(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0037】
図1〜
図26は、本発明の一実施の形態における蒸着マスクを説明するための図である。以下の実施の形態およびその変形例では、有機EL表示装置を製造する際に有機材料を所望のパターンで基板上にパターニングするために用いられる蒸着マスクを例に挙げて説明する。ただし、このような適用に限定されることなく、種々の用途に用いられる蒸着マスクに対し、本発明を適用することができる。
【0038】
なお、本明細書において、「板」、「シート」、「フィルム」の用語は、呼称の違いのみに基づいて、互いから区別されるものではない。例えば、「板」はシートやフィルムと呼ばれ得るような部材も含む概念である。
【0039】
また、「板面(シート面、フィルム面)」とは、対象となる板状(シート状、フィルム状)の部材を全体的かつ大局的に見た場合において対象となる板状部材(シート状部材、フィルム状部材)の平面方向と一致する面のことを指す。また、板状(シート状、フィルム状)の部材に対して用いる法線方向とは、当該部材の板面(シート面、フィルム面)に対する法線方向のことを指す。
【0040】
さらに、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件および物理的特性並びにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」、「同等」等の用語や長さや角度並びに物理的特性の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
【0041】
(蒸着装置)
まず、対象物に蒸着材料を蒸着させる蒸着処理を実施する蒸着装置90について、
図1を参照して説明する。
図1に示すように、蒸着装置90は、蒸着源(例えばるつぼ94)、ヒータ96、及び蒸着マスク装置10を備える。るつぼ94は、有機発光材料などの蒸着材料98を収容する。ヒータ96は、るつぼ94を加熱して蒸着材料98を蒸発させる。蒸着マスク装置10は、るつぼ94と対向するよう配置されている。
【0042】
(蒸着マスク装置)
以下、蒸着マスク装置10について説明する。
図1に示すように、蒸着マスク装置10は、蒸着マスク20と、蒸着マスク20を支持するフレーム15と、を備える。フレーム15は、蒸着マスク20が撓んでしまうことがないように、蒸着マスク20をその長手方向(第1の方向)に引っ張った状態で支持する。蒸着マスク装置10は、
図1に示すように、蒸着マスク20が、蒸着材料98を付着させる対象物である基板、例えば有機EL基板92に対面するよう、蒸着装置90内に配置される。以下の説明において、蒸着マスク20の面のうち、有機EL基板92側の面を第1面20aと称し、第1面20aの反対側に位置する面を第2面20bと称する。このうち蒸着マスク20の第2面20bにフレーム15が面している。
【0043】
蒸着マスク装置10は、
図1に示すように、有機EL基板92の、蒸着マスク20と反対側の面に配置された磁石93を備えていてもよい。磁石93を設けることにより、磁力によって蒸着マスク20を磁石93側に引き寄せて、蒸着マスク20を有機EL基板92に密着させることができる。
【0044】
図3は、蒸着マスク装置10を蒸着マスク20の第1面20a側から見た場合を示す平面図である。
図3に示すように、蒸着マスク装置10は、平面視において略矩形状の形状を有する複数の蒸着マスク20を備え、各蒸着マスク20は、蒸着マスク20の長手方向における一対の端部20eにおいて、フレーム15に溶接されて固定されている。
【0045】
蒸着マスク20は、蒸着マスク20を貫通する複数の貫通孔25を含む。るつぼ94から蒸発して蒸着マスク装置10に到達した蒸着材料98は、蒸着マスク20の貫通孔25を通って有機EL基板92に付着する。これによって、蒸着マスク20の貫通孔25の位置に対応した所望のパターンで、蒸着材料98を有機EL基板92の表面に成膜することができる。
【0046】
図2は、
図1の蒸着装置90を用いて製造した有機EL表示装置100を示す断面図である。有機EL表示装置100は、有機EL基板92と、パターン状に設けられた蒸着材料98を含む画素と、を備える。
【0047】
なお、複数の色によるカラー表示を行いたい場合には、各色に対応する蒸着マスク20が搭載された蒸着装置90をそれぞれ準備し、有機EL基板92を各蒸着装置90に順に投入する。これによって、例えば、赤色用の有機発光材料、緑色用の有機発光材料および青色用の有機発光材料を順に有機EL基板92に蒸着させることができる。
【0048】
ところで、蒸着処理は、高温雰囲気となる蒸着装置90の内部で実施される場合がある。この場合、蒸着処理の間、蒸着装置90の内部に保持される蒸着マスク20、フレーム15および有機EL基板92も加熱される。この際、蒸着マスク20、フレーム15および有機EL基板92は、各々の熱膨張係数に基づいた寸法変化の挙動を示すことになる。この場合、蒸着マスク20やフレーム15と有機EL基板92の熱膨張係数が大きく異なっていると、それらの寸法変化の差に起因した位置ずれが生じ、この結果、有機EL基板92上に付着する蒸着材料98の寸法精度や位置精度が低下してしまう。
【0049】
このような課題を解決するため、蒸着マスク20およびフレーム15の熱膨張係数が、有機EL基板92の熱膨張係数と同等の値であることが好ましい。例えば、有機EL基板92としてガラス基板が用いられる場合、蒸着マスク20およびフレーム15の主要な材料として、ニッケルを含む鉄合金を用いることができる。例えば、蒸着マスク20を構成する金属板の材料として、30質量%〜54質量%以下のニッケルを含む鉄合金を用いることができる。ニッケルを含む鉄合金の具体例としては、34質量%〜38質量%以下のニッケルを含むインバー材、30質量%〜34質量%以下のニッケルに加えてさらにコバルトを含むスーパーインバー材、48質量%〜54質量%以下のニッケルを含む低熱膨張Fe−Ni系めっき合金などを挙げることができる。なお本明細書において、「〜」という記号によって表現される数値範囲は、「〜」という符号の前後に置かれた数値を含んでいる。例えば、「34〜38質量%」という表現によって画定される数値範囲は、「34質量%以上且つ38質量%以下」という表現によって画定される数値範囲と同一である。
【0050】
なお蒸着処理の際に、蒸着マスク20、フレーム15および有機EL基板92の温度が高温には達しない場合は、蒸着マスク20およびフレーム15の熱膨張係数を、有機EL基板92の熱膨張係数と同等の値にする必要は特にない。この場合、蒸着マスク20を構成する材料として、上述の鉄合金以外の材料を用いてもよい。例えば、クロムを含む鉄合金など、上述のニッケルを含む鉄合金以外の鉄合金を用いてもよい。クロムを含む鉄合金としては、例えば、いわゆるステンレスと称される鉄合金を用いることができる。また、ニッケルやニッケル−コバルト合金など、鉄合金以外の合金を用いてもよい。
【0051】
(蒸着マスク)
次に、蒸着マスク20について詳細に説明する。
図3乃至
図5に示すように、蒸着マスク20は、第1面20aから第2面20bに延びる貫通孔25が形成された有効領域22と、有効領域22を取り囲む周囲領域23と、を含む。周囲領域23は、有効領域22を支持するための領域であり、有機EL基板92へ蒸着されることを意図された蒸着材料98が通過する領域ではない。例えば、有効領域22は、蒸着マスク20のうち、有機EL基板92の表示領域に対面する領域である。
【0052】
図3に示すように、有効領域22は、例えば、平面視において略四角形形状、さらに正確には平面視において略矩形状の輪郭を有する。なお図示はしないが、各有効領域22は、有機EL基板92の表示領域の形状に応じて、様々な形状の輪郭を有することができる。例えば各有効領域22は、円形状の輪郭を有していてもよい。
【0053】
図3に示すように、有効領域22は、蒸着マスク20の長手方向に沿って所定の間隔を空けて複数配列されている。一つの有効領域22は、一つの有機EL表示装置100の表示領域に対応する。このため、
図1に示す蒸着マスク装置10によれば、有機EL表示装置100の多面付蒸着が可能である。
図4に示すように、有効領域22において複数の貫通孔25は、互いに直交する二方向に沿ってそれぞれ所定のピッチで規則的に配列される。
【0054】
以下、貫通孔25及びその周囲の部分の形状について詳細に説明する。
【0055】
(エッチング処理によって製造される蒸着マスク)
ここでは、蒸着マスク20がエッチング処理によって形成される場合の、貫通孔25及びその周囲の部分の形状について説明する。
【0056】
図4は、エッチング処理によって製造された蒸着マスク20の第2面20b側から有効領域22を拡大して示す平面図である。
図4に示すように、図示された例において、各有効領域22に形成された複数の貫通孔25は、当該有効領域22において、互いに直交する二方向に沿ってそれぞれ所定のピッチで配列されている。貫通孔25の一例について、
図5〜
図7を主に参照して更に詳述する。
図5〜
図7はそれぞれ、
図4の有効領域22のV−V方向〜VII−VII方向に沿った断面図である。なお、
図5〜
図7において示す有効領域22と周囲領域23との境界線は一例であり、この境界線の位置は任意である。例えば、この境界線は、第2凹部35が形成されていない領域(
図5における最も左側の第2凹部35よりも左側)に配置されていてもよい。
【0057】
図5〜
図7に示すように、複数の貫通孔25は、蒸着マスク20の法線方向Nに沿った一方の側となる第1面20aから、蒸着マスク20の法線方向Nに沿った他方の側となる第2面20bへ貫通している。図示された例では、後に詳述するように、蒸着マスク20の法線方向Nにおける一方の側となる金属板21の第1面21aに第1凹部30(または第1開口部30)がエッチングによって形成され、蒸着マスク20の法線方向Nにおける他方の側となる金属板21の第2面21bに第2凹部35(または第2開口部35)が形成される。第1凹部30は、第2凹部35に接続され、これによって第2凹部35と第1凹部30とが互いに通じ合うように形成される。貫通孔25は、第2凹部35と、第2凹部35に接続された第1凹部30とによって構成されている。
【0058】
図5〜
図7に示すように、蒸着マスク20の第2面20bの側から第1面20aの側へ向けて、蒸着マスク20の法線方向Nに沿った各位置における蒸着マスク20の板面に沿った断面での各第2凹部35の開口面積は、しだいに小さくなっていく。同様に、蒸着マスク20の法線方向Nに沿った各位置における蒸着マスク20の板面に沿った断面での各第1凹部30の開口面積は、蒸着マスク20の第1面20aの側から第2面20bの側へ向けて、しだいに小さくなっていく。
【0059】
図5〜
図7に示すように、第1凹部30の壁面31と、第2凹部35の壁面36とは、周状の接続部41を介して接続されている。接続部41は、蒸着マスク20の法線方向Nに対して傾斜した第1凹部30の壁面31と、蒸着マスク20の法線方向Nに対して傾斜した第2凹部35の壁面36とが合流する張り出し部の稜線によって、画成されている。そして、接続部41は、蒸着マスク20の平面視において貫通孔25の開口面積が最小になる貫通部42を画成する。
【0060】
図5〜
図7に示すように、蒸着マスク20の法線方向Nに沿った他方の側の面、すなわち、蒸着マスク20の第1面20a上において、隣り合う二つの貫通孔25は、蒸着マスク20の板面に沿って互いから離間している。すなわち、後述する製造方法のように、蒸着マスク20の第1面20aに対応するようになる金属板21の第1面21a側から当該金属板21をエッチングして第1凹部30を作製する場合、隣り合う二つの第1凹部30の間に金属板21の第1面21aが残存するようになる。
【0061】
同様に、
図5及び
図7に示すように、蒸着マスク20の法線方向Nに沿った一方の側、すなわち、蒸着マスク20の第2面20bの側においても、隣り合う二つの第2凹部35が、蒸着マスク20の板面に沿って互いから離間していてもよい。すなわち、隣り合う二つの第2凹部35の間に金属板21の第2面21bが残存していてもよい。以下の説明において、金属板21の第2面21bの有効領域22のうちエッチングされずに残っている部分のことを、トップ部43とも称する。このようなトップ部43が残るように蒸着マスク20を作製することにより、蒸着マスク20に十分な強度を持たせることができる。このことにより、例えば搬送中などに蒸着マスク20が破損してしまうことを抑制することができる。なおトップ部43の幅βが大きすぎると、蒸着工程においてシャドーが発生し、これによって蒸着材料98の利用効率が低下することがある。従って、トップ部43の幅βが過剰に大きくならないように蒸着マスク20が作製されることが好ましい。例えば、トップ部43の幅βが2μm以下であることが好ましい。なおトップ部43の幅βは一般に、蒸着マスク20を切断する方向に応じて変化する。例えば、
図5及び
図7に示すトップ部43の幅βは互いに異なることがある。この場合、いずれの方向で蒸着マスク20を切断した場合にもトップ部43の幅βが2μm以下になるよう、蒸着マスク20が構成されていてもよい。
【0062】
なお
図6に示すように、場所によっては隣り合う二つの第2凹部35が接続されるようにエッチングが実施されてもよい。すなわち、隣り合う二つの第2凹部35の間に、金属板21の第2面21bが残存していない場所が存在していてもよい。また、図示はしないが、第2面21bの全域にわたって隣り合う二つの第2凹部35が接続されるようにエッチングが実施されてもよい。
【0063】
図1に示すようにして蒸着マスク装置10が蒸着装置90に収容された場合、
図5に二点鎖線で示すように、蒸着マスク20の第1面20aが、有機EL基板92に対面し、蒸着マスク20の第2面20bが、蒸着材料98を保持したるつぼ94側に位置する。したがって、蒸着材料98は、次第に開口面積が小さくなっていく第2凹部35を通過して有機EL基板92に付着する。
図5において第2面20b側から第1面20aへ向かう矢印で示すように、蒸着材料98は、るつぼ94から有機EL基板92に向けて有機EL基板92の法線方向Nに沿って移動するだけでなく、有機EL基板92の法線方向Nに対して大きく傾斜した方向に移動することもある。このとき、蒸着マスク20の厚みが大きいと、斜めに移動する蒸着材料98の多くは、貫通孔25を通って有機EL基板92に到達するよりも前に、第2凹部35の壁面36に到達して付着する。従って、蒸着材料98の利用効率を高めるためには、蒸着マスク20の厚みT0を小さくし、これによって、第2凹部35の壁面36や第1凹部30の壁面31の高さを小さくすることが好ましいと考えられる。すなわち、蒸着マスク20を構成するための金属板21として、蒸着マスク20の強度を確保できる範囲内で可能な限り厚みの小さな金属板21を用いることが好ましいと言える。この点を考慮し、本実施の形態において、好ましくは蒸着マスク20の厚みT0は、85μm以下に、例えば5μm以上且つ85μm以下に設定される。または厚みT0は、80μm以下に、例えば10μm以上且つ80μm、若しくは20μm以上且つ80μm以下に設定される。蒸着の精度をさらに向上させるため、蒸着マスク20の厚みT0を、40μm以下に、例えば10以上且つ40μm以下や20以上且つ40μm以下に設定してもよい。なお厚みT0は、周囲領域23の厚み、すなわち蒸着マスク20のうち第1凹部30および第2凹部35が形成されていない部分の厚みである。従って厚みT0は、金属板21の厚みであると言うこともできる。
【0064】
図5において、貫通孔25の最小開口面積を持つ部分となる接続部41と、第2凹部35の壁面36の他の任意の位置と、を通過する直線L1が、蒸着マスク20の法線方向Nに対してなす最小角度が、符号θ1で表されている。すなわち、後述の
図21に示す場合と同様に、蒸着マスク20の第2面20b側における貫通孔25(第2凹部35)の端部38を通る蒸着材料98の経路であって、有機EL基板92に到達することができる経路のうち、蒸着マスク20の法線方向Nに対して角度θ1をなす経路が、符号L1で表されている。斜めに移動する蒸着材料98を、壁面36に到達させることなく可能な限り有機EL基板92に到達させるためには、角度θ1を大きくすることが有利となる。角度θ1を大きくする上では、蒸着マスク20の厚みT0を小さくすることの他にも、上述のトップ部43の幅βを小さくすることも有効である。
【0065】
図7において、符号αは、金属板21の第1面21aの有効領域22のうちエッチングされずに残っている部分(以下、リブ部とも称する)の幅を表している。リブ部の幅αおよび貫通部42の寸法r
2は、有機EL表示装置の寸法および表示画素数に応じて適宜定められる。表1に、5インチの有機EL表示装置において、表示画素数、および表示画素数に応じて求められるリブ部の幅αおよび貫通部42の寸法r
2の値の一例を示す。
【表1】
【0066】
限定はされないが、本実施の形態による蒸着マスク20は、450ppi以上の画素密度の有機EL表示装置を作製する場合に特に有効なものである。以下、
図8を参照して、そのような高い画素密度の有機EL表示装置を作製するために求められる蒸着マスク20の寸法の一例について説明する。
図8は、
図5に示す蒸着マスク20の貫通孔25およびその近傍の領域を拡大して示す断面図である。
【0067】
図8においては、貫通孔25の形状に関連するパラメータとして、蒸着マスク20の第1面20aから接続部41までの、蒸着マスク20の法線方向Nに沿った方向における距離、すなわち第1凹部30の壁面31の高さが符号r
1で表されている。さらに、第1凹部30が第2凹部35に接続する部分における第1凹部30の寸法、すなわち貫通部42の寸法が符号r
2で表されている。また
図8において、接続部41と、金属板21の第1面21a上における第1凹部30の先端縁と、を結ぶ直線L2が、金属板21の法線方向Nに対して成す角度が、符号θ2で表されている。
【0068】
450ppi以上の画素密度の有機EL表示装置を作製する場合、貫通部42の寸法r
2は、好ましくは10以上且つ60μm以下に設定される。これによって、高い画素密度の有機EL表示装置を作製することができる蒸着マスク20を提供することができる。好ましくは、第1凹部30の壁面31の高さr
1は、6μm以下に設定される。
【0069】
次に、
図8に示す上述の角度θ2について説明する。角度θ2は、金属板21の法線方向Nに対して傾斜するとともに接続部41近傍で貫通部42を通過するように飛来した蒸着材料98のうち、有機EL基板92に到達することができる蒸着材料98の傾斜角度の最大値に相当する。なぜなら、接続部41を通って角度θ2よりも大きな傾斜角度で飛来した蒸着材料98は、有機EL基板92に到達するよりも前に第1凹部30の壁面31に付着するからである。従って、角度θ2を小さくすることにより、大きな傾斜角度で飛来して貫通部42を通過した蒸着材料98が有機EL基板92に付着することを抑制することができ、これによって、有機EL基板92のうち貫通部42に重なる部分よりも外側の部分に蒸着材料98が付着してしまうことを抑制することができる。すなわち、角度θ2を小さくすることは、有機EL基板92に付着する蒸着材料98の面積や厚みのばらつきの抑制を導く。このような観点から、例えば貫通孔25は、角度θ2が45度以下になるように形成される。なお
図8においては、第1面21aにおける第1凹部30の寸法、すなわち、第1面21aにおける貫通孔25の開口寸法が、接続部41における第1凹部30の寸法r2よりも大きくなっている例を示した。すなわち、角度θ2の値が正の値である例を示した。しかしながら、図示はしないが、接続部41における第1凹部30の寸法r2が、第1面21aにおける第1凹部30の寸法よりも大きくなっていてもよい。すなわち、角度θ2の値は負の値であってもよい。
【0070】
次に、蒸着マスク20を、エッチング処理によって製造する方法について説明する。
【0071】
(金属板の製造方法)
はじめに、蒸着マスクを製造するために用いられる金属板の製造方法について説明する。
【0072】
[圧延工程]
はじめに
図9に示すように、ニッケルを含む鉄合金から構成された母材155を準備し、この母材155を、一対の圧延ロール156a,156bを含む圧延装置156に向けて、矢印で示す方向に沿って搬送する。一対の圧延ロール156a,156bの間に到達した母材155は、一対の圧延ロール156a,156bによって圧延され、この結果、母材155は、その厚みが低減されるとともに、搬送方向に沿って伸ばされる。これによって、厚みt
0の板材164Xを得ることができる。
図9に示すように、板材164Xをコア161に巻き取ることによって巻き体162を形成してもよい。厚みt
0の具体的な値は、好ましくは上述のように5μm以上且つ85μm以下となっている。
【0073】
なお
図9は、圧延工程の概略を示すものに過ぎず、圧延工程を実施するための具体的な構成や手順が特に限られることはない。例えば圧延工程は、母材155を構成するインバー材の結晶配列を変化させる温度以上の温度で母材を加工する熱間圧延工程や、インバー材の結晶配列を変化させる温度以下の温度で母材を加工する冷間圧延工程を含んでいてもよい。また、一対の圧延ロール156a,156bの間に母材155や板材164Xを通過させる際の向きが一方向に限られることはない。例えば、
図9及び
図10において、紙面左側から右側への向き、および紙面右側から左側への向きで繰り返し母材155や板材164Xを一対の圧延ロール156a,156bの間に通過させることにより、母材155や板材164Xを徐々に圧延してもよい。
【0074】
[スリット工程]
その後、板材164Xの幅が所定の範囲内になるよう、圧延工程によって得られた板材164Xの幅方向における両端をそれぞれ所定の範囲にわたって切り落とすスリット工程を実施してもよい。このスリット工程は、圧延に起因して板材164Xの両端に生じ得るクラックを除去するために実施される。このようなスリット工程を実施することにより、板材164Xが破断してしまう現象、いわゆる板切れが、クラックを起点として生じてしまうことを防ぐことができる。
【0075】
[アニール工程]
その後、圧延によって板材164X内に蓄積された残留応力(内部応力)を取り除くため、
図10に示すように、アニール装置157を用いて板材164Xをアニールし、これによって長尺金属板164を得る。アニール工程は、
図10に示すように、板材164Xや長尺金属板164を搬送方向(長手方向)に引っ張りながら実施されてもよい。すなわち、アニール工程は、いわゆるバッチ式の焼鈍ではなく、搬送しながらの連続焼鈍として実施されてもよい。
【0076】
好ましくは上述のアニール工程は、非還元雰囲気や不活性ガス雰囲気で実施される。ここで非還元雰囲気とは、水素などの還元性ガスを含まない雰囲気のことである。「還元性ガスを含まない」とは、水素などの還元性ガスの濃度が4%以下であることを意味している。また不活性ガス雰囲気とは、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガスなどの不活性ガスが90%以上存在する雰囲気のことである。非還元雰囲気や不活性ガス雰囲気でアニール工程を実施することにより、上述のニッケル水酸化物が長尺金属板164の第1面164aや第2面164bに生成されることを抑制することができる。
【0077】
アニール工程を実施することにより、残留歪がある程度除去された、厚みt
0の長尺金属板164を得ることができる。なお厚みt
0は通常、蒸着マスク20の厚みT0に等しくなる。
【0078】
なお、上述の圧延工程、スリット工程およびアニール工程を複数回繰り返すことによって、厚みt
0の長尺の金属板164を作製してもよい。また
図10においては、アニール工程が、長尺金属板164を長手方向に引っ張りながら実施される例を示したが、これに限られることはなく、アニール工程を、長尺金属板164がコア161に巻き取られた状態で実施してもよい。すなわちバッチ式の焼鈍が実施されてもよい。なお、長尺金属板164がコア161に巻き取られた状態でアニール工程を実施する場合、長尺金属板164に、巻き体162の巻き取り径に応じた反りの癖がついてしまうことがある。従って、巻き体162の巻き径や母材155を構成する材料によっては、長尺金属板164を長手方向に引っ張りながらアニール工程を実施することが有利である。
【0079】
[切断工程]
その後、長尺金属板164の幅方向における両端をそれぞれ所定範囲にわたって切り落とし、これによって、長尺金属板164の幅を所望の幅に調整する切断工程を実施する。このようにして、所望の厚みおよび幅を有する長尺金属板164を得ることができる。
【0080】
(蒸着マスクの製造方法)
次に、長尺金属板164を用いて蒸着マスク20を製造する方法について、主に
図11〜
図19を参照して説明する。以下に説明する蒸着マスク20の製造方法では、
図11に示すように、長尺金属板164が供給され、この長尺金属板164に貫通孔25が形成され、さらに長尺金属板164を断裁することによって枚葉状の金属板21からなる蒸着マスク20が得られる。
【0081】
より具体的には、蒸着マスク20の製造方法、帯状に延びる長尺の金属板164を供給する工程と、フォトリソグラフィー技術を用いたエッチングを長尺の金属板164に施して、長尺金属板164に第1面164aの側から第1凹部30を形成する工程と、フォトリソグラフィー技術を用いたエッチングを長尺金属板164に施して、長尺金属板164に第2面164bの側から第2凹部35を形成する工程と、を含んでいる。そして、長尺金属板164に形成された第1凹部30と第2凹部35とが互いに通じ合うことによって、長尺金属板164に貫通孔25が作製される。
図12〜
図19に示された例では、第1凹部30の形成工程が、第2凹部35の形成工程の前に実施され、且つ、第1凹部30の形成工程と第2凹部35の形成工程の間に、作製された第1凹部30を封止する工程が、さらに設けられている。以下において、各工程の詳細を説明する。
【0082】
図11には、蒸着マスク20を製造するための製造装置160が示されている。
図11に示すように、まず、長尺金属板164をコア161に巻き取った巻き体162が準備される。そして、このコア161が回転して巻き体162が巻き出されることにより、
図11に示すように帯状に延びる長尺金属板164が供給される。なお、長尺金属板164は、貫通孔25を形成されて枚葉状の金属板21、さらには蒸着マスク20をなすようになる。
【0083】
供給された長尺金属板164は、搬送ローラー172によって、エッチング装置(エッチング手段)170に搬送される。エッチング手段170によって、
図12〜
図19に示された各処理が施される。なお本実施の形態においては、長尺金属板164の幅方向に複数の蒸着マスク20が割り付けられるものとする。すなわち、複数の蒸着マスク20が、長手方向において長尺金属板164の所定の位置を占める領域から作製される。この場合、好ましくは、蒸着マスク20の長手方向が長尺金属板164の圧延方向に一致するよう、複数の蒸着マスク20が長尺金属板164に割り付けられる。
【0084】
まず、
図12に示すように、長尺金属板164の第1面164a上および第2面164b上にネガ型の感光性レジスト材料を含むレジスト膜165c、165dを形成する。レジスト膜165c、165dを形成する方法としては、アクリル系光硬化性樹脂などの感光性レジスト材料を含む層が形成されたフィルム、いわゆるドライフィルムを長尺金属板164の第1面164a上および第2面164b上に貼り付ける方法が採用される。
【0085】
次に、レジスト膜165c、165dのうちの除去したい領域に光を透過させないようにした露光マスク168a、168bを準備し、露光マスク168a、168bをそれぞれ
図13に示すようにレジスト膜165c、165d上に配置する。露光マスク168a、168bとしては、例えば、レジスト膜165c、165dのうちの除去したい領域に光を透過させないようにしたガラス乾板が用いられる。その後、真空密着によって露光マスク168a、168bをレジスト膜165c、165dに十分に密着させる。なお感光性レジスト材料として、ポジ型のものが用いられてもよい。この場合、露光マスクとして、レジスト膜のうちの除去したい領域に光を透過させるようにした露光マスクが用いられる。
【0086】
その後、レジスト膜165c、165dを露光マスク168a、168b越しに露光する(露光工程)。さらに、露光されたレジスト膜165c、165dに像を形成するためにレジスト膜165c、165dを現像する(現像工程)。以上のようにして、
図14に示すように、長尺金属板164の第1面164a上に第1レジストパターン165aを形成し、長尺金属板164の第2面164b上に第2レジストパターン165bを形成することができる。なお現像工程は、レジスト膜165c、165dの硬度を高めるための、または長尺金属板164に対してレジスト膜165c、165dをより強固に密着させるためのレジスト熱処理工程を含んでいてもよい。レジスト熱処理工程は、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガスなどの不活性ガスの雰囲気において、例えば100℃以上且つ400℃以下で実施される。
【0087】
次に、
図15に示すように、長尺金属板164の第1面164aのうち第1レジストパターン165aによって覆われていない領域を、第1エッチング液を用いてエッチングする第1面エッチング工程を実施する。例えば、第1エッチング液が、搬送される長尺金属板164の第1面164aに対面する側に配置されたノズルから、第1レジストパターン165a越しに長尺金属板164第1面164aに向けて噴射される。この結果、
図15に示すように、長尺金属板164のうちの第1レジストパターン165aによって覆われていない領域で、第1エッチング液による浸食が進む。これによって、長尺金属板164の第1面164aに多数の第1凹部30が形成される。第1エッチング液としては、例えば塩化第2鉄溶液及び塩酸を含むものが用いられる。
【0088】
その後、
図16に示すように、後の第2面エッチング工程において用いられる第2エッチング液に対する耐性を有した樹脂169によって、第1凹部30が被覆される。すなわち、第2エッチング液に対する耐性を有した樹脂169によって、第1凹部30が封止される。
図16に示す例において、樹脂169の膜が、形成された第1凹部30だけでなく、第1面164a(第1レジストパターン165a)も覆うように形成されている。
【0089】
次に、
図17に示すように、長尺金属板164の第2面164bのうち第2レジストパターン165bによって覆われていない領域をエッチングし、第2面164bに第2凹部35を形成する第2面エッチング工程を実施する。第2面エッチング工程は、第1凹部30と第2凹部35とが互いに通じ合い、これによって貫通孔25が形成されるようになるまで実施される。第2エッチング液としては、上述の第1エッチング液と同様に、例えば塩化第2鉄溶液及び塩酸を含むものが用いられる。
【0090】
なお第2エッチング液による浸食は、長尺金属板164のうちの第2エッチング液に触れている部分において行われていく。従って、浸食は、長尺金属板164の法線方向N(厚み方向)のみに進むのではなく、長尺金属板164の板面に沿った方向にも進んでいく。ここで好ましくは、第2面エッチング工程は、第2レジストパターン165bの隣り合う二つの孔166aに対面する位置にそれぞれ形成された二つの第2凹部35が、二つの孔166aの間に位置するブリッジ部167aの裏側において合流するよりも前に終了される。これによって、
図18に示すように、長尺金属板164の第2面164bに上述のトップ部43を残すことができる。
【0091】
その後、
図19に示すように、長尺金属板164から樹脂169が除去される。樹脂169は、例えばアルカリ系剥離液を用いることによって、除去することができる。アルカリ系剥離液が用いられる場合、
図19に示すように、樹脂169と同時にレジストパターン165a,165bも除去される。なお、樹脂169を除去した後、樹脂169を剥離させるための剥離液とは異なる剥離液を用いて、樹脂169とは別途にレジストパターン165a,165bを除去してもよい。
【0092】
このようにして多数の貫通孔25が形成された長尺金属板164は、当該長尺金属板164を狭持した状態で回転する搬送ローラー172,172により、切断装置(切断手段)173へ搬送される。なお、この搬送ローラー172,172の回転によって長尺金属板164に作用するテンション(引っ張り応力)を介し、上述した供給コア161が回転させられ、巻き体162から長尺金属板164が供給されるようになっている。
【0093】
その後、多数の貫通孔25が形成された長尺金属板164を切断装置(切断手段)173によって所定の長さおよび幅に切断することにより、多数の貫通孔25が形成された枚葉状の金属板21、すなわち蒸着マスク20が得られる。
【0094】
(めっき処理によって製造される蒸着マスク)
ところで、蒸着マスク20は、めっき処理を利用して製造することもできる。そこで、以下に、めっき処理によって製造された蒸着マスク20について説明する。ここでは、まず、蒸着マスク20がめっき処理によって形成される場合の、貫通孔25及びその周囲の部分の形状について説明する。
【0095】
図20は、めっき処理によって製造された蒸着マスク20の第2面20b側から有効領域22を拡大して示す平面図である。
図4に示すように、図示された例において、各有効領域22に形成された複数の貫通孔25は、当該有効領域22において、互いに直交する二方向に沿ってそれぞれ所定のピッチで配列されている。貫通孔25の一例について
図21を主に参照して更に詳述する。
図21は、
図20の有効領域22のA−A方向から見た断面図である。
【0096】
図21に示すように、蒸着マスク20は、第1面20aを構成する第1金属層32と、第1金属層32上に設けられ、第2面20bを構成する第2金属層37と、を備える。蒸着材料98を有機EL基板92上に蒸着させる際(蒸着時)には、第2金属層37が、上述したフレーム15(
図1等参照)の側に配置される。第1金属層32には、所定のパターンで第1開口部30が設けられており、また、第2金属層37には、所定のパターンで第2開口部35が設けられている。第1開口部30と第2開口部35とが互いに連通することにより、蒸着マスク20の第1面20aから第2面20bに延びる貫通孔25が構成されている。
【0097】
図20に示すように、貫通孔25を構成する第1開口部30や第2開口部35は、平面視において略多角形状になっていてもよい。ここでは第1開口部30および第2開口部35が、略四角形状、より具体的には略正方形状になっている例が示されている。また、図示はしないが、第1開口部30や第2開口部35は、略六角形状や略八角形状など、その他の略多角形状になっていてもよい。なお「略多角形状」とは、多角形の角部が丸められている形状を含む概念である。また図示はしないが、第1開口部30や第2開口部35は、円形状になっていてもよい。また、平面視において第2開口部35が第1開口部30を囲う輪郭を有する限りにおいて、第1開口部30の形状と第2開口部35の形状が相似形になっている必要はない。
【0098】
図21において、符号41は、第1金属層32と第2金属層37とが接続される接続部を表している。また符号S0は、第1金属層32と第2金属層37との接続部41における貫通孔25の寸法を表している。なお
図21においては、第1金属層32と第2金属層37とが接している例を示したが、これに限られることはなく、第1金属層32と第2金属層37との間にその他の層が介在されていてもよい。例えば、第1金属層32と第2金属層37との間に、第1金属層32上における第2金属層37の析出を促進させるための触媒層が設けられていてもよい。
【0099】
図22は、
図21の第1金属層32および第2金属層37の一部を拡大して示す図である。
図22に示すように、蒸着マスク20の第2面20bにおける第2金属層37の幅M2は、蒸着マスク20の第1面20aにおける第1金属層32の幅M1よりも小さくなっている。言い換えると、第2面20bにおける貫通孔25(第2開口部35)の開口寸法S2は、第1面20aにおける貫通孔25(第1開口部30)の開口寸法S1よりも大きくなっている。以下、このように第1金属層32および第2金属層37を構成することの利点について説明する。
【0100】
蒸着マスク20の第2面20b側から飛来する蒸着材料98は、貫通孔25の第2開口部35および第1開口部30を順に通って有機EL基板92に付着する。有機EL基板92のうち蒸着材料98が付着する領域は、第1面20aにおける貫通孔25の開口寸法S1や開口形状によって主に定められる。ところで、
図21及び
図22において第2面20b側から第1面20aへ向かう矢印L1で示すように、蒸着材料98は、るつぼ94から有機EL基板92に向けて蒸着マスク20の法線方向Nに沿って移動するだけでなく、蒸着マスク20の法線方向Nに対して大きく傾斜した方向に移動することもある。ここで、仮に第2面20bにおける貫通孔25の開口寸法S2が第1面20aにおける貫通孔25の開口寸法S1と同一であるとすると、蒸着マスク20の法線方向Nに対して大きく傾斜した方向に移動する蒸着材料98の多くは、貫通孔25を通って有機EL基板92に到達するよりも前に、蒸着マスク20の第2面20b(
図21における第2金属層37の上面)に付着してしまうとともに、貫通孔25の第2開口部35の壁面36に到達して付着してしまう。このため、貫通孔25を通過できない蒸着材料98が多くなってしまう。従って、蒸着材料98の利用効率を高めるためには、第2開口部35の開口寸法S2を大きくすること、すなわち第2金属層37の幅M2を小さくすることが好ましいと言える。
【0101】
図21において、第2金属層37の壁面36及び第1金属層32の壁面31に接する直線L1が、蒸着マスク20の法線方向Nに対してなす最小角度が、符号θ1で表されている。斜めに移動する蒸着材料98を、可能な限り有機EL基板92に到達させるためには、角度θ1を大きくすることが有利となる。例えば、角度θ1を45°以上にすることが好ましい。
【0102】
角度θ1を大きくする上では、第1金属層32の幅M1に比べて第2金属層37の幅M2を小さくすることが有効である。また、図から明らかなように、角度θ1を大きくする上では、第1金属層32の厚みT1や第2金属層37の厚みT2を小さくすることも有効である。なお、第2金属層37の幅M2、第1金属層32の厚みT1や第2金属層37の厚みT2を過剰に小さくしてしまうと、蒸着マスク20の強度が低下し、このため搬送時や使用時に蒸着マスク20が破損してしまうことが考えられる。例えば、蒸着マスク20をフレーム15に張設する際に蒸着マスク20に加えられる引張り応力によって、蒸着マスク20が破損してしまうことが考えられる。これらの点を考慮すると、第1金属層32および第2金属層37の寸法が以下の範囲に設定されることが好ましいと言える。これによって、上述の角度θ1を例えば45°以上にすることができる。
【0103】
・第1金属層32の幅M1:5μm以上且つ25μm以下
・第2金属層37の幅M2:2μm以上且つ20μm以下
・蒸着マスク20の厚みT0:3μm以上且つ50μm以下、より好ましくは3μm以上且つ50μm以下、さらに好ましくは3μm以上且つ30μm以下、さらに好ましくは3μm以上且つ25μm以下
・第1金属層32の厚みT1:5μm以下
・第2金属層37の厚みT2:2μm以上且つ50μm以下、より好ましくは3μm以上且つ50μm以下、さらに好ましくは3μm以上且つ30μm以下、さらに好ましくは3μm以上且つ25μm以下
なお、本実施の形態において、蒸着マスク20の厚みT0は、有効領域22および周囲領域23において同一である。
【0104】
上述の開口寸法S0,S1,S2は、有機EL表示装置の画素密度や上述の角度θ1の所望値などを考慮して、適切に設定される。例えば、400ppi以上の画素密度の有機EL表示装置を作製する場合、接続部41における貫通孔25の開口寸法S0は、15μm以上且つ60μm以下に設定され得る。また、第1面20aにおける第1開口部30の開口寸法S1は、10μm以上且つ50μm以下に設定され、第2面20bにおける第2開口部35の開口寸法S2は、15μm以上且つ60μm以下に設定され得る。
【0105】
図22に示すように、第1金属層32によって構成される蒸着マスク20の第1面20aには、窪み部34が形成されていてもよい。窪み部34は、めっき処理によって蒸着マスク20を製造する場合に、後述するパターン基板50の導電性パターン52に対応して形成される。窪み部34の深さDは、例えば50nm以上且つ500nm以下である。好ましくは、第1金属層32に形成される窪み部34の外縁34eは、第1金属層32の端部33と接続部41との間に位置する。
【0106】
次に、めっき処理によって蒸着マスク20を製造する例について説明する。
【0107】
(蒸着マスクの製造方法)
図23乃至
図26は、蒸着マスク20の製造方法を説明する図である。
【0108】
〔パターン基板準備工程〕
まず、
図23に示すパターン基板50を準備する。パターン基板50は、絶縁性を有する基材51と、基材51上に形成された導電性パターン52と、を有する。導電性パターン52は、第1金属層32に対応するパターンを有する。なお、蒸着マスク20をパターン基板50から分離させる後述する分離工程を容易化するため、パターン基板50に離型処理を施しておいてもよい。
【0109】
〔第1めっき処理工程〕
次に、導電性パターン52が形成された基材51上に第1めっき液を供給して、導電性パターン52上に第1金属層32を析出させる第1めっき処理工程を実施する。例えば、導電性パターン52が形成された基材51を、第1めっき液が充填されためっき槽に浸す。これによって、
図24に示すように、パターン基板50上に、所定のパターンで第1開口部30が設けられた第1金属層32を得ることができる。
【0110】
なお、めっき処理の特性上、
図24に示すように、第1金属層32は、基材51の法線方向に沿って見た場合に導電性パターン52と重なる部分だけでなく、導電性パターン52と重ならない部分にも形成され得る。これは、導電性パターン52の端部54と重なる部分に析出した第1金属層32の表面にさらに第1金属層32が析出するためである。この結果、
図24に示すように、第1開口部30の端部33は、基材51の法線方向に沿って見た場合に導電性パターン52と重ならない部分に位置するようになり得る。また、第1金属層32のうち導電性パターン52と接する側の面には、導電性パターン52の厚みに対応する上述の窪み部34が形成される。
【0111】
導電性パターン52上に第1金属層32を析出させることができる限りにおいて、第1めっき処理工程の具体的な方法が特に限られることはない。例えば、第1めっき処理工程は、導電性パターン52に電流を流すことによって導電性パターン52上に第1金属層32を析出させる、いわゆる電解めっき処理工程として実施されてもよい。若しくは、第1めっき処理工程は、無電解めっき処理工程であってもよい。
【0112】
用いられる第1めっき液の成分は、第1金属層32に求められる特性に応じて適宜定められる。例えば第1金属層32が、ニッケルを含む鉄合金によって構成される場合、第1めっき液として、ニッケル化合物を含む溶液と、鉄化合物を含む溶液との混合溶液を用いることができる。例えば、スルファミン酸ニッケルや臭化ニッケルを含む溶液と、スルファミン酸第一鉄を含む溶液との混合溶液を用いることができる。めっき液には、様々な添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、ホウ酸などのpH緩衝剤、サッカリンナトリウなどの一次光沢剤、ブチンジオール、プロパギルアルコール、クマリン、ホルマリン、チオ尿素などの二次光沢剤、酸化防止剤や、応力緩和剤などが用いられ得る。このうち一次光沢剤は、硫黄成分を含んでいてもよい。
【0113】
〔レジスト形成工程〕
次に、基材51上および第1金属層32上に、所定の隙間56を空けてレジストパターン55を形成するレジスト形成工程を実施する。
図25に示すように、レジスト形成工程は、第1金属層32の第1開口部30がレジストパターン55によって覆われるとともに、レジストパターン55の隙間56が第1金属層32上に位置するように実施される。
【0114】
〔第2めっき処理工程〕
次に、レジストパターン55の隙間56に第2めっき液を供給して、第1金属層32上に第2金属層37を析出させる第2めっき処理工程を実施する。例えば、第1金属層32が形成された基材51を、第2めっき液が充填されためっき槽に浸す。これによって、
図26に示すように、第1金属層32上に第2金属層37を形成することができる。
【0115】
第1金属層32上に第2金属層37を析出させることができる限りにおいて、第2めっき処理工程の具体的な方法が特に限られることとはない。例えば、第2めっき処理工程は、第1金属層32に電流を流すことによって第1金属層32上に第2金属層37を析出させる、いわゆる電解めっき処理工程として実施されてもよい。若しくは、第2めっき処理工程は、無電解めっき処理工程であってもよい。
【0116】
第2めっき液としては、上述の第1めっき液と同一のめっき液が用いられてもよい。若しくは、第1めっき液とは異なるめっき液が第2めっき液として用いられてもよい。第1めっき液の組成と第2めっき液の組成とが同一である場合、第1金属層32を構成する金属の組成と、第2金属層37を構成する金属の組成も同一になる。
【0117】
〔レジスト除去工程〕
その後、レジストパターン55を除去するレジスト除去工程を実施する。例えばアルカリ系剥離液を用いることによって、レジストパターン55を基材51、第1金属層32や第2金属層37から剥離させることができる。
【0118】
〔分離工程〕
次に、第1金属層32および第2金属層37の組み合わせ体を基材51から分離させる分離工程を実施する。当該組み合わせ体が基材51から分離される際には、導電性パターン52上に、上述した離型処理によって形成された有機物の膜が形成されているため、組み合わせ体の第1金属層32は、有機物の膜の表面から剥離され、導電性パターン52は、有機物の膜とともに基材51に残る。これによって、所定のパターンで第1開口部30が設けられた第1金属層32と、第1開口部30に連通する第2開口部35が設けられた第2金属層37と、を備えた蒸着マスク20を得ることができる。
【0119】
以上の説明では、めっき処理によって形成される蒸着マスク20が、第1金属層32と第2金属層37とによって構成されている例について説明した。しかしながら、このことに限られることはなく、めっき処理によって形成される蒸着マスク20が、単一の金属層(図示せず)によって構成されていてもよい。
【0120】
(蒸着マスク装置の製造方法)
次に、上述のようにして得られた蒸着マスク20を用いて蒸着マスク装置10を製造する方法について説明する。
【0121】
まず、エッチング処理またはめっき処理によって上述のようにして準備された蒸着マスク20をフレーム15に溶接する溶接工程を実施する。これによって、蒸着マスク20及びフレーム15を備える蒸着マスク装置10を得ることができる。得られた蒸着マスク20は、張設された状態でフレーム15に溶接されて、
図3に示すような蒸着マスク装置10が得られる。
【0122】
(蒸着マスク梱包体)
次に、エッチング処理またはめっき処理によって得られた上述した蒸着マスク20を梱包した蒸着マスク梱包体について
図27乃至
図41を用いて説明する。
【0123】
図27乃至
図29に示すように、本実施の形態による蒸着マスク梱包体60は、受け部61と、受け部61の上方に設けられ、受け部61に対向する蓋部62と、受け部61と蓋部62との間に配置された蒸着マスク積層体80と、を備えている。このうち、蒸着マスク積層体80は、上述した蒸着マスク20と、蒸着マスク20に積層された複数の挿間シート81と、を有している。蒸着マスク積層体80の詳細については、後述する。
【0124】
蒸着マスク積層体80は、受け部61と蓋部62で挟持されている。本実施の形態では、受け部61と蓋部62とが弾性ベルト63(結束手段)によって結束されており、この弾性ベルト63の弾性力によって、受け部61および蓋部62が蒸着マスク積層体80を押圧し、挟持している。ここでは、受け部61と蓋部62とが2つの弾性ベルト63によって結束されている例が示されているが、受け部61と蓋部62とが、輸送中に互いにずれることを防止できれば、弾性ベルト63の個数は任意である。また、受け部61と蓋部62とが蒸着マスク積層体80を挟持することができれば、弾性ベルト63を用いることに限られることはない。
【0125】
本実施の形態では、受け部61と蓋部62は、ヒンジ部64を介して連結されている。すなわち、受け部61および蓋部62は、ヒンジ部64を介して折り曲げ可能になっており、
図30に示す展開状態から、
図27乃至
図29に示す折り曲げ状態に移行可能になっている。開梱後には展開状態に戻すことができる。
【0126】
受け部61、蓋部62およびヒンジ部64は、一体に形成されており、観音開き式の梱包部材65を構成している。この梱包部材65の横断面が、
図30に示されている。ここで、縦断面とは、梱包される蒸着マスク20の長手方向(第1の方向)の断面を意味する。横断面とは、梱包される蒸着マスク20の長手方向に直交する幅方向(第2の方向)の断面を意味する。
【0127】
図30に示すように、受け部61とヒンジ部64との間には、V字状の受け部側溝66が形成されている。ヒンジ部64と蓋部62との間には、V字状の蓋部側溝67が形成されている。梱包部材65を
図27乃至
図29に示す状態に折り曲げた際には、これらの溝66、67が潰される。すなわち、溝66、67を画定する一対の溝壁面が互いに近接または当接し、梱包部材65が折り曲げ可能になっている。受け部側溝66および蓋部側溝67が90°の頂角を有する場合には、梱包部材65を折り曲げた状態では、受け部61と蓋部62を略平行に対向させることができる。梱包部材65には、輸送時の蒸着マスク20の塑性変形を防止可能であれば、任意の材料を使用することができるが、例えば、強度と質量の観点から、プラスチック製の段ボールを好適に使用することができる。
【0128】
図28乃至
図32に示すように、受け部61は、蓋部62に対向する平坦状の第1対向面68と、第1対向面68に設けられた凹部69と、を有している。受け部61を、複数枚の材料シート(例えば、プラスチック製の段ボールシート)が積層された構成とする場合には、第1対向面68の側のシートに開口部を設けて、第1対向面68の反対側のシートに開口部を設けないようにしてもよい。この場合、受け部61として見たときに、第1対向面68に形成された凹部69を得ることができる。ここで、プラスチック製の段ボールシートは、一対のライナーと、ライナーの間に介在された波形状の横断面を有する中芯と、を含んでいる。複数の段ボールシートを積層する場合には、互いに隣り合う段ボールシートの中芯の波形状の尾根(または谷)が延びる方向が、直交するように積層することが好適である。この場合、積層された段ボールシートから構成される受け部61の強度を向上させることができる。
【0129】
図33に示すように、蒸着マスク20の積層方向(蒸着マスク20の法線方向N)に沿って見たときに、凹部69は、長手方向を有するように矩形状に形成されている。凹部69の長手方向は、蒸着マスク20の長手方向(第1の方向)に沿っている。言い換えると、蒸着マスク20は、その長手方向が凹部69の長手方向に沿うように、凹部69上に載置される。
【0130】
凹部69の長手方向寸法D1は、蒸着マスク20の長手方向における複数の有効領域22の一端から他端までの寸法D2より大きくなっている。このことにより、蒸着マスク20の有効領域22の全てが、凹部69上に配置されている。しかしながら、凹部69の長手方向寸法D1は、蒸着マスク20の長手方向全長(長手方向寸法)D3よりは小さくなっている。このことにより、蒸着マスク20の長手方向両側の端部20eは、凹部69上ではなく、第1対向面68上に配置され、受け部61と蓋部62とに挟持される。このため、蒸着マスク20が受け部61と蓋部62との間で横方向にずれることを防止している。
【0131】
凹部69の蒸着マスク20の幅方向における寸法W1は、蒸着マスク20の幅方向寸法W2よりも大きくなっている。この場合、蒸着マスク20の有効領域22の近傍において、蒸着マスク20の幅方向両側の側縁20fが凹部69上に配置されている。このことにより、下向きの力を受けた蒸着マスク20の有効領域22を凹部69内に効果的に撓ませることができる。このため、有効領域22が塑性変形することを効果的に防止できる。
【0132】
図31乃至
図33に示すように、凹部69は、可撓性を有する第1可撓性フィルム70によって覆われている。第1可撓性フィルム70には、蒸着マスク20に梱包状態で加えられる力や、輸送時に加えられる衝撃を吸収可能な程度の可撓性を有していることが好ましい。また、第1可撓性フィルム70は、蒸着マスク20を含む蒸着マスク積層体80(後述)を支持することができる程度の強度を有していることが好ましい。このような特性を有するフィルムであれば、第1可撓性フィルム70には任意の厚みを有する任意のフィルム材料を用いることができるが、例えば、厚み0.15〜0.20mmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムを好適に用いることができる。PETフィルムは、比較的硬くてしわが形成し難いため、蒸着マスク20の塑性変形を効果的に防止可能である。
【0133】
第1可撓性フィルム70は、静電気が発生することを防止するために、帯電防止コーティングされていることが好ましい。より具体的には、第1可撓性フィルム70に、帯電防止剤がコーティングされて、第1可撓性フィルム70の両面に帯電防止層が形成されていてもよい。この場合、第1可撓性フィルム70が帯電することを防止でき、開梱時に蒸着マスク20と挿間シート81とが静電作用により付着することを防止できる。このような第1可撓性フィルム70の一例としては、商品名クリスパー(登録商標)として販売されている東洋紡株式会社製のポリエステル系合成紙K2323−188−690mmが挙げられる。
【0134】
第1可撓性フィルム70は、受け部61の第1対向面68に、接着テープを用いて貼り付けられている。より具体的には、
図33に示すように、第1可撓性フィルム70の蒸着マスク20の長手方向における寸法D4は、凹部69の長手方向寸法D1よりも大きくなっている。また、第1可撓性フィルム70の蒸着マスク20の幅方向における寸法W3は、凹部69の幅方向寸法W1よりも大きくなっている。そして、第1可撓性フィルム70の周縁部が、全周にわたって連続的に第1対向面68に貼り付けられていることが好適である。このことにより、蒸着マスク20に下向きの力が加えられた場合に第1可撓性フィルム70の可撓性を効果的に発揮させることができ、第1可撓性フィルム70に支持される蒸着マスク20の塑性変形をより一層防止できる。接着テープには、第1可撓性フィルム70が受け部61に良好に接着可能であれば、任意の材料を用いることができるが、一例として、商品名スコッチ(登録商標)として販売されている3M製の両面テープ665を挙げることができる。なお、第1可撓性フィルム70は、受け部61の第1対向面68に、接着剤を塗布して貼り付けられるようにしてもよい。
【0135】
図28乃至
図32に示すように、蓋部62は、受け部61に対向する平坦状の第2対向面71を有している。本実施の形態においては、第2対向面71には、第1対向面68のような凹部は設けられていない。すなわち、蓋部62の第2対向面71は、全体的に平坦状に形成されている。このことにより、蓋部62の強度を確保することができる。この第1対向面68のうち、蒸着マスク積層体80に対応する部分は、第2可撓性フィルム72によって覆われている。第2可撓性フィルム72には、第1可撓性フィルム70と同様の厚さを有するフィルム材料を好適に用いることができ、第1可撓性フィルム70と同様にして蓋部62の第2対向面71に接合することができる。蓋部62がプラスチック製の段ボールシートで構成されている場合には、この第2可撓性フィルム72によって、段ボールシートの中芯の波形状が、蒸着マスク20に転写されることを防止できる。また、第2可撓性フィルム72を用いることによって、蓋部62の第2対向面71に傷が付くことを防止できる。
【0136】
図28および
図29に示すように、第1可撓性フィルム70と第2可撓性フィルム72との間に、複数の蒸着マスク20が積層された蒸着マスク積層体80が介在されている。すなわち、蒸着マスク積層体80は、第1可撓性フィルム70および第2可撓性フィルム72を介して、受け部61および蓋部62によって挟持されている。
【0137】
図31および
図32に示すように、蒸着マスク積層体80は、互いに積層された複数の蒸着マスク20と、蒸着マスク20の第1面20aおよび第2面20bに積層された複数の挿間シート81と、を有している。本実施の形態では、複数の蒸着マスク20と複数の挿間シート81とが、交互に積層されており、各蒸着マスク20の第1面20aが、第1面20aに面している挿間シート81で覆われ、第2面20bが、第2面20bに面している挿間シート81で覆われている。また、蒸着マスク積層体80の最下段および最上段が挿間シート81になっている。すなわち、最も下方に配置された蒸着マスク20と受け部61との間に挿間シート81が介在され、最も上方に配置された蒸着マスク20と蓋部62との間に挿間シート81が介在されている。
【0138】
挿間シート81は、互いに隣り合う一方の蒸着マスク20の貫通孔25と、他方の蒸着マスク20の貫通孔25とが、互いに引っ掛かることを防止するためのものである。このため、挿間シート81の両面(蒸着マスク20若しくは可撓性フィルム70、72に面する面)は、平坦状に形成されており、挿間シート81には、孔や凹凸などは形成されていない。この挿間シート81によって、蒸着マスク積層体80から個々の蒸着マスク20を取り出す際に、蒸着マスク20の塑性変形を防止している。
【0139】
蒸着マスク積層体80を構成する蒸着マスク20および挿間シート81はいずれも受け部61に接合されておらず、蓋部62にも接合されていない。
【0140】
蒸着マスク積層体80における蒸着マスク20は、同一の形状を有し、各蒸着マスク20の有効領域22が、積層方向に沿って見たときに重なるように配置されていることが好適であるが、これに限られない。積層した状態において、各蒸着マスク20の有効領域22の全てが、凹部69上に配置できれば、例えば、各蒸着マスク20の有効領域22の個数または形状が異なっていてもよい。
【0141】
挿間シート81には、蒸着マスク20の塑性変形を防止できれば、任意の材料を用いることができるが、蒸着マスク20の熱膨張係数と挿間シート81の熱膨張係数との差が所定の範囲内であることが好適である。本実施の形態では、蒸着マスク20の熱膨張係数と挿間シート81の熱膨張係数との差(絶対値)が、7ppm/℃以下になっている。このことにより、蒸着マスク20の熱膨張係数と挿間シート81の熱膨張係数との差を低減している。
【0142】
蒸着マスク20が30質量%以上且つ54質量%以下のニッケルを含む鉄合金で構成されている場合には、挿間シート81も30質量%以上且つ54質量%以下のニッケルを含む鉄合金で構成されていることが好適である。例えば、蒸着マスク20が、34質量%以上且つ38質量%以下のニッケルを含むインバー材で構成されている場合には、挿間シート81もそのようなインバー材で構成されていることが好適である。この場合、蒸着マスク20の熱膨張係数と挿間シート81の熱膨張係数との差を低減することができる。また、蒸着マスク20が、入手性が良好なステンレスなどのクロムを含む鉄合金で構成されている場合には、挿間シート81もそのようなクロムを含む鉄合金で構成されていることが好ましく、この場合においても、蒸着マスク20の熱膨張係数と挿間シート81の熱膨張係数との差を低減することができる。更に、蒸着マスク20の熱膨張係数と挿間シート81の熱膨張係数との差をより一層低減するためには、挿間シート81を構成する材料が、蒸着マスク20を構成する材料と同一であることが好ましい。しかしながら、上述した熱膨張係数の差の範囲内であれば、挿間シート81を構成する材料と蒸着マスク20を構成する材料とは相違していてもよい。例えば、挿間シート81は、42アロイ(42%のニッケルを含む鉄合金)により形成されていてもよい。なお、挿間シート81は、挿間シート81が蒸着マスク20の貫通孔25に引っ掛かることを防止できれば、紙などの繊維材料を含む材料により形成されていてもよい。例えば、挿間シート81は、アクリル含浸紙により形成されていてもよい。
【0143】
挿間シート81の厚みは、20μm〜100μmであることが好適である。20μm以上にすることにより、挿間シート81の一方の面に積層された蒸着マスク20の貫通孔25による凹凸形状が、他方の面に出現することを防止できる。また、挿間シート81が破れることを防止できるとともに、挿間シート81を再利用することもでき、経済的である。一方、100μm以下にすることにより、挿間シート81の質量を低減し、蒸着マスク梱包体60としての質量が増大することを抑制できる。
【0144】
挿間シート81は、蒸着マスク20の積層方向に沿って見たときに挿間シート81の周縁81aが全周にわたって蒸着マスク20からはみ出し可能な寸法を有していることが好適である。本実施の形態では、
図33に示すように、挿間シート81の蒸着マスク20の長手方向における寸法(長手方向全長)D5が、蒸着マスク20の長手方向全長D3よりも大きく、かつ、挿間シート81の蒸着マスク20の幅方向における寸法W4が、蒸着マスク20の幅方向寸法W2よりも大きくなっている。このことにより、蒸着マスク積層体80において、挿間シート81を、全周にわたって蒸着マスク20からはみ出させることができ、互いに隣り合う蒸着マスク20同士が直接的に接して重なり合うことを防止できる。すなわち、挿間シート81の長手方向全長D5が、蒸着マスク20の長手方向全長D3よりも小さいと、挿間シート81の一方の側にある蒸着マスク20と他方の側にある蒸着マスク20とが直接的に接して重なり合い、貫通孔25が変形する可能性がある。また、挿間シート81の幅方向寸法W4が、蒸着マスク20の幅方向寸法W2よりも小さい場合にも同様にして、貫通孔25が変形する可能性がある。これに対して本実施の形態によれば、挿間シート81の長手方向全長D5が蒸着マスク20の長手方向全長D3よりも大きく、かつ、挿間シート81の幅方向寸法W4が蒸着マスク20の幅方向寸法W2よりも大きいため、挿間シート81の両側にある蒸着マスク20同士が直接的に接して重なり合うことを防止できる。このため、貫通孔25が変形することを効果的に防止できる。なお、挿間シート81の幅方向寸法W4は、凹部69の幅方向寸法W1よりも小さいことが好適である。
【0145】
図28及び
図29に示すように、蒸着マスク積層体80を挟持した受け部61および蓋部62は、密封袋73に密封されている。密封袋73内は、真空引きされて減圧されている。また、密封袋73内には、乾燥剤74(例えば、シリカゲル)が収納されており、密封袋73内の水分を乾燥剤74が吸着し、密封袋73内の雰囲気の乾燥状態を維持している。このことにより、蒸着マスク20が水分で変質することを防止している。なお、
図27では、密封袋73は省略されている。
【0146】
また、
図28及び
図29に示すように、本実施の形態による蒸着マスク梱包体60は、蒸着マスク20に加えられる衝撃を検出する衝撃センサ75を備えていてもよい。この場合、輸送中に蒸着マスク20に加えられた衝撃を輸送後に確認することができる。このため、輸送中に所定値以上の衝撃が加えられた場合には、その蒸着マスク20に不良が生じている可能性を推測することができ、蒸着マスク20の輸送品質を向上させることができる。衝撃センサ75は、
図28及び
図29に示すように、密封袋73は段ボール箱76に収容されて、この段ボール箱76を梱包する木箱77内に取り付けることが好適であるが、これに限られることはない。衝撃センサ75としては、例えば、SHOCKWATCH Inc.製のショックウォッチラベルL−30(緑)を好適に用いることができる。
【0147】
次に、このような構成からなる本実施の形態の作用について説明する。ここでは、蒸着マスク20の梱包方法について説明する。
【0148】
(蒸着マスク梱包方法)
まず、上述した蒸着マスク20を準備するとともに、
図34に示すように、受け部61および蓋部62により構成された梱包部材65を準備する。この際、第1可撓性フィルム70が、受け部61の凹部69を覆うように受け部61の第1対向面68に貼り付けられるとともに、第2可撓性フィルム72が、蓋部62の第2対向面71に貼り付けられる。なお、第1可撓性フィルム70および第2可撓性フィルム72は、変質などの利用上の問題が無いと見なされれば、再利用してもよい。
【0149】
次に、
図35に示すように、梱包部材65の受け部61上に載置された蒸着マスク積層体80を得る。
【0150】
この場合、まず、第1可撓性フィルム70上に、挿間シート81が載置される。挿間シート81は、後述する蒸着マスク20と重なるような位置に配置される。
【0151】
続いて、挿間シート81上に、蒸着マスク20が載置される。すなわち、第1可撓性フィルム70上に、挿間シート81を介して蒸着マスク20が載置される。この場合、蒸着マスク20の有効領域22の全てが、凹部69上に第1可撓性フィルム70を介して配置され、蒸着マスク20の端部20eは、第1対向面68上に配置される。
【0152】
次に、蒸着マスク20上に、挿間シート81が載置される。このことにより、蒸着マスク20の第1面20aおよび第2面20bに挿間シート81が積層される。この場合の挿間シート81は、この蒸着マスク20の下面の挿間シート81と、積層方向に沿って見たときに重なるように配置される。
【0153】
その後、上述のようにして蒸着マスク20の載置と挿間シート81の載置とを繰り返すことにより、複数の蒸着マスク20と複数の挿間シート81とが交互に積層される。そして、最後に積層された蒸着マスク20上に挿間シート81が載置され、蒸着マスク積層体80の最下段および最上段が挿間シート81になる(
図31および
図32参照)。
【0154】
受け部61上に載置された蒸着マスク積層体80が得られた後、
図36に示すように、蒸着マスク積層体80上に蓋部62が配置される。この場合、梱包部材65がヒンジ部64を介して折り曲げられ、蓋部62が蒸着マスク積層体80の上方に配置される。このことにより、受け部61と蓋部62が対向し、蒸着マスク積層体80の上下方向両側に受け部61と蓋部62が配置される。
【0155】
次に、
図37に示すように、受け部61と蓋部62とによって蒸着マスク積層体80が挟持される。この場合、受け部61と蓋部62とが弾性ベルト63によって結束される。例えば、蒸着マスク20の長手方向に異なる位置に2つの弾性ベルト63が装着される(
図27参照)。このことにより、受け部61と蓋部62とが結束され、弾性ベルト63の弾性力によって、蒸着マスク積層体80が受け部61と蓋部62との間で挟持される。詳細には、蒸着マスク20全体ではなく、蒸着マスク20の長手方向両側の端部20eが、受け部61と蓋部62とで挟持される。この際、受け部61の第1対向面68と蓋部62の第2対向面71との間には、蒸着マスク積層体80の厚みに起因したギャップが形成される。
【0156】
蒸着マスク積層体80は、弾性ベルト63の弾性力によって、上下方向の力を受ける。蒸着マスク20の端部20eでは、この力は、受け部61の第1対向面68と蓋部62の第2対向面71で支持される。一方、蒸着マスク20の有効領域22は凹部69上に配置されているために、
図39に示すように、蓋部62の第2対向面71から受ける下向きの力によって蒸着マスク20の有効領域22が下方に撓む。蒸着マスク20は、凹部69上で第1可撓性フィルム70によって支持されているため、第1可撓性フィルム70が蒸着マスク20の撓みを抑制し、蒸着マスク20が変形することが抑制される。このため、蒸着マスク20の変形量を低減し、弾性変形範囲内の変形に留めることができる。このため、弾性ベルト63を取り外した開梱後には、蒸着マスク20は、自身の弾性力によって元の形状(梱包前の形状)に復元することができる。
【0157】
また、蒸着マスク20の間には挿間シート81が介在されているため、互いに隣り合う蒸着マスク20同士が、直接的に接して重なり合うことが回避されている。このため、多数の貫通孔25を含む有効領域22において、下向きの力を受けた蒸着マスク20同士が噛み合うことが防止され、蒸着マスク20はスムースに下方に撓むことができるとともに、スムースな復元もできる。
【0158】
蒸着マスク積層体80が挟持された後
図38に示すように、梱包部材65が密封袋73に密封される。この場合、密封袋73に梱包部材65を乾燥剤74とともに収容する。続いて、密封袋73の開口から内部が真空引きされる。所定の真空度まで密封袋73内の圧力が低下すると、密封袋73の開口がシールされる。
【0159】
密封袋73で密封された梱包部材65は、
図28及び
図29に示すように、段ボール箱76に収容されて、この段ボール箱76が木箱77で梱包される。この際、木箱77内に、衝撃センサ75が取り付けられる。このようにして、本実施の形態による蒸着マスク梱包体60が得られる。
【0160】
次に、上述のようにして得られた蒸着マスク梱包体60を輸送する場合について説明する。
【0161】
蒸着マスク梱包体60を輸送している間、蒸着マスク20に衝撃が加えられる場合がある。例えば、この衝撃により蒸着マスク20に下方に向く力が加えられる場合には、
図39に示すように、この下向きの力によって蒸着マスク20の有効領域22が下方に撓む。上述したように蒸着マスク20は、凹部69上で第1可撓性フィルム70によって支持されているため、蒸着マスク20が変形することが抑制される。このため、蒸着マスク20の変形を、弾性変形範囲内に留めることができ、輸送時の衝撃を受けた場合であっても、蒸着マスク20が塑性変形することを防止できる。
【0162】
また、蒸着マスク20の間には挿間シート81が介在されているため、互いに隣り合う蒸着マスク20同士が、直接的に接して重なり合うことが回避されている。このため、輸送時の衝撃を受けた場合であっても、蒸着マスク20同士が有効領域22において噛み合うことが防止されるとともに、互いに隣り合う蒸着マスク20同士が、擦れることを防止できる。このようにして、蒸着マスク20の塑性変形を防止できる。
【0163】
輸送時に、周囲環境の変化により蒸着マスク梱包体60の温度が変化する場合がある。この場合には、蒸着マスク20や挿間シート81が、それぞれ伸びたり縮んだりする。しかしながら、本実施の形態では、蒸着マスク20の熱膨張係数と挿間シート81の熱膨張係数との差が、7ppm/℃以下になっている。このことにより、蒸着マスク20の寸法変化(伸び若しくは縮み)と挿間シート81の寸法変化(伸び若しくは縮み)の差を低減することができる。このため、蒸着マスク20と挿間シート81の位置ずれが生じて蒸着マスク20にしわや傷が形成されることが防止され、蒸着マスク20の塑性変形が防止できる。
【0164】
輸送後の蒸着マスク梱包体60を開梱する場合には、上述した蒸着マスク20の梱包方法とは逆の手順を踏めばよい。とりわけ、互いに隣り合う蒸着マスク20の間には挿間シート81が介在されているため、蒸着マスク20が、その下方に配置された蒸着マスク20と噛み合うことが防止されている。このため、蒸着マスク積層体80から個々の蒸着マスク20をスムースに取り出すことができる。このため、蒸着マスク20が塑性変形することを防止できるとともに、蒸着マスク20の取扱性を向上させることができる。
【0165】
このように本実施の形態によれば、蒸着マスク20の熱膨張係数と挿間シート81の熱膨張係数との差が、7ppm/℃以下になっている。このことにより、蒸着マスク20の熱膨張係数と挿間シート81の熱膨張係数との差を低減することができる。このため、輸送中の周囲環境の変化により蒸着マスク梱包体60の温度が変化した場合であっても、蒸着マスク20の寸法変化と挿間シート81の寸法変化の差を低減することができる。この結果、寸法変化の差により生じ得るしわや傷が、蒸着マスク20および挿間シート81に形成されることを防止でき、蒸着マスク20の塑性変形を防止できる。
【0166】
また、本実施の形態によれば、蒸着マスク20の有効領域22が、受け部61の凹部69上に、第1可撓性フィルム70を介して配置されている。このことにより、蒸着マスク20の有効領域22を第1可撓性フィルム70によって支持することができる。このため、蒸着マスク20の有効領域22に加えられる下向きの力によって、有効領域22が下方に撓む変形を抑制できる。このため、蒸着マスク20の変形を弾性変形範囲内に留めることができ、蒸着マスク20の塑性変形を防止できる。
【0167】
また、本実施の形態によれば、挿間シート81の幅方向寸法W4が、凹部69の幅方向寸法W1よりも小さくなっているため、蒸着マスク20が塑性変形することを抑制できる。
【0168】
ここで、挿間シート81の幅方向寸法W4が、
図40に示すように、凹部69の幅方向寸法W1以上である場合、輸送時の衝撃などによって蒸着マスク20が塑性変形する場合が考えられる。すなわち、
図40に示す例では、挿間シート81の周縁81aが全周にわたって凹部69の外側に配置され、挿間シート81のうち凹部69よりも幅方向外側の部分は、受け部61の第1対向面68上に配置されている。
図39における下向きの力を受けると、挿間シート81のうち凹部69上の部分が、第1可撓性フィルム70および蒸着マスク20と共に下方に撓む。挿間シート81の撓んだ部分には、
図40に示すようなしわのような凹み81Xが形成される場合がある。この凹み81Xは、この挿間シート81に接する蒸着マスク20に転写され、蒸着マスク20が塑性変形する。凹み81Xは、挿間シート81の材質が柔らかい程(より具体的には耐力が小さい程)形成されやすく、厚みが小さい程形成されやすい傾向にある。なお、第1可撓性フィルム70にPET等の比較的硬い材質を用いる場合には、第1可撓性フィルム70に凹みが形成されることを防止できるが、第1可撓性フィルム70に凹みが形成されない場合であっても、挿間シート81に凹み81Xが形成され得る。
【0169】
これに対して本実施の形態によれば、
図33に示すように、挿間シート81の幅方向寸法W4が、凹部69の幅方向寸法W1よりも小さくなっているため、挿間シート81のうち凹部69上の部分は、挿間シート81の幅方向全体にわたって凹部69上に配置されている。このことにより、下向きの力を受けると、挿間シート81の凹部69上の部分は、幅方向全体にわたって凹部69内に入り込むように撓む。このため、
図40に示すような凹み81Xが形成されることを防止でき、蒸着マスク20の塑性変形を防止できる。
【0170】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明してきたが、本発明による蒸着マスク梱包体および蒸着マスク梱包方法は、上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【0171】
上述した本実施の形態においては、受け部61と蓋部62が、ヒンジ部64を介して連結され、一体に形成されている例について説明した。しかしながら、このことに限られることはなく、受け部61と蓋部62は、
図41に示すように、別体に形成されていてもよい。この場合においても、弾性ベルト63によって受け部61と蓋部62を結束して、受け部61と蓋部62との間に蒸着マスク積層体80を挟持することができる。
【0172】
また、上述した本実施の形態においては、受け部61と蓋部62との間に挟持された蒸着マスク積層体80が、複数の蒸着マスク20を有している例について説明した。しかしながら、このことに限られることはなく、蒸着マスク積層体80は、1つの蒸着マスク20と、この蒸着マスク20の第1面20aおよび第2面20bに積層された2つの挿間シート81と、により構成されていてもよい。この場合においても、蒸着マスク20の貫通孔25に、他の部材が引っ掛かることを防止でき、蒸着マスク20の塑性変形を防止することができる。
【0173】
また、上述した本実施の形態においては、梱包部材65の受け部61上に挿間シート81および蒸着マスク20が交互に積層されて蒸着マスク積層体80が形成される例について説明した。しかしながら、このことに限られることはなく、予め蒸着マスク積層体80を形成した後に、この蒸着マスク積層体80を受け部61上に載置するようにしてもよい。
【実施例】
【0174】
種々の挿間シート81を用いて、蒸着マスク20を梱包した蒸着マスク梱包体60の輸送試験を行い、輸送後の蒸着マスク20の状態を確認した。
【0175】
輸送試験に用いた蒸着マスク20には、
図42に示すような、種々の厚みT0を有する蒸着マスク20を用いた。各々の蒸着マスク20は、
図4乃至
図19に示すエッチング処理によって作製された蒸着マスク20である。この蒸着マスク20の材料は、36質量%のニッケルを含むインバー材とした。いずれの蒸着マスク20も、幅方向寸法W2(
図33参照)を67mm、長手方向全長D3を850mmとした。
【0176】
挿間シート81には、
図42に示すように、種々の材料からなるシートを用いた。より詳細には、実施例1として、挿間シート81に36質量%のニッケルを含むインバー材を用い、実施例2として、42アロイを用い、実施例3として、アクリル含浸紙を用いた。他方、比較例1としてステンレス(SUS430)を用い、比較例2として高分子ポリエチレン(PE)を用い、比較例3としてポリエチレンテレフタレート(PET)を用い、比較例4として、低分子ポリエチレンを用いた。各材料の25℃における熱膨張係数は、
図42に示すようになっている。
図42では、挿間シート81の熱膨張係数から蒸着マスク20の熱膨張係数(36質量%のニッケルを含むインバー材)を差し引いた値を示している。各挿間シート81の幅方向寸法W4は150mm、長手方向全長D5は980mm、厚みは75μmにした。
【0177】
5枚の蒸着マスク20と4枚の挿間シート81とを交互に重ねて、上述した実施の形態による蒸着マスク梱包体60を作製した。蒸着マスク梱包体60の作製は、室温が25℃に管理された作業室で行った。
【0178】
作製された蒸着マスク梱包体60を、陸路、空路、陸路を経て、目的地まで輸送した。目的地の気温は−16℃であり、これが輸送中の周囲環境の最低気温であり、蒸着マスク20は開梱されるまでに−16℃まで低下した。蒸着マスク梱包体60の開梱は、室温が25℃に管理された作業室で行った。なお、輸送中の周囲環境の最高気温は、25℃よりも高くなっている可能性があるが、その場合であっても、梱包時の温度と最高気温との温度差は、梱包時の温度と最低気温との温度差よりも小さいと考えられる。このため、梱包時の気温と最低気温との温度差に着目して、蒸着マスク20の変形を確認すればよいと考え、輸送試験を行った。
【0179】
開梱後に、各蒸着マスク20に、波状のしわが形成されているか否かと、傷が形成されているか否かを、目視(裸眼)により確認した。その結果を
図42に示す。ここで○印は、5枚全ての蒸着マスク20に、しわも傷も目視で確認されなかったことを示しており、×印は、5枚のうちの少なくとも1枚の蒸着マスク20に、しわおよび傷のうちの少なくとも一方が目視で確認されたことを示している。
【0180】
図42に示すように、蒸着マスク20の熱膨張係数と挿間シート81の熱膨張係数との差が7ppm/℃以下である場合に、全ての厚みの蒸着マスク20について、しわや傷が形成されないことが確認できた。すなわち、熱膨張係数の差を7ppm/℃以下にすることにより、蒸着マスク20にしわや傷が形成されることを抑制でき、蒸着マスク20の塑性変形を防止することができる。また、蒸着マスク20の厚みが15μm以上であれば、蒸着マスク20自体の強度を確保することができ、蒸着マスク20にしわが形成されることをより一層抑制できると考えられる。
【0181】
なお、本実施例においては、エッチング処理によって作製された蒸着マスク20を用いているが、めっき処理によって作製された蒸着マスク20についても、少なくとも同様の結果が得られるものと考える。すなわち、上述したようにエッチング処理の蒸着マスク20には、圧延材として作製された金属板21が用いられるが、この金属板21の結晶よりも、めっき処理で作製された蒸着マスク20の結晶の方が細かくなる。このことにより、めっき処理の蒸着マスク20の硬度や耐力は、金属板21よりも大きくなる。従って、めっき処理で作製された蒸着マスク20を用いた場合であっても、本実施例と同等あるいはそれ以上の結果が得られ、しわや傷の形成をより一層抑制できるものと考える。