特許第6967567号(P6967567)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6967567
(24)【登録日】2021年10月27日
(45)【発行日】2021年11月17日
(54)【発明の名称】静電紡糸装置
(51)【国際特許分類】
   D01D 5/04 20060101AFI20211108BHJP
【FI】
   D01D5/04
【請求項の数】11
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2019-188090(P2019-188090)
(22)【出願日】2019年10月11日
(65)【公開番号】特開2020-76191(P2020-76191A)
(43)【公開日】2020年5月21日
【審査請求日】2021年7月15日
(31)【優先権主張番号】特願2018-196229(P2018-196229)
(32)【優先日】2018年10月17日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】きさらぎ国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小玉 伸二
(72)【発明者】
【氏名】藤波 進
(72)【発明者】
【氏名】榎本 晴臣
(72)【発明者】
【氏名】平野 喬大
(72)【発明者】
【氏名】東城 武彦
【審査官】 小石 真弓
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2017/0239094(US,A1)
【文献】 米国特許第04311113(US,A)
【文献】 中国実用新案第207362375(CN,U)
【文献】 中国実用新案第206457563(CN,U)
【文献】 中国実用新案第205109915(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者が手で保持しうる形状または大きさを有するハンドヘルドタイプの静電紡糸装置であって、
帯電した紡糸用液を噴射するためのノズルと、
前記紡糸用液の噴射動作を制御するためのスイッチと、
膨出部、および使用者が把持するための把持部を有するハウジングと、
を備え、
前記膨出部は、前記ノズルの先端と前記スイッチにおける前記ノズルの側の端とを結ぶ仮想線よりも外側に膨らんでおり、
前記スイッチは、前記ノズルの軸に沿う方向において、前記静電紡糸装置の中心と重なるか、または前記中心に対して前記ノズルと反対側に配置されており、
前記ノズルが突出する面と前記スイッチが設けられている面とが交差する角部は、前記膨出部の頂点であり、
前記ノズルの軸と前記把持部の軸とがなす角度が、45度以上である、静電紡糸装置。
【請求項2】
前記ノズルが突出する面のうち、前記仮想線と該ノズルが突出する面とが交わる第1の点から前記膨出部の前記頂点に至る部分と、前記スイッチが設けられている面のうち、前記スイッチにおける前記ノズルの側の端に位置する第2の点から前記膨出部の前記頂点に至る部分とは、前記仮想線よりも外側に位置している、請求項1に記載の静電防止装置。
【請求項3】
前記ノズルの軸と前記仮想線とがなす角度が、25度以上である、請求項1又は2に記載の静電紡糸装置。
【請求項4】
前記ノズルの前記先端と前記スイッチにおける前記ノズルの側の端との間の距離に対する、前記仮想線と前記膨出部の頂点との間の距離の比が、0.20以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の静電紡糸装置。
【請求項5】
前記把持部は、前記ノズルの軸に沿う方向において、前記スイッチと重なるか、または前記スイッチに対して前記ノズルと反対側にある、請求項1〜のいずれか1項に記載の静電紡糸装置。
【請求項6】
前記把持部は、前記静電紡糸装置において、前記ノズルとは反対方向の端部に位置する、請求項1〜のいずれか1項に記載の静電紡糸装置。
【請求項7】
前記スイッチは、押されることで、前記紡糸用液を前記ノズルから噴射させるように構成されている、請求項1〜のいずれか1項に記載の静電紡糸装置。
【請求項8】
前記把持部は、前記ノズルの軸に対してゼロより大きい角度をなす軸に沿って、前記ノズルから遠ざかるように延びる部分を有する、請求項1〜のいずれか1項に記載の静電紡糸装置。
【請求項9】
使用者が把持した際に使用者の手が接触する位置に、導電性材料で形成された領域を有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の静電紡糸装置。
【請求項10】
前記スイッチが導電性材料で形成されている、請求項1〜9のいずれか1項に記載の静電紡糸装置。
【請求項11】
前記紡糸用液は、次の成分(a)、(b)および(c)を含有し、成分(b)と成分(c)の質量比(b/c)が0.4以上50以下である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の静電紡糸装置。
(a)アルコールおよびケトンから選ばれる1種以上の揮発性物質
(b)繊維形成用水不溶性ポリマー
(c)水
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電紡糸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
静電気力によって液体を噴射する静電噴霧装置が、従来より知られている。例えば特許文献1には、利用者の手で握られる寸法に作られたハウジングの内部に、モータ、高電圧発生器および電池を有し、高電圧発生器からの高電圧により静電チャージされた液体組成物を、ノズルから利用者の膚へ向けて付与する静電噴霧装置が記載されている。この装置には、押されたときにモータおよび高電圧発生器に給電する電源スイッチが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2007−521941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、静電紡糸用の原料を含む溶液、すなわち紡糸用液を対象物に向けて噴射する静電紡糸装置が、従来より知られている。紡糸用液が噴射されると、溶媒が蒸発し、原料が糸状となって対象物の表面に堆積する。
【0005】
使用者が手で保持しうる形状または大きさを有するハンドヘルドタイプの静電紡糸装置にあっては、使用者が当該装置を把持しやすく、扱いやすいことが求められる。例えば、使用者が自分の顔に向けて紡糸用液を噴射するような場合に、腕または肘を上方へ持ち上げるような不自然な動作をしないでも噴射可能であることが、腕等の負担の軽減という観点からは好ましい。または、使用者が自分の手足に向けて噴射するような場合に、当該装置を把持している手がノズルの先端または噴射先の対象物を隠さないことが、正確な噴射と操作性の向上という観点からは好ましい。また、静電紡糸装置を把持している手は低電位であるため、ノズルの先端と上記手との間に障害物がなければ、ノズルの先端から噴射された紡糸用液、または溶媒が蒸発した後のその内容物が、方向を変えて回り込み、上記手へと向かいうる。しかし、従来の静電紡糸装置では、上記のような扱いやすさの向上と、紡糸用液等の回り込みの防止とを実現することが、困難であった。
【0006】
そこで、本発明は、扱いやすさの向上と、噴射される紡糸用液等の回り込みの防止とを両立できるハンドヘルドタイプの静電紡糸装置に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、帯電した紡糸用液を噴射するためのノズルと、紡糸用液の噴射動作を制御するためのスイッチと、膨出部、および使用者が把持するための把持部を有するハウジングと、を備え、膨出部は、ノズルの先端とスイッチにおけるノズルの側の端とを結ぶ仮想線よりも外側に膨らんでおり、ノズルの軸と把持部の軸とがなす角度が、45度以上である、ハンドヘルドタイプの静電紡糸装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の静電紡糸装置によれば、扱いやすさの向上と、噴射される紡糸用液等の回り込みの防止とを両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1の実施形態に係る静電紡糸装置の斜視図である。
図2】同実施形態に係る静電紡糸装置のうちカートリッジの斜視図である。
図3】同実施形態に係る静電紡糸装置の平面図である。
図4】同実施形態に係る静電紡糸装置の側面図である。
図5】同実施形態に係る静電紡糸装置が把持された状態の平面図である。
図6】本発明の第2の実施形態に係る静電紡糸装置の平面図である。
図7】本発明の第3の実施形態に係る静電紡糸装置の平面図である。
図8】本発明の第4の実施形態に係る静電紡糸装置の平面図である。
図9】比較形態に係る静電紡糸装置の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0011】
<第1の実施形態>
図1に示す第1の実施形態に係る静電紡糸装置1は、静電スプレー法を採用している。静電スプレー法は、液体に正または負の高電圧を印加して該液体を帯電させ、帯電した該液体を対象物に向けて噴霧する方法である。液体は、複数の成分を含む組成物であってよい。噴霧された液体はクーロン反発力によって微細化を繰り返しながら空間に広がり、その過程で、または対象物に付着した後に、揮発性物質である溶媒が乾燥することで、対象物の表面に被膜を形成しうる。以下、静電紡糸用の原料を含み、高電圧を印加される液体を、紡糸用液と称する。静電紡糸装置1は、例えば人が手で施術を行う用途や使用者の個人的な用途等に使用可能な静電スプレー装置の一種であり、紡糸用液を対象物に向けて噴射することで対象物の表面に繊維の堆積物を形成可能である。対象物の一例として、人体の一部、例えば使用者自身または他人の皮膚または爪が挙げられる。
【0012】
静電スプレー法によって繊維の堆積物を形成する場合、該繊維の断面形状は、好ましくは円形、または楕円形である。繊維の太さは、繊維の断面形状が円形の場合は直径、楕円形の場合は長径の長さであってよい。繊維の太さは、円相当直径で表した場合、10nm以上であることが好ましく、50nm以上であることが更に好ましい。また3000nm以下であることが好ましく、1000nm以下であることが更に好ましい。繊維の太さは、例えば以下の方法で測定することができる。すなわち、走査型電子顕微鏡(SEM)によって、繊維を10000倍に拡大して観察し、その二次元画像から欠陥(繊維の塊、繊維の交差部分、液滴)を除く。その中から繊維を任意に10本選び出し、繊維の長手方向に直交する線を引き、繊維径を直接読み取ることで、繊維の太さを測定することができる。
【0013】
また、被膜を形成する上記繊維の長さは、製造の原理上は無限長となるが、実際には、少なくとも繊維の太さの100倍以上の長さを有することが好ましい。例えば、形成される被膜は、好ましくは10μm以上の長さ、より好ましくは50μm以上の長さ、さらに好ましくは100μm以上の長さの繊維を含有することが好ましい。
【0014】
以下、紡糸用液について詳述する。紡糸用液として、例えば、繊維形成の可能な高分子化合物が溶媒に溶解した溶液を用いることができる。そのような高分子化合物としては、水溶性高分子化合物または水不溶性高分子化合物のいずれも用いることができる。
【0015】
本明細書において「水溶性高分子化合物」とは、1気圧・常温(20℃±15℃)の環境下において、高分子化合物を、該高分子化合物に対して10倍以上の質量の水に浸漬し、十分な時間(例えば24時間以上)が経過したときに、浸漬した高分子化合物の50質量%以上が溶解する程度に水に溶解可能な性質を有する高分子化合物をいう。一方、「水不溶性高分子化合物」とは、1気圧・常温(20℃±15℃)の環境下において、高分子化合物を、該高分子化合物に対して10倍以上の質量の水に浸漬し、十分な時間(例えば24時間以上)が経過したときに、浸漬した高分子化合物の80質量%以上が溶解しない程度に水に溶解しづらい性質を有する高分子化合物をいう。
【0016】
水溶性高分子化合物としては、例えば、プルラン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ポリ−γ−グルタミン酸、変性コーンスターチ、β−グルカン、グルコオリゴ糖、ヘパリン、ケラト硫酸等のムコ多糖、セルロース、ペクチン、キシラン、リグニン、グルコマンナン、ガラクツロン、サイリウムシードガム、タマリンド種子ガム、アラビアガム、トラガントガム、変性コーンスターチ、大豆水溶性多糖、アルギン酸、カラギーナン、ラミナラン、寒天(アガロース)、フコイダン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の天然高分子、部分鹸化ポリビニルアルコール(架橋剤と併用しない場合)、低鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸ナトリウム等の合成高分子などが挙げられる。これらの水溶性高分子化合物は単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの水溶性高分子化合物のうち、繊維の形成が容易である観点から、プルラン、ならびに部分鹸化ポリビニルアルコール、低鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンおよびポリエチレンオキサイド等の合成高分子を用いることが好ましい。
【0017】
一方、水不溶性高分子化合物としては、例えば、繊維形成後に不溶化処理できる完全鹸化ポリビニルアルコール、架橋剤と併用することで繊維形成後に架橋処理できる部分鹸化ポリビニルアルコール、ポリ(N−プロパノイルエチレンイミン)グラフトージメチルシロキサン/γ−アミノプロピルメチルシロキサン共重合体等のオキサゾリン変性シリコーン、ツエイン(とうもろこし蛋白質の主要成分)、ポリエステル、ポリ乳酸(PLA)、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリメタクリル酸樹脂等のアクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエチレンテフタレート樹脂、ポリブチレンテフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂などが挙げられる。これらの水不溶性高分子化合物は単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
水不溶性高分子化合物を用いる場合、紡糸用液は、次の成分(a)、(b)および(c)を含有し、成分(b)と成分(c)の質量比(b/c)が0.4以上50以下であることが好ましい。
(a)アルコールおよびケトンから選ばれる1種以上の揮発性物質
(b)繊維形成用水不溶性ポリマー
(c)水
【0019】
成分(a)の揮発性物質は、液体の状態において揮発性を有する物質である。紡糸用液において成分(a)は、電界内に置かれた該紡糸用液を十分に帯電させた後、ノズル先端から皮膚等の対象物に向かって吐出され、成分(a)が蒸発していくと、紡糸用液の電荷密度が過剰となり、クーロン反発によって更に微細化しながら成分(a)が更に蒸発していき、最終的に乾いた繊維を含む被膜を形成させる目的で配合される。この目的のために、揮発性物質はその蒸気圧が20℃において0.01kPa以上、106.66kPa以下であることが好ましく、0.13kPa以上、66.66kPa以下であることがより好ましく、0.67kPa以上、40.00kPa以下であることが更に好ましく、1.33kPa以上、40.00kPa以下であることがより一層好ましい。
【0020】
成分(a)の揮発性物質のうち、アルコールとしては例えば一価の鎖式脂肪族アルコール、一価の環式脂肪族アルコール、一価の芳香族アルコールが好適に用いられる。一価の鎖式脂肪族アルコールとしてはC1−C6アルコール、一価の環式アルコールとしてはC4−C6環式アルコール、一価の芳香族アルコールとしてはベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール等がそれぞれ挙げられる。それらの具体例としては、エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、フェニルエチルアルコール、n−プロパノール、n−ペンタノールなどが挙げられる。これらのアルコールは、これらから選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
【0021】
成分(a)の揮発性物質のうち、ケトンとしてはジC1−C4アルキルケトン、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられる。これらのケトンは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
成分(a)の揮発性物質は、より好ましくはエタノール、イソプロピルアルコールおよびブチルアルコールから選ばれる1種または2種以上であり、より好ましくはエタノールおよびブチルアルコールから選ばれる1種または2種であり、更に好ましくはエタノールである。
【0023】
紡糸用液における成分(a)の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、55質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが更に好ましく、65質量%以上であることが一層好ましい。また95質量%以下であることが好ましく、92質量%以下であることがより好ましく、90質量%以下であることが更に好ましく、88質量%以下であることが一層好ましい。紡糸用液中における成分(a)の含有量は、50質量%以上95質量%以下であることが好ましく、55質量%以上92質量%以下であることがより好ましく、60質量%以上90質量%以下であることが更に好ましく、65質量%以上88質量%以下であることが一層好ましい。この割合で紡糸用液中に成分(a)を含有させることで、静電スプレー法を行うときに紡糸用液を十分に揮発させることができ、皮膚等の対象物の表面に繊維を含む被膜を形成することができる。
【0024】
成分(b)の繊維形成用水不溶性ポリマーは、成分(a)の揮発性物質に溶解することが可能な物質である。ここで、溶解するとは20℃において分散状態にあり、その分散状態が目視で均一な状態、好ましくは目視で透明または半透明な状態であることをいう。
【0025】
繊維形成用水不溶性ポリマーとしては、成分(a)の揮発性物質の性質に応じて適切なものが用いられる。具体的には、成分(a)に可溶で、水に対して不溶なポリマーである。本明細書において「水溶性ポリマー」とは、1気圧・23℃の環境下において、ポリマー1gを秤量したのちに、10gのイオン交換水に浸漬し、24時間経過後、浸漬したポリマーの0.5g以上が水に溶解する性質を有するものをいう。一方、本明細書において「水不溶性ポリマー」とは、1気圧・23℃の環境下において、ポリマー1gを秤量したのちに、10gのイオン交換水に浸漬し、24時間経過後、浸漬したポリマーの0.5g以上が溶解しない性質を有するもの、言い換えれば溶解量が0.5g未満の性質を有するものをいう。
【0026】
水不溶性である繊維形成能を有するポリマーとしては、例えば繊維形成後に不溶化処理できる完全鹸化ポリビニルアルコール、架橋剤と併用することで繊維形成後に架橋処理できる部分鹸化ポリビニルアルコール、ポリ(N−プロパノイルエチレンイミン)グラフトージメチルシロキサン/γ−アミノプロピルメチルシロキサン共重合体等のオキサゾリン変性シリコーン、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ツエイン(とうもろこし蛋白質の主要成分)、ポリエステル、ポリ乳酸(PLA)、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリメタクリル酸樹脂等のアクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂などが挙げられる。これらの水不溶性ポリマーから選ばれる1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの水不溶性ポリマーのうち、被膜形成後に不溶化処理できる完全鹸化ポリビニルアルコール、架橋剤と併用することで被膜形成後に架橋処理できる部分鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール樹脂、ポリメタクリル酸樹脂等のアクリル樹脂、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリ(N−プロパノイルエチレンイミン)グラフト−ジメチルシロキサン/γ−アミノプロピルメチルシロキサン共重合体等のオキサゾリン変性シリコーン、ポリ乳酸(PLA)、ツエインから選ばれる1種または2種以上を用いることが好ましい。
【0027】
紡糸用液中の成分(b)の含有量は、4質量%以上であることが好ましく、6質量%以上であることがより好ましく、8質量%以上であることが更に好ましい。また35質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることが更に好ましい。紡糸用液中の成分(b)の含有量は、4質量%以上35質量%以下であることが好ましく、6質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、8質量%以上25質量%以下であることが更に好ましい。この割合で紡糸用液中に成分(b)を含有させることで、繊維状の被膜を安定して効率的に形成することができる。
【0028】
成分(c)の水は、エタノール等の電離しない溶媒に比べて電離し荷電するため、紡糸用液中に導電性を付与することができる。そのため、静電スプレーにより皮膚等の対象物の表面上に繊維状の被膜が安定して形成される。また、水は、静電スプレーにより形成される被膜の皮膚等の対象物への密着性の向上、耐久性の向上に寄与する。これらの作用効果を得る観点から、成分(c)は、紡糸用液中に0.2質量%以上25質量%以下含有されることが好ましい。紡糸用液中の成分(c)の含有量は、好ましくは0.3質量%以上であり、より好ましくは0.35質量%以上であり、さらに好ましくは0.4質量%以上である。また、紡糸用液中の成分(c)の含有量は、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは19質量%以下であり、さらに好ましくは18質量%以下である。紡糸用液中の成分(c)の含有量は、0.2質量%以上25質量%以下であり、0.3質量%以上20質量%以下が好ましく、0.35質量%以上19質量%以下がより好ましく、0.4質量%以上18質量%以下がさらに好ましい。
【0029】
また、皮膚等の対象物の表面に繊維状の被膜を形成する観点、該対象物への被膜の密着性を向上する観点、被膜の耐久性を向上する観点から、成分(b)と成分(c)の質量比(b/c)は、0.4以上50以下であることが好ましい。該質量比(b/c)は、0.5以上が好ましく、0.6以上がより好ましい。また該質量比(b/c)は45以下が好ましく、40以下がより好ましい。該質量比(b/c)の範囲は、0.4以上50以下が好ましく、0.5以上45以下がより好ましく、0.55以上40以下がさらに好ましく、0.6以上40以下が一層好ましい。
【0030】
また、紡糸用液の直接静電スプレーにより安定して繊維状の被膜を得る観点、得られる被膜の密着性を向上する観点、被膜の耐久性を向上する観点等から、成分(a)と成分(c)の質量比(a/c)は、3以上300以下であるのが好ましい。該質量比(a/c)は3.5以上がより好ましく、4以上がさらに好ましい。該質量比(a/c)は250以下がより好ましく、210以下がさらに好ましい。該質量比(a/c)の範囲は、3.5以上250以下がより好ましく、4以上210以下がさらに好ましい。
【0031】
紡糸用液における成分(b)の分散性の観点、被膜の形成性と被膜の耐久性の観点から、成分(b)と成分(a)との質量比(b/a)は、好ましくは0.01以上であり、より好ましくは0.02以上であり、さらに好ましくは0.04以上であり、よりさらに好ましくは0.07以上である。該質量比(b/a)は、好ましくは0.55以下であり、より好ましくは0.50以下であり、さらに好ましくは0.30以下であり、よりさらに好ましくは0.25以下である。
【0032】
紡糸用液中には、上述した成分(a)〜(c)のみが含まれていてもよく、あるいは成分(a)〜(c)に加えて他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、例えばポリオール、液状油、成分(b)のポリマーの可塑剤、紡糸用液中の導電率制御剤、成分(b)以外の水溶性ポリマー、着色顔料、体質顔料等の粉体、染料、香料、忌避剤、酸化防止剤、安定剤、防腐剤、各種ビタミン等が挙げられる。紡糸用液中に他の成分が含まれる場合、当該他の成分の含有割合は、0.1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0033】
紡糸用液中には、着色顔料、体質顔料等の粉体を含有してもよいが、20℃で粒径が0.1μm以上の粉体の含有量は、均一な被膜の形成性、被膜の耐久性や密着性の観点から、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以下であり、さらに好ましくは0.01質量%以下であり、不可避的に混入する場合を除き含有していないことが好ましい。
【0034】
紡糸用液の粘度は、繊維状の被膜を安定して形成する点、静電スプレー時の紡糸性の観点、被膜の耐久性を向上する観点、被膜の感触を向上する観点から、25℃で2〜3000mPa・sが好ましい。当該粘度は、10mPa・s以上が好ましく、20mPa・s以上がより好ましく、30mPa・s以上がさらに好ましい。また、当該粘度は1500mPa・s以下が好ましく、1000mPa・s以下がより好ましく、800mPa・s以下がさらに好ましい。粘度の範囲は、2mPa・s以上3000mPa・s以下が好ましく、20mPa・s以上1500mPa・s以下がより好ましく、30mPa・s以上1000mPa・s以下がさらに好ましく、30mPa・s以上800mPa・s以下がさらに好ましい。紡糸用液中の粘度は、E型粘度計を用いて25℃で測定される。E型粘度計としては例えば東京計器株式会社製のE型粘度計(VISCONIC EMD)を用いることができる。その場合の測定条件は、25℃、コーンプレートのローターNO.43、回転数は粘度に応じた適切な回転数が選択され、1300mPa・S以上の粘度は5rpm、250mPa・S以上1300mPa・S未満の粘度は10rpm、25mPa・S以上250mPa・S未満の粘度は50rpm、25mPa・S未満の粘度は100rpmとする。
【0035】
次に、図1〜4を参照して、本発明の第1の実施形態に係る静電紡糸装置1の構成の概略について説明する。静電紡糸装置1は、ハンドヘルドタイプであり、例えば、使用者が片手に持って使用することが可能な形状、大きさおよび重量を有する。図1に示すように、静電紡糸装置1(以下、単に装置1と記載する。)は、ハウジング2と、ノズル3と、スイッチ5と、スイッチ6とを有する。ハウジング2は、装置1の外側を覆う外殻部材であり、容器、電池、高電圧発生器、電極、モータ、ポンプおよびコントローラ等を収容する。ハウジング2を構成する材料として、絶縁材料である樹脂を用いることができる。ハウジング2を構成する材料には、帯電防止剤が含有されていることが好ましく、または、ハウジング2の外面に塗装が施されていることが好ましい。一方、使用者が装置1を把持する際にハウジング2の外面において使用者の手が接触する位置に、導電性材料で形成された領域があることが好ましい。装置1の使用時に使用者の手指が接触することになるスイッチ5,6が、導電性材料で形成されていることが、より好ましい。導電性材料としては、金属のほか、金属と樹脂の混合材料等が挙げられる。
【0036】
容器は、紡糸用液を収容する。電池は、高電圧発生器およびモータに給電可能な電源として機能する。高電圧発生器は、高電圧を発生して電極に供給する。モータは、ポンプを駆動する。コントローラは、モータおよび高電圧発生器の動作を制御可能である。ポンプは、例えばギアポンプであり、容器から紡糸用液を吸入して、ノズル3の内部の通路に供給する。ノズル3の先端30には、噴射口が開口する。噴射口に接続するノズル3の内部の通路は直線状であって、この通路には電極が設置されている。紡糸用液がノズル3に供給され、この紡糸用液に電極を介して高電圧が印加されると、帯電した紡糸用液は、対象物と電極との間の電位差により、ノズル3の噴射口から対象物へ向けて噴射される。
【0037】
装置1の電極に印加される電圧(紡糸電圧:電極と対象物との間の電位差に相当する。)は、紡糸用液中を十分に帯電させる観点から、5kV以上であることが好ましく、8kV以上であることがより好ましく、10kV以上であることがさらに好ましい。また、紡糸電圧は、電極と対象物との間の放電を防止する等の観点から、30kV以下であることが好ましく、25kV以下であることがより好ましい。以上の観点から、紡糸電圧は、5kV以上30kV以下であることが好ましく、10kV以上25kV以下がより好ましい。
【0038】
スイッチ5,6は、装置1を作動させ、ノズル3から紡糸用液を噴射させるために使用者が操作可能な作動スイッチであり、高電圧発生器、モータまたはコントローラと、電池との間の電気的な接続および遮断を、使用者の操作に応じて切り替えることが可能に設けられている。スイッチ6は、装置1の電源のオン・オフを切り替える。スイッチ6がオンされると、装置1が紡糸用液を噴射するように動作すること、すなわち噴射動作が可能な状態となる。スイッチ6がオフされると、噴射動作が不可能な状態となる。なお、スイッチ6は、その他の機能を有してもよく、例えば、噴射される紡糸用液の設定量を変更することが可能に設けられてよい。一方、スイッチ5は、噴射動作が可能な状態で、言い換えるとスイッチ6がオンされて噴射動作が可能となった後、噴射動作を制御することが可能に設けられている。噴射動作を制御するとは、噴射動作の有無、言い換えると噴射の開始と停止を切り替えることを指すが、これに限らず、噴射される紡糸用液の量を変更し調整すること等であってもよい。具体的には、スイッチ5は、ハウジング2の内部に向かう方向に押される。スイッチ5は、押されている間は紡糸用液をノズル3から噴射させ、離されると該噴射を停止するように構成されている。このように、スイッチ5は、紡糸用液の噴射動作を制御するための制御スイッチとして機能する。噴射動作の操作性の観点から、スイッチ5は1つ備えられていることが好ましい。
【0039】
静電噴射を行っている間は、対象物である皮膚等(以下、紡糸対象という。)とノズル3との間に高い電位差が生じていることが好ましい。かかる観点から、装置1においては、使用者が把持する領域、好ましくはスイッチ5が、導電性の材料から形成されていることが好ましい。これにより、装置1の内部からの電流が使用者に流れやすくなり、ノズル3と紡糸対象との間の電位差が大きくなって、紡糸性を向上することができる。なお、インピーダンスが非常に大きいので、静電噴射を行っている間に使用者に流れる電流は極めて微小であり、例えば通常の生活で生じる静電気によって人体を流れる電流よりも数桁小さいことを、本発明者らは確認している。
【0040】
図3に示すように、ノズル3の軸13は、ノズル3から紡糸用液が噴射される方向に沿う軸である。本実施形態の軸13は、ノズル3の内部の通路に沿って延びる。ノズル3は、図2に示すようなカートリッジ4と一体であってよい。このカートリッジ4は、装着部40および容器41を有する。装着部40は、ポンプおよび電極を収容している。装着部40には、ノズル3が設けられているとともに、容器41が装着される。容器41は、絶縁性材料により形成された薄層フィルム等のシートからなる扁平な袋状であり、液体(紡糸用液)を収容し、変形自在である。カートリッジ4は、ハウジング2の被装着部に取り外し自在に装着される。装着されたカートリッジ4を覆うように、ハウジング2の本体にカバー25が設置される。図1に示すように、カバー25に設けられた孔200を貫通してノズル3が突出する。
【0041】
ハウジング2は、把持部23および主収容部24を有する。把持部23は、主に電池およびスイッチ5を収容するとともに、使用者が装置1を使用する際に把持される蓋然性が高く、把持が予定された部分である。把持部23は、ノズル3の軸13に沿う方向において、スイッチ5と重なる。把持部23は、装置1において、ノズル3とは反対方向の端部に位置する。主収容部24は、主に容器41、ポンプ、電極、高電圧発生器、モータおよびコントローラを収容する。主収容部24には、上記カートリッジ4が装着される。カバー25は主収容部24の一部として機能する。主収容部24は、カバー25を介してノズル3に連続する。ハウジング2におけるノズル3とスイッチ5との間の部分が、主収容部24に相当する。
【0042】
ハウジング2は、扁平な形状を有している。ここで、扁平な形状であるとは、以下を意味する。互いに直交するx軸、y軸およびz軸を仮定する。ある物体が、z軸方向に厚さが小さい扁平な形状であるとは、上記物体の寸法が、x軸方向およびy軸方向よりもz軸方向で一定以上小さいことを意味し、具体的には、z軸方向における上記物体の寸法すなわち厚さが、x軸方向における上記物体の寸法に対して所定の比率を乗算した値以下であり、かつ、y軸方向における上記物体の寸法に対して上記比率を乗算した値以下であることを意味する。扁平な物体の外面は、平坦部と、外縁部とを有する。平坦部は、物体の厚さが小さくなる方向であるz軸方向に対して垂直な平面に沿って広がり、当該平面に対して平坦部がなす角度が所定範囲内である。外縁部は、平坦部の外周を取り囲む。本実施形態に係る静電紡糸装置1のハウジング2においては、例えば、ノズル3の軸13に沿う方向をx軸方向とする。軸13に対して直交し、図3の面内で上下方向に延びる方向をy軸方向とする。軸13に対して直交し、図3の面に対し垂直に延びる方向をz軸方向とする。ハウジング2は、x軸方向およびy軸方向に比べてz軸方向に厚さが小さい扁平な形状を有している。ハウジング2の外面における平坦部は、z軸方向からみたハウジング2の側面視において概ね矩形状である。
【0043】
ハウジング2の外面は、第1面201、第2面202、第3面203、第4面204、第5面205および第6面206を有する。各面201〜206は、外側に向かって膨らんだ曲面状である。第1面201と第2面202は、第3〜第6面203〜206よりも広く、上記平坦部に相当する。第3面203はカバー25の一部である。第3面203からは、ノズル3が突出する。ノズル3の軸13を挟んで反対側に第1面201と第2面202がある。第3〜第6面203〜206は、第1面201と第2面202との間にあり、上記外縁部に相当しており、第1面201と第2面202の外縁を取り囲む。ノズル3の軸13は、第1面201、第2面202、第4面204および第6面206の長手方向であるx軸方向に沿って延びる。ノズル3の軸13は、第1面201と第2面202との間の中心にあり、また、第4面204と第6面206との間の中心にある。ノズル3の軸13は、第3面203の中心および第5面205の中心を通る。
【0044】
主収容部24には、第4面204に、スイッチ6が設けられている。なお、主収容部24には、第1面201における中心7よりノズル3の側に、第1面201から隆起する凸部が設けられていてもよい。装置1がテーブル等に置かれる際、上記凸部がテーブル等に当接し、ノズル3の先端が上方に向くことで、ノズル3の液滲み等が防止される。このような凸部が第2面202にもあれば、すなわちハウジング2の両方の平坦部にあれば、より効果的である。
【0045】
把持部23には、第1面201に、凹部231と凸部232が形成されている。凹部231は、ノズル3の軸13に直交する方向に延びる扁平な円形状の外縁を有し、第1面201に対して凹んでおり、凹曲面状の底面を有する。凸部232は、凹部231に対してノズル3の側に隣接した位置にあり、第1面201に対して突出しており、凹部231におけるノズル3の側の外縁に沿う稜線を有し、ノズル3の軸13に対して直交する方向に延びる三日月状である。把持部23の第2面202にも、第1面201と同様、凹部231と凸部232が形成されている。
【0046】
把持部23には、第4面204と第5面205に、スイッチ5が設けられている。スイッチ5は、ノズル3の軸13に沿う方向において、装置1の中心7に対しノズル3と反対側にある。スイッチ5は、第4面204と第5面205とが接続する角部にあり、両面に跨るように、第1面201と第2面202の外縁に沿って所定の範囲を延びる。スイッチ5の第4面204における部分は、ノズル3の軸13に沿う方向で凹部231および凸部232に重なっており、可動であって、例えば、使用者により押されることで、高電圧発生器およびモータと電池との間を電気的に接続する。スイッチ5の第5面205における部分は、スイッチ5の第4面204における可動部分と同様、使用者により押されることで電気的な接続を実現してもよいし、上記可動部分が動作する際の支点としての機能を単に有するのでもよい。また、スイッチ5の第5面205における部分を省略してもよい。
【0047】
図5は、使用者の手により把持部23が把持された状態の一例を示す。把持部23は、手の手掌部分により挟まれ(握られ)、手の指部により支持されうる。また、スイッチ5は指で操作される。具体的には、把持部23は、親指、中指、薬指および小指により支持され、スイッチ5が人差し指により操作されることが容易な形状である。親指が、第1面201の凹部231に位置し、中指、薬指および小指が、第2面202の凹部231に位置し、人差し指が、第4面204と第5面205とが接続する角部およびその近傍、すなわちスイッチ5に位置する。人差し指の腹が、第4面204におけるスイッチ5の部分に位置する。よって、人差し指の第1関節または第2関節を動かすことで、第4面204におけるスイッチ5の部分を容易に押下げることができる。親指が、第1面201における凹部231の位置にあり、中指、薬指および小指が、第2面202における凹部231の位置にあるとき、人差し指の腹がスイッチ5の可動部分に位置するように、スイッチ5が配置されている。凸部232は、凹部231に配置された手指が凹部231からはみ出してノズル3の側へ移動しようとすることを抑制する。このように手の手掌部分で握られる把持部23と手の指部で操作されるスイッチ5とを配置することで、把持している人の手をノズル3から遠い側に位置付けることができる。
【0048】
なお、凹部231および凸部232が省略されてもよい。本実施形態では、第1面201に凹部231および凸部232があることで、親指の位置決めが容易となる。第2面202に凹部231および凸部232があることで、中指、薬指および小指の位置決めが容易となる。
【0049】
把持部23を把持した状態の人の手は筒状となる。この筒の軸を、把持部23の軸14として想定することができる。例えば、図5に示す把持方法の例では、把持部23を挟む手掌部分と、把持部23を支持する指部とにより取り囲まれる筒状の空間は、ノズル3の軸13に対して直交し、第1面201と第2面202に沿う方向に延びる軸を有するとみなせる。よって、この軸を把持部23の軸14として規定することが可能である。なお、軸14は、把持部23の形状自体からも特定可能である。例えば、凹部231の平面視形状を楕円としてみた場合に、この楕円の長軸方向を、軸14が延びる方向として規定することも可能である。この場合も、軸14は、ノズル3の軸13に対して直交し、第1面201と第2面202に沿う方向に延びる。なお、ノズル3の軸13と把持部23の軸14は、互いに交わらなくてもよい。言い換えると、両軸13,14は、同じ平面上になくてもよい。
【0050】
ここで、ノズル3の軸13と把持部23の軸14とがなす角度θ1を、図3のように両軸13,14に対して直交する方向から見て、交差する両軸13,14により挟まれる角度とする。この角度が90度でないときは、交差する両軸13,14により挟まれる2つの大きさの角度のうち、小さいほう(鋭角)の角度をθ1とする。本実施形態では、角度θ1は、90度である。すなわち、45度以上である。このため、使用者が身体に向けて紡糸用液を噴射する際に、使用者が装置1を把持しやすく、扱いやすい。例えば、使用者が自分の顔に向けて噴射するような場合に、腕または肘を上方へ持ち上げるような不自然な動作をしないでも噴射可能であるため、腕等への負担が少ない。また、使用者が自分の手足に向けて噴射するような場合に、装置1を把持している使用者の手がノズル3の先端30または噴射先の対象物を使用者の視線の先から隠すことが防止される。よって、噴射中に使用者がノズル3の先端30等を視認可能であるため、より正確な噴射が可能となり、装置1の操作性が向上する。
【0051】
また、装置1を把持している手は低電位であるため、ノズル3の先端30と上記手との間に障害物がなければ、電極と上記手との間の電位差により、ノズル3における帯電した紡糸用液と上記手との間に電界が発生しうる。この場合、ノズル3の噴射口から噴射された紡糸用液、または溶媒が蒸発した後のその内容物が、方向を変えて回り込み、上記手へと向かいうる。このような噴射態様を、図5において矢印100で示す。以下、このような回り込み現象をバックスプレーという。本実施形態では、角度θ1が90度であって、45度以上であるため、ノズル3の先端30と上記手との間においてハウジング2の主収容部24がバックスプレーの障害物として占める割合、言い換えると上記電界の発生を妨げる度合いを大きくすることが可能である。よって、バックスプレーを抑制できる。上記各利点を顕著に得るために、角度θ1は45度以上であればよいことを、本発明者は見出した。すなわち、図3に示すように、ノズル3の軸13および把持部23の軸14に直交する方向から見て、軸13と軸14との交点を頂点とし線11に対して45度の角度をなす範囲91の内に、把持部23の軸14があればよい。線11は、軸13および軸14に直交する方向から見て、軸13と軸14との交点を通り、軸13に直交する直線である。以上のような観点からは、角度θ1は、45度以上であり、60度以上が好ましく、また90度以下が好ましく、また60度以上90度以下が好ましい。
【0052】
スイッチ5は、ノズル3の軸13に沿う方向において、装置1の中心7に対してノズル3と反対側にある。よって、バックスプレーをより容易に抑制できる。すなわち、スイッチ5には使用者の指が載る。スイッチ5を上記のように配置したことで、ノズル3の先端30と、スイッチ5に載っている指との間の距離が大きくなる。これにより、ノズル3から上記指へ向かうバックスプレーが抑制される。装置1の中心7は、例えば図3の平面視で、ノズル3の先端30と第5面205との間の中間点にあるとしてよい。
【0053】
把持部23は、ノズル3の軸13に沿う方向において、スイッチ5と重なる。よって、使用者が把持部23を把持する手の位置を維持したまま当該手の指でスイッチ5を操作可能なように各部が配置されている場合であっても、把持部23を上記のように配置したことで、ノズル3の先端30と上記手との間の距離が小さくなることを抑制し、バックスプレーを抑制できる。
【0054】
ノズル3の先端30と、スイッチ5におけるノズル3の側の端50とを結ぶ仮想的な直線を、仮想線12とする。上記端50は、例えばスイッチ5の可動部分の端である。主収容部24において、仮想線12よりも外側に膨らんでいる部分を膨出部21という。ここで外側とは、装置1の中心7から遠ざかる側である。膨出部21が仮想線12よりも外側に凸に膨出している。このため、ノズル3の噴射口から噴射された紡糸用液またはその内容物がスイッチ5に載っている指へと向かう噴射態様(図5において矢印100で示される。)が、膨出部21によって抑制される。すなわち、ノズル3における帯電した紡糸用液とスイッチ5における指との間に電界が発生することが、膨出部21によって妨げられるため、矢印100で示されるような噴射の発生自体が抑制される。言い換えると、主収容部24がバックスプレーの障害物として機能することを、膨出部21により促進できる。よって、バックスプレーをより効果的に抑制できる。
【0055】
ここで、ノズル3の軸13と仮想線12とがなす角度θ2を、図3のように軸13および線12に対して直交する方向から見て、交差する軸13と線12とにより挟まれる角度とする。この角度が90度でないときは、交差する軸13と線12とにより挟まれる2つの大きさの角度のうち、小さいほう(鋭角)の角度をθ2とする。ノズル3の軸13からずれた位置にスイッチ5を配置すれば、使用者が把持部23を把持する手の位置を維持したまま当該手の指でスイッチ5を操作することを容易にし、これにより装置1の操作性を向上できる。上記利点を顕著に得るために、角度θ2は、25度以上が好ましいことを、本発明者は見出した。すなわち、図3に示すように、ノズル3の軸13および仮想線12に直交する方向から見て、先端30を頂点とし軸13に対して25度の角度をなす範囲92の外に、仮想線12があることが好ましい。また、装置1のサイズ抑制または扱いやすさの観点からは、角度θ2は、90度以下が好ましく、45度以下がより好ましい。以上のような観点から、角度θ2は、25度以上90度以下が好ましく、25度以上45度以下がより好ましい。なお、本実施形態では、角度θ2は、26〜27度である。
【0056】
図3に示すように、主収容部24の外面のうち、第3面203と第4面204との境界にある角部210は、仮想線12からの距離が最も大きく、膨出部21の頂点といえる。要するに、ノズル3が突出する第3面203とスイッチ5が設けられている第4面204とが交差する角部210が、膨出部21の頂点となる。ノズル3の先端30とスイッチ5におけるノズル3の側の端50との間の距離83に対する、仮想線12と膨出部21の頂点との間の距離84の比を、Rとする。距離84は、膨出部21の仮想線12からの最大長さである。ノズル3の先端30からスイッチ5に載っている指との間の直線距離に対し、ノズル3の先端30から上記指に到達するまでに紡糸用液またはその内容物が回り込まなければならない距離が大きければ、ノズル3から上記指へ向かうバックスプレーがより効果的に抑制される。このような利点を顕著に得るために、距離83に対する距離84の比Rは0.20以上が好ましく、0.25以上がより好ましいことを、本発明者は見出した。また、上記利点を得るために、距離84は2cm以上が好ましいことを、本発明者は見出した。また、装置1のサイズ抑制または扱いやすさの観点からは、距離83に対する距離84の比Rは、0.50以下が好ましく、0.40以下がより好ましい。以上のような観点から、上記比Rは、0.20以上0.50以下が好ましく、0.25以上0.40以下がより好ましい。なお、本実施形態では、上記比Rは、0.28〜0.29である。
【0057】
ノズル3の先端30とスイッチ5におけるノズル3の側の端50との間の距離83は、扱いやすさおよびバックスプレーの抑制等の観点から、30mm以上100mm以下が好ましく、40mm以上80mm以下がより好ましい。また、扱いやすさおよび収納等の観点から、装置1の全長は100mm以上200mm以下が好ましい。装置1の全長とは、例えば、ノズル3の軸13に沿う方向におけるノズル3の先端30から把持部23の後端までの最大長さである。
【0058】
図3および図4に示すように、把持部23は、扁平な形状を有する。把持部23の軸14に対して直交する方向、すなわち把持部23の径方向のうち、互いに直交する2つの方向を第1の方向および第2の方向とする。本実施形態では、第1の方向は、第1面201と第2面202に沿う方向であり、第2の方向は、第5面205に沿う方向である。図3に示す第1の方向における把持部23の寸法85は、図4に示す第2の方向における把持部23の寸法86より大きい。
【0059】
このように、把持部23が扁平であることで、使用者が手で把持部23を把持しやすい。また、手の中で把持部23が回転しにくく、対象物に対してノズル3を位置決めしやすい。このような観点からは、寸法86が寸法85より大きくてもよい。この場合、把持部23における扁平な部分の外面が手掌に沿うことで、把持部23を把持しやすい。本実施形態のように、寸法85が寸法86より大きい場合、図5に示すように、親指の根元部分と、手掌において親指の上記根元部分に対向する部分との間に、把持部23を挟むようにすることで、把持部23を把持しやすい。
【0060】
また、スイッチ5は、上記のように扁平である把持部23の外縁部、すなわち第4面204の一部、および第4面204に隣接する第5面205の一部に、配置されている。言い換えると、スイッチ5は、把持部23の外面のうち、上記第1の方向、すなわち第1面201と第2面202に沿う方向の先の側にある。よって、使用者が把持部23を手で把持する際、この手の指の腹がスイッチ5の可動部分に位置するように、スイッチ5を配置することが容易である。このようなスイッチ5の配置により、使用者が把持部23を把持する手の位置を維持したまま当該手の指でスイッチ5を操作することを容易にし、これにより装置1の操作性を向上できる。例えば、図5に示すように、親指の根元部分と、手掌において上記根元部分に対向する部分との間に、把持部23を挟むようにした場合において、人差し指または中指でスイッチ5を押しやすい。以上のような観点からは、寸法85に対する寸法86の比率は、50%以上が好ましく、70%以上が好ましく、また120%以下が好ましく、100%以下がより好ましく、また50%以上120%が好ましく、70%以上100%以下がより好ましい。なお、本実施形態では、寸法85に対する寸法86の比率は、80〜90%である。
【0061】
図3および図4に示すように、主収容部24は、扁平な形状を有しており、側面視において概ね矩形状である。ノズル3の軸13に対して直交する断面方向の主収容部24の外形は、長方形を基本形状としている。ノズル3の軸13に対して直交する方向、すなわち主収容部24の径方向のうち、互いに直交する2つの方向を第3の方向および第4の方向とする。第3の方向における主収容部24の寸法81は、第4の方向における主収容部24の寸法82より大きい。本実施形態では、第3の方向は、第1面201と第2面202に沿う方向であり、第4の方向は、第4面204と第6面206に沿う方向である。
【0062】
このように、主収容部24が扁平であることで、ハウジング2のレイアウト性の向上等を図ることができる。すなわち、紡糸用液をノズル3へ供給するためのポンプが、ギアポンプ等の吸い込み型である場合、ポンプが液体を効率よく吸入できるよう、図2に示す紡糸用液を収容する容器41は、変形自在であるとともに扁平な形状であることが好ましい。このように容器41が扁平である場合、容器41を収容する主収容部24も扁平であることで、ハウジング2のコンパクト化を図りつつ、ハウジング2の内部空間のレイアウト性を向上することができる。このような観点からは、寸法81に対する寸法82の比率は、30%以上50%以下が好ましい。なお、本実施形態では、寸法81に対する寸法82の比率は、40〜45%である。
【0063】
ハウジング2におけるノズル3とスイッチ5との間の部分である主収容部24は、扁平であり、スイッチ5は、上記のように扁平な部分である主収容部24の外縁部に対応する位置、すなわち主収容部24の外縁部に連続する把持部23の外縁部である第4面204の一部、および第4面204に隣接する第5面205の一部に、配置されている。言い換えると、スイッチ5は、主収容部24の外面に隣接する把持部23の外面のうち、上記第3の方向、すなわち第1面201と第2面202に沿う方向の先の側にある。よって、バックスプレーをより容易に抑制できる。すなわち、スイッチ5が主収容部24の外縁部に対応する位置にあることで、スイッチ5に指を載せつつ把持部23を把持する使用者の手を、ノズル3からより遠くの位置に誘導することができる。また、図3に示すようにノズル3の先端30とスイッチ5とを結ぶ直線12に対して主収容部24が外側に膨らむ程度、言い換えると距離83に対する距離84の比Rを、スイッチ5が主収容部24の外縁部に対応する位置にあることで、より容易に、大きく設定することができる。このため、ノズル3の先端30とスイッチ5に載る指との間において主収容部24が障害物として占める割合を、より容易に大きくすることができる。
【0064】
スイッチ5は、紡糸用液の噴射動作を制御するための制御スイッチであればよく、例えば、押されることで、紡糸用液をノズル3から噴射させるように構成されている。よって、装置1の使用中は、スイッチ5に使用者の指が載っていることになるため、ノズル3から上記指へ向かうバックスプレーを抑制する等の上記利点が有効に得られる。
【0065】
<第2の実施形態>
次に、図6を参照して、第2の実施形態に係る静電紡糸装置1について説明する。第1の実施形態と共通する構成については、第1の実施形態と同じ符号を付して説明を省略する。
【0066】
把持部23は、ノズル3の軸13に対して折れ曲がる形状の部分230を有する。部分230は、例えば円筒状であり、ノズル3の軸13に対してゼロより大きい角度θ1をなす軸14に沿って、ノズル3から遠ざかるように延びている。角度θ1は、55度である。よって、使用者は、例えば、親指の腹をスイッチ5に載せつつ部分230を握ることで、ノズル3の先端30が自分の側を向くように装置1を容易に把持することができる。
【0067】
把持部23がノズル3から遠ざかるように延びていることで、把持部23を把持する使用者の手とノズル3の先端30と間の距離をある程度大きく確保することが可能である。よって、バックスプレーを抑制できる。
【0068】
把持部23は、ノズル3の軸13に沿う方向において、スイッチ5と重なるか、またはスイッチ5に対しノズル3と反対側にある。よって、使用者が把持部23を把持する手の位置を維持したまま当該手の指でスイッチ5を操作可能な配置とした場合でも、ノズル3の先端30と上記手との間の距離が小さくなることを抑制し、バックスプレーを抑制できる。本実施形態で、角度θ2は30度であり、距離83に対する距離84の比Rは0.27〜0.28である。
【0069】
<第3の実施形態>
次に、図7を参照して、第3の実施形態に係る静電紡糸装置1について説明する。第1の実施形態と共通する構成については、第1の実施形態と同じ符号を付して説明を省略する。
【0070】
第4面204と第5面205とが接続する部分は、第1の実施形態の角部よりも小さい曲率を有する曲面である。この曲面にスイッチ5が設けられている。装置1の把持の方法は、第1の実施形態(図5)と同様である。第4面204と第5面205との接続部分が上記のような緩やかな曲面であるため、スイッチ5に載せられる指、例えば人差し指に係る関節を曲げる必要が少ない。よって、使用者が装置1を把持しやすく、扱いやすい。把持部23の軸14は、軸13に直交する直線11に対して傾きうる。図7に示す例では、ノズル3の軸13と把持部23の軸14とがなす角度θ1は、73度である。本実施形態で、角度θ2は27度であり、距離83に対する距離84の比Rは0.27〜0.28である。
【0071】
<第4の実施形態>
次に、図8を参照して、第4の実施形態に係る静電紡糸装置1について説明する。第1の実施形態と共通する構成については、第1の実施形態と同じ符号を付して説明を省略する。
【0072】
把持部23は、ノズル3の軸13に対して緩やかに折れ曲がる形状の部分230を有する。部分230は、ノズル3の軸13を挟んでスイッチ5と反対の側に延びる、先細りの形状である。部分230は、ノズル3の軸13に対してゼロより大きい角度θ1をなす軸14に沿って、ノズル3から遠ざかるように延びている。装置1の把持の方法は、第1の実施形態(図5)と同様である。スイッチ5が設けられている部分が、第3の実施形態と同様の曲面であるため、使用者が装置1を把持しやすく、扱いやすい。
【0073】
第2の実施形態と同様、把持部23が、ノズル3から遠ざかるように延びており、スイッチ5と重なるか、またはスイッチ5に対しノズル3と反対側にあるため、バックスプレーを抑制できる。スイッチ5から部分230の先端に至るまでの把持部23の外面が、ノズル3と反対側に膨出する緩やかな曲面であるため、この曲面に使用者の手掌が沿うことで、使用者が装置1を把持しやすく、扱いやすい。把持部23の軸14は、軸13に直交する直線11に対して傾いていてよい。図8に示す例では、ノズル3の軸13と把持部23の軸14とがなす角度θ1は、79度である。本実施形態で、角度θ2は29度であり、距離83に対する距離84の比Rは0.30〜0.31である。
【0074】
<比較実験>
本発明者らは、第1〜第4の実施形態の装置1と、比較形態の装置1について、比較実験を行った。図9に示す比較形態の装置1は、全体が円柱状であり、円柱状のハウジング2と、ノズル3と、スイッチ5とを有する。ハウジング2におけるスイッチ5の近傍は、装置1の把持部として機能する。この把持部の軸14は、ノズル3の軸13と重なっており、両軸13,14が互いになす角度θ1は、0度である。また、ノズル3の先端30とスイッチ5におけるノズル3の側の端50とを結ぶ仮想線12と、ノズル3の軸13とがなす角度θ2は、20度である。ノズル3の先端30とスイッチ5の端50との間の距離83は、40mmである。
【0075】
第1〜第4の実施形態の装置1と、比較形態の装置1について、以下の条件で静電紡糸を行った。各装置1として、スイッチ5がステンレス製であり、ハウジング2が樹脂で形成されているものを用いた。紡糸用液として、エタノール(99.5%)88質量%、ポリビニルブチラール12質量%の混合液を用いた。ポリビニルブチラールは積水化学工業(株)社製:商品名S−LEC B BM−1を用いた。右手で装置1を把持し、左手の手首近傍における直径約40mmの範囲に、紡糸用液を噴射させた。
ノズル先端30から皮膚までの直線距離:120mm
印加電圧:10.4kV
環境の温度:23℃
環境の相対湿度:40%RH
噴射速度:6mL/h
噴射時間:20秒
【0076】
その結果、比較形態の装置1については、ノズル3の噴射口から噴射された紡糸用液等が、方向を変えて回り込み、把持している右手の指の側に戻る、バックスプレー現象が観察された。一方、第1〜第4の実施形態の装置1については、把持している右手へのバックスプレーは観測されなかった。
【0077】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明の技術的範囲はかかる例に限定されない。本発明の技術分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0078】
上述した実施形態に関し、本発明は更に以下の静電紡糸装置を開示する。
【0079】
<1>
使用者が手で保持しうる形状または大きさを有するハンドヘルドタイプの静電紡糸装置であって、帯電した紡糸用液を噴射するためのノズルと、前記紡糸用液の噴射動作を制御するためのスイッチと、膨出部、および使用者が把持するための把持部を有するハウジングと、を備え、前記膨出部は、前記ノズルの先端と前記スイッチにおける前記ノズルの側の端とを結ぶ仮想線よりも外側に膨らんでおり、前記ノズルの軸と前記把持部の軸とがなす角度が、45度以上である、静電紡糸装置。
【0080】
<2>
前記ノズルの軸と前記把持部の軸とがなす角度が、60度以上が好ましく、また90度以下が好ましく、60度以上90度以下が好ましい、前記<1>に記載の静電紡糸装置。
<3>
前記ノズルの軸と前記仮想線とがなす角度が、25度以上である、前記<1>または<2>に記載の静電紡糸装置。
<4>
前記ノズルの軸と前記仮想線とがなす角度が、90度以下が好ましく、45度以下がより好ましく、また25度以上90度以下が好ましく、25度以上45度以下がより好ましい、前記<3>に記載の静電紡糸装置。
【0081】
<5>
前記ハウジングにおける前記ノズルと前記スイッチとの間の部分は、扁平であり、前記スイッチは、前記ハウジングの前記扁平な部分の外縁部に対応する位置に配置されている、前記<1>〜<4>のいずれか1項に記載の静電紡糸装置。
<6>
前記ノズルの前記先端と前記スイッチにおける前記ノズルの側の端との間の距離に対する、前記仮想線と前記膨出部の頂点との間の距離の比が、0.20以上である、前記<1>〜<5>のいずれか1項に記載の静電紡糸装置。
<7>
前記比が、0.50以下が好ましく、0.40以下がより好ましく、また0.20以上0.50以下が好ましく、0.25以上0.40以下がより好ましい、前記<6>に記載の静電紡糸装置。
<8>
前記ノズルが突出する面と前記スイッチが設けられている面とが交差する角部は、前記膨出部の頂点である、前記<1>〜<7>のいずれか1項に記載の静電紡糸装置。
【0082】
<9>
前記スイッチは、前記ノズルの軸に沿う方向において、前記静電紡糸装置の中心と重なるか、または前記中心に対して前記ノズルと反対側にある、前記<1>〜<8>のいずれか1項に記載の静電紡糸装置。
<10>
前記把持部は、前記ノズルの軸に沿う方向において、前記スイッチと重なるか、または前記スイッチに対して前記ノズルと反対側にある、前記<1>〜<9>のいずれか1項に記載の静電紡糸装置。
<11>
前記把持部は、前記静電紡糸装置において、前記ノズルとは反対方向の端部に位置する、前記<1>〜<10>のいずれか1項に記載の静電紡糸装置。
<12>
前記把持部は、扁平であり、前記スイッチは、前記把持部の外縁部に配置されている、前記<1>〜<11>のいずれか1項に記載の静電紡糸装置。
<13>
前記スイッチは、押されることで、前記紡糸用液を前記ノズルから噴射させるように構成されている、前記<1>〜<12>のいずれか1項に記載の静電紡糸装置。
<14>
前記スイッチは、押されている間は前記紡糸用液を前記ノズルから噴射させ、離されると該噴射を停止するように構成されている、前記<1>〜<13>のいずれか1項に記載の静電紡糸装置。
<15>
前記スイッチは、前記ハウジングの内部に向かう方向に押される、前記<1>〜<14>のいずれか1項に記載の静電紡糸装置。
<16>
前記スイッチは、1つ備えられている、前記<1>〜<15>のいずれか1項に記載の静電紡糸装置。<17>
前記把持部は、前記ノズルの軸に対してゼロより大きい角度をなす軸に沿って、前記ノズルから遠ざかるように延びる部分を有する、前記<1>〜<16>のいずれか1項に記載の静電紡糸装置。
【0083】
<18>
前記ハウジングを構成する材料として、絶縁材料を用いる、前記<1>〜<17>のいずれか1項に記載の静電紡糸装置。
<19>
使用者が把持した際に使用者の手が接触する位置に導電性材料で形成された領域を有する、前記<1>〜<18>のいずれか1項に記載の静電紡糸装置。
<20>
前記スイッチが導電性材料で形成されている、前記<1>〜<19>のいずれか1項に記載の静電紡糸装置。
<21>
前記紡糸用液を収容し、前記ハウジングの被装着部に取り外し自在に装着されるカート
リッジを具備する、前記<1>〜<20>のいずれか1項に記載の静電紡糸装置。
<22>
前記紡糸用液から形成される繊維の堆積物(被膜)に関し、前記繊維の長さは、少なく
とも繊維の太さの100倍以上の長さであり、好ましくは10μm以上、より好ましくは
50μm以上、さらに好ましくは100μm以上である、前記<1>〜<21>のいずれ
か1項に記載の静電紡糸装置。
<23>
前記紡糸用液は、次の成分(a)、(b)および(c)を含有し、成分(b)と成分(c)の質量比(b/c)が0.4以上50以下である、前記<1>〜<22>のいずれか1項に記載の静電紡糸装置。
(a)アルコールおよびケトンから選ばれる1種以上の揮発性物質
(b)繊維形成用水不溶性ポリマー
(c)水
【符号の説明】
【0084】
1 静電紡糸装置
2 ハウジング
21 膨出部
23 把持部
3 ノズル
5 スイッチ
12 仮想線
13 ノズルの軸
14 把持部の軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9