(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
吸収軸が直交又は平行に配置された2枚の偏光板の間に、前記吸収軸に対して平面視で45°で光軸が傾くように前記偏光解消素子を配置したときに、波長380nm以上780nm以下の波長範囲において、いずれの波長でも透過率が0.2以上0.8以下である請求項11に記載の偏光解消素子。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を図面に示す形態に基づき説明する。ただし、本発明はこれら形態に限定されるものではない。図面では、わかり易さのため微小な要素であっても変形して表したり、大きく表したりすることがあり、同じ要素が繰り返し配置されている際には符号を一部について省略することがある。
【0031】
図1は第一の形態を説明する図であり、
図1(a)は偏光解消素子10の斜視図、
図1(b)は偏光解消素子10の分解斜視図である。
図1(a)、
図1(b)からわかるように、本形態の偏光解消素子10は、基材11、凹凸形成層12、及び液晶層15を有して構成されている。
【0032】
基材11は、その一方の面に凹凸形成層12、及び液晶層15を積層するための基材となる透明層である。基材11をなす材料としては、種々の材料を使用することができる。ただし、光学的な素子を構成する部材の材料として広く使用され、優れた機械的特性、光学特性、安定性および加工性等を有するとともに安価に入手可能な材料を用いることができる。これには例えば脂環式構造を有する重合体樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体、ABS樹脂、ポリエーテルスルホン等の熱可塑性樹脂や、エポキシアクリレートやウレタンアクリレート系の反応性樹脂(電離放射線硬化型樹脂等)、トリアセチルセルロース樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、及びガラス等を挙げることができる。
そしてその厚さは10μm以上1000μm以下の範囲で構成することができる。
【0033】
凹凸形成層12は、液晶層15に厚さの異なる複数の部位を付与する層であり、本形態では複数の凸条13が間隔を有して配列されている。従って凸条13が配置された部位では凸部12a、凸条13の間は凹部12bとなり、この凸部12aと凹部12bとが繰り返されて配列される。
本形態では凸条13は、四角形断面を有した四角柱状であり、複数の凸条13が、その柱状の軸線が平行になるように、基材11の一方の面に沿って並べられている。
【0034】
凹凸形成層12の凸条13をなす材料としては、種々の材料を使用することができる。ただし、光学素子を構成する部材の材料として広く使用され、優れた機械的特性、光学特性、安定性および加工性等を有するとともに安価に入手可能な材料を用いることができる。これには例えば脂環式構造を有する重合体樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体、ABS樹脂、ポリエーテルスルホン等の熱可塑性樹脂や、エポキシアクリレートやウレタンアクリレート系の反応性樹脂(電離放射線硬化型樹脂等)、トリアセチルセルロース樹脂等を挙げることができる。
【0035】
ここまで説明した基材11と凹凸形成層12とは、境界なく一体であってもよいし、基材11の面に凹凸形成層12が積層され別部材が接着された形態であってもよい。
製造過程としては、押出し成形、賦型、及びフォトリソグラフィー等を挙げることができる。押し出し成型で製造された場合においては、基材11、及び凹凸形成層12が一体的に形成され得る。また、賦型によって製造する場合には、基材11上に凹凸形成層12を賦型して形成することができ、この場合には基材層11と凹凸形成層12とが、同一の樹脂材料であっても、異なる材料であってもよい。
【0036】
液晶層15は、凹凸形成層12に積層された液晶材料からなる層である。従って液晶層15のうち、凹凸形成層12に接する側の面には、凹凸形成層12の凹凸と反対の凹凸を有する。すなわち、液晶層15は凹凸形成層12の凹部12bを満たすように凸部15aを具備し、凹凸形成層12の凸部12aに満たされるように凹部15bを備えている。従って、本形態では凹凸形成層12と液晶層15とは凹凸界面を有して接している。
一方、液晶層15のうち、凹凸面側とは反対側の面は本形態では平滑面とされている。ただしこれに限定されることなく、他の凹凸面が形成されていてもよい。
【0037】
ここで、液晶層15を構成する液晶について、波長450nmにおける複屈折率をΔn
450、波長550nmにおける複屈折率をΔn
550、波長650nmにおける複屈折率をΔn
650としたとき、
Δn
450>Δn
550>Δn
650
の関係とすることもできる。すなわち、可視光領域において短波長側から長波長側にかけて位相差が小さくなる波長分散性(正分散性)を有している液晶層を用いることもできる。ここで各波長の「複屈折率」は、ガラス基材上に液晶を配向させ、位相差測定後、液晶膜厚で割ることで求めた。
従来において、正分散性とは逆の特性を有する逆分散性(すなわち、可視光領域において短波長側から長波長側にかけて位相差が大きくなる波長分散性)の材料としては、フルオレンを用いたポリカーボネート共重合樹脂が知られているが、これを用いると部材が厚くなってしまう。
液晶材料についてみると逆分散性を有する重合性液晶化合物が挙げられる。しかしながら、このような重合性液晶化合物では薄膜化は可能になるが、正分散性材料よりコストが高く、広く製品を供給する観点からは問題がある。
これに対して、本形態では上記構成にすることにより、正分散性の液晶材料を使用し、コストを抑えつつも色味がつかず、より薄い偏光解消素子とすることができる。
【0038】
液晶層15を構成する液晶材料は特に限定されることはないが、例えば次の化学式で表される(1)〜(17)のような棒状液晶材料を挙げることができる。
【0041】
その中でも重合性棒状液晶材料からなるものを用いることができる。この際における重合性官能基としては、例えば、紫外線、電子線等の電離放射線、又は熱の作用によって重合するものを挙げることができる。具体例としては、ラジカル重合性官能基が挙げられる。ラジカル重合性官能基の代表例は、少なくとも1つの付加重合可能なエチレン性不飽和二重結合を持つ官能基が挙げられ、具体例として、置換基を有する、又は、有しないビニル基、アクリレート基(アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基を包含する総称)等が挙げられる。
【0042】
また、上記棒状の液晶材料の他、円盤状の液晶材料であるディスコティック液晶を用いることもできる。そのため、ディスコティック液晶性を示す公知の化合物を広く用いることができ、これは円盤状のコア部を有するとともに、該コア部から放射状に側鎖が延びる構造を備えている。
【0043】
以上のような液晶層15は、基材11、及び凹凸形成層12に液晶材料を塗布することにより形成することができる。
【0044】
以上のような構造を有する偏光解消素子10は、例えば次のような形態とされている。
図2に説明のための断面図を示した。
本形態では凹凸形成層12により、液晶層15が2種類の異なる厚さ領域が交互に配置されるようになっている。すなわち、
図2にd1で示した液晶厚さを有する領域と、d2で示した液晶厚さを有する領域である。d1で示した液晶厚さは液晶層15の凸部15aによる領域の厚さであり、d2で示した液晶厚さは液晶層15の凹部15bによる領域の厚さである。このような液晶層が後の説明のように作用するための液晶層15の厚さ(d1)は、1μm以上10μm以下の範囲とすることができる。1μm以上5μm以下の範囲でも効果を得ることが可能である。
液晶層15では、最も厚い部位(本形態ではd1の部位)、と最も薄い部位(本形態ではd2の部位)の厚さの差が5μm以下であることが好ましい。
【0045】
一方、
図2で示した隣り合う凸部15aのピッチpは、1μm以上100μm以下であることが好ましい。ピッチが1μmより小さいと原因は明確ではないが、偏光解消の効果が小さくなる傾向があった。また、ピッチが100μmより大きくなると凹凸が視認されてしまう虞がある。より好ましくは20μm以下である。
また、1ピッチの間における凸部15aと凹部15bとの割合は特に限定されることなく、必要な偏光解消及び波長ごとの透過率特性に基づいて適宜設定することができる。ただし、後で実施例で説明するようにその割合によってさらに顕著な効果を奏するものになる。
【0046】
このように本形態では液晶層を用いているので、非常に薄い素子により偏光状態を解消することができる。例えば、
図2にd0で示した偏光解消素子10の厚さを20μm以下にすることもできる。
また、可撓性を有する材料により構成することができるので、素子に可撓性を持たせ、偏光解消素子10を適用する対象の形状に対して柔軟に対応することが可能である。
【0047】
また、本形態では液晶を用いて位相差が異なる複数の光に変換するため、無機粒子を分散させたときに起こるヘイズの上昇がなく、ヘイズの上昇が無い状態で光を透過させることが可能である。具体的にはヘイズ値が5%以下である偏光解消素子を形成することも可能である。
【0048】
以上のような構成を有する偏光解消素子10は例えば次のように作用する。
位相が揃った(所定の偏光状態にある)光が偏光解消素子10に入射する。そしてこの光は液晶層15を透過する。
ここで、本形態の偏光解消素子10では、液晶層15において、凸部15aからなる厚さd1の領域と、凹部15bからなる厚さd2の領域と、の厚さが異なる2種類の領域を有している。
液晶層を透過する光に発生する位相差(Re:リタデーション)は、液晶材料に依存する複屈折光の屈折率差Δnと、液晶層の厚さdの積で決まる。すなわち、
Re=Δn・d
である。
【0049】
従って、本形態の偏光解消素子10では、位相が揃った(所定の偏光状態にある)光が偏光解消素子10を透過した結果、
Re1=Δn・d1
Re2=Δn・d2
である2種類の位相差を有する光となり、単一の位相差(偏光)状態を解消することができる。
【0050】
また、その際には、以下に説明するように、偏光解消素子10では波長による透過率の差を抑えることができ、色の変化を抑制しつつ光を透過することが可能となる。
図3に説明のための図を示した。
図3は横軸に波長、縦軸に透過率をとったグラフである。
図3からわかるように、凸部15aの領域における透過率の特性と、凹部15bの領域における透過率の特性と、を合成した透過率が偏光解消素子10の全体の透過率となる。従って、波長ごとの透過率が一定(例えば0.5付近)となるように各領域の透過率特性を調整すれば、全体として波長による透過率の偏りを抑制した透過率特性を有する素子とすることができる。
これにより偏光解消素子10では可視光域における波長による透過率の差を抑えることができ、色の変化を抑制しつつ光を透過することが可能となる。すなわち、偏光解消素子10を画像表示装置やサングラス等に用いた場合でも、オリジナルの画像の色に対する色の変化を抑えて観察者に提供することができる。従って、従来の偏光解消素子において透過光における色の変化が問題となることがあったが、このような課題を解決することが可能となる。
【0051】
同様に、画像表示装置の光源が急峻な発光スペクトルを有している場合、従来の偏光解消素子では、この発光スペクトルと偏光解消素子の波長透過率特性との関係で所定の色の透過率が極端に低くなり偏光解消素子を透過すると色が大きく変化してしまう問題があった。このような課題に対しても本形態の偏光解消素子によれば光源光の色の変化を抑制して透過させることができ、光源の種類を選ばず偏光状態の解消をすることが可能となる。
【0052】
また、偏光解消素子10は上記のように薄く、そして液晶層15を上記のように構成することで、偏光解消素子内を斜め方向に進行する光と、偏光解消素子内を厚さ方向に平行に進行する光とに大きな差異が生じ難くなる。これにより、偏光解消素子内を斜めに進行する光があっても偏光解消状態や色について所望した設計どおりの性能を得やすい。
従来の技術では、素子内を斜めに進行した光が他の位相差領域にまたがって進んでしまうため、予定した位相差状態を得られなかったり、色の変化が生じたりしてしまうことがあった。従ってこのような設計どおりの位相差状態及び色変化を精度よく実現する課題に対しても本形態の偏光解消素子により、当該課題を解決することができる。
【0053】
偏光解消素子10によれば、液晶層が凹凸形状を具備することにより、凹凸を有しない液晶層(単なる材料としての液晶)に対して全体として全く異なる位相差特性を付与することが可能である。例えば、正面位相差をRe、厚み位相差をRthとしたとき、Nz係数は、
Nz=(Rth/Re)+0.5
で表されるが、本形態の偏光解消素子では、波長450nmのときのNz係数であるN
450と、波長550nmのときのNz係数であるN
550との間で、
N
450<N
550−0.1
とすることも可能である。これは用いた液晶の材料特性とは反対にすることができることを意味する(後述の実施例参照)。
このように偏光解消素子では、凹凸と当該凹凸を形成する液晶材料との組み合わせにより材料特性の範囲を超えて位相差を制御することも可能であり、設計自由度の高い偏光解消素子となる。
【0054】
以上説明した偏光解消素子10は例えば次のように製造することができる。すなわち、上記したように、基材11及び凹凸形成層12については、押し出し成形、賦型、及びフォトリソグラフィー等により作製できる。押し出し成型で製造された場合においては、基材11、及び凹凸形成層12が一体的に形成され得る。また、賦型によって製造する場合には、基材11上に凹凸形成層12を賦型して形成することができ、この場合には基材11と凹凸形成層12とが、同一の樹脂材料であっても、異なる樹脂材料であってもよい。
このように形成された基材11及び凹凸形成層12のうち凹凸形成層12が配置された側に液晶層15となる液晶材料を塗布することにより液晶層15とし、偏光解消素子10を得る。
【0055】
従来における偏光解消素子である特許文献1に記載のような高い位相差を有するフィルムを用いる技術では、光軸を調整するためにフィルムを斜め方向に延伸する必要があり、光軸にばらつきが発生する虞があった。これに対して偏光解消素子10及び上記の製造方法によれば、配向膜を用いない場合には凹凸の方向が光軸の方向となり、凹凸の方向を容易に精度よく制御できる。従って光軸を制御することが必要な偏光解消素子を提供することが課題となっている際に、上記のようにすることにより、量産性が高く精度よい光軸制御が可能な偏光解消素子及びその製造方法を提供することができる。
また、後述する形態のように、配向膜を用いる場合にはその偏光露光で決めた任意の方向を光軸とすることができ、この場合にも光軸制御を精度よく容易に行うことができる。
そのため、偏光解消素子10の液晶層15における厚さが異なる各領域で光軸が揃っていることが好ましい。具体的には各領域間で遅相軸の向きが±1°の範囲で揃っていることが好ましい。
【0056】
図4は偏光解消素子10を変形した例の第二の形態である偏光解消素子20を説明するための図で、
図2に相当する。上記説明した偏光解消素子10では、液晶層15が2種類の厚さ(d1、d2)を有するように形成したが、偏光解消素子20では、液晶層25に3種類の厚さd21、d22、d23ができるように構成されている。
すなわち、凹凸形成層22が、第一凸部22a、第一凸部22aとは高さ(厚さ)が異なる第二凸部22b、及び凹部22cを備えている。従って、第一凸部22aと第二凸部22bとの間に凹部22cが形成されている。そして、これに対応して、液晶層25が凸部25a、第一凹部25b、第二凹部25cを備えるものである。基本的な構成は偏光解消素子10と同様である。
これによれば、
図4にも表したように、液晶層25において、凸部25aの領域で最も厚くなり(厚さd21)、次に第一凹部25bの領域が厚く(厚さd22)、及び第二凹部25cの領域で最も薄く(厚さd23)なる。
【0057】
このような偏光解消素子10によれば、透過光が3種類の異なる位相差(非偏光状態)を有するので、さらに偏光解消が確実に行われる。また、
図3に相当する
図5に示したように、偏光解消素子20全体としてみたときに、可視光全ての波長において概ね同じ透過率(0.5)を得ることができ、透過による色の変化を大幅に抑制することが可能である。
【0058】
この変形例では、液晶層25において3種類の厚さを得られるように構成したが、さらに多くの種類の厚さを得られるように液晶層の凸部、及び凹部を形成してもよい。その際、凹凸の配列が規則性を有するように形成してもよいし、不規則であってもよい。ここで不規則とは、10個の凸部を1つの単位としたときに、ある1つの単位の凸部の形状と、これに隣り合う他の単位の凸部の形状と、に規則性がないことをいう。
【0059】
すなわち、波長が可視光領域である波長380nm以上780nm以下の範囲において、いずれの波長でも透過率が0.2以上0.8以下であることが好ましい。より好ましくはいずれの波長でも透過率が0.3以上0.7以下、最も好ましくは0.4以上0.6以下である。この透過率は、2枚の偏光板(透過軸(又は吸収軸)が平行又は直交する状態)の間に偏光解消素子をその光軸(配向膜を配置しない場合には凹凸が延びる方向)が偏光板の吸収軸に対して45度傾いた姿勢で挿入したときの透過率により定義できる。
【0060】
図6は第三の形態の偏光解消素子30を説明するための図であり、
図2に相当する図である。本形態では偏光解消素子10に対して基材11が無い点で異なる。他の部位については偏光解消素子10と同様である。
このような偏光解消素子30によれば、さらに素子を薄くすることができる。
偏光解消素子30は、基材11のうち凹凸形成層12、及び液晶層15が積層される側の面に剥離をしやすくする処理(例えば離型剤の塗布)を施しておき、基材11に凹凸形成層12を賦形し、液晶層15を塗布して形成した後に、基材11を剥離することにより作製することができる。
【0061】
図7は第四の形態の偏光解消素子40を説明するための図であり、
図2に相当する図である。本形態では偏光解消素子10に対して基材11、及び凹凸形成層12が無い点で異なる。
このような偏光解消素子30によれば、偏光解消素子10に比べて素子を薄くすることができる。
【0062】
偏光解消素子40は、基材11及び凹凸形成層12の液晶層15が積層される側の面に剥離をしやすくする処理(例えば離型剤の塗布)を施しておき、基材11に凹凸形成層12を賦形し、液晶層15を塗布して形成した後に、基材11及び凹凸形成層12を剥離することにより作製することができる。
または、液晶層15に用いる液晶材料を、基材層11及び凹凸形成層12から剥離しやすい材料とすることにより、基材11及び凹凸形成層12を液晶層15から剥離して偏光解消素子40を作製することもできる。
このような製造方法によれば、厚さの異なる部位である凸部15aと凹部15bがあっても、円滑に液晶層15を剥離することが可能となり、途中で切れたり、しわが発生したりすることを防止し、いわゆる不良品を減らし、製造における歩留まり向上及び生産性の向上が図られる。従って、偏光解消素子40のような形態を歩留まりよく高い生産性で作製する課題に対してはこのような手段により解決することができる。
【0063】
図8(a)は第五の形態の偏光解消素子50を説明するための図であり、
図8(b)は第六の形態の偏光解消素子60を説明するための図である。これら偏光解消素子50、偏光解消素子60は、液晶層15の凹凸が形成された面に配向膜51を設けた例である。すなわち、
図8(a)に示した偏光解消素子50は上記偏光解消素子10の液晶層15の凹凸が形成された面に配向膜51を設けた例、
図8(b)に示した偏光解消素子60は上記偏光解消素子40の液晶層15の凹凸が形成された面に配向膜51を設けた例である。
これにより液晶層15内の液晶分子の配向状態を所望の姿勢にすることができる。そして、この配向膜により任意の方向に光軸を設定することが可能であるため、光軸制御を精度よく容易に行うことができる。例えば、液晶層として重合性棒状液晶を用いた場合において、配向膜を用いて該重合性棒状液晶の遅相軸の方向が、液晶層の凸部が延びる方向と異なるように設定することもできる。
配向膜51の具体的態様は必要に応じて公知の形態のものを適用することができる。また、配向膜はその種類によって必ずしも液晶層に積層した形で残っている必要はなく、製造段階において配向膜を使用した場合であっても、最終的に配向膜を残さないようにすることもできる。
【0064】
ここで、偏光解消素子60は、基材11及び凹凸形成層12の配向膜51が積層される側の面に剥離をしやすくする処理(例えば離型剤の塗布)を施しておき、基材11に凹凸形成層12を賦形し、配向膜51、液晶層15を形成した後に、基材11及び凹凸形成層12を剥離することにより作製することができる。
また、配向膜51を用いることにより剥離性を高めることができるので特に追加の処理を必要とすることなく剥離を円滑におこなうことができる。さらには、配向膜51に用いる材料に架橋剤や密着助剤などの添加剤を用いてさらに剥離させやすくすることも可能である。
【0065】
図9は第七の形態の偏光解消素子70を説明する図である。偏光解消素子70では、
図9にpで示す1単位の凹凸の中に、階段状に複数の高さ(厚さ)の異なる凸部15a(又は階段状に深さの異なる複数の凹部)が具備されている例である。このような形態でも本発明の偏光解消素子とすることができる。
【0066】
上記した偏光解消素子10(他の形態の偏光解消素子も同様)は、例えば、液晶表示装置などの表示装置に配置されることにより、偏光状態にある光に起因して生じる不具合を解消することができる。1つの形態として表示装置1は、
図10に示したように、画像を出射する表示ユニット2、及び表示ユニット2の画像出射側に配置される偏光解消素子10を備えている。そしてこれらが他の必要な機器と組み合わされて不図示の筐体に収められることにより表示装置1とされている。
【0067】
表示装置1の具体的な態様例として液晶表示装置1が挙げられ、その際には表示ユニット2は液晶表示ユニット2であり、ここには画像源となる液晶からなる層とその表裏に配置された偏光板を具備する液晶パネルが含まれている。液晶表示ユニット2は公知のものでよく、既存の形態を用いることができる。
通常の液晶表示装置では、該液晶表示装置から出射される光は液晶パネルの性質上、所定の偏光状態となっているので、偏光サングラスをかけて通常の液晶表示装置による画面を見た場合、画像がほとんど見えないことがある。これに対して液晶表示ユニット2の出射側に偏光解消素子10を配置して液晶表示装置1を形成すれば、観察者は偏光状態が解消された映像光を見ることができるので、例えば偏光サングラスをかけた状態でも映像を見ることができる。
【0068】
表示装置が液晶表示装置である場合には、ここに具備される偏光解消素子は次のような構成を有していることが好ましい。
液晶表示ユニット2には、公知の通り、液晶からなる層と、該液晶からなる層の表裏(光源側と観察者側)のそれぞれに偏光板と、が配置されている。これら偏光板のうち観察者側に配置されている偏光板を準備し(偏光板a)、さらにこの偏光板aの透過軸に直交する透過軸を有する他の偏光板を準備し(偏光板b)、偏光板aと偏光板bとの間に偏光解消素子10を配置する。このとき、偏光解消素子10の光軸が偏光板aの吸収軸に対して正面からみて45度となるように設置する。
このような偏光板a、偏光解消素子10、及び偏光板bの積層体に対して偏光板a側から光を照射し、出光側にて分光光度計で測定したとき、可視光領域である波長380nm以上780nm以下の範囲において、いずれの波長でも透過率が0.2以上0.8以下であることが好ましい。より好ましくはいずれの波長でも透過率が0.3以上0.7以下、最も好ましくは0.4以上0.6以下である。
【0069】
なお、ここでは液晶表示ユニットの場合を説明したが、偏光板を備える他の種類の表示ユニットでも同様に構成することができる。これには例えば有機EL表示ユニットが挙げられる。すなわち、有機EL表示ユニットに備えられる偏光板を準備し(偏光板a)、さらにこの偏光板aの透過軸に直交する透過軸を有する他の偏光板を準備し(偏光板b)、偏光板aと偏光板bとの間に偏光解消素子10を配置する。このとき、偏光解消素子10の光軸が偏光板aの吸収軸に対して正面からみて45度となるように設置する。
このような偏光板a、偏光解消素子10、及び偏光板bの積層体に対して偏光板a側から光を照射し、出光側にて分光光度計で測定したとき、可視光領域である波長380nm以上780nm以下の範囲において、いずれの波長でも透過率が0.2以上0.8以下であることが好ましい。より好ましくはいずれの波長でも透過率が0.3以上0.7以下、最も好ましくは0.4以上0.6以下である。
【0070】
さらに、このような表示ユニットには画素が存在し、画素は規則的な格子模様を形成している。これに対して偏光解消素子を用いると、画素による規則模様と、偏光解消素子が有する規則性を有する構成とに起因して干渉縞(モアレ)が発生することがあった。そして従来の偏光解消素子では、これに対応して偏光解消素子としての基本性能を維持しつつモアレが発生しないように構造を変更することが難しいことが多い。
これに対して本形態の偏光解消素子によれば、凹凸のピッチ、凹凸が延びる方向、延びる方向における形状(直線状、波型等)、凹凸の大きさ等、変更することができる要素が多いため、上記した効果を有しつつ、モアレが発生しない形態とすることが可能となる。例えば、外形(縁の形状)が四角形である偏光解消素子において、凹凸が伸びる方向を当該縁の辺に対して平行となる及び直交する角度以外の角度(0度より大きく90度より小さい角度)を有して形成しておけば、画素の規則的な配列方向に対して0度より大きく90度より小さい角度で傾けることができ、モアレの発生を抑制できるとともに、製造時において偏光解消素子を貼り付ける際にも効率よく行うことができる。
【0071】
なお、以上説明した各形態の偏光解消素子では、凹凸形成層における凸部及び凹部が所定の断面を有して一方向に延び、他の方向に凹凸が繰り返されるという形態であった。ただし、凹凸形成層はこれに限定されることなく、厚さが異なる複数の領域が配列された液晶からなる液晶層が形成されていれば良い。従って、凸部が平面内に規則的、不規則的を問わず複数点在し、その間が凹部となる形態であってもよい。それには例えばいわゆるドット形状、アイランド形状、千鳥配列形状などを挙げることができる。これによりモアレ発生を抑制することもできる。
【0072】
モアレの発生を抑制することについては、偏光解消素子を適用する表示ユニットの画素配列や画素形状との組み合わせを考慮して適宜決めることが可能である。
【0073】
また、上記説明した液晶層の凸部及び凹部はその断面形状が四角形である例を説明した。ただしこれに限定されることはなく、例えば三角形、台形、又は半円形、半楕円形等であってもよい。
【0074】
また、液晶層の凸部及び凹部の断面が三角形や四角形の場合において、その頂点(稜線)となる部位に対して丸みをつける(丸み面取り形状)ように構成してもよい。これによればエッジ起因のモアレ発生を抑制することができる。
【実施例】
【0075】
(実施例1、比較例1)
ここでは、実施例1として偏光解消素子を作製し、比較例1として凹凸を具備しない液晶層による積層体を作製して、両者を対比した。
【0076】
実施例1の偏光解消素子は、偏光解消素子50(
図8(a))の例に倣い、基材11をガラスとし、凹凸形成層12をフォトリソグラフィーにより形成した。凹凸形成層12及び基材11上に配向膜51を介して液晶層15を形成した。
凹凸形成層12の凹凸のピッチ(
図2のp参照)は40μmとし、厚さは、配向膜も含めて、
図2のd1に相当する厚さが2μm程度、d2に相当する厚さが1μm程度となるように形成した。具体的には次のように作製した。
【0077】
凹凸形成層は硬化性樹脂組成物を用い、そのために初めに共重合樹脂溶液の調製を行った。すなわち、重合槽中にメタクリル酸メチル(MMA)を63質量部、アクリル酸(AA)を12質量部、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル(HEMA)を6質量部、ジエチレングリコールジメチルエーテル(DMDG)を88質量部混ぜ、攪拌し溶解させた。その後、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)を7質量部添加し、均一に溶解させた。その後、窒素気流下、85℃で2時間攪拌し、更に100℃で1時間反応させた。得られた溶液に、更にメタクリル酸グリシジル(GMA)を7質量部、トリエチルアミンを0.4質量部、及びハイドロキノンを0.2質量部添加し、100℃で5時間攪拌し、共重合樹脂溶液(固形分50%)を得た。
【0078】
次に上記のようにして得られた共重合樹脂溶液を含む下記材料を室温で攪拌、混合して硬化性樹脂組成物を調製した。
・共重合樹脂溶液(固形分50%)を16質量部
・ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(サートマー・ジャパン株式会社SR399)を24質量部
・オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社エピコート180S70)を4質量部
・2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オンを4質量部
・ジエチレングリコールジメチルエーテルを52質量部
【0079】
そして、得られた硬化性樹脂組成物をスピンコーターで基材上に塗工し、100℃で3分間乾燥させ、膜厚約1μmの塗膜を得た。塗膜から100μmの距離にフォトマスクを配置し、露光装置にて100mJ/cm
2の紫外線を照射した。次いで0.05質量%の水酸化カリウム水溶液中に1分間浸漬してアルカリ現像し、未硬化部分のみ除去し、その後、200℃の雰囲気下に30分放置することによる加熱処理を行い、所望の凹凸層を形成した。
【0080】
液晶層には、重合性棒状液晶材料を適用し、上述の化学式(11)及び化学式(17)の棒状化合物を混合比1:1で混合した化合物と、開始剤であるBASFジャパン株式会社イルガキュア907と、DIC株式会社製メガファック(F477)とを、メチルエチルケトンとメチルイソブチルケトンの1:1の混合溶剤に溶解して25質量%の溶液を作製して適用した。
【0081】
配向膜は、JSR株式会社製の光配向膜(固形分4.5%)を、膜厚0.2μmになるように塗工し、120℃で1分乾燥後、偏光露光装置にて所望の角度でサンプルを設置して30mJ/cm
2の偏光紫外線を照射して作製した。
【0082】
一方、比較例1の積層体は実施例1と同じ材質の基材、配向膜、液晶を用い、基材上に配向膜を介して凹凸のない1μm厚さの液晶層を形成した。
【0083】
実施例1にかかる偏光解消素子では、上記説明したように入射した光に対して複数の位相差を与えて出射することが可能である。これに対して、比較例1の積層体では液晶層の厚さが一定であるため、複数の位相差を与えて出射することはできず、偏光解消素子としての機能を有していない。
【0084】
そして、実施例1の偏光解消素子によれば、液晶層が凹凸形状を具備することにより、比較例1の凹凸形状を有しない液晶層に対して全体として全く異なる位相差特性を付与することが可能となる。具体的には次の通りである。
【0085】
図11には波長ごとの正面位相差Re(nm)をグラフに表した。正面位相差は、王子計測機器社製KOBRA−WRを用いて測定した。
【0086】
さらに同様に厚み位相差Rth(nm)を測定し、
Nz=(Rth/Re)+0.5
を算出した結果を
図12に表した。
図12では横軸に波長(nm)、縦軸にNz係数を表している。
図12からわかるように、波長450nmのときのNz係数であるN
450と、波長550nmのときのNz係数であるN
550との差を見ると、比較例1ではその差が0.05であるのに対して、実施例では、0.33である。従って、実施例1にかかる偏光解消素子では、波長450nmのときのNz係数であるN
450と、波長550nmのときのNz係数であるN
550との間で、
N
450<N
550−0.1
を満たす。
【0087】
以上のように、この例の偏光解消素子では、凹凸とこの凹凸を形成する液晶材料との組み合わせにより、材料特性の範囲を超えて位相差を制御することも可能であり、設計自由度の高い偏光解消素子となる。
【0088】
(実施例2〜実施例8、比較例2)
実施例2〜実施例8では凹凸の厚さ、凸部と凹部との割合、断面形状を変化させてその性能を確認した。また、比較例2として比較例1と同様に凹凸のない例で対比をおこなった。各例に用いた材料は実施例1の通りである。各例における液晶層の形態を
図13〜
図16、及び表1に示した。
【0089】
実施例2〜実施例4は、高さ(厚さ)が同じである1種類の凸部と、深さが同じである1種類の凹部と、を有する液晶層の例である。
図13に示した凹凸形成層の寸法を変えて3つの例にかかる偏光解消素子とした。
【0090】
実施例5は、高さ(厚さ)が異なる2種類の凸部と、深さが同じである1種類の凹部と、を有する液晶層の例である。
図14に示した凹凸形成層の寸法とした。
【0091】
実施例6は、実施例5と同様に高さ(厚さ)が異なる2種類の凸部と、深さが同じである1種類の凹部と、を有する液晶層の例である。ただしこの例では凸部の出隅部や凹部の入隅部に丸み(丸み面取り形状)を形成し、凸部を形成する厚さ方向に延びる面(
図15の符号A)に傾斜(テーパ)を設けた。
図15に形状を表した。この例によれば、液晶層の凸部及び凹部の断面が台形であるとともに、その角部において丸み面取り形状とされている。
【0092】
実施例7は、高さ(厚さ)が1.93μmから0.43μmまで0.15μmずつ低くなるように異なる厚さの領域を有する液晶層の例である。領域の配列方向における寸法は
図16に示した通りである。
図16からわかるように、本例では液晶層は階段状となっている。
【0093】
実施例8は、高さ(厚さ)が同じである1種類の凸部と、深さが同じである1種類の凹部と、を有する液晶層の例である。本例では凸部及び凹部の断面形状が三角形である。
図17に形状を示した。
【0094】
比較例2の積層体は配向膜及び配向膜に備えられた一定厚さ2μmの液晶層を備えている。
【0095】
以上のような実施例2〜実施例8、及び比較例2における素子、積層体に対して、「色味再現性試験」、及び波長ごとの透過率測定をおこなった。詳しくは次の通りである。
【0096】
色味再現性試験は、各例に係る素子を液晶表示装置に取り付け、この液晶表示装置の画面をカラー表示とし、偏光サングラスをかけた状態(状態1)、および偏光サングラスをはずした状態(状態2)で、それぞれ正面から画面を観察し、状態1における色の再現性を目視で評価した。なお、各例にかかる素子は液晶表示装置の観察者側の偏光板の吸収軸に対し、正面からみて光軸が45°となるように最表面に設置した。
【0097】
状態1と状態2との色の差を、下記判定に基づき点数化し、20人が評価を行い、平均点を算出した。
3点:色の差が気にならない。
2点:色の差が若干あるが問題ない。
1点:色の差があるが、実使用上問題ない。
0点:色の差がひどく気になり、問題あり。
そして、平均点が2.5点以上を「特に良好」、平均点が1.7点以上2.5点未満を「良好」、平均点が1.0点以上1.7点未満を「可」、及び1.0未満を「不可」とした。
【0098】
波長ごとの透過率測定は、液晶表示装置に用いられる偏光板を準備し、この偏光板と吸収軸が直交する(いわゆる直交ニコル)ように配置した他の偏光板をさらに準備して、この2つの偏光板の間に各例の素子を配置した。このとき、偏光板の吸収軸に対して平面視で45°で光軸が傾くように素子を配置した。そしてこの積層体に対して、偏光板側からバックライトで照明し、他の偏光板側から分光放射計で測定した。詳しくは、分光放射計(株式会社トプコン、SR−2)で測定角2°、素子からの距離50cmにて、波長380nm以上780nm以下の波長範囲において、波長ごと(1nmごと)に透過率を測定して、その最大値と最小値を得た。
なお、本例ではより効果がわかり易い直交ニコルによる測定を行ったが、平行ニコルによる測定でも同様の効果を奏するものとなる。
【0099】
上記の評価結果も表1に表す。
【0100】
【表1】
【0101】
以上からわかるように、液晶層に凹凸を設けることにより色味再現性に問題が無くなることがわかる。そして透過率が0.3以上0.7以下、最も好ましくは0.4以上0.6以下とすることで色味再現性がさらに良好となる。
【0102】
なお、実施例6では凸部及び凹部の各隅部に丸みを持たせたので、エッジに起因するモアレの発生をさらに小さく抑えることができた。
図15にAで示したようにテーパを形成したことにより、この部位における急激な透過率変化が緩和され、波長ごとによる透過率の変動を小さくすることができた。
また、実施例6、及び実施例8のように、液晶層の凸部及び凹部が正方形又は長方形断面でなくても効果を奏するものとなる。
【0103】
実施例9〜実施例19では、実施例5の液晶層厚さを基本に凹凸の幅の比率を変更した例について性能を調べた。
図18に説明のための図を表した。実施例9〜実施例19では、液晶層において最も薄い領域の幅をC、中間的な厚さを有する領域の幅をB、最も厚い領域の幅をAとした。そして、Cを比率1.00としたときのA、Bのそれぞれを比率で表してその性能を調べた。
評価項目及び評価方法は上記実施例2〜実施例8と同じである。表2に形状及び評価結果を示す。
【0104】
【表2】
【0105】
表2からわかるように、凹凸の幅の比率を調整することにより性能の調整をすることができる。これを考慮すると、A≦B<Cとしつつ、
C−0.4<A+B<C+0.4
であることが色味再現性及び透過率特性の観点から好ましく、より好ましくは、
C−0.25<A+B<C+0.25
である。