(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記毛細管圧バリアは、前記マイクロ流体層の前記基材上において、前記オルガノイド区画の表面を少なくとも部分的に画定し、液体を前記第1の副容積に閉じこめるように構成されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
前記マイクロ流体ネットワークは、前記マイクロ流体層の前記基材上に配置され前記孔と向かい合って位置合わせされた第2の毛細管圧バリアを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
請求項1〜8のいずれか一項に記載のマイクロ流体細胞培養装置にゲル又はゲル前駆体の液滴を導入し、前記装置内に存在する毛細管圧バリアによって前記液滴を閉じこめさせる工程と、
前記ゲル又はゲル前駆体を硬化又はゲル化させて、硬化したゲルを形成する工程と、
キャリア流体における内皮細胞の懸濁液を前記マイクロ流体細胞培養装置のマイクロ流体チャンネル内に導入する工程であって、前記マイクロ流体チャンネルは、前記硬化したゲルと流体連通している工程と、
前記内皮細胞に、少なくとも前記マイクロ流体チャンネル内に少なくとも1つの微小血管を形成させる工程と、
1つ以上の細胞又は細胞集合体を前記硬化したゲルの上面に導入する工程と、
前記少なくとも1つの微小血管と前記1つ以上の細胞又は細胞集合体との間の指向性血管新生を可能にするか又は促進する工程と
を含む、細胞集合体の血管を生成する方法。
少なくとも前記マイクロ流体チャンネル内における前記少なくとも1つの微少血管の形成後、前記硬化したゲル上に1つ以上の血管新生化合物を加えて、前記硬化したゲル中への指向性血管新生を促進する工程
をさらに含む、請求項13に記載の方法。
前記1つ以上の細胞又は細胞集合体を導入する工程は、前記1つ以上の細胞又は細胞集合体に、前記硬化したゲルの上面を単層又は多層化組織として完全に覆わせる工程を含む、請求項13又は14に記載の方法。
さらなるゲル又はゲル前駆体は、第1の硬化したゲル及び前記1つ以上の細胞又は細胞集合体を包むように前記マイクロ流体細胞培養装置内に導入される、請求項13〜15のいずれか一項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0042】
細胞培養装置
細胞培養装置について記載する。細胞培養装置は、in−vitro細胞ベースアッセイ、薬品スクリーニングアッセイ、毒性アッセイなどにおける使用を可能にするために、マルチアレイ形式/マルチウェル形式、特にハイスループットスクリーニング形式であることが好ましい。このようなマルチウェル培養プレートは、長方形マトリックスに配置された6、12、24、48、96、384、及び1536個の試料ウェルで入手可能であり、本発明との関連では、本明細書に記載のマイクロ流体ネットワークのマルチアレイ構成が細胞培養装置に存在する。一例では、細胞培養装置は、標準のANSI/SLASマイクロタイタープレート形式の1つ以上の寸法に適合する。
したがって、細胞培養装置は、本明細書に記載されるマイクロ流体ネットワークを複数有することが好ましい。一例では、複数のマイクロ流体ネットワークは、(本明細書に記載されるような)マイクロ流体層を介して互いに流体接続される。別の例では、複数のマイクロ流体ネットワークは、互いに流体的に切断されており、換言すれば、各マイクロ流体ネットワークは、細胞培養装置上に存在する他のマイクロ流体ネットワークとは独立して動作する。
【0043】
一例では、細胞培養装置は、マイクロ流体ネットワークを含み、マイクロ流体ネットワークは、
基材、マイクロ流体チャンネル及びカバーを含むマイクロ流体層と、
カバーに設けられた孔を通ってマイクロ流体層内に延び、マイクロ流体チャンネルと流体連通するオルガノイド区画と、
孔と実質的に位置合わせされ、マイクロ流体ネットワークを、オルガノイド区画を含む第1の副容積と、マイクロ流体チャンネルの少なくとも一部を含む第2の副容積とに分割する毛細管圧バリアと
を含む。
【0044】
一例では、細胞培養装置は、灌流可能なマイクロ流体ネットワーク又は血管網を含むマイクロ流体細胞培養装置であり、血管網は、
入口及び出口を有するマイクロ流体チャンネル、
細胞外マトリックスゲルであって、血管が生成される少なくとも1つの細胞をその上面に受容するように配置された細胞外マトリックスゲル
を含み
マイクロ流体チャンネルは細胞外マトリックスゲルと流体連通し、マイクロ流体チャンネルの内面を内張りする内皮細胞の血管網を含む。
【0045】
一例では、細胞外マトリックスゲルは、細胞又は1つ以上の細胞集合体の懸濁液を受容するように配置される。
【0046】
一例では、細胞培養装置は、
入口及び出口を有するマイクロ流体チャンネル、
その上面に配設された生体組織を有する細胞外マトリックス
を含み、
マイクロ流体チャンネルは、マイクロ流体チャンネルの内面を内張りし、細胞外マトリックスを通って生体組織に延びる内皮細胞の血管網を含む
マイクロ流体細胞培養装置である。
【0047】
一例では、マイクロ流体チャンネルは、細胞外マトリックスと流体連通している。
【0048】
一般に、細胞培養装置は、少なくともマイクロ流体チャンネルを含むマイクロ流体細胞培養装置である。マイクロ流体チャンネル又はネットワークの異なる構成は本発明の範囲内で可能であるが、ゲル(例えば、細胞外マトリックス)を受容し閉じこめるために、例えば、マイクロ流体チャンネル内に、又はマイクロ流体チャンネルと流体連通する容積又は副容積を含み得る。
【0049】
細胞培養装置の一例のマイクロ流体ネットワーク又は各マイクロ流体ネットワークは、一般に、マイクロ流体層、オルガノイド区画及び毛細管圧バリアを含み、これらの各々を以下に詳細に記載する。
【0050】
マイクロ流体層
マイクロ流体ネットワークのマイクロ流体層は、基材と、マイクロ流体チャンネルと、本明細書中でカバー層とも呼ばれるカバーとを含み、様々な方法で製造することができる。
【0051】
典型的な製造方法は、ポリジメチルシロキサンなどの成形材料を成形型にキャストし、マイクロ流体チャンネルをシリコンゴム材料にインプリントすることである。チャンネルが埋設されたゴム材料は、続いて、ガラス又は同じ材料の基材層上に配置され、シールを形成する。或いは、チャンネル構造がガラス又はシリコンなどの材料にエッチングされ、その後、上部又は下部基板(本明細書では基材層及びカバー層とも呼ばれる)に接合され得る。プラスチックの射出成形又はエンボス加工の後に接合するのは、マイクロ流体チャンネルネットワークを製造するための別の方法である。マイクロ流体チャンネルネットワークを製造するためのさらに別の技術の使用は、SU−8又は様々な他のドライフィルム若しくは液体レジストなどのフォトパターニング可能なポリマーにマイクロ流体チャンネルネットワークをフォトリソグラフィーでパターニングし、続いて接合工程を行うことによる。接合と言う場合、それは、上部又は下部基板によるチャンネルの閉鎖を意味する。接合技術としては、陽極接合、溶剤接合、接着、及び熱接合が挙げられる。
【0052】
本明細書において基材層又は下部基板とも呼ばれる基材は、ガラスなどの剛性材料から形成されることが好ましく、マイクロ流体ネットワークの残りの部分のための支持面を提供する働きをする。一例では、基材は標準ANSI/SLASマイクロタイタープレートのウェル面積と同一又は類似の寸法である。
【0053】
上記の様々な製造方法から推測されるように、マイクロ流体層は基材層上に配設されたマイクロ流体チャンネルを含む副層を含むことができ、又はカバー層若しくは基材層のいずれかにパターン化される。使用時の方向で、マイクロ流体副層は基材層の上面に配設される。マイクロ流体チャンネルは、基材層上に配設された材料の副層を通るチャンネルとして形成され得る。一例では、副層の材料は基材層上に置かれたポリマーであり、その中にマイクロ流体チャンネルがパターンニングされる。いくつかの例では、マイクロ流体層は、オルガノイド区画を介して互いに流体連通していてもよい、2つ以上のマイクロ流体チャンネルを含む。
【0054】
マイクロ流体層は、マイクロ流体チャンネルを覆うカバー又はカバー層を含む。カバー又はカバー層は当該技術分野で知られている任意の好適な材料、例えば、マイクロ流体チャンネルを含む副層に接合されたガラス層から形成することができる。一例では、カバー層は所定の位置に予め形成された穴又は孔を備える。孔は、マイクロ流体層のマイクロ流体チャンネルとその上に配設されたマイクロ流体ネットワークの他の成分との間の流体連通を可能にする。
【0055】
マイクロ流体チャンネルは、細胞培養装置のマイクロ流体ネットワークの特定の使用で必要に応じて、1つ以上の入口、及び1つ以上の出口又は通気口を備え得る。マイクロ流体ネットワークを通じた流体の充填、排出、及び灌流を可能にするために、マイクロ流体チャンネルには、少なくとも1つの入口及び少なくとも1つの出口又は通気口が設けられていることが好ましい。一例では、少なくとも1つの入口及び少なくとも1つの出口又は通気口の各々は、カバー層の予め形成された孔として、又はそれと流体連通するように形成されていることが好ましい。
【0056】
オルガノイド区画
一実施形態では、細胞培養装置のマイクロ流体ネットワークは、カバーに設けられた孔を通ってマイクロ流体層内に延びる、マイクロ流体チャンネルと流体連通するオルガノイド区画を含む。オルガノイド区画は、マイクロ流体層に対して別個の層に少なくとも部分的に存在し得る。使用時の方向で、オルガノイド区画は、マイクロ流体層のカバー上に配設された別個の層、例えば、以下に記載されるような底のないウェルを含むユーザ界面層に少なくとも部分的に存在してもよい。
【0057】
オルガノイド区画は、マイクロ流体ネットワークの容積を含み、一部、流体の液滴を受容することができるキャビティ又はウェルと定義される。一例では、オルガノイド区画は、その上端に(使用時の方向を基準として)入口又は開口を備え、これを通じて、オルガノイド区画は流体を受容することができる。
【0058】
一例では、オルガノイド区画は、いくつかのマイクロタイタープレートで見られるタイプの底のないウェルを含み、そのウェルは使用時の方向で、カバーに設けられた孔まで下方に延びる側壁を有する。したがって、一例では、オルガノイド区画は、オルガノイド区画がカバーに設けられた孔を通ってマイクロ流体層内に延びるように、下方に延びる側壁を有するウェルを含む。
【0059】
一例では、ウェルは、カバー層の孔の延長部であっても、カバー層の上の専用ウェル構造であってもよい。典型的な実施形態では、ウェルは、例えば、四角形、長方形、又は円形の断面を有するマイクロタイタープレートの1つとして存在する。一例では、ウェルの内部断面寸法は、カバー層の孔の断面寸法に実質的に対応する。一例では、ウェルの下向きに延びる壁は、カバー層の孔と位置合わせされている。一例では、カバー層の孔はウェルの内部寸法よりも狭い。一例では、カバー層の孔はウェルの内部寸法よりも大きい。一例では、オルガノイド区画は、本明細書に記載するように、一部、孔で終端するウェルの下向きに延びる壁によって画定され、一部、孔と整列された毛細管圧の存在によって画定される。
【0060】
オルガノイド区画は、1マイクロリットルを超える、好ましくは5マイクロリットルを超える、より好ましくは10マイクロリットルを超える液滴を受容し保持するために、一定の最小容積を有することが好ましい。さらなる実施形態では、オルガノイド区画によって包含される容積は、例えば、追加の増殖培地、試薬、化合物、又は化学誘引物質をさらに保持し得るようにするために、導入すべき液体組成物の容積よりも大きい。そのため、一例では、オルガノイド区画は、10マイクロリットルを超える、好ましくは50マイクロリットルを超える、より一層好ましくは100マイクロリットルを超える容積を包含する。
【0061】
一例では、オルガノイド区画の下部は、マイクロ流体層内に存在し、マイクロ流体チャンネルと流体連通している。オルガノイド区画の下部は、少なくとも一部、毛細管圧バリアの存在によって画定され得る。毛細管圧バリアは、本明細書に記載するように、マイクロ流体チャンネルの内面に配設され得る。一例では、オルガノイド区画はマイクロ流体チャンネルの内面上の毛細管圧バリアを介してマイクロ流体チャンネルと交差する。一例では、オルガノイド区画は、一部、下方に延びる側壁を有するウェルによって画定され、一部、毛細管圧バリアによって一部画定されるマイクロ流体ネットワークの容積によって画定され、これについて以下に記載する。
【0062】
毛細管圧バリア
細胞培養装置のマイクロ流体ネットワークは、カバー層の孔と実質的に位置合わせされ、マイクロ流体ネットワークを、オルガノイド区画を含む第1の副容積と、マイクロ流体チャンネルの少なくとも一部を含む第2の副容積とに分割する毛細管圧バリアを含む。
【0063】
毛細管圧バリアの機能及びパターンニングは、例えば国際公開第2014/038943A1号パンフレットに既に記載されている。以下に記載される例示的な実施形態から明らかになるように、本明細書において液滴保持構造とも呼ばれる毛細管圧バリアは、例えば、1つ以上の細胞又は細胞集合体を含む液滴で充填され得る壁又はキャビティと理解されるべきではなく、そのような液滴が表面張力によって広がらないことを確実にする構造からなるか、又はそれを含む。この概念は、メニスカスピンニングと呼ばれる。したがって、細胞培養装置のオルガノイド区画への、1つ以上の細胞又は細胞集合体を含む液滴の安定な閉じこめを達成することができる。一例では、毛細管圧バリアが細胞培養装置の通常の使用中にオーバーフローしないように構成された閉じこめフェーズガイドと呼ぶことができる。液滴の閉じこめの性質は、本発明の方法の説明と関連して後述する。
【0064】
一例では、毛細管圧バリアは、マイクロ流体チャンネルの内面から突出する材料のリム若しくはリッジ、又はマイクロ流体チャンネルの内面の溝を含むか、又はそれからなる。リム又はリッジの側壁は、リム又はリッジの上部に対し、できるだけ大きいことが好ましい角度αを有し得る。良好なバリアを提供するためには、角度αは70°より大きく、典型的には、約90°でなければならない。リッジの側壁と、毛細管圧バリアが配置されているマイクロ流体チャンネルの内面との間の角度αについても同じことが言える。同様の要件は、溝として形成された毛細管圧バリアにも課される。
【0065】
毛細管圧バリアの代替形態は、毛細管力/表面張力による広がり止めとして作用する、マイクロ流体チャンネルの内面に対し異なる濡れ性を有する材料の領域である。結果的に、液体は毛細管圧バリアを越えて流れることが防止され、オルガノイド区画内に安定して閉じこめられた容積を形成することが可能になる。一例では、マイクロ流体チャンネルの内面は親水性材料を含み、毛細管圧バリアは疎水性材料又は親水性の低い材料の領域である。一例では、マイクロ流体チャンネルの内面は疎水性材料を含み、毛細管圧バリアは親水性又材料は疎水性の低い材料の領域である。
【0066】
したがって、本発明の特定の実施形態では、毛細管圧バリアは、リム若しくはリッジ、溝、穴、又は疎水性材料の線、或いはそれらの組合せから選択される。別の実施形態では、毛細管圧バリアは、選択された間隔を置いた柱によって作り出すことができ、その配置はゲルによって占められるべき第1の副容積又は面積を画定する。一例では、柱はマイクロ流体チャンネルの高さ全体に延びる。
【0067】
毛細管圧バリアはマイクロ流体ネットワーク内に流体の液滴の広がりを制限するために、カバー層の孔と実質的に位置合わせされる。一例では、毛細管圧バリアは、孔に実質的に隣接するカバー層の下側に配置される。一例では、毛細管圧バリアは、少なくとも一部、孔自体によって形成される。
【0068】
一例では、毛細管圧バリアは、カバーに設けられた孔に面するマイクロ流体チャンネルの内面に設けられる。より特定の実施形態では、毛細管圧バリアは、マイクロ流体層の基材上に、又は実質的に孔と向かい合う若しくは対向するマイクロ流体チャンネルの内面に存在する。一例では、毛細管圧バリアは、使用時の方向で、オルガノイド区画のウェルの下又はウェルの壁の下に位置する。一例では、毛細管圧バリアは、孔及び/又はオルガノイド区画のウェルと位置合わせされたマイクロ流体層の領域に流体の液滴を閉じこめるために、孔又はウェルに対して先に定義されたように存在する。
【0069】
一例では、毛細管圧バリアは、マイクロ流体層の基材上又はマイクロ流体チャンネルの基材上のオルガノイド区画の表面を少なくとも一部画定する。毛細管圧バリアは、オルガノイド区画を含む第1の副容積に流体を閉じこめるように構成されている。一例では、毛細管圧バリアは、閉じた幾何学的形状を含む。一例では、毛細管圧バリアは、カバー層の孔と同心である。
【0070】
一例では、毛細管圧バリアの周によって画定される径又は面積は、孔の周によって画定される径又は面積よりも大きく、換言すれば、毛細管圧バリアは、孔の周囲にあり、孔よりも大きい。別の例では、孔の周によって画定される径又は面積は、毛細管圧バリアの周によって画定される径又は面積よりも大きく、換言すれば、孔は毛細管圧バリアの周囲にあり、毛細管圧バリアよりも大きい。その形状にかかわらず、好ましい実施形態では、毛細管圧バリアは、オルガノイド区画のウェルに導入された1つ以上の細胞又は細胞集合体を含む液体又はゲル組成物の液滴の、オルガノイド区画の基材との接触エリアの輪郭を描く、すなわち、1つ以上の細胞又は細胞集合体を含む液滴の、オルガノイド区画の基材との接触エリアの周囲にある。
【0071】
一例では、毛細管圧バリアは、マイクロ流体チャンネルの幅全体にまたがり、各端でマイクロ流体チャンネルの側壁と交差する、実質的に線形の毛細管圧バリアである。
【0072】
マイクロ流体ネットワークの一部として、毛細管圧バリアは、ネットワークを少なくとも2つの副容積に分割し、前記副容積の1つはオルガノイド体が培養されるオルガノイド区画を含み、他の副容積はオルガノイド区画をマイクロ流体ネットワークの残りの部分に接続するマイクロ流体チャンネルを含む。
【0073】
第2の毛細管圧バリア
いくつかの例では、細胞培養装置のマイクロ流体ネットワークは第2の毛細管圧バリアを備え、その形態及び機能は実質的に上記の通りである。誤解を避けるために、「毛細管圧バリア」への言及は、第2の毛細管圧バリアが装置内に存在する場合、「第1の毛細管圧バリア」への言及であると理解されるべきである。
【0074】
いくつかの例では、第2の毛細管圧バリアは、マイクロ流体ネットワーク内に流体の液滴の広がりを制限するために、カバー層の孔と実質的に位置合わせされる。一例では、第2の毛細管圧バリアは、孔に実質的に隣接するカバー層の下側に配置される。一例では、第2の毛細管圧バリアは、少なくとも一部、孔自体によって形成される。
【0075】
一例では、第2の毛細管圧バリアは、カバーに設けられた孔に面するマイクロ流体チャンネルの内面に設けられる。より特定の実施形態では、第2の毛細管圧バリアは、マイクロ流体層の基材上に、又は実質的に孔と向かい合う又は対向するマイクロ流体チャンネルの内面に存在する。一例では、第2の毛細管圧バリアは、オルガノイド区画のウェルの下又はウェルの壁の下に位置する。一例では、毛細管圧バリアは、孔及び/又はオルガノイド区画のウェルと位置合わせされたマイクロ流体層の領域に流体の液滴を閉じこめるために、孔又はウェルに対して先に定義されたように存在する。
【0076】
一例では、第2の毛細管圧バリアは、第1の毛細管圧バリアと組み合わされて、マイクロ流体層の基材上又はマイクロ流体チャンネルの基材上のオルガノイド区画の表面を少なくとも一部画定する。第2の毛細管圧バリアは、第1の毛細管圧バリアと組み合わされて、オルガノイド区画を含む第1の副容積に流体を閉じこめるように構成されている。一例では、第2の毛細管圧バリアは、閉じた幾何学的形状を含む。一例では、第2の毛細管圧バリアは、カバー層及び/又は第1の毛細管圧バリアの孔と同心である。一例では、第2の毛細管圧バリアの周によって画定される径又は面積は、孔及び/又は第1の毛細管圧バリアの周によって画定される径又は面積よりも大きく、換言すれば、第2の毛細管圧バリアは、第1の毛細管圧バリア及び/又は孔の周囲にあり、第1の毛細管圧バリア及び/又は孔よりも大きい。一例では、第2の毛細管圧バリアは、第1の毛細管圧バリアと同心であり、第1の毛細管圧バリアの周内にある。別の例では、孔の周によって画定される径又は面積は、第2の毛細管圧バリアの周によって画定される径又は面積よりも大きく、換言すれば、孔は第2の毛細管圧バリアの周囲にあり、第2の毛細管圧バリアよりも大きい。その形状にかかわらず、好ましい実施形態では、第2の毛細管圧バリアは、オルガノイド区画のウェルに導入された1つ以上の細胞又は細胞集合体を含む液体又はゲル組成物の液滴の、オルガノイド区画の基材との接触エリアの輪郭を描く、すなわち、1つ以上の細胞又は細胞集合体を含む液滴の、オルガノイド区画の基材との接触エリアの周囲にある。
【0077】
一例では、第2の毛細管圧バリアは、マイクロ流体チャンネルの幅全体にまたがり、各端部でマイクロ流体チャンネルの側壁と交差する、実質的に線形の毛細管圧バリアである。この例では、第1及び第2の毛細管圧バリアは、カバー層の孔と位置合わせされ、また、カバーに設けられた孔と同心でもあり得る断面エリアを画定し得る。この例では、第1の毛細管圧バリアは、マイクロ流体ネットワークを、オルガノイド区画を含む第1の副容積と、マイクロ流体チャンネルを含む第2の副容積とに分割し、第2の毛細管圧バリアは、マイクロ流体ネットワークを、オルガノイド区画を含む第1の副容積と、第2のマイクロ流体チャンネルを含む第3の副容積とに分割すると考えることができる。
【0078】
マイクロ流体ネットワークの一部として、第2の毛細管圧バリアは、ネットワークを少なくとも2つの副容積、すなわち、先に言及した、オルガノイド体が培養されるオルガノイド区画を含む第1の副容積である第1と、第3の副容積とに分割する。一例では、第3の副容積は、第1の副容積とは別個の、すなわち第1の副容積内に収容されないマイクロ流体チャンネルの一部を含む。一例では、第3の副容積は、完全に第1の副容積内に収容される。すなわち、第1及び第2の毛細管圧バリアはいずれも閉じた幾何学的形状であり、第2の毛細管圧バリアは第1の毛細管圧バリアによって完全に取り囲まれる。
【0079】
貯留部
いくつかの例では、マイクロ流体ネットワークは、マイクロ流体チャンネルへの入口と流体連通する貯留部を含む。貯留部はオルガノイド区画のウェルと実質的に同じ形態又は構成であり得、液体の容積、例えば培地を保持するために存在する。典型的な実施形態では、貯留部は、マイクロ流体チャンネルにより保持される、又は保持され得るよりも大きい流体容積を保持することができる。貯留部は、マイクロ流体層の上に配設された底のないマイクロタイタープレート上のオルガノイド区画のウェルに隣接するウェルであってもよい。他の例では、貯留部は、同じマイクロタイタープレート上のウェルであり得るが、オルガノイド区画のウェルから空間的に離れていてもよい。オルガノイド区画のウェルへの貯留部の近接は、これら2つがマイクロ流体層を介して流体連通している限り、細胞培養装置の動作にとって重要ではないことが理解されるであろう。
【0080】
いくつかの例では、マイクロ流体ネットワークは、マイクロ流体層と、オルガノイド区画及びマイクロ流体ネットワーク内に存在する任意の他の貯留部とに流体連通する1つを超える、例えば2つ以上の貯留部を含む。各貯留部は、必要に応じてマイクロ流体層の、入口又は出口と呼ぶことができるカバー層の孔を介してマイクロ流体層と流体連通することができる。少なくとも2つの貯留部がマイクロ流体ネットワーク内に存在する実施形態では、第1の貯留部は、流体、例えば、培地をマイクロ流体ネットワーク内に導入するために使用され得、第2の貯留部は、本発明の方法に関連して以下に記載されるように、灌流又はレベリング中に流体を受容するための通気口又はオーバーフロー区画として機能し得る。
【0081】
いくつかの例では、マイクロ流体細胞培養装置は、灌流可能なマイクロ流体ネットワーク又は血管網を含み、血管網は、
入口及び出口を有するマイクロ流体チャンネル、
細胞外マトリックスゲルであって、血管が生成される少なくとも1つの細胞をその上面に受容するように配置された細胞外マトリックスゲル
を含み、
マイクロ流体チャンネルは、細胞外マトリックスゲルと流体連通し、マイクロ流体チャンネルの内面を内張りする内皮細胞の血管網を含む。
【0082】
いくつかの例では、細胞外マトリックスゲルは、細胞の懸濁液、1つ以上の細胞集合体又は組織試料を受容するように配置される。いくつかの例では、血管が生成される少なくとも1つの細胞は、本明細書に記載されるように細胞集合体又は生体組織を含む。
【0083】
いくつかの実施例では、細胞培養装置は、
入口及び出口を有するマイクロ流体チャンネル、
細胞外マトリックスであって、その上面に配設された生体組織を有する細胞外マトリックス
を含み、
マイクロ流体チャンネルは、マイクロ流体チャンネルの内面を内張りし、細胞外マトリックスを通って生体組織に延びる内皮細胞の血管網を含む、マイクロ流体細胞培養装置である。
【0084】
このような装置はまた、血管網及び細胞外マトリックスの上面に配設された任意選択による生体組織の存在により、アッセイプレートと見なすことができ、そのため、本明細書中に記載されるアッセイ又は方法に使用できる状態にある。本開示から理解されるように、このような装置の製造は、以下に記載する方法のいずれかを用いて実現され得る。一例では、内皮細胞の血管網は、細胞外マトリックスゲル中に延びる。任意選択により、血管網の延長部は、血管新生の結果である微小血管である。
【0085】
一例では、生体組織は、オルガノイド、組織生検、腫瘍組織、切除された組織材料又は胚体を含む。生体組織は、以下に記載するように、1つ以上の上皮細胞及び/若しくは間葉起源の細胞又は間質細胞を含み得る。生体組織は、任意選択により、内皮細胞も含み得る。生体組織は、血管が生成された組織の最終の使用に応じて、クラスター細胞、印刷された細胞、オルガノイド、組織生検、腫瘍組織、切除された組織材料、器官外植片又は胚体を含み得る。生体組織は、特定の組織又は器官、例えば肝臓、腎臓、脳、乳房、肺、皮膚、膵臓、腸、網膜又は毛髪に関連する表現型から得られるか、それに由来するか、又はそれを示す1つ以上の種類の細胞を含み得る。生体組織は、健康な組織又は罹患した組織を含むか、又はそれに由来し得、また患者から得られるか、又は患者由来であり得る。血管網を形成する内皮細胞は、患者、例えば生体組織が得られたか、又はそれが由来した同じ患者から得られるか、又はそれ由来であり得る。一例では、内皮細胞は、血液増生内皮細胞(例えば、Nature Protocols 7,1709−1715(2012)に記載されるような)、又は幹細胞由来の内皮細胞(誘導多能性幹細胞を含むが、これらに限定されない)を含む。
【0086】
一実施形態では、マイクロ流体チャンネルは、本明細書に記載されるマイクロ流体装置内に配設される。例えば、マイクロ流体チャンネルは、基材及びカバーをさらに含むマイクロ流体層内に配設され得る。マイクロ流体細胞培養装置は、カバーに設けられた孔を通ってマイクロ流体層内に延び、マイクロ流体チャンネルと流体連通するオルガノイド区画と、実質的に孔と位置合わせされ、マイクロ流体ネットワークを、オルガノイド区画を含む第1の副容積と、マイクロ流体チャンネルの少なくとも一部を含む第2の副容積とに分割する毛細管圧バリアとをさらに含み得る。細胞外マトリックスゲルは、オルガノイド区画内に配設され、それに毛細管圧バリアによって閉じこめられ得る。
【0087】
細胞又は細胞集合体を培養する方法
細胞又は細胞集合体を培養する方法を記載する。一般に、この方法は、マイクロ流体細胞培養装置、例えば本明細書に記載される装置のオルガノイド区画に、1つ以上の種類の細胞又は細胞集合体を含むゲル又はゲル前駆体の液滴を導入する工程と、液滴をマイクロ流体細胞培養装置中の少なくとも1つの毛細管圧バリアによって閉じこめさせる工程と、ゲル又はゲル前駆体の液滴を硬化又はゲル化させる工程と、マイクロ流体チャンネルに流体を入れる工程と、硬化したゲル中に存在する1つ以上の種類の細胞又は細胞集合体を培養する工程とを含む。
【0088】
この方法の一例では、マイクロ流体細胞培養装置は、本明細書に記載される通りである。この方法では、1つ以上の細胞又は細胞集合体を含む第1の液体組成物の液滴は、例えば、オルガノイド区画の一部を形成するウェルの開口を介してオルガノイド区画に入れられ、1つ以上の毛細管圧バリアによって保持され、ゲル又はゲル前駆体が固化又はゲル化される。1つ以上の種類の細胞又は細胞集合体を含む細胞外マトリックスゲルを形成するための条件は、その後の培養のための条件と同様に、当該技術分野において知られており、これは、使用する細胞の性質及び所望の結果によって変化するであろう。
【0089】
ゲル又はゲル前駆体は、細胞培養に好適な当該技術分野で知られる任意のヒドロゲルを含む。細胞培養に使用されるヒドロゲルは、広範囲の機械的及び化学的特性を提供する幅広い天然及び合成材料から形成することができる。ヒドロゲル合成に使用される材料及び方法の概説については、Lee and Mooney(Chem Rev 2001;101(7):1869−1880)を参照されたい。好適なヒドロゲルは、天然材料から形成される場合に細胞機能を促進し、合成材料から形成される場合に細胞機能を許容する。細胞培養のための天然ゲルは、典型的には、コラーゲン、フィブリン、ヒアルロン酸又はマトリゲルなどのタンパク質及びECM成分、並びにキトサン、アルギン酸塩又はシルク線維などの生物学的源に由来する材料から形成される。それらは、天然源に由来するため、これらのゲルは、本質的に生体適合性であり、生物活性がある。許容合成ヒドロゲルは、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(ビニルアルコール)及びポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)などの純粋に非天然の分子から形成することができる。PEGヒドロゲルは、包まれた細胞の生存能力を維持し、分解するにつれてECM沈着を可能にすることが示されており、合成ゲルは、インテグリン結合リガンドがなくても3D細胞培養プラットフォームとして機能し得ることを実証している。このような不活性ゲルは、再現性が高く、機械的特性の容易な調整を可能にし、簡単に加工及び製造される。
【0090】
ゲル前駆体は、マイクロ流体細胞培養装置、例えば上記のような装置のオルガノイド区画に提供され得る。ゲルが提供された後、さらなる流体の導入前にゲル化が引き起こされる。好適な(前駆体)ゲルは、当該技術分野でよく知られている。例として、ゲル前駆体は、ヒドロゲルであり得、典型的には、細胞外マトリックス(ECM)ゲルである。ECMは、例えば、コラーゲン、フィブリノゲン、フィブロネクチン、及び/又はマトリゲル若しくは合成ゲル等の基底膜抽出物を含み得る。ゲル前駆体は例として、ピペットを用いてオルガノイド区画に導入することができる。
【0091】
ゲル又はゲル前駆体は、基底膜抽出物、ヒト又は動物の組織又は細胞培養由来の細胞外マトリックス、動物組織由来の細胞外マトリックス、合成細胞外マトリックス、ヒドロゲル、コラーゲン、軟寒天、卵白、及びマトリゲルなどの商業的に入手可能な製品を含み得る。
【0092】
基底層を含む基底膜は、in vivoで上皮細胞の下に横たわる薄い細胞外マトリックスであり、タンパク質及びプロテオグリカンなどの細胞外マトリックスから構成される。一例では、基底膜は、コラーゲンIV、ラミニン、エンタクチン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン及び多数の他の微量成分から構成される(Quaranta et al,Curr.Opin.Cell Biol.6,674−681,1994)。無傷の基底膜だけでなく、これらの成分も単体で生物学的に活性であり、細胞接着、移動、並びに多くの場合、増殖及び分化を促進する。基底膜に基づくゲルの例は、マトリゲル(米国特許第4829000号明細書)と呼ばれる。この材料は、上皮細胞の基層としてin vitroで生物学的に非常に活性である。
【0093】
本発明の方法において使用するための多くの異なる好適なゲルが商業的に入手可能であり、以下に限定はされないが、マトリゲルrgf、BME1、BME1rgf、BME2、BME2rgf、BME3(全てマトリゲル変異体)、コラーゲンI、コラーゲンIV、コラーゲンI及びIVの混合物、若しくはコラーゲンIとIV及びコラーゲンIIとIIIの混合物)、puramatrix、ヒドロゲル、Cell−Tak(商標)、コラーゲンI、コラーゲンIV、マトリゲル(登録商標)マトリックス、フィブロネクチン、ゼラチン、ラミニン、オステオポンチン、ポリリジン(PDL、PLL)、PDL/LM、及びPLO/LM、又はPuraMatrix(登録商標)、ビトロネクチンを含むものが挙げられる。1つの好ましい実施形態において、マトリックス成分は、商業的に入手可能なCorning(登録商標)マトリゲル(登録商標)マトリックス(Corning、NY14831、USA)として得られる。
【0094】
ゲル又はゲル前駆体は、マイクロ流体装置、例えば本明細書に記載される装置のオルガノイド区画のウェルに導入され、潜在的に重力によって補助される毛細管力によってマイクロ流体層に輸送される。ゲル又はゲル前駆体は、マイクロ流体装置内の毛細管圧バリアにより、例えばオルガノイド区画を含むネットワークの第1の副容積に閉じこめられ、その後、ゲル化が引き起こされるか又はゲル化する。
【0095】
一例では、ゲル又はゲル前駆体が目的の細胞又は細胞粉を予め入れられており、すなわち、細胞は、マイクロ流体細胞培養装置、例えば本明細書に記載の装置のオルガノイド区画への導入前及びゲル化前にゲル又はゲル前駆体の液滴中に存在する。別の例では、細胞は、マイクロ流体細胞培養装置、例えば本明細書に記載の装置のオルガノイド区画に導入された後、部分的又は完全に硬化した液滴に挿入される。したがって、代替の培養方法は、硬化した細胞培養ヒドロゲルの液滴に目的の細胞を播種する工程を含む。
【0096】
一例では、ゲル又はゲル前駆体は、マイクロ流体細胞培養装置、例えば本明細書に記載の装置のオルガノイド区画に導入され、ゲル化に続いて、細胞混合物、組織又は細胞集合体がゲルの上に置かれる。
【0097】
一例では、ゲル又はゲル前駆体の液滴中又は液滴上に存在する少なくとも1つの種類の細胞又は細胞集合体は、培養中、培地の組成、存在し得る他の細胞種及び細胞外マトリックスによって増殖及び/又は分化することができる上皮細胞を含む。したがって、水性培地、好ましくは増殖培地を使用するか、又はゲル(前駆体)を使用することにより、マイクロ流体ネットワークへ導入後、上皮細胞は、オルガノイド区画において増殖及び/又は分化する。1つ以上の種類の細胞又は細胞集合体、例えば上皮細胞の培養は、培地をマイクロ流体チャンネルに導入することによって達成され、細胞が培養されてオルガノイド又は胚体を形成するように好適な条件下で継続される。
【0098】
第2の例では、ゲル又はゲル前駆体の液滴中又は液滴上に存在する少なくとも1つの種類の細胞又は細胞集合体は、上皮細胞、及び線維芽細胞、平滑筋細胞、筋線維芽細胞、周皮細胞、星状細胞、乏突起膠細胞などの間葉起源の細胞を含む。したがって、水性培地、好ましくは増殖培地を使用するか、又はゲル(前駆体)を使用することにより、マイクロ流体ネットワーク、例えばオルガノイド区画に導入した後、上皮細胞及び間葉起源の細胞は、相互に作用し、オルガノイド区画において増殖及び/又は分化し得る組織を形成する。
【0099】
さらなる例では、ゲル又はゲル前駆体の液滴中又は液滴上、例えば細胞懸濁液として存在する少なくとも1つの種類の細胞又は細胞集合体は、上皮細胞と、間葉起源の細胞、免疫細胞(例えば、T細胞、マクロファージ、クッパー細胞、樹状細胞、B細胞、顆粒球、肥満細胞)及び/又は内皮細胞との任意の組み合わせを含む。誤解を避けるために、用語「液滴」の使用は、ゲルが典型的な液滴の形態又は形状を有することを意味すると解釈されるべきではない。むしろ、それは、本明細書に記載の細胞培養装置に導入され、その後、その中に閉じこめられるゲルの容積を意味すると解釈されるべきである。
【0100】
ゲルが形成された後、この方法は、第2の流体(第2の液体組成物)をマイクロ流体チャンネルに導入するか又は加えることを含み、これは、ゲルと接触するであろう。一例では、第2の流体は、オルガノイド区画のウェルを介して入れられる。別の例では、第2の流体は、マイクロ流体チャンネルと流体連通している貯留部を介してマイクロ流体チャンネルに導入される。一例では、加えられる流体の容積は、マイクロ流体チャンネル内に収容され得るよりも大きく、その結果、過剰な流体が貯留部内に保持される。ゲル液滴のゲル化状態は、細胞及びゲルが適切な位置にとどまることを確実にする一方、マイクロ流体チャンネル内の流体とオルガノイド区画との間は、代謝産物、栄養素及び酸素が自由に行き来する。
【0101】
細胞懸濁液、組織又は細胞集合体がゲルの上に位置する例では、任意選択により、第2のゲル容積が細胞、組織又は細胞集合体を包むために適用され得る。
【0102】
「適切な位置にとどまる」細胞への言及は、例えば、第2の流体で満たしたとき、粘性抗力により、洗い流されるのとは対照的に初期状態に関するものとして理解されるべきである。当業者は、細胞外マトリックス環境中の細胞が依然としてゲルネットワークを通じて運動性であることを認識するであろうことは言うまでもない。運動性は、インテグリンなどの接着斑による細胞マトリックス相互作用、アクチン再構築、コラゲナーゼ、及び細胞外マトリックス環境における細胞の運動を可能にする他の多くの機構によって可能になる。細胞はまた、実験の過程でECMゲルに出入りする。
マイクロ流体チャンネルは、チャンネルからの空気の排出によるマイクロ流体チャンネルの適切な充填を可能にするために通気口をさらに含む。この通気孔は、追加の入口によって形成されてもよく、オルガノイド区画自体によって形成されてもよい。
【0103】
間隙流と呼ばれる流れは、典型的には、ゲルによって存在し得ることに留意すべきである。また、細胞は、典型的には、インテグリンなどのアンカー点により、ゲル中を移動し、ゲルに出入りする能力を有する。したがって、ゲル及び流体は、人工膜を必要とせずに交換表面をもたらす。本発明との関連において、細胞培養のための装置を提供するという目的を有する第1の液体組成物は、典型的には、硬化すると、対応するマトリックス構造及び剛性を液滴に提供する細胞培養ヒドロゲルを含む。第2の流体は、典型的には、細胞培地、緩衝溶液又は試験溶液などの水溶液であり、特定の例では、後述するように細胞も含み得る。
【0104】
一例では、十分な容積の液滴は、硬化したゲルがマイクロ流体層内にあるオルガノイド区画の一部に実質的に完全に配置されるように導入される。一例では、ゲル化した液滴の容積は、液滴がマイクロ流体カバー層の孔を完全に塞がないような容積であり、その場合、孔の塞がれていない領域又は開いた領域を通気口として使用することができる。そのため、通気口は、一般に、入口を通してマイクロ流体チャンネルに入れる際に空気を排出させる開口又は孔をカバー層に含む。一例では、十分な容積の液滴は、液滴が毛細管圧バリアによって閉じこめられ、液滴の容積の大部分が、マイクロ流体層の外側にあるオルガノイド区画の一部に収容されるように、例えば液滴の容積の大部分がオルガノイド区画のウェル内に収容されるように導入される。
【0105】
特定の実施形態では、オルガノイド区画は、両側において、マイクロ流体チャンネルへの第1及び第2の入口によって流体連通する2つの貯留部が隣接している。そのため、流体、例えば培地を第1の貯留部に導入すると、マイクロ流体チャンネルが充填される。充填されると、マイクロ流体チャンネル及び貯留部において流体の流れを誘導することができる。これを行う典型的な方法は、2つの貯留部間で流体をレベリングすることである。これは、一方の貯留部の液体レベルを他方より高くすることにより、又はマイクロ流体装置をある角度下に置くことにより行われる。時間の経過と共に、システムが大気と平衡に達するため、流体の2つのメニスカス(各貯留部に1つ)は、「平ら」になる。連続的な流れを提供するため、ロッカープレート上に装置を置くことによって周期的な再レベリングを達成することができ、ロッカープレートは、装置の傾斜を周期的に調整する。この特定の実施形態では、マイクロ流体チャンネルは、典型的には、1つの入口及び貯留部から充填され、第2の入口及び貯留部は、マイクロ流体ネットワーク内のマイクロ流体チャンネルに入れる間、通気口として機能する。或いは、流れは、ポンプの使用によってマイクロ流体チャンネルにおいて誘導することができる。
【0106】
一例では、マイクロ流体チャンネルに導入される流体は、内皮細胞を含み得る。一般に、内皮細胞は、心臓から最小のリンパ毛細管まで循環システム全体の内面を内張りする細胞として知られている。血液と接触する場合、これらの細胞は、血管内皮細胞と呼ばれ、リンパシステムと接触する場合、それらは、リンパ内皮細胞と呼ばれる。特定の実施形態では、培養方法は、好ましくは第2の液体組成物を使用して、内皮細胞をマイクロ流体ネットワークのマイクロ流体チャンネルに導入する工程と、前記内皮細胞にマイクロ流体チャンネルを内張りすることを引き起こすか又は内張りさせる、すなわち内皮細胞にマイクロ流体チャンネル内に血管を形成することを引き起こすか又は血管を形成させる工程とを含む。
【0107】
正しい条件、例えば血管新生を促進するのに好適な条件下で内皮細胞をマイクロ流体チャンネルに導入することにより、マイクロ流体チャンネル、及び場合により、その後、透過性になる細胞外マトリックスゲルの内面を内張りする血管組織の形成だけでなく、新しい微小血管の伸長をもたらすこともできる。血管新生の促進に好適な条件としては、線維芽細胞増殖因子(FGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、アンジオポエチン−1(Ang1)、アンジオポエチン−2(Ang2)、ホルボールミリスチン酸−13−アセテート(PMA)、スフィンゴシン−1−リン酸(S1P)、IGFBP−2、肝細胞増殖因子(HGF)、プロリル水酸化酵素阻害剤(PHi)、単球走化性タンパク質−1(MCP−1)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)及びエフリンなどの血管新生化合物を加えることが挙げられる。
【0108】
勾配として適用される場合、1つ以上の血管新生化合物は、閉じこめられたゲル液滴に向かう指向性血管新生及び閉じこめられたゲル液滴内での指向性血管新生を促進する化学誘引物質として作用すると考えることができる。このようにして、内皮細胞は、刺激されてマイクロ流体層及びゲルにおいて血管組織の層を形成し、この層は、その後、透過化を受け、新しい微小血管の伸長をもたらす。1つ以上の血管新生化合物は、オルガノイド区画に導入される前にゲル又はゲル前駆体の液滴に加えられても、ゲル液滴の形成後にオルガノイド区画に加えられてもよい。別の例では、1つ以上の血管新生化合物は、マイクロ流体チャンネルへの別の入口、例えば培地が導入される入口から下流の入口、及び/又はオルガノイド区画から下流の入口を介してマイクロ流体ネットワークに加えられ得る。
【0109】
一例では、内皮細胞は、培養される1つ以上の種類の細胞又は細胞集合体が任意選択により入れられたゲル(又はゲル前駆体)がオルガノイド区画に導入された後、マイクロ流体チャンネルに導入される。一例では、内皮細胞は、ゲル(又はゲル前駆体)がオルガノイド区画に導入された後、マイクロ流体チャンネルに導入され、続いて、培養される1つ以上の種類の細胞又は細胞集合体が入れられるか又はそれで覆われる。他の例では、本明細書に記載の方法は、細胞又は細胞集合体を含まないゲル又はゲル前駆体の液滴をオルガノイド区画に導入する工程と、ゲル化させる又はゲル化を引き起こす工程と、内皮細胞をマイクロ流体チャンネルに導入する工程と、その後、1つ以上の種類の細胞又は細胞集合体を硬化したゲルに又は硬化したゲルの上に導入する工程とを含む。一例では、内皮細胞は、1つ以上の種類の細胞又は細胞集合体がゲルに又はゲルの上部に導入される前に、マイクロ流体チャンネル内に血管組織の層を形成することを引き起こされるか又は形成する。一例では、硬化したゲルの上部に細胞を含む適切な量のゲル前駆体を加えることにより、1つ以上の種類の細胞又は細胞集合体をゲルに導入する。
【0110】
本明細書において既に説明したように、毛細管圧バリアを使用することにより、オルガノイド区画内に安定に閉じこめられた容積を形成することができ、その結果、ゲル又はその内容物の位置を動かさずに第2の流体の添加を行うことができる。そのため、本発明の装置は、他の細胞と空間的に制御された共培養用に構成され、周囲の培地の組成を制御する手段を提供する。したがって、本発明の培養方法において、貯留部に入れた流体(本明細書では第2の液体とも呼ばれる)は、細胞培地、試験溶液、緩衝液、さらなるヒドロゲルなどのいずれかであり、任意選択により細胞又は細胞集合体を含み得る。
【0111】
貯留部に導入する組成物を制御することにより、本発明の細胞培養装置は、異なる様式のオルガノイド培養を可能にする。例えば、貯留部に導入する流体の組成を変更することができる。このような交換は、貯留部の1つに新しい組成物を導入し、同時に、完全な交換が起こるまで、同じマイクロ流体ネットワーク内の別の貯留部から流体を除去することによる勾配交換であり得る。そのような交換は、貯留部から流体を吸引し、それに新しい組成物を充填することによって別個であり得る。貯留部内の流体容積は、マイクロ流体チャンネル内の流体容積よりもはるかに大きく、貯留部間のレベリングは、殆ど瞬時に起こり、それにより、手順中にマイクロ流体チャンネルネットワークを空にする必要なく新しい流体でマイクロ流体ネットワークを確実にフラッシュする。
【0112】
一例では、装置内に第2の毛細管圧バリアが存在することにより、層状ゲル組成物の形成さえ可能になる。この例では、第1の毛細管圧バリア、例えば円形毛細管圧バリアは、オルガノイド区画の基材層上の定在液滴として第1のゲル又はゲル前駆体を含む液体組成物を固定する。この第1の液体組成物が固化した後、任意選択により細胞を収容する第2のゲル又はゲル前駆体をオルガノイド区画に入れる。この第2の組成物は、第2の毛細管圧バリア、例えば第1の毛細管圧バリアよりも径が大きく、第1の毛細管圧バリアと同心であり、第1の毛細管圧バリアを取り囲む円形の毛細管圧バリアによって保持される。この構成により、第2の毛細管圧バリアは、この第2の組成物がマイクロ流体チャンネルに流入することを防止し、第1のゲルを包む。したがって、2つの毛細管圧バリアの存在は、マイクロ流体ネットワークを個々の空間容積に分割し、ユーザにマイクロ流体ネットワークにおける空間構成の可能性を与える。
【0113】
前述したように、組成物だけでなく、マイクロ流体チャンネル内の液体の流体挙動を同様に制御する能力を有することにより、装置は、例えば、オルガノイド培養物の内腔の形成及び血管生成を伴う、マイクロ流体チャンネル内の内皮細胞との共培養の可能性を提供する。続いて、1つ以上の貯留部及び前記区画内の液体の動きの設定により、内腔灌流、すなわち血管生成が可能になる(下記)。
【0114】
そのため、1つ以上の細胞又は細胞集合体に血管を生成する方法も記載される。この方法は、一般に、マイクロ流体細胞培養装置にゲル又はゲル前駆体の液滴を導入し、この液滴を装置内に存在する毛細管圧バリアによって液滴を閉じこめる工程と、ゲル又はゲル前駆体を硬化又はゲル化させて、少なくとも部分的に硬化したゲルを形成する工程と、キャリア流体における内皮細胞の懸濁液をマイクロ流体細胞培養装置のマイクロ流体チャンネルに導入する工程であって、マイクロ流体チャンネルは、硬化したゲルと流体連通している、工程と、内皮細胞に、少なくともマイクロ流体チャンネル内に少なくとも1つの微小血管を形成させる工程と、1つ以上の細胞又は細胞集合体を硬化したゲルの上面に導入する工程と、少なくとも1つの微小血管と1つ以上の細胞又は細胞集合体との間の指向性血管新生を可能にするか又は促進する工程とを含む。
【0115】
この方法は、一般に、1つ以上の流体を閉じこめて、装置の副容積を分離する毛細管圧バリアを有するマイクロ流体細胞培養装置で実施される。一実施形態では、装置は、本明細書に記載されるようなものである。しかし、本方法は、マイクロ流体細胞培養装置の他の構成で実施され得ることが理解され、本方法の以下の説明は、本明細書に記載される装置の操作に限定されると解釈されるべきではない。
【0116】
この方法の第1の工程では、ゲル又はゲル前駆体の液滴がマイクロ流体細胞培養装置に導入され、毛細管圧バリアによって閉じこめられ、硬化又はゲル化して、全体的に又は少なくとも部分的に硬化したゲルが形成される。本明細書における硬化したゲルへの言及は、少なくとも部分的に硬化したゲル及び全体的に又は完全に硬化したゲルを意味すると理解されるべきである。以前に記載された方法とは対照的に、この方法におけるゲル又はゲル前駆体の液滴は、細胞を含まず、上記のように、細胞培養に好適な当該技術分野で知られる任意のヒドロゲルを含む。
【0117】
ゲル又はゲル前駆体の液滴が少なくとも部分的に、しかし、任意選択により完全に硬化したところで、内皮細胞を装置のマイクロ流体チャンネルに導入する。内皮細胞の導入並びに血管発生及び/又は血管新生を促進するための条件は、上記に記載されているために繰り返さない。内皮細胞は、好適なキャリア流体中の懸濁液として導入して、少なくともマイクロ流体チャンネル中で少なくとも1つの微小血管を形成させるか又は形成を引き起こすようにしてもよい。一例では、内皮細胞は、1つ以上の種類の細胞又は細胞集合体が少なくとも部分的に硬化したゲル中又はゲルの上面に導入される前に、マイクロ流体チャンネル内に血管組織の層を形成することを引き起こすか又は形成する。
【0118】
一例では、微小血管は、硬化したゲルとの界面までマイクロチャンネルの内壁を内張りし、マイクロチャンネルの入口及び出口まで延び、そのため、マイクロ流体チャンネルの完全な血管生成を提供する。別の実施形態では、微小血管は硬化したゲル中に延びる。そのため、マイクロ流体チャンネル内の微小血管の形成、また任意選択により硬化したゲル中への微小血管の形成は、例えば、生体組織を受容するために使用することができる血管床を提供する。
【0119】
1つ以上の細胞に血管を生成する方法又は本明細書に記載の方法は、1つ以上の細胞種を含む1つ以上の細胞又は細胞集合体を、少なくとも部分的に硬化したゲルの内部又は上面に導入する工程を含む。一例では、1つ以上の細胞種を含む1つ以上の細胞又は細胞集合体は、少なくとも部分的に硬化したゲルの内部又は上面に、硬化したゲルの上部に、細胞を含む適切な量のゲル前駆体を加えることによって導入される。一例では、1つ以上の細胞種を含む1つ以上の細胞又は細胞集合体は、少なくとも部分的に硬化したゲルの内部又は上面に導入され、続いて、硬化したゲルの上面に適切な量のゲル前駆体が加えられる。
その後、正しい条件下において、1つ以上の細胞種を含む1つ以上の細胞又は細胞集合体と微小血管との間の指向性血管新生が起こり、1つ以上の細胞種を含む1つ以上の細胞又は細胞集合体のマイクロ流体装置上での血管生成に導くことができる。血管新生は、前述したような1つ以上の血管新生化合物により誘導又は促進され得る。1つ以上の血管新生化合物は、1つ以上の細胞又は細胞集合体が導入された後、少なくとも部分的に硬化したゲル上に加えられ得る。
【0120】
前述したように、1つ以上の細胞又は細胞集合体は、1つ以上の上皮細胞及び間葉起源の細胞又は間質細胞を含み得る。1つ以上の細胞又は細胞集合体は、血管が生成される組織の最終的な使用に応じて、クラスター細胞、印刷された細胞、オルガノイド、組織生検、腫瘍組織、切除された組織材料、器官外植片、又は胚体を含み得る。1つ以上の細胞又は細胞集合体は、特定の生体組織、例えば肝臓、腎臓、脳、乳房、肺、皮膚、膵臓、腸、網膜又は毛髪に関連する表現型から得られるか、それに由来するか、又はそれを示す1つ以上の種類の細胞を含み得る。1つ以上の細胞又は細胞集合体は、健康な組織又は罹患した組織を含み得、また患者から得られるか又は患者由来であり得る。
【0121】
一実施形態では、マイクロ流体チャンネル及び組織に血管を生成するために使用される内皮細胞は、患者から得られるか、又は患者から誘導され得る。一実施形態では、患者から得られるか、又は患者に由来する内皮細胞は、血液増生内皮細胞、又は多能性幹細胞に由来する内皮細胞を含み得る。自己内皮細胞を、同じ患者由来の1つ以上の細胞又は細胞集合体を含む生体組織と組み合わせて使用することにより、この血管が生成されたシステムは、オーダーメード医療の分野、並びに特定の薬剤に対する患者の可能性のある応答を決定又は予測するための臨床モデル及びアッセイの開発に特に適している。例えば、患者から得られた腫瘍組織の使用は、上記のような患者由来の内皮細胞を使用するその腫瘍組織の血管生成と共に、化学療法に対する患者の可能性のある応答の完全な分析を可能にする。さらに、1つ以上の種類の患者自身の免疫細胞をこのようなシステムに導入することにより、所与の薬剤に対する可能性のある免疫応答についてなされるべき決定を行うことも可能になる。
【0122】
1つ以上の細胞又は細胞集合体は、細胞の増殖及び/又は分化を可能にするために前述したような培養工程を受け得る。
【0123】
一実施形態では、1つ以上の細胞又は細胞集合体は、少なくとも部分的に硬化したゲルの上面を完全に覆い、それにより、少なくとも部分的に硬化したゲルの上面に組織のバリア層を形成する。バリア層は、細胞の単層又は細胞若しくは細胞集合体の多層を含み得る。一実施形態では、細胞の単層又は多層を培養して、少なくとも部分的に硬化したゲルへの少なくとも1つの微小血管の血管新生の前又は後に増殖及び/又は分化を可能にし得る。平坦な層状組織の例としては、皮膚組織(例えば、ケラチノサイト、脂肪組織及び線維芽細胞を含む)、腸上皮、並びに肺及び網膜などの他の上皮組織が挙げられる。
【0124】
培地又は分化培地は、上記のようにマイクロ流体チャンネルに加えられ得、及び血管網を通る流体フローの確立も上記のように達成され得、細胞の増殖及び/又は分化を可能にする。同様に、流体の組成は、上記のように制御することができる。そのため、記載された方法によって確立された、血管が生成された灌流可能なネットワークは、装置のマイクロ流体チャンネル内の微小血管内の流体と、硬化したゲルの上の細胞又は細胞集合体との間の代謝産物、栄養素及び酸素の自由な交換を可能にする。
【0125】
アッセイプレート
本発明のさらなる態様は、本明細書に記載の装置のいずれかを含むアッセイプレートを提供する。血管網及び任意選択により生体組織も含む細胞培養装置への言及は、アッセイプレートを指すとも理解されるべきである。
【0126】
アッセイプレートは、装置内に細管圧バリアによって閉じこめられたゲルを含み得る。1つの特定の実施形態では、アッセイプレートは、毛細管圧バリアによって装置のオルガノイド区画に閉じこめられたゲルを含み得、ここで、ゲル又はゲル様物質は、1つ以上の細胞又は細胞集合体を含む。
【0127】
アッセイプレートは、本明細書に記載の方法によって培養された1つ以上の細胞又は細胞集合体を含み得る。一例では、アッセイプレートの装置のマイクロ流体チャンネルの少なくとも一部は、ゲル中に延びる内皮細胞を含む血管組織の層を含む。
【0128】
アッセイプレートの寸法は、標準ANSI/SLASマイクロタイタープレートフォーマットと一致又は適合し得る。特に、アッセイプレートのフットプリント又は周の寸法は、マイクロタイタープレートのためのANSI/SLAS標準と一致し得る。
【0129】
本明細書中に記載の方法のいずれかによって製造されるアッセイプレート又は細胞培養装置も記載される。
【0130】
アッセイ
記載されたアッセイプレートは、試験溶液をマイクロ流体ネットワークに導入し、細胞、細胞集合体又はオルガノイド若しくは胚体に対する試験溶液の効果を観察するアッセイにおいて使用され得る。試験溶液は、医薬品、候補医薬化合物、毒素、食物化合物、化学物質、ウイルス、細菌又はナノ粒子を含み得る。
【0131】
一実施形態では、アッセイに使用するアッセイプレートは、任意選択により患者からの生体組織を有する血管が生成されたネットワークを含む細胞培養装置を含む。自己内皮細胞を使用することにより、この血管が生成されたシステムは、オーダーメード医療の分野、及び特定の薬剤に対する患者の可能性のある応答を決定又は予測するための臨床アッセイの開発に特に適している。例えば、患者から得られた腫瘍組織の使用は、上記のような患者由来の内皮細胞を使用するその腫瘍組織の血管生成と共に、化学療法に対する患者の可能性のある応答の完全な分析を可能にする。さらに、1つ以上の種類の患者自身の免疫細胞をこのようなシステムに導入することにより、所与の薬剤に対する可能性のある免疫応答についてなされるべき決定を行うことも可能になる。
好適には、患者自身のT細胞、B細胞、リンパ球、樹状細胞、ミクログリア及び単核球の1つ以上を試験薬剤と共にゲル及び生体組織の上のアッセイプレートに又はミクロ流体チャンネルを介して導入することができる。免疫細胞も任意選択によりゲル中に存在させ得る。
【0132】
アッセイプレートの他の用途としては、in vitro細胞ベースのアッセイ、薬品スクリーニングアッセイ又は毒性アッセイが挙げられる。
【0133】
キット
本開示はまた、本明細書に記載の細胞培養装置及びアッセイプレートを使用するためのキット及び製品を提供する。一実施形態では、キットは、血管新生を誘導するための、本明細書に記載の細胞培養装置又はアッセイプレートと、1つ以上の血管新生化合物とを含む。
【0134】
キットの細胞培養装置又はアッセイプレートは、好ましくは、血管床を含み、換言すれば、細胞外マトリックスゲルであって、血管を生成する少なくとも1つの細胞をその上面に受容するように配置された細胞外マトリックスゲルと、マイクロ流体チャンネルの内面を内張りする内皮細胞の血管網とを含む。
【0135】
キットは、包装材料、及び包装材料内に収容された、1つ以上の血管新生化合物を使用して細胞培養装置又はアッセイプレートにおいて血管新生を誘導するための説明書を提供するラベル又は添付文書をさらに含み得る。
【0136】
1つ以上の血管新生化合物は、線維芽細胞増殖因子(FGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、アンジオポエチン−1(Ang1)、アンジオポエチン−2(Ang2)、ホルボールミリスチン酸−13−アセテート(PMA)、スフィンゴシン−1−リン酸(S1P)、IGFBP−2、肝細胞増殖因子(HGF)、プロリル水酸化酵素阻害剤(PHi)、単球走化性タンパク質−1(MCP−1)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)及びエフリンなどの1つ以上を含み得る。
【0137】
キットは、1つ以上の血管新生化合物の導入に好適な培地を含む第2の容器などのアクセサリー成分と、培地の使用に関する説明書とをさらに含み得る。
【0138】
関連する態様では、本発明は、細胞又は組織の作製及び/又は培養のため、組織工学のため、胚体形成のため、オルガノイド形成のためなど、本明細書に記載される細胞培養装置の使用を提供する。
【実施例】
【0139】
ここで、図面を参照して本発明を単に例として記載する。
【0140】
細胞培養装置の第1の例を
図1〜3に概略的に示す。装置を横切る図(
図1)は、両側に2つの貯留部(101)が隣接した中央オルガノイド区画(103)と、マイクロ流体層(実線で示す)内のマイクロ流体チャンネル(102)とを示す。マイクロ流体チャンネルは、マイクロ流体層(実線で示される)のカバー層の入口(104)を介して貯留部をオルガノイド区画に接続する。毛細管圧バリア(105)は、オルガノイド区画の底部に存在し、マイクロ流体層(実線で示す)のカバー層の孔(100)を介してアクセス可能である。この特定の例では、孔は、オルガノイド区画の下向きに延びる壁よりも狭い断面を有する。
【0141】
十分な容積の第1の液体(ゲル又はゲル前駆体(106)(1つ以上の種類の細胞又は細胞集合体を含み、オルガノイド組成物とも呼ばれる)(106)で満たされ、孔(100)の周囲にある毛細管圧バリアを有し、より大きい径を有する場合、前者は、前記孔(
図3)を閉塞し、そのため、一方の貯留部(101)へ第2の流体が加えられた際、周囲のマイクロチャンネル(102)の通気は、マイクロ流体チャンネル(102)及び他方の貯留部(101)の入口(104)を介して生じる。
【0142】
上面図(
図2)に示すように、円形の毛細管圧バリアは、マイクロ流体ネットワークを2つの副容積に分割する。一方の副容積(この実施形態では毛細管圧バリア内の中央容積)は、オルガノイド組成物を受容するためのオルガノイド区画(103)を含み、第2の副容積は、貯留部(101)と、オルガノイド区画(103)内のオルガノイド組成物に通じ、それを取り囲むマイクロ流体チャンネル(102)とによって画定される。マイクロ流体チャンネル(102)は、
図2において、毛細管圧バリアを取り囲む実線の円及び貯留部(101)へ延びる2つの線状チャンネルとして概略的に表され、孔(100)は、点線によって示されている。
【0143】
壁又は膜などの介在構造なしに互いに直接接触する2つの副容積の形成は、装置及びアッセイプレートの重要な特徴の1つである。さらに、貯留部及びマイクロ流体チャンネルを通して、ゲル(例えば、オルガノイド組成物)を取り囲む培地を制御し、適合させることさえも可能である。
図3は、マイクロ流体ネットワークの一部の垂直断面の拡大図を提供し、基材層上の毛細管圧バリア(105)と、それが第1の液体(106)(オルガノイド組成物、ここでは明瞭化のために細胞又は細胞集合体なしで描かれている)の液滴をどのように閉じこめるかを示している。毛細管圧バリア(105)の存在は、ゲル又はゲル前駆体、例えばオルガノイド組成物がオルガノイド区画に入れられたときにマイクロ流体チャンネルを満たすことを防ぐ。換言すれば、使用時、ゲル又はゲル前駆体が毛細管圧バリア(105)にピンニングされる。
【0144】
図2の孔100は、後の図面と同様に、円形の孔として描かれている。しかしながら、孔は、任意の形状を有することができ、円形及び四角形が好ましいことが理解されるであろう。
【0145】
代替の実施形態では、
図4〜6に示すように、オルガノイド区画(103)が貫通して延びるカバー層の孔(100)が拡大されている。これは、孔の突然の制限によって妨げられない、より大きい径のより均一なオルガノイドの増殖を可能にする。また、それは、拡散又は間質流により、オルガノイド容積全体にわたって増殖因子、モルフォゲン、酸素、栄養素などの分子のより均一な分布を可能にする。さらに、オルガノイドの血管生成の場合、それは、オルガノイド容積のより均一な血管生成を可能にする。
【0146】
オルガノイド組成物の周囲の培地を制御する目的でマイクロ流体チャンネル(102)のさらなる分岐が存在してもよい。そのような例の1つを
図7〜9において提供する。この実施形態では、中央オルガノイド区画(103)は、交差構成(
図8を参照)で4つの貯留部(101)に接続され、2つの線状毛細管圧バリア(105)が存在し、それぞれオルガノイド区画を含む第1の副容積を部分的に画定する。
【0147】
前述の例の全てにおいて、毛細管圧バリアは、オルガノイド区画の孔(100)の周囲にあり、孔によって画定される径又は面積よりも大きい径又は面積を有する。したがって、これらの例の全てにおいて、ゲル又はゲル前駆体、例えばオルガノイド組成物をオルガノイド区画に入れると、孔が閉塞する。代替の実施形態では、毛細管圧バリア(105)は、例えば、
図12に示すように、孔(100)の周内に位置する(より小さい径又は周)。
【0148】
この構成では、ゲル又はゲル前駆体、例えばオルガノイド組成物は、安定な定在液滴としてバリア上にピンニングされる。それだけでなく、これはまた、2つの液体間のより大きい表面接触面積をもたらし、加えて前述の実施形態と異なり、周囲のマイクロチャンネルの通気が液滴とカバー層の孔(100)との間の自由空間を介して生じることをもたらし得る。そのため、一例では、毛細管圧バリアは、マイクロ流体チャンネルの基材上であるが、孔の周内に位置する(毛細管圧バリアは、より小さい径を有する)。
【0149】
閉じた幾何学的形状の第2の毛細管圧バリアを加えることにより、層状のゲル容積組成物、例えばオルガノイド容積組成物の形成さえ可能になる。そのような例を
図13〜15に提供する。この例では、第1の円形毛細管圧バリアは、オルガノイド区画の基材層上の定在液滴として第1のゲル又はゲル前駆体を含む液体組成物をピンニングする。この第1の液体組成物が固化した後、第2の組成物(107)をオルガノイド区画に入れる。この第2の組成物は、第2の毛細管圧バリア(108)によって保持され、これにより、マイクロ流体チャンネル(102)がこの第2の組成物で満たされることが防止される。したがって、この毛細管圧バリアの存在は、マイクロ流体ネットワークを個々の空間容積に分割し、ユーザにマイクロ流体ネットワークにおける空間構成の可能性を与える。
【0150】
本明細書に記載の装置において使用される毛細管圧バリアは、
図16〜18に例示されるように、オルガノイド区画の基材又は下部基板において、異なる形状又は形態、例えば突出するリム、溝又は疎水性材料の線をとり得る。
図16は、下部基板から突出するリムとして構築された毛細管圧バリアを示し、このリムは、下部基板又は基材層に対して異なる材料から構築されても構築されなくてもよい。
図17は、下部基板又は基材層内に突出するリッジ又は溝として構築された毛細管圧バリアの一例を提供する。
図18は、異なる疎水性/親水性の材料の線として構築された毛細管圧バリアの例を提供する。ピンニングは、線の前で起こり、ピンニングバリアの接触角は、異なる疎水性/親水性の材料の水平面に対して記載される。
【0151】
記載したように、装置は、
図19に示すように、ANSI/SLAS寸法によって定義されているようなマイクロタイタープレートフットプリントに適合するか、又はそれに基づいていることが好ましく、
図19は、そのような、例えば
図1、4及び13に記載されるような個別のマイクロ流体ネットワーク128個を含むこのようなプレートの下面図を示す。
図20は、マイクロタイタープレートのフットプリントと一致するリム(111)を有する、
図19のマルチウェル構成の断面を示す。
【0152】
図21は、液滴がカバー層に接触することなく、液滴を液滴保持構造にピンニングする場合に考慮すべき寸法を示している。この場合、カバー層の高さhにおける液滴の外部と毛細管圧バリアの外部との間の水平距離δ1は、カバー層の孔の縁部と毛細管圧バリアとの間の水平距離δ2よりも小さくなければならない。液滴の曲率は、毛細管圧バリアの垂直表面との接触角α、毛細管圧バリアの外周、及び液滴の容積によって決定される。
【0153】
周囲の培地を制御する能力を有する細胞の3D培養物を調製し、得るために本明細書に記載の装置を使用する際の異なる工程を
図22A〜22Fに示す。第1の工程では、細胞(112)(
図22A)又は細胞集合体(113)(
図22B)を含む液体の第1の液滴は、オルガノイド区画(103)に導入され、毛細管圧バリアにピンニングされ、固化(硬化、ゲル化)される。再び既に上述したように、第1の液体組成物は、典型的には、ゲル又はゲル前駆体、例えば細胞培養ヒドロゲル(又はその前駆体)を含み、当該技術分野で知られ、また目的に好適な任意のヒドロゲルを含む。
【0154】
オルガノイド組成物を含むゲルの液滴が固化した時点で、マイクロ流体チャンネルに第2の液体(115、
図22C)が入れられるが、これは、典型的には、細胞培地、緩衝溶液、試験溶液又は未硬化ヒドロゲルなどの水溶液である。したがって、装置内において、細胞を含むゲルと、マイクロ流体チャンネル内の第2の液体との界面には、人工的な境界のない交換表面がもたらされる。
【0155】
細胞培地をマイクロ流体チャンネルに導入することが可能であるため、細胞をマイクロ流体チャンネルに導入することも同様に可能である。このような実施形態の1つを
図22Dに示すが、そこでは内皮細胞(114)がマイクロ流体チャンネルに導入される。これらは、細胞培地又は細胞増殖培地の成分として導入されてもよく、後に導入されてもよい。このように播種された装置の培養時、第2の液体(マイクロ流体チャンネルに入れられた液体)の組成に応じて、内皮細胞(114)は、マイクロチャンネルの内面、すなわち壁、基材及び上部に血管を生成するか、又はそれらを内張りし、またECMゲル表面にも血管を生成するか、又はそれらを内張りする可能性がある(
図22Eを参照)。
【0156】
さらなる工程では、培養条件は、オルガノイド組成物を含むゲル液滴の侵入及び/又はオルガノイド組成物に存在する細胞集合体、オルガノイド若しくはスフェロイド内の毛細血管形成により、マイクロ流体チャンネルにおいて形成された血管の血管新生を可能にするか又は誘導することができる(
図22F)。血管新生を可能にする培養条件は、当業者に知られており、例えば酸素の欠乏、機械的刺激及び前述した血管新生タンパク質などの血管新生物質を使用する化学的刺激が挙げられる。
【0157】
血管新生物質は、マイクロ流体チャンネル内の液体組成物に加えることができるが、オルガノイド区画を介してゲル液滴の上にも同様に加えることができる。オルガノイド区画内に存在するゲル液滴の上に加えられると、これは、内皮細胞をゲル及びオルガノイド組成物中に引き入れる。
【0158】
典型的な新生混合物は、VEGF、MCP−1、HGF、bFGF、PMA、S1Pを、VEGF、MCP−1、HGF、bFGF及びPMAのそれぞれでは37.5ng/ml〜150ng/ml、及びS1Pでは250nM〜1000nMの量で含む。代替の典型的な発芽性ミックス組成物は、S1P 500nM、VEGF 50ng/ml、FGF 20ng/ml、PMA 20ng/mlを含む。
そのため、さらなる実施形態では、培養方法は、マイクロ流体チャンネル壁及びゲルを内張りする内皮細胞の血管新生を可能にするか又は誘導する細胞培養の工程を含む。このようにして、マイクロ流体チャンネルの入口と出口とを接続し、チャンネル表面を内張りし、オルガノイドを含むゲル中へ延びる血管が形成される。
【0159】
血管新生を促進する化学誘引物質、又は血管新生物質、又は異なる血管新生物質の組成物(116、
図23)は、オルガノイド区画のウェル中のゲル上に又はゲルを通してのみ内張された血管を有するチャンネルの領域と連通し、そのため、チャンネルの第1の領域と実質的に向かい合うマイクロ流体チャンネルの領域と接触しているマイクロ流体ネットワークの別の入口によって加えることができる。血管新生化合物(又は組成物)は、血管が透過性になるように誘導し、勾配の方向の増殖及び移動によって発芽を誘導する。任意選択により、オルガノイド及びオルガノイドゲル容積に完全に血管が生成されると、血管構造もマイクロ流体チャンネルの第2の領域に形成され得る。
【0160】
この方法の好ましい結果は、増殖培地、血清又は他の流れが適用され得る1つ以上のマイクロ流体チャンネルを介してより大きい血管に接続する微少血管によって血管が生成されるゲル中のオルガノイドである。したがって、装置を使用して、オルガノイド区画を含むネットワークの第1の閉じこめられた副容積内の第1の種類の細胞を、マイクロ流体チャンネルを含む第2の副容積内の内皮細胞の培養物と共培養して、マイクロ流体チャンネル内に形成された内皮血管によって貯留部に接続される、オルガノイド組成物のゲル液滴内に存在する細胞集合体、オルガノイド又はスフェロイドの血管生成モデルを得ることができる。
【0161】
マイクロ流体チャンネルの血管生成によって形成される血管は、血管の頂端側である管腔を有する一方、血管の外側は、基底側である。一例では、血管新生化合物又はその組成物は、指向性血管新生を誘導するために血管の基底側に適用される。
【0162】
そのため、既存のモデルと異なり、この装置の使用は、オルガノイド組成物のゲル液滴内に存在する細胞集合体、オルガノイド又はスフェロイドの血管生成モデルを横切る培地の流れの誘導を可能にする。
貯留部内の液体を動かす培養方法の工程、並びにマイクロ流体チャンネル内の液体を動かす工程を含む方法は、本方法の範囲内である。単純な例がマイクロ流体ネットワークの揺動運動を示す
図24において提供される。すなわち、それにより、傾斜角下に装置を置くことにより流れが誘導され、流れは傾斜角を周期的に変化させることによって維持され、貯留部内の液体レベルのそれぞれの上昇(119)及び下降(117)が、マイクロ流体チャンネル及び血管が生成されたオルガノイド区画を介して連通する(118)。
【0163】
図25は、毛細管圧バリアによって閉じこめられたマトリゲルECM中の腸管(腸)オルガノイドを培養し、増殖培地の流れを、マイクロ流体チャンネルを介して導入した実験結果を示す。3日目〜6日目で増殖培地を交換せず、細胞死がもたらされた。
【0164】
図26は、
図8による細胞培養装置において血管新生を誘導した実験結果を示す。ゲル液滴をオルガノイド区画(103)に導入し、線状毛細管圧力バリア(105)によってピンニングし、ゲル化させた。ゲル化した時点で、内皮細胞(HUVEC)をマイクロ流体チャンネル102/102aに導入した。内皮細胞によりマイクロ流体チャンネル内で血管を形成させ、それによってチャンネル壁及びゲルを内張りする。続いて、血管新生化合物(VEGF、FGF、PMA及びS1P)の組成物をゲルの上に加え、オルガノイド区画内の微小血管の形成から明らかなように、ゲル中の血管新生を刺激した。誤解を避けるために、この特定の実験は、ゲル中の血管生成を見ることができるように、ゲル中又はゲルの上にいかなるオルガノイド又はスフェロイドも存在させずに行った。
【0165】
細胞集合体に血管を生成するための方法の工程を
図27A〜27Eに示す。この特定の実施形態は、マイクロ流体細胞培養装置の特定の構成で実施されるような方法を明示するが、この方法は、マイクロ流体細胞培養装置の他の構成により一般的に適用可能であることが理解されるであろう。第1の工程では、細胞又は細胞集合体を含まないゲル又はゲル前駆体の液滴(106)(
図27A)をオルガノイド区画(103)に導入し、毛細管圧バリア(105)上にピンニングし、固化(硬化、ゲル化)させる。
【0166】
ゲルの液滴が固化した時点で、マイクロ流体チャンネル(102)に第2の液体、典型的には、細胞培地、緩衝溶液、試験溶液又は未硬化ヒドロゲルを入れることができる。したがって、装置内において、ゲルと、マイクロ流体チャンネル内の第2の液体との界面には、人工的な境界のない交換表面がもたらされる。
【0167】
細胞培地をマイクロ流体チャンネルに導入することが可能であるため、細胞をマイクロ流体チャンネルに導入することも同様に可能である。このような実施形態の1つを
図27Bに示すが、そこでは内皮細胞(114)がマイクロ流体チャンネルに導入される。これらは、細胞培地又は細胞増殖培地の成分として導入されてもよく、後に導入されてもよい。このように播種された装置の培養時、第2の液体(マイクロ流体チャンネルに入れられた液体)の組成に応じて、内皮細胞(114)は、マイクロチャンネルの内面、すなわち壁、基材及び上部に血管を生成するか又はそれらを内張し、またECMゲル表面にも血管を形成するか、又はそれらを内張りする可能性がある(
図27Bを参照)。
【0168】
さらなる工程では、培養条件は、ゲル液滴内に毛細血管を形成することにより、マイクロ流体チャンネルにおいて形成された血管の血管新生を可能にするか又は誘導する(
図27C)。血管新生を可能にする培養条件は、当業者に知られており、例えば酸素の欠乏、機械的刺激及び前述した血管新生タンパク質などの血管新生物質を使用する化学的刺激が挙げられる。
【0169】
血管新生物質は、マイクロ流体チャンネル内の液体組成物に加えることができるが、オルガノイド区画を介してゲル液滴の上にも同様に加えることができる。オルガノイド区画内に存在するゲル液滴の上に加えられると、これは、内皮細胞をゲル中に引き入れる。
【0170】
そのため、さらなる実施形態では、方法は、マイクロ流体チャンネル壁及びゲルを内張りする内皮細胞の血管新生を可能にするか又は誘導する細胞培養の工程を含む。このようにして、マイクロ流体チャンネルの入口と出口とを接続し、チャンネル表面を内張りし、ゲル中へ延びる血管が形成される。
【0171】
したがって、血管新生を促進する化学誘引物質、又は血管新生物質、又は異なる血管新生物質の組成物(116、
図27C)をゲル上に加えることができる。血管新生化合物(又は組成物)は、血管が透過性になるように誘導し、勾配の方向の増殖及び移動によって発芽を誘導する。
【0172】
ゲルの少なくとも一部への血管新生に続いて、細胞集合体(113)をゲルの上面に導入することができる(
図27D)。この工程は、
図27Dに示されるように、細胞を緩衝液又は増殖培地などの好適なキャリア液体中に、細胞がキャリア液体の気液界面下に浸るように導入することによって実現され得る。或いは、特にオルガノイド又は組織外植片などの細胞集合体の例では、この工程は、キャリア液体の非存在下において、マイクロ吸引法などの当該技術分野で知られている細胞を操作及び輸送する手法を使用して実現することができる。
【0173】
最後に、上記のような1つ以上の血管新生化合物の使用により、及び/又は細胞集合体(113)自体の細胞の性質により、微小血管を形成する内皮細胞(114)と細胞集合体(113)との間の血管新生を可能にするか又は誘導することができ(
図27E)、その結果、それぞれの発芽性血管が結合して十分に血管が生成されたシステムが形成される。
【0174】
図27に図示した方法とは別の方法を
図28A〜28Dに示す。
図28A及び28Bの工程は、
図27A及び27Bのステップに対応するためにさらに説明することはしない。マイクロチャンネル(102)の血管生成に続いて、しかしゲル中への微小血管の血管新生前に細胞の単層(120)をゲルの上に加え、その上面全体を覆う(
図28C)。これは、真の単層として描かれているが、これはまた、細胞の多層の、特に多層の組織の、任意選択により異なる細胞種の堆積をもたらし得ることが理解されるであろう。例えば、皮膚組織試料、異なる皮膚細胞種の混合物、又は後に異なる種類の皮膚細胞に分化することができる幹細胞の試料を導入することができる。
【0175】
その後、ゲル中への微少血管の血管新生及びゲルの上面を覆う細胞の層への微少血管の血管新生を、前述したように誘導又は促進することができる(
図28D)。
図22の方法と同様に、
図27及び28に示す両方の方法の結果は、増殖培地、血清又は他の流れが適用され得る1つ以上のマイクロ流体チャンネルを介してより大きい血管に接続する微少血管によって血管が生成されるゲル上面の、1つ以上の細胞又は細胞集合体から形成された生体組織、例えばオルガノイドである。したがって、装置を使用して、オルガノイド区画を含むネットワークの第1の閉じこめられた副容積内の第1の種類の細胞を、マイクロ流体チャンネルを含む第2の副容積内の内皮細胞の培養物と共培養して、マイクロ流体チャンネル内に形成された内皮血管によって貯留部に接続される、ゲル液滴の上面に存在する細胞集合体、オルガノイド又はスフェロイドの血管生成モデルを得ることができる。
【0176】
そのため、既存のモデルと異なり、この装置の使用は、ゲル液滴の上面に存在する細胞集合体、オルガノイド又はスフェロイドの血管生成モデルを横切る培地の流れの誘導を可能にする。
【0177】
図29は、血管床上にオルガノイドを移植した日に血管床上に置かれた腎臓オルガノイドの高分解能画像を示す。上から見たこの画像において、上から下に走る白い線は、毛細管圧バリアの配置場所であり、各側に1つずつの細胞外マトリックスゲルと2つの血管が生成されたマイクロチャンネルとの間の境界を表す。図から分かるように、マイクロチャンネルからの血管系は、細胞外マトリックスゲルへの発芽を既に開始している。
【0178】
図30は、血管床上へのオルガノイドの移植7日後の腎臓オルガノイドの高分解能画像を示す。この画像から分かるように、7日後、細胞外マトリックスゲルへの広範な血管新生は、オルガノイドからの血管系の伸長と共に、オルガノイドが今やマイクロチャンネル内に延びる血管網の一部になる程度にまで起こっている。
【0179】
図31は、血管床上へのオルガノイドの移植7日後のマウス胚腎臓外植片の高分解能画像を示す。画像の右側の上から下へ走る暗線は、毛細管圧バリアであり、右側にはマイクロチャンネルが、左側にはオルガノイド区画(腎臓外植片を収容する)がある。白い矢印は、マウス胚腎臓の増殖した血管系と接続しているヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)血管を示す。
【0180】
図32は、血管床上への移植後7日目の肝細胞及びRFP標識HUVECからなる肝スフェロイドの高分解能画像を示す。肝スフェロイドの内皮は、血管床と接続する。写真は、位相差及び赤色蛍光を示す。
【0181】
図33は、内皮の赤色蛍光を示す、
図32に示すものと同じシステムの高分解能画像を示し、内皮の赤色蛍光を示す。
【0182】
図34は、本発明による装置で使用されるマイクロ流体ネットワークの代替可能な構成の水平上部を示す。この構成は、
図8の変形形態であり、チャンネル及び入口は、全ての入口が一列になるように選択されている。この構成は、各ネットワークが装置上で占めるスペースが少ないため、他の構成よりも特に有利である。
【0183】
図35は、本発明による装置で使用されるマイクロ流体ネットワークの2つの代替可能な構成の水平な上面図を示す。各構成は、各タイプの多数のネットワークが96ウェルプレートフォーマットで使用される場合、それぞれのゲル入口の全て及びそれぞれのマイクロチャンネル出口の全てがそうであるように、ネットワークのそれぞれのマイクロチャンネルの入口の全てが8マルチピペットピッチのピッチでインラインに置かれるため、特に有利である。これにより、マルチチャンネルピペッティング(例えば、ロボットによる)を使用して、1つの動作で多数のネットワークを同時に満たすことが可能になる。
【0184】
実施例プロトコル
次に、本発明の方法を実行するための一連の例示的なプロトコルを記載する。これらは、単なる例であり、異なる試薬又は条件も使用され得ることが理解されよう。
【0185】
血管系のための足場を作製するためのゲルの調製
コラーゲンの早期重合を抑制するために、ゲルの調製工程を氷上で行う。この方法では、ゲルは、4mg/mLのコラーゲンI(AMSbio Cultrex 3DコラーゲンIラット尾、5mg/mL、カタログ3447−020−01)、100mMのHEPES(Life Technologies、15630−122)及び3.7mg/mLのNaHCO
3(Sigma、カタログS5761−500G)から構成される。コラーゲンをHEPES及びNaHCO
3と混合し、
図8によるマイクロ流体ネットワークのオルガノイド区画のゲル入口に施し、37℃で少なくとも20分間インキュベートした。ゲル容積は、用途にもよるが、1μL程度の少ないコラーゲンゲルを装置内に施すことができ、この方法ではカップ様の形状(すなわち凹状の上面を有する)を作製し、これは、後にオルガノイド、組織又は細胞の凝集体の位置決めを促進するであろう。
【0186】
マイクロチャンネル内への内皮細胞の播種
ゲル化後、好適な培地(例えば、PromoCellからの内皮細胞増殖培地MV2)中の単一細胞の懸濁液として、内皮細胞(例えば、HUVEC又は他の任意の内皮細胞源)を一方又は両方のマイクロチャンネルのマイクロチャンネル入口に施す。好適には、内皮細胞2μLを少なくとも0.5×10
6/mLの濃度で各マイクロハンネルに施す。両方のマイクロチャンネルで血管が生成されることが望ましい場合、2つの主な播種方法がある。
1.連続播種、この方法では、第1のマイクロチャンネルに内皮細胞2μLを少なくとも0.5×10E6/mlの濃度で施す。内皮細胞がゲルに接着することを促進するために、プレートを37℃のインキュベーター内に少なくとも15分間、横にして位置させる。この期間後、チャンネル内部の蒸発を避けるため、追加の培地20μLを同じ入口に施す。次に、第2のマイクロチャンネルの播種を行う。少なくとも0.5×10
6/mLの濃度の内皮部細胞懸濁液2μLを2番目のマイクロチャンネルに施す。内皮細胞がゲルに接着することを促進するために、プレートを少なくとも15分間、横にして置く。この期間後、チャンネル内部の蒸発を避けるため、追加の培地20μLを同じ入口に施す。プレートを37℃で少なくとも1時間、静的状態でインキュベートする。次に、追加の培地30μLの培地を各マイクロチャンネル入口に加え、50μLの培地を各マイクロチャンネル出口に施す。プレートを最大傾斜7°、8分間隔の揺動プラットフォーム上に置く。
2.同時播種:この方法では、両方のマイクロチャンネルの各入口に内皮細胞2μLを少なくとも1×10
6/mlの濃度で施す。プレートをインキュベーター中、37℃で静止させる。15分後、追加の培地20μLを2つの入口のそれぞれに加え、プレートを37℃で少なくとも1時間インキュベートする。次に、追加の培地30μLを各マイクロチャンネル入口に加え、50μLの培地を各マイクロチャンネル出口に施す。プレートを最大傾斜7°、8分間隔の揺動プラットフォーム上に置く。
代替の方法では、両方のマイクロチャンネルの各入口に内皮細胞2μLを少なくとも1×10
6/mlの濃度で施す。プレートを、インキュベーター中、37℃で180°回転装置(1分間当たり3回転)上に位置させる。15分後、追加の培地20μLを各入口に加え、プレートを37℃で少なくとも1時間、180°回転装置上でインキュベートする。次に、追加の培地30μLを各マイクロチャンネル入口に加え、50μLの培地を各マイクロチャンネル出口に施す。プレートを最大傾斜7°、8分間隔の揺動プラットフォーム上に置く。
【0187】
内皮細胞の挙動に応じて、血管新生が誘導される前又は任意のオルガノイド/組織/細胞集合体をゲル上に置く前に血管を1日又は2日又は3日又はそれを超えて培養する。このプロセス中、血管新生組成物を加えて、血管新生因子源に向かう芽形成を刺激する血管新生因子の勾配を作り出すことができる。
【0188】
例えば、血管内皮増殖因子(VEGF)、単球走化性タンパク質−1(MCP−1)、肝細胞増殖因子(HGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、ホルボールミリスチン酸アセテート(PMA)、スフィンゴシン−1−リン酸(S1P)などの血管新生因子を、芽形成のために別々に又は組み合わせて使用することができる。
【0189】
この方法では、内皮培地(例えば、MV2)中の血管新生促進因子カクテル(例えば、VEGF50ng/ml、bFGF20ng/ml、S1P500nM、PMA20ng/ml)を少なくとも20μL、例えば50μLまでゲル入口に施して、芽形成を誘導することができる。血管は、少なくとも1日間、血管新生因子カクテルで誘導されるが、これは、必要とされる発芽の程度に応じて4日以上に延長することができる。これは、細胞、細胞集合体、オルガノイド、又は他の組織を受容する準備ができているチップ上の血管床をもたらす。
【0190】
外植片組織の調製:
例として、マウス胚腎臓原基を、胚11日目に胚から切り出す。切り出し工程の全ては、1Xペニシリン/ストレプトマイシン、25mM HEPES及び10%FCSを補充したDMEM培地中で行う。この方法では、まず、20〜30μLの容量の培地(培地:10%FCS、1xglutamax、1x1Xペニシリン/ストレプトマイシンを補充したDMEM)をゲルの表面に施す。
【0191】
腎臓外植片をゲルに移送するためにキャピラリーマイクロピペットを使用することができる。ピペッティングによって組織を移送するこの方法は、組織の損傷を防止するであろう。移送された組織は、ゲル入口開口の中央にあるプレートの底部に沈む。組織の位置がゲル上の中心にない場合、小さい細い針(例えば、BD MicroFine1mL注射針)又は微細な鉗子(例えば、Dumont#5)を使用して、組織を所望の位置に押すことによって位置を調整することができる。
【0192】
外植血管の共培養
外植組織は、0日目又は発芽誘導後の任意の他の日にゲルの上に位置させることができる。
【0193】
外植組織は、血管新生因子カクテルを含むか又は含まない組織特異的培地と共に置くことができる。共培養において血管新生カクテルが存在しない組織の細胞は、例えば、組織自体が血管新生因子を生成している場合、芽をさらに引き入れ得る。外植片を共培養した後、血管新生因子が培地に加えられる状況では、これらの因子は、組織の血管を刺激することができる。
【0194】
外植体は、数日毎に培養し、モニターすることができる。マイクロチャンネルを介した媒体交換は、毎日、又は1日置きに、又は2日置きに行うことができる。任意選択により、培地の半分だけを一度に交換して、培地の全容量交換中のpH、浸透圧、酸素分圧などの突然の変化によって引き起こされ得る共培養物中の細胞にストレスを与えることを回避することができる。
【0195】
細胞培養装置内で数時間後、組織は、ゲルの上部に付着し、ゲル表面の大部分を覆う。組織位置を保存するためにECMの重ね層を組織の上に施すことができる(例えば、培地と混合したコラーゲン、マトリゲル又はフィブリンゲルを用いることができる)。例えば、次のようになる:培養の最初の12〜24時間後、全ての培地を培地チャンネルから除去する。マトリゲルを氷冷培地と混合して、マトリゲルの濃度を1〜5mg/mlに調整する。20μLのゲル/培地混合物を組織の上に施し、37℃で10分間インキュベートする。次いで、追加の温かい培地30μLをマトリゲル重ね層の上に施す。
【0196】
ここで、細胞培養装置は、オルガノイド、組織外植片又はチップ上の血管網に接続された他の生体組織を含む。血管生成の程度は、例えば、RFP標識HUVECなどの蛍光標識内皮細胞を用い、顕微鏡を用いてモニターすることができる。このような方法により製造されたシステムは、組織に対する試験化合物の効果を調べる任意の所望のアッセイ、例えば、本明細書中に記載されるアッセイにおける使用の準備ができている。
【0197】
上記の説明は、本発明を実施する方法を当業者に教示する目的のものであり、説明を読むと明らかになるであろう全ての修正形態及び変形形態を詳述することを意図していない。しかし、そのような修正形態及び変形形態の全ては、以下の特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲内に含まれるものとする。