【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウェブサイトの掲載日 平成30年6月1日 ウェブサイトのアドレス: https://www.electrochem.org/aimes2018 https://ecs.confex.com/ecs/aimes2018/webprogram/Paper113470.html
【文献】
遠藤守信,西村嘉介,高橋哲哉,高椋輝,玉木敏夫,リチウムイオン二次電池負極材料としての炭素繊維の評価とその特性,炭素,日本,1996年,No.172,pages.121-129
【文献】
Tsutomu Ohzuku, Yasunobu Iwakoshi, Keijiro Sawai,Formation of Lithium-Graphaite Intercalation Compounds in Nonaqueous Electrolytes and Their Application as a Negative Electrode for a Lithium ion (Shuttlecock) cell,J. Electrochem. Soc.,Vol.140, No.9,日本,The Electrochemical Society, Inc.,1993年09月,pages.2490-2498
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、前記吸蔵度合が前記第2特定領域であると判定した場合において、前記特定領域に近づく制御を行えないと判定した場合、前記第3特定領域に近づくようには前記リチウムイオン電池の電力を放電させる制御を行う、
請求項4に記載のリチウムイオン電池の制御装置。
前記制御部は、外部系統により前記リチウムイオン電池が充電されている場合に、前記特定領域に吸蔵度合が近づくように前記リチウムイオン電池に電力を充電させる制御を行う、
請求項1から6のうちいずれか1項に記載のリチウムイオン電池の制御装置。
前記制御部は、外部系統により前記リチウムイオン電池が充電されている場合に、前記特定領域に対応する充電量を超える充電量に到達する前に前記充電を停止する制御を行う、
請求項1から7のうちいずれか1項に記載のリチウムイオン電池の制御装置。
前記制御部は、前記リチウムイオン電池による電力の供給が休止状態である場合に、前記吸蔵度合が前記特定領域とは異なる領域であると判定した場合、前記特定領域に吸蔵度合が近づくように、または前記異なる領域よりも劣化速度が小さい領域に吸蔵度合が近づくように前記リチウムイオン電池に電力を充電または前記リチウムイオン電池の電力を放電させる制御を行う、
請求項1から8のうちいずれか1項に記載のリチウムイオン電池の制御装置。
前記制御部は、前記リチウムイオン電池が電力を供給している稼働状態である場合に、前記吸蔵度合が前記特定領域とは異なる領域であると判定した場合、前記特定領域に吸蔵度合が近づくように、または前記異なる領域よりも劣化速度が小さい領域に吸蔵度合が近づくように、前記吸蔵度合が前記特定領域であると判定した場合よりも積極的に前記リチウムイオン電池に電力を充電または前記リチウムイオン電池の電力を放電させる制御を行う、
請求項1から9のうちいずれか1項に記載のリチウムイオン電池の制御装置。
前記判定指標は、前記リチウムイオン電池の容量、SOC、前記リチウムイオン電池のセル開回路電圧、前記SOCと前記セル開回路電圧との第1相関関係に基づく指標、または容量と電圧との第2相関関係に基づく指標である、
請求項1から11のうちいずれか1項に記載のリチウムイオン電池の制御装置。
前記制御部は、予め設定されたリチウムイオン電池の劣化度合に応じた補正係数を用いて、前記判定指標を補正し、前記補正後の判定指標に基づいて、前記吸蔵度合の領域を特定する、
請求項12または13に記載のリチウムイオン電池の制御装置。
前記リチウムイオン電池において所定のレート以下で定電流充電および定電流放電を実施させる充放電制御を行って、前記充放電制御により取得された情報に基づいて、前記吸蔵度合の領域を判定するためのモデルを生成する生成部を、更に備える、
請求項1から14のうちいずれか1項に記載のリチウムイオン電池の制御装置。
前記リチウムイオン電池において所定の電流範囲における電圧データを用いて容量と電圧との関係を推定し、推定結果を用いて、前記吸蔵度合の領域を判定するためのモデルを生成する生成部を、更に備える、
請求項1から15のうちいずれか1項に記載のリチウムイオン電池の制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来技術では、劣化を抑制するには十分でない場合があった。
【0005】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、リチウムイオン電池の劣化をより抑制することができるリチウムイオン電池の制御装置、リチウムイオン電池の制御方法、およびプログラムを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係るリチウムイオン電池の制御装置、リチウムイオン電池の制御方法、およびプログラムは、以下の構成を採用した。
(1):この発明の一態様に係るリチウムイオン電池の制御装置は、負極のグラファイトにおいて吸蔵されるリチウムイオンの吸蔵度合が蓄電量に応じて変化するリチウムイオン電池の充電または放電を制御する制御装置であって、前記吸蔵度合に関する判定指標を取得する取得部と、前記取得部により取得された判定指標に基づいて、前記吸蔵度合が化学量論比で表されたLiC
12を含み、且つ前記吸蔵度合が化学量論比で表されたLiC
6を含まない前記吸蔵度合の特定領域でないと判定した場合、前記吸蔵度合が前記特定領域に近づくように前記リチウムイオン電池に電力を充電または前記リチウムイオン電池の電力を放電させる制御を行う制御部とを備える。
【0007】
(2):上記(1)の態様において、前記特定領域は、前記LiC
12が支配的な領域である。
【0008】
(3):上記(2)の態様において、前記特定領域は、更に前記吸蔵度合が化学量論比で表されたLiC
18を含む場合があり、且つ前記吸蔵度合が化学量論比で表されたLiC
27を含まない領域である。
【0009】
(4):上記(1)から(3)の態様のうちいずれかにおいて、前記制御部は、前記吸蔵度合が化学量論比で表されたLiC
6を含む第1特定領域、前記吸蔵度合が化学量論比で表されたLiC
18を含む第2特定領域、または前記吸蔵度合が化学量論比で表されたLiC
27以上の吸蔵度合の構造を含む第3特定領域であると判定した場合、前記吸蔵度合が前記特定領域に近づくように前記リチウムイオン電池に電力を充電または前記リチウムイオン電池の電力を放電させる制御を行う。
【0010】
(5):上記(4)の態様において、前記制御部は、前記吸蔵度合が前記第2特定領域であると判定した場合において、前記特定領域に近づく制御を行えないと判定した場合、前記第3特定領域に近づくようには前記リチウムイオン電池の電力を放電させる制御を行う。
【0011】
(6):上記(4)または(5)の態様において、前記第1特定領域、前記第2特定領域、前記第3特定領域、前記特定領域の順で、リチウムイオン電池の劣化速度が小さく、前記制御部は、現在の前記吸蔵度合の領域よりも劣化速度が小さい領域に吸蔵度合が近づくように前記リチウムイオン電池に電力を充電または前記リチウムイオン電池の電力を放電させる制御を行う。
【0012】
(7):上記(1)から(6)の態様のうちいずれかにおいて、前記制御部は、外部系統により前記リチウムイオン電池が充電されている場合に、前記特定領域に吸蔵度合が近づくように前記リチウムイオン電池に電力を充電させる制御を行う。
【0013】
(8):上記(1)から(7)の態様のうちいずれかにおいて、前記制御部は、外部系統により前記リチウムイオン電池が充電されている場合に、前記特定領域に対応する充電量を超える充電量に到達する前に前記充電を停止する制御を行う。
【0014】
(9):上記(1)から(8)の態様のうちいずれかにおいて、前記制御部は、前記リチウムイオン電池による電力の供給が休止状態である場合に、前記吸蔵度合が前記特定領域とは異なる領域であると判定した場合、前記特定領域に吸蔵度合が近づくように、または前記異なる領域よりも劣化速度が小さい領域に吸蔵度合が近づくように前記リチウムイオン電池に電力を充電または前記リチウムイオン電池の電力を放電させる制御を行う。
【0015】
(10):上記(1)から(9)の態様のうちいずれかにおいて、前記制御部は、前記リチウムイオン電池が電力を供給している稼働状態である場合に、前記吸蔵度合が前記特定領域とは異なる領域であると判定した場合、前記特定領域に吸蔵度合が近づくように、または前記異なる領域よりも劣化速度が小さい領域に吸蔵度合が近づくように、前記吸蔵度合が前記特定領域であると判定した場合よりも積極的に前記リチウムイオン電池に電力を充電または前記リチウムイオン電池の電力を放電させる制御を行う。
【0016】
(11):この発明の一態様に係るリチウムイオン電池の制御装置は、負極のグラファイトにおいて吸蔵されるリチウムイオンの吸蔵度合が蓄電量に応じて変化するリチウムイオン電池の充電または放電を制御する制御装置であって、前記吸蔵度合に関する判定指標を取得する取得部と、前記取得部により取得された判定指標に基づいて、前記吸蔵度合が第1閾値以上である第1領域と、前記吸蔵度合が前記第1閾値未満であり且つ第2閾値以上である特定領域と、前記吸蔵度合が前記第2未満であり且つ第3閾値以上である第2領域と、前記第3閾値未満である第3領域とのうち、前記吸蔵度合が前記第1領域、第2領域、または第3領域に該当すると判定した場合に、前記特定領域に吸蔵度合が近づくように前記リチウムイオン電池に電力を充電または前記リチウムイオン電池の電力を放電させる制御を行う制御部とを備える。
【0017】
(12):上記(1)から(11)の態様のうちいずれかにおいて、前記判定指標は、前記リチウムイオン電池の容量、SOC、前記リチウムイオン電池のセル開回路電圧、前記SOCと前記セル開回路電圧との第1相関関係に基づく指標、または容量と電圧との第2相関関係に基づく指標である。
【0018】
(13):上記(1)から(12)の態様のうちいずれかにおいて、前記制御部は、更にリチウムイオン電池の劣化度合を加味して、リチウムイオン電池の前記吸蔵度合の領域を特定する。
【0019】
(14):上記(12)または(13)の態様において、前記制御部は、予め設定されたリチウムイオン電池の劣化度合に応じた補正係数を用いて、前記判定指標を補正し、前記補正後の判定指標に基づいて、前記吸蔵度合の領域を特定する。
【0020】
(15):上記(1)から(14)の態様のうちいずれかにおいて、前記リチウムイオン電池において所定のレート以下で定電流充電および定電流放電を実施させる充放電制御を行って、前記充放電制御により取得された情報に基づいて、前記吸蔵度合の領域を判定するためのモデルを生成する生成部を、更に備える。
【0021】
(16):上記(1)から(15)の態様のうちいずれかにおいて、前記リチウムイオン電池において所定の電流範囲における電圧データを用いて容量と電圧との関係を推定し、推定結果を用いて、前記吸蔵度合の領域を判定するためのモデルを生成する生成部を、更に備える。
【0022】
(17):この発明の一態様に係るリチウムイオン電池の制御方法は、コンピュータが、負極のグラファイトにおいて吸蔵されるリチウムイオンの吸蔵度合が蓄電量に応じて変化するリチウムイオン電池の前記吸蔵度合に関する判定指標を取得し、前記取得した判定指標に基づいて、前記吸蔵度合が化学量論比で表されたLiC
12を含み、且つ前記吸蔵度合が化学量論比で表されたLiC
6を含まない前記吸蔵度合の特定領域でないと判定した場合、前記吸蔵度合が前記特定領域に近づくように前記リチウムイオン電池に電力を充電または前記リチウムイオン電池の電力を放電させる制御を行うものである。
【0023】
(18):この発明の一態様に係るプログラムは、コンピュータに、負極のグラファイトにおいて吸蔵されるリチウムイオンの吸蔵度合が蓄電量に応じて変化するリチウムイオン電池の前記吸蔵度合に関する判定指標を取得させ、前記取得させた判定指標に基づいて、前記吸蔵度合が化学量論比で表されたLiC
12を含み、且つ前記吸蔵度合が化学量論比で表されたLiC
6を含まない前記吸蔵度合の特定領域でないと判定した場合、前記吸蔵度合が前記特定領域に近づくように前記リチウムイオン電池に電力を充電または前記リチウムイオン電池の電力を放電させる制御を行わせる。
【発明の効果】
【0024】
請求項1〜18記載の発明によれば、リチウムイオン電池の劣化をより抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照し、本発明のリチウムイオン電池の制御装置、リチウムイオン電池の制御方法、およびプログラムの実施形態について説明する。
【0027】
以下の説明では、リチウムイオン電池の制御装置、リチウムイオン電池の制御方法、およびプログラムは、車両に搭載されたリチウムイオン電池を制御するものとして説明するが、これに代えて(或いは加えて)、スマートフォンや、ゲーム機器、発電機が発電する電力を蓄える装置等のリチウムイオン電池が搭載される装置や機器に搭載されたリチウムイオン電池を制御するものであってもよい。
【0028】
<第1実施形態>
[全体構成]
図1は、蓄電システム1を搭載した電動車両の構成の一例を示す図である。蓄電システム1が搭載される電動車両は、例えば、二輪や三輪、四輪等の車両であり、その駆動源は、電動機、或いは電動機とディーゼルエンジンやガソリンエンジンなどの内燃機関との組み合わせである。電動機は、二次電池の放電電力を使用して動作する。以下の説明では、一例として、電動車両は、エンジンまたは電動機を駆動源とするハイブリッド車両であるものとして説明する。
【0029】
図1に示すように、蓄電システム1には、例えば、エンジン10や、モータ20、PCU(Power Control Unit)30、リチウムイオン電池40、駆動輪50、電流センサ90、電圧センサ92、充放電制御部94、制御装置100等が搭載される。
【0030】
エンジン10は、ガソリンなどの燃料を燃焼させることで動力を出力する内燃機関である。エンジン10は、例えば、シリンダとピストン、吸気バルブ、排気バルブ、燃料噴射装置、点火プラグ、コンロッド、クランクシャフトなどを備えるレシプロエンジンである。また、エンジン10は、ロータリーエンジンであってもよい。
【0031】
モータ20は、例えば、三相交流発電機である。モータ20は、例えば、走行用の電動機である。モータ20は、供給される電力を用いて動力を駆動輪50に出力する。また、モータ20は、車両の減速時に車両の運動エネルギを用いて発電する。モータ20は、車両の駆動と回生を行う。回生とは、モータ20による発電動作である。なお、モータ20は、発電用の電動機を含んでいてもよい。発電用の電動機は、例えばエンジン10により出力される動力を用いて発電する。
【0032】
PCU30は、例えば、変換器32と、VCU(Voltage Control Unit)34とを備える。なお、これらの構成要素をPCU30として一まとまりの構成としたのは、あくまで一例であり、これらの構成要素は分散的に配置されても構わない。
【0033】
変換器32は、例えば、AC−DC変換器である。変換器32の直流側端子は、直流リンクDLを介してVCU34に接続されている。変換器32は、モータ20により発電された交流を直流に変換して直流リンクDLに出力したり、直流リンクDLを介して供給される直流を交流に変換してモータ20に供給したりする。
【0034】
VCU34は、例えば、DC―DCコンバータである。VCU34は、リチウムイオン電池40から供給される電力を昇圧して変換器32に出力する。
【0035】
リチウムイオン電池40は、例えば、繰り返し充放電可能な電池である。リチウムイオン電池40は、電力線80でPCU30と連接されている。リチウムイオン電池40は、例えば、複数の電池ブロックを含み、これらの電池ブロックは互いに電気的に直列に接続されている。電池ブロックの各プラス端子および各マイナス端子は、PCU30に接続されている。
【0036】
電流センサ90は、電力線80に取り付けられている。電流センサ90は、電力線80における所定の測定箇所の電流を検出する。電圧センサ92は、リチウムイオン電池40の端子間の電圧を検出する。例えば、電圧センサ92は、複数の電圧センサを含み、これらの電圧センサは、それぞれ異なる電池ブロックの端子間の電圧を検出してもよい。なお、これらのセンサに加え、リチウムイオン電池40の温度を検出する温度センサや、リチウムイオン電池40が収納された筐体(不図示)内にリチウムイオン電池40が出力する電流を検出する電流センサが設けられていてもよい。
【0037】
充放電制御部94は、制御装置100の指示に基づいて、リチウムイオン電池40の不図示の充電回路を制御して、リチウムイオン電池40に充電を行わせたり、リチウムイオン電池40の不図示の放電回路やリチウムイオン電池40に接続された負荷を制御して、リチウムイオン電池40に放電を行わせたりする。
【0038】
[制御装置の機能構成]
制御装置100は、例えば、情報管理部102と、情報処理部104と、領域判定部106と、領域制御部108と、更新部110と、記憶部120とを備える。情報管理部102、情報処理部104、領域判定部106、領域制御部108、および更新部110は、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。また、これらの構成要素のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。記憶部120は、例えば、ROM(Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)等の不揮発性の記憶装置と、RAM(Random Access Memory)、レジスタ等の揮発性の記憶装置によって実現される。
【0039】
記憶部120には、例えば、SOC推定モデル122、および領域判定モデル124が記憶されている。これらのモデルは、後述する学習装置200または更新部110により生成されたモデルである。SOC推定モデル122は、例えば、リチウムイオン電池40の電圧(例えば、開回路電圧や閉回路電圧)や、放電容量等に基づいて、リチウムイオン電池40の充電状態を示すSOC(State Of Charge)を導出するモデルである。領域判定モデル124の詳細について後述する。また、記憶部120には、充放電計画や、これまでのリチウムイオン電池40の稼働履歴や相関情報(例えば容量、電圧、電流、およびSOCの相関等)が記憶されていてもよい。
【0040】
情報管理部102は、電流センサ90の検出結果や、電圧センサ92の検出結果、または充放電制御部94の制御状態等を取得する。情報管理部102は、取得した情報や自装置の処理結果を管理する。例えば、情報管理部102は、上記の情報を記憶部120に記憶させる。
【0041】
情報処理部104は、情報管理部102により取得された情報に基づいて、SOCを推定したり、リチウムイオン電池40のその他の状態を推定したりする。その他の状態とは、リチウムイオン電池40の異常や稼働状態等である。
【0042】
領域判定部106は、情報管理部102により取得された情報(判定指標)、または情報処理部104により推定された情報(判定指標)に基づいて、リチウムイオン電池40の負極のリチウムイオンの状態を示す領域を判定する。詳細は後述する。
【0043】
領域制御部108は、所定の領域でない場合、所定の領域に近づくようにリチウムイオン電池40に電力を充電またはリチウムイオン電池40の電力を放電させる制御を行う。領域制御部108は、例えば、充放電制御部94に充電または放電の指示を行う。
【0044】
更新部110は、所定のタイミングで領域判定モデル124を更新する。詳細は後述する。更新部110は、「生成部」の一例である。
【0045】
[領域と劣化速度]
ここで、本発明者は、リチウムイオン電池40の負極の各領域において、劣化速度が異なることを発見した。
【0046】
図2は、リチウムイオン電池40の負極の領域を説明するための図である。リチウムイオン電池40内では、充電時にはリチウムが正極材から負極材に移動し、放電時には、リチウムが負極材から正極材に移動する。例えば、負極材にはグラファイト材料などが用いられ、充電時には、その材料の層間にリチウムイオンが吸蔵される。リチウムイオンは、グラファイトの特定の層ごとに規則的に吸蔵される。この吸蔵状態に応じた区分を「領域」と称する。
【0047】
負極は、SOCの変化に応じて領域が変化する。SOCが高くなるほど、グラファイトの層に吸蔵されるリチウムイオンの密度は高くなり、密度が高くなるに従って、領域は、領域D、C、B、Aの順で変化する。以下で説明する「LiC
6」、「LiC
12〜18」などの表記は、Li化グラファイト(LiC
x)のLi化学量比である。
【0048】
(領域A、C、D)
例えば、領域Aは「LiC
6」を含む領域である。また、領域Aは、例えば、「LiC
6」と「LiC
12」とが共存していてもよい。領域Bは「LiC
12〜18」を含む領域である。詳細については後述する。
【0049】
領域Cは「LiC
27」を含む領域である。また、領域Cは、例えば、「LiC
27」と「LiC
x」とが共存していてもよい。「
x>27」である。「領域D」は、例えば、「LiC
x」を含む領域である。
【0050】
(領域B)
領域Bでは、電位がほぼ等しい2種類の領域が存在する。この2種類の領域は「領域B1」、「領域B2」と称する。なお、上記の「領域A」は「第1領域」または「第1特定領域」の一例であり、「領域B1」は「特定領域」の一例である。「領域B2」は「第2領域」または「第2特定領域」の一例であり、「領域C」は「第3領域」または「第3特定領域」の一例である。
【0051】
図3は、領域B1について説明するための図である。領域B1は、Liサイトにリチウムイオンが密に詰まっており(Liサイトに空きがなく)、構造的に安定で副反応が少ない性質を有し、電位に対し特異的に劣化速度が小さい領域である。「領域B1」は、「LiC
12」を含む領域である。また、「領域B1」は、例えば、「LiC
12」を含み、且つ「LiC
6」を含まない領域である。また、「領域B1」は、例えば、「LiC
12」と「LiC
18」とが共存する領域であってもよい。
【0052】
図4は、領域B2について説明するための図である。「領域B2」は、「LiC
18」を含む領域である。また、「領域B2」は、例えば、「LiC
12」を含まない領域である。また、「領域B2」は、例えば、「LiC
18」と「LiC
27」とが共存する領域であってもよい。
【0053】
図5は、リチウムイオン電池40のセル開回路電圧(OCV;Open Circuit Voltage)、正極および負極の電位(OCP;Open Circuit Potential)、および放電容量の関係の一例を示す図である。
図5の縦軸は電位であり、
図5の横軸は放電された容量(Ah)である。OCVは、正極電位(OCP)から負極電位(OCP)を減算した値である。領域の変化に伴って、
図5に示すように負極電位は段階的に変化する。
【0054】
図6は、領域、およびリチウムイオン電池40の劣化速度を概念的に示す図である。図中、横軸は領域を示し、縦軸は劣化速度を示している。劣化速度は、一日当たりの劣化度合を示している。なお、
図6は、「LiC
6」を含む領域A、「LiC
12」を含む領域B1、「LiC
18」を含む領域B2、「LiC
27」を含む領域C、および「LiC
x」を含む領域Dの劣化速度の一例である。「
x>27」である。
【0055】
図示するように、領域D、C、B2のように領域が高くなるほど、劣化速度は大きくなり、更に領域Aは領域B2よりも劣化速度が大きい。ただし、領域B1は、領域A、領域B2、および領域Cよりも劣化速度が小さい。
【0056】
従来、領域が上がるほど(負極の電位が低いほど)、劣化速度が大きいと考えられていたが、本発明者は、上記傾向に反して、領域B1は、領域A、B2、Cよりも劣化速度が小さいことを見出した。領域B1を除くと、劣化速度は、電位が高い領域ほど小さくなる傾向となるが、領域B1に関しは特異的に劣化速度が小さいことを見出した。
【0057】
[領域の切替点の導出(その1)]
図7は、領域の切り替わりについて説明するための図(その1)である。以下、
図7に示すグラフを、「第1領域判定モデル」と称する場合がある。
図7の縦軸は負極の電位Vの微分dV/dQ(V/Ah)を示し、
図7の横軸は蓄電されている容量Qを示している。
【0058】
負極電位は、領域の切り替わりに伴って、上記の
図7に示したように段階的に変化する。リチウムイオン電池40の容量Qに対する負極の電位Vの微分dV/dQを容量Qに対してプロットすると、領域の切替点において極大値を有するという特徴がある。このように、極大値に基づいて、領域AとB1との切替点(境界)、領域B1と領域B2との切替点、領域B2とCとの切替点が検出される。
【0059】
図8は、領域の切り替わりについて説明するための図(その2)である。以下、
図8に示すグラフを「第2領域判定モデル」と称する場合がある。
図8の縦軸はセル電圧の微分dV
cell/dQ(V/Ah)を示し、
図8の横軸は蓄電されている容量Qを示している。
【0060】
リチウムイオン電池40の容量Qに対するセル電圧の微分dV
cell/dQを容量Qに対してプロットすると、
図7と同様に領域の切替点において極大値を有するという特徴がある。セル電圧は負極電位の変化が反映されているためである。このように、極大値に基づいて、領域AとB1との切替点(境界)、領域B1と領域B2との切替点、領域B2とCとの切替点が検出される。
【0061】
ここで、領域B1とB2との切替点については、
図7および
図8に示すように微分dV/dQを容量Qに対してプロットしてもピークが検出されないため、Li化グラファイト(LiC
x)のLi化学量比xから求められる。領域AとB1との切替点はx=12に相当し、領域B1とB2との切替点はx=18に相当し、領域B2とCとの切替点はx=27に相当する。例えば、領域AとB1との切替点x=12と、領域B2とCとの切替点x=27との容量差に基づき、領域B1とB2との切替点はx=18であると求められる。
【0062】
[領域の切替点のまとめ]
図9は、領域A、B1、B2の切替点を概念的に示す図である。切替点x=27において「LiC
18」が出現し、切替点x=18に近づくように従って「LiC
18」が増加し支配的になる。また、切替点x=27において「LiC
27」が支配的であるが、切替点x=18に近づくに従って「LiC
27」が減少する。
【0063】
「支配的」とは、例えば、吸蔵度合が化学量論比で表された「LiC
n(nは任意の自然数)」に着目した場合に、「LiC
n」の比率が他の吸蔵度合が化学量論比で表された「LiC
z(zはnとは異なる任意の自然数)」の比率よりも多いこと、または「LiC
n」の比率が、例えば、30%以上、50%、80%以上などのように閾値以上であることである。
【0064】
切替点x=18において「LiC
12」が出現し、切替点x=12に近づくに従って「LiC
12」が増加し支配的になる。また、切替点x=18において「LiC
18」が支配的であるが、切替点x=12に近づくに従って「LiC
18」が減少する。
【0065】
切替点x=12において「LiC
6」が出現し、切替点x=12から遠ざかるに従って「LiC
6」が増加し支配的になる。また、切替点x=12において「LiC
12」が支配的であるが、切替点x=12から遠ざかるに従って「LiC
12」が減少する。
【0066】
なお、上記の説明では、領域B1は、切替点x=18〜12の範囲としたが、これに代えて、「LiC
12」が支配的な範囲であってもよいし、切替点x=18〜12の範囲のうち任意の範囲であってもよい。任意の範囲とは、例えば、「LiC
12」が支配的な範囲のうち、切替点x=12から所定の範囲(例えば図中α)を含まない範囲としてもよい。これにより、より確実に劣化速度の小さい範囲にリチウムイオン電池40の状態を制御することができる。
【0067】
[領域の切替点の導出(その2)]
上記の
図7および
図8に示したように切替点を特定することに、代えて
図10に示すようにOCVとSOCとに基づいて切替点を特定してもよい。
図10は、切替点の特定について説明するための図である。以下、
図10に示すグラフを、「第3領域判定モデル」と称する場合がある。
図10の横軸は満充電容量を100%としてSOCを示し、縦軸はOCV(V)を示している。
図10のグラフにおいてSOCに対して、切替点または領域が対応付けられている。例えば、OCVから求められたSOCを推定し、推定したSOCに基づいて領域が判定される。
【0068】
また、OCVおよびSOCは、セルの閉回路電圧(CCV;Closed Circuit Voltage)に基づいて推定されてもよい。この場合、制御装置100は、リチウムイオン電池40の内部抵抗値Rをセンサの検出値や所定の推定手法に基づいて取得する。そして、制御装置100は、式(1)によって、内部抵抗値R、内部抵抗に流れる電流I、およびCCVを用いてOCVを推定する。また、n段のR(RC)等価回路モデルを用いて、遅れ成分を含む内部抵抗値Rを計算し、OCVを計算してもよい。
OCV=CCV−IR・・・(1)
【0069】
[学習装置]
学習装置200は、判定指標に応じた領域の変化に基づいて、領域判定モデル124を生成する。領域判定モデル124は、例えば、第1領域判定モデル〜第3領域判定モデルのうち一以上のモデルである。判定指標は、領域B1を判定することが可能な一以上の指標である。判定指標は、例えば、上述したリチウムイオン電池40の容量(例えば
図5の容量(Ah)または
図7の容量(Q))、
図10に示したようなSOC、OCV(セル開回路電圧)、SOCとリチウムイオン電池40のOCVとの第1相関関係に基づく指標、または
図5や後述する
図13に示すような容量(Ah)とOCVなどの電圧(またはOCPなどの電位)との第2相関関係に基づく指標である。また、判定指標は、
図7、
図8に示したような負極のdV/dQや、dV
cell/dQなどであってもよい。学習装置200は、「生成部」の他の一例である。
【0070】
[切替点を活用した処理]
図11は、制御装置100により実行される処理の流れの一例を示すフローチャートである。まず、制御装置100は、充放電が休止状態であるか否かを判定する(ステップS100)。なお、制御装置100は、リチウムイオン電池40が電力を供給する装置の電源オフ等の休止指示がされたか否かを判定してもよい。
【0071】
充放電が休止状態である場合、制御装置100は、領域判定モデル124を参照して、情報処理部104の処理結果に基づいて、現在の領域を判定する(ステップS102)。次に、制御装置100は、領域が領域B1であるか否かを判定する(ステップS104)。領域B1である場合、制御装置100は、休止状態を維持する(ステップS106)。
【0072】
領域B1でない場合、制御装置100は、領域が領域Aであるか否を判定する(ステップS108)。領域Aである場合、制御装置100は、充放電制御部94を制御して、リチウムイオン電池40の状態が領域B1になるまで放電させる(ステップS110)。
【0073】
領域Aでない場合、制御装置100は、領域B2であるか否を判定する(ステップS112)。領域B2である場合、制御装置100は、外部系統から充電が可能であるか否かを判定する(ステップS114)。外部系統から充電が可能である場合、制御装置100は、充放電制御部94を制御して、リチウムイオン電池40の状態が領域B1になるまで充電させる(ステップS116)。外部系統から充電が可能でない場合、制御装置100は、充放電制御部94を制御して、リチウムイオン電池40の状態が領域Cになるまで放電させる(ステップS118)。
【0074】
領域B2でない場合(領域CまたはDである場合)、制御装置100は、外部系統から充電が可能であるか否かを判定する(ステップS120)。外部系統から充電が可能である場合、制御装置100は、充放電制御部94を制御して、リチウムイオン電池40の状態が領域B1になるまで充電させる(ステップS122)。外部系統から充電が可能でない場合、ステップS106の処理に進む。これにより、本フローチャートの1ルーチンの処理は終了する。
【0075】
上述した処理の内容をまとめると
図12のように表せる。
図12は、領域の劣化速度と、処理の概要とを示す図である。例えば、領域A、領域B2、領域C、または領域Dの場合、制御装置100は、領域B1に遷移または領域B1を維持するようにリチウムイオン電池40の充放電を制御する。この制御は、リチウムイオン電池40の充放電が行われている際に実行されてもよいし、充放電が行われていない場合に実行されてもよい。なお、領域B2であり、充電ができない場合は、制御装置100は、領域Cに遷移するようにリチウムイオン電池40を放電してもよい。
【0076】
また、領域CまたはDの場合、領域CまたはDの状態が維持されてもよいし、領域B1に遷移するようにリチウムイオン電池40は制御されてもよい。また、現在の領域よりも劣化度合の小さい領域が存在する場合、現在の領域から劣化速度の小さい領域に遷移するように充放電が行われてもよい。なお、これらの制御は、将来の電力の使用予定や充電計画、走行経路上の充電設備の有無などに関する条件が、所定の条件を満たす場合に行われてもよい。
【0077】
(充電停止に関する制御)
また、蓄電システム1が外部系統から充電指示を取得した場合、制御装置100は、より劣化速度の低い領域で充電を中止してもよい。例えば、制御装置100は、蓄電システム1の充放電計画に基づき設定された目標SOCの下限が、領域Aに到達するSOCより低い場合において、充電を目標SOCの下限または領域B1のSOCの範囲内で停止してもよい。また、例えば、制御装置100は、蓄電システム1の充放電計画に基づき設定された目標SOCの下限が、領域B2に到達するSOCより低い場合において、充電を目標SOCの下限または領域Cの上限のSOCの範囲内で停止してもよい。
【0078】
例えば、蓄電システム1が搭載される車両がハイブリッド車両である場合、領域B1を維持または他の領域(例えば領域A、B2、C)から領域B1に近づくように、回生により発生する電力を充電することを抑制したり、モータの使用を抑制して積極的にエンジンを稼働させて車両を走行させたりしてもよい。
【0079】
また、制御装置100は、次回の目的地を取得し、取得した目的まで走行する場合に必要なSOCに基づいて、充電を停止してもよい。例えば、数km程度の走行が予定されている場合において、領域Cの場合には、制御装置100は、領域CDを維持することを決定したり、領域Dの場合には、制御装置100は、外部系統からの充電により領域Cの状態に遷移するようにリチウムイオン電池の状態を制御したりする。これにより、車両は数km程度の走行が可能である。また、数十km程度の走行が予定されている場合、制御装置100は、領域Dではなく領域B1に領域が遷移するようにリチウムイオン電池40の状態を制御してもよい。
【0080】
更に、手動で充電の終了を操作することができる場合において、領域Cの範囲で充電を停止する指示があった場合、制御装置100は、ユーザの許可を得た場合において劣化抑制のための充電を領域B1に到達するまで延長するか、或いは充電を延長することを勧める内容を車両の表示部に表示させてもよい。
【0081】
(装置稼働時の制御)
制御装置100は、リチウムイオン電池40から電力の供給を受けている装置が稼働している時(リチウムイオン電池40が電力を供給している時)において、劣化速度の大きな領域においては劣化速度のより小さい領域に移行することを優先した負荷の制御を行うことで劣化を抑制する。すなわち、制御装置100は、リチウムイオン電池40が電力を供給している稼働状態である場合に、領域B1とは異なる領域であると判定した場合、領域B1に吸蔵度合が近づくように、または異なる領域よりも劣化速度が小さい領域に吸蔵度合が近づくように、領域B1であると判定した場合よりも積極的にリチウムイオン電池40に電力を充電または電力を放電させる制御を行う。
【0082】
例えば、領域Aの状態にある判定した場合には、制御装置100は、充電は必要最小限とし、領域B1に移行するよう放電を優先する。領域B1の状態にあると判定した場合には、制御装置100は、領域Aあるいは領域B2に至らないよう充放電を制限する。領域B2の状態にあると判定した場合において、制御装置100は、領域B1に近いSOCの場合には充電を優先し、領域Cに近いSOCの場合には放電を優先する。領域CまたはDの状態にあると判定した場合には、制御装置100は、領域B2に至らないよう充電電流を制限する。これらの制御は、リチウムイオン電池40の充放電を制御する特定装置の稼働条件や要求負荷等で許容される範囲で実施されてよい。
【0083】
上述したように、制御装置100は、負極の状態が劣化速度の小さい領域を維持するようにリチウムイオン電池40を制御することにより、リチウムイオン電池40の劣化をより抑制することができる。
【0084】
[補正]
以下に説明するように、領域を判定する際にリチウムイオン電池40の劣化度合を考慮した補正が行われてもよい。
【0085】
制御装置100は、予め取得した容量(またはOCVおよびSOC)と領域との関係に基づいて、現在の積算容量(またはOCVおよびSOC)における領域を推定する。リチウムイオン電池40が劣化すると、
図13に示すように、OCV、負極OCP、容量、および領域の関係が変化する。このため、リチウムイオン電池40の劣化に応じた補正が必要となる。
【0086】
図13は、劣化前および劣化後の電池の容量と電位との関係の一例を示す図である。
図13の縦軸は電位(V)を示し、
図13の横軸は放電の容量(Ah)を示している。例えば、劣化前における初期負極電位(OCP)を示す曲線L1と、劣化後における劣化後負極電位(OCP)を示す曲線L2とにおける所定の電位Xでは、曲線L2における容量が曲線L1における容量よりも小さい傾向となる。この容量の差の程度を、後述する「ずれ量kΔQ」と称する。
【0087】
学習装置200は、例えば、容量劣化率△Qと、容量或いはSOCとに対する領域のずれ量の関係性を予め取得し、取得した関係性に基づいて、容量劣化率ΔQに対応する領域の補正係数kを算出する。容量劣化率△Qは、セル電圧が下限電圧に到達する容量の、初期と劣化後の差である。補正係数kは、劣化前の正極電位(またはセル電圧)の推移に対する劣化後の正極電位(セル電圧)の推移との相違に基づいて生成される係数である。すなわち、補正係数kは、
図13に示すように劣化後の正極電位の推移が、劣化後の正極電位の推移に対して相似して縮んだ度合に応じて設定される係数である。そして、補正係数kの情報である補正情報は、制御装置100の記憶部120に記憶される。
【0088】
例えば、制御装置100は、式(2)により領域の切替点を求めることができる。Qcaは、劣化後の領域の切替点の容量を示し、Qcbは、劣化前の領域の切替点の容量を示している。
Qca=Qcb+k△Q・・・(2)
【0089】
なお、補正係数kは、適宜調整されてもよい。例えば、補正係数kは、リチウムイオン電池40の温度や、SOCの範囲、電流値などの特定装置等の稼働条件によって調整されてもよい。例えば、補正係数kは、温度ごとに対応付けられた係数である。例えば、温度が高くなるほど補正係数kは大きい傾向となる。制御装置100は、稼働条件や稼働履歴に応じた補正係数kを用いることにより、より精度よく劣化後の領域を推定することができる。
【0090】
図14は、補正処理について説明するための図である。領域判定部106は、例えば、容量劣化率推定部105A、および判定部105Bを備える。また、記憶部120には、補正係数kの情報である補正情報126が記憶されている。
【0091】
容量劣化率推定部105Aは、例えば、リチウムイオン電池40の使用開始時から現在までの稼働履歴と、補正情報126とを参照して、今回用いる補正係数kを導出する。判定部105Bは、例えば、情報処理部104により推定された容量(またはSOC)を、補正係数kを用いて補正し、補正後の容量を領域判定モデル124に適用して、領域を判定する。
【0092】
図15は、領域判定部106により実行される処理の流れの一例を示すフローチャートである。なお、本処理では、補正は容量Qに代えて、SOCに対して行われるものとする。
【0093】
まず、蓄電システム1が、リチウムイオン電池40に特定装置の要求負荷に応じた充放電を行わせる(ステップS200)。次に、情報処理部104は、SOCを推定する(ステップS202)。次に、容量劣化率推定部105Aが、リチウムイオン電池40の稼働履歴と、補正情報126とを参照して、今回用いる補正係数kを導出する(ステップS204)。次に、判定部105Bが、情報処理部104により推定されたSOCと補正係数kとに基づいて、負極の領域を判定する(ステップS206)。これにより、本フローチャートの1ルーチンの処理は終了する。
【0094】
上述したように、制御装置100は、リチウムイオン電池40の劣化を考慮することにより、より精度よく負極の領域を判定することができる。
【0095】
[領域判定モデルの更新(その1)]
制御装置100は、補正係数kを用いることに代えて(或いは加えて)、任意のタイミングで領域判定モデル124を更新してもよい。例えば、更新部110は、dV/dQ解析のための定電流充電および定電流放電を蓄電システム1において実施し、現在の領域と容量(またはOCV或いはSOC)との相関関係に基づいて生成された領域判定モデル124を更新する。これにより、制御装置100は、劣化度合に応じた領域判定モデル124を取得することができる。
【0096】
上記更新の際に用いられる定電流の値は、領域の推定精度を高めるために可能な限り小さくすることが望ましい。例えば、定電流の値は、電池の設計に依存するが、Cレートとして1C以下が好ましく、より好ましくは0.1C以下である。
【0097】
制御装置100は、dV/dQ解析において、CCVをそのまま用いてもよいが、上記の式(1)に内部抵抗値RおよびCCVを適用して、OCVを推定してもよい。そして、制御装置100は、推定したOCVを用いて、容量に対するOCVのデータを生成し、これを用いてdV/dQ解析してもよい。
【0098】
また、dV/dQ解析における定電流充電の開始時のSOCは可能な限り小さいことが好ましい。例えば、SOCは、設定された下限SOCであることがより好ましい。また、dV/dQ解析のための定電流放電の開始時のSOCは可能な限り大きいことが好ましく、設定された上限SOCであることがより好ましい。
【0099】
また、制御装置100は、定電流放電および定電流充電を、例えば特定装置を休止させる指示が出力された場合、あるいはリチウムイオン電池40の充放電が休止状態となった場合において行うことができる。
【0100】
制御装置100は、定電流放電および定電流充電を、特定装置の休止時ごとに実施することもできるが, 特定装置の稼働状況あるいは将来の特定装置の稼働計画、および前回測定された電力使用量に基づいて容量劣化量を推定し、推定結果に基づいて導出したタイミングで定期的に、定電流放電および定電流充電を実施してもよい。
【0101】
また、dV/dQを解析するための外部診断装置が、定電流放電および定電流充電を行って、領域と容量との相関関係に基づいて生成された領域判定モデル124を更新してもよい。この外部診断装置が、当該蓄電システム1に接続されることにより上記の更新のための制御が行われる。この方法は、蓄電システム1の定期点検・メンテナンス時において実施することが想定される。
【0102】
(フローチャート)
図16は、更新部110により実行される処理の流れの一例を示すフローチャートである。まず、制御装置100は、特定装置の要求負荷に応じた充放電の制御を行う(ステップS300)。次に、制御装置100の更新部110が、領域判定モデル124を更新するタイミングが到来したか否かを判定する(ステップS302)。領域判定モデル124を更新するタイミングが到来した場合、更新部110は、予め設定された下限まで放電するようにリチウムイオン電池40を制御する(ステップS304)。次に、更新部110は、固定レートで充電するようにリチウムイオン電池40を制御する(ステップS306)。
【0103】
次に、更新部110は、dV/dQ解析を行い(ステップS308)、領域判定モデル124を更新する(ステップS310)。これにより、本フローチャートの1ルーチンの処理は終了する。
【0104】
図17は、更新部110により実行される処理の流れの他の一例を示すフローチャートである。
図16の処理と異なる処理(ステップS303、S305)について説明する。領域判定モデル124を更新するタイミングが到来した場合、更新部110は、予め設定された上限のSOCまで充電するようにリチウムイオン電池40を制御する(ステップS303)。次に、更新部110は、固定レートで放電するようにリチウムイオン電池40を制御する(ステップS305)。そして、ステップS308、S310の処理後、本フローチャートの1ルーチンの処理は終了する。
【0105】
なお、外部診断装置により相関関係の更新が行われる場合、
図15または
図16のステップS300、S302の処理において、外部診断装置が制御装置100に接続され、且つ領域判定モデル124を更新するタイミングが到来した場合、外部診断装置の制御によって、
図16のステップS304〜S310の処理、または
図17のステップS303〜ステップS310の処理が行われる。
【0106】
上述したように、更新部110が、領域判定モデル124を更新することで、リチウムイオン電池40の劣化を考慮して、より精度よく負極の領域を判定することができる。
【0107】
[領域判定モデルの更新(その2)]
制御装置100の更新部110は、リチウムイオン電池40が外部系統から充電されている際に、その電流、電圧、容量の測定値からdV/dQ解析を実施してもよい。更新部110は、充電を定電流で実施する場合、その時の電圧と容量の測定値をそのまま用いてdV/dQ解析を実施してもよい。
【0108】
このとき、充電開始SOCが高く、領域の切り替わりに伴うピークが観測できない場合が存在しうる。また、充電終了SOCが低く、領域の切り替わりに伴うピークが観測できない場合も存在しうる。
【0109】
その場合、更新部110は、dV/dQ解析を実施せず、ピークを検出できる十分なSOCの範囲で充電された過去の測定結果をそのまま用いてもよいし、過去の複数回の充電時の測定値を保存しておき、それらのデータを合成することによって十分なSOC範囲の電圧データを作成し、これを用いてdV/dQ解析を行ってもよい。データの合成は、測定されたSOC範囲が重複する場合には、例えば保存された測定値の平均値や最頻値などが採用されてもよい。
【0110】
上述したように、更新部110が、外部系統から充電されている際に領域判定モデル124を更新することにより、無駄な充放電を抑制しつつ領域判定モデル124を更新することができる。また、更新部110は、過去の測定結果を用いて領域判定モデル124を更新することにより、情報が不足している場合であっても、より精度よく領域を判定できるように領域判定モデル124を更新することができる。
【0111】
[領域判定モデルの更新(その3)]
充電電流が、
図18に示すようにステップ状に変化する場合は、更新部110は、ステップ状の電流値毎にdV/dQ解析を実施してもよいし、内部抵抗値Rを用いてCCVからOCVを推定することによって容量に対するOCVのデータを作成し、これを用いてdV/dQ解析を実施してもよい。
図18は、ステップ状に変化する電流の一例を示す図である。
図18の縦軸は電流を示し、
図18の横軸は容量あるいはSOCを示している。
【0112】
図19は、内部抵抗値RおよびCCVに基づいて推定されたOCVの一例を示す図である。
図19の縦軸は電圧(V)を示し、
図19の横軸は容量あるいはSOCを示している。更新部110は、CCVの電圧(V)からIRを減算した電圧をOCVとして推定する。そして、更新部110は、推定したOCVを用いて、dV/dQ解析を行う。
【0113】
上述したように、更新部110は、電流がステップ状に変化する場合であっても、より精度よく領域を判定できるように領域判定モデル124を更新することができる。
【0114】
[領域判定モデルの更新(その4)]
更新部110は、
図20に示すように特定装置の稼働時の充放電履歴から、ある一定の充電または放電レートの範囲での電流(指定電流範囲)と電圧の関係のみ抽出し合成することで、疑似的に定電流の放電または充電をした場合のdV/dQを計算してもよい。
【0115】
更新部110は、電圧データの合成においては、上記(その2)で説明した方法で内部抵抗値Rを用いて推定したOCVを用いることで、より精度よくdV/dQに基づいて領域を判定することができる。また、更新部110は、同一のSOCの範囲でデータが存在する場合においては最新値、平均値および最頻値などを用いてもよい。この方法ではデータの不連続点が存在する可能性があり、また、上記(その1)の方法に比較して電圧値のノイズが大きくなることがある。そのような場合には、更新部110は、移動平均やスプライン曲線によるスムージングを行ってもよい。
【0116】
充電および放電レートの範囲は、特定装置の要求負荷の頻度と、保存可能な充放電履歴のデータ数に基づいて設定される。例えば、充電および放電レートの範囲は、dV/dQを計算するために必要なデータ量に基づいて設定される。この時、レートの幅および値は可能な限り小さいことが望ましい。
【0117】
(フローチャート)
図21は、更新部110により実行される処理の流れの他の一例を示すフローチャートである。まず、制御装置100は、特定装置の要求負荷に応じた充放電の制御を行う(ステップS400)。次に、制御装置100の更新部110が、指定電流範囲で充放電が行われたか否かを判定する(ステップS402)。指定電流範囲で充放電が行われた場合、更新部110は、指定電流範囲で充放電が行われている際における現在のSOCを取得する(ステップS404)。このSOCは、情報処理部104により推定されたSOCである。
【0118】
次に、更新部110は、指定電流範囲で充放電が行われている際におけるCCV(電圧データ)に基づいてOCVを推定する(ステップS406)。次に、更新部110は、推定したSOCとCCVとの関係を示すデータを、取得済みのデータに合成することで不足していたデータを補完する(ステップS408)。
【0119】
次に、更新部110は、dV/dQ解析を行い(ステップS410)、領域判定モデル124を更新する(ステップS412)。これにより、本フローチャートの1ルーチンの処理は終了する。上述した処理を行うことにより、更新部110は、効率的に領域判定モデル124を更新することができる。
【0120】
上記の[補正]、[領域判定モデルの更新(その1)〜(その4)]に例示した方法はそれぞれ単独で用いることもできるが、それぞれを任意に組み合わされて実施されてもよい。このように、任意に組み合わされることによってより精度よく領域の判定が行われる。また、上記の各手法は、SOCを推定するSOC推定モデル122に対しても適用されてよい。
【0121】
以上説明した実施形態によれば、負極のグラファイトにおいて吸蔵されるリチウムイオンの吸蔵度合が蓄電量に応じて変化するリチウムイオン電池40の充電または放電を制御する制御装置100が、吸蔵度合に関する判定指標を取得し、取得した判定指標に基づいて、吸蔵度合が化学量論比で表されたLiC
12を含み、且つ吸蔵度合が化学量論比で表されたLiC
6を含まない吸蔵度合の領域B1でないと判定した場合、吸蔵度合が領域B1に近づくようにリチウムイオン電池40に電力を充電またはリチウムイオン電池40の電力を放電させる制御を行うことにより、リチウムイオン電池40の劣化をより抑制することができる。
【0122】
[ハードウェア構成]
図22は、実施形態の制御装置100のハードウェア構成の一例を示す図である。図示するように、制御装置100は、通信コントローラ100−1、CPU100−2、ワーキングメモリとして使用されるRAM(Random Access Memory)100−3、ブートプログラムなどを格納するROM(Read Only Memory)100−4、フラッシュメモリやHDD(Hard Disk Drive)などの記憶装置100−5、ドライブ装置100−6などが、内部バスあるいは専用通信線によって相互に接続された構成となっている。通信コントローラ100−1は、制御装置100以外の構成要素との通信を行う。記憶装置100−5には、CPU100−2が実行するプログラム100−5aが格納されている。このプログラムは、DMA(Direct Memory Access)コントローラ(不図示)などによってRAM100−3に展開されて、CPU100−2によって実行される。これによって、情報管理部102、情報処理部104、領域判定部106、領域制御部108、および更新部110のうち一部または全部が実現される。
【0123】
上記説明した実施形態は、以下のように表現することができる。
プログラムを記憶した記憶装置と、
ハードウェアプロセッサと、を備え、
前記ハードウェアプロセッサは、前記記憶装置に記憶されたプログラムを実行することにより、
負極のグラファイトにおいて吸蔵されるリチウムイオンの吸蔵度合が蓄電量に応じて変化するリチウムイオン電池の前記吸蔵度合に関する判定指標を取得し、
前記取得した判定指標に基づいて、前記吸蔵度合が化学量論比で表されたLiC
12を含み、且つ前記吸蔵度合が化学量論比で表されたLiC
6を含まない前記吸蔵度合の特定領域でないと判定した場合、前記吸蔵度合が前記特定領域に近づくように前記リチウムイオン電池に電力を充電または前記リチウムイオン電池の電力を放電させる制御を行う、
ように構成されている、制御装置。
【0124】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。