【氏名又は名称原語表記】INSERM(INSTITUT NATIONAL DELA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記治療用タンパク質は、MT−ND4、MT−ND1、MT−ND6、MT−CYB、MT−CO3、MT−ND5、MT−ND2、MT−COI、MT−ATP6、MT−ND4L、OPA1、OPA3、OPA7及びACO2からなる群から選択される請求項8に記載される発現カセット。
前記治療用タンパク質は、神経栄養因子、抗アポトーシスタンパク質、抗血管新生因子、抗炎症因子、又は杆体由来の錐体生存因子(RdCVF)である請求項8に記載の発現カセット。
前記光遺伝学的活性化因子は、ロドプシン、フォトプシン、メラノプシン、ピノプシン、パラピノプシン、VAオプシン、ペロプシン、ニューロプシン、エンセファロプシン、レチノクロム、RGRオプシン、赤色にシフトした分光特性を有するReaChR、Chrimson若しくはChrimsonR等の微生物性オプシン、Gi/Oシグナルをリクルートできる短波長脊椎動物オプシン若しくは長波長脊椎動物オプシン等の脊椎動物オプシン、Chlamydomonas属の微細藻類由来のチャンネルロドプシン−1及びチャンネルロドプシン−2(Chlamydomonas reinhardtii由来)等のチャンネルロドプシン、並びにそれらの変異体からなる群から選択される請求項16に記載の発現カセット。
前記光遺伝学的阻害因子は、ハロロドプシン(NpHR)、増強型ハロロドプシン(eNpHR2.0及びeNpHR3.0)及び赤色にシフトしたハロロドプシン、Halo57、古細菌ロドプシン−3(AR−3)、古細菌ロドプシン(Arch)、増強型バクテリオロドプシン(eBR)等のバクテリオロドプシン、プロテオロドプシン、キサントロドプシン、Leptosphaeria maculans真菌オプシン(Mac)、クラックスハロロドプシンJaws、並びにそれらの変異体からなる群から選択される請求項16に記載の発現カセット。
前記レポータータンパク質は、蛍光タンパク質、カルシウムインジケーター、アルカリホスファターゼ、βガラクトシダーゼ、βラクタマーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ及びそれらの変異体からなる群から選択される請求項19に記載の発現カセット。
前記目的の核酸は、siRNA、shRNA、RNAi、miRNA、アンチセンスRNA、リボザイム及びDNAザイムからなる群から選択される請求項21に記載の発現カセット。
前記ウィルスベクターは、モロニーマウス白血病ウィルスベクター(MoMLV)、MSCV、SFFV、MPSV若しくはSNV、レンチウィルスベクター、アデノウィルス(Ad)ベクター、アデノ随伴ウィルス(AAV)ベクター、シミアンウィルス40(SV−40)ベクター、ウシパピローマウィルスベクター、エプスタイン・バールウィルス、ヘルペスウィルスベクター、ワクチニアウィルスベクター、ハーベイマウス肉腫ウィルスベクター、マウス乳がんウィルスベクター及びラウス肉腫ウィルスベクターからなる群から選択される請求項26に記載のベクター。
前記レンチウィルスベクターは、ヒト免疫不全ウィルス(HIV)、サル免疫不全ウィルス(SIV)、ネコ免疫不全ウィルス(FIV)、ウシ免疫不全ウィルス(BIV)若しくウマ伝染性貧血ウィルス(EIAV)に由来する請求項27に記載のベクター。
請求項1〜24のいずれか1項に記載の発現カセット、請求項25〜31のいずれか1項に記載のベクター又は請求項32〜35のいずれか1項に記載のウィルス粒子により形質転換された細胞。
請求項1〜24のいずれか1項に記載の発現カセット、請求項25〜31のいずれか1項に記載のベクター、請求項32〜35のいずれか1項に記載のウィルス粒子又は請求項36若しくは37に記載の細胞と、医薬的に許容可能な賦形剤とを含む医薬組成物。
前記網膜神経節細胞変性に関連する疾患は、遺伝性視神経症、圧迫性視神経症、自己免疫性視神経症、糖尿病性網膜症、緑内障を含む緑内障性視神経疾患、動脈炎性虚血性視神経症、非動脈炎性虚血性視神経症、浸潤性視神経症、感染性視神経症、脱髄疾患による視神経炎、放射線治療後視神経症及び腸性肢端皮膚炎からなる群から選択される請求項40に記載の医薬組成物。
前記光受容体細胞変性に関連する疾患は、加齢黄斑変性、レーバー遺伝性視神経萎縮症、錐体杆体変性、レーバー先天性黒内障、シュタルガルト病、糖尿病性網膜症、網膜剥離、ベスト病、網膜色素変性、先天性脈絡膜欠如及び色素上皮網膜変性からなる群から選択される請求項40に記載の医薬組成物。
網膜神経節細胞に目的のポリペプチド又は核酸をコードする核酸を発現するための、請求項1〜24のいずれか1項において定義された網膜神経節細胞においてプロモーター活性を有する核酸、請求項1〜24のいずれか1項に記載の発現カセット、請求項25〜31のいずれか1項に記載のベクター、又は請求項32〜35のいずれか1項に記載のウィルス粒子のインビトロでの使用。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明者らは、ヒトγシヌクレイン遺伝子の制御領域由来のプロモーター配列を同定した。このプロモーターは1kb未満の長さを有し、網膜神経節細胞(RGC)に特異的に高レベルの遺伝子発現をさせ得る。その短さのおかげでこのプロモーターは、AAV関連遺伝子輸送に簡便に用いられ、長い遺伝子の輸送に特に適する。本発明者らは、AAVカプシドと組み合わせられたこのプロモーターがマウス及び非ヒト霊長類の両方のRGCにおいて強く且つ特異的な導入遺伝子の発現を引き起こすことを証明した。実際に、同一用量のAAVにおいて、このプロモーターはユビキタスCMVプロモーターよりも、RGCにおける導入遺伝子の強い発現を引き起こした。さらに、本発明者らは、霊長類においてもこのプロモーターがCMVプロモーターよりも強かったことを示した。
【0036】
(定義)
本明細書で用いられる「核酸」又は「ポリヌクレオチド」は、リボ核酸又はデオキシリボ核酸といった任意の長さの高分子型ヌクレオチドを意味する。従って、この用語は、以下のものに限られないが、一本鎖、二本鎖若しくは多重鎖のDNA若しくはRNA、ゲノムDNA、cDNA、DNA−RNAハイブリッド、又はプリン及びピリミジン塩基、若しくは他の天然の、化学的若しくは生化学的修飾を受けた、非天然の、若しくは誘導体化されたヌクレオチド塩基を含むポリマーを含む。ポリヌクレオチドの骨格は、(典型的にRNA又はDNAで見られるように)糖及びリン酸基を含み、又は修飾若しくは置換された糖若しくはリン酸基を含み得る。代替的に、ポリヌクレオチドの骨格は、ホスホロアミダート等の合成サブユニットを含んでもよく、またオリゴデオキシヌクレオシドホスホロアミダート(P−NH
2)又はホスホロアミダート−ホスホジエステルオリゴマー混合物であってもよい。本発明の核酸は、化学的合成、組換え及び突然変異誘発を含む当業者に周知のいずれの方法により調製されてもよい。好ましい実施形態に置いて、本発明の核酸は、好ましくは当業者に周知の組換え方法により合成されたDNA分子である。
【0037】
本明細書において用いられる「単離された核酸」は、自然環境の構成成分から同定及び分離及び/又は回収された核酸分子を意味する。特に、この用語は、核酸の自然発生源に存在する他の核酸分子から分離された核酸分子を意味する。例えば、ゲノムDNAに関して、「単離された」の用語は、ゲノムDNAが自然に関連する染色体から分離された核酸分子を含む。好ましくは、「単離された」核酸分子は、核酸分子が由来する生物のゲノムDNAにおいてその核酸分子に天然に隣接する配列から離れている。
【0038】
本明細書において用いられる「プロモーター」の用語は、作動可能に連結された核酸の転写を指示する調節エレメントを意味する。プロモーターは、作動可能に連結された核酸の転写の割合及び効率の両方を制御できる。プロモーターは、核酸のプロモーター依存的転写の増強(エンハンサー)又は抑制(リプレッサー)する他の調節エレメントに作動可能に連結されてもよい。
【0039】
本明細書において用いられる「プロモーター活性」の用語は、作動可能に連結された核酸の転写を開始するプロモーターの能力を意味する。プロモーター活性は、周知の方法又は実施例において説明する方法を用いて測定され得る。例えば、プロモーター活性は、ノーザンブロッティング又はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いることにより、転写されたmRNAの量で測定され得る。代替的に、プロモーター活性は、例えばウェスタンブロッティング、ELISA、比色分析法、レポーター遺伝子アッセイを含む他の活性分析法、及び他の周知又は実施例に記載の方法によって翻訳されたタンパク質生成物の量で測定され得る。
【0040】
本明細書において用いられる「作動可能に連結された」の用語は、一つの核酸配列の機能が他の核酸配列により影響されるように単一の核酸分子において複数の核酸配列同士が関連されることを意味する。例えば、プロモーターは、コード配列の発現に影響できる場合、すなわちコード配列がプロモーターの転写制御下にある場合に、コード配列に作動可能に連結されている。
【0041】
「ポリペプチド」及び「タンパク質」の用語は、アミノ酸残基のポリマーを意味するものとして互換可能に用いられ、最小の長さについて限定されない。そのようなアミノ酸残基のポリマーは、天然又は非天然アミノ酸残基を含んでもよく、以下のものに限られないが、ペプチド、オリゴペプチド、アミノ酸残基の二量体、三量体及び多量体を含み得る。全長タンパク質及びその断片の両方は、上記定義に含まれる。また、その用語は、例えばグリコシル化、シアル化、アセチル化及びリン酸化等のポリペプチドの発現後修飾体を含む。さらに、本発明の目的のために、「ポリペプチド」は、タンパク質の所望の活性が維持される限り、天然配列に対して欠失、付加及び置換(通常、自然に保存されている)等の変異を含むタンパク質を意味し得る。それらの変異は、特定部位の突然変異誘発等の意図的なものであってもよく、又はタンパク質を生成する宿主における変異若しくはPCR増幅によるエラー等の偶然のものであってもよい。
【0042】
本明細書で用いられる「網膜神経節細胞」又は「RGC」の用語は、置換されたアマクリン細胞を除いて網膜の最も内側の層のニューロンを意味する。それらは、網膜の双極細胞を介して光受容体から情報を統合し、脳に投影し、それらは視床、視床下部及び上丘におけるシナプスである。神経系転写因子BRN3A(GeneID:5457)は、RGCに特異的に発現することが発見され、このタンパク質に対する抗体は、RGCの同定及び定量のための信頼できるマーカーと考えられている(Quina et al. J. Neurosci. 2005;25(50):11595-11604)。従って、特定の実施形態に置いて、「網膜神経節細胞」又は「RGC」の用語は、BRN3Aを発現する網膜の最も内側の層のニューロンを意味する。
【0043】
本明細書において用いられる「配列同一性」又は「同一性」の用語は、2つのポリヌクレオチド配列のアライメントからの位置における一致(同一の核酸残基)の数(%)を意味する。配列同一性は、オーバーラップ及び同一性を最大化する一方でシークエンスギャップを最小化するように整列された配列同士の比較により決定される。特に、配列同一性は、2つの配列の長さに依存して、多数の数学的なグローバル又はローカルアライメントアルゴリズムのいずれかを用いて決定されてもよい。類似する長さの配列同士は、全体の長さにわたって最適に配列同士を整列するグローバルアライメントアルゴリズム(例えば、Needleman and Wunsch algorithm; Needleman and Wunsch, 1970)を用いて整列されることが好ましく、一方、実質的に異なる長さの配列は、ローカルアライメントアルゴリズム(例えばスミス・ウォーターマンアルゴリズム(Smith and Waterman, 1981)又はアルチュールアルゴリズム(Altschulet al., 1997; Altschul et al., 2005))を用いて整列されることが好ましい。核酸配列の同一性の割合を決定する目的のためのアライメントは、例えばhttp://blast.ncbi.nlm.nih.gov/又はhttp://www.ebi.ac.uk/Tools/emboss/等のウェブサイトで公に利用可能なコンピューターソフトウェアを用いて当業者に周知の種々の方法で達成され得る。当業者は、比較される配列同士の全長にわたって最大のアライメントを達成するのに必要とされるアルゴリズムを含むアライメントを測定するための適切なパラメーターを決定できる。本明細書において、この目的のために、核酸配列同一性の値(%)は、ニードルマン・ウンシュアルゴリズムを用いて2つの配列の最適なグローバルアライメントを生成する対配列アライメントプログラムであるEMBOSS Needleを用いて生成された値を意味し、全てのサーチパラメーターは初期値に設定し、すなわち、Scoring matrix = BLOSUM62, Gap open = 10, Gap extend = 0.5, End gappenalty = false, End gap open = 10 and End gap extend = 0.5とした。
【0044】
「対象」又は「患者」の用語は、網膜を有する動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトを意味し、それは大人、子供及び胎児期のヒトを含む。
【0045】
第1の態様において、本発明は、網膜神経節細胞においてプロモーター活性を有し、2kb未満の長さを有し、配列番号1の配列及びその機能性変異体からなる群から選択される配列を含む又はからなる核酸、好ましくは単離された核酸に関する。
【0046】
配列番号1のヌクレオチド配列は、ヒトγシヌクレイン遺伝子(シンボル:SNCG;GeneID:6623)の制御領域由来である。この遺伝子は、神経変性疾患の病因に関わると考えられているシヌクレインファミリータンパク質のメンバーである。さらに、その遺伝子の変異は乳がんの増殖に関連することが発見されている。当該遺伝子は、第10染色体に位置する(10q23.2−q23.3)(Genebank accession number NC_000010.11、86958531位置から86963260まで)。
図1に示すように、配列番号1のプロモーターは、SNCG遺伝子の5’制御領域の953ヌクレオチドを含む(−789位置から+164位置まで、タンパク質の開始コドンは+168位置)。
【0047】
本発明の核酸は、RGCにおいてプロモーター活性を示す、すなわちRGCに導入された場合にそれに作動可能に連結された核酸の転写が開始され得る。好ましくは、プロモーター活性はRGC特異的である。「RGC特異的」の用語は、網膜神経節細胞においてプロモーターが主に活性であることを意味すると理解されるであろう。他の組織又は細胞における概して低い残余の発現は完全には除去されないと理解されるであろう。好ましい実施形態において、本発明のプロモーターは、双極性細胞、アマクリン細胞、水平細胞、ミュラー細胞又は光受容体の細胞において非活性である。
【0048】
一実施形態において、本発明のプロモーターは、配列番号1の配列を含む又はからなる。
【0049】
他の実施形態において、本発明のプロモーターは、配列番号1の機能性変異体を含む又はからなる。
【0050】
本明細書において用いられる「変異体」の用語は、元の配列と異なるヌクレオチド配列を意味するが、元の本質的特性を維持する。一般に、変異体は全体として元のポリヌクレオチドと極めて類似しており、多くの領域においては同一である。変異体の配列は、その配列において1つ又はそれ以上のヌクレオチドの置換、欠失又は挿入により異なっていてもよく、それはプロモーター活性を損なっていない。変異体は、元の配列と同一の長さを有していてもよく、又はより短い若しくは長くてもよい。
【0051】
「機能性変異体」の用語は、配列番号1のプロモーター活性を示す、すなわちRGCにおけるプロモーター活性を示す、好ましくはRGC特異的なプロモーター活性を示す配列番号1の変異体を意味する。
【0052】
一実施形態において、本発明のプロモーターは、
配列番号1の配列に対して少なくとも80%の同一性を有する配列、
配列番号1の少なくとも100の連続するヌクレオチドを含む配列、及び、
配列番号1の核酸配列又はその相補鎖に対して低い、中度又は高い厳格条件下でハイブリダイズできる配列、からなる群から選択される配列番号1の機能性変異体を含む又はからなる。
【0053】
特定の実施形態において、本発明のプロモーターは、配列番号1の配列に対して少なくとも80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98又は99%の同一性を有する、好ましくは配列番号1の全体配列を有する機能性変異体を含む又はからなる。本発明のプロモーターは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15の置換、欠失及び/又は挿入によって配列番号1のポリヌクレオチドと異なっていてもよい。
【0054】
他の特定の実施形態において、本発明のプロモーターは、配列番号1の少なくとも100、200、300、400、500、600、700、800、900の連続するヌクレオチドを含む配列を有する機能性変異体を含む又はからなる。好ましくは、それは、配列番号1の少なくとも500の連続するヌクレオチドを含む配列を有する機能性変異体を含む又はからなる。
【0055】
更なる特定の実施形態において、本発明のプロモーターは、配列番号1の核酸配列又はその相補鎖に対して低い、中度又は高い厳格条件下で、好ましくは中度の厳格条件下、より好ましくは高い厳格条件下でハイブリダイズできる配列を有する機能性変異体を含む又はからなる。
【0056】
本明細書において用いられる「低い厳格条件」は、少なくとも100ヌクレオチドの長さのプローブに対して、5×SSPE、0.3%のSDS、200μg/mLの断片化変性サケ精液DNA、及び25%ホルムアミドを含む溶液中で、標準のサザンブロッティング法に従って42度でプレハイブリダイゼーション及びハイブリダイゼーションを12〜24時間行うことを意味する。最後に、キャリア材料に対して、50℃で2×SSC、0.2%SDSを用いて15分間の洗浄を3回行った。
【0057】
本明細書において用いられる「中度の厳格条件」は、少なくとも100ヌクレオチドの長さのプローブに対して、5×SSPE、0.3%のSDS、200μg/mLの断片化変性サケ精液DNA、及び35%ホルムアミドを含む溶液中で、標準のサザンブロッティング法に従って42度でプレハイブリダイゼーション及びハイブリダイゼーションを12〜24時間行うことを意味する。最後に、キャリア材料に対して、55℃で2×SSC、0.2%SDSを用いて15分間の洗浄を3回行った。
【0058】
本明細書において用いられる「高い厳格条件」は、少なくとも100ヌクレオチドの長さのプローブに対して、5×SSPE、0.3%のSDS、200μg/mLの断片化変性サケ精液DNA、及び50%ホルムアミドを含む溶液中で、標準のサザンブロッティング法に従って42度でプレハイブリダイゼーション及びハイブリダイゼーションを12〜24時間行うことを意味する。最後に、キャリア材料に対して、65℃で2×SSC、0.2%SDSを用いて15分間の洗浄を3回行った。
【0059】
本発明のプロモーター配列の主な利点の1つは、その小さいサイズである。実際に、本発明のプロモーターは、2kb未満の長さを有し、従って、AAVベクターに用いるのに特に適し、DNAペイロードが厳格に制限される。
【0060】
好ましい実施形態において、本発明のプロモーターの長さは1.5kb未満であり、好ましくは1.4、1.3、1.2、1.1又は1kb未満の長さであり、より好ましくは990、980、970又は960b未満の長さである。
【0061】
いくつかの実施形態において、本発明のプロモーターは、SNCG遺伝子、特にヒトのSNCG遺伝子に作動可能に連結しない。いくつかの他の実施形態において、本発明のプロモーターは、レポータータンパク質をコードする遺伝子、特にルシフェラーゼをコードする遺伝子に作動可能に連結しない。好ましくは、本発明のプロモーターは、SNCG遺伝子、又はルシフェラーゼをコードする遺伝子に作動可能に連結しない。
【0062】
第2の態様において、本発明は、目的の核酸に作動可能に連結された本発明のプロモーターを含む発現カセットに関する。
【0063】
本発明のプロモーターに作動可能に連結された核酸は、目的のポリペプチド又は目的の核酸をコードしてもよい。
【0064】
本明細書において用いられる「発現カセットの用語」は、コード配列及び該コード配列の発現のために必要な1つ又はそれ以上の制御配列を含む核酸コンストラクトを意味する。特に、それらの制御配列の1つは、本発明のプロモーターである。一般に、発現カセットは、コード配列と、選択された遺伝子産物の発現に必要な前記コード配列の前の(5’非コード配列)及び後ろの(3’非コード配列)制御配列とを含む。従って、発現カセットは、通常、プロモーター配列と、コード配列と、ポリアデニル化領域及び/又は転写ターミネーターを通常含む3’非翻訳領域とを含む。また、発現カセットは、例えばエンハンサー配列、ベクター内へのDNA断片の挿入を促進するポリリンカー配列、及び/又はスプライシングシグナル配列等の追加の調節エレメントを含んでもよい。発現カセットは、通常クローニング及び形質転換を容易にするためにベクター内に含まれる。
【0065】
好ましくは、本発明のプロモーターは、異種核酸に作動可能に連結されている。本明細書において用いられる「異種」の用語は、天然起源のゲノムにおいて当該プロモーターに作動可能に連結された核酸以外の核酸を意味する。特に、いくつかの実施形態において、本発明のプロモーターは、SNCG遺伝子、特にはヒトSNCG遺伝子に作動可能に連結されていない。いくつかの他の実施形態において、本発明のプロモーターは、ルシフェラーゼをコードする遺伝子に作動可能に連結されていない。好ましくは、本発明のプロモーターは、SNCG遺伝子にもルシフェラーゼをコードする遺伝子にも作動可能に連結されていない。
【0066】
一実施形態において、本発明のプロモーターに作動可能に連結される核酸は、目的のポリヌクレオチドをコードする。
【0067】
目的のポリヌクレオチドは、RGCにおいて発現が望まれるいずれかのポリペプチドであってもよい。特に、目的のポリペプチドは、治療用ポリペプチド、レポータータンパク質又は光遺伝学的アクチュエータであってもよい。
【0068】
一実施形態において、本発明のプロモーターに作動可能に連結される核酸は、治療用遺伝子、すなわち治療用ポリペプチドをコードする遺伝子である。
【0069】
本明細書において用いられる「治療用遺伝子」の用語は、病態の治療に有益である治療用タンパク質をコードする遺伝子を意味する。発現された治療用遺伝子は、それが存在する細胞又は組織に有益な効果を与える。有益な効果の例は、体調若しくは疾病の兆候若しくは症状の改善、体調若しくは疾病の予防若しくは抑制、又は所望の特性の付与を含む。治療用遺伝子は、患者における遺伝子欠損の部分的又は全体的な改善をする遺伝子を含む。特に、治療用遺伝子は、以下のものに限られないが、対象の細胞又は組織においてタンパク質の欠損、欠陥又は最適量以下により引き起こされる欠乏症を緩和するための遺伝子治療に有用なタンパク質をコードする核酸であってもよい。治療用ポリペプチドは、例えばRGCにおいて存在しない、欠陥がある又は最適量以下で存在するポリペプチド及び/又は酵素活性を提供してもよく、また、RGCにおいて不安定を間接的に中和するポリペプチド及び/又は酵素活性であってもよい。また、治療用ポリペプチドは、例えばドミナントネガティブポリペプチドとして作用することによりポリペプチドの活性を低減するのに用いられてもよい。好ましくは、治療用ポリペプチドは、RGCにおいて存在しない、欠陥があるまたは最適量以下存在するポリペプチド及び/又は酵素活性、より好ましくはRGCにおいて存在しない又は欠陥があるポリペプチド及び/又は酵素活性を提供する。
【0070】
治療用遺伝子の例は、以下のものに限られないが、MT−ND4(GeneID:4538)、MT−ND1(GeneID:4535)、MT−ND6(GeneID:4541)、MT−CYB(GeneID:4519)、MT−CO3(GeneID:4514)、MT−ND5(GeneID:4540)、MT−ND2(GeneID:4536)、MT−COI(GeneID:4512)、MT−ATP6(GeneID:4508)、MT−ND4L(GeneID:4539)、OPA1(GeneID:4976)、OPA3(GeneID:80207)、OPA7(GeneID:84233)及びACO2(GeneID:50)等の網膜疾患の原因として知られている遺伝子の欠損又は変異を置き換えるための核酸を含む。
【0071】
また、治療用遺伝子は、GDNF(GeneID:2668)、CNTF(GeneID:1270)、FGF2(GeneID:2247)、BDNF(GeneID:627)及びEPO(GeneID:2056)等の神経栄養因子、BCL2(GeneID:596)及びBCL2L1(GeneID:598)等の抗アポトーシス遺伝子、エンドスタチン、アンジオスタチン及びsFlt等の抗血管新生因子、IL10(GeneID:3586)、IL1R1(GeneID:3554)、TGFBI(GeneID:7045)及びIL4(GeneID:3565)等の抗炎症因子、又は杆体由来の錐体生存因子(RdCVF)(GeneID:115861)をコードしてもよい。
【0072】
好ましくは、MT−ND4(GeneID:4538)、MT−ND1(GeneID:4535)、MT−ND6(GeneID:4541)、MT−CYB(GeneID:4519)、MT−CO3(GeneID:4514)、MT−ND5(GeneID:4540)、MT−ND2(GeneID:4536)、MT−COI(GeneID:4512)、MT−ATP6(GeneID:4508)及びMT−ND4L(GeneID:4539)からなる群から選択される。より好ましくは、治療用遺伝子は、MT−ND4(GeneID:4538)、MT−ND1(GeneID:4535)及びMT−ND6(GeneID:4541)からなる群から選択される。
【0073】
追加のシグナルペプチドは、細胞から治療用タンパク質を分泌させる又は細胞膜内にそれらを挿入するために、特に所定のオルガネラ(ミトコンドリア等)の内部に治療用タンパク質を移入するために治療用タンパク質に付加されてもよい。
【0074】
他の実施形態において、目的のポリペプチドは、光遺伝学的アクチュエータである。
【0075】
本明細書において用いられる「光遺伝学的アクチュエータ」の用語は、発色団としてビタミンA又はそのアイソフォームを用いる光化学的反応性ポリペプチドを意味する。光遺伝学的アクチュエータは、光を吸収し、光により活性化される光駆動性イオンポンプ又はチャンネルである。光遺伝学的アクチュエータは、原核生物又は真核生物由来であってもよい。特に、それは、微生物性オプシン又は脊椎動物性オプシンであってもよい。光遺伝学的アクチュエータは、光遺伝学的活性化因子又は光遺伝学的阻害因子であってもよい。
【0076】
光遺伝学的活性化因子は、光に曝露されることで細胞に脱分極を引き起こす。細胞が脱分極すると、細胞の負の内部電荷が一時正となる。細胞内環境の負から正へのシフトは、細胞内及び任意に細胞間の両方に電気インパルスが伝達される。光遺伝学的活性化因子の例は、以下のものに限られないが、ロドプシン、フォトプシン、メラノプシン、ピノプシン、パラピノプシン、VAオプシン、ペロプシン、ニューロプシン、エンセファロプシン、レチノクロム、RGRオプシン、赤色にシフトした分光特性を有するReaChR、Chrimson若しくはChrimsonR等の微生物性オプシン、G
i/Oシグナルをリクルートできる短波長脊椎動物オプシン若しくは長波長脊椎動物オプシン等の脊椎動物オプシン、Chlamydomonas属の微細藻類由来のチャンネルロドプシン−1及びチャンネルロドプシン−2(Chlamydomonas reinhardtii由来)等のチャンネルロドプシン、並びにそれらの変異体を含む。チャンネルロドプシンの種々の変異体(例えばコドン最適化変異体、ミュータント、キメラ)は、これらのタンパク質の特定の機能を改善するために生成されたものである。これらの変異体の例は、以下のものに限られないが、hChR2(L132C)、ChR2(H134R)、ChETA(E123T)、C1V1(E122T)、C1V1(E162T)、C1V1(E122/162T)、hChR2(C128A)、hChR2(C128S)、hChR2(C128T)、hChR2(C128A/H134R)、hCatch(T159S)、hChief、hChR2(C128S/D156A)、hChR2(T159C)、hChR2(E123T/T159C)、hChR2c(C128T)、ChR2c(C128T)、ChR2e(Q117C)及びSwitChR (Prakash et al. Nat Methods. 2012 Dec;9(12):1171-9を参照)を含む。
【0077】
光遺伝学的阻害因子は、光に曝露されることで細胞に過分極を引き起こす。細胞が過分極すると、細胞の負の内部電荷が一時過剰に負となる。過剰な負へのシフトは、活動電位閾値にまで膜電位を移すために必要となる刺激を増大することにより活動電位を抑制する。特定の実施形態において、光遺伝学的阻害因子は、フォトンの吸収に基づいて塩化物イオンを内部に輸送する及び/又はカチオンを外部に輸送する光駆動性イオンポンプである。フォトンの吸収に基づいて塩化物イオンを内部に輸送する又はカチオンを外部に輸送するいくつかの適切な光駆動性の網膜依存性イオンポンプは、光遺伝学的阻害因子として用いられ得る。光遺伝学的阻害因子の例は、以下のものに限られないが、ハロロドプシン(NpHR)、増強型ハロロドプシン(eNpHR2.0及びeNpHR3.0)及び赤色にシフトしたハロロドプシン、Halo57等のハロロドプシン、古細菌ロドプシン−3(AR−3)、古細菌ロドプシン(Arch)、増強型バクテリオロドプシン(eBR)等のバクテリオロドプシン、プロテオロドプシン、キサントロドプシン、Leptosphaeria maculans真菌オプシン(Mac)、クラックスハロロドプシンJaws、並びにそれらの変異体を含む。
【0078】
特に好ましい実施形態において、光遺伝学的アクチュエータは、光遺伝学的活性化因子であり、好ましくはチャンネルロドプシン、ChrimsonR及びそれらの変異体から選択され、より好ましくはhChR2(L132C)−hCatch及びChrimsonR−tdTomatoから選択される。
【0079】
特に好ましい実施形態において、光遺伝学的アクチュエータは、光遺伝学的活性化因子であり、好ましくはチャンネルロドプシン及びその変異体から選択され、より好ましくはhChR2(L132C)−hCatchである。
【0080】
更なる実施形態において、本発明のプロモーターに作動可能に連結される核酸は、レポータータンパク質をコードする。好ましくは、レポータータンパク質は、生存するRGCにおいて検出可能である。本発明のプロモーターの制御下でのレポータータンパク質の発現は、RGCを特異的に検出する又は同定させ得る。レポータータンパク質は、例えば蛍光タンパク質(例えばGFP)、カルシウムインジケーター(例えばGCamP)、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、βガラクトシダーゼ、βラクタマーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ及びそれらの変異体であってもよい。特定の実施形態において、レポータータンパク質は、蛍光タンパク質、カルシウムインジケーター、アルカリホスファターゼ、βガラクトシダーゼ、βラクタマーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ及びそれらの変異体から選択される。
【0081】
他の実施形態において、本発明のプロモーターに作動可能に連結された核酸は、目的の核酸をコードする。
【0082】
目的の核酸は、RGCにおいて発現されることを望む核酸のいずれかであってもよい。特に、目的の核酸は、治療用核酸であってもよい。
【0083】
そのような核酸は、例えば、siRNA、shRNA、RNAi、miRNA、アンチセンスRNA、リボザイム又はDNAザイムであってもよい。
【0084】
特定の実施形態において、核酸は、本発明のプロモーターに作動可能に連結された核酸から転写されたときに、眼疾患に関連する異常又は過剰なタンパク質の翻訳又は転写を妨げることにより眼疾患を治療又は予防できるRNAをコードする。例えば、目的の核酸は、異常及び/又は過剰なタンパク質をコードするmRNAを高い特異性で除去又は低減させることによりその疾患を治療するRNAをコードしてもよい。
【0085】
本発明の発現カセットは、本発明のプロモーターに作動可能に連結された1つ又はそれ以上の核酸を含んでもよい。例えば、そのプロモーターは、1つ若しくはそれ以上の治療用遺伝子及びレポータータンパク質をコードする核酸に作動可能に連結されていてもよく、又は治療用遺伝子及び光遺伝学的アクチュエータに作動可能に連結されていてもよい。
【0086】
本発明のプロモーターの全ての実施形態は、この態様において熟慮される。
【0087】
第3の態様において、本発明は、本発明のプロモーター又は本発明の発現カセットを含むベクターに関する。
【0088】
本明細書において用いられる「ベクター」の用語は、インビトロ又はインビボのいずれかにおいて、遺伝子材料を輸送する、特に宿主細胞内に核酸を輸送するための媒体として用いられる核酸分子を意味する。ベクターは、以下のものに限られないが、プラスミド、ファスミド、コスミド、転位因子、ウィルス及び人工染色体(例えばYAC)を含む。
【0089】
好ましくは、本発明のベクターは、遺伝子又は細胞治療に用いるのに適する、特にRGCを標的にするのに適するベクターである。
【0090】
本発明のベクターは、好ましくは、例えば本発明のプロモーター等のプロモーター、ITR、リボソーム結合エレメント、ターミネーター、エンハンサー、選択マーカー、イントロン、ポリAシグナル及び/又は複製起点等の宿主細胞に目的のポリペプチドを発現するのに必要なエレメントを含むウィルスゲノムベクターである。
【0091】
いくつかの実施形態において、ベクターは、モロニーマウス白血病ウィルスベクター(MoMLV)、MSCV、SFFV、MPSV若しくはSNV、レンチウィルスベクター(例えば、ヒト免疫不全ウィルス(HIV)、サル免疫不全ウィルス(SIV)、ネコ免疫不全ウィルス(FIV)、ウシ免疫不全ウィルス(BIV)若しくウマ伝染性貧血ウィルス(EIAV)由来)、アデノウィルス(Ad)ベクター、アデノ随伴ウィルス(AAV)ベクター、シミアンウィルス40(SV−40)ベクター、ウシパピローマウィルスベクター、エプスタイン・バールウィルス、ヘルペスウィルスベクター、ワクチニアウィルスベクター、ハーベイマウス肉腫ウィルスベクター、マウス乳がんウィルスベクター及びラウス肉腫ウィルスベクターに由来するベクター等のウィルスベクターである。
【0092】
特定の実施形態において、ベクターはレトロウィルスベクターであり、好ましくはレンチウィルスベクター又は非病原性パルボウィルスである。
【0093】
本技術分野において周知であるように、使用が考慮された特定のウィルスベクターに依存して、AAVベクターのためのAAVITR又はレンチウィルスベクターのためのLTRのように、適する配列が機能性ウィルスベクターを得るために本発明のベクターに導入されるべきである。
【0094】
好ましい実施形態において、ベクターはAAVベクターである。
【0095】
ヒトパルボウィルスであるアデノ随伴ウィルス(AAV)は、潜伏感染を確立するように感染された細胞のゲノム内に統合でき、複製については天然に欠陥があるディペンドウィルスである。その最後の特性は、第19染色体(19ql3.3−qter)に位置するAAVSIと呼ばれるヒトゲノム内の特定の領域でその統合が生じるため、哺乳動物のウィルスの中で独特であると思われる。従って、AAVは、ヒトの遺伝子治療のための潜在的なベクターとして特に興味深いものと考えられている。そのウィルスの有益な特性が、ヒトの疾患との関連の欠如であり、分裂細胞及び非分裂細胞の両方、並びに感染できる種々の組織に由来する広い範囲の細胞株に感染する能力である。
【0096】
本明細書において用いられる「AAVベクター」の用語は、少なくとも1つのAAV末端逆位配列(ITR)、好ましくは2つのITRに隣接する1つ又はそれ以上の異種配列(すなわちAAV起源でない核酸配列)を含むポリヌクレオチドベクターを意味する。そのようなAAVベクターは、適切なヘルパーウィルスに感染され(又は適切なヘルパー機能を発現する)、AAVrep及びcap遺伝子産物(すなわちAAVRep及びCapタンパク質)を発現する宿主細胞に存在する場合に、複製可能であり、感染性ウィルス粒子内に入れられ得る。
【0097】
「末端逆位配列」又は「ITR」は、本技術分野において周知の用語であり、逆向きであるウィルスゲノムの末端において見られる比較的に短い配列を意味する。「AAV末端逆位配列(ITR)」は、ネイティブ一本鎖AAVゲノムの両端に存在する約145ヌクレオチド配列である。ITRの最も外側の125ヌクレオチドは、異なるAAVゲノム間で、及び単一のAAVゲノムの2つの末端の間で異種性を引き起こすように、2つの方向のいずれかに存在し得る。また、最も外側の125ヌクレオチドは、ITRのこの部分内で生じる鎖内塩基対合され得る自己相補性(A、A’、B、B’、C、C及びD領域と示される)の複数の短い領域を含む。本発明のベクターに用いるためのAAVITRは、野生型ヌクレオチド配列を有してもよく、又は挿入、欠失若しくは置換により変異されていてもよい。AAVベクターの末端逆位配列(ITR)の血清型は、周知のヒト又は非ヒトAAV血清型から選択され得る。
【0098】
AAVベクターが長いポリヌクレオチド(例えば染色体、又はクローニング若しくはトランスフェクションに用いられるプラスミド等の他のベクター)に組み込まれる場合、AAVベクターは、AAVパッケージ機能及び適切なヘルパー機能の存在下での複製及びカプシド形成によって「レスキュー」され得る「プロベクター」を意味してもよい。本発明のAAVベクターは、以下のものに限られないが、プラスミド、直鎖人工染色体、複合脂質、リポソームによるカプセル化及びウィルス粒子におけるカプシド形成(例えばAAV粒子)を含む多くの型のいずれかであってもよい。
【0099】
本発明のプロモーター又は発現カセットは、当業者に周知の方法によりベクター内に導入され得る。
【0100】
ベクターは、さらに、栄養要求性マーカー(例えばLEU2、URA3、TRP1若しくはHIS3)等の選択マーカー、蛍光若しくは発光タンパク質(例えばGFP、eGFP、DsRed,CFP)等の検出ラベル、又は化学的/毒性化合物に対する耐性を与えるタンパク質(例えばテモゾロミドに対する耐性を与えるMGMT遺伝子)をコードする1つ又はそれ以上の核酸配列を含んでもよい。これらのマーカーは、そのベクターを含む宿主細胞を選択又は検出するために用いられることができ、また、宿主細胞に従って当業者により容易に選択され得る。
【0101】
本発明のプロモーター及び発現カセットの全ての実施形態は、この態様において熟慮される。
【0102】
本発明のベクターは、「ウィルス粒子」を生成するためにウィルスカプシド内にパッケージされ得る。従って、更なる態様において、本発明は、本発明のベクターを含むウィルス粒子に関する。
【0103】
特定の実施形態において、ベクターは、AAVベクターであり、「アデノ随伴ウィルス粒子」又は「AAV粒子」を生成するためにAAV由来カプシド内にパッケージされる。従って、本明細書において用いられる「AAV粒子」の用語は、少なくともAAVカプシドタンパク質及びカプシド形成されたAAVベクターゲノムで構成されたウィルス粒子を意味する。
【0104】
カプシドの血清型は、AAV粒子の屈性範囲を決定する。
【0105】
12のヒトの血清型及び非ヒト霊長類の100を超える血清型を含むアデノ随伴ウィルス(AAV)の複数の血清型は、現在において同定されている(Howarth al., 2010, Cell Biol Toxicol 26: 1-10)。これらの血清型のうち、ヒト血清型2は、遺伝子移入ベクターとして開発された最初のAAVである。近年用いられている他のAAV血清型は、以下のものに限られないが、AAV1、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAVrh8、AAV9、AAV10、AAVrh10、AAV11、AAV12、AAVrh74及びAAVdj等を含む。さらに、非天然の人工変異体及びキメラAAVも有益となり得る。特に、カプシドタンパク質は、1つ又はそれ以上の形質導入効率を増強するアミノ酸置換を含む変異体であってもよい。
【0106】
種々のAAV血清型は、特定の標的細胞の形質移入を最適化する、又は特定の標的組織(例えばRGC)内における特定の細胞型を標的とするために用いられる。AAV粒子は、同一の血清型のウィルスタンパク質及びウィルス核酸、又はAAVの天然若しくは人工配列変異体を含み得る。例えば、AAV粒子は、AAV2カプシドタンパク質と、少なくとも1つ、好ましくは2つのAAV2ITRを含み得る。AAV粒子の生成のためのAAV血清型のいずれかの組み合わせは、各組合せは本明細書において明確に述べられているように、本明細書にて提供される。
【0107】
好ましい実施形態において、AAV粒子は、AAV2、AAV5、AAV7m8(AAV2−7m8、Dalkara et al. Sci Transl Med (2013), 5, 189ra76)、AAV9又はAAV8カプシドからなる群から選択されるAAV由来カプシドを含む。
【0108】
AAVウィルスは、核酸配列の細胞特異的輸送のために、免疫原性の最小化のために、安定性及び粒子寿命の調整のために、効率的な分解のために、又は核への輸送の促進のために、これらの粒子を最適化できるように、従来の分子生物技術を用いて設計され得る。
【0109】
AAVの天然の血清型を用いる代わりに、以下のものに限られないが非天然起源カプシドタンパク質を有するAAVを含む人工AAV血清型が本発明において用いられ得る。そのような人工カプシドは、異なる選択されたAAV血清型から、同一のAAV血清型の非連続的部分、非AAVウィルス源から又は非ウィルス源から得られ得る異種配列と組み合わされる選択されたAAV配列(例えばVPlカプシドタンパク質の断片)を用いて、適切な技術により生成され得る。人工AAV血清型は、以下のものに限られないが、キメラAAVカプシド又は変異型AAVカプシドであってもよい。
【0110】
キメラカプシドは、少なくとも2つの異なるAAV血清型由来のVPカプシドタンパク質を含む、又は少なくとも2つのAAV血清型由来のVPタンパク質領域若しくはドメインに結合する少なくとも1つのキメラVPタンパク質を含む。
【0111】
カプシドタンパク質は、特に形質移入効率を増大するように変異されていてもよい。変異型AAVカプシドは、エラープローンPCR及び/又はペプチド挿入により挿入されたカプシド変異から、又は1つ若しくは複数のアミノ酸置換によって得られ得る。特に、変異は、天然又は非天然カプシドタンパク質(例えばVP1、VP2又はVP3)の1つ又はそれ以上のチロシン残基に生じさせてもよい。好ましくは、変異された残基は、表面に露出されたチロシン残基である。例示的変異は、以下のものに限られないが、Y252F、Y272F、Y444F、Y500F、Y700F、Y704F、Y730F、Y275F、Y281F、Y508F、Y576F、Y612G、Y673F及びY720F等のチロシンからフェニルアラニンへの置換を含む。
【0112】
好ましい実施形態において、AAV粒子は、AAV2由来カプシドを含む。この実施形態において、カプシドは、好ましくはY444F置換を含む1つ又はそれ以上のチロシンからフェニルアラニンへの置換を含み得る。
【0113】
さらに、AAV粒子のゲノムベクター(すなわち本発明のベクター)は、一本鎖又は自己相補性二本鎖ゲノムのいずれかであってもよい。自己相補性二本鎖AAVベクターは、AAV末端反復の1つからターミナルリソリューションサイト(trs)を欠失することにより生成される。これらの変異型ベクターは、その複製ゲノムが野生型AAVゲノムの半分の長さであり、DNAダイマーをパッケージする傾向を有する。好ましい実施形態において、本発明の実施において用いられるAAV粒子は、一本鎖ゲノムを有する。
【0114】
ウィルス粒子、特にAAV粒子の生成のための多くの方法が知られており、それは、トランスフェクション、安定細胞株生成、並びにアデノウィルス−AAVハイブリッド、ヘルペスウィルス−AAVハイブリッド(Conway, JE et al., (1997) Virology 71(11):8780-8789)及びバキュロウィルス−AAVハイブリッドを含む感染性ハイブリッドウィルス生成システムを含む。
【0115】
AAVウィルス粒子の生成のためのAAV生成培養は、1)例えばバキュロウィルスの生成の場合、HeLa、A549若しくは293細胞等のヒト由来細胞株、又はSF−9等の昆虫由来細胞株を含む適切な宿主細胞、2)野生型若しくは変異型アデノウィルス(温度感受性アデノウィルス等)、ヘルペスウィルス、バキュロウィルス、又はヘルパー機能を与えるプラスミドコンストラクトにより与えられる適切なヘルパーウィルス機能、3)AAVrep及びcap遺伝子並びに遺伝子産物、4)少なくとも1つのAAVITR配列に隣接された目的の核酸(例えば本発明のベクター)、並びに5)本技術分野において周知のAAV生成を支持する適切な培地及び培地成分を全て必要とする。
【0116】
本発明の実施において、AAV粒子の生成のための宿主細胞は、哺乳動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、微生物及び酵母を含む。宿主細胞は、AAVrep及びcap遺伝子が宿主細胞内で安定に維持されるパッケージング細胞であってもよく、又はAAVベクターゲノムが安定に維持されるプロデューサー細胞であってもよい。例示的パッケージ細胞及びプロデューサー細胞は、293、A549又はHeLa細胞由来である。AAV粒子は、本技術分野において周知の標準技術を用いて精製及び構築される。
【0117】
本発明のプロモーター、発現カセット及びベクターの全ての実施形態は、この態様において熟慮される。
【0118】
他の態様において、本発明は、本発明の発現カセット、ベクター又はウィルス粒子を用いて形質転換又はトランスフェクションされた単離宿主細胞に関する。
【0119】
宿主細胞は、動物細胞、植物細胞、細菌細胞又は酵母のいずれかであってもよい。好ましくは、宿主細胞は、哺乳動物細胞又は昆虫細胞である。より好ましくは、宿主細胞はヒト細胞である。
【0120】
好ましい実施形態において、宿主細胞は、網膜神経節細胞、特にヒトRGCである。
【0121】
本発明の発現カセット又はベクターは、以下のものに限られないが、カルシウムリン酸−DNA沈殿法、DEAE−デキストラントランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、遺伝子銃、リポフェクション又はウィルス感染を含む周知の技術を用いて宿主細胞内に移入されてもよく、それらは、異所型で宿主細胞内に維持されてもよく又はゲノムに統合されてもよい。
【0122】
好ましい実施形態において、本発明の発現カセット又はベクターは、好ましくは本発明のウィルス粒子を用いた、より好ましくは本発明のAAV粒子を用いたウィルス感染により宿主細胞内に移入される。
【0123】
本発明の発現カセット、ベクター及びウィルス粒子の全ての実施形態は、この態様において熟慮される。
【0124】
本発明は、本発明の発現カセット、ベクター、ウィルス粒子又は細胞を含む医薬組成物に関する。
【0125】
そのような組成物は、治療有効量の治療剤(本発明の発現カセット、ベクター、ウィルス粒子又は細胞)と、医薬的に許容可能な賦形剤とを含む。本明細書において用いられる「医薬的に許容可能な」の用語は、動物及び/又はヒトに使用するための、監督機関又は欧州薬局方等の公認薬局方により承認されることを意味する。「賦形剤」の用語は、治療剤と共に投与される希釈剤、アジュバント、キャリア又はビヒクルを意味する。
【0126】
本技術分野において周知の通り、医薬的に許容可能な賦形剤は、薬理学的に有効な物質の投与を容易にする相対的に不活性の物質であり、溶液、懸濁液、乳液、又は使用前に液体に溶解若しくは懸濁するのに適する固体で提供される。例えば、賦形剤は、形状若しくは粘性を与えることができ、希釈剤として作用できる。適切な賦形剤は、以下のものに限られないが、安定剤、湿潤及び乳化剤、浸透圧を変更するための塩、カプセル化剤、pH緩衝液、並びにバッファーを含む。そのような緩衝液は、不適当な毒性無く投与され得る眼に直接に輸送するのに適する薬剤を含む。医薬的に許容可能な賦形剤は、以下のものに限られないが、ソルビトール、種々のtween化合物のいずれか、並びに水、生理食塩水、グリセロール及びエタノール等の液体を含む。医薬的に許容可能な塩は、その中に含まれてもよく、それは、例えば塩酸、臭化水素、リン酸及び硫酸等の無機酸塩、並びに酢酸、プロピオン酸、マロン酸及び安息香酸等の有機酸塩である。医薬的に許容可能な賦形剤の十分な議論は、Remington's Pharmaceutical Sciencesの第15版において得られる。
【0127】
好ましくは、組成物は、特に眼内注射、例えば網膜下及び/又は硝子体中投与により眼に投与されるために製剤化される。従って、組成物は、生理食塩水、リンガー平衡塩溶液(pH7.4)等の医薬的に許容可能な賦形剤と組み合わせられ得る。
【0128】
本明細書に記載された医薬組成物は、単回用量又は複数回用量の形態でパッケージされ得る。
【0129】
一実施形態において、医薬組成物は、本発明のベクター又はウィルス粒子、より好ましくはAAVベクター又は粒子を含む。
【0130】
他の実施形態において、医薬組成物は、本発明の宿主細胞、好ましくは本発明のヒト宿主細胞、すなわち本発明の発現カセット、ベクター又はウィルス粒子、好ましくはAAV粒子を用いて形質転換又はトランスフェクションされた宿主細胞を含む。任意に、宿主細胞を含む組成物は、その細胞の保存に適する温度で保存するために凍結されてもよい。例えば、細胞は、約−20℃、−80℃又は他の適切な温度で凍結されてもよい。低温で凍結された細胞は、細胞のダメージの蓄積を低減し且つその細胞が生存した状態で融解される可能性を最大にする保存のために、適切な容器内で保存され、調製され得る。代替的に、細胞は、例えば約4℃の冷却された室温で維持されてもよい。
【0131】
投与される医薬組成物の量は、当業者により周知の標準的な方法により決定され得る。患者の生理的データ(例えば年齢、サイズ及び重量)並びに治療する疾病の型及び重症度は、適切な用量を決定するために考慮されなければならない。
【0132】
本発明の医薬組成物は、単回投与又は複数回投与で投与され得る。
【0133】
特定の実施形態において、組成物は、本発明のウィルス粒子を含み、各単位用量は、10
8から10
13のウィルス粒子、好ましくは10
9から10
12の粒子を含む。
【0134】
医薬組成物は、コルチコステロイド、抗生物質、鎮痛剤、免疫抑制剤、栄養因子又はそれらの組合せ等1つ又は複数の追加の活性化合物をさらに含み得る。
【0135】
本発明のプロモーター、発現カセット、ベクター、ウィルス粒子及び宿主細胞の全ての実施形態は、この態様において熟慮される。
【0136】
更なる態様において、本発明は、
眼疾患の治療に用いるための本発明の医薬組成物、
眼疾患の治療に用いるための本発明の発現カセット、ベクター、ウィルス粒子又は宿主細胞、
眼疾患の治療のための薬剤の製造のための本発明の発現カセット、ベクター、ウィルス粒子又は宿主細胞の使用、及び、
本発明の医薬組成物の治療有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む眼疾患の治療のための方法、に関する。
【0137】
一実施形態において、眼疾患は、網膜神経節細胞の変性に関連する疾患である。
【0138】
網膜神経節細胞の変性に関連する疾患の例は、以下のものに限られないが、遺伝性視神経症(レーバー遺伝性視神経萎縮症、優性視神経萎縮症)、圧迫性視神経症(眼窩偽腫瘍、甲状腺眼症)、自己免疫性視神経症(Lupus)、糖尿病性網膜症、緑内障を含む緑内障性視神経疾患(GOND)、動脈炎性虚血性視神経症(巨細胞性動脈炎)、非動脈炎性虚血性視神経症、浸潤性視神経症(サルコイドーシス)、感染性視神経症(梅毒、ライム病、トキソプラズマ病、帯状疱疹)、脱髄疾患による視神経炎、放射線治療後視神経症及び腸性肢端皮膚炎を含む。
【0139】
特定の実施形態において、眼疾患は、遺伝性視神経症であり、好ましくはレーバー遺伝性視神経萎縮症(LHON;OMIM#535000)、視神経萎縮1(Kjerタイプ視神経萎縮;OMIM #165500)、視神経萎縮及び白内障(視神経萎縮3;OMIM #165300)、並びにオーディトリーニューロパシーと併発する又はしない視神経萎縮7(OMIM#612989)から選択される。
【0140】
好ましくは、眼疾患は、例えばLHON又は優性視神経症等の網膜神経節細胞の変性に関連する遺伝性眼疾患であり、本発明の発現カセット、ベクター又はウィルス粒子から発現される目的のポリペプチドは、治療用タンパク質、特に患者における遺伝子欠損を正す治療用タンパク質である。
【0141】
好ましい実施形態において、眼疾患は、LHON及び優性視神経萎縮症から選択され、好ましくは視神経萎縮1、視神経萎縮及び白内障(視神経萎縮3)、並びにオーディトリーニューロパシーと併発する又はしない視神経萎縮7から選択され、目的のポリペプチドは、MT−ND4、MT−ND1、MT−ND6、MT−CYB、MT−CO3、MT−ND5、MT−ND2、MT−COI、MT−ATP6、MT−ND4L、OPA1、OPA3、OPA7及びACO2からなる群から選択される。
【0142】
RGCは、光受容体が遺伝性又は後天性疾患により失われた場合に、疾患における光受容体変性後に長期間持続する。従って、RGCは、光遺伝学を用いて網膜を回復させるための処置の標的となる。これに関連して、RGCは、強く且つ制限された方法での光感受性タンパク質、すなわち光遺伝学的アクチュエータの発現が視力回復の成功に本質的である場合に、変性細胞に独立した細胞標的である。
【0143】
従って、他の実施形態において、眼疾患は、光受容体細胞の変性に関連した疾患である。好ましくは、この実施形態において、目的のポリペプチドは、上記光遺伝学的アクチュエータであり、治療は光遺伝学的治療である。
【0144】
光受容体細胞の変性に関連する疾患の例は、以下のものに限られないが、加齢黄斑変性、レーバー遺伝性視神経萎縮症、錐体杆体変性、レーバー先天性黒内障、シュタルガルト病、糖尿病性網膜症、網膜剥離、ベスト病、網膜色素変性、先天性脈絡膜欠如及び色素上皮網膜変性を含む。
【0145】
代替的に、眼疾患は、網膜神経節細胞又は光受容体細胞の変性に必ずしも又は明確には関連しないが、網膜神経節細胞に目的のポリペプチド又は核酸をコードする核酸を特異的に発現することにより治療又は予防できる疾患から選択される(例えば緑内障)
【0146】
本明細書において用いられる「治療(treatment treat又はtreating)」の用語は、疾患の治療、防止、予防及び抑制等の患者の健康状態を改善することを意図する行為を意味する。特定の実施形態において、そのような用語は、疾患又は疾患に関連する症状の改善又は根絶を意味する。他の実施形態において、この用語は、そのような疾患を罹患する対象に1つ又はそれ以上の治療剤を投与した結果、その疾患の蔓延又は悪化を最小化することを意味する。
【0147】
特に、「眼疾患の治療」の用語は、増強された視力を提供する、全盲への疾患の進行を防止する、傷害を受けていない眼細胞のダメージの拡大を防止する、傷害を受けた眼細胞のダメージを改善する、網膜のダメージの発生を防止する、又は軽度若しくは進行中の疾患を有する眼を救うための治療を意味し得る。いくつかの実施形態において、この用語は、患者の遺伝子欠損を正す治療用タンパク質を提供することによりRGC変性を予防、抑制又は止める治療を意味する。いくつかの他の実施形態において、この用語は、光遺伝学を用いて網膜を回復する又は視力を回復するための治療を意味する。
【0148】
「治療有効量」は、眼疾患の上記治療を構成するのに十分となる対象に投与される本発明の医薬組成物の量を意図する。
【0149】
医薬組成物は、単回投与又は複数回投与で投与されてもよい
【0150】
特定の実施形態において、医薬組成物は、本発明のウィルス粒子を含み、各単位用量は、10
8から10
13ウィルス粒子、好ましくは10
9から10
12粒子を含む。
【0151】
本発明の眼疾患を治療する方法において、本発明の医薬組成物は、好ましくは眼内投与、より好ましくは網膜下又は硝子体中投与される。
【0152】
本発明の方法は、対象に少なくとも1つの追加の治療剤を投与することをさらに含み得る。特に、その治療剤は、コルチコステロイド、抗生物質、鎮痛剤、免疫抑制剤、栄養因子又はそれらの組合せからなる群から選択され得る。
【0153】
本発明の組成物は、疾患が症状を示す前又は後に投与され、例えば部分的若しくは完全にRGC若しくは光受容体細胞が変性する前若しくは後に、及び/又は部分的若しくは完全に視力を失う前若しくは後に投与され得る。
【0154】
本発明のプロモーター、発現カセット、ベクター、ウィルス粒子、宿主細胞及び医薬組成物の全ての実施形態は、この態様において熟慮される。
【0155】
RGCは、画像形成及び非画像形成視覚情報を、活動電位の形態で網膜からまとめて脳に伝送する。RGCのそれぞれのタイプのサイズ、形状及び突起は異なり、また、それらは視覚機能において全く異なるおそらく独立した役割を果たすと考えられているので、RGCの機能を研究することには多大の関心が持たれている。
【0156】
従って、他の態様において、本発明は、本発明の発現カセット、ベクター、ウィルス粒子又は宿主細胞を含む非ヒト動物モデルに関する。
【0157】
そのような動物モデルは、RGC機能のインビボ研究のために用いられ得る。本発明のプロモーター、カセット、ベクター又はウィルス粒子を用いて、例えばレポータータンパク質、電位又はカルシウム感受性タンパク質の発現を介して、RGCを同定若しくは追跡する、又はそれらの活性を観察することができる。
【0158】
非ヒト動物モデルは、RGCにおいて作用する薬剤を同定又は選択するためのスクリーニング方法にも用いられ得る。
【0159】
好ましくは、非ヒト動物モデルは、哺乳動物、より好ましくは霊長類、げっ歯類、ウサギ又はミニブタである。
【0160】
プロモーター、発現カセット又はベクターは、このモデルの細胞内でエピソームの形態で維持されてもよく、又はそのゲノム内に組み込まれてもよい。
【0161】
選択されたプロモーター、すなわち本発明のプロモーターの制御下で目的の核酸配列を発現する動物細胞をトランスフェクトする若しくは形質転換する、又はトランスジェニック動物を作製するための方法は、当業者に周知であり、細胞及び動物に従って容易に適合され得る。
【0162】
本発明のプロモーター、発現カセット、ベクター、ウィルス粒子、宿主細胞の全ての実施形態は、この態様において熟慮される。
【0163】
本明細書で参照された又は引用された全ての特許、特許出願、仮出願及び公報は、全ての図面及び表を含めてそれらの全体が、本明細書の明示的な教示と矛盾しない範囲で、参照として本明細書に組み込まれる。
【0164】
以下の実施例は、本発明の説明を目的とするものであり、本発明の限定を目的とするものではない。
【実施例】
【0165】
<方法及び材料>
(動物)
全ての試験を、国立衛生研究所における実験動物の管理と使用のガイドに従って行った。プロトコールは地方動物倫理委員会により承認され、欧州議会の2010/63/EU指令に従って行った。この試験で用いられた全てのマウスは、JanvierLaboratories (Le Genest Saint Isle, France)から入手されたC3H/HeN(rd1マウス)若しくはC57Bl6Jマウス(野生型)であり、又は外国起源のカニクイザル(macaca fasicularis)が用いられた。
【0166】
(AAVの作製)
組換型AAVをプラスミドコトランスフェクション法(Choi et al. Curr. Protoc. Hum. Genet. 2007;Chapter 12:Unit 12.9)により作製し、それに記載されているように、得られた溶解液をイオジキサノール勾配超遠心法により精製した。簡単に40%イオジキサノール分画を濃縮し、Amicon Ultra-15 Centrifugal Filter Unitsを用いてバッファー置換を行った。その後、ベクターストックを、標準に関連して(Aurnhammer C et al. Hum Gene Ther Methods. 2012 Feb;23(1):18-28)リアルタイムPCRによって、DNase耐性ベクターゲノムに作用した。
【0167】
(注射)
マウスをケタミン(50mg/kg)、キシラジン(10mg/kg Rompum)を用いて麻酔した。瞳孔を広げ、超微細な30ゲージの使い捨て針を赤道にあり角膜縁に隣接する強膜に通過させ、硝子体腔内に入れた。10
7から10
11粒子のAAVを含む1μlのストックの注射を、硝子体腔の中心における針の直接観察により行った。霊長類では、10:1mg/kgのケタミン:キシラジンを用いて麻酔した。瞳孔を広げ、1×10
11又は5×10
11のウィルス粒子を含む100μLのウィルスベクターを、それぞれの眼の硝子体内に、30ゲージの針を用いて角膜縁の約4mm後ろの胸膜を通って注射した。眼科用ステロイド及び化膿止めを注射後の角膜に適用した。
【0168】
(免疫組織化学)
形質導入されたマウスの網膜を、解剖し、4%ホルムアルデヒドにより30分間室温で固定しPBSで洗浄した。その後、網膜を、1%TritonX−100、0.5%Tween 20及び5%ウシ血清アルブミンブロッキングバッファーを含むPBSにより室温で1時間処理した。マウスの網膜を抗GFPポリクローナル抗体(Life Technologies; 1:2000)及び抗Brn3aモノクローナル抗体(MilliporeChemicon; 1:100)を含む半希釈ブロッキングバッファーにより4℃で一晩インキュベートした。その後、網膜をそれぞれAlexa TM594、Alexa TM488及びAlexa TM647とコンジュゲートされた抗ウサギIgG、抗マウスIgG二次抗体を含む半希釈ブロッキングバッファーにより1時間室温でインキュベートした。霊長類の網膜を、類似の条件で、抗Brn3a、抗GFP及び抗チャンネルロドプシン抗体を用いてラベルした。その後、細胞核を、検体と4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(Sigma-Aldrich; 10μg/mL)とを共にインキュベートすることにより染色した。網膜をリンスし、共焦点観察を開始する前に、2つのカバーガラスの間にマウンティング媒体を用いてフラットマウンティングした。先にラベルされたフラットマウントの組織切片を、マウントの解除、凍結保存及び凍結切片(15μm)の前にOCTで包埋することにより得て、共焦点顕微鏡により観察した。
【0169】
(共焦点顕微鏡観察)
共焦点顕微鏡観察は、オリンパスFV1000レーザースキャニング共焦点顕微鏡を用いて行った。画像は、励起及び放射のクロストークを低減するために連続的に、一行ごとに得て、ステップサイズをナイキスト・シャノン標本化定理に従って規定した。最終画像における過飽和な画素を最小化する露光設定を用いた。その後、FIJIを用いて12ビットイメージを処理し、Z断面を、Z−投影機能下での最大強度を用いて単一平面に投影し、最終的に8ビットのRGBカラーモードに変換した。
【0170】
形質導入の効率は、マウス及び霊長類の網膜の中心窩におけるCatch−GFPと共に形質導入されたBrn3a(+)細胞をカウントすることにより評価した。RGC層の共焦点スタックを20×を用いて得た。
【0171】
(単離された網膜のMEAの記録)
マウスを麻酔し、迅速な頚椎脱臼によって屠殺し、霊長類には致死量のペントバルビタールを与えた。眼球を取り出し、Amesメディウム(Sigma Aldrich A1420)において、室温で95%O
2及び5%CO
2で泡立てた。単離された網膜をセルロース膜上に置き、RGCに対する電極を有するMEA(MEA256 100/30 iR-ITO, Multichannel systems,ドイツ)に対して穏やかに押し付けた。網膜を、試験中1〜2ml/minで34℃の泡立つAmesメディウムを連続的に浸み込ませた。代謝型グルタミン酸受容体アゴニストであるL−(+)−2−アミノ−4−ホスホノ酪酸(LAP-4, Tocris Bioscience, cat No. 0103)及びグリシン受容体アンタゴニストであるストリキニン塩酸塩(Sigma Aldrich S8753)を、それぞれ50μM及び10μMの濃度に新しく希釈し、記録前に灌流システムに10分間適用した。全視野の光刺激を、STG2008刺激発生器(MCS)により作動されるPolychrome V monochromator(オリンパス)を用いて行った。アウトプットライトの強度を、1.10
14photons/cm
2/sから1.10
17photons/cm
2/sの範囲に調整した。刺激は10秒間隔で2秒間行った。反応の波長感度は、400nmから650nmまでを10nm刻みで10回刺激することにより決定した。試験された波長の順序は、網膜の適応を防ぐためにランダムにした。
【0172】
生の細胞外RGC活性を増幅させ、20kHzでサンプリングした。得られたデータを保存し、Spike2ソフトウェアv.7 (CED Co, UK)を用いて次のオフライン分析のために200Hzhigh passフィルタでフィルタリングした。単一ユニットラスタープロットを、波形の主成分分析に基づいたテンプレートマッチング及びクラスターグルーピングの組合せを用いて得た。我々のポピュレーション分析において、顕著な反応をZスコア分析に基づいて決定した。我々は、刺激前の活性の平均値及び標準偏差を算出し、刺激(ビンサイズ50ms)のオンセット又はオフセットの2秒後において、活性が標準偏差の4倍以上の平均値を超える場合に反応を検出した。エラーバーは異なる試験にわたって算出した。異なる波長の光に対する反応のために、我々は、刺激後の1sウィンドウにおいて各フラッシュに対する反応を測定した。その後、我々は、その最大の反応発火率によって各細胞の反応を正規化した。異なる強度での光反応のために、記録された細胞一式に亘ったブートストラッピングによってエラーバーを推定した。
【0173】
(二光子画像及びパッチクランプ法)
25倍の水浸対物レンズ(XLPLN25xWMP/NA1.05,オリンパス)、フェムト秒パルスレーザ(InSightDeepSee - Newport Corporation)を備えた特注の二光子顕微鏡を、CatCh−GFP陽性網膜神経節細胞をイメージングするために用いた。rd1マウスからのAAV処理網膜を、酸素を入れた(95% O
2, 5% CO
2)Amesメディウム(Sigma-Aldrich)において単離した。ライブ二光子イメージングのために、網膜切片(300μm)をrazor blade tissue chopper (Stoelting)を切断して顕微鏡の記録チャンバに置き、Zスタックを930nmの波長の励起レーザを用いて得た。画像をImageJを用いてオフラインで処理した。イメージングの際に、網膜に対して、酸素を入れたAmesメディウムで表面を灌流した。
【0174】
我々は、細胞全体の記録のためにAxonMulticlamp 700B増幅器を用いた。パッチ電極はホウケイ酸ガラス(BF100-50-10,Sutter Instruments)からなり、8〜10MΩに引かれた。ピペットを112.5 mM CsMeSO4、1 mM Mg SO4、7.8×10
-3 mM CaCl2、0.5 mM BAPTA、10 mM HEPES、4 mM ATP-Na2、0.5 mM GTP-Na3、5 mM lidocaine N-ethyl bromide (QX314-Br) (pH 7.2)で満たした。細胞を、興奮性電流を単離するために−60mVの電位でクランプした。
【0175】
(視覚野におけるインビボ記録)
マウスを低容量のケタミン−キシラジン注射(ケタミン:100mg/kg及びキシラジン:10mg/kg)により鎮静させ、その後ウレタン(1.0 g/kg, 生理食塩水中10% w/v)を用いて麻酔した。動物を定位ホルダに置いた。温度は37℃に維持し、ビタミンA(Allergan)で覆われたカバーガラスを、角膜脱水を防止するために両目の上に置いた。処理された眼の反対側における半球におけるV1の上の開頭(1mm
2)は、ラムダ点から3mm横側で且つ0.5mm吻側を中心とした。硬膜を除き、電極を皮質表面に30°の角度で3軸マイクロマニピュレーター(Sutter Instruments)を用いて挿入した。それを800μm進めて、露出表面をアガロース(1.2%、cortexバッファー中)で覆った。
【0176】
視覚刺激は、眼から1cmの位置における470nmの視準されたLED(model M470L3, Thorlabs)により行われた。単離された錐体が、照光が刺激される眼に制限されることを確実にした。リニアマルチサイトシリコンマイクロプローブ(50μm間隔で16の電極)を記録のために用いた。各取得のために、200以上の試験を平均した後、最大のピーク振幅を有するVEPを示す電極を定量のために選択した。刺激は、Digidata (Axon)により起こされる1Hzで200回繰り返される青色光の200msパルスからなる。シグナルを、カスタムスクリプトを用いてMatlabで分析した。局所電場電位のために、シグナルは300Hzでlow passフィルタし、200以上の試験を平均した。
【0177】
(非ヒト霊長類におけるインビボイメージング及び眼科的試験)
GFPの蛍光画像(眼底自発蛍光モード:励起波長488nm及びバリアフィルタ500nm)及び眼底の赤外線写真及びOCT画像は、瞳孔拡張後にSpectralis HRA+OCTシステム(HeidelbergEngineering, Heidelberg, Germany)を用いて得られた。細隙灯生体顕微鏡(PortableSlit Lamp model SL-14, Kowa)及び倒像検眼鏡(Indirect BinocularOphthalmoscope model HK 150-1 uno, Heine)からなる眼科的試験を、投薬前2週間、その後毎月、全てのマカクで行った。
【0178】
(マカクの網膜における病理組織学的試験)
高用量が注射されたNHPからの眼を注射後3ヶ月で摘出し、針を挿入し、眼球が膨張するまで0.15〜0.3mlの固定液を注射した。眼を固定液に浸漬して一晩固定し、全体構造を横切る水平方向断面を作製するように処理した。所望の眼構造のすべてが存在する網膜の断面をNanozoomer (Hamamatsu, Japan)で画像化した。
【0179】
[実施例1]
<hSNCGのプロモーター配列>
SNCG遺伝子は第10染色体(10q23.3)に位置する(
図1)。それは+1転写サイトから5番目のエクソンの端部まで3.5kbにわたって延びる5つのエクソンを含む。マルチメリン2遺伝子(MMRN2)の第1のエクソンは、+1SNCG転写サイトの863bp下流に位置する。SNCGプロモーターのヒト配列を抽出するために、−785から+163の領域(
図1において矢印で示す)をHEK293T細胞から増幅させた。
【0180】
増幅プライマーは以下の通りであり:
フォワードプライマー:5’−CACAAGCCAGTTCCTGTCC−3’ (配列番号2)、及び、
リバースプライマー:5’−GGGTGTGCAGGGTTGTG−3’ (配列番号3)。
【0181】
プロモーター配列は、94℃の変性ステップ30秒、それに続く54℃のアニーリングステップ1分、及び72℃の伸長ステップ1分からなる30回の連続サイクルにより増幅した。
【0182】
その後、PCR産物(配列番号1)を、DNAトポイソメラーゼIを用いた方法によりpENTR-D/TOPOプラスミド内にサブクローニングし、シークエンシングを行った。その配列は、GeneID番号6623でGenbankに配列が公開されている配列と同一であることが確認された。
【0183】
このプラスミドから、本発明者らは、配列番号1のプロモーターの制御下でGFPレポーター遺伝子を発現するAAVベクター及びHIV−1由来レンチウィルスベクターを生成した(
図1)。
【0184】
<mPGK又はhSNCGプロモーター及びGFPタンパク質をコードする核酸を含むAAV−2/Y444Fベクターの構築及び生成>
(構築)
SNCGプロモーター(配列番号1)及びPGKプロモーター配列を、Gateway法を用いた相同組換えにより、5’ITRから3’ITRまで:(Gatewayシステムを用いた相同組換えを許容する)Rfaインサート、GFPをコードするcDNA及びウシ成長ホルモンのポリアデニル化シグナル(bGHポリA)を含むAAV産物のためのシャトルプラスミドに導入した。
【0185】
このベクターを、Y444F置換した点変異を有する血清型2カプシドで偽型化した。その変異を、AAV2のrep及びcap遺伝子をコードするパッケージプラスミドから特定部位突然変異導入により導入した。
【0186】
(生成)
発現カセット、rep2及びcap2−Y444F遺伝子を含む組換型AAV2ゲノムを運ぶプラスミドと、ヘルパープラスミドとのHEK293T細胞へのコトランスフェクション(カルシウムリン酸共沈法を使用)によりAAV粒子を生成した。その後、不連続勾配イオジキサノール超遠心法により、トランスフェクションされた細胞の細胞質抽出液からAAV粒子を精製及び濃縮した。ウィルス力価を、AAV粒子のゲノムDNAにおけるITR配列の定量的PCR増幅により測定した。
【0187】
[実施例2]
C57BL6/Jの成体マウス(6週)に、PBSで10
11vg(ベクターゲノム)の量に希釈された配列番号1のプロモーター及びGFPタンパク質をコードする核酸を含むAAV−2/Y444Fベクター(実施例1及び
図1を参照)を硝子体内注射した。注射から1ヵ月後に、眼底及び網膜は、ベクター又は手術による毒性が無いことを示し、正常外観を有していた(
図2A)
【0188】
直接蛍光を用いた眼底のインビボ画像により、網膜におけるGFPレポーター遺伝子の発現が観察された(
図2A)。ケタミン及びキシラジンの混合液を腹腔内注射することにより動物を麻酔し、ネオシネフリン及び散瞳薬の局所適用により瞳孔を広げた。その動物において、全瞳孔の拡大後、げっ歯類の眼底を見るために特別に設定された蛍光カメラにより試験した(MicronIII, PhoenixLaboratories)。
【0189】
蛍光によって、GFPを発現する多数の細胞体を検出し、神経乳頭又は視神経頭に向かって収束する神経線維も観察した(図示せず)。これらの神経線維の存在は、GFPがRGCで発現していることを証明した。
【0190】
[実施例3]
網膜におけるhSNCGプロモーターの発現パターンを特徴付けるために、本発明者らは、hSNCGプロモーター(配列番号1)を、網膜において高いレベルで発現することが知られているユビキタスプロモーターであるmPGKプロモーターと比較した。
【0191】
C57BL6/Jマウスの2つの群に、10
11vgの量にPBSで希釈したAAV2−Y444Fベクター、及びmPGK又はhSNCGプロモーターの制御下でGFPをコードするベクターを硝子体内注射した。注射の1ヵ月後、GFP発現について上記のようにインビボ分析を行った。その後、動物を安楽死させて、4%パラホルムアルデヒドを含むPBS溶液の心臓内灌流により組織を固定した。その後、眼球を取り出し、同一の固定液で後固定し、25%スクロースを含むPBS溶液で凍害保護し、その後16μmの薄さでクライオスタットを用いて切断した。その後、直接蛍光の可視化により顕微鏡下でGFP発現を分析し、神経節細胞の特異的マーカーであるBnr3aを用いて免疫標識した。
【0192】
ユビキタスプロモーターmPGKを含むAAVベクターを注射されたマウスにおいて、RGC層における多数の形質導入細胞が存在するが、双極細胞層(INL)及び光需要体層(ONL)にも存在した(
図2F)。光受容体又はミュラー細胞の形態を有する細胞も明確に検出された。さらに、INLにおける形質導入細胞の位置は、双極又はアマクリンニューロンが形質導入されたことが示唆される。
【0193】
配列番号1のプロモーターを含むAAVベクターを注射されたマウスにおいて、RGCは非常に強く標識されていた。GFPは、分枝の層状組織を示す内網状層におけるそれらの細胞体及びそれらの樹状分枝において検出された(
図2C)。少数の水平細胞を除き、GFPの発現は神経節細胞に限定されていた。
【0194】
[実施例4]
我々は、Brn3aとの共標識による発現の位置を調べることにより、RGCにおける遺伝子発現の強さ及び特異性を評価した。Brn3aは、RGCに特異的に発現し、この転写因子に対する抗体は、マウスRGCを同定する信頼できるマーカーとして考えられる(Quina et al. J. Neurosci. 2005;25(50):11595-11604)。
【0195】
C57BL6/Jマウスの2つの群に対して、1011vgの量にPBSで希釈され、CMV又はhSNCGプロモーターの制御下でGFPをコードするAAV2ベクターを、硝子体内注射した。注射の1ヵ月後に動物を安楽死させ、4%パラホルムアルデヒドを含むPBS溶液を心臓内に灌流させることにより組織を固定した。次に、眼球を取り出し、同一の固定液で1時間の後固定を行い、25%スクロースを含むPBS溶液で凍害保護し、クリオスタットを用いて16μmの薄さに切断した。その後、神経節細胞の特異的マーカーのBnr3aを用いて免疫標識し、直接蛍光による可視化によって顕微鏡下でGFP発現を分析した。
【0196】
配列番号1のプロモーターを含むAAV2ベクターを注射されたマウスにおいて、RGCは非常に強く標識されていた。GFPは、分枝の層状組織を示す内網状層におけるそれらの細胞体及びそれらの樹状分枝において検出された。SNCG−GFP網膜の断面(
図3B)の共焦点顕微鏡像は、RGCにおいて強いGFP発現を示し、この発現の多くは、Bnr3a標識と共局在していた。
【0197】
[実施例5]
AAV2−CMV−GFP又はAAV2−SNCG−GFPベクターのそれぞれの5×10
11ウィルス粒子を、100μlの容量で、正常のマカク(macaca fascicularis)の眼に硝子体内注射した。我々は、眼底の蛍光イメージングにより、カニクイザルの網膜におけるGFP発現を評価した。GFPの蛍光画像(眼底自然蛍光モード:励起波長488nm、バリアフィルタ500nm)は、瞳孔拡張後に、Spectralis HRA+OCTシステム(Spectralis HRA+OCT;Heidelberg Engineering, Heidelberg, Germany)を用いて得られた。蛍光画像は、CMVプロモーターを含むAAV−GFPベクターの場合(
図4B)と比較して、形質導入領域(中心窩の周縁の輪)やSNCGプロモーターを含むAAV−GFPベクターのバックグラウンドできわめて強いGFP発現を示した。この試験は、高い導入遺伝子発現がSNCGプロモーター(配列番号1)を用いた非ヒト霊長類で得られることを証明する。
【0198】
[実施例6]
(配列番号1のプロモーター配列を用いたマウス網膜における強いRGC特異的発現)
ヒトγシヌクレイン(SNCG)の制御領域由来の実施例1で得られたプロモーター配列を、GFPの上流にクローニングした。我々は、マウスの網膜におけるAAVを介した発現パターンを特徴付け、RGCにおける高レベルのGFP発現を観察した。また、我々は、AAV骨格におけるヒト化CatCh(L132C変異を有するヒトコドン最適化チャンネルロドプシン)の上流にこの配列をクローニングした。AAV2ベクターを、GFPと融合したhCatchの発現を作動するCMV又はSNCGプロモーターを用いて作製した。5つのrd1マウスの眼にhCatCh−GFPの発現を作動するCMV又はSNCGを注射した。
【0199】
蛍光眼底画像は、CMVを注射した眼に対して、SNCGを注射した眼の全てにおいてより高い傾向を示した(
図5A)。注射の8週後に眼球除去をし、網膜のフラットマウントが、CMVよりもSNCGプロモーターを用いた方が高い強度の蛍光を示すことを確認した(
図5B)。我々は、Brn3aを用いた共標識による発現の位置を調べることにより、RGCにおける遺伝子発現の強さ及び効率を評価した。Brn3aは、RGCに特異的に発現し、この転写因子に対する抗体は、マウスRGCを同定及び定量するための信頼できるマーカーと考えられている(Quina et al. J. Neurosci. 2005;25(50):11595-11604)。SNCG−CatCh−GFPの網膜のフラットマウント(
図5D)及び断面(
図5E)の共焦点顕微鏡画像は、RGCにおける強いGFP発現を示し、この発現はBrn3a標識と多く共局在されている。そのような画像の細胞定量化において、我々は、SNCG又はCMVプロモーターがトランスフェクションされた網膜におけるRGCにおいて、Brn3a抗体で標識された数は同じであることを示した。SNCGの網膜において、Brn3a陽性RGCの57%がGFPを発現し、一方、CMVの網膜においてこの割合が21%に減少した(
図5C)。SNCG及びCMVの網膜の違いは、統計的に顕著であった。GFP発現Brn3a陽性RGCの大きな比は、RGCにおける高レベルの遺伝子発現を作動するためのSNCGプロモーター(配列番号1)の高い有効性を証明した。
【0200】
(配列番号1のSNCGプロモーター下でのrd1網膜のRGCにおけるCatCh発現に従う網膜及び皮質の反応)
hCatCh−GFPの選択的RGC標的化が、盲目のrd1の網膜(12週齢超過)において視覚機能を回復できることを証明するために、我々は、マルチ電極アレイ(MEA)を用いて網膜神経節細胞からのスパイク活動を記録した。CMV又はSNCG(配列番号1)下でhCatCh−GFPをコードするAAV2を3つの用量で誕生から4〜8週のマウスに注射し、注射後8〜12週にMEA記録を行った(
図6A〜C)。光遺伝学的反応の光感受性は、10
14から10
17photons/cm
2/sの範囲の光条件において252の電極アレイで読み出された情報として測定された。光励起スパイク活動は、2秒の全視野フラッシュを用いて処置されたrd1網膜を刺激した際に観察され(
図6A〜E)、一方で、コントロールのrd1網膜では光に応答したスパイク活動の増大は示されなかった(図示せず)。光に反応する細胞の割合は、ウィルス量に依存した(
図6A〜B)。10
14photons/cm
2/sの刺激により、高用量のAAVのSNCGプロモーターで注射されたrd1動物において多くの細胞が反応した(
図6A)。この改善された感受性は、SNCGプロモーター(配列番号1)がRGCで高レベルのCatCh発現を作動し、高い割合の細胞が同一のウィルス力価で光感受性になることを裏付ける。発火率頻度は強度依存的であり、5×10
9vg/眼のウィルス用量で、SNCGプロモーター下で発現するCatChにおける10
14photons/cm
2/sでの強い光応答が起こる(
図6A)。正規化された発火率は、光強度の上昇に従って増大する(
図6C〜D)。なお、CMVプロモーターを有する最も高いウィルス用量でのみ、10
14photons/cm
2/sでの光応答が生じた(
図6A)。さらに、わずかの細胞がこれらの条件で光に反応した。最も高い光強度でさえ、中程度のウィルス用量(5×10
8vg/眼)において反応する細胞はほとんど無かった(
図6B)。この試験は、RGCにおける機能性タンパク質の発現の作動のための、SNCGプロモーター(配列番号1)の高い有効性を証明した。
【0201】
このRGCの活性が脳に伝送されることを証明するために、我々は、インビボでの網膜刺激に基づく皮質レベルの光応答を記録した。この試験のために、rd1マウスの他の系としてAAV2-SNCG-hCatCh-GFPを注射し、我々は光強度の増大に応じて視覚野におけるスパイク活動及び局所電場電位(VEP)を記録するためにそれらのマウスを用いた。RGCの反応h、視覚野における高い光感受性活性に変換した(
図6F〜J)。処置された眼(記録する半球の反対側)を1Hzで200回繰り返された200msパルスの青色光(1.7×10
17photons/cm
2/s以下の光強度)で刺激した(
図6F〜H)。処置されていないrd1マウスの記録においてVEPは見られなかった(平坦な記録)。野生型マウスのVEP測定と比較すると、CatCh作動VEPはより遅い潜伏時間を有する(
図6I)。光伝達カスケード及びその後の網膜評価がバイパスされるので、より短い潜伏時間が期待される。
図6F〜H及びJは、より高い光強度でより短い潜伏期間の傑出したピークの進行性出現を有するスパイク応答の強度依存性を示す。CatCh処理したrd1マウスのスパイクの潜在期間は、野生型マウス(52.98+/−3.83ms、n=3)における平均ON潜在期間よりも短い(19.1+/−2ms、n=3)。これらの反応は光刺激の期間に密接に関連し、CatCh誘発RGC活性の結果である。これらの機能的結果は、SNCGプロモーター下でのCatChnoAAV作動性発現が光感受性を回復するために盲目マウスの網膜でRGCを活性化できること、及びこれらの細胞が光信号を脳の視覚野にまで伝送することを明確に証明する。
【0202】
(NHPの眼におけるインビボ炎症反応)
マウスの試験において、我々は、5×10
7から5×10
9vg/眼の範囲の用量を用いた。我々は、ヒトにおける光毒性を最小にするために低光強度を用いることが必要であることを観察し(10
14〜10
15photons/cm
2/sの範囲)、MEAにおける光応答を得るのに必要な特定の数字は、5×10
8から5×10
9vg/眼の範囲である。マカクの硝子体の容積はマウスの硝子体容積の約100倍大きいので、我々は、我々の非ヒト霊長類試験におけるこの用量範囲の医薬的等量を使用することを決めた。5匹の非ヒト霊長類は、それらの血清におけるAAV2に対する中和抗体力価が無いことに基づいて選択された(Kotterman et al. Gene Ther. 2015 Feb;22(2):116-26)。これらの成体のマカクの4匹に、SNCGプロモーター下でhCatChをコードする1×10
11(n=4眼)又は5×10
11粒子(n=4眼)のAAV2を硝子体内注射した(表1)。
【0203】
【表1】
表1:非ヒト霊長類への注射:動物番号、硝子体内注射されるAAVベクター及びウィルス量
【0204】
GFPは免疫原性になり得るので、GFPとhCatChとの潜在的炎症反応とを区別するために、我々は、蛍光タグが付いていないhCatChを用いた。しかしながら、1匹の霊長類には、同一の2つの用量で注射されるが(一方の眼には低用量、他方の眼には高用量)、インビボでの遺伝子発現をモニターするためにGFP融合hCatChをコードするものが注射された。
【0205】
硝子体混濁のための評価尺度(
図7の下段)に定義されるように炎症の重度が進行しないので、透明性が十分に維持された。眼底の可視化のわずかな障害が、低用量群の一方の眼において注射後1及び3ヶ月で検出され、高用量群の全ての眼において注射後2ヶ月で検出された(
図7の下段)。
【0206】
後部ぶどう膜炎のグレードによる評価(
図7の上段)は、全ての試験群の硝子体の注射後1ヶ月から硝子体内での細胞の持続的存在が開始することを示した(
図7の上段)。注射後5〜6ヶ月において、硝子体内のほとんどの細胞は古くなると思われる。
【0207】
硝子体内の細胞の定量及び分析は、中用量及び高用量群で行われ、炎症性反応の二波曲線を示した(
図7)。両方の群の全ての眼は、注射後1ヶ月の時点で第1波の硝子体炎症反応を示し、硝子体細胞の炎症反応のレベルは、両方のウィルスコンストラクト(SNCG−Catch及びCMV−Catch)の高用量群及びCMV−Catchコンストラクトの中用量群で高かった。注射後3〜4ヶ月後の時点における第2波炎症性硝子体細胞の反応は、同一のプロファイルで、低いレベルであった。
【0208】
スリットランプ及び倒像検眼鏡を用いた眼底の試験は、網膜、網膜血管、視神経乳頭及び脈絡膜で炎症のサインは見られなかった。
【0209】
上記炎症のサインは、遺伝子治療される眼の自然免疫反応をよく反映する。これを介する詳細な分析の目的は、遺伝子治療に対する炎症反応の動態を理解することである。5〜6ヶ月の観察期間を通した炎症反応の減少の観察は、視野に顕著な影響は無かった。
【0210】
(高用量群の一つの眼の病理組織学的試験は炎症性細胞を示さない)
注射後3ヶ月の高用量群においてわれわれが観察した1つの眼でのみ組織学的病変が見られた。眼全体を固定し、切断し、断面を40倍の分解能を有するnanozoomer技術を用いて観察した(
図8)。炎症を示す構造的変化(繊維柱帯網及び虹彩角膜角におけるリンパ球若しくはプラズマ細胞、硝子体における炎症性細胞、又は網膜における血管周囲リンパ球の存在)は無かった(
図8B〜F)。重要なことに、5×10
11vg用量群のこの動物(NHP3)は、注射後1〜2ヶ月における倒像検眼鏡による評価において、硝子体混濁及び細胞の可変レベルを示した(
図7)。3ヶ月において炎症細胞及び網膜のダメージがないことは、進行性の前眼房フレア又は硝子体混濁が網膜構造において永続的変化を引き起こさないこと、並びに網膜全体及び眼の前領域がダメージ又は炎症のサインを回避したことを示す。従って、SNCGプロモーター(配列番号1)の制御下での光遺伝子発現は、炎症反応を誘導しないことが明らかである。
【0211】
(NHPの中心窩周縁領域におけるCatChを発現するRGCの割合)
MEA記録後に、網膜フラットマウントを抗チャンネルロドプシン抗体(Busskamp et al. Science 2010;3(June):413-7)、抗Brn3a抗体及びGFP抗体(存在する場合)で染色した。NHP1からの組織を、緑色の抗GFP抗体及び赤色の抗Brn3a抗体で標識した(
図9B)。Brn3a及び抗チャンネルロドプシン抗体が同一種で生産されているため、CatChの局在を示す抗体と共に我々がRGC特異的マーカーであるBrn3aを用いることができたのは、網膜のみである。中心窩の中心から1mm未満におよぶ四角形の範囲のこの組織において、我々は中心窩の周囲の600μmの半径の半円内におけるBrn3a(+)及びCatch−GFP(+)細胞をカウントした。この領域において、約37%のBrn3a(+)細胞はGFP陽性であった(1413個のBrn3a陽性細胞中、523個のGFP陽性細胞)。NHP2から得られた組織において、我々は、一つの眼の半分において1351個のCatCh陽性細胞をカウントし、反対側の眼の中心窩の中心から600μmにわたる範囲において455個カウントした。高用量群の網膜の1つはMEA記録後に損傷し、免疫蛍光標識を用いることができなかった。これらの結果は、中心窩の周縁におけるRGC細胞の少なくとも4分の1が、5×10
11vgで注射した後にCatChで標識されたことを示す。
【0212】
(単一細胞のパッチクランプ記録が中心窩の周縁の個々のRGCにおいてCatCh作動性光電流を示す)
AAV2-SNCG-hCatCh-GFPが注射されたNHP1を注射の3ヵ月後に屠殺した。網膜を解剖し、GFP由来緑色蛍光が中心窩領域で最大であるため(
図9A)、中心窩領域をMEA及びパッチクランプ記録のために注意深く二等分した。この発現パターンは以前のNHP研究と一致していた(Dalkara et al. Sci Transl Med. 2013 Jun 12;5(189):189ra76; Yin etal. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2011 Apr 25;52(5):2775-83)。我々の試験の全てにおいて、NHPの網膜における内在性光反応を、浴用液中の50μMの代謝型グルタミン酸受容体アゴニストであるL−(+)−2−アミノ−4−ホスホノ酪酸(L−AP4)を用いて防止した。我々は、以前に、マウス(Nagel et al. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 2003;100(24):13940-5)及びヒト(Tomita et al. Mol Ther. 2014 Aug;22(8):1434-40)の網膜における野生型網膜の全てのON反応に対するL−AP4防止を検証している。
【0213】
単一細胞レベルにおいて、パッチクランプ記録は、AAV2-SNCG-hCatCh及びAAV2-SNCG-hCatCh-GFPの両方の条件(それぞれn=2細胞、n=3細胞)由来のRGCにおける470nmでの1.46×10
16photons/cm
2/sで光応答を証明した(
図10)。AAV2-SNCG-hCatChのRGCは、蛍光標識による補助なくパッチされなければならなかった。全ての反応細胞は、中心窩の中心の周りの乳頭(500〜600μm)で見られた(
図10A)。いくつかの場合において、細胞接触形態において記録された細胞は速く且つ強いスパイクパターンを示した(
図10B)。我々は、リドカインの存在下で−60mVの保持電位において、細胞全体の形態で定常電流が後に続く速い過渡電流からなる典型的なチャンネルロドプシン誘発光電流を観察した(
図10C)。その光電流は450nmでの刺激においてピークを示し、500nmまでで発生が維持され(
図10D)、それらは22Hzの光パルスが続くのに十分な速さであった(
図10E)。二光子レーザでスキャンされた場合、CatCh−GFP神経節細胞は、中心窩周縁領域で強い膜結合GFP標識を示した(
図10F〜G)。
【0214】
5×10
11又は1×10
12vg/doseのAAV2-CMV-hCatCh又はAAV2-SNCG-hCatChを注射されたサルを注射の6ヵ月後に屠殺した。単一細胞記録技術(細胞接触及びパッチクランプ記録)を用いて、我々は、低用量SNCG群で観察された例を含む
図10Hに示すように、全ての群からの光応答(光電流及びスパイク活動)を記録できた。
【0215】
(注射後6ヶ月におけるNHPの網膜でCatChを発現するRGCの単一細胞記録(細胞接触及びパッチクランプ))
我々は、光強度の関数として、反応性細胞の数(
図11A〜C)及び最大発火頻度(
図11D)又は光電流(
図11E、高用量のみ)に関して4つの群を比較した。我々は、両ウィルス用量において、AAV2-SNCG-hCatChを注射された動物由来の記録された中心窩周辺細胞が、AAV2-CMV-hCatChを注射された動物由来の記録された細胞よりも光応答する可能性が高いことを発見した。また、我々の結果は、SNCG応答性細胞群(両用量)がCMVプロモーターを含む群よりも光感受性が高い(発火活動が速い)ことを示した。
【0216】
(NHPの網膜のマルチ電極アレイ(MEA)記録により測定されたCatChを発現するRGCの機能性反応)
これらの光電流が個体群レベルでRGC活性をどのように制御しているか定義するために、網膜フラットマウントをマルチ電極アレイ(MEA)技術で記録した。
図12Bは、NHP1の左眼の単一ユニット記録からのラスタープロットを示す(高用量)。光反応は、網膜フラットマウントで見られる中心窩周辺のGFP発現と相関した(
図12A〜D)。5倍低い用量を注射した反対側の眼では反応は得られなかった。次に、我々は、GFPタグが付いていない高用量のAAV2-hCatChを注射された他の動物を屠殺した。高用量群から得られた4つの網膜の全ては、90%以下の光に反応する記録されたRGCを含むL−AP4での阻害下で同様の光反応を示した(
図12A)。同様に、光応答性細胞の分布は、AAV2-SNCG-hCatChベクターを含む場合でさえ中心窩領域が常に中心であった。これらの結果は、GFPタグがRGCにおける機能的CatCh発現を得るのに必要でないことを示す。発火頻度のスペクトル同調を算出し、480nmの光に対する最も高い周波数応答を示し、それはChR2の励起ピークに対応する。応答性細胞の発火率頻度は、10
17photons/cm
2/sで適用された最大光強度で最大に達する強度依存性であった(
図12D)。
【0217】
低用量群において、5つの記録した網膜のうち2つは、光遺伝学的光応答を示し、10%未満の記録されたRGCがそれらの網膜において光応答をした。他の網膜は、自発的なRGC活性を示したが、L−AP4存在下で光反応は無かった。これらの結果は、我々がCatChの発現を介するRGCの信頼できる光遺伝学的活性を期待できる閾値が10
11粒子であることを示す。
【0218】
注射後6ヶ月において、RGCのCatChの発現は、3ヶ月時点の反応に相当した。CatChを介した光応答は、試験した網膜の全てで観察された。光応答の間の放電周波数は、1.10
14から1.10
17photons.cm
−2.s
−1の範囲の強度において、AAV2-SNCG-hCatChベクターが感染された組織の方がAAV2-CMV-hCatChが感染された網膜と比較して高かった(
図12E)。光応答を起こす閾値は、SNCG網膜においてより低かった(それぞれ6.10
14及び8.10
15photons.cm
−2.s
−1)。SNCG組織において、全ての強度における放電周波数は、ウィルス粒子の用量に相関し、より高いウィルス用量を含む組織は最も強い反応を示した。これらの結果は、SNCGプロモーターがCMVプロモーターと比較してマカクの網膜神経細胞におけるCatCh発現の作動により有効であり、より暗い光レベルでより強い光応答が可能であることを全体的に示す。
【0219】
注射後6ヶ月において、RGCのCatChの発現は、3ヶ月時点の反応に相当した。CatChを介した光応答は、試験した網膜の全てで観察された。光応答の間の放電周波数は、1.10E14から1.10E17photons.cm
−2.s
−1の範囲の強度において、AAV2-SNCG-hCatChベクターが感染された組織の方がAAV2-CMV-hCatChが感染された網膜と比較して高かった。光応答を起こす閾値は、SNCG網膜においてより低かった(それぞれ6.10E14及び8.10E15photons.cm
−2.s
−1)。SNCG組織において、全ての強度における放電周波数は、ウィルス粒子の用量に相関し、より高いウィルス用量を含む組織は最も強い反応を示した。これらの結果は、SNCGプロモーターがCMVプロモーターと比較してマカクの網膜神経細胞におけるCatCh発現の作動により有効であり、より暗い光レベルでより強い光応答が可能であることを全体的に示す。
【0220】
[実施例7]
(配列番号1のプロモーター配列を用いた霊長類網膜における強いRGC特異的発現)
このベクターは、SNCGプロモーター(配列番号1)の制御下でChrimsonR-tdTomato(Klapoetke et al., NatMethods, 2014 Mar;11(3):338-46)のコード配列をカプシドで包み、網膜への導入を最適化されたAAVカプシド変異体であるAAV2−7m8(Dalkara et al., Sci Trans Med, 2013 Jun 12;5(189):189ra76)からなる。
【0221】
血清中に抗AAV2中和抗体力価が無いことに基づいて、4匹の非ヒト霊長類を選択した(Kotterman et al. Gene Ther. 2015 Feb;22(2):116-26)。それら4匹の成体マカクにSNCGプロモーター下でChrimsonR-tdTomatoをコードする5×10
11粒子のAAV2−7m8を硝子体内注射した(表2)。
【0222】
【表2】
表2:非ヒト霊長類への注射:動物番号、AAVベクター及び硝子体内注射したウィルス用量
【0223】
NHPにおいて、眼底の蛍光は2ヶ月間続いた。蛍光眼底画像では、CAGプロモーターを注射された眼に対して、SNCGプロモーターを注射された全ての眼の方がより強い蛍光を示した(
図13及び14)。末梢から広い範囲にわたるChrimsonR-tdTomato発現が、NHP2の右眼及び他の眼において明確に見えた。
【0224】
(NHPの網膜のマルチ電極アレイ(MEA)記録により測定されたChrimsonRを発現するRGCの機能性反応)
ChrimsonR-tdTomatoの選択的RGC標的化が霊長類における視覚機能を修復できることを証明するために、我々は、マルチ電極アレイ(MEA)を用いて網膜神経節細胞からのスパイク活動を記録した。MEA記録を注射の6ヶ月後に行った(
図15)。
【0225】
MCRackソフトウェア及び異なる記録電極における代表的活性を用いて、色分けされた反応画像を生成した。10ミリ秒の全視野フラッシュ(600+/−20nmで2×10
17photons.cm
2.sec
−1)を含む300ミリ秒の時間ウィンドウに存在するスパイクの数に基づいて頻度を算出した。スパイクは、200Hzハイパス二次バターワースフィルタで、また、20μVでフィルタリングされた信号が生じる閾値で検出された。同一のパラメーターが、異なる網膜の全てにおいて、全ての電極のために用いられる。MEA記録グリッドにおけるChrimsonR-tdTomato蛍光の画像は、ChrimsonRの発現が非特異的CAGプロモーターよりもSNCGプロモーター(配列番号1)での方がより広い領域で得られることを確認した。さらに、RGCにおけるスパイク活動は、CMVプロモーターよりもSNCGプロモーター(配列番号1)で広い領域において記録された。この試験は、CAGプロモーターよりもSNCGプロモーターの方がより大きい領域の光遺伝学活性を起こす証拠を提供する。
【0226】
全てのマカクの網膜を、単一細胞電気生理学的試験前に画像化した。試験期間の間、神経節細胞が上を向くように網膜片の半分を、36℃の酸素を含む(95%O
2/5%CO
2)Amesメディウムを含む顕微鏡の記録チャンバに置いた。落射蛍光イメージング又はライブ二光子イメージング(
図16)のために、td-tomato蛍光の取得は、それぞれtd-tomatoフィルタ及びCCDカメラ(Hamamatsu Corp., Bridgewater, NJ)を用いて、又は1030nmの波長での2光子レーザ励起を用いて行った。5倍及び40倍の倍率の対物レンズを用いた。さらに、これらの蛍光の観察は、CAGプロモーターよりもSNCGプロモーターによりChrimsonR-tdTomatoの広い発現を確認し、それらは、中心窩周辺の輪の外部の発現が蛍光スポット(
図15B)により示されるようにSNCGプロモーターを用いることにより得られることを示す。最後に、二光子顕微鏡下で、ChrimsonR-tdTomatoの局在は、SNCGプロモーターを含む細胞膜に制限されることを明らかにした(
図15D右欄)。