(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施の形態1)
以下、本発明の一実施の形態に係る摺動機構を備えた装置(以下、「摺動装置」と称する。)について図面を参照しながら説明する。摺動装置は、
図1(A)に示すように、潤滑油で満たされたプール18と、摺動機構1と、主軸17と、を備える。なお、以下、適宜
図1(A)における+Z方向を上方向、
図1(B)における−Z方向を下方向として説明する。摺動機構1は、プール18の底に固定された第1摺動部材11と、第1摺動部材11に対向配置された第2摺動部材12と、を有する。
図1(B)に示すように、第2摺動部材12は、第1摺動部材11の第1摺動面111と潤滑油を介して対向する平坦な第2摺動面121を有する。主軸17は、
図1(A)に示すように、第2摺動部材12に固定されており、矢印AR1に示すように、第2摺動部材12を第1摺動部材11に向けて押圧する力を加えつつ、矢印AR2に示すように、第2摺動部材12を第1摺動部材11に対して相対的に回転させる。これにより、第1摺動部材11が静止した状態で、第2摺動部材12を第1摺動部材11に対して摺動させる。
【0011】
第1摺動部材11は、
図2(A)に示すように、円環状であり、周方向全体に亘って複数の窪み部112が形成された第1摺動面111を有する。第2摺動部材12は、矢印AR2に示すように、上方から見て第1摺動部材11に対して時計回りに回転して摺動する。窪み部112は、
図2(B)に示すように、第1摺動面111に平行であり且つ第2摺動部材12の摺動方向AR2に直交する方向から見た断面が逆三角形状である。また、窪み部112は、平面視において、摺動方向AR2に沿った中心軸J11方向の長さL11+L12と、中心軸J11と直交する方向の長さW11と、が異なる異方的な形状を有する。ここで、「摺動方向AR2に沿った中心軸J11」とは、摺動方向AR2に平行な中心軸J11を意味する。また、窪み部112は、中心軸J11に沿った第1摺動面111に直交する断面の形状と、中心軸J11と直交する方向に沿った第1摺動面111に直交する断面の形状とが異なっている。そして、窪み部112は、中心軸J11に平行な一方向に向かって深さが増加する形で傾斜した第1傾斜面112aと、上記一方向に向かって深さが減少する形で傾斜した第2傾斜面112bと、を有する。第1傾斜面112aの第1摺動面111に対する傾斜角θ11は、45度よりも小さく、第2傾斜面112bの第1摺動面111に対する傾斜角θ12よりも小さく設定されている。そして、Z軸方向および第2摺動部材12の摺動方向AR2に直交する方向から見て、第1傾斜面112aと第2傾斜面112bとのなす角度は90度に設定されている。これにより、平面視において、第1傾斜面112aの摺動方向AR2の長さL11が、第2傾斜面112bの摺動方向AR2の長さL12よりも長くなっている。また、第2傾斜面112bは、第1傾斜面112aと第2傾斜面112bの境界部分から離れるにつれて第2摺動部材12の摺動方向AR2に直交する方向の幅が狭くなる先細りの形状である。
【0012】
第1摺動部材11と第2摺動部材12との間に潤滑油が介在した状態で、第2摺動部材12が第1摺動部材11に対して摺動すると、第1摺動部材11と第2摺動部材12との間に介在する潤滑油は、第2摺動部材12と同じ方向へ流れる。そして、矢印AR21に示すように第1摺動部材11の第1傾斜面112aに沿って窪み部112内へ流入した潤滑油は、矢印AR22に示すように第2傾斜面112bに当たって第2傾斜面112bに沿って第2摺動部材12へ近づく方向へ流れる。前述のように第1傾斜面112aと第2傾斜面112bとのなす角度が90度に設定されていることにより、第1傾斜面112aに沿って窪み部112に流入した潤滑油が、第1傾斜面112aの法線方向へ流れる。この窪み部112から第2摺動部材12へ近づく方向への潤滑油の流れによって、第2摺動部材12には、第1摺動部材11から離れる方向、即ち、上方へ押し上げられる方向へ力が加わる。
【0013】
また、複数の窪み部112は、それぞれ、第1傾斜面112aの中心軸J11が最も深くなるように湾曲している。これにより、窪み部112の周囲に存在する潤滑油が、窪み部112へ効率良く流入するので、窪み部112から第2摺動部材12へ近づく方向への潤滑油の流れが生じ易くなる。更に、窪み部112の第2傾斜面112bは、第1傾斜面112aと第2傾斜面112bの境界部分から離れるにつれて第2摺動部材12の摺動方向AR2に直交する方向の幅が狭くなる先細りの形状である。これにより、第2摺動部材12を第1摺動部材11に対して矢印AR2に示す方向へ摺動させたときにおいて、第1傾斜面112aの法線方向へ流れる潤滑油の量が増加するので、第2摺動部材12を上方へ押し上げる方向への力が増加する。
【0014】
次に、本実施の形態に係る第1摺動部材11の製造方法について
図3(A)および(B)を参照しながら説明する。なお、
図3(A)および(B)において、基材9011の主面9111に直交する一方向をZ方向、Z方向に対して工具91の中心軸が傾く方向をP方向、P方向とZ方向とに直交する一方向をQ方向として説明する。P方向は、
図1(A)における摺動方向AR2に対応し、Q方向は、
図1(A)における摺動方向AR2に直交する方向に対応する。まず、第1摺動部材11の基となる基材9011を準備する準備工程を行う。基材9011は、例えば金属から形成された円環状の板材である。
【0015】
次に、基材9011の主面9111に複数の窪み部112を形成する窪み部形成工程を行うことにより、第1摺動部材11が生成される。窪み部形成工程では、例えば刃先が90度の円筒状のスクエアエンドミルまたは砥石である工具91を使用する。工具91は、工作機械のスピンドルモータ(図示せず)に連結され、その筒軸J91周りに回転する。工具91の先端部は、側方から見て矩形状であり角部の角度が90度である。そして、工具91を回転させながら、工具91を基材9011の主面9111に押し当てて切削または研削することにより、基材9011の主面9111に窪み部112を形成する。このとき、工具91の筒軸J91が傾くP方向を、第1摺動部材11に対して第2摺動部材12が摺動する方向、即ち、基材9011の周方向に沿った方向に設定する。そして、工具91の筒軸J91を、基材9011の主面9111に対して45度よりも小さい角度θ11だけ傾斜させる。
【0016】
このようにして形成された窪み部112は、そのZ軸方向および摺動方向AR2に直交する方向から見た断面が左右非対称となる。また、窪み部112の第1傾斜面112aは、Q軸方向における中央部が最も深くなるように湾曲したものとなる。更に、
図3(B)に示すように、窪み部112の第2傾斜面112bは、第1傾斜面112aと第2傾斜面112bの境界部分から離れるにつれてQ軸方向の幅が小さくなる先細り形状となる。また、窪み部112のQ軸方向の幅は、窪み部112の最深部の深さと工具91の直径とにより決定することができる。ここにおいて、窪み部112の幅の精度を重要視する場合、工具91としてツルーイングしやすい砥石を使用するのが好ましい。また、工具91として、窪み部112における最も幅が広い部分の幅よりも小径の工具を用いることによりならい加工を行うことにより、窪み部の形状のバリエーションを増やすこともできる。
【0017】
ところで、前述の窪み部生成工程において、例えばローラを基材9011に押し当てて基材9011の主面9111を塑性加工する場合、窪み部112の周囲が盛り上がってしまう。従って、基材9011の主面9111に窪み部112を形成した後、窪み部112の周囲の隆起部分を平坦化するための表面研磨処理が必要となる。これに対して、本実施の形態に係る窪み部生成工程のように、基材9011の主面9111を切削または研削して基材9011の窪み部112に対応する部分を除去する方法を採用することにより、窪み部112生成後の表面研磨処理が不要となる。従って、製造工程の簡素化を図ることができるという利点がある。
【0018】
また、前述の窪み部生成工程において、前述のように塑性加工を行う場合、基材9011がいわゆる硬脆材料であるとクラックなどの欠陥が入り易い。これに対して、本実施の形態に係る窪み部形成工程のように切削加工または研削加工を採用することにより、基材9011がいわゆる硬脆材料であっても欠陥の発生が抑制される。
【0019】
以上説明したように、本実施の形態に係る摺動機構1によれば、第1摺動部材11の第1摺動面111に形成された複数の窪み部112が、それぞれ、平面視において異方的な形状であり、摺動方向AR2に向かって深さが増加する形で傾斜した第1傾斜面112aと、摺動方向AR2に向かって深さが減少する形で傾斜した第2傾斜面112bと、を有する。これにより、窪み部112の平面視形状に応じて第1摺動部材11と第2摺動部材12との間に介在する潤滑油の窪み部112内への流入が促進される。そして、第1傾斜面112aに沿って窪み部112内へ流入した潤滑油は、摺動方向AR2へ流れて第2傾斜面112bに当たって第2傾斜面112bに沿って第2摺動部材12へ近づく方向へ流れる。そして、この第2摺動部材12へ近づく方向への潤滑油の流れにより、潤滑油から第2摺動部材12に第1摺動部材11から離れる方向、即ち、上方への十分な動圧を得ることができる。従って、第1摺動部材11と第2摺動部材12との接触が抑制されるので、第1摺動部材11と第2摺動部材12との摩擦によるエネルギ損失または第1摺動部材11または第2摺動部材12の摩耗が低減される。
【0020】
また、本実施の形態に係る窪み部112は、第1傾斜面112aの第1摺動面111に対する傾斜角θ11が、第2傾斜面112bの第1摺動面111に対する傾斜角θ12よりも小さい。これにより、第2摺動部材12を第1摺動部材11に対して矢印AR2に示す方向へ摺動させたときにおいて、潤滑油が第2摺動部材12へ近づく方向へ効率良く流れる。従って、第2摺動部材12を上方へ押し上げる方向への圧力を高めることができる。
【0021】
更に、本実施の形態に係る窪み部112の第2傾斜面112bは、第1傾斜面112aと第2傾斜面112bの境界部分から離れるにつれて第2摺動部材12の摺動方向AR2に直交する方向の幅が狭くなる先細りの形状である。これにより、第2摺動部材12を第1摺動部材11に対して矢印AR2に示す方向へ摺動させたときにおいて、第1傾斜面112aの法線方向、即ち、第2摺動部材12へ近づく方向へ流れる潤滑油の量が増加するので、第2摺動部材12を上方へ押し上げる方向への圧力を高めることができる。
【0022】
なお、前述では、第1摺動部材11が静止しており、第2摺動部材12が第1摺動部材11に対して摺動方向AR2へ摺動する例について説明したが、第2摺動部材12が静止しており、第1摺動部材11が第2摺動部材12に対して摺動するものであってもよい。この場合、第1摺動部材11が第2摺動部材12に対して、矢印AR2で示す方向とは逆回りの方向へ摺動するとき、第2摺動部材12が第1摺動部材11に対して相対的に矢印AR2の方向へ摺動するものと解釈する。
【0023】
(実施の形態2)
本実施の形態に係る圧縮機は、ロータリ圧縮機であり、ベーンがシリンダに設けられたベーン溝内を摺動する。ベーンの表面には実施の形態1で説明した形状と同様の形状を有する窪み部が複数設けられている。これにより、ベーンがベーン溝内を鉛直下方向へ摺動する際のベーンの外壁とベーン溝の内壁との間での摺動抵抗が低減されているものである。
【0024】
図4(A)に示すように、本実施の形態に係る圧縮機6001は、ベーン6051と、ピストン6052と、シリンダ6053と、を備える。圧縮機6001は、
図4(A)におけるY軸方向が鉛直方向となる姿勢で使用される。シリンダ6053は、圧縮室R2と、鉛直方向に延長され下端で圧縮室R2に連通し内側にベーン6051が配置されるベーン溝6054と、を有する。また、シリンダ6053は、
図4(A)におけるベーン溝6054よりも右側に位置し圧縮室R2に連通する吸気孔6055と、
図4(A)におけるベーン溝6054よりも左側に位置し圧縮室R2に連通する排気孔6056と、を有する。
【0025】
ピストン6052は、圧縮室R2内に配置され、矢印AR61に示すように回転軸J61周りに偏心回転する。このとき、ピストン6052の周壁は、シリンダ6053の圧縮室R2の内壁に対して摺動する。
【0026】
ベーン6051は、ベーン溝6054の内側に配置された状態で、圧縮室R2内における吸気口6055に連通する領域と排気口6056に連通する領域とを隔てる隔壁として機能する。ベーン6051は、下端部がピストン6052の周壁に当接した状態でピストン6052の偏心回転に伴って矢印AR62に示すようにベーン溝6054内を上下に摺動する。ここで、ベーン6051の第1摺動面6511が、ベーン溝6054の第2摺動面6541に対向している。ここにおいて、ピストン6052の中心軸J62が回転軸J61の下側に位置する状態から中心軸J62が回転軸J61の上側に位置する状態へピストン6052が回転軸J61周りに回転するのに伴って、ベーン6051は、ピストン6052により鉛直上方へ押し上げられる。一方、ピストン6052の中心軸J62が回転軸J61の上側に位置する状態から中心軸J62が回転軸J61の上側に位置する状態へピストン6052が回転軸J61周りに回転するのに伴って、ベーン6051は、背面にあるバネ(図示せず)によりベーン溝6054内を鉛直下方へ移動する。
【0027】
ベーン6051の両面の第1摺動面6511には、
図4(B)に示すように、ベーン6051の摺動方向に並んだ複数の窪み部6112が形成されている。ベーン6051が下方へ移動するとき、ベーン溝6054の内壁がベーン6051に対して相対的に上方へ摺動する。
図4(B)の矢印AR63は、ベーン溝6054の内壁がベーン6051に対して相対的に摺動する摺動方向を示す。窪み部6112は、平面視において、摺動方向AR63に沿った中心軸J63方向の長さL61+L62と、中心軸J63と直交する方向の長さW61と、が異なる異方的な形状を有する。そして、窪み部6112の中心軸J63は、摺動方向AR63に平行である。窪み部6112は、第1傾斜面112aと第2傾斜面112bとを有する。第1傾斜面112aは、ベーン6051が鉛直下方向へ摺動するときにベーン6051から見てベーン溝6054が相対的に摺動する摺動方向AR63に向かって深さが増加する形で傾斜している。第2傾斜面112bは、ベーン6051が鉛直下方向へ摺動するときにベーン6051から見てベーン溝6054が相対的に摺動する摺動方向AR63に向かって深さが減少する形で傾斜している。また、平面視において、第1傾斜面112aの中心軸J63方向の長さL61が、第2傾斜面112bの中心軸J63方向の長さL62よりも長くなっている。これにより、ベーン6051がベーン溝6054内を下降するときのベーン6051の第1摺動面6511とベーン溝6054の第2摺動面6541との間に生じる摺動抵抗が低減されている。
【0028】
ところで、第1摺動面6511と第2摺動面6541との間に生じる摺動抵抗が大きくなると、ベーン6051が鉛直下方へ移動する際の移動速度が低下してしまい、ベーン6051の移動がピストン6052の偏心回転に追従できず、ベーン6051の下端部とピストン6052の周壁との間に空隙が発生してしまう虞がある。この場合、圧縮室R2における吸気口6055に連通する領域と排気口6056に連通する領域とが繋がってしまうため、圧縮機6001の圧縮効率が低下してしまう。
【0029】
これに対して、本実施の形態に係る圧縮機6001では、ベーン6051の第1摺動面6511に、前述のような第1傾斜面112aと第2傾斜面112bとを有する複数の窪み部6112が形成されている。これにより、ベーン6051が下方へ移動する際のベーン6051の第1摺動面6511とベーン溝6054の第2摺動面6541との間に生じる摺動抵抗が低減されるので、ベーン6051が鉛直下方へ移動する際の移動速度が向上する。従って、ベーン6051の下端部とピストン6052の周壁との間に空隙が生じることを抑制できるので、圧縮機6001の圧縮効率が改善される。
【0030】
また、現在、地球環境に対する意識の高まりから、空気調和機として環境負荷が小さいものが選択される傾向となっている。空気調和機においては、特に、圧縮機の性能が環境負荷に与える影響が大きく、圧縮機の効率改善が環境負荷の低減が必須となっている。これに対して、本実施の形態に係る圧縮機6001では、前述のように、ベーン6051の第1摺動面6511とベーン溝6054の第2摺動面6541との間に生じる摺動抵抗を低減することによりその圧縮効率が改善される。従って、本実施の形態に係る圧縮機6001を空気調和機に用いることにより、環境負荷の低減を図ることができる。
【0031】
(変形例)
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は前述の実施の形態によって限定されるものではない。例えば、
図5(A)および(B)に示す第1摺動部材2011のように、窪み部2112について、第1傾斜面2112aの第1摺動面111に対する傾斜角θ21と、第2傾斜面2112bの第1摺動面111に対する傾斜角θ22と、が同じに設定されている構成であってもよい。窪み部2112は、平面視において、摺動方向AR2に沿った中心軸J21方向の長さL21+L22と、中心軸J21と直交する方向の長さW21と、が異なる異方的な形状を有する。ここで、「摺動方向AR2に沿った中心軸J21」とは、摺動方向AR2に平行な中心軸J21を意味する。そして、平面視において、第1傾斜面2112aの中心軸J21方向の長さL21と第2傾斜面2112bの中心軸J21方向の長さL22とが等しい。
図5(B)に示すように、Z軸方向および第2摺動部材12の摺動方向AR2に直交する方向から見て、第1傾斜面2112aと第2傾斜面2112bとのなす角度は90度に設定されている。また、第2傾斜面2112bは、第2摺動部材12の摺動方向に直交する方向の幅が先細り形状である。これにより、第2摺動部材12を第1摺動部材2011に対して矢印AR2に示す方向へ摺動させたときにおいて、第1傾斜面2112aの法線方向へ流れる潤滑油の量が増加するので、第2摺動部材12を上方へ押し上げる方向への圧力が増加する。これにより、第1摺動部材2011の摺動面2111と第2摺動部材12の第2摺動面121との間に生じる摺動抵抗を低減できる。
【0032】
本変形例に係る第1摺動部材2011の製造方法は、実施の形態1で説明した第1摺動部材11の製造方法と比べて、
図6(A)に示すように、窪み部形成工程における工具91の筒軸J92の基材9011の主面9111に対する傾斜角θ21が異なる。なお、
図6(A)および(B)において、実施の形態1と同様の構成については
図3(A)および(B)と同一の符号を付している。窪み部形成工程において、工具91の筒軸J92の基材9011の主面9111に対する角度θ21は、45度に設定されている。これにより、窪み部2112は、そのZ軸方向および摺動方向AR2に直交する方向から見た断面が左右対称となる。また、
図6(B)に示すように、窪み部2112の第2傾斜面2112bは、楕円形状、即ち、第1傾斜面2112aと第2傾斜面2112bの境界部分から離れるにつれてQ軸方向の幅が小さくなる先細り形状となっている。また、窪み部2112の第1傾斜面2112aも、第1傾斜面2112aと第2傾斜面2112bの境界部分から離れるにつれてQ軸方向の幅が小さくなる先細り形状となっている。
【0033】
本構成によれば、第1摺動部材2011に対して第2摺動部材12を矢印AR2に示す方向へ摺動させる場合と、矢印AR2とは反対方向へ摺動させる場合との両方において、同様に第1摺動面2111と第2摺動面121との間に生じる摺動抵抗が低減される。
【0034】
実施の形態1では、窪み部112の中心軸J11が第1摺動部材11に対する第2摺動部材の摺動方向AR2と平行である構成について説明したが、窪み部の形状はこれに限定されない。例えば
図7に示す第1摺動部材3011のように、各窪み部3112の中心軸J31、J31が第2摺動部材の摺動方向AR2に対して傾斜している構成であってもよい。窪み部3112は、平面視において、摺動方向AR2に沿った中心軸J31(J32)方向の長さL31+L32と、中心軸J31(J32)と直交する方向の長さW31と、が異なる異方的な形状を有する。ここで、「摺動方向AR2に沿った中心軸J31(J32)」とは、摺動方向AR2に対して傾斜した中心軸J31(J32)を意味する。そして、平面視において、第1傾斜面3112aの中心軸J31(J32)方向の長さL31は、第2傾斜面3112bの中心軸J31(J32)方向の長さL32に比べて長い。窪み部3112の中心軸の第2摺動部材の摺動方向AR2に対する傾斜角θ3は、例えば5度乃至20度に設定される。第1摺動部材3011の径方向で隣接する2つの窪み部3112の中心軸J31、J32は互いに交差している。つまり、複数の窪み部3112は、摺動方向AR2に対していわゆるヘリングボーン型に配置されている。
【0035】
本構成によれば、第1摺動部材3011に対して第2摺動部材を矢印AR2方向へ摺動させた場合、第1摺動部材3011の径方向で隣り合う窪み部3112からの第2傾斜面3112bに沿った潤滑油の流れが衝突する。これにより、第2摺動部材に加わる第1摺動部材3011から離れる方向への圧力が増加するので、第1摺動部材3011および第2摺動部材の摩擦損失や摩耗を更に低減できる。
【0036】
実施の形態1では、窪み部112が第1摺動部材11の周方向に沿って2列に配列しており、径方向で隣り合う2つの窪み部112の間隔が第1摺動部材11の全周に亘って同じである例について説明した。但し、窪み部の配置はこれに限定されるものではない。例えば
図8に示す第1摺動部材4011のように、周方向で隣り合う2組の窪み部4113、4114について、径方向で隣り合う2つの窪み部4113同士の間隔W42と径方向で隣り合う2つの窪み部4114同士の間隔W43とが互いに異なる構成であってもよい。なお、間隔W42、W43は、径方向で隣り合う2つの窪み部4113、4114における第1傾斜面4112aと第2傾斜面4112bとの境界部分と窪み部4113、4114の中心軸J41、J42との交点間の間隔に相当する。ここにおいて、2つの窪み部4113と2つの窪み部4114とを有する窪み部組4112が、第1摺動部材4011の周方向に沿って等間隔に位置する複数の領域A4それぞれに形成されている。
【0037】
2つの窪み部4113のうち径方向における外側に位置する一方の中心軸J41と2つの窪み部4114のうち径方向における外側に位置する一方の中心軸J41とは、一致している。また、2つの窪み部4113のうち径方向における内側に位置する一方の中心軸J42と2つの窪み部4114のうち径方向における内側に位置する一方の中心軸J42とは、一致している。また、窪み部4113、4114の中心軸J41、J42は、第2摺動部材の摺動方向AR2に対して傾斜している。窪み部4113、4114は、平面視において、摺動方向AR2に沿った中心軸J41(J42)方向の長さL41+L42と、中心軸J41(J42)と直交する方向の長さW41と、が異なる異方的な形状を有する。ここで、「摺動方向AR2に沿った中心軸J41(J42)」とは、摺動方向AR2に対して傾斜した中心軸J41(J42)を意味する。そして、平面視において、第1傾斜面4112aの中心軸J41(J42)方向の長さL41は、第2傾斜面4112bの中心軸J41(J42)方向の長さL42に比べて長い。窪み部4113、4114の中心軸J41、J42の第2摺動部材の摺動方向AR2に対する傾斜角θ4は、例えば5度乃至20度に設定される。そして、中心軸J41、J42は、窪み部4113、4114の摺動方向AR2側で互いに交差している。つまり、第1摺動部材4011の径方向における外側で周方向に並ぶ2つの窪み部4113、4114と第1摺動部材4011の径方向における内側で周方向に並ぶ2つの窪み部4113、4114とが、摺動方向AR2に対していわゆるヘリングボーン型に配置されている。これに伴い、2つの窪み部4114同士の間隔W43は、2つの窪み部4113同士の間隔W42よりも狭くなっている。なお、窪み部4113、4114の幅を狭くして窪み部4113、4114の径方向の幅を更に狭くしてもよい。
【0038】
本構成によれば、第1摺動部材4011に対して第2摺動部材を矢印AR2方向へ摺動させた場合、第1摺動部材4011の径方向における外側、内側それぞれの窪み部4113、4114からの潤滑油の流れが衝突する。これにより、第2摺動部材に加わる第1摺動部材4011から離れる方向への圧力が増加するので、第1摺動部材4011と第2摺動部材との接触によるエネルギ損失や第1摺動部材4011または第2摺動部材の摩耗が低減される。
【0039】
実施の形態1では、窪み部112が第1摺動部材11の周方向に沿って2列に配列している例について説明したが、窪み部112の配置は2列に限定されるものではない。例えば、
図9に示す第1摺動部材5011のように、窪み部5112が第1摺動部材5011の周方向に沿って6列に配列している構成であってもよい。
【0040】
第1摺動部材5011の径方向に並ぶ6つの窪み部5112の中心軸J51は、いずれも第2摺動部材の摺動方向AR2に対して傾斜角θ5だけ傾斜している。窪み部5112は、平面視において、摺動方向AR2に沿った中心軸J51方向の長さL51+L52と、中心軸J51と直交する方向の長さW51と、が異なる異方的な形状を有する。ここで、「摺動方向AR2に沿った中心軸J51」とは、摺動方向AR2に対して傾斜した中心軸J51を意味する。そして、平面視において、第1傾斜面5112aの中心軸J51方向の長さL51は、第2傾斜面5112bの中心軸J51方向の長さL52に比べて長い。また、各窪み部5112の中心軸J51は、いわゆるスパイラル型に配置されており、窪み部5112の摺動方向AR2側ほど第1摺動部材5011の中心に近づくように傾斜している。
【0041】
なお、窪み部5112の幅を狭くして第1摺動部材5011の径方向で隣り合う2つの窪み部5112同士の間隔を更に狭くしてもよい。また、第1摺動部材5011の外側に設ける窪み部5112の数を増加することにより、第1摺動部材5011の外側の窪み部5112の密度を向上させてもよい。また、複数の窪み部5112が、それらの第1傾斜面5112a、第2傾斜面5112bの傾斜角が第1摺動部材5011の外側から内側に向かって漸次変化する形で形成されていてもよい。
【0042】
本構成によれば、第1摺動部材5011に対して第2摺動部材を矢印AR2方向へ摺動させた場合、各窪み部5112からの潤滑油の流れが第1摺動部材5011の中央部に集中する。これにより、第2摺動部材に加わる第1摺動部材5011から離れる方向への圧力が増加するので、第1摺動部材5011に対して第2摺動部材を流体潤滑領域で摺動させることができる。従って、第1摺動部材5011と第2摺動部材との接触によるエネルギ損失や第1摺動部材5011または第2摺動部材の摩耗が低減される。
【0043】
実施の形態および前述の変形例では、第1摺動部材の径方向に並ぶ窪み部の数が2つ、4つ、6つの場合について説明したが、第1摺動部材の径方向に並ぶ窪み部の数はこれらに限定されない。例えば第1摺動部材の径方向に並ぶ窪み部の数が、1つであってもよいし、3つであってもよいし、5つであってもよいし、7つ以上であってもよい。
【0044】
実施の形態1で説明した窪み部形成工程において、工具91と基材9011との間に電圧を印加したときに工具91と基材9011との間に流れる電流を検出することにより工具91と基材9011との位置関係を監視してもよい。例えば窪み部形成工程において、工具91による基材9011の単位時間当たりの切削量(切削深さ)を示す切削量情報を記憶する記憶部と、工具91と基材9011との間に電圧を印加する電圧印加部と、工具91から基材9011へ流れる電流を検出する電流検出部と、を備える工作機械を使用すればよい。工作機械は、窪み部形成工程において、工具91と基材9011との間の通電状況を監視しながら工具91を基材9011へ近づけていく。そして、工作機械は、工具91と基材9011との間を流れる電流を検出した時点を基準にして、記憶部が記憶する単位時間当たりの切削量に基づいて切削加工を実行する。
【0045】
或いは、窪み部形成工程において、AE(Acoustic Emission)計測技術を利用して工具91と基材9011との位置関係を監視してもよい。この場合、窪み部形成工程において、工具91による基材9011の単位時間当たりの切削量を示す切削量情報を記憶する記憶部と、工具91が基材9011に接触したときに基材9011内を伝播するAE波を検出するAE波検出部と、を備える工作機械を使用すればよい。工作機械は、AE波検出部によりAE波が検出されるか否かを監視しながら工具91を基材9011へ近づけていく。そして、工作機械は、AE波を検出した時点を基準にして、記憶部が記憶する単位時間当たりの切削量に基づいて切削加工を実行する。以上説明したような工作機械を用いることにより、窪み部112の深さ方向の加工精度を向上させることができる。
【0046】
実施の形態1では、窪み部形成工程において、円筒状の工具91を筒軸J91周りに回転させながら、基材9011の主面9111に押し当てて切削または研削する例について説明したが、切削または研削する方法はこの方法に限定されない。例えば、彫刻刃型のような工具の刃先を基材9011の主面9111に押し当てて基材9011を切削する方法であってもよい。この場合、実施の形態1に係る摺動機構の製造方法と同様に、窪み部112生成後の表面研磨処理が不要となる。従って、製造工程の簡素化を図ることができるという利点がある。また、基材9011がいわゆる硬脆材料であっても欠陥の発生が抑制される。
【0047】
実施の形態1では、窪み部形成工程において、切削加工または研削加工を採用する例について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、窪み部形成工程において、外形が基材9011の主面9111に形成する複数の窪み部112それぞれの内側の形状と同じ同一形状部分を有する工具を用いて、同一形状部分を基材9011の主面9111に転写するいわゆる塑性加工方法を採用してもよい。この場合、窪み部形成工程において、例えば、基材9011よりも硬度の高い材料から形成された円柱状の工具を使用する。そして、工具の先端部を基材9011の主面9111に押し当てて基材9011を塑性変形させることにより、基材9011の主面9111に窪み部を形成する。このとき、工具の中心軸が傾く方向を、第1摺動部材11に対して第2摺動部材12が摺動する方向に設定する。そして、工具の中心軸を、基材9011の主面9111に対して45度よりも小さい角度だけ傾斜させる。これにより、実施の形態1で説明した窪み112と同様の窪み部を基材9011の主面9111に形成することができる。このように窪み部形成工程において塑性加工方法を採用することにより、窪み部形成工程に要する処理時間の短縮を図ることができる。
【0048】
また、実施の形態1に係る窪み部形成工程において、工具91の代わりに電極を用いて、電極と基材9011との間で放電させることにより基材9011に窪み部112を形成してもよい。
【0049】
実施の形態1では、窪み部形成工程において、刃先が90度の円筒状のスクエアエンドミルまたは砥石である工具91を使用する例について説明したが、使用する工具の形状はこれに限定されるものではない。例えば、刃先に丸みが形成された工具、刃先が面取りされた工具、刃先が90度よりも小さい角度に設定された工具、或いは、刃先が90度よりも大きい角度に設定された工具を採用してもよい。
【0050】
実施の形態2では、窪み部6112の第1傾斜面112aと第2傾斜面112bの第1摺動面6511に対する傾斜角が互いに異なる例について説明したが、窪み部の形状はこれに限定されない。例えば、ベーン6051に対してベーン溝6054が相対的に摺動する方向において、第1傾斜面の第1摺動面6511に対する傾斜角と第2傾斜面の第1摺動面6511に対する傾斜角とが等しい構成であってもよい。本構成によれば、ベーン6051が鉛直下方へ移動する場合のみならず、ベーン6051が鉛直上方へ移動する場合も、ベーン6051の第1摺動面6511とベーン溝6054の第2摺動面6541との間に生じる摺動抵抗を低減することができる。
【0051】
実施の形態2では、ベーン6051が、第1傾斜面112aと第2傾斜面112bとのなす角度が90度である窪み部6112を有する例について説明したが、窪み部の形状はこれに限定されない。ベーン6051は、例えば第1傾斜面112aと第2傾斜面112bとのなす角度が90度よりも大きい角度に設定された窪み部を有する構成であってもよい。
【0052】
以上、本発明の実施の形態および変形例(なお書きに記載したものを含む。)について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明は、実施の形態及び変形例が適宜組み合わされたもの、それに適宜変更が加えられたものを含む。