特許第6966436号(P6966436)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6966436高温気密性と事故耐性を有する多層複合材燃料被覆管及びその形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6966436
(24)【登録日】2021年10月25日
(45)【発行日】2021年11月17日
(54)【発明の名称】高温気密性と事故耐性を有する多層複合材燃料被覆管及びその形成方法
(51)【国際特許分類】
   G21C 3/06 20060101AFI20211108BHJP
   G21C 3/07 20060101ALI20211108BHJP
【FI】
   G21C3/06 200
   G21C3/06 300
   G21C3/07
   G21C3/06 100
【請求項の数】12
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-523447(P2018-523447)
(86)(22)【出願日】2016年10月24日
(65)【公表番号】特表2019-501372(P2019-501372A)
(43)【公表日】2019年1月17日
(86)【国際出願番号】US2016058384
(87)【国際公開番号】WO2017095552
(87)【国際公開日】20170608
【審査請求日】2019年9月3日
(31)【優先権主張番号】14/956,892
(32)【優先日】2015年12月2日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501010395
【氏名又は名称】ウエスチングハウス・エレクトリック・カンパニー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100091568
【弁理士】
【氏名又は名称】市位 嘉宏
(72)【発明者】
【氏名】バーク、マイケル、エー
(72)【発明者】
【氏名】ラホーダ、エドワード、ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】フェローニ、パウロ
(72)【発明者】
【氏名】フランセッシーニ、ファウスト
【審査官】 大門 清
(56)【参考文献】
【文献】 韓国公開特許第10−2014−0125002(KR,A)
【文献】 特開2009−025307(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0126683(US,A1)
【文献】 特表2008−501977(JP,A)
【文献】 特開昭52−095513(JP,A)
【文献】 特開2008−070138(JP,A)
【文献】 特開昭55−107991(JP,A)
【文献】 特開昭51−069793(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2014−0147404(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 3/06
G21C 3/07
G21C 3/04
G21C 3/30
G21C 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックおよび金属を含む多層被覆管(21)であって、
内部に原子燃料を閉じ込めるためのキャビティ(24)が形成されている金属製または金属合金製の内層(23)と、
当該内層(23)の外面(27)の上に形成され、
織込まれたまたは編組みされたアルミナ繊維から成る、絡み合うセラミック繊維および
アルミナ
ら成る複合
ら成る中間層(29)と、
当該中間層(29)の外面(33)に付着したイットリウムが添加された鉄−クロム−アルミニウム合金製の、延性を有し修復可能な外層(35)と
から成る多層被覆管(21)。
【請求項2】
前記内層(23)は円筒管構造である、請求項1の多層被覆管(21)。
【請求項3】
前記内層(23)は、オーステナイト鋼、フェライト系マルテンサイト鋼、鉄合金、ジルコニウム合金、チタン合金およびそれらの層状の組み合わせから成る群より選択された材料から成る、請求項1の多層被覆管(21)。
【請求項4】
前記複合材の絡み合うセラミック繊維さらに、織込まれたまたは編組みされた炭化ケイ素繊維を含む、請求項1の多層被覆管(21)。
【請求項5】
前記絡み合うセラミック繊維は、織込まれたまたは巻回された繊維構造のトウの形態をとる、請求項1の多層被覆管(21)。
【請求項6】
前記アルミナ基材は、織込まれたまたは巻回されたセラミック繊維構造の上または中に付着している、請求項1の多層被覆管(21)。
【請求項7】
前記延性を有し修復可能な外層(35)は被膜の形態である、請求項1の多層被覆管(21)。
【請求項8】
前記延性を有し修復可能な外層(35)は、酸化防止被膜を有するアルミナ形成金属合金である、請求項1の多層被覆管(21)。
【請求項9】
多層被覆管(21)を形成する方法であって、
内部に原子燃料を閉じ込めるためのキャビティ(24)を画定する金属製または金属合金製の内層(23)を形成するステップと、
当該内層(23)の外面(27)の上に、
織込まれたまたは編組みされたアルミナ繊維から成る、絡み合うセラミック繊維および
アルミナ
ら成る複合
ら成る中間層(29)を付着させるステップと、
イットリウムが添加された鉄−クロム−アルミニウム合金製の、延性を有し修復可能な外層(35)を当該中間層(29)の外面(33)に付着させるステップと
から成る方法。
【請求項10】
前記中間層(29)を付着させるステップは、
繊維トウの形態をとるセラミック繊維を提供するステップと、
当該トウの前記内層(23)上への巻付け、巻回または編組みを行うステップと、
空隙を内包する織込まれたセラミック繊維構造を形成するステップと、
化学蒸着法、化学気相浸透法およびゾルゲル浸透法のなかから選択されたプロセスにより、当該空隙を少なくとも部分的に充填するように当該織込まれたセラミック繊維構造の上に前記アルミナ基材を付着させるステップと
から成る請求項の方法。
【請求項11】
前記延性を有し修復可能な外層(35)は前記内層(23)および前記中間層(29)を包み込んでいる、請求項の方法。
【請求項12】
前記延性を有し修復可能な外層(35)は、アーク溶射、液相噴霧およびコールドスプレーのなかから選択されたプロセスによって形成される、請求項の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温環境で使用され、内容物を保護する障壁として働く多層複合材被覆管と、当該複合材を製造する方法とに関する。具体的には、本発明は、水、液体金属または液体塩の冷却材を用いる原子炉用多層複合材燃料被覆管に関する。
【背景技術】
【0002】
発電用原子炉の炉心には、各々が複数の細長い燃料要素または燃料棒から成る多数の燃料集合体が含まれている。燃料集合体には、炉心および原子炉の所要のサイズに応じて、さまざまなサイズおよび設計のものがある。燃料棒はそれぞれ、或る量の核分裂性U−235またはU−233を含むウランおよび/またはプルトニウムから成る燃料ペレットなどの核分裂性燃料物質を含む。核分裂性成分の核分裂は、発熱を伴う。水、液体塩、ガス、液体金属(例えば鉛)などの冷却材を炉心へ圧送し、炉心で発生する熱を抽出して電力などの有用な仕事を発生させる。
【0003】
燃料棒はそれぞれ、放射性燃料物質を封じ込めて冷却材媒体から分離する被覆管を有する。さらに、運転中、核分裂により高放射性で、気体状、揮発性および不揮発性の核分裂生成物が生成されるが、それらも被覆管の中に閉じ込められる。従来の金属製被覆管システムは、長期間にわたって照射を受けると、硬化、脆化および膨張のような損傷が発生する。
【0004】
図1は先行技術の燃料被覆管の設計例として、燃料ペレット積層体10、ジルコニウム系被覆管12、ばね押さえ装置14および端栓16を示す。
【0005】
当技術分野では最近、炭化ケイ素(SiC)などのセラミック含有材料を構成成分とする燃料棒被覆管が開発されている。SiCは、例えば軽水炉において温度が1200℃を超える設計基準外事故時に望ましい特性を示すことが知られており、原子燃料棒被覆管の構成材料として適当と考えられている。しかし、取扱い時や事故時に、または地震等の自然現象により曲げが生じる際にも核分裂生成ガスが透過しない特性を維持するのは、セラミック材全般に弾性がないという固有の性質があるため難しい。1200℃を超える温度でも気密封止性があるようにSiC管に端栓を取り付ける作業を高い歩留まりと効率で行うのもまた容易ではない。
【0006】
当技術分野では、外部環境に対する防護性および気密性だけでなく、高温での機械的強度、安定性、耐膨張性および耐腐食性を有する被覆材を提供することへの要望がある。被覆管については、望ましい性質をすべて備えた単一の材料は見つかっていない。したがって、本発明の目的は、各々が被覆管にとって有利なそれぞれ異なる性質を有する複数の材料から成る複合材を提供することである。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、一局面において、内面および外面を有する金属製または金属合金製の内層と、内面および外面を有し、当該内層の当該外面の上に形成され、絡み合うセラミック繊維と、セラミック基材、金属基材またはそれらの組み合わせから選択された基材とから成る複合材、または絡み合うセラミック繊維を含む中間層と、当該中間層の当該外面に付着した金属製または金属合金製の外層とから成る、セラミックおよび金属を含む多層被覆管を提供する。
【0008】
当該複合材は、織込まれたまたは編組みされた炭化ケイ素繊維と炭化ケイ素基材とを含むか、または織込まれたまたは編組みされたアルミナ繊維とアルミナ基材とを含むことができる。
【0009】
当該外層は、酸化防止膜を有するアルミナ形成金属合金を含むことができる。或る特定の実施態様において、当該外層は、随意的にイットリウムが添加された鉄−クロム−アルミニウム合金を含む。
【0010】
本発明は、別の一局面において、セラミックおよび金属を含む多層被覆管を形成する方法を提供する。この方法は、内面および外面を有する金属製または金属合金製の内層を形成するステップと、内面および外面を有し、絡み合うセラミック繊維と、セラミック基材、金属基材またはそれらの組み合わせから選択された基材とから成る複合材、または絡み合うセラミック繊維を含む中間層を当該内層の当該外面に付着させるステップと、金属製または金属合金製の外層を当該中間層の当該外面に付着させるステップとから成る。
【0011】
当該中間層を付着させるステップは、繊維トウの形態でセラミック繊維を提供するステップと、当該トウを当該内層に巻付け、巻回または編組みするステップと、空隙を内包する織込まれたセラミック繊維構造を形成するステップと、化学蒸着法、化学気相浸透法およびゾルゲル浸透法のなかから選択されたプロセスにより、当該空隙を少なくとも部分的に充填するように当該織込まれたセラミック繊維構造の上に基材を付着させるステップとから成る。
【0012】
或る特定の実施態様において、当該外層は、アーク溶射、液相噴霧およびコールドスプレーのなかから選択されたプロセスによって形成される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本発明の詳細を、好ましい実施態様を例にとり、添付の図面を参照して以下に説明する。
【0014】
図1】先行技術に基づく燃料被覆管の概略図である。
【0015】
図2】本発明の或る特定の実施態様に基づく多層被覆管を略示する軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は概して、被覆管を形成するための多層材料、当該多層材料を作製する方法、および当該多層被覆管を作製する方法に関する。当該多層被覆管は、セラミックおよび金属成分の組み合わせを含む。当該多層被覆管は、内層、中間層および外層から成る。一般的に、内層は、核分裂生成物に対する気密障壁を形成する金属または金属合金から成り、被覆管構造体の残りの部分の機械的支持を一部担当する。中間層は、絡み合うように織込まれたまたは編組みされた繊維から成るセラミック複合材またはセラミック含有複合材(例えば内層に繊維トウを巻付けて形成した織物構造)と基材とを含み、外層は、例えば金属または金属合金の被膜から成る。一般的に、当該多層被覆管は、被覆管構造体の内容物を高温環境および機械的応力から効果的に保護するための障壁である。例えば、当該被覆管は、非常に高い温度で循環する冷却材(水、液体塩または液体金属)を含む原子炉(非限定的な例として鉛冷却高速炉)の環境で原子燃料を封じ込めるための燃料被覆管としての使用に適している。当該燃料被覆管は、当該原子炉に関連する通常時および事故時の状況に耐える能力がある。説明を容易にするために、本発明を、放射性燃料ペレットを封じ込めるまたは保持するための燃料被覆管であって、炉心内に設置され外側を炉心内を循環する高温の冷却材に晒される燃料被覆管について説明する。ただし、本発明はこの状況に限定されるわけではない。本発明の多層複合材被覆管には、例えば原子力以外の非放射性の用途があり、そのような用途には、1つ以上の流体相(液相または気相)を別の固相、流体相(気相または液相)または混合相系(例えば固形燃料ペレットと気体核分裂生成物)から分離させる必要のある高温熱伝達または物質移動の用途が含まれる。その非限定的な例として、太陽エネルギー(高温熱伝達を利用)、燃焼および化石燃料発電技術を含む高温エネルギーの生成および貯蔵などの用途がある。
【0017】
燃料棒被覆管の典型的な構成は、キャビティおよび両端の開口を備えた細長い管体である。被覆管の壁厚は一様でなくてもよい。或る特定の実施態様において、管の壁厚は約100〜1000ミクロンである。このキャビティは燃料ペレットと、典型的には、例えば燃料ペレットを積み重ねた態様に保持するばねなどの押さえ装置とを有する。被覆管の各開端部内には、炉心内を循環する冷却材が燃料棒被覆管のキャビティに流入しないようにする封止機構が一般的に設けられている(図1を参照)。燃料棒被覆管は、原子炉の炉心に配置される。
【0018】
一般的に、燃料棒被覆管の主要な機能は、核分裂により熱を発生させる核分裂性燃料ペレットを閉じ込めることと、当該燃料ペレットおよび核分裂により生じる核分裂生成物を冷却材媒体から分離することである。被覆管の典型的な構成成分は、金属材料(金属もしくは金属合金)またはセラミック材料である。金属製の被覆管とセラミック製の被覆管はそれぞれ長所と短所がある。例えば、金属製被覆管は気密性に優れ、延性が高く、強度を調節可能で、耐腐食性の保護層を修復できる。これとは対照的に、セラミック製被覆管は、剛性、高温強さおよび高温の酸化および腐食環境における耐久性に優れている。本発明の燃料棒被覆管は、金属/金属合金材料とセラミック材料とを、各材料の性質および長所が当該被覆管に発現するように組み合わせた多層材料システムを提供する。
【0019】
一般的に、多層材料の燃料棒被覆管は、材料の延性と高温強さを保ちつつ気密性を得ることが難しいという、従来のセラミック複合材系の難点を回避することができる。特定の理論の制約を受けるものではないが、このような性質の相反性は、複合材セラミック材料を引っ張ると、セラミック基材中に必然的に微細なひび割れが発生して伸び易くなる(例えば擬似延性)ためであると考えられる。さらに、本発明の被覆管は、セラミック複合材の独特の製造法に由来する事故耐性を有する。その結果、本発明の燃料棒被覆管は、熱中性子炉または高速炉において燃料の高温性能と防食性を実現できる。冷却材は、液体または気体をベースとし、特に、鉛などの溶融金属でもよい。
【0020】
図2は、円筒状の多層被覆管21を示す。被覆管の形状はこれに限定されず、多種多様な形状および構成が考えられる。例えば、被覆管を、箱型構造、あるいは2次元軸対称または円錐状構造などの閉じた他の形状にしてもよい。さらに、構造体の形状は必ずしも一貫性のないものでもよい。すなわち、長軸に沿って直径が変化する形状のものでもよい。さらに、被覆管21に燃料要素が封入される原子炉に限定されないさまざまな環境では、円筒形の管体が使用されると思われる。図2において、被覆管21は内層23、中間層29および外層35から成る。図2に示すように、内層23は管状であり、非限定的な例として、内部キャビティ24、内面25および外面27を有する予備成形された円筒体より成る。内層23は、金属製または金属合金製である。一般的に、内層23の材料は、高い気密性、適応性のある表面、中程度の強度および良好な延性を有するものが選択される。内層23を形成する材料として適当な金属および金属合金の非限定的な例として、オーステナイト鋼、フェライト系マルテンサイト鋼、ジルコニウム合金、鉄合金、チタン合金またはそれらを層状に組み合わせたものが挙げられる。オーステナイト鋼およびフェライト系マルテンサイト鋼は、典型的には高速スペクトル炉で使用され、ジルコニウム合金(非限定的な例としてジルカロイ)は、典型的には熱スペクトル炉で使用される。具体的な鋼材の選択は、靭性、照射脆化、膨張および中性子吸収などの或る特定の要因の間のバランスに基づくことがある。内層23の厚さはさまざまである。例えば、内層23の厚さは約100ミクロンから約300ミクロンの範囲とすることができる。内層23は典型的には、円筒状燃料被覆管などを形成するための従来の装置およびプロセスを用いて形成される。内層23は例えば、引抜き製管法やピルガー製管法などの従来の製造法を用いて形成することができる。しかし、内層23は、液体噴霧、アーク溶射、液体浸漬、または除去可能な芯の表面上への固体焼結などの付着プロセスによって製造することもできる。そのようなプロセスにおいて、多層構造体の複数の層の形成を容易にするために、除去可能な芯を他の加工ステップの間中そのまま保持するようにしてもよい。
【0021】
中間層29は、内層23の外面27に付着される。図2に示すように、中間層29は内面31および外面33を有する。中間層29は、絡み合うように織込まれたまたは編組みされた(例えば巻回された)セラミック繊維とセラミック基材を含むセラミック複合材で構成してもよい。中間層29は随意的に、セラミック基材を用いず、絡み合うように織込まれたまたは編組みされたセラミック繊維で構成してもよい。さらに、中間層29は随意的に、絡み合うように織込まれたまたは編組みされたセラミック繊維と金属基材とを含むセラミック含有複合材で構成してもよい。或る特定の実施態様において、絡み合うように織込まれたまたは編組みされた繊維は、セラミック繊維と金属繊維の組み合わせを含む。本発明の重要な特徴は、セラミック繊維を織込むか編組みして機械的に絡み合う構造にすることにより、繊維/繊維トウの間を機械的に拘束する基材がなくても機械的な支持を提供できることである。中間層29のセラミック成分(例えば繊維と、使用されている基材の両方)は、原子炉の通常の動作温度と、それより高い、設計基準事故および設計基準外事故にとって典型的な温度のいずれにおいても、高い強度と剛性を示す。セラミックには脆性があることがわかっているので、被覆材の中間層は、セラミック繊維と基材の組み合わせによって形成することができる。この材料構成では、基材中に限定的ではあるが微細に分裂して成長が停止した局所的なひび割れができる一方で、絡み合った繊維構造の強度と剛性がおおむね効果的に保持される。セラミック複合材(中間層29)を内層23と外層35の間に拘束することによって、これらの機械的性質が確実に保持される。中間層29の形成に使用する適当なセラミック繊維およびセラミック基材の非限定的な例として、炭化ケイ素、アルミナ、ならびにそれらの混合物および組み合わせが挙げられる。例えば、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維またはそれらの組み合わせを、炭化ケイ素基材、アルミナ基材またはそれらの組み合わせと複合させることができる。基材のための適当な金属材料として、鉄合金またはニッケル合金、チタン系またはジルコニウム系、ならびにそれらの組み合わせまたは混合物を挙げることができる。中間層29の厚さはさまざまである。或る特定の実施態様では、中間層29の厚さは約200ミクロンから約600ミクロンの範囲とすることができる。
【0022】
中間層29は通常、従来の装置およびプロセスを用いて形成される。例えば、繊維成分にプレストレスを与えて繊維をトウの状態にし、トウを下または上から巻付けまたは巻回して(例えば±45度で)交差織りにすることにより、中間層29を形成してもよい。その結果、中間層29は、運転条件下で支持を提供するだけでなく、金属要素(例えば内層23と外層35)の消失、穿孔、腐食または酸化が起きる事故状況下でも、例えば「ソックス」のように内部の燃料ペレットを引き続き確実に支持することができる。
【0023】
或る特定の実施態様では、セラミック(例えば炭化ケイ素および/またはアルミナ)繊維を被覆管(例えば図2の内層23)に巻付けるか、巻回するかまたは編組みする。かかる巻付け、巻回または編組み工程は、被覆管の一方の端部(開端部または封止端部)で開始し、反対側の端部で終了するようにしてもよい。付着した繊維の厚さは一様でなく、例えば、厚さ約200ミクロンから約600ミクロンの層が形成されるようにしてもよい。典型的には、個別の繊維または繊維群の間に空隙が存在するので、巻付け、巻回または編組みステップの後に、セラミック材(例えば炭化ケイ素および/またはアルミナ)または金属基材を適用して、繊維間の空隙が少なくとも部分的に充填されるようにする。
【0024】
基材は、化学気相浸透法(CVI)または化学蒸着法(CVD)によって付着させることができる。本願で使用する用語「CVI」は、分解された気体状の基材前駆物質を用いて空孔内に基材を付着させることを意味し、用語「CVD」は、分解された気体状の基材前駆物質を用いて表面に基材を付着させることを意味する。或る特定の実施態様において、CVIは、使用する具体的なCVIプロセスおよび装置にもよるが、約300℃〜約1100℃の温度で実施される。分解に基づく従来のCVIは、約900℃〜約1100℃で起きる。或る特定の実施態様において、原子層堆積法によるSiCの付着は、約300℃〜約500℃の温度で実施される。
【0025】
代替策として、ゾルゲル浸透法、乾燥法および焼成法を用いて複合材(例えば図2の中間層29)を形成してもよい。
【0026】
外層35は、中間層29の外面13上の被膜として塗布または付着される。図2に示すように、外層35は内面37と外面39とを有する。外層35は、金属または金属合金製である。一般的に、外層35の材料は、外部環境(例えば水、気体、液体塩または液体金属など)を中間層29から分離し、中間層29の全体にわたって保護層を提供するものを選択する。特に、機械的な変形を受け入れるために複合材が歪んで、セラミック基材にひび割れが発生する場合の備えとなる。一般的に、外層35の材料には十分な延性があるため、外層は被膜全域にわたって無傷に保たれ、保護層の外面39にひび割れや損傷が生じても、表面の防護性を修復できる。この修復可能な保護層は、中間層29の繊維織物構造の中への液体冷却材の侵入を防ぐ化学的および物理的障壁となる。外層35の材料として適当な金属および金属合金の非限定的な例として、酸化防止被膜を有するアルミナ形成金属合金が挙げられる。或る特定の実施態様では、ニッケル(Ni)とイットリウム(Y)などの希土類元素を添加した鉄系Fe−Cr−Al合金が好ましい。しかし、環境に適合した被膜を有する高温ニッケル合金やステンレス鋼などの他の安定な合金を外層35に使用することもできる。鉛冷却炉における燃料被覆管の好ましい実施態様では、外層はイットリウムを添加した鉄−クロム−アルミニウム合金(FeCrAl(Y))から成る被膜であり、金属延性と高い強度まで有するが、外面39にひび割れが発生した場合にアルミナの保護被膜を再形成する能力を保持する。外層35の被膜厚さはさまざまである。例えば、外層35の厚さは約20ミクロンから数ミリメートルの範囲とすることができる。しかし、最適な厚さは、下限のおよそ数十ミクロン(セラミック繊維トウの巻付けにより生じる表面の凸凹が受け入れ可能な厚さの下限)から上限の約1mm(下層のセラミック材料とともにひび割れを起こさずに変形可能な延性のある被膜の厚さの上限)までの範囲とすることができる。外層の厚さは、中間層の厚さに応じて、数十ミクロンから100〜200ミクロンのオーダーが好ましい。すなわち、外層は中間層の厚さの約10%の厚さが必要である。
【0027】
外層35は通常、従来の被膜装置および付着プロセスを用いて形成される。例えば、外層35は、アーク溶射、液相噴霧またはコールドスプレーにより、下層の複合材中間層29の表面の隙間を充填し、被覆管表面を完全に覆い、被覆管の耐用期間を通して表面保護層を修復する能力が保たれるに十分な厚さに形成される。或る特定の実施態様では、外層の中のアルミニウムを酸化させることにより、保護アルミナ付着層が形成されるようにする。かかる実施態様では、金属系としてアルミナに富む金属材料を真空または非酸化雰囲気中で付着させ、付着した金属層の表面に空気または酸素の浸透雰囲気または指向性ガス流を適用する。制御された条件下で金属構造体および/または気体を加熱すると、金属層最上部が酸化され、所望の保護酸化物層としての外層が形成される。
【0028】
金属製の内層23および外層35を使用するため、従来の金属同士の接合技術により被覆管の端部を封止できるよう端部付近の構造を調整できる。或る特定の実施態様では、内層23と外層35のうち少なくとも一方を中間層29より長く延伸させ、ろう付けや溶接などの従来の接合技術により、各端部の延長部または重複部を接合して、被覆管の各開端部を封止するようにする。例えば、燃料被覆管のキャビティに燃料ペレットを充填したあと、一部が中間層29より長く延伸するように外層35を付着させ、被覆管の各端部の重複部を接合すると、開端部を封止することができる。別の方法として、被覆管の一方の開端部を例えば溶接によって閉じることにより封止部を形成し、キャビティ内に燃料ペレットを充填したあと、当該被覆管のもう一方の開端部を封止することができる。
【0029】
或る特定の実施態様において、内層、中間層および外層のうち1つ以上の形成は、被覆管のキャビティへの燃料の充填前または充填後にすることができる。また、多層被覆管は、成型性および一体性が改善されるような構成(例えば積層)と作製法(例えば共押し出し)を用いることができる。
【0030】
本発明の燃料棒被覆管は、当技術分野で公知の従来型被覆管に対する以下の利点のうち1つ以上を有する。
【0031】
気体状および揮発性の燃料核分裂生成物に対する被覆管内面の気密性、
【0032】
高温強さおよび靭性、ならびに耐照射膨張性および耐照射空隙形成性を発揮する能力、
【0033】
非常に高い温度および大きな機械的歪みに対する機械的耐久性
【0034】
織物構造(中間層)に基づく事故時の機械的支持能力および燃料デブリ閉じ込め能力、ならびに
【0035】
セラミック基材に微小ひび割れが生じると同時にセラミック複合材の表面を気密封止する多層材料系表面の耐腐食性および酸化防護性、ならびに保護酸化物の外層を修復する能力。
【0036】
原子炉内の被照射時、燃料からの気体発生による内部圧力の上昇は、被覆管によって抑え込まれる。被覆管の機能には、燃料および燃料核分裂生成物を閉じ込める内層の機能、機械的強度および安定性を提供するセラミックまたはセラミック含有複合材から成る中間層の機能、ならびに外部環境からの保護および気密性を提供する外層の機能が含まれる。したがって、高温強さ、耐膨張性および耐腐食性を単一の材料で実現することは求められていない。金属製の内層および外層は、ある程度の機械的強度も与えるが、これらの層の重要な機械的性質は、ひび割れを起こさずにセラミック中間層とともに変形できることである。したがって、事故状況では、短期間高温に耐え、さまざまな燃料要素を離隔関係に保持しなければならないが、事故後は再使用を可能にするために機械的健全性を100%保持する必要がないから、被覆管システムの金属部分の広範な酸化/腐食による破損は破局的とはいえない。事故後に残る燃料被覆管構造の主体は、実質的に、高温に耐えられるセラミック、特に、依然として機械的支持能力を保持し燃料デブリを閉じ込めることができる繊維織物構造(中間層29)である。すなわち、この残存する酸化された繊維織物構造は織込まれた「ソックス」のように燃料ペレットを保持できる。
【0037】
本発明の特定の実施態様について詳しく説明したが、当業者は、本開示書全体の教示するところに照らして、これら詳述した実施態様に対する種々の変更および代替を想到できるであろう。したがって、ここに開示した特定の実施態様は説明目的だけのものであり、本発明の範囲を何らも制約せず、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲に記載の全範囲およびその全ての均等物である。
図1
図2