(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6967900
(24)【登録日】2021年10月28日
(45)【発行日】2021年11月17日
(54)【発明の名称】プラズマ発生装置及びプラズマトーチ
(51)【国際特許分類】
H05H 1/34 20060101AFI20211108BHJP
H05B 7/085 20060101ALI20211108BHJP
H05B 7/18 20060101ALI20211108BHJP
F27D 11/08 20060101ALI20211108BHJP
B22D 41/015 20060101ALN20211108BHJP
B22D 11/10 20060101ALN20211108BHJP
【FI】
H05H1/34
H05B7/085 A
H05B7/18 E
F27D11/08 E
!B22D41/015
!B22D11/10 310D
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-143484(P2017-143484)
(22)【出願日】2017年7月25日
(65)【公開番号】特開2019-29056(P2019-29056A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2020年3月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100153969
【弁理士】
【氏名又は名称】松澤 寿昭
(72)【発明者】
【氏名】前川 浩規
(72)【発明者】
【氏名】関 健
(72)【発明者】
【氏名】藤井 忠幸
【審査官】
大門 清
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−033862(JP,A)
【文献】
特開2001−033172(JP,A)
【文献】
特開2015−076395(JP,A)
【文献】
特開平09−122849(JP,A)
【文献】
特開2016−036824(JP,A)
【文献】
特開2005−155945(JP,A)
【文献】
特表2008−521170(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0016968(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/00− 1/54
H05B 7/00− 7/22
F27D 7/00−15/02
B22D 11/10
B22D 33/00−47/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直棒状を呈する黒鉛製のプラズマトーチと、
前記プラズマトーチが鉛直軸に対して所定の角度をなして傾くように前記プラズマトーチを保持する保持具と、
プラズマを発生させるための動作ガスを前記プラズマトーチに供給する供給手段とを備え、
前記プラズマトーチには、前記供給手段によって供給される動作ガスの流路として機能する貫通孔が長手方向に沿って延びるように設けられ、
前記プラズマトーチの先端部は先細り形状を呈し、
前記プラズマトーチの中心軸方向から見て、前記プラズマトーチの最下部は前記貫通孔の周縁近傍に位置している、プラズマ発生装置。
【請求項2】
直棒状を呈する黒鉛製のプラズマトーチと、
前記プラズマトーチが鉛直軸に対して所定の角度をなして傾くように前記プラズマトーチを保持する保持具と、
プラズマを発生させるための動作ガスを前記プラズマトーチに供給する供給手段とを備え、
前記プラズマトーチには、前記供給手段によって供給される動作ガスの流路として機能する第1〜第N(ただし、Nは2以上の自然数。)の貫通孔が長手方向に沿って延びるように設けられ、
前記プラズマトーチの先端部は先細り形状を呈し、
前記プラズマトーチの中心軸方向から見て、前記プラズマトーチの最下部は、前記第n(ただし、nは1〜Nの自然数。)の貫通孔の位置ベクトルをP
nとし、前記第nの貫通孔から排出される動作ガスの流量をq
nとしたときに、式1にて求められる位置ベクトルGの終点近傍に位置している、プラズマ発生装置。
【数1】
【請求項3】
前記最下部を頂点とし且つ前記頂点が下方を向く仮想円錐面上及びその上方に、前記プラズマトーチが位置しており、
前記仮想円錐面と水平面とのなす角度が水平方向から見て5°以上である、請求項1又は2に記載のプラズマ発生装置。
【請求項4】
水平方向から見て前記最下部を頂点とし且つ前記頂点が下方を向く仮想V字線上及びその上方に、前記プラズマトーチが位置しており、
前記仮想V字線と水平面とのなす角度が水平方向から見て5°以上である、請求項1又は2に記載のプラズマ発生装置。
【請求項5】
直棒状を呈すると共に黒鉛製であり、
プラズマを発生させるための動作ガスの流路として機能する貫通孔が長手方向に沿って延びるように設けられ、
先端部が先細り形状を呈し、
鉛直軸に対して所定の角度をなして傾くように保持された状態において、中心軸方向から見て、最下部が前記貫通孔の周縁近傍に位置している、プラズマトーチ。
【請求項6】
直棒状を呈すると共に黒鉛製であり、
プラズマを発生させるための動作ガスの流路として機能する第1〜第N(ただし、Nは2以上の自然数。)の貫通孔が長手方向に沿って延びるように設けられ、
先端部が先細り形状を呈し、
鉛直軸に対して所定の角度をなして傾くように保持された状態において、中心軸方向から見て、最下部が、前記第n(ただし、nは1〜Nの自然数。)の貫通孔の位置ベクトルをP
nとし、前記第nの貫通孔から排出される動作ガスの流量をq
nとしたときに、式2にて求められる位置ベクトルGの終点近傍に位置している、プラズマトーチ。
【数2】
【請求項7】
鉛直軸に対して所定の角度をなして傾くように保持された状態において、前記最下部を頂点とし且つ前記頂点が下方を向く仮想円錐面上及びその上方に位置しており、
前記仮想円錐面と水平面とのなす角度が水平方向から見て5°以上である、請求項5又は6に記載のプラズマトーチ。
【請求項8】
水平方向から見て前記最下部を頂点とし且つ前記頂点が下方を向く仮想V字線上及びその上方に位置しており、
前記仮想V字線と水平面とのなす角度が水平方向から見て5°以上である、請求項5又は6に記載のプラズマトーチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ発生装置及びプラズマトーチに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、溶融した液状の金属(溶湯)の温度を制御するために、少なくとも先端を黒鉛製としたプラズマトーチを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−033172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、従来の連続鋳造装置では、溶湯を貯留する取鍋と、取鍋から供給される溶湯を貯留するためにその下方に配置されるタンディッシュとが、構造上近接せざるを得ない。そのため、取鍋を避けつつプラズマトーチをタンディッシュに至らせるためには、プラズマトーチを斜めに配置する必要がある。
【0005】
従来のプラズマトーチの形態は、円柱形状が一般的である。そのため、プラズマトーチを斜めに配置すると、タンディッシュ内の溶湯の表面とプラズマトーチとの直線距離が最小となるのはプラズマトーチの先端の角部となる。タンディッシュ内の溶湯の表面からの直線距離が短いほどプラズマトーチと溶湯との間の電気抵抗が小さくなるので、プラズマトーチのうち当該角部にプラズマが生じやすくなる。
【0006】
一方、プラズマトーチには、プラズマを発生させるための動作ガスの流路として機能する貫通孔が、プラズマトーチの長さ方向に延びるように設けられている。動作ガスの濃度が高いほど分子又は原子が電離しやすくなるので、プラズマトーチのうち動作ガスの出口である貫通孔の開口部にプラズマが生じやすくなる。
【0007】
このように、従来のプラズマトーチにおいては、プラズマが生じやすい箇所が複数存在している。そのため、駆動ガスの濃度変化等に伴い、プラズマトーチの先端と溶湯の表面との間において、プラズマが不規則的に移動する場合がある。この場合、プラズマによる溶湯の温度制御が困難となりうる。
【0008】
そこで、本発明は、プラズマの安定性を高めることが可能なプラズマ発生装置及びプラズマトーチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一つの観点に係るプラズマ発生装置は、直棒状を呈する黒鉛製のプラズマトーチと、プラズマトーチが鉛直軸に対して所定の角度をなして傾くようにプラズマトーチを保持する保持具と、プラズマを発生させるための動作ガスをプラズマトーチに供給する供給手段とを備え、プラズマトーチには、供給手段によって供給される動作ガスの流路として機能する貫通孔が長手方向に沿って延びるように設けられ、プラズマトーチの先端部は先細り形状を呈し、プラズマトーチの中心軸方向から見て、プラズマトーチの最下部は貫通孔の周縁近傍に位置している。
【0010】
本発明の一つの観点に係るプラズマ発生装置では、プラズマトーチの中心軸方向から見て、プラズマトーチの最下部が貫通孔の周縁近傍に位置している。そのため、プラズマトーチと溶湯との間において動作ガスの濃度が高まる領域が、プラズマトーチの最下部の下方に生ずる。すなわち、プラズマトーチと溶湯との間において動作ガスの濃度が最も高い領域(第1の領域)と、プラズマトーチ(最下部)と溶湯とを最短で結ぶ仮想直線が延びる領域(第2の領域)とが略一致する。第1の領域では、電子密度が高まるので、プラズマが生じやすい。第2の領域では、電気抵抗が小さいので絶縁破壊が生じやすいと共に、電子の流れが最下部に集中しやすいので、プラズマが生じやすい。従って、第1の領域と第2の領域とが略一致している本発明の一つの観点に係るプラズマ発生装置によれば、プラズマが不規則的に移動し難くなるので、プラズマの安定性を高めることが可能となる。
【0011】
本発明の他の観点に係るプラズマ発生装置は、直棒状を呈する黒鉛製のプラズマトーチと、プラズマトーチが鉛直軸に対して所定の角度をなして傾くようにプラズマトーチを保持する保持具と、プラズマを発生させるための動作ガスをプラズマトーチに供給する供給手段とを備え、プラズマトーチには、供給手段によって供給される動作ガスの流路として機能する第1〜第N(ただし、Nは2以上の自然数。)の貫通孔が長手方向に沿って延びるように設けられ、プラズマトーチの先端部は先細り形状を呈し、プラズマトーチの中心軸方向から見て、プラズマトーチの最下部は、第n(ただし、nは1〜Nの自然数。)の貫通孔の位置ベクトルをP
nとし、第nの貫通孔から排出される動作ガスの流量をq
nとしたときに、式1にて求められる位置ベクトルGの終点近傍に位置している。
【数1】
【0012】
本発明の他の観点に係るプラズマ発生装置では、プラズマトーチの中心軸方向から見て、プラズマトーチの最下部が、式1にて求められる位置ベクトルGの終点近傍に位置している。式1にて求められる位置ベクトルGは、貫通孔の位置ベクトルに当該貫通孔から排出される動作ガスの流量を重み付けして求められる加重平均である。すなわち、位置ベクトルGの終点は、各貫通孔から排出される動作ガスの濃度が最も高まる点(いわば、動作ガスの濃度重心)である。そのため、プラズマトーチと溶湯との間において動作ガスの濃度が高まる領域が、位置ベクトルGの終点の下方に生ずる。すなわち、プラズマトーチと溶湯との間において動作ガスの濃度が最も高い領域(第1の領域)と、プラズマトーチ(最下部)と溶湯とを最短で結ぶ仮想直線が延びる領域(第2の領域)とが略一致する。第1の領域では、電子密度が高まるので、プラズマが生じやすい。第2の領域では、電気抵抗が小さいので絶縁破壊が生じやすいと共に、電子の流れが最下部に集中しやすいので、プラズマが生じやすい。従って、第1の領域と第2の領域とが略一致している本発明の他の観点に係るプラズマ発生装置によれば、プラズマが不規則的に移動し難くなるので、プラズマの安定性を高めることが可能となる。
【0013】
最下部を頂点とし且つ頂点が下方を向く仮想円錐面上及びその上方に、プラズマトーチが位置しており、仮想円錐面と水平面とのなす角度が水平方向から見て5°以上であってもよい。
【0014】
水平方向から見て最下部を頂点とし且つ頂点が下方を向く仮想V字線上及びその上方に、プラズマトーチが位置しており、仮想V字線と水平面とのなす角度が水平方向から見て5°以上であってもよい。
【0015】
本発明の他の観点に係るプラズマトーチは、直棒状を呈すると共に黒鉛製であり、プラズマを発生させるための動作ガスの流路として機能する貫通孔が長手方向に沿って延びるように設けられ、先端部が先細り形状を呈し、鉛直軸に対して所定の角度をなして傾くように保持された状態において、中心軸方向から見て、最下部が貫通孔の周縁近傍に位置している。
【0016】
本発明の他の観点に係るプラズマトーチでは、その中心軸方向から見て、最下部が貫通孔の周縁近傍に位置している。そのため、プラズマトーチが溶湯の上方に設置された場合には、プラズマトーチと溶湯との間において動作ガスの濃度が高まる領域が、プラズマトーチの最下部の下方に生ずる。すなわち、プラズマトーチと溶湯との間において動作ガスの濃度が最も高い領域(第1の領域)と、プラズマトーチ(最下部)と溶湯とを最短で結ぶ仮想直線が延びる領域(第2の領域)とが略一致する。第1の領域では、電子密度が高まるので、プラズマが生じやすい。第2の領域では、電気抵抗が小さいので絶縁破壊が生じやすいと共に、電子の流れが最下部に集中しやすいので、プラズマが生じやすい。従って、第1の領域と第2の領域とが略一致している本発明の他の観点に係るプラズマトーチによれば、プラズマが不規則的に移動し難くなるので、プラズマの安定性を高めることが可能となる。
【0017】
本発明の他の観点に係るプラズマトーチは、直棒状を呈すると共に黒鉛製であり、プラズマを発生させるための動作ガスの流路として機能する第1〜第N(ただし、Nは2以上の自然数。)の貫通孔が長手方向に沿って延びるように設けられ、先端部が先細り形状を呈し、鉛直軸に対して所定の角度をなして傾くように保持された状態において、中心軸方向から見て、最下部が、第n(ただし、nは1〜Nの自然数。)の貫通孔の位置ベクトルをP
nとし、第nの貫通孔から排出される動作ガスの流量をq
nとしたときに、式2にて求められる位置ベクトルGの終点近傍に位置している。
【数2】
【0018】
本発明の他の観点に係るプラズマトーチでは、その中心軸方向から見て、プラズマトーチの最下部が、式1にて求められる位置ベクトルGの終点近傍に位置している。式1にて求められる位置ベクトルGは、貫通孔の位置ベクトルに当該貫通孔から排出される動作ガスの流量を重み付けして求められる加重平均である。すなわち、位置ベクトルGの終点は、各貫通孔から排出される動作ガスの濃度が最も高まる点(いわば、動作ガスの濃度重心)である。そのため、プラズマトーチが溶湯の上方に設置された場合には、プラズマトーチと溶湯との間において動作ガスの濃度が高まる領域が、位置ベクトルGの終点の下方に生ずる。すなわち、プラズマトーチと溶湯との間において動作ガスの濃度が最も高い領域(第1の領域)と、プラズマトーチ(最下部)と溶湯とを最短で結ぶ仮想直線が延びる領域(第2の領域)とが略一致する。第1の領域では、電子密度が高まるので、プラズマが生じやすい。第2の領域では、電気抵抗が小さいので絶縁破壊が生じやすいと共に、電子の流れが最下部に集中しやすいので、プラズマが生じやすい。従って、第1の領域と第2の領域とが略一致している本発明の他の観点に係るプラズマトーチによれば、プラズマが不規則的に移動し難くなるので、プラズマの安定性を高めることが可能となる。
【0019】
鉛直軸に対して所定の角度をなして傾くように保持された状態において、最下部を頂点とし且つ頂点が下方を向く仮想円錐面上及びその上方に位置しており、仮想円錐面と水平面とのなす角度が水平方向から見て5°以上であってもよい。
【0020】
水平方向から見て最下部を頂点とし且つ頂点が下方を向く仮想V字線上及びその上方に位置しており、仮想V字線と水平面とのなす角度が水平方向から見て5°以上であってもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るプラズマ発生装置及びプラズマトーチによれば、プラズマの安定性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、連続鋳造装置の一つの例を示す図である。
【
図2】
図2の(a)は第1実施形態に係るプラズマトーチと動作ガス源との接続状態を示し、
図2の(b)は
図2の(a)のプラズマトーチの先端面を示す。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係るプラズマトーチと溶湯との間に生成されるプラズマの状態を示す。
【
図4】
図4は、従来のプラズマトーチと溶湯との間に生成されるプラズマの状態を示す。
【
図5】
図5の(a)は第2実施形態に係るプラズマトーチと動作ガス源との接続状態を示し、
図5の(b)は第2実施形態に係るプラズマトーチの先端面を示す。
【
図6】
図6は、第2実施形態に係るプラズマトーチと溶湯との間に生成されるプラズマの状態を示す。
【
図7】
図7の(a)は第3実施形態に係るプラズマトーチと動作ガス源との接続状態を示し、
図7の(b)は第3実施形態に係るプラズマトーチの先端面を示す。
【
図8】
図8の(a)及び(b)はそれぞれ第2実施形態及び第3実施形態に係るプラズマトーチ10の変形例を示す。
【
図10】
図9の(a)の例に係るプラズマトーチと溶湯との間に生成されるプラズマの状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に説明される本開示に係る実施形態は本発明を説明するための例示であるので、本発明は以下の内容に限定されるべきではない。以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0024】
[第1実施形態]
まず、
図1を参照して、連続鋳造装置100の構成について説明する。連続鋳造装置100は、取鍋101と、タンディッシュ102と、鋳型103と、鋳片支持ロール104と、プラズマ発生装置1を備える。
【0025】
取鍋101は、溶湯(溶鋼)Mを貯留する容器である。タンディッシュ102は、取鍋101の下方に配置されている。タンディッシュ102は、取鍋101の底壁に設けられたノズル101aから流出した溶湯Mを貯留する容器である。鋳型103は、タンディッシュ102の下方に配置されている。鋳型103は、タンディッシュ102の底壁に設けられたノズル102aから流出した溶湯を冷却しながら所定形状に成形する。鋳片支持ロール104は、鋳型103から引き抜かれた鋳片Sを冷却しつつ搬送する。
【0026】
プラズマ発生装置1は、タンディッシュ102内の溶湯Mの温度を制御するための装置である。プラズマ発生装置1は、プラズマトーチ10と、トーチ保持具12と、昇降機14と、動作ガス源16とを備える。
【0027】
プラズマトーチ10は、黒鉛によって構成されており、例えば直線状に延びる丸棒(直棒状)である。プラズマトーチ10の直径は、例えば50mm〜200mm程度であってもよい。プラズマトーチ10の長さは、例えば1000mm〜2500mm程度であってもよい。プラズマトーチ10の形状は、丸形以外の他の形状であってもよいし、必ずしも直線状に延びておらず屈曲していてもよい。プラズマトーチ10は、図示しない電源に接続されており、所定の電圧(例えば100V〜500V程度)が印加される。
【0028】
プラズマトーチ10には、
図2に示されるように、貫通孔Hが設けられている。貫通孔Hは、円形状を呈し、プラズマトーチ10の中心軸Ax上に配置されている。すなわち、貫通孔Hは、プラズマトーチ10の長手方向(中心軸Ax)に沿って延びている。貫通孔Hの直径は、例えば10mm程度であってもよい。
【0029】
プラズマトーチ10の先端部Tは、基端側から先端側に向かうにつれて縮径された先細り形状を呈している。具体的には、プラズマトーチ10の先端部Tは、円錐台形状を呈している。
図2では、プラズマトーチ10(先端部T)の先端面10aの直径D1は、貫通孔Hの直径D2よりも若干大きい。直径D1の大きさは、直径D2の100%〜110%程度であってもよい。この場合、先端面10aの外周縁は、貫通孔Hの周縁近傍に位置しているといえる。直径D1の大きさは、プラズマトーチ10の基端部Bの直径D3の56%以下であってもよい。先端部Tの母線と中心軸Axとがなす角は、30°〜85°程度であってもよい。
【0030】
図1に戻って、トーチ保持具12は、プラズマトーチ10の上端部を保持する。トーチ保持具12は、例えば、プラズマトーチ10が鉛直軸に対して0°〜30°程度傾くようにプラズマトーチ10を保持可能である。昇降機14は、トーチ保持具12を上下方向に昇降させる。そのため、トーチ保持具12によって保持されているプラズマトーチ10も、昇降機14によって上下方向に昇降され、タンディッシュ102内の溶湯Mに対して近接及び離間する。
【0031】
トーチ保持具12によって所定の角度傾くように保持されているプラズマトーチ10は、
図3に示されるように、最も下方に位置する最下部(最下点)LPを有している。第1実施形態に係るプラズマトーチ10において、最下部LPは、先端面10aの外周縁上の一点である。プラズマトーチ10は、この最下部LPを頂点とし且つ当該頂点が下方を向く仮想円錐面SF1上及びその上方に位置していてもよい。仮想円錐面SF1と水平面SF2とがなす角度φ1が、水平方向から見て5°以上であってもよい。
【0032】
図1及び
図2に戻って、動作ガス源16は、プラズマを発生させるための動作ガス(例えば、アルゴン、窒素等の不活性ガス)を貫通孔Hに供給する。そのため、貫通孔Hは、動作ガスの流路として機能する。動作ガス源16は、配管18を介して貫通孔Hと接続されている。配管18には、バルブ20が設けられている。バルブ20の開閉に応じて、動作ガス源16からの動作ガスの貫通孔Hへの供給状態と非供給状態とが切り替わる。第1実施形態では、動作ガス源16、配管18及びバルブ20が、動作ガスを貫通孔H(プラズマトーチ10)に供給する供給手段として機能する。
【0033】
プラズマ発生装置1によってプラズマを発生させる場合には、まず、プラズマトーチ10の先端部Tの周囲(溶湯Mの湯面近傍)を動作ガス雰囲気とする。具体的には、バルブ20を開放して、動作ガス源16から貫通孔Hに対して動作ガスを供給する。
【0034】
次に、プラズマトーチ10に所定の電圧を印加させる。そして、この状態で、昇降機14によってプラズマトーチ10を溶湯Mに向けて降下させ、プラズマトーチ10と溶湯Mとの距離(ギャップ)が所定の大きさとなるまで近づける。そうすると、プラズマトーチ10と溶湯Mとの間で絶縁破壊が生じ、プラズマトーチ10と溶湯Mとの間に電流が流れる。これにより、
図3に示されるように、プラズマトーチ10と溶湯Mとの間にプラズマPが発生する。
【0035】
ところで、
図4に示されるように、従来の黒鉛製のプラズマトーチ50は円柱形状が一般的であった。そのため、取鍋101とタンディッシュ102との配置関係上、取鍋101を避けるようにタンディッシュ102に向けてプラズマトーチ50を斜めに配置すると、タンディッシュ102内の溶湯Mの表面とプラズマトーチ50との直線距離が最小となるのはプラズマトーチ50の先端の角部50aとなる。タンディッシュ102内の溶湯Mの表面からの直線距離が短いほどプラズマトーチ50と溶湯Mとの間の電気抵抗が小さくなるので、プラズマトーチ50のうち当該角部50aにプラズマP1が生じやすくなる。
【0036】
一方、プラズマトーチ50には、プラズマを発生させるための動作ガスの流路として機能する貫通孔50bが、プラズマトーチ50の長さ方向に延びるように設けられている。動作ガスの濃度が高いほど分子又は原子が電離しやすくなるので、プラズマトーチ50のうち動作ガスの出口である貫通孔50bの開口部50cにプラズマP2が生じやすくなる。
【0037】
このように、従来のプラズマトーチ50においては、プラズマが生じやすい箇所が複数存在している。そのため、駆動ガスの濃度変化等に伴い、プラズマトーチ50の先端と溶湯Mの表面との間において、プラズマP1,P2が不規則的に移動する場合がある。この場合、プラズマによる溶湯Mの温度制御が困難となりうる。
【0038】
しかしながら、第1実施形態では、プラズマトーチ10の中心軸Ax方向から見て、プラズマトーチ10の最下部LPが貫通孔Hの周縁近傍に位置している。そのため、プラズマトーチ10と溶湯Mとの間において動作ガスの濃度が高まる領域が、プラズマトーチ10の最下部LPの下方に生ずる。すなわち、プラズマトーチ10と溶湯Mとの間において動作ガスの濃度が最も高い領域(第1の領域)と、プラズマトーチ10(最下部LP)と溶湯Mとを最短で結ぶ仮想直線が延びる領域(第2の領域)とが略一致する。第1の領域では、電子密度が高まるので、プラズマが生じやすい。第2の領域では、電気抵抗が小さいので絶縁破壊が生じやすいと共に、電子の流れが最下部に集中しやすいので、プラズマが生じやすい。従って、第1の領域と第2の領域とが略一致している第1実施形態に係るプラズマ発生装置1によれば、プラズマが不規則的に移動し難くなるので、プラズマの安定性を高めることが可能となる。
【0039】
[第2実施形態]
図5及び
図6を参照して、第2実施形態に係るプラズマトーチ10について、第1実施形態に係るプラズマトーチ10と相違する点を中心に説明する。
【0040】
図5に示されるように、プラズマトーチ10に複数の貫通孔H1〜H4が設けられていてもよい。具体的には、貫通孔H1〜H4は、円形状を呈し、プラズマトーチ10の長手方向に沿って延びている。貫通孔H1〜H4の直径は、例えば10mm程度であってもよい。貫通孔H1〜H4は、プラズマトーチ10の中心軸Axを中心に同一半径(同一円周)上に並んでいる。貫通孔H1〜H4のうち隣り合う2つの貫通孔同士の距離(貫通孔H1,H2の距離、貫通孔H2,H3の距離、貫通孔H3,H4の距離、及び貫通孔H4,H1の距離)は、いずれも略同一である。
【0041】
プラズマトーチ10の先端部Tは、円錐形状を呈している。トーチ保持具12によって所定の角度傾くように保持されているプラズマトーチ10は、
図6に示されるように、最も下方に位置する最下部(最下点)LPを有している。
図5及び
図6に示されるように、第2実施形態に係るプラズマトーチ10において、最下部LPは、先端部Tの頂点であり、中心軸Ax上に位置している。
【0042】
図5の(a)に示されるように、動作ガス源16は、動作ガスを貫通孔H1〜H4に供給する。そのため、貫通孔H1〜H4は、動作ガスの流路として機能する。動作ガス源16は、配管22を介して貫通孔H1〜H4とそれぞれ接続されている。すなわち、配管22は、動作ガス源16から延びた後4つに分岐し、貫通孔H1〜H4に至っている。配管22のうち4つの分岐部分には、それぞれバルブ24が設けられている。バルブ24の開閉に応じて、動作ガス源16からの動作ガスの各貫通孔H1〜H4への供給状態と非供給状態とが切り替わる。第2実施形態では、動作ガス源16、配管22及びバルブ24が、動作ガスを貫通孔H1〜H4(プラズマトーチ10)に供給する供給手段として機能する。
【0043】
第2実施形態に係るプラズマトーチ10においてプラズマを発生させる場合、各バルブ20を開放して、動作ガス源16から各貫通孔H1〜H4に動作ガスを供給する。これにより、各貫通孔H1〜H4には、同時に同じ流量で動作ガスが供給される。そのため、プラズマトーチ10と溶湯Mとの間において動作ガスの濃度が高まる領域は、中心軸Ax方向から見て貫通孔H1〜H4の中心、すなわち最下部LPの下方に生ずる。換言すれば、中心軸Ax方向からプラズマトーチ10の先端面10a側を見たときに、2次元座標上の任意の点を原点とし、各貫通孔H1〜H4の位置ベクトルをそれぞれP
1〜P
4とすると、最下部LPの位置ベクトルG
1は式3にて表わすことができる。
【数3】
【0044】
以上のような第2実施形態においても、プラズマトーチ10と溶湯Mとの間において動作ガスの濃度が最も高い領域(第1の領域)と、プラズマトーチ10(最下部LP)と溶湯Mとを最短で結ぶ仮想直線が延びる領域(第2の領域)とが略一致する。従って、プラズマの安定性を高めることが可能となる。
【0045】
[第3実施形態]
図7を参照して、第3実施形態に係るプラズマトーチ10について、第2実施形態に係るプラズマトーチ10と相違する点を中心に説明する。
【0046】
第3実施形態に係るプラズマトーチ10は、最下部LPが中心軸Ax上に存在していない点で、第2実施形態に係るプラズマトーチ10と異なる。すなわち、第3実施形態に係るプラズマトーチ10では、最下部LPが先端面10aのうち中心軸Axとは異なる位置に存在している。中心軸Axに直交する仮想平面SF3と先端面10aとがなす角は、いずれの箇所においても略同じである。例えば、
図7の(a)に示されるように、仮想平面SF3と先端面10aのうち貫通孔H1側の領域とがなす角度θ1と、仮想平面SF3と先端面10aのうち貫通孔H3側の領域とがなす角度θ2とは、略同じである。
【0047】
第3実施形態に係るプラズマトーチ10では、動作ガス源16から各貫通孔H1〜H4に供給される動作ガスの流量が異なっている。第3実施形態では、各貫通孔H1〜H4の動作ガスの流量をそれぞれq
1〜q
4とすると、例えば、q
1>q
2=q
3>q
4に設定されている。そのため、プラズマトーチ10と溶湯Mとの間において動作ガスの濃度が高まる領域は、中心軸Ax方向から見て中心軸Axよりも貫通孔H1寄りの位置、すなわち最下部LPの下方に生ずる。換言すれば、中心軸Ax方向からプラズマトーチ10の先端面10a側を見たときに、2次元座標上の任意の点を原点とし、各貫通孔H1〜H4の位置ベクトルをそれぞれP
1〜P
4とすると、最下部LPの位置ベクトルG
2は式4にて表わすことができる。
【数4】
【0048】
以上のような第3実施形態においても、プラズマトーチ10と溶湯Mとの間において動作ガスの濃度が最も高い領域(第1の領域)と、プラズマトーチ10(最下部LP)と溶湯Mとを最短で結ぶ仮想直線が延びる領域(第2の領域)とが略一致する。従って、プラズマの安定性を高めることが可能となる。
【0049】
なお、プラズマトーチ10に第1〜第N(ただし、Nは2以上の自然数。)の貫通孔が設けられている場合には、第nの貫通孔から排出される動作ガスの流量をq
nとしたときに、最下部LPの位置ベクトルGを式5の一般式にて表わすことができる。
【数5】
【0050】
[他の実施形態]
以上、本開示に係る実施形態について詳細に説明したが、本発明の要旨の範囲内で種々の変形を上記の実施形態に加えてもよい。例えば、プラズマトーチ10は、アノードとして機能してもよいし、カソードとして機能してもよい。プラズマトーチ10がアノードとして機能する場合、広い溶湯Mの表面からプラズマトーチ10の最下部LPに向けて収束するように電子が流れるため、通常はプラズマが不安定になりやすい。しかしながら、上記の実施形態に係るプラズマ発生装置1によれば、プラズマトーチ10と溶湯Mとの間において動作ガスの濃度が最も高い領域(第1の領域)と、プラズマトーチ10(最下部LP)と溶湯Mとを最短で結ぶ仮想直線が延びる領域(第2の領域)とが略一致するので、プラズマトーチ10がアノードとして機能する場合であっても、プラズマの安定性を高めることが可能となる。
【0051】
図8に示されるように、中心軸Axに直交する仮想平面SF3と先端面10aとがなす角が、いずれの箇所においても略同じとなっていなくてもよい。例えば、
図8の(a)及び(b)はそれぞれ第2実施形態及び第3実施形態に係るプラズマトーチ10の変形例であり、仮想平面SF3と先端面10aのうち貫通孔H1側の領域とがなす角度θ1と、仮想平面SF3と先端面10aのうち貫通孔H3側の領域とがなす角度θ2とが、異なっている(θ1<θ2)。
【0052】
図9に示されるように、プラズマトーチ10は、円柱の先端部を所定の平面で切り落とした形状であってもよい。
図9の(a)は、最下部LPが中心軸Ax上に位置している例を示している。
図9の(b)は、最下部LPが中心軸Ax上に位置していない例(最下部LPが先端面10aのうち中心軸Axとは異なる位置にある例)を示している。換言すれば、
図9の(a)及び(b)はそれぞれ、
図8の(a)及び(b)に示すプラズマトーチ10において角度θ2が0°である場合を示している。
【0053】
図9に示されるようなプラズマトーチ10がトーチ保持具12によって所定の角度傾くように保持された様子を、
図10に示す。この例に係るプラズマトーチ10において、最下部LPは、先端面10aと、当該先端面10aを切り落とした平面とが交わる交線である。プラズマトーチ10は、この最下部LPを頂点とし且つ当該頂点が下方を向く仮想V字線VL上及びその上方に位置していてもよい。仮想V字線VLと水平面SF2とがなす角度φ2が、水平方向から見て5°以上であってもよい。
【0054】
図11に示されるように、貫通孔の周縁上又は周縁近傍にプラズマトーチ10の最下部が位置していてもよい。
図11の(a)は、第2実施形態のプラズマトーチ10において、中心軸Ax上に貫通孔H5がさらに設けられた例を示す。
図11の(b)は、第3実施形態に係るプラズマトーチ10において、貫通孔H1が先端部Tの頂点を通るように設けられた例を示す。
図11の(c)は、
図9の(a)のプラズマトーチ10において、中心軸Ax上に貫通孔H5がさらに設けられた例を示す。
【0055】
図12に示されるように、プラズマトーチ10の外周部よりも中心部が外方に突出していてもよい。
図12の(a)は、
図11の(a)のプラズマトーチ10において、貫通孔H5部分がその外周部よりも突出している例を示す。
図12の(b)は、
図12の(a)のプラズマトーチ10において、貫通孔H5が存在しない代わりに中心部の先端に窪み部10bが設けられている例を示す。
【0056】
図13に示されるように、プラズマトーチ10の外形は円形状以外であってもよい。
図13の(a)は、円の一部が切り欠かれた形状の例を示す。
図13の(b)は、三角形状の例を示す。
図13の(c)は、四角形状の例を示す。
図13の(d)は、四角形のうち一の角部が丸みを帯びている(R面取りされている)と共に、別の一の角部が直線状に切り欠かれている(C面取りされている)例を示す。
【0057】
プラズマトーチ10は、以上に述べた各種の変形が任意に組み合わされて形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1…プラズマ発生装置、10…プラズマトーチ、10a…先端面、12…トーチ保持具、14…昇降機、16…動作ガス源(供給手段)、18…配管(供給手段)、20,24…バルブ(供給手段)、22…配管、100…連続鋳造装置、101…取鍋、102…タンディッシュ、103…鋳型、104…鋳片支持ロール、Ax…中心軸、D1〜D3…直径、H,H1〜H4…貫通孔、LP…最下部、M…溶湯(溶鋼)、P1,P2…プラズマ、S…鋳片、SF1…仮想円錐面、SF2…水平面、SF3…仮想平面、T…先端部、VL…仮想V字線、φ1,φ2,θ1,θ2…角度。