特許第6968031号(P6968031)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6968031
(24)【登録日】2021年10月28日
(45)【発行日】2021年11月17日
(54)【発明の名称】軸受調芯方法及び軸受調芯装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 23/02 20060101AFI20211108BHJP
   F16C 41/02 20060101ALI20211108BHJP
【FI】
   F16C23/02
   F16C41/02
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-105828(P2018-105828)
(22)【出願日】2018年6月1日
(65)【公開番号】特開2019-210973(P2019-210973A)
(43)【公開日】2019年12月12日
【審査請求日】2021年2月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100131152
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】中村 英之
(72)【発明者】
【氏名】桧山 昌之
(72)【発明者】
【氏名】安田 文昭
(72)【発明者】
【氏名】平野 哲也
【審査官】 中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−197792(JP,A)
【文献】 特開2007−032845(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0192129(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 21/00−27/08
F16C 41/00−41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒シェルと、該円筒シェルの円筒軸方向に離されて前記円筒シェルの内壁に固定された第1軸受及び第2軸受と、を備える回転機の軸受調芯方法であって、
前記第1軸受が有する前記円筒シェルの内壁に固定された脚部を加熱して変形させることで、前記第1軸受に対する前記第2軸受の芯ずれを調整する芯ずれ調整工程、
を備える回転機の軸受調芯方法。
【請求項2】
前記第1軸受に対する前記第2軸受の芯ずれ量を計測する第1計測工程と、
前記第1計測工程で計測された前記芯ずれ量に基づいて前記芯ずれ調整工程で加熱する第1熱量及び前記脚部内の第1加熱範囲を求める第1算出工程と、
を備え、
前記芯ずれ調整工程では、前記第1算出工程で求められた前記第1熱量で前記脚部内の前記第1加熱範囲を加熱する、
請求項1に記載の回転機の軸受調芯方法。
【請求項3】
前記脚部を加熱して変形させることで、前記第1軸受に対する前記第2軸受の角度ずれを調整する角度ずれ調整工程、
を備える請求項2に記載の回転機の軸受調芯方法。
【請求項4】
前記第1軸受に対する前記第2軸受の角度ずれ量を計測する第2計測工程と、
前記第2計測工程で計測された前記角度ずれ量に基づいて前記角度ずれ調整工程で加熱する第2熱量及び前記脚部内の第2加熱範囲を求める第2算出工程と、
を備え、
前記角度ずれ調整工程では、前記第2算出工程で求められた前記第2熱量で前記脚部の前記第2加熱範囲を加熱する、
請求項3に記載の回転機の軸受調芯方法。
【請求項5】
前記脚部には、前記円筒シェルの径方向に延在し、前記円筒シェルの内壁に固定される平板部と、該平板部に形成された貫通孔と、が形成され、
前記第1算出工程では、前記平板部に位置する範囲内で、前記第1加熱範囲を算出し、
前記第2算出工程では、前記貫通孔の内壁に位置する範囲内で、前記第2加熱範囲を算出する、
請求項4に記載の回転機の軸受調芯方法。
【請求項6】
前記第1軸受には、前記脚部が3つ以上設けられている、
請求項1から5のいずれか1項に記載の回転機の軸受調芯方法。
【請求項7】
円筒シェルと、該円筒シェルの円筒軸方向に離されて前記円筒シェルの内壁に固定された第1軸受及び第2軸受と、を備える回転機の軸受調芯装置であって、
前記第1軸受に対する前記第2軸受の芯ずれ量を計測する第1計測部と、
前記第1計測部で計測された前記芯ずれ量に基づいて前記第1軸受が有する前記円筒シェルの内壁に固定された脚部を加熱する第1熱量及び前記脚部内の第1加熱範囲を求める第1算出部と、
前記第1算出部で求められた前記第1熱量で前記脚部内の前記第1加熱範囲を加熱する加熱部と、
を備える回転機の軸受調芯装置。
【請求項8】
前記第1算出部は、前記脚部を加熱する熱量及び前記脚部内の加熱範囲と、前記脚部の変形量及び変形方向と、が対応付けられた熱量データテーブルに基づいて、前記第1熱量及び前記第1加熱範囲を求める、
請求項7に記載の回転機の軸受調芯装置。
【請求項9】
前記第1軸受に対する前記第2軸受の角度ずれ量を計測する第2計測部と、
前記第2計測部で計測された前記角度ずれ量に基づいて前記脚部を加熱する第2熱量及び前記脚部内の第2加熱範囲を求める第2算出部と、
を備え、
前記加熱部は、前記第2算出部で求められた前記第2熱量で前記脚部内の前記第2加熱範囲を加熱する、
請求項8に記載の回転機の軸受調芯装置。
【請求項10】
前記第2算出部は、前記熱量データテーブルに基づいて、前記第2熱量及び前記第2加熱範囲を求める、
請求項9に記載の回転機の軸受調芯装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は軸受調芯方法及び軸受調芯装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転機には、回転軸を安定して回転させるため、複数の軸受で回転軸を回転可能に支持するものがある。このような回転機では、回転軸にかかる負荷を小さくするため、複数の軸受を高い精度で組み立てる必要がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、回転機である圧縮機の円筒シェルに固定された2つの軸受の軸受調芯方法が開示されている。特許文献1に記載の軸受調芯方法は、外側から円筒シェルを加熱することで、円筒シェルを変形させる。これにより、円筒シェルの内壁に固定された2つの軸受の位置関係を変化させて、2つの軸受を調芯する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−32845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の軸受調芯方法は、軸受ではなく円筒シェルを変形させることで調芯する。このため、軸受の本体と円筒シェルが離れている場合、高い精度で調芯することが難しい。また、円筒シェルそれ自体を高い精度で変形することが難しく、その結果、高い精度で調芯することが難しい。
【0006】
本発明は上記の課題を解決するためになされたもので、高い精度で軸受を調芯する軸受調芯方法及び軸受調芯装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明に係る軸受調芯方法は、円筒シェルと、円筒シェルの円筒軸方向に離されて円筒シェルの内壁に固定された第1軸受及び第2軸受と、を備える回転機の軸受調芯方法である。軸受調芯方法は、第1軸受が有する円筒シェルの内壁に固定された脚部を加熱して変形させることで、第1軸受に対する第2軸受の芯ずれを調整する芯ずれ調整工程を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の構成によれば、円筒シェルの内壁に固定された脚部を加熱して変形させる。円筒シェルよりも軸受本体に近い位置の脚部を変形させるため、高い精度で調芯することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態1に係る軸受調芯方法の調芯対象である軸受を備える回転機の断面図
図2】本発明の実施の形態1に係る軸受調芯方法の調芯対象である軸受の斜視図
図3】本発明の実施の形態1に係る軸受調芯方法で調芯する芯ずれした軸受を備える回転機の断面図
図4】本発明の実施の形態1に係る軸受調芯方法で調芯する角度ずれした軸受を備える回転機の断面図
図5】本発明の実施の形態1に係る軸受調芯方法で調芯する軸受の一方の中心を原点とした場合の直交座標系の図
図6】本発明の実施の形態1に係る軸受調芯処理のフローチャート
図7】本発明の実施の形態1に係る軸受調芯方法での熱量の算出方法で用いる方向ベクトルの図
図8】本発明の実施の形態1に係る軸受調芯方法で使用する熱量データテーブルの図
図9】本発明の実施の形態1に係る軸受調芯方法で加熱する加熱範囲が設定された脚部の断面図
図10】本発明の実施の形態1に係る軸受調芯方法での熱量の算出方法で用いる単位ベクトルの図
図11】本発明の実施の形態2に係る軸受調芯装置のブロック図
図12】本発明の実施の形態2に係る軸受調芯装置の断面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態に係る軸受調芯方法及び軸受調芯装置について図面を参照して詳細に説明する。なお、図中、同一又は同等の部分には同一の符号を付す。図に示す直交座標系XYZにおいて、回転機に対して調芯の作業をする者の側を正面とした場合の、左右方向がX軸、上下方向がZ軸、X軸とZ軸とに直交する方向がY軸である。以下、適宜、この座標系を引用して説明する。
【0011】
(実施の形態1)
実施の形態1に係る軸受調芯方法は、空気調整装置に使用される回転機の軸受を調芯する方法である。この軸受調芯方法では、軸受が備える脚部を加熱して、その脚部を変形させることで調芯する。まず、図1及び図2を参照して、回転機の構成について説明する。次に、図3図5を参照して、回転機で調芯の対象となる芯ずれ、角度ずれについて説明する。続けて、図6図10を参照して、その芯ずれ、角度ずれを調整する軸受調芯方法について説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施の形態1に係る軸受調芯方法の調芯対象である軸受30、40を備える回転機1の断面図である。図2は軸受調芯方法の調芯対象である軸受40の斜視図である。なお、図1では、発明の理解を容易にするため、図2に示す軸受本体41の+Y側に位置する脚部43を、軸受本体41の+X側に位置させて図示している。図1に示す回転機1は、空気調整装置の圧縮機を構成する回転機器である。回転機1は、図1に示すように、円筒シェル10と、円筒シェル10に挿通された回転軸20と、円筒シェル10の内部に設けられた軸受30、40と、で構成されている。
【0013】
円筒シェル10は、円筒軸AがZ方向に向けられた円筒の形状に形成されている。そして、円筒シェル10には、内壁の周方向に沿って、ステータ11が取り付けられている。円筒シェル10の円筒軸Aには、Z方向に延在する回転軸20が配置されている。
【0014】
回転軸20には、ロータ21が取り付けられている。そして、ロータ21はステータ11と対向している。ロータ21とステータ11は、電動機を構成する。回転軸20は、ロータ21とステータ11が電力の供給を受けることで回転する。回転軸20は、+Z端側と−Z端側とが、軸受30、40によって回転可能に保持されている。
【0015】
軸受30、40は、円筒シェル10の円筒軸Aの方向に離されて配置されている。そして、Z方向に円柱軸が向けられた円柱状の軸受本体31、41を有している。軸受本体31、41には、Z方向に延在する円筒状の貫通孔310、410が形成されている。ここで、貫通孔310、410は、円筒軸が軸受本体31、41の中心C3、C4を通る位置に形成されている。軸受30、40は、貫通孔310、410に回転軸20が挿通されることで、すべり軸受として機能する。
【0016】
軸受30、40は、ステータ11内で回転軸20を安定して回転させるため、ステータ11と同じ円筒シェル10の内壁に固定されている。詳細には、軸受30は、軸受本体31が円筒シェル10に嵌め込まれている。そして、軸受本体31の外周部が円筒シェル10に溶接されている。一方、軸受40は、円柱状の軸受本体41に加えて、軸受本体41の径方向に延在する脚部42−44を有している。そして、脚部42−44の外周部が円筒シェル10に溶接されている。なお、区別のため、軸受40を第1軸受、軸受30を第2軸受ともいう。
【0017】
脚部42−44は、図2に示すように、長手方向が軸受本体41の径方向に向けられ、軸受本体41の中心の回りに角度120°毎に設けられた矩形状の平板部42A−44Aと、平板部42A−44Aに形成された貫通孔42B−44Bと、を有している。そして、図示しないが、平板部42A−44Aの先端は、溶接によって円筒シェル10に固定される。これらは、軸受30に対する軸受40の位置を調整するため、すなわち、調芯するために、設けられている。
【0018】
詳細には、平板部42A−44Aの先端が円筒シェル10に固定された状態で、平板部42A−44A又は貫通孔42B−44Bが加熱されると、これらの部分が熱膨張する。一方で、平板部42A−44Aは、円筒シェル10によって拘束されているため、その拘束力によって、加熱された平板部42A−44A又は貫通孔42B−44Bは塑性変形する。加熱後、これらの部分が冷却されると、塑性変形したまま縮小して、脚部42−44それ自体が変形する。換言すると、脚部42−44それ自体が熱歪みによって変形する。平板部42A−44Aと貫通孔42B−44Bは、この現象を利用して調芯するために設けられている。そして、平板部42A−44Aと貫通孔42B−44Bは、芯ずれと角度ずれを別々に修正して調芯するために設けられている。次に、この調芯で、修正する芯ずれと角度ずれについて説明する。
【0019】
図3は、軸受調芯方法で調芯する、芯ずれした軸受30、40を備える回転機1の断面図である。図4は、軸受調芯方法で調芯する、角度ずれした軸受30、40を備える回転機1の断面図である。図5は、軸受調芯方法で調芯する軸受30の中心C3を原点とした場合の直交座標系の図である。なお、図3及び図4では、芯ずれ及び角度ずれの説明を容易にするため、回転機1が備えるステータ11、回転軸20、ロータ21を省略している。また、図3及び図4では、軸受30が有する貫通孔310の円筒軸A3がZ軸に平行、かつ円筒シェル10の内壁に平行な場合を図示している。
図3に示すように、芯ずれは、軸受30の中心C3に対する軸受40の中心C4のXY方向のずれのことである。詳細には、芯ずれは、図5に示すように、軸受30の中心C3を原点、軸受30が有する貫通孔310の円筒軸A3をZ軸とした場合の、軸受40の中心C4のXY座標(Δx、Δy)が原点からずれていることをいうものである。
【0020】
一方、角度ずれは、図4に示すように、円筒軸A3に対する円筒軸A4の傾きのことであり、円筒軸A3に垂直な面に対する円筒軸A4に垂直な面の傾きをいう場合、平行ずれと称されるずれのことである。ここで、円筒軸A3と円筒軸A4は、軸受30の貫通孔310と軸受40の貫通孔410の中心軸のことである。詳細には、角度ずれは、図5に示すように、軸受30の中心C3を原点、軸受30が有する貫通孔310の円筒軸A3をZ軸とした場合の、原点と軸受40の中心C4を結ぶ直線のZ軸に対する角度θが0°よりも大きいことをいうものである。
【0021】
本実施の形態1に係る軸受調芯方法は、上述した芯ずれと角度ずれを修正する。次に、軸受調芯方法について説明する。以下の説明では、ステータ11を有する円筒シェル10に、ロータ21を有する回転軸20及び軸受30、40が取り付けられ、さらに、軸受30、40が円筒シェル10にスポット溶接により固定されているものとする。これにより、回転機1が組み立てられているものとする。なお、回転機1の組立では、軸受30に対する軸受40の位置が計測されて所望の位置に固定されているが、スポット溶接の条件、残留応力等によって軸受30、40の芯ずれと角度ずれが生じることがある。軸受調芯方法は、この芯ずれと角度ずれを修正するものである。
【0022】
図6は、本発明の実施の形態1に係る軸受調芯処理のフローチャートである。図7は、軸受調芯方法での熱量の算出方法で用いる方向ベクトルの図である。図8は、軸受調芯方法で使用する熱量データテーブル50の図である。図9は、軸受調芯方法で加熱する加熱範囲が設定された脚部43の断面図である。図10は、軸受調芯方法での熱量の算出方法で用いる単位ベクトルの図である。なお、図6では、軸受調芯方法を軸受調芯処理と称している。また、図8では、図9に示す脚43の加熱範囲のデータを示している。図6に示すように、まず、軸受30、40の芯ずれ、角度ずれを計測する(ステップS1)。詳細には、軸受30の+Z面、軸受40の−Z面の傾斜、貫通孔310、410の位置から、上述した軸受30の中心C3、軸受40の中心C4の位置を算出し、得られた中心C3、C4の位置座標から芯ずれ、角度ずれ、すなわち、芯ずれ量、芯ずれ方向、角度ずれ量、角度ずれ方向を求める。なお、本明細書では、芯ずれを計測する工程を第1計測工程、角度ずれを計測する工程を第2計測工程ともいう。
【0023】
次に、求めた芯ずれが許容値よりも大きいか否かを判定する(ステップS2)。芯ずれが許容値よりも大きいと判定した場合(ステップS2のYes)、軸受40の脚部42−44を加熱するときの熱量を算出する。また、その加熱範囲を決定する(ステップS3)。この軸受調芯処理では、芯ずれの修正に、貫通孔42B−44Bの内壁の加熱処理で対応し、角度ずれの修正に、平板部42A−44Aの加熱処理で対応するため、ステップS3では、貫通孔42B−44Bの内壁に加える熱量と加熱範囲を求める。なお、本明細書では、この工程を第1算出工程ともいう。
【0024】
熱量の算出と加熱範囲の決定は、貫通孔42B−44Bの内壁の加熱によって軸受40の中心C4が変位する方向とその変位量に基づいて行う。詳細には、貫通孔42B−44Bそれぞれの内壁の加熱によって、軸受40の中心C4が変位する方向ベクトルを図7に示すベクトルG1−G3とし、軸受40の中心C4から軸受30の中心C3へ向かうベクトルをXY平面に投影したときのベクトルをδとする場合に、
δ=α1・G1+β1・G2+γ1・G3(式1)
を満たすα1、β1、γ1を求める。ここで、ベクトルG1−G3のノルムは1、α1、β1、γ1は0よりも大きい数値である。式1を満たすα1、β1、γ1の組み合わせは複数個求められるため、例えば、γ1を0としてα1、β1を求めたり、β1を0としてα1、γ1を求めたりする。これにより、加熱によって軸受40の中心C4が変位する方向とその変位量を求める。
【0025】
一方で、予め実験により熱量、加熱範囲と脚部42−44の変形量、変形方向との関係を示す図8の熱量データテーブル50を作成しておく。ここで、加熱範囲とは、貫通孔42B−44Bの内壁部分を複数の範囲に分割したときの各範囲又は複数の範囲、すなわち、図9に示す範囲I、IIの少なくとも1つと、平板部42A−44Aの+Z面側の部分を複数の範囲に分割したときの各範囲又は複数の範囲、すなわち、図9に示す範囲III、IVの少なくとも1つと、で構成される範囲のことである。また、脚部42−44の変形量、変形方向とは、加熱により軸受40の中心C4が変位する量と、変位する方向、すなわち上述したベクトルG1−G3のことである。そして、この熱量データテーブル50から、貫通孔42B−44Bの内壁に加える熱量を求める。また、貫通孔42B−44Bの内壁のどの範囲を加熱するのかを求める。これにより、ステップS3の熱量の算出と加熱範囲の決定を行う。
【0026】
一方、ステップS1で求めた芯ずれが許容値以下であると判定した場合(図6に示すステップS2のNo)、熱量の算出と加熱範囲の決定を行わず、貫通孔42B−44Bの内壁に加える熱量を0とする。そして、ステップS4に進む。
【0027】
次に、ステップS1で求めた角度ずれが許容値よりも大きいか否かを判定する(ステップS4)。角度ずれが許容値よりも大きいと判定した場合(ステップS4のYes)、脚部42−44の平板部42A−44Aに加える熱量を算出する。また、平板部42A−44Aの加熱範囲を決定する(ステップS5)。なお、本明細書では、この工程を第2算出工程ともいう。
【0028】
ステップS5の熱量の算出と加熱範囲の決定は、平板部42A−44Aの加熱によって変化する、軸受40の円筒軸A4の角度に基づいて行う。詳細には、平板部42A−44Aの加熱によって軸受40の中心C4が変位する単位ベクトルを図10に示すベクトルS1−S3とし、円筒軸A4に沿った単位ベクトルをベクトルεとする場合に、
|ε|=tanθ(式2)
ε=α2・S1+β2・S2+γ2・S3(式3)
を満たすα2、β2、γ2を求める。ここで、α2、β2、γ2は0よりも大きい数値である。この場合においても、式2及び式3を満たすα2、β2、γ2の組み合わせは複数個求められるため、例えば、γ2を0としてα2、β2を求めたり、β2を0としてα2、γ2を求めたりする。これにより、加熱によって軸受40の円筒軸A4の角度変化を求める。
【0029】
続いて、求めた角度変化と熱量データテーブル50から、平板部42A−44Aに加える熱量を求める。また、平板部42A−44Aのどの範囲を加熱するのかを求める。これにより、ステップS5の熱量の算出と加熱範囲の決定を行う。
【0030】
一方、ステップS1で求めた角度ずれが許容値以下であると判定した場合(ステップS4のNo)、熱量の算出と加熱範囲の決定を行わず、平板部42A−44Aに加える熱量を0とする。そして、ステップS6に進む。
【0031】
次に、ステップS3及びステップS5で求めた熱量、加熱範囲で脚部42−44を加熱する(ステップS6)。詳細には、ステップS3で求めた熱量、加熱範囲で貫通孔42B−44Bの内壁を加熱する。また、ステップS5で求めた熱量、加熱範囲で平板部42A−44Aを加熱する。加熱温度は、軸受40の材質に依存するが、軟鉄、鋳鉄の場合、300〜900℃、望ましくは500〜700℃である。加熱後、脚部42−44を冷却させる。なお、本明細書では、貫通孔42B−44Bの内壁を加熱する工程を芯ずれ調整工程、平板部42A−44Aを加熱する工程を角度ずれ調整工程ともいう。
【0032】
脚部42−44を冷却した後、再度、軸受30、40の芯ずれ、角度ずれを計測する(ステップS7)。これにより、軸受調芯処理を終了させる。
【0033】
なお、芯ずれ、角度ずれの計測結果から、芯ずれ、角度ずれが解消したか否かを検査するとよい。そして、芯ずれ、角度ずれが許容値以下の場合、良品として回転機1を使用するとよい。また、芯ずれ、角度ずれが許容値より大きく、脚部42−44の再加熱が可能と判定される場合には、再度、回転機1に軸受調芯処理を行ってもよい。
【0034】
以上のように、本発明の実施の形態1に係る軸受調芯方法は、円筒シェル10の内壁と軸受40の軸受本体41とを接続する脚部42−44を加熱して変形させることで、軸受30、40の芯ずれ、角度ずれを修正する。脚部42−44は、円筒シェル10よりも軸受本体41に近い位置にあるため、正確な調芯をすることができる。
【0035】
軸受調芯方法では、芯ずれを修正する場合に、脚部42−44が有する貫通孔42B−44Bの内壁を加熱する。また、角度ずれを修正する場合には、脚部42−44が有する平板部42A−44Aを加熱する。このため、芯ずれと角度ずれを別々に修正することができる。その結果、より精度の高い調芯をすることができる。
【0036】
貫通孔42B−44Bの内壁部分と平板部42A−44Aの+Z面側の部分とを複数の範囲に分割したときの各範囲又は複数の範囲を加熱するため、より精度の高い調芯をすることができる。
【0037】
(実施の形態2)
実施の形態2に係る軸受調芯装置は、実施の形態1で説明した軸受調芯方法で動作する装置である。以下、図11及び図12を参照して、実施の形態2に係る軸受調芯装置100の構成を説明する。実施の形態2では、実施の形態1と異なる構成について説明する。
【0038】
図11は、本発明の実施の形態2に係る軸受調芯装置100のブロック図である。図12は、軸受調芯装置100の断面図である。図11に示すように、軸受調芯装置100は、回転機1を載置する支持部101と、回転機1の芯ずれ、角度ずれを計測する芯ずれ計測部111、角度ずれ計測部112と、回転機1が備える軸受40を加熱する加熱部121−126と、加熱部121−126の動作を制御する制御部130と、で構成されている。
【0039】
支持部101は、図12に示すように、平板状に形成されている。そして、支持部101の+Z面側には、調芯の対象となる回転機1が載置される。支持部101には、図示しないが、位置決め機構が設けられ、載置された回転機1を位置決めする。また、支持部101の+Z面側には、+Z方向に延在する支柱102が設けられている。支柱102には、図11に示す芯ずれ計測部111及び角度ずれ計測部112と、加熱部121−126が取り付けられている。
【0040】
芯ずれ計測部111と角度ずれ計測部112は、変位センサで構成され、芯ずれと角度ずれを計測する。詳細には、芯ずれ計測部111と角度ずれ計測部112は、軸受30の+Z面、軸受40の−Z面の傾斜と貫通孔310、410の位置を計測する。そして、芯ずれ計測部111と角度ずれ計測部112は、それらの傾斜、位置から軸受30の中心C3、軸受40の中心C4の位置を求め、求めた中心C3、C4の位置から芯ずれと角度ずれを求める。なお、区別のため、芯ずれ計測部111は、第1計測部、角度ずれ計測部112は、第2計測部ともいう。
【0041】
一方、加熱部121−126は、実施の形態1で説明した軸受40の脚部42−44が有する貫通孔42B−44Bの内壁と平板部42A−44Aを加熱するために設けられている。詳細には、加熱部121−123は、図12に示すように、貫通孔42B−44Bに挿入可能な径のロッド状の形状に形成されている。支持部101に回転機1が載置され、位置決めされたときの、貫通孔42B−44Bの+Z側に配置されている。そして、加熱部121−123は、高さ調整手段127によってZ方向の位置が調整されて、貫通孔42B−44Bに挿入可能である。加熱部121−123は、貫通孔42B−44Bに挿入されたときに、貫通孔42B−44Bの内壁を加熱する。
【0042】
これに対して、加熱部124−126は、平板部42A−44AよりもZ方向視で小さい径のロッド状の形状に形成されている。加熱部124−126は、高さ調整手段128に支持されている。そして、支持部101に回転機1が載置され、位置決めされたときの、貫通孔42B−44Bの+Z側に配置され、高さ調整手段128によって平板部42A−44Aに当接可能である。加熱部124−126は、平板部42A−44Aに当接したときに、平板部42A−44Aを加熱する。
【0043】
制御部130は、軸受調芯装置100が備えるCPU(Central Processing Unit)が図11に示す記憶部133に記憶された軸受調芯処理プログラムを実行することによって実現されている。ここで、軸受調芯処理プログラムは、上述した軸受調芯処理を行うプログラムである。制御部130は、芯ずれ計測部111の計測結果と記憶部133に記憶された熱量データテーブル50に基づいて、第1算出部131で実施の形態1で説明した第1算出工程を行い、熱量と加熱範囲を求める。また、制御部130は、角度ずれ計測部112の計測結果と熱量データテーブル50に基づいて、第2算出部132で実施の形態1で説明した第2算出工程を行い、熱量と加熱範囲を求める。制御部130は、求めた熱量と加熱範囲に基づいて加熱部121−126及び高さ調整手段127、128を動作させて、芯ずれと角度ずれを修正する。
【0044】
軸受調芯装置100の動作は、実施の形態1で説明した軸受調芯処理と同じである。このため、説明を省略する。
【0045】
以上のように、実施の形態2に係る軸受調芯装置100は、実施の形態1で説明した軸受調芯処理を行う。このため、実施の形態と同様に、正確な調芯をすることができる。
【0046】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。例えば、実施の形態1及び2では、軸受調芯処理で芯ずれ調整工程と角度ずれ調整工程を行っている。しかし、本発明はこれに限定されない。軸受調芯処理では、作業を容易にするため、芯ずれ調整工程だけを行ってもよい。このような形態であっても、軸受30、40が調芯される結果、回転機1の負荷を小さくして回転機1の破損を防止することができる。
【0047】
実施の形態1では、軸受40が3つの脚部42−44を有している。しかし、本発明はこれに限定されない。本発明では、脚部42−44の数は任意である。例えば、軸受40が4つの脚部を備えてもよい。この場合、脚部は、軸受本体41の中心の回りに角度90°毎に設けられるとよい。このような形態であれば、脚部の加熱と加熱による変形で、軸受本体41を4方向に移動させて正確な調芯をすることができる。
【0048】
また、実施の形態1では、軸受40だけが脚部42−44を有している。しかし、軸受30も、軸受40と同様に、脚部42−44を有してもよい。本発明では、回転機1が備える軸受30、40のいずれかが脚部42−44を有していればよい。
【0049】
実施の形態1では、脚部42−44の平板部42A−44Aと貫通孔42B−44Bとが調芯のため、別々に加熱される。しかし、本発明では、調芯のため、加熱される部分、範囲は、脚部42−44である限りにおいて、任意である。本発明では、脚部42−44において加熱範囲が設定されていればよい。なお、加熱範囲は複数箇所設けられてもよく、第1加熱範囲、第2加熱範囲と称されてもよい。また、それらの範囲に加えられる熱量が第1熱量、第2熱量と称されてもよい。
【0050】
実施の形態2では、軸受調芯装置100に備えられる制御部130が芯ずれ計測部111と角度ずれ計測部112の計測結果に基づいて、熱量と加熱範囲を求める。しかし、本発明はこれに限定されない。本発明では、軸受調芯装置100が入力部を備え、その入力部から入力された芯ずれ、角度ずれの量、方向を用いて制御部130が熱量と加熱範囲を求めてもよい。
【0051】
実施の形態1では、空気調整装置が備える回転機1の軸受調芯方法を説明しているが、本発明は、軸受30、40を備える回転機1全般に適用可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 回転機、10 円筒シェル、11 ステータ、20 回転軸、21 ロータ、30、40 軸受、31,41 軸受本体、42−44 脚部、42A−44A 平板部、42B−44B 貫通孔、50 熱量データテーブル、100 軸受調芯装置、101 支持部、102 支柱、111 芯ずれ計測部、112 角度ずれ計測部、121−126 加熱部、127,128 高さ調整手段、130 制御部、131 第1算出部、132 第2算出部、133 記憶部、310,410 貫通孔、A,A3,A4 円筒軸、C3,C4 中心、θ 角度、ε,δ ベクトル、G1−G3 ベクトル、S1−S3 ベクトル、I,II,III,IV 範囲
図1
図2
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図10
図11
図12