(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の放射線治療システムおよび治療計画データ
の検証方法の実施形態を、図面を用いて説明する。
【0023】
以下の各実施形態では、患者の患部に対して照射する放射線として、陽子や炭素等の重粒子を用いる粒子線治療システムを例に説明する。
【0024】
<実施形態1>
本発明の放射線治療システムおよび治療計画データの検証方法の実施形態1について
図1乃至
図8を用いて説明する。
【0025】
最初に、粒子線治療システムの全体構成について
図1を用いて説明する。
図1は本実施形態の粒子線治療システムの全体構成を示す図である。
【0026】
粒子線治療システム100は、患者5の患部51に対して粒子線を照射するシステムであり、
図1に示すように、加速器20と、ビーム輸送系30と、照射ノズル40と、治療台50と、全体制御装置11と、加速器・ビーム輸送系制御装置12と、照射制御装置13と、ディスプレイ14と、入力装置15と、ビーム遮断装置46と、モニタ信号模擬装置47と、を備えている。
【0027】
加速器20は、荷電粒子ビーム(以下、ビーム90、
図2参照)を生成、加速する装置であり、入射器21とシンクロトロン加速器22を備える。
【0028】
ビーム輸送系30は、患部51にビーム90を照射する照射ノズル40まで加速器20で加速されたビーム90を輸送する装置郡であり、加速器20と照射ノズル40とを接続している。
【0029】
加速器20で光速の6〜7割まで加速されたビーム90は、ビーム輸送系30に配置された偏向電磁石31により真空中を磁場で曲げられながら照射ノズル40まで輸送される。
【0030】
照射ノズル40でビーム90は照射領域の形状に合致するように整形され、照射対象に照射される。照射対象は、例えば治療台50に横になった患者5の患部51(
図2参照)などである。
【0031】
全体制御装置11は、OIS(Oncology Information System)を介して治療計画装置(ともに図示省略)、加速器・ビーム輸送系制御装置12、照射制御装置13、モニタ信号模擬装置47、ディスプレイ14、入力装置15、などと接続されており、粒子線治療システム100全体の動作を制御する。
【0032】
加速器・ビーム輸送系制御装置12は、加速器20やビーム輸送系30を構成する各機器の動作を制御する。
【0033】
照射制御装置13は、照射ノズル40を構成する各機器の動作を制御する。
【0034】
ディスプレイ14および入力装置15は、入出力装置の一式であり、全体制御装置11から取得した信号に基づいて情報を表示する。また、粒子線治療システム100を操作する医療従事者からの入力を受け取り、全体制御装置11に様々な操作指示信号を送信する。
【0035】
治療台50は、患者5を載せるベッドである。治療台50は全体制御装置11からの指示に基づき、直交する3軸の方向へ移動することができ、さらにそれぞれの軸を中心として回転する、いわゆる6軸方向に移動することができる。これらの移動と回転により、患者5の患部51の位置を所望の位置に移動させることができる。
【0036】
次に、粒子線をスキャニングさせる照射ノズル40、ビーム遮断装置46、モニタ信号模擬装置47の詳細について
図2乃至
図4を用いて説明する。
図2は粒子線スキャニング用の照射ノズル40の概略を示す図である。
図3は患部51をスキャニング照射していく時の、同じエネルギーで照射する層と荷電粒子ビーム90と照射スポット53を示す図である。
図4は患部51をスキャニング照射していく時の深さ方向の線量分布を示す図である。
【0037】
図2に示すように、照射ノズル40内には、ビーム遮断装置46、走査電磁石41A,41B、線量モニタ42、位置モニタ43、リッジフィルタ44、レンジシフタ45が配置されている。
【0038】
また、
図2に示すように、照射制御装置13は、照射ノズル制御装置13A、線量モニタ制御装置72、位置モニタ制御装置73、走査電磁石電源制御装置71、走査電磁石電源61A,61Bを有している。
【0039】
照射ノズル40は、ビーム90の通過方向に対して垂直な平面にビーム90を走査するため
の走査電磁石41A,41Bにより二次元平面内にビーム90を走査する装置である。走査電磁石41A,41Bにより走査されたビーム90は、患部51に照射される。治療のための照射時は、ビーム遮断装置46はビーム90の軌道上から後退し、ビーム90の照射を妨げることを防いでいる。
【0040】
線量モニタ42は各スポットに照射されるビーム90の線量を演算するために、ビーム90の通過によって生じた電子を収集するモニタである。線量モニタ42の検出信号(電子を収集して得られたパルス信号)は線量モニタ制御装置72に入力される。
【0041】
線量モニタ制御装置72は、線量モニタ42から入力された検出信号に基づいて各照射スポット53に照射される照射量を演算し、演算した照射量を照射ノズル制御装置13Aに出力する。
【0042】
位置モニタ43は各照射スポット53の位置(例えば重心の位置)を演算するために、ビーム90の通過によって生じた電子を収集するモニタである。位置モニタ43の検出信号(電子を収集して得られたパルス信号)は位置モニタ制御装置73に入力される。
【0043】
位置モニタ制御装置73は、位置モニタ43から入力された検出信号に基づいて各照射スポット53における線量をカウントし、演算したカウント値を照射ノズル制御装置13Aに出力する。
【0044】
照射ノズル制御装置13Aは、位置モニタ制御装置73に入力された信号に基づきビーム90の通過位置を求め、求めた通過位置のデータから照射スポット53の位置および幅の演算を行い、ビーム90の照射位置を確認する。更には、照射ノズル制御装置13Aは、線量モニタ制御装置72に入力された照射線量に応じてビーム90の照射の制御を進行する。
【0045】
ビーム遮断装置46は、加速器20と患者5の前との間で粒子線を遮断する構成であり、粒子線を物理的に遮断する遮断体46aや、遮断体46aを粒子線の軌道に対して前進/後退させる移動機構46b等を有している。
【0046】
遮断体46aは、ビーム90の軌道上に配置される際にビーム90と衝突する物体であり、患者5までビーム90が到達することを防ぐ。遮断体46aは、例えば真鍮等の金属製のブロックであり、移動機構46bによりビーム90の軌道上からの後退、ビーム90の軌道上への前進が可能となっている。なお、ビーム遮断に伴いガンマ線や中性子線などの二次放射線が発生することから、患者5の二次放射線による被ばくを防ぐ目的で、遮断体46aには遮蔽材などの遮蔽構造を更に設けることが望ましい。
【0047】
移動機構46bは遮断体46aに取り付けられた車輪、その車輪が転がるレール、遮断体46aを移動させる駆動機構等から構成される。駆動機構は空圧式、油圧式、モータなどによる機械駆動式、など様々な構成とすることができる。
【0048】
モニタ信号模擬装置47は、ビーム遮断装置46によって粒子線が患者5の患部51まで到達することが遮断されている間、粒子線モニタの信号を模擬する装置である。本実施例では、粒子線の照射量を計測する線量モニタ42の出力する信号、および粒子線の照射位置を計測する位置モニタ43の出力する信号を模擬した模擬モニタ信号を生成する。
【0049】
本実施例では、粒子線モニタは線量モニタ42および位置モニタ43から構成されるが、いずれか一方でも構わないし、また他の種類のモニタを適宜含むことができる。
【0050】
モニタ信号模擬装置47が出力する線量モニタ模擬信号は、線量モニタ42の検出信号と合成されて線量モニタ制御装置72に入力される。モニタ信号模擬装置47が出力する位置モニタ模擬信号は、位置モニタ43の検出信号と合成されて位置モニタ制御装置73に入力される。
【0051】
なお、モニタ信号模擬装置47は、線量モニタ模擬信号と位置モニタ模擬信号のうち、少なくともいずれかの信号を模擬するものであってもよい。
【0052】
また、モニタ信号模擬装置47は、治療モードの際には、ビーム遮断装置46の遮断体46aをビーム90の軌道上から後退させ、モニタ信号模擬モードの際にはビーム遮断装置46の遮断体46aをビーム90の軌道上に前進させるよう、移動機構46bに対して移動信号を出力する。
【0053】
リッジフィルタ44は、ブラッグピークを太らせることが必要な場合に使用する。また、レンジシフタ45は、ビーム90の到達位置を調整する際に挿入することができる。
【0054】
本実施形態のようなスキャニング照射では、あらかじめ治療計画装置で患部51を一様な線量で照射するための照射スポット53の位置と各照射スポット53に対する目標照射量を計算する。粒子線スキャニング照射の模式図を
図3に示す。
【0055】
図3に示すように、スキャニング照射では、患部51を層52に分割し、各層52内は同じエネルギーのビーム90で照射していく。一つの層52内には照射スポット53が1つ以上配置される。
【0056】
ビーム90の進行方向、すなわち患部51深さ方向の照射位置変更には、ビーム90のエネルギーを変更する。ビーム90のエネルギーが変化すると、ビーム90の体内到達位置が変わる。エネルギーの高い荷電粒子ビーム90は、体内の深い位置まで到達し、エネルギーの低い荷電粒子ビーム90は体内の浅い位置までしか到達しない。
【0057】
スキャニング照射では、深さ方向の一様な線量分布形成にビーム90のエネルギーを変更して、照射量を適切に配分することにより深さ方向のSOBP(Spread Out Bragg Peak)を形成する。各エネルギーの照射量を適切に配分することで各エネルギーのブラッグカーブ81を重ね合わせて、
図4に示すように深さ方向に一様な線量分布SOBP82を形成する。
【0058】
図1に戻り、本実施例の全体制御装置11は、治療時の動作を制御する治療モードと、データ転送完全性の検証時の動作を制御するモニタ信号模擬モード、との2つのモードを有する。治療モードとモニタ信号模擬モードの切り替えは、
図5に示すディスプレイ14に表示される画面表示に従い、オペレータがモードを選択することでなされる。
【0059】
照射時のフローチャートを
図6に示す。予め治療計画装置で作成された患者5毎の治療計画データは、治療計画装置からOISに保存されている。
【0060】
最初に、これから実施する照射が、患者5の患部51への実照射を行う治療モードと、データ転送完全性の検証のための模擬照射を行うモード(モニタ信号模擬モード)とのいずれであるかが、
図5に示すような画面を用いて選択されると、全体制御装置11はモードがいずれであるかを認識する(ステップS101)。
【0061】
ステップS101におけるモードの選択後、治療計画データがOISから粒子線治療システム100の全体制御装置11に送られる(ステップS102)。
【0062】
全体制御装置11は、治療計画データに基づき、治療台50、加速器・ビーム輸送系制御装置12、照射制御装置13のパラメータを設定する(ステップS103)。また、全体制御装置11は、治療計画データに基づき設定された各スポットのエネルギー、座標値、照射量のデータを照射制御装置13に加えてモニタ信号模擬装置47に対して送る。
【0063】
照射スポット53の座標値は、照射制御装置13において走査電磁石41A,41Bの励磁電流値に変換されて、
図2に示す走査電磁石電源制御装置71に送られる。
【0064】
パラメータの設定などが完了した後、オペレータの操作により照射が開始される(ステップS104)。
【0065】
照射が開始されると、全体制御装置11は、加速器・ビーム輸送系制御装置12にエネルギー変更、ビーム90の出射信号又は出射停止信号などを出力する。治療計画データに記録された順に従い、N=1から順次ある照射スポット53に対して、定められた照射量のビーム90を照射する(ステップS105)。
【0066】
線量モニタからの信号、あるいはモニタ信号模擬装置47からの信号に基づいて規定の線量が照射されたと判定されたときは、全体制御装置11は、先に照射が完了したある照射スポット53が同じ層52内の最後に照射すべきスポットであったか否かを判定する(ステップS106)。最終スポットであったと判定されたときは処理をステップS107に進める。これに対し、最終スポットでなかったと判定されたときは次の照射スポット53の照射を実行するために、処理をステップS105に進める。
【0067】
次いで、全体制御装置11は、先に照射が完了したある照射スポット53が属する層52が最後に照射すべき層52であったか否かを判定する(ステップS107)。最後の層52であったと判定されたときは処理をステップS108に進め、最後の層52でなかったと判定されたときはエネルギー変更して次の層52の照射を行うために、処理をステップS105に進める。
【0068】
照射が完了すると、全体制御装置11は、スポット毎の照射位置および照射量を含む実績データを作成し、OISに転送する(ステップS108)。
【0069】
次に、治療モードにおけるスキャニング照射のタイムチャートを
図7に示す。
図7では例としてスポット1からスポット3までの3スポットの照射を示す。
【0070】
治療モードでは、照射の前に、全体制御装置11からモニタ信号模擬装置47に対して治療モードであるとの信号が出力される。モニタ信号模擬装置47は治療モードであることを認識したときは、ビーム遮断装置46の移動機構46bに対して後退信号を出力し、遮断体46aをビーム90の軌道上から後退させる。
【0071】
加速器20には、所定のビーム強度で照射するように
図1に示す加速器・ビーム輸送系制御装置12から指令を出す。ビーム90の照射が開始されると照射ノズル40内の線量モニタ42の電離出力がパルス変換されて出力される。
【0072】
ビーム90の照射に伴い、線量モニタ制御装置72で計数されるパルスカウント値が増加し始め、所定の照射量を照射すると線量モニタ制御装置72は満了信号を照射ノズル制御装置13Aに送り、スポットの照射は終了する。
【0073】
スポットが照射されている間、線量モニタ42と同様に、位置モニタ43の電離出力もパルス変換されて出力される。スポットの照射が終了すると、位置モニタ制御装置73は、1スポット分の信号を合算した結果を照射ノズル制御装置13Aに入力する。
【0074】
照射ノズル制御装置13Aは、位置モニタ制御装置73の出力信号に基づき、スポットの位置、幅を演算し、所定の位置に照射されたかどうか判定する。判定した結果、スポット位置、幅のずれが大きいときは、ビーム90を停止する。
【0075】
また、線量モニタ制御装置72の満了信号により、照射ノズル制御装置13Aは走査電磁石電源制御装置71に次のスポット移動の信号を送り、次のスポットへの移動が開始される。次のスポットの電流値に到達すると、走査電磁石電源制御装置71は移動完了信号を照射ノズル制御装置13Aに送る。
【0076】
以上が治療モードにおけるスキャニング照射の制御の流れである。
【0077】
次に、本発明の特徴である、データ転送完全性の検証時における粒子線治療システムの動作方法(治療計画データの検証方法)について説明する。
【0078】
モニタ信号模擬モードでは、照射の前に、全体制御装置11からモニタ信号模擬装置47に対して模擬モードであるとの信号が出力される。モニタ信号模擬装置47は模擬モードであることを認識したときは、ビーム遮断装置46の移動機構46bに対して前進信号を出力し、遮断体46aをビーム90の軌道上に前進させる。これにより照射ノズル40内に設置されたビーム遮断装置46の遮断体46aがビーム90の軌道上に設置されることでビーム90は患者5まで輸送されることを防ぐことができる。
【0079】
モニタ信号模擬モードであっても、制御のフローチャートは
図6に従う。
【0080】
全体制御装置11は、OISから治療計画データをダウンロードし、各スポットのエネルギー、座標値、照射量のデータを照射ノズル制御装置13Aおよびモニタ信号模擬装置47に送る。
【0081】
モニタ信号模擬装置47は、スポット毎に、エネルギー、座標値、照射量に応じて線量モニタ模擬信号および位置モニタ模擬信号の信号強度を計算する。信号強度は、スポットのエネルギー、座標値、照射量を変数とする変換式または変換テーブルに基づき計算される。信号強度の計算は、治療計画データのダウンロード時に実施しても良いが、スポットの照射時に逐次計算しても良い。
【0082】
モニタ信号模擬モードにおいても、モニタ信号模擬装置47およびビーム遮断装置46以外の装置は治療モードと同様の動作をする。
【0083】
つまり、加速器20は治療計画データに基づくエネルギーにビーム90を加速したのちに出射し、ビーム輸送系30は照射ノズル40までビーム90を輸送する。
【0084】
モニタ信号模擬モードでは、加速器・ビーム輸送系制御装置12はビーム90を出射する時に、スポット照射タイミング信号をモニタ信号模擬装置47に入力する。モニタ信号模擬装置47はスポット照射タイミング信号をトリガーとして、照射スポット53に応じたモニタ模擬信号を出力する。
【0085】
ビーム遮断装置46によりビーム90が遮断されるため、線量モニタ42および位置モニタ43から検出信号は出力されない。照射ノズル制御装置13Aはモニタ模擬信号に基づき照射の制御を進行する。
【0086】
次に、モニタ信号模擬モードにおけるスキャニング照射のタイムチャートを
図8に示す。
図8でも
図7と同様にスポット1からスポット3までの3スポットの照射を示す。
【0087】
加速器20には、所定のビーム強度で照射するように
図1に示す加速器・ビーム輸送系制御装置12から指令を出す。
【0088】
ビーム90の照射が開始されても、ビーム遮断装置46によりビーム90が遮断されるため、線量モニタ42および位置モニタ43をビーム90が通過せず、信号は出力されない。
【0089】
ここで、本モニタ信号模擬モードでは、加速器・ビーム輸送系制御装置12はビーム90を出射する時に、スポット照射タイミング信号をモニタ信号模擬装置47に入力する。モニタ信号模擬装置47はスポット照射タイミング信号をトリガーとして、線量モニタ模擬信号および位置モニタ模擬信号を出力する。
【0090】
モニタ信号模擬装置47からの線量モニタ模擬信号の入力に伴い、線量モニタ制御装置72で計数されるパルスカウント値が増加し始め、所定のカウント数に到達すると線量モニタ制御装置72は満了信号を照射ノズル制御装置13Aに送り、スポットの照射は終了する。
【0091】
スポットが照射されている間、線量モニタ模擬信号と同様に、モニタ信号模擬装置47から位置モニタ模擬信号が出力される。
【0092】
スポットの照射が終了すると、位置モニタ制御装置73は、1スポット分の信号を合算した結果を照射ノズル制御装置13Aに入力する。照射ノズル制御装置13Aは、位置モニタ制御装置73の出力信号に基づき、スポットの位置、幅を演算し、所定の位置に照射されたかどうか判定する。判定した結果、スポット位置、幅のずれが大きいときは、ビーム90を停止する。
【0093】
線量モニタ制御装置72の満了信号により、照射ノズル制御装置13Aは走査電磁石電源制御装置71に次のスポット移動の信号を送り、次のスポットの励磁電流値への変更が開始される。次のスポットの励磁電流値に到達すると、走査電磁石電源制御装置71は移動完了信号を照射ノズル制御装置13Aに送る。
【0094】
以上がモニタ信号模擬モードにおけるスキャニング照射の制御の流れである。
【0095】
上記では、モニタ信号模擬装置47はパルス信号を出力するように説明した。このパルス信号は、線量モニタ42および位置モニタ43で発生する電離電流信号を、I−V変換およびV−F変換されて出力される信号を模擬している。モニタ模擬信号は、電圧信号を模擬して出力し、V−F変換前にモニタ信号と合成することでも本実施形態の効果は変わらない。
【0096】
次に、本実施形態の効果について説明する。
【0097】
上述した本発明の実施形態1の粒子線治療システム100は、患者5の患部51に対して粒子線を照射するものであって、荷電粒子を生成、加速する加速器20と、加速器20と患者5の前との間で粒子線を遮断するビーム遮断装置46と、ビーム遮断装置46によって粒子線が遮断されている間、粒子線モニタの信号を模擬するモニタ信号模擬装置47と、を備えている。
【0098】
このように、モニタ信号模擬モードにおいて、照射ノズル40内に設置されたビーム遮断装置46を用いることで、ビーム遮断装置46の下流にはビーム90は輸送されず、治療室に患者5がいてもビーム90が照射されることはない。一方、モニタ信号模擬装置47およびビーム遮断装置46以外の装置は治療モードと同様の動作をする。つまり、OISから治療計画データを取得し、治療計画データに従ってビーム90を加速、出射、輸送し、実績データを作成してOISに転送する、という一連のデータ転送は通常の治療モードと同様の動作をする。
【0099】
以上により、患者5が治療台50に乗った状態で、データ転送完全性の検証を実施することが可能となる。そのため、患者5を治療室から退室させる必要がなくなり、入退室および再度実施される患者位置決めが不要となるため、治療時間の短縮を図ることができるとともに、治療台50の乗り降りに伴った患者の解剖学的構造の変化を防ぐことができ、線量集中性を更に向上させることができる、との効果が得られる。
【0100】
また、遮断手段は、粒子線を物理的に遮断する遮断体46a、遮断体46aを粒子線の軌道に対して前進/後退させる移動機構46bを有するビーム遮断装置46であるため、ビーム90を物理的に遮断することができ、患者5に粒子線が到達することを確実に防止することができる。
【0101】
更に、モニタ信号模擬装置47は、粒子線の照射量を計測する線量モニタ42の出力する信号、および粒子線の照射位置を計測する位置モニタ43の出力する信号、のうち少なくともいずれか一方の信号を模擬することで、従来のデータ転送完全性の検証方法に近い運転方法が可能となる。
【0102】
また、ビーム遮断装置46は、粒子線を患部51に照射するための照射ノズル40内に設置されることにより、患者5の近くまで粒子線を実際に輸送することができるため、従来のデータ転送完全性の検証方法により近い運転方法が可能となる。
【0103】
<実施形態2>
本発明の実施形態2の放射線治療システムおよび治療計画データの検証方法について
図9を用いて説明する。実施形態1と同じ構成には同一の符号を示し、説明は省略する。以下の実施形態においても同様とする。
図9は、本実施形態の粒子線治療システムを示す図である。
【0104】
本実施形態の粒子線治療システム100Aは、実施形態1の粒子線治療システム100と比較して、ビーム遮断装置46Aの機能が異なる。
【0105】
粒子線治療システム100Aの構成・動作はビーム遮断装置46Aおよびモニタ信号模擬装置47Aを除いて実施形態1の粒子線治療システム100と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0106】
図9に示すように、本実施形態の粒子線治療システム100Aにおけるビーム遮断装置46Aの遮断体46a1は、ビーム90を遮断する際にスポット毎の照射量を計測する粒子線の照射量を計測する線量計を更に有している。線量計により計測されたスポット照射量はモニタ信号模擬装置47Aに入力される。
【0107】
モニタ信号模擬装置47Aは、入力されたスポット照射量に基づき、線量モニタ模擬信号を生成し、線量モニタ制御装置72に入力する。
【0108】
ビーム遮断装置46Aのうち遮断体46a1は、例えば、帯電した粒子を真空中で捕捉する金属製(導電性)のカップであるファラデーカップ、あるいは電離箱およびその電離箱の下流側に設置される真鍮等の金属製のブロック(好適には実施形態1で説明したものと同じ構成)、から構成される。
【0109】
遮断体46a1がファラデーカップの場合は、それ自体が線量計と遮断体とを兼ねる。電離箱およびブロックの場合は、電離箱が線量計で、ブロックが遮断体となる。
【0110】
本発明の実施形態2の放射線治療システムおよび治療計画データの検証方法においても、前述した実施形態1の放射線治療システムおよび治療計画データの検証方法とほぼ同様な効果が得られる。
【0111】
また、ビーム遮断装置46Aは、粒子線の照射量を計測する線量計を更に有しており、モニタ信号模擬装置47Aは、線量計によって計測された粒子線の照射量に基づき粒子線モニタの信号を模擬することにより、より従来のデータ転送完全性の検証方法に近い運転方法が可能となる。
【0112】
<実施形態3>
本発明の実施形態3の放射線治療システムおよび治療計画データの検証方法について
図10を用いて説明する。
図10は、本実施形態の粒子線治療システムを示す図である。
【0113】
本実施形態の粒子線治療システム100Bは、実施形態1の粒子線治療システムと比較して、ビーム遮断装置46Bとしてビーム位置モニタ43Bと金属製ブロック(実施形態1で説明したものと同様の構造)が設置されているという点で異なる。
【0114】
粒子線治療システム100Bの構成・動作は、ビーム位置モニタ43Bおよびモニタ信号模擬装置47Bを除いて実施形態1の粒子線治療システム100と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0115】
図10に示すように、本実施形態の粒子線治療システム100Bにおけるビーム遮断装置46Bは、粒子線の照射位置を計測するビーム位置モニタ43Bを更に有しており、ビーム90を遮断する際にスポット毎の照射位置を計測する。計測されたスポット照射位置はモニタ信号模擬装置47Bに入力される。
【0116】
モニタ信号模擬装置47Bは、入力されたスポット照射位置に基づき、位置モニタ模擬信号を生成し、位置モニタ制御装置73に入力する。
【0117】
本発明の実施形態3の放射線治療システムおよび治療計画データの検証方法においても、前述した実施形態1の放射線治療システムおよび治療計画データの検証方法とほぼ同様な効果が得られる。
【0118】
また、ビーム遮断装置46Bは、粒子線の照射位置を計測するビーム位置モニタ43Bを更に有しており、モニタ信号模擬装置47Bは、ビーム位置モニタ43Bによって計測された粒子線の照射位置に基づき粒子線モニタの信号を模擬することにより、従来のデータ転送完全性の検証方法に近い運転方法が可能となる。
【0119】
なお、本実施形態では、ビーム位置モニタ43Bによってスポット毎の照射位置を計測することに加えて、実施形態2で説明したようにビーム90を遮断する際にスポット毎の照射量も計測することができる。
【0120】
<実施形態4>
本発明の実施形態4の放射線治療システムおよび治療計画データの検証方法について
図11乃至
図13を用いて説明する。
図11乃至
図13は、本実施形態の粒子線治療システムを示す図である。
【0121】
図11に示すように、本実施形態の粒子線治療システム100Cは、実施形態1の粒子線治療システム100と比較して、ビーム遮断装置46Cが粒子線を加速器20から照射ノズル40に輸送するためのビーム輸送系30内に設置されているという点が異なる。
【0122】
ビーム遮断装置46Cは、上述の実施形態1で説明したビーム遮断装置46や実施形態2で説明したビーム遮断装置46A、実施形態3で説明したビーム遮断装置46Bと同等の構成、機能を持つものとすることができる。
【0123】
また、モニタ信号模擬装置47Cについても、上述の実施形態1乃至3で説明したモニタ信号模擬装置47,47A,47Bと同等の構成、機能を持つものとすることができる。
【0124】
なお、ビーム遮断装置46Cより下流側にビームモニタが設けられており、またそのビームモニタに対してもモニタ模擬信号が入力されることが望まれる場合は、本実施例のモニタ信号模擬装置47Cは、モニタ信号模擬モードの際にはそれらのビームモニタに対しても必要に応じて模擬信号を出力することが望ましい。
【0125】
粒子線治療システム100Cの構成・動作はビーム遮断装置46Cおよびモニタ信号模擬装置47Cを除いて実施形態1と同様であり、詳細は省略する。
【0126】
本発明の実施形態4の放射線治療システムおよび治療計画データの検証方法においても、前述した実施形態1の放射線治療システムおよび治療計画データの検証方法とほぼ同様な効果が得られる。
【0127】
また、ビーム遮断装置46Cは、粒子線を加速器20から患部51に照射するための照射ノズルに輸送するためのビーム輸送系30内に設置されることにより、ビーム遮断に伴う二次放射線の発生源を治療室から遠ざけることが可能となる。これにより、二次放射線による患者5の被ばくを避けるための遮蔽構造を簡略化することが可能となる。
【0128】
なお、本実施形態のようにビーム輸送系30内のビーム遮断装置46Cの位置は
図11のような位置に限られず、
図12に示す様に、粒子線治療システム100Dは、ビーム輸送系30が患者5の周りを回転する回転ガントリーである場合、回転ガントリーの入り口部分にビーム遮断装置46Dを設置することも可能である。モニタ信号模擬装置47Dについては、モニタ信号模擬装置47,47A,47B,47Cと同様の構成とすることができる。
【0129】
また、
図13に示す様に、照射ノズル40を複数備える粒子線治療システム100Eであれば、加速器20の出射点の下流にビーム遮断装置46Eを設置することも可能である。
【0130】
粒子線治療システム100Eは、ビーム輸送系30は複数の照射ノズル40に放射線を振り分ける振り分け装置32を有している。このため、振り分け装置32の上流側にビーム遮断装置46Eを設置することができる。
【0131】
振り分け装置32は、電磁石などで構成される。
【0132】
モニタ信号模擬装置47Eについては、モニタ信号模擬装置47,47A,47B,47Cと同様の構成とすることができるが、複数の照射ノズル40に対してそれぞれ接続されている必要がある。また、検証時には、複数の照射ノズル40のうち、検証を行う対象の照射ノズル40に対してモニタ模擬信号を出力する。
【0133】
なお、モニタ信号模擬装置47Eは1台である必要はなく、照射ノズル40に1対1で設けてもよい。
【0134】
この
図13に示すように、照射ノズル40を複数備え、ビーム輸送系30は複数の照射ノズル40に放射線を振り分ける振り分け装置32を有し、ビーム遮断装置46Eは、振り分け装置32の上流側に設置されることで、複数ある治療室のそれぞれにビーム遮断装置を設置する必要がなくなる。また、ビーム輸送系30に設けられているファラデーカップなどの既存の設備を有効活用することができる。すなわち、ビームを遮断するための機構を最小限の手間で設けることができる。
【0135】
<実施形態5>
本発明の実施形態5の放射線治療システムおよび治療計画データの検証方法について
図14を用いて説明する。
図14は、本実施形態の粒子線治療システムを示す図である。
【0136】
図14に示す本実施形態の粒子線治療システム100Fは、実施形態1の粒子線治療システム100と比較して、ビーム90を遮断する方法が異なる。粒子線治療システム100のその他の構成・動作はビーム遮断方法およびモニタ信号模擬装置47Fを除いて実施形態1と同様であるため、詳細は省略する。
【0137】
図14に示す本実施形態の粒子線治療システム100Fは、実施形態1乃至4のようにビーム遮断装置46,46A,46B,46C,46D,46Eを用いて物理的にビーム90を遮断するのではなく、加速器20の制御によってビーム90を遮断するものである。
【0138】
すなわち、粒子線治療システム100Fでは、加速器20にビーム90を入射しない、または入射、加速はするがビーム90を出射しないことによってビーム90を遮断する制御を実行する。
【0139】
制御の具体例としては、例えば、入射器21への原料ガスの供給の遮断、入射器21を構成する各機器への電力の供給の遮断や制御パラメータの調整、加速器20内の各機器への電力の供給の遮断や制御パラメータの調整(加速用とは異なる制御パラメータを用いる等)等が考えられる。
【0140】
ビーム90の入射または出射をしないことによって照射制御が進まなくなることを防ぐために、モニタ信号模擬装置47Fは加速器20やビーム輸送系30内のビームモニタの信号を模擬する信号を生成し、それぞれの制御装置に入力する。
【0141】
本実施形態では、加速器20での粒子線の生成を遮断する、または加速器20からの粒子線の出射を遮断する制御を実行することから、遮断手段は、加速器・ビーム輸送系制御装置12Fになる。
【0142】
その他の構成・動作は前述した実施形態1の粒子線治療システム100と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0143】
本発明の実施形態5の放射線治療システムおよび治療計画データの検証方法においても、前述した実施形態1の放射線治療システムおよび治療計画データの検証方法とほぼ同様な効果が得られる。
【0144】
また、遮断手段は、加速器20での粒子線の生成,加速を遮断する、または加速器20からの粒子線の出射を遮断する加速器・ビーム輸送系制御装置12Fであることにより、追加する設備はモニタ信号模擬装置47Fのみであり、ビーム遮断装置46等の装置を新たに追加する必要がないことから、既存の装置への適用が容易である、との効果を奏する。
【0145】
なお、加速器20内での制御によってビーム90を遮断するだけではなく、ビーム輸送系30内の制御によってビーム90を遮断することが可能である。例えば、ビーム輸送系30内の各機器への電力の供給の遮断や制御パラメータの調整等によって実現することができる。
【0146】
更には、実施形態1乃至4のように、ビーム輸送系30内や照射ノズル40内にビーム遮断装置を設けて、万全を期すことが可能である。
【0147】
<その他>
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0148】
また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【0149】
例えば、上述の実施形態では、スポット間でビーム電流を停止する離散スポット照射法を例に説明したが、スポット間でビーム電流を停止しない連続スポット照射法にも同様に適用することができる。また、この他として、ワブラー法や二重散乱体法など粒子線の分布を広げた後、コリメータやボーラスを用いて標的の形状に合わせた線量分布を形成する照射法にも本発明を適用することができる。
【0150】
また、加速器20は、実施形態1乃至5で説明したシンクロトロン加速器の他に、サイクロトロン加速器やシンクロサイクロトロン加速器などの様々な公知の加速器を用いることができる。
【0151】
また、放射線を発生させる放射線源は、実施形態1乃至5のような荷電粒子の加速器20だけでなく、発生させる放射線がX線である電子線形加速器を用いたX線治療装置や、発生させる放射線がガンマ線であるガンマ線源を使用したガンマ線治療装置とすることが可能である。
【0152】
X線治療装置およびガンマ線治療装置の場合、モニタ信号模擬装置は、線量モニタおよびコリメータ位置モニタの信号を模擬するものとする。それ以外は実施形態1乃至5と同様の構成とすることができる。