特許第6968148号(P6968148)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6968148リチウムイオン電池セルのアノード、その製造方法及びそれを備えた電池
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  • 特許6968148-リチウムイオン電池セルのアノード、その製造方法及びそれを備えた電池 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6968148
(24)【登録日】2021年10月28日
(45)【発行日】2021年11月17日
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池セルのアノード、その製造方法及びそれを備えた電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20211108BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20211108BHJP
   H01M 4/1393 20100101ALI20211108BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20211108BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20211108BHJP
【FI】
   H01M4/62 Z
   H01M4/133
   H01M4/1393
   H01M10/0566
   H01M10/052
【請求項の数】15
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-503548(P2019-503548)
(86)(22)【出願日】2017年7月21日
(65)【公表番号】特表2019-527457(P2019-527457A)
(43)【公表日】2019年9月26日
(86)【国際出願番号】FR2017052031
(87)【国際公開番号】WO2018020117
(87)【国際公開日】20180201
【審査請求日】2020年5月29日
(31)【優先権主張番号】1657155
(32)【優先日】2016年7月26日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】591136931
【氏名又は名称】ハッチンソン
【氏名又は名称原語表記】HUTCHINSON
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソンタグ フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】クールタ ジュリー
(72)【発明者】
【氏名】ツィマーマン マルク
(72)【発明者】
【氏名】アスタフィエヴァ クセニア
(72)【発明者】
【氏名】デュフォー ブルーノ
(72)【発明者】
【氏名】エイメ−ぺロ ダヴィド
【審査官】 宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−191557(JP,A)
【文献】 特表2017−513175(JP,A)
【文献】 特開平11−111268(JP,A)
【文献】 特開2012−243476(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/026583(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/103730(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/080989(WO,A1)
【文献】 特開2004−178879(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36− 4/62
H01M 4/13− 4/1399
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池のアノードを形成することのできる電極用高分子組成物であって、
前記アノードにおいてリチウムの可逆的挿入/脱離を行うことのできる黒鉛を含む活物質と、
導電性フィラー(但し、前記活物質に含まれる黒鉛を除く)
橋エラストマー系バインダーと、
を含み、
前記架橋エラストマー系バインダーが、少なくとも1種の非水素化アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(NBR)及び/又は少なくとも1種の水素化アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(HNBR)を含み、前記非水素化アクリロニトリル−ブタジエン共重合体及び前記水素化アクリロニトリル−ブタジエン共重合体は、各々、アクリロニトリル系単位の質量含有率が40%以上であり、熱酸化によって架橋されていることを特徴とする、電極用高分子組成物。
【請求項2】
前記架橋エラストマー系バインダーが、200℃〜300℃の温度で10Paを超える酸素分圧を有する酸素含有雰囲気下における、未架橋状態の前記少なくとも1種のNBR及び/又は前記少なくとも1種のHNBR、前記活物質、及び前記導電性フィラーと、前記雰囲気の酸素との熱酸化化学反応の生成物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1種の架橋NBR及び/又は前記少なくとも1種の架橋HNBRが有するアクリロニトリル系単位は、前記熱酸化によって、少なくとも部分的に酸素原子が豊富であり、水素原子が枯渇していることを特徴とする、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
記少なくとも1種の架橋NBR及び/又は前記少なくとも1種の架橋HNBRを架橋する過酸化物によるラジカル架橋システムを含まず、熱酸化のみによって架橋されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記架橋エラストマー系バインダー中、前記少なくとも1種のNBR及び/又は前記少なくとも1種のHNBRの質量分率が70%〜100%(境界値を包含する)であり、前記架橋エラストマー系バインダーが、5%未満の質量分率で組成物中に存在することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記架橋エラストマー系バインダーが、ASTM D5902−05基準に従って測定したヨウ素数が、10%超である少なくとも1種のHNBRを含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記架橋エラストマー系バインダーが、前記少なくとも1種のNBRと前記少なくとも1種のHNBRとの混合物を含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記アクリロニトリル系単位の質量含有率が44%以上であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
人造黒鉛を含む前記活物質を90%超の質量分率で含み、
カーボンブラック、黒鉛、膨張黒鉛、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェン、及びこれらの混合物からなる群から選ばれる前記導電性フィラー(但し、前記活物質に含まれる人造黒鉛を除く)を1%〜6%の質量分率で含むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
リチウムイオン電池のアノードを形成することのできる電極であって、
請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物から構成される少なくとも1つの膜と、前記少なくとも1種の膜と接触した金属集電体とを備えることを特徴とする、電極。
【請求項11】
アノードと、カソードと、リチウム塩及び非水性溶媒に基づく電解質とを備えた少なくとも1種のセルを備えたリチウムイオン電池であって、前記アノードが請求項10に記載の電極から構成されることを特徴とする、リチウムイオン電池。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物を作製する方法であって、
a)前記活物質と、未架橋状態の前記エラストマー系バインダーと、前記導電性フィラーとを含む組成物成分を混合して、前記組成物の前駆体混合物を得ることと、
b)前記混合物が未架橋膜を形成するように、前記混合物を金属集電体上に成膜することと、
c)200℃〜300℃の温度で10Paを超える酸素分圧を有する酸素含有雰囲気下で、前記未架橋膜を熱酸化し、前記エラストマー系バインダーが架橋した電極を得ることと、
をこの順に含むことを特徴とする、方法。
【請求項13】
溶媒中に溶解又は分散した前記成分を粉砕することによって工程a)を行い、
工程b)に次いで前記溶媒を蒸発させた後、前記膜を焼鈍することによって工程c)を行うことを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記混合物中の質量分率で28%以上の熱分解によって少なくとも部分的に除去可能な犠牲高分子相を更に含む前記成分を、溶融状態で溶媒を蒸発させずに混合することによって工程a)を行い、
前記犠牲高分子相が、複数種のポリアルケンカーボネートから選ばれる少なくとも1種の犠牲ポリマーを含み、
前記エラストマー系バインダーより少なくとも20℃低い熱分解温度を有する前記犠牲高分子相を熱分解して、前記犠牲高分子相を少なくとも部分的に除去することによって工程c)を行うことを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記犠牲高分子相が、前記混合物中に30%〜50%の質量分率で存在し、 前記混合物中の前記エラストマー系バインダー及び前記犠牲高分子相をマクロ相分離させることなく、連続した前記犠牲高分子相内、又は、犠牲高分子相同士で共連続相を形成した前記犠牲高分子相内に前記エラストマー系バインダーが均質に分散するように、内部ミキサー又は押出機内で上記工程a)を行うことを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池のアノードを形成することのできる電極用高分子組成物、この組成物を作製する方法、そのような電極、及び、1つのセル又は各セルがこの電極を備えたリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム蓄電池には主に以下の2つの種類がある。負極がリチウム金属(液体電解質の存在下で安全性に問題のある材料)からなるリチウム金属電池と、リチウムがイオンの形態のままであるリチウムイオン電池である。
【0003】
リチウムイオン電池は、少なくとも2つの極性の異なる導電性ファラデー電極、負極すなわちアノードと正極すなわちカソードとから構成される。これらの電極間には、イオン伝導性を確保するLiカチオンに基づく非プロトン性電解質を含浸させた電気絶縁体からなるセパレータが設けられる。リチウムイオン電池に用いられる電解質は、通常、リチウム塩から構成され、このリチウム塩は、例えば、LiPF、LiAsF、LiCFSO、又はLiClOの式で表わされ、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、又は、最も一般的には、エチレンカーボネート又はプロピレンカーボネート等のカーボネート等の非水性溶媒の混合物に溶解している。
【0004】
リチウムイオン電池は、電池の充電及び放電の際、アノードとカソードとの間でリチウムイオンを可逆的に交換することに基づいており、リチウムが有する物理的性質によって、低質量でも高エネルギー密度を有している。
【0005】
リチウムイオン電池のアノード活物質は、リチウムの可逆的挿入/脱離を行う場となるよう設計され、典型的には黒鉛(容量370mAh/g、Li/Liの組合せに対する酸化還元電位0.05V)、又はその変化型として混合金属酸化物から構成される。この混合金属酸化物の例としては、LiTi12の式で表されるリチウム化酸化チタンが挙げられる。カソード活物質に関しては、通常、遷移金属酸化物又はリチウム化リン酸鉄から構成される。これらの活物質により、電極においてリチウムの可逆的挿入/脱離が可能となり、活物質の電極中での質量分率が大きくなればなるほど、電極の容量が大きくなる。
【0006】
これらの電極は、カーボンブラック等の導電性成分を含む必要があり、導電性成分を十分に機械的に凝集させるため、高分子バインダーを含む必要がある。
【0007】
リチウムイオン電池のアノードは、通常、アノードの成分を溶媒に溶解又は分散する工程と、得られた溶液又は分散液を金属集電体上に塗布する工程と、最後に、溶媒を蒸発させる工程とをこの順に含む方法によって製造される。有機溶媒を使用する方法(特許文献1に示された方法等)は、特に、有毒又は引火性の溶媒を大量に蒸発させる必要があることから、環境上及び安全上の不利点がある。水性溶媒を用いる方法に関しては、大きな不利点として、水が微量でも含まれているとリチウム電池の寿命が制限されるため、アノードを使用する前に徹底的に乾燥させなければならない点が挙げられる。その例として、黒鉛及びエラストマー系バインダーに基づき、水性溶媒を使用してアノードを製造する方法を記載した特許文献2が挙げられる。
【0008】
そのため、従来、溶媒を用いずに、特に溶融技術(例えば、押出)によってリチウムイオン電池のアノードを製造することが試みられてきた。しかしながら、残念なことに、それらの溶融プロセスを用いると、これらの電池の場合に、電池においてアノードが十分な容量を有するよう、アノードの高分子混合物中の活物質の質量分率を少なくとも85%とすることが必要であるという大きな課題がある。というのは、このような活物質含有率では、混合物の粘度が非常に高くなり、混合物が過熱し、またプロセス実施後に機械的凝集が不足するおそれがある。特許文献3には、押出によるリチウム高分子電池電極の連続製造方法であって、電極活物質と、導電体と、ポリマー、リチウム塩、及びこのポリマーに対して過剰量のプロピレンカーボネート/エチレンカーボネート混合物を含む固体電解質組成物とを混合することを含む、方法が示されている。この文献においては、得られたアノード高分子組成物に存在する活物質の質量分率は70%未満であり、リチウムイオン電池としては大きく不足している。
【0009】
本出願人による特許文献4には、溶媒を蒸発させずに溶融経路で調製するリチウムイオン電池用アノード組成物が提案されている。この組成物によると、アノード中の活物質の質量分率を大きくすることができ、これにより、この組成物を含むリチウムイオン電池を高性能にすることができる。この文献に示されたアノード組成物は、
85%を超える質量分率の活物質(例えば、黒鉛)と、
導電性フィラーと、
例えば、完全に飽和した水素化アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(HNBR)「THERBAN 4307」(すなわち、残留二重結合含有率が最大でも0.9%と定義される)から構成され、アクリロニトリル系単位の質量含有率が43%である架橋性エラストマー系バインダーと、
過酸化物を含むエラストマー系バインダー用ラジカル架橋システムと、
電池の電解質溶媒に使用し得る非揮発性有機化合物(例えば、アルケンカーボネート)と、
を含む。
【0010】
同じく本出願人による特許文献5には、溶媒を蒸発させずに溶融経路で、犠牲高分子相を用いて調製するリチウムイオン電池用電極(例えば、アノード)組成物が示されている。この犠牲高分子相は、活物質、架橋又は未架橋エラストマー系バインダー、及び導電性フィラーと混合し、次いで、例えば熱分解により少なくとも部分的に除去する。これにより、組成物中で使用し得る活物質の質量分率が80%を超えても、溶融混合物の可塑性及び流動性を向上させることができ、また、組成物の気孔率を制御することができることから、電極容量を良好にすることができる。この組成物は、バインダーとしてHNBR(例えば、Zetpol(商標)2010L、アクリロニトリル系単位の質量含有率36%、水素化率96%、ヨウ素数11%の部分飽和HNBR、ASTM D5902−05に従い測定)を含むことができる。
【0011】
最後2つの文献に示されたアノード組成物は、リチウムイオン電池としては概して良好であるが、本出願人は、近年の研究で、その電気化学的性質を更に向上させようとしてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許出願公開第2010/0112441号
【特許文献2】欧州特許第1489673号
【特許文献3】米国特許第5749927号
【特許文献4】欧州特許出願公開第2639860号
【特許文献5】国際公開第2015/124835号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そのため、本発明は、リチウムイオン電池のアノード中にて非常に高質量分率で使用することができ、同時に、アノードの容量及びサイクル性を向上させることができる黒鉛を含む活物質を含む新規なアノード高分子組成物を提案することを目的とする。本出願人は、驚くべきことに、上記活物質と、導電性フィラーと、各々、200℃〜300℃の温度で10Pa(0.1bar)を超える酸素分圧を有する酸素含有雰囲気下で熱酸化により架橋され、アクリロニトリル系単位の質量含有率(ACN質量含有率と略す)が40%以上である少なくとも1種の非水素化アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(NBR)及び/又は少なくとも1種のHNBRを含むエラストマー系バインダーとを混合すると、液体経路でも溶融経路でも、5サイクル時及び10サイクル時の容量が200mAh/gを超え、5サイクル後又は10サイクル後の初回サイクルに対する保持率が80%を顕著に超える(又は、更に90%超、更には100%)アノードを得ることができることを発見し、上記目的を達成した。
【0014】
具体的には、本出願人は、この熱酸化に用いる酸素が、1つの共重合体又は各共重合体のニトリル基−C≡N(ACN質量含有率が非常に高いことを考えると、ブタジエン系単位の二重結合よりニトリル基はかなり数が多い)と高温で相互作用し、このニトリル基を部分的に酸化/脱水して、酸素原子が豊富で水素原子が枯渇した状態することにより、1つの共重合体又は各共重合体の高分子鎖間に炭素橋を形成することができ、架橋することができることを発見した。
【課題を解決するための手段】
【0015】
したがって、本発明によるリチウムイオン電池のアノードを形成することのできる電極用高分子組成物は、アノードにおいてリチウムの可逆的挿入/脱離を行うことのできる黒鉛を含む活物質と、導電性フィラーと、水素化アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(HNBR)を含む架橋エラストマー系バインダーとを含み、架橋バインダーが、少なくとも1種の非水素化アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(NBR)及び/又は少なくとも1種の「HNBR」を含み、これらは、各々、ACN質量含有率が40%以上であり、それぞれ熱酸化によって架橋されている。
【0016】
本明細書中「少なくとも1種のNBR及び/又は少なくとも1種のHNBRを含むバインダー」という表現は、バインダーが1種類以上のNBR及び/又は1種類以上のHNBRを含むことができ、それぞれが、非常に高いACN質量含有率を有することと、熱酸化性雰囲気中、ニトリル基と相互作用する酸素原子の存在下での化学的熱酸化反応のみによって架橋されているか、又は、化学的熱酸化反応によって少なくとも部分的に架橋されていることという2つの条件を満たしていることを意味する。
【0017】
本発明に係る組成物中に含まれる架橋NBRエラストマー及び/又は架橋HNBRエラストマーは、通常、官能化エラストマーであっても、非官能化エラストマーであってもよい。官能化の方法に特に制限はなく、本発明に係る電極組成物の性質(例えば、被着性)を向上させるのに好適な官能基、例えば、カルボニル基(例えば、XNBRとして知られるカルボキシル化NBRの製造の場合にはカルボキシル基)で、これらのNBRエラストマー及び/又はHNBRエラストマーを官能化することができる。
【0018】
この熱酸化による架橋は、過酸化物によるラジカル架橋、特に特許文献4でHNBRバインダーの架橋に使用されたラジカル架橋とは異なっており、この特定の架橋が、本発明の組成物に構造的に反映されている点、すなわち、熱酸化による架橋に対する活性部位が、周囲の雰囲気中の酸素、具体的にはNBR及び/又はHNBRのニトリル基と相互作用する酸素によって提供されるため、例えば過酸化物によるラジカル架橋システム等の架橋システムを含まなくてもよいという利点がある点に留意されたい。
【0019】
上述のように、上記少なくとも1種のNBR及び/又は上記少なくとも1種のHNBRを熱酸化のみによって架橋することの変化型として、このNBR及び/又はHNBRを、上記熱酸化による架橋に加えて、部分的にラジカル経路により(例えば、組成物に過酸化物架橋システムを包含させることにより)架橋してもよい点に留意されたい。
【0020】
したがって、上記架橋バインダーが、200℃〜300℃の温度で10Paを超える酸素分圧を有する酸素含有雰囲気下における、未架橋状態の上記少なくとも1種のNBR及び/又は少なくとも1種のHNBR、上記活物質、及び上記導電性フィラーと、上記雰囲気の酸素との熱酸化化学反応の生成物を含むことが有利である。
【0021】
本発明に係る熱酸化を行うと、初めの未架橋組成物(又は、組成物が架橋システムを含む場合には、厳密には架橋性組成物)が、未架橋又は架橋性の上記少なくとも1種のNBR及び/又は上記少なくとも1種のHNBRと酸素との化学反応によって、最終架橋組成物が生成するように変性されることに留意されたい。
【0022】
既に説明した通り、本発明に係る架橋組成物中の上記少なくとも1種の架橋NBR及び/又は上記少なくとも1種の架橋HNBRが有するアクリロニトリル系単位は、上記熱酸化により、少なくとも部分的に酸素原子が豊富であり、水素原子が枯渇している。
【0023】
上記少なくとも1種のNBR及び/又は上記少なくとも1種のHNBRにおけるACN質量含有率は、44%以上であることが好ましく、48%以上であることが更に優先的に好ましい。
【0024】
上記架橋バインダー中、上記少なくとも1種のNBR及び/又は上記少なくとも1種のHNBRの質量分率が70%〜100%(境界値を包含する)であり、上記架橋バインダーが、5%未満、好ましくは4%以下の質量分率で組成物中に存在することが更に好ましい。
【0025】
本発明の実施形態の一例によると、上記架橋バインダーは、以下の性質を有する少なくとも1種のHNBRを含む。
ASTM D5902−05基準に従って測定したヨウ素数が、10%超、有利には15%超、更に有利には20%であり、
水素化率が95%未満、有利には92%未満(赤外分光法により測定)である。
【0026】
上記の基準(2010年及び2015年改正)に従って測定したヨウ素数(「ヨウ素価」としても知られ、定義によるとHNBRの1グラム当たりのヨウ素のセンチグラムで表される)は、残留不飽和部分の含量を示唆しており、本発明に係るHNBRに関しては、部分的に水素化されており、部分飽和グレードである(上述の特許文献4の「THERBAN 4307」HNBRとは異なる)ため、比較的高い値となり得る点に留意されたい。
【0027】
しかしながら、本発明に係るHNBRは、その変化型として、完全飽和水素化グレードのもの、すなわち、ヨウ素数が10%未満であり、水素化率が100%に近いものであってもよい点に留意されたい。
【0028】
上記架橋バインダーが、上記少なくとも1種のNBRと上記少なくとも1種のHNBR(既に説明した通り、それぞれ、40%以上のACN質量含有率を有し、熱酸化によって架橋されている)との混合物を含み得ることが有利である。
【0029】
上記架橋性エラストマー系バインダーが上記組成物中に均質に分散すると、上記電極が機械的強度を発揮する点に留意されたい。
【0030】
本発明の他の特性によると、本発明に係る組成物は、
人造又は天然の黒鉛、例えば、人造黒鉛C−NERGY(商標)L−SERIES(Timcal)、又は、PGPT100、PGPT200、PGPT20シリーズ(Targray)のうち1つの黒鉛を含む活物質を、90%を超える質量分率で含み、
カーボンブラック、黒鉛、膨張黒鉛、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェン、及びこれらの混合物からなる群から選ばれる導電性フィラー、好ましくは、精製導電性膨張黒鉛、高純度カーボンブラック、及びカーボンナノファイバーからなる群から選ばれる導電性フィラーを1%〜6%の質量分率で含み得ることが有利である。
【0031】
電極組成物中の上記活物質の質量分率がこのように非常に高いと、この組成物を含むリチウムイオン電池が高性能となる点に留意されたい。
【0032】
本発明の上記組成物は、上述の特許文献4における教示に反して、アルケンカーボネート等の非揮発性有機化合物(すなわち、1.013×10Paの大気圧下で150℃を超える沸点を有する化合物)を含まなくてもよいという利点がある。
【0033】
本発明に係る電極は、リチウムイオン電池のアノードを形成することができ、上に記載のポリマー組成物から構成される少なくとも1つの膜と、少なくとも1種の膜と接触した金属集電体とを含むことを特徴とする。
【0034】
本発明に係るリチウムイオン電池は、アノードと、カソードと、リチウム塩及び非水性溶媒に基づく電解質とを備えた少なくとも1種のセルを備え、この電池は、上記アノードが本発明のこの電極から構成されることを特徴とする。
【0035】
上記電池のカソードは、少なくとも1種のリチウム化ポリアニオン系化合物、又は、4V未満の作動電圧を有し、好ましくは炭素被覆された錯体、例えば、LiMPOの式で表される金属Mのリチウム化リン酸塩(式中、Mは、例えば、鉄原子である)を含む活物質に基づき得ることが有利である。
【0036】
上に定義されるポリマー組成物を作製する本発明に係る方法は、
a)上記活物質と、未架橋状態の上記エラストマー系バインダーと、上記導電性フィラーとを含む組成物成分を混合して、上記組成物の前駆体混合物を得ることと、
b)混合物が未架橋膜を形成するように、混合物を金属集電体上に成膜することと、次に、
c)200℃〜300℃の温度で10Paを超える酸素分圧を有する酸素含有雰囲気下で、上記未架橋膜を熱酸化し、上記バインダーが架橋した電極を得ることと、
をこの順に含む。
【0037】
本発明の第1の実施形態によると、
溶媒中に溶解又は分散した上記成分を液体経路で粉砕することによって工程a)を行い、
ドクターブレードを用いた塗布によって工程b)を行い、
工程b)に次いで上記溶媒を蒸発させた後、200℃〜300℃の温度で上記膜を焼鈍することによって工程c)を行う。
【0038】
本発明の第2の実施形態によると、
上記混合物中の質量分率で28%以上の犠牲高分子相を更に含む上記成分を、溶媒を蒸発させずに溶融経路で混合することによって工程a)を行い、
カレンダー処理によって工程b)を行い、
上記バインダーより少なくとも20℃低い熱分解温度を有する上記犠牲高分子相を上記200℃〜300℃の温度で分解して、上記犠牲高分子相を少なくとも部分的に除去することによって工程c)を行う。
【0039】
上記犠牲高分子相が、ポリアルケンカーボネートから選ばれる少なくとも1種の犠牲高分子を含むことができ、上記混合物中に30%〜50%の質量分率で存在することができ、上記混合物中の上記バインダー及び上記犠牲高分子相をマクロ相分離させることなく、連続した上記犠牲高分子相内、又はそうでなければ、犠牲高分子相同士で共連続相を形成した上記犠牲高分子相内に上記バインダーが均質に分散するように、内部ミキサー又は押出機内で工程a)が行われ得ることが有利である。
【0040】
本発明の第2の実施形態の実施に関しては、上述の特許文献5の教示を参照するのが有利であろう。この文献には、第2の実施形態の方法によると、気孔のサイズ、量、形態を制御することにより導入する犠牲相の量によって、組成物中の気孔率を制御することができ、押出等の従来のプラスチックエンジニアリングプロセス特有の、短い実施時間を採用することができることが示されている。
【0041】
本発明の組成物には、通常、その製造方法を改善又は最適化する特定の添加剤を添加することができる。また、上記バインダーを架橋することのできる化合物を添加してもよく、この架橋を補助し、均質化することのできる助剤を添加してもよい。例えば、架橋剤としては、有機過酸化物、架橋助剤としてはシアヌル酸トリアリルが挙げられる。架橋を行うことにより、上記バインダーの性質に応じて、組成物の凝集を確保する。架橋剤及び架橋助剤の使用は有効であるが、本発明においては必要ではないという点に留意されたい。
【0042】
添付の図面と関連して、本発明を実施したいくつかの例に関する以下の説明を読むことによって、本発明の他の特徴点、利点、及び詳細が明らかになるであろう。本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】フーリエ変換赤外分光分析(FTIRと略す)で測定した吸収スペクトルを示すグラフであり、HNBRバインダーから構成される2種類のエラストマー系膜、すなわち、未架橋の「対照」膜及び熱酸化により架橋した本発明に係る膜の吸光度の変化をその波数の関数として示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
液体経路で調製したリチウムイオン電池のアノードの本発明に従わない「対照」例及び本発明に係る実施例
以下に示す全ての例において使用した物質は以下の通りである。
活物質として、C−NERGY(商標)L−SERIES(Timcal)として知られる人造黒鉛、
導電性フィラーとして、精製導電性膨張黒鉛、
溶媒として、Aldrich社のN−メチルピロリジノン(NMP)、
Versalis ENI社の以下の2種類のNBRバインダー、
ACN質量含有率33%のEuroprene N 3360、
ACN質量含有率45%のEuroprene N 4560、
Zeon Chemicals L. P.社の以下の3種類のHNBRバインダー、
ACN質量含有率19%、ヨウ素数15、及び水素化率(HYD)95%のZetpol(商標)4310、
ACN質量含有率36%、ヨウ素数11、及び水素化率(HYD)96%のZetpol(商標)2010L、
ACN質量含有率50%、ヨウ素数23、及び水素化率(HYD)91%のZetpol(商標)0020。
【0045】
アノードに対する液体経路実施手順
これらの成分をボールミルで混合し、次いで、混合により得られた分散液を、集電体を形成する金属片に塗布し、続いて乾燥を行い、任意で、本発明に従って得られたアノードに対して焼鈍による最終架橋を行って、Liイオン電池のアノードを製造した。
【0046】
まず、上記の活物質、導電性フィラー、及びバインダー(1/10の質量比でNMPに溶解)を、ボールミルにて3分間350rpmで粉砕して、NMP中で混合した。
【0047】
次いで、得られた分散液を、厚さ12μmの裸銅片に、150μmの開口を有するドクターブレードを用いて塗布した。本発明に係るアノードの場合は、60℃で2時間溶媒を蒸発させた後、塗布膜に対して240℃で30分焼鈍を行った(本発明に従わないアノードは、この最終焼鈍を行わずに製造した)。得られたアノードの最終厚さは、50μm〜100μmの範囲であった。
【0048】
以下の表1に、初めの分散液及び最終的に得られたアノードで使用した組成物の処方(%での質量分率)を詳細に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
以下のことに留意されたい。
対照アノードC1は、本発明に従わないHNBRバインダーを含んでおり、最終焼鈍(240℃での熱酸化)のみによって架橋した。
対照アノードC2は、本発明に従わない別のHNBRバインダーを含んでおり、最終焼鈍(240℃での熱酸化)のみによって架橋した。
本発明に従わないアノードC3の場合は、本発明に係るアノードI1と同じ処方を用いて調製した。アノードC3は、焼鈍による最終架橋を行わなかった点でアノードI1と異なる。言い換えると、アノードI1は、アノードC3と同様に、本発明に係るHNBRを含んでいるが、アノードI1のみに架橋を行った(240℃での熱酸化のみ)。
対照アノードC4は、本発明に従わないHNBRバインダーを含んでおり、ラジカル経路と240℃での熱酸化との両方によって架橋した。
対照アノードC5は、本発明に従わない同じHNBRバインダーを含んでおり、240℃での熱酸化のみによって架橋した。
対照アノードC6は、本発明に従わないNBRバインダーを含んでおり、架橋を行わなかった。
本発明に従わないアノードC7は、本発明に係るNBRバインダーを含んでいるが、架橋を行わなかった。
本発明に従わないアノードC8は、本発明に係る同じNBRバインダーを含んでいるが、ラジカル経路のみによって架橋した。
本発明に従わないアノードC9の場合は、本発明に係るアノードI2と同じ処方を用いて調製した。アノードC9は、焼鈍による最終架橋を行わなかった点でアノードI2と異なる。
【0051】
より詳細には、アノードI2は、アノードC9と同様に、各々本発明に係るNBR+HNBRの本発明に係るバインダー混合物を含んでいるが、アノードI2のみに240℃での熱酸化(とラジカル経路)により部分架橋を行い、アノードC9はラジカル経路のみによって架橋を行った。
【0052】
溶融経路により調製したリチウムイオン電池のアノードの「対照」例及び本発明に係る実施例
以下に示す全ての例において使用した物質は以下の通りである。
活物質として、上述のC−NERGY(商標)L−SERIES(Timcal)として知られる人造黒鉛、
導電性フィラーとして、上述の精製導電性膨張黒鉛、及び、
犠牲高分子相として、2種類の犠牲ポリマー(ポリプロピレンカーボネート、PPCと略す)Novomer社のConverge(商標)Polyol 212−10とEmpower Materials社のQPAC(商標)40とのブレンド。
【0053】
上述のHNBRバインダーZetpol(商標)2010L(アクリロニトリル含有率36%、ヨウ素数11)を「対照」例で使用した。
【0054】
上述のHNBRバインダーZetpol(商標)0020(アクリロニトリル含有率50%、ヨウ素数23)を本発明に係る実施例で使用した。
【0055】
アノードに対する溶融経路実施手順
上記黒鉛に基づくアノードに対する溶融経路は、容量69cmのHaake Polylab OS内部ミキサーを用いて温度60℃〜75℃で行った。
【0056】
アノードの厚さが200μmに達するまで、得られた混合物に対し、室温でScamex社の外部ロールミキサーを用いてカレンダー処理を行った。次いで、50μmの厚さに達するまで、再度50℃でカレンダー処理を行った。得られた膜を、シートカレンダー装置を用いて70℃で銅集電体上に成膜させた。
【0057】
得られたアノードを、犠牲相(固体PPC及び液体PPC)が抽出されるようにオーブンに入れた。アノードは、50℃から250℃の温度勾配で加熱し、次いで、250℃で30分間定温保持した。
【0058】
以下の表2に、犠牲相抽出前後の組成物の処方(%での質量分率)を詳細に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
得られたアノードC’1、アノードC’2、アノードC’3、アノードI’1、及びアノードI’2は全て本発明に係る熱酸化のみによって架橋されているが、アノードI’1及びアノードI’2のみが本発明に係るバインダーを含んでいることに留意されたい。
【0061】
液体経路で調製したアノードC1〜アノードC9、アノードI1、及びアノードI2並びに溶融経路で調製したアノードC’1〜アノードC’3、アノードI’1、及びアノードI’2の電気化学的特性評価の手順
アノードC1〜アノードC9、アノードI1、及びアノードI2並びにアノードC’1〜アノードC’3、アノードI’1、及びアノードI’2を、パンチ(直径:16mm、面積2.01cm)を用いて切り抜き、秤量した。活物質の質量を、同条件(熱処理)で準備した裸集電体の質量を引くことにより求めた。上記アノードをグローブボックスに直接接続したオーブンに入れ、真空下、100℃で12時間乾燥し、次いで、グローブボックスに移した(アルゴン雰囲気:0.1ppmHO及び0.1ppmO)。
【0062】
次いで、リチウム金属対電極、cellgard 2500セパレータ、及びLiPF EC/DMC(質量比50/50)電池グレード電解質を用いてボタンセル(CR1620型)を組み立てた。このセルを、Biologic VMP3ポテンショスタットを用いて、1V〜10mVの定電流で充電/放電サイクルを行うことにより特性評価した。活物質の質量及び372mAh/gの理論容量を考慮して、レジームはC/5とした。様々なシステムの性能を比較するため、リチウムの脱離に対する初回放電における容量(初回サイクル後の初期容量)(アノードの容量、単位:mAh/g)、5回目放電における容量(5サイクルにおける容量)、及び10回目放電における容量(10サイクルにおける容量)を評価した。初回サイクルの容量に対する10サイクルの容量の保持率R(%)も計算した。
【0063】
以下の表3に、この特性評価の結果を示す。
【0064】
【表3】
【0065】
表3から、液体経路で調製した本発明の第1の実施形態に係るアノードI1及びアノードI2、すなわち、少なくとも40%のACN含有率を有するHNBRをバインダーとして含み、空気中240℃の熱酸化により架橋したアノードI1及びアノードI2が、それぞれ、5サイクル後及び10サイクル後であっても、200mAh/gより顕著に大きい容量(220mAh/gよりも更に大きい容量)を有しており、また、初回サイクルと10サイクルとの間で100%に近いサイクル性を有することがわかる。このアノードI1及びアノードI2の場合の良好な結果は、アノードC1〜アノードC9の場合に得られる不十分な結果と対照的であり、試験された本発明に係るNBR及び/又はHNBRにおける高ACN含有率と、熱酸化による架橋との相乗効果を、特に以下の例を比較することにより実証している。
熱酸化により架橋したが、HNBRが高ACN含有率を有さないアノードC1、アノードC2、アノードC4、及びアノードC5、
高ACN含有率を有するHNBR又はNBRバインダーを含むが、架橋していない、本発明に従わないアノードC3及びアノードC7(5サイクル〜10サイクルでは、容量が130mAh/g以下)、及び、
高ACN含有率を有するNBRバインダーを含むが、ラジカル経路のみによって架橋したアノードC8及びアノードC9。
【0066】
さらに、本発明に係るアノードI2は、各々高ACN含有率を有し、熱酸化により架橋したバインダーNBR+HNBRの混合物を含むことによって、バインダーとしてHNBRのみを含むアノードI1と比較して、より高い相乗効果(より高容量かつ高サイクル性)を示す。
【0067】
本発明のアノードは、その変化型として、
高ACN含有率を有し、熱酸化のみによって架橋されるか、任意でラジカル経路も用いて架橋されたNBRと、
各々高ACN含有率を有し、どちらも熱酸化のみによって架橋したNBRとHNBRとの組合せ(アノードI2の組成物に含まれる過酸化物架橋システムは任意成分である)と、
をバインダーとして含んでもよいことに留意されたい。
【0068】
空気中、240℃で行った最終焼鈍が、液体経路で調製した本発明に係るアノードI1及びアノードI2の容量性能に及ぼす影響を説明するため、フーリエ変換赤外分光分析(FTIRと略す)による吸光度測定を波数の関数として行った。
【0069】
吸光度測定のために、本発明に係るHNBRバインダー(Zetpol(商標)0020)からなる厚さ100μmの膜を銅上に成膜し、空気中、240℃で30分間処理した。次いで、この膜を「ATR」(減衰全反射)モードのFTIRで調べた。この焼鈍の前後で得られた2つのスペクトルS1及びS2を図1に示す。
【0070】
この焼鈍後のスペクトルS2から、以下のことがわかる。
2240cm−1に、ニトリル基−C≡N特有のわずかなバンドの低下が見られ、
約1600cm−1の領域に、C=C結合及びC=N結合の出現に起因するバンドが見られ、
1740cm−1の領域に、C=O基の出現に起因するバンドが見られる。
【0071】
これらのバンドは、ニトリル基の部分酸化、及びこのニトリル基の酸化/脱水によるHNBRの架橋に特徴的なものである(HNBRにおけるACN質量含有率が高いため、ブタジエン由来の不飽和部分よりニトリル基はかなり数が多い)。
【0072】
表3から、溶融経路で調製した本発明の第2の実施形態に係るアノードI’1及びアノードI’2、すなわち、少なくとも40%のACN含有率を有するHNBRをバインダーとして含み、犠牲高分子相を分解しながら熱酸化により架橋したアノードI’1及びアノードI’2が、5サイクル後及び10サイクル後であっても、200mAh/g以上の容量(少なくとも210mAh/gの容量)を有しており、また、初回サイクルと10サイクルとの間で100%を超えるサイクル性を有することもわかる。このアノードI’1及びアノードI’2の場合の良好な結果は、アノードC’3の場合に、エラストマー系膜を集電体に被着させることができなかったことと対照的である(アノードC’3で採用した抽出前の犠牲相の質量分率は25.1%しかなく、これは、アノードI’1及びアノードI’2でそれぞれ採用した39.4%及び32%よりもかなり低い)。
図1