特許第6966818号(P6966818)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6966818
(24)【登録日】2021年10月26日
(45)【発行日】2021年11月17日
(54)【発明の名称】殺菌用水溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/02 20060101AFI20211108BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20211108BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20211108BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20211108BHJP
【FI】
   A01N59/02 Z
   A01P3/00
   A01P1/00
   A01N25/02
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2021-77250(P2021-77250)
(22)【出願日】2021年4月30日
【審査請求日】2021年4月30日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502191491
【氏名又は名称】株式会社オクト
(74)【代理人】
【識別番号】100199369
【弁理士】
【氏名又は名称】玉井 尚之
(72)【発明者】
【氏名】田中 好郎
(72)【発明者】
【氏名】三浦 頡剛
【審査官】 高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/065734(WO,A1)
【文献】 Bull, Natl. Inst. Health Sci.,129,2011年,37-54
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 59/02
A01P 3/00
A01P 1/00
A01N 25/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
殺菌用水溶液の製造方法であって、
硫酸(HSO)と重水(DO)とを、重水(DO)成分が1.5〜20重量%
含むように混合液を作成するステップと、
水(HO)を用いて前記混合液をpHが0.5以上1.2以下となるように希釈調製
するステップと、を有する殺菌用水溶液の製造方法。
【請求項2】
殺菌用水溶液の製造方法であって、
硫酸(HSO)と重水(DO)とを、重水(DO)成分が1.5〜20重量%
含む所定の含量となるように、硫酸(HSO)及び重水(DO)を秤量準備するス
テップと、
前記秤量準備された硫酸(HSO)及び重水(DO)に水(HO)を加えたと
きにpHが0.5以上1.2以下であって、所定のpHにするための水(HO)を秤量
準備するステップと、
前記秤量準備された硫酸(HSO)、重水(DO)及び水(HO)を混和する
ステップと、を有する殺菌用水溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、殺菌用水溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生活環境の殺菌、医療用器具の殺菌、食品容器の殺菌等、数多くの状況で殺菌液が使用
されている。その使用形態は多岐にわたっている。例えば、布に含ませて拭く操作、タン
クに殺菌液を投入し、その中に手術用器具を浸漬して超音波洗浄をする操作、食品容器に
シャワー洗浄をする操作、霧状にして室内の空中に噴霧する操作等である。
【0003】
殺菌液の最も重要な特性は、殺菌力の高さである。毒性の高い殺菌液ほど効果があるた
め、毒性が高ければ高いほどその性能は高いといえる。一方、殺菌液を取り扱う上で、取
り扱う人への副作用が高いと取り扱いが困難になる。一般に、殺菌液の殺菌力が高ければ
高いほど取り扱い上の副作用が高くなるため、現実には、受け入れ可能な副作用を限界と
してできるだけ殺菌力の高い殺菌液が用いられている。
【0004】
酸性の殺菌液として一般に、次亜塩素酸を主成分とする殺菌液と、過酢酸及び/または
酢酸を主成分とするものが知られている。特許文献1に記載の殺菌液は、亜塩素酸を主成
分とする殺菌液で、亜塩素酸と、無機酸又は無機酸塩或いは有機酸又は有機酸塩のうちの
いずれか単体又は2種類以上の単体若しくはこれらを併用したものとを含む殺菌液であり
、食品加工の前処理殺菌剤として用いられるものである。この殺菌液は、塩素酸ナトリウ
ムのpHを2.3〜3.4に調整維持させて製造されている。
【0005】
特許文献2に記載の殺菌液は、過酢酸、酢酸、過酸化水素、カタラーゼ酵素を含有する
過酢酸系殺菌組成液であって、この殺菌液はpHが2.6〜5.0の範囲にあることを特
徴とし、食品容器等の殺菌に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−100346号公報
【特許文献2】国際公開WO2014/020961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
次亜塩素酸ナトリウムを主成分とする殺菌液は、一般によく用いられているものですが
、皮膚についたり眼に入ったりした場合、手当が遅れると皮膚壊死や失明に至る可能性が
あるといわれている。また、金属腐食性があるため、金属製品への使用を避けるか、使用
後の十分なすすぎ・水拭きが必要になる。特許文献1に記載の殺菌液においては、pHを
2.3〜3.4に調製して、殺菌力と副作用との妥協を図っている。
【0008】
過酢酸及び/または酢酸を主成分とする殺菌液は、高水準の殺菌剤として、内視鏡等の
手術用器具の殺菌に使われているが、皮膚への付着、蒸気暴露等の人体への悪影響が注意
すべき点としていわれ、使用後の十分なすすぎが必要になる。特許文献1に記載の殺菌液
においては、pHを2.6〜5.0に調製して、殺菌力と副作用との妥協を図っている。
【0009】
酸性の殺菌液は、pHが2.0未満となると、高い殺菌力を示すが、人体への悪影響、
手術用器具や洗浄タンクへの悪影響があるため、pH値を低くすることは副作用が現実的
に許容できなくなり製品化が困難となる。
【0010】
この発明の目的は、殺菌力が高く、かつ、人体等への副作用の少ない殺菌用水溶液の製
造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明(1)は、殺菌用水溶液の製造方法であって、硫酸(HSO)と重水(D
O)とを、重水(DO)成分が1.5〜20重量%含むように混合液を作成するステッ
プと、水(HO)を用いて前記混合液をpHが0.5以上2.0未満となるように希釈
調製するステップとを有する殺菌用水溶液の製造方法である。
【0012】
硫酸(HSO)と重水(DO)とを、重水(DO)成分が1.5〜20重量%
含むように混合液を作り、この混合液を水でpHが0.5以上2.0未満に希釈調製して
、硫酸(HSO)による人体等への副作用が緩和されて、しかも、低pHによる高殺
菌力を有する殺菌液とすることができる。
【0013】
硫酸(HSO)と重水(DO)とを、重水(DO)成分が1.5〜20重量%
含むように混合液を作成し、pHが0.5以上2.0未満となるように希釈調製された希
硫酸の副作用が小さくなる機序は必ずしも明確ではないが、重水(DO)に含まれる重
水素成分による反応速度を遅くさせるいわゆる重水素効果に起因すると推定される。
【0014】
重水(DO)成分は、コスト的に高いため、希釈液に含まれる重水(DO)成分の
上限は20重量%未満が好ましく、19重量%以下、18重量%以下、17重量%以下、
16重量%以下、15重量%以下、14重量%以下、13重量%以下、12重量%以下、
11重量%以下、10重量%以下、9重量%以下、8重量%以下、7重量%以下、6重量
%以下が、順に、より好ましい。重水(DO)成分の下限は、1.5重量%以上が好ま
しく、2重量%以上、3重量%以上、4重量%以上が、順に、より好ましい。重水素成分
による副作用低減効果をより確実にするためである。
【0015】
希釈されたpHの上限は、2.0以下が好ましく、1.9以下、1.8以下、1.7以
下、1.6以下、1.5以下、1.4以下、1.3以下、1.2以下、1.1以下、1.
0以下、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下が順番により好ましい。本願
の殺菌水は、希硫酸を基本物質としているため、pHが小さければ小さいほど細菌等に対
して攻撃力が高まるためである。pHの下限は、0.5以上であれば強い殺菌力を要する
細菌等に対しても有効に殺菌できるので好ましい。但し、殺菌対象菌等の種類によっては
、pHが0.5より高くとも殺菌効果が十分である場合は、pHを0.5より大きくでき
る。
【0016】
本発明(1)は、pHの安定性に関しても効果が認められる。硫酸は基本的に揮発性が
なく濃度が変わりにくいため、pHは安定している。さらに、本願の殺菌水の中には重水
素成分が含まれるため、希釈液の水も蒸発しにくいためと推定される。希釈液の水(H
O)は、重水(DO)の重水素(D)と一部入れ替わって、HDOとなるためと考えら
れる。
【0017】
本発明(2)は、殺菌用水溶液の製造方法であって、硫酸(HSO)と重水(D
O)とを、重水(DO)成分が1.5〜20重量%含む所定の含量となるように、硫酸
(HSO)及び重水(DO)を秤量準備するステップと、前記秤量準備された硫酸
(HSO)及び重水(DO)に水(HO)を加えたときにpHが0.5以上2.
0未満であって、所定のpHにするための水(HO)を秤量準備するステップと、前記
秤量準備された硫酸(HSO)、重水(DO)及び水(HO)を混和するステッ
プと、を有する殺菌用水溶液の製造方法である。
【0018】
本発明(2)は、本発明と同様に、硫酸(HSO)及び重水(DO)に対して重
水(DO)成分が、1.5〜20重量%の所定の含量となり、水(HO)を加えたと
きに、pHが0.5以上2.0未満であって、所定のpHになるので、本発明(1)と同
様の効果をえることができる。
【発明の効果】
【0019】
細菌等の殺菌用水溶液として効果が高く、かつ、取り扱いも容易で安全な殺菌用水溶液
の製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】パキラ・グラブラの葉を用いた副作用の試験において、試験開始時の状態を示している。
図2】パキラ・グラブラの葉を用いた副作用の試験において、1時間経過後の状態を示している。
図3】パキラ・グラブラの葉を用いた副作用の試験において、2時間経過後の状態を示している。
図4】パキラ・グラブラの葉を用いた副作用の試験において、19時間経過後の状態を示している。
図5】パキラ・グラブラの葉を用いた副作用の試験において、43時間経過後の状態を示している。
図6】本願殺菌水と比較電解水の時間経過とともに変化するpHを示す。
図7】本願殺菌水と比較電解水に動物組織を混入させたときの時間経過とともに変化するpHを示す。
図8】本願殺菌水と比較電解水に金属物質を混入させたときの時間経過とともに変化するpHを示す。
図9】本願殺菌水と比較電解水に樹脂物質を混入させたときの時間経過とともに変化するpHを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図及び表を参照して、本発明の最良の実施形態を説明する。
本発明の殺菌用水溶液は、硫酸(HSO)と重水(DO)とを、重水(DO)成
分が1.5〜20重量%含むように混合液を作成するステップと、水(HO)を用いて
前記混合液をpHが0.5以上2.0未満となるように調製するステップとを有する製造
工程で作られるものである。硫酸(HSO)は、富士フィルム和光純薬株式会社製の
濃度10重量%のものを用いた。重水(DO)は、富士フィルム和光純薬株式会社製の
純度99.8%のものを用いた。水(HO)は、水道水を用いた。本発明の殺菌用水溶
液を製造する方法は、これら3つの物質から構成されるものであるが、pH値に影響を与
えない、若しくは影響が極めて少ない微量成分を添加してもよい。pHの測定は、堀場製
作所製のモデルMETRO−51を用いた。
【0022】
(第1試験液群の調製)
第1試験液群は、硫酸(HSO)と重水(DO)とを、重水(DO)成分が1
5重量%含むように作成し、水(HO)で希釈調製された殺菌用水溶液のpHを所定の
値としたものである。
【0023】
(第2試験液群の調製)
第2試験液群は、硫酸(HSO)と重水(DO)とを、重水(DO)成分が3
0重量%含むように作成し、水(HO)で希釈調製された殺菌用水溶液のpHを所定の
値としたものである。
【0024】
(第3試験液群の調製)
第3試験液群は、硫酸(HSO)と重水(DO)とを、重水(DO)成分が5
重量%含むように作成し、水(HO)で希釈調製された殺菌用水溶液のpHを所定の値
としたものである。
【0025】
(第4試験液群の調製)
第4試験液群は、硫酸(HSO)と重水(DO)とを、重水(DO)成分が1
.5重量%含むように作成し、水(HO)で希釈調製された殺菌用水溶液のpHを所定
の値としたものである。
【0026】
(殺菌力試験の試験方法)
菌数測定用培地としてSCDLP寒天培地(日本製薬株式会社製)を用いて、混釈平板
培整法により行い、36℃±1℃とし、48±3時間で行う。試験菌液の調製として、B
HI液体培地(Brain Heart Infusion)に試験菌株を1白金耳接種
し、36℃で18〜24時間培養する。培養後の菌液をTrypticSoy平板培地に
塗抹し、36℃で18〜24時間培養する。培養後の平板培地より菌体を掻き取り、0.
1%トリプトン0.85%NaCl溶液中でガラスビーズと共に3分間攪拌し懸濶させ試
験菌液とする。
【0027】
試験操作として、試料9mLに試験菌液をlmL接種し、試験液を調製する。試験液を
室温で保存し保存2分後及び10分後に試験液を直ちにSCDLP液体培地(日本製薬株
式会社製)で10倍希釈し、試験液中の生菌数を、菌数測定用培地を用いて測定する。ま
た、対照として、滅菌生理食塩水を用いて同様に試験し、生菌数を測定する。
【0028】
試料の不活性化の確認として、SCDLP液体培地(不活性化剤)9mLに試料lmL
を加え、振とう攪拌させたものに試験菌液をlmL加え、10分間室温で保存し、保存後
、生菌数の測定を行い、生菌数に差がないことを確認する。試験によっては、コロニー数
のカウントで殺菌力の評価を行った。また、試験によっては、Log感染価/0.1ml
法により評価を行った。さらに、個別の試験で、特に上記試験方法と異なる部分について
は、各試験結果の説明で別途記載する。評価としては、殺菌力が数分以内に菌等が死滅す
ると認められると〇印で、10分以上経過して殺菌効果が表れるものを△印で、殺菌水と
しては不十分と認められれば×印で区別する。〇に相当するものの内、その中でも極めて
良いものは◎とした。
【0029】
(副作用試験の試験方法)
上記各種試験液及び対照液をパキラ・グラブラの葉の上に滴下して濡らし、経過観察を
行う。変色の色や範囲に着目して経過観察を行う。
【0030】
(pH安定性試験の試験方法)
所定のpHに調製された試験液と、この試験液に動物組織、金属物質、樹脂物質を浸漬
させた試験液と、対照液を室温下で静置して、pHの変化を調べる。試験液と対照液の液
量は、100mlとし、蓋をせずに開放して静置する。浸漬させる動物組織は豚肉5グラ
ム、金属物質は鉄釘1本(4グラム)、樹脂物質はペットボトルキャップ(2グラム)を
用いた。対照液は、ファーストメンテ株式会社で精製した強酸性電解水(強酸性次亜塩素
酸水)を用いる。
【0031】
(殺菌力試験の結果)
(試験1)
第1試験液群の試験液で、pH=1.5、2.0、2.5、3.0の4つの試験液を用
いた。殺菌対象は、大腸菌と黄色ブドウ球菌を用いた。その結果を下記表1に示す。なお
、「対照試験体」は本明細書において、試験液を用いず放置したものを意味している。
[表1]
【0032】
(試験2)
第1試験液群の試験液で、pH=2.0、2.5、3.5、4.4の4つの試験液を用
いた。殺菌対象は、大腸菌と黄色ブドウ球菌を用いた。その結果を下記表2に示す。
[表2]
【0033】
(試験3)
第1試験液群の試験液で、pH=0.5、1.2、2.5の4つの試験液を用いた。殺
菌対象は、ネコカリシウィルスを用いた。Log感染価/0.1ml法により評価を行っ
た。その結果を下記表3に示す。

[表3]
【0034】
(試験4)
第1試験液群の試験液で、pH=1.2、4.0の2つの試験液を用いた。殺菌対象は
、大腸菌と一般細菌とし、1ml当たりのコロニー数をカウントした。大腸菌については
、JIS K 0102−1993 72.3(デオキシコール酸塩培地法)により、一般
細菌については、JIS K 0102−1993 72.2(標準寒天培地法)により試
験を行った。試験結果を下記表4に示す。
[表4]
【0035】
(試験5)
第1試験液群の試験液で、pH=2.1、3.2、4.2の3つの試験液を用いた。殺
菌対象は大腸菌で、試験対象菌をBHI液体培地に接種し、36℃で一夜培養した後、菌
液を100倍希釈し、これを試験菌液とした。三角フラスコに試験液を20ml入れ、さ
らに試験菌液を0.1ml接種し試験液とした。菌液接種後、室温に2分及び10分間置
き、試験液1mlをサンプリングし、10倍希釈法により標準寒天培地で混釈し、36℃
・1日間培養後、生菌数を測定した。なお、対照として、滅菌精製水を用いて同様の試験
をした。対象については試験開始時についても生菌数を測定した。その結果を下記表5に
示す。

[表5]
【0036】
(試験6)
第2試験液群の試験液で、pH=0.5、2.3の2つの試験液を用いた。殺菌対象は
、大腸菌を用いた。対象については試験開始時についても生菌数を測定した。3回試行の
平均値を算出した。その結果を下記表6に示す。
[表6]
【0037】
(試験7)
第3試験液群の試験液で、pH=0.5、2.3の2つの試験液を用いた。殺菌対象は
、大腸菌を用いた。対象については試験開始時についても生菌数を測定した。3回試行の
平均値を算出した。その結果を下記表7に示す。
[表7]
【0038】
(試験8)
第4試験液群の試験液で、pH=0.5、2.3の2つの試験液を用いた。殺菌対象は
、大腸菌を用いた。対象については試験開始時についても生菌数を測定した。3回試行の
平均値を算出した。その結果を下記表6に示す。
[表8]
【0039】
試験1〜8の結果を見ると、第1試験液群(重水が15重量%)、第2試験液群(重水
が30重量%)、第3試験液群(重水が5重量%)及び第4試験液群(重水が1.5重量
%)のいずれにおいても、pHが0.5以上2.0未満の殺菌用水溶液の殺菌力は良好な
結果を示している。
【0040】
(副作用試験の結果)
パキラ・グラブラの葉を3枚用意し、硫酸(HSO)と殺菌用水溶液を滴下し、時
間経過とともにパキラ・グラブラの葉がどのように変化するか調べた。図1は、試験開始
時の状態を示している。3列の内、一番左の列は、重水を含まないHSOのもので、
上から順にpHが、0.5、2.0、2.3の比較例を示している。真ん中の列は、重水
が1.5重量%の実施例で、上から順にpHが、0.5、2.0、2.3の実施例を示し
ている。一番右の列は、重水が5重量%の実施例で、上から順にpHが、0.5、2.0
、2.3の実施例を示している。
【0041】
図2は、1時間経過後の状態を示している。HSOでpHが0.5の比較液で、白
色点線内は茶色に変色していた。その他の8検体には目立った変化は見られなかった。
【0042】
図3は、2時間経過後の状態を示している。HSOでpHが0.5の比較液で、茶
色に変色していた領域が白色点線で示されるように広がっていた。重水が1.5重量%で
pHが0.5である真ん中の列の一番上のものの中央部の白色点線内がわずかに茶色に変
色していた。
【0043】
図4は、19時間経過後の状態を示している。pHが0.5の一番上の3つのうち、ダ
メージは左端のDOを含まないものが最も大きく、右に行くにつれてダメージは低減さ
れていた。pHが2.0のものも同様であった。一番右に白色点線領域に見られる変色は
非常に少ないもので、ほとんど変色していないものであった。pHが2.3のものも同様
であった。
【0044】
図5は、43時間経過後の状態を示している。図4の19時間経過後のものと傾向は同
じであった。図1〜5を見ると、硫酸(HSO)に重水を含ませることによって、細
胞組織への副作用(ダメージ)が低減されることがわかる。pHが0.5の非常に強い酸
性を示すものでも、1時間経過では副作用が現れず、2時間経過でわずかに現れる程度で
ある。このことは、取り扱いが非常に容易になることを示している。例えば、皮膚につい
たとしても反応が遅いためすぐに副作用がでないので安全に取り扱うことができる。通常
、手術用器具等を洗浄殺菌する際はタンクに入れられた殺菌水と洗浄水に器具等を浸漬し
て数分から10分程度超音波洗浄をかけるのが一般的であるが、本発明の殺菌水を殺菌用
として使うと、器具等へのダメージは短時間では起こらず、リンスをすれば副作用を完全
に取り除くことができるので、本発明の殺菌水を用いることで取り扱いが容易となる。
【0045】
(pH安定性試験の試験結果)
第1試験液群の試験液で、pHが0.5、1.0、2.0の試験液、及び、pHが2.
5の弱酸性電解水(比較例)にそれぞれ動物組織、金属物質、樹脂物質を浸漬させた試験
液を静置して、浸漬直後から1週間の経過とともにpHの変化を調べた結果を図6図9
に示す。
【0046】
図6は、各試験液の経過時間(日数)とpHの変化を示している。本発明殺菌水でpH
が0.5、1.0、2.0では、pHは全く変化していない。比較電解水では、当初pH
が2.5であったものが、1日経過で0.3上がり、7日経過すると0.4上がり2.9
となった。
【0047】
図7は、動物組織を混入させたときの各試験液の経過時間(日数)とpHの変化を示し
ている。本発明殺菌水でpHが0.5及び1.0では、pHは全く変化していない。pH
が2.0の殺菌水は、1日経過すると徐々に上がり、当初pHが2.5であったものが、
7日経過すると1.2上がり3,2となった。比較電解水では、1日たつとpHが1.0
上がり、7日経過すると当初pHが2.5であったものが、1.7上がり4.2となった
【0048】
図8は、金属物質を混入させたときの各試験液の経過時間(日数)とpHの変化を示し
ている。本発明殺菌水でpHが0.5及び1.0では、pHは全く変化していない。pH
が2.0の殺菌水は、5日経過と6日経過でわずかに変化しているが、7日目には元の2
.0となり、変化はなかった。比較電解水では、2日たつとpHが徐々に上がり、7日経
過すると当初pHが2.5であったものが、0.4上がり2.9となった。
【0049】
図9は、樹脂物質を混入させたときの各試験液の経過時間(日数)とpHの変化を示し
ている。本発明殺菌水でpHが0.5、1.0及び2.0では、pHは全く変化していな
い。比較電解水では、当初pHが2.5であったものが、7日経過すると0.4上がり2
.9となった。比較電解水では、2日たつとpHが徐々に上がり、7日経過すると当初p
Hが2.5であったものが、0.4上がり2.9となった。
【0050】
本発明の殺菌水では、pHが0.5以上2.0未満に設定されている。pHが1.0以
下では、動物組織が混入したものでも全く変化がなかった。動物組織が混入したpHが2
.0のものでも1日経過までは変化がなく、2日経過でpHが0.4上がる程度であった
。金属物質混入や樹脂物質混入の場合は、pHが2以下であれば殆ど変化がなかった。重
水成分を含まない硫酸(HSO)だけでは、金属物質混入や樹脂物質混入の場合でも
変化が見られ、動物組織が混入したものは大きく早い段階で変化を受けていた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の殺菌用水溶液は、強い殺菌力と低い副作用を兼ね備えているので、様々な場所
で好適に用いることができる。
【要約】
【課題】殺菌力が高く、かつ、人体等への副作用の少ない殺菌用水溶液の製造方法を提供
する。
【解決手段】殺菌用水溶液の製造方法であって、硫酸(HSO)と重水(DO)と
を、重水成分が1.5〜20重量%含むように混合液を作成するステップと、水(H
)を用いて混合液をpHが0.5以上2.0未満となるように希釈調製するステップとを
有する。また、硫酸と重水とを、重水成分が1.5〜20重量%含む所定の含量となるよ
うに、硫酸及び重水を秤量準備するステップと、秤量準備された硫酸及び重水に水を加え
たときにpHが0.5以上2.0未満であって、所定のpHにするための水を秤量準備す
るステップと、秤量準備された硫酸、重水及び水を混和するステップとを有する。
【選択図】 図5
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9