特許第6966543号(P6966543)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6966543消化管内微生物組成に影響を及ぼす微生物カロテノイド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6966543
(24)【登録日】2021年10月25日
(45)【発行日】2021年11月17日
(54)【発明の名称】消化管内微生物組成に影響を及ぼす微生物カロテノイド
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7028 20060101AFI20211108BHJP
   A61P 1/12 20060101ALI20211108BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20211108BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20211108BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20211108BHJP
   A61P 1/10 20060101ALI20211108BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20211108BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20211108BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20211108BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20211108BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20211108BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20211108BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20211108BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20211108BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20211108BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20211108BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20211108BHJP
   C07H 15/10 20060101ALI20211108BHJP
   A61K 35/742 20150101ALI20211108BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20211108BHJP
   A23K 10/16 20160101ALI20211108BHJP
   A23K 20/105 20160101ALI20211108BHJP
   A23K 50/40 20160101ALI20211108BHJP
【FI】
   A61K31/7028
   A61P1/12
   A61P29/00
   A61P3/02
   A61P1/04
   A61P1/10
   A61P1/00
   A61P31/00
   A61P3/00
   A61P3/04
   A61P3/10
   A61P9/00
   A61P25/18
   A61P25/28
   A61P19/02
   A61P29/00 101
   A61P19/08
   A61P35/00
   C07H15/10
   A61K35/742
   A61K35/74 G
   A23K10/16
   A23K20/105
   A23K50/40
【請求項の数】11
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2019-520483(P2019-520483)
(86)(22)【出願日】2017年6月22日
(65)【公表番号】特表2019-524877(P2019-524877A)
(43)【公表日】2019年9月5日
(86)【国際出願番号】EP2017065348
(87)【国際公開番号】WO2017220708
(87)【国際公開日】20171228
【審査請求日】2020年6月15日
(31)【優先権主張番号】16175832.1
(32)【優先日】2016年6月22日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521346232
【氏名又は名称】マイクロバイアル リサーチ マネージメント ヘルス エヌブイ
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 晃
(72)【発明者】
【氏名】ポッセミエルス,サム
(72)【発明者】
【氏名】デュイスブルク,シンディー
(72)【発明者】
【氏名】ピネイロ,イリス
(72)【発明者】
【氏名】ボルカ,セリン
(72)【発明者】
【氏名】ファン デン アベーレ,ピーテル
(72)【発明者】
【氏名】マルツォラッティ,マッシモ
【審査官】 伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/017199(WO,A1)
【文献】 特表2009−521212(JP,A)
【文献】 Acta Chemica Scandinavica,1969年,23(8),pp.2605-2615
【文献】 Nutrition Research,2014年,34,pp.907-929
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
C07H
A23K
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体における健康に有益な消化管内微生物組成の修復剤及び/又は維持剤であって、式(I):
【化1】
(式中、Xは、CH3又はCOOR2であり、ここでR2は、独立してメチル、エチル、メチルエチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、及びtert−ブチルから選択され、かつmは、0、1、2、又は3から選択され、かつR1は、H又はCOCnH2n+1であり、ここでnは、5、6、7、8、9、10、11、12、13、又は14から選択される)の少なくとも1種の微生物カロテノイド化合物を含む修復剤及び/又は維持剤。
【請求項2】
被験体若しくはヒトにおける炎症誘発性サイトカインの血漿濃度の増加の予防剤及び/又は治療剤であって、請求項1に定義される式(I)の微生物カロテノイド化合物を含む予防剤及び/又は治療剤。
【請求項3】
畜産動物又は魚における消化管成熟及び消化管バリア機能の改善剤であって、請求項1に定義される式(I)の微生物カロテノイド化合物を含む改善剤。
【請求項4】
腸管バリア健全性の乱れと関連する障害の予防剤及び/又は治療剤であって、請求項1に定義される式(I)の微生物カロテノイド化合物を含む予防剤及び/又は治療剤。
【請求項5】
腸管バリア健全性の乱れと関連する障害は、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、腸不快感、下痢、便秘、クローン病、潰瘍性大腸炎、セリアック病、嚢炎、粘膜炎、消化管感染症、消化管内微生物叢ディスバイオシス、メタボリック症候群、肥満、糖尿病、慢性疲労症候群、心血管疾患、精神障害、神経変性疾患、関節リウマチ、脊椎関節炎、癌の一形態、又はそれらの少なくとも2以上の組み合わせを含む群から選択される、請求項4に記載の予防剤及び/又は治療剤。
【請求項6】
ヒトにおける炎症誘発性サイトカインの血漿濃度の増加の予防及び/又は治療において使用するための、請求項1に定義される式(I)の微生物カロテノイド化合物を含む組成物。
【請求項7】
前記被験体は、哺乳動物、魚、又は鳥である、請求項1に記載の修復剤及び/又は維持剤。
【請求項8】
前記被験体は、ヒトである、請求項1に記載の修復剤及び/又は維持剤。
【請求項9】
前記被験体は、畜産動物又はペット、又はブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、シチメンチョウ、及びウサギを含む群から選択される畜産動物である、請求項1に記載の修復剤及び/又は維持剤。
【請求項10】
被験体における健康に有益な消化管内微生物組成の修復及び/又は維持は、
腸管における1つ若しくは限られた数の有益な細菌の増殖及び/又は活性を刺激すること、
腸管における1つ若しくは限られた数の病原性細菌の増殖及び/又は活性を阻害すること、
非病原性細菌の胃腸表面の粘膜への付着を増加させること、
消化管による抗原、炎症誘発性細菌、若しくは細菌産物の制御されない取り込みを低減させること、
腸表面で抗炎症活性をもたらすこと、
消化管バリア機能を増大させること、及び/又は、
健康に有益な微生物代謝産物を産生すること、
を含む、請求項1に記載の修復剤及び/又は維持剤。
【請求項11】
腸管バリア健全性の乱れと関連する障害の治療剤及び/又は予防剤であって、腸管における1つ若しくは限られた数の有益な細菌の増殖及び/又は活性を刺激し、腸管における1つ若しくは限られた数の病原性細菌の増殖及び/又は活性を阻害し、非病原性細菌の胃腸表面の粘膜への付着を相対的に増加させ、消化管による抗原、炎症誘発性細菌、若しくは細菌産物の制御されない取り込みを低減させ、腸表面で抗炎症活性をもたらし、消化管バリア機能化を増大させ、及び/又は健康に有益な微生物代謝産物を産生する、請求項1に定義される式(I)のカロテノイド化合物を含む治療剤及び/又は予防剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験体における健康に有益な消化管内微生物組成の修復及び/又は維持において使用するための、カロテノイド、特に式Iの微生物カロテノイド化合物、例えばメチル−グリコシル−アポ−8'−リコペノエート又はグリコシル−アポ−8'−リコペンに関する。本発明はさらに、例えば過敏性腸症候群等の腸管バリア健全性の乱れと関連する障害の治療及び/又は予防において使用するための上記化合物を提供する。
【背景技術】
【0002】
カロテノイドは最近では、その潜在的な健康有益性のため機能性食品産業において多くの関心を得ている。当初、植物において光合成の間に補助色素として働くことが見出されたカロテノイドは、心血管疾患、黄斑変性、及びその他の慢性疾患のリスクを減らすことに関連している親油性抗酸化剤である。カロテノイド産生は、幾つかの細菌及び菌類においてもUV損傷及び酸化ストレスに対する防御のために見出されているが、ヒト及びその他の動物は、カロテノイドを合成することができず、したがって食事を通じて供給されるべきである。食事からのカロテノイドの吸収は、食品基質からカロテノイドが効果的に放出され、引き続き胆汁酸及び消化酵素により可溶化されて、それらが混合ミセル中に取り込まれることに依存する。カロテノイド代謝の主要部は小腸内で起こり、腸管腔中でミセル相からリンパ循環系及び血液循環系へと受動的に移行し得る前に、カロテノイドはまた食物脂質中に溶解されねばならない。しかしながら、混合ミセル中に存在する全てのカロテノイドが吸収されるのか、又は未吸収の胆汁酸塩及びコレステロールと関連して一部が取り残されて、より遠位で吸収されるか、若しくは大腸へと失われ、そこでカロテノイドがその他の生物学的機能を発揮し得るのかは知られていない。
【0003】
600種を超える天然産生のカロテノイドが同定されており、そのうち約50種はレチノール(すなわち、ビタミンA)へと変換され得て、それらはプロビタミンAカロテノイドと呼ばれている。プロビタミンAカロテノイドは、腸粘膜において酵素的に変換され得て、レチノールが得られる。レチノールは、視覚、分化した上皮の保全、粘液分泌、及び生殖のために必要とされる(非特許文献1)。ヒトにおいては、プロビタミンA活性は、しっかりと認められている、健康アウトプットと結びついたカロテノイドの唯一の機能である。それらのプロビタミンA活性に加えて、多くのカロテノイドは、脂質過酸化の阻害、腫瘍抑制、免疫調節等のような、殆どがそれらの抗酸化特性に関連したその他の生物学的機能を有すると考えられている。カロテノイドの癌予防活性は、それらの抗酸化特性とともに、細胞成長、分化、及びアポトーシスの調節において役割を果たすギャップ結合を介した細胞間コミュニケーションの誘導及び刺激とも関連している。細胞間でのギャップ結合コミュニケーションは、それらの抗酸化特性又はプロビタミンA活性とは無関係であるように思われる(非特許文献2)。さらに、Vieiraら(非特許文献3)により、カロテノイドの血清濃度が消化管バリア健全性と相関することが示された。
【0004】
腸上皮層は、管腔内容物と宿主との間の最終バリアである。したがって、腸管バリア機能の維持は、ヒト及び動物における一般的健康及び発生のために極めて重要であり、そのため、腸管バリア機能不全は、多くの慢性的炎症関連疾患、例えば炎症性腸疾患(IBD)、過敏性腸症候群(IBS)、又は代謝制御において病因的役割を担う。同様に、消化管バリア機能の適切な成熟(の欠如)は、特に若齢期状態の感受性の高い段階で、商業的畜産における動物福祉及び生産性に対して大きな影響を及ぼす(非特許文献4)。
【0005】
腸管バリアの健全性は、腸粘液層、上皮細胞増殖、隣接細胞間の連結を形成する密着結合、及び消化管内の微生物組成を含む幾つかの要因により決定される。これらの要因の1つの変化により、腸管バリアの健全性に変化がもたらされ得る。例えば、下痢型IBS(IBS-D)においては、電子顕微鏡調査により細胞骨格の凝縮及び上皮細胞間の細胞間隙の拡大が示され、腸管透過性の増大についての形態学的な根拠がもたらされる。これらの構造的変化は、マスト細胞活性化並びに下痢及び疼痛を含む症状の両方と相関することが分かった(非特許文献5)。これらのデータは、IBS患者の結腸組織における透過性の増加を示すUssingチャンバー実験から得られる初期の観察を裏付けるものである(非特許文献6)。
【0006】
消化管内微生物叢は、胃腸管における複雑な微生物生態系を形成するとともに、食物繊維の結腸発酵、栄養素の抽出、特定のビタミンの合成、病原体によるコロニー形成の防止、腸上皮及び免疫系の成熟、全身組織への代謝産物の放出、並びに胃腸ホルモン放出及び神経機能の調節を含む幾つかの必須の機能を維持する。消化管内マイクロバイオームは、1013個〜1014個の微生物に上る、細菌、酵母、菌類、古細菌、及びウイルスを含むヒト消化管における全微生物群集からなる。消化管内の生態系の複雑性にもかかわらず、それは主として、ファーミキューテス門、バクテロイデス門、プロテオバクテリア門、フソバクテリウム門、ウェルコミクロビウム門、及びアクチノバクテリア門のような限られた数の細菌門によって表され、優勢な門としてファーミキューテス門及びバクテロイデス門を有する。ファーミキューテス門のなかで、幾つかの重要な属はフィーカリバクテリウム、バシラス、クロストリジウム、ラクトバシラス、及びロゼブリアである。これらの属は、特定のクロストリジウムクラスターに属するので、酪酸塩を産生することが可能な種を含む。
【0007】
酪酸塩産生消化管内細菌は、酪酸塩が結腸細胞への主要なエネルギー源であり、そして宿主細胞における遺伝子発現、炎症、分化、及びアポトーシスの重要な調節因子であるためヒトの消化管の健康を維持するのに主要な役割を果たすことから、最近では多くの注目を集めている(非特許文献7)。消化管バリア健全性の乱れと関連する腸疾患の共通の特徴は、消化管内マイクロバイオーム内での酪酸塩産生分類群の減少である。Pozuelaら(非特許文献8)により、IBS-D患者が、健康な個体と比較した酪酸塩産生細菌の減少を特徴とすることが示された。特に酪酸塩は、粘液生成及び密着結合発現に対するその効果により上皮防御バリアを強化し、こうして毒性及び炎症誘発性物質の腸管層の通過の低下をもたらすことにより腸レベルで重要な役割を果たす。デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発大腸炎のラットモデルにおける実験により、酪酸塩による処置が密着結合健全性の維持及びTNFα放出の阻害と関連した経上皮抵抗の回復をもたらすことが示された(非特許文献9)。同様に、離乳子豚等の幼若動物への酪酸塩の投与により、胃腸管の成熟の改善と関連して身体発育及び飼料摂取を刺激することが示された(非特許文献10)。
【0008】
したがって、消化管内微生物叢の調節又は消化管内微生物叢を調節することが知られる特定の化合物の投与による代謝産物プロファイルの調節は、腸管健全性の減退と関連する障害に対する潜在的な作用機序として使用され得る。
【0009】
本発明は、驚くべきことに、消化管内微生物組成をより効果的な酪酸塩産生消化管内微生物群集に向けて調節することによって、腸管バリア健全性に対して、微生物カロテノイドが一般的なカロテノイドよりも改善された効果を示すことを記載している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】McCullough et al., 1999, Proc. Nutr Soc, 58(2)
【非特許文献2】Zhang et al., 1992, Cancer Res 52
【非特許文献3】2008, J Pediatr Gastroenterol Nutr 47
【非特許文献4】Wijtten et al. 2011, Br J Nutr 105
【非特許文献5】Martinez et al. 2013, Gut 62
【非特許文献6】Piche et al., 2009, Gut 58
【非特許文献7】Hamer et al., 2008, Alimentary Pharmacol. & Therapeutics
【非特許文献8】Nature, 2015
【非特許文献9】Venkatraman et al., 2000, Scand J Gastroenterol 35
【非特許文献10】Le Gall et al. 2009, Br J Nutr 102
【発明の概要】
【0011】
本発明者らは、驚くべきことに、微生物カロテノイド化合物が、被験体における健康に有益な消化管内微生物組成を修復及び/又は維持することが可能であることを見出した。特に、これらの微生物カロテノイド化合物は、被験体における消化管内微生物組成をより効果的な酪酸塩産生微生物群集に向けて調節し、それにより腸管バリア健全性に影響が及ぼされる。
【0012】
したがって、第1の態様において、本発明は、被験体における健康に有益な消化管内微生物組成の修復及び/又は維持において使用するための、式(I):
【化1】
(式中、Xは、CH3又はCOOR2であり、ここでR2は、独立してメチル、エチル、メチルエチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、及びtert−ブチルから選択され、かつmは、0、1、2、又は3から選択され、かつR1は、H又はCOCnH2n+1であり、ここでnは、5、6、7、8、9、10、11、12、13、又は14から選択される)の微生物カロテノイド化合物を提供する。
【0013】
本発明はさらに、被験体、特にヒトにおける炎症誘発性サイトカインの血漿濃度の増加の予防及び/又は治療において使用するための、上記に定義される式(I)の上記微生物カロテノイド化合物を提供する。
【0014】
さらに、ヒトにおける運動能力の改善において使用するための上記微生物カロテノイド化合物が提供される。更にもう1つの実施の形態においては、本発明は、畜産動物若しくは魚における消化管成熟及び消化管バリア機能の改善において使用するための、又は畜産動物若しくは魚における生産パラメータの改善において使用するための、式(I)(その式中、Xは、CH3又はCOOR2であり、ここでR2は、独立してメチル、エチル、メチルエチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、及びtert−ブチルから選択され、かつmは、0、1、2、又は3から選択され、かつR1は、H又はCOCnH2n+1であり、ここでnは、5、6、7、8、9、10、11、12、13、又は14から選択される)の上記微生物カロテノイド化合物を提供する。
【0015】
更なるもう1つの実施の形態においては、本発明は、腸管バリア健全性の乱れと関連する障害の予防及び/又は治療において使用するための、式(I)(その式中、Xは、CH3又はCOOR2であり、ここでR2は、独立してメチル、エチル、メチルエチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、及びtert−ブチルから選択され、かつmは、0、1、2、又は3から選択され、かつR1は、H又はCOCnH2n+1であり、ここでnは、5、6、7、8、9、10、11、12、13、又は14から選択される)の微生物カロテノイド化合物を提供する。更なる実施の形態において、上記腸管バリア健全性の乱れと関連する障害は、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、腸不快感、下痢、便秘、クローン病、潰瘍性大腸炎、セリアック病、嚢炎、粘膜炎、消化管感染症、消化管内微生物叢ディスバイオシス、メタボリック症候群、肥満、糖尿病、慢性疲労症候群、心血管疾患、精神障害、神経変性疾患、関節リウマチ、脊椎関節炎、癌の一形態、又はそれらの任意の組み合わせを含む群から選択される。
【0016】
本発明はさらに、被験体、特にヒトにおける炎症誘発性サイトカインの血漿濃度の増加の予防及び/又は治療において使用するための、式(I)(その式中、Xは、CH3又はCOOR2であり、ここでR2は、独立してメチル、エチル、メチルエチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、及びtert−ブチルから選択され、かつmは、0、1、2、又は3から選択され、かつR1は、H又はCOCnH2n+1であり、ここでnは、5、6、7、8、9、10、11、12、13、又は14から選択される)の微生物カロテノイド化合物を含む組成物に関する。
【0017】
本発明はさらに、XがCH3又はCOOCH3であり、かつmが3であり、かつR1がH又はCOCnH2n+1であり、ここでnが5、6、7、8、9、10、11、12、又は13である、本明細書で上記の種々の実施の形態に記載の使用のための、式(I)の微生物カロテノイド化合物又は式(I)の微生物カロテノイド化合物を含む組成物に関する。
【0018】
好ましい実施の形態では、本発明は、XがCH3であり、かつR1がH又はCOCnH2n+1であり、ここでnが7、8、9、10、11、12、又は13である、本明細書で上記の種々の実施の形態に記載の使用のための、式(I)のカロテノイド化合物又は式(I)の微生物カロテノイド化合物を含む組成物に関する。これらの微生物カロテノイド化合物は、本明細書では、グリコシル−アポ−8'−リコペン又はCn−グリコシル−アポ−8'−リコペン(ここで、nは、8、9、10、11、12、13、又は14から選択される)としても定義され得る。
【0019】
別の好ましい実施の形態では、本発明は、XがCOOCH3であり、かつR1がH又はCOCnH2n+1であり、ここでnが5、6、7、8、9、10、又は11である、本明細書で上記の種々の実施の形態に記載の使用のための、式(I)の微生物カロテノイド化合物又は式(I)の微生物カロテノイド化合物を含む組成物に関する。これらの微生物カロテノイド化合物は、メチル−グリコシル−アポ−8'−リコペノエート又はメチル−Cn−グリコシル−アポ−8'−リコペノエート(ここで、nは、6、7、8、9、10、11、又は12から選択される)としても定義され得る。
【0020】
本明細書で全ての種々の実施の形態において記載される使用のための微生物カロテノイド化合物又は組成物はさらに、該微生物カロテノイド化合物が、バシラス、スタフィロコッカス、ストレプトコッカス、メチロバクテリウム、ルブリタレア、又はスポロサルシナから選択される細菌種、より具体的にはバシラス・インディカス(Bacillus indicus)種から得られることを特徴としている。なおも更なる実施の形態においては、上記微生物カロテノイド化合物は、アクセッション番号LMG P-29664として寄託されたPD01株(2016年6月15日にBCCMで寄託された)又はHU19バシラス・インディカス株(アクセッション番号NCIMB 41359を有する)から得られる。
【0021】
上記に示されるように、本発明は、被験体における健康に有益な消化管内微生物組成の修復及び/又は維持において使用するための、本明細書で上記に定義される少なくとも1種の微生物カロテノイド化合物、本明細書で上記に定義される上記微生物カロテノイド化合物を含む組成物に関する。上記被験体は、哺乳動物、魚、又は鳥であり得る。特定の実施の形態においては、上記被験体は、ヒトである。もう1つの特定の実施の形態においては、上記被験体は、生産動物若しくは畜産動物又はペットである。上記生産動物又は上記畜産動物は、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、シチメンチョウ、又はウサギを含む群から選択され得る。上記ペットは、ネコ又はイヌから選択され得る。
【0022】
本明細書で既に上記に示されるように、本発明は、被験体における健康に有益な消化管内微生物組成の修復及び/又は維持において使用するためのカロテノイド化合物を開示している。上記消化管内微生物組成(又は消化管内微生物叢とも呼ばれる)は、被験体の胃腸管内の複雑な生態系である。その消化管内微生物組成は、細菌、酵母、菌類、古細菌、及びウイルスを含む消化管における全微生物群集からなる。消化管内微生物叢は、食物繊維の結腸発酵、栄養素の抽出、特定のビタミンの合成、病原体によるコロニー形成の防止、腸上皮及び免疫系の成熟、全身組織への代謝産物の放出、並びに胃腸ホルモン放出及び神経機能の調節を含む幾つかの必須の機能を維持する。消化管内微生物組成の正常なバランスの乱れにより、腸管バリア健全性の減退がもたらされ得ることは一般的に認識されており、これは多くの種々の疾患においてしばしば観察される。本発明においては、本明細書で上記に定義されるカロテノイド化合物又は微生物材料又は上記カロテノイド化合物を含む組成物を使用することで、被験体における健康に有益な消化管内微生物組成の修復及び/又は維持がもたらされることが示されている。上記健康に有益な消化管内微生物組成の修復及び/又は維持は、
腸管における1つ若しくは限られた数の有益な細菌の増殖及び/又は活性を刺激すること、
腸管における1つ若しくは限られた数の病原性細菌の増殖及び/又は活性を阻害すること、
非病原性細菌の胃腸表面の粘膜への付着を増加させること、
消化管による抗原、炎症誘発性細菌、若しくは細菌産物の制御されない取り込みを低減させること、
腸表面で抗炎症活性をもたらすこと、
消化管バリア機能を増大させること、及び/又は、
健康に有益な微生物代謝産物を産生すること、
を含む。
【0023】
更なる実施の形態においては、本明細書で上記に定義される本発明による化合物又は組成物は、腸管バリア健全性の乱れと関連する障害の予防及び/又は治療において使用される。特定の実施の形態においては、上記化合物又は組成物は、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、腸不快感、下痢、便秘、クローン病、潰瘍性大腸炎、セリアック病、嚢炎、粘膜炎、病原体(細菌、ウイルス、菌類)による消化管感染症、消化管内微生物叢ディスバイオシス、メタボリック症候群、肥満、糖尿病、慢性疲労症候群、心血管疾患、精神状態、神経変性疾患、関節リウマチ、脊椎関節炎、癌の一形態、又はそれらの任意の組み合わせの予防及び/又は治療において使用される。神経変性疾患の例としては、限定されるものではないが、ALS、認知症、アルツハイマー病、パーキンソン病、及びハンチントン病が挙げられる。癌の型の例としては、限定されるものではないが、肺癌、乳癌、前立腺癌、膵臓癌、及び特に結腸直腸癌が挙げられる。自己免疫疾患の例としては、限定されるものではないが、多発性硬化症、アトピー性皮膚炎、セリアック病、乾癬、及び狼瘡が挙げられる。
【0024】
もう1つの実施の形態においては、本明細書で上記に定義される本発明による上記化合物又は組成物は、被験体、特にヒトにおける炎症誘発性サイトカインの血漿濃度の増加の予防及び/又は治療において使用される。被験体、特にヒトにおける上記の炎症誘発性サイトカインの血漿濃度の増加は、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、セリアック病、嚢炎、粘膜炎、感染性疾患、リウマチ、関節リウマチ、脊椎関節炎、高コレステロール血症、メタボリック症候群、肥満、糖尿病、自己免疫状態、免疫機能障害を含む群から選択される障害において観察される。
【0025】
更にもう1つの実施の形態においては、本明細書で上記に定義される本発明による化合物又は組成物は、運動能力の改善において使用される。
【0026】
更にもう1つの実施の形態においては、本明細書で上記に定義される本発明による上記化合物又は組成物は、畜産動物又は魚における消化管成熟及び消化管バリア機能の改善において使用される。なおも更なる実施の形態においては、上記化合物又は組成物は、畜産動物又は魚における生産パラメータの改善において使用される。生産パラメータには、養殖段階及び肥育段階の間の一日平均増体重(ADG)又は飼料要求率(FCR)が含まれ得る。さらに、生産パラメータは、発育中の動物における死亡率にも反映される。
【0027】
本発明はまた、腸管バリア健全性の乱れと関連する障害、又は消化管内微生物組成の乱れと関連する障害の治療及び/又は予防の方法であって、本明細書で上記に定義されるカロテノイド化合物を使用して、腸管における1つ若しくは限られた数の有益な細菌の増殖及び/又は活性を刺激し、腸管における1つ若しくは限られた数の病原性細菌の増殖及び/又は活性を阻害し、非病原性細菌の胃腸表面の粘膜への付着を相対的に増加させ、消化管による抗原、炎症誘発性細菌、若しくは細菌産物の制御されない取り込みを低減させ、腸表面で抗炎症活性をもたらし、消化管バリア機能化を増大させ、及び/又は健康に有益な微生物代謝産物を産生する、方法を開示している。
【0028】
これより図面を具体的に参照するが、示される項目は例示であり、本発明の種々の実施形態の説明的な論考のみを目的とすることが強調される。これらの図面は、本発明の原理及び概念的態様の最も有用かつ簡単な説明であると考えられるものを提供するために提示される。この点で、本発明の基礎的理解に必要とされるよりも詳細な本発明の構造細部を示そうとはしていない。この説明は、図面と共に本発明の幾つかの形態を実際に具体化し得る方法を当業者に明らかとするものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】式(I)の化合物を示す図である。
図2】バシラス・インディカス株PD01の栄養細胞及び芽胞内に含まれるカロテノイドのプロファイルを示す図である。A=非エステル化橙色カロテノイド、B=非エステル化黄色カロテノイド、C=エステル化橙色カロテノイド、D=エステル化黄色カロテノイド。
図3】バシラス・インディカス株PD01の「Free O」カロテノイド抽出物のカロテノイドプロファイルを示す図である。クロマトグラムは、200 nm〜600 nmで得られる。
図4】バシラス・インディカス株PD01の「Ester Y/O」カロテノイド抽出物のカロテノイドプロファイルを示す図である。クロマトグラムは、200 nm〜600 nmで得られる。
図5】未処置(コントロール)又は株PD01から抽出されたカロテノイド(CAR)若しくは株PD01の栄養細胞内に含まれるカロテノイド(VEG)による処置のいずれかの、ヒト腸管内微生物生態系シミュレータ(Simulator of the Human Intestinal Microbial Ecosystem)(SHIME(商標))の近位結腸(PC)区画又は遠位結腸(DC)区画において測定された全短鎖脂肪酸(SCFA)レベル(mM)(A)及び酪酸塩対酢酸塩(B/A)比(B)を示す図である。
図6】SHIME実験の近位結腸(PC)(A)区画又は遠位結腸(DC)(B)区画の株PD01から抽出されたカロテノイドによる処置後の変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(DGGE)プロファイルを示す図である。
図7】株PD01から抽出されたカロテノイドにより処置されたSHIMEの近位結腸(PC)区画及び遠位結腸(DC)区画の処置後のファーミキューテス(A)群及びクロストリジウム・コッコイデス(Clostridium coccoides)/ユーバクテリウム・レクタレ(Eubacterium rectale)(B)群からのqPCR結果を示す図である。結果は、コントロール期間と比較された存在量の増加/減少として表現される。
図8】株PD01の芽胞内に含まれるカロテノイドにより処置されたSHIMEの近位結腸(PC)区画及び遠位結腸(DC)区画の処置後のファーミキューテス(A)群及びクロストリジウム・コッコイデス/ユーバクテリウム・レクタレ(B)群からのqPCR結果を示す図である。結果は、コントロール期間と比較された存在量の増加/減少として表現される。
図9】処置前のラット(T0)、低脂肪食餌で8週間にわたり処置されたラット(LF)、及び高脂肪食餌で8週間にわたり処置されたラット(HF)の消化管内微生物叢を比較する系統樹を示す図である。
図10】処置前のラット(T0)、低脂肪食餌で8週間にわたり処置されたラット(LF)、高脂肪食餌で8週間にわたり処置されたラット(HF)、高脂肪食餌及び株PD01の栄養細胞内に含まれるカロテノイドで8週間にわたり処置されたラットの消化管内微生物叢を比較する系統樹を示す図である。
図11】処置前のラット(T0)、低脂肪食餌で8週間にわたり処置されたラット(LF)、高脂肪食餌で8週間にわたり処置されたラット(HF)、高脂肪食餌及びルテインで8週間にわたり処置されたラット(LUT)、並びに高脂肪食餌及び株PD01から抽出されたカロテノイドで8週間にわたり処置されたラット(CAR)を比較する系統樹を示す図である。
図12】Caco-2/THP1XBの同時培養物を、株PD01の栄養細胞から抽出されたカロテノイド又は株PD01の芽胞内に含まれるカロテノイドにより処置してから18時間後に測定された経上皮電気抵抗(TEER)を示す図である。点線は、比較のためにgMコントロール平均に設定されている。(*)は、gMコントロールとは有意差があることを表している(t−検定)、α−tocoph.=α−トコフェロール、CAR=株PD01から抽出されたカロテノイド、CELL、株PD01の栄養細胞内に含まれるカロテノイド、gM ctrl=増殖培地(DMEM)コントロール、SP=株PD01の芽胞内に含まれるカロテノイド、IV=初期値、すなわち処置前(0時間)のTEER。
図13】低脂肪食餌(LF)、高脂肪食餌(HF)、高脂肪食餌及びPD01の芽胞内に含まれるカロテノイド(SP)、高脂肪食餌及びPD01の栄養細胞内に含まれるカロテノイド(CELL)、又は高脂肪食餌及びPD01から抽出されたカロテノイド(CAR)による処置の8週間後のラットにおける血漿TNF-α濃度(pg/ml)を示す図である。
図14】PD01−カロテノイド処置された及びプラセボ処置された健康であるが体重超過の個体(それぞれ、n=29及びn=31)に関するベースラインから研究期間の終わりまでの、消化不良症候群についての胃腸症状評価尺度(GSRS)スコアの変化を示す図である。*p<0.1、**p<0.05。
図15】第II相臨床研究の間のPD01で処置された体重超過の被験体(n=29)の空腹時血漿中のカロテノイド濃度を示す図である。水平バーは中央値を表し、箱は25パーセンタイル〜75パーセンタイルを表し、ひげは5パーセンタイル〜95パーセンタイルを示す。小さい丸印は外れ値を示す。
図16】株PD01の芽胞内に含まれるカロテノイドを23日間供給した後の離乳子豚の消化物における、コントロール食餌と比較した全短鎖脂肪酸(SCFA)レベル(μmol/g)(A)及び酪酸塩対酢酸塩(B/A)比(B)を示す図である(n=2×8)。
図17】株PD01の芽胞内に含まれるカロテノイドを23日間供給した後の離乳子豚の腸管組織における、コントロール食餌と比較した密着結合TJP1及びOCLNの相対遺伝子発現(HBMS2の発現に対して正規化される)を示す図である(n=2×8)。*p<0.1、SI(50%)、SI(90%):小腸の長さの50%、90%。
図18】株PD01の芽胞内に含まれるカロテノイドを23日間供給した後の離乳子豚の腸管組織における、コントロール食餌と比較したIL-1aの相対遺伝子発現を示す図である(n=2×8)。SI(90%):小腸の長さの90%。
図19】LPS単独に曝露した後の、又はLPS及び株PD01の栄養細胞から抽出されたPD01のカロテノイド若しくは株PD01の芽胞内に含まれるPD01のカロテノイド;LPS及び10 μM又は25 μMのβ−カロテン;LPS及びバシラス・クラウシイ(Bacillus clausii)の栄養細胞;LPS及びビヒクルに曝露した後の、完全培地(CM)中の未処置の細胞と比較したPBMCの免疫調節応答の主成分分析(PCA)を示す図である(n=2人の供与体、3ウェル/処置)。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、消化管内微生物組成をより効果的かつ健康に有益な消化管内微生物群集に向けて調節するための方法、化合物、及び微生物カロテノイド化合物を含む組成物、並びにそれらの使用に関する。特に、本発明による方法、化合物、及び微生物カロテノイド化合物を含む組成物は、主として消化管内微生物叢を効果的な酪酸塩産生微生物群集に向けて調節することによって、腸管内での酪酸塩産生に有益な効果を有することが判明した。
【0031】
上記消化管内微生物組成(又は消化管内マイクロバイオームとも呼ばれる)は、ヒト又は動物の胃腸管内の複雑な生態系である。その消化管内微生物組成は、細菌、酵母、菌類、古細菌、及びウイルスを含む消化管における全微生物群集からなる。消化管内微生物叢は、食物繊維の結腸発酵、栄養素の抽出、特定のビタミンの合成、病原体によるコロニー形成の防止、腸上皮及び免疫系の成熟、全身組織への代謝産物の放出、並びに胃腸ホルモン放出及び神経機能の調節を含む幾つかの必須の機能を維持する。消化管内微生物組成における正常なバランスの乱れにより、腸管バリア健全性の減退がもたらされ得ることは一般的に認識されており、それは、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、腸不快感、下痢、便秘、クローン病、潰瘍性大腸炎、セリアック病、嚢炎、粘膜炎、病原体(細菌、ウイルス、菌類)による消化管感染症、消化管内微生物叢ディスバイオシスのみならず、自己免疫疾患、メタボリック症候群、心血管疾患、肥満、2型糖尿病、慢性疲労症候群、精神状態、神経変性疾患、関節リウマチ、脊椎関節炎、癌の一形態、又はそれらの任意の組み合わせを含む多くの種々の疾患において観察される。
【0032】
消化管内微生物叢はまた、代謝疾患に寄与し得るリポ多糖及びペプチドグリカン等の炎症性分子の起源でもある。
【0033】
腸管層は、管腔内容物と宿主との間の最終バリアを形成する。したがって、このバリアの維持は極めて重要であり、この腸管層の健全性の減退は、しばしば多くの疾患、例えば炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、又はセリアック病の原因である。したがって、上記腸管層の腸上皮細胞間の相互作用は、腸管バリア健全性の維持のために極めて重要である。これらの相互作用は、上皮細胞間の密着結合、デスモソーム、接着結合、及びギャップ結合により行われる。腸管健全性の変化は、粘液層の変化、上皮細胞増殖若しくは細胞死の変化、又は隣接細胞間の連結、例えば密着結合の変化から生じ得る。
【0034】
さらに、消化管内で発酵の間に、嫌気性細菌は、消化しにくい炭水化物を、酢酸塩、プロピオン酸塩、及び酪酸塩を含む短鎖脂肪酸へと分解する。酪酸塩は、結腸細胞に対する主要なエネルギー源であり、そして宿主細胞における遺伝子発現、炎症、分化、及びアポトーシスの重要な調節因子であるので、消化管の健康を維持するのに主要な役割を果たす(Louis and Flint, FEMS Microbiol Lett 294, 2009)。さらに、酪酸塩は、粘液生成及び密着結合発現に対するその効果によって上皮防御バリアを強化し、こうして毒性及び炎症誘発性物質の腸管層の通過の低下をもたらすことにより腸レベルで重要な役割を果たす。さらに、酪酸塩は、疾患モデルにおいて誘発された腸管透過性の増大を抑えることにより、in vitro及びin vivoの両方の状況において腸管透過性を減少させることが示されている。さらに、離乳子豚等の幼若動物への酪酸塩の投与により、胃腸管の成熟の改善と関連する身体発育及び飼料摂取を刺激する。
【0035】
本発明においては、本明細書で上記に定義される使用のための微生物カロテノイド化合物又は本明細書で上記に定義される使用のための上記微生物カロテノイド化合物を含む組成物が、主として消化管内微生物叢を効果的な酪酸塩産生微生物群集に向けて調節することによって、腸管内での酪酸塩産生に有益な効果を有することが示される。この有益な効果は、植物由来のカロテノイド、例えばルテインを使用しては観察されなかった。
【0036】
1つの実施形態においては、本発明は、したがって、被験体における健康に有益な消化管内微生物組成の修復及び/又は維持において使用するための式(I)のカロテノイド化合物を開示している。本明細書で上記に示されるように、本発明の1つの実施形態においては、式(I)において、Xは、CH3又はCOOR2であり、ここでR2は、独立してメチル、エチル、メチルエチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、及びtert−ブチルから選択され、かつmは、0、1、2、又は3から選択され、かつR1は、H又はCOCnH2n+1であり、ここでnは、5、6、7、8、9、10、11、12、13、又は14から選択される。本発明の好ましいカロテノイド化合物は、図1に示される式(I)の化合物であって、Xが、CH3又はCOOCH3であり、かつmが、3であり、かつR1が、H又はCOCnH2n+1であり、ここでnが、5、6、7、8、9、10、11、12、又は13から選択される、化合物である。好ましくは、Xは、CH3であり、かつR1は、H又はCOCnH2n+1であり、ここでnは、7、8、9、10、11、12、又は13から選択される。もう1つの好ましい実施形態においては、Xは、COOCH3であり、かつR1は、H又はCOCnH2n+1であり、ここでnは、5、6、7、8、9、10、又は11から選択される。更なる好ましい実施形態においては、これらの微生物カロテノイド化合物は、グリコシル−アポ−8'−リコペン又はCn−グリコシル−アポ−8'−リコペン(ここで、nは、8、9、10、11、12、13、又は14から選択される)である。もう1つの好ましい実施形態においては、これらの微生物カロテノイド化合物は、メチル−グリコシル−アポ−8'−リコペノエート又はメチル−Cn−グリコシル−アポ−8'−リコペノエート(ここで、nは、6、7、8、9、10、11、又は12から選択される)である。
【0037】
本発明の微生物カロテノイド化合物は、カロテノイドの群に属する。カロテノイドは最近では、その潜在的な健康有益性のため機能性食品産業において多くの関心を得ている。当初、植物において光合成の間に補助色素として働くことが見出されたカロテノイドは、心血管疾患、黄斑変性、及びその他の慢性疾患のリスクを減らすことに関連している親油性抗酸化剤である。カロテノイド産生は、幾つかの細菌及び菌類においてもUV損傷及び酸化ストレスに対する防御のために見出されているが、ヒト及びその他の動物は、カロテノイドを合成することができず、したがってカロテノイドを食事から取得する必要がある。食事からのカロテノイドの吸収は、食品基質からカロテノイドが効果的に放出され、引き続き胆汁酸及び消化酵素により可溶化されて、それらが混合ミセル中に取り込まれることに依存する。カロテノイド代謝の主要部は小腸内で起こり、ミセル相から腸管腔を通じてリンパ循環系及び血液循環系へと受動的に移行し得る前に、カロテノイドはまた、食物脂質中に溶解されねばならない。しかしながら、混合ミセル中に存在する全てのカロテノイドが吸収されるのか、又は未吸収の胆汁酸塩及びコレステロールと関連して一部が取り残されて、より遠位で吸収されるか、若しくは大腸へと失われ、そこでカロテノイドがその他の生物学的機能を発揮し得るのかは知られていない。
【0038】
600種を超える天然産生のカロテノイドが同定されており、そのうち約50種はレチノール(すなわち、ビタミンA)へと変換され得て、それはプロビタミンAカロテノイドと呼ばれている。プロビタミンAカロテノイドは、腸粘膜において酵素的に変換され得て、レチノールが得られる。レチノールは、視覚、分化した上皮の保全、粘液分泌、及び生殖のために必要とされる(非特許文献1)。ヒトにおいては、プロビタミンA活性は、しっかりと認められている、健康アウトプットと結びついたカロテノイドの唯一の機能である。それらのプロビタミンA活性に加えて、多くのカロテノイドは、脂質過酸化の阻害、腫瘍抑制活性、免疫調節等のような、殆どがそれらの抗酸化特性に関連した多くの生物学的機能を有すると考えられている。カロテノイドの癌予防活性は、それらの抗酸化特性とともに、細胞成長、分化、及びアポトーシスの調節において役割を果たすギャップ結合を介した細胞間コミュニケーションの誘導及び刺激とも関連している。細胞間でのギャップ結合コミュニケーションは、それらの抗酸化特性又はプロビタミンA活性とは無関係であるように思われる(非特許文献2)。さらに、Vieiraら(非特許文献3)により、カロテノイドの血清濃度が消化管バリア健全性と相関することが示された。したがって、カロテノイドは、腸管バリア機能の乱れのための良好なマーカーを提供し得る。
【0039】
本発明による使用のための微生物カロテノイド化合物は、バシラス、スタフィロコッカス、ストレプトコッカス、メチロバクテリウム、ルブリタレア、又はスポロサルシナから選択される細菌種からの細菌芽胞、細菌栄養細胞、細菌細胞の抽出物、細菌細胞の代謝産物、又はそれらの任意の組み合わせから得ることができる。特に好ましい実施形態においては、本発明の種々の実施形態による使用のための上記カロテノイド化合物は、バシラス・インディカス種から得られる。更なる好ましい実施形態においては、上記カロテノイド化合物は、アクセッション番号LMG P-29664として寄託されたバシラス・インディカスPD01株(2016年6月15日にBCCMで寄託された)又はバシラス・インディカスHU19株(アクセッション番号NCIMB 41359を有する)から得られる。
【0040】
細菌は一般的に、細菌芽胞の形で若しくは細菌栄養細胞として、又は両者の混合物として存在する。特に好ましい場合においては、上記細菌は、細菌芽胞の形で存在し、それらは、発芽することができないように処理されていてもよい。例えば、上記芽胞は、熱により処理されていてもよく、例えば発芽を防ぐためにオートクレーブ処理がなされていてもよい。多くの場合においては、上記細菌は、発芽することができる芽胞の形で提供され得る。もう1つの好ましい実施形態においては、上記細菌は、栄養細胞の形で存在する。上記芽胞又は上記栄養細胞は、1つの実施形態においては、単離形で提供され得る。更にもう1つの実施形態においては、上記微生物材料は、細菌細胞の抽出物であり得る。更なるもう1つの実施形態においては、上記微生物材料は、細胞成長の間に培養培地中に放出される細菌細胞の代謝産物であり得る。もう1つの更なる実施形態においては、上記微生物材料は、細菌芽胞、細菌栄養細胞、細菌細胞の抽出物、又は細菌細胞の代謝産物の任意の組み合わせであり得る。
【0041】
本発明の種々の実施形態による使用のための微生物カロテノイド化合物は、消化管内微生物叢による酪酸塩産生の増大をもたらす。特に、上記微生物カロテノイド化合物は、消化管内微生物組成を酪酸塩産生細菌優位に調節する。言い換えると、本発明による使用のための微生物カロテノイド化合物は、消化管内微生物組成の変化を酪酸塩産生細菌優位に誘導することにより、健康に有益な消化管内微生物組成の修復及び/又は維持をもたらす。さらに、本発明による使用のための微生物カロテノイド化合物はまた、消化管バリア透過性の減少及び消化管バリア耐性の増加により消化管バリア機能を改善する。
【0042】
本明細書で使用される場合に、本明細書で上記に定義されるカロテノイド化合物、微生物材料、又は組成物は、被験体における健康に有益な消化管内微生物組成の修復及び/又は維持において使用される。上記健康に有益な消化管内微生物組成の修復及び/又は維持は、
腸管における1つ若しくは限られた数の有益な細菌の増殖及び/又は活性を刺激すること、
腸管における1つ若しくは限られた数の病原性細菌の増殖及び/又は活性を阻害すること、
非病原性細菌の胃腸表面の粘膜への付着を増加させること、
消化管による抗原、炎症誘発性細菌、若しくは細菌産物の制御されない取り込みを低減させること、
腸表面で抗炎症活性をもたらすこと、
消化管バリア機能を増大させること、及び/又は、
健康に有益な微生物代謝産物を産生すること、
を含む。
【0043】
言い換えると、本発明によるカロテノイド化合物、微生物材料、又は組成物は、被験体における消化管内微生物組成の正常な恒常性の修復及び/又は維持において使用され、したがってまた、被験体における一般的な消化管内健康の修復及び/又は維持をもたらす。
【0044】
その腸管バリア機能に対する好ましい効果のため、本発明はまた、腸管バリア健全性の乱れと関連する障害の予防及び/又は治療において使用するための、本明細書で上記に定義される式(I)の微生物カロテノイド化合物、又は上記化合物を含む組成物に関する。さらに、本発明はまた、腸管バリア健全性の乱れと関連する障害の治療及び/又は予防の方法であって、本明細書で上記に定義される本発明による化合物又は組成物を使用して、
腸管における1つ若しくは限られた数の有益な細菌の増殖及び/又は活性を刺激し、
腸管における1つ若しくは限られた数の病原性細菌の増殖及び/又は活性を阻害し、
非病原性細菌の胃腸表面の粘膜への付着を増加させ、
消化管の抗原、炎症誘発性細菌、若しくは細菌産物の制御されない取り込みを低減させ、
腸表面で抗炎症活性をもたらし、
消化管バリア機能を増大させ、及び/又は、
健康に有益な微生物代謝産物を産生する、
方法を開示している。
【0045】
腸管バリア健全性の乱れと関連する障害、又は腸管バリア機能不全と関連する障害は、限定されるものではないが、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、腸不快感、下痢、便秘、クローン病、潰瘍性大腸炎、セリアック病、嚢炎、粘膜炎、病原体(細菌、ウイルス、菌類)による消化管感染症、消化管内微生物叢ディスバイオシス、メタボリック症候群、肥満、糖尿病、慢性疲労症候群、心血管疾患、精神状態、神経変性疾患、関節リウマチ、脊椎関節炎、癌の一形態、又はそれらの任意の組み合わせを含む群から選択される。
【0046】
本明細書で使用される「炎症性腸疾患」(IBD)(「慢性結腸疾患」とも呼ばれる)には、胃腸管の種々の水準での持続性粘膜炎症を特徴とする任意の状態、例えばクローン病又は潰瘍性大腸炎が含まれる。
【0047】
本明細書で使用される「過敏性腸症候群」(IBS)は、よく見られる大腸又は結腸を冒す障害である。IBSは一般的に、痙攣、腹痛、鼓張、ガス、下痢、及び便秘を引き起こす。クローン病又は潰瘍性大腸炎のようなその他の胃腸疾患とは異なり、IBSは、腸組織に変化を引き起こさず、又は結腸直腸癌のリスクを高める慢性状態である。下痢型IBSにおいては、電子顕微鏡調査により細胞骨格の凝縮及び上皮細胞間の細胞間隙の拡大が示され、IBSにおける腸管透過性の増大についての形態学的な根拠がもたらされた。
【0048】
本明細書で使用される「潰瘍性大腸炎」は、結腸において炎症及び潰瘍を引き起こすIBDの慢性再発性の形態である。該疾患は、結腸の炎症を引き起こす疾患の群である結腸炎の型である。活動性潰瘍性大腸炎の主な症状は、血液が混ざった下痢である。
【0049】
「クローン病」はまた、口から肛門までの胃腸管の任意の部分を冒し得るIBDの型である。徴候及び症状には、しばしば、腹痛、血液が混ざっている場合がある下痢、発熱、及び体重減が含まれる。その他の合併症は、胃腸管外で生じ得て、それには貧血、皮膚発疹、関節炎、眼の炎症、及び疲労感が含まれる。一般的に腸閉塞も起こり、該疾患を伴うことで大腸癌のリスクがより高くなる。クローン病は、遺伝的に感受性の個体において環境的要因、免疫的要因、及び細菌的要因の組み合わせにより引き起こされる。それにより、身体の免疫系が恐らく微生物性抗原に向けて胃腸管を攻撃する慢性炎症性障害が生ずる。
【0050】
本明細書で使用される「嚢炎」は、回腸嚢の炎症として定義される。回腸嚢は、結腸切除術を受けた患者において回腸組織から手術により作製された人工直腸である。回腸嚢は、しばしば、潰瘍性大腸炎を伴う患者の管理において作製される。
【0051】
「セリアック病」は、主として小腸を冒す自己免疫障害である。典型的症状には、慢性下痢、腹部膨満、吸収不良、食欲不振等の胃腸の問題が含まれ、小児の間では正常に発育しないことが含まれる。該疾患は、グルテンに対する反応により引き起こされる。グルテンに曝されると、異常な免疫応答により、数多くの種々の臓器を冒し得る幾つかの種々の自己抗体の産生が引き起こされる場合がある。小腸においては、これにより炎症反応が引き起こされ、小腸の内側を覆う柔突起の短縮をもたらし、こうして栄養吸収の阻害がもたらされ、しばしば貧血が引き起こされる場合がある。
【0052】
神経変性疾患の例としては、限定されるものではないが、ALS、認知症、アルツハイマー病、パーキンソン病、及びハンチントン病が挙げられる。癌の型の例としては、限定されるものではないが、肺癌、乳癌、前立腺癌、膵臓癌、及び特に結腸直腸癌が挙げられる。自己免疫疾患の例としては、限定されるものではないが、多発性硬化症、アトピー性皮膚炎、セリアック病、乾癬、及び狼瘡が挙げられる。
【0053】
本発明はまた、ヒトにおける炎症誘発性サイトカインの血漿濃度の増加の予防及び/又は治療において使用するための、本明細書で上記に定義される式(I)の微生物カロテノイド化合物、又は上記化合物を含む組成物に関する。ヒトにおける炎症誘発性サイトカインの血漿濃度の増加を伴う障害は、限定されるものではないが、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、セリアック病、嚢炎、粘膜炎、感染性疾患、リウマチ、関節リウマチ、脊椎関節炎、高コレステロール血症、メタボリック症候群、肥満、糖尿病、自己免疫疾患、又は免疫機能障害を含む群から選択され得る。
【0054】
更にもう1つの実施の形態においては、本明細書で上記に定義される本発明による化合物又は組成物は、運動能力の改善において使用される。高強度エクササイズを受けた運動選手は、痙攣、下痢、鼓張、悪心、及び出血のような胃腸症状の発生の増加を示す。これらの症状は、腸管透過性の変化及び消化管バリア機能の減少と関連している。また胃腸透過性の増加は内毒素症を引き起こし、組織及び血流への病原体又は毒素の吸収のため、感染性疾患及び自己免疫疾患への感受性の増加をもたらす。
【0055】
本発明はまた、畜産動物又は魚における消化管成熟及び消化管バリア機能の改善において使用するための、本明細書で上記に定義される微生物カロテノイド化合物、又は上記化合物を含む組成物を提供する。特に、本発明による微生物カロテノイド化合物又は組成物は、消化管バリア機能を増強し、消化管内微生物叢組成を調節することにより、動物、例えば畜産動物又は魚における一般的な消化管の健康を改善し、それにより消化管成熟が改善される。
【0056】
動物、特にブタ、家畜又は魚の総合的能力及び生産が、該動物の一般的な健康状態に関連することは一般的に知られている。したがって、上記動物における感染症の予防、及び健康状態の保証は、精肉業又は魚類養殖業のために重要である。精肉業及び(and)魚類養殖業の両方において、生産パラメータは、畜産動物又は魚類養殖の生産性を測るために重要である。ブタ、ヒツジ、ウシ、ウマ又は家禽等の畜産動物に関して、これらのパラメータには、養殖段階及び肥育段階の間の一日平均増体重(ADG)又は飼料要求率(FCR)が含まれる。さらに、生産パラメータは、発育中の動物における死亡率にも反映される。
【実施例】
【0057】
本発明を、以下の実験例を参照することにより更に説明する。これらの実施例は、説明の目的のためだけに提供されるものであって、特段の記載が無い限り限定することを意図するものではない。したがって、本発明は、決して以下の実施例に限定されるものとは解釈されるべきではなく、むしろ本明細書で提供される教示の結果として明らかとなるあらゆる変形形態を含むものと解釈されるべきである。
【0058】
更なる説明が無くとも、当業者であれば、これらの上記説明及び以下の実例的な実施例を用いて、本発明の化合物を作製及び利用し、特許請求の範囲に記載される方法を実施することが可能であると考えられる。したがって、以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を具体的に示すものであり、決して本開示の残りの部分を限定するものと解釈されるべきではない。
【0059】
実施例1:バシラス・インディカス株PD01(LMG P-29664)から抽出されたカロテノイドの特性評価
栄養細胞又は芽胞のいずれかから得られたPD01(LMG P-29664)由来のカロテノイドを、超高性能液体クロマトグラフィー−ダイオードアレイ検出−質量分析法(UHPLC-DAD-MS)により特性評価した。上記カロテノイドは、最適化された脂質抽出によって細菌から抽出され、それらのカロテノイド組成及び含量は、C18カラムでのHPLC分析により測定された。それらの結果は、栄養細胞由来の抽出物が主として430/454/484 nmで吸収を示すカロテノイドから構成されていることを示し、これらのカロテノイドを、エステル化黄色カロテノイド及び非エステル化黄色カロテノイドとして定義した(図2)。それに対して、芽胞から生成された抽出物は、430/454/484 nmで吸収を示すカロテノイド(黄色カロテノイド)及び440/466/494 nmで吸収を示すカロテノイドの2つの群のカロテノイドから構成されていた。後者を、エステル化橙色カロテノイド及び非エステル化橙色カロテノイドとして定義した(図2)。
【0060】
PD01由来の2種の異なるカロテノイド抽出物を、UHPLC-DAD-MS及び分光測光法により更に分析して、混合物中に存在する異なる個々のカロテノイドを同定した。
【0061】
第1のカロテノイド抽出物(「Free O」(「遊離の橙色(Free Orange)」を表す)抽出物と呼ばれる)は、栄養細胞及び芽胞の混合物から得られた。該抽出物中に存在する主要なカロテノイドは、橙色カロテノイドであるメチル−グリコシル−アポ−8'−リコペノエート(遊離形として、図3、ピーク1及びピーク2)であり、この抽出物中により少量で見られるその他のカロテノイドは、この橙色カロテノイドのエステル化形態(図3、ピーク4〜ピーク10)、及び黄色カロテノイドの遊離のエステル化形態(図3、ピーク3及びピーク12〜ピーク14)、並びに8'−アポフィトエン(ピーク18、橙色/黄色カロテノイドの前駆体)、及びメナキノン−7(図3、ピーク19)であった。これらのカロテノイドのスペクトル特性及び具体的な識別は、表1に見ることができる。
【0062】
PD01株のもう1つの抽出物(「Ester Y/O」(「エステルの黄色/橙色(Ester Yellow/Orange)」を表す)抽出物と呼ばれる)は、栄養細胞及び芽胞の別の混合物(異なる比率)から得られた。UHPLC-DAD-MS分析により、この抽出物が橙色カロテノイドのエステル化形態及び黄色カロテノイドのエステル化形態から主として構成されていることが明らかになった(図4、ピーク4〜ピーク17)。この抽出物においては、メナキノン−7(ピーク19)及び8'−アポフィトエン(ピーク18、橙色/黄色カロテノイドの前駆体)の含量はかなり多かった。種々のピークの識別及びスペクトル特性は、表1に詳記されている。
【0063】
表1.PD01のカロテノイドのスペクトル特性及び識別
【表1】
上記化合物名
メチル−グリコシル−アポ−8'−リコペノエート
cis−メチル−グリコシル−アポ−8'−リコペノエート
グリコシル−アポ−8'−リコペン
メチル−C6−グリコシル−アポ−8'−リコペノエート
メチル−C7−グリコシル−アポ−8'−リコペノエート
メチル−C8−グリコシル−アポ−8'−リコペノエート
メチル−C9−グリコシル−アポ−8'−リコペノエート
メチル−C10−グリコシル−アポ−8'−リコペノエート
メチル−C11−グリコシル−アポ−8'−リコペノエート
メチル−C12−グリコシル−アポ−8'−リコペノエート
C8−グリコシル−アポ−8'−リコペン
C9−グリコシル−アポ−8'−リコペン
C10−グリコシル−アポ−8'−リコペン
C11−グリコシル−アポ−8'−リコペン
C12−グリコシル−アポ−8'−リコペン
C13−グリコシル−アポ−8'−リコペン
C14−グリコシル−アポ−8'−リコペン
8'−アポフィトエン
メナキノン−7
【0064】
実施例2:株PD01(LMG P-29664)由来のカロテノイドのin vitroでの酪酸塩産生に対する効果
株PD01由来のカロテノイドの反復摂取の酪酸塩産生に対する効果を研究するために、動的消化管モデル、すなわちヒト腸管内微生物生態系シミュレータ(Simulator of the Human Intestinal Microbial Ecosystem)(SHIME(商標))を用いて実験を実施した。実験の間に、SHIMEユニットは、それぞれ胃/小腸、近位結腸、及び遠位結腸に相当する3つの一連の容器からなっていた。種々のカロテノイドの配合物(すなわち、細菌細胞から抽出されたカロテノイド(「CAR」)又は細菌(栄養)細胞内に含まれるカロテノイド(「VEG」))を扱うために、同一のSHIMEユニットを並行して稼働させた。2週間の安定化期間に続いて、参照コントロール期間を実施し(2週間)、その後に上記カロテノイドを、処置期間の間に3週間にわたり毎日投与した。カロテノイドは、抽出物又は栄養細胞のいずれかとして同様のカロテノイドレベルで投与した。上記カロテノイド抽出物は、過酷な胃内条件に耐え得るので胃の区画に投与したが、胃液感受性の栄養細胞は、胃液保護カプセルを使用した標的送達方略をシミュレートするように小腸のインキュベーションの始まりの所で投与した。
【0065】
短鎖脂肪酸(SCFA)産生は、糖分解的発酵のマーカーとしてモニタリングされた。特定のSCFAの特異的産生は、様々な健康への影響と関連している。酢酸塩は、宿主のためのエネルギー源として使用され得る。プロピオン酸塩は、肝臓におけるコレステロール及び脂肪酸合成を減少させる。酪酸塩は、結腸細胞のための主要なエネルギー源であり、これらの細胞における分化を誘導する。
【0066】
SHIME実験からの結果により、全SCFA産生の変化は報告されないか又は小さな変化しか報告されない(図5A)が、一方で、遊離のカロテノイド及び栄養細胞として投与されたカロテノイドは両方とも、酢酸塩から健康を促進するSCFAである酪酸塩への移行を誘導することによりSCFAプロファイルを変化させること(図5B)が示された。更なる確認のために、同じ設計でもう1つの実験を準備したが、そこでは上記カロテノイドは、細菌芽胞として投与した。ここでも、該芽胞の投与は、酪酸塩対酢酸塩比に増大をもたらした。
【0067】
したがって、PD01由来のカロテノイドの投与(遊離のカロテノイド又は細菌細胞/芽胞内に含まれるカロテノイドのいずれかとして投与される)が、微生物群集の活動性に有益な効果を及ぼすと結論付けることができる。
【0068】
実施例3:株PD01(LMG P-29664)由来のカロテノイドのin vitroでの消化管内微生物叢組成に対する効果
株PD01由来のカロテノイドの反復摂取の消化管内マイクロバイオーム組成に対する効果を研究するために、動的消化管モデルSHIME(商標)を用いて実験を実施した。実験の詳細は、実施例2に記載されている。
【0069】
qPCR及びDGGEプロファイルを準備することで、株PD01が微生物群集組成に影響を及ぼし得るかどうかを調査した。qPCRを使用して、特定の細菌の群、すなわちファーミキューテス、バクテロイデス、ビフィドバクテリウム、ラクトバシラス、及びクロストリジウム・コッコイデス/ユーバクテリウム・レクタレの群をモニタリングし、その一方で、DGGEプロファイルを全微生物群集から作製した。ファーミキューテス及びバクテロイデスは、ヒト消化管内の2つの最も優勢な細菌門である。バクテロイデスは、バクテロイデスのタンパク質の大部分が多糖類の分解及びそれらの糖の代謝に導くため、非常に重要な糖分解発酵細菌とみなされる。この群に属する幾つかの種は、プロピオン酸塩産生とも関連している。ファーミキューテスはむしろ、バクテロイデスの代謝により産生された代謝中間生成物の利用者である。ファーミキューテスは、幾つかの酪酸塩生産者(クロストリジウム・コッコイデス及びユーバクテリウム・レクタレを含む)を含み、細菌代謝産物は健康に有益であるとみなされる。ビフィドバクテリウム及びラクトバシラスは、それらの健康促進特性について知られる2つの細菌属である。
【0070】
細菌細胞から抽出されたカロテノイドを用いて実施されたSHIME実験からのDGGEプロファイルは、消化管内微生物群集の組成に劇的な変化を示した(図6)。該DGGEプロファイルからの所見を、qPCRにより確認した。実際に、PD01から抽出されたカロテノイドによる処置は、試験された全ての細菌群の濃度を、主として近位結腸において高めた。ファーミキューテス及びクロストリジウム・コッコイデス/ユーバクテリウム・レクタレの群内では、最も興味深い結果が観察された(図7)。ファーミキューテスは、幾つかの酪酸塩生産者(クロストリジウム・コッコイデス及びユーバクテリウム・レクタレを含む)を含むので、その高められた濃度は、健康に有益であるとみなすことができる。
【0071】
細菌芽胞内に含まれるカロテノイドを用いて実施されたSHIME実験からのqPCRプロファイルにより、これらの結果が確認された。実際に、細菌芽胞の投与によっても、試験された主要な細菌群、特にファーミキューテス及びクロストリジウム・コッコイデス/ユーバクテリウム・レクタレの群の高められた濃度がもたらされた(図8)。
【0072】
したがって、この実験により、PD01由来のカロテノイドが、消化管内マイクロバイオーム組成に影響を及ぼし、特に酪酸塩産生細菌群を刺激することが確認される。
【0073】
実施例4:株PD01(LMG P-29664)由来のカロテノイドのin vivoでの消化管内マイクロバイオーム組成に対する効果
PD01由来のカロテノイドのin vivoでの消化管内マイクロバイオーム組成に対する効果を評価するために、90日齢の雄のSprague-Dawleyラットに、PD01由来のカロテノイドを、カロテノイド抽出物又は芽胞若しくは栄養細胞中に含まれるカロテノイドのいずれかとして8週間にわたり毎日投与した。その実験は、高脂肪(HF)食餌を動物に投与することからなり、その食餌は、標準的な西洋型の食餌を模しており、8週間の投与内でメタボリック症候群の発生を伴う。HFコントロール群の他に、別個の群の動物に、HF食餌と組み合わせてPD01由来のカロテノイド配合物の1つを与えた。このために、該カロテノイド配合物を、落花生油中に懸濁させ、それをHF食餌と一緒にラットに強制経口投与により与えた。カロテノイドの1日相当量は、10 μg/日〜50 μg/日の範囲内であった。
【0074】
標準的な低脂肪(LF)食餌を与えたコントロール群を含めることで、HF食餌の消化管内マイクロバイオーム組成に対する特異的な効果の評価を可能にした。さらに、植物由来のカロテノイドのルテインを細菌性カロテノイドと同量(すなわち、25 μg/日)で与える1つの追加のHF群を含めた。これにより、細菌性カロテノイド対植物由来カロテノイドの消化管内マイクロバイオーム組成に対する効果の比較が可能となる。
【0075】
種々の配合物の消化管内微生物叢に対する効果をモニタリングするために、DGGEプロファイルを準備した。長期間のin vivo実験からの糞便試料のトータルDNAを抽出し、ネステッドPCR反応において鋳型として使用することで、細菌性16S rDNA遺伝子のV4-V6超可変領域を増幅させた。
【0076】
様々な群の詳細なクラスター分析により、8週間の処置後にLF又はHFを与えたラットの消化管内微生物叢は互いに相違し、両者とも処置前のラットの消化管内微生物叢とは異なることが示された(図9)。これは、食餌の変化が消化管の微生物組成を部分的に変化させたことを示している。しかしながら、PD01由来のカロテノイドによる処置は、PD01の栄養細胞内に含まれるカロテノイドで処置されたラット(図10)又はPD01から抽出されたカロテノイドで処置されたラット(図11)のマイクロバイオームプロファイルを含むクラスター分析の例に示されるように、消化管内マイクロバイオーム組成に対して強力な追加の効果を有した。PD01の芽胞内に含まれるカロテノイドを投与しても同じ結果が得られるので、PD01由来のカロテノイドが、使用されたカロテノイド配合物の如何にかかわらず、高脂肪食餌でのラットの消化管内マイクロバイオームを更に変更することが確認される。
【0077】
興味深いことに、ルテインにより処置されたラットの消化管内微生物組成プロファイルを、HFコントロールのプロファイルと一緒にクラスター化すると、これらの群内の動物が消化管内微生物組成の点で類似していることが示される。それに対して、PD01から抽出されたカロテノイドにより処置されたラットの消化管内微生物組成は大きく異なっていた(図11)。この驚くべき効果は、微生物カロテノイドが、高脂肪食餌の消化管内微生物組成に対する効果を変化させるが、植物由来カロテノイドはこれらの特性を有しないことを示している。
【0078】
実施例5:株PD01(LMG P-29664)由来のカロテノイドのin vitroでの消化管バリア機能に対する効果
PD01由来のカロテノイド(栄養細胞又は芽胞のいずれかに由来する)の宿主における消化管バリア機能に対する効果を、Caco-2/THP1XB同時培養物において、Possemiers et al.(2013, J Agric Food Chem 61)に記載される方法に従って研究した。測定の終点は、トランスウェル装置中での経上皮電気抵抗(TEER)におけるコントロールからの変化であった。
【0079】
それらの結果(図12)により、PD01由来のカロテノイドが、抵抗の乱れから腸管バリアを保護し、その一方で、α−トコフェロール(同じ前駆体から生成された親油性の植物由来カロテノイド)は保護を誘導しないことが示された。この驚くべき効果は、微生物カロテノイドが、消化管バリア機能に対する調節効果を有するが、植物由来の化合物はこれらの特性を欠いていることを示している。
【0080】
実施例6:株PD01(LMG P-29664)から抽出されたカロテノイドのin vivoでの炎症状態に対する効果
株PD01由来のカロテノイドの炎症状態に対する効果を、in vivoでのラット実験において実施例4に記載されるHF食餌条件により評価した。8週間の処置後に、HF食餌を給餌したラットは、標準的なLF食餌を給餌したラットよりも有意に高い血漿TNF-α濃度を示した。驚くべきことに、HF食餌と一緒に株PD01由来のカロテノイド(株PD01から抽出されたカロテノイド又は株PD01の栄養細胞若しくは芽胞内に含まれるカロテノイドのいずれか)を同時投与することで、炎症誘発状態の発生を防ぐことが可能であり、こうしてHF群と比較して減少した血漿濃度の炎症誘発性サイトカインTNF-αがもたらされた(図13)。この結果は、PD01由来のカロテノイド(特定の配合物の如何にかかわらず)が、炎症の増強を防ぐことができ、したがって免疫保護特性を有することを示している。
【0081】
実施例7:ヒトにおける株PD01(LMG P-29664)から抽出されたカロテノイドの胃腸症状に対する効果
株PD01由来のカロテノイドの胃腸管症状に対する効果を、6週間の第II相有効性研究において、健康であるが体重超過の個体で評価した。該研究は、無作為化、プラセボ対照、二重盲検、並行研究として設計された。該研究の目的は、株PD01由来のカロテノイド(細菌芽胞内に含まれる)の毎日摂取の消化管内マイクロバイオームの調節に関する効果を調査することであった。研究対象母集団は、18歳〜70歳の年齢のBMIが25 kg/m2〜35 kg/m2である60人の健康な個体からなっていた。登録時に、参加者を6週間の期間にわたりPD01又はプラセボに無作為化した。それぞれの参加者は、研究施設で3つの試験日、すなわち(1)該研究の開始時、(2)研究製品の供給の3週間後、及び(3)該研究の終了時(研究製品の供給の6週間後)を経た。上記研究製品を、第1の試験日にその後の6週間にわたり(試験日3まで)5×109 CFU/日の1日相当量で担体材料としてマルトデキストリンを用いてサシェ剤において供給した。プラセボは、担体材料のみを含む同一のサシェ剤からなっていた。参加者は、投与方法に関して通知されていた。1つのサシェ剤は、150 mLの全乳中に溶解されている必要があり、毎朝朝食前の同じ時点で服用する必要があった。
【0082】
胃腸(GI)症状の存在を、5種の主要なGI症候群:腹痛、逆流、下痢、消化不良、及び便秘症候群にクラスター化された16項目からなる、妥当性が確認された胃腸症状評価尺度(GSRS)を使用して評価した。排便頻度及び便の硬さを、ブリストル便形状スケールチャートを使用して評価した。被験体に、研究期間の間に毎週の間隔でこれらの質問事項を完成させることを依頼した。驚くべきことに、毎日PD01を与えた参加者は、供給の3週間後に消化不良症候群についてのGSRSのサブディメンションにおいてスコアがより低くなり(p=0.061、図14)、研究期間の終わりに有意なものとなった(p=0.045、図14)。これにより、株PD01由来の細菌カロテノイドが、一般的にIBSについても記載される胃腸症状を予防又は減少し得ることが確認される。
【0083】
実施例8:ヒトにおけるカロテノイドのバイオアベイラビリティー
実施例7に記載される第II相研究において、血液試料を収集して、株PD01由来のカロテノイド(芽胞内に含まれるカロテノイド、5×109 CFU/日で処方)の3週間及び6週間の毎日の供給の前後の、体重超過の被験体(n=29)の空腹時血漿における細菌カロテノイドの濃度を評価した。
【0084】
株PD01のカロテノイドは、ベースラインでは検出されず、3週間及び6週間のPD01処置の後の全ての被験体の空腹時血漿中に存在した(図15)。PD01のカロテノイドの血漿濃度は、6週間の供給の間に大幅に高まった(3週間で0.044 μM、6週間で0.076 μM)(図15)。
【0085】
この研究により、株PD01の芽胞内に含まれるカロテノイドの6週間の期間にわたる毎日の供給が、血漿中でのPD01のカロテノイドの蓄積をもたらすことが裏付けられた。PD01のカロテノイドの血漿濃度は全ての被験体において検出可能であったので、PD01のカロテノイドが吸収されることが裏付けられた。さらに、PD01のカロテノイドのレベルは、ルテインの場合と類似した最終曝露に達した。しかしながら、欧州におけるルテインの一日摂取量のレベルは、1 mg/日〜4 mg/日(健康的な果物が豊富な食餌)で見積もられる一方で、PD01のカロテノイドの一日摂取量は、25 μg/日ほどの低さであった。これにより、植物由来のカロテノイドよりも意想外に優れたPD01のカロテノイドのバイオアベイラビリティーが更に確認される。
【0086】
さらに、カロテノイド産生バシラス株PD01を、LB寒天平板上での平板計数法によりヒトの糞便において定量した。結果は、PD01処置により、上記バシラス株がヒト結腸中で3×107 CFU/gの濃度で、大抵は栄養細胞の形で存続することが可能であることを示した(表2)。
【0087】
表2.供給期間の前(T0)、PD01の3週間の毎日の投与後(T3)、及び株PD01の6週間の毎日の投与後(T6)の、ヒト介入試験からのPD01処置された被験体のヒト糞便における株PD01の計数(CFU/g)。結果は、平均±SEとして表現される:n=29;ND=不検出。
【表2】
【0088】
実施例9:ヒトにおける株PD01(LMG P-29664)から抽出されたカロテノイドの消化管バリア機能に対する効果
実施例7に記載される第II相有効性研究において、消化管バリア機能を、消化管透過性試験を実施することによりベースライン及び6週間の研究期間の終わりに評価した。参加者は、一晩の絶食後に1 gのスクロース、1 gのラクツロース、0.5 gのL−ラムノース、1 gのスクラロース、及び1 gのエリスリトールを含有する糖飲料(150 mLの水道水中)を摂取する必要があった。摂取前に、ベースラインの糖分析のために尿試料を採集した。次いで、全尿排出量を、24時間の間に3つの別個のフラクションで、すなわち0時間〜2時間、2時間〜5時間、及び5時間〜24時間で採集した。スクロース、ラクツロース、L−ラムノース、スクラロース、及びエリスリトールを、文献に報告されるように蛍光検出高圧液体クロマトグラフィーによって測定した。
【0089】
この研究により、株PD01の芽胞内に含まれるカロテノイドの6週間の期間にわたる毎日の供給がスクロース排出に低下をもたらす(表3)ことが裏付けられたため、PD01のカロテノイドが小腸の透過性を改善したことが示唆される。結腸透過性について同様の効果が示された。この結果により、ヒトにおけるPD01のカロテノイドの消化管バリア機能に対する効果のin vitroでの観察が確認される。
【0090】
表3.PD01−カロテノイド処置された個体及びプラセボ処置された個体(それぞれ、n=29及びn=31)についてのベースラインから研究期間の終わりまでの0時間〜5時間、5時間〜24時間、及び0時間〜24時間のフラクションにおける尿中で測定されるスクロース排出(μmol)及び排出された糖の比率。括弧の間の値は、25パーセンタイル〜75パーセンタイルを表す。E=エリスリトール、L=ラクツロース、R=L−ラムノース、S=スクラロース。
【表3】
【0091】
実施例10:ブタにおける株PD01(LMG P-29664)から抽出されたカロテノイドの消化管の健康に対する効果
3週間の研究を、雄及び雌の離乳子豚(19日齢で離乳)により構成した。該研究は、1群当たり8匹の子豚で、無作為化、プラセボ対照研究として設計された。該研究の目的は、離乳子豚の食餌において株PD01の芽胞内に含まれるカロテノイドを含めること(1 kgの食餌当たりに2×109個のPD01の芽胞)が、コントロール食餌と比較して消化管内マイクロバイオーム及び消化管の健康のパラメータの調節に対して及ぼす効果を調査することであった。16匹の離乳子豚が該研究において含まれていた。実験の終わりに(23日)、全ての子豚を屠殺し、胃腸管からの消化物及び腸切片を採集した。小腸の長さの75%〜100%の消化物、盲腸消化物、中位結腸及び直腸の手前の20 cmの区域における消化物を、SCFA分析のために採集した。小腸の長さの50%及び90%及び中位結腸の区域を切除し、Ussingチャンバー測定及び遺伝子発現分析のために使用して、消化管バリア健全性を評価した。
【0092】
SCFAの結果により、全SCFA産生の変化は報告されないか又は小さな変化しか報告されない(図16A)が、一方で、PD01由来のカロテノイドの投与は、酢酸塩から健康を促進するSCFAである酪酸塩への移行を誘導することによりSCFAプロファイルを変化させること(図16B)が示された。この結果により、PD01のカロテノイドの効果のin vitroでの観察が確認される。
【0093】
Ussingチャンバーにおける測定により、株PD01の芽胞内に含まれるカロテノイドの投与後に、消化管バリア健全性のパラメータに対して有意な効果及び傾向が示された(表4)。遠位小腸及び中位結腸の両方において、TEERにより評価される該組織の健全性は、PD01のカロテノイドの投与後にコントロール食餌と比較してより高かった。それにより裏付けられて、傍細胞透過性(PappFD-4)の数値の低下が、PD01のカロテノイドの投与後に上記胃腸管の両方の部位で見られた。
【0094】
さらに、プラセボと比較してより高いZO-1(閉鎖体1又は密着結合タンパク質1(TJP1))及びOCLN(オクルディン)の発現が、PD01群内の子豚の小腸において、特に腸管の長さの50%の区域で及びオクルディンについて観察された(図17)。このように、PD01のカロテノイドは、密着結合タンパク質の発現の増加により、腸管バリア機能に対して保護効果を発揮する。これは、上記Ussingチャンバー及び実施例9に記載される消化管透過性試験で得られた結果と一致している。
【0095】
表4.離乳子に与えられた実験食餌の、Ussingチャンバーにおいて測定される小腸粘膜及び中位結腸の特性に対する効果(n=2×8)。PappFD-4=FITC-4kDaについての見掛けの透過性、SEM=平均の標準誤差、TEER=組織の経上皮電気抵抗。
【表4】
【0096】
実施例11:株PD01(LMG P-29664)から抽出されたカロテノイドの、消化管内マイクロバイオーム組成及び消化管バリア健全性に対する植物由来カロテノイドよりも優れた効果
株PD01由来のカロテノイドと植物由来のカロテノイドとの間の生体活性プロファイルにおける差異を評価するために、実験を、実施例2、実施例3、実施例5、及び実施例10に記載されるように構成した。
【0097】
PD01由来のカロテノイド、ルテイン、β−カロテン、及びリコペンの腸管内での酪酸塩産生に対する効果を、SHIME実験において実施例2に記載されるように評価した。実際には、上記種々のカロテノイドを、同じ投与量レベルで並列のSHIMEユニットへと2週間の期間にわたり毎日投与し、SCFAレベルをモニタリングした。
【0098】
株PD01由来のカロテノイド、ルテイン、β−カロテン、及びリコペンの消化管内マイクロバイオーム組成に対する効果を、SHIME実験において実施例3に記載されるように評価した。実際には、上記種々のカロテノイドを、同じ投与量レベルで並列のSHIMEユニットへと2週間の期間にわたり毎日投与し、酪酸塩産生細菌群のレベルを、qPCR及び細菌DGGEフィンガープリントを使用してモニタリングした。
【0099】
株PD01由来のカロテノイド、ルテイン、β−カロテン、及びリコペンのin vitroでの消化管バリア機能に対する効果を、Caco-2/THP1XB同時培養物を使用して実施例5に記載されるように評価した。測定の終点は、上記種々のカロテノイドを同じ投与量レベルで並列実験に投与した際のトランスウェル装置中での経上皮電気抵抗(TEER)におけるコントロールからの変化であった。
【0100】
PD01由来のカロテノイド又はルテインの、消化管内マイクロバイオーム組成及び消化管の健康に関連するパラメータに対する効果は、実施例10に記載される子豚研究において記載された。
【0101】
実施例12:ブタにおける株PD01(LMG P-29664)から抽出されたカロテノイドの消化管炎症に対する効果
実施例10に記載されるように、3週間の研究を、雄及び雌の離乳子豚(19日齢で離乳)により構成した。該研究は、1群当たり8匹の子豚で、無作為化、プラセボ対照研究として設計された。該研究の目的は、離乳子豚の食餌において株PD01の芽胞内に含まれるカロテノイドを含めること(1 kgの食餌当たりに2×109個のPD01の芽胞)が、コントロール食餌と比較して炎症状態の調節に対して及ぼす効果を調査することであった。16匹の離乳子豚が該研究において含まれていた。実験の終わりに(23日)、全ての子豚を屠殺し、腸切片を採集した。小腸の長さの90%及び中位結腸の区域を切除し、炎症誘発性サイトカインIL-1a(インターロイキン1α)の遺伝子発現分析のために準備した。
【0102】
図18に示されるように、IL-1aの発現は、PD01群内の子豚の遠位小腸及び中位結腸において、プラセボと比較して低下した。PD01のカロテノイドの投与は、HF食餌を給餌したラットにおいても見られるように(実施例6)、離乳子豚における消化管炎症を抑える。
【0103】
実施例13:株PD01(LMG P-29664)から抽出されたカロテノイドのin vitroでの末梢血単核細胞(PBMC)における炎症状態に対する効果
PD01のカロテノイドの炎症調節特性をより良く理解するために、これらのカロテノイドを、2人の健康な供与体から単離された末梢血単核細胞(PBMC)へとin vitroで投与した。PBMCによるサイトカインの放出を、LPS(500 ng/mL)による活性化後に測定し、処置間で比較した。その処置は、凍結された栄養細胞(107 cfu/mL)内若しくはマルトデキストリンにおいて凍結乾燥された芽胞(107 cfu/mL)内のいずれかに含まれるPD01のカロテノイド、又は株PD01から抽出された精製カロテノイド(6.25 μg)への曝露を伴う。さらに、よく知られた(well-known)芽胞形成するプロバイオティクス株であるバシラス・クラウシイ(カロテノイド無し、107 cfu/mL)からの栄養細胞、2種の濃度でのβ−カロテン(26.75 μg及び66.88 μg)、精製PD01カロテノイド及びβ−カロテンを溶解するために使用されるビヒクル(Palozza, P. et al., Free Radical Biology & Medicine, vol30, pp1000-1007 (2001)により報告されるテトラヒドロフラン/0.025%のブチル化ヒドロキシトルエン)、並びに完全培地(カロテノイド無し)が、コントロールとして含まれた。LDHアッセイによって、処置による細胞毒性は示されなかった。
【0104】
これらのインキュベーションの読取り値(IL-1β、TNFα、IL-10、IP-10(又はCXCL-10)、及びMCP-1のレベル)を未処置のLPS誘導されたPBMCの読取り値に正規化した値を、PCAプロットにまとめた(図19、PC1 52.7%及びPC2 26.1%)。PD01のカロテノイドを伴う3つの処置は全て一緒にクラスター化され、β−カロテン、上記ビヒクル、バシラス・クラウシイの栄養細胞、及びLPS自体と比較して、驚くほど顕著な抗炎症応答が引き起こされた。ここでも、これらの結果によって、より低い曝露レベルでより強い抗炎症応答が誘発されたので、植物由来のβ−カロテンと比較して優れた微生物PD01のカロテノイドの生体活性が確認される。さらに、カロテノイド無しでは、バシラス・クラウシイ細胞は、同様の応答を誘発することができなかったが、その一方で、精製PD01のカロテノイドはその応答を誘発した。
【符号の説明】
【0105】
図2
Spores 芽胞
Vegetative cells 栄養細胞

図3
Intens. 強度
Time [min] 時間(分)

図4
Intens. 強度
Time [min] 時間(分)

図5
Total SCFA 全SCFA
B/A ratio B/A比
Control コントロール
Treatment 処置

図6
CONTROL コントロール
CAROTENOIDS カロテノイド

図7
Firmicutes - Carotenoids ファーミキューテス−カロテノイド
C.coccoides/E.rectale - Carotenoids C.コッコイデス/E.レクタレ−カロテノイド
Delta Log 10 (165 copies/mL) デルタLog 10(165コピー/mL)
Treatment Early 処置の初期
Treatment Mid 処置の中期
Treatment End 処置の終期

図8
Firmicutes - Spores ファーミキューテス−芽胞
C.coccoides/E.rectale - Spores C.コッコイデス/E.レクタレ−芽胞
Delta Log 10 (165 copies/mL) デルタLog 10(165コピー/mL)
Treatment Early 処置の初期
Treatment End 処置の終期

図12
Caco-2/THP1 Permeability Caco-2/THP1透過性
TEER (% from initial value) TEER(初期値からの%)
CAR spores 芽胞のCAR
CAR veg.cells 栄養細胞のCAR
α-tocoph. α−トコフェロール

図13
plasma TNF-alpha, pg/ml 血漿中TNF-α(pg/ml)

図14
Indigestion Syndrome 消化不良症候群
Mean GSRS score 平均GSRSスコア
Placebo プラセボ
Baseline ベースライン
Week 3 第3週
Week 6 第6週

図15
PD01 Carotenoid PD01カロテノイド
Lutein ルテイン
β-Carotene β−カロテン
Lycopene リコペン
Carotenoid content カロテノイド含量
Supplementation duration (weeks) 供給期間(週)

図16
SCFA production SCFA産生
B:A-ratio B:A比
Acetate 酢酸塩
Propionate プロピオン酸塩
Butyrate 酪酸塩
Total SCFA 全SCFA
Control diet コントロール食餌
PD01 supplementation PD01供給

図17
Relative gene expression 相対遺伝子発現
Placebo プラセボ
Mid-colon 中位結腸

図18
Relative gene expression 相対遺伝子発現
Placebo プラセボ
Mid-colon 中位結腸

図19
B-Carotene β−カロテン
Vehicle ビヒクル
B.clausii B.クラウシイ
Complete medium 完全培地
Carotenoids vehicle カロテノイドのビヒクル
Bacillus clausii バシラス・クラウシイ
Beta-carotene β−カロテン
PD01 carotenoids PD01カロテノイド
PD01 vegetative cells PD01の栄養細胞
PD01 spores PD01の芽胞
All tested in the presence of 500 ng/mL LPS 全ては、500 ng/mLのLPSの存在下で試験された
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19