(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、磁束は最短経路を通ろうとする性質を有するため、磁束は外筒部と端面部との角部の内側を主に通る。したがって、端面部がある程度の厚さを有する場合、端面部及び外筒部の上記一端側をほとんど磁束が通らずに、ローラ本体の一端部を十分に加熱することができない。その結果、ローラ本体の外周面(ローラ表面)の軸方向における温度分布が不均一になるという問題があった。一方、端面部の厚さを小さくすれば、端面部及び外筒部の一端側を磁束が通るようになり、ローラ本体の一端部での発熱を促進できるので、ローラ表面の温度分布は改善する。しかし、そうすると端面部の剛性が低くなり、ローラ本体の強度が低下してしまうという問題があった。
【0005】
以上の課題に鑑みて、本発明に係る誘導加熱ローラは、ローラ本体の強度低下を抑えつつ、ローラ表面の軸方向における温度分布を均一化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る誘導加熱ローラは、円筒状の被加熱部と、前記被加熱部の軸方向の一端側の端部に接続される端面部と、を有するローラ本体と、前記ローラ本体の内部に配置されたコイルを有するヒータと、を備え、前記コイルに交流電流が供給されることによって、前記被加熱部が誘導加熱される誘導加熱ローラであって、前記端面部の内面のうち、径方向において前記被加熱部と前記ヒータとの間の領域に、周方向に延びる溝部が形成されていることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、端面部を通る磁束は、溝部を回避するように軸方向の一端側に回り込むことになる。したがって、ローラ本体の一端部での発熱を促進することができ、ローラ表面の軸方向における温度分布を改善できる。また、端面部の内面の一部に溝部を形成するだけなので、端面部の剛性が大きく低下することはない。このように、本発明によれば、ローラ本体の強度低下を抑えつつ、ローラ表面の軸方向における温度分布を均一化することができる。
【0008】
本発明において、前記溝部は、周方向において全周にわたって形成された環状構造であるとよい。
【0009】
溝部を環状構造とすることで、周方向の全周にわたってローラ本体の一端部での発熱を促進することができるので、ローラ表面の軸方向における温度分布を効果的に均一化することができる。
【0010】
本発明において、前記溝部は、前記被加熱部に隣接して形成されているとよい。
【0011】
溝部が被加熱部に隣接していると、溝部を回避するように一端側に回り込む磁束は、被加熱部の一端部を通ることにもなる。したがって、被加熱部の一端部での発熱を促進することができ、ローラ表面の軸方向における温度分布をより効果的に均一化することができる。
【0012】
本発明において、前記溝部は、前記端面部の内面のうち、径方向において前記被加熱部と前記ヒータとの間の領域にのみに形成されているとよい。
【0013】
溝部を形成する範囲を、被加熱部とヒータとの間の領域に限定することで、端面部の剛性低下、ひいては、ローラ本体の強度低下を抑えることができる。
【0014】
本発明において、前記溝部は、径方向の最も外側で最も深くなっているとよい。
【0015】
このように、溝部の深さを変化させることで、溝部の容積を小さくすることができ、端面部の剛性低下、ひいては、ローラ本体の強度低下を抑えることができる。しかも、溝部は径方向の最も外側で最も深くなっているので、溝部の最も深い部分を一端側に回り込む磁束が、被加熱部の一端部を通りやすくなる。したがって、被加熱部の一端部での発熱を促進することができ、ローラ表面の軸方向における温度分布をより効果的に均一化することができる。
【0016】
本発明において、前記端面部のうち前記溝部が形成されていない部分の厚さは、前記被加熱部の厚さよりも大きいとよい。
【0017】
こうすれば、端面部の剛性を高くすることができ、ローラ本体の強度を向上させることができる。
【0018】
本発明において、前記端面部のうち前記溝部が形成されている部分の最小厚さは、前記被加熱部の厚さよりも小さいとよい。
【0019】
こうすれば、溝部の最も深い部分(端面部の厚さが最も小さい部分)を通る磁束が、より一端側を通ることになる。したがって、ローラ本体の一端部での発熱をより促進することができ、ローラ表面の軸方向における温度分布をより効果的に均一化することができる。
【0020】
本発明において、前記端面部のうち前記溝部が形成されている部分の最小厚さは、3mm以上であるとよい。
【0021】
こうすれば、端面部の厚さが最小となっている部分で磁束が飽和してしまうことを避けることができ、誘導加熱による加熱効率の低下を抑えることができる。
【0022】
本発明において、前記溝部が非磁性体部材で埋められているとよい。
【0023】
こうすれば、溝部が単なる空間となっている場合と比べて、端面部の剛性を高くすることができ、ローラ本体の強度を向上させることができる。
【0024】
本発明において、前記被加熱部の内周面と接触するように配置され、軸方向の熱伝導率が前記被加熱部の少なくとも内周面の熱伝導率よりも高い非磁性体の均熱部材をさらに備え、前記非磁性体部材として、前記均熱部材の一部が前記溝部に挿入されているとよい。
【0025】
このような均熱部材を設けることで、ローラ表面の軸方向における温度分布をより効果的に均一化することができる。しかも、その均熱部材を利用して溝部を補強できるので好適である。
【0026】
本発明において、前記均熱部材は、繊維複合材料からなるとよい。
【0027】
繊維複合材料の場合、繊維の配向を工夫することによって、熱伝導率や電気抵抗率等の物性値に異方性を持たせることができ、均熱部材の材料として使い勝手がよい。
【0028】
本発明において、前記均熱部材は、前記被加熱部の少なくとも内周面より熱伝導率が高い非磁性体の金属材料からなるとよい。
【0029】
一般的に、金属材料は繊維複合材料より加工がしやすいので、均熱部材を金属材料で構成すれば、均熱部材の成形が容易となる。
【0030】
本発明において、前記ローラ本体は軸方向の他端側の端部において片持ち支持されているとよい。
【0031】
ローラ本体が他端側の端部で片持ち支持されている場合、ローラ本体の一端部は外気にさらされた自由端となり、ローラ表面の温度が特に低下しやすい。したがって、ローラ本体の一端部での発熱を促進することができる本発明が特に有効である。
【0032】
本発明に係る紡糸延伸装置は、上記何れかの誘導加熱ローラを備える紡糸延伸装置であって、前記ローラ本体の外周面に複数の糸が軸方向に並んで巻き掛けられていることを特徴とする。
【0033】
本発明によれば、ローラ表面の軸方向における温度分布を均一化することができる。したがって、ローラ本体に巻き掛けられた複数の糸を均一に加熱することができ、複数の糸の品質がばらつくことを抑え、糸の品質を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
(紡糸引取機)
本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る誘導加熱ローラを備える紡糸引取機を示す模式図である。
図1に示すように、紡糸引取機1は、紡糸装置2から連続的に紡出されたポリエステル等の溶融繊維材料が固化して形成された複数(ここでは6本)の糸Yを、紡糸延伸装置3で延伸した後、糸巻取装置4で巻き取る構成となっている。なお、以下では、各図に付した方向を参照しつつ説明を行う。
【0036】
紡糸装置2は、ポリエステル等の溶融繊維材料を連続的に紡出することで、複数の糸Yを生成する。紡糸装置2から紡出された複数の糸Yは、油剤ガイド10によって油剤が付与された後、案内ローラ11を経て紡糸延伸装置3に送られる。
【0037】
紡糸延伸装置3は、複数の糸Yを加熱延伸する装置であり、紡糸装置2の下方に配置されている。紡糸延伸装置3は、保温箱12の内部に収容された複数(ここでは5つ)のゴデットローラ21〜25を有している。各ゴデットローラ21〜25は、モータによって回転駆動されるとともに、コイルへの通電によって誘導加熱される誘導加熱ローラであり、複数の糸Yが巻き掛けられている。保温箱12の右側面部の下部には、複数の糸Yを保温箱12の内部に導入するための導入口12aが形成され、保温箱12の右側面部の上部には、複数の糸Yを保温箱12の外部に導出するための導出口12bが形成されている。複数の糸Yは、下側のゴデットローラ21から順番に、各ゴデットローラ21〜25に対して360度未満の巻き掛け角で巻き掛けられている。
【0038】
下側3つのゴデットローラ21〜23は、複数の糸Yを延伸する前に予熱するための予熱ローラであり、これらのローラ表面温度は、糸Yのガラス転移点以上の温度(例えば90〜100℃程度)に設定されている。一方、上側2つのゴデットローラ24、25は、延伸された複数の糸Yを熱セットするための調質ローラであり、これらのローラ表面温度は、下側3つのゴデットローラ21〜23のローラ表面温度よりも高い温度(例えば150〜200℃程度)に設定されている。また、上側2つのゴデットローラ24、25の糸送り速度は、下側3つのゴデットローラ21〜23よりも速くなっている。
【0039】
導入口12aを介して保温箱12に導入された複数の糸Yは、まず、ゴデットローラ21〜23によって送られる間に延伸可能な温度まで予熱される。予熱された複数の糸Yは、ゴデットローラ23とゴデットローラ24との間の糸送り速度の差によって延伸される。さらに、複数の糸Yは、ゴデットローラ24、25によって送られる間にさらに高温に加熱されて、延伸された状態が熱セットされる。このようにして延伸された複数の糸Yは、導出口12bを介して保温箱12の外に導出される。
【0040】
紡糸延伸装置3で延伸された複数の糸Yは、案内ローラ13を経て糸巻取装置4に送られる。糸巻取装置4は、複数の糸Yを巻き取る装置であり、紡糸延伸装置3の下方に配置されている。糸巻取装置4は、ボビンホルダ14やコンタクトローラ15等を備えている。ボビンホルダ14は、前後方向に延びる円筒形状を有し、図示しないモータによって回転駆動される。ボビンホルダ14には、その軸方向に複数のボビンBが並んだ状態で装着される。糸巻取装置4は、ボビンホルダ14を回転させることによって、複数のボビンBに複数の糸Yを同時に巻き取り、複数のパッケージPを生産する。コンタクトローラ15は、複数のパッケージPの表面に接触して所定の接圧を付与し、パッケージPの形状を整える。
【0041】
(誘導加熱ローラ)
次に、ゴデットローラ21〜25に適用される誘導加熱ローラ30の構成について、
図2を用いて説明する。
図2は、本実施形態に係る誘導加熱ローラ30の軸方向に沿った断面図である。誘導加熱ローラ30のローラ本体31は、ローラ本体31を回転駆動するモータ100によって片持ち支持されている。以下では、円筒状のローラ本体31の延びている方向(
図2の左右方向)を軸方向と呼ぶ。軸方向において、ローラ本体31の先端側(
図2の右側)が本発明の一端側に相当し、その反対の基端側(
図2の左側)が本発明の他端側に相当する。また、適宜、ローラ本体31の径方向を単に径方向、ローラ本体31の周方向を単に周方向と呼ぶ。
【0042】
誘導加熱ローラ30は、軸方向に延びる円筒状のローラ本体31と、ローラ本体31の外周面(以下、ローラ表面31aと言う)を昇温させるヒータ40とを有する。誘導加熱ローラ30は、ヒータ40に設けられたコイル41による誘導加熱を利用して、ローラ表面31aを昇温させる。その結果、ローラ表面31aに軸方向に並んだ状態で巻き掛けられた複数の糸Yが加熱される。
【0043】
ローラ本体31は、磁性体であり、導体でもある炭素鋼からなる。ローラ本体31は、コイル41の径方向外側に位置する円筒状の外筒部33と、コイル41の径方向内側に位置する円筒状の軸心部34と、外筒部33の先端部と軸心部34の先端部とを接続する円板状の端面部35と、が一体形成されたものである。ただし、外筒部33及び端面部35が磁性体且つ導体であるならば、外筒部33及び端面部35が異なる材料であってもよい。また、外筒部33及び端面部35が同じ材料で構成されている場合であっても、外筒部33及び端面部35を異なる部材としてもよい。ローラ本体31の基端側は開口しており、この開口からモータ100の出力軸101がローラ本体31の内部に挿入される。
【0044】
ローラ本体31の軸心部34には、軸方向に沿って延設された軸取付孔34aが形成されている。軸取付孔34aには、基端側から挿入されたモータ100の出力軸101が、不図示の固定手段によって固定されている。これによって、ローラ本体31の基端部が、モータ100の出力軸101によって片持ち支持され、ローラ本体31が出力軸101と一体回転可能となっている。
【0045】
本実施形態では、ローラ表面31aを効率的に昇温させるため、外筒部33の厚さを6〜8mm程度とある程度小さくしている。これに対して、端面部35の厚さを外筒部33と同程度とすると、ローラ本体31の強度が不足するおそれがあるため、端面部35の厚さを8〜10mm程度と外筒部33よりも大きくしている。ただし、ここに示した厚さは一例にすぎず、外筒部33の厚さを端面部35と同程度以上の厚さとすることも可能である。
【0046】
ローラ本体31の内部には、外筒部33の内周面に接触するように配置された円筒状の均熱部材36が設けられている。均熱部材36は、例えば炭素繊維と黒鉛とを含むC/Cコンポジット(炭素繊維強化炭素複合材料)からなる。
図3は、本実施形態に係るローラ本体31及び均熱部材36の各物性値を示す表である。均熱部材36に使われるC/Cコンポジットは、炭素繊維が軸方向配向又はランダム配向されている。このため、
図3に示すように、均熱部材36の軸方向の熱伝導率はローラ本体31(少なくとも、外筒部33の内周面)の熱伝導率よりも高く、均熱部材36によってローラ表面31aの軸方向における温度分布を均一にすることができる。また、均熱部材36の周方向の電気抵抗率は、外筒部33の電気抵抗率より大きいので、均熱部材36には渦電流が流れにくい。さらに、C/Cコンポジットは非磁性体なので、磁束は均熱部材36をほとんど通らず、均熱部材36が誘導加熱されることを抑制できる。
【0047】
図2に戻って、均熱部材36の外径は外筒部33の内径と略同じであり、均熱部材36の外周面が略全面にわたって外筒部33の内周面に接触している。均熱部材36の軸方向の長さは、概ねローラ本体31の外筒部33と同じ長さである。均熱部材36の先端部は、後述する溝部35aに挿入されており、均熱部材36の基端部は、環状の固定リング37によって外筒部33の基端部に固定されている。固定リング37は、例えば炭素鋼等の磁性体からなる。
【0048】
ローラ本体31の基端側には、フランジ38が配置されている。フランジ38は、磁性体であり、例えばローラ本体31と同じく炭素鋼からなる。フランジ38は、円板状の部材であり、その中心部には、モータ100の出力軸101を挿通させるための貫通孔38aが形成されている。フランジ38は、コイル41よりも径方向外側まで延びており、周縁部の内面に環状溝38bが形成されている。この環状溝38bには、上述の固定リング37が、環状溝38bの構成面に接触しないように配置されている。
【0049】
次に、ヒータ40について説明する。ヒータ40は、コイル41及びボビン部材42を有する。コイル41は、ローラ本体31を誘導加熱するためのものである。コイル41は、円筒状のボビン部材42に巻き付けられており、径方向において、ローラ本体31の外筒部33よりも内側且つ軸心部34よりも外側に配置されている。
【0050】
ボビン部材42は、例えばローラ本体31と同じく炭素鋼からなる。ボビン部材42は、コイル41が巻き付けられる円筒状の鉄心部42aと、鉄心部42aの先端部から径方向外側に突出したフランジ部42bとを有する。ボビン部材42の先端部は端面部35からわずかに離間しており、ボビン部材42の基端部はフランジ38に取り付けられている。図示は省略するが、ボビン部材42は周方向の一部分が切断されたC字状の断面形状を有する。このため、ボビン部材42には渦電流が流れにくく、ボビン部材42が誘導加熱されるのを抑えることができるようになっている。
【0051】
図4は、本実施形態の誘導加熱ローラ30の一部拡大断面図及びローラ表面の温度分布を示すグラフである。コイル41に高周波電流を供給すると、コイル41の周りに変動磁界が発生する。そして、電磁誘導によってローラ本体31の外筒部33を周方向に流れる渦電流が生じ、そのジュール熱によって外筒部33が加熱され、ローラ表面31aの温度が上昇する。このとき、
図4で矢印に示すように、ボビン部材42の鉄心部42a、ボビン部材42のフランジ部42b、ローラ本体31の端面部35、ローラ本体31の外筒部33、固定リング37、フランジ38を通る磁束経路が形成される。なお、電流の向きに応じて、磁束の向きは変わる。
【0052】
(従来技術の問題点)
図8は、従来の誘導加熱ローラ90の一部拡大断面図及びローラ表面31aの温度分布を示すグラフである。本実施形態の誘導加熱ローラ30と共通の構成については同じ符号を付している。
【0053】
磁束は最短経路を通ろうとする性質を有するため、磁束は外筒部33と端面部35との角部の内側を主に通る。このため、端面部35がある程度の厚さを有する場合、外筒部33の先端部(
図8の破線部分参照)をほとんど磁束が通らずに、外筒部33の先端部を十分に加熱することができなかった。その結果、ローラ表面31aの温度が先端部で急激に低下し、軸方向における温度分布が不均一となっていた。特に、ローラ本体31がモータ100によって片持ち支持されており、ローラ本体31の先端部が外気にさらされている場合には、このような問題が顕著であった。
【0054】
一方、端面部35の厚さを小さくすれば、磁束が外筒部33の先端部も通るようになり、外筒部33の先端部も加熱することができるので、ローラ表面31aの温度分布は改善する。しかし、そうすると端面部35の剛性が低くなり、ローラ本体31の強度が低下してしまうという問題があった。
【0055】
(溝部の構成)
以上のような問題を解決するため、本実施形態では、
図4に示すように、ローラ本体31の端面部35の内面のうち、径方向において外筒部33とヒータ40との間、より正確には、径方向において外筒部33の内周面とボビン部材42のフランジ部42bの径方向外側端との間の領域の一部に、溝部35aを形成している。この溝部35aは、外筒部33に隣接する位置に形成されており、周方向の全周にわたって延びる環状構造とされている。溝部35aには、均熱部材36の先端部が挿入されている。
【0056】
溝部35aには均熱部材36が挿入されているが、均熱部材36は非磁性体なので、均熱部材36を磁束が通ることはほとんどない。つまり、溝部35a(均熱部材36)を回避するように、磁束はローラ本体31の端面部35及び外筒部33の先端側に回り込むことになる(
図4の破線部分参照)。その結果、外筒部33の先端部での発熱量を増加させることができ、ローラ表面31aの温度分布を均一化することが可能となる。
【0057】
本実施形態の溝部35aは、周方向に直交する断面形状が三角形状であり、径方向外側ほど深さが深くなるテーパー状となっている。すなわち、溝部35aの深さは径方向の最も外側で最も深くなっており、溝部35aを先端側に回り込む磁束が、外筒部33の先端部を通りやすくなっている。このため、外筒部33の先端部を効率的に発熱させることができる。また、端面部35のうち溝部35aが形成されている部分の最小厚さ(溝部35aが最も深い箇所における厚さ)は、例えば3〜5mm程度とされており、外筒部33の厚さ(6〜8mm程度)よりも小さい。最小厚さを小さくすればするほど磁束は先端側を通るようになるが、あまりに小さすぎると磁束が飽和して加熱効率が低下するので、最小厚さが3mm以上であることが好ましい。
【0058】
(効果)
本実施形態の誘導加熱ローラ30は、ローラ本体31の端面部35の内面のうち、径方向において外筒部33(本発明の被加熱部に相当)とヒータ40との間の領域に、周方向に延びる溝部35aが形成されている。このような構成によれば、端面部35を通る磁束は、溝部35aを回避するように軸方向の先端側(一端側)に回り込むことになる。したがって、ローラ本体31の先端部での発熱を促進することができ、ローラ表面31aの軸方向における温度分布を改善できる。また、端面部35の内面の一部に溝部35aを形成するだけなので、端面部35の剛性が大きく低下することはない。このように、本実施形態の誘導加熱ローラ30によれば、ローラ本体31の強度低下を抑えつつ、ローラ表面31aの軸方向における温度分布を均一化することができる。
【0059】
本実施形態では、溝部35aは、周方向において全周にわたって形成された環状構造である。溝部35aを環状構造とすることで、周方向の全周にわたってローラ本体31の先端部での発熱を促進することができるので、ローラ表面31aの軸方向における温度分布を効果的に均一化することができる。
【0060】
本実施形態では、溝部35aは、外筒部33に隣接して形成されている。溝部35aが外筒部33に隣接していると、溝部35aを回避するように先端側に回り込む磁束は、外筒部33の先端部を通ることにもなる。したがって、外筒部33の先端部での発熱を促進することができ、ローラ表面31aの軸方向における温度分布をより効果的に均一化することができる。
【0061】
本実施形態では、溝部35aは、端面部35の内面のうち、径方向において外筒部33とヒータ40との間の領域にのみに形成されている。このように、溝部35aを形成する範囲を、外筒部33とヒータ40との間の領域に限定することで、端面部35の剛性低下、ひいては、ローラ本体31の強度低下を抑えることができる。
【0062】
本実施形態では、溝部35aは、径方向の最も外側で最も深くなっている。このように、溝部35aの深さを変化させることで、溝部35aの容積を小さくすることができ、端面部35の剛性低下、ひいては、ローラ本体31の強度低下を抑えることができる。しかも、溝部35aは径方向の最も外側で最も深くなっているので、溝部35aが最も深い部分を先端側に回り込む磁束が、外筒部33の先端部を通りやすくなる。したがって、外筒部33の先端部での発熱を促進することができ、ローラ表面31aの軸方向における温度分布をより効果的に均一化することができる。
【0063】
本実施形態では、端面部35のうち溝部35aが形成されていない部分の厚さは、外筒部33の厚さよりも大きい。こうすれば、端面部35の剛性を高くすることができ、ローラ本体31の強度を向上させることができる。
【0064】
本実施形態では、端面部35のうち溝部35aが形成されている部分の最小厚さは、外筒部33の厚さよりも小さい。こうすれば、溝部35aの最も深い部分(端面部35の厚さが最も小さい部分)を通る磁束が、より先端側を通ることになる。したがって、ローラ本体31の先端部での発熱をより促進することができ、ローラ表面31aの軸方向における温度分布をより効果的に均一化することができる。
【0065】
本実施形態では、端面部35のうち溝部35aが形成されている部分の最小厚さは、3mm以上である。こうすれば、端面部35の厚さが最小となっている部分で磁束が飽和してしまうことを避けることができ、誘導加熱による加熱効率の低下を抑えることができる。
【0066】
本実施形態では、溝部35aが非磁性体部材36で埋められている。こうすれば、溝部35aが単なる空間となっている場合と比べて、端面部35の剛性を高くすることができ、ローラ本体31の強度を向上させることができる。
【0067】
本実施形態では、外筒部33の内周面と接触するように配置され、軸方向の熱伝導率が外筒部33の少なくとも内周面の熱伝導率よりも高い非磁性体の均熱部材36をさらに備え、上記非磁性体部材として、均熱部材36の一部が溝部35aに挿入されている。このような均熱部材36を設けることで、ローラ表面31aの軸方向における温度分布をより効果的に均一化することができる。しかも、その均熱部材36を利用して溝部35aを補強できるので好適である。
【0068】
本実施形態では、均熱部材36は、繊維複合材料からなる。繊維複合材料の場合、繊維の配向を工夫することによって、熱伝導率や電気抵抗率等の物性値に異方性を持たせることができ、均熱部材36の材料として使い勝手がよい。
【0069】
本実施形態では、上記繊維複合材料は、炭素繊維と黒鉛とを含むC/Cコンポジット(炭素繊維強化炭素複合材料)である。C/Cコンポジットは、炭素繊維を含む繊維複合材料の中でも高い熱伝導率を有しており、耐熱性も高い。したがって、均熱部材36にC/Cコンポジットを採用することで、ローラ表面31aの温度分布をより効果的に均一化できるとともに、高温にも耐え得る誘導加熱ローラ30を提供することができる。
【0070】
本実施形態では、ローラ本体31は軸方向の基端側(他端側)の端部において片持ち支持されている。ローラ本体31が基端部で片持ち支持されている場合、先端部は外気にさらされた自由端となり、ローラ表面31aの温度が特に低下しやすい。したがって、ローラ本体31の先端部での発熱を促進することができる本発明が特に有効である。
【0071】
本実施形態では、ローラ本体31の外周面に複数の糸Yが軸方向に並んで巻き掛けられている。本発明によれば、ローラ表面31aの軸方向における温度分布を均一化することができる。したがって、ローラ本体31に巻き掛けられた複数の糸Yを均一に加熱することができ、複数の糸Yの品質がばらつくことを抑え、糸Yの品質を向上させることができる。
【0072】
(他の実施形態)
上記実施形態に種々の変更を加えた変形例について説明する。
【0073】
上記実施形態では、溝部35aの周方向に直交する断面形状は三角形状であるとした。しかしながら、溝部35aの具体的な形状はこれに限定されない。例えば、
図5のa図に示すように、断面形状が矩形状の溝部35bでもよいし、
図5のb図に示すように、断面形状が円弧状の溝部35cでもよいし、これら以外の形状でもよい。
【0074】
上記実施形態では、溝部35aに均熱部材36の先端部が挿入されているものとしたが、こうすることは必須ではない。例えば、
図6のa図に示すように、溝部35dに均熱部材36が挿入されていなくてもよいし、
図6のb図に示すように、均熱部材36を省略し、溝部35eに何も挿入されていない状態であってもよい。溝部35d、35eのような単なる空間であっても、空気の比透磁率はローラ本体31(炭素鋼)よりも低いので、端面部35を通る磁束は、溝部35d、35eを先端側に回り込み、外筒部33の先端部での発熱を促進することができる。また、
図7のa図に示すように、均熱部材ではない非磁性体部材39で溝部35fを埋めるようにしてもよい。ここでの、「埋められている」とは、溝部35aの全てが非磁性体部材によって埋められている場合に限定されず、端面部35の剛性を高めることが可能な程度に溝部35aの一部が非磁性体部材で埋められていることも含む。
【0075】
上記実施形態では、溝部35aが、ローラ本体31の外筒部33に隣接して形成されている(外筒部33と端面部35との角部に形成されている)ものとした。しかしながら、溝部が外筒部33に隣接して形成されていることは必須ではない。例えば、
図7のb図に示す溝部35gのように、径方向において外筒部33とヒータ40との間の領域に形成されていれば、外筒部33から離間していてもよい。この場合でも、端面部35の先端部を発熱させることにより、端面部35からの熱伝導により外筒部33の先端部を昇温させやすくなる。
【0076】
上記実施形態では、溝部35aが周方向において全周にわたって形成された環状構造であるとものとした。しかしながら、溝部は必ずしも環状構造である必要はなく、周方向の一部が途切れていてもよいし、環状構造の溝を周方向に複数に分割した溝でもよい。
【0077】
上記実施形態では、均熱部材36をC/Cコンポジットで構成するものとした。しかしながら、均熱部材36を、炭素繊維と樹脂とを含むCFRP(炭素繊維強化プラスチック)で構成してもよい。CFRPは、C/Cコンポジットと比べると、耐熱性は低いが安価である。したがって、誘導加熱ローラ30にそれほど耐熱性が求められない場合には、均熱部材36にCFRPを採用することで、コストを低減することができる。
【0078】
さらには、均熱部材36をC/CコンポジットやCFRP等の繊維複合材料ではなく、外筒部33(炭素鋼)の少なくとも内周面より熱伝導率が高い非磁性体の金属材料、例えば、アルミニウムや銅等で構成してもよい。一般的に、金属材料は繊維複合材料より加工がしやすいので、均熱部材36を金属材料で構成すれば、均熱部材36の成形が容易となる。
【0079】
上記実施形態では、ローラ本体31が片持ち支持されるものとした。しかしながら、ローラ本体31が両持ち支持される構成であってもよい。
【0080】
上記実施形態では、誘導加熱ローラ30の外周面に複数の糸Yが巻き掛けられるものとした。しかしながら、誘導加熱ローラ30の外周面に巻き掛けられる糸Yの数が1本であってもよい。
【0081】
上記実施形態では、糸Yを加熱する誘導加熱ローラ30について説明した。しかしながら、誘導加熱ローラ30の用途は糸Yを加熱するものに限定されず、糸Y以外のフィルム、紙、不織布、樹脂シート等のシート材を加熱するものや、複写機等に備えられるシート上のトナー像等を加熱するものでもよい。