(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6966461
(24)【登録日】2021年10月25日
(45)【発行日】2021年11月17日
(54)【発明の名称】結晶化ガラス封着材
(51)【国際特許分類】
C03C 8/04 20060101AFI20211108BHJP
C03C 8/02 20060101ALI20211108BHJP
C03C 8/16 20060101ALI20211108BHJP
C03C 8/24 20060101ALI20211108BHJP
C03C 10/04 20060101ALI20211108BHJP
【FI】
C03C8/04
C03C8/02
C03C8/16
C03C8/24
C03C10/04
【請求項の数】13
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-543957(P2018-543957)
(86)(22)【出願日】2017年10月5日
(86)【国際出願番号】JP2017036230
(87)【国際公開番号】WO2018066635
(87)【国際公開日】20180412
【審査請求日】2020年9月18日
(31)【優先権主張番号】特願2016-198689(P2016-198689)
(32)【優先日】2016年10月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000178826
【氏名又は名称】日本山村硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104639
【弁理士】
【氏名又は名称】早坂 巧
(72)【発明者】
【氏名】前田 浩三
【審査官】
永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2015/046195(WO,A1)
【文献】
特開2013−220990(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/105519(WO,A1)
【文献】
Philippe COURTIAL et al.,"A partial molar volume for La2O3 in silicate melts",Journal of Non-Crystalline Solids,2006年01月06日,vol.352,pp.304-314
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C1/00−14/00
H01M8/0282
H01M8/12
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ホウ素と酸化バリウムの何れも実質的に含有せず,
SiO2 43〜53mol%,
CaO 12〜33mol%,
MgO 12〜33mol%,
La2O3 1〜7mol%,及び
ZnO 0〜4.5mol%
を含んでなるガラス組成物であって,
粉末の形態で900〜1150℃の温度にて焼成することにより50〜850℃における熱膨張係数80〜110×10−7/℃を示す結晶化ガラスを生じるものである,封着用ガラス組成物。
【請求項2】
酸化ホウ素と酸化バリウムの何れも実質的に含有せず,
SiO2 43〜53mol%,
CaO 12〜31mol%,
MgO 12〜31mol%,
La2O3 3〜5mol%,及び
ZnO 1〜4.5mol%,
を含んでなるガラス組成物であって,
粉末の形態で900〜1150℃の温度にて焼成することにより50〜850℃における熱膨張係数80〜110×10−7/℃を示す結晶化ガラスを生じるものである,請求項1の封着用ガラス組成物。
【請求項3】
酸化ホウ素と酸化バリウムの何れも実質的に含有せず,
SiO2 45〜50mol%,
CaO 12〜31mol%,
MgO 12〜31mol%,
La2O3 3〜5mol%,及び
ZnO 2.5〜4.5mol%,
を含んでなるガラス組成物であって,
粉末の形態で900〜1150℃の温度にて焼成することにより50〜850℃における熱膨張係数80〜110×10−7/℃を示す結晶化ガラスを生じるものである,請求項1又は2の封着用ガラス組成物。
【請求項4】
Al2O3を4mol%以下で更に含んでなる,請求項1〜3の何れかの封着用ガラス組成物。
【請求項5】
Y2O3,Yb2O3,及びCeO2からなる群より選ばれる1種又は2種以上を,それらの合計として2mol%以下で更に含んでなる,請求項1〜4の何れかの封着用ガラス組成物。
【請求項6】
TiO2及びZrO2からなる群より選ばれる1種又は2種を,それらの合計として2mol%以下で更に含んでなる,請求項1〜5の何れかの封着用ガラス組成物。
【請求項7】
粉末の形態である,請求項1〜6の何れかの封着用ガラス組成物。
【請求項8】
該粉末の平均粒径が2〜10μmである,請求項7の封着用ガラス組成物。
【請求項9】
セラミックフィラーを更に含むものである,請求項7又は8の封着用ガラス組成物。
【請求項10】
請求項7〜9の何れかの粉末の圧粉体からなる,封着用ガラス組成物。
【請求項11】
溶剤及び有機バインダーを含み,ペースト状又はシート状の形態である,請求項7〜9の何れかの封着用ガラス組成物。
【請求項12】
請求項7〜11の何れかの封着用ガラス組成物の焼成体でシールされている固体酸化物型燃料電池。
【請求項13】
粉末の形態で900〜1150℃の温度にて焼成することにより50〜850℃における熱膨張係数80〜110×10−7/℃を示す結晶化ガラスを生じるものである封着用ガラス組成物の製造方法であって,
酸化ホウ素と酸化バリウムの何れも実質的に含有せず,
SiO2 43〜53mol%,
CaO 12〜33mol%,
MgO 12〜33mol%
La2O3 1〜7mol%,及び
ZnO 0〜4.5mol%
となるように,原料を準備して調合し,加熱溶融し,冷却固化させる各ステップを含んでなる,製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,金属同士,セラミック同士あるいは金属とセラミックの封着又は接合等に適したガラス組成物に関し,より具体的には,例えば固体酸化物燃料電池(SOFC)の各セルとこれを取り付ける金属との間の接合や金属と金属の間をシールするためのシール材,あるいは排ガスセンサや温度センサのためのシール材等として用いられる,封着用ガラス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物型燃料電池(SOFC)用のシール材に求められる特性としては,長期に亘って600〜800℃の高温に曝されるため,長時間高温に曝されても変質,融解が起こらないことが条件であり,結晶化ガラスが提案されている。また,金属とセラミックとの封着のため,焼成過程でのガラスの流動性,及び接合した部材との熱膨張係数のマッチングも求められている。また,排ガスセンサのシール材としては,1000℃以上での高耐熱性が求められている。
【0003】
一方,これまで開発されてきたSOFCシール用結晶化ガラスには,流動性及び結晶化の観点からB
2O
3を含有するものが多いという現状がある(特許文献1,2)。しかしながら,B
2O
3を含む結晶化ガラスの場合,高温に保持されている間にB
2O
3の揮発が起こることが判明しており,固体酸化物燃料電池(SOFC)においては,揮発したB
2O
3による電極への汚染が問題となるため,揮発成分,特にB
2O
3を含まないシール材が望まれている。
【0004】
B
2O
3を含有しないガラスも開発されてきているが(特許文献3,4,5),それらはBaOを含有しているため,結晶化が不十分である,あるいは析出していた結晶相が高温の熱処理において融解するという問題がある。
【0005】
また上記特許文献3,4では,更にZnOを5mol%以上含有するため,熱膨張係数が高くならず,接着させる部材(金属,セラミック)の熱膨張係数よりも低くなる傾向が大きいという問題がある。
【0006】
また,自動車等のエンジンの排気系に取り付けられる温度センサの素子は,特性の変化を防ぐため,ガラス封止材によって封着されている。しかし,この場合にガラスが求められる特性としては高温環境下(例えば最高温度1050℃)においても変形しないこと,即ち1050℃での耐熱性が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2012−519149
【特許文献2】特開2013−203627
【特許文献3】特開2013−241323
【特許文献4】特開2014−156377
【特許文献5】特開2012−162445
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の背景において,本発明は,B
2O
3とBaOの何れも実質的に含有せず,900℃以上で焼成することで950℃以上の高温で使用できる結晶化ガラスとなる組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは,上記の課題を解決すべく研究を重ねた結果,SiO
2−CaO−MgO−La
2O
3系のガラス組成物が,ある特定の成分範囲に入るものである場合,このガラス組成物からなる粉末を900〜1150℃で焼成したとき,金属やセラミックに適合する80〜110×10
−7/℃(50〜850℃)の熱膨張係数を有する結晶化ガラスを形成できることを見出し,この知見に基づき更に検討を重ねて本発明を完成させるに至った。即ち,本発明は以下を提供する。
【0010】
1.酸化ホウ素と酸化バリウムの何れも実質的に含有せず,
SiO
2 43〜53mol%,
CaO 12〜33mol%,
MgO 12〜33mol%,
La
2O
3 1〜7mol%,及び
ZnO 0〜4.5mol%
を含んでなるガラス組成物であって,
粉末の形態で900〜1150℃の温度にて焼成することにより50〜850℃における熱膨張係数80〜110×10
−7/℃を示す結晶化ガラスを生じるものである,封着用ガラス組成物。
2.酸化ホウ素と酸化バリウムの何れも実質的に含有せず,
SiO
2 43〜53mol%,
CaO 12〜31mol%,
MgO 12〜31mol%,
La
2O
3 3〜5mol%,及び
ZnO 1〜4.5mol%,
を含んでなるガラス組成物であって,
粉末の形態で900〜1150℃の温度にて焼成することにより50〜850℃における熱膨張係数80〜110×10
−7/℃を示す結晶化ガラスを生じるものである,上記1の封着用ガラス組成物。
3.酸化ホウ素と酸化バリウムの何れも実質的に含有せず,
SiO
2 45〜50mol%,
CaO 12〜31mol%,
MgO 12〜31mol%,
La
2O
3 3〜5mol%,及び
ZnO 2.5〜4.5mol%,
を含んでなるガラス組成物であって,
粉末の形態で900〜1150℃の温度にて焼成することにより50〜850℃における熱膨張係数80〜110×10
−7/℃を示す結晶化ガラスを生じるものである,上記1又は2の封着用ガラス組成物。
4.Al
2O
3を4mol%以下で更に含んでなる,上記1〜3の何れかの封着用ガラス組成物。
5.Y
2O
3,Yb
2O
3,及びCeO
2からなる群より選ばれる1種又は2種以上を,それらの合計として2mol%以下で更に含んでなる,上記1〜4の何れかの封着用ガラス組成物。
6.TiO
2及びZrO
2からなる群より選ばれる1種又は2種を,それらの合計として2mol%以下で更に含んでなる,上記1〜5の何れかの封着用ガラス組成物。
7.粉末の形態である,上記1〜6の何れかの封着用ガラス組成物。
8.該粉末の平均粒径が2〜10μmである,上記7の封着用ガラス組成物。
9.セラミックフィラーを更に含むものである,上記7又は8の封着用ガラス組成物。
10.上記7〜9の何れかの粉末の圧粉体からなる,封着用ガラス組成物。
11.溶剤及び有機バインダーを含み,ペースト状又はシート状の形態である,上記7〜9の何れかの封着用ガラス組成物。
12.上記7〜11の何れかの封着用ガラス組成物の焼成体でシールされている固体酸化物型燃料電池。
13.粉末の形態で900〜1150℃の温度にて焼成することにより50〜850℃における熱膨張係数80〜110×10
−7/℃を示す結晶化ガラスを生じるものである封着用ガラス組成物の製造方法であって,
酸化ホウ素と酸化バリウムの何れも実質的に含有せず,
SiO
2 43〜53mol%,
CaO 12〜33mol%,
MgO 12〜33mol%
La
2O
3 1〜7mol%,及び
ZnO 0〜4.5mol%
となるように,原料を準備して調合し,加熱溶融し,冷却固化させる各ステップを含んでなる,製造方法。
【発明の効果】
【0011】
上記各構成になる本発明によれば,焼成により結晶化が起こる際,流動性があり,結晶化の完了により結晶化ガラスとなるという性質を備えたガラス組成物の粉末を,B
2O
3とBaOの何れも実質的に含まない形で提供することができる。従って,本発明の結晶化ガラス組成物は,高温で使用される金属とセラミック,金属同士,セラミック同士を封着する必要のある部位(例えば,固体酸化物型燃料電池や排気ガスセンサーのシール部)に,封着材として使用することができる。700〜1000℃という高温条件に長期間曝されても絶縁性が損なわれるおそれがなく,また,そのような高温での粘性低下のおそれもないため,シール部の封着材として用いれば,シール部の絶縁性やシール性の耐久性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の組成物は,粉末の形態で900〜1150℃の温度にて焼成することにより50〜850℃における熱膨張係数80〜110×10
−7/℃を示す結晶化ガラスを生じるものである封着用ガラス組成物であり,
酸化ホウ素と酸化バリウムの何れも実質的に含有せず,
SiO
2 43〜53mol%,
CaO 12〜33mol%,
MgO 12〜33mol%
La
2O
3 1〜7mol%,及び
ZnO 0〜4.5mol%
となるように,原料を準備して調合し,加熱溶融し,冷却固化させる各ステップを含んでなる製造方法により製造することができる。
【0013】
SiO
2はガラスの網目を形成する酸化物であり,本発明の組成物においては43〜53mol%の範囲で含有させることが好ましい。SiO
2の含有量が43mol%未満の場合,本発明の組成物ではガラスが得られないおそれがあり,また得られたとしてもガラスの形成性が悪いおそれがある。また含有量が53mol%を超える場合,結晶化温度が高くなり過ぎるおそれがあり,あるいは結晶化が十分に起こらず封着が不安定になるおそれがあることから,好ましくない。SiO
2の含有量は,ガラスの形成性,軟化点等を考慮すると,45〜50mol%であることがより好ましい。
【0014】
本発明の組成物において,CaOはガラス製造時の溶融温度を下げ,且つ融液の粘度を下げる成分であると共に,本発明のガラス組成物の焼成時に結晶化を起こさせる成分でもあり,12〜33mol%の範囲で含有させることが好ましい。CaOの含有量が12mol%未満の場合,本発明のガラス組成物の焼成時に結晶化が起こらない可能性があり,またガラスを製造するのに必要な溶融温度が高温側にシフトし,好ましくない。また含有量が33mol%を超える場合,本発明の組成物では,ガラスが得られないか,又は結晶化が起こる温度が下降し過ぎるため,好ましくない。CaOの含有量が上記範囲内であることは,ガラス組成物の焼成時の流動性,焼成により生じる結晶化ガラスの熱膨張係数等の諸特性との関係でも重要である。CaOの含有量は,ガラスの形成性,結晶化の温度その他の特性を本発明の目的に一層適したものにすることを考慮すると,12〜31mol%であることがより好ましく,本発明のガラス組成物の焼成時における流動性等の諸特性を一層向上させる等の点から14〜28mol%であることが更により好ましく,21〜28mol%であることが特に好ましい。
【0015】
本発明の組成物において,MgOはガラス製造時の溶融温度を下げ,且つ融液の粘度を下げる成分であると共に,本発明のガラス組成物の焼成時に結晶化を起こさせる成分でもあり,12〜33mol%の範囲で含有させることが好ましい。MgOの含有量が12mol%未満の場合,本発明のガラス組成物の焼成時に結晶化が起こらない可能性があり,またガラスを製造するのに必要な溶融温度が高温にシフトし,好ましくない。また含有量が33mol%を超える場合,本発明の組成物では,ガラスが得られないか,又は結晶化が起こる温度が下降し過ぎるため好ましくない。MgOの含有量が上記範囲内であることは,焼成により生じる結晶化ガラスの熱膨張係数等の諸特性との関係でも重要である。MgOの含有量は,ガラスの形成性,結晶化の温度その他の特性を本発明の目的に一層適したものにすることを考慮すると12〜31mol%であることがより好ましく,本発明のガラス組成物の焼成時における流動性等の諸特性を一層向上させる等の点から,14〜28mol%であることが更により好ましく,14〜20mol%であることが特に好ましい。
【0016】
また,CaOとMgOの合計含有量は,本発明の組成物の焼成時の流動性,結晶化後の熱膨張係数,ガラスの形成性等を総合に判断すると35〜54mol%であることが好ましく,35〜46mol%であることが更に好ましい。
【0017】
本発明の組成物において,La
2O
3は,封着時における組成物の流動性を上げる成分であると共に,結晶化開始温度を調整できる成分でもあり,1〜7mol%の範囲で含有させることが好ましい。La
2O
3の含有量が1mol%未満の場合,流動性が向上しない可能性があり,7mol%を超えると,ガラス製造時の溶融温度が高くなり過ぎる,あるいは融液中で溶け残りが起こるため,好ましくない。La
2O
3の含有量は,流動性および溶融性等を考慮すると3〜5mol%であることがより好ましい。
【0018】
本発明の組成物において,ZnOは,必須の成分ではないが,軟化点を下げ,封着時における組成物の流動性を上げる効果がある成分であるため,0〜4.5mol%の範囲で含有させることが好ましい。ZnOの含有量が4.5mol%を超える場合でもガラスは得られるが,ガラス組成物の焼成により生じる結晶化ガラスの膨張係数が十分に上がらないおそれがある。ZnOの含有量は,組成物の焼成時の流動性,軟化点,結晶化後の膨張係数を考慮すると1〜4.5mol%であることが好ましく,2.5〜4.5mol%であることがより好ましい。
【0019】
本発明の組成物において,Al
2O
3は,必須の成分ではないが,ガラスの形成性を向上させ,結晶化開始温度を調整するのに効果がある成分であるため,含有させても良い。含有させる場合,含有量は4mol%以下に止めることが好ましい。4mol%を超えると,熱膨張の高い結晶の析出を妨害するおそれがあるためである。
【0020】
本発明の組成物において,Y
2O
3,Yb
2O
3及びCeO
2は,必須の成分ではないが,接着力を保つために役立つ成分であり,何れか1種又は2種以上を含有させてよい。但し,合計含有量が2mol%を超えると,組成物の粉末形態での焼成において残存するガラス成分の割合が大きくなり過ぎ,好ましくない。このため,本発明の組成物にY
2O
3,Yb
2O
3及びCeO
2を含有させる場合も,それらの含有量は合計で2mol%以下に止めることが好ましい。
【0021】
本発明の組成物において,TiO
2及びZrO
2は,必須の成分ではないが,結晶析出を促し,またガラスの耐候性を向上させる成分であり,何れか一方のみ又は双方を含有させてよい。但し,TiO
2とZrO
2の合計含有量が2mol%を超えると,ガラス製造時に融液中で溶け残るおそれがあるか,あるいは組成物の粉末形態での焼成時における流動性が悪くなるため,それらは,含有させるとしても合計含有量を2mol%以下とすることが好ましい。
【0022】
上記成分に加えて,製造時におけるガラスの安定性の向上,金属との反応抑制,本発明のガラス組成物を用いて形成されるシール材と金属との接着性の改善,本発明の組成物の焼成中に析出する結晶の種類や比率を調整する目的で,Fe
2O
3,CuO,CoO,及びNiOの何れか1種又は2種以上を,合計2mol%以下で加えることができる。
【0023】
上記の各種成分を本発明の封着用ガラス組成物に含有させることができるのに対し,B
2O
3は,ガラスを製造する工程においてガラス状態を安定化させ易くする反面,これを含む組成物の焼成によりシールされたSOFCやセンサ等が高温で保持されている間に,シールからB
2O
3が揮発して電極を汚染するおそれがある。このため,本発明の封着用ガラス組成物は,B
2O
3を実質的に含有しないことが好ましい。
【0024】
Na
2OやK
2Oなどのアルカリ金属酸化物も,高温域においてはそれらと金属との反応が促進される傾向があることから,本発明の封着用ガラス組成物は,それらを実質的に含有しないことが好ましい。
【0025】
またCaO及びMgOを含有する本発明のガラス組成物は,BaOを含有していると,ガラス状態が安定化され易くなって結晶化温度が上昇し,結晶化が起こりにくくなり,ガラス組成物の焼成での結晶化が不十分となる傾向がある。このことから,本発明の封着用ガラス物は,BaOを実質的に含有しないことが好ましい。
【0026】
ここに,上記の成分について「実質的に含有しない」とは,本明細書において,それらの成分が不純物レベルで含有されるような場合までをも禁止するものではない。例えば,ガラスを製造する原材料等に単に不純物として含まれているレベルであれば,その含有は許容される。より具体的には,酸化ホウ素,アルカリ金属酸化物,及び酸化バリウムは,酸化物換算においてそれらの合計量が3000ppm以下であれば,本発明の封止用ガラス組成物に含有されても実質上問題になるおそれはなく,本発明において「実質的に含まない」に該当する。
【0027】
本発明のガラス組成物からなるガラス粉末は,封着に用いるとき,焼成中に一旦収縮し,軟化流動しながら金属,セラミックの表面を濡らすことが必要なため,焼成時の流動性が高いものである必要がある。このためには,粉砕条件により粒径を調整し,平均粒径を2〜10μm,最大粒径を150μm以下とすることが好ましい。ここに「平均粒径」とは,レーザー散乱式粒度分布計による,体積基準でのメジアン径(D
50値)をいう。
【0028】
ここで,粒子径が余り小さい微粉では結晶化の開始が早くなり過ぎ,封着材の焼成時における組成物の流れ性が低下して流動が阻害されるため,封止材の塗布・焼成の回数を増加させる必要が生じて製造コストの増加につながり,好ましくない。一方,粒子径が大きい粗粉では,粉末をペースト化する際,あるいは塗布,乾燥の際に,粉末粒子が沈降し分離するという問題と,結晶化が不均一,不十分となりやすく強度が低下するという問題がある。上述の微粉,粗粉を分級等の操作により取り除くことによって粒径を調整することができる。平均粒径は,好ましくは2μm以上,より好ましくは4μm以上であり,且つ,好ましくは25μm以下,より好ましくは15μm以下である。また最大粒径は,150μm以下,より好ましくは100μm以下である。
従って,例えば,平均粒径25μm,最大粒径150μm以下,平均粒径15μm,最大粒径100μm以下,平均粒径5μm,最大粒径100μm以下又は平均粒径3.0μm,最大粒径15μm以下等とすることができる。
【0029】
本発明の封着用ガラス組成物は,ガラス粉末の形で,或いはこれをセラミック粉末と混合した形で,セラミックと金属の封着に使用することができる。また,成形助剤と所望により混合後,乾式プレス成形を行って成形体(圧粉体)とし,これをガラスの軟化点付近の温度で仮焼成したものを前記ペーストと組み合わせることもできる。
【0030】
また,熱膨張の微調整及びガラスの結晶化を促進させ強度を向上させる目的で,該ガラス粉末にセラミックフィラー(セラミック粉末)を,焼成時の組成物の流れ性を低下させない程度に添加することができる。添加量は,全粉末の量に対し0.1wt%未満では効果がなく,10wt%を超えると封着焼成時に組成物の流れ性を低下させて流動を阻害するため,好ましくない。従って,0.1〜10wt%とするのが好ましく,0.5〜5wt%とすることがより好ましく,1〜3wt%以下とすることが更に好ましい。
【0031】
セラミックフィラーの例としては,アルミナ,ジルコニア好ましくは部分安定化ジルコニア,マグネシア,フォルステライト,ステアタイト,ワラストナイト,チタン酸バリウムが挙げられるが,これらに限定されない。フィラーの平均粒径は,好ましくは20μm以下,より好ましくは5μm以下,更に好ましくは3μm以下であり,かつ最大粒径は,106μm以下,より好ましくは45μm以下,更に好ましくは22μm以下である。
【0032】
本発明の封着用ガラス組成物は,粉末の形で又はこれとセラミック粉末との混合粉末の形で,封着に使用することができ,またこれらの粉末を,封止対象物の表面に適用するのに便利な形態,例えばペーストやシートの形態で使用することもできる。
【0033】
本発明の封着用ガラス組成物をペーストの形態で使用する場合は,溶剤及び有機バインダーの少なくとも1種と混合して調製すればよい。例えば,粉末形態の本発明のガラス組成物,溶剤及び有機バインダーを混合することによってペーストを調製することができる。ペーストの調製に際し,粉末の形態の封着用ガラス組成物の平均粒径は,特に限定されないが,通常は2〜25μmとするのが好ましく,5〜15μmとするのがより好ましい。
【0034】
前記有機バインダーとして何を用いるかについては特に制限されず,封着用ガラス組成物の具体的用途に応じて,公知のバインダーの中から適宜採用することができる。例えば,エチルセルロース等のセルロース樹脂が挙げられるが,これらに限定されない。
【0035】
前記溶剤としては,用いる有機バインダーに応じて適宜選択すればよく,例えばエタノール,メタノール,イソプロパノール等のアルコール類;テルピネオール(α−テルピネオール,又はα−テルピネオールを主成分としたβ−テルピネオール及びγ−テルピネオールとの混合物)等の有機溶剤が挙げられるが,これらに限定されない。なお溶剤は,単独で用いてもよく,2種以上を併用してもよい。
【0036】
ペーストの調製においては,上記以外にも,必要に応じて,例えば可塑剤,増粘剤,増感剤,界面活性剤,分散剤等の公知の添加剤を適宜配合することができる。
【0037】
本発明の封着用ガラス組成物はシートの形態としてもよい。このためには,例えば,溶剤,有機バインダー等を適宜選択して粉末形態の封着用ガラス組成物に添加,混合し,混合物を基材上に塗布し,塗膜を室温又は加熱下に乾燥させればよい。
【0038】
対象物の封着は,本発明の封着用ガラス組成物(粉末,混合粉末又はペースト,シート等の形態)を,印刷により又はディスペンサーによって対象物の表面に適用した後,900〜1150℃で焼成することで行うことができる。また,成形助剤を所望により配合した封着用ガラス組成物を乾式プレス成形し,得られた成形体(圧粉体)をガラスの軟化点付近の温度で仮焼成し,これを前記ペーストと組み合わせて対象物表面に適用して焼成することもできる。この場合,乾式プレス成形のための成形助剤としては,例えばポリビニルアルコールを用いることができるが,これらに限定されない。
【実施例】
【0039】
以下,典型的な実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが,本発明がこれらの実施例により限定されることは意図しない。
【0040】
〔ガラス及びガラス粉末の製造〕
実施例1〜36及び比較例1〜2:
表1〜7に示すガラス組成となるように原料を調合,混合し,調合原料を白金るつぼに入れて1400〜1500℃で2時間溶融後,急冷してガラスフレークを得た。ポットミルにこのガラスフレークを入れ,平均粒径が2〜10μmになるまで粉砕を行い,その後,目開きが106μmの篩にて粗粒を除去し,実施例及び比較例のガラス粉末とした。
【0041】
〔フィラーとの混合粉末の調製〕
実施例37〜38:
上記実施例1及び27のガラス粉末の各々と,フィラーとしてステアタイトを用いて,表8に示す混合比で,混合粉末をそれぞれ調製した。
【0042】
〔評価〕
実施例1〜36及び比較例1〜2の各ガラス粉末につき,下記の方法により軟化点,結晶化ピーク温度,平均粒径を測定し,またそれらを圧粉体とし,焼成して,フロー径と,焼成後の圧粉体の熱膨張係数を,それぞれ測定して評価した。また,実施例37〜38の各混合粉末についても,圧粉体のフロー径及び熱膨張係数を測定した。
【0043】
(1)軟化点(Ts)及び結晶化ピーク温度(Tp)
ガラス粉末約40mgを白金セルに充填し,DTA測定装置(Thermo Plus TG8120,リガク社製)を用いて,室温から20℃/分で1150℃まで昇温させて軟化点(Ts)及び結晶化ピーク温度(Tp)を測定した。結晶化ピークが2本以上検出された場合は低温側から,第1結晶化ピーク温度,第2結晶化ピーク温度,第3結晶化ピーク温度とした。結果は表1〜7に示す。
【0044】
(2)ガラス粉末の平均粒径(D
50)
実施例及び比較例の各粉末につき,レーザー散乱式粒度分布計を用いて,体積分布モードのD
50の値を求めた。結果は表1〜7に示す。
【0045】
(3)圧粉体のフロー径
実施例1〜36及び比較例1〜2の各ガラス粉末につき,5gを内径20mmの金型に入れ,3MPaで10秒プレス成形して圧粉体とした。各圧粉体を950℃で1時間焼成し,得られた焼成体の直径を測定し,フロー径(mm)とした。実施例1〜15,17〜25,27〜36については更に,各圧粉体を1150℃で1時間焼成して焼成体を得,それらのフロー径も併せて測定した。また,表8に示す実施例37〜38の各混合粉末についても,同様にして,950℃で1時間焼成して得られた焼成体のフロー径を求めた。結果は表1〜8に示す。
【0046】
(4)熱膨張係数
上記(3)で得られた各焼成体を約5mm×5mm×15mmのサイズに切り出して試験体を作製した。試験体につき,TMA測定装置を用いて,室温から10℃/分で昇温したときに得られる熱膨張曲線から,50℃と850℃の2点に基づく熱膨張係数(α)を求めた。結果を表1〜8に,「×10
−7/℃」表示で示す。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
【0051】
【表5】
【0052】
【表6】
【0053】
【表7】
【0054】
【表8】
【0055】
表1〜6に示すように,実施例1〜36の各ガラス組成物の各粉末の圧粉体は,それらを950℃で焼成して得られた焼成体の全てにおいて,50〜850℃で測定される熱膨張係数が80〜110×10
−7/℃の範囲内にあるのが認められる。また実施例1〜15,17〜25,27〜36について,1150℃で焼成して得た焼成体も同じ範囲内の熱膨張係数を示している。これに対し,比較例1〜2のガラス組成物の各粉末の圧粉体を950℃で焼成して得た焼成体の50〜850℃における熱膨張係数は,それぞれ57×10
−7/℃及び122×10
−7/℃と,共に上記範囲から大きく逸脱している。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のガラス組成物は,結晶化ガラスとなって金属同士,金属とセラミック,セラミック同士を封着できるため,固体酸化物型燃料電池(SOFC),温度センサ等,700〜1050℃のような高温に曝される環境で使用される装置用の封着材として好適に利用できる。