【実施例】
【0057】
本発明を、以下の実験例を参照することにより更に説明する。これらの実施例は、説明の目的のためだけに提供されるものであって、特段の記載が無い限り限定することを意図するものではない。したがって、本発明は、決して以下の実施例に限定されるものとは解釈されるべきではなく、むしろ本明細書で提供される教示の結果として明らかとなるあらゆる変形形態を含むものと解釈されるべきである。
【0058】
更なる説明が無くとも、当業者であれば、これらの上記説明及び以下の実例的な実施例を用いて、本発明の化合物を作製及び利用し、特許請求の範囲に記載される方法を実施することが可能であると考えられる。したがって、以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を具体的に示すものであり、決して本開示の残りの部分を限定するものと解釈されるべきではない。
【0059】
実施例1:バシラス・インディカス株PD01(LMG P-29664)から抽出されたカロテノイドの特性評価
栄養細胞又は芽胞のいずれかから得られたPD01(LMG P-29664)由来のカロテノイドを、超高性能液体クロマトグラフィー−ダイオードアレイ検出−質量分析法(UHPLC-DAD-MS)により特性評価した。上記カロテノイドは、最適化された脂質抽出によって細菌から抽出され、それらのカロテノイド組成及び含量は、C18カラムでのHPLC分析により測定された。それらの結果は、栄養細胞由来の抽出物が主として430/454/484 nmで吸収を示すカロテノイドから構成されていることを示し、これらのカロテノイドを、エステル化黄色カロテノイド及び非エステル化黄色カロテノイドとして定義した(
図2)。それに対して、芽胞から生成された抽出物は、430/454/484 nmで吸収を示すカロテノイド(黄色カロテノイド)及び440/466/494 nmで吸収を示すカロテノイドの2つの群のカロテノイドから構成されていた。後者を、エステル化橙色カロテノイド及び非エステル化橙色カロテノイドとして定義した(
図2)。
【0060】
PD01由来の2種の異なるカロテノイド抽出物を、UHPLC-DAD-MS及び分光測光法により更に分析して、混合物中に存在する異なる個々のカロテノイドを同定した。
【0061】
第1のカロテノイド抽出物(「Free O」(「遊離の橙色(Free Orange)」を表す)抽出物と呼ばれる)は、栄養細胞及び芽胞の混合物から得られた。該抽出物中に存在する主要なカロテノイドは、橙色カロテノイドであるメチル−グリコシル−アポ−8'−リコペノエート(遊離形として、
図3、ピーク1及びピーク2)であり、この抽出物中により少量で見られるその他のカロテノイドは、この橙色カロテノイドのエステル化形態(
図3、ピーク4〜ピーク10)、及び黄色カロテノイドの遊離のエステル化形態(
図3、ピーク3及びピーク12〜ピーク14)、並びに8'−アポフィトエン(ピーク18、橙色/黄色カロテノイドの前駆体)、及びメナキノン−7(
図3、ピーク19)であった。これらのカロテノイドのスペクトル特性及び具体的な識別は、表1に見ることができる。
【0062】
PD01株のもう1つの抽出物(「Ester Y/O」(「エステルの黄色/橙色(Ester Yellow/Orange)」を表す)抽出物と呼ばれる)は、栄養細胞及び芽胞の別の混合物(異なる比率)から得られた。UHPLC-DAD-MS分析により、この抽出物が橙色カロテノイドのエステル化形態及び黄色カロテノイドのエステル化形態から主として構成されていることが明らかになった(
図4、ピーク4〜ピーク17)。この抽出物においては、メナキノン−7(ピーク19)及び8'−アポフィトエン(ピーク18、橙色/黄色カロテノイドの前駆体)の含量はかなり多かった。種々のピークの識別及びスペクトル特性は、表1に詳記されている。
【0063】
表1.PD01のカロテノイドのスペクトル特性及び識別
【表1】
上記化合物名
メチル−グリコシル−アポ−8'−リコペノエート
cis−メチル−グリコシル−アポ−8'−リコペノエート
グリコシル−アポ−8'−リコペン
メチル−C6−グリコシル−アポ−8'−リコペノエート
メチル−C7−グリコシル−アポ−8'−リコペノエート
メチル−C8−グリコシル−アポ−8'−リコペノエート
メチル−C9−グリコシル−アポ−8'−リコペノエート
メチル−C10−グリコシル−アポ−8'−リコペノエート
メチル−C11−グリコシル−アポ−8'−リコペノエート
メチル−C12−グリコシル−アポ−8'−リコペノエート
C8−グリコシル−アポ−8'−リコペン
C9−グリコシル−アポ−8'−リコペン
C10−グリコシル−アポ−8'−リコペン
C11−グリコシル−アポ−8'−リコペン
C12−グリコシル−アポ−8'−リコペン
C13−グリコシル−アポ−8'−リコペン
C14−グリコシル−アポ−8'−リコペン
8'−アポフィトエン
メナキノン−7
【0064】
実施例2:株PD01(LMG P-29664)由来のカロテノイドのin vitroでの酪酸塩産生に対する効果
株PD01由来のカロテノイドの反復摂取の酪酸塩産生に対する効果を研究するために、動的消化管モデル、すなわちヒト腸管内微生物生態系シミュレータ(Simulator of the Human Intestinal Microbial Ecosystem)(SHIME(商標))を用いて実験を実施した。実験の間に、SHIMEユニットは、それぞれ胃/小腸、近位結腸、及び遠位結腸に相当する3つの一連の容器からなっていた。種々のカロテノイドの配合物(すなわち、細菌細胞から抽出されたカロテノイド(「CAR」)又は細菌(栄養)細胞内に含まれるカロテノイド(「VEG」))を扱うために、同一のSHIMEユニットを並行して稼働させた。2週間の安定化期間に続いて、参照コントロール期間を実施し(2週間)、その後に上記カロテノイドを、処置期間の間に3週間にわたり毎日投与した。カロテノイドは、抽出物又は栄養細胞のいずれかとして同様のカロテノイドレベルで投与した。上記カロテノイド抽出物は、過酷な胃内条件に耐え得るので胃の区画に投与したが、胃液感受性の栄養細胞は、胃液保護カプセルを使用した標的送達方略をシミュレートするように小腸のインキュベーションの始まりの所で投与した。
【0065】
短鎖脂肪酸(SCFA)産生は、糖分解的発酵のマーカーとしてモニタリングされた。特定のSCFAの特異的産生は、様々な健康への影響と関連している。酢酸塩は、宿主のためのエネルギー源として使用され得る。プロピオン酸塩は、肝臓におけるコレステロール及び脂肪酸合成を減少させる。酪酸塩は、結腸細胞のための主要なエネルギー源であり、これらの細胞における分化を誘導する。
【0066】
SHIME実験からの結果により、全SCFA産生の変化は報告されないか又は小さな変化しか報告されない(
図5A)が、一方で、遊離のカロテノイド及び栄養細胞として投与されたカロテノイドは両方とも、酢酸塩から健康を促進するSCFAである酪酸塩への移行を誘導することによりSCFAプロファイルを変化させること(
図5B)が示された。更なる確認のために、同じ設計でもう1つの実験を準備したが、そこでは上記カロテノイドは、細菌芽胞として投与した。ここでも、該芽胞の投与は、酪酸塩対酢酸塩比に増大をもたらした。
【0067】
したがって、PD01由来のカロテノイドの投与(遊離のカロテノイド又は細菌細胞/芽胞内に含まれるカロテノイドのいずれかとして投与される)が、微生物群集の活動性に有益な効果を及ぼすと結論付けることができる。
【0068】
実施例3:株PD01(LMG P-29664)由来のカロテノイドのin vitroでの消化管内微生物叢組成に対する効果
株PD01由来のカロテノイドの反復摂取の消化管内マイクロバイオーム組成に対する効果を研究するために、動的消化管モデルSHIME(商標)を用いて実験を実施した。実験の詳細は、実施例2に記載されている。
【0069】
qPCR及びDGGEプロファイルを準備することで、株PD01が微生物群集組成に影響を及ぼし得るかどうかを調査した。qPCRを使用して、特定の細菌の群、すなわちファーミキューテス、バクテロイデス、ビフィドバクテリウム、ラクトバシラス、及びクロストリジウム・コッコイデス/ユーバクテリウム・レクタレの群をモニタリングし、その一方で、DGGEプロファイルを全微生物群集から作製した。ファーミキューテス及びバクテロイデスは、ヒト消化管内の2つの最も優勢な細菌門である。バクテロイデスは、バクテロイデスのタンパク質の大部分が多糖類の分解及びそれらの糖の代謝に導くため、非常に重要な糖分解発酵細菌とみなされる。この群に属する幾つかの種は、プロピオン酸塩産生とも関連している。ファーミキューテスはむしろ、バクテロイデスの代謝により産生された代謝中間生成物の利用者である。ファーミキューテスは、幾つかの酪酸塩生産者(クロストリジウム・コッコイデス及びユーバクテリウム・レクタレを含む)を含み、細菌代謝産物は健康に有益であるとみなされる。ビフィドバクテリウム及びラクトバシラスは、それらの健康促進特性について知られる2つの細菌属である。
【0070】
細菌細胞から抽出されたカロテノイドを用いて実施されたSHIME実験からのDGGEプロファイルは、消化管内微生物群集の組成に劇的な変化を示した(
図6)。該DGGEプロファイルからの所見を、qPCRにより確認した。実際に、PD01から抽出されたカロテノイドによる処置は、試験された全ての細菌群の濃度を、主として近位結腸において高めた。ファーミキューテス及びクロストリジウム・コッコイデス/ユーバクテリウム・レクタレの群内では、最も興味深い結果が観察された(
図7)。ファーミキューテスは、幾つかの酪酸塩生産者(クロストリジウム・コッコイデス及びユーバクテリウム・レクタレを含む)を含むので、その高められた濃度は、健康に有益であるとみなすことができる。
【0071】
細菌芽胞内に含まれるカロテノイドを用いて実施されたSHIME実験からのqPCRプロファイルにより、これらの結果が確認された。実際に、細菌芽胞の投与によっても、試験された主要な細菌群、特にファーミキューテス及びクロストリジウム・コッコイデス/ユーバクテリウム・レクタレの群の高められた濃度がもたらされた(
図8)。
【0072】
したがって、この実験により、PD01由来のカロテノイドが、消化管内マイクロバイオーム組成に影響を及ぼし、特に酪酸塩産生細菌群を刺激することが確認される。
【0073】
実施例4:株PD01(LMG P-29664)由来のカロテノイドのin vivoでの消化管内マイクロバイオーム組成に対する効果
PD01由来のカロテノイドのin vivoでの消化管内マイクロバイオーム組成に対する効果を評価するために、90日齢の雄のSprague-Dawleyラットに、PD01由来のカロテノイドを、カロテノイド抽出物又は芽胞若しくは栄養細胞中に含まれるカロテノイドのいずれかとして8週間にわたり毎日投与した。その実験は、高脂肪(HF)食餌を動物に投与することからなり、その食餌は、標準的な西洋型の食餌を模しており、8週間の投与内でメタボリック症候群の発生を伴う。HFコントロール群の他に、別個の群の動物に、HF食餌と組み合わせてPD01由来のカロテノイド配合物の1つを与えた。このために、該カロテノイド配合物を、落花生油中に懸濁させ、それをHF食餌と一緒にラットに強制経口投与により与えた。カロテノイドの1日相当量は、10 μg/日〜50 μg/日の範囲内であった。
【0074】
標準的な低脂肪(LF)食餌を与えたコントロール群を含めることで、HF食餌の消化管内マイクロバイオーム組成に対する特異的な効果の評価を可能にした。さらに、植物由来のカロテノイドのルテインを細菌性カロテノイドと同量(すなわち、25 μg/日)で与える1つの追加のHF群を含めた。これにより、細菌性カロテノイド対植物由来カロテノイドの消化管内マイクロバイオーム組成に対する効果の比較が可能となる。
【0075】
種々の配合物の消化管内微生物叢に対する効果をモニタリングするために、DGGEプロファイルを準備した。長期間のin vivo実験からの糞便試料のトータルDNAを抽出し、ネステッドPCR反応において鋳型として使用することで、細菌性16S rDNA遺伝子のV4-V6超可変領域を増幅させた。
【0076】
様々な群の詳細なクラスター分析により、8週間の処置後にLF又はHFを与えたラットの消化管内微生物叢は互いに相違し、両者とも処置前のラットの消化管内微生物叢とは異なることが示された(
図9)。これは、食餌の変化が消化管の微生物組成を部分的に変化させたことを示している。しかしながら、PD01由来のカロテノイドによる処置は、PD01の栄養細胞内に含まれるカロテノイドで処置されたラット(
図10)又はPD01から抽出されたカロテノイドで処置されたラット(
図11)のマイクロバイオームプロファイルを含むクラスター分析の例に示されるように、消化管内マイクロバイオーム組成に対して強力な追加の効果を有した。PD01の芽胞内に含まれるカロテノイドを投与しても同じ結果が得られるので、PD01由来のカロテノイドが、使用されたカロテノイド配合物の如何にかかわらず、高脂肪食餌でのラットの消化管内マイクロバイオームを更に変更することが確認される。
【0077】
興味深いことに、ルテインにより処置されたラットの消化管内微生物組成プロファイルを、HFコントロールのプロファイルと一緒にクラスター化すると、これらの群内の動物が消化管内微生物組成の点で類似していることが示される。それに対して、PD01から抽出されたカロテノイドにより処置されたラットの消化管内微生物組成は大きく異なっていた(
図11)。この驚くべき効果は、微生物カロテノイドが、高脂肪食餌の消化管内微生物組成に対する効果を変化させるが、植物由来カロテノイドはこれらの特性を有しないことを示している。
【0078】
実施例5:株PD01(LMG P-29664)由来のカロテノイドのin vitroでの消化管バリア機能に対する効果
PD01由来のカロテノイド(栄養細胞又は芽胞のいずれかに由来する)の宿主における消化管バリア機能に対する効果を、Caco-2/THP1XB同時培養物において、Possemiers et al.(2013, J Agric Food Chem 61)に記載される方法に従って研究した。測定の終点は、トランスウェル装置中での経上皮電気抵抗(TEER)におけるコントロールからの変化であった。
【0079】
それらの結果(
図12)により、PD01由来のカロテノイドが、抵抗の乱れから腸管バリアを保護し、その一方で、α−トコフェロール(同じ前駆体から生成された親油性の植物由来カロテノイド)は保護を誘導しないことが示された。この驚くべき効果は、微生物カロテノイドが、消化管バリア機能に対する調節効果を有するが、植物由来の化合物はこれらの特性を欠いていることを示している。
【0080】
実施例6:株PD01(LMG P-29664)から抽出されたカロテノイドのin vivoでの炎症状態に対する効果
株PD01由来のカロテノイドの炎症状態に対する効果を、in vivoでのラット実験において実施例4に記載されるHF食餌条件により評価した。8週間の処置後に、HF食餌を給餌したラットは、標準的なLF食餌を給餌したラットよりも有意に高い血漿TNF-α濃度を示した。驚くべきことに、HF食餌と一緒に株PD01由来のカロテノイド(株PD01から抽出されたカロテノイド又は株PD01の栄養細胞若しくは芽胞内に含まれるカロテノイドのいずれか)を同時投与することで、炎症誘発状態の発生を防ぐことが可能であり、こうしてHF群と比較して減少した血漿濃度の炎症誘発性サイトカインTNF-αがもたらされた(
図13)。この結果は、PD01由来のカロテノイド(特定の配合物の如何にかかわらず)が、炎症の増強を防ぐことができ、したがって免疫保護特性を有することを示している。
【0081】
実施例7:ヒトにおける株PD01(LMG P-29664)から抽出されたカロテノイドの胃腸症状に対する効果
株PD01由来のカロテノイドの胃腸管症状に対する効果を、6週間の第II相有効性研究において、健康であるが体重超過の個体で評価した。該研究は、無作為化、プラセボ対照、二重盲検、並行研究として設計された。該研究の目的は、株PD01由来のカロテノイド(細菌芽胞内に含まれる)の毎日摂取の消化管内マイクロバイオームの調節に関する効果を調査することであった。研究対象母集団は、18歳〜70歳の年齢のBMIが25 kg/m
2〜35 kg/m
2である60人の健康な個体からなっていた。登録時に、参加者を6週間の期間にわたりPD01又はプラセボに無作為化した。それぞれの参加者は、研究施設で3つの試験日、すなわち(1)該研究の開始時、(2)研究製品の供給の3週間後、及び(3)該研究の終了時(研究製品の供給の6週間後)を経た。上記研究製品を、第1の試験日にその後の6週間にわたり(試験日3まで)5×10
9 CFU/日の1日相当量で担体材料としてマルトデキストリンを用いてサシェ剤において供給した。プラセボは、担体材料のみを含む同一のサシェ剤からなっていた。参加者は、投与方法に関して通知されていた。1つのサシェ剤は、150 mLの全乳中に溶解されている必要があり、毎朝朝食前の同じ時点で服用する必要があった。
【0082】
胃腸(GI)症状の存在を、5種の主要なGI症候群:腹痛、逆流、下痢、消化不良、及び便秘症候群にクラスター化された16項目からなる、妥当性が確認された胃腸症状評価尺度(GSRS)を使用して評価した。排便頻度及び便の硬さを、ブリストル便形状スケールチャートを使用して評価した。被験体に、研究期間の間に毎週の間隔でこれらの質問事項を完成させることを依頼した。驚くべきことに、毎日PD01を与えた参加者は、供給の3週間後に消化不良症候群についてのGSRSのサブディメンションにおいてスコアがより低くなり(p=0.061、
図14)、研究期間の終わりに有意なものとなった(p=0.045、
図14)。これにより、株PD01由来の細菌カロテノイドが、一般的にIBSについても記載される胃腸症状を予防又は減少し得ることが確認される。
【0083】
実施例8:ヒトにおけるカロテノイドのバイオアベイラビリティー
実施例7に記載される第II相研究において、血液試料を収集して、株PD01由来のカロテノイド(芽胞内に含まれるカロテノイド、5×10
9 CFU/日で処方)の3週間及び6週間の毎日の供給の前後の、体重超過の被験体(n=29)の空腹時血漿における細菌カロテノイドの濃度を評価した。
【0084】
株PD01のカロテノイドは、ベースラインでは検出されず、3週間及び6週間のPD01処置の後の全ての被験体の空腹時血漿中に存在した(
図15)。PD01のカロテノイドの血漿濃度は、6週間の供給の間に大幅に高まった(3週間で0.044 μM、6週間で0.076 μM)(
図15)。
【0085】
この研究により、株PD01の芽胞内に含まれるカロテノイドの6週間の期間にわたる毎日の供給が、血漿中でのPD01のカロテノイドの蓄積をもたらすことが裏付けられた。PD01のカロテノイドの血漿濃度は全ての被験体において検出可能であったので、PD01のカロテノイドが吸収されることが裏付けられた。さらに、PD01のカロテノイドのレベルは、ルテインの場合と類似した最終曝露に達した。しかしながら、欧州におけるルテインの一日摂取量のレベルは、1 mg/日〜4 mg/日(健康的な果物が豊富な食餌)で見積もられる一方で、PD01のカロテノイドの一日摂取量は、25 μg/日ほどの低さであった。これにより、植物由来のカロテノイドよりも意想外に優れたPD01のカロテノイドのバイオアベイラビリティーが更に確認される。
【0086】
さらに、カロテノイド産生バシラス株PD01を、LB寒天平板上での平板計数法によりヒトの糞便において定量した。結果は、PD01処置により、上記バシラス株がヒト結腸中で3×10
7 CFU/gの濃度で、大抵は栄養細胞の形で存続することが可能であることを示した(表2)。
【0087】
表2.供給期間の前(T0)、PD01の3週間の毎日の投与後(T3)、及び株PD01の6週間の毎日の投与後(T6)の、ヒト介入試験からのPD01処置された被験体のヒト糞便における株PD01の計数(CFU/g)。結果は、平均±SEとして表現される:n=29;ND=不検出。
【表2】
【0088】
実施例9:ヒトにおける株PD01(LMG P-29664)から抽出されたカロテノイドの消化管バリア機能に対する効果
実施例7に記載される第II相有効性研究において、消化管バリア機能を、消化管透過性試験を実施することによりベースライン及び6週間の研究期間の終わりに評価した。参加者は、一晩の絶食後に1 gのスクロース、1 gのラクツロース、0.5 gのL−ラムノース、1 gのスクラロース、及び1 gのエリスリトールを含有する糖飲料(150 mLの水道水中)を摂取する必要があった。摂取前に、ベースラインの糖分析のために尿試料を採集した。次いで、全尿排出量を、24時間の間に3つの別個のフラクションで、すなわち0時間〜2時間、2時間〜5時間、及び5時間〜24時間で採集した。スクロース、ラクツロース、L−ラムノース、スクラロース、及びエリスリトールを、文献に報告されるように蛍光検出高圧液体クロマトグラフィーによって測定した。
【0089】
この研究により、株PD01の芽胞内に含まれるカロテノイドの6週間の期間にわたる毎日の供給がスクロース排出に低下をもたらす(表3)ことが裏付けられたため、PD01のカロテノイドが小腸の透過性を改善したことが示唆される。結腸透過性について同様の効果が示された。この結果により、ヒトにおけるPD01のカロテノイドの消化管バリア機能に対する効果のin vitroでの観察が確認される。
【0090】
表3.PD01−カロテノイド処置された個体及びプラセボ処置された個体(それぞれ、n=29及びn=31)についてのベースラインから研究期間の終わりまでの0時間〜5時間、5時間〜24時間、及び0時間〜24時間のフラクションにおける尿中で測定されるスクロース排出(μmol)及び排出された糖の比率。括弧の間の値は、25パーセンタイル〜75パーセンタイルを表す。E=エリスリトール、L=ラクツロース、R=L−ラムノース、S=スクラロース。
【表3】
【0091】
実施例10:ブタにおける株PD01(LMG P-29664)から抽出されたカロテノイドの消化管の健康に対する効果
3週間の研究を、雄及び雌の離乳子豚(19日齢で離乳)により構成した。該研究は、1群当たり8匹の子豚で、無作為化、プラセボ対照研究として設計された。該研究の目的は、離乳子豚の食餌において株PD01の芽胞内に含まれるカロテノイドを含めること(1 kgの食餌当たりに2×10
9個のPD01の芽胞)が、コントロール食餌と比較して消化管内マイクロバイオーム及び消化管の健康のパラメータの調節に対して及ぼす効果を調査することであった。16匹の離乳子豚が該研究において含まれていた。実験の終わりに(23日)、全ての子豚を屠殺し、胃腸管からの消化物及び腸切片を採集した。小腸の長さの75%〜100%の消化物、盲腸消化物、中位結腸及び直腸の手前の20 cmの区域における消化物を、SCFA分析のために採集した。小腸の長さの50%及び90%及び中位結腸の区域を切除し、Ussingチャンバー測定及び遺伝子発現分析のために使用して、消化管バリア健全性を評価した。
【0092】
SCFAの結果により、全SCFA産生の変化は報告されないか又は小さな変化しか報告されない(
図16A)が、一方で、PD01由来のカロテノイドの投与は、酢酸塩から健康を促進するSCFAである酪酸塩への移行を誘導することによりSCFAプロファイルを変化させること(
図16B)が示された。この結果により、PD01のカロテノイドの効果のin vitroでの観察が確認される。
【0093】
Ussingチャンバーにおける測定により、株PD01の芽胞内に含まれるカロテノイドの投与後に、消化管バリア健全性のパラメータに対して有意な効果及び傾向が示された(表4)。遠位小腸及び中位結腸の両方において、TEERにより評価される該組織の健全性は、PD01のカロテノイドの投与後にコントロール食餌と比較してより高かった。それにより裏付けられて、傍細胞透過性(P
appFD-4)の数値の低下が、PD01のカロテノイドの投与後に上記胃腸管の両方の部位で見られた。
【0094】
さらに、プラセボと比較してより高いZO-1(閉鎖体1又は密着結合タンパク質1(TJP1))及びOCLN(オクルディン)の発現が、PD01群内の子豚の小腸において、特に腸管の長さの50%の区域で及びオクルディンについて観察された(
図17)。このように、PD01のカロテノイドは、密着結合タンパク質の発現の増加により、腸管バリア機能に対して保護効果を発揮する。これは、上記Ussingチャンバー及び実施例9に記載される消化管透過性試験で得られた結果と一致している。
【0095】
表4.離乳子に与えられた実験食餌の、Ussingチャンバーにおいて測定される小腸粘膜及び中位結腸の特性に対する効果(n=2×8)。P
appFD-4=FITC-4kDaについての見掛けの透過性、SEM=平均の標準誤差、TEER=組織の経上皮電気抵抗。
【表4】
【0096】
実施例11:株PD01(LMG P-29664)から抽出されたカロテノイドの、消化管内マイクロバイオーム組成及び消化管バリア健全性に対する植物由来カロテノイドよりも優れた効果
株PD01由来のカロテノイドと植物由来のカロテノイドとの間の生体活性プロファイルにおける差異を評価するために、実験を、実施例2、実施例3、実施例5、及び実施例10に記載されるように構成した。
【0097】
PD01由来のカロテノイド、ルテイン、β−カロテン、及びリコペンの腸管内での酪酸塩産生に対する効果を、SHIME実験において実施例2に記載されるように評価した。実際には、上記種々のカロテノイドを、同じ投与量レベルで並列のSHIMEユニットへと2週間の期間にわたり毎日投与し、SCFAレベルをモニタリングした。
【0098】
株PD01由来のカロテノイド、ルテイン、β−カロテン、及びリコペンの消化管内マイクロバイオーム組成に対する効果を、SHIME実験において実施例3に記載されるように評価した。実際には、上記種々のカロテノイドを、同じ投与量レベルで並列のSHIMEユニットへと2週間の期間にわたり毎日投与し、酪酸塩産生細菌群のレベルを、qPCR及び細菌DGGEフィンガープリントを使用してモニタリングした。
【0099】
株PD01由来のカロテノイド、ルテイン、β−カロテン、及びリコペンのin vitroでの消化管バリア機能に対する効果を、Caco-2/THP1XB同時培養物を使用して実施例5に記載されるように評価した。測定の終点は、上記種々のカロテノイドを同じ投与量レベルで並列実験に投与した際のトランスウェル装置中での経上皮電気抵抗(TEER)におけるコントロールからの変化であった。
【0100】
PD01由来のカロテノイド又はルテインの、消化管内マイクロバイオーム組成及び消化管の健康に関連するパラメータに対する効果は、実施例10に記載される子豚研究において記載された。
【0101】
実施例12:ブタにおける株PD01(LMG P-29664)から抽出されたカロテノイドの消化管炎症に対する効果
実施例10に記載されるように、3週間の研究を、雄及び雌の離乳子豚(19日齢で離乳)により構成した。該研究は、1群当たり8匹の子豚で、無作為化、プラセボ対照研究として設計された。該研究の目的は、離乳子豚の食餌において株PD01の芽胞内に含まれるカロテノイドを含めること(1 kgの食餌当たりに2×10
9個のPD01の芽胞)が、コントロール食餌と比較して炎症状態の調節に対して及ぼす効果を調査することであった。16匹の離乳子豚が該研究において含まれていた。実験の終わりに(23日)、全ての子豚を屠殺し、腸切片を採集した。小腸の長さの90%及び中位結腸の区域を切除し、炎症誘発性サイトカインIL-1a(インターロイキン1α)の遺伝子発現分析のために準備した。
【0102】
図18に示されるように、IL-1aの発現は、PD01群内の子豚の遠位小腸及び中位結腸において、プラセボと比較して低下した。PD01のカロテノイドの投与は、HF食餌を給餌したラットにおいても見られるように(実施例6)、離乳子豚における消化管炎症を抑える。
【0103】
実施例13:株PD01(LMG P-29664)から抽出されたカロテノイドのin vitroでの末梢血単核細胞(PBMC)における炎症状態に対する効果
PD01のカロテノイドの炎症調節特性をより良く理解するために、これらのカロテノイドを、2人の健康な供与体から単離された末梢血単核細胞(PBMC)へとin vitroで投与した。PBMCによるサイトカインの放出を、LPS(500 ng/mL)による活性化後に測定し、処置間で比較した。その処置は、凍結された栄養細胞(10
7 cfu/mL)内若しくはマルトデキストリンにおいて凍結乾燥された芽胞(10
7 cfu/mL)内のいずれかに含まれるPD01のカロテノイド、又は株PD01から抽出された精製カロテノイド(6.25 μg)への曝露を伴う。さらに、よく知られた(well-known)芽胞形成するプロバイオティクス株であるバシラス・クラウシイ(カロテノイド無し、10
7 cfu/mL)からの栄養細胞、2種の濃度でのβ−カロテン(26.75 μg及び66.88 μg)、精製PD01カロテノイド及びβ−カロテンを溶解するために使用されるビヒクル(Palozza, P. et al., Free Radical Biology & Medicine, vol30, pp1000-1007 (2001)により報告されるテトラヒドロフラン/0.025%のブチル化ヒドロキシトルエン)、並びに完全培地(カロテノイド無し)が、コントロールとして含まれた。LDHアッセイによって、処置による細胞毒性は示されなかった。
【0104】
これらのインキュベーションの読取り値(IL-1β、TNFα、IL-10、IP-10(又はCXCL-10)、及びMCP-1のレベル)を未処置のLPS誘導されたPBMCの読取り値に正規化した値を、PCAプロットにまとめた(
図19、PC1 52.7%及びPC2 26.1%)。PD01のカロテノイドを伴う3つの処置は全て一緒にクラスター化され、β−カロテン、上記ビヒクル、バシラス・クラウシイの栄養細胞、及びLPS自体と比較して、驚くほど顕著な抗炎症応答が引き起こされた。ここでも、これらの結果によって、より低い曝露レベルでより強い抗炎症応答が誘発されたので、植物由来のβ−カロテンと比較して優れた微生物PD01のカロテノイドの生体活性が確認される。さらに、カロテノイド無しでは、バシラス・クラウシイ細胞は、同様の応答を誘発することができなかったが、その一方で、精製PD01のカロテノイドはその応答を誘発した。