(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6966547
(24)【登録日】2021年10月25日
(45)【発行日】2021年11月17日
(54)【発明の名称】複雑形状成形部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 8/00 20060101AFI20211108BHJP
C21D 7/06 20060101ALI20211108BHJP
B21D 22/14 20060101ALI20211108BHJP
B21D 26/053 20110101ALI20211108BHJP
B21D 22/20 20060101ALI20211108BHJP
C21D 6/00 20060101ALI20211108BHJP
C22C 38/58 20060101ALN20211108BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20211108BHJP
C22C 38/04 20060101ALN20211108BHJP
C22C 38/38 20060101ALN20211108BHJP
【FI】
C21D8/00 D
C21D7/06 B
B21D22/14 Z
B21D26/053
B21D22/20 Z
C21D6/00 101F
!C22C38/58
!C22C38/00 302A
!C22C38/04
!C22C38/38
【請求項の数】21
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-527828(P2019-527828)
(86)(22)【出願日】2017年11月22日
(65)【公表番号】特表2020-510748(P2020-510748A)
(43)【公表日】2020年4月9日
(86)【国際出願番号】EP2017080115
(87)【国際公開番号】WO2018095993
(87)【国際公開日】20180531
【審査請求日】2019年6月24日
(31)【優先権主張番号】16200246.3
(32)【優先日】2016年11月23日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591064047
【氏名又は名称】オウトクンプ オサケイティオ ユルキネン
【氏名又は名称原語表記】OUTOKUMPU OYJ
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100079991
【弁理士】
【氏名又は名称】香取 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】フレーリヒ、 トーマス
(72)【発明者】
【氏名】リンドナー、 シュテファン
【審査官】
鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】
独国特許出願公開第19607828(DE,A1)
【文献】
特開平10−044043(JP,A)
【文献】
特開2013−163834(JP,A)
【文献】
特表2013−544968(JP,A)
【文献】
特表2008−519160(JP,A)
【文献】
特開2010−112497(JP,A)
【文献】
特開2015−196837(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第104711473(CN,A)
【文献】
欧州特許出願公開第2090668(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/00−26/14
C21D 1/02− 1/84
C21D 6/00− 6/04
C21D 7/00− 8/10
C22C 38/00−38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
双晶誘起塑性(TWIP)硬化効果を有するオーステナイト系鋼である材料を使用して、少なくとも2の多段階加工工程で冷間成形および加熱を交互に行う、多段階加工による複雑形状成形部材の製造方法において、前記鋼は、積層欠陥エネルギー(SFE)が20〜30mJ/m2の範囲になるように調整され、初期伸びA80が30%以上であり、前記冷間成形工程中の温度が-20℃以上かつ100℃未満であり、成形度が60%以下であり、さらに、前記加熱工程中の加熱温度が750〜1150℃の範囲であり、各加工工程中の前記材料および作成された部材は、非磁性の可逆的特性を備えたオーステナイト微細構造を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、加熱中に前記使用したTWIP材料の微細構造内で双晶が解消され、成形中に該使用したTWIP材料の微細構造に双晶が再構築されることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法において、前記多段階加工で使用する薄板の初期厚さは、3.0mm未満とすることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の方法において、変形させるオーステナイト系鋼中の炭素および窒素の含有量の総量(C+N)は、0.4重量%より多く、かつ1.2重量%よりも少ないことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の方法において、前記部材は、薄板、管、異形材、ワイヤまたは結合リベットの形状をとることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の方法において、前記使用した材料は、TWIP硬化機構を用いて、前記積層欠陥エネルギー(SFE)は22〜24mJ/m2の範囲にある、安定した完全オーステナイト系鋼であることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の方法において、前記使用した材料の初期伸びA80は50%以上であることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の方法において、前記使用したオーステナイト系TWIP鋼のマンガンの含有量は、重量%で10%以上かつ26%以下であることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載の方法において、前記使用したオーステナイト系TWIP鋼は、10.5%超のクロムを含むステンレス鋼であることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載の方法において、前記多段階加工の前記成形工程は、深絞り、押圧、プランジング、バルジ、曲げ、スピニングまたはストレッチ成形によって実行されることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかに記載の方法において、前記多段階加工の前記成形工程は、薄板ハイドロフォーミング法または内部高圧成形法など、油圧機械的深絞り法によって実行されることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかに記載の方法において、前記加熱工程の加熱温度は900〜1050℃の温度範囲であることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれかに記載の方法において、前記多段階加工の前記加熱工程は、誘導加熱、伝導加熱または赤外線加熱によって実行されることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれかに記載の方法において、成形加工は、後続の加熱加工を行う前の非最終工程として、前記多段階加工に組み込まれることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項1ないし14のいずれかに記載の方法において、ショットピーニング、グリットブラストまたは高周波打撃などの前記表面に施されるアップセット成形処理を前記多段階加工に組み込んで、傷に強く圧縮負荷がかかっている非磁性の部材表面を形成することを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項1ないし15のいずれかに記載の方法において、温度500〜650℃で行われる窒化または浸炭表面熱処理を前記多段階加工に組み込んで、傷に強いとともに非磁性の部材表面を形成することを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項1ないし15のいずれかに記載の方法によって製造される複数段階形状成形部材の、家庭電化製品の台所流し台または浴室などの白物家電、例えば食器洗浄機または洗濯機のドラムとしての使用。
【請求項18】
請求項1ないし15のいずれかに記載の方法によって製造される複数段階形状成形部材の、ホイルハウス、バンパシステム、チャンネル材などの自動車部品、またはシャシ部品(例えば、サスペンションアーム)としての使用。
【請求項19】
請求項1ないし15のいずれかに記載の方法によって製造される複数段階形状成形部材の、ドア、フラップ、防舷材または耐荷重翼など輸送機構の取付部品、シート構造部材(シートの背もたれ)など輸送機構の内部部品としての使用。
【請求項20】
請求項1ないし15のいずれかに記載の方法によって製造される複数段階形状成形部材の、給油口などの燃料投入機構の部品としての、または、自動車もしくはトラックのタンクもしくは貯蔵部としての、または、圧力容器もしくはボイラとしての使用。
【請求項21】
請求項1ないし15のいずれかに記載の方法によって製造される複数段階形状成形部材の、電槽などバッテリ式電気自動車またはハイブリッド自動車としての使用。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、冷間成形処理および焼鈍し処理を組み合わせた多段階成形作業による、オーステナイト系材料を使用した非常に複雑な形状をした部品の製造方法に関するものである。成形作業中に、オーステナイト系材料の延性を減少させて双晶を形成したものである。
【0002】
車体工学では、複雑な成形形状を有する部材は、深絞り軟鋼を使用して製造される。より高い強度、軽量性、実装性または安全目標を満たすことが求められ、二相鋼、多相鋼または複合相鋼などの利用可能な高強度鋼は、しばしば成形性の限界に達する。(鋼製造中に)所定の調整がなされた機械的値および微細構造部品は、部材製造時の後続の成形または熱処理工程によって影響を受ける。そのため、後続工程にて鋼の特性は望ましくない方向に変化する。
【0003】
解決策の1つは、いわゆる押圧硬化などの熱間成形作業である。ここでは、熱処理可能なマンガン−ホウ素鋼を、所定の滞留時間をかけた硬化処理の間中オーステナイト化する温度(900℃超)まで加熱し、その後、このような高温で、熱間成形加工機械内で成形して結果物たる部材を得る。成形作業と同時に、熱は薄板から加工機械の接触領域に放出されるため、薄板が冷却される。かかる加工工程は、例えば米国特許出願公開第2004/0231762 A1号に記載されている。熱間成形工程を用いて、高強度の材料を使用して複雑形状部品が得られる。しかしながら、残留伸びは最低レベル(大体の場合、5%未満)である。
【0004】
そのため、後続の冷間成形工程を行うことができず、さらには、車体部材の衝突時に、大きなエネルギーを吸収することができない。また、常にというわけではないが、例えば系が堅くなりすぎる場合、1,500MPaの引張強度が必要となる。そのうえ、冷間成形作業に比べて、限界サイクルタイムに対する投資費用、修理費およびエネルギー費が非常に高く、加えて、ローラーヘッド炉に要する空間が非常に広い。また、防食レベルが被覆冷間成形鋼よりも低い。
【0005】
数十年間にわたり、オーステナイト系鋼は、流し台など複雑形状をとる冷間成形部品の家庭用品への応用分野で使用されている。基礎材料は、TRIP(変態誘起塑性)の硬化効果を利用して、クロムおよびニッケルと合金され、成形負荷がかかると、準安定オーステナイト微細構造がマルテンサイトに変化する。オーステナイト微細構造は常温で安定するが、これは、マルテンサイト化開始温度が低いからである。この効果は、文字通り「変形誘起マルテンサイト成形」として周知のものである。これらの材料を使用して複雑形状に冷間成形する作業を行う場合、オーステナイト系の材料は定式的に、延性の低いマルテンサイト微細構造に性質が変化して硬度が向上するため、エネルギー吸収電位が低下するという問題が生じる。また、かかる経過は不可逆的である。非磁性特性などのオーステナイト系材料の利点が失われてしまい、材料を部材の状態で使用することが不可能になる。不可逆性微細構造の変化は、十分な残留伸びが得られない多段階成形作業では、大きな欠点となる。また、TRIP効果は温度に対する感受性が高いため、加工機械の冷却のためにさらなる投資が必要となる。加えて、このような材料では、成形加工中に微細構造がマルテンサイトに変化する際に、応力によって遅れ割れが発生する危険性がある。TRIP効果を有するこのような材料の積層欠陥エネルギーSFEは、20mJ/m
2未満である。また、マルテンサイト変態によって水素脆化が生じるおそれがある。
【0006】
上述のTRIP効果を有するオーステナイト系ステンレス鋼は、初期状態が非磁性である。ドイツ国特許出願公開第102012222670 A1号は、TRIP効果を利用してステンレス鋼から製造された部材の局部的加熱方法、およびこの効果からのマルテンサイト形成について記載している。さらに、マルテンサイト変態を用いるオーステナイト系ステンレス鋼の誘導加熱装置は、部材のマルテンサイト領域における局部的再結晶化によって生じる。
【0007】
国際公開第2015/028406 A1号には、ショットピーニングまたはグリットブラストによって表面を硬化する金属薄板の硬化方法が記載されている。その結果、表面は流し台に適用するとさらに傷がつきにくくなる。ここではとくに、準安定クロム−ニッケル合金鋼1.4301の用途について述べている。
【0008】
本発明は、従来技術におけるいくつかの問題点を解消し、最終的かつ全加工工程を通じて非磁気特性を有するオーステナイト系鋼の複雑形状成形部材の製造方法を確立することを目的とする。成形および加熱の組合せによる多段階加工では、TWIP硬化効果および安定オーステナイト微細構造により、可逆的材料特性が得られる。本発明の本質的な特徴は、添付の特許請求の範囲に記載されている。
【0009】
本発明で使用する鋼は、格子間遊離型の窒素原子および炭素原子を含有しているため、炭素含有量および窒素含有量の合計量(C+N)は、少なくとも0.4重量%、ただし1.2重量%未満とする。有利には、鋼は10.5重量%超のクロムも含有していてもよく、したがって、鋼はオーステナイト系ステンレス鋼である。他にも、クロムと同様にフェライトの形成物としてケイ素があり、ケイ素は鋼製造時に脱酸素剤として働く。また、ケイ素は、材料の強度および硬度を高める。本発明では、鋼中のケイ素含有量を3.0重量%未満にして、溶接時の高温割れ親和力を制限し、より好ましくは0.6重量%未満にして脱酸素剤として飽和を抑制し、さらに好ましくは0.3重量%未満にしてFe-Siベースの低融点相を抑制して、積層欠陥エネルギーの望ましくない低下を制限する。鋼が、クロムまたはケイ素など、少なくとも1種類のフェライト相形成物たる基本元素を含有する場合、炭素または窒素などのオーステナイト相形成物の含有量を補正するが、例えばマンガンを重量%で10%から26%以下、好ましくは12〜16%にし、炭素および窒素をいずれも重量%で0.2%超かつ0.8%未満とし、ニッケルを重量%で2.5%以下、好ましくは1.0%未満とし、または、銅を重量%で0.8%以下、好ましくは0.25〜0.55%にして、鋼のオーステナイト微細構造において均衡のとれた単独含有量となるようにする。
【0010】
本発明は、多段階に及ぶ冷間成形および加熱の作業によって、成形作業が完了した後に、オーステナイト系材料の特性が維持または最適化されている状態で、複雑形状成形部品を実現できるものである。
【0011】
多段階加工の成形工程は、薄板のハイドロフォーミングすなわち内部高圧成形などの油圧機械的深絞り法を用いて行われる。
【0012】
また、多段階加工の成形工程は、深絞り、押圧、プランジング、バルジ、曲げ、スピニングまたはストレッチによる成形法を用いて実行される。
【0013】
本発明によると、伸びA
80が50%以上のオーステナイト系鋼を多段階成形加工で使用し、材料は、TWIP(双晶誘起塑性)硬化効果を有し
、積層欠陥エネルギーSFEは20〜30mJ/m
2、好ましくは22〜24mJ/m
2の範囲になるように特定の調整がなされたことを特徴とする。したがって、完全成形加工時に、安定したオーステナイト微細構造および安定した非磁性特性が得られる。
【0014】
本発明は、多段階成形作業を行う方法に関するものであり、成形および加熱は2つの異なる作業工程からなる。多段階金属成形加工は、少なくとも2つの異なる(または、互いに独立した)工程を含み、そのうちの少なくとも一方の工程は成形工程である。他方の工程は、さらに別の成形工程でもよく、または例えば熱処理であってもよい。また、本発明では、複雑形状成形部品を作成する成形および加熱を含む後続の加工工程について述べていて、このような目標を達成するために、特定の特性を備え、TWIP(双晶誘起塑性)硬化効果を利用してオーステナイト系鋼から複雑形状成形部品を製造可能な、TWIP硬化効果を有するオーステナイト系(ステンレス)鋼を使用する。加熱中、使用したTWIP材料の微細構造内の双晶が解消され、成形中に、使用したTWIP材料の微細構造に双晶が再構築される。
【0015】
薄板加工産業における現状での複雑形状に成形される部品は、白物家電、消費財または車体工業製品である。また、複雑成形形状を広範に設計することで、部品の数を抑えられる、または、付加機能を組み込むことができるという利点が得られる。白物家電としての多段階複雑形状成形部材は、家庭電化製品の台所流し台または浴室など、例えば食器洗浄機または洗濯機のドラムに見受けられる。さらに、容器設計の制限、例えば車の長手材またはタンク、貯蔵器などの容積規格などの機能上または構成上の要件も、複雑形状の構成形態を求めるのに適するものである。また、設計上の態様、例えば、自動車用の吸込み部またはバンパシステム付クラッシュボックスなどの衝突構造体の荷重経路も本発明方法によるさらなる解決策となり得る。さらに、本発明は、複雑形状に成形されたドアやドアインパクトビームなどの輸送機構の外板部品、およびシート構造体などの内部部品、とくにシートバックウォールに適している。本発明により変形させた部材は、自動車、トラック、バス、鉄道または農業用車両などの輸送機構、およびエアバッグスリーブまたは燃料給油管などの自動車工業に適用することも可能である。
【0016】
多段階成形作業は、例えば100℃未満かつ−20℃を下回らず、ただし好ましくは常温での冷間成形と、後続の短時間加熱とを交互に行う加工である。加工工程数は、成形の複雑度に応じて決まる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本発明について、添付の図面を参照してより詳細に述べる。
【
図3】オーステナイト系TWIP鋼の成形度表図を示す。
【
図4】押抜き加工端部を起点とする硬化効果を示す。
【
図5】ショットピーニングによる表面硬化効果を示す。
【
図6】オーステナイト系TWIP鋼の機械的性質に対する表面窒化熱処理効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、前述の成形および加熱作業後に、硬度測定を行った部材の結果を示す。すなわち、多段階成形作業での異なる加工工程の硬度比較であり、初期母材(左)、成形度20%での第1の成形工程後(中央)および加熱加工後(右)を示し、硬度点は各状態において測定ごとに10個所である。
【0019】
図2において、金属組織学的検証として双晶の形成を示し、本図は
図1の硬度測定に関連する。
【0020】
図3は、クロムおよびマンガンを12〜17%を含むオーステナイト系TWIP鋼の成形度表図を示す。
【0021】
図4は、12〜17%のクロムおよびマンガンで合金化されたTWIP鋼に対する、押抜き加工端部を起点とする硬化効果を示す。
【0022】
図5は、ショットピーニングによる完全オーステナイト系TWIP鋼の表面硬化効果を示す。
【0023】
図6は、焼鈍し状態におけるオーステナイト系TWIP鋼の機械的性質に対する表面窒化加熱処理効果を示し、R
p0.2は降伏強さ、A
80は破断後の伸び、A
gは均一伸びである。サンプルの定義は、Aが初期の焼鈍し状態でのサンプル、Nが窒化処理後のサンプルである。
【0024】
図7では、多段階金属成形加工は、TWIP硬化効果を利用した、異なる加熱および成形工程からなる。
【0025】
本方法で使用する材料は、TWIP効果のために成形作業時に硬化されるが、材料はオーステナイト微細構造を維持することとなる。オーステナイト系TWIP材料の成形度は、60%以下とするものとし、好ましくは40%以下とする。本方法の終了時にさらなる成形の余地があると材料の成形度によって定義される場合、または、成形に大きな加工力を要する場合は、第2の工程、すなわち加熱工程を開始してもよい。後続の加熱段階時に、双晶が解消され、材料は再び軟化される。定義済の材料特性のため、本方法は可逆的な加工工程である。加熱加工を1つの誘導式または伝導式の成形加工機械に組み込んでもよい。加熱温度は750〜1150℃、好ましくは900〜1050℃とする。加工を必要回数繰り返して、所望の複雑な形態を作成する。
【0026】
多段階加工で使用する薄板の初期厚さは3.0mm未満とするものとし、好ましくは0.25〜1.5mmとする。また、本発明に可撓性圧延薄板を使用することも可能である。
【0027】
部材は、薄板、管、異形材、ワイヤまたは結合リベットの形状をとる。
【0028】
双晶の形成を金属組織学的検証として
図2に示すが、本図は
図1の硬度測定に関連するものである。成形による双晶の形成および加熱によるその解消が、非常によく明示されている。加熱後さらに成形工程を行うことで、双晶の形成が再度始まり、部材が再度硬化される。このような加工工程を必要回数だけ交互に繰返し用いることにより、所望の幾何学的形状ならびに強度および伸びに対する目標機械値を達成することができる。そのため、多段階成形作業の最終工程は、規定の成形度の成形工程および局部的な加熱工程であってもよい。12〜17%のクロムおよびマンガンを含む合金であるTWIP鋼を使用する場合、
図3の成形図式を利用して、完成部材が十分な数値になるように調整する。
図3から分かるように、本発明は、最小降伏強さが500MPa以上の、高強度または超高強度の鋼にとくに適する。加熱工程は、誘導、伝導または赤外線技術を利用して設計してもよい。これにより、20K/sの昇温率を実現でき、双晶の性質に影響が出なくなる。
【0029】
また、成形作業を成形加工機械に取り入れてもよい。これにより、本技術による作業状態での硬化効果が、母材の160%以上になる場合がある。このような端部硬化の問題は、その後の加熱工程でも解消できる。その結果、端部割れ感受性が大幅に低くなる。
【0030】
本発明のさらに実用的な態様では、ショットピーニング、グリットブラスト、高周波打撃などのアップセット成形作業によって、表面に圧縮応力値をかけて、端部割れまたは表面割れ感受性を低くするとともに、多段階成形された部材、例えば自動車部材が疲労応力を受けている状態にあるとき、良好な疲労挙動を示すことができる。このような表面処理は、一般に周知のものであるが、記載した材料の特性と組み合わせることで、その微細構造ひいては材料の性質(例えば、非磁性)が一定になるため、新たな性質が出現する。加工工程と材料を組み合わせた結果値を、表1に示す。表中、表面硬化(ショットピーニング)および後続の加熱処理によって得られる効果は、完全オーステナイト系鋼の残留応力の水準である。
【0032】
表1において、プラス記号は表面にかかる引張応力を、マイナス記号は圧縮応力レベルを表す。
【0033】
測定方法の一般的な偏差は、±30MPaであってもよい。表1では、とくにひずみ硬化冷延変形体に対する初期状態の材料応力を、アップセット成形作業によって危険でない圧縮値に変えることができることが示されている。また、続く加熱処理後でも高い圧縮負荷レベルが維持されるため、このような作業を多段階成形加工に組み込むことも可能である。
【0034】
多段階複雑形状成形部材は、ホイルハウス、バンパシステム、チャンネル材などの自動車部材、またはサスペンションアームなどのシャシ部材として使用可能である。さらに、多段階形状成形部材は、取付部品として、ドア、フラップ、防舷材または耐荷重翼など輸送機構、シート構造部材など輸送機構の内部部品、例えば、シートの背もたれに使用することができる。
【0035】
また、多段階形状成形部材は、自動車、トラック、輸送機構、鉄道、農業用車両さらには自動車工業において、給油口などの燃料投入機構の部品として作成したり、またはタンクもしくは貯蔵部として作成したり、さらには、建物内や圧力容器もしくはボイラとして作成したりしてもよく、または、電槽などバッテリ式電気自動車もしくはハイブリッド自動車としての多段階形状成形部材に使用してもよい。
【0036】
アップセット成形作業などの付加的な表面効果は、窒化熱処理または浸炭熱処理によっても得られる。窒素および炭素のいずれの元素もオーステナイト形成材の役割を果たすため、これらの元素は局部的な積層欠陥エネルギーおよびこれによって得られる硬化効果を安定させる、すなわちTWIP機構である。窒化または浸炭の効果は、
図5に示すように、部材の表面付近の構造を硬化させるものである。また、表面付近の構造のTWIP鋼の機械的値への影響は、
図6に示す機械的値の通りである。
【0037】
加熱温度500〜650℃、好ましくは525〜575℃での窒化または浸炭による表面処理を多段階加工に組み込んで引っかき抵抗性を得ると同時に、部材の表面を非磁性にする。
【0038】
多段階形状成形加工は、
図7に見てとることができ、
図7では、薄板、平板、管1と、少なくとも1つの工程が成形工程2である少なくとも2つの異なる(または互いに独立した)工程とを含んでいる。続く工程3は熱処理である。多段階加工4の工程数は、成形の複雑度5に応じて決まる。本方法では、最終的な生成物として、複雑形状成形部材6が得られる。