特許第6968393号(P6968393)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6968393
(24)【登録日】2021年10月29日
(45)【発行日】2021年11月17日
(54)【発明の名称】水処置装置および水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/38 20060101AFI20211108BHJP
   B01D 59/20 20060101ALI20211108BHJP
   G21F 9/06 20060101ALI20211108BHJP
【FI】
   C02F1/38
   B01D59/20 C
   G21F9/06 591
   G21F9/06 541
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2021-542465(P2021-542465)
(86)(22)【出願日】2021年7月9日
(86)【国際出願番号】JP2021026038
【審査請求日】2021年7月21日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520272385
【氏名又は名称】Miracle Connection TEN合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100215027
【弁理士】
【氏名又は名称】留場 恒光
(72)【発明者】
【氏名】木下 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】神農 京植
(72)【発明者】
【氏名】等々力 美明
【審査官】 目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−279942(JP,A)
【文献】 特許第5913670(JP,B1)
【文献】 特開2017−111047(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2012−0140470(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/38
B01D59/20
G21F9/04−9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を100MPa以上700MPa以下に加圧し、加圧水とする加圧装置と、
前記加圧水を2以上の方向より噴射し、互いに衝突させる加圧水噴射部と、
回転筒を備え、前記衝突した水を遠心分離する遠心分離機と、
を備え、
前記加圧水噴射部の噴射口が前記遠心分離機の回転筒内に配設されることを特徴とする、
水処理装置。
【請求項2】
前記噴射口の径方向の幅が、0.01mm以上1.00mm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の水処理装置。
【請求項3】
水を100MPa以上700MPa以下に加圧し、加圧水とする加圧工程と、
前記加圧水を2以上の方向より噴射し、互いに衝突させる加圧水衝突工程と、
前記衝突させた水を、回転筒を備える遠心分離機により遠心分離処理する遠心分離工程と、
前記遠心分離した水を軽液と重液とに分離して取り出す分取工程と、
を備え、
前記加圧水衝突工程は、前記遠心分離機の前記回転筒内部で行われることを特徴とする、水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処置装置および水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遠心分離法は、遠心力を利用して特定の物質を分離する分離方法である。遠心力を利用することで、自然沈降による分離よりも短時間で沈降・分離を進行させることができる。
遠心分離法は、液体混合物の分離に適しているといった利点がある。例えば、ろ過や抽出による分離が困難な懸濁液などは、遠心分離による分離方法が適している。そして、連続的に処理が可能であること、大量処理が可能であることなどから、遠心分離による分離方法は産業界で広く利用されている。
【0003】
しかしながら、遠心分離法であっても分離困難な混合物も存在する。例えば、同位体の分離である。このような例として、例えば水とトリチウム水の分離などが挙げられる。
【0004】
トリチウム(化学記号T)は三重水素とも呼ばれる放射性物質で、水素の同位体である。原子核が陽子1個からなるものがプロチウム(軽水素)であり、水素の同位体の中で最も多く存在する。これに対し、原子核が陽子1個と中性子1個からなるものをデューテリウム(重水素)、原子核が陽子1個と中性子2個からなるものをトリチウム(三重水素)と呼ぶ。
トリチウムは、宇宙からの放射線により大気が反応することで生成するため、少ないながら自然界にも存在する。また、トリチウムは酸素と結びつくことにより、トリチウム水(HTO)などとして水(H2O)と混在する。
【0005】
そのほか、トリチウムは原子力発電所の原子炉の中でも生成する。セシウム137やストロンチウム90といった放射性物質の除去には、化学的性質を利用した吸着や濾過を用いることが可能である。しかしながら、これらの方法であっても、化学的性質がほぼ同じであるトリチウム水と通常の水との分離は極めて困難である。
【0006】
トリチウムはベータ崩壊により弱いベータ線を放出する。また、トリチウムの半減期は約12年である。トリチウムについては、体内に取り込まれた際の内部被ばくの影響が懸念されている。
このような性質を持つトリチウムを処理するため、適切にかつ効率的に分離・除去できる方法が望まれる。
【0007】
水からトリチウム水のみを選択的に除去する方法について、沸点のわずかな差を利用する方法や、化学反応を利用する方法などが検討されてきたが、大量のトリチウムを除去することは依然困難である。それでも、トリチウムを分離・濃縮する方法についてこれまでにいくつか開示されている。
【0008】
例えば特許文献1には、汚染水蒸気を遠心分離処理して、汚染水蒸気中からトリチウム水を分離する放射能汚染水の処理方法について開示されている。
【0009】
また、特許文献2には、250MPaに加圧した加圧水を噴射部から噴射して衝突させ、水に高い運動エネルギーを付与する手法が開示されている。そして、この高い運動エネルギーにより、局所的に水素結合の切断等が起こっていることが示唆されている。
特許文献3および特許文献4には、円筒状回転筒を備える遠心分離装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2015−080748号公報
【特許文献2】特許第5913670号公報
【特許文献3】特公平05−030507号公報
【特許文献4】特許第5832789号公報
【0011】
しかしながら、通常の遠心分離機では成分同士の分離が困難な場合がある。例えば、分離したい成分同士に強い水素結合が働く場合である。遠心分離による分子同士の解離力よりも、分子間の水素結合が強い場合、分離は困難となる。水は特に分子間の水素結合が強いため、水成分同士の分離は極めて困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
解決しようとする問題点は、例えばトリチウム水と通常の水の分離のように、分離が困難な水系混合物の分離に際し、高いエネルギーを付与させただけでは、水素結合が再形成されるため、分離するには不十分な点である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、加圧処理した水(加圧水)同士を衝突させて高い運動エネルギーを付与した後、遠心分離処理を行うことを最も主要な特徴とする。
【0014】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、以下の手段を採用している。
(1)請求項1の発明は、水を100MPa以上700MPa以下に加圧し、加圧水とする加圧装置と、前記加圧水を2以上の方向より噴射し、互いに衝突させる加圧水噴射部と、回転筒を備え、前記衝突した水を遠心分離する遠心分離機と、を備え、前記加圧水噴射部の噴射口が遠心分離機内に配設されることを特徴とする、水処理装置を提供する。
(2)請求項2の発明は、前記噴射口の径方向の幅が、0.01mm以上1.00mm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の水処理装置を提供する。
この場合、噴射する水の噴出速度が大きくなり、水に付与する衝突エネルギーが増大するため、分離能が向上する。
(3)請求項3の発明は、水を100MPa以上700MPa以下に加圧し、加圧水とする加圧工程と、前記加圧水を2以上の方向より噴射し、互いに衝突させる加圧水衝突工程と、前記衝突させた水を、回転筒を備える遠心分離機により遠心分離処理する遠心分離工程と、前記遠心分離した水を軽液と重液とに分離して取り出す分取工程と、を備え、前記加圧水衝突工程は、前記遠心分離機の前記回転筒内部で行われることを特徴とする、水処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水の処置装置および水の処理方法は、加圧水の噴射口を遠心分離機の回転筒内に配設し、当該回転筒内で加圧水同士を衝突させることにより、高い衝突エネルギーを得た水が直ちに遠心分子処理されるため、水分子間の水素結合の再形成を抑制し、その間に成分を分離し得るという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態に係る水処理装置の概念図である。
図2】本実施形態に係る加圧装置を示した図である。
図3】本実施形態に係る同軸ノズルの断面図である。
図4】本実施形態に係る同軸ノズルを噴射口側から見た図である。
図5】本実施形態に係る同軸ノズルの噴射角度を説明するための模式図である。
図6】本実施形態に係る遠心分離機の断面図である。
図7】本実施形態に係る遠心分離機の使用時の状態を示す図である。
図8】変形例に係る水処理装置の概念図である。
図9】変形例に係る単一軸ノズルの断面図である。
図10】変形例に係るノズルの配置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の各実施形態では、同一又は対応する部分については同一の符号を付して説明を適宜省略する場合がある。また、以下に用いる図面は本実施形態を説明するために用いるものであり、実際の寸法とは異なる場合がある。
【0018】
以下、水処置装置1の上下方向(鉛直方向)をZ軸方向とし、上側をZ軸正方向とする。上下方向に直交する2方向をそれぞれX軸方向及びY軸方向として説明する。上下方向に直交する方向、すなわちX−Y平面に沿う方向を水平方向と、X−Y平面を水平面と表記することがある。
【0019】
また、円筒形状を備えるものについては、その中心軸に沿う方向を軸方向と表記する。また、中心軸と垂直に交わる平面において、中心軸から離間する方向を径方向と、円筒外周に沿う方向を周方向と表記する。
【0020】
回転するものについても、回転軸に沿う方向を軸方向と表記する。また、回転軸に垂直に交わる平面において、回転軸から離間する方向を径方向と表記し、回転に沿う方向を周方向と表記する。
【0021】
なお、水圧を示す単位としてMPa(メガパスカル)を用いる。大気圧を1気圧とし、1気圧=0.1MPaとする。
【0022】
(実施形態の概要)
本実施形態の概要について、図1を用いて説明する。水処理装置1は、取り込んだ水を加圧装置10で250MPaに加圧する。この加圧した水を、加圧水噴射部20を通じて噴射して衝突させることにより、水に高いエネルギーを付与する。加圧水噴射部20は遠心分離機30内に配設されており、高エネルギーにより水素結合の影響が小さくなった水を、遠心分離機30内でただちに遠心分離処理することができるため、軽液成分と重液成分を効率よく分離することができる。
【0023】
(実施形態の詳細)
以下、本実施形態に係る水処置装置1について、詳細を説明する。
【0024】
(第一の実施形態)
<水処置装置1>
図1に示すように、本実施形態における水処置装置1は、加圧装置10、加圧水噴射部20、および遠心分離機30を備える。
【0025】
<加圧装置10>
加圧装置10は取り込んだ水を加圧する装置である。加圧装置10は例えば、圧縮作用により水を加圧する。本実施形態において、加圧装置10はピストン12、シリンダチューブ14、弁16を備える。
取り込まれた水は加圧装置10により100MPa以上700MPa以下の圧力に加圧される。ここで、加圧された水を以下「加圧水」と称する。
【0026】
加圧装置が水に付与する圧力は高いほうが好ましい。後述する加圧水の噴射衝突により、水に高い運動エネルギーを付与できるためである。本実施形態において、加圧装置10が水に付与する圧力は少なくとも100MPa以上である。当該圧力が100MPaより低いと、水に十分な運動エネルギーを付与することができず、分子間の水素結合を切断するのに不十分である。
【0027】
図2は加圧装置10の模式図である。図中の矢印は水の流れる方向を示す。また、中抜きの矢印はピストン12の往復運動の方向を示し、点線矢印は弁16の開く方向を示す。
ピストン12の左方向への移動により、第一の弁162が開き、水が取り込まれる。このとき第二の弁164は閉じている。続いて、ピストン12の右方向への移動により第一の弁162が閉じるとともに水が加圧され、加圧された水は第二の弁164より送り出される。送り出された水は配管26を通じて加圧水噴射部20に至る。
【0028】
なお、加圧装置10として、市販の高圧ポンプを適宜用いることができる。このような高圧ポンプとして例えば、株式会社フロージャパン製の高圧ポンプ「HyperPressure」(登録商標)(648MPa)や、株式会社スギノマシン製の超高圧水発生ポンプユニット「ウォータージェットポンプ」(600MPa)などを用いることができる。
【0029】
<加圧水噴射部20>
加圧水噴射部20は加圧装置10により加圧された水(加圧水)を噴射する。本実施形態において、加圧水噴射部20はノズルを備える。また、加圧水噴射部20は、配管26を通じて加圧装置10と接続する。即ち、加圧装置10によって加圧された水は、配管26を通じて加圧水噴射部20に送液される。
また本実施形態において、加圧水噴射部20の噴射口228は遠心分離機30の内部に配設される。
【0030】
加圧水噴射部20は、加圧水を2以上の方向より噴射し、互いに衝突させる。加圧水同士を衝突させることにより、水に高い運動エネルギーを付与することができる。衝突により得られた高い運動エネルギーにより、分子間に生じる水素結合の影響を弱くすることができる。
【0031】
加圧水を2以上の方向より噴射し、互いに衝突させる方法として、内部が分岐した1つのノズルから2以上の方向に加圧水を噴射して衝突させても良いし(以下「第一の衝突態様」とする。)、異なる方向を向いた2以上のノズルから交差するように加圧水を噴射して衝突させても良い(以下「第二の衝突態様」とする。)。
第一の衝突態様について以下説明する。第二の衝突態様については後述の変形例で説明する。
【0032】
本実施形態において、加圧水噴射部20は同軸ノズル22を備える。以下同軸ノズル22の構造について説明する。
【0033】
図3は、同軸ノズル22の中心軸を含む面における断面図である。図中の矢印は水の流れる方向を示す。同軸ノズル22は中空のノズルボディ222と、流路制御部224を備える。略円筒形状のノズルボディ222に流路制御部224が内包される。
円形の孔である末端側開口部226から流入した水は、ノズルボディ222と流路制御部224との間の空隙を通過して噴射口228から噴射される。
なお図中において、配管との接続部分は省略している。
【0034】
便宜上、ノズルボディ222と流路制御部224との間の空隙による水の流路を「同軸ノズル内流路」とも称する。また、同軸ノズル内流路の噴射口228側の空隙部分を噴射口側空隙2282とする(以下省略して「空隙2282」とする。)。
【0035】
図4は同軸ノズル22を噴射口228側から見た図である。図4に示すように、空隙2282の形状はリング状である。
【0036】
ここで、ノズルボディ222と流路制御部224との間の空隙の径方向の幅を単に「径方向の幅」とする。なお「径方向の幅」は、空隙2282が形成する上記リング(図4)の直径を示すものではない。
本実施形態において、空隙2282の径方向の幅は0.10mmである。空隙2282の径方向の幅は0.01mm以上1.00mm以下が好ましく、0.03mm以上0.30mm以下がより好ましく、0.05mm以上0.15mm以下が特に好ましい。
空隙2282の径方向の幅が上記範囲以下であることで、噴射口228から噴射される水の噴射速度が大きくなる。また、空隙2282の幅が上記範囲以上であることで噴射に必要な量の水が確保される。
【0037】
上述したように、加圧水噴射部20は、加圧水を2以上の方向より噴射し、互いに衝突させる。
図3を例に説明すると、同軸ノズル22の末端側開口部226から流入した水は、一度同軸ノズル22内で分岐し、噴射口228から噴射される。噴射口は1つであるが、ノズル内流路は分岐しているため、図3のような同一平面(X−Z平面)を考えると、鉛直方向からの傾きが異なる2つの空隙2282を有することなる。即ち、異なる2つの空隙2282から異なる角度で噴出する水は互いに交差し、噴射口228の先の一点で衝突する。
【0038】
図5は同軸ノズル22の噴射角度を説明するための模式図である。図3同様、同軸ノズル22の中心軸を含む面における断面図である。図中の矢印は水の流れる方向を示す。
また、鉛直方向(図中上下方向の点線)を基準として、噴射方向の傾きを示す角度を噴射角度αとする。
【0039】
図5に示すように、異なる2つの空隙2282から異なる噴射角度(α、−α)で噴出する水は互いに交差し、噴射口228の先の一点で衝突する。
なお以下において、αと−αのように、異なる角度であることを強調する場合を除き、噴射角度αは絶対値を表すものとする。
【0040】
本実施形態において、噴射角度αは45度である。噴射角度αは15度以上75度以下であることが好ましく、30度以上60度以下であることがより好ましく、30度以上45度以下が最も好ましい。
噴射角度αを上記範囲内に設定することで、噴射口228から噴射する水同士が噴射口228近傍において高速度で衝突する。この衝突により、水に極めて高い運動エネルギーが付与される。
【0041】
なお、図5において、噴射する水同士がなす角度(図5の矢印と矢印が成す角度)を衝突角度βと定義する。衝突角度βは30度以上150度以下が好ましく、60度以上120度以下がより好ましく、60度以上90度以下が最も好ましい。
衝突角度βが上記範囲内にあることにより、噴射口228から噴射する水同士が噴射口228近傍で衝突する。この衝突することにより、水に極めて高い運動エネルギーが付与される。
【0042】
なお図5において、双方の噴射口における噴射角度の絶対値がαであるため、β=2αである。常に双方の噴射角度の絶対値がαとなり、β=2αとなる必要はないが、装置の軸対称性が維持できるようなノズルの配設態様がより好ましい。
【0043】
<遠心分離機30>
遠心分離機30は、取り込んだ水に対して遠心分離処理を行う装置である。特に、本実施形態の遠心分離機30は内部に加圧水噴射部20の噴射口228を備えており、加圧水噴射部20から噴射され、相互に衝突した水を直ちに遠心分離処理することができる。そして、遠心分離処理がなされた液体は分取される。以下、遠心分離機30の一例を示す。
【0044】
図6は遠心分離機30の中心軸を含む面の断面図である。本実施形態において、遠心分離機30は、ケーシング32、回転筒34、回転軸36、および捕集カバー38を備える。
なお、遠心分離機30は回転軸36の軸方向を中心軸とする略軸対称の構造を有するため、図中の紙面左側か右側のいずれかに符号を付して説明する。
【0045】
ケーシング32は回転筒34を内包し、保護するための略円筒状の金属製ケースである。
回転筒34は中空の円筒状金属容器である。回転筒34は軸の周方向に沿って高速回転する。回転筒34内に処理対象の水が取り込まれ、遠心分離処理が行われる。
【0046】
回転軸36はモータ(不図示)の回転駆動力に従って軸周りに回転する棒状の部材である。回転軸36の回転に従って回転筒34が回転する。
なお、回転軸36は回転筒34の取り外し等のため結合部を有するが、この結合部についての図示は省略する。
【0047】
遠心分離機30は底部に水の取り込み口を備える。水は配管26を通じて取り込まれる。図6に示すように、本実施形態の遠心分離機30は底部に同軸ノズル22を備える。
なお、遠心分離機30の回転筒34は軸周りに回転するが、同軸ノズル22は回転しなくてもよい。このような構成は例えば液体に対して密閉性のあるベアリング(不図示)を用いることで可能となる。
【0048】
本実施形態において、遠心分離機30は、加圧水噴射部20から噴射し、衝突させた水に対して遠心分離処理を行う。図6に示すように、加圧水噴射部20の噴射口228は、遠心分離機30の内部、特に回転筒34の内部に配設されるため、衝突した水は直ちに遠心分離処理される。
水に高エネルギーが加えられた状態で直ちに遠心分離処理することで、水素結合の再形成による影響を抑制することができるため、従来の装置や方法で分離が困難であった液体成分同士を分離することができる。
【0049】
捕集カバー38は遠心分離により分離した液体を捕集する傘状の部材である。本実施形態において、捕集カバー38は第一の捕集カバー382と第二の捕集カバー384を備える。
【0050】
第一の捕集カバー382は第二の捕集カバー384の外側に配設され、主に軽液を捕集する。これに対し、第二の捕集カバー384は主に重液を捕集する。
第一の捕集カバー382に捕集された軽液は、第一の捕集カバー382外周部に配設される軽液取出口3822より取り出すことができる。同様に、第二の捕集カバー384に捕集された重液は、第二の捕集カバー384外周部に配設される重液取出口3842より取り出すことができる。
【0051】
ディスク386は回転筒34の内側上部に配設されるドーナツ形状の部材である。ディスク386はダムディスクとも呼ばれ、重液と軽液の分離を容易にする。
【0052】
図7は本実施形態に係る遠心分離機の使用時の状態を示す図である。直線の矢印は水の流れる方向を示し、円弧状の矢印は回転体の回転方向を示す。また、回転筒34内の点線は、重液と軽液のおおよその境界を示したものである。
【0053】
同軸ノズル22の噴射口228近傍で衝突した水は、回転筒34内で遠心処理され、重液と軽液に分かれる。
ここで、重液は混合物の中で相対的に比重の大きい液であり、軽液とは混合物の中で相対的に比重の小さい液を指す。例えば、通常の水が軽液であるとすると、相対的に比重の大きいトリチウム水は重液となる。重液と軽液は2種に限られるものではなく、比重の異なる成分が複数含まれる場合、その成分に応じて分けられる。
【0054】
回転筒34内において、径方向外側(図7の点線の外側)には重液が、径方向内側(図7の点線の内側(中心軸側))には軽液が流れる。これらの液体は下側から上側に流れていき、回転筒34上部から流出する。
【0055】
ここで、回転筒34の内側上部に配設されるディスク386により、回転筒34外径側の細い流路からは重液が流出し、回転筒34内径側の細い流路からは軽液が流出する。
即ち、図7に示すように、ディスク386の下面は重液と軽液の境界に直交するため、重液と軽液とを容易に分離する。
【0056】
なお、遠心分離により重液と軽液を分離するものであれば、遠心分離機30は市販のものを適宜用いることができる。このような遠心分離機として例えば、巴工業株式会社製の円筒型遠心分離機「ASMシリーズ」などを用いることができる。
【0057】
以上のような構成により、本実施形態の水処理装置1は遠心分離機の分離能を向上させることができる。
即ち、加圧水噴射部20の噴射口228を遠心分離機30の回転筒34内に配設することにより、加圧水の衝突で高い運動エネルギーが付与された水が直ちに遠心処理されるため、水とトリチウム水のような、通常分離が困難な成分を分離することができる。
【0058】
続いて、本実施形態の水処理方法について説明する。本実施形態の水処理方法は、加圧工程、加圧水衝突工程、遠心分離工程、および分取工程を備える。
加圧工程は加圧装置10により行われる。加圧水衝突工程は遠心分離機30内部の加圧水噴射部20により行われる。遠心分離工程および分取工程は遠心分離機30により行われる。
【0059】
<加圧工程>
加圧工程は、取り込んだ水を加圧装置10によって加圧する工程である。加圧装置10については上述した通りである。本実施形態において、加圧装置10は水を250MPaに加圧する。加圧工程により加圧水が得られ、当該加圧水は配管26により次の工程に送液される。
【0060】
<加圧水衝突工程>
加圧水衝突工程は、加圧水噴射部20の噴射口228から加圧水を噴出させ、衝突させる工程である。特に、加圧水衝突工程では加圧水を2以上の方向より噴射し、互いに衝突させる。
【0061】
加圧水を2以上の方向より噴射し、互いに衝突させる方法として、例えば上述した第一の衝突態様や第二の衝突態様がある。いずれにしても、加圧水噴射部の噴射口の先の一点で、角度をもって高圧水同士が交差し、衝突する。
なお本工程において、噴射口228から噴射する加圧水の噴射速度は毎秒200m以上800m以下である。このような高速度の水同士が互いに衝突することにより、水に高い運動エネルギーが付与される。
【0062】
加圧水衝突工程は遠心分離機30の内部で行われる。これは、水に高エネルギーが加えられた状態で直ちに遠心分離処理することで、水素結合の再形成による影響を抑制するためである。よって、加圧水衝突工程は遠心分離機30の回転筒34内部で行われることがより好ましい。
【0063】
<遠心分離工程>
遠心分離工程は、上記加圧水衝突工程で衝突させた水を、遠心分離機30により遠心分離処理する工程である。上述したように、本実施形態では遠心分離機30内に噴射口228を備えるため、衝突した水が直ちにかつ連続的に遠心分離処理される。
遠心分離の態様は図7で説明した通りである。遠心分離機30の底部から取り込まれた水は遠心分離処理されながら装置上部に向かい、分取工程に至る。
【0064】
重力に従う自然沈降を1Gとした場合、遠心分離により径方向外側方向に係る遠心力は、数千から30,000G程度である。ただし、説明の趣旨に反しない限りにおいて、遠心力の上限をこれに限るものではない。例えば、超遠心機と呼ばれる、遠心力が数十万G以上に至る遠心分離機を用いても良い。
本工程により、水とトリチウム水のような混合物を、軽液と重液とに分離することができる。
【0065】
<分取工程>
分取工程は、遠心分離機30の回転筒34内で分離した重液と軽液を分取する工程である。分取工程は遠心分離機30内で行われる。即ち、重液と軽液はディスク38により分画され、第一の捕集カバー382で捕集された軽液は軽液取出口3822から、第二の捕集カバー384に捕集された重液は重液取出口3842より取り出すことができる。
【0066】
上記のような構成により、高圧水同士が衝突することで水に高い運動エネルギーを付与されるため、水分子間の水素結合の影響を超えて各水分子が自由に運動する。その状態で遠心分離処理が行われるため、例えばトリチウム水と通常の水のような混合物であっても重液および軽液として分離することができる。
【0067】
(第二の実施形態)
第二の実施形態は、水処理装置1で処理した水を循環させ繰り返し処理するものである。
図8は第二の実施形態のフローを示したものである。加圧装置10、加圧水噴射部20、および遠心分離機30は第一の実施形態と同じである。一方、第二の実施形態では、遠心分離機30により遠心分離処理された水のうち、軽液は回収され、再び加圧装置10に送液される。
【0068】
軽液を繰り返し処理することにより、軽液成分の純度を高めることができる。例えば水とトリチウム水の場合、トリチウム水が除去されて通常の水を高い純度で得ることができる。
繰り返し処理された水は、例えば遠心分離機30と加圧装置10との間に設けられた回収口(不図示)から取り出すことができる。当該回収口として例えば、分岐した配管にコックが設けたものが挙げられる。
【0069】
なおここで、軽液ではなく重液を繰り返し処理しても良い。この場合、高い純度の重液を得ることができる。水とトリチウム水を例に挙げると、高濃度のトリチウム水を回収し、別個の処理を行うことができる。
【0070】
さらに、図8に示すように、第二の実施形態ではさらに冷却装置40による冷却工程を追加しても良い。冷却装置40は水を冷却する装置であり、冷却工程は、回収された水のうち再処理する水を冷却する工程である。
加圧水衝突工程を経た水は高温になるため、装置の維持管理上一度冷却することが好ましい。
【0071】
(変形例)
本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述の実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
【0072】
例えば、上述の実施形態では円筒(シャープレス)型の遠心分離機の例を挙げたが、これに限られるものではない。傘状に積層する複数のディスクを備える分離板型(ディスク型)の遠心分離機や、スクリューコンベアを備えるデカンタ型の遠心分離機を用いても良い。
【0073】
上記の実施形態において、加圧水噴射部20として同軸ノズル22を用いていたが、同軸ノズルに替えて、ノズルの軸方向に沿って液体を噴射する単一軸ノズル24を2本以上用いても良い(第二の衝突態様)。
【0074】
図9は、単一軸ノズル24の中心軸を含む面における断面図である。ノズルの中心軸に沿って空隙を有し、ノズルの軸方向に液体を噴射する。図中の矢印は水の流れる方向を示す。図9において、末端側開口部246は隙間なく配管26と接続しているが、図示は省略している。
【0075】
本変形例において、単一軸ノズル24の噴射口248の径方向の幅(以下「噴射口248の直径」とする。)は0.10mmである。噴射口248の直径は0.01mm以上1.00mm以下が好ましく、0.03mm以上0.30mm以下がより好ましく、0.05mm以上0.15mm以下が特に好ましい。
噴射口248の直径が上記範囲以下であることで、噴射口228から噴射される水の噴射速度が大きくなる。また、噴射口248の直径が上記範囲以上であることで必要量の水の噴射が確保される。
【0076】
図9に示す単一軸ノズル24を用いる態様は、噴射口248の直径が調整しやすく、容易に水の噴射速度が上げることができる。つまり、より高いエネルギーを水に付与することが容易であるため、好ましい。
【0077】
図10は、このような単一軸ノズル24を2本用いた場合におけるノズルの配置を示した図である。分岐した配管26の先に単一軸ノズル24を配設する。噴出ノズル24の噴射口248は上述の実施形態同様、遠心分離機内に配設される。図中の矢印は水の噴出する方向を示す。
2つの単一軸ノズル24から噴出した水同士が衝突し、水に高い運動エネルギーを付与する。噴射口248が適切な角度になる配置は、上記噴射角度αや衝突角度βについて説明した場合と同様である。
【0078】
単一軸ノズル24から噴出した水が、各々の噴射口248より先方の一点で角度(β)を有して交差可能になるよう噴射方向が定められており、それぞれの単一軸ノズル24から噴射される加圧水同士が互いに衝突する。
【0079】
なお図10において、それぞれの噴射口248の噴射角度の絶対値がαであるため、β=2αである。それぞれの噴射角度の絶対値が常に同じ角度αとなり、β=2αとなる必要はないが、装置の軸対称性が維持できる態様がより好ましい。
【0080】
上記で挙げた装置の他、不純物等を除去するため、ろ過装置やフィルタを組み合わせても良い。例えば水を取り込む前に固形の不純物を除去することで、装置の故障等を防ぐことができる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
遠心分離機の大型化により、大量の水を連続的に処理することができ、例えば大量のトリチウム含有水を処理することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 水処置装置
10 加圧装置
12 ピストン
14 シリンダチューブ
16 弁
162 第一の弁
164 第二の弁
20 加圧水噴射部
22 同軸ノズル
222 ノズルボディ
224 流路制御部
226 末端側開口部
228 噴射口
2282 噴射口側空隙
24 単一軸ノズル
242 ノズルボディ
246 末端側開口部
248 噴射口
26 配管
30 遠心分離機
32 ケーシング
34 回転筒
36 回転軸
38 捕集カバー
382 第一の捕集カバー
3822 軽液取出口
384 第二の捕集カバー
3842 重液取出口
386 ディスク
40 冷却装置
α 噴射角度
β 衝突角度
【要約】
例えばトリチウム水と通常の水など、分離が困難な水成分同士の分離能向上を可能とする水処理装置および水処理方法に関する。
水処理装置1は、取り込んだ水を加圧装置10で250MPaに加圧する。この加圧した水を、加圧水噴射部20を通じて噴射して衝突させることにより、水に高いエネルギーを付与する。加圧水噴射部20は遠心分離機30内に配設されていることから、高エネルギーにより水素結合の影響が小さくなった水を、遠心分離機30内でただちに遠心分離処理することができ、軽液成分と重液成分を効率よく分離することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10