特許第6968735号(P6968735)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6968735
(24)【登録日】2021年10月29日
(45)【発行日】2021年11月17日
(54)【発明の名称】弾性物質の製造方法及び弾性物質
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/20 20060101AFI20211108BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20211108BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20211108BHJP
   C08K 7/04 20060101ALI20211108BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20211108BHJP
   C08L 91/00 20060101ALI20211108BHJP
【FI】
   C08J3/20 ACEQ
   C08K3/04
   C08K3/36
   C08K7/04
   C08L21/00
   C08L91/00
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-55565(P2018-55565)
(22)【出願日】2018年3月23日
(65)【公開番号】特開2018-159071(P2018-159071A)
(43)【公開日】2018年10月11日
【審査請求日】2018年3月23日
【審判番号】不服2020-9100(P2020-9100/J1)
【審判請求日】2020年6月30日
(31)【優先権主張番号】106109819
(32)【優先日】2017年3月23日
(33)【優先権主張国】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】518099893
【氏名又は名称】タイワン・カーボン・ナノ・テクノロジー・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リ、チアフン
(72)【発明者】
【氏名】ス、チンタン
(72)【発明者】
【氏名】ツァイ、チウンシアン
(72)【発明者】
【氏名】リー、ティンチュアン
(72)【発明者】
【氏名】ツァイ、チウンルン
【合議体】
【審判長】 大島 祥吾
【審判官】 相田 元
【審判官】 大畑 通隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−143298(JP,A)
【文献】 特開2004−210821(JP,A)
【文献】 特表2014−501290(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00- 3/28
C08J99/00
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性物質加工油にカーボンナノチューブ材料又はグラフェン材料を添加し、均一に混合して弾性物質強化用複合材料を得る工程と、
前記弾性物質強化用複合材料を主ゴム、充填剤及び架橋剤と混合する工程と、を含み、
前記弾性物質強化用複合材料は、前記主ゴム、前記充填剤及び前記架橋剤と混合する時に10phr以下を添加し、粘度値範囲が1000cps〜300000cpsであり、
前記弾性物質強化用複合材料を得る工程は、ローラーボール混合分散、ブレード剪断力撹拌分散、及び高圧均質化分散の少なくとも一つを含むことを特徴とする弾性物質の製造方法。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブ材料又は前記グラフェン材料は、前記弾性物質強化用複合材料の0.001〜30重量%であることを特徴とする請求項1に記載の弾性物質の製造方法。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブ材料又は前記グラフェン材料は、前記弾性物質強化用複合材料の0.1〜5重量%であることを特徴とする請求項2に記載の弾性物質の製造方法。
【請求項4】
前記充填剤は、前記弾性物質の10〜75%であることを特徴とする請求項1に記載の弾性物質の製造方法。
【請求項5】
前記充填剤は、前記弾性物質の25〜50%であることを特徴とする請求項4に記載の弾性物質の製造方法。
【請求項6】
前記充填剤は、カーボンブラック、ホワイトカーボン、炭素繊維又はガラス繊維であることを特徴とする請求項1に記載の弾性物質の製造方法。
【請求項7】
前記弾性物質は、ゴム又はシリコーンであり、
前記カーボンナノチューブ材料又は前記グラフェン材料は、予め表面処理され、
前記表面処理は、物理的改質処理及び化学的改質処理を含み、
前記弾性物質加工油は、高ナフテン系加工油、環境保護型ゴム加工油TDAE、パラフィン系ゴム加工油及びシリコーン系ゴム加工油(シリコーン油)を含むことを特徴とする請求項1に記載の弾性物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
関連出願と優先権主張の相互参照
本出願は、台湾経済部智慧財産局での2017年3月23日に出願された特許出願第106109819号に基づく利益を主張し、その内容は参考として本明細書に取り入れるものとする。
【0002】
技術分野
本発明は、弾性物質強化用複合材料及びその製造方法に関し、ゴム又はシリコーン強化用複合材料及びその製造方法に関する。
【0003】
背景技術
従来、ゴムの製造においては、ナノカーボン材料及び加工油が直接に及び別々に混練された。ゴムは、天然ゴム、汎用ゴム又は特殊合成ゴムである。この方法の欠点は、(1)混合プロセスで粉末が飛散し、(2)ゴム加工油を混練した後、ゴムの可塑性が増加するが、耐摩耗性が低く、老化特性が低下する。同時に、ゴムの物性(引張応力、弾性係数又は引裂強度)が低下し、導電特性が低下する。
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ゴムの引張強度、引裂強度、伸び率、耐老化性及び導電特性を向上させる弾性物質強化用複合材料を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ナノカーボン材料(単層、少層及び多層カーボンナノチューブ、グラフェン、グラフェンナノプレートレットなど)を含むゴム強化加工高分子材料に関する。このゴム強化加工高分子材料を使用することにより、混練混合プロセスで粉末が飛散する現象はない。本願のゴム強化加工高分子材料の粘度は、1000〜300000cpsであり、従来のゴム加工油(シリコーン油、パラフィン系ゴム加工油、高ナフテン系加工油、TDAEゴム加工油)よりも高い。また、本願のゴム強化加工高分子材料は、ゴムの硬度値を3度未満に増加させ、ゴムの引張強度、引裂強度及び伸び率を同時に高める。あるいは、本願のゴム強化加工高分子材料は、ゴムの硬度値を3度未満に増加させ、ゴムの耐老化性を高め、ゴムの導電特性を向上させる(表面抵抗特性を低下させ、体抵抗性を低下させる)。
【0006】
上述の目的を達成するために、本願は、老化防止ゴムの製造方法を提案する。前記老化防止ゴムの製造方法は、ゴム加工油にカーボンチューブ材料又はグラフェン材料を添加し、均一に混合してゴム強化複合材料を得る工程と、前記ゴム強化複合材料を主ゴム、充填剤及び架橋剤と混合する工程と、を含む。
【0007】
上述の目的を達成するために、本願は、弾性物質強化用複合材料を提案する。前記弾性物質強化用複合材料は、炭素材料及び弾性物質加工油からなり、粘度値範囲が1000cps〜300000cpsである。
【0008】
上述の目的を達成するために、本願は、弾性物質強化用複合材料の製造方法を提案する。前記弾性物質強化用複合材料の製造方法は、炭素材料を用意する工程と、弾性物質加工油を用意する工程と、前記炭素材料と前記弾性物質加工油を均一に混合する工程と、を含む。
【0009】
本発明は、老化防止ゴム又はシリコーンの製造方法に関する。強化複合材料をゴム又はシリコーンプロセスに添加し、ゴム又はシリコーン製品をより良好な特性にする。カーボンナノチューブ又はグラフェンをゴム又はシリコーン加工油に添加し、十分に機械的に分散させる。例えば、ローラーボール混合分散、ブレード剪断力撹拌分散、高圧均質化分散など剪断力を有する機械的方法を用いて、カーボンナノチューブ/グラフェンを含む強化複合材料を形成し、この過程で加熱し、加熱温度は30〜100℃である。カーボンナノチューブ又はグラフェンは、表面処理されてもよい、表面処理方法は、化学的改質方法及び物理的改質方法であり得る。化学的改質方法は、カップリング剤(シランカップリング剤及びチタネートカップリング剤などの化学的グラフト改質方法)を添加し、カーボンチューブを改質し、ゴム又はシリコーン材料の機械的強度を増加してもよい。物理的改質方法は、プラズマ処理であってもよい。強化複合材料は、異なる割合のパラフィン、ナフテン又は芳香族加工油を含み、加工油の種類は、高ナフテン系加工油、環境保護型ゴム加工油TDAE、パラフィン系ゴム加工油又はシリコーン系ゴム加工油(シリコーン油)である。さらに、非シリコーン系ゴム(例えば、合成ゴム)のプロセスでは、エチレングリコール(例えば、PEG)又は可塑剤などの加工助剤を添加するができ、従って、製造される強化複合材料の粘度値は、1000cps〜300000cpsであり、現在市販されているゴム又はシリコーン加工油よりも高い。次に、前記強化複合材料を主ゴム、充填剤及び架橋剤と混合する。前記カーボンナノチューブ又は前記グラフェンは、前記強化複合材料の0.001〜30重量%であり、より好ましくは0.1〜5重量%である。前記充填剤は、前記ゴム又はシリコーンの10〜75%の割合を占め、より好ましくは25〜50%の割合を占める。前記充填剤は、カーボンブラック、ホワイトカーボン、炭素繊維又はガラス繊維である。
【0010】
上記の強化複合材料は、ゴム又はシリコーン製品の硬度値を3度未満に増加し、引張強度、引裂強度及び伸び率を同時に高める。あるいは、ゴム又はシリコーン製品の硬度値を3度未満に増加し、耐老化性を同時に強化する。前記強化複合材料は、ゴム又はシリコーンを製造する時に20phr未満で添加し、より好ましくは10phr未満で添加する。前記強化複合材料は、ゴム又はシリコーンに対し、より良い耐老化性を提供し、タイヤのトレッド(トップ及びボトム)ゴム、サイドウォールゴム及びライニング製品がより良好な特性を有するようにすることができる。上記の比率の材料をタイヤのトレッドゴムに添加すると、その耐老化性を高めることができ、それにより寿命を延ばし、又は全体の量を減少させ、軽量化し、タイヤの動作中のエネルギー消費を低減し、コストを低減することができる。そして、前記強化複合材料を添加すると、ゴム又はシリコーンの導電特性をわずかに増加させることができ(抵抗率は100倍未満に減少する)、例えば、実施例1の表面抵抗率は、3.6x10ohms/sqから1.8x10ohms/sqに減少する。
【0011】
実施例1:
SBRゴムと10phr高ナフテン系ゴム油との混練と、SBRゴムと10phr強化複合材料(カーボンチューブ及び高ナフテン系ゴム加工油を含む)(例えば、ゲル状)との混練と、を比較する。
【表1】
【表2】
【0012】
実施例2:
SBRゴムと10phr環境保護型ゴム加工油TDAEとの混練と、SBRゴムと10phr強化複合材料(カーボンチューブ及び環境保護型ゴム加工油TDAEを含む)との混練と、を比較する。
【表3】
【表4】
【0013】
上記の亀裂成長試験は、試験仕様ASTM D813を使用し、試験方法はDe Mattia Flexing machineであり、試験条件は温度150℃、周波数5Hz、曲げ工程57mmである。亀裂の開始は、ギャップの幅が0.1mm未満であることを意味し、著しい亀裂は、ギャップの幅が0.2mm未満であることを意味する。
【0014】
実施例3:
SBRゴムと10phr環境保護型ゴム加工油TDAEとの混練と、10phr、SBRゴムと20phr強化複合材料(グラフェン及び環境保護型ゴム加工油TDAEを含む)との混練と、を比較する。
【表5】
【表6】
【0015】
上記実施例1〜3から分かるように、本願の強化複合材料と混練するゴムは、加工油にかかわらずカーボンチューブ又はグラフェンの添加に用いて、引張応力、伸び率及び引裂強度が向上し、表面抵抗率はわずかに減少する。これはゴムの物理的特性が上がり、老化防止特性を強化し、また、帯電防止特性が増加することを示す。実施例2において、一般的なTDAEの処方は、一万回の亀裂成長特性の試験をした後に、亀裂を開始し、三万回の試験の後に、著しい亀裂を示す。しかし、本願の強化複合材料を添加すると、八万回の試験の後に著しい亀裂を開始する。
【0016】
実施例4:
【表7】
【0017】
SBRは油展SBRであり、例えば、SBR−1723、SBR−1712などの油展SBRゴム又はSSBRゴムである。
【表8】
【0018】
実施例4から分かるように、強化複合材料を2phr、5phr及び12phrの量で添加する時、強化複合材料2phrの添加は、引張強度及び引裂強度に関して非常に良好な性能を有する。実施例1〜4の場合、強化複合材料は、20phr未満の量で添加されてもよく、より好ましくは10phr未満の量で添加される。
【0019】
実施例
1、老化防止ゴムの製造方法は、ゴム加工油にカーボンチューブ材料又はグラフェン材料を添加し、均一に混合してゴム強化複合材料を得る工程と、前記ゴム強化複合材料を主ゴム、充填剤及び架橋剤と混合する工程と、を含む。
【0020】
2、実施例1に記載の老化防止ゴムの製造方法において、前記カーボンチューブ材料又は前記グラフェン材料は、前記ゴム強化複合材料の0.001〜30重量%である。
【0021】
3、実施例1〜2に記載の老化防止ゴムの製造方法において、前記カーボンチューブ材料又は前記グラフェン材料は、前記ゴム強化複合材料の0.1〜5重量%である。
【0022】
4、実施例1〜3に記載の老化防止ゴムの製造方法において、前記充填剤は、前記老化防止ゴムの10〜75%である。
【0023】
5、実施例1〜4に記載の老化防止ゴムの製造方法において、前記充填剤は、前記老化防止ゴムの25〜50%である。
【0024】
6、実施例1〜5に記載の老化防止ゴムの製造方法において、前記充填剤は、カーボンブラック、ホワイトカーボン、炭素繊維又はガラス繊維である。
【0025】
7、弾性物質強化用複合材料は、炭素材料及び弾性物質加工油からなり、粘度値範囲が1000cps〜300000cpsである。
【0026】
8、実施例7に記載の弾性物質強化用複合材料において、前記弾性物質強化用複合材料は、弾性物質を製造する時に20phr未満添加する。
【0027】
9、実施例7〜8に記載の弾性物質強化用複合材料において、前記弾性物質強化用複合材料は、弾性物質を製造する時に10phr未満添加する。
【0028】
10、弾性物質強化用複合材料の製造方法は、炭素材料を用意する工程と、弾性物質加工油を用意する工程と、前記炭素材料と前記弾性物質加工油を均一に混合する工程と、を含む。
【0029】
11、実施例10に記載の弾性物質強化用複合材料の製造方法において、前記炭素材料は、カーボンナノチューブ材料又はグラフェン材料であり、前記弾性物質は、ゴム又はシリコーンであり、前記弾性物質の弾性係数の範囲は、1400MPa未満であり、前記混合工程は、ローラーボール混合分散、ブレード剪断力撹拌分散、及び高圧均質化分散の少なくとも一つを含み、前記カーボンナノチューブ材料又は前記グラフェン材料は、予め表面処理され、前記表面処理は、物理的改質処理及び化学的改質処理を含み、前記弾性物質加工油は、高ナフテン系加工油、環境保護型ゴム加工油TDAE、パラフィン系ゴム加工油及びシリコーン系ゴム加工油(シリコーン油)を含む。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]ゴム加工油にカーボンチューブ材料又はグラフェン材料を添加し、均一に混合してゴム強化複合材料を得る工程と、
前記ゴム強化複合材料を主ゴム、充填剤及び架橋剤と混合する工程と、を含むことを特徴とする老化防止ゴムの製造方法。
[2]前記カーボンチューブ材料又は前記グラフェン材料は、前記ゴム強化複合材料の0.001〜30重量%であることを特徴とする[1]に記載の老化防止ゴムの製造方法。
[3]前記カーボンチューブ材料又は前記グラフェン材料は、前記ゴム強化複合材料の0.1〜5重量%であることを特徴とする[2]に記載の老化防止ゴムの製造方法。
[4]前記充填剤は、前記老化防止ゴムの10〜75%であることを特徴とする[1]に記載の老化防止ゴムの製造方法。
[5]前記充填剤は、前記老化防止ゴムの25〜50%であることを特徴とする[4]に記載の老化防止ゴムの製造方法。
[6]前記充填剤は、カーボンブラック、ホワイトカーボン、炭素繊維又はガラス繊維であることを特徴とする[1]に記載の老化防止ゴムの製造方法。
[7]炭素材料及び弾性物質加工油からなる弾性物質強化用複合材料であって、粘度値範囲が1000cps〜300000cpsであることを特徴とする弾性物質強化用複合材料。
[8]前記弾性物質強化用複合材料は、弾性物質を製造する時に20phr未満添加することを特徴とする[7]に記載の弾性物質強化用複合材料。
[9]前記弾性物質強化用複合材料は、弾性物質を製造する時に10phr未満添加することを特徴とする[8]に記載の弾性物質強化用複合材料。
[10]炭素材料を用意する工程と、弾性物質加工油を用意する工程と、前記炭素材料と前記弾性物質加工油を均一に混合する工程と、を含むことを特徴とする弾性物質強化用複合材料の製造方法。
[11]前記炭素材料は、カーボンナノチューブ材料又はグラフェン材料であり、前記弾性物質は、ゴム又はシリコーンであり、前記弾性物質の弾性係数の範囲は、1400MPa未満であり、前記混合工程は、ローラーボール混合分散、ブレード剪断力撹拌分散、及び高圧均質化分散の少なくとも一つを含み、前記カーボンナノチューブ材料又は前記グラフェン材料は、予め表面処理され、前記表面処理は、物理的改質処理及び化学的改質処理を含み、前記弾性物質加工油は、高ナフテン系加工油、環境保護型ゴム加工油TDAE、パラフィン系ゴム加工油及びシリコーン系ゴム加工油(シリコーン油)を含むことを特徴とする[10]に記載の弾性物質強化用複合材料の製造方法。