(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6968382
(24)【登録日】2021年10月29日
(45)【発行日】2021年11月17日
(54)【発明の名称】無収縮グラウト組成物、及び無収縮グラウト材
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20211108BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20211108BHJP
C04B 18/08 20060101ALI20211108BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20211108BHJP
C04B 14/10 20060101ALI20211108BHJP
C04B 28/06 20060101ALI20211108BHJP
C04B 28/08 20060101ALI20211108BHJP
C04B 28/32 20060101ALI20211108BHJP
C04B 28/34 20060101ALI20211108BHJP
C04B 20/00 20060101ALI20211108BHJP
C04B 22/16 20060101ALI20211108BHJP
C04B 14/28 20060101ALI20211108BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20211108BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20211108BHJP
C04B 24/22 20060101ALI20211108BHJP
C04B 24/04 20060101ALI20211108BHJP
C04B 16/06 20060101ALI20211108BHJP
C04B 14/38 20060101ALI20211108BHJP
C04B 14/42 20060101ALI20211108BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B18/14 A
C04B18/08 A
C04B22/06 A
C04B14/10 B
C04B28/06
C04B28/08
C04B28/32
C04B28/34
C04B20/00 B
C04B22/16 Z
C04B14/28
C04B22/06 Z
C04B22/08 Z
C04B22/14 A
C04B22/14 B
C04B24/22 Z
C04B24/04
C04B16/06 A
C04B16/06 B
C04B14/38 A
C04B14/42 Z
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-215027(P2017-215027)
(22)【出願日】2017年11月7日
(65)【公開番号】特開2019-85304(P2019-85304A)
(43)【公開日】2019年6月6日
【審査請求日】2020年8月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】517389665
【氏名又は名称】株式会社SERIC JAPAN
(73)【特許権者】
【識別番号】515326321
【氏名又は名称】株式会社CORE技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【弁理士】
【氏名又は名称】大田 英司
(74)【代理人】
【識別番号】100182888
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100196357
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 吉章
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】安 台浩
(72)【発明者】
【氏名】小椋 紀彦
【審査官】
内藤 康彰
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−136403(JP,A)
【文献】
特開2007−320832(JP,A)
【文献】
特開2013−014453(JP,A)
【文献】
特開2014−001129(JP,A)
【文献】
特開2009−269786(JP,A)
【文献】
特開2014−218419(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C04B 40/00−40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントバインダ、混和結合材、細骨材、膨張材、膨潤材、水溶性無機系ゲル化剤、高性能減水剤、及び繊維補強材で構成され、
該セメントバインダ100質量%に対し、
前記混和結合材は30質量%の比率で配合され、
前記細骨材は15〜55質量%の比率で配合され、
前記膨張材及び前記膨潤材が混合された膨張膨潤混合材は1〜15質量%の比率で配合され、
前記水溶性無機系ゲル化剤は1〜15質量%の比率で配合され、
前記高性能減水剤は0.01〜2.00質量%の比率で配合され、
前記繊維補強材は0.01〜2.00質量%の比率で配合され、
前記混和結合材は、
密度が2.7〜2.9g/cm3、ブレイン値が4,000cm2/g以上であり、10〜80質量%で配合された高炉スラグと、
密度が2.1〜2.3g/cm3、ブレイン値が4,000cm2/g以上であり、10〜80質量%で配合されたフライアッシュとに加え、
密度が2.0〜2.2g/cm3、ブレイン値が100,000cm2/g以上であるシリカフュームと、
密度が2.2〜2.6g/cm3、ブレイン値が13,000cm2/g以上であるメタカオリンで構成された混和材とで構成され、
前記混和結合材を構成する前記混和材は、セメントバインダ100質量%に対して1〜10質量%以上配合されている
無収縮グラウト組成物。
【請求項2】
前記セメントバインダは、
ポルトランドセメント、早強セメント、超早強セメント、低発熱セメント、高流動ビーライトセメント、MDFセメント、DSPセメント、Pyramentセメント、カルシウムアルミネートセメント、石膏、シリケートセメント、石膏セメント、リン酸セメント、高アルミナセメント、超微粒セメント、マグネシウムオキシ塩化セメント、超速硬セメント、アルミナセメント、及びマイクロセメントのうちいずれか1種あるいは2種以上の混合物で構成された
請求項1に記載の無収縮グラウト組成物。
【請求項3】
前記細骨材は、
粒径が1.2〜1.5mmである細骨材構成材と、粒径が0.35〜0.7mmである細骨材構成材を含み、
前記細骨材構成材は、
密度が1.3〜2.7g/cm3であるとともに、
珪石、長石、リン酸カルシウム、炭酸塩、リチウムを含める無機材料または鉱物のうちいずれか1種または2種以上の混合物で構成された
請求項1または2に記載の無収縮グラウト組成物。
【請求項4】
前記珪石は、珪石、及び珪砂のうち少なくともいずれか一方で構成され、
前記長石は、斜長石に属する灰長石、曹長石、灰長石、及び曹長石の連続固溶体を含めた鉱物のうちいずれか1種または2種以上の混合物で構成され、
前記リン酸カルシウムは、第2リン酸カルシウム、第1リン酸カルシウム、及び第3リン酸カルシウムのうちいずれか1種または2種以上の混合物で構成され、
前記炭酸塩は、無機炭酸塩炭酸カルシウム,ドロマイト、マグネサイト、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素マグネシウム、及びリチウムを含めた無機材料のうちいずれか1種または2種以上の混合物で構成され、
前記鉱物は、葉長石、スポジュメンから選択されるリチウムを含有した鉱物のうちいずれか1種または2種以上の混合物で構成された
請求項3に記載の無収縮グラウト組成物。
【請求項5】
前記膨張膨潤混合材を構成する前記膨張材は、CSA系、CaO、及びCaSO4のうちいずれか1種または2種以上の混合物で構成され、
前記膨張膨潤混合材を構成する前記膨潤材は、水溶性膨潤特性を有する無機系鉱物であるアルミノシリケートで構成され、
前記アルミノシリケートは、二酸化珪素が16質量%以上、酸化アルミニウムが8質量%以上、酸化マグネシウム及び酸化鉄が含有されている
請求項1乃至4のうちいずれかに記載の無収縮グラウト組成物。
【請求項6】
前記水溶性無機系ゲル化剤は、
硫酸マグネシウム、酢酸マグネシウム四水和物、硫酸アルミニウム、及び石膏のうちいずれか1種または2種以上の混合物で構成された
請求項1乃至5のうちいずれかに記載の無収縮グラウト組成物。
【請求項7】
前記高性能減水剤は、
ポリカボン酸系やナフタレン系の一般的な減水剤と、
クエン酸、L−酒石酸、マレイン酸、及びAl粉末のうちいずれか1種または2種以上の混合物とで構成された
請求項1乃至6のうちいずれかに記載の無収縮グラウト組成物。
【請求項8】
前記繊維補強材は、
PVA繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、炭素繊維、ガラス繊維のうちいずれか1種または2種以上の混合物で構成された
請求項1乃至7のうちいずれかに記載の無収縮グラウト組成物。
【請求項9】
請求項1乃至8のうちいずれかに記載の無収縮グラウト組成物と、
前記無収縮グラウト組成物の100質量%に対して15〜20質量%で配合された水とで構成された
無収縮グラウト材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、機械基礎、橋梁の支承、橋台、鉄筋基礎、あるいはPC組み立て構造物などの隙間に充填したり、補修したりするために用いられる無収縮グラウト組成物、及び無収縮グラウト材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にグラウト材は、橋梁の支承や機械基礎などの下部コンクリート構造体間の孔隙を完全に充填して上部の構造物と下部の構造物を一体化することにより、上部の荷重を下部に分散伝達させるために用いられるセメント系材料である。
【0003】
しかし、グラウト材は、構造物の特性上、主に大きな負荷を受ける部位に施工されることが多く、高い圧縮強度を持つ製品を中心に開発に使用されてきている。近年では施工性向上を図るため、特許文献1のように、高強度無収縮グラウト用混和材及び高強度無収縮グラウト材において、高価なシリカフュームを用いずに、流動性を確保するとともに初期強度の発現性を高めた高強度グラウト材や、早強セメントを使用したグラウト材等が開発されている。
【0004】
このように、従来のグラウト材は、短期物理特性を考慮して製品開発が行われており、次のような問題が生じるおそれがあった。
具体的には、圧縮強度のような高剛性を中心とした製品が開発されており、限界応力以上では、構造体が急に破壊される原因として、連続荷重や繰返し荷重などの応力による累積疲労によって、ひび割れなどの性能低下が生じるおそれがあった。また、初期の高強度性を維持するために、発熱特性が高い早強セメント材料を、例えば、大型部材に対して大量に使用することにより、水和熱などによるひび割れが発生するおそれがあった。
【0005】
また、グラウト材の流動性を向上するために、様々な化学添加剤を使用することがあるが、経済性を優先して安価で低性能の添加剤を使用すると、品質に悪影響を及ぼすことがある。さらに、低性能の添加剤を使用すると、ブリーディングが発生しやすくなり、長期的な材齢ではセメントの乾燥収縮によってグラウト材組成物が収縮して、断続的な外部荷重によって構造物本体との界面に剥離が生じ、上部構造物の応力を下部コンクリートに伝達させるための一体性を損なうおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−239356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は、上述の問題に鑑み、無収縮性及び高強度性、高流動性を有するとともに構造物に発生するひび割れに対して、自己治癒性能によるひび割れ自己治癒性能を奏する無収縮グラウト組成物、及び無収縮グラウト材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、セメントバインダ、混和結合材、細骨材、膨張材、膨潤材、水溶性無機系ゲル化剤、高性能減水剤、及び繊維補強材で構成され、該セメントバインダ100質量%に対し、前記混和結合材は
30質量%の比率で配合され、前記細骨材は15〜55質量%の比率で配合され、前記膨張材及び前記膨潤材が混合された膨張膨潤混合材は1〜15質量%の比率で配合され、前記水溶性無機系ゲル化剤は1〜15質量%の比率で配合され、前記高性能減水剤は0.01〜2.00質量%の比率で配合され、前記繊維補強材は0.01〜2.00質量%の比率で配合され、前記混和結合材は、密度が2.7〜2.9g/cm
3、ブレイン値が4,000cm
2/g以上であり、10〜80質量%で配合された高炉スラグと、密度が2.1〜2.3g/cm
3、ブレイン値が4,000cm
2/g以上であり、10〜80質量%で配合されたフライアッシュとに加え、密度が2.0〜2.2g/cm
3、ブレイン値が100,000cm
2/g以上であるシリカフュームと、密度が2.2〜2.6g/cm
3、ブレイン値が13,000cm
2/g以上であるメタカオリ
ンで構成された混和材とで構成され、前記混和結合材を構成する前記混和材は、セメントバインダ100質量%に対して1〜10質量%以上配合されている無収縮グラウト組成物であることを特徴とする。
【0009】
この発明により、無収縮性及び高強度性、高流動性を持ち構造物に発生するひび割れに対して、自己治癒性能によるひび割れ自己治癒性能を奏することができる。なお、無収縮グラウト組成物は、無収縮モルタル組成物ともいう。
【0010】
詳述すると、セメントをバインダとし、混和結合材、細骨材、膨張膨潤混合材、水溶性無機系ゲル化剤、高性能減水剤及び繊維補強材で構成されている結合材を使用することによって、無収縮性及び高強度性、高流動性に加えて自己治癒性能を奏することができる。
したがって、機械基礎や橋梁の支承と橋台、鉄筋基礎、PC組み立て構造物などのグラウト充填が要求される部位を充填したり補修したりすることができる。
【0011】
また、耐久性に優れたセメントバインダと、耐酸性と耐薬品性に優れた産業副産物であるフライアッシュ、高炉スラグ、シリカフューム、メタカオリンを混和材として利用し、膨張性及び膨潤性に優れたCSAと水溶性無機系ゲル化剤などの膨張膨潤混合材を混和材として使用することにより、高耐久性と高耐酸性を確保することができ、初期材齢で発生する可能性のある乾燥収縮とひび割れの抑制効果を奏することができる。さらに、産業副産物であるフライアッシュ、高炉スラグ、シリカフューム、メタカオリンを活用することによって、環境にやさしく高付加価値化に貢献することができる。
【0012】
また、混和結合材、細骨材、膨張膨潤混合材、水溶性無機系ゲル化剤、高性能減水剤及び繊維補強材で構成する自己治癒組成物を結合材として使用しており、耐久性に優れ、衛生的で信頼性が高く、無収縮グラウト組成物が硬化した無収縮グラウト硬化体に発生したひび割れを自己治癒して補修や維持管理のコスト削減を図ることができる。
【0013】
また、前記高炉スラグ及びフライアッシュとともに構成した前記混和結合材をセメントバインダ100質量%に対して5〜20質量比で配合するが、高炉スラグと、フライアッシュが5質量%未満であると、十分な上述の効果を得ることができず、20質量%を超えて配合すると、逆に水和反応が十分に得られず硬化作用に不具合を生じるとともに、初期強度及び長期強度が低下する。
【0014】
前記膨張膨潤混合材を構成する前記膨張材は、セメントバインダ100質量%に対して1〜15質量%で配合するが、1質量%未満で配合すると、十分なひび割れ抑制効果を得ることができず、15質量%を超えて配合すると、膨張ひび割れが発生するおそれがある。
【0015】
前記膨張膨潤混合材を構成する前記膨潤材は、水溶性膨潤材料としてセメントバインダ100質量%に対して1〜15質量%が配合するが、1質量%未満で配合すると、十分な膨潤特性効果を得ることができず、15質量%を超えて配合すると、強度及びワーカビリティ、凝結性が低下するおそれがある。
【0016】
前記高性能減水剤は、セメントバインダ100質量%に対して0.01〜2.00質量%で配合しているが、0.01質量%未満を配合する場合、十分な流動性向上効果を得ることができず、2.00質量%を超えて配合すると強度、材料分離性、及び凝結性などが低下するおそれがある。
【0017】
この発明の態様として、前記細骨材は、粒径が1.2〜1.5mmである細骨材構成材と、粒径が0.35〜0.7mmである細骨材構成材
を含み、前記細骨材構成材は、密度が1.3〜2.7g/cm
3であるとともに、珪石、長石、リン酸カルシウム、炭酸塩、リチウムを含める無機材料または鉱物のうちいずれか1種または2種以上の混合物で構成されてもよい。
【0018】
またこの発明の態様として、前記珪石は、珪石、及び珪砂のうち少なくともいずれか一方で構成され、前記長石は、斜長石に属する灰長石(CaAl
2Si
2O
8)、曹長石(NaAlSi
3O
8)、灰長石、及び曹長石の連続固溶体を含めた鉱物のうちいずれか1種または2種以上の混合物で構成され、前記リン酸カルシウムは、第2リン酸カルシウム(CaHPO
4)、第1リン酸カルシウム(Ca(H
2PO
4)
2)、及び第3リン酸カルシウム(Ca
3(PO
4)
2)のうちいずれか1種または2種以上の混合物で構成され、前記炭酸塩は、無機炭酸塩炭酸カルシウム(CaCO
3),ドロマイト(CaCO
3・MgCO
3)、マグネサイト(MgCO
3)、炭酸リチウム(Li
2CO
3)、炭酸水素リチウム(LiHCO
3)、炭酸水素マグネシウム(Mg(HCO
3)
2)、リチウムを含めた無機材料のうちいずれか1種または2種以上の混合物で構成され、前記鉱物は、葉長石(LiAlSi
4O
10)、スポジュメン(LiAlSi
2O
6)
から選択されるリチウムを含有した鉱物のうちいずれか1種または2種以上の混合物で構成されてもよい。
【0019】
またこの発明の態様として、前記膨張膨潤混合材を構成する前記膨張材は、CSA(Calcium Sulfo Aluminate)系、CaO、及びCaSO4のうちいずれか1種または2種以上の混合物で構成され、前記膨張膨潤混合材を構成する前記膨潤材は、水溶性膨潤特性を有する無機系鉱物であるアルミノシリケートで構成され、前記アルミノシリケートは、二酸化珪素(SiO
2)が16質量%以上、酸化アルミニウム(Al
2O
3)が8質量%以上、酸化マグネシウム(MgO)及び酸化鉄(Fe
2O
3)が含有されてもよい。
【0020】
またこの発明の態様として、前記水溶性無機系ゲル化剤は、硫酸マグネシウム(MgSO
4.・nH
2O)、酢酸マグネシウム四水和物((CH
3COO)
2MgO
4H
2O)、硫酸アルミニウム(Al
2(SO
4)
3)、及び石膏(CaSO
4・nH
2O)のうちいずれか1種または2種以上の混合物で構成されてもよい。
【0021】
またこの発明の態様として、前記高性能減水剤は、ポリカボン酸系やナフタレン系の一般的な減水剤と、クエン酸、L−酒石酸、マレイン酸、及びAl粉末のうちいずれか1種または2種以上の混合物とで構成されてもよい。
【0022】
またこの発明の態様として、前記繊維補強材は、PVA繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、炭素繊維、ガラス繊維のうちいずれか1種または2種以上の混合物で構成されてもよい。
【0023】
またこの発明は、上述の無収縮グラウト組成物と、前記無収縮グラウト組成物の100質量%に対して15〜20質量%で配合された水とで構成された無収縮グラウト材であることを特徴とする。なお、無収縮グラウト材は、無収縮モルタル材ともいう。
【発明の効果】
【0024】
この発明により、無収縮性及び高強度性、高流動性を有するとともに構造物に発生するひび割れに対して、自己治癒性能によるひび割れ自己治癒性能を奏する無収縮グラウト組成物、及び無収縮グラウト材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】無収縮グラウト材の高流動性フローの測定状況の写真。
【
図2】無収縮グラウト硬化物の自己治癒効果を確認する写真。
【
図3】無収縮グラウト硬化物のひび割れ自己治癒後の破断面の走査電子顕微鏡による観察写真。
【
図4】親水性繊維補強材がひび割れ部位での結晶生成を促進している写真。
【発明を実施するための形態】
【0026】
この発明の一実施形態を以下図面とともに説明する。
なお、
図1は本無収縮グラウト体の高流動性フローを測定する写真であり、
図2はひび割れ自己治癒機能を有する無収縮グラウト材が硬化した無収縮グラウト硬化物の自己治癒効果を確認した写真であり、
図3は無収縮グラウト硬化物のひび割れ自己治癒後に破断面を走査電子顕微鏡で観察した写真であり、
図4は親水性繊維補強材がひび割れ部位での結晶生成を促進する写真を示している。
【0027】
詳しくは、本発明によるひび割れ自己治癒性能を有する無収縮グラウト組成物について以下で説明する。
本発明の無収縮グラウト材は、後述の無収縮グラウト組成物と、前記無収縮グラウト組成物の100質量%に対して15〜20質量%で配合された水とで構成されている。なお、無収縮グラウト材及び無収縮グラウト組成物は、無収縮モルタル材及び無収縮モルタル組成物ともいう。
【0028】
本発明の無収縮グラウト組成物は、セメントバインダと、該セメントバインダ100質量%に対し、5〜20質量%の比率で配合された混和結合材と、15〜55質量%の比率で配合された細骨材と、1〜15質量%の比率で配合された膨張膨潤混合材と、1〜15質量%の比率で配合された水溶性無機系ゲル化剤と、0.01〜2.00質量%の比率で配合された高性能減水剤と、0.01〜2.00質量%の比率で配合された繊維補強材とで構成されている。
【0029】
また、混和結合材は、潜在水硬性、長期強度発現性と耐久性の向上、硫酸塩抵抗性、アルカリ骨材反応抑制のために、密度が2.7〜2.9g/cm
3、ブレイン値(Blaine value)が4,000cm
2/g以上である高炉スラグ10〜80質量%と、密度が2.1〜2.3g/cm
3、ブレイン値が4,000cm
2/g以上であるフライアッシュ10〜80質量%を配合して構成している。
【0030】
また、前記混和結合材は、前記高炉スラグ及びフライアッシュに加え、密度が2.0〜2.2g/cm
3、ブレイン値が100,000cm
2/g以上であるシリカフュームと混和材とを配合している。混和材は、密度が1.6〜1.9g/cm
3、密度が2.2〜2.6g/cm
3、ブレイン値が13,000cm
2/g以上であるメタカオリン、ブレイン値が3,000cm
2/g以上である水溶性無機系ゲル化剤からなる群のうち1種以上を配合して構成している。この場合、前記高炉スラグ及びフライアッシュとともに前記混和結合材を構成する1種以上の混和材を1〜10質量%で配合している。
【0031】
なお、前記高炉スラグ及びフライアッシュとともに前記混和結合材を構成する1種以上の混和材を1質量%未満で配合した場合は、強度及び耐薬品性、耐久性向上という効果を奏することができず、10質量%より大量に配合すると、ワーカビリティが低下するとともに、凝結性が低下する。
【0032】
このように前記高炉スラグ及びフライアッシュとともに構成した前記混和結合材をセメントバインダ100質量%に対して5〜20質量比で配合するが、高炉スラグと、フライアッシュが5質量%未満であると、十分な上述の効果を得ることができず、20質量%を超えて配合すると、逆に水和反応が十分に得られず硬化作用に不具合を生じるとともに、初期強度及び長期強度が低下する。
【0033】
前記セメントバインダは、ポルトランドセメント、早強セメント、超早強セメント、低発熱セメント、高流動ビーライトセメント、MDFセメント、DSPセメント、Pyramentセメント、カルシウムアルミネートセメント、石膏、シリケートセメント、石膏セメント、リン酸セメント、高アルミナセメント、超微粒セメント、スラグセメント、マグネシウムオキシ塩化セメント、超速硬セメント、アルミナセメント、及びマイクロセメントうちいずれか1種あるいは2種以上の混合物で構成している。
【0034】
前記細骨材は、粒径が1.2〜1.5mmである細骨材構成材と、粒径が0.35〜0.7mmである細骨材構成材との二種類で構成され、前記細骨材構成材は、密度が1.3〜2.7g/cm
3であるとともに、珪石、長石、リン酸カルシウム、炭酸塩、リチウムを含める無機材料または鉱物のうちいずれか1種または2種以上の混合物で構成している。
【0035】
前記珪石は、天然の珪石、及び珪砂のうち少なくともいずれか一方で構成し、前記長石は、斜長石に属する灰長石(CaAl
2Si
2O
8)、曹長石(NaAlSi
3O
8)、灰長石、及び曹長石の連続固溶体を含めた鉱物のうちいずれか1種または2種以上の混合物で構成している。
【0036】
前記リン酸カルシウムは、天然の第2リン酸カルシウム(CaHPO
4)、第1リン酸カルシウム(Ca(H
2PO
4)
2)、及び第3リン酸カルシウム(Ca
3(PO
4)
2)のうちいずれか1種または2種以上の混合物で構成している。
【0037】
前記炭酸塩は、天然の無機炭酸塩炭酸カルシウム(CaCO
3),ドロマイト(CaCO
3・MgCO
3)、マグネサイト(MgCO
3)、炭酸リチウム(Li
2CO
3)、炭酸水素リチウム(LiHCO
3)、炭酸水素マグネシウム(Mg(HCO
3)
2)、リチウムを含めた無機材料のうちいずれか1種または2種以上の混合物で構成している。
前記鉱物は、葉長石(LiAlSi
4O
10)、スポジュメン(LiAlSi
2O
6)などのリチウムを含有した鉱物のうちいずれか1種または2種以上の混合物で構成している。
【0038】
前記膨張膨潤混合材は、膨張材と膨潤材とを混合して構成している。
前記膨張膨潤混合材を構成する前記膨張材は、長期材齢で膨張力を発揮して硬化体の構造を緻密にし、乾燥収縮を最小化しひび割れを抑制するため、CSA(Calcium Sulfo Aluminate)系、CaO、及びCaSO
4のうちいずれか1種または2種以上の混合物で構成している。なお、膨張材は、膨潤材と混合し、前記膨張膨潤混合材として、セメントバインダ100質量%に対して1〜15質量%で配合するが、1質量%未満で配合すると、十分なひび割れ抑制効果を得ることができず、15質量%を超えて配合すると、膨張ひび割れが発生するおそれがある。
【0039】
前記膨張膨潤混合材を構成する前記膨潤材は、水溶性膨潤特性を有する無機系鉱物であるアルミノシリケートで構成され、前記アルミノシリケートは、二酸化珪素(SiO
2)が16質量%以上、酸化アルミニウム(Al
2O
3)が8質量%以上、酸化マグネシウム(MgO)及び酸化鉄(Fe
2O
3)を含有している。なお、膨潤材は、水溶性膨潤材料として、膨張材と混合し、前記膨張膨潤混合材としてセメントバインダ100質量%に対して1〜15質量%が配合するが、1質量%未満で配合すると、十分な膨潤特性効果を得ることができず、15質量%を超えて配合すると、強度及びワーカビリティ、凝結性が低下するおそれがある。
【0040】
前記水溶性無機系ゲル化剤は、硫酸マグネシウム(MgSO
4・nH
2O)、酢酸マグネシウム四水和物((CH
3COO)
2MgO
4H
2O)、硫酸アルミニウム(Al
2(SO
4)
3)、及び石膏(CaSO
4・nH
2O)のうちいずれか1種または2種以上の混合物で構成している。
【0041】
前記水溶性無機系ゲル化剤を構成する前記材料は微細ひび割れ部位に水分が供給される強アルカリ液状環境下で反応して、ひび割れ部位に無機系結晶を生成してひび割れを密閉することができる。水溶性無機系ゲル化剤はセメントバインダ100質量%に対して1〜15質量%を配合している。
【0042】
前記高性能減水剤は、ポリカボン酸系やナフタレン系の一般的な減水剤と、クエン酸、L−酒石酸、マレイン酸、及びAl粉末のうちいずれか1種または2種以上の混合物とで構成している。これらの材料は流動性によって調節されることもあり、セメントバインダ100質量%に対して0.01〜2.00質量%で配合しているが、0.01質量%未満を配合する場合、十分な流動性向上効果を得ることができず、2.00質量%を超えて配合すると強度、材料分離性、及び凝結性などが低下するおそれがある。
【0043】
前記繊維補強材は、グラウト材のひび割れを低減し、ひび割れ部位に生成された結晶が早く安定するように、よく付着する親水性特性を持つPVA繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、炭素繊維、ガラス繊維のうちいずれか1種または2種以上の混合物で構成している。
【0044】
このような配合比率で構成された無収縮グラウト組成物、及び無収縮グラウト材は、無収縮性及び高強度性、高流動性を持ち構造物に発生するひび割れに対して、自己治癒性能によるひび割れ自己治癒性能を奏することができる。
【0045】
詳述すると、セメントをバインダとして混和結合材、細骨材、膨張膨潤混合材、水溶性無機系ゲル化剤、高性能減水剤及び繊維補強材で構成されている100質量%の結合材を使用することによって、無収縮性及び高強度性、高流動性に加えて自己治癒性能を奏することができる。
したがって、機械基礎や橋梁の支承と橋台、鉄筋基礎、PC組み立て構造物などのグラウト充填が要求される部位を充填したり補修したりすることができる。
【0046】
また、耐久性に優れたセメントバインダと、耐酸性と耐薬品性に優れた産業副産物であるフライアッシュとに加え、高炉スラグ、シリカフューム、メタカオリンを混和材として利用して、膨張性及び膨潤性に優れたCSAと水溶性無機系ゲル化剤を混和材として使用することにより、高耐久性と高耐酸性を確保することができ、初期材齢で発生する可能性のある乾燥収縮とひび割れの抑制効果を奏することができる。さらに、産業副産物であるフライアッシュ、高炉スラグ、シリカフューム、メタカオリンを活用することによって、環境にやさしく高付加価値化に貢献することができる。
【0047】
また、自己治癒組成物を結合剤として使用しており、耐久性に優れ、衛生的で信頼性が高く、無収縮グラウト組成物した無収縮グラウト硬化体に発生したひび割れを自己治癒して補修や維持管理のコスト削減をもたらすことができる。
【0048】
続いて、上述のひび割れ自己治癒性能を有する無収縮グラウト組成物、すなわち無収縮グラウト材の性能を確認するために、最適な配合比率を選定して実施した効果確認試験について説明する。
【0049】
具体的には、下記表1に示すように、537.5kg/m
3のセメントバインダ、162kg/m
3の混和結合材、220kg/m
3の細骨材、54kg/m
3の膨張膨潤混合材、21.6kg/m
3の水溶性無機系ゲル化剤、4.9kg/m
3の高性能減水剤、及び0.7kg/m
3の繊維補強材を配合して構成した無収縮グラウト組成物に、180kg/m
3の水を配合して及び無収縮グラウト材を構成した。なお、細骨材としては、珪砂4号を主に用いた。
【0051】
上述の配合比率で配合された無収縮グラウト材(以下において、本無収縮グラウト材という)の性能を評価するために、50×50×50の正方形供試体を製作した。供試体の養生条件は、気乾20±3℃の常温で24時間養生を実施した後に、供試体の無収縮性及び圧縮強度が評価できるまで20±3℃の水中における水中養生を行った。なお、無収縮グラウト材の国土交通省土木工事共通仕様書による品質規格を表2に示す。
【0053】
無収縮グラウト材の国土交通省土木工事共通仕様書による品質規格の流下時間は8±2秒以内であるが、
図1で示すように確認した本無収縮グラウト材における流下時間は9秒であった。このように、本無収縮グラウト材は、適切な粉体と細骨材の配合比率と、フライアッシュとによるボールベアリング効果、並びに添加された高性能減水剤によって優れた流動性を有することが確認された。
【0054】
国土交通省土木工事共通仕様書による品質規格においてフローについての規定はないが、本無収縮グラウト材によるフローは310mmであった。これも適切な粉体と細骨材の配合比率と、フライアッシュとによるボールベアリング効果、並びに添加された高性能減水剤によって優れた流動性を本無収縮グラウト材が有することを確認した。
【0055】
本無収縮グラウト材が硬化した供試体(以下において本供試体という)は、表2に示す材齢別国土交通省土木工事共通仕様書による品質規格で要求する強度(材齢28日で45MPa以上)より優れた強度が出現していることを確認した。具体的には、材齢28日で60MPa以上の高強度を確認することができた。
これは多成分系で構成された混和結合材の使用とポゾラン反応及び潜在的な水硬性反応による長期強度発現が向上されており、低水セメント比によって優れた強度が発現された。
【0056】
また、本供試体の無収縮性は、材齢7日で収縮なしという国土交通省土木工事共通仕様書による品質規格を満足することが確認された。これはCSA系の膨張材と水溶性膨潤性がある無機系鉱物によって、硬化時に発生する乾燥収縮及び収縮ひび割れを防止していることに起因していると考えられる。
【0057】
さらに、
図2(a)に示すように、本供試体の自己治癒性能を確認するために、人為的に0.2mmのひび割れを発生させた後、水に7日間浸水させ、本供試体の表面に生成される無機系結晶相を確認した。
【0058】
そして、
図3に示すように、ひび割れ自己治癒後に本供試体の破断面を走査電子顕微鏡で観察すると、ひび割れ部分の表面に結晶が生成されていることを肉眼でも確認した。
なお、
図4に示すように、本供試体のひび割れ部分において、親水性がある繊維補強材と一緒に無機系ゲルが形成し始めていることも確認した。
【0059】
以上で説明したとおり、本発明によるひび割れ自己治癒性能を有する高性能グラウト組成物によると、無収縮性及び高強度性、高流動性、優れた耐久性能を発揮し、補修及び維持管理のコストを削減する効果があり、産業副産物の積極的な活用をすることによりCO
2の低減効果及び高付加価値化に寄与することできる。
【0060】
本発明は多様に変形することがあり、いくつかの形態をとることができ、前記発明の詳細な説明では、それに伴う特別な実施例のみ記述した。しかし本発明は、詳細な説明に記載されている特殊な形式に限定されるものではないことを理解する必要があり、むしろ添付された特許の請求の範囲によって定義される本発明の精神と範囲内にあるすべての変形物と均等物及び代替物を含むものと理解しなければならない。