特許第6966523号(P6966523)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6966523リチウムイオン電池用集電体、及び、該集電体の製造方法
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  • 特許6966523-リチウムイオン電池用集電体、及び、該集電体の製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6966523
(24)【登録日】2021年10月25日
(45)【発行日】2021年11月17日
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用集電体、及び、該集電体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/66 20060101AFI20211108BHJP
   H01M 4/64 20060101ALI20211108BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20211108BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20211108BHJP
【FI】
   H01M4/66 A
   H01M4/64 A
   C23C26/00 A
   C23C28/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-199769(P2019-199769)
(22)【出願日】2019年11月1日
(65)【公開番号】特開2021-72243(P2021-72243A)
(43)【公開日】2021年5月6日
【審査請求日】2021年3月17日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519100310
【氏名又は名称】APB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【弁理士】
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】大西 一彰
(72)【発明者】
【氏名】内丸 正宏
(72)【発明者】
【氏名】草野 亮介
(72)【発明者】
【氏名】福山 苑美
(72)【発明者】
【氏名】工藤 峻
(72)【発明者】
【氏名】都藤 靖泰
(72)【発明者】
【氏名】堀江 英明
【審査官】 福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−152383(JP,A)
【文献】 特開2017−147222(JP,A)
【文献】 特開2018−049825(JP,A)
【文献】 特開2018−055967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/64− 4/84
C23C 26/00
C23C 28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電性フィラーを含む第1導電性樹脂層と、
前記第1導電性樹脂層上に形成されており、第2導電性フィラーを含む第2導電性樹脂層とを備え、
前記第1導電性フィラーは、導電性カーボンであり、
前記第2導電性フィラーは、白金、金、銀、銅、ニッケル及びチタンが含まれる群から選択される少なくとも1種類の金属元素を含み、
前記第1導電性樹脂層の前記第2導電性樹脂層と反対側の面が第1面であり、
前記第2導電性樹脂層の前記第1導電性樹脂層と反対側の面が第2面であり、
前記第2導電性樹脂層における前記第2導電性フィラーの体積%は、前記第1導電性樹脂層側の方が前記第2面側よりも大きく、
40℃環境における比熱容量Cpは、0.9mJ/mg・℃以上、2.2mJ/mg・℃以下であり、
前記第2面の表面抵抗値は、1Ω/□以上、2Ω/□以下である、リチウムイオン電池用集電体。
【請求項2】
前記第2面上に形成された金属被膜層をさらに備える、請求項1に記載のリチウムイオン電池用集電体。
【請求項3】
前記第1面の表面抵抗値は、0.9Ω/□以上、8Ω/□以下である、請求項1又は請求項2に記載のリチウムイオン電池用集電体。
【請求項4】
前記第1導電性樹脂層の厚さは、前記第1導電性樹脂層の厚さ及び前記第2導電性樹脂層の厚さの和の80%以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用集電体。
【請求項5】
リチウムイオン電池用集電体の製造方法であって、
第1導電性フィラーを含む第1導電性樹脂層を形成するステップと、
前記第1導電性樹脂層上に第2導電性フィラーを含む第2導電性樹脂層を形成するステップとを含み、
前記第1導電性フィラーは、導電性カーボンであり、
前記第2導電性フィラーは、白金、金、銀、銅、ニッケル及びチタンが含まれる群から選択される少なくとも1種類の金属元素を含み、
前記第1導電性樹脂層の前記第2導電性樹脂層と反対側の面が第1面であり、
前記第2導電性樹脂層の前記第1導電性樹脂層と反対側の面が第2面であり、
前記第2導電性樹脂層における前記第2導電性フィラーの体積%は、前記第1導電性樹脂層側の方が前記第2面側よりも大きく、
前記製造方法は、前記第2導電性樹脂層における前記第2導電性フィラーの体積%を調整することによって、前記リチウムイオン電池用集電体の40℃環境における比熱容量Cp、及び、前記第2面の表面抵抗値を目標値に制御するステップをさらに含み、
前記比熱容量の目標値は、0.9mJ/mg・℃以上、2.2mJ/mg・℃以下であり、
前記第2面の表面抵抗値の目標値は、1Ω/□以上、2Ω/□以下である、リチウムイオン電池用集電体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用集電体、及び、該集電体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2018−55967号公報(特許文献1)は、第1導電性フィラーを含む第1導電性樹脂層と、第2導電性フィラーを含む第2導電性樹脂層とを備えるリチウムイオン電池用集電体を開示する。このリチウムイオン電池用集電体において、第1導電性フィラーは、導電性カーボンであり、第2導電性フィラーは、白金、金、銀、銅、ニッケル及びチタンが含まれる群から選択される少なくとも1種類の金属元素を含む。第1導電性フィラーとして導電性カーボンを用いることによって、第1導電性フィラーとして金属元素を用いる場合と比較して、リチウムイオン電池用集電体の軽量化を実現することができる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018−55967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に開示されているリチウムイオン電池用集電体を含むリチウムイオン電池においては、第1導電性樹脂層の発熱に伴なって、第2導電性樹脂層の抵抗値が上昇し、電池出力が低下する可能性がある。一方、第1導電性樹脂層の発熱に伴なう抵抗値上昇に備え、第2導電性樹脂層の抵抗値を低くすると、リチウムイオン電池において意図しない大電流が生じる可能性がある。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであって、その目的は、導電性カーボンを含む第1導電性樹脂層の発熱に伴なう抵抗値の上昇を抑制しつつ、意図せず大電流が生じることを抑制可能なリチウムイオン電池用集電体、及び、該集電体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある局面に従うリチウムイオン電池用集電体は、第1導電性樹脂層と、第2導電性樹脂層とを備える。第1導電性樹脂層は、第1導電性フィラーを含む。第2導電性樹脂層は、第1導電性樹脂層上に形成されており、第2導電性フィラーを含む。第1導電性フィラーは、導電性カーボンである。第2導電性フィラーは、白金、金、銀、銅、ニッケル及びチタンが含まれる群から選択される少なくとも1種類の金属元素を含む。第1導電性樹脂層の第2導電性樹脂層と反対側の面が第1面である。第2導電性樹脂層の第1導電性樹脂層と反対側の面が第2面である。第2導電性樹脂層における第2導電性フィラーの体積%は、第1導電性樹脂層側の方が第1導電性樹脂層と反対側の第2面側よりも大きい。40℃環境における比熱容量Cpは、0.9mJ/mg・℃以上、2.2mJ/mg・℃以下であり、第2面の表面抵抗値は、1Ω/□以上、2Ω/□以下である。
【0007】
このリチウムイオン電池用集電体においては、第2導電性樹脂層において、第2導電性フィラーが、第2面側よりも第1導電性樹脂層側の方に多く含まれている。このリチウムイオン電池用集電体においては、第1導電性樹脂層の温度が上昇し該温度上昇に伴なって第2導電性樹脂層が膨張したとしても、第1導電性樹脂層側の第2導電性フィラーの含有量が多いため、第2導電性フィラー同士の接触が維持され易い。したがって、このリチウムイオン電池用集電体によれば、第1導電性樹脂層の温度上昇に伴なう第2導電性樹脂層の抵抗値の上昇を抑制することができる。
【0008】
また、このリチウムイオン電池用集電体においては、意図せず高電圧が印加されたとしても、第2面側(第1導電性樹脂層と反対側)の第2導電性フィラーの含有量が少ないため、大電流が生じにくい。したがって、このリチウムイオン電池用集電体によれば、意図せず大電流が生じる事態を抑制することができる。
【0009】
このリチウムイオン電池用集電体は、第2面上に形成された金属被膜層をさらに備えてもよい。
【0010】
このリチウムイオン電池用集電体においては、第2面上に金属被膜層が形成されることが好ましい。このリチウムイオン電池用集電体によれば、第2面上に配置された活物質が金属被膜層を介して第2導電性フィラーとより広い部分で接するため、活物質の局所的な劣化を抑制することができる。
【0011】
このリチウムイオン電池用集電体において、第1面の表面抵抗値は、0.9Ω/□以上、8Ω/□以下が好ましい。
【0012】
このリチウムイオン電池用集電体において、第1導電性樹脂層の厚さは、第1導電性樹脂層の厚さ及び第2導電性樹脂層の厚さの和の80%以下が好ましい。
【0013】
本発明の他の局面に従うリチウムイオン電池用集電体の製造方法は、第1導電性フィラーを含む第1導電性樹脂層を形成するステップと、第1導電性樹脂層上に第2導電性フィラーを含む第2導電性樹脂層を形成するステップとを含み、第1導電性フィラーは、導電性カーボンであり、第2導電性フィラーは、白金、金、銀、銅、ニッケル及びチタンが含まれる群から選択される少なくとも1種類の金属元素を含み、第1導電性樹脂層の第2導電性樹脂層と反対側の面が第1面であり、第2導電性樹脂層の第1導電性樹脂層と反対側の面が第2面であり、第2導電性樹脂層における第2導電性フィラーの体積%は、第1導電性樹脂層側の方が第1導電性樹脂層と反対側の第2面側よりも大きく、上記製造方法は、第2導電性樹脂層における第2導電性フィラーの体積%を調整することによって、リチウムイオン電池用集電体の40℃環境における比熱容量Cp、及び、第2面の表面抵抗値を目標値に制御するステップをさらに含み、比熱容量の目標値は、0.9mJ/mg・℃以上、2.2mJ/mg・℃以下であり、第2面の表面抵抗値の目標値は、1Ω/□以上、2Ω/□以下である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、導電性カーボンを含む第1導電性樹脂層の発熱に伴なう抵抗値の上昇を抑制しつつ、意図せず大電流が生じることを抑制可能なリチウムイオン電池用集電体、及び、該集電体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】集電体の断面を示す図である。
図2】集電体の製造装置を模式的に示す図である。
図3】集電体の製造手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0017】
[1.集電体の構成]
図1は、本実施の形態に従う集電体10の断面を示す図である。集電体10は、たとえば、リチウムイオン電池の負極用集電体に用いられる。図1に示されるように、集電体10は、第1導電性樹脂層100と、第2導電性樹脂層200と、金属被膜層300とを含んでいる。
【0018】
リチウムイオン電池においては、金属被膜層300の上方に負極用の活物質が塗布され、第1導電性樹脂層100の下方に正極用集電体が配置される。リチウムイオン電池においては、集電体10の貫通方向(図中上下方向)に電流が流れる。なお、第1導電性樹脂層100の厚さは、第1導電性樹脂層100の厚さ及び第2導電性樹脂層200の厚さの和の80%以下である。以下、各層について説明する。
【0019】
<1−1.第1導電性樹脂層>
第1導電性樹脂層100は、ポリオレフィンと、導電性フィラーとを含んでいる。すなわち、第1導電性樹脂層100は、ポリオレフィンと導電性フィラーとを混合することによって形成されている。
【0020】
ポリオレフィンとしては、たとえば、ポリプロピレン(PP)及びポリエチレン(PE)が挙げられる。また、炭素数4〜30のα−オレフィン(1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン、1−デセン又は1−ドデセン等)を必須構成単量体とする重合体等がポリオレフィンとして用いられてもよい。これらのポリオレフィンは、1種単独であってもよいし、2種以上の混合物であってもよい。
【0021】
ポリオレフィンの中でも、防湿特性及び機械的強度の観点で、ポリプロピレンが好ましい。ポリプロピレンとしては、たとえば、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、長鎖分岐構造を有するポリプロピレン及び酸変性ポリプロピレンが挙げられる。
【0022】
ホモポリプロピレンは、プロピレンの単独重合体である。ランダムポリプロピレンは、不規則に導入された少量(好ましくは、4.5重量%以下)のエチレン単位を含む共重合体である。ブロックポリプロピレンは、ホモポリプロピレンの中にエチレンプロピレンゴム(EPR)が分散している組成物であり、ホモポリプロピレンの「海」の中にEPRを含む「島」が浮かぶ「海島構造」を有している。長鎖分岐構造を有するポリプロピレンとしては、特開2001−253910号公報に記載されたポリプロピレン等が挙げられる。酸変性ポリプロピレンは、カルボキシル基を導入したポリプロピレンであり、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸とポリプロピレンとを有機過酸化物の存在下で反応させる等の公知の方法を通じて得ることができる。
【0023】
第1導電性樹脂層100に含まれる導電性フィラーとしては、導電性カーボンが挙げられる。導電性カーボンとしては、たとえば、黒鉛(グラファイト)、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等)、カーボンナノチューブ及びこれらの混合物が挙げられる。
【0024】
導電性カーボンの中では、カーボンブラックが好ましく、アセチレンブラック、ファーネスブラック、又は、それらの混合物がより好ましい。カーボンブラックの体積平均粒子径は、特に限定されないが、集電体10が用いられるリチウムイオン電池の電気特性の観点から、3〜500nmであることが好ましい。
【0025】
<1−2.第2導電性樹脂層>
第2導電性樹脂層200は、第1導電性樹脂層100上に形成されており、第1面側層220と、第2面側層210とを含んでいる。なお、第1面240は、第1導電性樹脂層100の第2導電性樹脂層200と反対側の面である。第2面230は、第2導電性樹脂層200の第1導電性樹脂層100と反対側の面である。
【0026】
第1面側層220及び第2面側層210の各々は、ポリオレフィンと、導電性フィラーとを含んでいる。すなわち、第1面側層220及び第2面側層210の各々は、ポリオレフィンと導電性フィラーとを混合することによって形成されている。ポリオレフィンとしては、たとえば、第1導電性樹脂層100の説明において例示したものを用いることができる。
【0027】
第2導電性樹脂層200に含まれる導電性フィラーとしては、白金、金、銀、銅、ニッケル、チタン及びこれらの混合物が挙げられる。すなわち、第2導電性樹脂層200に含まれる導電性フィラーは、白金、金、銀、銅、ニッケル及びチタンが含まれる群から選択される少なくとも1種類の金属元素を含む。なお、これらの中では、ニッケル粒子が導電性フィラーとしてより好ましい。
【0028】
第2導電性樹脂層200においては、導電性フィラーが、第2面側層210よりも第1面側層220の方に多く含まれている。したがって、集電体10においては、第1導電性樹脂層100の温度が上昇し該温度上昇に伴なって第2導電性樹脂層200(第1導電性樹脂層100により近い第1面側層220)が膨張したとしても、第1面側層220の導電性フィラーの体積%が大きいため、導電性フィラー同士の接触が維持され易い。したがって、集電体10によれば、第1導電性樹脂層100の温度上昇に伴なう第2導電性樹脂層200の抵抗値の上昇を抑制することができる。
【0029】
また、集電体10においては、たとえば、意図せず金属片のようなものが突き刺さったとしても、第2面側層210の第2導電性フィラーの含有量が少ないため(第2面230における抵抗値が高いため)、大電流が生じにくい。したがって、集電体10によれば、意図せず大電流が生じる事態を抑制することができる。
【0030】
<1−3.金属被膜層>
金属被膜層300は、第2導電性樹脂層200の第2面230上に形成されている。金属被膜層300は、たとえば、銅によって構成される。金属被膜層300は、たとえば、蒸着やスパッタリング等の公知の技術によって形成される。金属被膜層300の厚さは、特に限定されないが、10〜100nmであることが好ましい。
【0031】
集電体10においては、第2面230上に金属被膜層300が形成される。したがって、集電体10によれば、第2面230上に配置された活物質が金属被膜層300を介して導電性フィラーとより広い部分で接するため、活物質の局所的な劣化を抑制することができる。
【0032】
<1−4.各種パラメータ>
40℃環境における集電体10の比熱容量Cpは、0.9mJ/mg・℃以上、2.2mJ/mg・℃以下である。比熱容量Cpの測定は、JIS K 7123に準拠した方法で行なわれる。
【0033】
第2面230の表面抵抗値は、1Ω/□以上、2Ω/□以下である。表面抵抗値の測定は、JIS K 7194に準拠した方法で行なわれる。
【0034】
第1面240の表面抵抗値は、0.9Ω/□以上、8Ω/□以下である。表面抵抗値の測定は、JIS K 7194に準拠した方法で行なわれる。
【0035】
集電体10の比熱容量Cpと集電体10の貫通抵抗とは相関を有することから、40℃環境における集電体10の比熱容量Cpが0.9mJ/mg・℃以上、2.2mJ/mg・℃以下であり、かつ、第2面230の表面抵抗値が1Ω/□以上、2Ω/□以下であることは、第1面側層220の内部抵抗がある程度低い(導電性フィラーが多く含まれている)ことを示している。これらのパラメータが上記の範囲内に収まっていることにより、第1導電性樹脂層100の温度上昇に伴なう第1面側層220の内部抵抗の上昇を抑制できることが実験的に分かっている。
【0036】
[2.集電体の製造方法]
図2は、集電体10の製造装置500を模式的に示す図である。図2に示されるように、製造装置500は、Tダイ部510と、原料投入部520,530,540とを含んでいる。
【0037】
原料投入部520には、第2導電性樹脂層200の第2面側層210を形成するための導電性樹脂原料が投入される。具体的には、導電性フィラー(金属)の含有量が水準1であるマスターバッチ導電性樹脂原料と、導電性フィラーの含有量が水準2であるマスターバッチ導電性樹脂原料とが投入される。なお、水準2のマスターバッチ導電性樹脂原料は、水準1のマスターバッチ導電性樹脂原料よりも多くの導電性フィラーを含んでいる。
【0038】
原料投入部530には、第2導電性樹脂層200の第1面側層220を形成するための導電性樹脂原料が投入される。具体的には、導電性フィラー(金属)の含有量が水準1であるマスターバッチ導電性樹脂原料と、導電性フィラーの含有量が水準2であるマスターバッチ導電性樹脂原料とが投入される。
【0039】
原料投入部540には、第1導電性樹脂層100を形成するための導電性樹脂原料が投入される。具体的には、導電性フィラー(導電性カーボン)の含有量が水準3であるマスターバッチ導電性樹脂原料と、導電性フィラーの含有量が水準4であるマスターバッチ導電性樹脂原料とが投入される。なお、水準4のマスターバッチ導電性樹脂原料は、水準3のマスターバッチ導電性樹脂原料よりも多くの導電性フィラーを含んでいる。
【0040】
Tダイ部510は、原料投入部520,530,540を介して投入された原料を共押出しすることによって、導電性樹脂原料の溶融物同士を融着させて1枚の一体化したフィルムとするように構成されている。すなわち、Tダイ部510は、原料投入部520,530,540を介して投入された原料に基づいて、フィルム状の集電体10を生成するように構成されている。
【0041】
図3は、集電体10の製造手順を示すフローチャートである。この製造手順においては、まず、各マスターバッチ導電性樹脂原料の仮の混合比率によって仮の第1導電性樹脂層100及び仮の第2導電性樹脂層200が形成され、仮の集電体10(金属被膜層300は形成されていない)が生成される。仮の集電体10の各種パラメータを測定し、各種パラメータが目標範囲に収まるまで、各マスターバッチ導電性樹脂原料の混合比率が調整される。
【0042】
図3を参照して、製造装置500は、仮の第1導電性樹脂層100及び仮の第2導電性樹脂層200を形成し、仮の集電体10を生産する(ステップS100)。なお、製造装置500は、第1面側層220の導電性フィラー含有量が第2面側層210の導電性フィラー含有量よりも多くなるように、仮の第2導電性樹脂層200を形成する。
【0043】
作業者は、生産された仮の集電体10の比熱容量Cpを測定する(ステップS110)。作業者は、生産された仮の集電体10の第2面230における表面抵抗値を測定する(ステップS120)。作業者は、比熱容量Cp及び表面抵抗値が目標範囲に収まっているか否かを判断する(ステップS130)。
【0044】
集電体10の比熱容量Cpの目標範囲は、40℃環境において、0.9mJ/mg・℃以上、2.2mJ/mg・℃以下である。第2面230の表面抵抗値の目標範囲は、1Ω/□以上、2Ω/□以下である。
【0045】
目標範囲に収まっていると判断されると(ステップS130においてYES)、作業者は、現在のマスターバッチ導電性原原料の混合比率を維持して、集電体10の生産を継続する。以後生産される集電体10に関しては、第2面230上に金属被膜層300を塗布するステップが実行される。
【0046】
一方、目標範囲に収まっていないと判断されると(ステップS130においてNO)、作業者は、マスターバッチ導電性樹脂原料の混合比率を調整する(ステップS140)。調整後の混合比率は、作業者の経験則に基づいて導かれても良いし、コンピュータによって算出されてもよい。その後、各パラメータが目標範囲に収まるまで、ステップS100〜S140の処理が繰り返される。これにより、各パラメータが目標範囲に収まった集電体10が生産される。
【0047】
[3.特徴]
以上のように、集電体10においては、第2導電性樹脂層200において、導電性フィラーが、第2面側層210よりも第1面側層220の方に多く含まれている。集電体10においては、第1導電性樹脂層100の温度が上昇し該温度上昇に伴なって第2導電性樹脂層200(より第1導電性樹脂層100に近い第1面側層220)が膨張したとしても、第1面側層220の導電性フィラーの含有量が多いため、導電性フィラー同士の接触が維持され易い。したがって、集電体10によれば、第1導電性樹脂層100の温度上昇に伴なう第2導電性樹脂層200の抵抗値の上昇を抑制することができる。
【0048】
また、集電体10においては、たとえば、意図せず金属片のようなものが突き刺さったとしても、第2面側層210の導電性フィラーの含有量が少ないため、大電流が生じにくい。したがって、集電体10によれば、意図せず大電流が生じる事態を抑制することができる。
【0049】
[4.変形例]
以上、実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。以下、変形例について説明する。
【0050】
上記実施の形態においては、第2面230上に金属被膜層300が形成された。しかしながら、必ずしも金属被膜層300は必要ではない。第2面230上に金属被膜層300が形成されなくてもよい。
【0051】
また、上記実施の形態においては、第1導電性樹脂層100の下方(第1面240上)には、金属被膜層が形成されなかった。しかしながら、第1面240上に金属被膜層が形成されてもよい。たとえば、第1導電性樹脂層100の下方に配置される正極用の集電体を構成する材料によっては(たとえば、第1導電性樹脂層100の材料と全く異なる材料)、第1面240上に金属被膜層を形成することで、負極と正極との間の抵抗を低減することができる。
【0052】
[5.実施例等]
<5−1.実施例及び比較例>
各実施例及び比較例の説明においては、第2面側層210を「A層」と称し、第1面側層220を「M層」と称し、第1導電性樹脂層100を「B層」と称した。なお、A層、M層及びB層の各々にはポリプロピレン樹脂が含まれ、該ポリプロピレン樹脂のメルトマスフローレート(MFR)は、13g/10minであった。
【0053】
(5−1−1.実施例1)
実施例1における集電体においては、全体の厚みを50μmとし、第2面上に銅薄膜を形成し、A層・M層の導電性フィラーとしてはニッケル(Ni)を用いた。また、A層及びM層の各々の厚みは15μmとし、導電性フィラーの含有量(体積%)はM層の方がA層よりも多くなるようにした。B層の導電性フィラーはアセチレンブラックとし、B層の厚みは20μmとした。また、第1面上には銅薄膜を形成した。40℃環境における比熱容量は1.07mJ/mg・℃とし、第2面の表面抵抗値は1.45Ω/□とし、第1面の表面抵抗値は0.9Ω/□とした。
【0054】
(5−1−2.実施例2)
実施例2における集電体においては、全体の厚みを50μmとし、第2面上に銅薄膜を形成し、A層・M層の導電性フィラーとしてはニッケル(Ni)を用いた。また、A層の厚みは20μmとし、M層の厚みは10μmとした。導電性フィラーの含有量はM層の方がA層よりも多くなるようにした。B層の導電性フィラーはアセチレンブラックとし、B層の厚みは20μmとした。また、第1面上には銅薄膜を形成した。40℃環境における比熱容量は1.15mJ/mg・℃とし、第2面の表面抵抗値は1.49Ω/□とし、第1面の表面抵抗値は1.07Ω/□とした。
【0055】
(5−1−3.実施例3)
実施例3における集電体においては、全体の厚みを50μmとし、第2面上に銅薄膜を形成し、A層・M層の導電性フィラーとしてはニッケル(Ni)を用いた。また、A層及びM層の各々の厚みは15μmとし、導電性フィラーの含有量はM層の方がA層よりも多くなるようにした。B層の導電性フィラーはアセチレンブラックとし、B層の厚みは20μmとした。また、第1面上には銅薄膜を形成した。40℃環境における比熱容量は0.92mJ/mg・℃とし、第2面の表面抵抗値は1.47Ω/□とし、第1面の表面抵抗値は1.04Ω/□とした。
【0056】
(5−1−4.実施例4)
実施例4における集電体においては、全体の厚みを50μmとし、第2面上に銅薄膜を形成し、A層・M層の導電性フィラーとしてはニッケル(Ni)を用いた。また、A層及びM層の各々の厚みは15μmとし、導電性フィラーの含有量はM層の方がA層よりも多くなるようにした。B層の導電性フィラーはアセチレンブラックとし、B層の厚みは20μmとした。また、第1面上には銅薄膜を形成した。40℃環境における比熱容量は1.14mJ/mg・℃とし、第2面の表面抵抗値は1.4Ω/□とし、第1面の表面抵抗値は10Ω/□とした。
【0057】
(5−1−5.実施例5)
実施例5における集電体においては、全体の厚みを50μmとし、第2面上に銅薄膜を形成し、A層・M層の導電性フィラーとしてはニッケル(Ni)を用いた。また、A層及びM層の各々の厚みは15μmとし、導電性フィラーの含有量はM層の方がA層よりも多くなるようにした。B層の導電性フィラーはアセチレンブラックとし、B層の厚みは20μmとした。また、第1面上には銅薄膜を形成した。40℃環境における比熱容量は2.2mJ/mg・℃とし、第2面の表面抵抗値は1.5Ω/□とし、第1面の表面抵抗値は1.07Ω/□とした。
【0058】
(5−1−6.比較例1)
比較例1における集電体においては、全体の厚みを50μmとし、第2面上に銅薄膜を形成し、A層・M層の導電性フィラーとしてはニッケル(Ni)を用いた。また、A層及びM層の各々の厚みは15μmとし、導電性フィラーの含有量はA層の方がM層よりも多くなるようにした。B層の導電性フィラーはアセチレンブラックとし、B層の厚みは20μmとした。また、第1面上には銅薄膜を形成した。40℃環境における比熱容量は2.4mJ/mg・℃とし、第2面の表面抵抗値は1.5Ω/□とし、第1面の表面抵抗値は1.1Ω/□とした。
【0059】
(5−1−7.比較例2)
比較例2における集電体においては、全体の厚みを50μmとし、第2面上に銅薄膜を形成し、A層・M層の導電性フィラーとしてはニッケル(Ni)を用いた。また、A層及びM層の各々の厚みは15μmとし、導電性フィラーの含有量はA層の方がM層よりも多くなるようにした。B層の導電性フィラーはアセチレンブラックとし、B層の厚みは20μmとした。また、第1面上には銅薄膜を形成した。40℃環境における比熱容量は2.2mJ/mg・℃とし、第2面の表面抵抗値は0.1Ω/□未満とし、第1面の表面抵抗値は1.1Ω/□とした。
【0060】
(5−1−8.比較例3)
比較例3における集電体においては、全体の厚みを50μmとし、A層・M層の導電性フィラーとしてはニッケル(Ni)を用いた。また、A層及びM層の各々の厚みは15μmとし、導電性フィラーの含有量はM層の方がA層よりも多くなるようにした。B層の導電性フィラーはアセチレンブラックとし、B層の厚みは20μmとした。また、第1面上には銅薄膜を形成した。40℃環境における比熱容量は1.3mJ/mg・℃とし、第2面の表面抵抗値は100Ω/□以上とし、第1面の表面抵抗値は1.06Ω/□とした。
【0061】
上記実施例1〜5、比較例1〜3についてまとめたものが以下の表1である。
【0062】
【表1】
<5−2.評価方法>
各実施例及び比較例における集電体の貫通抵抗値が温度によりどの程度影響を受けるかに関して評価を行なった。具体的には、各実施例及び比較例における集電体に関し、以下の手順で評価を行なった。
【0063】
(1)40℃の恒温槽内に集電体を2分間静置し、その後、集電体を恒温槽から取り出し、貫通抵抗値を測定した。この測定結果を40℃抵抗値とした。貫通抵抗値の測定方法については後程詳しく説明する。
【0064】
(2)80℃の恒温槽内に集電体を2分間静置し、その後、集電体を恒温槽から取り出し、貫通抵抗値を測定した。この測定結果を80℃抵抗値とした。
【0065】
(3)下記式で算出される温度影響係数が0.02(Ω・cm2/℃)未満のものは温度による影響を受けにくいため「〇」と評価し、温度影響係数が0.02(Ω・cm2/℃)以上のものは温度による影響を受けやすいため「×」と評価した。
温度影響係数(Ω・cm2/℃)=(80℃抵抗値(Ω・cm2)−40℃抵抗値(Ω・cm2))/(80(℃)−40(℃))
【0066】
なお、貫通抵抗値の測定は以下の方法で行なわれた。各集電体から7cm角サンプルを裁断して取り出し、電気抵抗測定器[IMC−0240型 井元製作所(株)製]及び抵抗計[RM3548 HIOKI製]を用いて集電体の厚み方向(貫通方向)の抵抗値を測定した。電気抵抗測定器に2.16kgの荷重をかけた状態で集電体の抵抗値を測定し、荷重をかけてから60秒後の値をその集電体の抵抗値とした。下記式に示すように、抵抗測定時の治具の接触表面の面積(3.14cm2)を乗算した値を貫通抵抗値(Ω・cm2)とした。
貫通抵抗値(Ω・cm2)=抵抗値(Ω)×3.14(cm2
【0067】
<5−3.評価結果>
上記評価の結果、実施例1〜5は「〇」と評価され、比較例1〜3は「×」と評価された。
【符号の説明】
【0068】
10 集電体、100 第1導電性樹脂層、200 第2導電性樹脂層、210 第2面側層、220 第1面側層、230 第2面、240 第1面、300 金属被膜層、500 製造装置、510 Tダイ、520,530,540 原料投入部。
図1
図2
図3