特許第6966465号(P6966465)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6966465組成物、水性コーティング組成物、及び水性コーティング組成物の凍結/融解安定性を改善する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6966465
(24)【登録日】2021年10月25日
(45)【発行日】2021年11月17日
(54)【発明の名称】組成物、水性コーティング組成物、及び水性コーティング組成物の凍結/融解安定性を改善する方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20211108BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20211108BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20211108BHJP
【FI】
   C09D201/00
   C09D133/00
   C09D7/63
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-549950(P2018-549950)
(86)(22)【出願日】2017年3月21日
(65)【公表番号】特表2019-516814(P2019-516814A)
(43)【公表日】2019年6月20日
(86)【国際出願番号】US2017023382
(87)【国際公開番号】WO2017172411
(87)【国際公開日】20171005
【審査請求日】2020年3月6日
(31)【優先権主張番号】62/313,984
(32)【優先日】2016年3月28日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100147212
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 直樹
(72)【発明者】
【氏名】クラリベル・アセベイド・ベレス
(72)【発明者】
【氏名】スダカール・バリジェパリ
(72)【発明者】
【氏名】レベッカ・ジェイ・ワスコウィツェ
【審査官】 桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第94/004259(WO,A3)
【文献】 特公昭49−005611(JP,B1)
【文献】 米国特許第05017221(US,A)
【文献】 特開平11−263936(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 201/00
C09D 133/00
C09D 7/63
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性ポリマー分散体を含む水性コーティング組成物の凍結/融解安定性を改善する方法であって、式1の化合物を前記水性コーティング組成物に添加することを含み、
【化1】
式中、n=3〜10であり、および、
前記水性コーティング組成物に少なくとも1つの合体剤を添加することをさらに含み、前記合体剤は、式2の化合物を含むか
【化2】
あるいは前記合体剤が、プロピレングリコールフェニルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、ジプロピレングリコールn−ブチルエーテル、エチレングリコールn−ブチルエーテルベンゾエート、トリプロピレングリコールn−ブチルエーテル、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、トリエチレングリコールビス−2−エチルヘキサノエート、及びトリブチルシトレートのうちの少なくとも1つを含む、方法。
【請求項2】
前記ポリマー分散体の固形分の重量に基づいて、5〜10重量%の式1の化合物が添加される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水性ポリマー分散体はアクリルポリマーを含む、請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つの合体剤と水性ポリマー分散体式1の化合物を含む水性コーティング組成物であって、
【化3】
式中、n=3〜10であり、前記コーティング組成物は、前記ポリマー分散体の固形分の重量に基づいて、5〜10重量%の式1の化合物を含み、
前記合体剤は、式2の化合物を含むか、
【化4】
あるいは前記合体剤は、プロピレングリコールフェニルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、ジプロピレングリコールn−ブチルエーテル、エチレングリコールn−ブチルエーテルベンゾエート、トリプロピレングリコールn−ブチルエーテル、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、トリエチレングリコールビス−2−エチルヘキサノエート、及びトリブチルシトレートのうちの少なくとも1つを含む、コーティング組成物。
【請求項5】
n=5〜10である、請求項に記載のコーティング組成物。
【請求項6】
前記水性ポリマー分散体はアクリルポリマーを含む、請求項のいずれかに記載のコーティング組成物。
【請求項7】
式1の化合物
【化5】
(式中、n=3〜10である)と、
式2の化合物
【化6】
と、を含む組成物であって、前記組成物が30重量%〜70重量%の式1の化合物と30重量%〜70重量%の式2の化合物とを含む、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物及び水性コーティング組成物、ならびに水性コーティング組成物の凍結/融解安定性を改善する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料及びコーティングの製造業者は、揮発性有機化合物(VOC)の使用を制限する環境規制に対応して、揮発性溶剤及び合体剤の使用を必要としない新しいラテックスバインダーを開発している。塗料またはコーティング配合物から溶剤を除去する際の主な課題の1つは、配合物の凍結融解安定性に関連する。
【0003】
塗料及びコーティングは、しばしば、温度制御を欠くことにより貯蔵及び出荷中に凍結及び融解サイクルを受ける。このような条件下では、ラテックス樹脂粒子のコロイド安定性が損なわれ、配合物の粘度の劇的な変化による塗料またはコーティングの粘稠度に変化をもたらす可能性がある。これは多くの場合、塗料またはコーティングを使用不能にする可能性がある。
【0004】
グリコールなどの溶剤は、凍結融解安定性の問題から塗料及びコーティングを保護するために歴史的に使用されてきた。しかしながら、グリコール溶剤は、典型的には、高レベルのVOCを有する。
【0005】
塗料及び他のコーティングの凍結融解安定性を改善するが、VOCのレベルを低下させるための新規添加剤を有することが望ましいであろう。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、塗料/コーティングの凍結融解安定性を改善することができる塗料及び他のコーティングのための添加剤を提供する。いくつかの実施形態では、そのような添加剤は、塗料/コーティングに良好な合体及び凍結融解保護を提供することができる。いくつかの実施形態では、このような添加剤は、低〜ほぼゼロのVOC含有量を有する。
【0007】
一態様では、本発明は、水性ポリマー分散体を含む水性コーティング組成物の凍結/融解安定性を改善する方法であって、式1の化合物を水性コーティング組成物に添加することを含む方法を提供し、
【0008】
【化1】
【0009】
式中、n=3〜10である。水性コーティング組成物は、いくつかの実施形態において、塗料またはコーティングであり得る。
【0010】
別の態様では、本発明は、水性ポリマー分散体及び式1の化合物を含む水性コーティング組成物、例えば塗料を提供し、
【0011】
【化2】
【0012】
式中、n=3〜10であり、コーティング組成物は、ポリマー分散体固形分の重量に基づいて、5〜10重量%の式1を含む。
【0013】
別の態様では、本発明は、式1の化合物
【0014】
【化3】
【0015】
(式中、n=3〜10である)と、
式2の化合物、
【0016】
【化4】
【0017】
と、を含む組成物を提供し、
組成物は、30重量%〜70重量%の式1及び30重量%〜70重量%の式2を含む。
【0018】
これら及び他の実施形態は、詳細な説明でより詳細に説明される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書で使用される場合、「a」、「an」、「the」、「少なくとも1つ」、及び「1つ以上」は互換的に使用される。用語「含む(comprise)」、「含む(include)」、及びそれらの変形は、これらの用語が明細書及び特許請求の範囲に現れる場合に限定的な意味を有さない。したがって、例えば、「a」疎水性ポリマーの粒子を含む水性組成物は、組成物が「1つ以上の」疎水性ポリマーの粒子を含むことを意味すると解釈することができる。
【0020】
また、本明細書において、端点による数値範囲の列挙は、その範囲に包含される全ての数を含む(例えば、1〜5は1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5などを含む)。本発明の目的のために、数値範囲は、その範囲に含まれる可能性のある全ての部分範囲を含み、サポートすることを意図すると当業者が理解することと一致して理解されるべきである。例えば、1〜100の範囲は、1.01〜100、1〜99.99まで、1.01〜99.99まで、40〜60まで、1〜55までなどを伝達することを意図している。また、本明細書では、数値範囲及び/または数値の列挙は、特許請求の範囲におけるそのような記載を含めて、「約」という用語を含むように読むことができる。このような場合、「約」という用語は、本明細書に記載されているものと実質的に同じ数値範囲及び/または数値を指す。
【0021】
本発明のいくつかの実施形態は、水性ポリマー分散体を含む水性コーティング組成物、例えば塗料またはコーティングの、凍結/融解安定性を改善する方法に関する。いくつかの実施形態では、この方法は、式1の化合物を水性コーティング組成物に添加することを含み、
【0022】
【化5】
【0023】
式中、n=3〜10である。いくつかの実施形態では、n=5〜10であり、他の実施形態ではn=6〜8であり、さらに他の実施形態ではn=8である。
【0024】
いくつかの実施形態では、ポリマー分散体固形分の重量に基づいて、5〜10重量%の式1が水性コーティング組成物に添加される。いくつかの実施形態では、ポリマー分散体固形分の重量に基づいて、6〜8重量%の式1が水性コーティング組成物に添加される。
【0025】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、水性コーティング組成物に少なくとも1つの合体剤を添加することをさらに含む。このような合体剤は、いくつかの実施形態では、式2の化合物を含む。
【0026】
【化6】
【0027】
いくつかの実施形態では、ポリマー分散体固形分の重量に基づいて、2〜12重量%の式2が水性コーティング組成物に添加される。いくつかの実施形態において、合体剤は、プロピレングリコールフェニルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、ジプロピレングリコールn−ブチルエーテル、エチレングリコールn−ブチルエーテルベンゾエート、トリプロピレングリコールn−ブチルエーテル、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、トリエチレングリコールビス−2−エチルヘキサノエートのうちの少なくとも1つを含む。
【0028】
いくつかの実施形態では、水性ポリマー分散体はアクリルポリマーを含む。
【0029】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、1つ以上のポリアルコキシレートを水性コーティング組成物に添加することをさらに含む。
【0030】
本発明のいくつかの実施形態は、水性コーティング組成物、例えば塗料または他のコーティングに関する。いくつかの実施形態では、水性コーティング組成物は、水性ポリマー分散体及び式1の化合物を含み、
【0031】
【化7】
【0032】
式中、n=3〜10であり、コーティング組成物は、ポリマー分散体固形分の重量に基づいて、5〜10重量%の式1を含む。いくつかの実施形態では、n=5〜10であり、他の実施形態ではn=6〜8であり、さらに他の実施形態ではn=8である。いくつかの実施形態では、ポリマー分散体固形分の重量に基づいて、式1の6〜8重量%が水性コーティング組成物に添加される。いくつかの実施形態では、水性ポリマー分散体はアクリルポリマーを含む。
【0033】
いくつかの実施形態では、本発明の水性コーティング組成物は、少なくとも1つの合体剤をさらに含む。このような合体剤は、いくつかの実施形態では、式2の化合物を含む。
【0034】
【化8】
【0035】
いくつかの実施形態では、本発明の水性コーティング組成物は、ポリマー分散体固形分の重量に基づいて、2〜12重量%の式2を含む。いくつかの実施形態において、合体剤は、プロピレングリコールフェニルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、ジプロピレングリコールn−ブチルエーテル、エチレングリコールn−ブチルエーテルベンゾエート、トリプロピレングリコールn−ブチルエーテル、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、トリエチレングリコールビス−2−エチルヘキサノエートのうちの少なくとも1つを含む。
【0036】
いくつかの実施形態では、本発明の水性コーティング組成物は、1つ以上のポリアルコキシレートをさらに含む。
【0037】
本発明のいくつかの実施形態は、
式1の化合物
【0038】
【化9】
【0039】
(式中、n=3〜10である)と、
式2の化合物
【0040】
【化10】
【0041】
と、を含み、
30重量%〜70重量%の式1及び30重量%〜70重量%の式2を含む組成物に関する。いくつかの実施形態では、n=5〜10であり、他の実施形態ではn=6〜8であり、さらに他の実施形態ではn=8である。このような組成物は、いくつかの実施形態では、水性コーティング組成物、例えば塗料または他のコーティングに添加剤として提供することができる。
【0042】
本発明の様々な実施形態で使用される式1の化合物は、アルコールとエチレンオキシドとを反応させることによって得ることができる。好ましいポリエトキシル化アルコールは、触媒(例えば、BFエーテラート、ジメチルシアニド、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムなどのアルカリ金属または他のもの)の存在下で当業者に既知の技術を使用して、所望のアルコールをエチレンオキシドと反応させることによって調製される。例えば、ポリエトキシ化2,6,8−トリメチル−4−ノナノールは、触媒の存在下で2,6,8−トリメチル−4−ノナノールをエチレンオキシドと反応させることにより調製される。当業者に公知のいくつかの合成方法のいずれかを使用して、前述のポリエトキシル化2,6,8−トリメチル−4−ノナノールを調製することができる。合成によってポリエトキシル化アルコール同族体の分布が得られるので、アルコールとエチレンオキシドの相対量を選択して、同族体の所望の分布を得ることができる。例えば、エチレンオキシド対アルコールの比は、nが主に3〜10の間であり、及び/または平均n値は5〜6である、式1の化合物の分布を提供するように選択することができる。前述の方法のいずれかによって得られたポリエトキシル化アルコールは、当業者に公知の方法、例えば低圧ストリッピングによって精製することができる。
【0043】
この反応は、バッチ方式または連続方式で行うことができる。上記のように、反応を促進するために触媒を使用することができる。反応混合物が実質的に触媒を含まないように触媒を反応混合物から除去することが可能であり、本発明の一実施態様では、触媒を反応混合物から除去する。例えば、触媒は、適切な試薬による中和によって反応プロセスから除去することができる。
【0044】
いくつかの実施形態で使用することができる式3のポリエトキシル化2,6,8−トリメチル−4−ノナノンルの一例は、The Dow Chemical Companyから市販されているTERGITOL(商標)TMN6である。TERGITOL(商標)TMN6は、平均n=5〜6を有する式1のポリエトキシル化ノナノールのブレンドを含む。
【0045】
一態様では、本発明の方法による水性コーティング組成物の凍結/融解安定性を改善するために、式1の化合物を水性コーティング組成物に添加することができる。塗料は、そのような水性コーティング組成物の一例である。
【0046】
本発明の1つの態様では、水性ポリマー分散体と、ポリマー分散体固形分の重量に基づいて5〜10重量%の本明細書に記載の式1の化合物と、を含む水性コーティング組成物が提供される。いくつかの実施形態では、水性コーティング組成物は、ポリマー分散体固形分の重量に基づいて、本明細書に記載の式1の化合物を6〜8重量%含む。
【0047】
水性コーティング組成物は、いくつかの実施形態において、1つ以上の合体剤をさらに含むことができる。「合体剤(coalescent)」は、水性ポリマー分散体、特に、例えば乳化重合技術によって調製されたポリマーのような水性媒体中のポリマーの分散体を含む水性コーティング組成物の塗膜形成を促進する成分を意味する。
【0048】
いくつかの実施形態では、本発明の水性コーティング組成物は、水性ポリマー分散体固形分の重量に基づいて2〜12重量%の合体剤を含む。いくつかの実施形態では、本発明の水性コーティング組成物は、水性ポリマー分散体固形分の重量に基づいて、6〜8重量%の合体剤を含む。
【0049】
合体剤は、いくつかの実施形態では、式2の化合物を含む。
【0050】
【化11】
【0051】
式2のような化合物は、米国特許公開第2012/0258249号に開示されているように調製することができ、これは参照により本明細書に組み入れられる。米国特許公報第2012/0258249号に開示されている他のグリコールエーテルエステル化合物も、いくつかの実施形態の合体剤として使用することができる。
【0052】
いくつかの実施形態において、合体剤は、プロピレングリコールフェニルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、ジプロピレングリコールn−ブチルエーテル、エチレングリコールn−ブチルエーテルベンゾエート、トリプロピレングリコールn−ブチルエーテル、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブブチレート、トリエチレングリコールビス−2−エチルヘキサノエート、トリブチルシトレート、及び/または式2の化合物のうちの少なくとも1つを含む。そのような合体剤はThe Dow Chemical Company(例えば、UCAR(商標)Filmer IBT)、Eastman Chemical Company(例えば、Eastman Optifilm Enhancer 400)などから市販されている。
【0053】
いくつかの実施形態では、本発明の水性コーティング組成物は、1つ以上のポリアルコキシレートをさらに含む。本発明の水性コーティング組成物において、そのようなポリアルコキシレートは、コーティング組成物をより長く湿ったままにする(すなわち、乾燥時間を延長する)ことができる。一つ以上のポリアルコキシレートは、式I−[AOH]で表すことができ、式中、Iは、化合物を含む有機活性水素であり、AOは、エチレンオキシド(EO)、またはプロピレンオキシド(PO)及び/またはブチレンオキシド(BO)をランダムな順序で、またはブロック、好ましくはEOのうちの少なくとも1つのブロックを有するオリゴマーと組み合わせたEO、を含むアルキレンオキシドであり、nはAO基の総数であり、fはI中の活性水素基の総数であり、2〜15、好ましくは3〜10、より好ましくは3〜8の範囲である。
【0054】
本発明のポリアルコキシレートを製造するのに適した活性水素化合物Iは、ジオール、例えばグリコール、2個のヒドロキシル基を有するフェノール例えばクレゾール;ジエタノールアミンのような二官能性アミノアルコール;3個以上のヒドロキシル基を有するポリオール例えばグリセロール、ペンタエリスリトール、ソルビトールのような糖アルコール、キシリトールまたはマンニトール;ジアミン例えばエチレンジアミン;トリアミン例えばジエチレントリアミン;ポリアミン例えばポリリジンまたはポリエチレンイミン;2〜15個、好ましくは2〜8個、または好ましくは3個以上のヒドロキシル基を有するフェノール樹脂例えばヒドロキシル官能性フェノールホルムアルデヒド樹脂;グリシジルエーテルとポリオールとのエポキシ付加物;グリシジルエーテルとジアミンまたはポリアミンとのエポキシ付加物、例えばジ二級ジアミン(disecondary diamine)から選択することができる。好ましくは、活性水素化合物は3個以上のヒドロキシル基を有するポリオール、二官能性アミノアルコール、ジアミン、トリアミン、ポリアミン及び3〜8個のヒドロキシル基を有するフェノール樹脂である。
【0055】
1つ以上のポリアルコキシレートのエチレンオキシド(EO)含量は、ポリアルコキシレート中の固形分の全重量に基づいて、だいたい20〜70重量%、好ましくは20〜50重量%であってよい。EO含量は、ポリアルコキシレートを水分散可能にするのに十分に大きくなければならず、それはまた、ポリアルコキシレートがバインダーと相溶するのに十分小さい程度に十分に低くなければならない。
【0056】
1つ以上のポリアルコキシレートの数平均分子量またはMnは、800〜10,000、好ましくは5,000以下の範囲であり得る。Mnが大きすぎると、ゲル化及び/または凝集またはポリアルコキシレートを含有する水性組成物が生じる。好ましくは、1つ以上のポリアルコキシレートのMnは、800〜5000の範囲である。
【0057】
ポリアルコキシレートの例には、例えば、ジエトキシル化プロピレングリコール、トリエトキシル化グリセリン、ペンタエトキシル化トリエチレンペンタミン、エトキシル化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、C〜C18アルキ(ケニ)ルアミン(ポリ)アルコキシレート例えばエトキシル化コカミンまたは獣脂アミン、C〜C18アルキ(ケニ)ルジアミン(ポリ)アルコキシレート例えばエトキシル化獣脂アミノプロピルアミン、C〜C18アルキ(ケニ)ルアミン(ポリ)アルコキシレート例えばNINOL(商標)40−COコカミドDEA (Stepan Company、ノースフィールド、イリノイ)、Ethomeen(商標)C/12またはEthomeen(商標)C/15としてAkzo Nobel Chemicals Inc.、アムステルダム、オランダから入手可能なエトキシル化コカアミン、及びヒマシ油エトキシレートまたはプロポキシレートを含むことができる。
【0058】
1つ以上のポリアルコキシレートは、活性水素化合物をエチレンオキシドと、またはエチレンオキシドならびにプロピレンオキシド及び/またはブチレンオキシドの組み合わせと反応させることにより従来の方法で製造することができる。
【0059】
1つ以上のポリアルコキシレートを製造するための活性水素化合物とエチレンオキシドとの反応は、加圧反応器またはオートクレーブ中、50〜200℃、または好ましくは90〜150℃で、100〜2000kPaの圧力で行われ得る。ナトリウムメタノラート、NaOHまたはKOHのようなアルカリ金属水酸化物のような塩基性触媒を使用することができる。
【0060】
以下に記載するように、式1の化合物及び1つ以上の合体剤は、水性コーティング組成物の一部として提供することができる。しかし、いくつかの実施形態では、n=3〜10(または5〜10、または6〜8、または8)である、式1の化合物と1つ以上の合体剤を含む組成物を組成物として調製することができ、組成物は第三者に提供することができる。そのような第三者は、例えば、式1の化合物と合体剤を含む組成物をそれらのコーティング組成物に組み込むことができる水性コーティング組成物の製造者であってもよい。したがって、本発明のいくつかの実施形態は、n=3〜10(または5〜10または6〜8または8)である式1の化合物と式2の化合物とを含む組成物であって、組成物が30〜70重量%の式1と、30〜70重量%の式2を含む、この組成物に関するものである。
【0061】
本発明の水性コーティング組成物に含めることができる水性ポリマー分散体に関して、水性ポリマー分散体は、水性媒体中のポリマー、オリゴマー、プレポリマーまたはそれらの組み合わせを含む分散体であってもよい。いくつかの実施形態において、水性ポリマー分散体は、水の蒸発の際に塗膜を形成し、反応性ではない。「水性媒体」は、本明細書では、媒体の重量に基づいて少なくとも50重量%の水を含む媒体を意味する。水性ポリマー分散体中のポリマー、オリゴマー、プレポリマー、または組み合わせは、しばしばバインダーと呼ばれる。バインダーの選択は特に重要ではなく、バインダーは、例えば、スチレン−アクリル、全てのアクリル、ビニルアクリル、及び酢酸ビニルポリマーバインダー、及びこれら及び他の化学物質のハイブリッドを含む、当技術分野で公知の全てのタイプのバインダーから選択することができる。本発明の一実施形態では、バインダーは、内壁塗料に使用するのに好適なバインダーである。
【0062】
分散体中のポリマー粒子の平均粒径は特に重要ではなく、有利には40nm〜1000nm、好ましくは40nm〜300nmである。本明細書における粒径は、Brookhaven BI−90 Plus粒度分析計における動的光散乱によって測定されるものである。
【0063】
いくつかの実施形態において、本発明は、(a)ポリマーバインダー、(b)任意に、顔料、(c)水、(d)上記の式1の化合物、(e)上記のうちの少なくとも1つの合体剤を含む水性コーティング組成物を含む。このコーティング組成物は、例えば壁用塗料、床用コーティング、天井用塗料、窓枠用コーティングなどの用途に使用することができる。
【0064】
本発明の水性コーティング組成物は、コーティング業界で周知の技術によって調製することができる。最初に、もしあれば、顔料(複数可)は、COWLES(商標)ミキサーによって与えられるような高剪断下で水性媒体中に良好に分散されるか、または予め分散された着色剤(複数可)、またはそれらの混合物が使用される。次いで、水性ポリマー分散体を、上記の式1の化合物、少なくとも1つの合体剤、及び所望の他のコーティングアジュバントと共に低剪断撹拌下で添加する。水性コーティング組成物は、水性ポリマー分散体及び任意の顔料に加えて、例えば増量剤、乳化剤、可塑剤、硬化剤、緩衝剤、中和剤、レオロジー調整剤、湿潤剤、殺生物剤、消泡剤、UV吸収剤、蛍光増白剤、光及び/または熱安定剤、殺生物剤、キレート剤、分散剤、着色剤、ワックス及び撥水剤などの従来のコーティングアジュバントを含むことができる。
【0065】
顔料は、例えば、有機及び無機着色顔料を含む、コーティングの分野の当業者に知られている広範囲の材料から選択することができる。好適な顔料及び増量剤の例には、アナターゼ及びルチル型二酸化チタンのような二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、酸化鉄、ケイ酸マグネシウム、炭酸カルシウム、アルミノケイ酸塩、シリカ、カオリン及び剥離粘土のような各種粘土及び酸化鉛を含む。また、水性コーティング組成物は、例えばROPAQUE(商標)Opaque Polymers(The Dow Chemical Companyから入手可能)のような不透明ポリマー粒子を含んでもよいことも企図される。また、カプセル化されたまたは部分的にカプセル化された不透明化顔料粒子、例えばEVOQUE(商標)ポリマー(The Dow Chemical Companyから入手可能)などの二酸化チタンなどの顔料の表面に吸着または結合するポリマーまたはポリマーエマルジョン、及び1つ以上の空隙を有する顔料を含む中空顔料、も企図される。
【0066】
二酸化チタンは、建築用塗料の隠蔽を達成するために使用される主な顔料である。この顔料は高価であり、不足している。TiOの量を減少させながら隠蔽を達成する1つの方法は、塗膜に不透明性を加える「不透明ポリマー」として一般に知られている多段エマルションポリマーを含めることである。これらのポリマーは、主要なモノマーとしてスチレンを用いて重合された粒子のような、高いTを有する水充填エマルションポリマー粒子である。これらの粒子は、塗膜形成中に空気で満たされ、光を散乱させ、それによって不透明性を生じさせる。
【0067】
水性コーティング組成物中の顔料及び増量剤の量は、0〜85の顔料体積濃度(PVC)から変化し、それにより、当技術分野で他に記載されているコーティング、例えば、透明コーティング、着色剤、艶消しコーティング、サテンコート用コーティング、半艶消しコーティング、艶コーティング、プライマー、テクスチャードコーティング、として包含される。本明細書における水性コーティング組成物は、建築用、保守用、及び工業用コーティング、コーキング材、シーラント、及び接着剤を明示的に含む。顔料体積濃度は、以下の式により算出される。
PVC(%)=(顔料の体積、+増量剤体積×100)/(塗料の総乾燥体積)。
【0068】
水性コーティング組成物の固形分は、10体積%〜70体積%であってもよい。水性コーティング組成物の粘度は、ブルックフィールド粘度計を用いて測定して50センチポアズから50,000センチポアズであることができ、様々な塗布方法に適した粘度は、当業者に知られているようにかなり変化する。
【0069】
使用に際して、水性コーティング組成物は、典型的には、例えば、木材、金属、プラスチック、海洋及び土木工学用基材、予め塗装されたまたは下塗りされた表面、風化した表面、及び例えばコンクリート、スタッコ、及びモルタルなどのセメント系基材などの基材に適用される。水性コーティング組成物は、例えば、ブラシ、ローラー、コーキング塗布器、ロール塗布、グラビアロール、カーテンコーター、及び噴霧法例えば、空気噴霧スプレー、エアアシストスプレー、エアレススプレー、大容量低圧スプレー、エアアシストエアレススプレーのような、従来の塗布方法を用いて、基材に塗布できる。
【0070】
塗膜を提供するための水性コーティング組成物の乾燥は、例えば5℃〜35℃のような周囲条件下で進行させることができ、または塗膜は、例えば、35℃超〜50℃のような高温で乾燥させることができる。
【0071】
ここで、本発明のいくつかの実施形態を、以下の実施例において詳細に記載する。
【実施例】
【0072】
以下の実施例は、本発明を説明するために示され、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。全ての部及びパーセンテージは、他に指示がない限り重量による。
【0073】
実施例1
水性ポリマー分散体のポリマー含有量に基づいて34重量%の固形分及び8重量%の合体剤レベルを含有する2ガロンのベース塗料配合物のバッチを表1に記載のように調製する:
【0074】
【表1】
【0075】
これらの成分を、下記の表1に示す順序で混合容器に添加し、インペラーを取り付けた可変速ミキサーで攪拌する。配合物の粉砕部分(添加順序:Ti−Pure R−746スラリー、水、TAMOL(商標)165A及びTRITON(商標)GR−7M)を容器に加え、混合物を5分間撹拌する。各成分は、最初に天秤上の別の容器に計量され、次いで混合容器に注がれる。レットダウン部分は、DrewPlus(商標)475、続いてRHOPLEX(商標)SG10AFの順序で容器に加えられる。100〜105 KUの目標粘度に応じてバッチを調整するために、レオロジー調整剤を加えて粘度(Krebs単位またはKUで測定)を測定するので、水、ACRYSOL(商標)RM−2020 NPR及びACRYSOL(商標)RM−8Wを表3に従って加える。
【0076】
次いで、このベース塗料配合物、凍結融解添加剤、及び表2に示す合体剤を使用して、様々な実施例を調製する。
【0077】
【表2】
【0078】
表2に示す実施例は、特定の凍結融解添加剤及び合体剤を表1のベース塗料配合物の500グラムの試料に添加することによって調製される。表3は、6%の凍結融解添加剤を含む実施例及び8%の凍結融解添加剤を有する実施例のベース塗料配合物に後添加される量を示す。合体剤及び凍結融解添加剤を添加した後、製剤に必要な量を完成させるために水も添加する。
【0079】
【表3】
【0080】
合体剤及び凍結融解添加剤を含有する塗料配合物を凍結及び融解の5サイクルに付す。試料を−23℃で一晩インキュベートし、次いで約8時間で融解させる。試料を100回撹拌して舌圧子を用いて手で剪断し、粘度(KU)を測定する。この試験の結果を表4に示す。
【0081】
【表4】
【0082】
プロピレングリコールを含有する塗料配合物(比較組成物A)は最初の凍結及び融解サイクル後、測定できなかった粘度>150KUで、試験に合格しなかった。対照的に、式1の化合物を用いて調製された製剤は、粘度のわずかな増加のみで5回の凍結−融解サイクルを完全に通過し、TSPエトキシレート凍結融解添加剤(比較組成物B〜C)で調製された製剤と良好に比較された。初期粘度を単一の値に調整する努力はなされておらず、その代わりに凍結及び融解サイクル後の粘度の純変化のみが比較目的のために考慮されることに留意すべきである。
(態様)
(態様1)
水性ポリマー分散体を含む水性コーティング組成物の凍結/融解安定性を改善する方法であって、式1の化合物を前記水性コーティング組成物に添加することを含み、
【化1】
式中、n=3〜10である、方法。
(態様2)
n=5〜10である、態様1に記載の方法。
(態様3)
n=6〜8である、態様1に記載の方法。
(態様4)
前記ポリマー分散体の固形分の重量に基づいて、5〜10重量%の式1が添加される、態様1〜3のいずれかに記載の方法。
(態様5)
前記ポリマー分散体固形分の重量に基づいて、6〜8重量%の式1が添加される、態様1〜4のいずれかに記載の方法。
(態様6)
前記水性コーティング組成物に少なくとも1つの合体剤を添加することをさらに含む、態様1〜5のいずれかに記載の方法。
(態様7)
前記合体剤は、式2の化合物を含む、態様6に記載の方法。
【化2】
(態様8)
前記合体剤は、プロピレングリコールフェニルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、ジプロピレングリコールn−ブチルエーテル、エチレングリコールn−ブチルエーテルベンゾエート、トリプロピレングリコールn−ブチルエーテル、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、トリエチレングリコールビス−2−エチルヘキサノエート、及びトリブチルシトレートのうちの少なくとも1つを含む、態様6に記載の方法。
(態様9)
前記ポリマー分散体固形分の重量に基づいて、2〜12重量%の式2が添加される、態様6〜8のいずれかに記載の方法。
(態様10)
前記水性ポリマー分散体はアクリルポリマーを含む、態様1〜9のいずれかに記載の方法。
(態様11)
前記水性コーティング組成物に1つ以上のポリアルコキシレートを添加することをさら
に含む、態様1〜10のいずれかに記載の方法。
(態様12)
水性ポリマー分散体及び式1の化合物を含む水性コーティング組成物であって、
【化3】
式中、n=3〜10であり、前記コーティング組成物は、前記ポリマー分散体の固形分の重量に基づいて、5〜10重量%の式1を含む、コーティング組成物。
(態様13)
n=5〜10である、態様12に記載のコーティング組成物。
(態様14)
n=6〜8である、態様12に記載のコーティング組成物。
(態様15)
前記コーティング組成物は、前記ポリマー分散体固形分の重量に基づいて6〜8重量%の式1を含む、態様12〜14のいずれかに記載のコーティング組成物。
(態様16)
少なくとも1つの合体剤をさらに含む、態様12〜15のいずれかに記載のコーティング組成物。
(態様17)
前記合体剤は、式2の化合物を含む、態様16に記載のコーティング組成物。
【化4】
(態様18)
前記合体剤は、プロピレングリコールフェニルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、ジプロピレングリコールn−ブチルエーテル、エチレングリコールn−ブチルエーテルベンゾエート、トリプロピレングリコールn−ブチルエーテル、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、トリエチレングリコールビス−2−エチルヘキサノエート、及びトリブチルシトレートのうちの少なくとも1つを含む、態様16に記載のコーティング組成物。
(態様19)
前記コーティング組成物は、前記ポリマー分散体固形分の重量に基づいて2〜12重量%の式2を含む、態様16〜18のいずれかに記載のコーティング組成物。
(態様20)
前記水性ポリマー分散体はアクリルポリマーを含む、態様12〜19のいずれかに記載のコーティング組成物。
(態様21)
1つ以上のポリアルコキシレートをさらに含む、態様12〜20のいずれかに記載のコーティング組成物。
(態様22)
式1の化合物
【化5】
(式中、n=3〜10である)と、
式2の化合物
【化6】
と、を含む組成物であって、前記組成物が30重量%〜70重量%の式1と30重量%〜70重量%の式2とを含む、組成物。
(態様23)
n=5〜10である、態様22に記載の組成物。
(態様24)
n=6〜8である、態様22に記載の組成物。