【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、独立請求項の主題によって解決される。本発明の有利な実施形態は、従属請求項の主題である。
【0011】
本発明の発明者らは、エピタキシャル工程に対する上記の悪影響を抑える(または避ける)には、吸収係数が不均一になるのを抑えなければならないことを認識している。既に上で述べたように、完全に処理されたSiC基板における吸収の横方向の差は、ブールの成長工程中の熱的条件に主に依存する。ブール成長の成長中の結晶欠陥を避けるために、温度場は、等温線が成長面(凸形結晶(convex crystal))においてカーブするように選択されなければならない。その結果、選択された結晶長さにおいて、中央部では、周辺領域に比べて異なる温度が存在する。不純物の組込み機構は温度に依存するので、これにより、これら機構に差異が生じることになる。等温線の曲率が小さくなり過ぎるように選択された場合、結晶の欠陥はあまりにも多くなる。
【0012】
一般に、ドーパントまたは汚染物などの不純物が取り込まれるのを避けることはできず、不純物は、ケイ素または炭素を除く任意の化学元素を含むことができる。一方では、基板の電気抵抗を調節するために、通常は窒素がドーパントとして必要とされる。他方では、源材料およびルツボ部品は、決まって微量の不純物、たとえば鉄、アルミニウムなどで汚染されている。
【0013】
当技術分野では知られているように、不純物原子は通常の格子位置においてケイ素原子または炭素原子に取って代わる場合もあり、格子間の位置に存在する場合もある。さらに、不純物原子は、それらのタイプ、および結晶格子内での位置に応じて、電気的にアクティブまたは非アクティブであり得る。最終製品の、電気抵抗などの測定される電気的特性は、実際の不純物原子濃度を必ずしも反映するわけではないことに留意しなければならない。これらの不純物原子は、吸収特性に局所的に影響を与える。
【0014】
具体的には、吸収特性は、いわゆるドナーアクセプタ対(DAP)吸収帯に対する窒素の影響により、ドーパント窒素の存在によって影響され得る。
【0015】
したがって、最終処理後のSiC基板の吸収特性における横方向の差は、結晶の成長中に組み込まれた異物原子、たとえば窒素に依存する。SiC基板の吸収特性は、エピタキシャル工程中の半透過性基板の熱場への結合の品質にかなりの影響を与える。SiC基板の熱的結合の差は、エピタキシャル成長中、基板全体にわたる不均一な温度分布を生じさせる。これにより、望ましくない不利な影響、具体的にはエピタキシャル層の不均一な成長が生じ、したがってコストが高くなり、廃棄物が増える。
【0016】
本発明は、吸収係数が不均一に分布するのを抑えることにより、エピタキシャル工程への悪影響を避ける、または少なくとも小さくすることができるというアイデアに基づく。最終処理後の基板において特に均一な横方向の吸収特性を得るために、本発明では、改善された結晶成長工程を使用することにより、2つの異なる領域における異物原子の平均濃度を調節する。具体的には、横方向の分散が制御された追加のドーパント原子を導入することにより、結晶の成長中、カーブした等温線によって生じる、基板の表面全体にわたる吸収特性の差を補償することができる。
【0017】
本発明によるSiC基板は、半径方向において、少なくとも2つの異なる領域を備える。第2の領域と比較して著しく異なる濃度の選択した不純物原子を第1の領域に与えることにより、基板における吸収特性の分布を選択的に制御することができる。具体的には、本発明による炭化ケイ素基板は、前記基板の総表面積の少なくとも30%を占める内側領域と、内側領域を半径方向に囲む、リング形状の周辺領域とを備える。内側領域でのドーパントの平均濃度は、周辺領域でのこのドーパントの平均濃度とは5・10
18cm
−3以下だけ異なり、内側領域と周辺領域の平均吸収係数は、10cm
−1未満だけ異なる。
【0018】
これにより、基板の表面にわたって吸収特性の均一な分布を与えることができ、したがってエピタキシャル反応チャンバでの熱結合が均一になることを、本発明者らは認識している。これにより、エピタキシャル層の品質がはるかに高くなる。
【0019】
内側領域は、前記基板の総表面積の45%±15%を形成することが好ましい。このように分配すると、最も満足な結果になることが示され得る。既に述べたように、内側領域での平均濃度は、周辺領域での平均濃度とは最大で5・10
18cm
−3異なり、好ましくは、内側領域での平均濃度は、周辺領域での平均濃度とは最大で1・10
18cm
−3異なる(すなわち、内側領域は、周辺領域と比較して高い、または低い平均濃度を有することができる)。この濃度差は、基板に存在する全体的なドーパント濃度レベルには依存しないことに留意しなければならない。
【0020】
吸収係数が本発明に従ってドーパントによって調節されるとき、任意の不純物元素が使用されてもよい。有利には、SiC基板の電気抵抗を決定するためにいずれにせよ製造工程に導入される窒素が使用されてもよい。
【0021】
特に高品質のエピタキシャル層を得るには、内側領域と周辺領域の平均吸収係数の最大偏差は10cm
−1未満、好ましくは5cm
−1未満になる。本発明は、有利には、4H、6H、15R、および3Cを含む群から選択されるポリタイプを有する基板に利用され得る。特に、4Hポリタイプが好ましい。SiCは、4H、6H、3Cおよび15Rなどの多くの様々なポリタイプで存在するが、4H−SiCが、高電力で高温の電子装置において最も関心の高いポリタイプである。異なるポリタイプ間の違いは、Si−C二重層の、c軸に沿った積層順序によって与えられる。
【0022】
さらに、基板の表面の配向は、公称上の軸上にあるのではなく、軸から0°〜8°ずれていてもよく、好ましくは、基板表面は4°ずれた配向を有してもよい。この配向は、後に堆積される層のエピタキシャル成長に影響を与える。
【0023】
有利には、基板の電気抵抗率は12mΩcm〜26mΩcmの範囲、好ましくは18mΩcm〜22mΩの範囲であり、かつ/またはエッチピット密度は50000cm
−2未満である。エッチピット密度(EPD)は、基板の表面近くの領域に含まれる欠陥および転座の数の評価基準である。
【0024】
さらに、本発明は、物理的蒸気輸送成長システムにおいて少なくとも1つのSiC単結晶ブールを成長させる方法に関し、この方法は、
源材料コンパートメントにSiC粉末源材料を配置するステップと、
成長コンパートメントの中に少なくとも1つのSiC種結晶を配置するステップであって、昇華したガス状成分を成長コンパートメントに供給するために、前記源材料コンパートメントが前記成長コンパートメントに連結されている、ステップと、
高温を印加して、SiC種結晶においてSiC成長相(growth phase)を生じさせる昇華したガス状成分を発生させ、それにより、SiC種結晶にSiCボリューム(volume)単結晶ブールが形成されるようにする、ステップとを含み、
成長コンパートメントは、単結晶ブールの成長中に単結晶ブールの長手方向軸を基準として半径方向にドーパント濃度を制御するためのドーパント源および/またはドーパントシンクを備える。
【0025】
ドーパント濃度を制御するためのいくつかの可能性が存在する。概して言えば、単結晶の、(長手方向軸に対して)半径方向に辺縁の領域は、中央領域よりも高いドーパント濃度を与えられなければならない。本発明によれば、周辺領域での濃度に対する中央領域での平均ドーパント濃度の差は、5・10
18cm
−3以下、好ましくは1・10
18cm
−3以下になり得る。0.1mbar〜100mbarの範囲の圧力に達する間に、成長温度は約2200℃になり得る。
【0026】
この濃度差は、たとえば周辺領域が内側領域に比べて多くの量のドーパントを受けるように、特定のドーパント元素の源を、成長コンパートメントの周辺領域に配置することによって実現することができる。別法として、選択されたドーパント向けのゲッター材料を、成長結晶の内側領域に対して最も強い影響を与えるように、成長コンパートメントの内側領域に配置することもできる。
【0027】
たとえば、ドーパントは、窒素および/またはアンモニアを含んでもよい。この場合、成長しているブールの周辺領域は、窒素ガスと直に接触してもよい。具体的には、成長コンパートメントの内部の周辺領域の周りに対称に2つ以上のガス入口を配置して、成長コンパートメントの内部の雰囲気に窒素ガスを注入することができる。この解決法には、成長工程中に組み込まれるドーパントの濃度をかなり簡単に修正および最適化できるという利点がある。
【0028】
成長結晶の周辺領域におけるドーパント濃度を高めることは、SiC粉末昇華源材料を均一に充填する代わりに、ドーパントを富化したSiC粉末昇華源材料を種結晶の周辺領域に対向する領域に提供することによっても実現することができる。この変形形態には、ガス入口および流体のプロセス剤を加えるよりも、ドーパントを富化した粉末をかなり簡単に取り扱うことができるという利点がある。富化したSiC粉末におけるドーピング元素の濃度は、少なくとも1・10
20cm
−3、好ましくは5・10
20cm
−3である。ドーピングがより少ない源材料におけるドーピング元素の濃度は、5・10
17cm
−3未満、好ましくは1・10
17cm
−3未満である。
【0029】
既に述べたように、必要とされる濃度差を与えるやり方の1つは、第2の領域に供給するドーパントの量を増やすことである。他方のやり方は、第1の領域に供給されるドーパントの量を局所的に減らすことである。これは、たとえば、成長結晶の周辺部よりも中央領域に近いところにゲッター材料を提供することによって実施することができる。当然、必要とされるゲッター材料は、濃度プロファイルを形成しなければならない具体的なドーパントに依存する。
【0030】
本発明の有利な一実施形態によれば、1つまたは複数の窒素結合金属を含む窒素ゲッターが提供される。こうした金属は、たとえばタンタル、タングステン、モリブデン、ニオブ、ハフニウム、および/またはこれらの合金もしくは混合物でもよい。
【0031】
成長領域の中央区域に存在する窒素の一部はこの金属に結合し、(通常は不可逆的な)窒素結合が生み出される。これは、中央領域において成長結晶に取り込むのに利用可能な窒素が周辺領域よりも少なくなるように、結晶の成長面付近での窒素の横方向の分散を制御することを意味する。
【0032】
単結晶へのその取込みの空間的濃度が影響を受ける必要がある特定のドーパントに応じ、他のゲッター材料が使用されてもよいことは、当業者には明らかである。
【0033】
ゲッター材料は、たとえば、黒鉛などの多孔質壁部によって定位置に保持された粒状粒子または粉末粒子の形で提供されてもよい。窒素をゲッタリングすべき場合、ゲッター粒子は、タンタル、タングステン、ハフニウム、モリブデン、ニオブ、ハフニウム、および/またはこれらの合金もしくは混合物を含むことができる。窒素は、多孔質の黒鉛壁部を通過し、不可逆的にゲッター金属に結合する。したがって、半径方向において、周辺領域よりも中央で濃度値が低い窒素濃度プロファイルが生み出される。その結果、成長しているSiC単結晶の中央領域では、成長結晶格子に組み込むのに利用可能なガス状窒素が少なくなる。
【0034】
本発明の有利な実施形態によれば、成長コンパートメントにおけるドーパントの濃度プロファイルは、成長コンパートメントと源材料コンパートメントの間の界面で調節することができる。具体的には、源材料コンパートメントにSiC粉末源材料を配置するステップは、ドーパント(たとえば窒素)を富化したSiC粉末源材料を充填するステップと、源材料コンパートメントと成長コンパートメントの間の界面の中央領域をドーパント(たとえば窒素)ゲッターで部分的に覆うステップとを含んでもよい。ゲッターは、黒鉛カプセル内に具体化された合金または混合物としてのタンタル、タングステン、ニオブ、モリブデンまたはハフニウムなどの金属であり、嵩密度は1.0〜2.0g/cm
−3、好ましくは1.2g/cm
−3であり、ゲッター粒子の組成は0.01mm〜1mmの範囲、好ましくは0.05mm〜0.5mmの範囲でもよい。
【0035】
当然、上記の実施形態の種々の組合せも本発明に含まれることが意図されている。
【0036】
当技術分野では一般に知られているように、PVT成長技法は、成長速度がかなり遅く、通常は約100μm/hの範囲であるということに苦慮している。したがって、特性を損なうことなくより迅速にSiC結晶を成長させる工程も求められている。この課題を解決するために、ルツボの内側チャンバを、中央の源材料コンパートメントと、対称に配置されてそれぞれが少なくとも1つのSiC種結晶を備える2つの成長コンパートメントとに分割することによって2つ以上のSiC単結晶ブールを同時に成長させる対称型PVT成長システムに、本発明によるアイデアを適用することができる。各成長コンパートメントは、ガス透過性の多孔質の仕切りにより、それぞれ源材料コンパートメントから隔てられる。こうした完全に対称な配置により、源材料コンパートメントの中央において温度が最も高く、各種結晶の場所ではより低い同一の温度をもつ領域を有する温度プロファイルを生み出すことができる。こうしたPVT成長システムは、欧州特許第2664695B1号明細書に記載されている。
【0037】
2つのSiC単結晶を同時に成長させるこうした方法には、生産されるブールのそのままの品質を依然として保ちながら、はるかに多い生産量を得ることができるという利点がある。
【0038】
本発明のいくつかの実施形態を説明するために、添付図面が本明細書に組み込まれ、その一部を形成する。これらの図面は、説明とともに、本発明の原理を説明する働きをする。図面は、本発明をどう作成および使用することができるかという好ましい例および代替の例を示す目的のものに過ぎず、図示および説明される実施形態のみに本発明を限定するものと解釈されるべきではない。さらに、各実施形態のいくつかの態様が、個々に、または様々な組合せで、本発明による解決策をなす場合がある。さらなる特徴および利点は、添付図面に示されている本発明の様々な実施形態についての以下のより詳細な説明から明らかになろう。各添付図面中、同様のリファレンスは同様の要素を指す。