(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
陽極と陰極である基板との間にめっき隔膜を配置し、前記基板の表面と前記めっき隔膜とを接触させた状態で、前記陽極と前記基板との間に電圧を印加することにより、前記めっき隔膜に含有された金属イオンを還元し、前記基板の表面に前記金属イオン由来の金属を析出させて、前記基板の表面に金属皮膜を形成するめっき方法に用いられるめっき隔膜であって、
ポリオレフィン多孔質膜からなる基材を備え、
前記基材は、主面及び孔内表面の少なくとも一部に親水性材料を有し、
表面に純水を滴下した場合に、下記の測定方法で測定した、純水の着滴から1秒経過した時点の液滴と前記表面との接触角θが0°〜90°であり、かつ、引張破断強度が11MPa〜300MPaである、めっき隔膜。
<測定方法>
接触角θは、表面に純水を滴下した場合に、純水の着滴から1秒経過した時点の液滴と前記表面とのなす角度であり、前処理を行わず乾燥した状態のめっき隔膜に対し、全自動接触角計を用い、以下の条件下で静的接触角を測定する。
・環境 :大気圧、温度24℃、相対湿度60%の大気中
・測定液:純水
陽極と陰極である基板との間にめっき隔膜を配置し、前記基板の表面と前記めっき隔膜とを接触させた状態で、前記陽極と前記基板との間に電圧を印加することにより、前記めっき隔膜に含有された金属イオンを還元し、前記基板の表面に前記金属イオン由来の金属を析出させて、前記基板の表面に金属皮膜を形成するめっき方法に用いられるめっき隔膜であって、
ポリオレフィン多孔質膜からなる基材を備え、
表面に純水を滴下した場合に、純水の着滴から1秒経過した時点の液滴と前記表面との接触角θが0°〜90°であり、かつ、引張破断強度が11MPa〜50MPaである、めっき隔膜。
前記親水性材料は、ヒドロキシ基、カルボニル基、カルボキシ基、ホルミル基、スルホ基、スルホニル基、チオール基、アミノ基、ニトリル基、ニトロ基、ピロリドン環基、エーテル結合、及びアミド結合からなる群より選択される1種以上を有する、請求項1又は請求項5に記載のめっき隔膜。
陽極と陰極である基板との間にめっき隔膜を配置し、前記基板の表面と前記めっき隔膜とを接触させた状態で、前記陽極と前記基板との間に電圧を印加することにより、前記めっき隔膜に含有された金属イオンを還元し、前記基板の表面に前記金属イオン由来の金属を析出させて、前記基板の表面に金属皮膜を形成するめっき方法であって、
前記めっき隔膜は、ポリオレフィン多孔質膜からなる基材を備え、
前記基材は、主面及び孔内表面の少なくとも一部に親水性材料を有し、
前記めっき隔膜の表面に純水を滴下した場合に、下記の測定方法で測定した、純水の着滴から1秒経過した時点の液滴と前記表面との接触角θが0°〜90°であり、かつ、前記めっき隔膜の引張破断強度が11MPa〜300MPaである、
めっき方法。
<測定方法>
接触角θは、表面に純水を滴下した場合に、純水の着滴から1秒経過した時点の液滴と前記表面とのなす角度であり、前処理を行わず乾燥した状態のめっき隔膜に対し、全自動接触角計を用い、以下の条件下で静的接触角を測定する。
・環境 :大気圧、温度24℃、相対湿度60%の大気中
・測定液:純水
陽極と陰極である基板との間にめっき隔膜を配置し、前記基板の表面と前記めっき隔膜とを接触させた状態で、前記陽極と前記基板との間に電圧を印加することにより、前記めっき隔膜に含有された金属イオンを還元し、前記基板の表面に前記金属イオン由来の金属を析出させて、前記基板の表面に金属皮膜を形成するめっき方法であって、
前記めっき隔膜は、ポリオレフィン多孔質膜からなる基材を備え、
前記めっき隔膜の表面に純水を滴下した場合に、純水の着滴から1秒経過した時点の液滴と前記表面との接触角θが0°〜90°であり、かつ、前記めっき隔膜の引張破断強度が11MPa〜50MPaである、
めっき方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示のめっき隔膜、めっき方法及びめっき装置の実施形態について順次説明する。但し、以下の説明及び実施形態の具体的態様である実施例は、本開示のめっき隔膜、めっき方法及びめっき装置を例示するものであり、本開示の範囲を制限するものではない。
【0014】
なお、本明細書全体において、「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0015】
また、ポリオレフィン微多孔膜に関し、「長手方向」とは、長尺状に製造されるポリオレフィン微多孔膜の長尺方向を意味し、「幅方向」とは、ポリオレフィン微多孔膜の長手方向に直交する方向を意味する。以下において、「幅方向」を「TD」とも称し、「長手方向」を「MD」とも称する。
【0016】
なお、本明細書中の「工程」の用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば本用語に含まれる。
また、本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0017】
[めっき隔膜]
本開示のめっき隔膜は、ポリオレフィン多孔質膜からなる基材を備え、以下の(1)接触角及び(2)引張破断強度を満たす。
(1)接触角θが0°〜90°である。
接触角θは、表面に純水を滴下した場合に、純水の着滴から1秒経過した時点の液滴と前記表面との角度である。
(2)引張破断強度が11MPa〜300MPaである。
【0018】
更に、本開示のめっき隔膜は、陽極と陰極である基板との間にめっき隔膜を配置し、基板の表面とめっき隔膜とを接触させた状態で、陽極と基板との間に電圧を印加することにより、めっき隔膜に含有された金属イオンを還元し、基板の表面にめっき隔膜中の金属イオン由来の金属を析出させて、基板の表面に金属皮膜を形成するめっき方法に用いられるものである。
【0019】
めっき隔膜における「表面」とは、膜における最も面積の大きい一対の面(即ち、主面)を指す。
なお、陽極、陰極である基板、金属イオン及び金属、並びに、めっき方法等のめっき処理における詳細については、後述するめっき方法の項において詳述し、ここでの説明を省略する。
【0020】
従来から、例えば特許文献1のように、陽極と、陰極である基板と、陽極と陰極である基板との間に配置された固体電解質膜と、を設け、陽極と基板との間に電圧を印加することにより、固体電解質膜の内部に含有された金属イオンが還元されて基板の表面に金属が析出することで、基板の表面に金属皮膜を形成する成膜技術(いわゆる固相電析法)が知られている。
しかしながら、固体電解質膜として固相電析法に一般に用いられる、ナフィオン等に代表されるフッ素樹脂系の固体電解質膜は、使用後の焼却処理等による廃棄の際の、例えば、発生するガスが環境に与える影響の改善、あるいは適切な廃棄処理を行うための特殊処理等の負荷の解消等の理由から、フッ素系樹脂の代替材料の提供が期待されている。
【0021】
本開示のめっき隔膜は、ポリオレフィンを用いた多孔質膜であり、フッ素系樹脂等の代替材料としての利用が期待される。本開示のめっき隔膜は、廃棄処理の問題を解消することができ、従来から用いられてきたナフィオン等の固体電解質膜と同等以上のめっき処理が可能である。
【0022】
例えば特許文献1のように固相電析法に用いられる膜は、金属イオンを含む金属溶液(いわゆるめっき液)を収容する溶液収容部中の金属溶液が漏れ出ないように封止し得る膜質とイオン伝導性能を有することが求められる。そのため、一般に固体電解質膜が採用されてきたのが実状である。これに対し、例えば多孔質の膜は、一般的にある程度のサイズの孔を有することが知られ、したがって多孔質の膜が溶液の封止が求められる用途に使用されることは少ない。
かかる状況下、特定の接触角θと引張破断強度とを有するポリオレフィン多孔質膜は、収容された溶液の封止作用とイオン伝導作用とをともに発現して固相電析法に供し得るとの知見を得た。
即ち、固相電析法に用いられる従来の固体電解質膜(ナフィオン等)は、イオンよりサイズの大きい成分の通過が可能な孔を有さず、例えばスルホ基に金属イオンを結合させて金属イオンを伝導させるというメカニズムでめっき処理が行われてきた。これに対し、多孔質の膜は、金属イオンをめっき隔膜に結合させることなく、金属イオンを含む水溶液を基板にまで到達させることにより、一定の封止作用を有しつつイオン伝導作用をも保持することができる。本開示のめっき隔膜は、ポリオレフィン多孔質膜からなる基材を備えており、上記のように金属イオンを含む金属用液が基板にまで到達することで、めっき処理を好適に行うことが可能である。
そして、めっき液として、有機溶剤を含まない水溶媒からなる水溶液、又は有機溶剤と水の混合溶媒を含む水溶液のいずれにも適用できるので、汎用性も高い。
【0023】
更に、固相電析法に用いられる固体電解質膜は、一般に機械強度が低い。機械強度を高める技術としては、撥水性隔膜を適用する技術等が検討されている。しかし、撥水性隔膜は、親水的なイオンチャネル構造がないため、機械強度はあるが、めっき浴に対する濡れ性が悪い。結果、撥水性隔膜を固相電析法に適用した場合、成膜が良好に行えない。
本開示のめっき隔膜は、膜構造が親水領域と疎水領域が共存するイオンチャネル構造を有していないため、機械強度に優れる。また、本開示のめっき隔膜の表面は、接触角θが特定の範囲に調整されて親水的に調整されているので、めっき浴に対して高い濡れ性も有しており、固相電析法に適用した際に優れた成膜性を発現する。
【0024】
本開示のめっき隔膜は、ポリオレフィン多孔質膜からなる基材を備える。
本開示のめっき隔膜は、接触角θが0°〜90°であり、接触角θを満たす親水性を有している。親水性が高いほど、めっき液のめっき隔膜に対する浸透性に優れる。
本開示のめっき隔膜は、上記の接触角θの範囲を満たす観点から、例えば、ポリオレフィン多孔質膜からなる基材を親水化処理して得られる膜であってもよい。
【0025】
親水性とは、接触角θが0°〜90°にあることをいい、親水化とは、表面の接触角θを0°〜90°に調整することをいう。
【0026】
接触角θが0°〜90°であることは、純水に対する濡れ性を有し、濡れ性が撥液性に勝っていることを示す。
接触角θとしては、純水に対する濡れ性がより高く、形成されるめっき隔膜の表面形態の均一性をより高め得る観点から、0°〜60°が好ましく、0°〜50°がより好ましく、0°〜30°が更に好ましい。
【0027】
接触角θは、表面に純水を滴下した場合に、純水の着滴から1秒経過した時点の液滴と前記表面とのなす角度であり、前処理を行わず乾燥した状態のめっき隔膜に対し、全自動接触角計を用い、以下の条件下で静的接触角を測定することで得られる値である。測定には、例えば、協和界面科学株式会社製の全自動接触角計(DMo−701FE及びInterface Measurement and Analysis System FAMAS)を用いることができる。
<測定条件>
・環境 :大気圧、温度24℃、相対湿度60%の大気中
・測定液:純水
【0028】
−親水化処理−
親水化処理の方法としては、例えば、ポリオレフィン多孔質膜からなる基材の表面に親水性材料を付与する方法、ポリオレフィン多孔質膜からなる基材の表面に表面処理を施す方法、等が挙げられる。
ポリオレフィン多孔質膜からなる基材の詳細については、後述する。
【0029】
親水化処理は、ポリオレフィン多孔質膜からなる基材の主面及び孔内表面の少なくとも一方の少なくとも一部に行われることが好ましく、ポリオレフィン多孔質膜からなる基材の主面及び孔内表面の少なくとも一部に行われることがより好ましい。
【0030】
基材の主面とは、シートもしくはフィルム等の板状の基材における最も面積の大きい一対の面を指す。基材の孔内表面とは、多孔質の基材の内部における表面を指す。
【0031】
基材の表面に親水性材料を付与する方法としては、親水性材料を、ポリオレフィン多孔質膜からなる基材の主面及び孔内表面の少なくとも一方に付着させることが挙げられる。
付着の方法としては、親水性材料を含む液体を塗布する方法、又は親水性材料を含む液体に浸漬する方法等が挙げられる。
【0032】
親水性材料としては、親水性を有する化合物が挙げられ、例えば、親水性樹脂、界面活性剤等が含まれる。
基材に用いられる親水性材料は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0033】
親水性樹脂としては、ヒドロキシ基、カルボニル基、カルボキシ基、ホルミル基、スルホ基、スルホニル基、チオール基、アミノ基、ニトリル基、ニトロ基、ピロリドン環基、エーテル結合、及びアミド結合からなる群より選択される1種以上の親水性基を有する樹脂が挙げられる。
親水性基としては、より親水的な性状を与えやすい点で、好ましくは、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、スルホニル基、アミノ基、エーテル結合である。
【0034】
親水性樹脂としては、ポリマーの主鎖が炭素原子のみからなり、かつ、側鎖にヒドロキシ基、カルボキシ基及びスルホ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の親水性基を有する樹脂であることが好ましい。
【0035】
親水性樹脂としては、ポリマーの主鎖に炭素原子のみならず酸素原子が含まれる樹脂(例えば、ポリエチレングリコール、セルロース等)も挙げられるが、ポリマーの主鎖に酸素原子が含まれる親水性樹脂は多孔質基材から比較的脱落しやすい。多孔質基材から脱落しにくい観点から、ポリマーの主鎖が炭素原子のみからなる樹脂が好ましく、ポリマーの主鎖が炭素原子のみからなり、かつ、側鎖にヒドロキシ基、カルボキシ基及びスルホ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する樹脂がより好ましい。
【0036】
親水性樹脂は、ポリビニルアルコール、オレフィン・ビニルアルコール系樹脂、アクリル・ビニルアルコール系樹脂、メタクリル・ビニルアルコール系樹脂、ビニルピロリドン・ビニルアルコール系樹脂、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、パーフルオロスルホン酸系樹脂及びポリスチレンスルホン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の親水性樹脂を含むことが好ましい。中でも、オレフィン・ビニルアルコール系樹脂を含むことがより好ましい。
【0037】
オレフィン・ビニルアルコール系樹脂を構成するオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン等が挙げられる。オレフィンとしては、炭素数2〜6のオレフィンが好ましく、炭素数2〜6のα−オレフィンがより好ましく、炭素数2〜4のα−オレフィンが更に好ましく、エチレンが特に好ましい。オレフィン・ビニルアルコール系樹脂に含まれるオレフィン単位は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0038】
オレフィン・ビニルアルコール系樹脂は、オレフィン及びビニルアルコール以外の他のモノマーを構成単位に含む三元共重合体であってもよい。
オレフィン及びビニルアルコール以外の他のモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸塩、及び(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種のアクリル系モノマー;スチレン、メタクロロスチレン、パラクロロスチレン、パラフルオロスチレン、パラメトキシスチレン、メタ−tert−ブトキシスチレン、パラ−tert−ブトキシスチレン、バラビニル安息香酸、パラメチル−α−メチルスチレン等のスチレン系モノマー;等が挙げられる。
他のモノマー単位は、オレフィン・ビニルアルコール系樹脂に1種含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。
【0039】
オレフィン・ビニルアルコール系樹脂は、オレフィン及びビニルアルコール以外の他のモノマーを構成単位に含む三元共重合体である場合、オレフィン由来の構成単位とビニルアルコール由来の構成単位との合計の割合は、85モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることが更に好ましい。
【0040】
本開示におけるオレフィン・ビニルアルコール系樹脂としては、オレフィン由来の構成単位とビニルアルコール由来の構成単位との合計の割合が100モル%である二元共重合体が特に好ましい。二元共重合体であるオレフィン・ビニルアルコール系樹脂の例としては、エチレン・ビニルアルコール2元共重合体、プロピレン・ビニルアルコール2元共重合体等が挙げられる。
【0041】
オレフィン・ビニルアルコール系樹脂におけるオレフィン単位の割合は、20モル%〜55モル%であることが好ましい。オレフィン単位の割合が20モル%以上であると、オレフィン・ビニルアルコール系樹脂が水に溶解しにくい。この観点からは、オレフィン単位の割合は、23モル%以上がより好ましく、25モル%以上が更に好ましい。オレフィン単位の割合が55モル%以下であると、オレフィン・ビニルアルコール系樹脂の親水性がより高い。この観点からは、オレフィン単位の割合は、52モル%以下がより好ましく、50モル%以下が更に好ましい。
【0042】
オレフィン・ビニルアルコール系樹脂は、上市されている市販品を用いてもよい。市販品の例としては、日本合成化学工業社製のソアノールシリーズ、株式会社クラレ製のエバールシリーズなどが挙げられる。
【0043】
親水性樹脂としては、多孔質基材の表面に親水性モノマーをグラフト重合してなる親水性樹脂も挙げられる。この場合、親水性樹脂は多孔質基材の表面と直接的に化学結合した形態となる。多孔質基材の表面にグラフト重合する親水性モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、ビニルアルコール、N−ビニル−2−ピロリドン、ビニルスルホン酸等が挙げられる。めっき隔膜の製造性の観点からは、グラフト重合のように親水性樹脂が多孔質基材の表面と直接的に化学結合した形態よりも、塗工法等により親水性樹脂を多孔質基材の表面に付着させた形態(親水性樹脂が多孔質基材の表面と化学結合していない形態)の方が好ましい。
【0044】
多孔質基材に対する親水性樹脂の付着量は、例えば、0.01g/m
2〜10g/m
2であり、0.05g/m
2〜8g/m
2であってもよく、0.1g/m
2〜5g/m
2であってもよい。多孔質基材に対する親水性樹脂の付着量は、めっき隔膜の目付けWa(g/m
2)から多孔質基材の目付けWb(g/m
2)を減算した値(Wa−Wb)である。
【0045】
界面活性剤としては、公知の界面活性剤を適宜選択して用いることができ、イオン伝導作用を付与する観点から、アニオン性界面活性剤及びカチオン性界面活性剤が好ましい。
【0046】
多孔質基材の親水化処理に界面活性剤を用いる場合、多孔質基材に対する界面活性剤の付着量は、例えば、0.01g/m
2〜10g/m
2であり、0.05g/m
2〜8g/m
2であってもよく、0.1g/m
2〜5g/m
2であってもよい。
【0047】
また、基材の表面に表面処理を施す方法としては、プラズマ処理、コロナ処理、火炎処理、紫外線照射処理等による親水化処理が挙げられる。
表面処理の条件については、上記の接触角θの範囲となる範囲で適宜選択すればよい。
【0048】
−基材−
本開示におけるポリオレフィン多孔質膜からなる基材(以下、「多孔質基材」ともいう。)は、内部に空孔ないし空隙を有する基材を意味する。
【0049】
多孔質基材としては、微多孔膜;繊維状物からなる、不織布、紙等の多孔性シート;などが挙げられる。多孔質基材としては、本開示の濃縮膜の薄膜化及び強度の観点から、微多孔膜が好ましい。微多孔膜とは、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった膜を意味する。
【0050】
多孔質基材は、親水性又は疎水性のいずれでもよい。
多孔質基材が疎水性の基材である場合は、多孔質基材が親水性樹脂で被覆されること、又は多孔質基材が表面処理されることによって親水性を示すものが好ましい。
【0051】
多孔質基材の表面には、多孔質基材を親水性樹脂で被覆するために用いる塗工液の濡れ性を向上させる目的で、更に、各種の表面処理を施してもよい。多孔質基材の表面処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、火炎処理、紫外線照射処理等が挙げられる。
【0052】
[基材の物性]
多孔質基材の厚さは、上記範囲の引張破断強度を有し、かつ、金属溶液(めっき液)の封止作用を担う観点から、10μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましく、20μm以上が更に好ましい。また、多孔質基材の厚さは、金属溶液を封止しつつも金属溶液が滲んで基板にまで到達し得る性状を維持する観点から、180μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましく、120μm以下が更に好ましい。
多孔質基材の厚さの測定方法は、後述する親水性複合多孔質膜の厚さの測定方法と同じである。
【0053】
多孔質基材のパームポロメータで測定した平均孔径は、金属溶液を封止しつつも金属溶液が滲んで基板にまで到達し得る性状を維持する観点から、0.05μm以上が好ましく、0.07μm以上がより好ましく、0.08μm以上が更に好ましい。多孔質基材のパームポロメータで測定した平均孔径は、金属溶液があふれ出ることを防止する観点から、0.2μm以下が好ましく、0.15μm以下がより好ましく、0.1μm以下が更に好ましい。多孔質基材のパームポロメータで測定した平均孔径は、パームポロメータを用いてASTM E1294−89に規定するハーフドライ法にて求める値であり、測定方法の詳細は、親水性複合多孔質膜の平均孔径に係る測定方法と同じである。
【0054】
多孔質基材の単位厚さ当たりのガーレ値(秒/100ml・μm)は、例えば、0.001〜15であり、0.01〜10であり、0.05〜5である。多孔質基材のガーレ値は、JIS P8117:2009に従って測定した値である。
【0055】
多孔質基材の空孔率は、例えば、60%〜90%であり、65%〜87%であり、70%〜85%である。多孔質基材の空孔率は、下記の算出方法に従って求める。即ち、構成材料がa、b、c、…、nであり、各構成材料の質量がWa、Wb、Wc、…、Wn(g/cm
2)であり、各構成材料の真密度がda、db、dc、…、dn(g/cm
3)であり、膜厚をt(cm)としたとき、空孔率ε(%)を下記の式により求める。
ε={1−(Wa/da+Wb/db+Wc/dc+…+Wn/dn)/t}×100
【0056】
[ポリオレフィン微多孔膜]
多孔質基材の一つの実施形態として、ポリオレフィンを含む微多孔膜(本開示においてポリオレフィン微多孔膜という。)が挙げられる。ポリオレフィン微多孔膜に含まれるポリオレフィンとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン、ポリプロピレンとポリエチレンとの共重合体等が挙げられる。これらの中でも、ポリエチレンが好ましく、高密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンと超高分子量ポリエチレンの混合物等が好適である。ポリオレフィン微多孔膜の一つの実施形態として、含まれるポリオレフィンがポリエチレンのみであるポリエチレン微多孔膜が挙げられる。
【0057】
ポリオレフィン微多孔膜に含まれるポリオレフィンの重量平均分子量(Mw)は、例えば、10万〜500万である。ポリオレフィンのMwが10万以上であると、微多孔膜に十分な力学特性を付与できる。ポリオレフィンのMwが500万以下であると、微多孔膜の成形がしやすい。
【0058】
ポリオレフィン微多孔膜の一つの実施形態として、ポリオレフィン組成物(本開示において、2種以上のポリオレフィンを含むポリオレフィンの混合物を意味し、含まれるポリオレフィンがポリエチレンのみである場合はポリエチレン組成物という。)を含む微多孔膜が挙げられる。ポリオレフィン組成物は、延伸時のフィブリル化に伴ってネットワーク構造を形成し、ポリオレフィン微多孔膜の空孔率を増加させる効用がある。
【0059】
ポリオレフィン組成物としては、重量平均分子量が9×10
5以上である超高分子量ポリエチレンを、ポリオレフィンの総量に対して、5質量%〜70質量%含むポリオレフィン組成物が好ましく、20質量%〜65質量%含むポリオレフィン組成物がより好ましく、30質量%〜60質量%含むポリオレフィン組成物が更に好ましい。
【0060】
ポリオレフィン組成物は、重量平均分子量が9×10
5以上である超高分子量ポリエチレンと、重量平均分子量が2×10
5〜8×10
5で密度が920kg/m
3〜960kg/m
3である高密度ポリエチレンとが、質量比5:95〜70:30(より好ましくは20:80〜65:35、更に好ましくは30:70〜60:40)で混合したポリオレフィン組成物であることが好ましい。
【0061】
ポリオレフィン組成物は、ポリオレフィン全体の重量平均分子量が2×10
5〜4×10
6であることが好ましい。
【0062】
ポリオレフィン微多孔膜を構成するポリオレフィンの重量平均分子量は、ポリオレフィン微多孔膜をo−ジクロロベンゼン中に加熱溶解し、ゲル浸透クロマトグラフィー(システム:Waters社製 Alliance GPC 2000型、カラム:GMH6−HT及びGMH6−HTL)により、カラム温度135℃、流速1.0ml/分の条件にて測定を行うことで得られる。分子量の校正には分子量単分散ポリスチレン(東ソー社製)を用いる。
【0063】
ポリオレフィン微多孔膜の一つの実施形態として、高温に曝されたときに容易に破膜しない耐熱性を備える観点から、ポリプロピレンを含む微多孔膜が挙げられる。
【0064】
ポリオレフィン微多孔膜の一つの実施形態として、少なくともポリエチレンとポリプロピレンとが混合して含まれているポリオレフィン微多孔膜が挙げられる。
【0065】
ポリオレフィン微多孔膜の一つの実施形態として、2層以上の積層構造を備え、少なくとも1層はポリエチレンを含有し、少なくとも1層はポリプロピレンを含有するポリオレフィン微多孔膜が挙げられる。
【0066】
〜ポリオレフィン微多孔膜の製造方法〜
本開示におけるポリオレフィン微多孔膜の製造方法としては、特に制限はなく、例えば、下記(1)〜(5)の工程を経て製造する方法が好ましい。原料に用いるポリオレフィンについては前述の通りである。
【0067】
(1)ポリオレフィン溶液の調製
ポリオレフィンを溶媒に溶解させたポリオレフィン溶液を調製する。溶媒としては、例えばパラフィン、流動パラフィン、パラフィン油、鉱油、ひまし油、テトラリン、エチレングリコール、グリセリン、デカリン、トルエン、キシレン、ジエチルトリアミン、エチルジアミン、ジメチルスルホキシド、ヘキサン等が挙げられる。この時、前記溶媒の2種類以上を混合して使用してもよい。
前記溶媒のうち、揮発性溶媒としては、大気圧下における沸点が300℃未満の溶媒、例えば、デカリン、トルエン、キシレン、ジエチルトリアミン、エチルジアミン、ジメチルスルホキシド、ヘキサン、テトラリン、エチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。また、不揮発性溶媒としては、大気圧下における沸点が300℃以上の溶媒、例えば、パラフィン、流動パラフィン、パラフィン油、鉱油、ひまし油等が挙げられる。混合溶媒としては、デカリンとパラフィンとの組合せが好ましい。
【0068】
ポリオレフィン溶液のポリオレフィン濃度は1質量%〜35質量%が好ましく、より好ましくは10質量%〜30質量%である。ポリオレフィン濃度が1質量%以上であると、冷却ゲル化して得られるゲル状組成物が溶媒で高度に膨潤しないように維持できるため変形しにくく、取扱い性が良好である。他方、ポリオレフィン濃度が35質量%以下であると、押し出しの際の圧力が抑えられるため吐出量を維持することが可能で生産性に優れる。
【0069】
(2)ポリオレフィン溶液の押出
調製したポリオレフィン溶液を一軸押出機もしくは二軸押出機で混練し、融点以上かつ融点+60℃以下の温度でTダイもしくはIダイで押し出す。この際、好ましくは二軸押出機を用いる。
そして、ダイから押し出したポリオレフィン溶液をチルロールまたは冷却浴に通過させて、ゲル状組成物を形成する。この際、ポリオレフィン溶液をゲル化温度以下に急冷しゲル化させることが好ましい。
【0070】
(3)脱溶媒処理
次いで、ゲル状組成物から溶媒を除去する。ポリオレフィン溶液の調製において揮発性溶媒を使用した場合、予熱工程も兼ねて加熱等により蒸発させゲル状組成物から溶媒を除くことができる。ポリオレフィン溶液の調製において不揮発性溶媒を使用した場合、圧力をかけて絞り出すなどして溶媒を除くことができる。溶媒は完全に除く必要はない。
【0071】
(4)ゲル状組成物の延伸
脱溶媒処理に次いで、ゲル状組成物を延伸する。ここで、延伸処理の前に弛緩処理を行ってもよい。延伸処理は、ゲル状組成物を加熱し、通常のテンター法、ロール法、圧延法もしくはこれらの方法の組合せによって所定の倍率で1軸もしくは2軸延伸する。2軸延伸は、同時または逐次のどちらであってもよい。また縦多段延伸や3、4段延伸とすることもできる。
延伸温度は、80℃以上、製造に使用するポリオレフィンの融点未満であることが好ましく、より好ましくは90℃〜130℃である。加熱温度が融点未満であると、ゲル状組成物が溶解しにくいために延伸を良好に行える。また、加熱温度が80℃以上であると、ゲル状組成物の軟化が充分で延伸において破膜せずに高倍率の延伸が可能である。
延伸倍率は、原反の厚さによって異なるが、1軸方向で少なくとも2倍以上、好ましくは4倍〜20倍で行うことが好ましい。
延伸後、必要に応じて熱固定を行い、熱寸法安定性を持たせる。
【0072】
(5)溶剤の抽出・除去
延伸後のゲル状組成物を抽出溶剤に浸漬して、溶媒、特に不揮発性溶媒を抽出する。抽出溶剤としては、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、デカリン、テトラリン等の炭化水素、塩化メチレン、四塩化炭素、メチレンクロライド等の塩素化炭化水素、三フッ化エタン等のフッ化炭化水素、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類等の易揮発性のものを用いることができる。これらの溶剤は、ポリオレフィン溶液の調製に用いた溶媒、特に不揮発性溶媒に応じて適宜選択し、単独もしくは混合して用いることができる。溶媒の抽出は、ポリオレフィン微多孔膜中の溶媒を1質量%未満にまで除去する。
【0073】
[親水性複合多孔質膜]
本開示のめっき隔膜は、ポリオレフィン多孔質膜からなる基材と、基材の少なくとも一部を覆う親水性材料と、を有する親水性複合多孔質膜であることが好ましい。
【0074】
本開示のめっき隔膜は、ポリオレフィン多孔質膜からなる基材と、基材の主面及び孔内表面の少なくとも一方の少なくとも一部を被覆する親水性材料と、を有する親水性複合多孔質膜であることが好ましく、更には、ポリオレフィン多孔質膜からなる基材と、基材の少なくとも一方の主面及び孔内表面の少なくとも一部(即ち、少なくとも一方の主面の少なくとも一部及び孔内表面の少なくとも一部)を被覆する親水性材料と、を有する親水性複合多孔質膜であることが好ましい。
【0075】
−めっき隔膜の物性−
本開示のめっき隔膜(好ましくは親水性複合多孔質膜)は、引張破断強度が11MPa〜300MPaである。
引張破断強度が11MPa未満であると、めっき処理を行う際に破膜しやすく、安定しためっき処理を行い難い。また、引張破断強度が300MPaを超えると、膜が硬すぎて柔軟性に乏しく、取扱い性に劣る。
めっき隔膜の引張破断強度の下限は、上記と同様の理由から、13MPa以上が好ましく、15MPa以上がより好ましく、17MPa以上が更に好ましい。また、めっき隔膜の引張破断強度の上限は、取扱い性の観点から、100MPa以下が好ましく、50MPa以下がより好ましい。
【0076】
引張破断強度の測定は、引張試験機(オリエンテック社製、RTE−1210)にて、短冊状のサンプル片(幅15mm、長さ50mm)を200mm/分の速度で引っ張り、サンプル片が破断した時点における引張強度(MPa)として求められる。測定は、任意に切り出した第1の方向(例えばMD方向)と第1の方向に直交する第2の方向(例えばTD方向)とにおいて行い、強度が低い方の値を、本開示のめっき隔膜の引張破断強度とする。
【0077】
本開示のめっき隔膜(好ましくは親水性複合多孔質膜)は、平均孔径が5nm〜300nmであることが好ましい。
平均孔径は、パームポロメータで測定される孔径である。
パームポロメータで測定される平均孔径が5nm以上であると、イオン伝導が確保されやすく、めっき不良が発生し難い。また、パームポロメータで測定される平均孔径が300nm以下であると、めっき液の漏れが発生し難い。
平均孔径は、イオン伝導が良好で均一性の高いめっき隔膜が得られやすい点で、30nm以上が好ましく、40nm以上がより好ましく、50nm以上が更に好ましい。また、平均孔径は、めっき液の漏れの観点から、200nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましく、80nm以下が更に好ましい。
【0078】
パームポロメータで測定される平均孔径は、パームポロメータ(PMI社、型式:CFP−1500AEX)を用い、含浸液をGALWICK(パーフルオロポリエーテル;ポーラスマテリアル社製 表面張力:15.9dyne/cm)として、ASTM E1294−89に規定するハーフドライ法によって求められる。
めっき隔膜の一方の主面のみに親水性材料を有する場合は、親水性材料を有する主面をパームポロメータの加圧部に向けて設置し、測定を行う。
【0079】
めっき隔膜(好ましくは親水性複合多孔質膜)の厚みは、取り扱いやすく破膜しにくい点で、8μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましく、30μm以上が更に好ましく、50μm以上が特に好ましい。また、親水性複合多孔質膜の厚みは、めっき液が内部に浸入しやすく基板にまで到達しやすい点で、200μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましく、120μm以下が更に好ましい。
【0080】
めっき隔膜の厚みは、接触式の膜厚計にて10点を測定し、測定値を平均することで求められる。
【0081】
めっき隔膜(好ましくは親水性複合多孔質膜)の単位厚さ当たりのガーレ値(秒/100ml・μm)は、例えば、0.001〜5であり、0.01〜5であり、0.05〜5である。親水性複合多孔質膜のガーレ値は、JIS P8117:2009に従って測定した値である。
【0082】
めっき隔膜(好ましくは親水性複合多孔質膜)の空孔率は、60%〜90%が好ましく、65%〜85%がより好ましく、70%〜80%が更に好ましい。めっき隔膜の空孔率が60%以上であると、めっき液が基板にまで到達しやすくなる。また、めっき隔膜の空孔率が90%以下であると、良好な強度が得られやすい。
【0083】
めっき隔膜の空孔率は、下記の算出方法にしたがって求められる。即ち、構成材料がa、b、c、…、nであり、各構成材料の質量がWa、Wb、Wc、…、Wn(g/cm
2)であり、各構成材料の真密度がda、db、dc、…、dn(g/cm
3)であり、膜厚をt(cm)としたとき、空孔率ε(%)を下記の式により求める。
ε={1−(Wa/da+Wb/db+Wc/dc+…+Wn/dn)/t}×100
【0084】
めっき隔膜は、ハンドリング性の観点から、カールしにくいことが好ましい。
めっき隔膜のカールを抑制する点で、基材の両方の主面に親水性材料を有する膜であることが好ましい。
【0085】
〜親水性複合多孔質膜の製造方法〜
めっき隔膜の一例である親水性複合多孔質膜の製造について、親水性材料として親水性樹脂を用いた場合の方法を例に説明する。
なお、親水性複合多孔質膜の製造方法は、特に制限されない。
【0086】
親水性複合多孔質膜の一般的な製造方法の例としては、親水性樹脂を含む塗工液を多孔質基材に付与し、塗工液を乾燥させて多孔質基材を親水性樹脂で被覆する方法;多孔質基材に親水性モノマーをグラフト重合させて、多孔質基材を親水性樹脂で被覆する方法;が挙げられる。
【0087】
親水性樹脂を含む塗工液は、溶媒に親水性樹脂を混合し攪拌することで、親水性樹脂を溶媒に溶解又は分散させて調製することができる。溶媒としては、親水性樹脂に対して良溶媒である溶媒であれば特に限定されないが、具体的には例えば、1−プロパノール水溶液、2−プロパノール水溶液、N,N−ジメチルホルムアミド水溶液、ジメチルスルホキシド水溶液、エタノール水溶液などが挙げられる。これら水溶液における有機溶剤の割合は30質量%〜70質量%が好ましい。
【0088】
親水性樹脂を含む塗工液を多孔質基材に付与する際の、塗工液における親水性樹脂の濃度は、0.01質量%〜5質量%であることが好ましい。塗工液における親水性樹脂の濃度が0.01質量%以上であると、多孔質基材に親水性を効率よく付与することができる。この観点からは、塗工液における親水性樹脂の濃度は、0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が更に好ましい。塗工液における親水性樹脂の濃度が5質量%以下であると、製造された親水性複合多孔質膜における水流量が大きい。この観点からは、塗工液における親水性樹脂の濃度は3質量%以下がより好ましく、2質量%以下が更に好ましい。
【0089】
塗工液を多孔質基材に付与することは、公知の塗工方法によって行うことができる。
塗工方法としては、例えば、浸漬法、ナイフコーター法、グラビアコーター法、スクリーン印刷法、マイヤーバー法、ダイコーター法、リバースロールコーター法、インクジェット法、スプレー法、ロールコーター法などが挙げられる。塗工時の塗工液の温度を調整することで親水性樹脂の層を安定に形成することができる。塗工液の温度は特に限定されるものではないが、5℃〜40℃の範囲が好ましい。
【0090】
塗工液を乾燥させる際の温度は、25℃〜100℃が好ましい。乾燥温度が25℃以上であると、乾燥に必要な時間を短縮することができる。この観点からは、乾燥濃度は、40℃以上がより好ましく、50℃以上が更に好ましい。乾燥温度が100℃以下であると、多孔質基材の収縮が抑制される。この観点からは、乾燥温度は90℃以下がより好ましく、80℃以下が更に好ましい。
【0091】
親水性複合多孔質膜は、界面活性剤、湿潤剤、消泡剤、pH調整剤、着色剤などを含んでいてもよい。
【0092】
[めっき装置及びめっき方法]
本開示のめっき装置は、陽極と、陽極と陰極である基板との間に配置され、金属イオンを含有するめっき隔膜と、陽極と基板との間に電圧を印加する電源部と、を備え、めっき隔膜と接触した基板の表面に前記金属イオン由来の金属を析出させて、基板の表面に金属皮膜を形成するめっき装置である。そして、本開示のめっき装置では、めっき隔膜がポリオレフィン多孔質膜からなる基材を備え、めっき隔膜の表面に純水を滴下した場合に、純水の着滴から1秒経過した時点の液滴と前記表面との接触角θを0°〜90°とし、かつ、めっき隔膜の引張破断強度を11MPa〜300MPaとする。
【0093】
また、本開示のめっき方法は、陽極と陰極である基板との間にめっき隔膜を配置し、基板の表面とめっき隔膜とを接触させた状態で、陽極と基板との間に電圧を印加することにより、めっき隔膜に含有された金属イオンを還元し、基板の表面に前記金属イオン由来の金属を析出させて、基板の表面に金属皮膜を形成する方法である。そして、本開示のめっき装置と同様、本開示のめっき方法では、めっき隔膜がポリオレフィン多孔質膜からなる基材を備え、めっき隔膜の表面に純水を滴下した場合に、純水の着滴から1秒経過した時点の液滴と前記表面との接触角θを0°〜90°とし、かつ、めっき隔膜の引張破断強度を11MPa〜300MPaとする。
【0094】
なお、本開示のめっき装置及びめっき方法において、めっき隔膜がポリオレフィン多孔質膜からなる基材を備えること、めっき隔膜の接触角θ、及びめっき隔膜の引張破断強度の詳細については、既述のめっき隔膜における場合と同様であるので、ここでの説明を省略する。
【0095】
本開示のめっき装置の一実施形態を
図1〜
図2を参照して説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る金属皮膜の成膜装置1Aの模式的断面図である。
図2は、
図1に示す成膜装置1Aを用いた基板Bの表面Baへの金属皮膜Fの成膜を説明するための図である。
本実施形態に係る成膜装置1Aは、金属イオンを還元することで金属を析出させて、析出した金属からなる金属皮膜を基板Bの表面に成膜する。
【0096】
基板Bは、成膜される表面が陰極(すなわち導電性を有した表面)として機能するものであれば、特に限定されるものではない。本実施形態では、基板Bは、アルミニウム、鉄等の金属板である。この他にも、基板Bは、エポキシ樹脂などの高分子樹脂又はセラミックス等の表面の全面又は一部に、銅、ニッケル、銀、又は鉄などの金属層が被覆れた基板であってもよく、この金属層が陰極として機能する。
【0097】
成膜装置1Aは、金属製の陽極11と、陽極11と基板B(陰極)との間に配置されるめっき隔膜13と、陽極11と基板Bとの間に電圧を印加する電源部16と、基板Bを載置する載置台40と、を備えている。
【0098】
陽極11は、基板Bが成膜される領域を覆う大きさを有していれば、ブロック状又は平板状であってもよく、多孔質体又はメッシュ(網目状部材)からなってもよい。陽極11の材料としては、成膜すべき金属皮膜と同じ材質であり、後述する金属イオンを含む金属溶液Lに対して可溶性の陽極であることが好ましい。これにより、金属皮膜の成膜速度を高めることができる。例えば、金属皮膜が銅皮膜である場合には、陽極11の材料に無酸素銅板を用いることが好ましい。なお、成膜前の金属溶液Lには金属イオンが含まれているので、陽極11は、金属溶液Lに対して不溶性の陽極であってもよい。
【0099】
めっき隔膜13は、金属溶液Lに接触させることにより、金属イオンを内部に含浸(含有)することができ、電圧を印加したときに基板Bの表面に金属イオンが還元され、金属イオン由来の金属が析出することができるのであれば、特に限定されるものではない。本実施形態では、めっき隔膜13は可撓性を有しており、成膜時の押圧により基板Bの表面Baに倣う膜厚及び硬さを有する。
【0100】
めっき隔膜13については、既述の本開示のめっき隔膜を用いることができる。めっき隔膜の詳細については、既述の通りであり、ここでの説明を省略する。
【0101】
金属溶液Lは、上述したように成膜すべき金属皮膜の金属をイオンの状態で含有している液(電解液;いわゆる「めっき液」)である。
金属としては、ニッケル、亜鉛、銅、クロム、錫、銀、金、及び鉛からなる群より選択される1種又は2種以上を用いることができる。
【0102】
金属溶液Lは、上記の金属を、硝酸、リン酸、コハク酸、硫酸ニッケル、又はピロリン酸などの酸で溶解(イオン化)した水溶液である。
【0103】
本実施形態では、成膜装置1Aは、ハウジング20をさらに備えている。ハウジング20は、陽極11とめっき隔膜13との間に、金属溶液Lが配置され、かつ、成膜時にめっき隔膜13を介して、基板Bの表面Baの上に金属溶液Lが配置されるように、金属溶液Lを収容する第1収容室21が形成されている。
【0104】
第1収容室21には、めっき隔膜13と対向する位置に陽極11が配置されており、第1収容室21に収容された金属溶液Lは、めっき隔膜13と陽極11に接触する。第1収容室21には、金属皮膜が成膜される側の基板Bの表面Baの大きさよりも大きい第1開口部22が形成されている。第1収容室21内において、陽極11とめっき隔膜13の間に金属溶液Lを収容した状態で、第1開口部22は、めっき隔膜13で覆われており、金属溶液Lは、第1収容室21内に流動可能な状態で封止される。
【0105】
このようにして、本実施形態では、成膜時に、めっき隔膜13を介して基板Bの表面Baに金属溶液Lを配置し、その液圧によりめっき隔膜13を基板Bの表面Baに倣わせることができる。ハウジング20の材質としては、アルミニウム、ステンレスなどの金属材料等を挙げることができ、押圧部30Aにより過度に変形しないもの(剛体)とすることができれば、その材料は特に限定されるものではない。
【0106】
本実施形態では、成膜装置1Aには、基板Bを載置する金属製の載置台40が設けられている。載置台40の材質としては、アルミニウム又はステンレス等の金属材料からなる。しかしながら、押圧部30Aにより過度に変形しないもの(剛体)とすることができれば、その材料は特に限定されるものではない。
【0107】
載置台40には、金属皮膜が形成される表面Baと反対側に位置する基板Bの裏面Bbに、薄膜43を介して流体45が配置されるように、流体45を収容する第2収容室41が形成されている。具体的には、第2収容室41には、基板Bの裏面Bbの大きさよりも大きい第2開口部42が形成されており、第2開口部42に薄膜43(フィルム)を覆うことにより、流体45は、第2収容室41内において流動可能な状態で封止されている。
【0108】
ここで、流体45は、流動性を有した物質であり、例えば、気体、液体、又はゲルなどを挙げることができ、薄膜43を介して基板Bに接触したときに、基板Bに対してクッション性を有するものであれば特に限定されるものではない。たとえば、気体としては、大気又は窒素ガスなどの不活性ガス等を挙げることができる。液体としては、水又は油などを挙げることができる。ゲルとしては、ポリスチレンなどの高分子ゲルなどを挙げることができる。
【0109】
本実施形態では、薄膜43の材料としては、樹脂、金属、又はこれらを層状に積層したものを挙げることができ、薄膜43は、可撓性を有している。本実施形態では、薄膜43は、成膜時の押圧により基板Bの裏面Bbに倣い、押圧によりその強度が確保されていれば、その材質及び厚さは限定されるものではない。薄膜43の膜厚は、0.1μm〜10μmの範囲にあることが好ましい。
【0110】
基板Bには、電源部16の負極が接続されており、陽極11には、電源部16の正極が接続されている。なお、基板Bの表面Baの一部に、陰極として金属層が形成されている場合には、この金属層は、例えば導体冶具(図示せず)を介して、電源部16の負極に導通される。
【0111】
本実施形態では、成膜装置1Aは、ハウジング20の上部に押圧部30Aをさらに備えている。本実施形態では、ハウジング20は、めっき隔膜13と薄膜43との間に基板Bを挟み込むことが可能なように、押圧部30Aにより移動自在(昇降自在)となっている。本実施形態では、押圧部30Aは、(1)ハウジング20を載置台40に対して移動(昇降)させ、めっき隔膜13と薄膜43との間に基板Bを挟み込む機能と、(2)めっき隔膜13と薄膜43との間に挟み込んだ状態の基板Bに、めっき隔膜13及び薄膜43を押圧する機能と、を有する。
【0112】
なお、本実施形態では、押圧部30Aにより、固定された載置台40に対してハウジング20を移動自在としたが、例えば、載置台40に押圧部を設けることにより、ハウジング20を固定して、載置台40をハウジング20に対して移動自在としてもよい。
【0113】
押圧部30Aは、上述した(1)及び(2)に示す機能を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、油圧式又は空気式のシリンダを挙げることができる。また押圧部30Aは、リニアガイド付きのモータなどであってもよい。このようにして、押圧部30Aを用いて、めっき隔膜13と薄膜43との間に基板Bを挟み、めっき隔膜13及び薄膜43で基板Bを押圧しながら金属皮膜を成膜することができる。
【0114】
次に、本開示のめっき方法の一実施形態について、本実施形態に係る成膜装置1Aを用いた成膜方法を一例に説明する。
【0115】
まず
図1に示すように、金属皮膜が成膜される表面Baがめっき隔膜13に対向するように、載置台40に基板Bを配置する。具体的には、基板Bの裏面Bbの全体が、薄膜43を介して、載置台40の第2収容室41に収容された流体45に配置されるように、基板Bを載置台40の薄膜43の上に載置する。
【0116】
上述したように、陽極11とめっき隔膜13との間に、金属溶液Lが配置されるように、金属溶液Lは、ハウジング20の第1収容室21内に、めっき隔膜13で封止されている。さらに、基板Bの裏面Bbに、薄膜43を介して流体45が配置されるように、流体45は、載置台40の第2収容室41内に、薄膜43で封止されている。このようなハウジング20及び載置台40を用いて、基板Bの表面Baに金属皮膜を成膜する。
【0117】
具体的には、
図2に示すように、基板Bを載置台40に載置した状態で、載置台40とハウジング20とを相対的に移動させて、めっき隔膜13と薄膜43との間に基板Bを挟み込む。具体的には、押圧部30Aにより、ハウジング20を載置台40に向かって下降させ、めっき隔膜13を介して金属溶液Lを基板Bの表面Baに配置する。より具体的には、第1収容室21に形成された第1開口部22に位置するめっき隔膜13の部分を基板Bの表面Baに接触させる。
載置台40及びハウジング20は、載置台40を固定し、ハウジング20を移動させてもよいし、ハウジング20を固定し、載置台40を移動させてもよい。
【0118】
さらに、押圧部30Aにより、めっき隔膜13側から基板Bを加圧することにより、めっき隔膜13と薄膜43との間に挟み込んだ状態の基板Bに、めっき隔膜13及び薄膜43を押圧する。これにより、めっき隔膜13及び薄膜43を、基板Bの表面Ba及び裏面Bbに倣わせることができる。ここで、第1収容室21に、金属溶液Lの圧力を測定する圧力計(図示せず)を設ければ、測定した圧力を確認しながら、所定の圧力で基板Bを押圧することができる。
【0119】
この状態で、電源部16により、陽極11と基板Bとの間に電圧を印加し、めっき隔膜13に含有した金属イオンを還元し、基板Bの表面Baに金属イオン由来の金属を析出させる。これにより、基板Bの表面Baに金属皮膜Fが成膜される。
【0120】
このように、金属皮膜Fを成膜する際、めっき隔膜13及び薄膜43は基板Bの表面Ba及び裏面Bbに倣い、基板Bの表面Baは、めっき隔膜13を介して金属溶液Lで均一に加圧され、基板Bの裏面Bbは、薄膜43を介して流体45で均一に加圧される。これにより、基板Bにめっき隔膜13及び薄膜43は、基板Bの表面Ba及び裏面Bbに対して隙間を形成することなく、これらを均一に押圧することができる。この状態で、陽極11と基板Bとの間に電圧を印加することにより、めっき隔膜13に含有した金属イオンが還元され、金属イオン由来の金属が基板Bの表面Baに析出し、基板Bの表面Baに均一な膜厚の金属皮膜Fを成膜することができる。
【実施例】
【0121】
以下、本発明の実施態様を具体的な実施例により更に具体的に説明する。但し、本開示はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0122】
(測定方法)
以下に示す実施例又は比較例の親水性複合多孔質膜及びめっき隔膜に対して行う測定及び評価の方法を以下に示す。
【0123】
−膜厚−
接触式の膜厚計(ミツトヨ社製、ライトマチックVL−50A)にて10点測定し、測定値を平均することで、ポリオレフィン微多孔膜の膜厚を求めた。ここで、接触端子には、底面が直径0.5cmの円柱状のものを用いた。また、測定中は、0.01Nの荷重が印加されるように調整した。
【0124】
−平均孔径−
ポーラスマテリアル社製のパームポロメータ(型式:CFP−1500AEX)を用い、含浸液をGALWICK(パーフルオロポリエーテル;ポーラスマテリアル社製 表面張力:15.9dyne/cm)として、ASTM E1294−89に規定するハーフドライ法に基づき、ポリオレフィン微多孔膜の平均細孔径として平均流量孔径(nm)を求めた。
測定条件は、温度を25℃とし、圧力を100kPa〜1000kPaとした。
【0125】
−空孔率−
下記式により、ポリオレフィン微多孔膜の空孔率(ε)を算出した。
ε(%)=(t−Ws/ds)/t×100
Ws:ポリオレフィン微多孔膜の目付け(g/m
2)
ds:ポリオレフィンの真密度(g/cm
3)
t:ポリオレフィン微多孔膜の膜厚(μm)
なお、ポリオレフィン微多孔膜の目付けは、10cm×10cmに切り出したサンプルの質量を測定し、質量を面積で除算することで求めた。
【0126】
−接触角θ−
測定装置として、協和界面科学株式会社製の全自動接触角計(DMo−701FE及びInterface Measurement and Analysis System FAMAS)を用い、静的接触角を測定した。
測定は、ポリエチレン微多孔膜を親水化処理した後の親水性複合多孔質膜(めっき隔膜)の表面又は親水化処理していないポリエチレン微多孔膜の表面に、4μlの純水を滴下し、大気中で常圧、温度24℃、相対湿度60%の条件下、表面に純水の液滴の着滴から1秒経過した時点の、液滴と前記表面との接触角θを測定した。
【0127】
−ガーレ値−
日本工業規格(JIS) P8117に準拠し、面積642mm
2のポリオレフィン微多孔膜のガーレ値(秒/100ml)を測定した。
【0128】
−引張破断強度−
引張試験機(オリエンテック社製、RTE−1210)にて、MD及びTDのそれぞれの方向に平行に切り出した短冊状のサンプル片(幅15mm、長さ50mm)を200mm/分の速度で引っ張り、サンプル片が破断した時点の引張強度(MPa)を求めた。なお、MD及びTDにおいて求めた引張強度のうち、低い値の方を引張破断強度とした。
【0129】
−金属皮膜の表面形態−
マイクロスコープ(株式会社キーエンス製、VH−8000)により、金属皮膜の表面形態を観察し、以下の評価基準にしたがい評価した。金属皮膜の表面形態の評価は、基準A及びBを許容範囲として行った。
<表面形態の評価基準>
A:気泡及び剥離の発生はみられず、金属皮膜の表面は均一性に優れている。
B:気泡又は剥離の発生が僅かにみられるが、実用上支障を来さない程度である。
C:気泡及び剥離の発生が認められ、均一性のある金属皮膜を形成することができない。
【0130】
−金属皮膜の陰極電流効率−
ニッケル(Ni)膜及び銅(Cu)膜における陰極電流効率を下記式から求め、以下の評価基準にしたがい評価した。なお、Ni膜における陰極電流効率は、基準A及びBを許容範囲とし、またCu膜における陰極電流効率は、基準D及びEを許容範囲として行った。
陰極電流効率(%)
=金属皮膜の金属質量/ファラデーの電解法則に基づく理論析出量×100
<Ni膜における陰極電流効率の評価基準>
A:電流密度50mA/cm
2での成膜時、陰極電流効率が90%以上である。
B:電流密度50mA/cm
2での成膜時、陰極電流効率が80%以上90%未満である。
C:電流密度50mA/cm
2での成膜時、陰極電流効率が80%未満である。
<Cu膜における陰極電流効率の評価基準>
D:電流密度23mA/cm
2での成膜時、陰極電流効率が90%以上である。
E:電流密度23mA/cm
2での成膜時、陰極電流効率が80%以上90%未満である。
F:電流密度23mA/cm
2での成膜時、陰極電流効率が80%未満である。
【0131】
(実施例1)
−ポリエチレン微多孔膜の準備−
基材として、以下のように作製したポリエチレン微多孔膜(膜厚100μm、平均孔径85nm、ガーレ値40sec/100ml、引張破断強度20MPa)を用いた。
【0132】
<ポリエチレン微多孔膜の作製>
重量平均分子量460万の超高分子量ポリエチレン(以下、「UHMWPE」という。)12.25質量部と、重量平均分子量56万及び密度950kg/m
3の高密度ポリエチレン(以下、「HDPE」という。)10.75質量部と、を混合したポリエチレン組成物を用意した。ポリエチレン組成物とデカリンとを、ポリマー濃度を25質量%として混合し、ポリエチレン溶液を調製した。
【0133】
上記のポリエチレン溶液を温度153℃でダイからシート状に押出し、次いで押出物を水温20℃の水浴中で冷却し、第一のゲル状シートを得た。
【0134】
第一のゲル状シートを70℃の温度雰囲気下にて10分間予備乾燥し、次いで、MD方向に1.45倍で一次延伸をし、次いで、本乾燥を57℃の温度雰囲気下にて5分間行って、第二のゲル状シート(ベーステープ)を得た(第二のゲル状シート中の溶剤の残留量は30質量%未満とした。)。次いで二次延伸として、第二のゲル状シート(ベーステープ)をMD方向に温度90℃にて倍率3倍で延伸し、続いてTD方向に温度130℃にて倍率9倍で延伸し、その後直ちに132℃で熱処理(熱固定)を行った。
【0135】
熱固定後のシートを、2槽に分かれた塩化メチレン浴にそれぞれ30秒間ずつ連続して浸漬させながら、シート中のデカリンを抽出した。シートを塩化メチレン浴から搬出した後、40℃の温度雰囲気下で塩化メチレンを乾燥除去した。
以上のようにして、ポリエチレン微多孔膜を得た。
【0136】
−塗工液の調製−
親水性材料である親水性樹脂として、エチレン・ビニルアルコール二元共重合体(日本合成化学工業製、ソアノールDC3203R、エチレン単位:32モル%、ヒドロキシ基含有のオレフィン・ビニルアルコール系樹脂;以下、EVOHという。)を用意した。
EVOHの濃度が0.2質量%となるように、1−プロパノールと水の混合溶媒(1−プロパノール:水=3:2[体積比])にEVOHを溶解させ、塗工液を得た。
【0137】
−親水性複合多孔質膜の作製−
金属枠に固定した上記のポリエチレン微多孔膜を塗工液に20分間浸漬し、ポリエチレン微多孔膜の空孔内に塗工液を含浸させた後、ポリエチレン微多孔膜を引き上げた。次いで、ポリエチレン微多孔膜の両方の主面に付着している余分な塗工液を除去し、常温で2時間乾燥させた。次いで、ポリエチレン微多孔膜から金属枠を取り外した。
以上のようにして、ポリエチレン微多孔膜の両方の主面及び孔内表面が親水性樹脂の層で被覆された、厚み80μmの親水性複合多孔質膜を得た。
【0138】
親水性複合多孔質膜(めっき隔膜)及びポリエチレン微多孔膜の各種物性について表1にまとめて示す。
【0139】
−金属皮膜の形成−
図1と同様の構成を有する成膜装置を用意し、めっき隔膜として、上記より得た厚み80μmの親水性複合多孔質膜を用いた。そして、以下の方法にて金属皮膜としてニッケル(Ni)膜又は銅(Cu)膜を形成した。
【0140】
(1)Ni膜の形成
成膜装置において、陽極として発泡ニッケルを用意し、基板として、縦35mm×横18mm×厚み3mmの銅(Cu)ブロックを用意し、陰極とした。また、めっき浴(金属溶液)として、1mol/lの塩化ニッケルと酢酸とを含有する酢酸ニッケル水溶液(25℃でのpH4.0)を用意し、第1収容室に収容した。
そして、めっき液を収容する第1収容室を形成するハウジング内に陽極として発泡ニッケルを配置し、陽極と陰極である基板との間に親水性複合多孔質膜(めっき隔膜)を配置した。そして、基板の表面と親水性複合多孔質膜とを接触させた状態とし、以下のめっき条件にて、成膜装置の陽極及び基板間に電圧を印加して成膜を行った。
<めっき条件>
加圧力:1.0kN
温度 :60℃
電流値:100mA
時間 :300sec
面積 :10mm×20mm
【0141】
電圧印加によって、収容されているめっき液から浸透してめっき隔膜に含有されたNiイオンが徐々に還元され、親水性複合多孔質膜と接するCuブロックの表面にNi金属が析出し、厚み5μmのNi膜(金属皮膜)が形成された。
図3にNi膜のマイクロスコープ写真を示す。
【0142】
(2)Cu膜の形成
成膜装置において、陽極として銅メッシュを用意し、基板として、縦50mm×横40mm×厚み5mmのニッケル(Ni)ブロックを用意し、陰極とした。また、めっき浴(金属溶液)として、1mol/lの硫酸銅水溶液を用意し、第1収容室に収容した。
そして、めっき液を収容する第1収容室を形成するハウジング内に陽極として銅メッシュを配置し、陽極と陰極である基板との間に親水性複合多孔質膜(めっき隔膜)を配置した。そして、基板の表面と親水性複合多孔質膜とを接触させた状態とし、以下のめっき条件にて、成膜装置の陽極及び基板間に電圧を印加して成膜を行った。
<めっき条件>
加圧力:1.0kN
温度 :60℃
電流値:23mA
時間 :480sec
面積 :10mm×10mm
【0143】
電圧印加によって、収容されているめっき液から浸透してめっき隔膜に含有されたCuイオンが徐々に還元され、親水性複合多孔質膜と接するNiブロックの表面にCu金属が析出し、厚み4μmのCu膜(金属皮膜)が形成された。
図4にCu膜のマイクロスコープ写真を示す。
【0144】
上記より成膜されたNi膜及びCu膜に対して、測定及び評価を行い、評価結果を以下の表1に示す。
【0145】
(実施例2)
基材として、以下の通り、膜厚80μm、平均孔径75nm、ガーレ値110sec/100ml、引張破断強度25MPaであるポリエチレン微多孔膜を用意した。
【0146】
〜ポリエチレン微多孔膜の作製〜
UHMWPE11.25質量部と、HDPE13.75質量部と、を混合したポリエチレン組成物を用意した。ポリエチレン組成物とデカリンとを、ポリマー濃度を25質量%として混合し、ポリエチレン溶液を調製した。
【0147】
上記のポリエチレン溶液を温度163℃でダイからシート状に押出し、次いで押出物を水温20℃の水浴中で冷却し、第一のゲル状シートを得た。
【0148】
第一のゲル状シートを70℃の温度雰囲気下にて10分間予備乾燥し、次いで、MD方向に1.2倍で一次延伸をし、次いで、本乾燥を57℃の温度雰囲気下にて5分間行って、第二のゲル状シート(ベーステープ)を得た(第二のゲル状シート中の溶剤の残留量は30質量%未満とした。)。次いで二次延伸として、第二のゲル状シート(ベーステープ)をMD方向に温度90℃にて倍率4倍で延伸し、続いてTD方向に温度135℃にて倍率15倍で延伸し、その後直ちに142℃で熱処理(熱固定)を行った。
【0149】
熱固定後のシートを、2槽に分かれた塩化メチレン浴にそれぞれ30秒間ずつ連続して浸漬させながら、シート中のデカリンを抽出した。シートを塩化メチレン浴から搬出した後、40℃の温度雰囲気下で塩化メチレンを乾燥除去した。
以上のようにして、ポリエチレン微多孔膜を得た。
【0150】
そして、ポリエチレン微多孔膜に対して実施例1と同様して親水化することにより厚み55μmの親水性複合多孔質膜を得、得られた親水性複合多孔質膜を用い、実施例1と同様にしてNi膜及びCu膜を形成し、測定及び評価を行った。ポリエチレン微多孔膜、めっき隔膜(親水性複合多孔質膜)並びにNi膜及びCu膜の物性及び評価結果を以下の表1に示す。
図5〜
図6にそれぞれNi膜、Cu膜のマイクロスコープ写真を示す。
【0151】
(比較例1)
基材として、実施例2と同様のポリエチレン微多孔膜を用意した。
実施例1において、めっき隔膜として、親水性複合多孔質膜に代えてポリエチレン微多孔膜を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてNi膜及びCu膜を形成し、測定及び評価を行った。
めっき隔膜及びNi膜及びCu膜の物性及び評価結果を以下の表1に示す。
また、
図7〜
図8にそれぞれNi膜、Cu膜のマイクロスコープ写真を示す。
【0152】
(比較例2)
基材として、以下の通り、膜厚25μm、平均孔径70nm、ガーレ値60sec/100ml、引張破断強度15MPaであるポリエチレン微多孔膜を用意した。
【0153】
〜ポリエチレン微多孔膜の作製〜
UHMWPE10.2質量部と、HDPE6.8質量部と、を混合したポリエチレン組成物を用意した。ポリエチレン組成物とパラフィン82.9質量%、デカリン0.1質量%とを、ポリマー濃度を17質量%として混合し、ポリエチレン溶液を調製した。
【0154】
上記のポリエチレン溶液を温度150℃でダイからシート状に押出し、次いで押出物を水温20℃の水浴中で冷却し、ゲル状シートを得た。
【0155】
ゲル状シートをTD方向に温度105℃にて倍率9倍で延伸し、その後直ちに140℃で熱処理(熱固定)を行った。
【0156】
熱固定後のシートを、2槽に分かれた塩化メチレン浴にそれぞれ30秒間ずつ連続して浸漬させながら、シート中のパラフィンを抽出した。シートを塩化メチレン浴から搬出した後、40℃の温度雰囲気下で塩化メチレンを乾燥除去した。
以上のようにして、ポリエチレン微多孔膜を得た。
【0157】
実施例1において、めっき隔膜として、親水性複合多孔質膜に代えてポリエチレン微多孔膜を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてNi膜及びCu膜を形成し、測定及び評価を行った。
めっき隔膜並びにNi膜及びCu膜の物性及び評価結果を以下の表1に示す。
また、
図9〜
図10にそれぞれNi膜、Cu膜のマイクロスコープ写真を示す。
【0158】
(比較例3)
基材として、以下の通り、膜厚50μm、平均孔径100nm、ガーレ値70sec/100ml、引張破断強度10MPaであるポリエチレン微多孔膜を用意した。
【0159】
〜ポリエチレン微多孔膜の作製〜
UHMWPE6.8質量部と、HDPE10.2質量部と、を混合したポリエチレン組成物を用意した。ポリエチレン組成物とパラフィン82.9質量%、デカリン0.1質量%とを、ポリマー濃度を17質量%として混合し、ポリエチレン溶液を調製した。
【0160】
上記のポリエチレン溶液を温度156℃でダイからシート状に押出し、次いで押出物を水温20℃の水浴中で冷却し、ゲル状シートを得た。
【0161】
ゲル状シートをTD方向に温度105℃にて倍率9倍で延伸し、その後直ちに136℃で熱処理(熱固定)を行った。
【0162】
熱固定後のシートを、2槽に分かれた塩化メチレン浴にそれぞれ30秒間ずつ連続して浸漬させながら、シート中のパラフィンを抽出した。シートを塩化メチレン浴から搬出した後、40℃の温度雰囲気下で塩化メチレンを乾燥除去した。
以上のようにして、ポリエチレン微多孔膜を得た。
【0163】
実施例1において、めっき隔膜として、親水性複合多孔質膜に代えてポリエチレン微多孔膜を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてNi膜及びCu膜を形成し、測定及び評価を行った。
めっき隔膜並びにNi膜及びCu膜の物性及び評価結果を以下の表1に示す。
また、
図11〜
図12にそれぞれNi膜、Cu膜のマイクロスコープ写真を示す。
【0164】
(比較例4)
基材として、以下の通り、膜厚40μm、平均孔径80nm、ガーレ値40sec/100ml、引張破断強度35MPaであるポリエチレン微多孔膜を用意した。
【0165】
〜ポリエチレン微多孔膜の作製〜
UHMWPE12.25質量部と、HDPE10.75質量部と、を混合したポリエチレン組成物を用意した。ポリエチレン組成物とデカリンとを、ポリマー濃度を25質量%として混合し、ポリエチレン溶液を調製した。
【0166】
上記のポリエチレン溶液を温度153℃でダイからシート状に押出し、次いで押出物を水温20℃の水浴中で冷却し、第一のゲル状シートを得た。
【0167】
第一のゲル状シートを70℃の温度雰囲気下にて10分間予備乾燥し、次いで、MD方向に1.45倍で一次延伸をし、次いで、本乾燥を57℃の温度雰囲気下にて5分間行って、第二のゲル状シート(ベーステープ)を得た(第二のゲル状シート中の溶剤の残留量は30質量%未満とした。)。次いで二次延伸として、第二のゲル状シート(ベーステープ)をMD方向に温度90℃にて倍率6倍で延伸し、続いてTD方向に温度130℃にて倍率9倍で延伸し、その後直ちに132℃で熱処理(熱固定)を行った。
【0168】
熱固定後のシートを、2槽に分かれた塩化メチレン浴にそれぞれ30秒間ずつ連続して浸漬させながら、シート中のデカリンを抽出した。シートを塩化メチレン浴から搬出した後、40℃の温度雰囲気下で塩化メチレンを乾燥除去した。
以上のようにして、ポリエチレン微多孔膜を得た。
【0169】
得られたポリエチレン微多孔膜に親水化処理としてプラズマ処理を施した。これをめっき隔膜として各種物性を測定し、その結果を表1に示す。しかし、得られためっき隔膜については、強度が低く、めっき評価を行うことができなかった。表1中の比較例4における「−」の表記は、未測定あることを示す。
【0170】
【表1】
【0171】
表1に示すように、実施例1〜2では、接触角θが90°を超える疎水的なめっき隔膜を用いた比較例1〜3に比べ、Ni膜及びCu膜のいずれの場合も、表面形態が良好な金属皮膜が得られ、電流効率も良好であった。