(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記硬質殻体を成形して、前記硬質殻体の頬側面に犬歯保護形体を形成する工程をさらに含み、前記犬歯保護形体がそれぞれその舌側に案内面を有する、請求項1に記載の方法。
前記硬質殻体が、歯列矯正または移動が必要ない前記歯列弓の少なくとも1つの第2の歯の形状に合った少なくとも1つの第2のキャビティをさらに含む、請求項4に記載の歯科器具。
【背景技術】
【0003】
歯並びが悪いと、その人の歯の審美性、機能性および健康に悪影響を及ぼし得る。影響を受ける機能としては、例えば咀嚼、発音および呼吸など日常的な行為(daily activities)が挙げられる。誘発される歯科の健康上の問題としては、虫歯、歯周病および歯の過度の摩耗がある。歯列矯正の目的は、歯科機能が改善される位置および向きに患者の歯をリポジション(reposition)またはリアライン(realign)することである。
【0004】
従来の歯列矯正器(braces)は、アーチワイヤを動力発生器具として用いている。アーチワイヤは予め成形されたものであり、歯に固定されたブラケットを介して歯を互いに連結させる。取付け初期において、アーチワイヤは弾性変形して位置異常の歯を受け入れ(accommodate)、それらに矯正弾性力を加える。アーチワイヤは歯に継続的に力を加え、それらを徐々に終了位置まで推し動かす。アライナーによる動作原理も、器具自体の弾性特性を利用することである。先行技術において用いられるクリアアライナー(clear aligner)の本体または殻体は器具装着時に撓むと共に変形し、その元の形状に戻ろうとするときに弾性矯正力を提供する。歯並びのずれた歯にクリアアライナーが装着されると、それは弾性を持って、歯並びのずれた歯を収容しようとするが、歯の表面に完全には接触しない。よって、アライナーの本体が歯並びのずれた歯によりよく係合して弾性力を加えることができるよう、歯に固定される追加の部材、例えばアタッチメントが必要とされる。継続的な矯正力を与えて歯列矯正効果を達成させるため、クリアアライナーは1日に20時間以上(患者が食事をしている時以外)の装着が要される。
【0005】
クリアアライナーには、見えにくい、着脱可能といった長所がある。患者が着脱可能な器具は、歯および器具を患者がより簡単に手入れし清潔にすることができるため、口腔衛生が促進される。しかし、歯並びのずれた歯に固定されるアタッチメントを備えるクリアアライナーの使用は、患者により痛みを感じさせる可能性がある。歯列矯正の実務において、歯槽骨を介して歯をより短時間で移動させ、かつ歯根吸収のリスクを低減させるには、重く継続的な力よりも軽く間欠的な力が好ましいことが認められている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
添付の図面を参照にしながら、以下の詳細な説明および実施例を読むことにより、本発明をより十分に理解することができる。
【
図1】本発明のいくつかの実施形態による咀嚼式歯列矯正装置を示す概略図であり、患者はそれを装着して咀嚼することができる。
【
図2】本発明のいくつかの実施形態による咀嚼式歯列矯正装置に用いる歯科器具を作製する方法のフローチャートである。
【
図3】本発明のいくつかの実施形態による、患者の歯列弓の初期デンタルモデルおよび目標デンタルモデルの一部の概略断面図である。
【
図4】
図3における初期デンタルモデルおよび目標デンタルモデルから得られる結合デンタルモデルの一部の概略断面図である。
【
図5】本発明のいくつかの実施形態による、結合デンタルモデルの少なくとも1つの第1の歯(歯科矯正が必要な患者の少なくとも1つの歯に対応)上方にブロックアウト層が形成されていることを示す概略断面図である。
【
図6】本発明のいくつかの実施形態による、第1の材料層がブロックアウト層および結合デンタルモデル上方に形成されて、硬質殻体を形成しているところを示す概略断面図である。
【
図7】本発明のいくつかの実施形態による、第2の材料層が目標デンタルモデルの少なくとも1つの第1の歯 (歯列矯正が必要な患者の少なくとも1つの歯に対応)上方に形成され、かつ硬質殻体が第2の材料層および目標デンタルモデルに対して配されているところを示す概略断面図である。
【
図8】本発明のいくつかの実施形態による、
図2の方法を用いて作製した歯科器具を示す概略断面図である。
【
図9】咬合時における
図1の歯科器具を示す概略図である。
【
図11】いくつかの実施形態による、
図9の歯科器具の1つの咬合面における咬合の特徴を示す概略図である。
【
図12】別の視角からの
図9の第1の歯科器具および第2の歯科器具の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の開示では、本発明の異なる特徴を実施するための多数の異なる実施形態または実施例を提示する。本開示を簡潔とすべく、以下に構成要素および構成の特定の例を記載する。これらは当然に単なる例示に過ぎず、限定を意図するものではない。例えば、以下の記載における第2の特徴上方または第2の特徴上への第1の特徴の形成には、第1の特徴と第2の特徴とが直接に接触して形成されている実施形態が含まれていてよく、また第1の特徴と第2の特徴とが直接には接触しないように第1の特徴と第2の特徴との間に追加の特徴が形成される実施形態も含まれ得る。
【0012】
加えて、本開示では、各種実施形態において参照番号および/または文字を繰り返すことがある。この繰り返しは簡潔および明確とするのが目的であって、それ自体で記載された各実施形態および/または構成間の関係を示すものではない。簡潔および明確にする目的のため、各種特徴は異なる縮尺で任意に描かれ得る。
【0013】
さらに、「underlying(の下にある)」、「below(の下)」、「lower(の下方)」、「overlying(の上にある)」、upper(の上方)」のような空間的相対語(spatially relative term)は、図面に示される1つの要素または特徴の、別の要素または特徴との関係を説明する記述を容易にするために本明細書で使用される場合がある。これら空間的相対語は、図面に描かれた向きに加え、使用または操作における装置のそれぞれ異なる向きを包含するよう意図されている。装置は別の向きに配されて(oriented)もよく(90度回転するか、または別の向きとする)、本明細書で使用される空間的相対記述子(spatially relative descriptors)は同様にそれに応じて解釈することができる。
【0014】
図1は、本発明のいくつかの実施形態による咀嚼式歯列矯正装置を示す概略図であり、患者はそれを装着して咀嚼することができる。
図1に示されるように、咀嚼式歯列矯正装置1は、硬質殻体を有する第1の歯科器具10と、硬質殻体を有する第2の歯科器具20とを含む。第1の歯科器具10および第2の歯科器具20は患者の上顎歯列弓12および下顎歯列弓22にそれぞれ着脱可能に装着される。患者が取り外しすることができるため、咀嚼式歯列矯正装置1は、食べ物を食べるおよびガムを噛むなど日常的な行為において生じる咀嚼の過程において装着されることになる。
【0015】
患者が第1の歯科器具10および第2の歯科器具20を装着すると、 咀嚼時に上顎歯列弓12および下顎歯列弓22の咬合により(
図1における矢印で示されるように)歯にかかる負荷(loading)は、咀嚼式歯列矯正装置1を歯列矯正装置として機能させ得る駆動力である、という点が理解されなければならない。特に、第1の歯科器具10および第2の歯科器具20の硬質殻体は変形せず、または歯に対して弾性力(resilient force)を加えず、かつ、咬合力による負荷の下でも、歯を収容するときに、それらの形状は変形せずに維持される。これは従来技術で用いられるクリアアライナーのケースとは対照的である。従来のクリアアライナーの本体または殻体は、位置異常(malposition)の歯に装着されると撓むと共に変形し、アライナー本体または殻体の弾性力を歯列矯正力として用いる。器具10および器具20の設計および作製について以下の段落で述べる。
【0016】
図2は、本発明のいくつかの実施形態による器具10または器具20を作製する方法のフローチャートである。
図2に示されるように、方法2は動作S01から開始し、ここでは最初の歯の配列の患者の歯列弓の初期デンタルモデル、目標の歯の配列の患者の歯列弓の目標デンタルモデル、ならびに初期デンタルモデルおよび目標デンタルモデルから得られる結合デンタルモデルを準備する。
図3は、本発明のいくつかの実施形態による、患者の歯列弓の初期デンタルモデル30および目標(または最終)デンタルモデル31の一部の概略断面図であり、
図4は、本発明のいくつかの実施形態による、初期デンタルモデル30と目標デンタルモデル31とを結合することにより得られる結合デンタルモデル32の一部の概略断面図である(簡潔および明確とする目的で、患者の矯正が要される1本の歯(以下、第1の歯T1と称する)だけを図面に示している)。コンピュータシミュレーションのアプローチ(computer simulated approach)により、患者の歯列弓の印象を取ると共にその印象をデジタルスキャンすることによるか、または患者の口腔に直接口内スキャンを行うことにより、初期デンタルモデル30を得ることができる。次いで、デジタル初期デンタルモデル30の従来のコンピュータマニピュレーション(computational manipulation)により、デジタル目標デンタルモデル31を作ることができる。これら2つのモデルを合併工程(union procedure)により結合させて、所定の部分が重なっている単一のデジタルモデルとすることができる。後続のブロックアウト層を加えるステップ、および硬質殻体を設計するステップも、コンピュータマニピュレーションにより実行して、対応するデジタルモデルを作り出すことができる。結果として得られた硬質殻体モデルの3Dデータをコンピュータ製造装置(computer manufacturing machine)または3Dプリンタに送り、実体の(physical)硬質殻体を作製することができる。あるいは、手動のアプローチを用いて、実体の初期デンタルモデルから実体の目標デンタルモデルを作ることもできる。初期デンタルモデルから個々の歯を切り取って、目標の位置へと操作し(manipulated)、ワックスで適所に固定することができる。また、ワックスを用い、目標デンタルモデルの第1の歯を実質的に覆うと共に、初期デンタルモデルの第1の歯が占め得る領域を含むようにその範囲を広げることにより、ブロックアウト層を作ることもでき、これにより結合デンタルモデルを作製することもできる。簡潔に言うと、結合デンタルモデルは、初期デンタルモデルと目標デンタルモデルとを重ね合わせ、変わらない部分をマッチングさせることにより形成される。ブロックアウト層の目的は、硬質殻体の形状を画定することにある。ブロックアウト層の外(または上)表面は、硬質殻体の内(または下)表面の形状を決める。
【0017】
動作S02において、ブロックアウト層を、結合デンタルモデルの少なくとも1つの第1の歯を覆うように形成する。
図5に示されるように、結合デンタルモデル32を得た後、ブロックアウト層40を、結合デンタルモデル32の少なくとも1つの第1の歯T1を覆うように形成する。ブロックアウト層40は、上述したように、第1の歯T1の歯冠を実質的に覆う。いくつかの実施形態によれば、ブロックアウト層40は、結合デンタルモデル32の第1の歯T1から突き出たコンピュータシミュレーション層(computer simulated layer)または実体のワックス層であってよい。
【0018】
動作S03において、第1の材料層をブロックアウト層および結合デンタルモデルの上方に形成して硬質殻体を作る。
図6に示されるように、ブロックアウト層40を結合デンタルモデル32の第1の歯T1上方に形成した後、第1の材料層41を、ブロックアウト層40および結合デンタルモデル32を覆うように形成する。いくつかの実施形態によれば、第1の材料層41は初め液体状態であり得、ブロックアウト層40および結合デンタルモデル32の露出している全ての表面(例えば、咬合面、唇側面、舌側面および頬側面)を覆うように流動することができる。第1の材料層41は材料に応じて、自己硬化(self-cured)、または熱硬化もしくは光硬化させ、器具10または器具20の硬質殻体を形成することができる。なお、本開示における用語“硬質殻体”は、咬合力による負荷の下でも変形しないか、または撓まないものであることを表す。
【0019】
いくつかの実施形態によれば、器具10または器具20の硬質殻体Sの厚さは、0.5mmから1.5mmまでの好ましい範囲内で変えることができ、時にはより厚くてもよいが、2.0mmは超えない。いくつかの実施形態によれば、器具10または器具20の硬質殻体Sの硬度は、樹脂スプリント材料および樹脂暫間義歯材料の硬度の範囲内とし、短期から中期の機能性負荷(functional loads)および摩耗に対する耐性のような生物学的要件および機械的要件を満たすようにする。第1の材料層41には、好ましくはアクリル樹脂、樹脂スプリント材料、または樹脂義歯材料が含まれる。その他の材料の選択肢としては、エラストマー材料および 熱可塑性材料が挙げられる。
【0020】
器具の硬質殻体Sを形成した後、
図6における矢印が示すように、ブロックアウト層40および結合デンタルモデル32からそれを取り除く。上述の動作を通し、ブロックアウト層40および結合デンタルモデル32により形作られた硬質殻体Sは、矯正が必要な患者の対応する歯(第1の歯T1)が最初の歯の配列から目標の(最終的な)歯の配列へ移動できるようにする空間を有する少なくとも1つの第1のキャビティR1と、歯列矯正移動が不必要な他の歯(第2の歯)の形状に合った少なくとも1つの第2のキャビティR2(
図10における上方のキャビティ)とを形成する。
【0021】
動作S04において、第2の材料層を、結合デンタルモデルの少なくとも1つの第1の歯に対応する目標デンタルモデルの少なくとも1つの第1の歯の上方に形成する。
図7に示されるように、目標デンタルモデル31を得た後、第2の材料層42を目標デンタルモデル31の少なくとも1つの第1の歯T1の上方に形成する。目標デンタルモデル31の少なくとも1つの第1の歯T1は、結合デンタルモデル32の少なくとも1つの第1の歯T1に対応する。いくつかの実施形態によれば、第2の材料層42は初め、目標デンタルモデル31の少なくとも1つの第1の歯T1の露出している全ての表面(例えば、咬合面、唇側面、舌側面および頬側面)を覆うように広がることができる。手動の技術を用い、材料を複数回塗布することにより第2の材料層42を作り上げることができる。第2の材料層42の最小の厚さが0.5mmであると好ましい。
【0022】
いくつかの実施形態によれば、第2の材料層42にはシリコーン系軟質義歯裏装材料が含まれる。いくつかの実施形態によれば、第2の材料層42に形状記憶ポリマーが含まれていてもよい。目標デンタルモデルに当てて第2の材料層42を形作ることによって、形状記憶ポリマーの記憶形状(remembered shape)が決まる。熱活性化されると、形状記憶ポリマーはその記憶形状に戻ろうとし、弱い力を第1の歯に加えるが、それは患者の第1の歯を動かすに十分な力ではない。咀嚼時における咬合負荷の下、形状記憶特性は弱い誘導力を提供し、第1の歯を目的の位置に移動させるようにする。
【0023】
動作S05において、硬質殻体を第2の材料層および目標デンタルモデルに対して配し、硬質殻体内に少なくとも1つの弾性部材を形成する。
図7に示されるように、いくつかの実施形態では、硬質殻体Sを第2の材料層42に当てて配した後、第2の材料層42は定着し(settle)、硬質殻体Sに結合できるようになって、硬質殻体Sの対応する第1のキャビティR1内に少なくとも1つの弾性部材Eが形成される。いくつかの別の実施形態では、第2の材料層42を目標デンタルモデル31の少なくとも1つの第1の歯T1上方に形成した後、ブロックアウト層40および結合デンタルモデル32により形作られた硬質殻体Sを第2の材料層42および目標デンタルモデル31に対して配し、次いで第2の材料層42に対して硬化処理を施す。その後、硬化した第2の材料層42は硬質殻体S内に少なくとも1つの弾性部材Eを形成し、それは硬質殻体Sの対応する第1のキャビティR1に取付けられる。特に、弾性部材Eは、目標デンタルモデル31の対応する第1の歯T1に合った受け入れ形状を備える。
【0024】
方法2は、弾性部材Eをその中に有する硬質殻体Sを目標デンタルモデル31から取り除き、歯科器具を得る動作S06で終了する(
図8参照)。上述したように、完成した歯科器具(例えば
図1における歯科器具10または歯科器具20)は、患者の上顎または下顎歯列弓の歯を受けるための硬質殻体Sを含み、歯列矯正が必要な患者の対応する歯(第1の歯)を収容する硬質殻体Sの少なくとも1つの第1のキャビティR1中には弾性部材Eが形成されている。
【0025】
上述した方法2は単なる例示に過ぎず、咀嚼式歯列矯正装置に用いられる歯科器具を作製する方法は、他の動作および/または他の動作の順序を含んでいてよいという点が理解されなければならない。例えば、スカルプティング処理(sculpting process)のような成形処理(shaping process)を動作S03または他の適した動作で実行して、硬質殻体Sの咬合面に咬頭(cusps)形体F1および窩(fossae)形体F2(
図6、8、10および11参照)を形成すると共に、硬質殻体Sの頬側面に犬歯保護(canine protection)形体F3(
図9および11参照)を形成することもでき、これにより咀嚼時において、患者の上顎歯列弓12に装着された歯科器具10と下顎歯列弓22に装着された歯科器具20との間の機能的および安全な咬合が達成され得る。
【0026】
次いで、上記咀嚼式歯列矯正装置1(つまり、歯科器具10および歯科器具20)を装着する歯列矯正メカニズムについて
図9〜
図10を参照にしながら以下の段落において説明する。
図9は、咬合時における
図1中の歯科器具10および歯科器具20を説明する概略図であり、
図10は、
図9中の線X−Xに沿った断面図である。
【0027】
各歯科器具10または20の硬質殻体Sの歯受け面(teeth receiving surface)(咬合面の反対側)は、患者の歯を受け入れるための複数のキャビティを形成するという点が理解されなければならない。これらキャビティは2つのタイプに分けることができ、1つのタイプは、歯列矯正が要される歯(第1の歯T1)を受け入れるように構成された第1のキャビティR1であり、もう1つのタイプは、歯列矯正または移動が不要な他の歯(第2の歯T2)を受け入れるように構成された第2のキャビティR2である。例(
図10参照)のように、歯科器具10の第2のキャビティR2は、上顎歯列弓12の第2の歯T2の形状に合っており、歯科器具20の第1のキャビティR1は、下顎歯列弓22の第1の歯T1をその中で移動させることのできる空間を有する。具体的には、第1のキャビティR1(上述した方法2により形成された)は、位置異常の第1の歯T1を、その最初の歯の配列からその目標の(または最終的な)歯の配列へと移動させることのできる空間を有する。特に、第1のキャビティR1の空間は、初期デンタルモデル30中の第1の歯T1と目標デンタルモデル31中の第1の歯T1(
図6参照)によって画定された結合空間(combined space)(つまり、結合デンタルモデル32中の第1の歯T1)より大きい。いくつかの実施形態によれば、
図6に示されるように、第1のキャビティR1の空間の幅は第1の歯T1の結合空間の幅よりも大きい。
【0028】
加えて、第1のキャビティR1中に形成された弾性部材Eは弾性を有すると共に変形可能であり、位置異常の第1の歯T1を収容する。特に、器具が装着される前、弾性部材E(上述の方法2により形成された)は目標デンタルモデル31の第1の歯T1に合った受け入れ形状を有している(
図7参照)。
【0029】
図9および
図10に示されるように、患者が第1の歯科器具10および第2の歯科器具20を装着して咀嚼すると、咀嚼時において上顎歯列弓12および下顎歯列弓22の咬合によりかかる負荷は、歯科器具10および歯科器具20から歯へと伝達され、さらには各歯の歯根膜および隣接する歯槽骨へと伝達される。
【0030】
具体的には、咀嚼時において、咬合力が第2の歯T2に加わる。咬合負荷は、歯科器具10および歯科器具20から、第2の歯T2に直接に接触している第2のキャビティR2を介して第2の歯T2に伝わり、負荷が広がる。歯科器具10および歯科器具20は、第2のキャビティR2により第2の歯T2を保持すると共にこれと接触して、歯の移動を制限する。
【0031】
一方、第1のキャビティR1は、第1の歯T1をその中で移動させることのできる空間を有する。咬合による負荷の下、咬合力は第2の歯および支持組織を介して伝達され、これにより第1のキャビティR1中で隣接する第1の歯T1を移動させる。また、弾性部材Eは、その目標の(または最終的な)歯の配列(つまり、目標デンタルモデル31の第1の歯T1)に合う受け入れ形状を有しており、これにより咀嚼時において弾性部材Eが、異常位置にある第1の歯T1を、想定した目標または最終位置へと移動するよう導くことになる。より詳細には、異常位置にある第1の歯T1が初めに第1のキャビティR1内に位置しているとき、それにより弾性部材Eは変形して第1の歯T1を収容すると共に、歯冠の表面を覆うようになる。変形した弾性部材Eはその元の形状に戻ろうとして、第1の歯T1に弱い力を加えるが、これは第1の歯T1を移動させるには不十分なものである。咀嚼時にかかる咬合負荷の下、第1の歯T1は移動し始め、かつ弾性部材Eは弱い誘導力を提供して、第1の歯T1を目標位置へ向かうように移動させる。
【0032】
上述した咀嚼式歯列矯正装置1の動作原理は、従来技術において用いられる歯列矯正器(braces)およびクリアアライナーのそれとは明らかに異なるという点に留意すべきである。歯の矯正移動は、機械力が歯に働いて骨のリモデリングを引き起こすプロセスである。歯槽骨における歯の移動は、実際には、 歯根膜(periodontal ligament)の牽引側(tension side)における新たな骨の形成および圧迫側(compression side)における骨吸収である。より少ない細胞死で骨吸収が直接生じることで、歯槽骨を介し歯をより容易に移動させることができるようになるため、軽い力が望ましい。歯根膜中の細胞死が歯の移動を止めてしまい、かつ歯槽窩壁(wall of the alveolar socket)に歯根の表面が長期間接触することにより歯根吸収のリスクが高まるため、重く継続的な力は望ましくない。従来の歯列矯正器では、矯正用ワイヤーが歯に取付けられたブラケットに固定されており、歯に恒常的な力(constant force)を与える。従来技術で用いられるクリアアライナーのケースでは、アライナー本体が撓み、位置異常の歯に弾性力を、同じく恒常的に、1日に20時間以上も与える。これとは対照的に、本発明の実施形態による歯科器具の硬質殻体は、装着され咀嚼しているときに撓まず、変形しない。咀嚼式歯列矯正装置は、咀嚼の過程で生じる間欠的な短時間の(intermittent short-duration)咬合力を、加えられる歯列矯正力として用いており、装置装着の不快感および時間が低減されると同時に、歯の矯正移動が加速される。
【0033】
さらに、実施形態の装置1は、その歯列矯正機能が咬合負荷により活性化された(activated)とき、咀嚼中に用いられるように設計されている。よって、装置1を機能させるには、咀嚼時において機能性咬合(functional occlusion)を達成させる形体(features)が必要とされる。咬合を機能的とさせるには、咀嚼時の顎の運動全てにおいて、外傷を生じることなく、上顎および下顎の歯が有効な方式で接触しなければならない。特に、機能性咬合には、全ての咀嚼運動において顎が快適に動けることが要される。上述した実施形態の場合では、装着された歯科器具の接触によって咬合が起こり、歯科器具の咬合面は機能性咬合を達成させる形体を有していなければならない。
【0034】
図11は、いくつかの実施形態による、
図9における歯科器具10または歯科器具20の咬合面上の咬合形体を示す概略図である。
図11に示されるように、咬頭形体F1および窩形体F2が、歯科器具10または歯科器具20の硬質殻体Sの咬合面に形成されており、かつ好ましい実施形態では、全ての窩形体F2が曲線状に分布される(例えば放物線状(parabola))。加えて、第1の歯科器具10と第2の歯科器具20とが接触すると、一方の歯科器具の咬頭形体F1と他方の歯科器具の窩形体F2とが接触し、逆もまた同様である(
図10参照)。したがって、患者が第1の歯科器具10および第2の歯科器具20を装着して咀嚼するとき、第1の歯科器具10および第2の歯科器具20の咬合点(つまり、咬頭形体F1および窩形体F2)が互いに同時に接触すると共に、互いに同時に離れるのが好ましい。また、咬合は、滑動またはその他ダメージとなる動きが生じることなく最大有効接触面積で起こり、かつ圧力がより均等に分布する。その結果として、矯正の有効性、ならびに患者が第1の歯科器具10および第2の歯科器具20を装着する快適性が高まる。
【0035】
図12は、別の視角からの
図9における第1の歯科器具10および第2の歯科器具20の概略図である。
図12に示されるように、第1の歯科器具10は、その硬質殻体 Sの左右頬側面(buccal surfaces)に形成された複数(例えば2つ)の犬歯保護形体(canine protection features)F3をさらに備える。各犬歯保護形体F3は、その舌側に案内面を形成しており(図示せず)、第2の歯科器具20を案内する。よって、犬歯保護形体F3は、咀嚼時における第1の歯科器具に対する第2の歯科器具20の水平方向の移動範囲を制限する。
【0036】
上述した咀嚼式歯列矯正装置1は2つの歯科器具10および20を含むが、少なくとも1つの位置異常の歯を含む上顎または下顎歯列弓に配される単一の歯科器具を含んでいてもよい。例えば、患者の位置異常の歯が上顎の歯であるとき、患者はその上顎歯列弓に単一の歯科器具を装着することができる。また逆に、患者はその下顎歯列弓に単一の歯科器具を装着することができる。患者が一方の歯列弓に単一の歯科器具を装着すると、歯科器具と対向する歯列弓とが、それらの咬合面における咬頭および窩形体により機能性咬合を達成することができる。
【0037】
本発明のいくつかの実施形態では、上記装置を用いて歯列矯正を実行する方法も提供され、当該方法は、第1の歯科器具および第2の歯科器具を患者に装着させるか、または歯列弓の一方のみに1つの歯科器具を患者に装着させる工程と、患者に15から20分咀嚼させる工程と、を含む。咀嚼は食事のときに行われ得るため、1日に3回生じ、装着時間は合計1時間となる。咀嚼時に生じる咬合負荷は、装置を歯列矯正装置として機能させることのできる駆動力を提供する。
【0038】
本開示の実施形態およびそれらの優れた点を詳細に記載したが、添付の特許請求の範囲により定義された本開示の精神および範囲を逸脱することなく、様々な変化、置換および変更をここに加えることができる、という点を理解すべきである。例えば、本明細書に記載した特徴、機能、プロセス、および材料の多くが、依然本開示の範囲内で変更可能であるということが、当業者には容易に理解されるであろう。また、本出願の範囲は、本明細書に記載したプロセス、機械、製造物、組成物、手段、方法、および工程の特定の実施形態に限定されることが意図されていない。本開示の開示から、当業者は、本明細書に記載された対応する実施形態と実質的に同じ役目を果たすか、または実質的に同じ結果を達成する、現在存在するかまたは後に開発されるプロセス、機械、製造物、組成物、手段、方法、もしくは工程が、本開示にしがたって利用可能であるということを容易に理解するであろう。よって、添付の特許請求の範囲は、かかるプロセス、機械、製造物、組成物、手段、方法、または工程をそれらの範囲内に含むよう意図されている。加えて、各請求項は独立した実施形態を構成し、各種請求項および実施形態の組み合わせは本開示の範囲内に入る。