(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記主面に対して垂直な方向から見て、[−1100]方向と平行な方向に前記検出器を配置し、[1−100]方向に対して±6°以内の方向から、前記第1測定領域にX線を照射して、前記第1測定領域からの回折X線を前記検出器により測定した場合、バックグラウンド強度に対する、8.0keVから9.5keVまでの範囲における回折X線の第2強度プロファイルの最大強度の比率が、1500以上であり、かつ、
前記主面に対して垂直な方向から見て、前記検出器を[−1100]方向と平行な方向に配置し、前記X線の照射位置を[1−100]方向に対して±6°以内の範囲で変化させた場合、8.0keVから9.5keVまでの範囲における前記第2強度プロファイルが最大値を示すエネルギーの最大値と最小値との差の絶対値は、0.08keV以下である、請求項1に記載の炭化珪素単結晶基板。
前記主面に対して垂直な方向から見て、[−1100]方向と平行な方向に前記検出器を配置し、[1−100]方向に対して±6°以内の方向から、前記第1測定領域にX線を照射して、前記第1測定領域からの回折X線を前記検出器により測定した場合、バックグラウンド強度に対する、8.0keVから9.5keVまでの範囲における回折X線の第2強度プロファイルの最大強度の比率が、1500以上であり、かつ、
前記主面に対して垂直な方向から見て、前記検出器を[−1100]方向と平行な方向に配置し、前記X線の照射位置を[1−100]方向に対して±6°以内の範囲で変化させた場合、8.0keVから9.5keVまでの範囲における前記第2強度プロファイルが最大値を示すエネルギーの最大値と最小値との差の絶対値は、0.08keV以下である、請求項3に記載の炭化珪素単結晶基板。
前記主面に対して垂直な方向から見て、前記検出器を[−1100]方向と平行な方向に配置し、前記X線の照射位置を[1−100]方向に対して±6°以内の範囲で変化させた場合、8.0keVから9.5keVまでの範囲における前記第2強度プロファイルが最大値を示すエネルギーの最大値と最小値との差の絶対値は、0.08keV以下である、請求項5に記載の炭化珪素単結晶基板。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
本開示の目的は、歪みが低減された炭化珪素単結晶基板を提供することである。
【0007】
[本開示の効果]
本開示によれば、歪みが低減された炭化珪素単結晶基板を提供することができる。
【0008】
[本開示の実施形態の概要]
まず、本開示の実施形態の概要について説明する。本明細書中の結晶学的記載においては、個別方位を[]、集合方位を<>、個別面を()、集合面を{}でそれぞれ示している。負の指数については、結晶学上、”−”(バー)を数字の上に付けることになっているが、本明細書中では、数字の前に負の符号を付けている。
【0009】
(1)本開示に係る炭化珪素単結晶基板は、(0001)面が<11−20>方向に傾斜した主面11を備えている。主面11に対して垂直な方向から見て、[11−20]方向に検出器6を配置し、[−1−120]方向に対して±15°以内の方向から、主面11の中心を含む第1測定領域31に対してX線を照射して、第1測定領域31からの回折X線を検出器6により測定した場合、バックグラウンド強度に対する、6.9keVから11.7keVまでの範囲における回折X線の第1強度プロファイル1の最大強度の比率が、1500以上である。主面11に対して垂直な方向から見て、[−1100]方向と平行な方向に検出器6を配置し、[1−100]方向に対して±6°以内の方向から、第1測定領域31にX線を照射して、第1測定領域31からの回折X線を検出器6により測定した場合、バックグラウンド強度に対する、8.0keVから9.5keVまでの範囲における回折X線の第2強度プロファイル2の最大強度の比率が、1500以上である。主面11に対して垂直な方向から見て、[11−20]方向に検出器6を配置し、X線の照射位置を[−1−120]方向に対して±15°以内の範囲で変化させた場合、6.9keVから11.7keVまでの範囲における第1強度プロファイル1が最大値を示すエネルギーの最大値EH1と最小値EL1との差の絶対値は、0.06keV以下である。
【0010】
通常、炭化珪素単結晶基板は、主面が所望の面(たとえば(0001)面が4°傾斜した面)となるように、炭化珪素単結晶インゴットをスライスすることにより得られる。実際の炭化珪素単結晶基板の結晶格子配列を詳細に調査すると、炭化珪素単結晶基板の主面においては、所望の面を構成するように結晶格子が整列しているが、高次オフ結晶面においては、理論的な六方晶炭化珪素の格子面を構成するように結晶格子が整列していない場合がある。具体的には、理想的な六方晶炭化珪素の場合、たとえば以下の結晶面(1)によって示される特定の高次オフ結晶面において珪素原子または炭素原子が配列している。しかしながら、実際の六方晶炭化珪素の場合、上記特定の高次オフ結晶面において、珪素原子または炭素原子が配列しているのではなく、上記特定の高次オフ結晶面に対して傾斜した平面において、珪素原子または炭素原子が配列していることがある。この原因は、炭化珪素単結晶基板の内部の結晶格子配列が、3次元的に歪んでおり、理論的な六方晶炭化珪素の結晶格子配列からずれているためであると考えられる。なお高次オフ結晶面とは、たとえば(1−10X)面(ここで、X=3、5、7、10など)である。
【0012】
3次元的な歪みが少なく、高品質な炭化珪素単結晶基板を得るためには、炭化珪素単結晶インゴットの成長過程において、結晶表面の熱環境の変化が少なくかつ成長面がなるべく平坦な形状を維持しながら炭化珪素単結晶インゴットの成長が進むことが望ましい。このような結晶成長環境を実現するためには、たとえば5ゾーン構造の加熱部を有する炭化珪素単結晶の製造装置を用い、各加熱部のヒータパワーを個別に制御することで、炭化珪素単結晶インゴットの成長面の温度分布を低減し、かつ成長面の温度変化を低減することが考えられる。具体的には、たとえば炭化珪素単結晶インゴットの長さが0〜25mmの範囲において、1mm毎に熱流体シミュレーションを行い、インゴットの成長面および原料内の温度分布と、坩堝廻りの温度分布とを計算により求め、炭化珪素単結晶インゴットの成長面および原料内の温度分布を低減し、かつ成長面および原料表面の温度変化を低減するように、各加熱部に印加するヒータパワーが決定される。熱流体シミュレーションは、たとえば坩堝および断熱材などの部材と種結晶と炭化珪素原料との熱伝導率および輻射率を用いて、炉内の温度分布を計算するものである。熱流体シミュレーションの結果に基づき、各加熱部のヒータパワーを後述のように制御することにより、歪みの少ない炭化珪素単結晶インゴットを得ることができる。結果として、歪みが低減された炭化珪素単結晶基板を得ることができる。
【0013】
(2)上記(1)に係る炭化珪素単結晶基板10において、主面11に対して垂直な方向から見て、検出器6を[−1100]方向と平行な方向に配置し、X線の照射位置を[1−100]方向に対して±6°以内の範囲で変化させた場合、8.0keVから9.5keVまでの範囲における第2強度プロファイル2が最大値を示すエネルギーの最大値EH2と最小値EL2との差の絶対値は、0.08keV以下であってもよい。
【0014】
(3)上記(1)または(2)に係る炭化珪素単結晶基板10において、主面11の最大径は、100mm以上であってもよい。主面11に対して垂直な方向から見て、[11−20]方向に検出器6を配置し、[−1−120]方向に対して±15°以内の方向から、主面11の外縁から10mmの位置を含む第2測定領域32にX線を照射して、第2測定領域32からの回折X線を検出器6により測定した場合、バックグラウンド強度に対する、6.9keVから11.7keVまでの範囲における回折X線の第3強度プロファイル3の最大強度の比率が、1500以上であってもよい。主面11に対して垂直な方向から見て、[−1100]方向に検出器6を配置し、[1−100]方向に対して±6°以内の方向から、第2測定領域32にX線を照射して、第2測定領域32からの回折X線を検出器6により測定した場合、バックグラウンド強度に対する、8.0keVから9.5keVまでの範囲における回折X線の第4強度プロファイル4の最大強度の比率が、1500以上であってもよい。主面11に対して垂直な方向から見て、検出器6を[11−20]方向に配置し、X線の照射位置を[−1−120]方向に対して±15°以内の範囲に変化させた場合、6.9keVから11.7keVまでの範囲における第3強度プロファイル3が最大値を示すエネルギーの最大値と最小値との差の絶対値は、0.06keV以下であってもよい。
【0015】
主面11の最大径が100mm未満の場合と比較すると、主面11の最大径が100mm以上である炭化珪素単結晶基板10を製造する場合において、炭化珪素単結晶インゴットの成長面の温度分布を低減し、かつ成長面の温度変化を低減することはより困難を伴う。後述の方法によれば、主面11の最大径が100mm以上の炭化珪素単結晶基板においても、歪みを低減することができる。
【0016】
(4)上記(3)に係る炭化珪素単結晶基板10において、主面11に対して垂直な方向から見て、検出器6を[−1100]方向と平行な方向に配置し、X線の照射位置を[1−100]方向に対して±6°以内の範囲で変化させた場合、8.0keVから9.5keVまでの範囲における第4強度プロファイル4が最大値を示すエネルギーの最大値と最小値との差の絶対値は、0.08keV以下であってもよい。
【0017】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、図面に基づいて本開示の実施形態の詳細について説明する。まず、実施形態に係る炭化珪素単結晶基板10の構成について説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0018】
図1および
図2に示されるように、本実施形態に係る炭化珪素単結晶基板10は、第1主面11と、第1主面11と反対側の第2主面12と、外縁15とを主に有している。炭化珪素単結晶基板10の外縁15は、たとえば第1フラット13と、曲率部14とを有している。第1フラット13は、たとえば第1方向101に沿って延在する。外縁15は、第2フラット(図示せず)を有していてもよい。第2フラットは、たとえば第1方向101に対して垂直な第2方向102に沿って延在する。第1方向101は、たとえば<11−20>方向である。第2方向102は、たとえば<1−100>方向である。
【0019】
第1主面11は、(0001)面がオフ方向に傾斜した面である。第1主面11は、たとえば(0001)面が0.5°以上8°以下傾斜した面である。オフ方向は、たとえば<11−20>方向である。オフ方向は、たとえば<11−20>方向が(0001)面内において±5°以内の角度だけ傾斜した方向であってもよい。オフ角φ1(
図2参照)は、1°以上であってもよいし、2°以上であってもよい。オフ角φ1は、7°以下であってもよいし、6°以下であってもよい。
【0020】
炭化珪素単結晶基板10は、炭化珪素単結晶から構成される。炭化珪素単結晶のポリタイプは、たとえば4H−SiCである。4H−SiCは、電子移動度、絶縁破壊電界強度等において他のポリタイプより優れている。炭化珪素単結晶基板10は、たとえば窒素などのn型不純物を含んでいる。炭化珪素単結晶基板10の導電型は、たとえばn型である。
【0021】
図1に示されるように、第1主面11の最大径16(直径)は、100mm以上である。最大径16は150mm以上でもよいし、200mm以上でもよいし、250mm以上でもよい。最大径16の上限は特に限定されない。最大径16の上限は、たとえば300mmであってもよい。
【0022】
次に、炭化珪素単結晶基板10の3次元的な歪みの評価方法について説明する。
炭化珪素単結晶基板10の3次元的な歪みは、たとえばBruker社製のエネルギー分散型X線回折装置(型番:D2 CRYSO)を用いることにより定量的に評価することができる。
図3に示されるように、X線照射部5および検出器6が第1主面11に対面するように配置される。X線照射部5は、第1主面11に対してX線を照射可能に構成されている。X線照射部5は、たとえばX線管球(ロジウム)を含む。X線照射部5は、たとえば白色X線を照射可能に構成されている。検出器6は、第1主面11からの回折X線を検出可能に構成されている。検出器6は、たとえばエネルギー分散型検出器である。
【0023】
まず、(0001)面と平行な(0008)面を測定する方法について説明する。
図4に示されるように、第1主面11の中心Oを含む第1測定領域31から見て、[−1−120]方向にX線照射部5が配置される。第1主面11に対して垂直な方向から見て、[11−20]方向、[−1100]方向、[−1−120]方向および[1−100]方向を、それぞれ0°、90°、180°および270°と仮定する。X線照射部5は、第1主面11に対して垂直な方向から見て、180°の位置に配置される。X線照射部5から、入射X線7が第1測定領域31に対して照射される。第1主面11の中心Oを含む第1測定領域31から見て、[11−20]方向に検出器6が配置される。言い換えれば、第1主面11に対して垂直な方向から見て、0°の位置に検出器6が配置される。第1測定領域31において回折された回折X線8が、検出器6により測定される。
【0024】
第1主面11が(0001)面が<11−20>方向に4°オフした面である場合において、第1主面11に対するX線照射部5の仰角φ3(言い換えれば、入射X線7と第1主面11との角度φ3:
図3参照)は、たとえば29.889°である。第1主面11に対する検出器6の仰角φ2(言い換えれば、回折X線8と第1主面11との角度φ2:
図3参照)は、たとえば67.765°である。
【0025】
第1主面11が(0001)面が<11−20>方向に8°オフした面である場合において、第1主面11に対するX線照射部5の仰角φ3(言い換えれば、入射X線7と第1主面11との角度φ3:
図3参照)は、たとえば29.91°である。第1主面11に対する検出器6の仰角φ2(言い換えれば、回折X線8と第1主面11との角度φ2:
図3参照)は、たとえば75.756°である。
【0026】
図5は、
図4に示すX線照射部5および検出器6の配置で測定された回折X線の強度プロファイル(第1強度プロファイル)の一例を示している。横軸は、回折X線のエネルギーを示している。縦軸は、回折X線の強度を示している。
図5に示されるように、第1エネルギーE1と第2エネルギーE2との間のエネルギーにおいて、第1強度プロファイル1は、極大値を有する。第1エネルギーE1は、たとえば6.9keVである。第2エネルギーE2は、たとえば11.7keVである。第1エネルギーE1は、7.7keVであってもよい。第2エネルギーE2は、10.4keVであってもよい。第1エネルギーE1と第2エネルギーE2との間の領域における第1強度プロファイル1の最大値は、(0008)面に起因している。第1主面11のオフ角が変化すると、強度プロファイルの最大値を示すエネルギーが変化する。たとえば、第1主面11が(0001)面が<11−20>方向に4°オフした面および8°オフした面である場合、(0008)面に対応するエネルギーは、それぞれ8.84keVおよび8.03keVである。
【0027】
第1強度プロファイル1に基づいて、第1エネルギーE1と第2エネルギーE2との間の領域における強度プロファイルの最大値の強度IP1と、バックグラウンドの強度IN1とが測定される。バックグラウンドの強度IN1は、たとえば第2エネルギーE2における強度プロファイルの強度である。同様に、第1エネルギーE1と第2エネルギーE2との間において、第1強度プロファイル1が最大値を示すエネルギーE(180°)が測定される。なお
図5に示されるように、第1エネルギーE1と第2エネルギーE2との間の領域における第1強度プロファイル1が最大値の強度(約1.6)は、全ての測定範囲における第1強度プロファイル1の最大値の強度(約2.1)とは異なっていてもよい。
【0028】
次に、第1主面11と平行な面内において、X線照射器5の位置が変えられる。
図6に示されるように、第1主面11に対して垂直な方向から見て、(180−θ1)°の位置にX線照射器5が配置される。角度θ1は、たとえば15°である。つまり、X線照射器5は、第1主面11に対して垂直な方向から見て、165°の位置に配置される。第1主面11に対するX線照射器5の仰角φ3(
図3参照)は、X線照射器5が180°の位置に配置されている場合と同じである。検出器6の配置は、X線照射器5が180°の位置に配置されている場合と同じである。上記配置において、X線照射部5から、入射X線7が第1測定領域31に対して照射され、第1測定領域31において回折された回折X線8が、検出器6により測定される。
【0029】
これにより、X線照射器5が165°の位置に配置された場合における、回折X線の第1強度プロファイルが得られる。第1強度プロファイルに基づいて、第1エネルギーE1と第2エネルギーE2との間の領域における第1強度プロファイルの最大値の強度IP1と、バックグラウンドの強度IN1とが測定される。同様に、第1強度プロファイル1が最大値を示すエネルギーE(165°)が測定される。
【0030】
次に、第1主面11と平行な面内において、X線照射器5の位置が変えられる。
図7に示されるように、第1主面11に対して垂直な方向から見て、(180+θ1)°の位置にX線照射器5が配置される。角度θ1は、たとえば15°である。つまり、X線照射器5は、第1主面11に対して垂直な方向から見て、195°の位置に配置される。第1主面11に対するX線照射器5の仰角φ3(
図3参照)は、X線照射器5が180°の位置に配置されている場合と同じである。検出器6の配置は、X線照射器5が180°の位置に配置されている場合と同じである。上記配置において、X線照射部5から、入射X線7が第1測定領域31に対して照射され、第1測定領域31において回折された回折X線8が、検出器6により測定される。
【0031】
これにより、X線照射器5が195°の位置に配置された場合における、回折X線の第1強度プロファイルが得られる。第1強度プロファイルに基づいて、第1エネルギーE1と第2エネルギーE2との間の領域における第1強度プロファイルの最大値の強度IP1と、バックグラウンドの強度IN1とが測定される。同様に、第1強度プロファイル1が最大値を示すエネルギーE(195°)が測定される。
【0032】
図8に示されるように、X線照射器5が195°の位置に配置された場合において、第1強度プロファイル1が最大値を示すエネルギーE(195°)は、X線照射器5が180°の位置に配置された場合において、第1強度プロファイル1が最大値を示すエネルギーE(180°)とは異なる場合がある。たとえば、195°の方角から見た炭化珪素の結晶格子の配列と、180°の方角から見た炭化珪素の結晶格子の配列とが異なる場合、第1強度プロファイル1が最大値を示すエネルギーE(195°)と、第1強度プロファイル1が最大値を示すエネルギーE(180°)とは異なる。つまり、炭化珪素単結晶の3次元的な歪みが少ない程、第1強度プロファイル1が最大値を示すエネルギーE(195°)と、第1強度プロファイル1が最大値を示すエネルギーE(180°)との差は小さい。
【0033】
以上のように、X線照射器5の位置を、180°±15°の範囲において、5°間隔で変化させて、7種類の第1強度プロファイルが測定される。7種類の第1強度プロファイルの各々に基づいて、第1エネルギーE1と第2エネルギーE2との間の領域における第1強度プロファイルの最大値の強度IP1と、バックグラウンドの強度IN1とが測定される。全ての第1強度プロファイルにおいて、バックグラウンド強度に対する、6.9keVから11.7keVまでの範囲における第1強度プロファイル1の最大強度の比率(すなわちIP1/IN1)は、たとえば1500以上であり、好ましくは2000以上であり、より好ましくは2500以上である。
【0034】
つまり、第1主面11に対して垂直な方向から見て、[11−20]方向に検出器6を配置し、[−1−120]方向に対して±15°以内の方向から主面11の中心Oを含む第1測定領域31に対してX線を照射して、第1測定領域31からの回折X線を検出器6により測定した場合、バックグラウンド強度に対する、6.9keVから11.7keVまでの範囲における回折X線の第1強度プロファイル1の最大強度の比率が、1500以上である。
【0035】
図9は、第1主面11内においてX線照射器5の位置を変化させた場合における第1強度プロファイルの最大値を示すエネルギーを示している。
図9の縦軸は、第1エネルギーと第2エネルギーとの間における第1強度プロファイルの最大値を示すエネルギーを示している。
図9の横軸は、X線照射器5の位置を示している。X線照射器5の位置を、180°±15°の範囲において、5°間隔で変化させて、6.9keVから11.7keVまでの範囲における回折X線の第1強度プロファイルの最大値を示すエネルギーが測定される。
【0036】
図9に示されるように、X線照射器5の位置を変化させると、最大強度を示すエネルギーが変化する。X線照射器5を、[−1−120]方向(つまり180°)から±15°の範囲において、5°間隔で変化させた場合において、第1強度プロファイルの最大値を示すエネルギーの最大値EH1および最小値EL1が決定される。X線照射器5を、[−1−120]方向から±15°以内の範囲で変化させた場合、6.9keVから11.7keVまでの範囲において第1強度プロファイル1が最大値を示すエネルギーの最大値EH1と最小値EL1との差111の絶対値は、たとえば0.06keV以下であり、好ましくは0.05keV以下であり、より好ましくは0.04keV以下である。炭化珪素単結晶の3次元的な歪みが少ない程、第1強度プロファイル1が最大値を示すエネルギーの最大値EH1と最小値EL1との差111の絶対値が小さい。
【0037】
次に、前述の結晶面(1)によって示される特定の高次オフ結晶面の測定方法について説明する。上記特定の高次オフ結晶面は、言い換えれば(1−100)面が(0001)面方向に66°傾いた面である。
【0038】
図10に示されるように、X線照射部5および検出器6が、第1主面11に対面するように配置される。
図11に示されるように、第1主面11の中心Oから見て、[1−100]方向にX線照射部5が配置される。言い換えれば、第1主面11に対して垂直な方向から見て、270°の位置にX線照射部5が配置される。X線照射部5から、入射X線7が第1測定領域31に対して照射される。第1主面11の中心Oから見て、[−1100]方向と平行な方向に検出器6が配置される。言い換えれば、第1主面11に対して垂直な方向から見て、90°または270°の位置に検出器6が配置される。第1測定領域31において回折された回折X線8が、検出器6により測定される。
【0039】
第1主面11が(0001)面が<11−20>方向に4°オフした面である場合において、第1主面11に対するX線照射部5の仰角φ3(言い換えれば、入射X線7と第1主面11との角度φ3:
図10参照)は、たとえば29.907°である。第1主面11に対する検出器6の仰角φ2(言い換えれば、回折X線8と第1主面11との角度φ2:
図10参照)は、たとえば101.810°である。仰角φ2は、[−1100]方向側から見た角度である。仰角φ2が90°を超えている場合は、検出器6は、中心Oから見て[−1100]方向とは反対側に位置する。つまり、検出器6は270°の位置にある。
【0040】
第1主面11が(0001)面が<11−20>方向に8°オフした面である場合において、第1主面11に対するX線照射部5の仰角φ3(言い換えれば、入射X線7と第1主面11との角度φ3:
図10参照)は、たとえば29.91°である。第1主面11に対する検出器6の仰角φ2(言い換えれば、回折X線8と第1主面11との角度φ2:
図10参照)は、たとえば103.939°である。仰角φ2が90°を超えているため、検出器6は270°の位置にある。
【0041】
図12は、
図11に示すX線照射器5および検出器6の配置で測定された回折X線の強度プロファイル(第2強度プロファイル)の一例を示している。横軸は、回折X線のエネルギーを示している。縦軸は、回折X線の強度を示している。
図12に示されるように、第3エネルギーE3と第4エネルギーE4との間のエネルギーにおいて、第2強度プロファイル2は、最大値を有する。第3エネルギーE3は、たとえば8.0keVである。第4エネルギーE4は、たとえば9.5keVである。第4エネルギーE4は、9.3keVであってもよい。第3エネルギーE3と第4エネルギーE4との間の領域における第2強度プロファイル2の最大値は、前述の結晶面(1)によって示される結晶面に起因している。第1主面11のオフ角が変化すると、強度プロファイルの最大値を示すエネルギーが変化する。たとえば、第1主面11が(0001)面が<11−20>方向に4°オフした面および8°オフした面である場合、前述の結晶面(1)によって示される結晶面に対応するエネルギーは、それぞれ8.48keVおよび8.36keVである。
【0042】
第2強度プロファイル2に基づいて、第3エネルギーE3と第4エネルギーE4との間の領域における強度プロファイルの最大強度IP2と、バックグラウンドの強度IN2とが測定される。バックグラウンドの強度IN2は、たとえば第4エネルギーE4における強度プロファイルの強度である。同様に、第3エネルギーE3と第4エネルギーE4との間において、第2強度プロファイル2が最大値を示すエネルギーE(270°)が測定される。
【0043】
次に、第1主面11と平行な面内において、X線照射器5の位置が変えられる。
図13に示されるように、第1主面11に対して垂直な方向から見て、(270+θ2)°の位置にX線照射器5が配置される。角度θ2は、たとえば6°である。つまり、X線照射器5は、第1主面11に対して垂直な方向から見て、276°の位置に配置される。第1主面11に対するX線照射器5の仰角φ3(
図3参照)は、X線照射器5が270°の位置に配置されている場合と同じである。検出器6の配置は、X線照射器5が270°の位置に配置されている場合と同じである。上記配置において、X線照射部5から、入射X線7が第1測定領域31に対して照射され、第1測定領域31において回折された回折X線8が、検出器6により測定される。
【0044】
これにより、X線照射器5が276°の位置に配置された場合における、回折X線の第2強度プロファイルが得られる。第2強度プロファイルに基づいて、第3エネルギーE3と第4エネルギーE4との間の領域における強度プロファイルの最大強度IP2と、バックグラウンドの強度IN2とが測定される。同様に、第2強度プロファイル2が最大値を示すエネルギーE(276°)が測定される。
【0045】
次に、第1主面11と平行な面内において、X線照射器5の位置が変えられる。
図14に示されるように、第1主面11に対して垂直な方向から見て、(270−θ2)°の位置にX線照射器5が配置される。角度θ2は、たとえば6°である。つまり、X線照射器5は、第1主面11に対して垂直な方向から見て、264°の位置に配置される。第1主面11に対するX線照射器5の仰角φ3(
図3参照)は、X線照射器5が270°の位置に配置されている場合と同じである。検出器6の配置は、X線照射器5が270°の位置に配置されている場合と同じである。上記配置において、X線照射部5から、入射X線7が第1測定領域31に対して照射され、第1測定領域31において回折された回折X線8が、検出器6により測定される。
【0046】
これにより、X線照射器5が264°の位置に配置された場合における、回折X線の第2強度プロファイルが得られる。第2強度プロファイルに基づいて、第3エネルギーE3と第4エネルギーE4との間の領域における強度プロファイルの最大強度IP2と、バックグラウンドの強度IN2とが測定される。同様に、第2強度プロファイル2が最大値を示すエネルギーE(264°)が測定される。
【0047】
図15に示されるように、X線照射器5が276°の位置に配置された場合において、第2強度プロファイル2が最大値を示すエネルギーE(276°)は、X線照射器5が270°の位置に配置された場合において、第2強度プロファイル2が最大値を示すエネルギーE(270°)とは異なる場合がある。たとえば、276°の方角から見た炭化珪素の結晶格子の配列と、270°の方角から見た炭化珪素の結晶格子の配列とが異なる場合、第2強度プロファイル2が最大値を示すエネルギーE(276°)と、第1強度プロファイル1が最大値を示すエネルギーE(270°)とは異なる。つまり、炭化珪素単結晶の3次元的な歪みが少ない程、第2強度プロファイル2が最大値を示すエネルギーE(276°)と、第2強度プロファイル2が最大値を示すエネルギーE(270°)との差は小さい。
【0048】
以上のように、X線照射器5の位置を、270°±6°の範囲において、2°間隔で変化させて、7種類の第2強度プロファイルが測定される。7種類の第2強度プロファイルの各々に基づいて、第3エネルギーE3と第4エネルギーE4との間の領域における第2強度プロファイルの最大強度IP2と、バックグラウンドの強度IN2とが測定される。全ての第2強度プロファイルにおいて、バックグラウンド強度に対する、8.0keVから9.5keVまでの範囲における第2強度プロファイル2の最大強度の比率(すなわちIP2/IN2)は、たとえば1500以上であり、好ましくは2000以上であり、より好ましくは2500以上である。
【0049】
つまり、第1主面11に対して垂直な方向から見て、[−1100]方向と平行な方向に検出器6を配置し、[1−100]方向に対して±6°以内の方向から第1測定領域31にX線を照射して、第1測定領域31からの回折X線を検出器6により測定した場合、バックグラウンド強度に対する、8.0keVから9.5keVまでの範囲における回折X線の第2強度プロファイル2の最大強度の比率が、1500以上である。
【0050】
図16は、第1主面11内においてX線照射器5の位置を変化させた場合における第2強度プロファイルの最大値を示すエネルギーを示している。
図16の縦軸は、第3エネルギーと第4エネルギーとの間における第2強度プロファイルの最大値を示すエネルギーを示している。
図16の横軸は、X線照射器5の位置を示している。X線照射器5の位置を、270°±6°の範囲において、2°間隔で変化させて、第2強度プロファイルの最大値を示すエネルギーが測定される。
【0051】
図16に示されるように、X線照射器5の位置を変化させると、最大強度を示すエネルギーが変化する。X線照射器5を、[1−100]方向(つまり270°)から±6°の範囲において、2°間隔で変化させた場合において、第2強度プロファイルの最大値を示すエネルギーの最大値EH2および最小値EL2が決定される。X線照射器5を[1−100]方向から±6°以内の範囲で変化させた場合、8.0keVから9.5keVまでの範囲において第2強度プロファイル2が最大値を示すエネルギーの最大値EH2と最小値EL2との差112の絶対値は、たとえば0.08keV以下であり、好ましくは0.07keV以下であり、より好ましくは0.06keV以下である。炭化珪素単結晶の3次元的な歪みが少ない程、第2強度プロファイル2が最大値を示すエネルギーの最大値EH2と最小値EL2との差112の絶対値は小さい。
【0052】
次に、第1主面11の外縁15から10mmの位置を含む第2測定領域32からの回折X線の強度プロファイルが測定されてもよい。第2測定領域32からの回折X線の強度プロファイルは、第1測定領域31からの回折X線の強度プロファイルと同様の方法により測定される。
【0053】
図17に示されるように、第1主面11に対して垂直な方向から見て、[11−20]方向に検出器6を配置し、[−1−120]方向に対して±15°以内の方向から、主面11の外縁15から10mmの位置を含む第2測定領域32にX線を照射して、第2測定領域32からの回折X線を検出器6により測定する。これにより、回折X線の強度プロファイル(第3強度プロファイル3)が得られる(
図18参照)。
【0054】
図18に示されるように、第3強度プロファイル3のバックグラウンド強度IN3に対する、第1エネルギーE1から第2エネルギーE2までの範囲における回折X線の第3強度プロファイル3の最大強度IP3の比率(すなわちIP3/IN3)は、たとえば1500以上であり、好ましくは2000以上であり、より好ましくは2500以上である。第1エネルギーE1は、たとえば6.9keVである。第2エネルギーE2は、たとえば11.7keVである。第1エネルギーE1は、7.7keVであってもよい。第2エネルギーE2は、10.4keVであってもよい。第1エネルギーE1と第2エネルギーE2との間の領域における第3強度プロファイル3の最大値は、(0008)面に起因している。
【0055】
図19に示されるように、第1主面11に対して垂直な方向から見て、[−1100]方向と平行な方向に検出器6を配置し、[1−100]方向に対して±6°以内の方向から、第2測定領域32にX線を照射して、第2測定領域32からの回折X線を検出器6により測定する。これにより、回折X線の強度プロファイル(第4強度プロファイル4)が得られる(
図20参照)。
【0056】
図20に示されるように、第4強度プロファイル4のバックグラウンド強度IN4に対する、第3エネルギーE3から第4エネルギーE4までの範囲における回折X線の第4強度プロファイル4の最大強度IP4の比率(すなわちIP4/IN4)が、たとえば1500以上であり、好ましくは2000以上であり、より好ましくは2500以上である。第3エネルギーE3は、たとえば8.0keVである。第4エネルギーE4は、たとえば9.5keVである。第4エネルギーE4は、9.3keVであってもよい。第3エネルギーE3と第4エネルギーE4との間の領域における第4強度プロファイル4の最大値は、前述の結晶面(1)によって示される結晶面に起因している。
【0057】
主面11に対して垂直な方向から見て、検出器6を[11−20]方向に配置し、X線の照射位置を[−1−120]方向に対して±15°以内の範囲に変化させた場合、6.9keVから11.7keVまでの範囲において第3強度プロファイル3が最大値を示すエネルギーの最大値と最小値との差111の絶対値は、たとえば0.06keV以下であり、好ましくは0.05keV以下であり、より好ましくは0.04keV以下である(
図9参照)。
【0058】
主面11に対して垂直な方向から見て、検出器6を[−1100]方向と平行な方向に配置し、X線の照射位置を[1−100]方向に対して±6°以内の範囲で変化させた場合、8.0keVから9.5keVまでの範囲において第4強度プロファイル4が最大値を示すエネルギーの最大値と最小値との差112の絶対値は、たとえば0.08keV以下であり、好ましくは0.07keV以下であり、より好ましくは0.06keV以下である(
図16参照)。
【0059】
次に、炭化珪素単結晶インゴットの製造装置の構成について説明する。
図21に示されるように、炭化珪素単結晶インゴットの製造装置100は、坩堝74と、断熱材60と、炉体76と、第1加熱部41と、第2加熱部42と、第3加熱部43と、第4加熱部44と、第5加熱部45と、第1放射温度計51と、第2放射温度計52と、第3放射温度計53と、第4放射温度計54と、第5放射温度計55とを主に有している。坩堝74は、種結晶保持部70と、原料収容部71とを有している。第1加熱部41と、第2加熱部42と、第3加熱部43と、第4加熱部44と、第5加熱部45とは、断熱材60の内部に配置されている。断熱材60は、炉体76の内部に配置されている。第1放射温度計51と、第2放射温度計52と、第3放射温度計53と、第4放射温度計54と、第5放射温度計55とは、炉体76の外部に配置されている。
【0060】
断熱材60には、第1貫通孔61と、第2貫通孔62と、第3貫通孔63と、第4貫通孔64と、第5貫通孔65とが設けられている。第1放射温度計51は、坩堝74の頂面83に対面する位置に配置され、第1窓91を通して、頂面83の中心付近の温度を測定可能に構成されている。第2放射温度計52は、坩堝74の側面84の上側に対面する位置に配置され、第2窓92を通して、側面84の上側の温度を測定可能に構成されている。第3放射温度計53は、坩堝74の側面84の下側に対面する位置に配置され、第3窓93を通して、側面84の下側の温度を測定可能に構成されている。第4放射温度計54は、坩堝74の底面85に対面する位置に配置され、第4窓94を通して、底面85の中心付近の温度を測定可能に構成されている。第5放射温度計55は、坩堝74の底面85に対面する位置に配置され、第5窓95を通して、底面85の外側の温度を測定可能に構成されている。
【0061】
第3放射温度計53で測定する制御点77は、たとえば坩堝74の側面84の一部である。第3放射温度計53により制御点77の温度が測定され、第3加熱部43がフィードバック制御される。制御点77は、坩堝74以外であってもよい。制御点77は、たとえば加熱部の一部であってもよい。他の加熱部も同様に、対応する放射温度計により制御点の温度が測定され、加熱部にフィードバックされる。加熱部の数と同じ数の制御点を設け、各々の加熱部が対応する制御点により個別にフィードバック制御されてもよい。マスターの加熱部を決定し、一部の加熱部はマスターの加熱部の出力に対して一定比率出力させるマスタースレーブ制御により、加熱部が制御されてもよい。マスタースレーブ制御におけるマスターの加熱部の数は複数であってもよい。時間軸においてフィードバック制御とマスタースレーブ制御とが組み合わされてもよい。
【0062】
原料収容部71は、炭化珪素原料73を収容可能に構成されている。種結晶保持部70は、炭化珪素単結晶からなる種結晶72を保持可能に構成されている。第1〜第5加熱部41〜45の各々は、たとえば抵抗加熱型のヒータである。第1〜第5加熱部41〜45の各々は、たとえば高周波誘導加熱型のコイルであってもよい。
【0063】
次に、炭化珪素単結晶基板の製造方法について説明する。
図21に示されるように、炭化珪素原料73が、原料収容部71内に設けられる。炭化珪素原料73は、たとえば多結晶炭化珪素の粉末である。種結晶72は、たとえば接着剤を用いて種結晶保持部70に固定される。種結晶72は、たとえばポリタイプ4Hの六方晶炭化珪素単結晶からなる。種結晶72の表面の直径は、たとえば100mm以上であり、好ましくは150mm以上である。種結晶72の表面は、たとえば(0001)面が0.5°以上8°以下傾斜した面である。種結晶72は、炭化珪素原料73の表面82に対面するように配置される。以上のように、坩堝74内に、種結晶72および炭化珪素原料73が配置される。
【0064】
次に、坩堝74が、たとえば2000℃以上2400℃以下程度の温度になるまで加熱される。坩堝74が昇温している間、炉体76内の雰囲気ガスの圧力はたとえば80kPa程度に維持される。雰囲気ガスは、たとえばアルゴンガス、ヘリウムガスまたは窒素ガスなどの不活性ガスを含んでいる。次に、炉体76内の雰囲気ガスの圧力が、たとえば1.7kPaにまで減圧される。これにより、炭化珪素原料73が昇華を開始し、炭化珪素原料73の表面に対面した位置に配置されている種結晶72の表面上に再結晶化する。結果として、種結晶72の表面上に炭化珪素単結晶が成長し始める。炭化珪素単結晶が成長している間、炉体76内の圧力は、たとえば0.5kPa以上5kPa以下程度の圧力で約100時間程度維持される。以上のように、炭化珪素原料73を昇華させることにより、種結晶72上に炭化珪素単結晶80(
図22参照)が成長する。
【0065】
炭化珪素単結晶を成長させる工程においては、炭化珪素単結晶80の表面81(
図22参照)の温度は、炭化珪素原料73の表面82(
図22参照)の温度よりも低くなるように維持される。具体的には、炭化珪素原料73から種結晶72に向かう方向において、炭化珪素単結晶80の表面81の温度は、炭化珪素原料73の表面82の温度よりも低くなるような温度勾配が設けられる。
【0066】
前述のように、歪みが少なく、高品質な炭化珪素単結晶を得るためには、炭化珪素単結晶の成長過程において結晶表面の熱環境の変化が少なく、炭化珪素単結晶80の成長面81がなるべく平坦な形状を維持しながら炭化珪素単結晶80の成長が進むことが望ましい。具体的には、炭化珪素単結晶の成長工程において、炭化珪素単結晶80の成長面81の温度分布(つまり、成長面81における最高温度と最低温度との差)が、常に5℃以下となるように維持される。炭化珪素単結晶の成長工程において、成長面81の中心79の温度(つまり、炭化珪素単結晶80の成長開始から成長終了まで間における成長面81の中心79の温度の最高と最低との差)のが常に3℃以下となるように維持される。
【0067】
炭化珪素単結晶の成長工程において、炭化珪素原料73の温度分布(つまり、炭化珪素原料全体における最高温度と最低温度との差)が、常に20℃以下となるように維持される。炭化珪素単結晶の成長工程において、炭化珪素原料73の表面82の中心78の温度(つまり、炭化珪素単結晶80の成長開始から成長終了まで間における表面82の中心78の温度の最高と最低との差)が常に5℃以下となるように維持される。
【0068】
炭化珪素単結晶の成長工程において、上記の条件を実現するように、第1〜第5加熱部41〜45のヒータパワーの最適値が熱流体シミュレーションにより求められる。具体的には、炭化珪素単結晶の長さが0〜25mmの範囲において、1mm毎に熱流体シミュレーションを行い、第1〜第5加熱部41〜45のヒータパワーの最適値が求められる。
【0069】
次に、炭化珪素単結晶の成長工程における第1〜第5加熱部のヒータパワーの最適値の一例について説明する。
図23において、縦軸は、第1〜第5加熱部41〜45の各々のヒータパワーを示しており、横軸は、種結晶72上に成長した炭化珪素単結晶80の長さ113(
図22参照)を示している。言い換えれば、横軸は、成長時間に対応する。
【0070】
図23に示されるように、炭化珪素単結晶の長さが1mmの際(炭化珪素単結晶の成長開示直後)、5個の加熱部の中で、第2加熱部42のヒータパワーが最大で、第4加熱部44のヒータパワーが最小である。第1加熱部41および第5加熱部45のヒータパワーは、第3加熱部43のヒータパワーよりも大きい。第1加熱部41のヒータパワーは、第5加熱部45のヒータパワーとほぼ同じである。
【0071】
炭化珪素単結晶の長さが1mm〜3mmの間、第2加熱部42のヒータパワーは増加する。第1加熱部41、第3加熱部43および第4加熱部44のヒータパワーは減少する。炭化珪素単結晶の長さが3mm程度になった後、第2加熱部42および第5加熱部45のヒータパワーは、減少する。その後、第2加熱部42のヒータパワーは、増加する。炭化珪素単結晶の長さが3mm程度になった後、第1加熱部41、第3加熱部43および第4加熱部44のヒータパワーは、一旦増加する。その後、第1加熱部41、第3加熱部43および第4加熱部44のヒータパワーは、減少する。
【0072】
図23に示されるように、炭化珪素単結晶の成長に伴い、第1加熱部41のヒータパワーは、炭化珪素単結晶の長さが3mm程度で一旦増加するものの、その後は徐々に減少する。一方、炭化珪素単結晶の成長に伴い、第2加熱部42のヒータパワーは、炭化珪素単結晶の長さが3mm程度で一旦減少するものの、徐々に増加する。炭化珪素単結晶の長さが25mmの際(炭化珪素単結晶の成長終了時)、5個の加熱部の中で、第2加熱部42のヒータパワーが最大で、第4加熱部44のヒータパワーが最小である。第5加熱部45のヒータパワーは、第3加熱部43のヒータパワーよりも大きい。第1加熱部41のヒータパワーは、第3加熱部43のヒータパワーよりも小さい。
【0073】
炭化珪素単結晶80の結晶成長が終了した後、炭化珪素単結晶80が冷却される。炭化珪素単結晶80の温度が室温程度になった後、炭化珪素単結晶80が製造装置100から取り出される。炭化珪素単結晶80が、たとえばワイヤーソーによりスライスされることにより、炭化珪素単結晶基板10が得られる(
図1参照)。
【0074】
なお上記実施形態においては、個別にヒータパワーが制御可能な加熱部のゾーンの数が5の場合について説明したが、ゾーンの数は5に限定されない。たとえば、頂面側加熱部、側面側加熱部および底面側加熱部をさらに分割することにより、加熱部のゾーンの数を6、7または8としてもよい。加熱部のゾーンの数を増加させることにより、炭化珪素単結晶の温度を精度良く制御することができる。これにより、より歪みが低減された炭化珪素単結晶基板を得ることができる。
【0075】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。