特許第6967785号(P6967785)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6967785膣真菌感染症の治療のためのグルコノデルタ−ラクトン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6967785
(24)【登録日】2021年10月28日
(45)【発行日】2021年11月17日
(54)【発明の名称】膣真菌感染症の治療のためのグルコノデルタ−ラクトン
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/366 20060101AFI20211108BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20211108BHJP
   A61K 31/4196 20060101ALI20211108BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20211108BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20211108BHJP
   A61P 15/02 20060101ALI20211108BHJP
【FI】
   A61K31/366
   A61K9/08
   A61K31/4196
   A61K31/496
   A61P31/10
   A61P15/02
【請求項の数】14
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2018-548699(P2018-548699)
(86)(22)【出願日】2017年4月6日
(65)【公表番号】特表2019-510761(P2019-510761A)
(43)【公表日】2019年4月18日
(86)【国際出願番号】EP2017058268
(87)【国際公開番号】WO2017174731
(87)【国際公開日】20171012
【審査請求日】2020年3月30日
(31)【優先権主張番号】1650467-2
(32)【優先日】2016年4月6日
(33)【優先権主張国】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】518324821
【氏名又は名称】ジェディア バイオテック エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】エラーヴィク,ウルフ
(72)【発明者】
【氏名】スターナー,オロフ
(72)【発明者】
【氏名】ストレブンズ,ヘレナ
(72)【発明者】
【氏名】マナー,ソフィー
【審査官】 小堀 麻子
(56)【参考文献】
【文献】 Jpn. J. Food Microbiol.,2009年,Vol.26, No.2,p.81-85
【文献】 Med. Mycol. J.,2013年,Vol.54,p.11-18
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性成分としてグルコノδ−ラクトン(式(III))
【化1】
を含む、真菌感染症の予防または治療における使用のための医薬であって、前記真菌感染症が、カンジダ属の種によるものである、医薬
【請求項2】
前記真菌感染症が、泌尿生殖器の真菌感染症である、請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
前記泌尿生殖器の真菌感染症が、外陰膣カンジダ症である、請求項2に記載の医薬。
【請求項4】
前記外陰膣カンジダ症が、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・グラブラータ(Candida glabrata)、カンジダ・クルーセイ(Candida krusei)および/またはカンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)によって引き起こされる、請求項3に記載の医薬。
【請求項5】
薬学的に許容される賦形剤を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の医薬であって、前記グルコノδ−ラクトンが、前記医薬の5〜99重量%の量で存在する、医薬。
【請求項6】
前記グルコノδ−ラクトンが、前記医薬の10〜70重量%の量で存在する、請求項5に記載の医薬。
【請求項7】
10重量%以下の水を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項8】
ミコナゾール、テルコナゾール、イソコナゾール、フェンチコナゾール、フルコナゾール、ナイスタチン、ケトコナゾール、クロトリマゾール、ブトコナゾール、エコナゾール、チオコナゾール、イトラコナゾール、5−フルオラシル、およびメトロニダゾールからなる群から選択される抗真菌剤をさらに含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項9】
担体、充填剤、および/またはバッファー剤もしくはpH調整剤を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項10】
投与後に長期間にわたってグルコノδ−ラクトンを放出するように製剤化されている、請求項1〜9のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項11】
タンポン、バジトリウム、膣エアロゾル、膣カップ、膣ゲル、膣挿入物、膣パッチ、膣リング、膣スポンジ、膣坐剤、膣クリーム、膣エマルション、膣フォーム、膣ローション、膣軟膏、膣粉末、膣シャンプー、膣溶液、膣スプレー、膣懸濁物、膣錠、膣ロッド、膣ディスク、膣デバイス、およびその任意の組み合わせとして製剤化されているか、または衛生用品上に存在する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項12】
バジトリウム、膣挿入物、膣リング、膣坐剤、膣錠、膣ロッド、または膣ディスクとして製剤化されている、請求項11に記載の医薬。
【請求項13】
カンジダ属の種によるバイオフィルム形成を低減または予防する能力を有する、請求項1〜12のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項14】
真菌感染症の予防または治療のための医薬の製造における、グルコノδ−ラクトンの使用であって、前記真菌感染症が、カンジダ属の種によるものである、使用
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膣真菌感染症の治療で使用される膣内投与のための医薬製剤に関する。特に、本発明は、外陰膣カンジダ症の治療で使用される膣内投与のための医薬製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
膣微生物叢は、異なる比および量で様々な微生物が混合された複雑な動的システムであり、それは乳酸産生細菌に依存して弱酸性環境(典型的にはpH3.5〜4.5)を維持する。膣ミクロフローラでの何らかの急変は膣pHを増加させ、したがって、膣病原体(それらは5を超えるpHで至適に増殖する)の確立のためにより有利な環境を生成する。膣中の微生物のフローラにおける不均衡は、したがって膣感染症(毎年、出産年齢の女性のうちの大きなパーセンテージが罹患する病態)を導き得る。
【0003】
膣のCandida感染はありふれた問題であり、大部分の女性(75%を超える)はたまに罹患するが、若干の女性(8%)についてはより大きく非常に面倒でかつ再発性の問題を提起する。症状としては、掻痒、痛みまたは刺激感、赤く腫れた膣組織、排尿および性交時の疼痛、典型的には付着性の白色で塊りの多い凝乳様分泌物(カッテージチーズの様な)または正常〜薄い水っぽい分泌物が挙げられる。Candida albicansは最もありふれた病原体であり、通常は膣、口、消化管中および皮膚上で、感染を引き起こすことなしに少量でしばしば存在するが、正常なフローラの変化(抗生物質治療後等)により、Candidaは異常増殖し感染し得る。しかしながら、外陰膣感染の出現についての知識は、生殖器感染と関連する心理社会的な汚名に起因して、かなり不完全である。
【0004】
C.albicansの毒性は、浮遊細胞から菌糸への転換によって媒介される。菌糸型(すなわち糸状細胞)は、カンジダリシン(膣の上皮細胞を破壊する細胞毒性ペプチド毒素)によって媒介される、組織に侵入し炎症を誘導する能力を有する(Moyes et.al.,Nature,2016,532,64)。
【0005】
Candidaは膣粘膜中に存在するグリコーゲン上で繁殖し、感染は妊娠の間に増加するエストロゲンレベルの粘膜に対する効果によっても、および懐胎期間の間の弱められる免疫系によっても促進される。経口避妊薬は、他のストレス因子に加えて、月経と同様に類似の効果を引き起こし得る。糖尿病は別の一般的な促進因子である。
【0006】
診断は、膣をスワビングして分泌物のサンプルを得て、それに対して、KOHを添加して上皮細胞を溶解しCandida菌糸を可視化することで、いわゆるウェットスメアまたはウェットマウントの顕微鏡検査を遂行することにより膣検査した後に、確立される。再発性または持続性の症状のある女性において、Candida属のあまり一般的でない種(Candida glabrataまたはCandida krusei等)は異なる医薬物を要求するので、膣培養物を得るべきである。自己診断は勧めることができず、ある研究においては11%の女性のみが正確に感染を診断し、以前に感染した女性は、わずかだけだがより正確であり(35%)、副作用の可能性のある費用のかかる治療を生じさせる[D.G.Ferris,et al.Obstet.Gynecol.2002,99,419−425]。
【0007】
治療は、1〜3日間または持続性の病態では7〜14日間の膣クリームまたは膣錠(エコナゾール、クロトリマゾール、ミコナゾール、チオコナゾールまたはブトコナゾール等)を包含するが、持続性感染または再発性感染において多くの場合フルコナゾールが推奨される。フルコナゾールを週1回または1週おきに3〜6か月の間与えて、再発性感染を予防することもできる。しかしながら、フルコナゾールの副作用は軽度で頻繁ではないが、それらには腹痛、頭痛および発疹が含まれ得る。フルコナゾールは多くの医薬物と相互作用し、胎児への害のリスクの可能性に起因して妊娠の間は推奨されない。薬物への耐性が発生するかもしれず、その場合にはイトラコナゾールを使用できるが、やはり懐胎期間の間は推奨されない。
【0008】
外陰膣カンジダ症は通常は生命を脅かすことはないが、それは多かれ少なかれ慢性的であり得、生活の質、性生活、仕事および集中能力を低減し、最終的には抑鬱症を導き得る。慢性病態は消耗性前庭炎を引き起こす場合があり、それは治療することが非常に難しいだろう。プロスタグランジン産生を介する過剰な炎症が早期収縮および早産を引き起こし得ることを支持する証拠がある。早産新生児は続いて、侵襲性Candida感染(細菌感染よりも高い罹病率および死亡率を引き起こす最も重篤な院内感染の1つ)に、特に新生児集中治療室において、直面し得る。
【0009】
静脈内のエキンキャンディン(echincandin)治療でさえ抗真菌物質耐性の罹患率を増加させることに関して、懸念が高まっている。女性に特異的な疾患についての治療は比較的開発が遅れている領域であり、外陰膣感染には有効な治療がなく、部分的に隠れた大きな問題を提起する。特にリスクがあるのは、糖尿病患者であり、特に妊娠糖尿病患者である。妊娠の間の使用のための無害な治療は、早産の予防において最も有益であることも証明された。
【0010】
外陰膣カンジダ症の示唆される代替治療は、細菌性膣炎の治療において長い間使用されている、乳酸(WO2008/119518参照)および乳酸菌(WO2008/071783参照)の使用を包含する。乳酸はしかしながら、外陰膣カンジダ症への作用には全く有効ではない。
【0011】
当技術分野において認識されるように、外陰膣カンジダ症はしたがって世界中で一般的な問題のままであり、治療法の進歩にもかかわらずすべての社会層に影響する[J.D.Sobel.Lancet,2007,369,1961−1971]。
【0012】
したがって、外陰膣カンジダ症に対する新しい医薬製剤についての必要性がある。本発明は、外陰膣感染に関する問題への単純で低価格で環境にやさしい解決策を提供しようと努力するものである。
【発明の概要】
【0013】
それゆえ、本発明は、膣内投与のための医薬製剤を提供することによって当技術分野における上で同定された欠如および短所の1つまたは複数を単独でまたは任意の組み合わせで、軽減、緩和、消失または回避するように努力するものであり、ここで製剤は薬学的に許容される賦形剤およびグルコノδ−ラクトン(式(III))
【化1】
を含み、ここでグルコノδ−ラクトンは、製剤の5〜99重量%(重量/重量)の量で存在する。かかる組成物が異なるCandida属の種のバイオフィルムの存在を低減すること、およびいくつかのCandida属の種に対し細胞毒性効果もさらに有することが示された。グルコノδ−ラクトン(GDA)は室温および体温で固体であり、したがって例えば膣錠、膣ディスクもしくは膣坐剤またはバジトリウム(vagitorium)中の活性成分として使用するのに好適である。
【0014】
一実施形態によれば、グルコノδ−ラクトンは製剤の10〜70重量%の量で存在する。グルコノδ−ラクトンは製剤の20〜70重量%の量で存在し得る。グルコノδ−ラクトンは、50重量%を超える(60wt%を超える等、70wt%を超える等、75wt%を超える等、80wt%を超える等)量で存在し得る。かかる組成物は、グルコノδ−ラクトンの有効用量の高速放出の利点を有する。
【0015】
別の実施形態によれば、組成物は、10wt%以下の、好ましくは5wt%以下の水を含む。かかる組成物は、長いシェルフライフの利点を有し、加水分解からグルコノδ−ラクトンを保護する。
【0016】
一実施形態によれば、医薬製剤は、ミコナゾール、テルコナゾール、イソコナゾール、フェンチコナゾール、フルコナゾール、ナイスタチン、ケトコナゾール、クロトリマゾール、ブトコナゾール、エコナゾール、チオコナゾール、イトラコナゾール、5−フルオラシル(fluoracil)、およびメトロニダゾールからなる群から選択される抗真菌剤をさらに含む。かかる組成物は、感染がグルコノδ−ラクトンに感受性のある種によって引き起こされる事例だけでなく、他の抗真菌剤を使用して治療されなければならない事例においても有効であるという利点を有する。
【0017】
一実施形態によれば、医薬製剤は、担体、充填剤、および/またはバッファー剤もしくはpH調整剤を含む。
【0018】
別の実施形態によれば、医薬製剤は、投与(膣内の挿入等)後に、延長された期間にわたって(少なくとも4時間にわたって、少なくとも8時間にわたって、少なくとも6時間にわたって、または少なくとも24時間にわたって等)、式(III)に記載の化合物を放出するように製剤化される。これは、治療の効果が延長されるという利点を有する。さらに、組成物の投与の間の時間間隔が延長され得る。
【0019】
さらに別の実施形態によれば、医薬製剤は、タンポン、バジトリウム、膣エアロゾル、膣カップ、膣ゲル、膣挿入物、膣パッチ、膣リング、膣スポンジ、膣坐剤、膣クリーム、膣エマルション、膣フォーム、膣ローション、膣軟膏、膣粉末、膣シャンプー、膣溶液、膣スプレー、膣懸濁物、膣錠、膣ロッド、膣ディスク、膣デバイス、およびその任意の組み合わせとして製剤化されるか、または医薬製剤は、衛生用品(タンポン、生理用ナプキン、尿漏れ防止パッドもしくはおむつ、またはパンティーライナー等)上に存在する。
【0020】
別の実施形態によれば、医薬製剤は、バジトリウム、膣挿入物、膣リング、膣坐剤、膣錠、膣ロッド、または膣ディスクとして製剤化される。
【0021】
一実施形態によれば、医薬製剤は、Candida属の種によるバイオフィルム形成を低減または予防する能力を有する。バイオフィルムは、細胞が互いに付着する微生物の群である。多くの場合、これらの細胞は表面(粘膜表面等)に付着する。バイオフィルム中で増殖する微生物細胞は、同じ生物体のいわゆる浮遊細胞(それらは液体培地中で浮遊または遊泳し得る単一細胞である)とは生理学的に異なる。Candida属の種は、バイオフィルムを形成する能力を有する。バイオフィルム形成が低減または予防される場合、個々のCandida細胞は、例えば膣の粘膜にもはや付着できない。したがって、さらなる感染は予防され、もはやバイオフィルムを形成しないCandida細胞は例えば膣から廃棄される。
【0022】
本発明の第2の態様によれば、泌尿生殖器の真菌感染症の予防または治療における使用のための上で記載の医薬製剤が提供される。
【0023】
グルコノδ−ラクトンは医薬製剤中の活性成分として存在し得る。
【0024】
一実施形態によれば、泌尿生殖器の真菌感染症は外陰膣真菌感染症である。
【0025】
別の実施形態によれば、泌尿生殖器の真菌感染症は外陰膣カンジダ症である。
【0026】
さらに別の実施形態によれば、外陰膣カンジダ症は、Candida albicans、Candida glabrata、Candida kruseiおよび/またはCandida tropicalisによって引き起こされる。
【0027】
本発明の第3の態様によれば、真菌感染症の予防または治療における使用のためのグルコノδ−ラクトン(式(III))
【化2】
が、提供される。
【0028】
一実施形態によれば、真菌感染症は泌尿生殖器の真菌感染症である。
【0029】
一実施形態によれば、泌尿生殖器の真菌感染症は外陰膣カンジダ症である。
【0030】
別の実施形態によれば、外陰膣カンジダ症は、Candida albicans、Candida glabrata、Candida kruseiおよび/またはCandida tropicalisによって引き起こされる。
【0031】
さらに、本発明の様々な実施形態の有利な特色は、従属請求項中でおよび以下の詳細な説明内で定義される。
【0032】
発明の詳細な説明
ヒトにおける病原体感染のおよそ80%が、バイオフィルムの形成(すなわち細胞壁におよび他の病原体細胞に結合された病原体の複雑な三次元構造の形成)と関連することが推定される。バイオフィルム形成は外陰膣Candidaの感染のために要求されることが示されている[M.M.Harriott,E.A.Lilly,T.E.Rodriguez,P.L.Fidel,M.C.Noverr,Microbiology,2010,156,3635−3644]。さらに、バイオフィルムの形成は抗真菌剤の効率も10〜100倍低減する。
【0033】
外陰膣Candidaの感染におけるバイオフィルムの形成の重要性を考慮すると、バイオフィルムアッセイは、標的の外陰膣Candida感染におけるヒドロキシル化カルボン酸の効果を評価するのに適切であると考えられた。当技術分野における報告によれば、乳酸は、バイオフィルムアッセイ(以下の実験的なパートを参照)において、標的の外陰膣Candida感染に中程度に活性があることが見出された。バイオフィルム形成はpHおよび代替の炭水化物源の出現の両方に依存するので、乳酸がバイオフィルムの形成に対しある程度の効果を提供することが明らかになることは意外ではなかった。さらに、他のいくつかのヒドロキシル化C2〜C5カルボン酸も類似の効果を提供した。より強い酸は多少より強い効果を提供するので、それらの効果はそれらの酸性化効果に関連すると考えられる。
【0034】
意外にも、ポリ水酸化C6カルボン酸(例えばグルコン酸)は、密接に関連するC3アナログおよびC5アナログ(すなわちそれぞれグリセリン酸およびキシロン酸)に比較して、バイオフィルムの形成の減少において優れた効果を提供することが見出された。さらにより意外なことには、ポリ水酸化C6カルボン酸(例えばグルコン酸)は、より酸性のヒドロキシル化カルボン酸(クエン酸等)に比較しても、優れていることが見出された。
【0035】
他のヒドロキシル化カルボン酸の効果は単にそれらの酸性度(pHの低下がバイオフィルムの形成を妨げる)に起因するように見えるが、ポリ水酸化C6カルボン酸(例えばグルコン酸)の効果は、バイオフィルムの形成に対してpH<7で既に顕著である。したがって、バイオフィルムの形成に対するポリ水酸化C6カルボン酸(例えばグルコン酸)の効果は、その酸性度に関連するだけではなく、化合物それ自体(またはより正確にはその関連するδ−ラクトン)も効果を提供するように思われる。
【0036】
当技術分野において、Pseudomonas属の株AN5により産生されるD−グルコン酸は真菌Gaeumannomyces graminis var.triticiによるコムギの立枯病に対する効果を有することが実証されている(R.Kaur et.al.,Phytochemistry 67(2006)595−604;WO00/44230A1も参照)。著者らは、Pseudomonas属の株によって産生されるD−グルコン酸および他の抗真菌剤(例えばフェナンジン(phenanzine)−1−カルボキシル酸(PCA)および2,4−ジアセチルフロログルシノール(DPG))が立枯病真菌を阻害する能力は、コムギ根圏におけるpHを低下させる能力に少なくとも部分的に起因するに違いないことを示唆する。
【0037】
任意の理論により束縛されるものではないが、ポリ水酸化C6カルボン酸(例えばグルコン酸)はペントースリン酸経路においてカンジダ種および他の真核生物によって使用され得るので、グルコン酸の存在がバイオフィルム形成カンジダ種よりも浮遊細胞を優遇することはあり得る。
【0038】
水溶液中で、グルコン酸(GA、CAS 526−95−4)は、グルコノ−δ−ラクトン(GDA、CAS 90−8−2)およびグルコノ−γ−ラクトン(GGA)と平衡状態にある。グルコン酸は固体結晶生成物として産生するのが難しく、50%の水溶液として通常供給される。
【0039】
かかる水溶液を使用して、膣内投与のための液体医薬製剤(膣クリーム、膣ゲル等)を提供できるが、水溶液は、膣内投与のための固体医薬製剤(膣錠、膣坐剤、または膣リング等)の提供における使用のためにはあまり好適ではない。
【0040】
この問題を解決するために、本発明者は、固体医薬製剤の調製においてグルコノ−δ−ラクトン(GDA)を使用する可能性を調査した。意外にも、本発明者は、GDAが異なるCandida属の種のバイオフィルムの形成に対しそのものとして(すなわちラクトンそれ自体)、効果を有することを見出した。さらなる研究は、Candida属の種のバイオフィルム形成および生存率に対するGDAの効果が、グルコン酸の効果と比較して、あることを明らかにし、GDAはそれ自体で活性化合物として作用することを暗示する。
【0041】
本発明の実施形態は、したがって、グルコノ−δ−ラクトン(GDA)である、式(III)に記載の化合物
【化3】
を含む、膣内投与のための医薬製剤に関連する。
【0042】
さらに、医薬製剤は薬学的に許容される賦形剤を含んで製剤を提供する。この文脈において、「薬学的に許容される」は、用いられる投薬量および濃度で、それが投与される被験体においていかなる望まない影響も引き起こさない賦形剤を意味する。かかる薬学的に許容される賦形剤は、当技術分野において周知である。それらは、担体、希釈剤、結合剤、崩壊剤、流動性改善剤、pH調整剤、安定化剤、粘度調整剤、防腐剤、ゲル化剤または膨潤剤、界面活性剤、乳化剤、懸濁化剤、坐剤のための基剤、バジトリー(vagitory)またはペッサリー、クリームのための基剤、軟膏、ゲル、ローション、シャンプー、フォーム、スプレーなどからなる群から選択され得る。当業者によって認識されるように、薬学的に許容される賦形剤の具体的な選択は、具体的な形態または製剤(例えば投薬形態)に依存する。当業者は、好適な薬学的に許容される賦形剤の提供において、様々な教科書(例えばRemington:The Science and Practice of Pharmacy)中で指針を見出すことができる。かかる医薬製剤は、外陰膣真菌感染症の治療および/または予防において有用である。
【0043】
薬学的に許容される賦形剤は親油性担体または親水性担体であり得る。親油性担体の例は、ワックス、油、ミリスチン酸イソプロピル、固体トリグリセリド、およびカカオバターである。親水性担体の例は、グリセロール、プロピレングリコール、およびポリオキシエチレングリコールである。
【0044】
さらに、賦形剤は充填剤であり得る。充填剤の例としては、サッカライド(ラクトース等)、マルトースおよびトレハロースが挙げられる。例えばスクロース、ラクツロース、セロビオースなどのような他の二糖も、本文脈における使用のために好適であり得る。本発明の組成物中で、二糖は組成物の好適な構造に通常寄与する。糖類は凍結乾燥補助としても供され得る。
【0045】
水溶液中で、式(I)に記載の化合物は、対応するラクトン(例えばδ−ラクトンおよびγ−ラクトン)と平衡状態にある。
【化4】
医薬製剤の活性成分は、したがって少量の酸(式(I)参照)および/またはグルコノ−γ−ラクトンを含み得る。
【0046】
一実施形態によれば、式(III)に記載の化合物は、荷電していないプロトン化された形態での酸(式(I))(例えばグルコン酸)として部分的に、および対応する付加塩(すなわち共役塩基、例えばグルコン酸塩)として部分的に、医薬製剤中に存在する。したがって、グルコン酸は医薬製剤を緩衝する役目を果たし得る。荷電していないプロトン化された形態での酸と共役塩基との間の比を選択して、投与に際して好適なpH(3.5〜4.5等)を提供できる。医薬製剤はしたがって投与に際して膣中で正常な生理的pHを回復し得る。しかしながら、既にpH6.5以下での式(III)に記載の化合物の活性を考慮すると、pHは、医薬製剤が効果を提供するために必要に迫られて回復されてはならない。しかしながら、医薬製剤が投与に際して6.0以下(5.0以下等)のpHを提供するならば、それは好ましい。医薬製剤は、投与に際して好ましくは3.0以上、より好ましくは3.5以上のpHを提供するべきである。
【0047】
荷電していないプロトン化された形態での対応する酸および/または対応する付加塩(すなわち共役塩基)の形態での式(III)に記載の化合物を使用して、医薬製剤にpH修飾特性を提供できるが、医薬製剤は追加のバッファー剤またはpH調整剤を含み得る。かかるバッファー剤またはpH調整剤は、約3〜約5(3.5〜4.5等)にpHを調整するために好適な薬学的に許容されるバッファー剤であり得る。バッファー剤またはpH調整剤の例としては、乳酸、酢酸、クエン酸、マロン酸、リン酸、酒石酸、マレイン酸などおよびそれらの対応する共役塩基(すなわち乳酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、マロン酸塩、リン酸塩、酒石酸塩、およびマレイン酸塩)が挙げられる。
【0048】
さらに、医薬製剤は、1つまたは複数の薬学的に許容される塩(コハク酸塩、リシン酸塩、シピオン酸塩、吉草酸塩、ヘミコハク酸塩、酪酸塩、またはトロメタモール塩等を単独または組み合わせで)も含み得る。
【0049】
医薬製剤は、式(III)に記載の薬学的に活性のある量の化合物を含む。好ましい実施形態によれば、医薬製剤は、少なくとも5wt%(少なくとも10wt%、15wt%、20wt%、25wt%、30wt%、40wt%、50wt%、60wt%、または75wt%等)の式(III)に記載の化合物を含む。さらに、医薬製剤は、99wt%以下(95wt%、90wt%、80wt%、75wt%、70wt%、60wt%、または50wt%以下等)の式(III)に記載の化合物を含み得る。したがって、医薬製剤は、5wt%〜99のwt%の式(III)に記載の化合物を含み得る。当業者に認識されるように、範囲は、上で規定される上限量および下限量(10〜95wt%、10〜80wt%、15〜90wt%、20〜75wt%、30〜70重量%等)に基づいて絞ることができる。医薬製剤は、40wt%〜90wt%の間の式(III)に記載の化合物を含み得る。医薬製剤は、50wt%〜80wt%の間の式(III)に記載の化合物を含み得る。医薬製剤は、60wt%〜70wt%の間の式(III)に記載の化合物を含み得る。
【0050】
別の実施形態によれば、医薬製剤は、グルコノ−δ−ラクトン(III)、および随意であるが必ずしもではなく、グルコン酸(I)を含む。かかる実施形態において、製剤中のグルコノ−δ−ラクトン(III)とグルコン酸(I)のモル比は、少なくとも9:1(III:I)、好ましくは少なくとも49:1(III:I)、より好ましくは少なくとも99:1(III:I)であり得る。グルコノ−δ−ラクトン(III)はグルコン酸(I)へ加水分解されるので、医薬製剤中でグルコノ−δ−ラクトン(III)が高比率であることが好ましいだろう。医薬製剤は、かかる実施形態により1wt%未満(0.1wt%、0.05wt%、0.01wt%、0.005wt%、または0.001wt%未満のグルコン酸(I)等)のグルコン酸(I)を含み得る。
【0051】
医薬製剤の膣挿入に際して、ラクトンは加水分解を引き起こす水性条件へ曝露されるだろう。加水分解は即時でないので、医薬製剤は延長された期間にわたって式(III)に記載の化合物を放出し、その効果を長くする。加えて、式(I)に記載の化合物は遊離酸またはその共役塩基として放出され、したがってpH低下効果を加えることができる。膣のpHは3.5〜4.5の間で変動でき、真菌感染または細菌感染の事例において4.5を超え得る。
【0052】
さらに、当業者によって認識されるように医薬製剤は延長放出のために製剤化され、効果をさらに長くできる。医薬製剤は、膣内の挿入後に、延長された期間にわたって(少なくとも4時間にわたって、少なくとも8時間にわたって、少なくとも6時間にわたって、または少なくとも24時間にわたって等)、式(III)に記載の化合物を放出するように製剤化され得る。
【0053】
さらに、グルコノ−δ−ラクトン(III)は、活性成分としての作用とは別に、医薬製剤(半固体または固体の医薬製剤等)中で、グルコノ−δ−ラクトン(III)を含む組成物の製剤化を促進する充填剤および/または担体として作用し得る。
【0054】
賦形剤とは別に、医薬製剤は追加の抗真菌剤を含み得る。抗真菌剤は、ミコナゾール、テルコナゾール、イソコナゾール、フェンチコナゾール、フルコナゾール、ナイスタチン、ケトコナゾール、クロトリマゾール、ブトコナゾール、エコナゾール、チオコナゾール、イトラコナゾール、5−フルオラシル(fluoracil)、およびメトロニダゾールからなる群から選択される。1用量あたりの抗真菌剤の量は0.1mg〜2000mgの範囲であり得る。式(III)に記載の化合物およびかかる追加の抗真菌剤は、相乗的様式で作用し得る。
【0055】
時々ではあるが常にではなく、外陰膣真菌感染症は細菌感染も包含する。グルコン酸はその酸性度に起因して、細菌感染に対し乳酸の効果に類似する効果を提供するだろう。したがって、加えて、グルコノ−δ−ラクトン(III)は細菌感染にも効果を有し得る。しかしながら、1つまたは複数の追加の抗菌剤を医薬製剤に補足することは好ましいだろう。一実施形態によれば、医薬製剤はしたがって1つまたは複数の抗菌剤を含む。抗菌剤は、クリンダマイシン、テトラサイクリン、アモキシシリン、アンピシリン、エリスロマイシン、ドキシサイクリン、ルメフロキサシン(lumefloxacin)、ノルフロキサシン、アフロキサム(afloxam)、シプロフラキシン(ciproflaxin)、アジトロマイシン(azitromycin)、セフロトキシン(cefltoxine)からなる群から選択され得る。抗菌剤の量は、1用量あたり5mg〜1000mgの範囲であり得る。
【0056】
さらに、医薬製剤は1つまたは複数の病原体抗付着剤を含み得る。既に議論されたように、外陰膣真菌感染症は、バイオフィルム形成および膣粘膜への真菌の付着を包含する。一実施形態によれば、医薬製剤はしたがって、病原体(例えば真菌)による粘膜付着を予防する1つまたは複数の抗付着剤を含む。抗付着剤は、付着を予防するバリアとして、または既に付着した微生物を剥離する(disadhere)薬剤としてのいずれかで役立つ薬剤であり得る。剥離(disadherence)を引き起こす抗付着剤の例は、マンノース、ラクトース、キシリトール、および他の糖アルコールであり得る。
【0057】
医薬製剤は、好ましくは膣への投与(例えば膣内に)のために製剤化される。一実施形態によれば、医薬製剤はしたがって、タンポン、バジトリウム、膣エアロゾル、膣カップ、膣ゲル、膣挿入物、膣パッチ、膣リング、膣スポンジ、膣坐剤、膣クリーム、膣エマルション、膣フォーム、膣ローション、膣軟膏、膣粉末、膣シャンプー、膣溶液、膣スプレー、膣懸濁物、膣錠、膣ロッド、膣ディスク、膣デバイス、およびその任意の組み合わせとして製剤化される。好ましくは、医薬製剤は、バジトリウム、膣エアロゾル、膣カップ、膣ゲル、膣リング、膣スポンジ、膣坐剤、膣クリーム、膣エマルション、膣フォーム、膣ローション、膣軟膏、膣シャンプー、膣溶液、膣スプレー、膣懸濁物、膣錠、膣ロッド、または膣ディスクとして;より好ましくは、バジトリウム、膣挿入物、膣リング、膣坐剤、膣錠、膣ロッド、または膣ディスクとして、製剤化される。医薬製剤は、液体製剤(膣エアロゾル、膣ゲル、膣クリーム、膣エマルション、膣フォーム、膣ローション、膣軟膏、膣シャンプー、膣溶液、膣スプレー、膣懸濁物、またはその任意の組み合わせ等)でもあり得る。
【0058】
代替的であるがそれほど好ましくない実施形態によれば、医薬製剤は、衛生用品(タンポン、生理用ナプキン、尿漏れ防止パッドもしくはおむつ、またはパンティーライナー等)上に存在する。
【0059】
医薬製剤は、延長放出のために、すなわち投与(例えば膣内の挿入)後に、延長された期間にわたって(少なくとも4時間にわたって、少なくとも6時間にわたって、少なくとも8時間にわたって、または少なくとも24時間にわたって等)式(III)および/または(I)に記載の化合物を放出するように、さらに製剤化され得る。式(I)に記載の化合物は、荷電していないプロトン化された形態での酸としておよび/または対応する共役塩基として放出され得る。さらに、既に略述されたように、製剤は、加水分解されていない形態でグルコノδ−ラクトンを放出できる。延長放出のために医薬製剤を製剤化することによって、医薬製剤はより長い時間で効果を発揮するだろう。これは、膣中の正常な条件を回復させること、かつ外陰膣真菌感染症を治療および/または予防することに有益であり得る。
【0060】
既に詳述されたように、式(III)に記載の化合物
【化5】
を含む膣内投与のための医薬製剤は、Candida属の種によるバイオフィルム形成の形成を低減またはさらに予防する能力を有する。さらに、かかる医薬製剤は、Candida属の種によって形成されたバイオフィルムを低減またはさらに溶解する能力を有し得る。
【0061】
既に詳述されたように、グルコノδ−ラクトン(III)はしたがって、泌尿生殖器の真菌感染症(外陰膣真菌感染症等)の予防または治療において使用され得る。一実施形態はしたがって、泌尿生殖器の真菌感染症(外陰膣真菌感染症等)の予防または治療における使用のための、本明細書において開示される、医薬製剤に関する。典型的には、泌尿生殖器の真菌感染症は、Candida属の種(Candida albicans、Candida glabrata、Candida krusei、およびCandida tropicalis等)による感染を包含する外陰膣カンジダ症である。
【0062】
外陰膣カンジダ症感染は、炎症と関連する症状(掻痒、痛みまたは刺激感、赤く腫れた膣組織、排尿および性交時の疼痛、典型的には付着性の白色で塊りの多い凝乳様分泌物(カッテージチーズの様な)または正常〜薄い水っぽい分泌物等)を引き起こす、膣におけるカンジダの過剰増殖である。
【0063】
同様に、本発明の一実施形態は、泌尿生殖器の真菌感染症(外陰膣真菌感染症等)の治療および/または予防における使用のための、本明細書において開示される、医薬製剤の製造のためのグルコノδ−ラクトンの使用に関する。典型的には、泌尿生殖器の真菌感染症は、Candida属の種(Candida albicans、Candida glabrata、Candida krusei、およびCandida tropicalis等)による感染を包含する外陰膣カンジダ症である。
【0064】
さらに別の実施形態は、本明細書において開示される、かかる予防および/または治療を必要とする哺乳動物(ヒトを含む)へ治療有効量の医薬製剤を投与することを含む、泌尿生殖器の真菌感染症(外陰膣真菌感染症等)の予防および/または治療の方法に関する。典型的には、泌尿生殖器の真菌感染症は、Candida属の種(Candida albicans、Candida glabrata、Candida krusei、およびCandida tropicalis等)による感染を包含する外陰膣カンジダ症である。
【0065】
本明細書における実施形態に記載の医薬組成物は、薬学的有効用量で患者へ投与され得る。「薬学的有効用量」によって、それが投与される病態に関して所望される効果を産生するのに十分な用量が意味される。正確な用量は、投与の様式、障害および/または疾患の性質および重症度、ならびに一般的条件(患者の年齢および体重等)に依存し得る。
【0066】
一実施形態によれば、本明細書において開示されるような医薬組成物は、少なくとも1週間の間毎日少なくとも1回投与されるべきであるが、他の用量レジメンも使用され得る。
【0067】
本明細書において使用される時、「予防する/予防すること」は、予防を達成するための本明細書において開示される実施形態に記載の化合物または医薬組成物の使用後に、病態および/または疾患が決して再び起こらないことを意味すると解釈されるべきではない。さらに、この用語は、病態を予防するためのかかる使用後に、上記病態が少なくともある程度まで起こらないことを意味すると解釈されるべきでもない。むしろ、「予防する/予防すること」は、予防される病態が、かかる使用にもかかわらず起これば、かかる使用なしほど重症ではないであろうことを意味すると意図される。
【0068】
一実施形態によれば、治療は前治療(すなわち予防的治療)も包含する。
【0069】
本発明は具体的な例示的実施形態を参照して上で記載されてきたが、それは、本明細書において説明された具体的な形態へ限定されていることを意図しない。上で言及される実施形態の任意の組み合わせは本発明の範囲内として認識されるべきである。むしろ、本発明は付随の請求項によってのみ限定され、具体的に上述したもの以外の実施形態はこれらの添付された請求項の範囲内で等しく可能である。
【0070】
請求項中で、「含む/含むこと」という用語は、他の種またはステップの存在を除外しない。加えて、個別の特色は異なる請求項中に含まれ得るが、これらはおそらく有利に組み合わせることができ、異なる請求項中での包含は、特色の組み合わせが実現可能ではないことおよび/または有利ではないことを暗示しない。加えて、単数の参照は複数を除外しない。「1つの(a)」、「1つの(an)」、「第1の」、「第2の」などという用語は、複数を除外しない。「少なくとも1つ」または「1つまたは複数」という語句は、1または1を超える数(1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10等)を指す。
【図面の簡単な説明】
【0071】
図1】蒸留水(塗りつぶしていない円)、pH4のバッファー(塗りつぶした正方形)、pH5のバッファー(塗りつぶしていない正方形)、およびpH7のバッファー(塗りつぶした円)中での、GDAの加水分解における旋光度の変化を示す。
図2】リン酸バッファー(塗りつぶしていない円、点線)またはGDAを(塗りつぶした正方形、実線)を含有する、pH2.6〜6.6の最少培地中でのCandida albicansの正規化したバイオフィルム形成を示す。バイオフィルムを24時間後に測定し、染色をクリスタルバイオレットにより遂行した。
図3a】GDAにより処理されたCandida albicansの正規化したバイオフィルム形成を示す。GDAのペレットを37℃でpH3.71のバッファー溶液(10mL)へ添加した。サンプル(4mL)を1、2、3、4、5、6および24時間後に採取し、新しいバッファー溶液(4mL)を添加した。サンプルをバイオフィルム培地で50倍希釈し、バイオフィルム形成の量を24時間後に測定した。
図3b】GDAにより処理されたCandida glabrataの正規化したバイオフィルム形成を示す。GDAのペレットを37℃でpH3.71のバッファー溶液(10mL)へ添加した。サンプル(4mL)を1、2、3、4、5、6および24時間後に採取し、新しいバッファー溶液(4mL)を添加した。サンプルをバイオフィルム培地で50倍希釈し、バイオフィルム形成の量を24時間後に測定した。
図4a】異なる濃度でのGDAによる24時間の処理後の、C.albicansおよびC.glabrataのバイオフィルムの生存率を示す。バイオフィルム染色をXTTにより遂行した。光学的密度は485nmで測定した。斜め縞はC.albicansについてのデータを示す。塗りつぶした黒色カラムはC.glabrataについてのデータを示す。
図4b】異なる濃度でのGDAによる48時間の処理後の、C.albicansおよびC.glabrataのバイオフィルムの生存率を示す。バイオフィルム染色をXTTにより遂行した。光学的密度は485nmで測定した。斜め縞はC.albicansについてのデータを示す。塗りつぶした黒色カラムはC.glabrataについてのデータを示す。
図5】C.albicansおよびC.glabrataの成熟バイオフィルムに対するGDAの効果を示す。成熟バイオフィルム(48時間増殖させた)を37℃で5時間GDAとインキュベーションし、次いで連続希釈で細胞をYPDプレート上にプレーティングして細胞生存を推測した。
図6a】最少培地(pH7.0)中の無処理のC.albicansのバイオフィルム発生のマイクロ流体研究を示す。無処理の細胞は主として菌糸を形成する。
図6b】×50の最終濃度(pH3.8)のGDAの加水分解物を含有する最少培地中で処理されたC.albicansのバイオフィルム発生のマイクロ流体研究を示す。GDAの添加により、C.albicansは菌糸ではなく優先的に酵母型として増殖した。
【発明を実施するための形態】
【0072】
材料および方法
グルコノ−δ−ラクトン
固体のグルコノ−δ−ラクトン(GDA、CAS 90−8−2)は商業的供給業者から得た。
【0073】
バイオフィルム形成アッセイ
酵母株を、完全培地YPD(0.5%(重量/体積)の酵母抽出物、1%(重量/体積)のペプトン、2%(重量/体積)のグルコース)または0.5%(重量/体積)の硫酸アンモニウム、0.2%(重量/体積)のグルコースおよび100mMのL−プロリンを補足したYNB(アミノ酸および硫酸アンモニウム不含有の酵母窒素ベース、FORMEDIUM(商標)、CYN0505)からなる最少培地中で37℃にて増殖させた。必要とあれば、2%(重量/体積)のアガーを使用して培地を固体化した。液体最少培地(0.5%の硫酸アンモニウム、0.2%(重量/体積)のグルコースおよび100mMのL−プロリンを補足したYNB(アミノ酸および硫酸アンモニウム不含有の酵母窒素ベース、FORMEDIUM(商標)、CYN0505))を、バイオフィルムアッセイのために使用した(バイオフィルム培地)。
【0074】
バイオフィルムに対するpHの影響についての実験(以下の実施例2)において、最終濃度0.25Mで異なるリン酸カリウムバッファーを使用して、またはバイオフィルム培地へのGDAの添加によってのいずれかで、pH値(2.6〜6.6)を得た。
【0075】
酵母株
バイオフィルム形成実験において使用される株を、表1中に記載する。
【表1】
【0076】
バイオフィルムの測定
バイオフィルムを、いくつかの変更を伴い、記載されるように[K.Scherz et al.,G3(Bethesda),2014,4,1671−1680.I.Serrano−Fujarte et al.Biomed Res Int.2015;2015:783639]液体培養中で測定した。バイオフィルムアッセイの前に、酵母培養物を静止相まで液体YPD培地中で24時間増殖させ、細胞を次いで遠心分離(1699×g)によってペレットにし、滅菌水により洗浄し、細胞を0.2 OD600/mlの最終濃度で、試験バイオフィルム培地(0.5%の硫酸アンモニウム、0.2%のグルコースおよび100mMのL−プロリン(pH7.0)を補足したYNB(アミノ酸および硫酸アンモニウム不含有の酵母窒素ベース))中へさらに接種し、96ウェルの平底ポリスチレンマイクロタイタープレート(Sigma Aldrich、Corning(登録商標)Costar(登録商標)培養プレート、CLS3596−50EA)中で、37℃のサーモスタットで72時間インキュベーションした。定義されたタイムポイントで、クリスタルバイオレット(HT901−8FOZ;Sigma Aldrich)を、最終濃度0.05%で培地へ添加した。加えて、全バイオマスを測定した。細胞染色の24時間後に、プレートウェルを200μlの水で4回洗浄して浮遊細胞(バイオフィルムの一部でない細胞)を除去し、バイオフィルムを次いで乾燥し、200μlの96%のエタノール中で溶解した。全バイオマスおよびクリスタルバイオレットバイオフィルム染色測定を、FLUOstar OPTIMAプレートリーダー(BMG LABTECH)により、OD560で遂行した。クリスタルバイオレットバイオフィルム測定を全バイオマスへ正規化した(OD560バイオフィルム/OD560全バイオマス)。
【0077】
実施例
実施例1 − グルコノ−δ−ラクトン(GDA)の加水分解
水溶液中で、グルコノ−δ−ラクトン(GDA)はグルコン酸(GA、CAS 526−95−4)と平衡状態にある。GDA(200mg)を、蒸留水(20mL)、pH4のバッファー、pH5のバッファー、またはpH7のバッファーへ、37℃で添加した。旋光度およびpHを経時的に測定した。旋光度は、37℃にて、ナトリウムD線、C=10mg/mL、経路長=10cmで測定した。GDAの旋光度はおよそ66°である。グルコン酸の旋光度はおよそ5°である[D.T.Sawyer,J.B.Bagger,J.Am.Chem.Soc.,1959,81,5302−5306]。この実験は、GDAがGDAおよびGAの混合物へ徐々に加水分解されることを示す(図1)。平衡はpH依存性であり、GDAの妥当な濃度はすべての緩衝条件で存在する。
【0078】
実施例2 − 異なるpHでのCandida albicansのバイオフィルム形成
図2から理解できるように、GDAは、C.albicansのバイオフィルム形成に対して強い効果を示すが、リン酸バッファーからの効果はそれほど顕著でない。さらに、GDAは少なくとも約6までのpH値でも強い効果を示すが、バッファーからの効果はpH5で既に減退する。
【0079】
実施例3 − GDAを使用するインビボ条件のモデルにおけるバイオフィルム形成
GDAのペレット(2.5g、二重サンプル)を、pH3.71のバッファー溶液(0.5MのKHSO/オルトリン酸、10mL)へ37℃で添加した。サンプル(4mL)を、固定タイムポイント(1、2、3、4、5、6および24時間)で採取し、新しいバッファー溶液(4mL)を添加した。サンプルをバイオフィルム培地(上記参照)で50倍希釈し、バイオフィルム形成の量を、上で記載されるように24時間後に測定した。図3aから理解されるように、放出されたGDAは、C.albicansにおけるバイオフィルム形成の量を有意に低減する。さらに、ペレットの加水分解は、少なくとも24時間まで(おそらくそれ以上)、予防効果を提供するのに十分なほど遅いように見える。効果はC.glabrataではそれほど顕著ではない(図3b)。
【表2】
【0080】
結果は、C.albicansおよびC.glabrataの両方のバイオフィルム形成がGDAの存在下で低減されたことを示す。減少したバイオフィルム形成に加えて、GDAは、C.albicansおよびC.glabrataの成熟バイオフィルムの生存率に影響し得る。
【0081】
実施例4 − GDAで処理されたC.albicansおよびC.glabrataの成熟バイオフィルムの生存率
異なる濃度および異なる期間でのGDAによる処理後に、C.albicansおよびC.glabrataのバイオフィルムの生存率を、XTTで細胞を染色することによって評価した。XXTは、細胞の生存率および細胞毒性の定量化のための比色試験である。アッセイは、テトラゾリウム塩XTTの切断(生存細胞においてのみ起こる変換)に基づく。成熟バイオフィルムをGDAへ24時間曝露した。次いで細胞をPBSで2回洗浄し、その後XTT反応混合物を添加した。30分後に、光学的密度を485nmで測定した。
【0082】
XTTアッセイは、インキュベーションの24時間後に既にC.glabrataについて生存率の大幅な減少を示した(図4a)。効果はC.albicansについてはそれほど顕著ではなかったが、48時間後には明確に観察された(図4b)。
【0083】
さらに、C.albicansおよびC.glabrataの成熟バイオフィルム(YNB、0.2%のグルコース、100mMのプロリン中で48時間増殖させた)を、37℃で異なる濃度(0.05〜0.5g/ml)のGDAとインキュベーションした。この目的のために、バイオフィルム培地(YNB、0.2%のグルコース、100mMのプロリン)を除去し、GDA(濃度0.05、0.1、0.2および0.5g/mlのいずれかで水中に溶解された)を添加した。GDAとの5時間または73時間のインキュベーション後に、5μlの細胞を連続希釈(1:10〜1:1000)で寒天培地YPD上にプレーティングして、細胞生存を推測した。プレーティングした細胞を37℃で24時間インキュベーションし、視覚的に分析した。水で処理した成熟バイオフィルムからの細胞を対照として使用した。GDAが、特に高濃度で、C.albicansおよびC.glabrataの細胞生存率を減少させることが見出された。0.2および0.5g/mlの濃度でのインキュベーションの5時間後に、細胞生存率は、C.albicansおよびC.glabrataの両方について約100倍減少した。0.5g/mlのGDAとのインキュベーションの73時間後に、C.albicansの細胞生存率は約1000倍減少した(データ不掲載)。C.glabrataは、GDAに対しより感受性であることが証明された(図5)。
【0084】
実施例5 − バイオフィルム発生のマイクロ流体研究
C.albicans細胞形態をモニタリングするために、顕微鏡検査およびマイクロ流体も使用して、バイオフィルム発生を研究した。酵母細胞を接種した後に、バイオフィルム培地(100mMのプロリンおよび0.2%のグルコースを補足したYNB、pH7.0)中でのインキュベーションの1時間以内に、菌糸が形成され始めた。図6aは5時間後の無処理の細胞を示す。GDAのペレット(2.5g)を、37℃でpH3.71のバッファー溶液(0.5MのKHSO/オルトリン酸、10mL)へ添加した。サンプルを1時間後に採取し、バイオフィルム培地で50倍希釈し、C.albicansへ添加した。5時間後に、大部分の処理細胞は浮遊していた(図6b)。
【0085】
実施例6 − GDAの存在下における異なるCandida属の種の生存率
研究された他のCandida属の種もGDAに対し感受性であった(すなわちXTTアッセイを使用する細胞生存率測定、実施例4を参照)。しかしながら、それらは異なるレベルの感受性を提示した。Candida albicans SC5314は最も低い感受性を提示し、Candida kruseiシリコーン分離株(silicone isolate)A4−1は最も高い感受性を提示した。GDAへ曝露された細胞は、浸透圧安定剤(0.5Mのスクロース)を補足したものに比較して、およびこれらの培地上の無処理の細胞に比較して、カルコフロールホワイトを含有する培地上でより低い生存率を有していたので、GDA毒性は細胞壁損傷を介して媒介される。表3はGDAによって示される定性的効果を要約する。
【表3】
【0086】
結論として、(i)GDAは、C.albicansおよびC.glabrataによって形成される成熟バイオフィルムを破壊できる、(ii)GDAへの曝露に際して、C.albicansは酵母型へと転換し、一方でC.glabrataの生存率は減少する、(iii)効果はさらに他の株(すなわちC.tropicalisおよびC.krusei)に対しても明らかである。
図1
図2
図3a
図3b
図4a
図4b
図5
図6a
図6b