(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1に記載の内燃機関において、前記スターターモーター(54)は、前記クランクシャフト(61)の停止時に、膨張行程で確立される前記クランクシャフト(61)の回転角範囲まで前記クランクシャフト(61)を逆転させることを特徴とする内燃機関。
請求項2に記載の内燃機関において、前記スターターモーター(54)は、前記クランクシャフト(61)の逆転時に、圧縮行程の上死点に至るトルクよりも小さいトルクを発揮することを特徴とする内燃機関。
請求項4に記載の内燃機関において、水平面に対してシリンダー軸線(C)の傾斜角は、予め決められた前記回転角で前記クランクシャフト(61)が逆転した際に、前記第2トルク(Ts)が前記第1トルク(Tf)を上回る前記回転角位置に前記クランクシャフト(61)を位置づける範囲に設定されることを特徴とする内燃機関。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、デコンプウエイトの形状に応じてデコンプウエイトの重心はカムシャフトの回転軸線から遠ざけられる。その結果、デコンプウエイトの遠心力は増大する。遠心力の増大に応じて捻りばねには大きなばね力が付与されることができる。クランクシャフトがいずれの回転角位置に位置しても、捻りばねの働きでデコンプカムは動作位置に維持されることができる。始動時に、デコンプ機能の不作動は抑制されることができる。さらにデコンプ機能の切り替え回転数が下げられれば、打音の発生はさらに抑制されることができる。
【0005】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、始動時から確実にデコンプの機能を実現することができ、しかも、デコンプ機能の切り替え回転数を下げることができる内燃機関を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1側面によれば、クランクシャフトと、前記クランクシャフトに連結されて、前記クランクシャフトに対して2対1の減速比で回転するカムシャフトと、予め設定された回転数未満で、前記カムシャフトに同軸の仮想円筒面から、前記カムシャフトの回転軸線に平行な母線を有する湾曲突面を突出させる動作位置、および、前記仮想円筒面から前記湾曲突面を引っ込ませる非動作位置の間で変位するデコンプカムと、排気側ロッカーアームに設けられて、前記カムシャフトの回転時に前記湾曲突面に接触するデコンプスリッパー面と、前記カムシャフトの回転軸線に平行に延びる揺動軸線回りに揺動自在に前記カムシャフトに支持され、前記揺動軸線から離れた位置で前記デコンプカムに連結される腕部材と、前記腕部材に結合されて、重力の作用で前記揺動軸線回りに第1方向に作用し前記カムシャフトの回転軸線回りの回転角位置に応じて変化する第1トルクで、前記非動作位置に向かって前記デコンプカムに駆動力を付与するデコンプウエイトと、前記腕部材に連結されて、前記揺動軸線回りで前記第1方向に逆向きの第2方向に第2トルクを生成する弾性を有し、前記動作位置に向かって前記デコンプカムに駆動力を付与する弾性部材とを備える内燃機関において、始動に先立って
、前記第2トルクが前記第1トルクを上回る回転角位置に前記クランクシャフトを
逆転させるスターターモーターを備える
とともに、前記デコンプウエイトは、圧縮行程時において前記第1トルクが前記第2トルクを上回るようにして前記腕部材に結合される。
【0007】
第2側面によれば、第1側面の構成に加えて、前記スターターモーターは、前記クランクシャフトの停止時に、膨張行程で確立される前記クランクシャフトの回転角範囲まで前記クラン
クシャフトを逆転させる。
【0008】
第3側面によれば、第2側面の構成に加えて、前記スターターモーターは、前記クランクシャフトの逆転時に、圧縮行程の上死点に至るトルクよりも小さいトルクを発揮する。
【0009】
第4側面によれば、第3側面の構成に加えて、前記ス
ターターモーターは、予め決められた回転角で前記クランクシャフトを逆転させる。
【0010】
第5側面によれば、第4側面の構成に加えて、水平面に対してシリンダー軸線の傾斜角は、予め決められた前記回転角で前記クランクシャフトが逆転した際に、前記第2トルクが前記第1トルクを上回る前記回転角位置に前記クランクシャフトを位置づける範囲に設定される
。
【0011】
第6側面によれば、第1〜第6側面のいずれか1項の構成に加えて、前記クランクシャフトの停止時に前記クランクシャフトが前記回転角位置以外に位置すると、前記デコンプカムは前記非動作位置に位置する。
【0012】
第
7側面によれば、第7側面の構成に加えて、前記クランクシャフトの回転に伴って前記カムシャフトの回転速度が予め決められた回転速度を超えるまで、前記デコンプカムは前記動作位置に保持される。
【0013】
第
8側面によれば、第1〜第8側面のいずれか1の構成に加えて、内燃機関は、車両に搭載された際に、車両の停止に応じて前記クランクシャフトの回転を停止し、アクセルの操作に応じて再始動する。
【発明の効果】
【0014】
第1側面によれば、
始動に先立って、スターターモーターの働きでクランクシャフトは特定の回転角位置に位置づけられる。特定の回転角位置が確立されると、
弾性部材は
デコンプウエイトによって生成される第
1トルクを上回る第
2トルクを生成する。第
2トルクは仮想円筒面から湾曲突面を突出させる。したがって、カムシャフトが回転すると、デコンプカムの湾曲突面は排気側ロッカーアームのデコンプスリッパー面をなぞる。デコンプカムの働きで排気バルブは開く。たとえ弾性部材の弾性力が低下しても、スターターモーターの働きで始動時からデコンプの機能は実現されることができる。したがって、デコンプ機能の切り替え回転数は下げられることができる。打音の発生はさらに抑制されることができる。
弾性部材のばね荷重は軽減されることができることから、それに合わせてデコンプウエイトの重量も抑制されることができる。デコンプウエイトの軽量化はデコンプ機構のコンパクト化に寄与することができる。
【0015】
第2側面によれば、ピストンは膨張行程中の位置に位置するので、ピストンは燃焼室内で圧縮された空気の圧力で下降方向に押される。続いて燃焼室は排気行程および吸気行程を経るので、ピストンの変位に対して運動抵抗は縮小される。始動にあたって圧縮行程前にクランクシャフトの回転に勢いは付与されることができる。内燃機関の動作はスムースに立ち上がることができる。
【0016】
第3側面によれば、クランクシャフトの逆転時に、膨張行程のピストンはピストンの運動抵抗に応じて圧縮行程の上死点を通り過ぎることができない。したがって、ピストンは逆転時に圧縮行程の上死点手前で停止する。こうして始動時のクランクシャフトの回転角位置は設定される。始動にあたって圧縮行程前にクランクシャフトの回転に勢いを付与することができる。内燃機関の動作はスムースに立ち上がることができる上、カムシャフトの位相を一定の範囲内に収めた状態で始動を開始することができる。
【0017】
第4側面によれば、スターターモーターは、予め決められた回転角だけクランクシャフトを逆転させるので、クランクシャフトの回転角位置ごとに逆転の回転角が設定される場合に比べて、逆転の制御は簡素化されることができる。それでもピストンは必ず圧縮行程の上死点手前で停止することから、内燃機関の動作はスムースに立ち上がることができる。
【0018】
第5側面によれば、シリンダー軸線の傾斜角に応じてクランクシャフトの逆転時に特定の回転角位置に位置するクランクシャフトは確保されることができる。シリンダー軸線の姿勢に応じてクランクシャフトの逆転時にデコンプ機能は確実に確保されることができる
。
【0019】
第6側面によれば、クランクシャフトの停止時にクランクシャフトが回転角位置以外に位置すると、デコンプカムは非動作位置に位置するほどに、弾性部材は小さい弾性力を有すれば済む。弾性部材の弾性力は十分に低下することができる。デコンプ機能の切り替え回転数は下げられることができる。
【0020】
第
7側面によれば、カムシャフトの回転に伴う遠心力が十分に増大するまでデコンプカムは動作位置に保持される。したがって、始動から予め決められた回転速度まで内燃機関の動作はスムースに立ち上がることができる。
【0021】
第
8側面によれば、車両の停止時にアイドルストップ機能は実現されることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の一実施形態を説明する。ここで、車体の上下前後左右は自動二輪車に乗車した乗員の目線に基づき規定されるものとする。
【0024】
図1は本発明の一実施形態に係る鞍乗り型車両である自動二輪車の全体像を概略的に示す。自動二輪車11は、車体フレーム12と、車体フレーム12に装着された車体カバー13とを備える。車体カバー13は、燃料タンク14を覆って燃料タンク14の後方の乗員シート15に接続されるタンクカバー16を有する。燃料タンク14に燃料は貯留される。自動二輪車11の運転にあたって乗員は乗員シート15を跨ぐ。
【0025】
車体フレーム12は、ヘッドパイプ17と、ヘッドパイプ17から後ろ下がりに延びて、後下端にピボットフレーム18を有するメインフレーム19と、メインフレーム19の下方の位置でヘッドパイプ17から下方に延びるダウンフレーム21と、メインフレーム19の湾曲域19aから水平方向に後方に延びる左右のシートフレーム22と、シートフレーム22の下方でピボットフレーム18から後上がりに延びて後端で下方からシートフレーム22に結合されるリアフレーム23とを有する。リアフレーム23は下方からシートフレーム22を支える。
【0026】
ヘッドパイプ17には操向自在にフロントフォーク24が支持される。フロントフォーク24には車軸25回りで回転自在に前輪WFが支持される。フロントフォーク24の上端には操向ハンドル26が結合される。
図2に示されるように、操向ハンドル26は車幅方向に左右に水平に延びる。操向ハンドル26の両端にはハンドルグリップ27が固定される。運転者は自動二輪車11の運転にあたって左右の手でそれぞれハンドルグリップ27を握る。
【0027】
図2に示される右端のハンドルグリップ27は、軸心回りで回転し、回転角に応じてスロットルの開き度を決定するアクセル28として機能する。右端のハンドルグリップ27の前方にはハンドルグリップ27に並列に延びるブレーキレバー29が配置される。ブレーキレバー29の操作に応じて例えば前輪WFには制動力が作用する。乗員はハンドルグリップ27の操作およびブレーキレバー29の操作に応じて車両の速度を調整することができる。左端のハンドルグリップ27の前方にはハンドルグリップ27に並列に延びるクラッチレバー31が配置される。
【0028】
図1に示されるように、車両の後方で車体フレーム12にはピボット32回りで上下に揺動自在にスイングアーム33が連結される。スイングアーム33の後端に車軸34回りで回転自在に後輪WRが支持される。前輪WFと後輪WRとの間で車体フレーム12には後輪WRに伝達される駆動力を生成する内燃機関35が搭載される。内燃機関35の動力は動力伝達装置36を経て後輪WRに伝達される。
【0029】
内燃機関35は、ダウンフレーム21およびメインフレーム19の間に配置されて、ダウンフレーム21およびメインフレーム19にそれぞれ連結されるクランクケース37と、クランクケース37の前側から上方に延びて、前傾するシリンダー軸線Cを有するシリンダーブロック38と、シリンダーブロック38の上端に結合されて、動弁機構を支持するシリンダーヘッド39と、シリンダーヘッド39の上端に結合されて、シリンダーヘッド39上の動弁機構を覆うヘッドカバー40とを備える。クランクケース37では回転軸線Rx回りで動力が生成される。
【0030】
内燃機関35には、内燃機関35に向けて混合気を供給する吸気装置41と、車両の後方に向けて内燃機関35の排ガスを排出する排気装置42とが接続される。吸気装置41は、シリンダーヘッド39の後壁に結合されて、スロットルバルブの働きで空気の流量を調整するスロットルボディ43と、コネクティングチューブでスロットルボディ43に接続され、内燃機関35に供給される外気を浄化するエアクリーナー(図示されず)とを備える。スロットルボディ43ではアクセル28の操作量に応じてスロットルバルブの開き度は制御される。スロットルボディ43に、シリンダーヘッド39の吸気道に臨んで燃料を噴射する燃料噴射装置44が差し込まれる。
【0031】
排気装置42は、シリンダーヘッド39の前壁に結合されて、内燃機関35の下方をくぐって後方に延びる排気管45を備える。排気管45には内燃機関35から排出される排ガスを浄化する触媒46が組み込まれる。排気管45の後端には、内燃機関35の消音機能を有し、車軸33の後方で大気に排ガスを放出するサイレンサー(図示されず)が接続される。
【0032】
図3に示されるように、シリンダーブロック38には、シリンダー軸線Cに沿ってピストン47の線形往復運動を案内するシリンダー48が区画される。ここでは、シリンダーブロック38には単一のピストン47を受け入れる単一のシリンダー48が形成される。ピストン47とシリンダーヘッド39との間に燃焼室49が区画される。シリンダーヘッド39には燃焼室49に臨む点火プラグ51が取り付けられる。点火プラグ51は、供給される電気信号に応じて、電極に生じる火花で燃焼室49内の混合気に着火する。
【0033】
クランクケース37は第1ケース半体37aおよび第2ケース半体37bに分割される。第1ケース半体37aおよび第2ケース半体37bは内面同士で向き合わせられる。第1ケース半体37aおよび第2ケース半体37bは合わせ面で液密に相互に結合されて協働でクランク室53を区画する。第1ケース半体37aの外面には、ACGスターター54を収容するACGカバー55と、第1ケース半体37aとの間にスプロケット56を収容するスプロケットカバー57とが結合される。第2ケース半体37bの外面には、第2ケース半体37bとの間に後述される摩擦クラッチ58を収容するクラッチカバー59が結合される。
【0034】
クランクシャフト61は、第1ケース半体37aおよび第2ケース半体37bにそれぞれ嵌め込まれる玉軸受62、63に連結されるジャーナル64a、64bと、ジャーナル64a、64bの間に配置されて、クランク室53に収容されるクランク65とを備える。クランク65は、ジャーナル64a、64bに一体化されるクランクウエブ66と、クランクウエブ66を相互に連結するクランクピン67とを有する。ジャーナル64a、64bの軸心は回転軸線Rxに一致する。クランクピン67には、ピストン47から延びるコネクティングロッド68の大端部が回転自在に連結される。コネクティングロッド68はピストン47の線形往復運動をクランクシャフト61の回転運動に変換する。
【0035】
クランクケース37から外側に一方向に突出するクランクシャフト61の一端にはACGスターター54が接続される。ACGスターター54は、クランクケース37の外面に固定されるステーター71と、クランクケース37から突き出るクランクシャフト61の一端に相対回転不能に結合されるローター72とを備える。ステーター71は、クランクシャフト61周りで周方向に配列されて、ステーターコアに巻き付けられる複数のコイル71aを有する。ローター72は、ステーター71を囲む環状の軌道に沿って周方向に配列される複数の磁石72aを有する。クランクシャフト61が回転すると、コイル71aに対して磁石72aが相対変位し、ACGスターター54は発電する。反対に、コイル71aに電流が流通すると、コイル71aで磁界が生成され、クランクシャフト61の回転が引き起こされる。
【0036】
内燃機関35は、クランクシャフト61に組み合わせられるドグクラッチ式の変速機73を備える。変速機73はクランクケース37内でクランク室53に連続して区画される変速機室74に収容される。変速機73はクランクシャフト61の軸心に平行な軸心を有するメインシャフト75およびカウンターシャフト76を備える。メインシャフト75およびカウンターシャフト76は転がり軸受で回転自在にクランクケース37に支持される。
【0037】
メインシャフト75およびカウンターシャフト76には複数のミッションギア77が支持される。ミッションギア77は転がり軸受同士の間に配置されて変速機室74に収容される。ミッションギア77は、メインシャフト75またはカウンターシャフト76に同軸に相対回転自在に支持される回転ギア77aと、メインシャフト75に相対回転不能に固定されて、対応する回転ギア77aに噛み合う固定ギア77bと、メインシャフト75またはカウンターシャフト76に相対回転不能かつ軸方向変位自在に支持されて、対応する回転ギア77aに噛み合うシフトギア77cとを含む。回転ギア77aおよび固定ギア77bの軸方向変位は規制される。軸方向変位を通じてシフトギア77cが回転ギア77aに連結されると、回転ギア77aとメインシャフト75またはカウンターシャフト76との相対回転は規制される。シフトギア77cが他軸の固定ギア77bに噛み合うと、メインシャフト75およびカウンターシャフト76の間で回転動力は伝達される。他軸の固定ギア77bに噛み合う回転ギア77aにシフトギア77cが連結されると、メインシャフト75およびカウンターシャフト76の間で回転動力は伝達される。こうしてカウンターシャフト76は、変速機73を介して任意の減速比でクランクシャフト61の回転力を出力する。
【0038】
メインシャフト75は、クランクケース37の外側でクランクケース37およびクラッチカバー59の間に収容される一次減速機構78を通じてクランクシャフト61に接続される。一次減速機構78は、動力伝達ギア78aと、メインシャフト75上に相対回転自在に支持される被動ギア78bとを備える。動力伝達ギア78aは、クランクケース37から外側に突出するクランクシャフト61の他端に固定される。被動ギア78bは動力伝達ギア78aに噛み合う。
【0039】
メインシャフト75には、クランクケース37およびクラッチカバー52の間に収容される摩擦クラッチ58が連結される。摩擦クラッチ58はクラッチアウター58aおよびクラッチハブ58bを備える。クラッチアウター58aに一次減速機構78の被動ギア78bは連結される。クラッチレバー31の操作に応じて摩擦クラッチ58ではクラッチアウター58aおよびクラッチハブ58bの間で連結および切断が切り替えられる。
【0040】
カウンターシャフト76にスプロケット56は固定される。動力伝達装置36は、スプロケット56と、後輪WRの車軸34に固定される被動スプロケット(図示されず)と、スプロケット56および被動スプロケットに巻き掛けられる巻き掛けチェーン79とを備える。スプロケット56は、巻き掛けチェーン79を介して後輪WRにカウンターシャフト76の回転力を伝達する。
【0041】
内燃機関35には、燃焼室49に対して混合気および排ガスの流れを制御する動弁機構81が組み込まれる。動弁機構81は、クランクシャフト61の回転軸線Rxに平行な軸線Xc回りで回転自在にシリンダーヘッド39に支持されるカムシャフト82を備える。カムシャフト82およびクランクシャフト61にはそれぞれスプロケット83a、83bが固定される。スプロケット83a、83bにはカムチェーン84が巻き掛けられる。カムチェーン84はカムシャフト82にクランクシャフト61の回転を伝達する。カムシャフト82はクランクシャフト61に対して2対1の減速比で回転する。
【0042】
図4に示されるように、動弁機構81は、燃焼室49内にバルブヘッド85aを配置しつつバルブヘッド85aから延びるバルブステム85bで軸方向に変位自在にシリンダーヘッド39に支持される吸気バルブ85と、燃焼室49内にバルブヘッド86aを配置しつつバルブヘッド86aから延びるバルブステム86bで軸方向に変位自在にシリンダーヘッド39に支持される排気バルブ86とを備える。吸気バルブ85のバルブヘッド85aは、吸気ポート87aの開口でシリンダーヘッド39に埋め込まれ燃焼室49に対して吸気口を区画するバルブシート88aに着座する。吸気ポート87aにはスロットルボディ43の空気路が接続される。排気バルブ86のバルブヘッド86aは、排気ポート87bの開口でシリンダーヘッド39に埋め込まれ燃焼室49に対して排気口を区画するバルブシート88bに着座する。排気ポート87bには排気管45が接続される。
【0043】
バルブステム85b、86bは、シリンダーヘッド39から上方に突出し燃焼室49の外側に配置される一端(外端)を有する。バルブステム85b、86bの外端にはコッターの働きでリテーナー89が固定される。リテーナー89とシリンダーヘッド39の外面との間に圧縮状態で弦巻ばね91が挟まれる。弦巻ばね91は、シリンダーヘッド39の外面からリテーナー89を遠ざける伸張方向に弾性力を発揮する。弦巻ばね91の弾性力に基づきバルブヘッド85a、86aはバルブシート88a、88bに着座する。
【0044】
動弁機構81は、クランクシャフト61の回転軸線Rxに平行な軸心Xkを有してシリンダーヘッド39に支持される1対のロッカーシャフト92と、ロッカーシャフト92に軸心Xk回りで揺動自在に支持される吸気側ロッカーアーム93aおよび排気側ロッカーアーム93bとを備える。個々のロッカーアーム93a、93bは、ロッカーシャフト92から遠心方向に延びて先端に動作点94を有する第1腕95と、第1腕95とは反対向きにロッカーシャフト92から遠心方向に延びて先端にカムフォロワー96を有する第2腕97とを備える。ロッカーアーム93a、93bは第1腕95の動作点94で吸気バルブ85および排気バルブ86の外端にそれぞれ接触する。ロッカーアーム93a、93bはカムフォロワー96でカムシャフト82にそれぞれ接触する。カムシャフト82およびロッカーアーム93a、93bの詳細は後述される。
【0045】
図5に示されるように、カムシャフト82は、押さえ部材98でシリンダーヘッド39に固定される1対の軸受99に回転自在に連結される。軸受99には例えば玉軸受が用いられる。軸受99の間でカムシャフト82には吸気側ロッカーアーム93a用の第1カムロブ101と排気側ロッカーアーム93b用の第2カムロブ102とが形作られる。第1カムロブ101と第2カムロブ102とはカムシャフト82の軸線方向にずれて配置される。
【0046】
図4に示されるように、カムフォロワー96は、カムシャフト82の軸線Xcに平行な回転軸線回りで回転自在に第2腕97に支持されるローラー103を備える。ローラー103の外周面は第1カムロブ101および第2カムロブ102にそれぞれ接触する。第1カムロブ101および第2カムロブ102の回転を受けてローラー103は回転することができる。ローラー103は回転しながら第1カムロブ101および第2カムロブ102のプロファイルに追従する。ローラー103がカムシャフト82の軸線Xcに対して近づいたり遠ざかったりすることで吸気バルブ85および排気バルブ86の開閉は制御される。
【0047】
第1カムロブ101は、カムシャフト82の軸線Xcに同軸の部分円筒面の形状を有するベース面101aと、回転方向にベース面101aに連続してカムシャフト82に設けられ、ベース面101aよりも径方向外方に盛り上がって吸気バルブ85のリフト量を規定するリフト面101bとを備える。吸気側ロッカーアーム93aのローラー103は、ベース面101aおよびリフト面101bとの接触を維持して吸気側ロッカーアーム93aの揺動を引き起こす。
【0048】
第2カムロブ102は、カムシャフト82の軸線Xcに同軸の部分円筒面の形状を有するベース面102aと、回転方向にベース面102aに連続してカムシャフト82に設けられ、ベース面102aよりも径方向外方に盛り上がって排気バルブ86のリフト量を規定するリフト面102bとを備える。排気側ロッカーアーム93bのローラー103は、ベース面102aおよびリフト面102bとの接触を維持して排気側ロッカーアーム93bの揺動を引き起こす。
【0049】
図6に示されるように、動弁機構81は、予め決められた回転数(1分あたり)未満
で排気バルブ86を開くデコンプ装置105を備える。デコンプ装置105は、カムシャフト82に組み付けられ、動作位置および非動作位置の間で変位するデコンプカム106と、排気側ロッカーアーム93bに形成され、予め決められた回転数(1分あたり)未満でデコンプカム106に接触するデコンプフォロワー107と、カムシャフト82の軸線Xcに平行に延びる揺動軸線Xs回りに揺動自在にカムシャフト82に支持され、揺動軸線Xsから離れた位置でデコンプカム106に連結される腕部材108と、腕部材に結合され、非作動位置に向かってデコンプカム106に駆動力を付与するデコンプウエイト109とを備える。
【0050】
図5に示されるように、デコンプカム106および腕部材108は第2カムロブ102と軸受99との間でカムシャフト82に形成される段差面111に支持される。段差面111は、第2カムロブ102を規定する大径軸112aと、大径軸112aに連続して大径軸112aよりも小径で軸受99に受け入れられる小径軸112bとの間に区画されて、軸受99に向き合わせられる。段差面111は、カムシャフト82の軸線Xcに直交して第2カムロブ102のベース面102aおよびリフト面102bの縁に接続される。
【0051】
デコンプカム106はカムシャフト82の軸線Xcに平行な軸心を有する軸体113を備える。軸体113は、カムシャフト82に形成されて、軸体113に同軸の円柱空間を区画する軸穴114に軸心(=回転軸線Xd)回りで回転自在に受け入れられる。こうしてデコンプカム106は回転軸線Xd回りで回転自在にカムシャフト82に支持される。
【0052】
デコンプカム106は軸体113に同軸のカム本体115を備える。カム本体115には、
図7に示されるように、デコンプカム106の回転軸線Xdに同軸に形成される部分円筒面116と、デコンプカム106の回転軸線Xdに平行な平面であって部分円筒面116の一端の母線に接続される切り欠き117とが形成される。部分円筒面116は、カムシャフト82に同軸の仮想円筒面118から決められた高さで突出し、カムシャフト82の回転軸線Xcに平行な母線を有する湾曲突面116aを形成する。湾曲突面116aの突出高さに応じてデコンプ作動時の排気バルブ86のリフト量は設定される。切り欠き117は、部分円筒面116から連続して1つの円筒体を形成する仮想部分円筒面119の内側に配置される。デコンプフォロワー107には、カムシャフト82の回転時に湾曲突面116aに接触する
図6に示されるように、デコンプカム106はカムピン121を受け入れるカム溝122を有する。カムピン121はカムシャフト82の軸線Xcに平行な軸心を有する円柱体で構成される。カム溝122は、カム本体115の端面に形成されて、部分円筒面116から軸心に向かって線形に延びる。カムピン121がカムシャフト82の回転軸線Xc回りで周方向に移動すると、デコンプカム106はその軸心回りに動作位置および非動作位置の間で姿勢変化する。
【0053】
腕部材108は、
図5に示されるように、段差面111に例えば圧入される揺動軸123でカムシャフト82に連結される。揺動軸123は、カムシャフト82の回転軸線Xcに平行に延びる軸心すなわち揺動軸線Xs回りに揺動自在に腕部材108を支持する。揺動軸123には段差面111と
腕部材108との間でスペーサー124が装着される。スペーサー124の働きで、デコンプカム106のカム本体115は腕部材108と段差面111との間の空間に配置される。
【0054】
図6に示されるように、揺動軸123は少なくともカムシャフト82の周方向にデコンプカム106の回転軸線Xdから離れた位置に配置される。揺動軸123はできる限りデコンプカム106から引き離されることが望まれる。腕部材108の先端にカムピン121は固定される。カムピン121は、デコンプカム106の動作位置を確立する第1位置と、デコンプカム106の非動作位置を確立する第2位置との間で移動する。
【0055】
図5に示されるように、スペーサー124には捻りばね125が装着される。捻りばね125の一端は腕部材108に引っ掛けられる。捻りばね125の他端は小径軸112bに引っ掛けられる。捻りばね125は、第1位置に向かってカムピン121を駆動する弾性力を発揮する。
【0056】
デコンプウエイト109は、カムシャフト82の回転で生じる遠心力の作用で揺動軸線Xs回りに第1方向DR1にトルクを生成する。非作動位置に向かってデコンプカム106に駆動力は付与される。捻りばね125は、揺動軸線Xs回りで第1方向DR1に逆向きの第2方向DR2にトルクを生成する弾性を有する。動作位置に向かってデコンプカム106に駆動力は付与される。予め決められた回転数(1分あたり)未満で内燃機関35が動作すると、捻りばね125のトルクはデコンプウエイト109のトルクを上回り、カムピン121は第1位置に保持される。予め決められた回転数(1分あたり)以上で内燃機関35が動作すると、デコンプウエイト109のトルクは捻りばね125のトルクを上回り、カムピン121は第2位置に移動する。
【0057】
図7に示されるように、デコンプフォロワー107は、仮想円筒面118に向き合うデコンプスリッパー面126を備える。デコンプカム106が動作位置に位置すると、カムシャフト82の回転時にデコンプスリッパー面126は仮想円筒面118の外側で湾曲突面116aに接触する。デコンプカム106が非動作位置に位置すると、カムシャフト82の回転時にデコンプスリッパー面126は切り欠き117との間に空隙を形成する。
【0058】
次にデコンプ装置105の動作を説明する。内燃機関35の動作中、クランクシャフト61の回転は2対1の減速比でカムシャフト82に伝達される。カムシャフト82の回転時、吸気側ロッカーアーム93aのカムフォロワー96は第1カムロブ101のベース面101aおよびリフト面101bを相次いでなぞる。したがって、吸気側ロッカーアーム93aは第1カムロブ101のカムプロファイルに応じて揺動し、吸気バルブ85を開閉する。同様に、排気側ロッカーアーム93bのカムフォロワー96は第2カムロブ102のベース面102aとリフト面102bとを相次いでなぞる。排気側ロッカーアーム93bは第2カムロブ102のカムプロファイルに応じて揺動し、排気バルブ86を開閉する。吸気バルブ85の開閉動作および排気バルブ86の開閉動作は内燃機関35の吸入行程や排気行程に合わせたタイミングで実現される。
【0059】
ここで、予め決められた回転数(1分あたり)未満では、デコンプウエイト109に十分に遠心力が作用せず、捻りばね125の働きでカムピン121は第1位置に保持される。したがって、デコンプカム106の湾曲突面116aは仮想円筒面118から外側に突出する。排気側ロッカーアーム93bのカムフォロアー101が第2カムロブ102のベース面102aをなぞる間に、デコンプカム106の湾曲突面116aは排気側ロッカーアーム93bのデコンプスリッパー面126をなぞる。排気側ロッカーアーム93bの揺動は引き起こされる。
重力の作用を考えなければ圧縮行程中に排気バルブ86は開く。こうして圧縮行程
中にピストン47の変位に対して運動抵抗は減少する。内燃機関35の動作はスムースに立ち上がることができる。
【0060】
回転数(1分あたり)が増加すると、デコンプウエイト109に作用する遠心力は増大する。その結果、捻りばね125の弾性力に抗してカムピン121は第1位置から第2位置に向かって移動する。デコンプカム106は回転軸線Xd回りで回転する。湾曲突面116aは部分円筒面116で形成されることから、予め決められた回転数(1分あたり)に達するまで、湾曲突面116aの突出は維持される。デコンプリフトカーブは維持される。
【0061】
予め決められた回転数(1分あたり)が確保されると、
図8に示されるように、デコンプウエイト109に作用する遠心力の働きでカムピン121は第2位置に達する。デコンプスリッパー面126にはデコンプカム106の切り欠き117が向き合わせられる。切り欠き117は仮想円筒面118よりも内側に引っ込むことから、排気側ロッカーアーム93bのカムフォロアー101が第2カムロブ102のベース面102aをなぞる間に、デコンプカム106とデコンプスリッパー面126との接触は回避される。排気バルブ86のデコンプ機能は無力化される。圧縮行程中に排気バルブ86は閉じた状態を維持する。
【0062】
本実施形態に係る自動二輪車11ではアイドリングストップシステムが採用される。アイドリングストップシステムでは、ブレーキレバー29の操作に伴って前輪WFおよび後輪WRの停止が検出されると、内燃機関35の動作は停止する。ピストン47の線形往復運動は停止する。クランクシャフト61の回転は停止する。
【0063】
動作の停止後、内燃機関35ではスイングバック制御が実施される。ACGスターター54は電力の供給に応じて逆転方向にクランクシャフト61を駆動する。クランクシャフト61は、膨張行程で確立される回転角範囲に回転軸線Rx回りで位置決めされる。逆転に応じて燃焼室49内で空気は圧縮される。
【0064】
スイングバック制御の実施後にアクセル28の操作が検出されると、内燃機関35は再始動する。再始動にあたって、ピストン47は膨張行程中の位置に位置するので、ピストン47は燃焼室49内で圧縮された空気の圧力で下降方向に押される。続いて燃焼室49は排気行程および吸気行程を経るので、ピストン47の変位に対して運動抵抗は縮小される。再始動にあたって圧縮行程前にクランクシャフト61の回転に勢いは付与されることができる。内燃機関35の動作はスムースに立ち上がることができる。
【0065】
スイングバック制御にあたって、
図9に示されるように、ACGスターター54には、圧縮行程の上死点(以下「圧縮上死点」という)に至るトルクTQよりも小さいトルクTcが設定される。したがって、クランクシャフト61の逆転時に、ピストン47は圧縮上死点を通り過ぎることができない。ピストン47は圧縮上死点の手前で停止する。クランクシャフト61の回転角は圧縮上死点の回転角位置(=0°)から順転方向に5°〜15°程度を示す。クランクシャフト61の逆転時、順転時の膨張行程に相当するピストン47の変位は燃焼室49内で空気を圧縮するので、圧縮上死点でクランクシャフト61の駆動に要求されるトルクTQは最大化する。
【0066】
クランクシャフト61は予め決められた回転角で逆転する。ここでは、スイングバック制御の回転角は例えば510°に設定される。スイングバック制御の回転角は、始動時に回転の慣性力でピストン47が圧縮上死点に到達することができる助走角度の大きさに設定されればよい。ACGスターター54は予め決められた回転角だけクランクシャフト61を逆転させることから、クランクシャフト61の回転角位置ごとに逆転の回転角が設定される場合に比べて、逆転の制御は簡素化される。それでもピストン47は必ず圧縮上死点手前で停止することから、内燃機関35の動作はスムースに立ち上がることができる。
【0067】
クランクシャフト61が停止すると、デコンプウエイト109は、重力の作用で揺動軸線Xs回りに第1方向DR1に作用する第1トルクTfを生成する。第1トルクTfはカムシャフト82の回転軸線Xc回りの回転角位置に応じて変化する。これに対して、捻りばね125は、その弾性力に基づき、揺動軸線Xs回りに第2方向DR2に作用する第2トルクTsを生成する。第2トルクTsは捻りばね125のばね荷重に応じて決定されることから、第2トルクTsは一定に維持される。
【0068】
ACGスターター54は、クランクシャフト61の回転が停止すると、
図10に示されるように、始動に先立って第2トルクTsが第1トルクTfを上回る回転角位置に回転軸線Rx回りにクランクシャフト61を位置づける。第
2トルクT
sは仮想円筒面118から湾曲突面116aを突出させる。カムシャフト82が回転すると、デコンプカム106の湾曲突面116aは排気側ロッカーアーム93bのデコンプスリッパー面126をなぞる。デコンプカム106の働きで排気バルブ86は開く。たとえ捻りばね125のばね荷重(弾性力)が小さく設定されても、ACGスターター54の働きで始動時からデコンプ機能は実現される。したがって、捻りばね125のばね荷重の低下に伴ってデコンプ機能の切り替え回転数(1分あたり)は下げられることができる。打音の発生はさらに抑制されることができる。その一方で、第1トルクTfが第2トルクTsを上回る回転角位置でクランクシャフト61が停止すると、デコンプウエイト109に作用する重力の働きで湾曲突面116aは仮想円筒面118から引っ込む。
【0069】
デコンプ装置105では、圧縮行程中に決められたタイミングで排気バルブ86は開くことから、カムシャフト82上で軸線Xc回りにデコンプカム106の回転角位置は必然的に決定される。そして、デコンプカム106に連結されるカムピン121から揺動軸123が遠いほど、動作位置から非動作位置にデコンプカム106が回転する際に腕部材108の揺動量は低減されることができる。したがって、カムシャフト82の軸線Xc回りで揺動軸123に対してデコンプウエイト109の位置は決まってしまう。こうして第1トルクの変化は水平面に対して設定されるシリンダー軸線Cの傾斜角に応じて決定される。捻りばね125のばね荷重はシリンダー軸線Cの傾斜角に応じて適宜に設定されることができる。
【0070】
本実施形態では、スイングバック制御に応じてACGスターター54がクランクシャフト61を逆転させると、第2トルクTsが第1トルクTfを上回る回転角位置にクランクシャフト61は位置づけられる。すなわち、水平面に対してシリンダー軸線Cの傾斜角は、予め決められた回転角でクランクシャフト61が逆転した際に、第2トルクTsが第1トルクTfを上回る回転角位置にクランクシャフト61を位置づける範囲に設定される。シリンダー軸線Cの傾斜角に応じてクランクシャフト61の逆転時に特定の回転角位置に位置するクランクシャフト61は確保されることができる。シリンダー軸線Cの姿勢に応じてクランクシャフト61の逆転時にデコンプ機能は確実に確保されることができる。
【0071】
本実施形態に係る捻りばね125には、クランクシャフト61の停止時にクランクシャフト61がスイングバック制御で決められた回転角位置以外に位置するとデコンプカム106は非動作位置に位置する程度のばね荷重が設定される。どの回転角位置でもデコンプカム106が動作位置に位置する程度のばね荷重に比べて捻りばね125のばね荷重は低下する。捻りばね125は小さい弾性力を有すれば済む。捻りばね125の弾性力は十分に低下することができる。デコンプ機能の切り替え回転数は下げられることができる。