特許第6968112号(P6968112)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6968112
(24)【登録日】2021年10月28日
(45)【発行日】2021年11月17日
(54)【発明の名称】浸透を防止する分離被覆
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20211108BHJP
   C09D 4/02 20060101ALI20211108BHJP
   C08F 220/10 20060101ALI20211108BHJP
   G09F 3/10 20060101ALI20211108BHJP
   C09J 7/29 20180101ALI20211108BHJP
【FI】
   C09D183/04
   C09D4/02
   C08F220/10
   G09F3/10 C
   C09J7/29
【請求項の数】14
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-567881(P2018-567881)
(86)(22)【出願日】2017年6月7日
(65)【公表番号】特表2019-525976(P2019-525976A)
(43)【公表日】2019年9月12日
(86)【国際出願番号】EP2017063786
(87)【国際公開番号】WO2018001687
(87)【国際公開日】20180104
【審査請求日】2020年5月13日
(31)【優先権主張番号】16176339.6
(32)【優先日】2016年6月27日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ユアゲン ポモリン
(72)【発明者】
【氏名】ディーター グラウアー
(72)【発明者】
【氏名】ハーディ デーラー
(72)【発明者】
【氏名】インゴ シェーネマン
(72)【発明者】
【氏名】ミーケ ブラント
【審査官】 上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−088986(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/096595(WO,A1)
【文献】 特開昭60−233162(JP,A)
【文献】 特開2001−066993(JP,A)
【文献】 国際公開第88/007931(WO,A1)
【文献】 特開2002−363515(JP,A)
【文献】 特開2012−237011(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2011−0043444(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
C08F
G09F
C09J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(I)、(II)および任意に(III)
(I) 炭素、水素および酸素の元素からなり、かつアクリル酸エステル官能基およびメタクリル酸エステル官能基から選択される少なくとも1つのラジカル重合可能なエチレン系不飽和基を有し、かつオキシエチレン基は有しないケイ素不含の炭化水素、組成物の成分(I)、(II)および(III)の合計を基準として20〜70質量%、
ここで、成分(I)は、成分(I)の全質量を基準として少なくとも80質量%から100質量%までが、アクリル酸エステル官能基およびメタクリル酸エステル官能基から選択される2つ以上のラジカル重合可能なエチレン系不飽和基と少なくとも1つの芳香族基とを有する炭化水素を有する、
(II) 60〜300のケイ素原子を有する1つ以上の有機変性されたシリコーン、組成物の成分(I)、(II)および(III)の合計を基準として30〜80質量%、
ここで、前記ケイ素原子の0.8〜7%は、アクリル酸エステル官能基およびメタクリル酸エステル官能基から選択されるラジカル重合可能なエチレン系不飽和基に含まれ、ここで、1つのケイ素原子はこのような基の1つ、2つまたは3つに含まれることができる、
(III) 4〜40のケイ素原子を有する、1つ以上の有機変性されたシリコーン、組成物の成分(I)、(II)および(III)の合計を基準として0〜70質量%、
ここで、前記ケイ素原子の15〜100%は、アクリル酸エステル官能基およびメタクリル酸エステル官能基から選択されるラジカル重合可能なエチレン系不飽和基に含まれる、
および、場合により他の添加物
を含む組成物の硬化により得られる浸透を防止する分離被覆であって、前記分離被覆は酢酸ブチルに対する浸透障壁性を有し、デルタ−L*値は2〜15である、浸透を防止する分離被覆。
【請求項2】
分離値は最大で80cN/2.5cm、より好ましくは最大で50cN/2.5cm、さらに好ましくは最大で30cN/2.5cmであり、この下限値は、1cN/2.5cmより大、好ましくは3cN/2.5cmより大であり、ここで、前記分離値はFTM10の名称のもとで、FINAT Handbook 8th Edition, The Hague/ Nl, 2009に従って決定されることを特徴とする、請求項記載の浸透を防止する分離被覆。
【請求項3】
ケイ素原子不含の成分は、オキシエチレン基もラジカル重合可能なエチレン系不飽和基も有さないことを特徴とする、請求項1または2記載の浸透を防止する分離被覆。
【請求項4】
成分(I)、(II)および(III)は、ラジカル重合可能なエチレン系不飽和基として、アクリル酸エステル官能基を有することを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の浸透を防止する分離被覆。
【請求項5】
成分(I)は、成分(I)、(II)および(III)の合計を基準として30〜60質量%、
成分(II)は、組成物の成分(I)、(II)および(III)の合計を基準として40〜70質量%、および
成分(III)は、組成物の成分(I)、(II)および(III)の合計を基準として0〜40質量%
含まれていることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の浸透を防止する分離被覆。
【請求項6】
成分(II)は、式(I)
1a2b1c2d (I)
[式中、
1=[R13SiO1/2]、
2=[R122SiO1/2]、
1=[R12SiO2/2]、
2=[R12SiO2/2]、
a=0〜2、
b=0〜2、ここで、a+b=2、
=80〜170、
d=0〜15、好ましくは0〜10、
ここで、合計(b+d)の合計(c+d+2)に対する比率は、0.004〜0.1、好ましくは0.006〜0.8、さらに好ましくは0.008〜0.7であり、
ここで、合計(c+d+2)は、80〜180であり、
1は、1〜10の炭素原子を有する同じまたは異なる脂肪族炭化水素、または6〜12の炭素原子を有する芳香族炭化水素、好ましくはメチル基および/またはフェニル基、ことに好ましくはメチル基であり、
2は、1〜5の同じまたは異なるエステル官能基を有する同じまたは異なる炭化水素であり、ここで、前記炭化水素は、線状、環状、分枝状および/または芳香族であり、好ましくは線状または分枝状であり、ここで、前記エステル官能基は、ラジカル重合可能なエチレン系不飽和エステル官能基およびラジカル重合可能でないエステル基から選択される]
の1つ以上の化合物であることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の浸透を防止する分離被覆。
【請求項7】
成分(III)は、式(II)
1e3f1g3h (II)
[式中、
1=[R13SiO1/2]、
3=[R123SiO1/2]、
1=[R12SiO2/2]、
3=[R13SiO2/2]、
e=0〜2、
f=0〜2、好ましくはゼロ、ここで、e+f=2、
g=0〜38、好ましくは10〜26、
h=0〜20、好ましくは4〜15、
ここで、合計(f+h)の合計(g+h+2)に対する比率は、0.15〜1、好ましくは0.2〜0.5であり、
ここで、合計(g+h+2)は、4〜40、好ましくは10〜30であり、
ここで、基R1は、式(I)について記載されたものと同様に定義され、
3は、1〜5の同じまたは異なるエステル官能基を有する同じまたは異なる炭化水素であり、ここで、前記炭化水素は、線状、環状、分枝状および/または芳香族であり、好ましくは線状または分枝状であり、ここで、前記エステル官能基は、ラジカル重合可能なエチレン系不飽和エステル官能基およびラジカル重合可能でないエステル基から選択される]
の1つ以上の化合物であることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の浸透を防止する分離被覆。
【請求項8】
成分(III)中のラジカル重合可能でないエステル基は、成分(III)中の全てのエステル官能基の数を基準として、好ましくは3〜20%、さらに好ましくは5〜15%の数値割合で含まれていることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の浸透を防止する分離被覆。
【請求項9】
成分(II)中にラジカル重合可能でないエステル基は含まれておらず、かつ成分(III)中にラジカル重合可能でないエステル基は、成分(III)中の全てのエステル官能基の数を基準として5〜15%の数値割合で含まれていることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の浸透を防止する分離被覆。
【請求項10】
感熱紙用のトップコートとしての、成分(I)、(II)および任意に(III)
(I) 炭素、水素および酸素の元素からなり、かつアクリル酸エステル官能基およびメタクリル酸エステル官能基から選択される少なくとも1つのラジカル重合可能なエチレン系不飽和基を有し、かつオキシエチレン基は有しないケイ素不含の炭化水素、組成物の成分(I)、(II)および(III)の合計を基準として20〜70質量%、
ここで、成分(I)は、成分(I)の全質量を基準として少なくとも80質量%から100質量%までが、アクリル酸エステル官能基およびメタクリル酸エステル官能基から選択される2つ以上のラジカル重合可能なエチレン系不飽和基と少なくとも1つの芳香族基とを有する炭化水素を有する、
(II) 60〜300のケイ素原子を有する1つ以上の有機変性されたシリコーン、組成物の成分(I)、(II)および(III)の合計を基準として30〜80質量%、
ここで、前記ケイ素原子の0.8〜7%は、アクリル酸エステル官能基およびメタクリル酸エステル官能基から選択されるラジカル重合可能なエチレン系不飽和基に含まれ、ここで、1つのケイ素原子はこのような基の1つ、2つまたは3つに含まれることができる、
(III) 4〜40のケイ素原子を有する、1つ以上の有機変性されたシリコーン、組成物の成分(I)、(II)および(III)の合計を基準として0〜70質量%、
ここで、前記ケイ素原子の15〜100%は、アクリル酸エステル官能基およびメタクリル酸エステル官能基から選択されるラジカル重合可能なエチレン系不飽和基に含まれ、
および、場合により他の添加物
を含む組成物の硬化により得られる浸透を防止する分離被覆の使用において、前記分離被覆は酢酸ブチルに対する浸透障壁性を有し、デルタ−L*値は2〜15である、浸透を防止する分離被覆の使用。
【請求項11】
前記感熱紙は自己接着型感熱紙であり、かつ接着テープとして構成されていることを特徴とする、請求項10記載の浸透を防止する分離被覆の使用。
【請求項12】
前記分離被覆を放射線硬化することによる、請求項1からまでのいずれか1項記載の浸透を防止する分離被覆の製造方法。
【請求項13】
成分(I)、(II)および任意に(III)
(I) 炭素、水素および酸素の元素からなり、かつアクリル酸エステル官能基およびメタクリル酸エステル官能基から選択される少なくとも1つのラジカル重合可能なエチレン系不飽和基を有し、かつオキシエチレン基は有しないケイ素不含の炭化水素、組成物の成分(I)、(II)および(III)の合計を基準として20〜70質量%、
ここで、成分(I)は、成分(I)の全質量を基準として少なくとも80質量%から100質量%までが、アクリル酸エステル官能基およびメタクリル酸エステル官能基から選択される2つ以上のラジカル重合可能なエチレン系不飽和基と、少なくとも1つの芳香族基とを有する炭化水素を有する、
(II) 60〜300のケイ素原子を有する1つ以上の有機変性されたシリコーン、組成物の成分(I)、(II)および(III)の合計を基準として30〜80質量%、
ここで、前記ケイ素原子の0.8〜7%は、アクリル酸エステル官能基およびメタクリル酸エステル官能基から選択されるラジカル重合可能なエチレン系不飽和基に含まれ、ここで、1つのケイ素原子はこのような基の1つ、2つまたは3つに含まれることができる、
(III) 4〜40のケイ素原子を有する、1つ以上の有機変性されたシリコーン、組成物の成分(I)、(II)および(III)の合計を基準として0〜70質量%、
ここで、前記ケイ素原子の15〜100%は、アクリル酸エステル官能基およびメタクリル酸エステル官能基から選択されるラジカル重合可能なエチレン系不飽和基に含まれる、
および、他の添加物
を含む、酢酸ブチルに対して浸透障壁性を有する浸透を防止する分離被覆を製造するための放射線硬化性被覆材料において、デルタ−L*値は2〜15である、酢酸ブチルに対して浸透障壁性を有する浸透を防止する分離被覆を製造するための放射線硬化性被覆材料。
【請求項14】
前記添加物は、光開始剤、光増感剤、充填剤、顔料、溶媒、UV光のもとで重合するリン含有化合物、安定剤、例えばホスフィットまたはヒンダードアミン光安定剤(HALS)、アンチミスチング添加物およびアミン相乗剤から選択されることを特徴とする、請求項13記載の放射線硬化性被覆材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離被覆として使用する際に改善されたバリア作用を有する、ラジカル重合可能なエチレン系不飽和基を有する少なくとも1つのシロキサンと、ラジカル重合可能なエチレン系不飽和基を有する少なくとも1つの炭化水素とを含む組成物に関する。
【0002】
(メタ)アクリル酸エステル基を含むポリシロキサンは、高エネルギー放射線のもとで硬化可能な結合剤として、例えばプラスチック表面および紙表面用の被覆剤として有用であることが実証された。この硬化は、ことにUV放射線(公知の光開始剤の添加後に)によりまたは電子線により行われる。(メタ)アクリラート変性されたオルガノシロキサンは、多数の特許明細書、例えば米国特許第6211322号明細書(US6211322)および米国特許第4978726号明細書(US4978726)に記載されている。
【0003】
(メタ)アクリラート変性されたオルガノシロキサンは、フリーラジカルにより三次元的に架橋することができ、かつ例えばペルオキシドの添加下で熱的に、またはUV放射線または電子線のような高エネルギー放射線の影響下で、短時間内で機械的におよび化学的に耐久性の層に硬化する。放射線源としてUV光を使用する場合、架橋は、好ましくは、例えばベンゾフェノンおよびその誘導体、ベンゾイン誘導体、アルファ−ヒドロキシアルキルフェノンおよびその誘導体ならびにアシルホスフィンオキシドおよびその誘導体のような光開始剤および/または光増感剤の存在で行われる。常用の光開始剤は、「A Compilation of Photoinitiators Commercially available for UV today」(K. Dietliker, SITA Technology Ltd, London 2002)に記載されている。
【0004】
非分枝のポリシロキサンは、両末端のシロキシジメチル単位で、またはシロキサン鎖中の1つ以上のシロキシメチル単位で変性されていてよい。したがって、末端でまたはペンダント状に変性されたポリシロキサンについて述べられている。この変性は末端でも、ペンダント状であってもよい。
【0005】
分離被覆の製造のために、単独の上述のシロキサン化合物または上述のシロキサン化合物の混合物を平坦な支持体上に塗布しかつ架橋することができる。平坦な支持体は、例えば紙、鉱物油ベースのおよび再生可能原料ベースのプラスチックシート、織物、金属箔であってよく、かつ平滑でも表面構造を備えていてもよい。分離被覆は、例えば接着テープ、ラベル、自己接着型衛生製品用の包装またはビチューメンルーフィングシート用のカバーシートにおいて使用される。分離被覆は、その用途において使用される接着性材料に対して良好な分離作用を有する。分離被覆と接着性材料との直接的な接触により、接着性材料からマイグレーション可能な成分が分離層を通して浸透する危険がある。
【0006】
これは、次の例に説明されているように、不所望な現象を引き起こしかねない:
ビチューメンルーフィングシートは、支持体材料上に接着性材料としてビチューメン層を有する。ビチューメン材料のカバーのために、頻繁に、シリコーン被覆されたオレフィンベースの分離シートが使用される。積層体内で、ビチューメン材料からマイグレーション可能な成分はシリコーン分離層を通してかつさらにオレフィン系シート内にマイグレーションしかねず、このシートはそれにより著しく変色しかつその強度が変化することがある。
【0007】
生理用ナプキン個装は、生理用ナプキン上に接着性材料として極めて軟質なホットメルト接着剤を有する。接着材料のカバーのために、頻繁にシリコーン被覆されたオレフィンベースの分離シートが使用され、この分離シートは同時に生理用ナプキンの包装である。積層体内で、接着材料からマイグレーション可能な成分がシリコーン分離層を通してかつさらにオレフィン系シートを通してマイグレーションし、かつそれにより包装の外側に蓄積されることがある。それによりこの包装が互いに接着しかねず、これは望ましくない。
【0008】
接着テープとして構成された感熱ラベルは、接着性材料として例えばホットメルト接着剤を有する熱的活性化着色層を備えた白色紙からなる。紙自体に接着テープとしてホットメルト接着剤を備えた紙は巻き付けおよび展開することができるので、白色紙の表面側にシリコーン分離層が設けられている。接着テープ内で、接着材料からマイグレーション可能な成分がシリコーン分離層を通してかつ再び白色紙内へ、ひいては活性化可能な着色層にマイグレーションすることがある。これらの成分は、時間と共に、熱的活性化なしで、着色層を部分的に活性化することもあり、それにより白色紙の灰色化を引き起こすことがある。
【0009】
多くの場合に、接着性材料からのマイグレーション可能な成分の不所望な効果を防止するために、適切な箇所にマイグレーション可能な成分に対する遮断層が塗布される。これは、例えばバリア作用を有する同時押出層がオレフィン系シート内にあるか、またはシリコーン分離層の下側で平坦な支持体上にバリア被覆があってよい。接着テープとして構成された感熱ラベルの場合、通常では白色紙上にバリア作用を有するトップコートが塗布される。遮断層の塗布により、例えばこの感熱紙の価格は上昇するので、シリコーン分離層がこの課題を引き受けることが望ましい。
【0010】
欧州特許出願公開第2279877号明細書(EP2279877)には、水、油および可塑剤に対する保護層が開示されていて、この保護層は、少なくとも60質量%がジアセトン変性されたポリビニルアルコールおよび他のエチレン−ビニルアルコールコポリマーであり、これらは感熱記録層中に含まれている。滑剤および離型剤としての他の添加物として、とりわけポリエチレンオキシドが提案される。
【0011】
トップコートなしの感熱紙中の感熱層は、有機溶媒、油および例えばハンドクリームの影響下でも活性化されることがあり、かつ例えば不所望に変色されることがある。広く普及した有機溶媒のエタノール、イソプロパノール、酢酸ブチルおよびメチルイソブチルケトンにより、数秒の作用時間後の感熱層の活性化を観察することができる。遮断層の作用または分離被覆のバリア作用は、このような溶媒を用いた標準化試験によって評価することができる。白色紙表面が所定の作用時間後でも灰色化を示さない場合、感熱層は活性化されず、それによりバリア作用が存在する。この場合、感熱層の部分的活性化、つまり軽度の灰色化は、まだ許容可能である。
【0012】
純粋なシリコーン被覆は、極めて不十分なバリア作用を有する。シリコーン被覆は、この特性のために、国際公開第2011/067054号(WO2011/067054)に記載されたように、例えば分子濾過のための膜被覆として極めて良好に使用することができる。
【0013】
シリコーン分離層のバリア作用は、この場合、架橋度、つまりポリマー網目構造の密度に依存する。(メタ)アクリラート変性されたオルガノシロキサンの場合、高い網目構造密度、それにより極性基および/または反応性基を用いた比較的高い変性密度により改善されたバリア作用を達成することができる。しかしながら、このような特性を有する分離被覆は、比較的高い分離値を有する。このようなシロキサンの接着性材料に対する分離値は、不十分に高められ、かつバリア作用はさらにまだ不十分である。
【0014】
有機変性、アクリル化度および分離挙動の間の関係は、例えばHardi Doehler, 「RC Silicones for the next Millenium」, Pressure Sensitive Industry: Markets and Technology Yearbook: 1999; Data Transcripts, Surrey, U.K., 1999に記載されていて、かつ国際出願番号PCT/EP2015/079237明細書(PCT/EP2015/079237)の主題でもある。したがって、良好なバリア作用と同時の良好な分離値は、(メタ)アクリラート変性されたオルガノシロキサン単独では十分には達成可能ではない。国際出願番号PCT/EP2015/079237明細書(PCT/EP2015/079237)には、(メタ)アクリラート変性されたオルガノポリシロキサンと、オキシエチレン基を含む有機アクリラートとの混合物を記載している。有機アクリラート中のオキシエチレン基により、シリコーン成分からの明らかな凝離が理由づけられ、それによりシリコーン成分の分離挙動は、バリア特性よりもあまり損なわれない。
【0015】
記載された(メタ)アクリラート変性されたオルガノポリシロキサンの他に、純粋な有機ベースの放射線硬化性被覆は公知であり、かつ例えばEuropean Coatings Tech Files; Patrick Gloeckner et al. 「Radiation Curing Coatings and printing inks」, 2008, Vincentz Network, Hannover, Germanyに記載されている。このような純粋な有機被覆材料は、タイプに応じて高い架橋密度を有し、それにより、より良好なバリア作用を有する。しかしながら、この純粋な有機被覆材料は、接着性材料に対して極めて不十分な分離挙動を有する。
【0016】
したがって、本発明の基礎となる課題は、例えば接着層のマイグレーション可能な成分に対してバリア作用を有する分離被覆を提供することであった。
【0017】
意外にも、特許請求の範囲に記載のような、ラジカル重合可能なエチレン系不飽和基を有する少なくとも1つのシロキサンと、ラジカル重合可能なエチレン系不飽和基を有する少なくとも1つの炭化水素とを含む組成物が、この課題を解決することが見出された。
【0018】
したがって、本発明の主題は、下記成分(I)、(II)および任意に(III)
(I) 炭素、水素および酸素の元素からなり、かつ少なくとも1つのラジカル重合可能なエチレン系不飽和基を有し、かつオキシエチレン基を有しないケイ素不含の炭化水素、組成物の成分(I)、(II)および(III)の合計を基準として10〜90質量%、
ここで、成分(I)は、成分(I)の全質量を基準として少なくとも80質量%から100質量%までが、2つ以上のラジカル重合可能なエチレン系不飽和基と少なくとも1つの芳香族基とを有する炭化水素を有する、
(II) 50〜500、好ましくは60〜300、さらに好ましくは70〜200、ことに好ましくは80〜180のケイ素原子を有する、1つ以上の有機変性されたシリコーン、組成物の成分(I)、(II)および(III)の合計を基準として10〜90質量%、
ここで、ケイ素原子の0.4〜10%、好ましくは0.6〜8%、さらに好ましくは0.8〜7%は、ラジカル重合可能なエチレン系不飽和基に含まれ、ここで、1つのケイ素原子はこのような基の1つ、2つまたは3つに含まれることができる、
(III) 4〜40、好ましくは10〜30のケイ素原子を有する、1つ以上の有機変性されたシリコーン、組成物の成分(I)、(II)および(III)の合計を基準として0〜70質量%、
ここで、ケイ素原子の15〜100%、好ましくは20〜50%は、ラジカル重合可能なエチレン系不飽和基に含まれる、
および、場合により他の添加物
を含む組成物の硬化により得られ、ここで、分離被覆は酢酸ブチルに対する浸透障壁性を有し、ここで、この浸透障壁性は、明細書に記載されたように測定され、かつそれにより決定されたデルタ−L*値は1〜20である、浸透を防止する分離被覆である。
【0019】
本発明のさらなる主題は、感熱紙用のトップコートとしての、下記成分(I)、(II)および任意に(III)
(I) 炭素、水素および酸素の元素からなり、かつ少なくとも1つのラジカル重合可能なエチレン系不飽和基を有し、かつオキシエチレン基は有しないケイ素不含の炭化水素、組成物の成分(I)、(II)および(III)の合計を基準として20〜90質量%、
ここで、成分(I)は、成分(I)の全質量を基準として少なくとも80質量%から100質量%までが、2つ以上のラジカル重合可能なエチレン系不飽和基と少なくとも1つの芳香族基とを有する炭化水素を有する、
(II) 50〜500のケイ素原子を有する1つ以上の有機変性されたシリコーン、組成物の成分(I)、(II)および(III)の合計を基準として10〜90質量%、
ここで、ケイ素原子の0.4〜10%は、ラジカル重合可能なエチレン系不飽和基に含まれ、ここで、1つのケイ素原子はこのような基の1つ、2つまたは3つに含まれることができる、
(III) 4〜40のケイ素原子を有する、1つ以上の有機変性されたシリコーン、組成物の成分(I)、(II)および(III)の合計を基準として0〜70質量%、
ここで、ケイ素原子の15〜100%は、ラジカル重合可能なエチレン系不飽和基に含まれる、
および、場合により他の添加物
を含む組成物の硬化により得られ、ここで、分離被覆は酢酸ブチルに対する浸透障壁性を有し、ここで、この浸透障壁性は、明細書に記載されたように測定され、かつそれにより測定されたデルタ−L*値は1〜20である、浸透を防止する分離被覆の使用である。
【0020】
本発明のさらなる主題は、本発明による浸透を防止する分離被覆の製造方法である。
【0021】
本発明のさらなる主題は、上述のような成分(I)、(II)および(III)を含む、酢酸ブチルに対して浸透障壁性を有する本発明による分離被覆を製造するための放射線硬化性被覆材料である。
【0022】
好ましくは、感熱紙の本発明による浸透を防止する分離被覆であり、この感熱層は、溶媒、ワックス、油、脂肪、ならびに接着剤の成分のようなマイグレーション可能な物質との接触に対して保護しなければならない、そうしないと感熱層は変色するためである。
【0023】
同様に、本発明による浸透を防止する分離被覆が好ましい、というのもこの分離被覆は接着層に対して良好な分離値を有するためである。
【0024】
ことに、本発明による浸透を防止する分離被覆が好ましい、というのも接着層を保護するために個別の分離シートは削減され、それにより例えば感熱紙は接着テープとして実施可能であるためである。
【0025】
本発明によるこれらの主題を次に例示的に説明するが、本発明はこれらの例示的な実施形態に限定されるものではない。次に範囲、一般式、または化合物種類が挙げられている場合、これらは、明確に述べられている対応する範囲または化合物の群を含むだけでなく、個々の値(範囲)または化合物から取り出すことにより得ることができる全ての部分領域および化合物の全ての部分群を含むべきである。本明細書の範囲内で文献が引用されている場合、この文献の内容は、ことにこの文脈において文献が引用されたという事実と関連して、完全に本発明の開示内容の一部をなすべきである。パーセント表記は、他に記載がない限り、質量パーセントでの表記である。次に平均値を記載する場合に、他に記載がない限り、質量平均である。次に、測定により決定されたパラメータを記載する場合、この測定は、他に記載がない限り、25℃の温度でかつ101,325Paの圧力で実施された。
【0026】
成分(I)、(II)および(III)の化合物は、統計的に構築されていてよい。統計的分布は、任意の数のブロックおよび任意の配列でブロック状に構築されているか、またはランダム分布下にあり、この分布はまた交互に構築されていてもよくまたは鎖にわたり勾配が形成されていてもよく、ことにこの分布は全ての混合形態を形成してもよく、この混合形態の場合に、場合により多様な分布の群が連続していてよい。特別な実施態様は、統計的分布がこの実施態様により制限を受けることを生じることがある。制限を受けていない全ての範囲については、統計的分布は変化しない。
【0027】
ここに記載された式(I)および(II)で表された添え字の数および挙げられた添え字の値の範囲は、実際に存在する構造および/またはその混合物の可能な統計的分布の平均値と解釈される。これは、明確に表された構造式についても当てはまる。
【0028】
本発明による分離被覆の浸透障壁性は、酢酸ブチルに対して決定される。このため、保護する被覆(トップコート)なしの感熱層を有する感熱紙の感熱層上に本発明による浸透を防止する分離被覆を、実施例に記載されたように備え付ける。浸透を防止する硬化した分離被覆を有する感熱紙(試験紙)に、25℃でかつ40%の相対湿度で0.5mlの酢酸ブチルの量を、実施例に記載されたように付与する。20秒後に、液滴は、吸取紙を用いた吸い取りにより、できる限り無圧で除去し、30分後に排気装置内で室温で排気した後に感熱層に関する効果を評価する。このために、実施例に記載されているように、X-Rite社(Michigan)のSP62分光光度計が使用される。分光光度計を用いて、酢酸ブチルによる処理前(ブランク値)と酢酸ブチルを用いた処理後のL*値を決定し、評価のためにその差のデルタ−L*値を求める。
【0029】
好ましくは、本発明による分離被覆は、デルタ−L*値の形で表される浸透障壁性を有する。さらに好ましくは、本発明による分離被覆は、デルタ−L*値が1〜20である、特に好ましくはデルタ−L*値が1〜18である、ことに好ましくはデルタ−L*値が2〜15である浸透障壁性を有する。
【0030】
好ましくは、本発明による浸透を防止する分離被覆は、最大で80cN/2.5cm、より好ましくは最大で50cN/2.5cm、さらに好ましくは30cN/2.5cmの分離値を有し、ここでこの下限値は1cN/2.5cmより大、好ましくは3cN/2.5cmより大であり、ここで、この分離値はFTM10の名称のもとで、FINAT Handbook 8th Edition, The Hague/ Nl, 2009に従って決定される。
【0031】
さらに好ましくは、本発明による分離被覆は、1〜18のデルタ−L*値および1cN/2.5cm〜50cN/2.5cmの分離値、さらに好ましくは2〜15のデルタ−L*値および3cN/2.5cm〜30cN/2.5cmの分離値を有する浸透障壁性を有する。好ましくは、成分(I)はケイ素原子不含である。
【0032】
好ましくは、成分(I)はケイ素原子不含であり、かつ好ましくは成分(I)の炭化水素は2つ以上のラジカル重合可能なエチレン系不飽和基を有する。さらに好ましくは、炭化水素は、2つ以上のラジカル重合可能なエチレン系不飽和基および少なくとも1つの芳香族基を有するか、または炭化水素は3つ以上のラジカル重合可能なエチレン系不飽和基を有するか、または両方の炭化水素の混合物である。さらにより好ましくは、炭化水素は、2つのアクリル酸基もしくはメタクリル酸基と、少なくとも1つの芳香族基を有するか、または炭化水素は、3つ以上のラジカル重合可能なエチレン系不飽和基を有するか、または両方の炭化水素の混合物がさらに好ましい。
【0033】
好ましくは、本発明による組成物は、ケイ素不含であり、かつオキシエチレン基もラジカル重合可能なエチレン系不飽和基も有する成分は有しない。
【0034】
さらに好ましくは、成分(I)、(II)および(III)の炭化水素は、ラジカル重合可能なエチレン系不飽和基として、アクリル酸エステル官能基および/またはメタクリル酸エステル官能基から選択されるラジカル重合可能なエチレン系不飽和基、特に好ましくはアクリル酸エステル官能基を有する。
【0035】
好ましくは、組成物は、成分(I)、(II)および(III)の合計を基準として、成分(I)を20〜70質量%、より好ましくは30〜60質量%有する。
【0036】
好ましくは、組成物は、組成物の成分(I)、(II)および(III)の合計を基準として、成分(II)を30〜80質量%、ことに好ましくは40〜70質量%有する。
【0037】
好ましくは、組成物は、組成物の成分(I)、(II)および(III)の合計を基準として、成分(III)を0〜40質量%有する。
【0038】
ラジカル重合可能なエチレン系不飽和基の他にラジカル重合可能でない基も含む成分(II)および/または(III)が好ましい。好ましくは、ラジカル重合可能でないエステル基は、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸および安息香酸のような酸の酸基、特に好ましくは酢酸の酸基から選択される。
【0039】
さらに好ましくは、ラジカル重合可能でない基は、酢酸のエステル基であり、およびラジカル重合可能なエチレン系不飽和基はアクリル酸エステル官能基および/またはメタクリル酸エステル官能基である。
【0040】
さらに好ましくは、成分(III)中のラジカル重合可能でないエステル基は、成分(III)内の全てのエステル官能基の数を基準として、好ましくは3〜20%、さらに好ましくは5〜15%の数値割合で含まれている。
【0041】
さらに好ましくは、成分(II)中のラジカル重合可能でないエステル基は、好ましくは0〜20%、さらに好ましくは0より大〜15%の数値割合で含まれ、さらに好ましくは含まれない。
【0042】
さらに好ましくは、組成物は、成分(II)中でラジカル重合可能でないエステル基を有しないで、かつ成分(III)中で、成分(III)中の全てのエステル官能基の数を基準として5〜15%の数値割合でラジカル重合可能でないエステル基を有する。
【0043】
さらに好ましくは、組成物は、成分(III)を、組成物の成分(I)、(II)および(III)の合計を基準として0〜50質量%のパーセンテージで有し、ここで、この成分は、4〜40のケイ素原子を有し、ここで、ケイ素原子の15〜100%は、ラジカル重合可能なエチレン系不飽和基、好ましくはアクリル酸エステル官能基および/またはメタクリル酸エステル官能基に含まれる。
【0044】
特に好ましくは、組成物は、成分(III)を、組成物の成分(I)、(II)および(III)の合計を基準として0〜50質量%のパーセンテージで有し、ここで、この成分は、4〜40のケイ素原子を有し、ここで、ケイ素原子の15〜100%は、ラジカル重合可能なエチレン系不飽和基、好ましくはアクリル酸エステル官能基および/またはメタクリル酸エステル官能基に含まれ、この成分は、ラジカル重合可能なエチレン系不飽和基の他にまた、全エステル官能基の数を基準として3〜20%の数値割合で重合可能でないエステル基を含む。
【0045】
好ましくは、組成物は、成分(III)を、組成物の成分(I)、(II)および(III)の合計を基準として0〜40%のパーセンテージで有し、ここで、この成分は、10〜30のケイ素原子を有し、ここで、ケイ素原子の20〜50%は、ラジカル重合可能なエチレン系不飽和基、好ましくはアクリルエステル官能基に含まれ、この成分は、ラジカル重合可能なエチレン系不飽和基の他にまた、全エステル官能基の数を基準として5〜15%の数値割合で重合可能でないエステル基を含む。
【0046】
成分(II)および/または(III)のケイ素原子の所定のパーセンテージが、所定の様式で置換されているという記述は、それぞれの成分中の全分子の数値的統計平均での全ケイ素原子のモル割合に関する。
【0047】
さらに好ましくは、成分(II)は、式(I)の1つ以上の化合物である
1a2b1c2d (I)
[式中、
1=[R13SiO1/2]、
2=[R122SiO1/2]、
1=[R12SiO2/2]、
2=[R12SiO2/2]、
a=0〜2、
b=0〜2、ここで、a+b=2、
c=50〜490、好ましくは60〜290、より好ましくは70〜190、ことに好ましくは80〜170、
d=0〜15、好ましくは0〜10、
ここで、合計(b+d)の合計(c+d+2)に対する比率は、0.004〜0.1、好ましくは0.006〜0.8、さらに好ましくは0.008から0.7であり、
ここで、合計(c+d+2)は、50〜500、好ましくは60〜300、より好ましくは70〜200、ことに好ましくは80〜180であり、
1は、1〜10の炭素原子を有する同じまたは異なる脂肪族炭化水素、または6〜12の炭素原子を有する芳香族炭化水素、好ましくはメチル基およびフェニル基、ことに好ましくはメチル基であり、
2は、1〜5の同じまたは異なるエステル官能基を有する同じまたは異なる炭化水素であり、ここで、炭化水素は、線状、環状、分枝状および/または芳香族であり、好ましくは線状または分枝状であり、ここで、エステル官能基は、ラジカル重合可能なエチレン系不飽和エステル官能基およびラジカル重合可能でないエステル基から選択される]。
【0048】
好ましくは、式(I)の化合物中の基R2は、ラジカル重合可能なエチレン系不飽和エステル官能基として、アクリル酸エステル官能基および/またはメタクリル酸エステル官能基から選択される基、特に好ましくはアクリル酸エステル官能基を有する。
【0049】
好ましくは、式(I)の化合物中の基R2は、ラジカル重合可能でないエステル基として、モノカルボン酸基を有する。好ましくは、ラジカル重合可能でないエステル基は、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸および安息香酸のような酸の酸基、特に好ましくは酢酸の酸基から選択される。さらに好ましくは、モノカルボン酸基は、式(II)の化合物の全エステル官能基の数を基準として0〜20%、好ましくは0より大〜15%の数値割合で含まれている。
【0050】
好ましくは、式(I)の化合物中の基R2は、ラジカル重合可能ではないエステル基を有しない。
【0051】
さらに好ましくは、成分(III)は、式(II)の1つ以上の化合物である
1e3f1g3h (II)
[式中、
1=[R13SiO1/2]、
3=[R123SiO1/2]、
1=[R12SiO2/2]、
3=[R13SiO2/2]、
e=0〜2、
f=0〜2、好ましくはゼロ、ここで、e+f=2、
g=0〜38、好ましくは10〜26、
h=0〜20、好ましくは4〜15、
ここで、合計(f+h)の合計(g+h+2)に対する比率は、0.15〜1、好ましくは0.2〜0.5であり、
ここで、合計(g+h+2)は、4〜40、好ましくは10〜30であり、
ここで、基R1は、式(I)について記載されたものと同様に定義され、
3は、1〜5の同じまたは異なるエステル官能基を有する同じまたは異なる炭化水素基であり、ここで、炭化水素は、線状、環状、分枝状および/または芳香族であり、好ましくは線状または分枝状であり、ここで、エステル官能基は、ラジカル重合可能なエチレン系不飽和エステル官能基およびラジカル重合可能でないエステル基から選択される]。
【0052】
好ましくは、式(II)の化合物中の基R3は、ラジカル重合可能なエチレン系不飽和エステル官能基として、アクリル酸エステル官能基および/またはメタクリル酸エステル官能基から選択される基、特に好ましくはアクリル酸エステル官能基を有する。
【0053】
好ましくは、式(II)の化合物中の基R3は、ラジカル重合可能でないエステル基として、モノカルボン酸基を有する。好ましくは、ラジカル重合可能でないエステル基は、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸および安息香酸のような酸の酸基、特に好ましくは酢酸の酸基から選択される。さらに好ましくは、モノカルボン酸基は、式(II)の化合物の全エステル官能基の数を基準として3〜20%、好ましくは5〜15%の数値割合で含まれる。
【0054】
特に好ましくは、組成物は成分(III)を有しない。
【0055】
好ましくは、浸透を防止する分離被覆は、放射線硬化性被覆材料である。分離被覆は、より好ましくは非接着性被覆である。
【0056】
たいていの接着テープまたはラベルの工業的適用における接着性物質に対する分離作用は分離値により表され、ここで、低い分離値は良好な分離作用を示す。この試験は、FTM10の名称のもとでFINAT Handbook 8th Edition, The Hague/ Nl, 2009に従うが、実施例に記載されたように、40℃で加圧下での貯蔵を実施するという変更を加えて実施される。分離値は、分離被覆の品質(例えば被覆の均一性、厚みおよび/または平滑性)、接着剤および試験条件に依存する。したがって、分離被覆の評価のために、同じ接着剤および試験条件が提供されるべきである。分離値の測定用に、接着テープTESA(登録商標)7475、tesa SE社(独国、Hamburg)の商標、2.5cm幅を使用した。
【0057】
好ましくは、本発明による浸透を防止する分離被覆は、最大で80cN/2.5cm、さらに好ましくは最大で50cN/2.5cm、さらに好ましくは最大で30cN/2.5cmの分離値を有し、その下限値は、1cN/2.5cmより大、好ましくは3cN/2.5cmより大である。
【0058】
好ましくは、添加物は、光開始剤、光増感剤、充填剤、顔料、溶媒、UV光のもとで重合するリン含有化合物、安定剤、例えばホスフィットまたはヒンダードアミン光安定剤(HALS)、アンチミスチング添加物およびアミン相乗剤から選択される。
【0059】
本発明による浸透を防止する分離被覆は、フリーラジカルにより三次元的に架橋されていてよい。UV放射線または電子線のような高エネルギー放射線の影響下で、短時間内で、機械的および化学的に耐久性の層が形成され、この層は、適切な組成物の場合に予め決定可能な非接着性特性ならびに付着特性を有する。
【0060】
放射線源としてUV光を使用する場合、架橋/硬化は、好ましくは光開始剤および/または光増感剤の存在で行われる。
【0061】
Norrish Typ 1の光開始剤、例えばベンゾイン誘導体、アルファ−ヒドロキシアルキルフェノンおよび誘導体ならびにアシルホスフィンオキシドおよび誘導体が好ましい。
【0062】
好ましい組成物は、光開始剤および/または光増感剤を、全体の被覆材料を基準として0.01〜10質量%、ことに0.1〜5質量%の量で有する。
【0063】
光開始剤および/または光増感剤は、好ましくは組成物中で可溶であり、さらに好ましくは、全体の組成物を基準として0.01〜10質量%、ことに0.1〜5質量%の範囲内で可溶である。
【0064】
組成物を硬化するために適したUV放射線源は、中圧水銀蒸気ランプ、場合によりドープされたまたは低圧水銀蒸気ランプ、UV−LEDランプまたはいわゆるエキシマ放射器である。UV放射体は、多色性または単色性であってよい。好ましくは、この放射体の放射領域は、光開始剤および/または光増感剤の吸収領域内にある。
【0065】
好ましくは、本発明による分離被覆は、自己接着型感熱紙、ことに接着テープとして構成されている自己接着型感熱紙の分離被覆として使用される。
【0066】
実施例:成分
成分I:
K−I−1:SR 489、トリデシルアクリラート、Sartomer、フランス国
K−I−2:Ebecryl(登録商標)11、(Mw700g/molを有するポリエチレングリコール600ジアクリラート)、Allnex、ベルギー国
K−I−3:PETIA、(ペンタエリトリトールトリアクリラートとテトラアクリラートとの混合物)、Allnex、ベルギー国
K−I−4:Ebecryl(登録商標)150、(ビスフェノール−A−誘導体ジアクリラート)、Allnex、ベルギー国
K−I−5:Ebecryl(登録商標)OTA 480、(プロポキシル化されたグリセリントリアクリラート)、Allnex、ベルギー国
K−I−6:Ebecryl(登録商標)605、(ビスフェノール−A−ジエポキシアクリラート80%とトリプロピレングリコールジアクリラート20%との混合物)、Allnex、ベルギー国
K−I−7:Laromer(登録商標)TMPTA、トリメチロールプロパントリアクリラート、BASF、独国
Ebecryl(登録商標)は、Cytec Surface Specialties S.A.、Anderlecht、ベルギー国の商標である。
Laromer(登録商標)は、BASF、Ludwigshafen、独国の商標である。
【0067】
成分II:
E−II−1:N=50を有するもっぱら末端変性されたシリコーン、ここで、Nは分子内のケイ素原子の数を意味する。米国特許第6211322号明細書(US6211322)に記載された方法により、相応する水素シロキサンを介して、トリメチロールプロパンモノアリルエーテルを用いるヒドロシリル化および引き続くアクリル酸を用いるエステル化により製造して、1分子当たり4つのアクリラート基が存在する、相応してケイ素原子の4%がアクリル化されている。
E−II−2:N=100を有するもっぱら末端変性されたシリコーン。E−II−1と同様に製造、相応してケイ素原子の2%がアクリル化されている。
E−II−3:N=200を有するもっぱら末端変性されたシリコーン。E−II−1と同様に製造、相応してケイ素原子の1%がアクリル化されている。
S−II−1:N=100を有するもっぱらペンダント状に変性されたシリコーン。米国特許第4978726号明細書(US4978726)に記載された方法により、6つのペンダント状のSiH基を有する水素シロキサンを介して、アリルグリシドエーテルを用いるヒドロシリル化および引き続くアクリル酸を用いる開環により製造して、1分子当たり6つのアクリラート基が存在する、相応してケイ素原子の6%がアクリル化されている。
S−II−2:N=150を有する末端で変性およびペンダント状に変性されたシリコーン。米国特許第6211322号明細書(US6211322)に記載された方法により、6つのペンダント状のおよび2つの末端のSiH基を有する水素シロキサンを介して、5−ヘキセン−1−オールを用いるヒドロシリル化および引き続くアクリル酸を用いるエステル化により製造して、1分子当たり8つのアクリラート基が存在する、相応してケイ素原子の5.3%がアクリル化されている。
【0068】
成分III:
S−III−1:N=40を有するもっぱらペンダント状に変性されたシリコーン。米国特許第4978726号明細書(US4978726)に記載された方法により、6つのペンダント状のSiH基を有する水素シロキサンを介して、アリルグリシドエーテルを用いるヒドロシリル化および引き続くアクリル酸を用いる開環により製造して、1分子当たり6つのアクリラート基が存在する、相応してケイ素原子の15%がアクリル化されている。
S−III−2:N=20を有するもっぱらペンダント状に変性されたシリコーン。米国特許第4978726号明細書(US4978726)に記載された方法により、6つのペンダント状のSiH基を有する水素シロキサンを介して、アリルグリシドエーテルを用いるヒドロシリル化および引き続く酢酸15%とアクリル酸85%との混合物を用いる開環により製造して、1分子当たり5.1のアクリラート基が存在する、相応してケイ素原子の25.5%がアクリル化されている。
【0069】
実施例:組成
表1:例示的組成物、含有率は、列挙された成分の合計に対する質量%で示す
【表1】
【0070】
実施例:適用技術的調査
放射線硬化性被覆材料の製造のために、組成物100g当たり、2%の光開始剤のEvonik Industries AGのTEGO(登録商標)A18を混合した。被覆材料を、スパチュラを用いて手動でかき混ぜることにより、不均一性がもはや見えなくなるまで攪拌した。
【0071】
被覆材料を、予め1kWの発電機出力でコロナ処理を行った、感熱層上に保護層を有していない50cm幅のMitsubishi感熱紙Type LL 8077上に塗布した。この塗布は、Coating Machinery GmbH社(Dormagen、独国)のCOATEMA(登録商標)の5本ロール被覆装置を用いて、約1.2g/mの単位面積当たりの質量で行われ、かつ硬化は、Metz GmbH社(Nuertingen、独国)のIST(登録商標)の60W/cmの中圧水銀蒸気ランプのUV光の作用により、100m/minの帯材速度で、50ppmの残留酸素含有率を有する窒素雰囲気下で行った。
【0072】
被覆された試料を、分離被覆の品質、バリア作用および分離値に関する試験に供した。
【0073】
分離被覆の品質:この被覆は全面的でかつ閉じていなければならない。これは、1分の接触時間で水中0.1%のメチレンブルーからなるインキを用いる被覆の染色により算出された。接触時間の経過後にインキを流し落とし、柔らかい布で軽く拭くことにより完全に除去する。被覆に欠陥箇所が備わっている場合、インキはこの欠陥箇所を通して紙繊維内に浸入し、白色の表面を青色に染める。この染色は、この試験に適した被覆であることが判明するために、わずかに顕れるだけでなければならない。被覆が全面的でない場合、バリア作用は十分であると評価することができない。青色の染色の程度は、形成されたパネルにより評価される。この評価は、1〜3の評点に分類され、この場合、3は不十分に相当する。
評点1=極めて良好に閉じた層、青色の点は見られない。
評点2=まだ許容可能な被覆、わずかな青色の点が確認可能である。
評点3=不十分に閉じた層、多くの青色の点が見られる。
【0074】
バリア作用および分離作用の調査は、品質評価1の被覆だけを用いて実施される。
【0075】
バリア作用:硬化した分離被覆上に酢酸ブチル0.5mlを塗布することによりバリア作用を評価する。このため、溶媒を25℃でかつ40%の相対湿度で、20秒の作用期間で表面に付与し、かつ吸取紙を用いた吸い取りによりできる限り無圧で除去し、かつ30分後に排気装置内で室温で排気した後で感熱層に関する効果を評価する。被覆が良好なバリア作用を有しない場合、酢酸ブチルは被覆を通して紙繊維内へ浸入し、かつ塗料層を活性化し、それにより白色の紙表面を灰色〜黒色に着色する。良好なバリア作用のためには、染色がわずかに顕れるだけでなければならない。評価のために、X−Rite社(Michigan)のSP62分光光度計を使用する。分光光度計を用いて、酢酸ブチルを用いた処理前のL値(ブランク値)と酢酸ブチルを用いた処理後のL値とを決定し、評価のために差のデルタ−L値を求める。好ましくは、本発明による分離被覆は、0〜20のデルタ−L値を有し、したがって本発明の意味内容で浸透を防止する。
【0076】
分離値:たいていは接着テープまたはラベルの工業的適用において、接着性物質に対する分離作用は、分離値により表され、この場合、低い分離値は、良好な分離作用を示す。分離値は、分離被覆の品質、接着剤および試験条件に依存する。したがって、分離被覆の評価のために、同じ接着剤および試験条件が提供されるべきである。分離値の測定用に、接着テープTESA(登録商標)7475、tesa SE社(独国、Hamburg)の商標、2.5cm幅を使用した。この試験は、FTM10の名称のもとでFINAT Handbook 8th Edition, The Hague/ Nl, 2009に従うが、40℃で加圧下での貯蔵を実施するという変更を加えて実施される。
【0077】
バリア作用の結果および分離値は表2に示されている。全ての実施例について、品質評点1を有する分離被覆を使用した。
【0078】
表2:例示的組成物の結果、バリア作用(SP62分光光度計を用いたデルタ−L*値)、および40℃で24時間貯蔵した後の、cN/2.5cmで表されるTESA(登録商標)7475を用いた分離値(TW)を表示する。
【表2】
【0079】
表2から、本発明による組成物は、酢酸ブチルに対する良好なバリア作用および同時に良好な分離作用を有することが明らかとなる。本発明によらない組成物は、良好な分離作用で悪いバリア作用を有するか、またはそれどころか両方の特性において悪い結果を有する。
【0080】
組成物B、CおよびDは良好なバリア作用を有するが、組成物Aはこの特性を失っている。組成物Eは、良好なバリア作用を有するが、良好な分離作用を有していない。組成物A〜Eは、成分IIの比較的高い割合が分離挙動に関して好ましい作用を及ぼすが、バリア作用には不利な作用を及ぼすことを示す。
【0081】
さらに、組成物F、G、HおよびIにおける成分IIの本発明による実施例は、全て良好な分離挙動で良好なバリア作用を示すことが明らかである。組成物J、KおよびLは、付加的に成分IIIを含み、それによりバリア作用に影響を受けないかまたはわずかに不利な影響を受けるだけである。
【0082】
さらに、多様な成分I、またはそれらの混合物を含む組成物M〜QおよびR、S、Tは、多様なバリア作用を可能にすることが明らかである。
【0083】
例えば、組成物Mは、良好なバリア作用を示さない、というのも有機アクリラート成分のK−I−2はシリコーン成分IIと著しく不適合であるためである。この不適合性は、成分K−I−2中のオキシエチレン基によって引き起こされる。したがって、混合物Mは、明らかに二相系である。オキシエチレン基を有するこのような成分Iはシリコーン成分II内にわずかにしか混合されないため、これはそれ自体弱く架橋するシリコーン成分IIをより強く架橋することを可能にしないかまたは不十分により強く架橋することを可能にする。このような混合物は、実施例Mで示されたように、良好なバリア作用を示さない。したがって、これらの混合物は、本発明によるものではない。
【0084】
さらに、1つだけのラジカル重合可能なエチレン系不飽和基を有する成分Iの高い割合を含み、したがって本発明によるものではない組成物Tは、良好なバリア作用を達成することができないことは明らかである。
【0085】
組成物U、VおよびWは、成分Iを含まない組成物IIについての例であり、組成物UおよびVは成分IIIも含む。これらは全て良好なバリア作用を示さない。このことは、成分IIIの実施例であり、かつ悪いバリア作用に加えて良好な分離挙動を有しない組成物Xについても当てはまる。
【0086】
本発明による組成物の適用により、良好なバリア作用と低い分離値とを同時に得ることに成功する。