(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御・解析ユニット(10)は、前記刺激(40)が時間的にオフセットされて印加されるのに応答して記録される前記測定信号(23)を基準にして、前記時間的にオフセットされて印加されている刺激(40)が、前記刺激されているニューロンの前記病的に同期した振動性の活動を低減するか否かをチェックする、
請求項1に記載の装置(1)。
前記制御・解析ユニット(10)は、前記第1および第2の領域における前記時間的にオフセットされた刺激(40)の前記印加後に、前記患者の前記身体の前記表面上の第3の領域を選択し、前記第2の領域および前記第3の領域内では時間的にオフセットされるように刺激(40)を印加する一方、前記第1の領域内では刺激(40)を印加しないように、前記刺激ユニット(11)を制御し、
前記刺激は前記刺激されているニューロンの前記ニューロン活動の位相リセットを実行する、
請求項1に記載の装置(1)。
前記制御・解析ユニット(10)は、前記第2の領域および前記第3の領域における前記時間的にオフセットされた刺激(40)の前記印加後に、前記患者の前記身体の前記表面上の1つまたは複数のさらなる領域を選択し、前記選択されている領域のうちの2つにおいて時間的にオフセットされるように刺激(40)を印加する一方、残りの領域内では刺激(40)を印加しないように、前記刺激ユニット(11)を制御し、
前記刺激は前記刺激されているニューロンの前記ニューロン活動の位相リセットを実行する、
請求項3に記載の装置(1)。
前記制御・解析ユニット(10)は、前記第1および第2の領域における前記時間的にオフセットされた刺激(40)の前記印加後に、前記患者の前記身体の前記表面上の第3の領域を選択し、前記第1の領域、前記第2の領域および前記第3の領域内で時間的にオフセットされるように刺激(40)を印加するように、前記刺激ユニット(11)を制御し、
前記刺激は前記刺激されているニューロンの前記ニューロン活動の位相リセットを実行する、
請求項1に記載の装置(1)。
前記制御・解析ユニット(10)は、前記時間的にオフセットされた刺激(40)の前記印加後に、前記患者の前記身体の前記表面上の1つまたは複数のさらなる領域を選択し、前記第1の領域、前記第2の領域、前記第3の領域および前記1つまたは複数のさらなる選択領域内で時間的にオフセットされるように刺激(40)を印加するように、前記刺激ユニット(11)を制御し、
前記刺激は前記刺激されているニューロンの前記ニューロン活動の位相リセットを実行する、
請求項5に記載の装置(1)。
前記刺激ユニット(11)による前記患者の前記身体の前記表面の少なくとも一部の前記走査を受けて、前記活性化グループは、前記アレイおよび前記活性化グループによって包含される前記刺激要素(35)にわたって前記経路に沿って移動し、前記周期的刺激を生成する、
請求項8に記載の装置(1)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、病的に同期した振動性のニューロン活動を有するニューロンを刺激する装置1を概略的に示している。非侵襲性神経刺激の刺激パラメータを、装置1を用いて較正することができる。さらに、病的に同期した振動性のニューロン活動を抑制し、特に脱同期化することができる。装置1は、制御・解析ユニット10と、刺激ユニット11と、測定ユニット12とを備える。装置1の動作中、制御・解析ユニット10は、とりわけ、刺激ユニット11の制御を行う。この目的のため、制御・解析ユニット10は、刺激ユニット11によって受信される制御信号21を生成する。特に複数の刺激要素を含むことができる刺激ユニット11は、制御信号21を使用して刺激22を生成し、刺激は、患者に適用される。刺激22は、機械的触覚刺激および/または熱的刺激とすることができ、機械的触覚刺激は特に、皮膚の上で印加される触覚、振動もしくは振動触覚刺激または固有感覚刺激とすることが可能である。刺激22は特に、患者によって意識的に知覚可能であり得る。刺激ユニット11、および、特にまた制御・解析ユニット10は、非侵襲性ユニットであり、すなわち装置1の動作中に患者の身体の外側に配置され、患者の身体に外科的に埋め込まれない。
【0013】
刺激22によって達成された刺激の効果が、測定ユニット12を用いてモニタリングされる。測定ユニット12は、患者において測定される1つまたは複数の測定信号23を記録し、必要に応じて測定信号23を電気信号24に変換し、電気信号24を制御・解析ユニット10に供給する。特に、刺激される対象領域、または対象領域に関連付けられる領域内の病的なニューロン活動を、測定ユニット12によって測定することができ、この領域のニューロン活動は対象領域のニューロン活動(たとえば、筋活動)に十分に密接な相互関係がある。制御・解析ユニット10は、信号24を処理し(たとえば信号24を増幅およびフィルタリングすることができる)、処理した信号24を解析する。制御・解析ユニット10は特に、この解析の結果を基準にして刺激ユニット11を制御する。制御・解析ユニット10は、たとえば、その作業を行うためのプロセッサ、たとえばマイクロコントローラを含むことができる。本明細書において説明されている、処理される刺激は、ソフトウェアコードとして、制御・解析ユニット10と関連付けられるメモリ内に記憶することができる。
【0014】
測定ユニット12は、特に、適切なデータ解析によって、一方における(タイミングに関して)厳密に周期的なパルス列と、他方における病的な振動性の活動の位相との間の位相ロック、すなわち、位相同期を明確に示すこと、および、(b)病的な振動性の活動の振幅の低減または増大を明確に示すことを可能にする信号を測定する1つまたは複数のセンサを含む。一実施形態において、測定ユニット12のセンサはさらに、(c)病的な振動性の活動の位相の、刺激によって誘発されるリセットを明確に示すことを可能にする。
【0015】
センサとしては、非侵襲性のセンサ、たとえば、連続的または間欠的に使用される脳波記録(EEG)電極、筋電図検査(EMG)電極または脳磁図(MEG)センサ(SQUID)を使用することができる。また、振戦を測定することによって、または、加速度計もしくはジャイロスコープによって動きを測定することによって、または、表皮抵抗の測定により自律神経系の活性化を測定することによって、ニューロン活動を間接的に判定することもできる。患者によってポータブルデバイス、たとえばスマートフォンに入力することができる精神状態値も、刺激の有効性をモニタリングするために使用することができる。
【0016】
代替的に、センサを患者の身体に埋め込むことができる。上皮質電極、たとえば局部電位(LFP)を測定するための脳深部電極、硬膜下または硬膜外の脳電極、皮下EEG電極、および、硬膜下または硬膜外の脊髄電極は、たとえば、侵襲性センサとして機能することができる。さらに、末梢神経に固定されることになる電極をセンサとして使用することができる。
【0017】
無論、装置1の個々の構成要素、特に、制御・解析ユニット10、刺激ユニット11、および/または測定ユニット12は、構造的に互いに分けるようにすることができる。したがって、装置1はシステムとして理解することもできる。
【0018】
装置1は、特に、神経系疾患または精神病、たとえば、パーキンソン病、本態性振戦、多発性硬化症に由来する振戦ならびにそれ以外の病的振戦、ジストニア、てんかん、鬱病、慢性疼痛症候群、運動機能障害、小脳疾患、強迫性障害、認知症、アルツハイマー病、トゥレット症候群、自閉症、脳卒中後の機能障害、痙性、耳鳴、睡眠障害、統合失調症、過敏性腸症候群、嗜癖障害、境界性パーソナリティ障害、注意力欠如症候群、注意欠陥多動性症候群、病的賭博、神経症、過食症、食欲不振、摂食障害、燃え尽き症候群、線維筋痛、偏頭痛、群発頭痛、一般的な頭痛、神経痛、運動失調、チック障害または高血圧、ならびに、ニューロンの同期が病的に高まることを特徴とするさらなる疾患を処置する目的に使用することができる。
【0019】
上に挙げた疾患は、特定の回路内に結合されている神経集合体の生体電気による伝達の障害に起因することがある。これに関連して、ニューロン集団は、病的なニューロン活動、および場合によってはニューロン活動に関連付けられる病的な結合性(網構造)を、絶え間なく発生させる。これに関連して、多数のニューロンが同期して活動電位を形成する、すなわち関与するニューロンが過度に同期して発火する。加えて、病的なニューロン集団は振動性のニューロン活動を有し、すなわちニューロンが律動的に発火するという事実がある。神経系疾患または精神病の場合、影響下にある神経集合体の病的な律動的活動の平均周波数は、およそ1〜30Hzの範囲内にあるが、この範囲外であることもある。しかしながら健康な人では、ニューロンの発火は質的に異なり、たとえば相関性がない。
【0020】
CR刺激中の装置1が
図1に示されている。患者の脳26または脊髄26内の少なくとも1つのニューロン集団27は、上述したように病的に同期した振動性のニューロン活動を有する。刺激ユニット11は、刺激22が受容器官によって受け取られ、そこから神経系を介して脳26および/または脊髄26内の病的に活性化されたニューロン集団27に送られるように、患者に刺激22を適用する。刺激22は、ニューロン集団27の病的に同期した活動が、刺激の結果として脱同期化されるように設計される。刺激によってニューロンの一致率の低下がもたらされる結果として、シナプス荷重が低下し、したがって病的に同期した活動を発生させる傾向から脱することができる。
【0021】
刺激ユニット11によって印加される機械的触覚および/または熱的刺激22は、皮膚の中または下に配置されている受容器官によって受け取られ、神経系に送られる。これらの受容器官は、たとえば、メルケル細胞、ルフィニ小体、マイスナー小体、および、特に触覚刺激22に対する受容器官として作用する毛包受容器を含む。振動刺激22は主に、固有受容感覚を対象とする。振動刺激22は、患者の皮膚内、筋肉内、皮下組織内および/または腱内に配置されている受容器官によって受け取ることができる。振動知覚および加速を伝達する、振動刺激22に対する受容器官の例として、ファーター・パチニ小体を挙げることができる。熱的刺激22は、皮膚の温度受容器によって受け取られる。それらの温度受容器は、温受容器(熱受容器、温知覚器または熱知覚器とも称される)および冷知覚器(冷受容器とも称される)である。冷知覚器は、人の皮膚内のより表層にあり、熱受容器はいくらかより低いところにある。
【0022】
脳または脊髄の特定の領域を直に刺激することは、これらの領域と、身体の体部位の関連性によって可能になる。神経経路および関連脳領域の体部位構造に起因して、体表の異なる点において印加される機械的触覚および/または熱的刺激によって、複数の異なるニューロンが刺激される。刺激要素を、たとえば、患者の足、下腿および上腿、または、手、前腕および上腕に取り付け、それによって、特定のニューロンを刺激することを可能にすることができる。
【0023】
刺激ユニット11は、したがって、印加される刺激22が神経系導体を介して脳26および/または脊髄26内にある複数の異なる対象領域に送られるという点において、脳26または脊髄26の複数の異なる領域を別個に刺激することができる。対象領域は、刺激中に異なる、かつ/または、時間オフセットされている可能性のある刺激22によって刺激することができる。
【0024】
CR刺激では、ニューロン集団27中の刺激されているニューロンのニューロン活動の位相のリセットを行う刺激22が、病的に同期した振動性のニューロン活動を有するニューロン集団27に適用される。刺激されたニューロンの位相は、リセットにより、その時点の位相値には関係なく特定の位相値、たとえば、0゜またはそれに近い位相値にセットされる(実際には特定の位相値に正確にセットすることは不可能である。しかしながら正確にセットすることは、CR刺激が成果を挙げるうえで必要ない)。したがって、病的なニューロン集団27のニューロン活動の位相が、直接的な刺激によってモニタリングされる。複数の異なる部位において病的なニューロン集団27を刺激することがさらに可能であるため、病的なニューロン集団27のニューロン活動の位相を、異なる時点において異なる刺激部位でリセットすることができる。結果として、そのニューロンが以前に同じ周波数および位相で同期しており、活性であった病的なニューロン集団27が、
図1に概略的に示されており、参照符号28、29、30および31によってマークされている複数のサブ集団に分割される(ここでは例として4つのサブ集団が示されている)。サブ集団28〜31のうちの1つの中で、ニューロンは、位相をリセットした後に依然として同期しており依然として同じ病的な周波数で発火するが、サブ集団28〜31の各々は、それらのニューロン活動に関連して、刺激によって強制された位相を有する。これは、個々のサブ集団28〜31のニューロン活動が、それらの位相がほぼ正弦曲線にリセットされた後も依然として同じ病的な周波数を有するが、位相が異なることを意味する。
【0025】
ニューロン間に病的な相互関係が存在することにより、刺激によって発生した少なくとも2つのサブ集団が存在する状態は安定的ではなく、ニューロン集団27全体としては、ニューロンが無相関に発火する完全な脱同期状態に急速に近づく。したがって、位相リセット刺激22を時間オフセットさせて(または位相シフトして)印加した直後には、望ましい状態、すなわち完全な脱同期は得られないが、通常では、病的な周波数の2〜3周期以内、場合によっては1周期未満の内に、そのような状態になる。
【0026】
刺激の有効性を説明するための1つの理論は、最終的に所望される脱同期化が、ニューロン間の相互関係が病的に高まることによってのみ可能にされるという事実に基づく。病的な同期の役割を担う自己組織化プロセスが利用される。これには、集団27全体が、異なる位相を有するサブ集団28〜31に分割された後に、脱同期化が行われるという効果もある。これとは対照的に、ニューロンの相互関係が病的に高まらなければ、脱同期化は行われない。
【0027】
さらに、障害のある神経回路網の結合性の再編成は、CR刺激によって達成することができ、それによって、長続きする治療効果をもたらすことができる。得られるシナプス的転換は、神経疾患または精神病の有効な治療において非常に重要である。
【0028】
以下において、このように非侵襲性CR刺激の理想的な刺激パラメータを決定するために、装置1を使用して実行される較正が説明される。
【0029】
一実施形態によれば、いわゆる引き込み試験が最初に実行される。この目的のために、制御・解析ユニット10は、刺激ユニット11が、ある経路に沿って患者の身体の表面の少なくとも一部を走査し、これを行う中で、刺激22を周期的に印加する、すなわち、周期的刺激22が固定ではなく、むしろ走査中に身体の表面にわたって「移動」するように、刺激ユニット11を制御する。制御・解析ユニット10は、刺激22の周期的印加に応答して記録される測定信号23を基準として、経路に沿って患者の身体の表面上の少なくとも2つの領域を選択し、刺激22の周期的印加と、刺激されているニューロンのニューロン活動との間の位相同期はそれぞれ、上記領域内で極大を有する。その後、CR刺激が少なくとも2つの選択領域において実行される。この目的のために、制御・解析ユニット10は、刺激ユニット11が、刺激されているニューロンのニューロン活動の位相リセットを行う少なくとも2つの選択領域において刺激22を印加するように、刺激ユニット11を制御する。少なくとも2つの入力において印加される刺激22は、互いに対して時間的にオフセットされる。
【0030】
上記の実施形態は、
図2の流れ図に要約される較正にさらなるステップが加えられるという点において、さらに発展させることができる。この目的のために、上述した引き込み試験が、第1のステップにおいて実行される。その後、第2のステップにおいて対試験が実行され、CR刺激のための1つまたは複数の活性な対を選択するために、2つの異なる部位において刺激が印加される。最後に、第3のステップにおいて、少なくとも2つの、一般的には3つ以上の異なる部位において刺激を印加することを可能にするグループ試験が実行される。
【0031】
装置1は、試験者とは無関係であり、自動的に実行され、電気生理学的根拠を有し、従来の較正と比較して大幅に低い刺激強度で間に合わせる刺激パラメータの較正を可能にする。ここで使用される位相引き込みは、非常に低い刺激強度において有効な動的プロセスである。より弱い刺激には、これらの刺激を使用して実行される較正がはるかにより正確であるという利点がある。この理由は、より弱い刺激は、より少ないニューロン、すなわち、その印加される刺激に理想的に適している(かつ、刺激強度が増大するときに、脳内の、一緒に刺激されるニューロン集団に隣接しない)ニューロンのみに達するため、解剖学的により選択的であることである。較正は、治療も実際に実行される刺激強度において実行される。より弱い刺激はさらに、患者、特に疼痛患者にとってよりストレスが少ない。たとえば、慢性疼痛症候群、たとえば、ズーデック症候群または神経痛を患う患者にとっては、より軽い接触または熱的刺激でさえも、すでに不快またはさらには苦痛として知覚され得る。
【0032】
さらに、装置1を使用して実行される較正は、従来の較正と比較してかなり速い。これによって、患者の疲労、および、データの、すなわち、結果の品質の関連する劣化が防止される。それによって、較正は患者にとってかなりより快適になり、不条理なコンプライアンス(患者の協力)が一切必要なく、実際に使用するのが容易になる。
【0033】
要約すると、装置1は、(i)治療を効果的に実行すること、(ii)副作用を避けること、および(iii)パラメータ設定を行うための試験が、患者にとって可能な限り短く、実際的に、我慢できるように行われるようにすることを可能にする。
【0034】
刺激パラメータの較正のために実行されるべき個々のステップを、以下においてより詳細に説明する。これは、
図3に概略的に示す刺激ユニット11の実施形態を使用して行われる。刺激ユニット11はここでは、刺激要素35のアレイを備える。刺激要素35の各々は、機械的触覚および/または熱的刺激を生成することができる。本実施形態における刺激要素35は、刺激のために患者の身体部分、たとえば、腕に固定することができるカフ36の構成要素である。
図3において、lおよびmは刺激要素35のアレイの行または列を表し、l=1,...,Lであり、m=1,...,Mである。その結果として、アレイは、合計でL×M個の刺激要素35を備える。刺激要素35の各々は、制御・解析ユニット10によって個々に制御することができる。
【0035】
刺激要素35のアレイを有するカフ36は、刺激を周期的に印加することを可能にし、刺激が印加される時点は、連続的に変化し得る。このように、再導入されるニューロン活動を解析することによって、治療的マルチチャネル刺激にとって適切な領域およびこれらの領域の間の距離を決定することができるように、身体の表面のより大きい部分を走査することができる。
【0036】
原則的に、当然ながら対応するアクチュエータも、この目的のために身体の表面にわたってスライドし得る。しかしながら、たとえば、カフ36によって患者の身体に刺激要素35のより大きいアレイを固定し、刺激要素35の活性化されるグループを一時的に変更することは、より単純である。刺激要素35は、たとえば、刺激要素35の活性化が、たとえば、カフ36に沿って移動するように、制御・解析ユニット10によって制御することができる。
【0037】
例として、3×3グループの刺激要素35の移動する活性化が、
図3に示されている。網掛けによって強調されている、上から2番目〜上から4番目のライン内の刺激要素35は言わば、それに沿って刺激要素35の活性化が移動する経路を形成する。移動の方向は、矢印によって示されている。特定の時点において活性化される刺激要素35が3×3グループを形成し、黒色で示されている。活性化グループは、その活性化グループに包含される刺激要素35によって刺激される、患者の身体の表面上の領域に対応する。本実施形態においては、少なくとも部分的に3×3形状の活性化グループ内に配置されている刺激要素35のみが、刺激を生成する。すべての他の刺激要素35、すなわち、完全に3×3形状の活性化グループ外に配置されている刺激要素は、刺激を一切生成しない。活性化グループがカフ36にわたって移動すると、機械的触覚および/または熱的刺激が生成される領域が、対応して患者の身体の表面にわたって移動する。
【0038】
移動している3×3活性化グループの前面の位置を、X
Fによって示す。前面、したがって合計3×3個の活性化は、たとえば、カフ36の左端からカフ36の右端まで、一定の速度で移動することができる。前面は、
図3においてはx
kにある。以下において、本発明を、振動触覚刺激要素36を有する実装態様を参照して説明する。この場合、各刺激要素35は、身体の表面に取り付けられ、身体の表面に圧入し、それによって所望の刺激を生成するために、その休止位置から偏向することができる、それぞれのアクチュエータである。
【0039】
時刻tにおいて振動触覚刺激に使用される刺激要素35の、すなわち、アクチュエータの振幅は、A
l,m(t)によって示される。したがって、刺激要素35の振動の振幅は、上から2番目〜上から4番目のライン内のk番目の列、すなわち、x
kにおいて、以下のように示される。
【0040】
X
F(t)≦x
k−1について、A
l,k(t)=0
x
k−1<X
F(t)≦x
kについて、
【数1】
x
k≦X
F(t)≦x
k+3について、A
l,k(t)=A
max
x
k+3<X
F(t)<x
k+4について、
【数2】
X
F(t)≧x
k+4について、A
l,k(t)=0
式中、l=2,3,4。
【0041】
図4において、刺激要素35の3×3グループの活性化はすでに、
図3と比較して右にさらに半段階だけ移動している。移動している活性化の3つから成る、右および左の垂直グループの振動振幅は、補間に起因して最大値にない(濃灰色で示す)。
【0042】
ここで、使用される線形補間方法に加えて、非線形補間方法を使用することもできる。前面X
F(t)の代わりに、たとえば、グループ活性化の焦点の位置を同様に観測することもでき、
図3においては、中心はx
k−1にある。
【0043】
活性化前面X
F(t)が、カフ36に沿って左から右へと、たとえば、手首から肘へと一定の速度で低速で移動する間、周期的刺激系列P(t)が印加される。周期的系列P(t)は、
図5に概略的に示されている。この系列は、一般的に、とりわけアクチュエータの慣性に起因して、より平滑で、矩形でない系列である。特定のアクチュエータの振動振幅の時間的パターンを決定するために、大域的な周期系列P(t)と、局所的な振幅A
l,m(t)との積、すなわち、P(t)A
l,m(t)が計算される。その結果として、特定のアクチュエータの合計の振動はP(t)A
l,m(t)V(t)であり、V(t)は、たとえば、例として250Hzの周波数にある正弦波振動または矩形波振動である、高周波振動である。V(t)はまた、0.25〜50Hzの範囲内の低周波正弦波振動または矩形波振動でもあり得る。さらなる実施形態において、アクチュエータ(または振動器)はまた、P(t)によってトリガされて、このように偏向されるアクチュエータがゼロラインの周囲で振動せず、むしろ偏向P
0の周囲で振動するように、皮膚に圧入し得る。この場合、合計振動信号は、たとえば、P(t)[A
l,m(t)V(t)+P
0]として示される。
【0044】
その結果として、A
l,m(t)は、(それぞれのl、mによって)所与の時点tにおける各アクチュエータの振幅を示す。A
l,m(t)はさらに、例として
図3に示されているアクチュエータの活性化グループがそれぞれの時点tにおいて位置する部位を示す。
【0045】
P(t)は、周期的パルス系列を含む。パルスは、刺激が印加される時間の周期を決定する。P(t)がゼロに等しいパルスの間の時間の周期中、刺激は印加されない。
図5が示すように、周期系列P(t)は周期T
stimを有する。刺激周波数f
stim=1/T
stimは一般的に0.25〜30Hzの範囲内である。パルスの期間D
stim、すなわち、刺激間隔の期間は、10〜1000msの範囲内にあり得る。周期系列P(t)のパルスは特に、同一であり得る。
【0046】
病的な振動の平均周期に近い周期T
stimが選択される。刺激周波数f
stim=1/T
stimは、(CR刺激を使用して脱同期化されるべきである病的な律動と一致する)それぞれの疾患について特徴付けられる病的な周波数帯域に関して当業者に知られている先行する知識に従って選択されるか、または、センサを介して脱同期化されるべき病的なニューロン活動の測定、および、当業者にとって一般的な病的な周波数帯の周波数ピークの決定によるフィードバックを用いて適合される。さらに、病的な振動の平均周期の文献値を使用することができ、刺激に使用される周期T
stimは、この文献値から、たとえば、最大±5%、±10%または±20%だけ異なり得る。
【0047】
図6は、振動V(t)の一例として、0.25〜300Hzの範囲内、特に、0.25〜50Hzまたは100〜300Hzの範囲内の周波数f
vib=1/T
vibの連続正弦波振動を示す。ここで、T
vibは振動刺激の周期期間である。振動刺激はまた、正弦波形状の代わりに、異なる形状、たとえば、矩形形状を有することもできる。振動V(t)を生成するためのそれぞれの刺激要素35の偏向l
maxは、0.1〜0.5mmまたは5mmまでの範囲内にあり得る。300Hzの周波数f
vibにおいて、刺激要素35は、たとえば、約2Nの力を患者の身体の表面に対して与えることができる。
【0048】
刺激要素35によって熱的刺激が印加されるべきである場合、各刺激要素35は、患者の身体の表面上で、または、下層にある領域内で所定の温度T
tempを生成することができるように構成することができる。温度T
tempは、熱的刺激が印加されていない標的領域に存在する温度T
0を上回るか、または、下回り、すなわち、標的領域は、加熱または冷却され得る。温度T
tempは、たとえば、22〜42℃の範囲内にあり得る。温度T
0は、原則的に患者の体温である。一実施形態において、刺激要素35は、特に一般的なレーザによって供給される光導波路の出力である。レーザ光は、熱的刺激の所望の印加が達成されるように、適切な制御装置を使用して、光導波路にわたって分散することができる。
【0049】
刺激要素35の合計の熱的信号はP(t)H
l,m(t)から計算され、P(t)は
図5に関連して上記で説明したような周期的パルス系列であり、H
l,m(t)はA
l,m(t)と同様に形成され、任意の所与の時点tにおいて(それぞれのl、mにある)各刺激要素35によって生成される温度を示す。この部位は、特に、刺激要素35の活性化グループがそれぞれの時点tにおいて位置するH
l,m(t)によって示される。
【0050】
刺激要素35の活性化が、たとえば、ある経路に沿ってカフ36にわたって左から右へと移動する間、P(t)と病的な律動的ニューロン活動との間のスライディングウィンドウにおいて、位相引き込みが計算される。これに関連して、P(t)と、刺激されているニューロンの病的な律動的ニューロン活動との間の位相同期がそれぞれ極大を有する、経路に沿った患者の身体の表面上の領域が識別される。ウィンドウ長さは、病的なニューロン律動、少なくとも10、より良好には50、またはさらには100の平均周期に対応するように選択されるべきである。活性化前面X
F(t)の移動速度はこの結果としてもたらされる。ウィンドウ長さが増加すると、空間分解能が増加するが、試験時間も増加する。最初により小さいウィンドウ長さで大きい身体領域を走査して、良好な位相引き込みで身体点を大まかに検出し、その後、これらの特別な身体点のみをより大きいウィンドウ長さで詳細に走査する多段階手順も、実際に有効であると証明されている。
【0051】
刺激要素35の活性化グループの開始点は、
図3および
図4の例においてはカフ36の左余白であり、活性化がカバーする経路は異なる形状をとることができ、異なる様式で選択することができる。活性化グループの形状、すなわち、
図3および
図4の例における3×3グループは、予め規定することができ、または、ユーザ、すなわち、医師、訓練を受けた医療関係者または患者によって、たとえば、対応するスイッチを介して設定することができる。たとえば、カフ36内の圧力スイッチを、各刺激要素35または刺激要素35のより小さいグループと関連付けることができ、または、ユーザが、タブレット、たとえば、iPad(登録商標)などを介して活性化グループの形状を設定することができる。
【0052】
図7は、活性化グループの開始構成が設定されるタブレット37,たとえば、iPad(登録商標)を概略的に示す。この目的のために、対応するグループが、たとえば、タッチスクリーンによって、タブレット37上でマークされる。関連する刺激要素35を、任意選択的にこれによって活性化することができ、それによって、ユーザは、たとえば、患者のフィードバック(「どこで活性化を感じられますか?」)、または、カフ36上の対応する刺激要素35に属するLEDの点滅(この試験位相の間のみ発生する)からどこで活性化が行われているかを知ることができる。タブレット37は好ましくは、ケーブルなしにカフ36に接続される。上記カフは電池に接続されており、任意選択的に、患者の制御ユニットにも接続されている。制御ユニットは、患者が、タブレット37を別個に使用する必要なしに、カフ36を単純に操作することを可能にする。電池および制御ユニットはまた、構造的態様から、カフ36と組み合わせることもできる。
【0053】
活性化グループの形状は、一実施形態によれば、低速で変化され得る。活性化グループの形状は、たとえば、焦点から開始して、活性化グループが中心においてz%だけ伸張するという点において、低速で変化され得、zは開始値(100%)から最大値、たとえば、z=10における110%まで低速で変化される。活性化前面の位置の変化と同様に、伸張zの値がこの場合、活性化前面の位置の代わりに位相引き込み解析に使用される。このように、活性化グループの構成は、患者の個々の生体構造および生理機能、特に受容野のサイズに自動的に適合することができ、したがって、最適化することができる。
【0054】
活性化グループの経路は、予め規定することができ、もしくは、ランダムに選択することができ、または、ユーザによって、たとえばカフ36内の圧力ボタンによって、もしくは、タブレット37を用いて設定することができる。ユーザは、たとえば、この目的のために、タブレット37上で、複数の解剖学的または生理学的に好ましい標的位置を予め規定することができる。活性化グループはその後、これらの部位によって予め規定され、慣習の補間方法によって決定されるルートにわたって移動する。
【0055】
患者の治療のために意図されている刺激が印加される部位または領域の選択は、引き込み試験を用いて行われる。引き込み試験には、はるかにより迅速で、より感知力が高いという、他の試験に勝る利点がある。加えて、刺激されるニューロン集団がより小さいため、この引き込み試験における低い刺激レベルは、解剖学的精度をより高くすることを可能にする。これに関連して、サブ集団は可能な限り別個の、さらに理想的な場合には分離した個々の刺激チャネルを介して刺激されることになるため、これは、CR刺激の較正にとって重要である。
【0056】
引き込み試験は、周期的刺激と、病的に同期した振動性のニューロン集団のニューロン律動との間の位相同期の特性の決定に基づく。例として
図5に示す周期系列P(t)は、時刻τ
1、τ
2、...、τ
Kにおいて刺激を印加し、Kは刺激の数である。順序は周期的であるため、刺激周期T
stimは一定であり、すなわち、T
stim=τ
j+1−τ
jが、すべてのj=1,...,K−1に当てはまる。関連する刺激周波数、すなわち、繰り返し率は、f
stim=1/T
stimである。
【0057】
周期的刺激系列P(t)の位相はφ
1(t)=2π(t−τ
1)/T
stimである(たとえば、非特許文献1を参照されたい)。このように選択されている位相は、最初の刺激が印加されるときに消滅する、すなわち、φ
1(t)=0である。
【0058】
代替的に、位相シフトはまた、結果において何も変化させず、また、いかなる利点ももたらさない「内蔵式(built in)」であってもよい。位相シフトは、異なる開始時刻が選択される、すなわち、φ
1(t)=2π(t−ξ)/T
stim、ここでξ≠τ
1かつξ=定数、という点において、または、位相シフトθがそれに明示的に加わる、すなわち、φ
1(t)=2π(t−τ
1)/T
stim+θ、c=定数、という点において、「内蔵式」であり得る。周期T
stimは、時間的に低速で変化する、時間の関数でもあり得る、すなわち、T
stim=χ(t)。周期T
stimは特に、決定論的もしくは統計的に、または、決定論的と統計的との混合様式で、時間的に低速で変化し得、刺激周波数f
stimの変化は、試験されるべき振動の時間スケールと比較して、少なくとも1桁遅い。
【0059】
試験されるべきニューロン律動の位相φ
2(t)は、測定信号23から決定され、特に、バンドパスフィルタリングまたは経験的モード分解によって決定され、病的な振動性の活動を表す信号からヒルベルト変換によって決定される。経験的モード分解は、バンドパスフィルタリングとは対照的に、種々の周波数範囲における生理学的に関連するモードを、パラメータとは無関係に決定することを可能にする(非特許文献2を参照されたい)。経験的モード分解と、後続するヒルベルト変換との組み合わせは、ヒルベルト−ファン変換と称される(非特許文献3参照)。試験されるべきニューロン律動の位相φ
2(t)はまた、ウェーブレット解析によって決定することもできる。試験されるべきニューロン振動の瞬時(時間依存)位相φ
2(t)に加えて、その瞬時(時間依存)振幅が、このように付加的に得られる。
【0060】
刺激とニューロン律動との間の位相同期の度合いを決定するために、刺激とニューロン律動との間のn:m位相差、すなわち、ψ
n,m(t)=nφ
1(t)−mφ
2(t)に着目し、ここでnおよびmは小さい整数である。このように、刺激とニューロン律動との間の位相同期を、異なる周波数帯域において試験することができる。すなわち、ニューロン律動に対する刺激の効果を試験するために、刺激周波数と同じ周波数範囲内にある律動(n=m=1)にとらわれる必要はない。2πを法とするn:m位相差は、Φ
n,m(t)=[nφ
1(t)−mφ
2(t)]
mod2πである。
【0061】
とりわけ、サンプリングレートから決定される、2πを法とするn:m位相差は、時刻t
1、t
2、...、t
Nにおいて決定される。したがって、
【数3】
として示されるものの関連性分布Φ
n,mが得られ、この分布は、Φ
n,mのすべての測定値を含むことができ(a=t
1、b=t
N)、または、たとえば、解析からの過渡効果を除外するために、サブグループのみを含むことができる(a>t
1かつ/またはb<t
N)。この目的のために、たとえば最初に約10個の刺激が解析から得られる。
【0062】
n:m位相同期がない場合、2πを法とするn:m位相差の分布は、均等な分布である(またはそれに十分に近くなる)。これとは対照的に、n:m位相同期は、Φ
n,m(t)の1つまたは複数の集積点の発生を特徴とする(非特許文献4、非特許文献1を参照されたい)。
【0063】
n:m位相同期の発生は、種々の変数によって決定することができる。例を以下に示す。
【0064】
(i)Φ
n,mの分布が(単一の)集積値を有しない場合、この分布の循環平均値を、以下のように計算することができる。
【数4】
式中、0≦S
n,m≦1であり、均等な分布結果は、S
n,m=0をもたらし、一方で、完全な位相同期は、S
n,m=1によって特徴付けられる(非特許文献1を参照されたい)。この同期指数の欠点は、分布
【数5】
が2つ以上の集積値を有する場合に、妥当な結果を一切伝達しないことである。たとえば、2つの位相外集積値を有する場合、ゼロに近いS
n,mの値がもたらされる。
【0065】
(ii)それゆえ、集積値の数とは無関係に信頼できる結果を伝達する同期指数が付加的に(またはそれだけが)計算されるべきである。この目的のためにカイパー検定、コルモゴロフ−スミルノフ検定の循環変数(非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7を参照されたい)が使用されて、分布
【数6】
が均等分布である確率が決定される。次いで、P値が得られる。P値は、帰無仮説(zero hypothesis)(観察される分布
【数7】
が均等分布である)を却下することができる最小レベルの有意性である。
【数8】
が均等分布である場合、P=1になる。対照的に、
【数9】
が単一のかなり顕著な集積値を有する場合、0に近いP値が得られる。
【0066】
(iii)さらなる可能性として、分布
【数10】
のシャノンエントロピーに基づくn:m同期指数ρ
n,mがある。
【数11】
が、分布
【数12】
の推定値p
kから得られ、
【数13】
である。最大エントロピーは、S
max=lnLである。ここで、Lはビンの数であり、p
kは相対周波数であり、この相対周波数において、Φ
n,mがk番目のビン内にあることがわかる(非特許文献8参照)。正規化によって、0≦ρ
n,m≦1が適用される。均等分布の場合、すなわち、n:m位相同期が完全に存在しない場合、ρ
n,m=0が得られるのに対して、完全なn:m位相同期ではディラックの超関数(Dirac-like distribution)のようになる(すなわち、Φ
n,mのすべての値が同じビン内にある)ため、ρ
n,m=1になる。(ii)の下でリストされている、カイパー検定に基づくn:m同期指数と比較して、シャノンのエントロピーに基づくn:m同期指数ρ
n,mには、分布の集積値がより顕著な場合に、当該同期指数の値が集積値の正確な位置に依存するため、人工的な振動は[0,2π]区間における集積値の循環シフトをもたらすという欠点がある(非特許文献7を参照されたい)。
【0067】
ニューロン律動の位相φ
2(t)に対する、したがってn:m位相差Φ
n,mに対する、刺激による誘発効果に加えて、ニューロン律動の振幅A(t)に対する刺激による誘発効果をも検査する。nおよびmは、刺激周波数f
stimと主要スペクトル周波数ピークとの比からもたらされる。しかしながら、解析は、標準として、nおよびm(各事例において、小さい整数、たとえば、n,m=1,2,3)の何らかの2、3の対、たとえば、(n,m)=(1,1)=(1,2)=(2,1)=(2,3)=(3,2)=...についても実行され得る。これは、刺激がn:m比において周期的なニューロン律動をもたらすか否かという問いに留まらず、刺激が、ニューロン律動の根底にある同期の度合いをも変化させるか否かという問いでもある。刺激されているニューロン集団内の同期の増大は、振幅A(t)の増加をもたらす。逆に、ニューロン律動の根底にあるニューロン集団内の同期の低減は、振幅A(t)の低減をもたらす。したがって、比較区間(たとえば、刺激を適用する前)内の測定が、振幅効果の評価のために実行されなければならない。代替的に、振幅効果は、パワースペクトル密度、疾患に一般的で、当業者に知られている所定の周波数帯域、もしくは、データから抽出される1つもしくは複数の経験的モードの解析によって、または、ウェーブレット解析によって決定することもできる。
【0068】
周期的刺激系列によって誘発される位相効果または振幅効果の重大性を判定するために、試験されるべき振動の平均周期の10倍〜1000倍に対応する長さを有する時間窓F
preにおいて、刺激前ベースラインを決定することができる。
【0069】
ニューロン律動の振幅A(t)のベースライン決定のために、この分布の99パーセンタイルまたは単純に最大値が、たとえば、時間窓F
preにおいてA(t)のベースライン値として利用される。アーティファクトに起因して信号が最良の品質のものでない場合、たとえば、アーティファクト除去が上流でEEG信号と接続されていないため、より低いパーセンタイルもベースラインとして選択され得る(アーティファクトが大きい振幅値を含む可能性がある場合)。そのような手順は当業者に知られている。
【0070】
n:m位相同期のベースラインは、たとえば、言わば疑似刺激が時間窓F
preにおいて実行されるという点において決定することができる。すなわち、n:m位相同期は、刺激が行われない時間窓F
pre内の仮想周期刺激系列によって実行される。この決定のもう1つの可能性h、たとえば、刺激を受けて導出される現実の信号を、代理データと置き換え、その後、この目的のためにn:m位相同期を決定することである。そのような手順は当業者に知られている。
【0071】
活性化グループ、すなわち、刺激の周期的印加と刺激されているニューロンのニューロン活動との間の位相同期が十分に高いかまたは極大を有する、患者の身体の表面上の領域が、引き込み試験において決定されると、CR刺激に有効な対を選択するために、患者の身体の表面上の2つの異なる領域において位相リセット刺激が印加される、対試験が実行される。対試験は、位相リセット解析によって事前に先行して決定されている理想的な個々の刺激を用いずに、引き込み試験の直後に実行される。
【0072】
図8は、対試験を概略的に示す。引き込み試験によって予め選考して選択されている、活性化グループ、すなわち、患者の身体の表面上の領域が、ここで、患者の身体の表面上のそれぞれの領域において機械的触覚および/または熱的刺激40を印加するために使用される。体部位の関連性に起因して、選択領域において印加される刺激40は、ニューロン集団の、病的に同期した振動性の活動を有するそれぞれのサブ集団を刺激する。刺激40は、それぞれ刺激されているサブ集団の病的に同期した振動性のニューロン活動の位相をリセットするように構成されている。引き込み試験の結果として3つ以上の活性化グループが選択された場合、対試験は好ましくは、それぞれの隣接する活性化グループを使用して実行される。
【0073】
2つの活性化グループ1および2の各々の中の刺激要素35は、周期T
stimを有する系列において周期的に位相リセット刺激40を生成する。本事例において、各系列は3つの刺激40を含むが、系列はまた、さらなる刺激40を含んでもよい。各系列後に所定の休止が観察され、その後、系列は繰り返される。免除することもできる休止は、特に、周期T
stimの整数倍になり得る。異なる活性化グループの系列間の時間遅延はT
stim/2であり、すなわち、活性化グループ2の刺激は、活性化グループ1の刺激に対してT
stim/2だけ時間的にオフセットされ、それによって、それぞれのサブ集団の刺激もしくは同様に、時間オフセットして行われる。刺激されているサブ集団の位相は、この時間オフセットに起因して異なる時点においてリセットされる。時間オフセットを除けば、活性化グループ1および2によって実行される刺激は、たとえば、同一であり得る。
【0074】
活性化グループのそれぞれの対によって有効な刺激を行うことができるか否かは、測定ユニット12によって測定される病的な振動の振幅A(t)によって決定される。病的な振動の振幅増大A(t)が発生しない(すなわち、信号を生成する病的に同期したニューロン集団の同期の増幅がない)とき、または、さらには、わずかな低減(弱い脱同期化に対応する)が発生するとき、対刺激は成功したと考えられる。すなわち、ニューロン律動の振幅A(t)は、ベースライン時間窓F
preと比較して増大しないものであり得る。むしろ、振幅A(t)は、ベースライン時間窓F
preと比較して降下または少なくとも変化しないままとなる。対刺激の下で記録される振幅A(t)の値は、たとえば、ベースライン時間窓F
pre内の振幅A(t)の分布のパーセンタイルと関連付けることができる。または、対応する関係を計算することができる。
【0075】
対試験は、選択されている活性化グループから形成することができるすべての可能な対について実行される。または、たとえば、例として腹部の上のベルトに沿ってまたは方の方向において指から前進しての選択的な軸に沿ってより迅速であるため、第1の活性化グループから、次に適切な次の活性化グループへと、この次のグループからその次のグループなどへと実行される。これによって時間が節約される。3、4、5、6、...、10個の活性化グループを含む3つ、4つ、5つ、6つ(など、たとえば、10まで)の最良のグループ、すなわち、患者の身体の表面上の領域は、たとえば、すべての対を比較したマトリックスから抽出することもできる。たとえば、病的なニューロン同期を増幅する不適切な活性化グループ対が、より適切な対と置き換えられる。
【0076】
このように決定されるグループは、グループ試験においてそれらの有効性に関して試験される。例として、4つの活性化グループを含むグループの例示的なグループ試験が、
図9に示されている。それぞれの刺激要素35を備える各活性化グループは、対試験と正確に同じように、患者の身体の表面上のそれぞれの領域において位相リセット刺激40の系列を印加する。位相リセット刺激40は、周期T
stimで、系列内で周期的に印加される。本実施例において、各系列は3つの刺激40を含むが、系列はまた、より多くの刺激40を含んでもよい。各系列後に特定の休止が観察され、その後、系列は繰り返される。休止は代替的に、免除することもできる。グループ試験において4つの活性化グループが試験されるため、隣接する活性化グループの系列間の時間遅延は、さらにT
stim/4になる。活性化グループがN個の一般的な事例について、隣接するチャネルの時間遅延はT
stim/Nになる。さらに、活性化グループが刺激40を生成する順序が変更されることが可能である。さらに、N個の活性化グループによって生成される刺激40は、たとえば、同一であり得る。
【0077】
制御・解析ユニット10は、刺激されているニューロンの病的に同期した振動性のニューロン活動が、活性化グループのうちの選択されるグループにわたる刺激40の印加を受けて抑制されるか否か、および、特に、脱同期化されるか否かをチェックする。上述したように決定されるグループに対するCR刺激の有効性が、対試験におけるものとして記述した振幅基準を使用して、および/または、臨床決定によって、たとえば、臨床スコアもしくは経験を積んだ医師もしくは他のセラピストによる単純な臨床観察によって決定される。選択されているグループのいずれも有効でない場合、対マトリックスを使用して新たなグループが局在化されなければならず、または、対マトリックス全体が判定されなければならない。
【0078】
一実施形態によれば、対試験は免除され、引き込み試験の直後にグループ試験が実行される。引き込み試験の過程で選択されているすべての活性化グループ、たとえば、4つの活性化グループが、CR刺激を適用するために使用される。刺激の有効性は、特に、しきい値の比較によってチェックすることができる。刺激の有効性を判定する目的にどの信号が使用されるかに応じて、しきい値の比較の結果が異なる。たとえばニューロンの病的な同期を測定ユニット12のセンサ、たとえばEEG電極または深部電極を介して(LFP信号として)測定する場合、経験によると、刺激なしの状況と比較して同期がたとえば少なくとも20%低下するならば、刺激の有効性が十分であると判定するうえで十分である。一実施形態によると、刺激40を印加することによってニューロンの病的な同期が少なくとも事前定義された値だけ低下しない場合、刺激の有効性が不十分であると判定することができる。刺激の有効性を判定する目的に患者の症状を使用する場合、臨床的に有意な改善とみなされる症状の低減の程度は、使用する臨床パラメータの種類によって異なる。このような低減の値(たとえばいわゆる臨床的に認められる最小限の改善の意味での値)は、当業者には知られている。
【0079】
別の実施形態において、適切な(開始)活性化グループから開始して、これは、例として
図10における活性化グループ1であり、例として
図10における活性化グループ2であり、導入されて、開始活性化グループ(
図10にあるような)から離れて、またはそれ(図示せず)に向けて低速で移動される。
図8に示す刺激は、それぞれの時点において活性化グループ1および2によってカバーされる患者の身体の表面上の領域が刺激される合間に実行される。移動の経路は、これに関連して、予め規定することができ、または、ユーザによって上記で説明したように設定することができる。活性化グループ2の開始点は、活性化グループ1に近くなり得、または、活性化グループ1の開始点と一致し得る。両方の活性化グループの適切な距離は、良好な刺激効果によって認識される(電気生理学的には良好な脱同期化、または、臨床的には良好な症状低減)。これに達すると直ちに、後続の治療的刺激のために十分に多数の活性化グループを利用することを可能にするために、間隔はさらに増大されるべきではない。
【0080】
ここで、この方法においては原則として2つの経路が反復的にとられ得る。第1の可能性は、活性化グループのさらなる適切な対の対試験である。すなわち、
図11に示すように、ちょうど決定した活性化グループ2が新たな活性化グループになり、さらなる活性化グループ、すなわち、活性化グループ3が加わる。活性化グループ3は、開始活性化グループ2から離れて、または、開始活性化グループ2に向けて低速で移動され、測定ユニット12によって記録される測定信号23に基づいて、良好な刺激効果が達成されること、すなわち、たとえば、測定ユニットを用いて観察される良好な脱同期化が存在することが見出されるまで、
図8に示す刺激が活性化グループ2および3によって実行される(N=2)。活性化グループ3の開始点は、活性化グループ2に近くなり得、または、活性化グループ3の開始点と一致し得る。最後に、活性化グループのすべての適切な対の決定に成功した場合、
図9に示すように、すべてのこれらの活性化グループならびに活性化グループのサブグループを使用して、CR刺激が実行される。最良の結果を伝達するグループまたはサブグループが、以下の治療的刺激のために選択される。
【0081】
これは、実際の適用について、活性化グループの数が繰り返し拡大される場合に、より迅速になる。
図10の例においては、適切であると決定されている2つの活性化グループ1および2が設定されている。
図12に例として示すように、活性化グループ3が加えられ、所定の経路に沿った、または、ユーザによって選択される経路に沿ったその間隔が変化する。活性化グループ3は、開始活性化グループ2から離れて、または、開始活性化グループ3に向けて低速で移動され、測定ユニット12によって記録される測定信号23に基づいて、良好な刺激効果が達成されること、すなわち、たとえば、測定ユニット12を用いて観察される良好な脱同期化が存在することが見出されるまで、
図9に示す刺激が活性化グループ2および3によって合間に実行される(3つの活性化グループによって刺激が実施されるため、N=3)。活性化グループ3の開始点は、活性化グループ2に近くなり得、または、活性化グループ3の開始点と一致し得る。
図11に示す対試験とは対照的に、先行して決定されているすべての活性化グループは、
図12に示す実施形態では保持されている。カフ36によってカバーされる合計の身体部分は最終的に、このように活性化グループによってカバーされる。これによって得られる構成は、後続の治療的刺激に使用される。
【0082】
図8〜
図12による実施形態において印加される刺激40がニューロン活動の位相をリセットするか否かをチェックするための異なる解析方法が、当業者に知られている。同期したニューロン活動の位相リセットの解析は一般的に、同一の刺激の集合によって行われる。位相リセットを解析するための、当業者に知られている可能性は、非特許文献9に記載されているような位相リセット解析を含む。位相リセット指数が、この目的のために決定される(式8、ν=1の刺激ロック指数を参照されたい)。これに関連して、位相リセットを計算するために使用される位相は、たとえば、ヒルベルト変換によって、バンドパスフィルタリングまたは経験的モード分解によって決定され、病的な振動性の活動を表す信号から決定される(経験的モード分解は、バンドパスフィルタリングと比較して、異なる周波数範囲において生理学的に関連するモードをパラメータとは無関係に決定することを可能にする。非特許文献2を参照されたい。経験的モード分解と、後続のヒルベルト変換との組み合わせは、ヒルベルト−ファン変換と称される(非特許文献3を参照されたい)。位相リセット指数が、位相リセット指数の刺激前分布の99パーセンタイルを超えるときに、位相リセットが達成される(非特許文献9の
図4を参照されたい)。より強い位相リセット効果が医学的に望ましい場合、たとえば、位相リセット指数の刺激前分布の99パーセンタイルの2倍〜3倍の、より高いしきい値を選択することもできる。
【0083】
このデータ解析に対して代替的に、実践においては十分な精度で位相リセットの検出を近似することが可能な、より単純なデータ解析プロセスを使用することもできる。たとえば、単純に刺激応答の集合によって平均化を行うことができる。その後、刺激応答の最大量が平均応答の刺激前分布の99パーセンタイル(またはその2倍もしくは3倍)を超えるときに、位相リセットがほぼ仮定される(非特許文献9の
図6を参照されたい)。
【0084】
図13は、機械的触覚および/または熱的CR刺激のEEGベースの較正のための装置50を概略的に示す。ケーブル53を介して接続されている非侵襲性固定EEG電極51、52が、測定ユニットとしての役割を果たし、ケーブル54を介して中央制御・解析ユニット10に渡されるEEG刺激応答を測定する。刺激要素35のアレイを有するカフ36が、面ファスナによって患者の前腕に固定される。上述した較正によって選択された活性化グループが、点によってマークされている。カフ36は、ケーブル55を介して、または、遠隔的に、電池または再充電可能電池を収容する制御・解析ユニット10に接続されている。遠隔接続の場合、カフ36も、電池または再充電可能電池を収容する。
【0085】
図14は
図13の装置50を示すが、ここでは、ベルトの形態のカフ36が、患者の腹部に固定されている。