【文献】
J. Neurovirol. (2015), Vol.21, p.310-321
【文献】
MOJ immunol. (2014), Vol.1, No.4, 00022(p.1-5)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、部分的に、組み込まれているヒト免疫不全ウイルス(HIV)ゲノムが、1つのまたは複数の構成においてRNAにガイドされたClustered Regularly Interspace Short Palindromic Repeat(CRISPR)-Cas9ヌクレアーゼシステム(Cas9/gRNA)を用いることによって、HIV感染細胞から除去され得るという発見に基づいている。
【0017】
(定義)
他に定義しない限り、本書において使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者が通常理解するものと同じ意味を有する。本発明を試験するための実施において、本書に記載のものと類似または同等の任意の方法および材料を使用することができる。しかし、本書に記載の材料および方法を使用することが好ましい。本発明を説明および請求するにあたり、下記の用語を使用する。本書において使用される用語は、特定の実施形態を説明するという目的でのみ使用され、限定する意図はないということも理解されたい。
【0018】
本書に記載の全ての遺伝子、遺伝子の名称、および遺伝子産物は、本書に開示されている組成物および方法が適用可能な任意の種に由来する相同体に対応することが、意図される。特定の種に由来する遺伝子または遺伝子産物が開示される場合、本開示はただの例示を意図しているに過ぎず、文脈から明示されていると取れる場合を除き、限定と解釈されるべきではないことを理解されたい。それゆえ、例えば、本書に開示されている遺伝子または遺伝子産物に関しては、他の種に由来する、相同および/またはオーソロガスな遺伝子および遺伝子産物を包含することを意図している。
【0019】
本書において使用されるとき、冠詞「a」および「an」は、当該冠詞の文法的目的語が1つまたは1つ以上(すなわち、少なくとも1つ)であることを指す。例として、「an element(要素)」は1つの要素または1つより多い要素を意味する。それゆえ、「acell(細胞)」という記載は、例えば、同じ種類の複数の細胞を含む。また、用語「含んでいる(including)」、「含む(includes)」、「有している(having)」、「有する(has)」、「共に(with)」、またはそれらの異形が、詳細な説明および/または請求項において使用される範囲において、そのような用語は、「備えている(comprising)」という用語と同様に、包括的であることを意図している。
【0020】
本書において使用されるとき、用語「備えている(comprising)」「備える(comprise)」または「備えられた(comprised)」およびそれらの変形は、関連する事項、組成物、装置、方法、プロセス、システム、などの定義または記載された要素が、包括的またはオープンエンドであることを意味する。これらには追加の要素も認められるので、定義されたまたは記載された事項、組成物、装置、方法、プロセス、システム、などは、それら特定された要素(または、適宜、その同等物)を含み、他の要素が含まれてもよいことを示す。また、他の要素が含まれても、依然として、定義された事項、組成物、装置、方法、プロセス、システム、などの範囲/定義にも該当することを示す。
【0021】
本書において、測定可能な値(量や時間の長さなど)を参照して使用される「約」は、特定の値からの±20%、±10%、±5%、±1%、または±0.1%の変動を包含することを意味する。これにより、変動値が、本開示の方法を実施するために適当であることを意味する。あるいは、特に生物学的システムまたはプロセスに関して、当該用語は、5倍以内のオーダー、および2倍以内のオーダーの値も意味し得る。本願および請求項において特定の値が記載されている場合、特に断りのない限り、用語「約」は、特定の値にとって許容できる誤差の範囲以内であることを意味するものとする。
【0022】
「コードしている」とは、ポリヌクレオチド(遺伝子、cDNA、またはmRNAなど)におけるヌクレオチドの特定の配列の固有の性質を指す。上記性質とは、(i)ヌクレオチドの定義された配列(すなわち、rRNA、tRNA、およびmRNA)またはアミノ酸の定義された配列のいずれかを有する生物学的プロセスにおいて、他のポリマーおよび高分子の合成用テンプレートとして機能すること、ならびに、(ii)これに起因する生物学的性質、である。それゆえ、遺伝子に対応するmRNAの転写および翻訳が、細胞または他の生物学的システム中でタンパク質を産生する場合には、当該遺伝子はタンパク質をコードしていると言える。コーディング鎖(自身のヌクレオチド配列がmRNA配列と同一であり、通例配列表に記載されている)、および非コーディング鎖(遺伝子またはcDNAの転写用テンプレートとして用いられる)の両方が、その遺伝子またはcDNAの、タンパク質または他の産物をコードしている、と言うことができる。
【0023】
化合物の「有効量」または「治療的有効量」は、当該化合物が投与される対象に有益な効果をもたらすのに十分な化合物の量のことである。送達ビヒクルの「有効量」は、化合物を効果的に結合または送達するのに十分な量のことである。
【0024】
本書において使用されるとき、ウイルス(例えばHIV)の用語「排除」は、当該ウイルスが複製できないこと、ウイルスが任意の他の細胞または対象に移動可能であるかまたは感染することから妨げることによってインビボで当該ウイルスが除去されるゲノムの消失、断片化、分解、遺伝的に不活性化、または任意の他の物理学的、生物学的、化学的または構造学的な顕示を意味する。いくつかの場合において、ウイルスゲノムの断片は検出可能であり得るが、ウイルスは複製または感染等ができない。
【0025】
「発現ベクター」とは、発現すべきヌクレオチド配列と操作的に結合している発現調節配列を有する組み換えポリヌクレオチドを含んでいるベクターを指す。発現ベクターは、発現のための十分なシス作用要素を含んでいる。発現のための他の要素は、宿主細胞によって供給されてもよいし、または、インビトロ発現システム中に存在してもよい。発現ベクターは当該技術分野で知られているあらゆるものを含んでいる。その例としては、組み換えポリヌクレオチドが組み込まれた、コスミド、プラスミド(例えば、そのままの、またはリポソームに格納された)、およびウイルス(例えば、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルス)などが挙げられる。
【0026】
「相同な」とは、2つのポリペプチドの間における、または2つの核酸分子の間における、配列類似性または配列同一性を指す。2つの比較された配列の両方における位置が同一の塩基またはアミノ酸モノマーサブユニットによって占有されているとき(例えば、2つのDNA分子のそれぞれがアデニンによって占有されている場合)、当該分子は当該位置において相同である。2つの配列間の相同性のパーセントは、2つの配列によって共有されている一致する位置または相同な位置の個数を、比較された位置の個数で割って、×100した関数である。例えば、2つの配列における10個中6個の位置が一致するまたは相同である場合、2つの配列は60%相同である。例として、DNA配列ATTGCCおよびTATGGCは、50%の相同性を有する。概して、比較は、2つの配列が最大の相同性を与えるようにアラインメントされて行われる。
【0027】
「単離された」とは、天然状態から変化したか、または取り去られたことを意味する。例えば、動物の生体中に天然に存在する核酸またはペプチドは「単離されて」いないが、その天然状態の共在物質から部分的または完全に分離された同一の核酸またはペプチドは、「単離されて」いる。単離された核酸またはタンパク質は、実質的に精製された形態で存在してもよいし、または、天然状態でない環境(例えば宿主細胞など)中に存在してもよい。
【0028】
本発明の文脈において、通常の核酸塩基について、以下の略語が使用される:「A」はアデノシンを指し、「C」はシトシンを指し、「G」はグアノシンを指し、「T」はチミジンを指し、「U」はウリジンを指す。
【0029】
特に指定のない限り、「アミノ酸配列をコードしているヌクレオチド配列」は、互いに縮重したバージョンの関係にあり、同一のアミノ酸配列をコードしている、全てのヌクレオチド配列を含んでいる。また、「タンパク質またはRNAをコードしているヌクレオチド配列」という語は、上記タンパク質をコードしているヌクレオチド配列のいくつかのバージョンがイントロンを含み得る程度に、イントロンを含んでもよい。
【0030】
「患者」、「対象」、「個体」などの用語は、本書中において互換可能に用いられ、本書に記載の方法を適用可能な任意の動物またはその細胞(インビトロまたはインサイチュ)を指す。非限定的なある実施形態において、患者、対象または個体はヒトである。
【0031】
組成物の「非経口的」投与は、例えば、皮下(s.c.)、静脈内(i.v.)、筋肉内(i.m.)、または胸骨内への、注射または注入技術を含んでいる。
【0032】
本書において使用されるとき、用語「ポリヌクレオチド」、「核酸配列」および「遺伝子」は、本明細書を通して互換可能に使用され、相補的DNA(cDNA)、天然および/または改変されたモノマーまたはリンケージ(デオキシリボヌクレオシド、リボヌクレオシド、その置換形態およびαアノマー形態、ペプチド核酸(PNA)、ロック核酸(LNA)、ホスホロチオエート、およびメチルホスホナートなどを含んでいる)の、直鎖状または環状のオリゴマーまたはポリマーが含まれる。本書において使用されるとき、用語「ポリヌクレオチド」は、ヌクレオチドの鎖と定義される。さらに、核酸はヌクレオチドのポリマーである。それゆえ、本書において使用されるとき、核酸およびポリヌクレオチドは、互換可能である。核酸がポリヌクレオチドであり、ポリヌクレオチドがモノマーの「ヌクレオチド」に加水分解できるという常識を、当業者は有している。モノマーのヌクレオチドは、ヌクレオシドに加水分解できる。ポリヌクレオチドには、本分野において利用可能な任意の手段によって得られる全ての核酸配列が含まれるが、これらに限定されない。上記手段には、組み換え手段(すなわち、一般的なクローニング技術およびPCR(商標)などを用いて、組み換えライブラリーまたは細胞ゲノムから核酸配列をクローニングする手段)、および合成的手段が含まれるが、これらに限定されない。核酸配列は「キメラ」であり得る。すなわち、異なる領域から構成され得る。本発明の文脈において、「キメラ」化合物は、2つ以上の化学領域(例えば、DNA領域、RNA領域、PNA領域など)を含んでいるオリゴヌクレオチドである。化学領域のそれぞれは、少なくとも1つのモノマーユニット(すなわち、ヌクレオチド)から構成されている。これらの配列は、典型的に少なくとも1つの領域を含んでおり、上記配列は、1つ以上の所望の性質を示すように改変されている。
【0033】
ヌクレオシドに関する「アナログ」は、改変された塩基部分および/または改変された糖部分を有する合成ヌクレオシド(例えば、Scheit, Nucleotide Analogs, John Wiley, New York, 1980;Freier & Altmann, Nucl. Acid. Res., 1997, 25(22), 4429-4443,Toulme, J.J., Nature Biotechnology 19:17-18 (2001);ManoharanM., Biochemica et Biophysica Acta 1489:117-139(1999);FreierS. M., Nucleic Acid Research, 25:4429-4443 (1997)、Uhlman,E., Drug Discovery & Development, 3: 203-213 (2000)、Herdewin P., Antisense & Nucleic Acid Drug Dev., 10:297-310(2000)によって概説的に記載されたもの;2'-O, 3'-C-linked [3.2.0]bicycloarabinonucleosides (例えば、N.K Christiensen., etal., J. Am. Chem. Soc., 120: 5458-5463 (1998)を参照))を含んでいる。そのようなアナログには、結合特性が向上するよう設計された合成ヌクレオシド(例えば、2倍または3倍の安定性や特異性など)が含まれる。
【0034】
用語「バリアント」は、ポリヌクレオチド配列の文脈で使用されるとき、野生型遺伝子に関連するポリヌクレオチド配列を包含し得る。この定義は、例えば、「対立遺伝子の」バリアント、「スプライス」バリアント、「種」バリアント、または「多形」バリアントも含み得る。スプライスバリアントは、参照元の分子との有意な同一性を有し得るが、一般的には、より多いかまたはより少ない数のポリヌクレオチドを有する。これは、mRNAプロセシング中に、異なるエクソンのスプライシングが行われるためである。対応するポリペプチドは、追加の機能ドメインを有するか、またはドメインの欠落を有し得る。種バリアントは、ある種と別の種との間で異なっている、ポリヌクレオチド配列である。野生型遺伝子産物のバリアントが、本発明において特に有用である。バリアントは、核酸配列中の少なくとも1つの突然変異に起因してよく、異なるmRNAまたはポリペプチドが生じる(これらの構造または機能は、変化していてもよいし、変化していなくてもよい)。任意の天然遺伝子または組み換え遺伝子は、対立遺伝子の形態をまったく有さないか、または1つ以上の対立遺伝子の形態を有してもよい。バリアントを引き起こす一般的な突然変異は、一般的に、ヌクレオチドの自然的欠失、付加、または置換に起因している。これらのタイプの変化のそれぞれは、所定の配列中に、1回または複数回、単独または他との組み合わせで、起こり得る。
【0035】
特に指定のない限り、「アミノ酸配列をコードしているヌクレオチド配列」は、互いに縮重したバージョンの関係にあり、同一のアミノ酸配列をコードしている、全てのヌクレオチド配列を含んでいる。「タンパク質またはRNAをコードしているヌクレオチド配列」という語は、上記タンパク質をコードしているヌクレオチド配列のいくつかのバージョンがイントロンを含み得る程度に、イントロンを含んでもよい。
【0036】
本書において使用されるとき、「ペプチド」、「ポリペプチド」、および「タンパク質」という用語は互換可能に使用され、ペプチド結合によって共有結合したアミノ酸残基からなる化合物を意味する。タンパク質またはペプチドは少なくとも2つのアミノ酸を必須に含んでおり、タンパク質の配列またはペプチドの配列に含まれ得るアミノ酸の最大数は限定されない。それゆえ、例えば、オリゴペプチド、タンパク質および酵素という用語は、組み換え技術、化学性もしくは酵素学的合成を用いて製造されるものであっても、天然に生じるものであっても、ポリペプチドまたはペプチドの定義内に含まれる。ポリペプチドは、ペプチド結合によって互いに結合した2つ以上のアミノ酸を有する、任意のペプチドまたはタンパク質を含んでいる。本書において使用されるとき、当該用語は、短鎖(本発明の分野において、例えばペプチド、オリゴペプチド、およびオリゴマーを、通常は指す)、および、長鎖(本発明の分野において、多数の種類があるタンパク質を一般的に指す)、の両方を指す。「ポリペプチド」は、例えば、生物学的活性のあるフラグメント、実質的に相同的なポリペプチド、オリゴペプチド、ホモダイマー、ヘテロダイマー、ポリペプチドのバリアント、改変されたポリペプチド、誘導体、アナログ、融合タンパク質を含んでいる。この用語は、改変または誘導された(特に、グリコシル化、アセチル化、リン酸化などによる)ポリペプチドも含んでいる。ポリペプチドは、天然ペプチド、組み換えペプチド、合成ペプチド、またはそれらの組み合わせを含んでいる。
【0037】
本書において使用されるとき、ポリペプチドの「バリアント」は、1つ以上のアミノ酸残基によって変更されたアミノ酸配列を指す。バリアントは、置換されたアミノ酸が類似の構造的特性または化学的特性を有する「保存的な」変更(例えば、ロイシンをイソロイシンに置換すること)を有していてもよい。より珍しいものとして、バリアントは「非保存的な」変更(例えば、グリシンをトリプトファンに置換すること)を有していてもよい。アナログでマイナーなバリエーションは、アミノ酸の欠失もしくは挿入またはその両方も含み得る。生物学的活性を消滅させずにどのアミノ酸残基が置換、挿入または欠失され得るかを決定する指針は、当該分野で公知のコンピュータプログラム(例えば、LASERGENEソフトウェア(DNASTAR))を用いて見出せばよい。
【0038】
「治療的」処置は、病状の徴候を示す対象に、それら徴候を低減するかまたは取り除く目的で施される処置である。
【0039】
本書において使用されるとき、語句「治療的有効量」とは、疾患または異常を防ぐかまたは処置する(疾患または異常の発症を遅らせるかまたは防ぐ、疾患または異常の進行を防ぐ、阻害する、減少させる、または逆にする)(そのような疾患の症候を軽減することを含む)のに十分であるか、または効果的である量を指す。
【0040】
「処置」は、病気の病状または症候の発展または変化を防ぐ目的をもって行われる介入である。したがって、「処置」は、治療的処置および予防的または防止的方策の両方を指す。「処置」は、緩和ケアとして特定されてもよい。処置が必要な者としては、既に病気を患っている者、および、病気を防ぎたい者が挙げられる。したがって、状態、病気または異常の「処置すること」または「処置」は、(1)状態、病気もしくは異常に苦しむか、または、素因があるが未だ当該状態、病気もしくは異常の臨床学的もしくは準臨床学的症候を経験もしくは顕示していないヒトまたは他の哺乳類において発達する当該状態、病気または異常の臨床学的症候の出現を防ぐことまたは遅らせること;(2)当該状態、病気または異常を阻害すること、すなわち、疾患の発達もしくはその再発(持続処置の場合)またはその少なくとも1つの臨床学的もしくは準臨床学的症候を抑えること、低減すること、または遅らせること;または(3)疾患を軽減すること、すなわち、当該状態、病気もしくは異常またはその臨床学的もしくは準臨床学的症候の少なくとも1つの退行を起こすこと、を含んでいる。処置される個体への利益は、統計学的に有意であるか、または、患者もしくは医師が少なくとも認知できる。
【0041】
「ベクター」とは、単離された核酸を含んでおり、単離された核酸を細胞の内部に送達するのに使用することができる物質の組成物である。多数のベクターが当該分野において知られており、線状ポリヌクレオチド、イオン性化合物または両親媒性化合物と会合したポリヌクレオチド、プラスミド、およびウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。それゆえ、用語「ベクター」は、自律的に複製するプラスミドまたはウイルスを含んでいる。当該用語は、核酸の細胞への移動を促進する非プラスミド化合物および非ウイルス性化合物(例えば、ポリリシン化合物およびリポソームなど)を含んでいるとも解釈されるべきである。ウイルスベクターの例としては、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクターなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0042】
範囲:本開示を通して、本発明の様々な様態を、範囲の形式で示すことができる。範囲の形式による記載は、単に便宜および簡潔さのためのものであることを理解されたい。また、このような記載は、本発明の範囲における変更できない限定と解釈されるべきではない。したがって、範囲の記載は、その範囲内の個々の数値だけでなく、具体的に開示された全ての取り得る部分範囲も含んでいると考えられるべきである。例えば、「1から6」という範囲の記載は、その範囲内の個々の数値(例えば、1、2、2.7、3、4、5、5.3、および6)だけでなく、具体的に開示された部分範囲(1から3、1から4、1から5、2から4、2から6、3から6など)も含んでいると考えられるべきである。このことは、範囲の広さを問わず適用される。
【0043】
任意のアミノ酸配列が、Swiss ProtまたはGENBANKアクセッション番号によって具体的に言及される場合、当該配列は参照によって本開示に援用される。アクセッション番号に関連する情報(シグナルペプチド、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、プロモーター配列、および翻訳開始点の識別など)も、参照により全て本開示に援用される。
【0044】
(CRISPR-核酸組成物)
HIV−1保有宿主の排除におけるCas9技術(特にLTRを標的とする)の適用が、AIDSの処置、あるいは治療のための有望なストラテジーであることが示されてきた。Hu, et al., PNAS 2014, 111:114616は、HIV−1 LTRにおける部位を標的とした、Cas9/gRNAを発現するプラスミドを用いたヒト細胞培養物の安定的トランスフェクションが、宿主細胞機能を弱めることなく、HIV−1ゲノムの一部分および/または全体を首尾よく排除したことを開示した。標的部位はLTR−A、LTR−B、LTR−CおよびLTR−Dと呼ばれた。LTRにおける2つの異なる部位を標的にすることは、プロウイルスDNA配列の全てまたは実質的に全ての除去を形成するのに十分に広大な欠失を生み出すことにおいて特に効果的であった。細胞におけるCas9/gRNAの先在も、新たなHIV−1感染を防いだ。
【0045】
HIVおよび他のレトロウイルスは高度に突然変異しやすいため、組み込まれているHIVゲノムを標的とするためのCas9/gRNA試薬および方法には広いスペクトルが必要である。特定の使用では、Cas9/gRNA試薬は、HIVの構造遺伝子(gagおよびpolなど)を効果的に標的とする。
【0046】
したがって、本発明の実施形態は、インビトロまたはインビボにおいて宿主細胞から高度に突然変異を起こしやすいおよび/または潜伏的なウイルスの処置および排除のための組成物および方法に関する。本発明の方法は、宿主生物から、当該宿主の遺伝物質の完全性を妨げることなくウイルスまたは他の外来遺伝物質を除去することに使用され得る。ヌクレアーゼは、標的ウイルス核酸に対して使用され得る。それゆえ、ウイルス複製もしくは転写を妨げるか、または宿主ゲノムからウイルスの遺伝物質を削除さえもする。ヌクレアーゼは、ウイルス核酸が細胞内で粒子として存在する場合、または、ウイルス核酸が宿主ゲノム中に組み込まれている場合に、宿主物質に作用することなく、ウイルス核酸だけを除去するために特に標的とされ得る。ウイルス核酸を標的にすることは、配列特異的部分(ヌクレアーゼによる破壊のためにウイルスゲノム物質を標的とするが宿主細胞ゲノムを標的としないガイドRNA等)を用いて行われ得る。いくつかの実施形態において、CRISPR/CasヌクレアーゼおよびガイドRNA(gRNA)(共にウイルスのゲノム物質を標的とし、選択的に編集または破壊する)が使用される。CRISPR(clustered regularly interspaced shortpalindromic repeats)は、バクテリアをファージ感染から保護するバクテリア免疫システムの天然に生じる要素である。ガイドRNAは、CRISPR/Cas複合体をウイルス標的配列に局在化させる。複合体の結合は、Casエンドヌクレアーゼをウイルスゲノム標的配列に局在化させ、ウイルスゲノムにおける破壊を引き起こす。他のヌクレアーゼシステム(例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、転写アクチベータ様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、メガヌクレアーゼ、または宿主の遺伝物質の通常の機能を妨げることなくウイルス核酸を分解または阻害するために使用することができる任意の他のシステムが挙げられる)が使用され得る。
【0047】
本書において具体化されている組成物は、ウイルスの生活環における任意の形態において、または任意の段階において、ウイルス核酸を標的とするために使用され得る。標的とされるウイルス核酸は、独立した粒子として宿主細胞内に存在し得る。好ましい実施形態において、ウイルス感染は潜伏的であり、ウイルス核酸は宿主ゲノム中に組み込まれている。任意の適当なウイルス核酸が、裂開および消化の標的であり得る。
【0048】
CRISPR/Casシステム:CRISPR/Casシステムは、CRISPR関連ヌクレアーゼ(例えばCas9)を含んでいる遺伝子編集複合体、およびDNA鎖上に位置する標的配列(哺乳類ゲノム中に組み込まれているプロウイルスDNAにおける標的配列など)に相補的なガイドRNAを含んでいる。例示的な遺伝子編集複合体が
図1Aに示されている。当該遺伝子編集複合体は標的配列なしにDNAを裂開することができる。そして次に、この裂開は、プロウイルスDNA中への種々の突然変異の導入を引き起こし、HIVプロウイルスの不活性化をもたらし得る。このような突然変異がプロウイルスを不活性化するメカニズムは様々であり得る。例えば、突然変異は、プロウイルスの複製およびウイルス遺伝子の発現に影響を与え得る。突然変異は、制御配列または構造遺伝子配列中に位置し、HIVの不完全な産生をもたらしてもよい。突然変異は欠失を含み得る。欠失のサイズは、1ヌクレオチド塩基対から約10,000塩基対まで変わり得る。いくつかの実施形態において、欠失は、組み込まれているレトロウイルス核酸配列の全てまたは実質的に全てを含み得る。突然変異は、挿入(すなわち、プロウイルス配列に対する1つ以上のヌクレオチド塩基対の付加)を含み得る。挿入される配列のサイズも変わり得る(例えば、約1塩基対から約300ヌクレオチド塩基対)。突然変異は、点変異(すなわち、1つのヌクレオチドが別のヌクレオチドに置換される)を含み得る。有用な点変異は、機能的な結果(例えば、アミノ酸コドンを終止コドンに変化させる変異、または、非機能的なタンパク質の産生をもたらす変異)を有するものである。
【0049】
概して、CRISPR/Casタンパク質は、少なくとも1つのRNA認識および/またはRNA結合ドメインを含んでいる。RNA認識および/またはRNA結合ドメインは、ガイドRNAと相互作用する。CRISPR/Casタンパク質はまた、ヌクレアーゼドメイン(すなわち、DNaseドメインまたはRNaseドメイン)、DNA結合ドメイン、ヘリカーゼドメイン、RNaseドメイン、タンパク質−タンパク質相互作用ドメイン、二量体化ドメイン、および他のドメインを含み得る。
【0050】
実施形態において、CRISPR/Cas様タンパク質は、野生型CRISPR/Casタンパク質、改変型CRISPR/Casタンパク質、または野生型もしくは改変型CRISPR/Casタンパク質のフラグメントであり得る。CRISPR/Cas様タンパク質は、核酸結合アフィニティーおよび/もしくは特異性が増加する、酵素活性が変化する、ならびに/または当該タンパク質の別の特性が変化するよう改変され得る。例えば、CRISPR/Cas様タンパク質のヌクレアーゼ(すなわち、DNase、RNase)ドメインは、改変、削除、または不活性化され得る。あるいは、CRISPR/Cas様タンパク質は、融合タンパク質の機能に不可欠ではないドメインを除去するために切り詰められ得る。CRISPR/Cas様タンパク質は、融合タンパク質のエフェクタードメインの活性を最適化するために切り詰められ得るか、または改変され得る。
【0051】
実施形態において、CRISPR/Casシステムは、タイプI、タイプII、またはタイプIIIシステムであり得る。好適なCRISPR/Casタンパク質の非限定的な例として、Cas3、Cas4、Cas5、Cas5e(またはCasD)、Cas6、Cas6e、Cas6f、Cas7、Cas8a1、Cas8a2、Cas8b、Cas8c、Cas9、Cas10、Cas10d、CasF、CasG、CasH、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1(またはCasA)、Cse2(またはCasB)、Cse3(またはCasE)、Cse4(またはCasC)、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csz1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、およびCu1966が含まれている。
【0052】
一実施形態において、RNAガイドエンドヌクレアーゼは、タイプIICRISPR/Casシステムに由来する。他の実施形態において、RNAガイドエンドヌクレアーゼは、Cas9タンパク質に由来する。Cas9タンパク質は、Streptococcus pyogenes、Streptococcusthermophilus、Streptococcus sp.、Nocardiopsisdassonvillei、Streptomyces pristinaespiralis、Streptomyces viridochromogenes、Streptomycesviridochromogenes、Streptosporangium roseum、Alicyclobacillus acidocaldarius、Bacilluspseudomycoides、Bacillus selenitireducens、Exiguobacterium sibiricum、Lactobacillusdelbrueckii、Lactobacillus salivarius、Microscilla marina、Burkholderiales bacterium、Polaromonas naphthalenivorans、Polaromonassp.、Crocosphaera watsonii、Cyanothecesp.、Microcystis aeruginosa、Synechococcussp.、Acetohalobium arabaticum、Ammonifexdegensii、Caldicelulosiruptor becscii、Candidatus Desulforudis、Clostridiumbotulinum、Clostridium difficile、Finegoldia magna、Natranaerobius thermophilus、Pelotomaculum thermopropionicum、Acidithiobacilluscaldus、Acidithiobacillus ferrooxidans、Allochromatium vinosum、Marinobacter sp.、Nitrosococcus halophilus、Nitrosococcuswatsoni、Pseudoalteromonas haloplanktis、Ktedonobacter racemifer、Methanohalobiumevestigatum、Anabaena variabilis、Nodularia spumigena、Nostoc sp.、Arthrospira maxima、Arthrospira platensis、Arthrospira sp.、Lyngbya sp.、Microcoleus chthonoplastes、Oscillatoria sp.、Petrotoga mobilis、Thermosipho africanus、またはAcaryochloris marinaに由来し得る。
【0053】
いくつかの実施形態において、CRISPR/Cas様タンパク質は、野生型Cas9タンパク質またはそのフラグメントに由来し得る。他の実施形態において、CRISPR/Cas様タンパク質は、改変されたCas9タンパク質に由来し得る。例えば、Cas9タンパク質のアミノ酸配列は、タンパク質の1つ以上の特性(例えば、ヌクレアーゼ活性、アフィニティー、安定性など)が変化するよう改変され得る。あるいは、RNAにガイドされた裂開に関与しないCas9タンパク質のドメインは、改変されたCas9タンパク質が野生型Cas9タンパク質よりも小さくなるよう、タンパク質から取り除かれ得る。
【0054】
例示的かつ好ましいCRISPR関連エンドヌクレアーゼは、Cas9ヌクレアーゼである。Cas9ヌクレアーゼは、野生型Streptococcus pyrogenes配列と同一のヌクレオチド配列を有し得る。いくつかの実施形態において、CRISPR関連エンドヌクレアーゼは、他の種(例えば、他のStreptococcus種(thermophilusなど)、Pseudomonas aeruginosa、Escherichia coli、もしくは配列が決定された他のバクテリアゲノムおよびアーケア、または他の原核微生物)に由来する配列であり得る。あるいは、野生型Streptococcus pyrogenes Cas9配列は、改変され得る。核酸配列は哺乳類細胞における効率的な発現のために最適化されたコドンであり得る(すなわち「ヒト化」)。ヒト化Cas9ヌクレアーゼ配列は、例えば、Genbankアクセッション番号KM099231.1 GI:669193757;KM099232.1GI:669193761;またはKM099233.1 GI:669193765に挙げられている発現ベクターの何れかによってコードされているCas9ヌクレアーゼ配列であり得る。あるいは、Cas9ヌクレアーゼ配列は、例えば、商業的に入手可能なベクター(Addgene社(マサチューセッツ州ケンブリッジ)のPX330またはPX260)内に含まれている配列であり得る。いくつかの実施形態において、Cas9エンドヌクレアーゼは、Genbankアクセッション番号KM099231.1 GI:669193757;KM099232.1GI:669193761;もしくはKM099233.1 GI:669193765のCas9エンドヌクレアーゼ配列またはPX330もしくはPX260(Addgene社,マサチューセッツ州ケンブリッジ)のCas9アミノ酸配列の何れかのバリアントまたはフラグメントであるアミノ酸配列を有し得る。Cas9ヌクレオチド配列は、Cas9の生物学的に活性なバリアントをコードするよう改変され得、これらバリアントは、例えば、1つ以上の突然変異(例えば、付加、欠失、もしくは置換突然変異、またはそのような突然変異の組み合わせ)を含むことによって野生型Cas9とは異なるアミノ酸配列を有し得るか、または含み得る。1つ以上の置換突然変異は、置換(例えば、保存的アミノ酸置換)であり得る。例えば、Cas9ポリペプチドの生物学的に活性なバリアントは、野生型Cas9ポリペプチドに対して少なくともまたは約50%の配列同一性(例えば、少なくともまたは約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%の配列同一性)を備えるアミノ酸配列を有し得る。保存的アミノ酸置換は、典型的には、以下の群の範囲内の置換を含んでいる:グリシンおよびアラニン;バリン、イソロイシン、およびロイシン;アスパラギン酸およびグルタミン酸;アスパラギン、グルタミン、セリンおよびスレオニン;リジン、ヒスチジンおよびアルギニン;ならびにフェニルアラニンおよびチロシン。Cas9アミノ酸配列におけるアミノ酸残基は、天然に生じないアミノ酸残基であり得る。天然に生じるアミノ酸残基としては、遺伝コードによって天然にコードされるもの、および標準的ではないアミノ酸(例えば、L−立体配置の代わりにD−立体配置を有するアミノ酸)が挙げられる。本ペプチドはまた、標準的な残基の改変バージョンであるアミノ酸残基(例えば、ピロリジンがリジンの代わりに使用され得、セレノシステインがシステインの代わりに使用され得る)を含み得る。天然に生じないアミノ酸残基は、天然に見出されたことはないが、アミノ酸の基本的な式で構成されており、ペプチド中に組み込むことができるものである。これらとしては、D−アロイソロイシン(2R,3S)−2−アミノ−3−メチルペンタン酸およびL−シクロペンチルグリシン(S)−2−アミノ−2−シクロペンチル酢酸が挙げられる。他の例については、教科書またはワールドワイドウェブ(カリフォルニア工科大学によって現在維持されているサイトが、機能的タンパク質に首尾よく組み込まれたことがある非天然アミノ酸の構造を掲げている)を参考にし得る。
【0055】
Cas9ヌクレアーゼ配列は、突然変異した配列であり得る。例えば、Cas9ヌクレアーゼは、保存されたHNHおよびRuvCドメイン(鎖特異的裂開に関与する)において突然変異され得る。例えば、RuvC触媒ドメインにおけるアスパラギン酸からアラニンへの突然変異(D10A)によって、Cas9ニッカーゼ変異体(Cas9n)がDNAを裂開するのではなくニックを入れ、一本鎖の切断が生じ、続くHDRを通じた選択的修復がオフターゲット二本鎖切断から望まないインデル突然変異の頻度を潜在的に減少させ得る。
【0056】
本発明は、Hu, et al, PNAS 2014, 111:114616に開示されているCas9/gRNAシステムに対していくつかの利点を組み込んでいる。実施例に開示されている実験において、付加的な高度に特異的な標的配列がHIV−1LTRの内部およびHIV−1の構造遺伝子の内部の両方で同定された。これら標的配列(標的「部位」ともいう)は、Cas9/gRNAによって効率的に編集されており、潜伏感染している哺乳類細胞におけるウイルス遺伝子の発現および複製の不活性化をもたらした。これら付加的なCas9/gRNAコンストラクトおよびそれらの組み合わせのいくつかは、宿主細胞ゲノムから、組み込まれているHIVプロウイルスDNAの全てまたは一部の除去をもたらすことが見出された。LTR標的部位に向かう1つの構成要素と構造遺伝子標的部位に向かう他の構成要素とを備えるコンストラクトのペアが、HIVゲノムの除去または排除を生み出すことにおいて特に効果的であった。これは、LTR部位および構造遺伝子に対する一体的な攻撃が、組み込まれているHIVのDNAの介在的な広がりの除去を生み出せることの初めての証明である。本発明はそれゆえ、宿主細胞において組み込まれたHIVのDNAを標的とするために利用可能なCas9/gRNA組成物のスペクトルを非常に広げる。
【0057】
したがって、本発明は、CRISPR関連エンドヌクレアーゼをコードしている単離された核酸配列およびHIVまたは他のレトロウイルスにおける標的配列に相補的な1つ以上のgRNAをコードしている単離された核酸配列を含んでいる、宿主細胞中へ組み込まれているプロウイルスDNAの不活性化における使用のための組成物を特徴付ける。
【0058】
gRNAには、約20塩基対(bp)の独自の標的配列(スペーサーと呼ばれる)を含んでいる成熟crRNA、および、pre−crRNAのリボヌクレアーゼIII介在プロセシングのためのガイドとして働くtrans-activated small RNA(tracrRNA)が含まれる。crRNA:tracrRNA二重構造体は、crRNA上のスペーサーと標的DNA上の相補配列(プロトスペーサーと呼ばれる)との間の相補的塩基のペアリングを介してCas9を標的DNAへ誘導する。Cas9は、トリヌクレオチド(NGG)プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識して、切断部位(PAMから3番目のヌクレオチド)を特定する。本発明において、crRNAおよびtracrRNAは、別々に発現されてもよいし、または天然のcrRNA/tracrRNA二重構造体を模すために合成ステムループ(AGAAAU)を介して人工的な融合gRNAとして組み換えられていてもよい。そのようなgRNAは、直接的なRNAトランスフェクションのために合成されるかもしくはインビトロで転写されるか、またはU6もしくはH1にプロモートされるRNA発現ベクターから発現され得る。
【0059】
本発明の組成物において、各gRNAは、レトロウイルスにおける標的配列に相補的である配列を含んでいる。例示的な標的レトロウイルスはHIVであるが、本発明の組成物は他のレトロウイルス(HIV−2およびサル免疫不全ウイルス(SIV)−1等)を標的とするのにも有用である。
【0060】
本発明のいくつかの例示的なgRNAは、HIVのロングターミナルリピート(LTR)領域における標的配列に相補的である。LTRは、U3領域、R領域およびU5領域に細分される。HIV−1のU3領域、R領域およびU5領域の構成は、
図3Aに示されている。LTRは、遺伝子発現のために必要な全てのシグナルを含んでおり、宿主細胞のゲノム中へのプロウイルスの組み込みに関与する。例えば、U3内ではベースまたはコアのプロモーター、コアのエンハンサーおよび調節領域が見出される一方、R内では転写促進応答エレメントが見出される。HIV−1において、U5領域は、複数のサブ領域(例えば、TARまたは転写促進応答エレメント(転写の活性化に関与する);ポリA(二量体化およびゲノムのパッケージングに関与する);PBSまたはプライマー結合部位;Psiまたはパッケージングシグナル;DISまたは二量体開始部位)を含んでいる。したがって、いくつかの実施形態において、gRNA標的配列は、HIVプロウイルスDNAのLTR領域内に1つ以上の標的配列を含み、HIVプロウイルスDNAの構造遺伝子および/または非構造遺伝子内に1つ以上の標的配列を含んでいる。他の実施形態において、gRNA標的配列は、HIVプロウイルスDNAのLTR領域内に1つ以上の標的配列を含み、構造遺伝子内に1つ以上の標的配列を含んでいる。別の実施形態において、gRNA標的配列は、HIVプロウイルスDNAのLTR領域内に1つ以上の標的配列を含み、HIVプロウイルスDNAの非構造遺伝子内に1つ以上の標的配列を含んでいる。さらに別の実施形態において、gRNA標的配列は、HIVプロウイルス構造遺伝子内に1つ以上の標的配列を含み、HIVプロウイルスDNAの非構造遺伝子内に1つ以上の標的配列を含んでいる。さらに別の実施形態において、gRNA標的配列は、HIVプロウイルス非コーディング遺伝子内に1つ以上の標的配列を含み、HIVプロウイルスDNAのコーディング遺伝子内に1つ以上の標的配列を含んでいる。さらに別の実施形態において、gRNA標的配列は、第1の遺伝子内に1つ以上の標的核酸配列を含み、第2の遺伝子内に1つ以上の標的核酸配列を含んでいるか;または、第1の遺伝子内に1つ以上の標的核酸配列を含み、第3の遺伝子内に1つ以上の標的核酸配列を含んでいるか;または、第1の遺伝子内に1つ以上の標的核酸配列を含み、第2の遺伝子内に1つ以上の標的核酸配列を含み、第3の遺伝子内に1つ以上の標的核酸配列を含んでいるか;または、第2の遺伝子内に1つ以上の標的核酸配列を含み、第3の遺伝子もしくは第4の遺伝子内に1つ以上の標的核酸配列を含んでいるか;または、これらの任意の組み合わせである。みてわかるとおり、標的核酸配列の任意の組み合わせが使用され得、当業者の想像によって限定されるだけである。
【0061】
実施例に開示されている実験結果において、LTRのU3領域、R領域およびU5領域内のある配列が有用な標的配列であることが見出された。これら標的配列に相補的なgRNAは、実施例2の
図1Dおよび
図3A、実施例3の
図11A、ならびに実施例4の表1に示されている。それらは、LTR 1、LTR 2、LTR 3、LTR A、LTR B、LTR B’、LTR C、LTR D、LTR E、LTR F、LTR G、LTR H、LTR I、LTR J、LTR K、LTR L、LTR M、LTR N、LTR O、LTR P、LTR Q、LTR R、LTR S、およびLTR Tを含んでいる。これらgRNAの配列は、
図11A、
図12A、
図12Bおよび
図12Cに示されている。本発明の組成物はこれら例示的なgRNAを含んでいるが、これらに限定されず、HIVLTRにおける任意の適切な標的部位に相補的なgRNAを含み得る。
【0062】
本発明の例示的なgRNAのいくつかは、HIVのタンパク質コーディングゲノムにおける配列を標的とする。構造タンパク質gagをコードしている遺伝子内の配列が、有用な標的配列であることが見出された。これら標的配列に相補的なgRNAとしては、GagA、Gag B、Gag C、およびGag Dが挙げられる。HIV−1ゲノムにおけるそれらの標的部位は
図3Aに示されており、それらの核酸配列は表1に示されている。有用な標的配列は、構造タンパク質polをコードしている遺伝子内でも見出された。これら標的配列に相補的なgRNAとしては、PolAおよびPolBが挙げられる。HIV−1ゲノムにおけるそれらの標的部位は
図3Aに示されており、それらの核酸配列は表1に示されている。HIV−1エンベロープタンパク質envにおける標的部位に相補的なgRNAについての配列も表1に示されている。
【0063】
したがって、本発明の組成物は、これら例示的gRNAを含んでいるが、これらに限定されず、HIVのタンパク質コーディング遺伝子(構造タンパク質tat、ならびにアクセサリータンパク質vif、nef(negative factor)vpu(Virus protein U)、vpr、およびtevをコードしているものが挙げられるが、これらに限定されない)における任意の適切な標的部位に相補的なgRNAを含み得る。
【0064】
本発明に係るガイドRNA配列は、センス配列またはアンチセンス配列であり得る。ガイドRNA配列は概して、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を含んでいる。PAMの配列は、使用されるCRISPRエンドヌクレアーゼの特異性要求に応じて変わり得る。S. pyogenesに由来するCRISPR−Casシステムにおいて、標的DNAは典型的には、5’−NGGプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の直前にある。それゆえ、S. pyogenesのCas9の場合、PAM配列は、AGG、TGG、CGGまたはGGGであり得る。他のCas9オルソログは、異なるPAM特異性を有し得る。例えば、S. thermophilusに由来するCas9は、CRISPR1に対して5’−NNAGAAが必要であり、CRISPR3に対して5’−NGGNGが必要である。Neiseria menigiditisに由来するCas9は、5’−NNNNGATTが必要である。ガイドRNAの具体的な配列は変わり得るが、配列に関係なく、有用なガイドRNA配列とは、オフターゲット効果を最小限にしつつ、高効率を達成し、ゲノム的に組み込まれているレトロウイルス(例えばHIV)の除去を完遂する配列である。ガイドRNA配列の長さは、約20から約60ヌクレオチド、またはそれ以上であり、例えば、約20、約21、約22、約23、約24、約25、約26、約27、約28、約29、約30、約31、約32、約33、約34、約35、約36、約37、約38、約39、約40、約45、約50、約55、約60ヌクレオチド、またはそれ以上であり得る。外来ウイルスゲノムと宿主細胞ゲノム(内因性レトロウイルスDNAを含んでいる)との相同性が非常に低い領域を同定する有用な選別方法としては、12bp+NGGの標的選択規準を用いた生物情報的スクリーニングにより、オフターゲットのヒトトランスクリプトームまたは(稀ではあるが)非翻訳ゲノム部位を除外する方法;HIV LTRプロモーター(宿主ゲノム中に潜伏的に保存されている)内の、転写因子結合部位を避ける方法;ならびに、WGS、サンガーシーケンシング、およびSURVEYORアッセイによって、潜伏的なオフターゲット効果を特定し、除去する方法;が挙げられる。
【0065】
ガイドRNA配列は1つの配列として構成されていてもよいし、または1つ以上の異なる配列の組み合わせ(例えば、多重構造)として構成されていてもよい。多重構造は、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10、またはそれ以上の異なるガイドRNAの組み合わせを含んでいてもよい。
【0066】
実施例2および3に開示されている実験において、gRNAの組み合わせが、多発的な方法において(すなわち、同一細胞において同時に)発現する場合に特に効果的であることが見出された。多くの場合において、組み合わせは標的部位間に広がるHIVプロウイルスの除去を生じさせた。当該除去は、複数の標的部位のそれぞれにおいてCas9によって誘導された切れ目の間の配列の消去に寄与できる。これら組み合わせは、レトロウイルスのLTRにおける標的部位に相補的である構成要素と、レトロウイルスの構造遺伝子における標的部位に相補的であるgRNAに相補的である他の構成要素とを備えるgRNAのペアである。効果的な組み合わせの例示としては、GagDと、LTR 1、LTR 2、LTR 3、LTR A、LTR B、LTR C、LTR D、LTR E、LTR F、LTR G;LTR H、LTR I、LTR J、LTRK、LTR L、LTR M;LTR N、LTR O、LTR P、LTR Q、LTR R、LTR S、またはLTR Tのうちの1つとの組み合わせが挙げられる。効果的な組み合わせの例示としては、LTR3と、LTR−1、Gag A;Gag B;Gag C、GAG D、Pol A、またはPol Bのうちの1つとの組み合わせも挙げられる。
【0067】
LTR AとLTR B’との組み合わせも、実施例3に示されるとおり、HIV−1ゲノムのセグメントの除去をもたらした。本発明の組成物は、これらの組み合わせに限定されず、HIV−1プロウイルスにおける2つ以上の異なる標的部位に相補的なgRNAの任意の適切な組み合わせを含んでもよい。
【0068】
ある実施形態において、標的核酸配列は、レトロウイルスゲノムのコード核酸配列および非コード核酸配列における1つ以上の核酸配列を含んでいる。標的核酸配列は、構造タンパク質、非構造タンパク質またはそれらの組み合わせをコードしている配列内に位置し得る。構造タンパク質をコードしている配列は、Gag、GAG−Pol前駆体、Pro(プロテアーゼ)、逆転写酵素(RT)、インテグラーゼ(In)、Envまたはそれらの組み合わせをコードしている核酸配列を含んでいる。非構造タンパク質をコードしている配列は、制御タンパク質(例えば、Tat、Rev)、アクセサリータンパク質(例えば、Nef、Vpr、Vpu、Vif)またはそれらの組み合わせをコードしている核酸配列を含んでいる。
【0069】
ある実施形態において、gRNA配列は、Gag、GAG−Pol前駆体、Pro、逆転写酵素(RT)、インテグラーゼ(In)、Env、Tat、Rev、Nef、Vpr、Vpu、Vifまたはそれらの組み合わせをコードしている相補的な標的核酸配列に対する少なくとも75%の配列同一性を有する。
【0070】
ある実施形態において、gRNA配列は、Gag、GAG−Pol前駆体、Pro、逆転写酵素(RT)、インテグラーゼ(In)、Env、Tat、Rev、Nef、Vpr、Vpu、Vifまたはそれらの組み合わせをコードしている標的核酸配列に相補的である。
【0071】
他の実施形態において、gRNA核酸配列は、配列番号1〜57またはそれらの任意の組み合わせを含んでいる配列に対する少なくとも75%の配列同一性を有する。他の実施形態において、gRNA核酸配列は、配列番号1〜57を含んでいる。
【0072】
別の実施形態において、核酸配列は、配列番号1〜57またはそれらの任意の組み合わせを含んでいる配列に対する少なくとも75%の配列同一性を有する配列を含んでいる。他の実施形態において、核酸配列は、配列番号1〜57に規定されている配列を含んでいる。
【0073】
他の実施形態において、レトロウイルスが潜伏感染している宿主細胞のゲノムに組み込まれているレトロウイルスDNAを不活性化することにおける使用のための組成物は、Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat(CRISPR)関連エンドヌクレアーゼおよび当該組み込まれているレトロウイルスDNAにおける標的配列に相補的な少なくとも1つのガイドRNA(gRNA)をコードしている単離された核酸配列を含んでおり、当該レトロウイルスはヒト免疫不全ウイルス(HIV)である。上記少なくとも1つのgRNAは、上記組み込まれているレトロウイルスDNAにおける標的配列に相補的な第1のgRNA;および上記組み込まれているレトロウイルスDNAにおける別の標的配列に相補的な第2のgRNAを少なくとも含んでおり、これによって、2つのgRNAの間にある介在配列が除去される。
【0074】
ある実施形態において、標的核酸配列は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)プロウイルスDNAのロングターミナルリピート(LTR)領域における1つ以上の配列、およびHIVの組み込まれているDNAの構造遺伝子および/または非構造遺伝子における1つ以上の標的;または第2の遺伝子における1つ以上の標的;または第1の遺伝子における1つ以上の標的および第2の遺伝子における1つ以上の標的;または第1の遺伝子における1つ以上の標的および第2の遺伝子における1つ以上の標的および第3の遺伝子における1つ以上の標的;または第2の遺伝子における1つ以上の標的および第3の遺伝子もしくは第4の遺伝子における1つ以上の標的;またはそれらの任意の組み合わせを含んでいる。
【0075】
別の実施形態において、インビトロまたはインビボにおいてレトロウイルスを排除するための組成物は、Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat(CRISPR)関連エンドヌクレアーゼおよびレトロウイルスゲノムにおける標的配列に相補的な少なくとも1つのガイドRNA(gRNA)をコードしている単離された核酸配列を含んでおり、上記レトロウイルスはヒト免疫不全ウイルス(HIV)である。実施形態において、上記少なくとも1つのgRNAは、HIVゲノムにおける標的配列に相補的な第1のgRNA;および当該HIVゲノムにおける他の標的配列に相補的な第2のgRNAを少なくとも含んでおり、これによって、2つのgRNAの間にある介在配列が除去される。
【0076】
別の実施形態において、組成物は、Clustered RegularlyInterspaced Short Palindromic Repeat(CRISPR)関連エンドヌクレアーゼおよびレトロウイルスゲノムにおける異なる標的配列にそれぞれ相補的な2つのガイドRNA(gRNA)をコードしている単離された核酸配列を含んでおり、上記レトロウイルスはヒト免疫不全ウイルス(HIV)である。実施形態において、少なくとも1つのガイドRNA(gRNA)は、HIVゲノムにおける標的配列に相補的な第1のgRNA;および当該HIVゲノムにおける別の標的配列に相補的な第2のgRNAを少なくとも含んでおり、これによって、2つのgRNAの間にある介在配列が除去される。
【0077】
ある実施形態において、標的核酸配列は、レトロウイルスゲノムのコード核酸配列および非コード核酸配列における1つ以上の核酸配列を含んでいる。当該標的核酸配列は、構造タンパク質、非構造タンパク質またはそれらの組み合わせをコードしている配列内に位置していてもよい。構造タンパク質をコードしている上記配列は、Gag、Gag−Pol前駆体、Pro(プロテアーゼ)、逆転写酵素(RT)、インテグラーゼ(In)、Envまたはそれらの組み合わせをコードしている核酸配列を含んでいる。非構造タンパク質をコードしている上記配列は、制御タンパク質(例えば、Tat、Rev)、アクセサリータンパク質(例えば、Nef、Vpr、Vpu、Vif)またはそれらの組み合わせをコードしている核酸配列を含んでいる。
【0078】
ある実施形態において、gRNA配列は、Gag、GAG−Pol前駆体、Pro、逆転写酵素(RT)、インテグラーゼ(In)、Env、Tat、Rev、Nef、Vpr、Vpu、Vifまたはそれらの組み合わせをコードしている相補的な標的核酸配列に対する少なくとも75%の配列同一性を有している。
【0079】
ある実施形態において、gRNA配列は、Gag、GAG−Pol前駆体、Pro、逆転写酵素(RT)、インテグラーゼ(In)、Env、Tat、Rev、Nef、Vpr、Vpu、Vifまたはそれらの組み合わせをコードしている標的核酸配列に相補的である。
【0080】
他の実施形態において、gRNA核酸配列は、配列番号1〜57またはそれらの任意の組み合わせを含んでいる配列に対する少なくとも75%の配列同一性を有する。他の実施形態において、gRNA核酸配列は、配列番号1〜57を含んでいる。
【0081】
したがって、本発明はまた、レトロウイルスが潜伏感染している宿主細胞のゲノムに組み込まれているプロウイルスDNAを不活性化する方法であって、CRISPR関連エンドヌクレアーゼおよびプロウイルスDNAにおける標的部位に相補的な少なくとも1つのgRNAを含む組成物で上記宿主細胞を処理する工程;上記CRISPR関連エンドヌクレアーゼおよび上記少なくとも1つのgRNAを含んでいる遺伝子編集複合体を発現させる工程;ならびにプロウイルスDNAを不活性化する工程を含んでいる方法を含んでいる。上記で列挙されているgRNAおよびCas9エンドヌクレアーゼが好ましい。別の好ましい実施形態において、インビトロまたはインビボで宿主細胞を処理する工程は、少なくとも2つのgRNAを用いた処理を含んでおり、当該少なくとも2つのgRNAのそれぞれがプロウイルスにおける異なる標的核酸配列に相補的である。特に好ましくは、少なくとも2つのgRNAの組み合わせであって、少なくとも1つのgRNAがレトロウイルスのLTRにおける標的部位に相補的であり、少なくとも1つのgRNAがレトロウイルスの構造遺伝子における標的部位に相補的である組成物を含んでいる。HIVが好ましいレトロウイルスである。
【0082】
別の実施形態において、インビトロまたはインビボでレトロウイルスを排除するための組成物は、Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat(CRISPR)関連エンドヌクレアーゼおよびレトロウイルスゲノムにおける標的配列に相補的な少なくとも1つのガイドRNA(gRNA)をコードしている単離された核酸配列を含んでおり、上記レトロウイルスはヒト免疫不全ウイルス(HIV)であり、上記gRNAはHIVゲノムにおける標的配列に相補的な第1のgRNA;および当該HIVゲノムにおける別の標的配列に相補的な第2のgRNAを少なくとも含んでおり、これによって、2つのgRNAの間にある介在配列が除去される。上記標的核酸配列は、上記HIVゲノムのコード核酸配列および非コード核酸配列における1つ以上の核酸配列を含んでいる。一実施形態において、上記標的配列は、上記HIVゲノムにおける1つ以上の核酸配列を含んでおり、当該1つ以上の核酸配列は、ロングターミナルリピート(LTR)核酸配列、構造タンパク質をコードしている核酸配列、非構造タンパク質をコードしている核酸配列、またはそれらの組み合わせを含んでいる。ある実施形態において、構造タンパク質をコードしている核酸配列は、Gag、Gag−Pol前駆体、Pro(プロテアーゼ)、逆転写酵素(RT)、インテグラーゼ(In)、Envまたはそれらの組み合わせをコードしている核酸配列を含んでいる。実施形態において、非構造タンパク質をコードしている上記核酸配列は、制御タンパク質、アクセサリータンパク質またはそれらの組み合わせをコードしている核酸配列を含んでいる。制御タンパク質の例としては、Tat、Revまたはそれらの組み合わせが挙げられる。アクセサリータンパク質の例は、Nef、Vpr、Vpu、Vifまたはそれらの組み合わせを含んでいる。ある実施形態において、gRNA核酸配列は、配列番号1〜57に対する少なくとも75%の配列同一性を有している核酸配列を含んでいる。ある実施形態において、gRNA核酸配列は、配列番号1〜57を含んでいる核酸配列を含んでいる。
【0083】
ある実施形態において、単離された核酸配列は、Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat(CRISPR)関連エンドヌクレアーゼおよびレトロウイルスゲノム(例えばHIV)における標的核酸配列に相補的な少なくとも1つのガイドRNA(gRNA)をコードしている核酸配列を含んでいる。
【0084】
上記組成物が核酸として投与されるか、または発現ベクター内に含まれている場合、上記CRISPRエンドヌクレアーゼは、上記ガイドRNA配列と同じ核酸またはベクターによってコードされていてもよい。あるいは、または、さらに、当該CRISPRエンドヌクレアーゼは、上記gRNA配列とは物理的に別々の核酸中に、または別々のベクター中にコードされていてもよい。
【0085】
(改変された核酸配列または突然変異した核酸配列)
いくつかの実施形態において、本書で具体化されている核酸配列はいずれも、ネイティブな核酸配列から(例えば、突然変異、欠失、置換、核酸塩基、骨格の改変などによって)改変または誘導され得る。核酸配列は、ベクター、遺伝子編集剤、gRNA、tracrRNAなどを含んでいる。本発明で想像されるいくつかの改変された核酸配列の例は、改変された骨格(例えば、ホスホロチオエート、ホスホトリエステル、メチルホスホナート、短鎖アルキルもしくはシクロアルキル糖内結合、または短鎖ヘテロ原子もしくは複素環式糖内結合)を含むものを含んでいる。いくつかの実施形態において、改変されたオリゴヌクレオチドは、ホスホロチオエート骨格を備えるもの、およびヘテロ原子骨格、CH
2--NH--O--CH
2、CH、--N(CH
3)--O--CH
2 [メチレン(メチルイミノ)またはMMI骨格として知られている]、CH
2--O--N(CH
3)--CH
2、CH
2--N(CH
3)--N(CH
3)--CH
2およびO--N(CH
3)--CH
2--CH
2骨格(ここで、ネイティブなホスホジエステル骨格はO--P--O--CHと表される)を備えるものを含んでいる。De Mesmaekeret al. Acc. Chem. Res. 1995, 28:366-374によって開示されているアミド骨格も、本書において具体化される。いくつかの実施形態において、モルホリノ骨格構造を有する核酸配列(Summerton and Weller, U.S. Pat. No. 5,034,506)、ペプチド核酸(PNA)骨格(オリゴヌクレオチドのホスホジエステル骨格がポリアミド骨格に置き換えられており、核酸塩基がポリアミド骨格のアザ窒素原子に直接的または間接的に結合している)を有する核酸配列(Nielsen et al. Science 1991, 254, 1497)。核酸配列はまた、1つ以上の置換された糖部分を含み得る。核酸配列はまた、ペントフラノシル基の代わりに、シクロブチル等の糖疑似体を有し得る。
【0086】
核酸配列はまた、追加的に、または代替的に、核酸塩基(しばしば当該分野において単に「塩基」と呼ばれる)の改変および置換を含み得る。本書において使用されるとき、「改変されていない」または「天然の」核酸塩基は、アデニン(A)、グアニン(G)、チミン(T)、シトシン(C)およびウラシル(U)を含んでいる。改変された核酸塩基は、天然の核酸において稀にまたは一過的にしか見出されない核酸塩基(例えば、ヒポキサンチン、6−メチルアデニン、5−Meピリミジン(特には5−メチルシトシン(5−メチル−2’デオキシシトシンとも呼ばれ、しばしば当該分野において5−Me−Cとも呼ばれる)、5−ヒドロキシメチルシトシン(HMC)、グリコシルHMCおよびゲントビオシルHMC)、ならびに合成核酸塩基(例えば、2−アミノアデニン、2−(メチルアミノ)アデニン、2−(イミダゾリルアルキル)アデニン、2−(アミノアルキルアミノ)アデニンまたは他のヘテロ置換アルキルアデニン、2−チオウラシル、2−チオチミン、5−ブロモウラシル、5−ヒドロキシメチルウラシル、8−アザグアニン、7−デアザグアニン、N
6(6−アミノヘキシル)アデニンおよび2,6−ジアミノプリン))を含んでいる。Kornberg, A., DNA Replication, W. H. Freeman & Co., SanFrancisco, 1980, pp75-77; Gebeyehu, G., et al. Nucl. Acids Res. 1987, 15:4513。当該分野で知られている「遍在的な」塩基(例えば、イノシン)も含まれ得る。5−Me−C置換は、核酸二本鎖安定性を0.6〜1.2℃増加させることが示されている(Sanghvi, Y. S., in Crooke, S. T. and Lebleu, B., eds., AntisenseResearch and Applications, CRC Press, Boca Raton, 1993, pp. 276-278)。
【0087】
本発明の核酸配列の別の改変は、核酸配列と化学結合している、オリゴヌクレオチドの活性または細胞吸収を向上させる1つ以上の部分または共役を含んでいる。そのような部分としては、脂質部分(コレステロール部分、コレステリル部分(Letsinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1989, 86, 6553)、コール酸(Manoharan et al. Bioorg. Med. Chem. Let. 1994, 4, 1053)等)、チオエステル(例えば、ヘキシル−S−トリチルチオール(Manoharan et al. Ann. N.Y. Acad. Sci. 1992, 660, 306;Manoharan et al. Bioorg. Med. Chem. Let. 1993, 3, 2765)、チオコレステロール(Oberhauser et al., Nucl. Acids Res. 1992, 20, 533))、脂肪鎖(例えば、ドデカンジオールまたはウンデシル残基(Saison-Behmoaras et al. EMBO J. 1991, 10, 111;Kabanov et al. FEBS Lett. 1990, 259, 327;Svinarchuket al. Biochimie 1993, 75, 49))、リン脂質(例えば、ジ−ヘキサデシル−rac−グリセロールまたはトリエチルアンモニウム1,2−ジ−O−ヘキサデシル−rac−グリセロ−3−H−ホスホナート(Manoharanet al. Tetrahedron Lett. 1995, 36, 3651;Shea et al.Nucl. Acids Res. 1990, 18, 3777))、ポリアミンまたはポリエチレングリコール鎖(Manoharanet al. Nucleosides & Nucleotides 1995, 14, 969)、またはアダマンタン酢酸(Manoharan et al. Tetrahedron Lett. 1995, 36, 3651)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0088】
所定の核酸配列における全ての位置について均一に改変されている必要はなく、実際、2つ以上の前述の改変が1つの核酸配列中に組み込まれていてもよいし、核酸配列内の1つのヌクレオシド内において組み込まれていてもよい。
【0089】
いくつかの実施形態において、RNA分子(例えば、crRNA、tracrRNA、gRNA)は、1つ以上の改変された核酸塩基を含むよう操作されていてもよい。例えば、RNA分子の公知の改変は、例えば、Genes VI, Chapter 9 (“Interpreting the Genetic Code”), Lewis, ed.(1997, Oxford University Press, New York)、およびModificationand Editing of RNA, Grosjean and Benne, eds. (1998, ASM Press, Washington DC)において見出すことができる。改変されたRNA成分としては、以下が挙げられる:2’−O−メチルシチジン;N
4−メチルシチジン;N
4−2’−O−ジメチルシチジン;N
4−アセチルシチジン;5−メチルシチジン;5,2’−O−ジメチルシチジン;5−ヒドロキシメチルシチジン;5−ホルミルシチジン;2’−O−メチル−5−ホルマイルシチジン;3−メチルシチジン;2−チオシチジン;リシジン;2’−O−メチルウリジン;2−チオウリジン;2−チオ−2’−O−メチルウリジン;3,2’−O−ジメチルウリジン;3−(3−アミノ−3−カルボキシプロピル)ウリジン;4−チオウリジン;リボシルチミン;5,2’−O−ジメチルウリジン;5−メチル−2−チオウリジン;5−ヒドロキシウリジン;5−メトキシウリジン;ウリジン5−オキシ酢酸;ウリジン5−オキシ酢酸メチルエステル;5−カルボキシメチルウリジン;5−メトキシカルボニルメチルウリジン;5−メトキシカルボニルメチル−2’−O−メチルウリジン;5−メトキシカルボニルメチル−2’−チオウリジン;5−カルバモイルメチルウリジン;5−カルバモイルメチル−2’−O−メチルウリジン;5−(カルボキシヒドロキシメチル)ウリジン;5−(カルボキシヒドロキシメチル)ウリジンメチルエステル;5−アミノメチル−2−チオウリジン;5−メチルアミノメチルウリジン;5−メチルアミノメチル−2−チオウリジン;5−メチルアミノメチル−2−セレノウリジン;5−カルボキシメチルアミノメチルウリジン;5−カルボキシメチルアミノメチル−2’−O−メチル−ウリジン;5−カルボキシメチルアミノメチル−2−チオウリジン;ジヒドロウリジン;ジヒドロリボシルチミン;2’−メチルアデノシン;2−メチルアデノシン;N
6Nメチルアデノシン;N
6,N
6−ジメチルアデノシン;N
6,2’−O−トリメチルアデノシン;2メチルチオ−N
6Nイソペンテニルアデノシン;N
6−(シス−ヒドロキシイソペンテニル)−アデノシン;2−メチルチオ−N
6−(シス−ヒドロキシイソペンテニル)−アデノシン;N
6−(グリシニルカルバモイル)アデノシン;N
6トレオニルカルバモイルアデノシン;N
6−メチル−N
6−トレオニルカルバモイルアデノシン;2−メチルチオ−N
6−メチル−N
6−トレオニルカルバモイルアデノシン;N
6−ヒドロキシノルバリルカルバモイルアデノシン;2−メチルチオ−N
6−ヒドロキシノルバリルカルバモイルアデノシン;2’−O−リボシルアデノシン(リン酸塩);イノシン;2’O−メチルイノシン;1−メチルイノシン;1,2’−O−ジメチルイノシン;2’−O−メチルグアノシン;1−メチルグアノシン;N
2−メチルグアノシン;N
2,N
2−ジメチルグアノシン;N
2,2’−O−ジメチルグアノシン;N
2,N
2,2’−O−トリメチルグアノシン;2’−O−リボシルグアノシン(リン酸塩);7−メチルグアノシン;N
2,7−ジメチルグアノシン;N
2,N
2,7−トリメチルグアノシン;ワイオシン;メチルワイオシン;修飾中ヒドロキシワイブトシン;ワイブトシン;ヒドロキシワイブトシン;ペルオキシワイブトシン;クエオシン;エポキシクエオシン;ガラクトシル−クエオシン;マンノシル−クエオシン;7−シアノ−7−デアザグアノシン;アラカエオシン[7−ホルムアミド−7−デアザグアノシンとも呼ばれる];および7−アミノメチル−7−デアザグアノシン。
【0090】
本発明の単離された核酸分子は、標準的な技術によって作製することができる。例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術が、本書に記載されているヌクレオチド配列を含んでいる単離された核酸を得るために使用され得る。様々なPCR法が、例えば、PCR Primer: A Laboratory Manual, Dieffenbachand Dveksler, eds., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1995に記載されている。概して、対象領域の末端またはその先の領域の配列情報を用いて、増幅すべきテンプレートの逆側の鎖と配列が同一または類似しているオリゴヌクレオチドプライマーを設計する。様々なPCR戦略も利用することができ、これによって、部位特異的ヌクレオチド配列修飾をテンプレート核酸に導入できる。
【0091】
単離された核酸は、1つの核酸分子として化学合成されてもよいし(例えば、ホスホラミダイト法を用いた、3’から5’方向の自動DNA合成を用いて)、または一連のオリゴヌクレオチドとして化学的に合成されてもよい。例えば、1つ以上の長鎖オリゴヌクレオチド対(例えば、50超〜100ヌクレオチド)を、所望の配列を含むように合成してもよい。上記合成においては、それぞれのオリゴヌクレオチド対は、アニーリングされたときに二本鎖となる領域を形成するような、相補的な短いセグメント(例えば、約15ヌクレオチド)を含んでいる。オリゴヌクレオチドを伸長するためにDNAポリメラーゼが使用され、その結果、各オリゴヌクレオチド対につき1つの二本鎖核酸分子が得られる。そして、この二本鎖核酸分子は、ベクター内にライゲーションされ得る。
【0092】
本発明はまた、組み込まれているプロウイルスHIVDNAの、哺乳類対象における不活性化のための薬学的組成物を含んでいる。当該組成物は、Casエンドヌクレアーゼをコードしている単離された核酸配列、およびプロウイルスHIVDNAにおける標的配列に相補的な少なくとも1つのgRNAをコードしている単離された核酸配列を含んでおり;上記単離された核酸配列は、少なくとも1つの発現ベクターに含まれている。好ましい実施形態において、当該薬学的組成物は、第1のgRNAおよび第2のgRNAを含んでおり、上述のように、当該第1のgRNAは上記HIVLTRにおける部位を標的としており、当該第2のgRNAはHIV構造遺伝子における部位を標的としている。
【0093】
薬学的組成物に含まれる例示的な発現ベクターとしては、プラスミドベクターおよびレンチウイルスベクターが挙げられるが、本発明はこれらベクターに限定されない。広く様々な宿主/発現ベクターの組み合わせが、本書に記載の核酸配列を発現するために使用され得る。適切な発現ベクターとしては、プラスミドおよびウイルスベクター(例えば、バクテリオファージ、バクロウイルス、およびレトロウイルスに由来する)が挙げられるが、これらに限定されない。多数のベクターおよび発現系がNovagen(ウィスコンシン州マディソン)、Clontech(カリフォルニア州パロアルト)、Stratagene(カリフォルニア州ラ・ホヤ)、およびInvitrogen/LifeTechnologies(カリフォルニア州カールズバッド)などの会社から購入可能である。マーカー遺伝子は宿主細胞に選択可能な表現系を与え得る。例えば、マーカーは、抗生物質(例えば、カナマイシン、G418、ブレオマイシン、またはヒグロマイシン)抵抗性などの殺生物剤抵抗性を与え得る。発現ベクターは、発現したポリペプチドの操作または検出(例えば、精製または局在化)を促進するよう設計されたタグ配列を含み得る。タグ配列(緑色蛍光タンパク質(GFP)、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)、ポリヒスチジン、c−myc、ヘマグルチニン、またはFLAG(商標)タグ(Koda,コネチカット州ニューヘブン)配列など)は、典型的には、コードされているポリペプチドとの融合物として発現する。そのようなタグは、ポリペプチド内のどこにでも(カルボキシル末端とアミノ末端とのいずれかにおける挿入を含む)挿入され得る。
【0094】
ベクターは、調節領域も含んでもよい。用語「調節領域」は、転写または翻訳の開始および速度、ならびに転写産物または翻訳産物の安定性および/または移動性に影響を及ぼす、ヌクレオチド配列を指す。調節領域としては、プロモーター配列、エンハンサー配列、応答要素、タンパク質認識部位、誘導要素、タンパク質結合配列、5’非翻訳領域および3’非翻訳領域(UTR)、転写開始部位、終止配列、ポリアデニル化配列、核局在化シグナル、およびイントロンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0095】
望むのであれば、本発明のポリヌクレオチドはまた、マイクロ送達ビヒクル(カチオン性リポソームおよびアデノウイルスベクターなど)と共に使用されてもよい。リポソームの調製、標的化および内容物の送達の手順の説明としては、Mannino and Gould-Fogerite, BioTechniques, 6:682 (1988)を参照のこと。また、Felgner and Holm, Bethesda Res. Lab. Focus, 11(2):21 (1989) andMaurer, R.A., Bethesda Res. Lab. Focus, 11(2):25 (1989)も参照のこと。
【0096】
本発明の組成物は、プロウイルスHIV−1の活性化の抑制、または組み込まれているHIV−1の部分的または全体的な除去をもたらし(実施例2および3)、本発明はレトロウイルス(例えば、HIV)に感染している哺乳類対象を処置する方法を提供する。当該方法は、哺乳類対象がレトロウイルスに感染していることを決定する工程、上記の薬学的組成物の有効量を投与する工程、およびレトロウイルス感染に関して上記哺乳類対象を処置する工程を含んでいる。
【0097】
当該方法は、AIDSおよび他のレトロウイルス疾患の処置および予防に不可欠な、組み込まれているプロウイルスの問題に対する解決法を表す。HIV感染の急性期においては、HIVウイルス粒子は、固有のCD4受容体分子を発現している細胞に侵入する。一旦ウイルスが宿主細胞に侵入すると、HIVにコードされている逆転写酵素がHIVRNAのプロウイルスDNAコピーを生成し、プロウイルスDNAは宿主細胞のゲノムDNAに組み込まれる。宿主細胞によって複製されるのは、このHIVプロウイルスである。その結果、他の細胞に感染し得る新たなHIVウイルス粒子が放出される。
【0098】
一次HIV感染症は数週間から数カ月以内に沈静化し、通常はその後、最長10年間にも及ぶことのある、長期臨床「潜伏」期間がある。この潜伏期間中は、臨床的症候および末梢血の単核球における検知可能なウイルス複製がなく、また、末梢血において培養可能なウイルスが、少ししかないか、全くない場合がある。しかしながら、HIVウイルスは、非常に低いレベルで繁殖し続けている。抗レトロウイルス療法によって処置された対象では、この潜伏期間が数十年以上にも及ぶことがある。抗レトロウイルス療法は、低いレベルのウイルスゲノム発現は抑制せず、潜伏感染細胞(休眠期記憶T細胞、単球、脳マクロファージ、小膠細胞、星状膠細胞、および腸関連リンパ系細胞など)を効率的には標的にしない。本発明の組成物はHIVプロウイルスを不活性化または除去し得るので、当該組成物を用いた処置方法はHIV感染に対する攻撃の新たな手段を構成する。
【0099】
本発明の組成物は、潜伏的な宿主細胞において安定的に発現しているとき、レトロウイルス(例えばHIV)による新たな感染を低減または防止する(実施例3)。したがって、本発明はまた、感染のリスクにさらされている哺乳類対象におけるレトロウイルス感染(例えばHIV感染)のリスクを下げるための処置の方法を提供する。当該方法は、哺乳類対象がHIV感染のリスクにさらされていることを決定する工程、上記の薬学的組成物の有効量を投与する工程、および上記哺乳類対象におけるHIV感染のリスクを下げる工程を含んでいる。好ましくは、当該薬学的組成物は、前記で列挙したうちの少なくとも1つの安定的および/または誘導的な発現を与えるベクターを含んでいる。
【0100】
本発明に係る薬学的組成物は、当業者に公知の種々の方法で調製され得る。例えば、上記の核酸およびベクターは、組織培養における細胞に適用するための組成物または患者もしくは対象に投与するための組成物において製剤され得る。これら組成物は、薬学分野においてよく知られている方法において調製され得、局所的処置と全体的処置とのいずれが望まれているか、および処置される部位に応じて、種々の経路によって投与され得る。投与は、局所投与(点眼および粘膜(鼻腔、膣、および直腸を含む)への送達を含む)、肺内投与(例えば、粉末またはエアロゾルの吸入または吹送(噴霧器によるものを含む)による;気管内、鼻腔内、表皮、および経皮)、点眼投与、経口投与または非経口投与であり得る。目への送達方法としては、(i)局所投与(点眼)、(ii)結膜下、眼周囲もしくは硝子体内への注射、または(iii)バルーンカテーテルもしくは手術により結膜嚢に配置された眼内挿入物による導入、が挙げられる。非経口投与としては、(i)静脈内、動脈内、皮下、腹腔内もしくは筋肉内への注射もしくは注入、または(ii)頭蓋内投与(例えば、クモ膜下投与またはは脳室内投与)が挙げられる。非経口投与は、単回のボーラス投与の形態で行われてもよいし、例えば、連続潅流ポンプによって行われてもよい。局所投与用の薬学的組成物および製剤としては、経皮パッチ、軟膏、ローション、クリーム、ゲル、滴薬、座薬、スプレー、液体、粉末、などが挙げられる。従来の薬学的担体(水系、粉末系または油系の基剤、増粘剤など)が、必要であるかまたは望ましい場合がある。
【0101】
本発明はまた、有効成分として、本書に記載の核酸およびベクターを、1つ以上の薬学的に許容できる担体との組み合わせにおいて含んでいる薬学的組成物を含んでいる。本書において使用されるとき、用語「薬学的に許容できる」(または「薬理学的に許容できる」)は、動物またはヒトに適宜投与されたときに、有害反応、アレルギー性反応、または他の不都合な反応を起こさない、分子的実体および組成物を指す。本書において使用されるとき、用語「薬学的に許容できる担体」は、薬学的に許容できる物質のための媒体として使用され得る、溶媒、分散媒、被膜、抗菌剤、等張剤、および吸収遅延剤、緩衝剤、賦形剤、結合剤、潤滑剤、ゲル、界面活性剤、などのいずれかおよび全てを含んでいる。本発明の組成物の製造において、当該有効成分は典型的に賦形剤と混合されるか、賦形剤によって希釈されるか、またはそのような担体中に(例えば、カプセル、錠剤、小袋、紙包み、またはその他の容器の形態において)封入される。賦形剤が希釈剤として機能する場合、当該賦形剤は、固体、半固体、または液体材料(例えば、生理食塩水)であってもよく、有効成分用のビヒクル、担体、または媒体としての役割を果たす。それゆえ、組成物は、錠剤、ピル、粉末、トローチ剤、小袋、カシェ剤、エリキシル剤、懸濁液、エマルション、溶液、シロップ、エアロゾル(固体として、または液体媒体中の)、ローション、クリーム、軟膏、ゲル、軟質および硬質ゼラチンカプセル、座薬、無菌注射液、ならびに無菌包装粉末の形態であり得る。当該技術分野で知られているとおり、希釈剤の種類は、目的とする投与経路に合わせて変わり得る。得られる組成物は、追加の薬剤(防腐剤など)を含んでもよい。いくつかの実施形態において、担体は、脂質系もしくは重合体系コロイドであるか、またはこれらを含んでもよい。いくつかの実施形態において、担体材料は、リポソーム、ヒドロゲル、微粒子、ナノ粒子、またはブロック共重合体ミセルとして製剤された、コロイドであってもよい。上述のとおり、担体材料はカプセルを形成してもよく、その材料は重合体系コロイドであってもよい。
【0102】
本発明の核酸配列は、対象の適切な細胞へと送達され得る。これは、例えば、食細胞(マクロファージなど)による食作用に最適な大きさの、重合体送達ビヒクル、生分解性微粒子送達ビヒクル、またはマイクロカプセル送達ビヒクルを用いることで達成され得る。例えば、直径約1〜10μmのPLGA(ポリ−ラクト−コ−グリコリド)微粒子が使用され得る。ポリヌクレオチドはこれら微粒子内に格納され、マクロファージによって取り込まれて、細胞内で徐々に生分解される。これによって、ポリヌクレオチドが放出される。ポリヌクレオチドが放出されると、細胞内でDNAが発現する。第2の種類の微粒子は細胞によって直接取り込まれず、主に核酸の徐放性保有体として機能する。上記核酸は、生分解を通じて微粒子から放出されたときのみ、細胞によって取り込まれる。したがって、これらの重合体粒子は、食作用を妨げるために、十分な大きさであるべきである(すなわち、5μmより大きく、好ましくは20μmより大きい)。核酸を能動的に取り込む別の方法は、リポソーム(標準的な方法で調製される)を使用することである。核酸は、これらの送達ビヒクルに単独で組み込まれてもよいし、組織特異的抗体と共に組み込まれてもよい。当該組織特異的抗体としては、例えば、HIV感染の一般的な潜伏感染保有体である細胞型(例えば、脳マクロファージ、小膠細胞、星状膠細胞、および腸関連リンパ系細胞)を標的にする抗体が挙げられる。あるいは、電気的にまたは共有結合によってポリ−L−リジンに結合している、プラスミドまたは他のベクターから構成される分子複合体を調製してもよい。ポリ−L−リジンは、標的細胞の受容体に結合し得るリガンドに結合する。インビボでの発現を実現する別の手段では、「そのままのDNA」(すなわち、送達媒体を含まない)を、筋肉内、皮膚内または皮下の部位へ送達する。関連するポリヌクレオチド(例えば、発現ベクター)において、CRISPR関連エンドヌクレアーゼおよびガイドRNAをコードしている配列を含んでいる単離された核酸配列をコードしている核酸配列は、プロモーターまたはエンハンサーとプロモーターとの組み合わせと操作可能に結合されている。プロモーターおよびエンハンサーは上記に記載されている。
【0103】
いくつかの実施形態において、本発明の組成物は、ナノ粒子(例えば、(i)DNAと複合体を形成している高分子量線状ポリエチレンイミン(LPEI)のコアを有し、さらに(ii)ポリエチレングリコールによって修飾された(PEG化された)低分子量LPEIのシェルによって覆われている、ナノ粒子)として製剤され得る。
【0104】
核酸およびベクターは、器具(例えば、カテーテル)の表面に適用されてもよいし、ポンプ、パッチ、または他の薬物送達装置内に含まれていてもよい。本発明の核酸およびベクターは単独で投与されてもよいし、薬学的に許容できる賦形剤または担体(例えば、生理的食塩水)の存在下において混合物として投与されてもよい。賦形剤または担体は、投与の方法および経路に基づいて選択される。適切な薬学的担体は、医薬製剤における使用のための医薬必需品と共に、当該分野においてよく知られた参考書であるRemington's Pharmaceutical Sciences (E. W. Martin)およびUSP/NF (United States Pharmacopeia and the National Formulary)に記載されている。
【0105】
いくつかの実施形態において、組成物は、Cas9またはバリアントCas9および標的HIVに相補的な少なくとも1つのgRNA配列をコードしている核酸を内包しているナノ粒子として製剤され得るか、またはこれら構成要素をコードしているベクターを含み得る。あるいは、組成物は、CRISPR関連エンドヌクレアーゼ本発明の1つ以上の核酸組成物によってコードされているポリペプチドを内包しているナノ粒子として製剤され得る。
【0106】
組成物が核酸として投与されるかポリペプチドとして投与されるかに関わらず、組成物は、哺乳動物細胞による取り込みを促進するように製剤される。有用なベクターシステムおよび製剤は、上述したとおりである。いくつかの実施形態において、ベクターは、組成物を特定の細胞型に送達することができる。しかしながら、本発明はこれに限定されず、物理的送達方法(エレクトロポーション法、マイクロインジェクション、弾道粒子、および「遺伝子銃」システムなど)と同様に、他のDNA送達方法(例えば、リン酸カルシウム、DEAEデキストラン、リポソーム、リポプレックス、界面活性剤、およびペルフルオロ薬液を使用した化学的トランスフェクションなど)が予期される。
【0107】
他の実施形態において、組成物は、1つ以上のCas/gRNAベクターを用いて形質転換またはトランスフェクションされた細胞を含んでいる。いくつかの実施形態において、本発明の方法は、エクスビボで適用することができる。すなわち、対象の細胞を体から取り出し、培養中に組成物で処置して例えばHIVウイルス配列を切除し、処置された細胞を上記対象の体に戻してもよい。細胞は、対象の細胞であってもよいし、ハプロタイプ適合細胞または細胞株であってもよい。細胞は、複製を防止するために放射線が照射されていてもよい。いくつかの実施形態において、細胞はヒト白血球抗原(HLA)適合細胞、自家移植細胞、細胞株、またはそれらの組み合わせである。他の実施形態において、細胞は幹細胞であってもよい。例えば、胚性幹細胞または人工的な多能性幹細胞(人工多能性幹細胞(iPS細胞))が挙げられる。胚性幹細胞(ES細胞)および人工的な多能性幹細胞(人工多能性幹細胞、iPS細胞)は、ヒトを含む多数の動物種から確立されてきた。これらの種類の多能性幹細胞は、再生医療用の細胞の最も有用な供給源と考えられる。なぜなら、これらの細胞は、その多能性を保有しつつ活発に分裂する能力を維持しながら、適切な分化誘導によって、ほとんど全ての器官へと分化可能であるからである。特にiPS細胞は、自己由来の体細胞から確立することができる。したがって、胚を破壊することによって作製されるES細胞と比較して、倫理的および社会的問題を引き起こす可能性が低い。さらに、iPS細胞は自己由来の細胞であるので、再生医療または移植療法において最大の障害となる拒絶反応を回避することが可能になる。
【0108】
単離された核酸は、当該分野で公知の方法(例えば、siRNAを送達する方法)によって対象へ容易に送達され得る。いくつかの局面において、Casは、当該Cas分子の活性ドメインを含んでいるフラグメントであり得、それによって分子のサイズが削減されている。それゆえ、Cas9/gRNA分子は、現在の遺伝子治療に採用されているアプローチと同様に、臨床的に使用され得る。特に、細胞移植療法およびワクチン接種のためのCas9/二重鎖gRNA安定発現幹細胞またはiPS細胞が、対象における使用のために開発され得る。
【0109】
形質導入された細胞が、確立された方法に従って自家輸血のために調製される。約2〜4週間の培養期間の後、細胞は1×10
6から1×10
10の間の数になり得る。この点については、細胞の増殖特性は、患者間および細胞の種類間で変わる。形質導入された細胞の自家輸血前の約72時間、表現型の分析および治療剤を発現している細胞のパーセンテージのために一部が採取される。投与については、本発明の細胞は、細胞型のLD
50ならびに患者の体重および全体的な健康に適用されるときの様々な濃度における細胞型の副作用によって決定される割合において投与され得る。投与は1回投与または分割投与を介して達成され得る。成体幹細胞は、それらの産生を刺激し組織または空隙(骨髄または脂肪組織が挙げられるが、これらに限定されない)から出る、外因的に投与される因子を用いて集められてもよい。
【0110】
(処置の方法)
ある実施形態において、細胞または対象におけるレトロウイルスゲノムを排除する方法は、Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat(CRISPR)関連エンドヌクレアーゼおよびレトロウイルスゲノムにおける標的核酸配列に相補的な少なくとも1つのガイドRNA(gRNA)をコードしている単離された核酸配列の治療的有効量を含んでいる薬学的組成物を、上記細胞に接触させるか、または上記対象に投与する工程を含んでいる。
【0111】
他の実施形態において、細胞または対象におけるレトロウイルの複製を阻害する方法は、Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat(CRISPR)関連エンドヌクレアーゼおよびレトロウイルスゲノムにおける標的核酸配列に相補的な少なくとも1つのガイドRNA(gRNA)をコードしている単離された核酸配列の治療的有効量を含んでいる薬学的組成物を、上記細胞に接触させるか、または上記対象に投与する工程を含んでいる。
【0112】
レトロウイルス感染(例えば、HIV感染)の処置方法において、対象は、標準的な臨床テスト(例えば、対象の血清におけるHIV抗体もしくはHIVポリペプチドp24の存在を検出するイムノアッセイ、またはHIV核酸増幅アッセイを通じて)を用いて同定され得る。対象に与えられる組成物の量であって、感染の症候の完全解消、感染の症候の重篤度の低減、または感染の進行の減速をもたらす量を、治療的有効量とみなす。本発明の方法は、投与量および投与計画を最適化するための監視工程に加えて、結果を予測する工程も含んでいてもよい。本発明のいくつかの方法において、まず患者が潜伏的なHIV感染を有しているか否かを判定し、次いで本書に記載の1つ以上の組成物を用いて患者を処置するか否かを決定してもよい。いくつかの実施形態において、当該方法はさらに、患者が保有する特定のHIVの核酸配列を決定する工程、および次いでそれらの特定の配列に相補的になるようにガイドRNAを設計する工程を含んでいてもよい。例えば、対象のLTRのU3領域、R領域もしくはU5領域、またはpol、gag、もしくはenv遺伝子、領域の核酸配列を決定し、次いで患者の配列に正確に相補的になるように1つ以上のgRNAを設計または選択し得る。本発明によって提供される新規なgRNAは、効果的な処置を構築するチャンスを大いに高める。
【0113】
HIV感染のリスクを低減する方法において、HIV感染を有するリスクのある対象は、例えば、無防備な性交を行っている(すなわち、コンドームを使用しない性行為を行っている)任意の現在性交渉のある個体;別の性感染症を有している現在性交渉のある個体;静注ドラッグ使用者;または割礼を受けていない男性であり得る。HIV感染を有するリスクのある対象は、例えば、職業上HIV感染した人々と接触することになる個体(例えば、医療関係者または初期対応者)であり得る。HIV感染を有するリスクのある対象は、例えば、矯正施設の収容者、またはセックスワーカー(すなわち、収入を得る仕事のために、または貨幣以外のもの(食物、薬物、または宿など)のために、性交を行う個体)であり得る。
【0114】
本発明はまた、CRISPR関連ヌクレアーゼ(例えば、Cas9エンドヌクレアーゼ)をコードしている単離された核酸配列およびHIVプロウイルスにおける標的配列に相補的なgRNAをコードしている少なくとも1つの単離された核酸配列を含んでいるキットを含んでいる。あるいは、少なくとも1つの単離された核酸配列は、ベクター(発現ベクターなど)中にコードされ得る。キットの考え得る使用としては、HIV感染の処置または予防が挙げられる。好ましくは、キットは、使用のための指示書、シリンジ、送達デバイス、緩衝剤滅菌容器および希釈剤、または処置もしくは予防に必要な他の試薬を含んでいる。キットはまた、適切な安定化剤、担体分子、香料などを、適宜目的の用途に合わせて含んでいてもよい。
【0115】
本発明の種々の実施形態が上記に記載されているが、それらは単に例示として示されているのであって、それらに限定されないことが理解されるべきである。開示されている実施形態に対する多数の変更が、本発明の趣旨または範囲から離れることなく、本書の開示に従って行われ得る。それゆえ、本発明の広がりおよび範囲は、上記に記載されている実施形態のいずれかによって限定されるべきではない。
【0116】
本出願に引用されている全ての刊行物および特許文献が、個々の刊行物または特許文献が個々に意味するのと同じ範囲で、全ての目的のために参照によって組み込まれる。出願人は、本書における種々の引用のそれら列挙によって、任意の特定の引用がそれら発明に対する「先行技術」であると認めるわけではない。
【実施例】
【0117】
(実施例1:材料および方法)
レンチウイルスベクターにおけるsgRNAのクローニング:高効率および高い特異性の最良スコアのための、バイオインフォマティクスspCas9 sgRNA設計ツールを用いて、HIV−1 LTR−U3領域内に、20のsgRNA標的部位、ならびにGagについて4つのsgRNA、Polについて2つのsgRNA、およびEnvについて2つのsgRNAを設計した(表1)。これらのsgRNAシード配列のすべてを、sgRNAレンチウイルスベクター(Addgene #50946)から改変された、改変sgRNA発現pKLV−Wgレンチウイルスベクター(
図1B)に、クローニングした。簡単に説明すると、pKLV−Wgベクターを、BbsIを用いて消化し、Antarctic Phosphataseを用いて処理し、直鎖化されたベクターを、Quickヌクレオチド除去キット(Qiagen)を用いて精製した。等量のセンスガイドおよびアンチセンスガイド(1μlに100 M)を、ポリヌクレオチドキナーゼ(PNK、1μl)、1xPNKバッファーおよび1mMのATPと混合し、30分にわたって37℃においてインキュベートし、PCR機器においてアニーリングした(5分にわたる95℃、−1℃/1サイクル15秒を70サイクル)。リン酸化されているオリゴ二本鎖(10μM)を、1:100希釈して、作業溶液(100nM)を得た。それから、1μlのオリゴ二本鎖(0.1pmol)を、BbsI消化された3.5μlのpKLV-WGベクター(0.015pmol)、5μlの2xT7リガーゼ反応バッファーおよび0.5μlのT7 DNAリガーゼ(NEB)と混合した。混合物を、室温において15〜30分にわたってインキュベートし、氷上で冷やし、Stabl3コンピテント細胞に形質転換した。T351(U6/5’)およびsgRNAリバースプライマーを用いるPCR用に、2〜4コロニーを拾う。2つのPCR陽性クローンを、LB/Amp培地において、37℃、一晩、増殖させる。翌日、ミニプレッププラスミドDNAを、T428(hU6−配列/5’/F)による配列決定のために、Genewiz Inc.に送った。U6プロモータ、sgRNAおよびポリTターミネータを含んでいる、sgRNA発現カセットの全体を、GeneRunnerプログラムを用いた配列分析によって確認した。
【0118】
EcoHIV-ルシフェラーゼレポータアッセイ:HEK293T細胞(5x10e4/ウェル)を、96ウェルプレート、10%のFBSおよび抗生物質(10U/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシン)を含んでいる高グルコースDMEM、37℃の5%CO2を有している加湿された環境において培養した。翌日、細胞を、EcoHIV-eLucレポータベクター、pLV-Cas9-RFPベクターおよび示されているsgRNA発現pKLV-Wgベクターを用いて、標準的なリン酸カルシウム沈殿によってコトランスフェクトした。トランスフェクトの2日後に、細胞溶解液を、ONE-Gloルシフェラーゼアッセイシステム(Promega)を用いて調製し、発光を、2104 EnVision(登録商標) Multilabel Reader(PerkinElmer)において測定した。データは、独立した4つのトランスフェクションの平均±SEを表している。空のsgRNAベクターコントロールと比べたときの、単一またはペアのsgRNAにおける相対変化を、算出した。
【0119】
PCR遺伝子型決定、TAクローニングおよびSanger配列決定:96ウェルプレートにおけるHEK293T細胞を、EcoHIV-eLucレポータベクター、pLV-EF1a-spCas9-T2A-RFPベクターおよび示されているgRNA発現ベクターを用いてコトランスフェクトした。2日後、細胞を、10分、95℃、90μlの50mMのNaOHを用いて溶解させ、10μlの1MのTris−HClを用いて中和した。粗製抽出物を、Terra PCR Direct Polymerase Mix(Clontech)および示されているPCRプライマーを用いるPCRに直接、使用した。1分にわたる68℃のアニーリング/伸張および15分にわたる98℃を有している、標準的なPCRの2ステップを、35サイクル実施した。産物を1.5%のアガロースゲルにおいて分離した。目的のバンドを、ゲル精製し、pCRII T-Aベクター(Invitrogen)にクローニングし、個々のクローンのヌクレオチド配列を、ユニバーサルT7および/またはSP6プライマーを用いてGenewizにおける配列決定によって決定した。
【0120】
(実施例2:HIV−1 gRNAスクリーニングおよびインビトロにおけるHIV−1排除についての機能的な性質決定)
CRISPRを介したHIVプロウイルスゲノムの編集にとって有効なgRNAの範囲を広げるために、候補gRNAを、探し、HIV発現の抑制における有効性および宿主細胞におけるHIV−1プロウイルスゲノムの欠失もしくは排除の誘導能についてスクリーニングした。
【0121】
HIV−1ゲノムにおける標的部位に特異的な候補gRNAを、バイオインフォマティック手法によって探した。最小のオフターゲットの可能性(すなわち宿主ゲノムにおける複数の部位に損傷を起こす可能性)を有している候補gRNAを、有効な遺伝子編集をもたらす最も高い見込みについて選択した。LTRのU3制御領域内にある候補gRNAにとっての標的部位シード配列が、
図1Dに示されている。gRNAは、LTR 1、LTR 2、LTR 3、LTR A、LTR B、LTR C、LTR D、LTR E、LTR F、LTR G、LTR H、LTR I、LTR J、LTR K、LTR L、LTR M、LTR N、LTR O、LTR P、LTR Q、LTR R、LTR S、LTR Tを含んでいる。これらのgRNAの配列は表1に示されている。これらの候補gRNAのほとんどは、1500倍まで潜在的なオフターゲット効果を低減し得るCas9ニッカーゼおよびFokIヌクレアーゼを用いた使用のためにペアにされ得る。構造的なgag遺伝子およびpol遺伝子における部位を標的にする候補gRNAが、
図1Cおよび3Aにおいて矢印によって示されている。これらのgRNAは、gag A、gag B、gag C、gag D; pol A、およびpol Bを含んでいる。それらの配列は、表1に示されている。候補gRNAを、
図1Bの下パネルに示されている通り、レンチウイルスレポータベクターにクローニングした。spCas9も、
図1Bの上パネルに示されている通り、レンチウイルスレポータベクターにクローニングした。
【0122】
HEK293T宿主細胞を、HIVレポータコンストラクト(EcoHIV-eLuc)、spCas9用のレポータ発現コンストラクト、およびgRNA用の1つもしくは2つのレポータ発現コンストラクトを用いてコトランスフェクトした。コントロール細胞は、コントロールコンストラクト(“LTR O”)を含んでいた。2日後、細胞溶解物におけるルシフェラーゼ活性を、ONE-GLO(商標) Luciferase Assayシステムを用いて測定した。
【0123】
単独に与えられる候補LTR gRNAのほとんどは、ルシフェラーゼ発現の低下によって決定される通り、宿主細胞におけるHIV−1の発現抑制に有効であった(
図2A)。これらのgRNAは、それから、gag遺伝子およびpol遺伝子における部位を標的にするgRNAとの種々の組み合わせにおいて、コトランスフェクトされた。
図2Bおよび2Cの横軸に示されている組み合わせは、LTR 1、LTR 2、LTR 3、LTR A、LTR B、LTR C、LTR D、LTR E、LTR F、LTR G;LTR H、LTR I、LTR J、LTR K、LTR L、LTR M;LTR N、LTR O、LTR P、LTR Q、LTR R、LTR S、またはLTR Tのうち1つと組み合わせられているGag D;ならびにGag A;GagB;Gag C、Gag D、Pol AまたはPol Bのうち1つと組み合わせられているLTR 3を含んでいた。
【0124】
単一のgRNAのほとんど(
図2A)が、構造的なルシフェラーゼ活性を阻害したが、いくつかはレポータ活性を増強させるか、またはレポータ活性に影響しなかった。データは、LTR内にある単一部位の編集が、HIV−1 LTRプロモータ活性にとっての転写活性化因子または転写抑制因子の結合に影響し得るInDel変異を誘導することを示唆している。
【0125】
しかし、LTR−gRNAのいずれかとペアにされているGag−DのgRNAは、64〜96%までルシフェラーゼ活性を低下させた(
図2B)。これらのデータは、設計されたすべてのgRNAが、プラスミドの段階における標的部位の遺伝子編集を誘導したことを示唆している。LTR−sgRNAのいずれかとのGagの組み合わせは、LTRのコアプロモータを欠失させ、したがって、プロモータ活性の著しい低下を誘導する。残っているレポータルシフェラーゼ活性は、spCas9または2つのsgRNAのいずれかを含んでいないEcoHIVレポータ発現細胞の小集団を反映し得る。なお、低下効果は、同じ細胞における4つすべてのプラスミド:EcoHIV-eLuc、spCas9、2つのsgRNAの存在を必要とする。
【0126】
設計されたGag gRNAまたはPol gRNAのいずれか1つとペアにされているLTR−3 gRNAも、73〜93%までルシフェラーゼレポータ活性を劇的に低下させた(
図2C)。これらのデータは、構造的なGag領域またはPol領域を標的にする設計されたすべてのgRNAが、プラスミドの段階における標的部位の遺伝子編集を誘導したことを示唆している。構造領域内にある、sgRNAのいずれかとのLTR−3の組み合わせは、切断部位の間における、LTRコアプロモータおよび構造ゲノムを欠失させ、したがって、プロモータ活性の劇的な低下を誘導する。そのような証明済の概念は、任意のLTR−sgRNAおよび構造領域(例えば、Gag、polおよびEnv)もしくは両端のLTRの間にある任意の他の非構造領域を標的にする任意の他のsgRNAに適用可能である。残っているレポータルシフェラーゼ活性は、spCas9ベクターまたは2つのsgRNAベクターのいずれかを含んでいないEcoHIVレポータ発現細胞の小集団を反映し得る。なお、低下効果は、同じ細胞における4つすべてのプラスミド:EcoHIV-eLuc、spCas9、2つのsgRNAの存在を必要とする。
【0127】
次に、HIV−1発現の抑制が、HIV−1プロウイルスゲノムの欠失または断片を反映しているか否かを決定した。HEK293T細胞を、EcoHIV-eLucレポータベクター、pLV-EF1a-spCas9-T2A-RFPベクターおよびgRNA発現ベクターを用いてコトランスフェクトした。2日後、細胞を、10分、90℃において50mMのNaOHを用いて溶解させ、1MのTris−HClを用いて中和した。粗製抽出物を、Terra PCR Direct Polymerase Mix(Clontech)および示されているPCRプライマーを用いる、PCRに直接、使用した。
【0128】
第1のプライマーセットを使用したとき(
図3A)、設計された標的部位の切断後に、PCR断片は、20のLTR sgRNAのうち17において、予想されたサイズを示した。LTR−F、LTR−GおよびLTR−Kのみは、排除を示さず、これらが5’−LTRを切断できないか、または5’−LTRの切断にあまり有効でないことを示唆している。これは、
図2Aに示されている通り、LTR−F、LTR−GおよびLTR−Kの単一sgRNAトランスフェクションを用いた有効でない結果またはより小さい有効性の結果を一致する。有効なsgRNAのなかでも、対応する未切断断片に対する切断断片の比率によって検出されるような切断効率は、LTR sgRNAにおいて最も高かった。興味深いことに、予想された切断断片を超える大きさの付加的なバンドが、ほとんどのペアにおいて認められた。
【0129】
第2のプライマーセットを使用したとき(
図3B)、非特異的なPCR産物を示す2つの弱いバンドがすべてのサンプルにおいて認められた。しかし、設計された標的部位の切断後に、固有のPCR断片は、20のLTR sgRNAのうち16において予想されたサイズを示した。有効なsgRNAのなかでも、予想されたPCR断片の強度によって検出されるような切断効率は、LTR−Q、L、B、S、O、C、IのsgRNAにおいて最も高かった。
【0130】
次に、LTRおよび種々の構造遺伝子を標的にするsgRNAのさらなる組み合わせを試験した。組み合わせは
図3Cに示されている。LTR−1、2、3 sgRNAのなかでも、LTR−1は最高の効率を示した。Gag−A、C、DおよびPol−A、Bは、強い排除効率を示した。Gag−Bは、切断を示さなかった(PCRによって繰り返し確認された、右パネル)。さらに、予想された切断断片を超えるサイズのさらなるバンドが、5’LTR切断にとってのペアにおいて認められた。
【0131】
LTR U3領域における標的部位に相補的なgRNAペアもHIV−1プロウイルスゲノムにおける欠失をもたらすことが、見出された。サンプル調製およびDirect PCRを、以前に説明されているよう実施した。切断後のPCR断片を、TAクローニングおよびSanger配列決定(
図4)のために抽出した。代表的なTAクローニングおよびSanger配列決定は、LTR−1およびLTR−3の間における296bpの欠失、ならびに2つの切断部位の間における180bpの付加的な挿入を支持した。15クローンの配列決定は、2つの切断部位の間における任意のindel変異なしの完全なライゲーションという類似のパターンを示した。180bpの付加的な挿入配列は、NCBI Blastによってベクター配列と一致する。
【0132】
まとめると、結果は、ルシフェラーゼレポータ活性によって示されている通り、候補gRNAのほとんどが2つの標的部位の間における予想されたHIV−1ゲノム配列を排除すること、およびプロウイルス発現を抑制することを示している。特に、1つまたは2つのLTR gRNAとの、ウイルス構造gRNAの組み合わせは、より高い効率のゲノム排除をもたらした。これらの実験結果は、HIV−1ゲノムの効率的な切断を引き起こすためのCRISPRシステムに採用され得るgRNAの範囲を広げる。
【0133】
(実施例3:CRISPR/Cas9遺伝子編集システムを用いた、潜伏感染を受けているT細胞からの、組み込まれているHIV−1ゲノムの排除のための、新規なgRNAの組み合わせおよびベクターシステム)
HIV−1に対して有効なgRNAの範囲をさらに広げ、かつ宿主細胞へのgRNAおよびCas9の送達の自由度を高めるために、実験を実施した。
【0134】
組み合わせ処理の戦略をまず調べた。Hu, et al, 2014において以前に述べられているLTR AとのLTR B’のgRNAの新規な組み合わせ処理を採用した。LTR AおよびLTR ’の配列は、
図11Aに示されており、HIV−1 LTRにおけるそれらの位置は、
図5A〜5Dに示されている。
【0135】
Cas9、LTR AおよびLTR B’ gRNAの組み合わせ発現は、潜伏しているHIVプロウイルスの活性化を抑制し、プロウイルス配列の切除を引き起こす:
図6Aに図示されている実験を、Jurkat2D10レポータT細胞株において実施した。この細胞株は、Nefの代わりにプロウイルス活性化のレポータとしてeGFPを有している、転写に関して不顕性の組み込まれているHIV−1プロウイルスを含んでいる。活性化を、ホルボール12−ミリスチン酸塩13−酢酸塩(PMA)またはトリコスタチンA(TSA)を用いて誘導する。組み込まれているHIV−1レポータ配列が、
図6Aに示されている。誘導された2D10細胞(右パネル)および誘導されていない2D10細胞(左パネル)の蛍光顕微鏡写真が、
図6Bに示されている。誘導された2D10細胞(右パネル)および誘導されていない2D10細胞(左パネル)のフローサイトメトリ分析が、
図6Cに示されている。
【0136】
2D10レポータ細胞(2x10
6/条件)を、10μgのコントロールpX260プラスミド、または5μgずつのpX260 LTR-AおよびpX260 LTR-B'プラスミドによってエレクトロポレーションした(NeonSystem、Invitrogen、10m秒/1350Vパルス、3回)。48時間後に、培地を、0.5ug/mlのピューロマイシンを含んでいる培地と交換した。選択の1週間後に、ピューロマイシンを除去し、もう1週間にわたって放置して増殖させた。また、細胞は、FLAGタグ付きのCas9を発現した。
【0137】
次に、細胞を10細胞/mlの濃度に希釈し、50ul/ウェルにおいて96ウェルプレートに播いた。2週間後に、単一の細胞クローンを、フローサイトメータを用いて、GFPタグ付きのHIV−1レポータ再活性化(12時間 PMA 25nM/TSA 250nM 処理)についてスクリーニングした。
【0138】
Cas9、LTR AおよびLTR B’を発現しているクローンを、Cas9のみを発現しているクローンと比較した(
図7A〜7C)。Cas9、LTR AおよびLTR B’を発現しているクローンのみが、PMA誘導後におけるHIV−1レポータ再活性化を示せなかったことが分かった(
図7B、下パネル)。一方、Cas9のみを発現しているクローンは、EGFP発現によって証明されている通り、HIV−1レポータ再活性化を示した(
図7B、上パネル)。
【0139】
次に、潜伏しているレポータHIV−1プロウイルスの再活性化の抑制が、宿主ゲノムからのプロウイルス配列の奏功した切除に寄与するか否かを決定した。前の実験において分析されたクローンから得られたDNAを、プロウイルスenv遺伝子配列モチーフRREまたは組み込まれているレポータプロウイルスに隣接するゲノム配列(MSBR1遺伝子)を、PCRに供して増幅させた。プライマーのT位置が
図8Aに示されている。
【0140】
PCR分析は、Cas9およびLTR A/B’の組み合わせを発現するクローンがPCR産物(RREおよびMSRB1を含んでいる)を示せない(これらの配列を含んでいるDNAの切除を表している)ことを示した。一方、RREおよびMSRB1は、Cas9のみを発現しているクローンにおいて増幅され、容易に検出可能であった(
図8B)。長い距離のPCR遺伝子型決定は、LTR A/Bの組み合わせの発現が、5’U3領域および3’U3領域の間に伸びている652bpの切除を生じることを確かめた(
図8C)。当該切除を、染色体16における組み込み遺伝子座からの切断ラリアットを配列決定することによって確かめた(
図8D)。まとめると、以上の結果は、LTR A/B’およびCas9発現によるHIV−1プロウイルスの再活性化の抑制を、宿主ゲノムからのプロウイルス配列の切除によって引き起こしたことを確認している。
【0141】
LTR A/B’およびCas9の安定な発現は、HIV−1による新たな感染から2D10を保護したことも、認められた。クローンを、ウェスタンブロッティングによるCas9発現(
図9B)、およびリバースPCRによるLTR B’の発現(
図9C)について、性質決定した。当該クローンを、HIV−1 NL4−3−EGFP−P2A−NEFレポータウイルスに感染させ、FACS解析によって感染の進行をモニタした。LTR A/B’およびCas9の両方を発現するクローンのみが、HIV−1感染に抵抗した。これは、LTR A/B’(ctrl7)またはCas9(AB8)のいずれかを欠いているクローンに対して、劇的に低いレベルのEGFPによって示されている(
図9A)。
【0142】
Cas9/gRNAのレンチウイルスによる送達は、プロウイルス配列の時間管理された効率的な標的化を可能にする:次に、レンチウイルスベクターが、宿主細胞におけるCas9/gRNAコンポネントの発現に使用され得るか否かを決定した。レンチウイルスベクターは、発現の順応性のある多目的な手段をもたらし、レンチウイルスベクターを誘導可能な種々の薬物が利用可能である。Jurkat2D10に、RFP−Cas9(赤色蛍光)および/またはLTR A/B’ gRNA(BFPマーカー、青色蛍光)を発現するレンチウイルスをMOI5において導入した(
図10A)。72時間後に、GFPレポータウイルスを、PMA/TSA処理を用いて再活性化させ、フローサイトメトリによって定量化した。ドットプロット分析が、
図10Bに示されている。HIV再活性化は、誘導によるドットプロットにおいて上方(緑)へのシフト(例えば、
図10Bの左上パネル 対 左下パネル)として検出可能である。Cas9およびLTR A/B’の両方を導入された細胞のみが、緑の上方シフトを示さない意味のある細胞画分を示すことが認められ得る(
図10B、右下パネル)。結果は、Cas9/gRNAがレンチウイルスベクターによって効率的に送達され得ることを確かめている。
【0143】
Cas9/LTR A/B’発現は、検出可能なオフターゲット効果を示さず、隣接する遺伝子発現の最少の変化を引き起こす:CRISPR編集によるHIV−1プロウイルスの効率的な切除は、ターゲット配列と類似する配列を含んでいる正常な宿主ゲノムにおいて誘導された変異を伴う場合に、有用性を減じる。LTR A/B’にとっての予想される/可能性のある6つのオフターゲット部位を、HIV−1ゲノムが首尾よく排除されているJurkatクローンにおいて調べた。LTRAおよびLTRB’の配列が、
図11Aに示されている。Surveyorアッセイ反応(
図11B)またはSanger配列決定のいずれによっても、indel変異は認められなかった。染色体16におけるMSRB1遺伝子の第2エキソンおよび隣接する遺伝子におけるHIV−1レポータ組み込み部位の位置が、
図11Dに示されている。HIV−1配列の排除後における、組み込み部位に隣接する遺伝子の発現のレベルを、qRT−PCRによって測定し、コントロール細胞における発現のレベルと比較した。
図11Eにおける結果は、Cas9およびLTR A/B’が切除されたHIV配列に隣接する遺伝子の発現に有意な影響を与えないことを示している。
【0144】
(実施例4:制御的および構造的なHIV−1ウイルスゲノムを標的にする、AIDSの治癒のためのガイドRNAの機能的なスクリーニング)
この研究において、HIV−1 LTRおよびウイルスの構造的な領域を標的にする最良のgRNAが、HIV−1ゲノムを効率的に排除し得るgRNAペアリングを最適化すると同定された。
【0145】
非常に特異的なgRNAを、バイオインフォマティクスツールを用いて設計し、HIV−1プロウイルスDNAを切断するためにCas9を誘導するそれらの能力を、高速処理HIV−1ルシフェラーゼレポータアッセイおよび高速Direct-PCR遺伝子型決定を用いて評価した。
【0146】
【表1-1】
【0147】
【表1-2】
【0148】
【表1-3】
【0149】
〔結果〕
(高効率および低いオフターゲット効果を有しているsgRNAのバイオインフォマティクススクリーニング)
ターゲットRNAの効率および特異性は、感染性疾患におけるCas9/gRNA使用にとっての重要なコンセプトである。種々の演算プログラムが、20bpのシード配列およびNRG PAMが使用されるspCas9−gRNAシステムのためのgRNAの設計および選択のために開発されている。gRNA設計プログラムのほとんどは、オフターゲット効果を予想するために開発されており、切断効率を予想可能なプログラムは非常にわずかである。ヒトゲノムに対するハイスコアの切断効率および切断特異性を有している、HIV−1を標的にする20のgRNAを、以下の基準を用いて設計した。(1)HIV−1の初期転写を崩壊(ウイルス産生を抑制)させるためにLTR−U3プロモータの−18〜−418bpを標的にすること、この400bpの領域はほとんどのLVにおいて排除され、したがってLV自己切断を回避する;(2)高い相同性に起因する宿主細胞遺伝子の発現に影響し得る転写因子結部位を回避すること;(3)LTRの間にあるプロウイルスDNA全体の排除を可能にするために両単のLTRを整合させること;(4)50%を超えないオフターゲットスコア;および(5)2重のspCas9ニッカーゼまたはRNA誘導性の二量体FokIヌクレアーゼの適用可能性。HIV−1のゲノム全体を排除するためのgRNAの9最良の組み合わせを得る期待を有している、構造的な領域GagおよびPol(
図1C)を標的にする少数のgRNA。Env構造領域は、異なる株の間におけるこの構造配列におけるより小さい保存性のために、選択されなかった。LV遺伝子送達系を、以下の理由から、spCas9およびgRNAを発現するために別々に選択した。(1)LV自体は、トランスフェクトの難しいHIV潜伏細胞株、動物実験および潜在的な臨床用途において高効率な遺伝子治療にとって多くの利益をもたらす(組み込みなしのLV;Hu P, et al. Mol Ther Methods Clin Dev 2015,2:15025; Liu KC, et al.Curr Gene Ther 2014,14:352-364);(2)別々のspCas9 LVは、大きなサイズのspCas9遺伝子にとって良好なパッケージ効率を保証する;(3)別々のgRNAを発現するLVは、良好なパッケージング効率のために複数のgRNA発現カセットを1つのベクターにクローニングするために使用され得る。
【0150】
(効率的なgRNAを同定するためのHEK293T細胞における機能的なスクリーニング)
最良な標的の、機能的な高速スクリーニングのために、EcoHIV-eLucレポータアッセイを、高速処理のEnvisionマルチプレートリーダを用いて実施した。(1)HIV Envを除くHIV−1複製にとって必要なすべてのコンポネントを含んでいる、(2)Env欠失のために、生物学的研究における安全性レベルIIの容器において操作可能である利便性、(3)生体発光が蛍光より高感受性であり、eLucレポータは、10未満の単一細胞を検出するために使用され得る(Song J, etal. J Gen Virol 2015,96:3131-3142)ので、EcoHIV-eLucレポータを選択した。費用効率の高いリン酸カルシウム沈殿法を用いた高効率なトランスフェクションのために、HEK293T細胞株を選択した。単一のgRNAトランスフェクションによれば、LTRプロモータおよび構造領域を標的にするgRNAのほとんどは、EcoHIVプロウイルスレポータ産生の最低限の低下のみを生じ得るが、いくつかはプロモータ活性を増強させるか、または影響しない(
図2A、2B)ことが分かった。プロモータ活性の増強は、神経細胞の初期応答遺伝子のプロモータ内にある、spCas9/gRNA誘導性のDSBが、それらの発現を刺激するという最近の報告と一致する(Madabhushi R, et al. Cell 2015,161:1592-1605)。単一のgRNAは、標的部位の唯一の切断を誘導し、標的領域におけるInDel変異および/または両端のLTRの間にあるプロウイルスDNA全体の欠失を生じさせると仮定されていた。プロモータにおける変異は、転写活性の増強または低減に導き得る転写活性因子および/または抑制因子の機能的な活性に影響し得る。構造領域における変異はHIV−1構造タンパク質のオープンリーディングフレームのシフトを生じ得、したがってeLucレポータ発現を低下させる。
【0151】
機能的な切断に効率的なgRNAの、より信頼できる感受性の高いスクリーニングを実現するために、ペアのgRNA(構造領域を標的にする複数のgRNAのうちの1つに対して各LTR gRNA)を、コトランスフェクトした。この戦略によれば、レポータウイルスのより劇的な低下が、5’もしくは3’ LTRおよび構造領域の間における巨大断片の欠失に起因して、観察された。
図2Bに示されている例のように、GagDおよびLTR−gRNAのいずれか1つのすべての組み合わせは、単一gRNAを用いるより強く、有意にeLuc発現を低下させた。LTR−gRNAの半数(10/20)は、eLuc活性の90%低下を示した。同様に、
図2Cに示されている他の例のように、GagA〜DまたはPolA〜Bのいずれか1つとペアにしたLTR−R gRNAは、7〜23%までルシフェラーゼレポータ活性を顕著に低下させた。また、ペアリングのためのGagDまたはLTR−Rの選択は、Staphylococcus aureusのCas9系に利用可能なそれらのPAM部位、ならびにGag配列の一部およびPol配列の全部を欠失しているHIV−1潜伏細胞株(Jadlowsky JK, et al. Mol Cell Biol 2014,34:1911-192)およびTg26トランスジェニックマウス(Kopp JB, et al. Proc Natl Acad Sci U S A 1992,89:1577-1581)に利用可能なそれらの標的部位に基づいていた。これらのデータは、構造的なgRNAとのLTR−gRNAの組み合わせが、より良好であり、高速処理のHIV−1 eLucレポータアッセイを用いた効率的なgRNAをスクリーニングする戦略をより容易にすることの証拠を示した。設計されたすべてのgRNAは、EcoHIV-eLucレポータの発現を低下させるために機能的であり、バイオインフォマティクス分析による効率性予測の高いスコアと一致する。
【0152】
(Direct-PCR遺伝子型決定を用いた効率的なgRNAの同定)
これらの候補gRNAが、設計通りに適切なターゲットを切断することに機能的であるか否かを確認するために、遺伝子型決定分析を、示されている(
図3D)ようなペアのgRNAおよび対応するPCRプライマーを有しているDNAサンプルを用いて、実施した。Direct-PCRアプローチは、DNAの抽出および精製を必要とせず、したがって遺伝子型決定スクリーニングにとって、より都合である。構造領域を標的にするgRNAの1つがLTR標的部位とペアにするために使用されるとき、PCR遺伝子型決定は、5’LTR〜Gagの間までの断片の欠失後に残っている(残余の)ウイルスLTRおよびGag配列に由来する新たな断片(説明の便宜上、欠失と示されている)を明らかに生じた。eLucレポータアッセイと一貫して、ほとんどすべてのgRNAが、サイズ(1.3kb)のために5’−LTR/Gagに対する標準的なPCR条件によって容易に増幅され得る野生型バンドの、種々の程度における低下を誘導した。切断後に、示されている種々の程度の欠失が、ほとんどの組み合わせにおいて検出された(
図3E)。興味深いことに、予想される欠失より多い、さらなる断片(挿入と示される)が、5’−LTR−Gag切断に対するほとんどの組み合わせにおいて観察された(
図3E)。野生型バンドの強度の定量化は、LTR−Oが最も高い(箱に示されている通り、I、C、Aと続く)効率を有していることを示した(
図3E)。野生型バンドのこの切断効率パターンは、混合物集団におけるPCR産物の増幅が、一般に小さいサイズの産物を優先することから。eLucレポータ活性の低下パターン(
図2B)と、完全には相関しなかった。一方、いくつかのペアにおける野生型バンドの弱い低下は、gRNA標的部位内にある、種々の程度の小さなInDel変異を、任意の断片の欠失または挿入なしに生じ得る。PCRの優先的な増幅の強い影響を避けるために、使用されたPCR設定によって増幅されるべきではない7kbの野生型PCR産物を生成すると予想されるPCR遺伝子型決定を、3’−LTRおよびGagを対象にするプライマーを用いて実施した(
図3E、3I、3J)。単一のPCR産物によって検出されるgRNAのなかでも、断片の欠失パターン(
図3E、3I、3J)は、相対的な比率変化によって明らかにされたパターン(
図3E)と一致した。LTRKおよびGagのペアは、PCR遺伝子型決定反応の4セットのすべてにおいて欠失または挿入の断片バンドを示さず(
図3E、3F、3I、3J)、野生型バンドのわずか7%減少に対応した(
図3E)。LTR−F 対 GagDのペアは、1セットのPCR反応(31)において弱い欠失バンドを示し、野生型バンドの17%減少に対応した(
図3E)。LTR−G、P 対GagDのペアは、野生型バンドの約50%低下を示し、5’LTR−Gag(
図3F)またはGag−3’LTR(
図3F、3I、3J)の切断を生じた。LTR−Rを、GagA−DおよびPolA−Bのいずれか1つとペアにするために使用し、示されている対応するプライマーを用いたPCR遺伝子型決定はまた、予想された新たな断片(欠失)(
図3G、3H)および5’−LTR/Gagに対するさらなる挿入(
図3G)を、Gag−B gRNAを除く試験されたすべてのgRNAにおいて種々の程度まで、生成し、非常に弱い編集能を示した(
図3G)。しかし、弱い欠失の遺伝子型または欠失のない遺伝子型を有しているこれらのすべての組み合わせは、EcoHIV-eLucレポータ活性の劇的な低下を依然として示した(
図2B)。これは、単一のgRNAが小さなInDel変異を誘導することに依然として非常に有効である同じ細胞にトランスフェクトされた2つのgRNAプラスミドに起因しないか、または当該gRNAプラスミドの一方にのみ起因し得る。まとめると、これらのデータは、Direct-PCR遺伝子型決定が、断片的な欠失および/または挿入の存在を確認するための確実かつ高速なツールをもたらすことを証明している。しかし、種々のgRNAによる有効なHIV−1排除の評価は、ウイルスレポータアッセイによる機能的な低下、および5’−LTRもしくは3’−LTRに対するPCR遺伝子型決定によるプロウイルスDNA断片切除の組み合わせを必要とする。
【0153】
(TAクローニングおよびSanger配列決定による断片挿入/欠失変異の確認)
spCas9/gRNAの切断効率を確認し、切断後の欠失/挿入変異のパターンを調べるために、TAクローニングおよびSanger配列決定のためのPCR遺伝子型決定の3つの代表的なサンプルを選択した。LTR−R/GagAのペアになった発現は、LTR−RおよびGagA標的部位の間における519bp断片の欠失を生じさせた(
図12A)。LTR−L/GagD(
図12B)およびLTR−M/GagD(
図12C)の共発現は、標的部位のそれぞれのペアの間における772bpまたは763bpの断片の欠失を生じた。さらに。それらは、種々の程度または種類の小さなInDelを引き起こした。いくつかの場合に、大きな挿入または付加的な配列(例えば、159〜359bp)が同定された(
図3E、12B、12C)。NCBI Blast分析は、これらの付加的な配列が内因性の宿主細胞遺伝子ではなく外因性のベクターに由来することを示した。これらの結果は、これらの候補gRNAのほとんどが切除または挿入/欠失のいずれかによって組み込まれているHIVゲノムの標的化された崩壊を効率的に媒介し得ることを示している。
【0154】
〔考察〕
Cas9/gRNAのDNA切断効率を評価するための信頼性のある改善をもたらすgRNAの複合は、標的部位の間における大きな断片の欠失を誘導し得る(Hu W, et al. Proc Natl Acad Sci U S A 2014,111:11461-11466)。この研究において、証明済のこのコンセプトを、26のgRNAの種々の複合物をスクリーニングすることによってさらに確認した。設計されたgRNAのほとんどは、選択された2つの標的部位の間における予想されたHIV−1ゲノム配列を排除すること(HIV−1レポータウイルスの顕著な切除を導く)に非常に有効であることが、証明された。特に、1つまたは2つのLTR gRNAとのウイルス構造gRNAの組み合わせが、非常に高効率のゲノム排除、ならびにDirect-PCRおよび高速処理レポータスクリーニングを用いたより容易なアプローチをもたらした。HIV−1プロウイルスDNAを切除するために、この研究において選択されたgRNAの有効性および特異性は、以下の理由のために、Cas9/gRNA手法を用いた前臨床的な動物試験および臨床患者の試験における成功の見込みがある。(1)これらのgRNAは、ウイルスおよび非ウイルスによる遺伝子治療を開発するためにの直ちに利用できる選択源として機能し得る;(2)個々のHIV患者にとって、これらのgRNAは、HIVの高い変異率にも関わらず任意のHIV単離物に特異的に設計される新たなgRNAをスクリーニングためのマスターとして使用され得る;(3)容易なgRNAクローニング、高速なレポータスクリーニングおよび信頼性のあるDirect-PCR遺伝子型決定は、個別医薬への、Cas9/gRNAの実際の使用にとっての実現可能性をもたらす。
【0155】
設計されたgRNAのすべてが、予想される切断部位を切断することに必要な活性を示すとは限らない。いくつかのアプローチが、Cas9/gRNA手法によって誘導されるゲノム変種の効率をさらに評価するために開発されている。効率性予測のためのコンピュータプログラムの継続的な改善は、設計標的として宿主細胞ゲノムを用いて試みられている(Doench JG, et al. Nat Biotechnol 2014,32:1262-1267;Gagnon JA, et al. PLoS One 2014,9:e98186;LiuH, et al. Bioinformatics 2015)が、外因性ゲノム(例えば、感染性ウイルス)に対する使用には確実ではないかもしれない。PCRクローニングを介した標的領域のSanger配列決定は、ゲノム編集効率を決定するための高い感度および特異性をもたらす(SanderJD, et al. Nat Biotechnol 2011, 29:697-698)が、高速処理スクリーニングにとって過剰な労力である。ミスマッチに基づくSurveyorアッセイ(Qiu P, et al. Biotechniques2004,36:702-707;Kim JM, et al. Nat Commun 2014,5:3157;Dahlem TJ, et al. PLoS Genet 2012,8:e1002861)および高解像メルトアッセイ(Bassett AR, Liu JL. J Genet Genomics 2014,41:7-19)は、小さなInDel変異を検出する感度を有しているが、乏しい特異性は、偽陽性の結果を生じる傾向にある。制限断片長多型(restriction fragment length polymorphism)(RFLP)アッセイは、ほとんどの場合に小さい標的領域とともに、制限酵素部位の存在を必要とする(Kim JM, et al. Nat Commun 2014,5:3157)。次世代シークエンシングは、信頼のおける特異的な手法をもたらすが、高価であり、時間を要する(Guell M, et al. Bioinformatics 2014,30:2968-2970)。近年、PCRに基づくアッセイは、編集効率を定量化するための信頼のおける容易な方法をもたらしているが、それらは、堅牢なプライマー設計、微量分解またはキャピラリーシークエンサを要する(Brinkman EK, et al. Nucleic Acids Res 2014,42:e168; Carrington B, etal. Nucleic Acids Res 2015; Yu C, et al. PLoS One 2014,9:e98282)。ここで、費用効果の高い、信頼のおける高速なスクリーニングプラットフォームが、高速なDirect-PCR遺伝子型決定をともなった、非常に高感度な高速処理の生物発光レポータアッセイを用いて有効なgRNAを同定するために、確立された。レポータアッセイは、2つのgRNA標的部位の間における巨大断片の排除、および各gRNA部位における小さなInDel変異に依存している。断片的な排除は、プロモータ活性またはレポータ発現を喪失させ、InDel変異は、プロモータ制御を変更させるか、またはウイルスタンパク質のオープンリードフレームのシフトを誘導し得る。これらのすべての現象は、続いて、レポータの活性に影響する。PCR遺伝子型決定は、残存する末端DNAの間における断片的な切断および効率的な再連結に依存する。再連結されたPCR断片の存在は、両方のgRNAの有効性にとっての好適な証拠を示す。再連結効率は、細胞分裂に依存し、したがって、PCR遺伝子型決定は、非分裂細胞の場合に制限され得る。さらに、いくつかのプライマーにとってのPCR条件は遺伝子型、決定の最良の効率を実現するための最適化を要する。
【0156】
この研究の目的は、信頼のおける高感度の高速処理アッセイを確立することによって有効なgRNAをスクリーニングし、かつ同定することである。spCas9/gRNA成分に対する少量のレポータプラスミド(1:20)が、レポータ発現細胞のすべてにおける標的切断を保証し、ルシフェラーゼレポータアッセイおよびPCR遺伝子型決定の検出効率を最大化し得るので、HEK293T細胞におけるEcoHIV-eLucレポータの一過性トランスフェクションが、試験プラットフォームとして選択された。一方、HIV−1潜伏の実際の状況により近い、HEK293T細胞に基づく安定なEcoHIV-eLuc細胞株(
図13A〜13E、14A〜14D)は、ルシフェラーゼレポータアッセイおよびPCR遺伝子型決定の両方において、乏しい検出感度を示した。これは、トランスフェクション効率が80〜90%近くあってさえ、gRNAプラスミドなしのEcoHIV-eLuc発現細胞がトランスフェクション後に常に存在し、したがって、eLucレポータが定常的に発現されているためである。一過性のレポータトランスフェクションのさらなる利点として、高い費用効果の、準備の簡単なトランスフェクションおよび高速処理の発光測定が挙げられる。重要なことに、同定されたgRNAは、実際にHIVの潜伏感染している細胞または細胞株において有効であり、動物試験および臨床用途にさらに使用され得る。一過性にトランスフェクトされたEcoHIV-eLucレポータ(エピソームDNA)は、宿主ゲノム(核)における不顕性のHIVプロウイルスDNAを反映しないが、spCas9/gRNAを媒介する遺伝子編集は、HIVプロウイルス(Hu W, et al. Proc Natl Acad Sci U S A 2014,111:11461-11466)および他のウイルス(Ramanan V, et al. Sci Rep 2015,5:10833; Yuen KS, et al. J Gen Virol 2015,96:626-636)のエピソームDNAおよび核内DNAの間で類似の効率において機能する。さらに、組み込まれているHIV−プロウイルスDNAに加えて、エピソームDNAの効率的な切断は、HIV(Hu W, et al. Proc Natl Acad Sci U S A 2014,111:11461-11466)および他の感染性ウイルス(Peng C, Lu M, Yang D. Virol Sin 2015,30:317-325)の新たな感染にとっての新規な予防処置を可能にする。
【0157】
いくつかの混乱させる要因が、種々のgRNAの比較分析ための一過性のトランスフェクション効率および導入遺伝子発現に影響し得る。これを最小化するために、いくつかの予防措置を講じた。1)レポータプラスミドおよびspCas9プラスミドのマスター混合物を、gRNAの各群において共有されるこれらのプラスミドの等量を保証するように調製した;2)Renillaルシフェラーゼレポータ(1:100)を、トランスフェクション効率の標準化のために使用した;3)大規模なトランスフェクションを、すべてのgRNAについて同時に4組〜6組において、96ウェルプレートで実施した;および4)すべてのデータを、各実験における空のgRNAコントロールとの相対変化として表した。
【0158】
LTR領域を標的にする1つのgRNAは、両端のLTRの切断に起因して、プロウイルスDNA全体を除去し得るが、排除効率は、EcoHIV-eLucレポータアッセイによって示される通り明らかではなかった。また、それは、LTRを対象にするプライマーを用いた標準的なPCRが2つのLTR標的部位の間にある断片の欠失後に、5’−LTRを3’−LTRと区別できないので、HIV−1プロウイルスDNA全体の排除を確認するための長い範囲のPCRを要する(Hu W, et al. Proc Natl Acad Sci U S A 2014,111:11461-11466)。LTR領域を標的にする2つのgRNAは、各LTR領域内の断片的な切断を誘導した。当該切断は、LTRプロモータ活性を抑制し、HIV−1 RNAの安定性を低下させ、したがって、以前にわれわれが証明している(Hu W, et al. 2014)通り、全体の排除効率を改善する。この研究において、LTR領域および構造領域の間におけるgRNAの任意のペアが、HIV−1排除効率を評価するより良好なアプローチをもたらすことの、原理の新たな証拠を、調べた。この方法によって、HIV−1レポータウイルス産生の劇的な機能的低下が、5’LTR+Gag、Gag+3’LTRおよび両端のLTRの、3つの切断を生じ、高感度および高速処理の生物発光レポータアッセイによって容易にモニターされ得る。これらの切断は、LTR領域および構造領域を対象にするプライマーを用いた標準的かつ高速なDirect-PCR遺伝子型決定によって、効率的かつ確実に検出され得る。同様に2、つのLTR gRNA+1つ以上の構造gRNAのカクテルは、前臨床および臨床の環境においてHIV−1ゲノムを排除するための最適および経済的な改善をもたらし得る。
【0159】
Cas9/gRNA手法に関するオフターゲット効果の潜在性は、ゲノム編集の分野における大きな懸念である。ストリンジェントなgRNAの設計、機能的なスクリーニングおよびCas9手法の改変は、ゲノム編集の特異性を向上させるために開発されている。培養細胞におけるspCas9/gRNAに関するオフターゲット効果の極めてまれな例は、全ゲノム配列決定(WGS)によって確認されている(Hu W, et al. 2014; Zuckermann M et al. Nat Commun 2015,6:7391; SmithC, et al. Cell Stem Cell 2014,15:12-13; Veres A, et al. Cell Stem Cell2014,15:27-30; Yang L, et al. Nat Commun 2014,5:5507)。新たに開発された不偏性のプロファイリング手法は、spCas9−gRNA系の高い特異性を有効にする(Ran FA, et al. Nature 2015,520:186-191; Tsai SQ, et al. NatBiotechnol 2015,33:187-197; Frock RL, et al. Nat Biotechnol 2015,33:179-186)。インビボオフターゲットは、エピジェネティックな保護のために非常に少ないと予想される。この研究において、外因性のウイルスDNAを、効率および特性の最良のスコアについて、宿主ゲノムに対して分析した。gRNAスクリーニングの間に、細胞毒性は認められなかった。二重のspCas9ニッカーゼおよびRNA誘導性のFokIヌクレアーゼは、1500倍まで潜在的なオフターゲット効果を低下させることを示している(Ran FA, et al. Cell 2013,154:1380-1389; Mali P, et al. NatBiotechnol 2013,31:833-838; Wyvekens N, et al. Hum Gene Ther 2015,26:425-431;Tsai SQ, et al. Nat Biotechnol 2014,32:569-576)。
【0160】
結論として、設計されたgRNAのほとんどは、選択された2つの標的部位の間にある予想されたHIV−1ゲノム配列を高効率に排除し、eLucレポータ活性に影響する。特に、ウイルス構造gRNAの、1つまたは2つのLTR gRNAとの組み合わせは、高効率なゲノム排除およびPCR遺伝子型決定にとってのより容易なアプローチをもたらした。HIV-1 eLucレポータアッセイおよびDirect-PCR遺伝子型決定を用いたスクリーニングは、有効なHIV−1 gRNAをスクリーニングするための、信頼性の高い、高速な簡便なアプローチをもたらす。これは、個別の/精密な医薬の新時代における新たな任意のHIV−1単離物および他の感染性ウイルスについての、高速処理のgRNAライブラリスクリーニングに利用され得る。
【0161】
本発明は、例示的に説明されており、使用されている専門用語は、限定ではなく、説明のために、言葉の本来の性質において意図されることが理解される。本発明の多くの変更および変形は、以上の教示において可能であることは、明らかである。したがって、添付の特許請求の範囲の範囲内において、発明が、具体的に説明されている以外のやり方で実施され得ることが、理解される。