特許第6967079号(P6967079)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6967079-防錆塗料組成物およびその用途 図000010
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6967079
(24)【登録日】2021年10月26日
(45)【発行日】2021年11月17日
(54)【発明の名称】防錆塗料組成物およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/02 20060101AFI20211108BHJP
   C09D 5/10 20060101ALI20211108BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20211108BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20211108BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20211108BHJP
【FI】
   C09D183/02
   C09D5/10
   C09D7/61
   B05D7/14 Z
   B05D7/24 302Y
   B05D7/24 303C
【請求項の数】8
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2019-550445(P2019-550445)
(86)(22)【出願日】2018年10月31日
(86)【国際出願番号】JP2018040464
(87)【国際公開番号】WO2019088155
(87)【国際公開日】20190509
【審査請求日】2020年2月13日
(31)【優先権主張番号】特願2017-210724(P2017-210724)
(32)【優先日】2017年10月31日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2018-58401(P2018-58401)
(32)【優先日】2018年3月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390033628
【氏名又は名称】中国塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】福田 剛大
(72)【発明者】
【氏名】近藤 勝美
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 太一
(72)【発明者】
【氏名】土井 政和
【審査官】 桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/014063(WO,A3)
【文献】 国際公開第2014/119784(WO,A3)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 183/02
C09D 5/10
C09D 7/61
B05D 7/14
B05D 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が1,500〜8,000であるアルキルシリケートの縮合物(A)と、亜鉛末(B)と、体質顔料、防錆顔料および着色顔料からなる群より選択される一種以上の顔料(C)とを含有し、前記亜鉛末(B)と前記顔料(C)との質量比((B)/(C))が、2.0〜5.0であり、下記式で求められる顔料体積濃度(PVC)が60〜70%である防錆塗料組成物。
【数1】
【請求項2】
前記亜鉛末(B)が、鱗片状亜鉛末(B1)及び球状亜鉛末(B2)からなる群より選択される一種以上である請求項1に記載の防錆塗料組成物。
【請求項3】
さらに、導電性顔料(D)を含有する請求項1または2に記載の防錆塗料組成物。
【請求項4】
前記導電性顔料(D)が酸化亜鉛である請求項3に記載の防錆塗料組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の防錆塗料組成物から形成された防錆塗膜。
【請求項6】
請求項5に記載の防錆塗膜からなり、平均乾燥膜厚が10μm以下である一次防錆塗膜。
【請求項7】
請求項5に記載の防錆塗膜または請求項6に記載の一次防錆塗膜と基材とを含有する防錆塗膜付き基材。
【請求項8】
下記工程[1]および[2]を含む、防錆塗膜付き基材の製造方法。
[1]基材に請求項1〜4のいずれか1項に記載の防錆塗料組成物を塗装する工程
[2]前記基材に塗装された前記防錆塗料組成物を乾燥させて前記基材上に塗膜を形成する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材加工工程等に用いられる防錆塗料組成物およびその用途に関する。さらに詳しくは、従来の塗装装置を用いても平均乾燥膜厚が10μm以下の塗膜を形成することができるとともに、優れた防食性、溶接性を有する防錆塗膜を形成可能な防錆塗料組成物、およびこの防錆塗料組成物を用いて形成された防錆塗膜付き基材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶、海洋構造物、プラント、橋梁、陸上タンク等の大型鉄鋼構造物の建造中における発錆を防止する目的で、基材表面に防錆塗料が塗装されている。このような防錆塗料としては、ウォッシュプライマー、ノンジンクエポキシプライマー、エポキシジンクリッチプライマー等の有機防錆塗料、シロキサン系結合剤および亜鉛末を含有する無機ジンク防錆塗料が知られている。これらの防錆塗料のうち、溶接性に優れた無機ジンク防錆塗料が最も広く用いられている。
【0003】
前記防錆塗料の内、船舶、海洋構造物、プラント、橋梁、陸上タンク等の鋼材加工工程の前処理において用いられる一次防錆塗料は、そのほとんどが平均乾燥膜厚15μmとなるように塗装されている。これよりも薄膜化することができれば、塗装後の溶接工程における溶接速度を速くすることができ、生産性の面で有利であるが、薄膜になると防食性が不十分となるため、実質的に平均乾燥膜厚15μm以下の防錆塗膜を形成することは困難であった。
【0004】
さらに、近年は、平均乾燥膜厚10μm以下である薄膜型一次防錆塗膜の形成方法が検討されており、従来の一次防錆塗料を塗装し、上記薄膜型一次防錆塗膜を形成する方法としては、下記3つの方法が挙げられる。
【0005】
1つ目は、塗装時の一次防錆塗料の吐出流量を下げる方法である。しかしながら、従来の塗装機では安定的に塗装できる限界以下の吐出流量に設定する必要があり、均一な塗膜を形成できない。
【0006】
2つ目は、塗装機自体を開発することである。現時点で、既存の一次防錆塗料および既存の塗装機を用いて薄膜に塗装することは困難である。また、薄膜形成に適した塗装機が開発されたとしても、新たな塗装機を導入するためには、莫大な費用を必要とするといった問題がある。
【0007】
3つ目は、一次防錆塗料を多量の有機溶剤で希釈し、塗料の不揮発分を減量する方法である。この方法が現状で薄膜に塗装することができる現実的な方法であるが、結果として塗装面積当りの揮発性有機化合物(VOC)発生量が増加し、環境負荷が増大するといった問題がある。
【0008】
したがって、一次防錆塗料を塗装し、薄膜を形成することは、生産性の観点から重要であるが、環境負荷を増大することなく、従来の塗装機を用いて薄膜を形成することは非常に困難であった。
【0009】
一方、特許文献1には、平均乾燥膜厚が10μm以下の塗膜を形成することができ、かつ優れた防錆性を有する、シロキサン系結合剤と鱗片状亜鉛末等の亜鉛末とを含有する一次防錆塗料組成物が開示されている。
【0010】
また、特許文献2には、溶接性と平均乾燥膜厚5〜15μm程度の薄膜においても防食性に優れた塗膜を形成できる、特定の範囲の平均粒子径の亜鉛末と体質顔料を含む無機ジンクショッププライマーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2014/014063号
【特許文献2】国際公開第2014/119784号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、前記特許文献1および2に記載の組成物からなる防錆塗膜で被覆された鋼材を溶接する場合、溶接条件によっては、溶接ビードに多数のピット(貫通孔)やブローホール(内泡)、ガス溝、ワームホール等の溶接欠陥を生じることがあった。
【0013】
また、前記特許文献2に記載の組成物は、従来の塗装機を用いて平均乾燥膜厚が10μm以下の塗膜を形成するためには、該組成物100質量部に対して、30質量部を超える有機溶剤で希釈する必要があった。つまり、該組成物は、希釈溶剤による環境負荷を考慮すると、従来の塗装機を用いて塗装するには塗装性が不十分であることが分かった。
【0014】
さらに、前記大型鉄鋼構造物に適用する場合、作業の工程上の要求(例:鋼材の供給時間、トラブルによる中断や作業予定の変更)に対応できるように、ポットライフの長い塗料組成物を得ることも重要である。
【0015】
本発明は、上述の課題を解決しようとするものであって、ポットライフが長く、多量の有機溶剤で希釈することなく、従来の塗装機を用いて平均乾燥膜厚が10μm以下の防錆塗膜を形成することができ、かつ、このような薄膜であっても、優れた防食性を有し、また、鋼材に対する優れた溶接性を有する防錆塗膜を形成可能な防錆塗料組成物、ならびにその用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定組成の防錆塗料組成物によれば、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の構成例は以下の通りである。
【0017】
<1> 重量平均分子量が1,500〜8,000であるアルキルシリケートの縮合物(A)と、亜鉛末(B)と、体質顔料、防錆顔料および着色顔料からなる群より選択される一種以上の顔料(C)を含有し、前記亜鉛末(B)と前記顔料(C)との質量比((B)/(C))が、2.0〜5.0であり、顔料体積濃度(PVC)が60〜70%である防錆塗料組成物。
【0018】
<2> 前記亜鉛末(B)が、鱗片状亜鉛末(B1)及び球状亜鉛末(B2)からなる群より選択される一種以上である<1>に記載の防錆塗料組成物。
【0019】
<3> さらに、導電性顔料(D)を含有する<1>または<2>に記載の防錆塗料組成物。
<4> 前記導電性顔料(D)が酸化亜鉛である<3>に記載の防錆塗料組成物。
【0020】
<5> <1>〜<4>のいずれかに記載の防錆塗料組成物から形成された防錆塗膜。
<6> <5>に記載の防錆塗膜からなり、平均乾燥膜厚が10μm以下である一次防錆塗膜。
【0021】
<7> <5>に記載の防錆塗膜または<6>に記載の一次防錆塗膜と基材とを含有する防錆塗膜付き基材。
【0022】
<8> 下記工程[1]および[2]を含む、防錆塗膜付き基材の製造方法。
[1]基材に<1>〜<4>のいずれかに記載の防錆塗料組成物を塗装する工程
[2]前記基材に塗装された前記塗料組成物を乾燥させて前記基材上に塗膜を形成する工程
【発明の効果】
【0023】
本発明の防錆塗料組成物は、ポットライフが長く、多量の有機溶剤で希釈することなく、従来の塗装機を用いて平均乾燥膜厚が10μm以下の防錆塗膜を形成することができ、かつ、このような薄膜であっても、優れた防食性を有し、また、鋼材に対する優れた溶接性を有する防錆塗膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、溶接試験の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の防錆塗料組成物(以下、「本組成物」ともいう。)、防錆塗膜、防錆塗膜付き基材およびその製造方法について、好適な態様を含めて詳細に説明する。
【0026】
≪防錆塗料組成物≫
本組成物は、特定の重量平均分子量を有するアルキルシリケートの縮合物(A)と、亜鉛末(B)と、体質顔料、防錆顔料および着色顔料からなる群より選択される一種以上の顔料(C)とを含有し、前記亜鉛末(B)と前記顔料(C)との質量比((B)/(C))が、2.0〜5.0であり、顔料体積濃度(PVC)が60〜70%である。
【0027】
本組成物は、前記成分(A)〜(C)を含み、前記成分(B)と前記成分(C)の質量比が特定の範囲にあり、かつ、顔料体積濃度(PVC)が特定の範囲にあるため、多量の有機溶剤で希釈することなく、従来の塗装機を用いて平均乾燥膜厚が10μm以下の防錆塗膜を形成することができ、かつ、このような薄膜であっても、優れた防食性を有し、また、鋼材の優れた溶接性を有する防錆塗膜を形成することができる。
【0028】
本組成物は、所望により、本発明の効果を損なわない範囲で、導電性顔料(D)、その他の成分として、前記アルキルシリケート縮合物(A)以外の結合剤(バインダー)、成分(B)、(C)および(D)以外の顔料、添加剤および有機溶剤等を含有してもよい。 本組成物は、通常、アルキルシリケートの縮合物(A)を含有する主剤成分と、亜鉛末(B)および顔料(C)を含有するペースト成分とからなる2成分型の組成物である。また、必要に応じて、本組成物は、3成分以上からなる多成分型の組成物であってもよい。
【0029】
これらの主剤成分およびペースト成分は、通常、それぞれ別個の容器にて、保存、貯蔵、運搬等され、使用直前に混合して用いられる。塗料組成物によっては保存中に、表面層に不溶性の膜が形成される皮張りと呼ばれる現象が起こることがあるが、本組成物では、上記主剤成分とペースト成分を混合した後、時間経過により分離した液相と顔料相との間に上記皮張りに類似した現象(以下、単に「皮張り」という。)が起こることがある。皮張りが起こった塗料組成物は再分散が困難になり、事実上塗料組成物の使用が不可能になる。したがって、皮張りが起こりやすいと長いポットライフは望めない。本組成物は、皮張りが起こりにくく、作業の工程上の要求に対応可能な、少なくとも23℃下で24時間のポットライフを有する塗料組成物である。
【0030】
<アルキルシリケートの縮合物(A)>
前記アルキルシリケートの縮合物(A)は、重量平均分子量(Mw)が1,500〜8,000であれば特に制限されないが、Mwが1,500〜7,000であることが好ましい。Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される標準ポリスチレン換算の値であり、その詳細は実施例に記載したとおりである。
【0031】
前記Mwが上記範囲にあると、塗料の乾燥時に短時間で常温硬化(例:5〜35℃での硬化)が可能であり、また塗膜の防食性および基材との付着強度が向上するとともに、溶接時のブローホール(内泡)の発生が抑えられる。一方、Mwが上記下限値を下回ると、アルキルシリケートの縮合物(A)の硬化反応が遅く、短時間での硬化が求められる場合、塗膜の乾燥時に高温(例:200〜400℃)での加熱硬化が必要になる。Mwが上記上限値を上回ると、ポットライフが短くなる傾向にある。
【0032】
前記アルキルシリケートの縮合物(A)に用いられるアルキルシリケートとしては、例えば、テトラメチルオルトシリケート、テトラエチルオルトシリケート、テトラ−n−プロピルオルトシリケート、テトラ−i−プロピルオルトシリケート、テトラ−n−ブチルオルトシリケート、テトラ−sec−ブチルオルトシリケート、メチルポリシリケート、エチルポリシリケート等の化合物が挙げられる。
【0033】
前記アルキルシリケートの縮合物(A)は、従来公知の方法によって製造することができる。例えば、アルキルシリケートと有機溶剤との混合溶液に塩酸等を添加し攪拌して、部分加水分解縮合物を生成させることにより、アルキルシリケートの縮合物(A)を調製することができる。
このようなアルキルシリケートの縮合物(A)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
前記アルキルシリケートの縮合物(A)の含有量は、本組成物の不揮発分100質量%に対し、不揮発分で通常10〜30質量%、好ましくは15〜25質量%、より好ましくは16〜23質量%である。アルキルシリケートの縮合物(A)の含有量が前記範囲にあると、平均乾燥膜厚が10μm以下の塗膜であっても、連続性を有する均質な塗膜とすることができ、結果として鋼材の発錆を防止することができる。
前記不揮発分とは、本組成物の下記条件下における加熱残分を意味する。塗料組成物の加熱残分は、JIS K 5601 1−2の規格(加熱温度:125℃、加熱時間:60分)に従い測定することができる。
【0035】
<亜鉛末(B)>
前記亜鉛末(B)は、金属亜鉛の粉末、または亜鉛を主体とする合金の粉末であれば特に制限されない。前記合金としては、例えば、亜鉛とアルミニウム、マグネシウムおよび錫から選択される少なくとも1種との合金が挙げられ、好ましくは、亜鉛−アルミニウム合金、亜鉛−錫合金が挙げられる。本組成物は、このような亜鉛末(B)として、鱗片状亜鉛末(B1)及び球状亜鉛末(B2)からなる群より選択される一種以上を含有することが好ましい。このような亜鉛末(B)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
本組成物に係る前記亜鉛末(B)と後述する顔料(C)との質量比((B)/(C))は、2.0〜5.0であり、好ましくは2.0〜4.5である。前記質量比((B)/(C))が前記範囲にあると、防食性、溶接性の面で好ましい。質量比((B)/(C))が前記範囲の上限値を上回ると、形成される塗膜中の亜鉛末(B)の割合が高くなるため、溶接時に発生する亜鉛ヒューム量が増加し、溶接作業者の健康面への悪影響が懸念されるとともに、溶接性が不良となる傾向にある。一方、質量比((B)/(C))が前記範囲の下限値を下回ると、形成される塗膜中の顔料(C)の割合が高くなり、亜鉛末(B)の粒子間の接触が疎になり、犠牲防食効果が得られにくいため、防食性が不十分となる傾向にある。
【0037】
本組成物は、前記亜鉛末(B)として、鱗片状亜鉛末(B1)および球状亜鉛末(B2)を併用する態様、あるいは球状亜鉛末(B2)のみを含有する態様が好ましい。亜鉛末(B)は、鱗片状亜鉛末(B1)および球状亜鉛末(B2)を併用する場合、亜鉛末(B)100質量%に対し、1〜60質量%の鱗片状亜鉛末(B1)と40〜99質量%の球状亜鉛末(B2)を含有することが好ましく、3〜40質量%の鱗片状亜鉛末(B1)と60〜97質量%の球状亜鉛末(B2)を含有することがより好ましい。前記鱗片状亜鉛末(B1)および球状亜鉛末(B2)を前記範囲で用いることで、高価な鱗片状亜鉛末(B1)の使用量を低減しつつ、かつ、後述する鱗片状亜鉛末(B1)の添加効果を損なうことがなく、防食性が良好な塗膜を形成することができる点で好ましい。一方、球状亜鉛末(B2)のみを含有する場合、球状亜鉛末(B2)は鱗片状亜鉛末(B1)と比べて安価であるため、経済的に優れているとともに、必要十分な防食性を有する塗膜を形成することができる。
【0038】
また、本組成物より形成された防錆塗膜が、溶接時等に800℃以上の高温で加熱された場合、鱗片状亜鉛末(B1)はその比表面積が大きいため酸化され易く、加熱後の防食性が低下することがある。一方、鱗片状亜鉛末(B1)と球状亜鉛末(B2)を併用した場合、防錆塗膜が前記高温で加熱された場合であっても、球状亜鉛末(B2)は内部に金属亜鉛が残存し易く、加熱後の防食性を維持できる傾向にある。
【0039】
また、鱗片状亜鉛末(B1)は金属光沢色を有しており、塗膜を形成する際に、該亜鉛末粒子の主面が塗膜表面と平行に配向しやすいため、他の着色顔料を導入した場合でも色相が金属光沢色を帯びやすい傾向がある。したがって、鱗片状亜鉛末(B1)を用いる場合、色相設計に制限があることがある。一方、鱗片状亜鉛末(B1)と球状亜鉛末(B2)を併用することで相対的に鱗片状亜鉛末(B1)の含有量を減量することできるため、この傾向が緩和され、自由に色相設計をすることが可能となる。
【0040】
鱗片状亜鉛末(B1)
鱗片状亜鉛末(B1)としては、粒子形状が鱗片状である金属亜鉛または亜鉛を主体とする合金であれば特に制限されない。
【0041】
鱗片状亜鉛末(B1)は、メディアン径(D50)が30μm以下であり、かつ粒子の平均厚さが1μm以下のものが好ましく、D50が5〜20μmであり、かつ粒子の平均厚さが0.2〜0.9μmのものがより好ましい。また、D50と平均厚さとの比で示されるアスペクト比(D50/粒子の平均厚さ)は、10〜150であることが好ましく、より好ましくは20〜100である。
また、前記鱗片状亜鉛末(B1)のD50が前記範囲にあれば、塗装機内で塗料組成物による詰まりの発生を防止することができる。
【0042】
前記D50は、レーザー散乱回折式粒度分布測定装置、例えば「SALD 2200」((株)島津製作所製)を用いて測定することができる。また、粒子の平均厚さは、走査電子顕微鏡(SEM)、例えば「XL−30」(フィリップス社製)を用いて鱗片状亜鉛末(B1)を主面に対して水平方向から観察し、数10〜数100個の粒子の厚さを測定し、その平均値を求めることで算出できる。
【0043】
上記D50は、上記測定装置「SALD 2200」を用いてD50を3回測定した値の平均値である。なお、上記D50は、測定対象の亜鉛末に少量の中性洗剤を添加し、水中に5分間超音波分散することにより前処理を行い、イオン交換水に中性洗剤を少量添加した循環水に前処理した上記亜鉛末の分散体を投入し、測定時の分散時間を1分として測定された数値である。
【0044】
上記平均厚さは、セロハンテープ上に測定対象の亜鉛末を付着させ、その表面を上記走査電子顕微鏡(SEM)「XL−30」を用いて観察し、粒子の主面が観察方向に対し水平になっている亜鉛末を無作為に30点抽出し、それらにつき粒子の厚さを計測し、それらの厚さの平均値を算出することにより求めた数値である。
【0045】
このような形状の鱗片状亜鉛末(B1)は、球状亜鉛末(B2)と比べて比表面積が大きいので、防錆塗膜中の亜鉛末間の接触が密になり易い傾向にある。したがって、鱗片状亜鉛末(B1)を含有する組成物は、形成される防錆塗膜中の亜鉛末(B)の含有量が比較的少量であっても、長期暴露後の防食性に優れた塗膜を形成することができる。前記比表面積は、流動式比表面積自動測定装置、例えば「フローソーブII 2300」((株)島津製作所製)を用いて測定することができる。
【0046】
前記鱗片状亜鉛末(B1)の市販品としては、例えば、鱗片状金属亜鉛末であるSTANDART Zinc flake GTT(D50:17μm、平均厚さ:0.7μm、アスペクト比:24)、STANDART Zinc flake G、STANDART Zinc flake AT(以上、ECKART GmbH製)、鱗片状亜鉛合金粉末であるSTAPA 4ZNAL7(亜鉛とアルミニウムとの合金;ECKART GmbH製)、STAPA 4 ZNSN30(亜鉛と錫との合金;ECKART GmbH製)等が挙げられる。
鱗片状亜鉛末(B1)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
球状亜鉛末(B2)
球状亜鉛末(B2)としては、粒子形状が球状である金属亜鉛または亜鉛を主体とする合金であれば特に制限されない。
【0048】
前記球状亜鉛末(B2)は、粒子が略球状のものを指し、特に規定された範囲は存在しないが、通常、短径に対する長径の比(長径/短径)(以下、長径短径比という)が1〜3であることが好ましい。長径短径比は、鱗片状亜鉛末(B1)と同様に走査電子顕微鏡(SEM)を用いて球状亜鉛末(B2)を観察し、その長径(粒子表面の任意の2点を結ぶ線分の中で一番長い線分の長さ)と短径(長径を与える線分と直交する、粒子表面の任意の2点を結ぶ線分の中で一番長い線分の長さ)を測定し、その各平均値を求めることで算出することができる。
【0049】
前記球状亜鉛末(B2)は、D50が2〜15μmであることが好ましく、より好ましくは2〜7μmである。D50は、レーザー散乱回折式粒度分布測定装置、例えば「SALD 2200」((株)島津製作所製)を用いて測定することができる。
【0050】
球状亜鉛末(B2)の市販品としては、例えば、F−2000(本荘ケミカル(株)製、D50:5μm、長径短径比:1.1)が挙げられる。
球状亜鉛末(B2)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
<顔料(C)>
顔料(C)は、体質顔料、防錆顔料および着色顔料からなる群より選択される一種以上の顔料である。
前記体質顔料は、一般的な塗料に使用される無機顔料であれば特に制限されないが、耐熱性を有する無機顔料であることが好ましく、例えば、カリ長石、ソーダ長石、カオリン、マイカ、シリカ、タルク、硫酸バリウム、酸化アルミニウム、珪酸ジルコニウム、珪灰石、珪藻土等が挙げられる。また、フッ化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム等の熱分解ガスを発生する無機顔料であってもよい。このような体質顔料としては、カリ長石、マイカが好ましい。
【0052】
前記体質顔料の市販品としては、例えば、カリ長石であるUNISPAR PG−K10(Sibelco Malaysia Sdn. Bhd製)、マイカパウダー100メッシュ((株)福岡タルク工業所製)、カオリンASP−200(BASFジャパン(株))、珪酸ジルコニウムであるA−PAX45M(キンセイマテック(株)製)、FC−1タルク((株)福岡タルク工業所製)、シリカQZ−SW((株)五島鉱山製)、沈降性硫酸バリウム 100(堺化学(株)製)、珪藻土であるラヂオライト(昭和化学工業(株))等が挙げられる。
【0053】
前記熱分解ガスを発生する無機顔料は、熱分解(例:500〜1500℃での熱分解)によってガス(例:CO2、F2 )を発生する。このような顔料を含有する塗膜で被覆された鋼材を溶接する際に、溶接時の溶融プール内において、アルキルシリケートの縮合物(A)、および、後述する縮合物(A)以外の組成に由来するガスにより生じた気泡を、上記無機顔料由来のガスとともに、溶融プール内から除去する作用を有する。該顔料の市販品としては、例えば、蛍石400メッシュ(キンセイマテック(株)製)、NS#400(日東粉化工業(株)製)、炭酸マグネシウム(富田製薬(株)製)、炭酸ストロンチウムA(本荘ケミカル(株)製)が挙げられる。
【0054】
このような熱分解ガスを発生する無機顔料を用いる場合、その含有量は、本組成物の不揮発分100質量%に対して、好ましくは0.1〜8質量%、より好ましくは0.2〜4質量%である。
【0055】
前記防錆顔料は、亜鉛末(B)および後述の導電性顔料(D)以外の防錆顔料であり、塗膜の防食性をさらに向上させる目的で用いられる。前記防錆顔料としては、例えば、リン酸亜鉛系化合物、リン酸カルシウム系化合物、リン酸アルミニウム系化合物、リン酸マグネシウム系化合物、亜リン酸亜鉛系化合物、亜リン酸カルシウム系化合物、亜リン酸アルミニウム系化合物、亜リン酸ストロンチウム系化合物、メタリン酸アルミニウム系化合物、トリポリリン酸アルミニウム系化合物、シアナミド亜鉛系化合物、ホウ酸塩化合物、塩化亜鉛、硫化亜鉛、硫酸亜鉛、ニトロ化合物等が挙げられる。これらの中でも、形成される防錆塗膜の防食性、溶接性を向上させることができる等の観点から、メタリン酸アルミニウム系化合物、トリポリリン酸アルミニウム系化合物が好ましい。
【0056】
前記防錆顔料の市販品としては、例えば、リン酸カルシウム亜鉛系化合物であるLFボウセイCP−Z(キクチカラー(株)製)、亜リン酸亜鉛系(カルシウム)化合物であるプロテクスYM−70(太平化学産業(株)製)、亜リン酸亜鉛系(ストロンチウム)化合物であるプロテクスYM−92NS(太平化学産業(株)製)、メタリン酸アルミニウム系化合物であるK−WHITE#94(テイカ(株)製)、トリポリリン酸アルミニウム系化合物であるK−WHITE#84、K−WHITE#105(テイカ(株)製)、シアナミド亜鉛系化合物であるLFボウセイZK−32(キクチカラー(株)製)、硫化亜鉛であるSachtolich HD(Sachleben Chemie GmbH製)、塩化亜鉛((株)長井製薬所製)等が挙げられる。
【0057】
前記着色顔料は、無機系着色顔料および有機系着色顔料を含む。無機系着色顔料としては、後述する導電性顔料(D)以外の無機系着色顔料であれば特に制限されないが、例えば、酸化チタン、弁柄、銅・クロム・マンガンの複合酸化物等が挙げられる。有機系着色顔料としては、フタロシアニングリーンおよびフタロシアニンブルー等の有機系着色顔料を挙げることができる。該有機系着色顔料の市販品としては、例えば、TITONE R−5N(堺化学工業(株)製)、弁柄No.404(森下弁柄工業(株)製)、ダイピロキサイドブラック #9510(大日精化工業(株)製)、Heliogen Green L8690(BASFジャパン(株)製)、およびFASTOGEN Blue 5485(DIC(株)製)等が挙げられる。
【0058】
前記着色顔料は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
有機系着色顔料を用いる場合、その含有量は、本組成物の不揮発分100質量%に対して、好ましくは0.15〜2.0質量%である。このため、有機系着色顔料を用いる場合、質量比((B)/(C))を2.0〜5.0、PVCを60〜70%とするためには、その他の顔料(C)である前記体質顔料、防錆顔料および無機系着色顔料からなる群より選択される1種以上と併用する必要がある。
【0059】
<導電性顔料(D)>
本組成物は、形成される防錆塗膜の防食性を向上させることができる等の観点から、導電性顔料(D)を含有することが好ましい。特に、亜鉛末(B)として、球状亜鉛末(B2)のみを含有する場合、防錆塗膜の犠牲防食効果を高める観点から、前記(D)を併用することが好ましい。
【0060】
具体的には、本組成物からなる防錆塗膜が優れた防食性を発揮するためには、前記亜鉛末(B)がイオン化した際に発生する電子を効率的に鋼材等の基材へ供給することが重要である。通常、防錆塗膜中の亜鉛末(B)同士が接触することによって通電効果を得ることができ、特に鱗片状亜鉛末(B1)を含有する防錆塗膜は、亜鉛末同士が接触し易い傾向にある。一方、亜鉛末(B)として球状亜鉛末(B2)のみを含有する防錆塗膜は、導電性顔料(D)をさらに含有させることによって、導電性顔料(D)が亜鉛末間を接続する役割を果たし、効果的な犠牲防食効果を得ることができ、良好な防食性を発揮することができる。
【0061】
前記導電性顔料(D)としては、例えば、亜鉛末(B)および後述するモリブデン以外の金属粉末、酸化亜鉛ならびに炭素粉末等が挙げられる。これらの中でも、安価で導電性の高い酸化亜鉛が好ましい。
【0062】
前記酸化亜鉛の市販品としては、例えば、酸化亜鉛1種(堺化学工業(株)製)、酸化亜鉛3種(ハクスイテック(株)製)等が挙げられる。
【0063】
前記金属粉末としては、例えば、Fe−Si粉、Fe−Mn粉、Fe−Cr粉、磁鉄粉、リン化鉄が挙げられる。該金属粉末の市販品としては、例えば、フェロシリコン(キンセイマテック(株)製)、フェロマンガン(キンセイマテック(株)製)、フェロクロム(キンセイマテック(株)製)、フェロフォス2132(オキシデンタル ケミカルコーポレーション製)等が挙げられる。
【0064】
前記炭素粉末としては、カーボンブラック等が挙げられる。該炭素粉末の市販品としては、例えば、三菱カーボンブラックMA−100(三菱ケミカル(株)製)が挙げられる。
【0065】
前記導電性顔料(D)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
前記導電性顔料(D)を用いる場合、導電性顔料(D)の含有量は、亜鉛末(B)100質量部に対して、好ましくは0.5〜10質量部、より好ましくは1〜5質量部である。前記導電性顔料(D)の含有量が前記範囲にあると、塗膜の犠牲防食効果を高め、防食性を向上させる点で好ましい。
【0066】
また、導電性顔料(D)の含有量は、本組成物の不揮発分100質量%に対して、0質量%を超えて10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。前記導電性顔料(D)の含有量が前記範囲にあると、亜鉛末(B)の含有量を少なく抑えつつ防食性を維持できる点で好ましい。
【0067】
<その他の成分>
本組成物は、その他の成分として、前記アルキルシリケート縮合物(A)以外の結合剤、亜鉛末(B)、顔料(C)および導電性顔料(D)以外の顔料、沈降防止剤、乾燥剤、流動性調整剤、消泡剤、分散剤、色分れ防止剤、皮張り防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤等の添加剤、有機溶剤等を、本発明の目的および効果を損なわない範囲で適宜含有してもよい。
これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0068】
<前記アルキルシリケート(A)以外の結合剤>
本組成物は、アルキルシリケートの縮合物(A)以外の結合剤として、例えば、ポリビニルブチラール樹脂等を含有してもよい。該ポリビニルブチラール樹脂の市販品としては、例えば、エスレックB BM−2(積水化学工業(株)製)が挙げられる。
このようなアルキルシリケート縮合物(A)以外の結合剤は、本組成物が、2成分型の組成物である場合、主剤成分に含有することが好ましい。
【0069】
<亜鉛末(B)、顔料(C)、導電性顔料(D)以外の顔料>
本組成物は、亜鉛末(B)、顔料(C)および導電性顔料(D)以外の顔料を含有してもよい。このような顔料として、アルカリガラス粉末、モリブデンおよびモリブデン化合物等が挙げられる。
【0070】
(アルカリガラス粉末)
前記アルカリガラス粉末は、当該ガラス粉末に含まれるアルカリ金属イオンが亜鉛を活性化させる、鋼板の溶接時にアークを安定化させる等の作用を有する。このようなアルカリガラス粉末としては、一般に普及している板ガラスや瓶ガラスを5μm程度まで粉砕してガラス粉末を調製し、酸洗浄で当該ガラス粉末のpHを8以下に調整したものが挙げられる。該アルカリガラス粉末の市販品としては、例えば、「APS−325」((株)ピュアミック製)等が挙げられる。
【0071】
(モリブデン、モリブデン化合物)
前記モリブデン(金属モリブデン)、モリブデン化合物は、形成される防錆塗膜の白錆(酸化亜鉛、水酸化亜鉛、炭酸亜鉛等の混合物)の発生を低減する、亜鉛の酸化防止剤(いわゆる白錆抑制剤)として作用する。本組成物は、モリブデン、モリブデン化合物の一方または双方を含有することができる。
【0072】
本組成物を塗装した鋼材を屋外に暴露した場合、塗膜中の亜鉛または亜鉛合金が水や酸素、炭酸ガスと反応することで、塗膜表面に白錆を生成することがある。白錆を生成した当該塗膜の表面に、上塗り塗料からなる上塗り塗膜が形成された場合、塗膜間の付着性が低下してしまうことがある。このような問題に対しては、上塗り塗料を塗装するに先だって、防錆塗膜表面の白錆を適当な手段により除去する除去作業を必要とするが、作業の工程上の要求や特定の用途によっては、このような除去作業は全く許されないことがある。
【0073】
前記モリブデン化合物としては、例えば、三酸化モリブデン等のモリブデン酸化物、硫化モリブデン、モリブデンハロゲン化物、モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸、珪モリブデン酸、モリブデン酸のアルカリ金属塩、リンモリブデン酸のアルカリ金属塩、珪モリブデン酸のアルカリ金属塩、モリブデン酸のアルカリ土類金属塩、リンモリブデン酸のアルカリ土類金属塩、珪モリブデン酸のアルカリ土類金属塩、モリブデン酸のマンガン塩、リンモリブデン酸のマンガン塩、珪モリブデン酸のマンガン塩、モリブデン酸の塩基性窒素含有化合物塩、リンモリブデン酸の塩基性窒素含有化合物塩、珪モリブデン酸の塩基性窒素含有化合物塩等が挙げられる。
【0074】
モリブデン、モリブデン化合物の一方または双方を用いる場合、モリブデンおよびモリブデン化合物の含有量の合計は、亜鉛末(B)100質量部に対して、好ましくは0.05〜5.0質量部、より好ましくは0.3〜3.0質量部、さらに好ましくは0.5〜2.0質量部である。含有量が前記範囲にある場合、十分な亜鉛の酸化防止作用が得られるとともに、亜鉛末(B)の活性の低下を防ぎ、塗膜の防食性を維持することができる。
【0075】
<添加剤>
本組成物は、沈降防止剤、乾燥剤、流動性調整剤、消泡剤、分散剤、色分れ防止剤、皮張り防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤等の添加剤を含有してもよい。
【0076】
前記沈降防止剤としては、例えば、有機ベントナイト系、酸化ポリエチレン系、ヒュームドシリカ系、アマイド系等の沈降防止剤が挙げられる。該沈降防止剤の市販品としては、例えば、TIXOGEL MPZ(BYK Additives GmbH製)、ディスパロン4200−20(楠本化成(株)製)、ディスパロンA630−20X(楠本化成(株)製)、AEROSIL 200(日本アエロジル(株)製)が挙げられる。
【0077】
本組成物が沈降防止剤を含有する場合、その含有量は、本組成物が前記2成分型の組成物である場合、ペースト成分の不揮発分100質量%中に、通常0.5〜5.0質量%、好ましくは0.5〜3.0質量%である。前記沈降防止剤の含有量が前記範囲にあると、顔料の沈殿が少なく、ペースト成分と主剤成分とを混合する際の作業性の点で好ましい。
【0078】
<有機溶剤>
本組成物は、亜鉛末(B)の分散性が向上すること、また塗装工程において鋼材へのなじみ性が良く、鋼材との密着性に優れた塗膜が得られることから、有機溶剤を含有することが好ましい。
【0079】
前記有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、芳香族系溶剤、グリコール系溶剤等の塗料分野で通常使用されている有機溶剤を用いることができる。
【0080】
前記アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられる。前記エステル系溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられる。前記ケトン系溶剤としては、例えば、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサンノン等が挙げられる。前記芳香族系溶剤としては、例えば、ベンゼン、キシレン、トルエン等が挙げられる。前記グリコール系溶剤としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0081】
本組成物が有機溶剤を含有する場合、その含有量は、通常25〜50質量%、好ましくは35〜45質量%、より好ましくは38〜42質量%である。本発明の塗料組成物は、このような有機溶剤型組成物であることが好ましい。
【0082】
また、本組成物は、従来の塗装機を用いて平均乾燥膜厚が10μm以下の塗膜を形成しやすい等の観点から、温度23℃において岩田粘度カップ(型式:NK−2、アネスト岩田(株)製)を用いて測定した粘度が9〜13秒であることが好ましく、9〜11秒であることがより好ましい。本組成物の粘度を上記範囲内に調整するため、本組成物に前記有機溶剤を適宜含有させてもよい。
【0083】
<顔料体積濃度(PVC)>
本組成物は、顔料体積濃度(PVC)が60〜70%であり、好ましくは61〜67%、より好ましくは61〜66%である。本発明において顔料体積濃度(PVC)とは、本組成物の不揮発分中の顔料成分と、エタノールとトルエンを1対1の比率で混合した有機溶剤に23℃下で不溶な添加剤(但し、該添加剤は、顔料及びバインダー以外である。)中の固体粒子とが本組成物の不揮発分に占める割合(体積基準)を百分率で表した濃度を指す。顔料体積濃度(PVC)は下式で求められる
【0084】
【数1】
【0085】
「顔料成分」としては、例えば、鱗片状亜鉛末(B1)、球状亜鉛末(B2)等の亜鉛末(B)、顔料(C)および導電性顔料(D)、ならびに前記亜鉛末(B)、顔料(C)および導電性顔料(D)以外の顔料が挙げられる。「添加剤」としては、例えば、沈降防止剤、乾燥剤、流動性調整剤、消泡剤、分散剤、色分れ防止剤、皮張り防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤が挙げられる。
【0086】
PVCの算出にあたり、各成分の質量とその密度から、各成分の体積を算出する。また、アルキルシリケートの縮合物(A)については、SiO2換算のアルキルシリケートの縮合物(A)の質量とその密度から、その体積を算出する。
前記本組成物中の不揮発分の全体積は、本組成物の不揮発分の質量および真密度から算出することができる。本組成物の不揮発分の質量および真密度は、測定値でも、上述の通り、用いる原料から予め算出した値でも構わない。
【0087】
前記顔料成分の全体積と前記添加剤中の固体粒子の全体積との和は、用いた顔料および添加剤中の固体粒子の質量および真密度から算出することができる。前記顔料および添加剤中の固体粒子の質量および真密度は、測定値でも、用いる原料から算出した値でも構わない。例えば、顔料成分の全体積と前記添加剤中の固体粒子の全体積との和は、本組成物の不揮発分より、前記エタノールとトルエンを1対1の比率で混合した有機溶剤を用いて、顔料および添加剤中の固体粒子と他の成分とを分離し、分離された顔料および固体粒子の質量および真密度を測定することで算出することができる。
【0088】
本組成物のPVCを上記範囲に調整することにより、塗膜中の顔料を密にすることができ、従来の塗装機を用いても平均乾燥膜厚が10μm以下の塗膜を形成することが可能となる。一方、本組成物のPVCが上記範囲の上限値を上回る場合、形成される塗膜中のアルキルシリケートの縮合物(A)および該縮合物(A)以外の結合剤の割合が低くなり、顔料の間に空隙ができやすくなるため、従来の塗装機を用いて平均乾燥膜厚が10μm以下の薄膜を形成することは困難になる。また、本組成物のPVCが上記範囲の下限値を下回る場合、形成される塗膜中の上記縮合物(A)および該縮合物(A)以外の結合剤の割合が高くなり、亜鉛末(B)同士の通電効果を得られにくくなるため、塗膜の防食性が不十分となる傾向にある。また、塗膜中の上記縮合物(A)由来の有機分が多くなるため、溶接性が不十分となる傾向にある。
【0089】
さらに、亜鉛末(B)と顔料(C)との質量比((B)/(C))を、2.0〜5.0に調整することで、防食性および溶接性により優れた塗膜を形成可能な塗料組成物とすることができる。
【0090】
PVCおよび質量比((B)/(C))を上記範囲内に調整することにより、以下の(1)〜(3)の利益を得ることもできる。
(1)防錆塗膜を薄膜化することで塗装面積当りの塗料使用量を削減でき、塗装面積当りのVOC発生量が40g/m2以下となるため、環境負荷が低減される傾向にある。また、塗装面積当りの亜鉛末(B)の含有量も30g/m2以下となるため、資源保護の観点でも優れている。(2)平均乾燥膜厚10μm以下である薄膜型一次防錆塗膜であっても、塗膜の長期暴露後の防食性が優秀である。(3)薄膜の防錆塗膜を形成できるため、鋼材の溶接工程における溶接速度を速くすることができ、生産性を向上することができる。
【0091】
<防錆塗料組成物の用途>
本発明の防錆塗料組成物は、好ましくは一次防錆塗料組成物である。
一般的に、船舶、海洋構造物、プラント、橋梁、陸上タンク等の大型構造物用鋼材に適用する一次防錆塗膜には、大型構造物の建造工程の溶断、溶接等に支障がなく、建造期間中に鋼材の発錆を抑制するとともに、該防錆塗膜上に適用される上塗り塗膜との優れた付着性が求められる。よって、これらの性能に優れる本組成物より形成された防錆塗膜は、上記用途に好適に使用することができる。
【0092】
<防錆塗膜および防錆塗膜付き基材>
本発明の防錆塗膜(以下「本防錆塗膜」ともいう。)は、上述の防錆塗料組成物から形成され、また、本発明の防錆塗膜付き基材は、鋼材等の基材と、前記基材表面に形成された、上述の防錆塗料組成物からなる防錆塗膜とを有する。
前記基材の材質としては、鉄、鋼、合金鉄、炭素鋼、マイルドスチール、合金鋼等の鉄鋼が挙げられる。また、前記基材は、必要により、ISO 8501−1における除錆度Sa2 1/2以上に相当する条件でブラスト処理されていることが好ましい。
【0093】
本防錆塗膜の電磁式膜厚計を用いて測定した平均乾燥膜厚は、通常30μm以下、好ましくは5〜20μmである。また、本防錆塗膜が一次防錆塗膜である場合、平均乾燥膜厚は、好ましくは10μm以下、より好ましくは5〜9μmである。
【0094】
上記一次防錆塗膜において、溶接工程における亜鉛末(B)に起因するガスの発生を抑制することができる点より、単位面積当りの亜鉛末(B)の含有量は、5〜30g/m2、好ましくは5〜20g/m2であることが望ましい。なお、単位面積当りの亜鉛末(B)の含有量は、塗料組成物中の亜鉛末(B)の含有量、および測定して得られた平均乾燥膜厚より、塗膜中の単位面積当りの亜鉛末(B)の含有量を計算してもよいし、単位面積当りの塗膜に含まれる亜鉛末(B)の含有量を分析して求めてもよい。
【0095】
<防錆塗膜付き基材の製造方法>
本防錆塗膜は、前述した本組成物より形成され、具体的には、下記工程[1]および[2]を含む工程を経ることで、製造することができる。
[1]基材に本防錆塗料組成物を塗装する工程
[2]前記基材上に塗装された前記防錆塗料組成物を乾燥させて前記基材上に塗膜を形成する工程
【0096】
<工程[1]>
本組成物を基材上に塗装する方法としては特に制限されず、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、刷毛塗装、ローラー塗装等の従来公知の方法により塗装することができる。一般的に、造船所、製鉄所等で本組成物を塗装する場合、主にライン塗装機が用いられる。ライン塗装機のライン速度、塗装機内部に設置されたエアスプレー、エアレススプレー等の塗装圧力、スプレーチップのサイズ(口径)等の塗装条件は、形成したい防錆塗膜の膜厚に応じて適宜変更することができる。例えば、ライン塗装機は、ライン速度4.5m/min、チップサイズ(GRACO)617〜929塗装、2次(塗料)圧:3.8〜8.9MPa程度に設定すればよい。
【0097】
<工程[2]>
本組成物は、常温で乾燥、硬化可能であるが、ライン塗装機のライン速度によっては、加熱・熱風乾燥させてもよい。加熱・熱風乾燥する場合、乾燥温度は、通常5〜40℃、好ましくは10〜30℃であり、その乾燥時間は、通常3〜15分、好ましくは5〜10分である。本組成物は、Mwが前記範囲にあるアルキルシリケートの縮合物(A)を用いることで、このような常温程度においても短時間で塗膜を硬化させることができる。したがって、本発明の塗料組成物は、船舶、海洋構造物、プラント、橋梁、陸上タンク等における鋼板加工工程で行われる鋼板の前処理での使用に適している。
【実施例】
【0098】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。以下の実施例等の記載において、特に言及しない限り、「部」は「質量部」を示す。
【0099】
<アルキルシリケートの縮合物(A)の調製方法>
〔調製例1〕
エチルシリケート40(コルコート(株)製)41.8部、工業用エタノール9.5部、脱イオン水5部、および35質量%塩酸0.1部を容器に仕込み、65℃で5時間攪拌した後、イソプロピルアルコール43.6部を加えて、アルキルシリケートの縮合物の溶液A−1を調製した。
〔調製例2〜5〕
調製例2〜5においては、それぞれ撹拌時間を表1に示すとおりに変更した以外は、上記調製例1と同様にして、下記表1に示すアルキルシリケートの縮合物の溶液A−2〜A−5を調製した。
【0100】
〔調製例6〕
エチルシリケート40(コルコート(株)製)31.5部、工業用エタノール10.4部、脱イオン水5部、および35質量%塩酸0.1部を容器に仕込み、50℃で3時間攪拌した後、イソプロピルアルコール53部を加えて、アルキルシリケートの縮合物の溶液A−6を調製した。
以上のようにして得られたアルキルシリケートの縮合物の溶液A−1〜A−6を主剤成分とした。よって、以下の記載において、例えば、アルキルシリケートの縮合物の溶液A−1は、主剤成分A−1とも記載する。
【0101】
以下に示す測定条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で、得られたアルキルシリケートの縮合物の溶液A−1〜A−6に含有されるアルキルシリケートの縮合物の重量平均分子量(Mw)を測定した。これらの縮合物の溶液を少量秤取し、テトラヒドロフランを加えて希釈し、さらにその溶液をメンブレムフィルターで濾過して、GPC測定サンプルとした。結果を表1に示す。
・装置:「Alliance 2695」(Waters社製)
・カラム:「TSKgel Super H4000」1本と「TSKgel Super H2000」2本を連結(いずれも東ソー(株)製、内径6mm×長さ15cm)
・溶離液:テトラヒドロフラン99%(Stabilized with BHT)
・流速:0.6ml/min
・検出器:「RI−104」(Shodex社製)
・カラム恒温槽温度:40℃
・標準物質:ポリスチレン
【0102】
【表1】
【0103】
<ペースト成分の調製方法>
〔調製例7〕
沈降防止剤として0.7部のTIXOGEL MPZ(BYK Additives GmbH製)と、有機溶剤として3.7部のキシレン、3.4部の酢酸ブチルおよび5.2部のイソブチルアルコール、顔料(C)として7.1部の体質顔料UNISPAR PG−K10(Sibelco Malaysia Sdn. Bhd製)、導電性顔料(D)として0.6部の酸化亜鉛3種(ハクスイテック(株))をそれぞれポリエチレン製容器に仕込み、ガラスビーズを加えてペイントシェーカーにて3時間振とうした。次いで、亜鉛末(B)として25.5部の球状亜鉛末F−2000(本荘ケミカル(株)製)を加えて、さらに5分間振とうして顔料成分を分散させた。その後、80メッシュの網を用いてガラスビーズを除去してペースト成分B−1を調製した。
〔調製例8〜28〕
調製例8〜28においては、それぞれ下記表2に示す各原料を表2に記載の量で用いた以外は、調製例7と同様にして、ペースト成分B−2〜B−22を調製した。表2中の数値は質量部を示す。
【0104】
【表2】
【0105】
<防錆塗料組成物の調製方法>
[実施例1]
塗装直前にアルキルシリケートの縮合物の溶液A−1からなる主剤成分A−1とペースト成分B−1を表3に記載の量(数値)に従って混合し、実施例1の塗料組成物を調製した。得られた防錆塗料組成物の顔料体積濃度(PVC)、塗料組成物の不揮発分中のアルキルシリケートの縮合物(A)量および亜鉛末(B)量、 ならびに亜鉛末(B)と顔料(C)の質量比((B)/(C))を表3に示す。
【0106】
【表3】
【0107】
[実施例2〜17および比較例1〜9]
実施例1と同様に、表1および表2に記載の各主剤成分と各ペースト成分を、表3に記載の量(数値)に従って塗装直前に混合し、実施例2〜17および比較例1〜9の各塗料組成物を調製した。得られた各防錆塗料組成物の顔料体積濃度(PVC)、塗料組成物の不揮発分中のアルキルシリケートの縮合物(A)量および亜鉛末(B)量、ならびに塗料組成物中の亜鉛末(B)と顔料(C)の 質量比((B)/(C))を表3に示す。
なお、表2に記載の各成分の詳細は、表4に示すとおりである。
【0108】
【表4】
【0109】
〔塗装条件〕
従来のライン塗装機と同じ態様のライン塗装機(装置名:SP用コンベア塗装機、竹内工作所(株)製)を用い、エアスプレーガンの吐出口と塗装鋼板の距離が25cm、ライン速度13m/min、塗装圧力0.2Mpaの塗装条件に調整し、前記実施例および比較例の各塗料組成物を無希釈でエアスプレー塗装した。
【0110】
(1)薄膜塗装性
冷間圧延鋼板(JIS G 3141、500×30×0.8mm)に、前記塗装条件にて各塗料組成物を塗装した。次いで、JIS K5600−1−6の規格に従い、塗装された組成物を温度23℃、相対湿度50%の恒温室内で1週間乾燥させ、得られた各防錆塗膜の平均乾燥膜厚を基に、薄膜塗装性を下記3段階で評価した。各塗料組成物の薄膜塗装性評価結果を下記表6に示した。なお、平均乾燥膜厚は、電磁式膜厚計「LE−370」((株)ケット科学研究所製)を用いて、20点の測定点において測定して得られた測定値の平均値である。
A:形成した防錆塗膜の平均乾燥膜厚が9μm以下である。
B:形成した防錆塗膜の平均乾燥膜厚が9μmを超えて10μm以下である。
C:形成した防錆塗膜の平均乾燥膜厚が10μmを超える。
【0111】
(2)ポットライフ
実施例および比較例の各塗料組成物300gをポリエチレン製容器に仕込み、ハイスピードディスパーで5分間撹拌した。各塗料組成物をそのまま、外気に触れる状態で温度23℃、相対湿度50%の恒温室内にて2日間静置し、2日後の各塗料組成物の皮張りの状態を確認し、その程度を下記2段階で評価した。各塗料組成物のポットライフ評価結果を下記表6に示した。
A:皮張りは認められない。
C:皮張りが認められる。
【0112】
(3)防食性
サンドブラスト処理板(JIS G3101、SS400、寸法:150mm×70mm×2.3mm)のブラスト処理面に、薄膜塗装性試験と同じ乾燥膜厚になるよう、前記塗装条件にて各塗料組成物を塗装した。次いで、JIS K5600−1−6の規格に従い、塗装された組成物を温度23℃、相対湿度50%の恒温室内で1週間乾燥させ、得られた各防錆塗膜と前記処理板とからなる試験板を作成した。
【0113】
作成した試験板をJIS K5600−7−1の規格に従い、濃度5%食塩水を用いて350時間の塩水噴霧試験を実施し、試験板全面積に対する発錆面積の比率(%)を求め、発錆の状態を評価した。評価基準は下記のとおりである。
発錆の状態の評価基準(ASTM D610)を基に、下記基準により10段階で評価し、さらに防食性評価として、下記基準で評価が10、9または8であった組成物を「A」、7であった組成物を「B」、6以下であった組成物を「C」と評価した。各塗料組成物の防食性評価結果を下記表6に示した。
10:発錆無し、または発錆面積が試験板の全面積の0.01%以下である。
9:発錆面積が試験板の全面積の0.01%を超え0.03%以下である。
8:発錆面積が試験板の全面積の0.03%を超え0.1%以下である。
7:発錆面積が試験板の全面積の0.1%を超え0.3%以下である。
6:発錆面積が試験板の全面積の0.3%を超え1%以下である。
5:発錆面積が試験板の全面積の1%を超え3%以下である。
4:発錆面積が試験板の全面積の3%を超え10%以下である。
3:発錆面積が試験板の全面積の10%を超え16%以下である。
2:発錆面積が試験板の全面積の16%を超え33%以下である。
1:発錆面積が試験板の全面積の33%を超え50%以下である。
0:発錆面積が試験板の全面積の50%を超え100%以下である。
【0114】
(4)溶接性
2枚のサンドブラスト処理板(JIS G3101、SS400、下板寸法:600mm×100mm×12mm、上板寸法:600mm×50mm×12mm)のブラスト処理面に、薄膜塗装性試験と同じ乾燥膜厚になるよう、前記塗装条件にて各塗料組成物を塗装した。次いで、JIS K5600−1−6の規格に従い、塗装された組成物を温度23℃、相対湿度50%の恒温室内で1週間乾燥させて、図1(a−1)、(b−1)および(c−1)に示されるような、平面形状が長方形である上板20および下板10を作製した。図1(a−2)、(b−2)および(c−2)に示されるように、上板20が下板10に対して垂直になるように、上板20を下板10に接合した。図1(a−1)、(b−1)、(a−2)および(b−2)において、サンドブラスト処理板(上板20および下板10)のうちの密な斜線部は塗装箇所を示す。
【0115】
次いで、炭酸ガス自動アーク溶接法により、図2(a−2)、(b−2)および(c−2)に示されるように、所定のトーチ角度およびトーチシフトを保ちつつ、上板20と下板10とを、第一溶接線側と第二溶接線側とが同時に溶接されるように、溶接した。このときの溶接条件を下記表5に示す。
【0116】
【表5】
【0117】
次いで、溶接性は次のように評価した。
まず、溶接部のうち、溶接前の仮付け部を含む溶接始端部および終端部の長さ各50mmの範囲を除く長さ500mmの範囲に発生したピット数(個)およびガス溝長さ(mm)を確認した。さらに、前記表5に記載の溶接条件に基づいて、第一溶接線側の溶接線にレーザーノッチ(V字型カット)を入れ、第二溶接線側の溶接部を溶接線に沿ってプレスで破断し、破断面に発生しているブローホールの合計面積(ブローホールの幅×長さ×個数)を評価面積で割り、ブローホール発生率(%)を算出した。また、幅2mm以上のブローホールの有無についても確認し、下記3段階で溶接性を評価した。各塗料組成物の溶接性評価結果を下記表6に示した。
A:ブローホール発生率が10%以下であり、幅2mm以上のブローホールがない。
B:ブローホール発生率が10%以下だが、幅2mm以上のブローホールが1つまた は2つ有る。
C:ブローホール発生率が10%を超える、あるいはブローホール発生率が10%以 下だが幅2mm以上のブローホールが3つ以上有る。
【0118】
【表6】
【符号の説明】
【0119】
10・・・サンドブラスト処理板(下板)
20・・・サンドブラスト処理板(上板)
図1