【実施例】
【0055】
(材料及び方法)
実施例1:細胞培養
HCT116細胞を、56℃、30分間の処理で熱不活性化させたウシ胎児血清(FBS)(Sigma, Cat. No. 172012)を10%、及び100U/ml ペニシリン+0.1mg/ml ストレプトマイシン(Wako, Cat. No. 168-23191)を1%含んだダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s modified Eagle’s medium)(Wako, Cat. No. 043-30085)培養液中で、加湿37℃インキュベーターを用いて培養した。
【0056】
MCF10A細胞の培養を、56℃、30分間の処理で熱不活性化させたウマ血清(Bioconcept, Cat. No. 205F00I)、1μM デキサメタゾン(Sigma, Cat. No. D8893)、5μg/ml インスリン(Sigma, Cat. No. I9278)、ヒトEGF 10ng/ml(Sigma, Cat. No. E9644)、及び100U/ml ペニシリン+0.1mg/ml ストレプトマイシン(Wako, 168-23191)を1%含んだダルベッコ改変イーグル培地‐F12(DMEM/F12)(Wako, Cat. No. 048-29785)培養液中で、加湿37℃インキュベーターを用いて培養した(Costantinoら, Science, 2014, 343, 88-91)。
【0057】
実施例2:ベクター構築
RecQL4タンパク質の493番目のアミノ酸部位にストップコドンを導入して、RECQL4ノックインベクターを構築した(Kohzakiら, Carcinogenesis, 2012, 33, 1203-1210)。全長RecQL4cDNAを、pApuroベクターのEcoRI部位に挿入し、RecQL4タンパク質発現ベクターを作製した(Takataら, EMBO J, 1994, 13, 1341-1349)。RecQL4タンパク質の発現に関しては、Amaxa nucleofector 2bによるトランスフェクション(Lonza, Nucleofector kit V, Cat. No. VCA-1003; program, D-032)、X‐tremeGENE HP DNA(Roche, Cat. No. 6366244001)、及びLipofectamine LTX with PLUS Reagent(Thermo Fisher Scientific, Cat. No. 15338100)を用いて一過性に発現させて、発現量をウェスタンブロッティング法によって定量した。
【0058】
実施例3:Cas9‐CRISPR技術によるノックイン細胞樹立
Cas9‐CRISPR技術を用いて(Congら, Science, 2013, 339, 819-823)、RECQL4遺伝子exon6を標的としたsgRNA1と、exon9を標的としたsgRNA2作製用のプライマー対を用いた。
【0059】
【化1】
【0060】
0.5g Cas9 sgRNA1、0.5 g Cas9 sgRNA2と、制限酵素PvuIで直鎖状にした1g REQL4ノックインコンストラクトの、計2gのDNAを用いて、1×10
6個のHCT116細胞に対してAmaxa nucleofector 2bによるトランスフェクションを行った(Lonza, Nucleofector kit V, Cat. No. VCA-1003; program, D-032)。24時間後に、6g/ml、又は10g/ml濃度のブラストサイジン(Bsr; Wako, Cat. No. 029-18701)培地を96穴プレートで培養することで、単一クローンを樹立した。2及び3週間後に、薬剤耐性単一コロニーを増幅させて、スクリーニングによってノックイン細胞を樹立した。
【0061】
実施例4:コロニー形成法
薬剤や放射線の感受性を、コロニー形成法で決定した。HCT116細胞を、3ml(6穴プレート)、1ml(12穴プレート)、及び0.5ml(24穴プレート)の培養液が入ったプレートに播種し、接着させた。翌日、接着させた細胞に、シスプラチン/CDDP/cis‐ジアミンジクロロ‐白金(II);CAS 15663‐27‐1(10〜20g/ml)(Wako, Cat No. 033-20091)を添加し、2時間、37℃インキュベーターで培養し、PBSで洗浄した後、通常培地を加えた。放射線照射を、
137Cs Gammacell 40 Exactor (0.7Gy/分;MDS Nordion)を用いて行った。いずれも約2週間程度培養後に、コロニーをメタノールで固定した後、ギムザ染色し、コロニーの数をカウントした。
【0062】
実施例5:ウェスタンブロッティング法
従来のウェスタンブロッティング法を用いて(Laemmli, Nature, 1970, 227, 680-5)、以下の抗体:mouse anti‐α‐Actinin(1/2000, Millipore, clone AT6/172, Cat. No. 05-384)、mouse anti‐β‐Tubulin(1/2000, Wako, Cat. No. 014-25041)、rabbit anti‐Rad51(1/2000, Bioacademia, Cat. No. 70-001)、mouse anti‐Rad51(1/1000, GeneTex, 14B4, Cat. No. GTX70230)、mouse anti‐phospho‐Histone H2A.X(Ser139)(1/2000, Millipore, clone JBW301, Cat. No. 05-636)、rabbit anti‐Rad52(1/1000, SantaCruz, H-300, Cat. No. sc-8350)、rabbit anti‐Rad52(1/1000, Abcam, Cat. No. ab103067)、rabbit anti‐RPA32(1/1000, GeneTex, Cat. No. GTX70258)、rabbit anti‐RecQL4(1/1000, Novus, Cat. No. 25470002)、rabbit anti‐Histone H3(1/2000, Cell Signaling, Cat. No. 9715)を使用して、それぞれのタンパク質量を定量した。
【0063】
実施例6:蛍光免疫染色法
カバーガラス(Matsunami Glass, Cat. No. C015001)を入れた12穴プレートに、野生型とRECQL4欠損HCT116細胞を播種し、2日以上培養して接着させた。接着した細胞に放射線を照射して、2、8、及び20時間後に、2%スクロース(Wako, Cat. No. 193-00025)と3%パラホルムアルデヒド(Wako, Cat. No. 160-16061)をPBSで調整した溶液で、室温で15分間固定した。室温で5分間、0.5%Triton‐X100(Wako, Cat. No. 160-24751)PBS溶液で処理して細胞膜を透過させ、30分間以上、1%BSA(Roche, Fraction V, Cat. No. 10735078001)含有PBS溶液で、ブロッキング処理を行った。蛍光免疫染色法で用いた一次抗体は、以下:rabbit anti‐Rad51(1/1000, Bioacademia, Cat. No. 70-001)、mouse anti‐Rad51(1/500, GeneTex, 14B4, Cat. No. GTX70230)、mouse anti‐phospho‐Histone H2A.X(Ser139)(1/1000, Millipore, clone JBW301, Cat. No. 05-636)、rabbit anti‐Rad52(1/500, SantaCruz, H-300, Cat. No. sc-8350)、rabbit anti‐Rad52(1/500, Abcam, Cat. No. ab103067)、rabbit anti‐RPA32(1/500, GeneTex, Cat. No. GTX70258)である。これらの一次抗体を室温で1時間反応させた後、0.05% Tween20(MP Biomedicals, Cat. No. 103168)含有PBS(以下、PBSTと略記する場合がある)で、5分間で3回洗浄した。次に、Alexa Fluor 594‐conjugated goat anti‐mouse IgG(1/2000, Thermo Fisher, Cat. No. A11037)と、Alexa Fluor 488‐conjugated goat anti‐mouse IgG(1/2000, Thermo Fisher, Cat. No. A11001)の二次抗体で、室温で45分間反応させた後に、PBSTで、5分間で2回洗浄した。最後に、DAPI(Dojindo, Cat. No. 342-07431)で染色し、PBSTで、5分間で1回洗浄した後、Fluoromount‐G(Southern Biotech, Cat. No. 0100-01)で封入した。作製したサンプルを、Zeiss AxioObserver蛍光顕微鏡で観察し、各タンパク質のfociをカウントして解析した。
【0064】
実施例7:クロマチン分画の濃縮
ホルムアルデヒドによるクロスリンク処理を行わずに、クロマチン分画の濃縮方法を行った(Mendez及びStillman, MCB, 2000, 20, 8602-12; Petermannら, Mol Cell, 2010, 37, 492-502)。2×10
7個のHCT116細胞を集めて、該細胞を含む低張緩衝液(10mM HEPES(pH7)(Wako, Cat. No. 340-08233)、50mM NaCl(Wako, Cat. No. 191-01665)、0.3Mスクロース、0.5% Triton X‐100、プロテアーゼ インヒビター カクテル(Roche, Cat. No. 05892791001))を、氷上で10分間処理して、1500gで5分間遠心して細胞質タンパク質を除いた。
【0065】
次に、核緩衝液(10mM HEPES(pH7)、200mM NaCl、1mM EDTA(Wako, Cat. No. 311-90075)、0.5% NP‐40(Wako, Cat. No. 145-09701)、プロテアーゼ インヒビター カクテル)を、氷上で10分間処理して、13000gで2分間遠心して核可溶分画タンパク質を除いた。ペレットに、溶解緩衝液(10mM HEPES(pH7)、500mM NaCl、1mM EDTA、1% NP‐40、プロテアーゼ インヒビター カクテル)を加えて、十分混合した後に低振幅(level3)で超音波処理(TAITEC, VP-15S)を10秒間で3回行い、13000gで30秒間遠心後に、上清を新しいエッペンドルフチューブに移し、タンパク質量を、Lowry法を基にしたDCプロテインアッセイ(BioRad, Cat. No. 5000116JA)で測定し、40μg以下のタンパク質をウェスタンブロッティングに使用した。
【0066】
実施例8:GFPレポーターを用いたDNA二本鎖切断修復アッセイ
誤りがち修復経路であるsingle‐strand annealingを計測するために、hprtSAGFPベクターを用いた(Addgene, Plasmid No. 41594)。野生型とRECQL4欠損HCT116細胞に、KpnI/SacIで直線化したhprtSAGFPベクターをAmaxaで導入し(Starkら, MCB, 2004, 24, 9305-9316)、24時間後に、96穴プレートにおけるピューロマイシン(Wako, Cat. No. 160-23151)含有培地で培養し、安定的にベクターを保持している数クローンを得た。その後、pCBASceIベクター(Addgene, Plasmid No. 26477)で、I‐SceIを発現させてGFP陽性になるクローンを樹立し、これらの数クローンを用いて修復効率を定量した。
【0067】
実施例9:siRNA処理とRad52阻害剤処理
AllStars Negative Control siRNA(Qiagen, Cat. No. SI03650318)を、対照として用いた。Rad52のsiRNAの配列情報は、siRNA#1;5'-GGAGUGACUCAAGAAUUAATT-3'(配列番号5)と、siRNA#2;5'-GGCCCAGAAUACAUAAGUATT-3'(配列番号6)であり、これら2つのsiRNAを等量混合し、HiPerFect Transfection Reagent(Qiagen, Cat. No. 301704)で細胞に導入し、36時間〜48時間後に実験に用いた。Rad52阻害剤は、(−)エピガロカテキン(EGC);CAS 970‐74‐1(Tokyo Chemical Industry, Cat. No. E1084)と、5-アミノ-1-((2R,3R,4S,5R)-3,4-ジヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)-テトラヒドロフラン-2-イル)-1H-イミダゾール-4-カルボキサミド(AICAR);CAS 2627‐69‐2(Wako, Cat. No. 011-22533)を用いた。AICAR以外のAMPK活性化剤は、直接活性化剤としてサリチレート(salicylate);CAS 54‐21‐7(Wako, Cat. No. 191-03142)、間接活性化剤として2-デオキシ-D-グルコース(以下、2DGと略記する場合がある);CAS 154‐17‐6(Wako, Cat. No. 040-06481)を使用した。それぞれの薬剤についてPBS溶液を作製し、分注後に−30℃で保存し、使用時に解凍することで、同じ条件の阻害剤溶液として用いた。
【0068】
実施例10:シスプラチン誘導ゲノム欠失に対するEGC処理の効果の検討
HCT116細胞間のゲノムの不均一性を排除するために、96穴プレートを用いて一細胞が一穴に入るように細胞を播種し、3週間培養して一つの細胞を1x10
6まで増やし、この細胞を対照ゲノムとして使用した。この対照細胞に対して、シスプラチン処理有/無を行い、96穴プレートを用いて一細胞が一穴に入るように細胞を播種し、EGC含有培地又は通常培地にて2週間培養した。2週間目にEGC含有培地を通常培地と交換し、計3週間培養して一つの細胞を1x10
6まで増やし、これらの細胞を標的ゲノムとして用いて、対照ゲノムとの比較解析を行った(
図7A)。アレイCGH(comparative genomic hybridization; array)を、Affimetrix社のCytoScan(登録商標)HD Arrayを使用し(徳島大学大学院 医歯薬学研究部 総合研究支援センター)、Affimetrix社の解析ソフトCytoScan(登録商標)HD Chromosome Analysis Suite(ChAS)を用いて、一色法による比較解析を行った(
図7B)。
【0069】
実施例11:BALB/cAJcl‐nu/nuマウスを用いたXenograft実験
マウス実験を、産業医科大学によって承認された動物実験計画承認申請書(AE15‐016)に基づいて行った。対数増殖している3×10
6個の野生型、RECQL4欠損、及びp53欠損HCT116細胞を、それぞれ遠心分離して回収し、PBSで洗浄後、100μl PBSで細胞ペレットを氷上で充分懸濁した。氷上のまま等量の100μl マトリゲル(Matrigel)(登録商標)(Corning, Cat. No. 356234)を加えて充分懸濁し、1:1の投与用細胞溶液を作製した。6〜8週齢の雌BALB/cAJcl‐nu/nuマウス(CLEA Japan)の左右の横腹に計2か所、氷上に置いておいた投与用細胞溶液を皮下投与した(Buzzaiら, Cancer Res, 2007, 67, 6745-52)。マウスの体重を1週間に1回計測し、がん容量(mm
3)を1週間に2回計測した。がん容量(mm
3)を、dを最小直径、Dを最大直径として、d
2×D/2(≒6/π)の計算式を用いて計算した。
【0070】
(結果)
Nalm‐6などのBリンパ球は、放射線に高感受性であることがよく知られている。そこで、RECQL4欠損細胞の放射線やシスプラチン高感受性が、がん細胞で一般的な表現型であることを確認するために、大腸がん細胞HCT116と、非がん細胞である不死化乳腺上皮細胞MCF10Aに対して、Cas9‐CRISPR技術を用いてRECQL4欠損細胞を樹立した(
図1A及びC)。その結果、RECQL4欠損大腸がん細胞もシスプラチンに高感受性であることを確認したが(
図1B)、興味深いことに、RECQL4欠損MCF10A非がん細胞では高感受性を示さなかった(
図1D)。これらの結果から、がん細胞でRECQL4機能が欠損すると、放射線やシスプラチンに高感受性となることを見出した。
【0071】
次に、放射線とシスプラチン高感受性の分子機序を明らかにするために、HCT116細胞での放射線とシスプラチン処理後のDNA修復タンパクの挙動を、蛍光免疫染色法で可視的に定量解析した。DNA二本鎖切断修復経路の一つである相同組換え修復(HR)の主要因子であるRad51は(Shinoharaら, Cell, 1992, 69, 457-470)、DNA二本鎖切断認識マーカーであるγH2AXと同様に(Rogakouら, JBC, 1998, 273, 5858-68)、放射線照射後の時間経過と共に減少した(
図2A及びB)。一方、DNA一本鎖切断認識マーカーであるRPAは(Raderschallら, PNAS, 1999, 96, 1921-1926)、放射線照射後の時間経過と共に増加した(
図2C)。RPAは、DNA二本鎖切断修復経路の一つである一本鎖アニーリング修復(SSA)の主要因子であり、その他のSSA主要因子であるRad52の挙動も調べると(Shinohara及びOgawa, Nature, 1998, 391, 404-407)、RPAと同様の挙動を示した(
図2D)。RPAとRad52タンパク質の蓄積は、RECQL4欠損細胞で有意に増加し、RecQL4タンパク質を異所性発現させると抑制された(
図2E及びF)。この結果から、RECQL4欠損細胞では、放射線やシスプラチン処理によるDNAダメージによって、SSA修復経路が有意に活性化することを見出した。
【0072】
DNAの二本鎖切断とDNAを折りたたんでいるクロマチン領域は密接に関係しており、密に折りたたんでいるヘテロクロマチン領域は切断されにくく、緩く折りたたんでいるユークロマチン領域は切断されやすいことが分かっている(Goodarziら, Mol Cell, 2008, 31, 167-77)。そこで、SSA修復因子のDNAダメージ部位への蓄積を、クロマチン分画を濃縮して生化学的に解析した。
図2の結果と相関するように、Rad51とγH2AXの一過性の増加と減少がみられたが、Rad52とRPA2は時間経過と共にクロマチン分画に蓄積し、RECQL4欠損細胞ではこの増加が顕著であった(
図3A及びB)。ホルムアルデヒドによるタンパク質とクロマチンの架橋方法を用いていないので、SSA因子とクロマチンとの結合は比較的強いと考えられる。上記の結果から、RECQL4欠損がん細胞では、放射線照射によるDNA傷害後に、遅延的にDNA修復SSA因子がクロマチンに蓄積することを見出した。
【0073】
RECQL4欠損がん細胞でのSSA活性化を決定付けるために、GFPレポーターアッセイを用いて、定量的なSSA活性測定を行った(Starkら, MCB, 2004, 24, 9305-9316)。RECQL4欠損がん細胞では、SSA活性の有意な増加が見られたが、RecQL4タンパク質の異所性発現によってSSA活性が抑制されたので(
図4A〜C)、RecQL4タンパク質が、がん細胞でSSAを抑制する働きを担うことを見出した。
【0074】
RECQL4欠損がん細胞では、SSA活性が増加していることを見出したので、SSA活性が、がん細胞の生存に必要かどうかを検討するために、siRNAによって人為的にSSA活性を抑制した(
図5A)。その結果、Rad52タンパク質発現を抑えることで、RECQL4欠損がん細胞が有意に減少することが判明した。また、RECQL4タンパク質を異所性発現させた場合、表現型が元に戻ることから、RECQL4欠損がん細胞は、生存のためにSSA活性を増加させていることを見出した(
図5B)。
【0075】
次に、
図5の結果を確認するために、最近Rad52阻害剤として同定された、緑茶の成分であるエピガロカテキン(Hengelら, eLife, 2016; 5:e14740)と、代謝調節薬AICARを用いて実験を行った(Sullivanら, PLoS One, 2016, 11, e0147230)。その結果、どちらの薬剤処理でも同様に、濃度依存的にRECQL4欠損がん細胞を有意に抑制することを見出した(
図6A〜C)。AICARは、AMPK活性化剤として知られているが(Sullivanら, FEBS Lett, 1994, 353,33-6)、直接的AMPK活性化剤であるサリチレートや、間接的AMPK活性化剤である2DG処理では(Vincentら, Oncogene, 2015, 34, 3627-39)、RECQL4欠損がん細胞への特異的な抑制効果が見られなかった(
図6E及びF)。これらの結果から、RECQL4欠損がん細胞の抑制効果は、Rad52を標的とする特異的な抑制効果であることが明らかとなった。
【0076】
最後に、エピガロカテキンがSSA経路を選択的に抑制し、さらなるDNA修復、DNA複製、及びDNA組換えの誤りの蓄積による遺伝的不安定性の誘導と、それに伴う二次性発がんや転移などのがんの悪性化等を抑制することを裏付けるために実験を行った。実験結果を、
図7に示す。
図7の結果に示されるように、エピガロカテキン処理により、シスプラチン処理によって誘導されるゲノム欠失が抑制されることが明らかになった。
【0077】
上記研究によって、誤りがちDNA修復経路におけるSSAの阻害が、RECQL4欠損がん細胞の抑制に効果的であることを、分子・細胞レベルでの解析により見出した。
【0078】
次に、個体レベルでのSSA阻害効果を実証するために、野生型とRECQL4欠損HCT116細胞を、BALB/cAJcl‐nu/nuマウスに皮下投与して、生体内でのがん細胞増殖能力を調べるxenograft実験を行った。AICAR処理でp53欠損HCT116細胞の増殖が抑制されることが分かっているので(Buzzaiら, Cancer Res, 2007, 67, 6745-52)、p53欠損HCT116細胞を対照として用いた。報告通り、野生型細胞に比べてp53欠損細胞は、AICAR処理で増殖が抑制された(
図8A〜C)。興味深いことに、RECQL4欠損細胞の方が、p53欠損細胞よりもAICAR処理による増殖抑制効果が大きかった(
図8A〜C)。
【0079】
もう1つのSSA阻害剤であるEGCは、EGCG(エピガロカテキン ガレート)に比べて生物効果が小さく、EGCGが集中的に研究されてきた経緯があり(例えば、PubMedにおいて「epigallocatechin gallate」を検索した場合4524件ヒットするが、「epigallocatechin NOT gallate」を検索した場合、305件しかヒットしない)、マウスへのEGC投与研究は皆無に等しい。しかしながら、ヒトでの臨床応用がし易いこと等を考慮して、マウスへのEGC経口投与を試みることにした。動物へのEGC投与に関する研究は、マウスでは腹腔内投与(i.p.)20mg/kgの報告のみなので(Wang et al, PLoS One, 2013; e56631)、より低濃度15mg/kgの経口投与(p.o.)を行ってSSAの阻害効果をマウスで調べた。その結果、AICAR同様に、RECQL4欠損がん細胞で、有意なEGCによる増殖抑制効果を観察した(
図9A〜C)。
【0080】
SSA抑制によるがん細胞の増殖抑制効果をマウス個体レベルで確認したので、次に、抗がん剤であるシスプラチン処理後に活性化されるSSAをタイミング良く阻害することで、効果的に相乗的ながん細胞抑制効果が得られるのではないか、という仮説を検証した。RECQL4欠損がん細胞は、AICARとシスプラチン単独処理でも感受性を示すが(
図1B、及び
図6B)、2つを同時に処理すると、相乗的ながん細胞抑制効果を確認した(
図10A)。さらに、24時間以降のSSAが遅延的に活性化するタイミングでSSA阻害剤を処理することで、初期24時間処理に比べて効果的ながん細胞抑制効果を見出した(
図10B)。
【0081】
最後に、細胞レベルでのがん細胞の増殖抑制相乗効果を、マウス個体レベルでも検証した。抗がん剤であるシスプラチンを投与した翌日に、EGCを経口投与する投与方法を選択した。その結果、EGC単独ではRECQL4欠損がん細胞の抑制効果が見られなかったが、これは、今回の投与方法が、
図9に示すものよりもEGC投与頻度が少なく、投与間隔が空いたことに起因すると考えられる。シスプラチン単独投与でのがん細胞抑制効果と、シスプラチンとEGCの併用投与による相乗的ながん細胞抑制効果を観察した(
図11A〜E)。これらの結果から、抗がん剤であるシスプラチンでの処理によって活性化されるSSAを阻害することで、マウス個体レベルでもRECQL4欠損がん細胞の相乗的増殖抑制効果を確認した。
【0082】
(結論)
上記の結果から、抗がん剤処理後や放射線照射後に生存するために、SSAが活性化し易い特殊ながん細胞、具体的には、例えば、BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子に変異をもつ乳がんや卵巣がんの細胞や、APC遺伝子変異による家族性大腸腺腫症の細胞に対して、抗がん剤処理後や放射線照射後に遅延的にタイミング良くSSA阻害剤で処理することで、抗がん剤処理や放射線照射に起因する副作用を低減し且つ相乗的にがん細胞の増殖を抑制することができることが、分子レベルから個体レベルまでを通して明らかになった。