(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6969745
(24)【登録日】2021年11月1日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】織物及びこれを用いた表皮材の製造方法
(51)【国際特許分類】
D03D 15/54 20210101AFI20211111BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20211111BHJP
D03D 11/00 20060101ALI20211111BHJP
D06H 7/14 20060101ALI20211111BHJP
B60R 13/02 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
D03D15/00 102Z
D03D1/00 Z
D03D11/00 Z
D06H7/14
B60R13/02 B
B60R13/02 A
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-27356(P2018-27356)
(22)【出願日】2018年2月19日
(65)【公開番号】特開2019-143255(P2019-143255A)
(43)【公開日】2019年8月29日
【審査請求日】2020年10月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】309042783
【氏名又は名称】大喜株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】山田 孝政
(72)【発明者】
【氏名】山本 岳由
【審査官】
春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2017−210699(JP,A)
【文献】
特開2007−169807(JP,A)
【文献】
実開昭51−000278(JP,U)
【文献】
実開昭62−166281(JP,U)
【文献】
特開昭62−250244(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D1/00−27/18
D06B1/00−23/30
D06C3/00−29/00
D06G1/00−5/00
D06H1/00−7/24
D06J1/00−1/12
B60R13/01−13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸及び緯糸のうちの一方を第1構成糸とし、他方を第2構成糸として製織された織物において、
前記第1構成糸の一部が並列に織り込まれた側面発光型光ファイバーであり、
前記織物は、一重織部と複数の袋織部とを具備し、
前記側面発光型光ファイバーは、前記袋織部を構成する一方の織布及び他方の織布のうちのいずれにも織り込まれておらず、
前記袋織部は、前記第1構成糸が織り込まれた方向において対向して位置する袋織部を備え、前記対向して位置する袋織部は、前記第2構成糸が織り込まれた方向に複数組設けられており、
前記対向して位置する袋織部の各々の袋織部の間には、前記一重織部が介在して配置され、且つ前記第2構成糸が織り込まれた方向においては、複数組設けられた前記対向して位置する袋織部の間に、前記一重織部が介在して配置されており、
前記織物の前記第1構成糸が織り込まれた方向及び前記第2構成糸が織り込まれた方向の端縁部は、前記一重織部により構成されていることを特徴とする織物。
【請求項2】
前記第1構成糸は前記緯糸である請求項1に記載の織物。
【請求項3】
前記第1構成糸が織り込まれた方向において、前記袋織部の間には、前記織物が表皮材として用いられるときに意匠面を形成する長尺の前記一重織部が配置されている請求項1又は2に記載の織物。
【請求項4】
前記表皮材が内装材の表皮層として用いられる請求項1乃至3のうちのいずれか1項に記載の織物。
【請求項5】
請求項1乃至4のうちのいずれか1項に記載の織物を用いた表皮材の製造方法であって、
前記第2構成糸が織り込まれた方向に複数組設けられた前記対向して位置する袋織部の間に介在する前記一重織部を含む一重織部を、前記第1構成糸が織り込まれた方向に切断し、複数枚の表皮材用織物を形成する切断工程と、
前記表皮材用織物が備える前記対向して位置する袋織部を構成する前記一方の織布及び前記他方の織布を切除する切除工程と、を備えることを特徴とする表皮材の製造方法。
【請求項6】
前記切除工程の後、前記第1構成糸が織り込まれた方向における前記表皮材用織物の両端縁部の前記一重織部を除去する除去工程を備える請求項5に記載の表皮材の製造方法。
【請求項7】
上記除去工程の後、露出した前記側面発光型光ファイバーを束ねる結束工程を備える請求項6に記載の表皮材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、織物及びこの織物を用いた表皮材の製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、側面発光型光ファイバー及び合成樹脂フィラメント等を構成糸として用いて製織された織物、及びこの織物を用いて、内装材の意匠面を形成する表皮層などとして使用することができる表皮材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インターネットの普及等とともに、光通信などの技術分野において光ファイバーの使用が拡大している。また、一端から入射した光を他端に導いて光を伝送させることができるという光ファイバーの特性に基づき、各種の照明及びディスプレー等の用途でも用いられている。
【0003】
更に、経糸又は緯糸として光ファイバーと普通糸とが織り込まれた光ファイバー織物と、光ファイバーの少なくとも一端部に光を照射する光源とを備え、光源からの光を光ファイバー内に入光させることにより、ドアトリム、小物部品等の自動車内装部品として利用することができる照明装置として機能する光ファイバー織物が知られている(例えば、特許文献1参照。)。そして、この光ファイバー織物では、光ファイバーと普通糸とを規則的に織り込み、織組織及び発光輝度を所定の状態に制御することにより、光ファイバー織物の発光ムラを低減することができると説明されている。
【0004】
更に、経糸及び緯糸のうちの一方を第1構成糸とし、他方を第2構成糸とした織物であって、第1構成糸は、光ファイバー糸と非導光糸とを有し、第2構成糸は、非導光糸のみを有する織物が知られている(例えば、特許文献2参照)。そして、この織物では、例えば、袋織部を設けることで、離間可能な光ファイバー層と裏保護層とを有し、意匠織物を加工するときは光ファイバーを保護することができ、その後、裏保護層を切除し、光ファイバーを織物から容易に露出させることができる。即ち、優れた保護機能と優れた作業性とを両立させることができると説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−267573号公報
【特許文献2】特開2017−210699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された光ファイバー照明装置に用いられる光ファイバー織物では、織組織及び発光輝度を所定の状態に制御することにより、発光ムラを低減することができる。また、特許文献1の
図1〜3には、光ファイバーの露出端を集結させた形態が図示されているが、織物の端部に光ファイバーを露出させるためには、光ファイバーと交絡している普通糸を引き抜く必要があると考えられる。しかし、普通糸を引き抜くには、工数と時間とを要するとともに、普通糸を引き抜くときに光ファイバーを傷付けてしまうこともある。
【0007】
更に、特許文献2に記載された織物では、袋織部により形成される裏保護層を切除し、光ファイバーを織物から露出させることができる。しかし、袋織部では、製織及び後処理等された織物が室温近傍の温度に降温したとき、合成樹脂製フィラメントは収縮するものの、光ファイバーには寸法変化がないため、光ファイバーは袋織部で蛇行することになり、裏保護層を切除する際、誤って光ファイバーを傷付けたり、切断してしまうことが有り得る。その結果、この光ファイバーは発光に寄与せず、内装材の表皮材等として用いたときに、意匠性が低下してしまうことになる。
【0008】
本発明は、上述の従来技術の状況に鑑みてなされたものであり、構成糸の一部に側面発光型光ファイバーを用いるとともに、所要個所において側面発光型光ファイバーを傷付けたり、切断したりすることなく露出させることができる織物を提供することを目的とする。また、この織物を用いて、側面発光型光ファイバーを傷付けたり、切断したりすることなく、内装材等の表皮層としたときに、優れた意匠性を有する表皮層を形成することができる表皮材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下のとおりである。
1.経糸及び緯糸のうちの一方を第1構成糸とし、他方を第2構成糸として製織された織物において、
前記第1構成糸の一部が並列に織り込まれた側面発光型光ファイバーであり、
前記織物は、一重織部と複数の袋織部とを具備し、
前記側面発光型光ファイバーは、前記袋織部を構成する一方の織布及び他方の織布のうちのいずれにも織り込まれておらず、
前記袋織部は、前記第1構成糸が織り込まれた方向において対向して位置する袋織部を備え、前記対向して位置する袋織部は、前記第2構成糸が織り込まれた方向に複数組設けられており、
前記対向して位置する袋織部の各々の袋織部の間には、前記一重織部が介在して配置され、且つ前記第2構成糸が織り込まれた方向においては、複数組設けられた前記対向して位置する袋織部の間に、前記一重織部が介在して配置されており、
前記織物の前記第1構成糸が織り込まれた方向及び前記第2構成糸が織り込まれた方向の端縁部は、前記一重織部により構成されていることを特徴とする織物。
2.前記第1構成糸は前記緯糸である前記1.に記載の織物。
3.前記第1構成糸が織り込まれた方向において、前記袋織部の間には、前記織物が表皮材として用いられるときに意匠面を形成する長尺の前記一重織部が配置されている前記1.又は2.に記載の織物。
4.前記表皮材が内装材の表皮層として用いられる前記1.乃至3.のうちのいずれか1項に記載の織物。
5.前記1.乃至4.のうちのいずれか1項に記載の織物を用いた表皮材の製造方法であって、
前記第2構成糸が織り込まれた方向において、前記対向して位置する袋織部の間に介在する前記一重織部を含む一重織部を、前記第1構成糸が織り込まれた方向に切断し、表皮材用織物を形成する切断工程と、
前記表皮材用織物が備える前記対向して位置する袋織部を構成する前記一方の織布及び前記他方の織布を切除する切除工程と、を備えることを特徴とする表皮材の製造方法。
6.前記切除工程の後、前記第1構成糸が織り込まれた方向における前記表皮材用織物の両端縁部の前記一重織部を除去する除去工程を備える前記5.に記載の表皮材の製造方法。
7.上記除去工程の後、露出した前記側面発光型光ファイバーを束ねる結束工程を備える前記6.に記載の表皮材の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の織物は、第1構成糸の一部が並列に織り込まれた側面発光型光ファイバーであり、一重織部と複数の袋織部とを具備し、袋織部は、第1構成糸が織り込まれた方向において対向して位置する袋織部を備え、この袋織部は、第2構成糸が織り込まれた方向において複数組設けられている。そして、対向して位置する袋織部の間、及び第2構成糸が織り込まれた方向においては、複数組設けられた対向して位置する袋織部の間、に一重織部が介在している。
これにより、織物を内装材の表皮層を形成する表皮材等として用いるときに、袋織部の一方及び他方の織布を切除して容易に側面発光型光ファイバーを露出させることができる。その際、袋織部の側端部が一重織部により支持されているため、側面発光型光ファイバーを傷付けたり、切断したりすることなく露出させることができ、優れた意匠性を有する表皮材等とすることができる。
また、第1構成糸が緯糸である場合は、合成樹脂フィラメント等と比べて剛性が高いなどの理由で側面発光型光ファイバーを、緯糸として容易に、且つ効率よく織り込むことができる。
更に、第1構成糸が織り込まれた方向において、袋織部の間に、織物が表皮材として用いられるときに意匠面を形成する長尺の一重織部が配置されている場合は、織物の全表面のうちの多くを意匠面として利用することができ、表皮材として極めて有用である。
また、表皮材が内装材の表皮層として用いられる場合は、車両用等の大型の内装材であっても、全面が優れた意匠性を有する表皮層を容易に形成することができる表皮材として有用である。
【0011】
本発明の表皮材の製造方法は、第2構成糸が織り込まれた方向において、対向して位置する袋織部の間に介在する一重織部を含む一重織部を、第1構成糸が織り込まれた方向に切断し、表皮材用織物を形成する切断工程と、表皮材用織物が備える袋織部を構成する一方の織布及び他方の織布を切除する切除工程と、を備える。
これにより、1枚の織物から複数枚の表皮材用織物を得ることができるとともに、表皮材用織物は長さ方向及び幅方向の側端部の全てが一重織部により支持されているため、袋織部を構成する一方の織布及び他方の織布を切除するときに、側面発光型光ファイバーを傷付けたり、切断したりすることがなく、全ての側面発光型光ファイバーを意匠面の形成に利用することができ、所定の意匠面とすることができる。
また、切除工程の後、第1構成糸が織り込まれた方向における表皮材用織物の両端縁部の一重織部を除去する除去工程を備える場合は、袋織部内の側面発光型光ファイバーのみでなく、袋織部より端部側の一重織部に織り込まれていた側面発光型光ファイバーも有効に活用することができる。
更に、除去工程の後、露出した側面発光型光ファイバーを束ねる結束工程を備える場合は、露出した側面発光型光ファイバーが十分な長さを有することもあって、所要本数の側面発光型光ファイバーを容易に一体に束ねることができ、結束された側面発光型光ファイバーの端面に光源からの光を照射することで、側面発光型光ファイバーを発光させ、所定の意匠面を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の織物の一例を表す模式的な平面図である。
【
図2】
図1の織物のA−A断面を表す模式的な断面図である。
【
図3】
図1の織物の長さ方向の一方の端部側を拡大して表す模式的な平面図である。
【
図4】
図1の織物が幅方向の中央部において長さ方向に切断されたときの一方の織物を表す模式的な平面図である。
【
図5】
図4の織物の一方の端部側の袋織部の一方の織布及び他方の織布を切除し、側面発光型光ファイバーを露出させる工程を表す模式的な説明図である。
【
図6】
図5の織物の端縁部等の一重織部を引き抜いて除去する工程を表す模式的な説明図である。
【
図7】
図6の織物において端部側に露出した複数本の側面発光型光ファイバーの各々の端部を束ねて結束した形態を表す模式的な説明図である。
【
図8】
図7の織物において結束された側面発光型光ファイバー束の端面に光源からの光を照射し、織物が発行している様子を表す模式的な説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を、図も参照しながら詳しく説明する。
ここで示される事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0014】
[1]織物
本発明の織物10(
図1、
図1のA−A断面を表す
図2及び
図1の一部を拡大して表す
図3参照)は、経糸及び緯糸のうちの一方を第1構成糸とし、他方を第2構成糸として製織された織物10において、第1構成糸の一部が並列に織り込まれた側面発光型光ファイバー3である。また、織物10は、一重織部11、11a、11b、12と複数の袋織部2とを具備し、側面発光型光ファイバー3は、袋織部2を構成する一方の織布21a及び他方の織布bのうちのいずれにも織り込まれていない(
図2参照)。
【0015】
更に、袋織部2は、第1構成糸が織り込まれた方向において対向して位置する袋織部2(
図1、2参照)を備え、これらの袋織部2は、第2構成糸が織り込まれた方向に複数組設けられている(
図1、3では2組)。また、対向して位置する袋織部2の各々の袋織部2の間には、一重織部11が介在して配置されている。更に、第2構成糸が織り込まれた方向においては、各々の袋織部2の外側部となる位置に一重織部11aが配置され、複数組設けられた対向して位置する袋織部2の間には、一重織部11bが介在して配置されている(
図1、3参照)。また、織物10の第1構成糸が織り込まれた方向の端縁部は一重織部12により構成されている。このように、織物10の周縁部の全てが一重織部により構成されている(
図1参照)。尚、一重織部11a、11b、12を除く他部は、一重織部11であるとする。
【0016】
第1構成糸のうちの側面発光型光ファイバー3を除く他の構成糸、及び第2構成糸としては、例えば、合成樹脂フィラメント等の、通常、織物10に用いられる構成糸を使用することができる。また、一部が側面発光型光ファイバー3である第1構成糸、及び第2構成糸の各々は、経糸として織り込まれていてもよく、緯糸として織り込まれていてもよいが、側面発光型光ファイバー3は合成樹脂フィラメント等と比べて剛直であることもあって、側面発光型光ファイバー3は緯糸として織り込まれることが好ましい。
【0017】
織物10は、一重織部11、11a、11b、12と複数の袋織部2とを具備する。一重織部の織組織は、1/2組織、2/1組織、2/2組織、2/3組織、3/2組織、3/3組織、3/4組織等とすることができる。更に、一重織部11、11a、11bの織物組織も特に限定されず、平織組織、斜子組織、斜文組織、朱子組織等の各種の織物組織とすることができる。より具体的には、2/2平組織、3/3平組織、1/2斜子組織、2/1斜子組織、3/3斜子組織等とすることができる。
【0018】
袋織部2は、二重織りにより形成され、一方の織布21a及び他方の織布21bを備える(
図2参照)。袋織部2の織組織は特に限定されず、1/1袋組織、1/2袋組織、2/1袋組織、2/2袋組織、2/3袋組織、3/2袋組織、3/3袋組織等とすることができる。また、各々の織布の織物組織も特に限定されず、例えば、平織組織、斜子組織、斜文組織、朱子組織等の各種の織物組織とすることができる。
【0019】
光ファイバーは、通常、コア層とクラッド層とから構成されており、コア層の外周をクラッド層が被覆した構造を有する。また、コア層及びクラッド層は、それぞれ単層でもよく、複数層が積層された形態であってもよい。そして、コア層及びクラッド層の各々の材質、屈折率、反射率等により、側面から適度に漏光し、発光する側面発光型光ファイバー3とすることができる。具体的には、例えば、コア層に散乱物質を配合することにより、コア層とクラッド層との境界部での全反射を生じることなく、側面から散乱光が漏光するものが挙げられ、クラッド層の一部が除去されて、側面から漏光するものを用いることもできる。
【0020】
光ファイバーとしては、樹脂製光ファイバー、石英系光ファイバー等の各種のものがあるが、本発明では、例えば、合成樹脂フィラメント等とともに、織物10の経糸又は緯糸、特に緯糸として織り込まれる側面発光型光ファイバー3である。そのため、通常、柔軟で曲げ衝撃性等に優れ、容易に製織することができる樹脂製の側面発光型光ファイバー3が用いられる。
【0021】
また、既存の樹脂製光ファイバー等の側面発光型光ファイバー3の直径は0.1〜10mm程度であるが、製織のし易さ、発光ムラの低減、又は汎用性の観点から、直径が0.15〜1.5mm、特に0.15〜1.0mm、更に0.15〜0.4mmの側面発光型光ファイバー3を用いることが好ましい。更に、樹脂製の側面発光型光ファイバー3の繊度は、コア層及びクラッド層を構成する各々の樹脂の種類にもよるが、例えば、直径が0.25mmであるときに、繊度が略607dtexの側面発光型光ファイバー3が挙げられ、好ましい繊度の範囲は、合成樹脂フィラメント等の繊度との好ましい繊度比により設定すればよい。
【0022】
樹脂製光ファイバーのコア層としては、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリエチルアクリレート等のアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、及びポリオレフィン系樹脂等の優れた透明性を有する樹脂が用いられていることが好ましい。更に、クラッド層としては、フッ化ビニリデン樹脂、フッ化ビニリデンテトラフルオロエチレン共重合樹脂、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂、トリフルオロイソプロピルメタクリレート樹脂等の優れた透明性を有するとともに、コア層より屈折率が小さい樹脂が用いられていることが好ましい。
【0023】
第1構成糸のうちの側面発光型光ファイバー3を除く他の構成糸、及び第2構成糸としては、例えば、合成樹脂フィラメント等の、通常、織物10に用いられる構成糸を使用することができる。合成樹脂フィラメントはマルチフィラメントであってもよく、モノフィラメントであってもよいが、マルチフィラメントが多用される。合成樹脂フィラメントの繊度も特に限定されず、側面発光型光ファイバー3の繊度(径)等を勘案し、製織のし易さ、織物10の強度等の物性などを考慮して設定すればよい。
【0024】
合成樹脂フィラメントの材質も特に限定されず、各種の合成樹脂からなるフィラメントを用いることができる。この合成樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂などが挙げられる。合成樹脂としては、特にポリエステル系樹脂及びポリアミド系樹脂が好ましい。
【0025】
第1構成糸の一部として織り込まれる側面発光型光ファイバー3の、織り込まれる間隔は、織物10を表皮材等として用いるときの意匠面の形成、及び製織のし易さなどを考慮し、適宜設定することができる。また、側面発光型光ファイバー3は、他の第1構成糸の間に1本のみが織り込まれていてもよく、数本の側面発光型光ファイバー3が連続して織り込まれていてもよい。連続して織り込まれるときの側面発光型光ファイバー3の本数は、特に限定されないが、表皮材等として用いたときの意匠性、及び織物10としての形態、強度等の観点で、合成樹脂フィラメント等がマルチフィラメントであるときは、2〜5本とすることができ、3〜4本であることが好ましい。
【0026】
一方、合成樹脂フィラメント等がモノフィラメントであるときは、その光沢を利用し、側面発光型光ファイバー3の光を反射させて十分な輝度を確保することができる。そのため、他の第1構成糸の間に織り込まれる側面発光型光ファイバー3は1本でもよい。更に、連続して織り込まれるときの本数は、マルチフィラメントであるときと比べて少なくすることができ、2〜3本とすることができる。また、モノフィラメントであれば、側面発光型光ファイバー3が2本であっても、更には1本であっても、意匠性に優れ、見栄えの良い表皮材等とすることができる。
【0027】
更に、製織に用いる織機は特に限定されない。この織機としては、例えば、レピア織機(伊国、イテマウィービング社製、型式「G6500、R9500」)、ジャカード織機(仏国、ストーブリ社製、型式「CX880、DX110、LX1602、SXB」)、ドビー織機(仏国、ストーブリ社製、型式「UVIVAL500」)等が挙げられる。これらの織機により、所定の構成の織物10を特に問題なく製織することができる。
【0028】
[2]表皮材の製造方法
本発明の表皮材の製造方法は、織物10を用いた表皮材の製造方法であって、第2構成糸が織り込まれた方向に複数組設けられた対向して位置する袋織部2の間に介在する一重織部11bを含む一重織部11、12を、第1構成糸が織り込まれた方向に切断し、複数枚の表皮材用織物10aを形成する切断工程と、表皮材用織物10aが備える対向して位置する袋織部2を構成する一方の織布21a及び他方の織布21bを切除する切除工程と、を備える。
【0029】
表皮材用織物10a(
図4参照)の、第1構成糸が織り込まれた方向の寸法、及び第2構成糸が織り込まれた方向の寸法は、表皮材が用いられる、例えば、車両用内装材等の種類によって設定することができる。また、表皮材用織物10aの平面方向の寸法は、用いる織機の仕様、性能による制約もある。表皮材用織物10aの第1構成糸が織り込まれた方向の寸法は、製織時の織物10の幅であり、例えば、100〜300cm、特に150〜250cmとすることができる。一方、第2構成糸が織り込まれた方向の寸法は、例えば、50〜150cm、特に80〜120cmとすることができる。
【0030】
更に、一重織部11bの幅は特に限定されないが、10〜30mm、特に15〜25mmとすることができる。一重織部11bを含む一重織部11、12を、第1構成糸が織り込まれた方向に切断する方法も特に限定されないが、例えば、トムソン刃等を用いる方法が挙げられる。トムソン刃は±2mmの精度で切断位置を制御することができ、一重織部11bを含む一重織部11、12を幅方向の中央部で切断してもよいし、対向して位置する袋織部2の側端面から所定寸法離間した位置で切断してもよい。但し、対向して位置する袋織部2の側端面からの一重織部11bを含む一重織部11、12の幅方向の寸法が過少であると、袋織部2を構成する一方の織布21a及び他方の織布21bを切除するときに、切除箇所を十分に支持することができず、側面発光型光ファイバー3を傷付けたり、切断することがあるため好ましくない。
【0031】
また、一重織部12の第1構成糸が織り込まれる方向における寸法は特に限定されないが、表皮材用織物10aを表皮材として用いるときには不要となる箇所であるため、表皮材の用途等にもよるが、5mm以上、特に10mm以上(100mm以下、特に50mm以下)とすることができる。この寸法が5mm未満であると、袋織部2を構成する一方の織布21a及び他方の織布21bを切除するときに、切除箇所を十分に支持することができず、側面発光型光ファイバー3を傷付けたり、切断することがあるため、好ましくない。
【0032】
織物10の製織時には第1構成糸及び第2構成糸に張力が加わるため、側面発光型光ファイバー3及び他の構成糸、例えば、合成樹脂フィラメント等に緩みはない。一方、製織後は張力がなくなるため、合成樹脂フィラメント等は収縮するが、側面発光型光ファイバー3には寸法変化がないか、寸法変化が極めて小さい。そのため、製織後の織物10では、
図1〜3のように、袋織部2の内部では側面発光型光ファイバー3は蛇行することになる。この場合、一重織部11bの幅、及び一重織部12の第1構成糸が織り込まれる方向における寸法を上述のようにすることで、表皮材用織物10aを十分に支持することができ、側面発光型光ファイバー3が蛇行したとしても、側面発光型光ファイバー3を傷付けたり、切断することを防止することができる。
【0033】
本発明の表皮材の製造方法は、表皮材用織物10aを形成するための切断工程の後、表皮材用織物10aが備える第1構成糸が織り込まれる方向において対向して位置する袋織部2を構成する一方の織布21a及び他方の織布21bを切除する切除工程を備える(
図5参照)。織布21a及び織布21bは、一重織部11、12から少し離間した位置において、第2構成糸が織り込まれた方向に略直線状に切断し、切除することができる。織布21a及び織布21bは、いずれも柔軟な織布であり、切除方法は特に限定されず、通常の刃物等によって手動又は自動手段によって、容易に切除することができる。
【0034】
更に、織布21a及び織布21bを切除するときに、一重織部11、12から少し離間した位置において切断する必要があるが、離間寸法は特に限定されず、3〜10mm、特に4〜7mmとすることができる。この離間距離が、例えば、5mmであれば、側面発光型光ファイバー3を傷付けたり、切断することはなく、他の構成糸のみを切断し、織布21a及び織布21bを容易に切除することができる。
【0035】
本発明の表皮材の製造方法は、織布21a及び織布21bを切除する切除工程の後、通常、第1構成糸が織り込まれた方向における表皮材用織物10aの両端縁部の一重織部12を除去する除去工程を備える(
図6参照)。これにより、側面発光型光ファイバー3は、他の構成糸による拘束が全くなくなる。この際、
図6のように、一重織部11a及び一重織部11bを、符号aが指す位置で一重織部11と切断し、一重織部12と一重織部11a、12とを一体に除去することが好ましい。このようにすれば、一重織部12を引き抜くことで、一重織部11a、12を同時に除去することができる。尚、一重織部11a、11bと一重織部12との境界部で切断し、一重織部12を除去してもよいが、その場合、不要である一重織部11a、11bを切断し、除去する工程が必要となる。
【0036】
更に、本発明の表皮材の製造方法は、表皮材用織物10aの両端縁部の一重織部12を除去する除去工程の後、露出した側面発光型光ファイバー3を束ねる結束工程を備える(
図7参照)。表皮材用織物10aに織り込まれた側面発光型光ファイバー3を発光させるためには、複数本の側面発光型光ファイバー3が束ねられ、その端面と対向する位置に光源5が配置される(
図8参照)。光源5は特に限定されないが、通常、LEDが用いられる。そして、束ねられた側面発光型光ファイバー3の端面に向けてLEDから光を照射させ、導光させることで、側面発光型光ファイバー3を発光させることができる(
図8に3本1組の実線が4組描かれているが、これらの実線は発光していることを表す)。
【0037】
また、複数本の側面発光型光ファイバー3の露出部を束ねる場合、表皮材の用途、寸法等によって、所定本数の側面発光型光ファイバー3が束ねられ、複数の側面発光型光ファイバー束4とされる(
図7参照)。多くの本数の側面発光型光ファイバー3を束ね、側面発光型光ファイバー束4を少なくすれば、光源5も多くを必要としない。しかし、多くの本数の側面発光型光ファイバー3を束ねるためには、露出している側面発光型光ファイバー3を長寸法とする必要があり、束ねる作業も容易ではない。そのため、第2構成糸が織り込まれた方向において、通常、10〜20cm、特に12〜22cm幅に1個の側面発光型光ファイバー束4が形成される。
【0038】
表皮材用織物10aは、車両内装材、建築用内装材等の内装材の表皮層を形成するための表皮材として用いることができる。この場合、表皮材用織物10aと、合成樹脂製の成形体である基材とを、成形型を用いて加熱、加圧するプレス成形法等により、内装材とすることができる。内装材としては、ドアトリム、ルーフトリム等の車両用内装材などが挙げられる。更に、基材の成形に用いられる合成樹脂は特に限定されず、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、及びナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂が用いられる。これらの合成樹脂のうちでは、成形のし易さ、強度等の観点でポリプロピレンが好ましい。また、剛性等の物性を向上させるため、ガラス繊維、カーボン繊維等が配合された繊維強化樹脂を用いることもできる。
【0039】
尚、前述の記載は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施形態を挙げて説明したが、本発明の記述及び図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく、説明的および例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本発明の範囲又は精神から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料及び実施形態を参照したが、本発明をここにおける開示事項に限定することを意図するものではなく、寧ろ、本発明は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は車両内装材、建築用内装材等の内装材に係る技術分野において利用することができる。特に、乗用車、バス、トラック等の他、列車、汽車等の鉄道車両、建設車両、農業車両、産業車両などで用いられる車両内装材の技術分野において好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0041】
10;織物、10a;表皮材用織物、11、11a、11b、12;一重織部、2;袋織部、21a;一方の織布、21b;他方の織布、3;側面発光型光ファイバー、4;側面発光型光ファイバー束、5;光源。