特許第6967549号(P6967549)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6967549
(24)【登録日】2021年10月27日
(45)【発行日】2021年11月17日
(54)【発明の名称】ブラシの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A46B 3/06 20060101AFI20211108BHJP
【FI】
   A46B3/06
【請求項の数】1
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2019-85345(P2019-85345)
(22)【出願日】2019年4月26日
(62)【分割の表示】特願2015-189212(P2015-189212)の分割
【原出願日】2015年9月28日
(65)【公開番号】特開2019-115822(P2019-115822A)
(43)【公開日】2019年7月18日
【審査請求日】2019年4月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】中村 仁
(72)【発明者】
【氏名】瀧川 誠一
【審査官】 関口 知寿
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−254787(JP,A)
【文献】 実開昭63−095825(JP,U)
【文献】 特開2001−190333(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2012−0056311(KR,A)
【文献】 米国特許出願公開第2001/0038237(US,A1)
【文献】 特開2000−257605(JP,A)
【文献】 特開2008−224782(JP,A)
【文献】 特開昭60−241404(JP,A)
【文献】 実開平06−057230(JP,U)
【文献】 特開2000−041736(JP,A)
【文献】 特開2011−125533(JP,A)
【文献】 特表2006−514854(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0043165(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A46B 3/00
A46B 3/06
A46B 9/00
A46D 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛束をヘッド部に植設したブラシの製造方法であって、
前記ヘッド部の表面と背面を貫通した複数の植設穴と、
合成樹脂製繊維からなり、前記植設穴に挿通される毛束と、
前記植設穴に挿通した毛束のヘッド部背面側の一端部に形成された、前記毛束が溶融固化した状態の塊状部と、
前記毛束の塊状部が係止される、植設穴に形成された係止部と、
前記植設穴に設けられた、前記係止部に係止された毛束の塊状部の背面側を覆い、かつ前記植設穴を閉塞する、樹脂を溶融固化した状態の毛束固定部と、
を備え、
前記毛束固定部が、前記ヘッド部の一部あるいは前記ヘッド部と別の閉塞部材が溶融固化した状態で前記植設穴ごとに設けられ、前記ヘッド部の背面から突出した凸部として形成された毛束固定部であり、
かつ、前記塊状部がヘッド部の表面からヘッド部厚さの50%以上の位置に配置されるブラシの製造方法において、
貫通した植設穴と、前記係止部とを備えるヘッド部を形成する工程と、
前記ヘッド部形成工程の後、合成樹脂製繊維からなる毛束を、前記植設穴に挿通する工程と、
前記植設穴に毛束を挿通する工程の後、ヘッド部の背面側における毛束の一端部を、溶融固化し、塊状部を形成する工程と、
前記塊状部の形成工程の後、前記塊状部を前記係止部に係止する工程と、
前記植設穴に形成され、かつ溶融した樹脂により前記塊状部の背面側を覆い、前記溶融した樹脂が固化することにより前記毛束を前記ヘッド部に固定する、毛束固定部を形成する工程と、
を備え、
前記ヘッド部形成工程において、前記ヘッド部の背面側の植設穴の周囲を囲うように壁部を形成し、
前記毛束をヘッド部に固定する工程において、前記壁部を溶融固化し、前記ヘッド部の背面側の植設穴に、前記塊状部の背面側を覆う毛束固定部を形成し、かつ毛束固定部が前記ヘッド部の背面から突出した凸部として形成されることを特徴とするブラシの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はブラシ及びブラシの製造方法に関し、例えば、平線を用いない無平線タイプのブラシ及びブラシの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブラシとしては、ヘアブラシ、ボディブラシ、メイクブラシ、靴ブラシ、洋服ブラシ等、種々のブラシがある。
例えば、歯ブラシとしては、図13に示す特許文献1に示された歯ブラシが提案されている。以下に、特許文献1に示された歯ブラシについて説明する。
【0003】
図13に示す歯ブラシ11は、毛束12を二つ折りにして、その折り曲げ部を歯ブラシのヘッド部15の表面に凹設した植毛穴13に挿入し、毛束12の折り曲げ部の内側に平線14をわたし、平線14の両端部を歯ブラシのヘッド部15表面に固定している。この毛束12は、前記平線14によってヘッド部15に固定される。
この平線14を用いる歯ブラシ11にあっては、ヘッド部15は平線14の圧入に耐えるような肉厚が必要となり、ヘッド部15が大きくなるという問題があった。また、ヘッド部15は樹脂で形成され、平線14は金属で形成されるため、ヘッド部15と平線14を分離し、分別廃棄するのが難しいという問題があった。
【0004】
そこで、前記平線14を用いた歯ブラシ11の問題を解決するものとして、例えば、特許文献2に示すような平線を用いない無平線タイプの歯ブラシが提案されている。
平線を用いない無平線タイプの歯ブラシについて、図14に基づいて説明する。
この無平線タイプの歯ブラシ20は、ヘッド部21に植毛穴22が形成されると共に、ヘッド部21の背面に凹部23が形成され、前記植毛穴22は前記凹部23内に開口している。そして、前記植毛穴22に毛束24を挿入し、前記凹部内23に樹脂25を充填することにより、前記毛束24をヘッド部21に固定している。
【0005】
更に、この無平線タイプの歯ブラシ20の製造方法について、図15に基づいて説明する。まず、ヘッド部21に植毛穴22と凹部23が形成された歯ブラシ本体(ヘッド部21)を成形する。
そして、図15(a)に示すように、毛束保持治具30にヘッド部21を据付ける。この毛束保持治具30は、ヘッド部21の据付部31と、据付部31に据付けられるヘッド部21の植毛穴22に連なる毛束整形孔32を備えている。
【0006】
次に、毛束植設装置(図示せず)により、毛束保持治具30に据付けられているヘッド部21の植毛穴22から毛束保持治具30の毛束整形孔32に、毛束24を植設し、毛束24の先端部を毛束整形孔32の孔底面に押し当て整形する。
【0007】
更に、毛束端面溶融装置40により、図15(b)に示すように、ヘッド部21の凹部23内に出ている毛束24の端面を溶融し、塊状部24aを形成する。
続いて、図15(c)に示すように、前記ヘッド部21を有する歯ブラシと毛束保持治具30を、搬送装置(図示せず)によって、成形装置50に搬送し、位置決めする。
その後、図15(d)に示すように、成形装置50の成形金型51の注入口52(ゲート)から導入される背面充填材(樹脂成形材)60を、前記凹部23内に注入して、ヘッド部21に毛束24を固定する。 前記充填材60の固化後、成形金型51を開いて歯ブラシ20及び毛束保持治具30を取出し、歯ブラシ20を毛束保持治具30から外すことにより、図15(e)に示すような、歯ブラシ20が完成する。
【0008】
ところで、前記した無平線タイプの歯ブラシ20は、予め形成されたヘッド部21の植毛穴22に、毛束24を挿入し、前記凹部内23に樹脂25を充填することにより、前記毛束24をヘッド部21に固定したものであるが、その他に、歯ブラシのヘッド部と柄部(以下、ヘッド部と柄部を含めて歯ブラシ本体という)を形成する際に、毛束のヘッド部への固定を同時に行う、無平線タイプの歯ブラシも知られている。
この歯ブラシ本体の形成と毛束のヘッド部の固定を同時に行う、無平線タイプの歯ブラシについて、図16に基づいて説明する。尚、図14図15に示した部材と同一あるいは相当する部材は、同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0009】
図16(a)に示すように、毛束保持治具30は、歯ブラシ本体部を形成するための凹部からなる歯ブラシ本体部形成部33と、歯ブラシ本体部形成部33に開口する毛束整形孔32を備えている。
そして、この毛束保持治具30の毛束整形孔32に、毛束植設装置(図示せず)により、毛束24を植設し、毛束24の先端部を毛束整形孔32の孔底面に押し当て整形する。
その後、毛束端面溶融装置40により、図16(b)に示すように、歯ブラシ本体部形成部33内に出ている毛束24の端面を溶融し、塊状部24aを形成する。
【0010】
続いて、図16(c)に示すように、毛束保持治具30を、搬送装置(図示せず)によって、成形装置50に搬送し、位置決めする。
その後、図16(d)に示すように、成形装置50の成形金型51の注入口52(ゲート)から導入される樹脂成形材60を、前記ヘッド部形成部33内に注入して、歯ブラシ本体部(ヘッド部と柄部)26の形成と、毛束24のヘッド部21の固定を行う。
前記成形材60の固化後、成形金型51を開いて歯ブラシ20及び毛束保持治具30を取出し、歯ブラシ20を毛束保持治具30から外すことにより、図16(e)に示すような、歯ブラシ20が完成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−56478公報
【特許文献2】特開2003−235648公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、図14図15に示した従来の無平線タイプの歯ブラシにあっては、成形装置によって背面充填材(樹脂成形材)が、前記ヘッド部に形成された一つの凹部内に所定の注入圧で充填される。この注入圧は、一つの凹部全体に背面充填材を行き渡らせるために、高い注入圧で行われる。
そのため、この従来の無平線タイプの歯ブラシでは、凹部内に充填された樹脂が毛束の毛の間を通ってヘッドの表面に滲み出る虞もあり、また毛束を構成する毛の下端部同士が前記樹脂によって接着され、また毛束を構成する毛の下端部が植毛穴に接着され、毛束の所定のしなやかさが失われるという技術的課題があった。
【0013】
また、ヘッド部に形成された凹部側壁には前記注入圧が作用するため、肉厚な縁部F(ヘッド部21の側面と凹部23の内面との間の厚さ、図14参照)を形成する必要があり、植毛穴を歯ブラシ本体(ヘッド部)の外縁部近傍に形成することができかった。即ち、歯ブラシ本体(ヘッド部)全体に毛束を形成できず、良好な使用感が得られないという技術的課題があった。
【0014】
また、図16に示した従来の無平線タイプの歯ブラシにあっては、歯ブラシ本体部(ヘッド部と柄部)の成形と、毛束のヘッド部の固定が同時に行われる。
この無平線タイプの歯ブラシにおいては、図17に示すように、植毛穴22自体の形状が毛束24に倣った形状になり、植毛穴22と毛束24との間の隙間が失われるという技術的課題があった。また、毛束24を構成する毛の下端部24A同士が歯ブラシ本体部の形成する樹脂によって接着され、また毛束24を構成する毛の下端部24Aが前記樹脂によって植毛穴22に接着され、毛束の所定のしなやかさが失われるという技術的課題があった。
【0015】
上記したように、いずれの無平線タイプの歯ブラシも、毛束を構成する毛の下端部同士が樹脂によって接着され、また毛束を構成する毛の下端部が植毛穴に接着され、更には、植毛穴と毛束の間の隙間が失われる場合がある。
その結果、従来の無平線タイプの歯ブラシにあっては、毛束の所定のしなやかさが失われ、また毛間の水抜けが悪く、歯ブラシの使用感が劣るという技術的課題を有するものであった。
【0016】
本発明者は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、水抜けが良く、また毛束の所定のしなやかさを維持できる使用感の良いブラシの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するためになされた本発明にかかるブラシの製造方法は、毛束をヘッド部に植設したブラシの製造方法であって、前記ヘッド部の表面と背面を貫通した複数の植設穴と、合成樹脂製繊維からなり、前記植設穴に挿通される毛束と、前記植設穴に挿通した毛束のヘッド部背面側の一端部に形成された、前記毛束が溶融固化した状態の塊状部と、前記毛束の塊状部が係止される、植設穴に形成された係止部と、前記植設穴に設けられた、前記係止部に係止された毛束の塊状部の背面側を覆い、かつ前記植設穴を閉塞する、樹脂を溶融固化した状態の毛束固定部と、を備え、前記毛束固定部が、前記ヘッド部の一部あるいは前記ヘッド部と別の閉塞部材が溶融固化した状態で前記植設穴ごとに設けられ、前記ヘッド部の背面から突出した凸部として形成された毛束固定部であり、かつ、前記塊状部がヘッド部の表面からヘッド部厚さの50%以上の位置に配置されるブラシの製造方法において、貫通した植設穴と、前記係止部とを備えるヘッド部を形成する工程と、前記ヘッド部形成工程の後、合成樹脂製繊維からなる毛束を、前記植設穴に挿通する工程と、前記植設穴に毛束を挿通する工程の後、ヘッド部の背面側における毛束の一端部を、溶融固化し、塊状部を形成する工程と、前記塊状部の形成工程の後、前記塊状部を前記係止部に係止する工程と、前記植設穴に形成され、かつ溶融した樹脂により前記塊状部の背面側を覆い、前記溶融した樹脂が固化することにより前記毛束を前記ヘッド部に固定する、毛束固定部を形成する工程と、を備え、前記ヘッド部形成工程において、前記ヘッド部の背面側の植設穴の周囲を囲うように壁部を形成し、前記毛束をヘッド部に固定する工程において、前記壁部を溶融固化し、前記ヘッド部の背面側の植設穴に、前記塊状部の背面側を覆う毛束固定部を形成し、かつ毛束固定部が前記ヘッド部の背面から突出した凸部として形成されることを特徴としている。
【0018】
このように、本発明にかかる製造方法で製造されるブラシにあっては、植設穴に設けられた、毛束固定部によって、毛束の塊状部が固定されている。
即ち、毛束が毛束固定部によって、前記ヘッド部に固定されているため、仮に植毛穴に成形樹脂を充填する場合であっても、従来のような高い樹脂注入圧で充填する必要はない。
その結果、充填された樹脂が毛束の毛の間を通ってヘッドの表面へ滲み出すのを抑制でき、また毛の下端部同士の接着及び前記毛の下端部と植毛穴との接着を抑制でき、更に植毛穴自体の形状が毛束に倣った形状になるのを抑制できる。
したがって、本発明にかかる製造方法で製造されるブラシは、水抜けが良く、また毛束の所定のしなやかさを維持できる使用感の良いブラシとすることができる。
【0019】
また、植設穴に毛束固定部が形成されるため、従来のようなヘッド部に一つの凹部が形成されている場合に比べて、凹部の肉厚な縁部が存在しないために、植毛穴をヘッド部の外縁部近傍に形成することができ、ヘッド部全体により多くの毛束を形成することができ、使用感の良いブラシを得ることができる。
【0020】
また、前記毛束固定部は、前記ヘッド部の一部あるいは前記ヘッド部と別の閉塞部材が溶融固化したものであるため、樹脂を充填する場合のように樹脂が毛束の毛の間を通ってヘッドの表面に滲み出ることもなく、毛の下端部同士の接着及び前記毛の下端部と植毛穴との接着を防止することができ、また植毛穴自体の形状が毛束に倣った形状になるのを防止することができる。
その結果、水抜けが良く、また毛束の所定のしなやかさを維持できる使用感の良い歯ブラシを得ることができる。
特に、植毛穴の形状を所望の形状に維持することができるため、植毛穴と毛束との間に隙間を形成できると共に、植毛穴の面積と毛束の総面積の割合(毛束の占有率)を、所望の割合に容易になすことができ、所望の水抜け、所望の毛束のしなやかさを有するブラシを得ることができる。
【0022】
また、前記毛束固定部は、植設穴に設けられ、前記ヘッド部の背面から突出した凸部として形成されている。
このように、固定部の表面がヘッド部背面から突出するように構成されることにより、ヘッド部の厚さを薄くしつつ、ヘッド部(植毛穴)による毛束の保持長さを長くすることができる。
更に、前記毛束の塊状部が、ヘッド部の表面からヘッド部厚さの50%以上の位置に配置されている。
尚、前記ヘッド部厚さの50%未満の位置に配置されている場合には、ヘッド部(植設穴)による毛束の保持長さが短く、また毛の可動支点(ヘッド部表面側の植設穴の縁部と毛の接触点)が前記塊状部の近傍になるため、毛が抜け易いという弊害が生じるため、好ましくない。また、毛の可動支点が前記塊状部の近傍になるため、毛の振幅が大きくなるため、毛先が開き易くなるという弊害が生じるため、好ましくない。
【0023】
ここで、前記ヘッド部の表面側の植設穴の開口縁が、曲面形状あるいは面取りされているのが望ましい。
前記ヘッド部の表面側の植設穴の開口縁が垂直な角部である場合には、前記角部により毛が折れ曲がり易くなり、好ましくない。これに対して、植設穴の開口縁が曲面形状あるいは面取りされている場合には、毛の折れ曲がりが抑制されると共に、製造時に毛束を挿入する際のガイドとしての機能させることができる。
【0024】
特に、本発明にかかるブラシの製造方法は、上記のブラシの製造方法において、貫通した植設穴と、前記係止部とを備えるヘッド部を形成する工程と、前記ヘッド部形成工程の後、合成樹脂製繊維からなる毛束を、前記植設穴に挿通する工程と、前記植設穴に毛束を挿通する工程の後、ヘッド部の背面側における毛束の一端部を、溶融固化し、塊状部を形成する工程と、前記塊状部の形成工程の後、前記塊状部を前記係止部に係止する工程と、前記植設穴に形成され、かつ溶融した樹脂により前記塊状部の背面側を覆い、前記溶融した樹脂が固化することにより前記毛束を前記ヘッド部に固定する、毛束固定部を形成する工程と、を備え、前記ヘッド部形成工程において、前記ヘッド部の背面側の植設穴の周囲を囲うように壁部を形成し、前記毛束をヘッド部に固定する工程において、前記壁部を溶融固化し、前記ヘッド部の背面側の植設穴に、前記塊状部の背面側を覆う毛束固定部を形成し、かつ毛束固定部が前記ヘッド部の背面から突出した凸部として形成されることを特徴としている。
【0025】
このように、本発明にかかるブラシの製造方法は、植設穴に形成され、かつ溶融した樹脂により前記塊状部の背面側を覆い、前記溶融した樹脂が固化することにより前記毛束を前記ヘッド部に固定する、毛束固定部を形成する工程を備えている。そして、毛束が毛束固定部によって、前記ヘッド部に固定されるようになされるため、仮に植毛穴に成形樹脂を充填する場合であっても、従来のような高い樹脂注入圧で充填する必要はない。
その結果、充填された樹脂が毛束の毛の間を通ってヘッド表面へ滲み出すのを抑制でき、また毛の下端部同士の接着及び前記毛の下端部と植毛穴との接着を抑制でき、更に植毛穴自体の形状が毛束に倣った形状になるのを抑制できる。
したがって、本発明にかかるブラシにあっては、水抜けが良く、また毛束の所定のしなやかさを維持できる使用感の良いものとすることができる。
【0026】
また、植設穴に毛束固定部が形成されるため、従来のようなヘッド部に一つの凹部が形成されている場合に比べて、凹部の肉厚な縁部が存在しないために、植毛穴をヘッド部の外縁部近傍に形成することができ、ヘッド部全体により多くの毛束を形成することができ、使用感の良いブラシとすることができる。
【0028】
また、前記ヘッド部形成工程において、前記ヘッド部の背面側の植設穴に、植設穴の周囲を囲うように壁部を形成し、前記毛束をヘッド部に固定する工程において、前記壁部を溶融固化し、前記ヘッド部の背面側の植設穴に、前記塊状部の背面側を覆う毛束固定部を形成する。
このように、ヘッド部の背面側の植設穴の周囲を囲うように形成された壁部を形成し、この壁部を溶融固化することにより、容易に塊状部の背面側を覆うことができ、前記毛束を前記ヘッド部に確実に固定することができる。
特に、植毛穴の形状を所望の形状に維持することができるため、植毛穴と毛束との間に隙間を形成できると共に、植毛穴の面積と毛束の総面積の割合(毛束の占有率)を、所望の割合に容易になすことができ、所望の水抜け、所望の毛束のしなやかさを有するブラシを得ることができる。
また、前記毛束固定部は、植設穴に設けられ、前記ヘッド部の背面から突出した凸部として形成されている。
このように、固定部の表面がヘッド部背面から突出するように構成されることにより、ヘッド部の厚さを薄くしつつ、ヘッド部(植毛穴)による毛束の保持長さを長くすることができる。
【0030】
尚、ヘッド部の一部、あるいは植設穴が配置されたヘッド部と別の閉塞部材を溶融固化し、前記塊状部の背面側を覆い、前記毛束を前記ヘッド部に固定する固定部を形成する場合には、成形金型を必要としないため、安価に製造することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、水抜けが良く、また毛束の所定のしなやかさを維持できる使用感の良いブラシ及びブラシの製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、本発明にかかる歯ブラシの一実施形態を示す斜視図であり、(a)は歯ブラシの背面側からみた斜視図であり、(b)は歯ブラシの表面側からみた斜視図である。
図2図2は、図1(a)のI−I断面図である。
図3図3は、図1に示した植設穴の表面側の拡大図である。
図4図4は、毛束に用いられている合成樹脂製繊維(毛)の形状を示す側面図である。
図5図5は、本発明にかかる歯ブラシの製造方法を示す工程図である。
図6図6は、図5に続く歯ブラシの製造方法を示す工程図である。
図7図7は、図5(c)の工程を詳細に示した工程図である。
図8図8は、図6(b)の工程を詳細に示した工程図である。
図9図9は、第1の変形例を示す図であって、図6(b)の工程を詳細に示した工程図である。
図10図10は、第2の変形例を示す図であって、図6(b)の工程を詳細に示した工程図である。
図11図11は、第3の変形例を示す図であって、図6(b)の工程を詳細に示した工程図である。
図12図12は、本発明を洗髪用ブラシに適用した場合を示す図であって、(a)は側面図、(b)は斜視図である。
図13図13は、従来の一の歯ブラシの構造を示す断面図である。
図14図14は、従来の他の歯ブラシの構造を示す断面図である。
図15図15は、従来の他の歯ブラシの製造方法を示す工程図である。
図16図16は、従来の他の歯ブラシの他の製造方法を示す工程図である。
図17図17は、従来の他の歯ブラシの植設穴の表面側の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態を図1乃至図8に基づいて説明する。この実施形態の説明においては、歯ブラシを例にとって説明する。
尚、図1は、本発明にかかる歯ブラシの一実施形態を示す斜視図であり、(a)は歯ブラシの背面側からみた斜視図であり、(b)は歯ブラシの表面側からみた斜視図である。また図2は、図1(a)のI−I断面図である。更に、図3は植設穴の拡大図である。
【0034】
図中、符号1は歯ブラシを示し、符号2は歯ブラシ1の柄を示し、この柄の先端部分に歯ブラシ3が設けられる歯ブラシヘッド(以下、ヘッド部という)4が形成されている。前記歯ブラシ3は、複数本の合成樹脂製繊維5からなる毛束5Aを、前記ヘッド部4の複数個所に植設することにより形成される。
【0035】
また、図2に示すように、前記ヘッド部2の背面側における毛束5Aの一端部には、塊状部5Bが形成されている。この塊状部5Bは、毛束5Aが溶融固化した状態で形成される。
更に、前記ヘッド部4には、毛束5Aが挿通し、保持される複数の植設穴6が形成されている。前記植設穴6の上端部には、前記植設穴6の他の部分(小径部)よりも径が大きい大径部6bが形成されている。尚、この大径部6bは植設穴6の一部を構成するものであり、植設穴6と連通している。即ち、この大径部6bは、前記大径部6b(底面部)と植設穴(小径部)6の境界部に、いわゆる段部である係止部6aを形成するものである。また、前記係止部6aは前記塊状部5Bが係止されるように構成されている。
尚、前記大径部6bは係止部6aが形成できる程度の径を有していれば良く、必要以上に径を大きくすることは、ヘッド部2に形成される植設穴6の数を少なくすることを意味し、好ましくない。
【0036】
この植設穴6は、ヘッド部4の表面4a側と背面4b側とを貫通して形成され、植設穴6(大径部6b)の背面側の開口部を、毛束固定部7によって覆うことによって、前記毛束5Aはヘッド部4に固定される。尚、この毛束固定部7は、ヘッド部4の一部が溶融固化した状態のものである。
【0037】
前記毛束固定部7は、ヘッド部4の背面4bから突出した凸部として形成されている。このように、毛束固定部7の表面がヘッド部4の背面から突出するように構成するのは、ヘッド部4の厚さを薄くしつつ、植設穴6による毛束5Aの保持長さを長くするためである。
特に、前記塊状部5Bが、前記ヘッド部4の表面4aから前記ヘッド部厚さt1の50%以上の位置(寸法t2)に、配置されていることが望ましい。
このヘッド部の厚さとは、ヘッド部の最大厚さをいい、毛束固定部7はヘッド部4の背面4bから突出した凸部として形成されている場合には、ヘッド部4の表面から毛束固定部7の凸部表面までの寸法を言う。
尚、前記ヘッド部厚さの50%未満の位置に配置されている場合には、ヘッド部4(植設穴6)による毛束の保持長さが短く、また毛の可動支点P(ヘッド部表面側の植設穴の縁部と毛の接触点)が前記塊状部5Bの近傍になるため、毛が抜け易いという弊害が生じるため、好ましくない。また、毛の可動支点Pが前記塊状部5Bの近傍になるため、毛の振幅(振れ)が大きくなり、毛先が開き易くなるという弊害が生じるため、好ましくない。
【0038】
また、図3に示すように、前記ヘッド部4の表面側の植設穴6の開口縁6cが、曲面形状あるいは面取りされている。前記ヘッド部4の表面側の植設穴6の開口縁6cが垂直な角部である場合には、前記角部により毛5が折れ曲がり易くなり、好ましくない。これに対して、植設穴6の開口縁6cが曲面形状あるいは面取りされている場合には、毛5の折れ曲がりが抑制されると共に、製造時に毛束5Aを挿入する際のガイドとしての機能させることができる。
【0039】
また、図5(a)に示すように、前記毛束固定部7は、前記ヘッド部4の背面側の植設穴6(大径部6b)の周囲を囲うように形成された、外形が円筒状あるいは円錐台形状(中心部に植設穴6が形成された)の壁部4cを溶融固化して形成される。外形が円筒状あるいは円錐台形状の壁部4cの場合、上方からヒータのような加熱溶融装置を押し当てることにより、容易に毛束固定部7を形成することができる。
尚、前記壁部4cは、植設穴6の全周を囲うように形成する必要はなく、植設穴6の一部を囲うものであっても良い。即ち、前記壁部4cは、溶融して前記植設穴6(大径部6b)の開口部6b1を塞ぎ、前記塊状部5Bを固定できるものであれば良い。
【0040】
また前記ヘッド部4は、ポリプロピレン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリオキシメチレン樹脂等の樹脂で、歯ブラシ1の柄2と一体に形成される。また、前記ヘッド部4は、例えば、幅6〜15mm、長さ15〜35mm、厚さ2〜7mmに形成される。
【0041】
また、ヘッド部4に植設された合成樹脂製繊維5は、例えば、ヘッド部4の表面から9〜14mmの長さに形成される。前記歯ブラシ3を構成する合成樹脂製繊維5の素材としては、6,6−ナイロン,6−ナイロン、12−ナイロン、6,10−ナイロン、6,12−ナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂が用いられている。
【0042】
この歯ブラシ部3を構成する合成樹脂製繊維5としては、図4(a)で拡大した模式図で示すように、先端に向かうにしたがって径が徐々に小さく形成され、先端部に先細りのテーパ面5a1が形成されたテーパ繊維5aと、図4(b)で拡大した模式図で示すように、円柱状の繊維(非テーパ繊維)5bとを含んでいる。
このテーパ繊維5aのテーパ面5a1長さXは、合成樹脂製繊維の先端から1〜5mmの範囲に形成されている。
【0043】
このようにテーパ繊維5aのテーパ面5a1長さXが、合成樹脂製繊維の先端から1〜5mmの範囲に形成したのは、歯周ポケット等の掃き出し効果と、歯面の清掃効果を考慮したものである。その結果、中程度の歯周炎を患っている患者に対応した歯ブラシとすることができる。
即ち、テーパ面5a1長さXが1mm未満の場合、テーパ繊維5aが歯周ポケットの深部まで侵入せず、前記ポケット奥の清掃が不十分になる。一方、テーパ面5a1長さXが5mmを超える場合、毛先(テーパ繊維)が細くなり過ぎ、歯周ポケット内の汚れを掃き出し難く、また、腰(曲げに対する反発力)が弱く、歯面を磨く効果も低下するため、好ましくない。
【0044】
この合成樹脂製繊維としては、直径が0.10mm〜0.25mm程度のものが適度な弾力が得られると共に、曲がりや折れなどの抑制効果も有しており、歯ブラシの歯ブラシとして好適に利用することができる。
前記直径は、テーパ繊維5a及び非テーパ繊維5b共に、好ましくは0.15mm〜0.25mmのものが良い。尚、前記テーパ繊維5aの直径は、円柱部(テーパ面5a1が形成されていない部分)の径である。
【0045】
また、前記合成樹脂製繊維は円柱状以外に、その断面形状が楕円形状、星型形状、まゆ型形状、十字型形状、多角形型形状のいずれであっても良い。
【0046】
また、合成樹脂製繊維5が集合した一つ束の繊維の数は、適宜設定することができるが、通常一つの植毛穴6から飛び出る本数として20〜50本のものを好適に利用することができる。また、前記歯ブラシ1の柄2の先端部に植設される繊維束5A(植毛穴6)の数は、適宜設定することができるが、通常14箇所〜40箇所植設されるものを好適に利用することができる。
【0047】
以上のように構成された歯ブラシにあっては、平線を用いることなく、植設穴6に挿通した毛束5Aの一端部に形成された塊状部5Bを、ヘッド部4の一部を溶融固化した状態の毛束固定部7によって固定される。そのため、従来の歯ブラシのように一つの凹部内に樹脂を充填しないため、前記毛束を固定する固定部とヘッド部の界面が存在せず、固定部が脱落するという弊害を防止することができる。
【0048】
また、前記歯ブラシは、歯ブラシ本体部(ヘッド部と柄部)の形成と毛束のヘッド部への固定が同時に行われる従来の歯ブラシと異なり、毛の下端部同士が接着されることはなく、また毛の下端部が歯ブラシ本体部(ヘッド部)に接着されることもない。
また、前記歯ブラシの植毛穴は、前記従来の歯ブラシのように毛束に倣った形状にならず、毛の下端部と歯ブラシ本体部(ヘッド部)との間に隙間が形成される。
その結果、水抜けが良く、また毛束の所定のしなやかさを維持できる使用感の良い歯ブラシを得ることができる。
特に、また植毛穴の形状を所望の形状に維持することができるため、植毛穴と毛束との間に隙間を形成できると共に、植毛穴の面積と毛束の総面積の割合(毛束の占有率)を、所望の割合に容易になすことができ、所望の水抜け、所望の毛束のしなやかさを有する歯ブラシを得ることができる。
【0049】
次に、本発明にかかる歯ブラシの製造方法の一実施形態について説明する。
まず、図5(a)に示すように、複数の貫通した植設穴6と、前記植設穴6の上部に設けられた大径部6bの底面に形成された係止部6aとを備えるヘッド部4を有する歯ブラシ1を樹脂成形により形成する。
前記ヘッド部4を有する歯ブラシ1を形成した後、図5(b)に示すように、複数の合成樹脂製繊維5からなる毛束5Aを、前記植設穴6に挿通する。このとき、前記植設穴6の表面側の開口縁(開口部6c)が曲面形状あるいは面取りされている。
そのため、植設穴6の表面側の開口縁(開口部6c)は、前記毛束5Aを挿入する際のガイドとして機能し、前記毛束5Aを前記植設穴6に容易に挿通することができる。
【0050】
前記植設穴6に毛束5Aを挿通した後、図5(c)に示すように、ヘッド部4の背面側における毛束5Aの一端部を、加熱溶融装置8により、溶融、固化し、塊状部5Bを形成する。
この加熱溶融装置8としては、一般的に用いられているヒータのような加熱溶融装置、あるいはインパルスウェルダー(IPW)を用いることができる。
前記ヒータを用いる場合には、毛束5Aの一端部に近接(非接触)させて加熱溶融するため、塊状部5Bの形状の形を整えることができない。そのため、後の工程の押し込み工程で、塊状部5Bを大径部6b内に収容することができない虞がある。
一方、インパルスウェルダー(IPW)を用いる場合には、加熱チップ8aを有し、前記加熱チップ8aに接触させることにより、塊状部5Bを形成するため、その形状を整えることができ、塊状部5Bを大径部6b内に収容できないという弊害を防止することができる。
【0051】
図7に基づいて、インパルスウェルダー(IPW)を用いて塊状部5Bを形成する場合について説明する。
前記したように、インパルスウェルダー(IPW)を用いる場合には、加熱チップ8aを有し、前記加熱チップ8aには所定形状のキャビティ8a1が形成されている。この加熱チップ8aを、図7(a)に示す状態から下降させる。そして、図7(b)に示すように、キャビティ8a内に毛束5Aの一端部を収容し、加熱溶融する。このとき、毛束5Aの一端部は、前記キャビティ8aによって成形され、所定形状の塊状部5Bとすることができる。
【0052】
更に、図5(d)に戻って説明する。
図5(d)に示すように、合成樹脂製繊維(毛)5の毛束5Aを切断した後、図6(a)に示すように、押しピン9で、前記大径部6bの底面によって形成された係止部6aまで前記塊状部5Bを押し込み、前記塊状部5Bを係止部6aに係止させる。
尚、この押し込み工程では、押しピン9で塊状部5Bを押し込む法を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、空気を噴射するノズルを設け、該空気を塊状部5Bに噴射し、塊状部5Bを押し込んでも良い。
【0053】
前記塊状部5Bの押し込み工程の後、図6(b)に示すように、毛束固定部7を形成する。この毛束固定部7の形成には、インパルスウェルダー(IPW)を用いる。
この毛束固定部7の形成工程を、図8に基づいて説明する。前記したように、インパルスウェルダー(IPW)は加熱チップ8bを有し、前記加熱チップ8bには所定形状のキャビティ8b1が形成されている(図8(a)参照)。
【0054】
図8(b)に示すように、この加熱チップ8bを下降させ、キャビティ8a内に壁部4cを収容し、加熱溶融する。このとき、キャビティ8a内の形状に対応して、壁部4cは塊状部5Bの背面側を覆う方向に倒れ、前記大径部6bの上部開口部6b1を塞ぎ、塊状部5Bを固定する毛束固定部7が形成される。即ち、前記塊状部5Bは、前記壁部4cが加熱溶融され固化することにより、ヘッド部4内に埋設され、固定される。
図8(c)に示すように、前記加熱チップ8bを上昇させることにより、ヘッド部4(歯ブラシ1)が完成する。
【0055】
このように、ヘッド部4の一部(壁部4c)を溶融固化することにより、毛束固定部7が形成されるため、従来の歯ブラシのような毛束を固定する固定部とヘッド部の界面が存在せず、機械的強度を増大させることができる。
また、従来の歯ブラシのように成形金型50を必要としないため、安価にヘッド部4(歯ブラシ1)を製造することができる。
しかも、前記歯ブラシは、従来の歯ブラシのように、毛束を構成する毛の下端部同士が接着されることはなく、また毛の下端部が歯ブラシ本体部(ヘッド部)に接着されることもない。また、前記歯ブラシの植毛穴は、歯ブラシ本体部(ヘッド部と柄部)の形成と毛束のヘッド部への固定が同時に行われる従来の歯ブラシと異なり、毛束に倣った形状にならず、毛の下端部と歯ブラシ本体部(ヘッド部)との間に隙間が形成され、植毛穴の形状を維持することができる。
その結果、水抜けが良く、また毛束の所定のしなやかさを維持できる使用感の良い歯ブラシとなすことができる。
【0056】
次に、上記実施形態の第1の変形例について、図9に基づいて説明する。尚、図9において図1乃至図8に示した部材と同一あるいは相当する部材は、同一符号を付し、その説明を省略する。
上記実施形態の毛束固定部7は、前記ヘッド部4の背面側の植設穴6(大径部6b)の周囲を囲うように形成された、ヘッド部の一部である壁部4cを溶融固化して形成されたものである。
これに対して、第1の変形例は、植設穴(大径部6b)の背面側に配置された(ヘッド部と別部材である)、外形が円筒状あるいは円錐台筒形状の閉塞部材10Aを溶融固化することにより形成される点において特徴がある。
【0057】
この毛束固定部7の形成工程を、図9に基づいて説明する。
図9(a)に示すように、閉塞部材10Aを植設穴6の背面側(大径部6b側)に配置する。次に、図9(b)に示すように、インパルスウェルダー(IPW)の加熱チップ8bを下降させ、キャビティ8a内に閉塞部材10Aを収容し、加熱溶融する。このとき、キャビティ8a内の形状に対応して、閉塞部材10Aは塊状部5Bの背面側を覆う方向に倒れ、大径部6bの開口部6b1を塞ぎ、塊状部5Bを固定する毛束固定部7が形成される。即ち、前記塊状部5Bは、前記閉塞部材10Aが加熱溶融され固化することにより、ヘッド部4内に埋設され、固定される。
図9(c)に示すように、前記加熱チップ8bを上昇させることにより、ヘッド部4(歯ブラシ1)が完成する。
【0058】
次に、上記実施形態の第2の変形例について、図10に基づいて説明する。尚、図10において図1乃至図8に示した部材と同一あるいは相当する部材は、同一符号を付し、その説明を省略する。
この第2の変形例は、植設穴の背面側に配置された(ヘッド部と別部材である)、外形が球状あるいは断面が楕円形状の閉塞部材10Bを溶融することにより形成される点において特徴がある。
【0059】
この毛束固定部7の形成工程を、図10に基づいて説明する。
図10(a)に示すように、閉塞部材10Bを植設穴6(大径部6b)の背面側に配置する。このとき、閉塞部材10Bの外形が球状あるいは断面が楕円形状に形成されているため、閉塞部材10Bの一部が、大径部6b内に進入し、仮固定される。
その後、図10(b)に示すように、インパルスウェルダー(IPW)の加熱チップ8bを下降させ、キャビティ8a内に閉塞部材10Bを収容し、加熱溶融し固化することにより、塊状部5Bを固定する毛束固定部7が形成される。
即ち、前記塊状部5Bは、前記閉塞部材10Bが加熱溶融され固化することにより、ヘッド部4内に埋設され、固定される。図10(c)に示すように、前記加熱チップ8bを上昇させることにより、ヘッド部4(歯ブラシ1)が完成する。
【0060】
次に、上記実施形態の第3の変形例について、図11に基づいて説明する。尚、図11において図1乃至図8に示した部材と同一あるいは相当する部材は、同一符号を付し、その説明を省略する。
この第3の変形例は、植設穴の背面側に配置された(ヘッド部と別部材である)、外形がシート状の閉塞部材10Cを溶融固化することにより形成される点において特徴がある。
尚、この変形例あっては、大径部6bが形成されない場合を示している。
【0061】
この毛束固定部7の形成工程を、図11に基づいて説明する。
図11(a)に示すように、閉塞部材10Cを植設穴6の背面側に配置する。このとき、閉塞部材10Cがシート状に形成されているため、閉塞部材10Cは、ヘッド部4の上面(背面)に載置ことにより、仮固定される。尚、塊状部5Bは、植設穴6の上縁部が係止部6aとなり、前記係止部6aに係止される。
その後、図11(b)に示すように、インパルスウェルダー(IPW)の加熱チップ8bを下降させ、キャビティ8a内に閉塞部材10Cを収容し、加熱溶融し固化することにより、塊状部5Bを固定する毛束固定部7が形成される。即ち、前記塊状部5Bは、前記閉塞部材10Cが加熱溶融、固化することにより、ヘッド部4(ヘッド部背面)に埋設され、固定される。
そして、図11(c)に示すように、前記加熱チップ8bを上昇させることにより、ヘッド部4(歯ブラシ1)が完成する。
【0062】
尚、上記実施形態にあっては、ヘッド部の一部あるいは前記ヘッド部と別の合成樹脂製の閉塞部材を溶融固化することにより、毛束固定部を形成する場合について説明した。 しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、従来のように成形装置によって背面充填材(合成樹脂)を前記大径部6bに充填しても良い。この場合、一つの凹部が形成されている従来の歯ブラシと比べて、前記大径部6bの体積が前記凹部の体積よりも小さいために、前記大径部6bに低い注入圧で背面充填材(合成樹脂)を充填することができ、しかも毛束を確実に固定できる毛束固定部7を形成することができる。
【0063】
また、上記実施形態にあっては、歯ブラシを例にとって説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、ヘアブラシ、ボディブラシ、メイクブラシ、靴ブラシ、洋服ブラシ等のブラシ適用することができる。
【0064】
具体的に、図12に洗髪用ブラシの例を挙げて説明する。尚、図12において、図1乃至図8に示した部材と同一あるいは相当する部材は、同一符号を付し、その説明を省略する。
この洗髪用ブラシのヘッド部4は環状に形成され、その中心部に貫通穴4Aが形成されている。この貫通穴4Aは水抜きのために形成されている。そして、前記ヘッド部4の背面側には、複数の植設穴の夫々に、かつ個別に毛束固定部7が設けられている。この毛束固定部7は、前記係止部に係止された毛束の塊状部の背面側を覆い、かつ前記植設穴(大径部)を閉塞する、樹脂を溶融固化した状態のものである。
このように構成された洗髪用ブラシは、水抜けが良く、また毛束の所定のしなやかさを維持できる使用感の良いという効果を奏するものである。
【符号の説明】
【0065】
1 歯ブラシ
2 歯ブラシの柄
3 歯ブラシ
4 ヘッド部
4a ヘッド部表面
4b ヘッド部背面
4c 壁部
5 合成樹脂製繊維
5A 毛束
5B 塊状部
5a テーパ繊維
5a1 テーパ面
5b 非テーパ繊維
6 植設穴
6a 係止部
6b 大径部
6b1 大径部開口部
6c 表面側開口部
7 毛束固定部
8 加熱溶融装置
8a 加熱チップ
8a1 キャビティ
8b 加熱チップ
8b1 キャビティ
9 押しピン
10A 閉塞部材
10B 閉塞部材
10C 閉塞部材
P 可動支点
X テーパ面長さ
Y 非テーパ面長さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17