(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記抽出分離する工程の前記底部抜出液において、コールタールと粗軽油との比が体積比で1:2〜1:3である、請求項1に記載のコールタールの前処理設備の洗浄方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図2は、従来のコールタールの前処理設備におけるコールタールの前処理工程のフローを示す図である。
図2のフローでは、まず、コールタール101と溶剤102とを撹拌タンク103に投入して、撹拌して混合する。次いで、混合して得られた混合液104を抽出タンク105に投入して、混合液104をQI成分を除いたタール(脱QIタール)である上澄み106と、QI成分、タール滓などを含む沈降液(底部抜出液)107とに抽出分離する。
【0005】
上澄み106からは、QI成分の含有量がほぼ0%である脱QIタール108を得て、その後、この脱QIタール108から熱処理などの工程を経て、含浸ピッチ109を得る。
【0006】
沈降液107は、抽出タンク105のタンク底部から抜き出され、遠心分離機110にかけられる。これにより、沈降液107は、QI成分を含まないコールタールである軽液111と、重質分(QI成分を含むが、他にタール滓等を含むこともある)を含む重液112とに分離される。軽液111は、軽液タンク113に貯蔵され、再び抽出タンク105に送られる。重液112は、重液タンク114に送られ、貯蔵される。
【0007】
重液タンク114に貯蔵された重液112は、ポンプ115によって重液タンク114から払い出され、各種のタール原料116として利用される。
【0008】
重液112は、重質分を含み、この重質分が重液タンク114の底や側面及び重液タンク114から延びる配管などに蓄積する。重質分の蓄積が一定以上になると重液タンク114、配管、ポンプなどの閉塞トラブルが生じやすくなるため、閉塞トラブルの発生前に、タール前処理設備の操業を停止して、重液タンクなどの洗浄をする必要があった。そのため、この洗浄作業がタール前処理設備の稼働の律速工程となっていた。
【0009】
従来は、重液タンク114などの洗浄のために、洗浄液として、コークス炉ガスの冷却時に分離して得られる安水を用いていたが、この安水は、重質分などを溶解および分散する能力が低く、QI成分を含む重質分の除去が困難で、洗浄作業に時間を要したり、洗浄回数が増大していた。
【0010】
そこで、本発明は、重液タンクの重質分の除去効率に優れ、コールタールの前処理設備の洗浄回数を低減することが可能であり、かつ、コールタールの前処理設備の稼働をより安定にすることができる、コールタールの前処理設備の洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るコールタールの前処理設備の洗浄方法は、
コールタールと溶剤とを撹拌タンクで撹拌、混合して、混合液を得て、次いで、当該混合液を抽出タンクに投入し、当該抽出タンクで当該混合液を、上澄みと、コールタールおよび粗軽油を含む底部抜出液とに抽出分離し、次いで、当該底部抜出液を遠心分離機にかけて、当該底部抜出液を、キノリン不溶分を含まない軽液と、重質分を含む重液とに分離し、さらに、当該軽液を軽液タンクに貯蔵し、当該重液を重液タンクに貯蔵するコールタールの前処理設備において、
コールタールと溶剤とを撹拌タンクで撹拌、混合して、混合液を得る工程と、
前記混合液を抽出タンクで上澄みと、コールタールおよび粗軽油を含む底部抜出液とに抽出分離する工程と、
前記抽出分離する工程後の、前記底部抜出液を、前記重液タンクに直接投入する工程と、
前記底部抜出液と、前記重液タンク内の重質分とを接触させて、前記重質分を前記底部抜出液に溶解または分散する工程とを含む、コールタールの前処理設備の洗浄方法である。これにより、重液タンクの重質分の除去効率に優れ、コールタールの前処理設備の洗浄回数を低減することが可能であり、かつ、コールタールの前処理設備の稼働をより安定にすることができる。
【0012】
本発明に係るコールタールの前処理設備の洗浄方法においては、洗浄液としてのハンドリング性と重質分の溶解性または分散性との観点から、前記抽出分離する工程の前記底部抜出液において、コールタールと粗軽油との比が体積比で、1:2〜1:3であることが好ましい。
【0013】
本発明に係るコールタールの前処理設備の洗浄方法においては、コールタールからQI成分を除去する効率と経済性の観点から、前記混合液を得る工程の前記溶剤が粗軽油であることが好ましい。
【0014】
本発明の係るコールタールの前処理設備の洗浄方法においては、洗浄液としてのハンドリング性と重質分の溶解性または分散性との観点から、溶剤として粗軽油を用いた場合、前記混合液を得る工程の前記混合液において、コールタールと粗軽油との比が体積比で、1:2〜1:3であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、重液タンクの重質分の除去効率に優れ、コールタールの前処理設備の洗浄回数を低減することが可能であり、かつ、コールタールの前処理設備の稼働をより安定にすることができる、コールタールの前処理設備の洗浄方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態について具体的に説明する。これらの記載は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0018】
本発明において、コールタールの前処理設備とは、コールタールと溶剤とを撹拌タンクで撹拌、混合して、混合液を得て、次いで、当該混合液を抽出タンクに投入し、当該抽出タンクで当該混合液を、上澄みと、コールタールおよび粗軽油を含む底部抜出液とに抽出分離し、次いで、当該底部抜出液を遠心分離機にかけて、当該底部抜出液を、キノリン不溶分を含まない軽液と、重質分を含む重液とに分離し、さらに、当該軽液を軽液タンクに貯蔵し、当該重液を重液タンクに貯蔵するコールタールの前処理設備をいう。
【0019】
(コールタールの前処理設備の洗浄方法)
本発明に係るコールタールの前処理設備の洗浄方法は、
コールタールと溶剤とを撹拌タンクで撹拌、混合して、混合液を得て、次いで、当該混合液を抽出タンクに投入し、当該抽出タンクで当該混合液を、上澄みと、コールタールおよび粗軽油を含む底部抜出液とに抽出分離し、次いで、当該底部抜出液を遠心分離機にかけて、当該底部抜出液を、キノリン不溶分を含まない軽液と、重質分を含む重液とに分離し、さらに、当該軽液を軽液タンクに貯蔵し、当該重液を重液タンクに貯蔵するコールタールの前処理設備において、
コールタールと溶剤とを撹拌タンクで撹拌、混合して、混合液を得る工程(以下、混合工程という)と、
前記混合液を抽出タンクで上澄みと、コールタールおよび粗軽油を含む底部抜出液とに抽出分離する工程(以下、抽出分離工程という)と、
前記抽出分離する工程後の、前記底部抜出液を、前記重液タンクに直接投入する工程(以下、投入工程という)と、
前記底部抜出液と、前記重液タンク内の重質分とを接触させて、前記重質分を前記底部抜出液に溶解または分散する工程(以下、溶解分散工程という)とを含む、コールタールの前処理設備の洗浄方法である。これにより、重液タンクの重質分の除去効率に優れ、コールタールの前処理設備の洗浄回数を低減することが可能であり、かつ、コールタールの前処理設備の稼働をより安定にすることができる。
【0020】
図1は、本発明に係るコールタールの前処理設備の洗浄方法を用いた、コールタールの前処理工程のフローの一例を示す模式図である。
【0021】
まず、混合工程で、コールタール1と溶剤2とを撹拌タンク3に投入して、撹拌して混合し、混合液4を得る。
【0022】
次いで、抽出分離工程で、得られた混合液4を抽出タンク5に投入して、混合液4を脱QIタールである上澄み6と、コールタールおよび粗軽油を含む底部抜出液7とに抽出分離する。なお、上澄み6からは、従来と同様に、QI成分の含有量がほぼ0%である脱QIタール8を得て、その後、この脱QIタール8から熱処理などの工程を経て、含浸ピッチ9を得る。
【0023】
次いで、投入工程において、底部抜出液7の一部を重液タンク10に直接投入する。
【0024】
次いで、溶解分散工程において、底部抜出液7と、重液タンク10内の重質分とを接触させて、重質分を底部抜出液7に溶解または分散する。
【0026】
<混合工程>
混合工程では、コールタールと溶剤とを撹拌タンクで撹拌、混合して、混合液を得る。
【0027】
コールタールとしては、特に限定されず、公知のコールタールを用いることができる。
【0028】
溶剤としては、特に限定されず、公知の溶剤を用いることができる。
【0029】
本発明に係るコールタールの前処理設備の洗浄方法においては、コールタールからQI成分を除去する効率と経済性の観点から、前記混合液を得る工程の前記溶剤が粗軽油であることが好ましい。粗軽油は、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの成分を含有する。
【0030】
コールタールと溶剤とを撹拌タンクで撹拌、混合して、混合液を得る工程は、例えば、
図1の撹拌タンク3で撹拌、混合することができる。
【0031】
コールタールと溶剤とを撹拌タンクで撹拌、混合して得られる混合液は、コールタールと溶剤を混合したものであれば特に限定されず、任意の混合比で混合した混合液を用いることができる。
【0032】
本発明に係るコールタールの前処理設備の洗浄方法においては、洗浄液としてのハンドリング性と重質分の溶解性または分散性との観点から、溶剤として粗軽油を用いた場合、前記混合液を得る工程の前記混合液において、コールタールと粗軽油との比が体積比で、1:2〜1:3であることが好ましい。
【0033】
<抽出分離工程>
前記混合液を抽出タンクで上澄みと、コールタールおよび粗軽油を含む底部抜出液とに抽出分離する工程は、例えば、
図1の抽出タンク5で抽出、分離することができる。抽出分離の温度は35〜45℃が好ましい。
【0034】
<投入工程>
前記抽出分離する工程後の、前記底部抜出液を、前記重液タンクに直接投入する工程は、例えば、
図1で遠心分離機11を介さずに抽出タンク5と重液タンク10とを直接繋ぎ、これを通じて前記底部抜出液7の一部または全部を重液タンク10に直接投入することができる。
【0035】
<溶解分散工程>
溶解分散工程では、前記底部抜出液と、前記重液タンク内の重質分とを接触させて、前記重質分を前記底部抜出液に溶解または分散する。ここで、前記底部抜出液は、重質分中の少なくとも一部を溶解または分散することができればよい。
【0036】
前記底部抜出液と、前記重液タンク内の重質分とを接触させて、前記重質分を前記底部抜出液に溶解または分散する工程は、底部抜出液と重質分とを接触させ、溶解または分散すればよい。
【0037】
本発明に係るコールタールの前処理設備の洗浄方法においては、洗浄液としてのハンドリング性と重質分の溶解性または分散性との観点から、前記抽出分離する工程の前記底部抜出液において、コールタールと粗軽油との比が体積比で、1:2〜1:3であることが好ましい。
【0038】
前記底部抜出液と、重質分とを接触させる場合、例えば、重液タンク内の重質分の全量を一旦重液タンクから払い出して、その重液タンクに底部抜出液を張り込むことで重液タンク内に残った重質分と底部抜出液とを接触させてもよい。
【0039】
接触させる方法は、適宜選択すればよく、特に限定されないが、例えば、底部抜出液を重液タンク内に張って接触させる、底部抜出液を重液タンク内で撹拌させながら接触させる、または連続的に重液タンク内に底部抜出液を流しながら接触させる、などとすることができる。
【0040】
接触させる時間は、適宜調節すればよく、特に限定されない。
【0041】
接触時の底部抜出液の温度は、適宜調節すればよく、特に限定されないが、例えば、接触時の底部抜出液の温度は、35〜40℃である。
【0042】
本発明に係るコールタールの前処理設備の洗浄方法より、重液タンクにおけるQI成分を含む重質分の蓄積が抑制される。そのため、例えば、従来の工程に比べて、洗浄によって除去された重質分の分だけ、重液タンク内の液面が低下する。通常、重液タンクの容量に対して一定の高さまで液面が上昇すると、コールタールの前処理設備の稼働を一時停止して重液タンクを開放し、重液タンク内を清掃するが、上述したように、本発明によれば、従来よりも重液タンク内の液面が低下するため、重液タンクの容量に対して一定の高さまで液面が上昇する頻度が低下する。そのため、コールタールの前処理設備の稼働を一時停止する頻度も低下し、コールタールの前処理設備の稼働をより安定にすることができる。
【0043】
溶解分散工程にて重質分を溶解または分散した底部抜出液は、他の工程に利用してもよい。重液タンクの重質分を溶解または分散した底部抜出液は、例えば、抽出タンクに投入してもよい。
【0044】
本発明に係るコールタールの前処理設備の洗浄方法では、任意の工程として、例えば、
図1に示したように、遠心分離機11で分離されたコールタール(重質分を含まないコールタール)を含む軽液12を抽出タンク5に戻して再利用する工程などを含んでいてもよい。
【0045】
図1に示したフローでは、原料の供給、中間体および生成物の搬送は、連続的に供給、搬送してもよいし、回分的または非連続的に供給、搬送してもよい。
【0046】
ところで、本発明の洗浄方法を適用する場合以外の、コールタールの前処理設備の通常の稼働時には、
図1に示すように、底部抜出液7は、抽出タンク5のタンク底部から抜き出され、遠心分離機11にかけられる。これにより、底部抜出液7は、重質分を含まないコールタールである軽液12と、重質分を含む重液13とに分離される。軽液12は、軽液タンク14に貯蔵され、再び抽出タンク5に送られる。重液13は、重液タンク10に送られ、貯蔵される。重液タンク10に貯蔵された重液13は、ポンプ15によって重液タンク10から払い出され、各種のタール原料16として利用される。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は下記の実施例になんら限定されない。
【0048】
(実施例1)
以下に述べるように、
図1に示したフローに従い、重液タンク10の洗浄を1日に1回行い、本発明の効果を検証した。
【0049】
(混合工程と抽出分離工程)
含浸ピッチ原料としてのQI成分濃度3.5%のコールタールと粗軽油を1:2.1の比(体積比)で撹拌タンク3に投入して、撹拌して混合し、混合液4を得た。そしてこの混合液4を抽出タンク5に投入し、抽出分離を行い、上澄み6と、底部抜出液7を得た。
【0050】
(投入工程と溶解分散工程)
重液タンク10内の液を全量払い出した。その重液タンク10内にはQI成分を含む重質分が堆積していた。次に、抽出タンク5から遠心分離機11を介さずに底部抜出液7(温度約40℃)の一部を15m
3/時の量で重液タンク10内に投入した。重液タンク10内の重質分と底部抜出液7を5分間接触させ、重質分を底部抜出液7に溶解または分散した。その後、重液タンク10から、重質分を溶解または分散した底部抜出液を払い出した。
【0051】
(比較例1)
図2に示したフローに従い、洗浄液として安水を用いて重液タンク114の洗浄を1日に1回行った。具体的には、以下のとおりである。まず、実施例1と同様に、重液タンク114内の液を全量払い出した。重液タンク114に安水を15m
3/時の量で直接投入した。重液タンク114内の重質分と安水を5分間接触させた。その後、重液タンク114から、安水を払い出した。
【0052】
(評価)
比較例1では、重液タンク内に重質分が蓄積することにより、一か月間で15回の重液タンクおよび重液タンクに繋がる配管の閉塞トラブルが発生し、コールタールの前処理設備の操業を一時停止して、重液タンクや配管の清掃をする必要が生じた。
【0053】
これに対して、実施例1では、重液タンクおよび重液タンクに繋がる配管の閉塞トラブルは一か月間で一度も生じなかった。このように、本発明は、重液タンクの重質分の除去効率に優れ、本発明によって、コールタールの前処理設備の洗浄回数を低減することができ、かつ、コールタールの前処理設備の稼働をより安定にすることができた。