳全体を質量百分率が4%のPFA溶液(20ml/匹)に12時間浸漬し、次いで、PBS溶液を用いて40ml/匹/回、4時間/回で3回リンスする。
【0077】
(2)サンプル脱水
固定したマウス脳組織に対してエタノール置換を行うことで上記生体組織を脱水し、脱水したEGFP標識マウス脳全体を得る。具体的には、4℃で固定したマウス脳全体を順次に濃度勾配を有するエタノールの再蒸留水溶液20mlを通して2時間浸漬して脱水する。エタノールの再蒸留水溶液の濃度勾配は、エタノールの体積%で50%,75%,95%,100%,100%である。
【0078】
(3)包埋剤浸透及び蛍光消光処理。
脱水したマウス脳全体をHM20包埋剤により浸透処理し、HM20包埋剤作動液で充填したマウス脳全体を得る。4℃で脱水したマウス脳全体を順次に濃度勾配を有するHM20のキシレン溶液(5ml以上)を通して包埋剤浸透を行う。HM20のキシレン溶液の勾配は、HM20の体積%で50%,75%,100%,100%,100%,100%である。最初の3つの濃度でそれぞれ2時間浸漬し、4番目及び5番目の濃度でそれぞれ24時間浸漬し、6番目の濃度で14時間浸漬し(6番目の濃度で浸漬する前に、樹脂作動液に酢酸(25〜30μl酢酸/5ml樹脂作動液)を加えて混合する)、樹脂作動液のpHを4.0〜4.5とする。
【0079】
(4)包埋剤重合。
上記HM20包埋剤を重合反応させ、標識生体組織の樹脂包埋サンプルを得る。具体的には、無水酢酸を混合した1.1mLのHM2O包埋剤作動液を台座に取り付けられた口径9mmのゼラチンカプセルに注入し、次いで、HM20包埋剤作動液で充填したマウス脳全体をカプセルに入れ、位置を調整してカプセルカバーを覆った後、真空乾燥箱に移して段階的に昇温重合(37℃12時間,42℃3時間,45℃12時間,50℃3時間)を行う。
【0080】
(5)アルカリ溶液によるpH感受型蛍光タンパク質の再活性化
上記樹脂包埋マウス脳全体サンプルをpH11.2の炭酸ナトリウムとグリセリンと混合溶液に浸漬することで、厚さが0.5〜1μmの活性化された表層を得る。炭酸ナトリウムの濃度が0.05mol/Lであり、グリセリンの体積%が20%である。この混合アルカリ溶液の、樹脂包埋マウス脳全体サンプルにおける浸透速度が約0.5μm/minである。
【0081】
(6)蛍光顕微鏡断層結像
活性化された表層を励起して蛍光結像を行い、結像した活性化された表層を機械的に切削する。露出した新しい表層がアルカリ溶液に接した後、新しい表層の蛍光を再活性し、励起して結像する。次いで、サンプル全体の全ての二次元画像を得るまで、切削、活性化、結像を行って断層結像を繰り返す。得られた二次元画像(
図10B)が自動的にレジストレーションしてサンプルの三次元画像(
図10A)を得る。
図10より、ニューロンの樹状突起棘(
図10D)、軸索ボタン(
図10C)等のサブミクロン構造を明確に見分けることができる。z方向解像度が0.5〜1μmである。
【0082】
実施例4
大脳皮質にRv-dg-mEos3.1を注射したマウス脳全体の光化学活性化断層撮影結像
mEos3.1は一般的な光変換型蛍光蛋白である。その光学特性は、紫外光(波長405nm)で活性化される前に緑色蛍光(励起波長488nm)のみを発し、赤色蛍光を発しない。紫外光(波長405nm)により短時間活性化された後、561nmの励起光により赤色蛍光を発する(発射スペクトルが550nm以上にある)。
大脳皮質にRv-dg-mEos3.1を注射したマウス脳全体の化学断層撮影の結像方法は、以下のステップを含む。
【0084】
Rv-dg-mEos3.1
を注射したマウス脳全体を化学的固定手段により固定し、固定したmEos3.1標識生体組織を得る。具体的には、4℃で心臓を灌流した後、摘出したマウス脳全体を質量百分率が4%のPFA溶液(20ml/匹)に12時間浸漬し、次いで、PBS溶液を用いて40ml/匹/回、4時間/回で3回リンスする。
【0085】
(2)サンプル脱水
固定したmEos3.1標識マウス脳全体に対してエタノール置換を行うことで上記生体組織を脱水し、脱水したmEos3.1標識マウス脳全体を得る。具体的には、4℃で固定したmEos3.1標識マウス脳全体を順次に濃度勾配を有するエタノールの再蒸留水溶液20mlを通して2時間浸漬して脱水する。エタノールの再蒸留水溶液の濃度勾配は、エタノールの体積%で50%,75%,95%,100%,100%である。
【0086】
(3)包埋剤浸透処理
脱水したmEos3.1標識マウス脳全体をHM20包埋剤により浸透処理し、HM20包埋剤作動液で充填したmEos3.1標識マウス脳全体を得る。具体的には、4℃で脱水したmEos3.1標識マウス脳全体を順次に濃度勾配を有するHM20のキシレン溶液(5ml以上)を通して包埋剤浸透を行う。HM20のキシレン溶液の勾配は、HM20の体積%で50%,75%,100%,100%,100%,100%である。最初の3つの濃度でそれぞれ2時間浸漬し、4番目及び5番目の濃度でそれぞれ24時間浸漬し、6番目の濃度で14時間浸漬する。
【0087】
(4)包埋剤重合
上記HM20包埋剤を重合反応させ、mEos3.1標識生体組織の樹脂包埋サンプルを得る。具体的には、無水酢酸を混合した1.1mLのHM2O包埋剤作動液を台座に取り付けられた口径9mmのゼラチンカプセルに注入し、次いで、HM20包埋剤作動液で充填したmEos3.1標識マウス脳全体をカプセルに入れ、位置を調整してカプセルカバーを覆った後、真空乾燥箱に移して段階的に昇温重合(37℃12時間,42℃3時間,45℃12時間,50℃3時間)を行う。
【0088】
(5)光制御型蛍光タンパク質の活性化及び励起
処理されたサンプルを結像システムに固定し、システムにおけるダイヤモンドカッターによりサンプルを結像される位置まで切削し、結像システムを最適な結像状態に調整する。波長405nmの活性化光でサンプルを照射し、活性化光がサンプル表面の全体を覆うことができるようにサンプルを移動する。活性化光の照射により、サンプル表層蛍光を活性化することができる。活性化光による活性化処理前及び活性化処理後にそれぞれ励起された蛍光輝度は、
図11に示されるようである。
図11は、用いられる光制御型蛍光タンパク質を活性化、励起前後の蛍光強度比較図である。
図11Aは、活性化前に励起した蛍光強度であり、
図11Bは、活性化後に励起した蛍光強度である。
図11より分かるように、活性化前にサンプルが基本的に蛍光信号を有せず、活性化後に1つのニューロン細胞体が観察されることにより、活性化光で照射した後、サンプル表面の蛍光タンパク質が活性化されたことを示す。活性化された表層の厚さは1〜2μmである。
次いで、561nmの励起光で蛍光を励起して結像する。活性化光の方向と励起光の方向との夾角は60°である。広視野結像の方式でサンプル表面を結像し、サンプルを移動することでサンプル表面全体の画像を得る。
【0089】
(6)蛍光顕微鏡断層結像
表面結像終了後に、サンプルをダイヤモンドカッター下に移動して切削する。結像した表面を切削して新しい表層を露出させる。次いで、新しい表層の光制御型蛍光タンパク質を活性化し、励起して蛍光結像を行う。その後、サンプル全体の全ての二次元画像を得るまで、活性化、結像、切削を行って断層結像を繰り返す。得られた二次元画像が自動的にレジストレーションしてサンプルの三次元画像を得る。Z方向解像度が1〜2μmである。
【0090】
実施例5
PAGFPが過剰発現したHela細胞を包埋した後の光化学断層撮影の結像方法は、以下のステップを含む。
(1)サンプル固定
PAGFPが過剰発現したHela細胞を化学的固定手段により固定し、固定したPAGFP標識生体組織を得る。具体的には、4℃でHela細胞を質量百分率が4%のPFA溶液で約12時間浸漬し、その後PBS溶液を用いて40ml/匹/回、4時間/回で3回リンスする。
【0091】
(2)サンプル脱水
固定したPAGFP標識Hela細胞に対してエタノール置換を行うことで上記サンプルを脱水し、脱水したPAGFP標識細胞サンプルを得る。具体的には、4℃で固定すたPAGFP標識Hela細胞を順次に濃度勾配を有するエタノールの再蒸留水溶液20mlを通して2時間浸漬して脱水する。エタノールの再蒸留水溶液の濃度勾配は、エタノールの体積%で50%,75%,95%,100%,100%である。
【0092】
(3)包埋剤浸透処理
脱水したPAGFP標識マウス脳全体をHM20包埋剤により浸透処理し、HM20包埋剤作動液で充填したPAGFP標識細胞サンプルを得る。具体的には、4℃で脱水したPAGFP標識Hela細胞を順次に濃度勾配を有するHM20のキシレン溶液5mlを通して包埋剤浸透を行う。HM20のキシレン溶液の勾配は、HM20の体積%で50%,75%,100%,100%,100%,100%である。最初の3つの濃度でそれぞれ2時間浸漬し、4番目及び5番目の濃度でそれぞれ24時間浸漬し、6番目の濃度で14時間浸漬する。
【0093】
(4)包埋剤重合
上記HM20包埋剤を重合反応させ、PAGFP標識樹脂包埋細胞サンプルを得る。具体的には、HM2O包埋剤作動液をHela細胞が生長しているスライドグラスに滴下し、次いで該スライドにカバースリップを覆い、真空乾燥箱に移して段階的に昇温重合(37℃12時間,42℃3時間,45℃12時間,50℃3時間)を行う。
【0094】
(5)光制御型蛍光タンパク質の活性化及び励起
上記樹脂包埋Hela細胞サンプルを活性化光である405nmレーザーでサンプル表層を活性化した後、励起光である504nmレーザーで蛍光を励起して結像する。活性化光の方向と励起光の方向との夾角は75°であり、即ち、活性化光の方向とサンプル上表面の方向との夾角は15°である。活性化光による活性化処理前及び活性化処理後にそれぞれ励起された蛍光輝度は、
図12(
図12A及び
図12B)に示されるようである。レーザーでPAGFPを活性化、励起することにより、蛍光輝度は、蛍光がほとんどないレベルからPAGFPを発現する細胞が全て非常に明るいレベルに、顕著に増加する。活性化表層の厚さは1〜2umである。
【0095】
(6)蛍光顕微鏡断層結像
表面結像終了後に、サンプルをダイヤモンドカッター下に移動して切削する。結像した表面を切削して新しい表層を露出させる。次いで、新しい表層の光制御型蛍光タンパク質を活性化し、励起して蛍光結像を行う。その後、サンプル全体の全ての二次元画像を得るまで、活性化、結像、切削を行って断層結像を繰り返す。得られた二次元画像が自動的にレジストレーションしてサンプルの三次元画像を得る。Z方向解像度が1〜2μmである。
【0096】
実施例6
蛍光色素Alexa488で標識したマウス脳断層撮影結像。
以下のステップを含む。
(1)灌流したマウス脳を4%のPFA溶液で固定し、PBS溶液でリンス処理する。
(2)固定、リンスした後のマウス脳組織をAlexa 488で免疫組織化学標識し、PBS溶液でリンス処理する。
(3)Alexa 488標識サンプルを100mM FeCl
3水溶液で20min消光処理することで、Alexa 488蛍光を基本的に完全に消光する。
(4)消光したサンプルをサンプル包埋処理し、結像に適用できるサンプルを得る。
(5)サンプルを結像システムに固定し、システムにおけるダイヤモンドカッターによりサンプルを結像される位置まで切削し、結像サンプル及び結像対物レンズの先端を200mMのEDTA-Na
4水溶液に浸漬し、結像焦点面をサンプル表面に調整する。EDTA-Na
4水溶液に浸漬したサンプルは、その表層蛍光色素が新たに活性化され、活性化される表層の厚さが0.5〜1μmである。
【0097】
蛍光消光後及び活性化処理後にそれぞれ励起された蛍光輝度を
図13に示す。蛍光消光後の画像を処理してコントラストを10倍拡大させる。
図13aに示すように、活性化処理後の蛍光強度(
図13b)は、コントラストを10倍拡大した後の活性化前の蛍光強度(
図13a)と相当する。つまり、活性化処理により、蛍光強度を10倍又はそれ以上増大させ、結像に適用できることを保証する。
【0098】
(6)広視野結像の方式でサンプル表面を結像し、サンプルを移動することでサンプル表面全体の画像を得る。
(7)表面結像終了後に、サンプルをダイヤモンドカッター下に移動して切削する。結像した表面を切削して露出した新しい表面が炭酸ナトリウム溶液に接することで、新しい表面の消光された蛍光が恢復する。
(8)ステップ(6)、(7)を繰り返して一連のサンプル二次元画像を得る。得られた画像を再構築処理することにより、サンプルの三次元蛍光図(軸方向解像度が0.5〜1μmである)を得る。
【0099】
実施例7
pH安定型蛍光タンパク質(非pH感受型蛍光タンパク質)DsRedで標識したマウス脳サンプルの化学断層撮影結像。
以下のステップを含む。
(1)蛍光タンパク質DsRedで標識したマウス脳組織を4%のPFA溶液で固定し、0.9%のNaCl溶液でリンス処理する。
(2)固定、リンスしたDsRed標識サンプルを100mMのCuSO4溶液で消光処理する。
(3)消光したサンプルをサンプル包埋処理し、結像に適用できるサンプルを得る。
(4)処理したDsRed標識サンプルを結像システムに固定し、システムにおけるダイヤモンドカッターによりサンプルを結像される位置まで切削し、結像サンプル及び結像対物レンズの先端を200mMのEDTA-Na
4水溶液に浸漬し、結像焦点面をサンプル表面に調整する。EDTA-Na
4水溶液に浸漬したサンプルは、その表層蛍光色素が新たに活性化され、活性化される表層の厚さが0.5〜1μmである。
蛍光消光後及び活性化処理後にそれぞれ励起された蛍光輝度を
図14に示す。蛍光消光後の画像を処理してコントラストを100倍拡大させる。如
図14aに示すように、処理した画像には、サンプルを消光処理した後の蛍光信号は、強度を100倍拡大して初めてが僅かに見える一方、再活性化処理された(
図14b)サンプルにおける蛍光信号は、バックグラウンドから容易に見られる。バックグラウンドが暗く、コントラストが高いため、さらなる結像に適用できる。
(5)広視野結像の方式でサンプル表面を結像し、サンプルを移動することでサンプル表面全体の画像を得る。
(6)表面結像終了後に、サンプルをダイヤモンドカッター下に移動して切削する。結像した表面を切削して露出した新しい表面が炭酸ナトリウム溶液に接することで、新しい表面の消光された蛍光が恢復する。
(7)ステップ(5)、(6)を繰り返して一連のサンプル二次元画像を得る。得られた画像を再構築処理することにより、サンプルの三次元蛍光図(軸方向解像度が0.5〜1μmである)を得る。
【0100】
上記は本発明の好ましい実施例に過ぎず、本発明を制限しないことを、当業者は理解すべきである。本発明の精神及び趣旨内で実施される修正、等価の置換及び改良等は、いずれも本発明の保護範囲内に含まれるべきである。