特許第6969810号(P6969810)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6969810RNA−タンパク質複合体及びこれによるRNAおよびタンパク質のデリバリーシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6969810
(24)【登録日】2021年11月1日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】RNA−タンパク質複合体及びこれによるRNAおよびタンパク質のデリバリーシステム
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20211111BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20211111BHJP
   C12N 15/87 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   C12N15/113 ZZNA
   C07K19/00
   C12N15/87 Z
【請求項の数】7
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2019-195334(P2019-195334)
(22)【出願日】2019年10月28日
(62)【分割の表示】特願2016-532953(P2016-532953)の分割
【原出願日】2015年7月8日
(65)【公開番号】特開2020-22497(P2020-22497A)
(43)【公開日】2020年2月13日
【審査請求日】2019年11月26日
(31)【優先権主張番号】特願2014-141431(P2014-141431)
(32)【優先日】2014年7月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 博英
(72)【発明者】
【氏名】長田 江里子
【審査官】 川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/010862(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/067811(WO,A1)
【文献】 Nat. Nanotechnol., 2011, Vol. 6, pp. 116-120
【文献】 生化学,2014年,第86巻,第1号,第81-85頁
【文献】 J. Am. Chem. Soc., 2013, Vol. 135, pp. 340-346
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C07K 1/00−19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内のmRNAを分解する方法(ただし、前記細胞がヒト体内の細胞である場合を除く)であって、
次の(1)から(4)を含むRNA−タンパク質複合体;
(1)次の(i)から(iii)の配列を含むRNA;
(i)RNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列、
(ii)7塩基以上の配列を2つ、および
(iii)siRNA配列、
(2)次の(a)から(d)の配列を含むRNA;
(a)前記(1)の(i)と共にRNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列
(b)前記(1)の前記(ii)の2つの7塩基以上の配列に連続して相補的な14塩基以上の配列を2つ以上、
(c)5’末端配列、および
(d)3’末端配列であって、
当該(c)の5’末端配列および(d)の3’末端配列が、前記(1)の前記(ii)の7塩基以上の配列に連続して相補的であり、
(3)前記(1)の(i)および前記(2)の(a)で形成されるRNAとRNA−タンパク質結合モチーフを形成するタンパク質を少なくとも1つ、ならびに
(4)前記(1)の(iii)のsiRNA配列に相補的な配列を含むRNA
と細胞を接触させる工程を含む方法。
【請求項2】
前記(1)のRNAが3つであり、前記(2)の(b)の14塩基以上の配列を2つであり、および前記(4)のRNAが3つである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記(1)の(ii)の配列が、7塩基以上85塩基以下であり、前記(2)の(b)の配列が、14塩基以上92塩基以下である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記(1)の(i)および前記(2)の(a)で形成されるRNA−タンパク質結合モチーフが、K-turnモチーフであり、前記(3)のタンパク質が、L7Aeである、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記(3)のタンパク質が、細胞表面抗原を特異的に認識するタンパク質または膜透過性ペプチドをさらに含む融合タンパク質である、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記膜透過性ペプチドが、AntP、HIV由来のTAT、Penetratin、Buforin II、Transportan、MAP、K-FGF、Ku70、Prion、pVEC、Pep-1、Pep-7、SynB1、HN-IおよびHSV由来のVP22から成る群より選択されるペプチドである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記RNA−タンパク質複合体と細胞を血清存在下で接触させる、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特異的な構造を有するRNA−タンパク質複合体とその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノテクノロジーの分野において生体分子を用いたナノスケール構造体の構築が行われており、またタンパク質工学の分野では分子設計による酵素の新規創成が試みられている。それらの試みにおいて使用されている「材料」は核酸あるいはタンパク質である。
【0003】
このような核酸およびタンパク質を用いて作製された構造体として、三角形構造体が報告されている(特許文献1および非特許文献1)。
【0004】
しかし、このような三角形構造を有する核酸およびタンパク質から成る複合体の機能については知られておらず、その使用方法について具体的な報告はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2010/010862
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ohno H, et al., Nat Nanotechnol. 2011 6:116-120.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
RNA−タンパク質複合体の特性を利用したRNAまたはタンパク質のデリバリーシステムまたは新規構造を有する機能性RNA−タンパク質複合体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものである。すなわち、本発明は、一実施の形態によれば、細胞表面抗原を特異的に認識するタンパク質を含むRNA−タンパク質複合体を用いて当該細胞の認識能をより高めるため、RNA構造を適宜選択してRNA−タンパク質複合体を用いることを特徴とする。
本発明は、別の実施の形態によれば、機能性RNAおよび機能性タンパク質を含むRNA−タンパク質複合体を利用して当該機能を発揮させることを特徴とする。
【0009】
すなわち、本発明は以下の特徴を有する:
[1]次の(1)から(3)を含むRNA−タンパク質複合体による、RNAおよびタンパク質のデリバリーシステム。
(1)次の(i)から(iv)の配列を含むRNA;
(i)RNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列を3つ以上、
(ii)15塩基以上の配列を2つ以上、
(iii)5’末端配列、および
(iv)3’末端配列であって、
当該(iii)の5’末端配列および(iv)の3’末端配列が合計して15塩基以上の配列であり、
(2)次の配列を含むRNA;
(a)前記(1)の(i)と共にRNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列を3つ以上、
(b)前記(1)の(ii)の15塩基以上の配列に相補的な配列を1つ以上、
(c)前記(1)の(iii)の5’末端配列および3’末端配列に連続して相補的な配列、
(d)5’末端配列、および
(e)3’末端配列であって、
当該(d)の5’末端配列および(e)の3’末端配列が、前記(1)の(ii)の15塩基以上の配列に連続して相補的であり、ならびに
(3)前記(1)の(i)および前記(2)の(a)で形成されるRNAとRNA−タンパク質結合モチーフを形成するタンパク質および細胞表面抗原を特異的に認識するタンパク質を含む、少なくとも1つの融合タンパク質。
[2]前記(1)の(i)のRNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列が3つであり、前記(2)の(a)のRNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列が3つであり、前記(1)の(ii)の15塩基以上の配列が2つであり、ならびに前記(2)の(b)の15塩基以上の配列に相補的な配列が1つである、[1]に記載のシステム。
[3]前記(1)の配列、前記(1)の(iii)の5’末端配列および(iv)の3’末端配列の合計、前記(2)の(b)の配列、または(d)に前記(2)の(d)の5’末端配列および(e)の3’末端配列の合計が、15塩基以上92塩基以下である、[1]または[2]に記載のシステム。
[4]前記(1)の配列、前記(1)の(iii)の5’末端配列および(iv)の3’末端配列の合計、前記(2)の(b)の配列、または(d)に前記(2)の(d)の5’末端配列および(e)の3’末端配列の合計を、細胞表面抗原への結合能を高めるように、塩基長が適宜選択されている、[1]から[3]のいずれか1項に記載のシステム。
[5]前記(1)の(i)および前記(2)の(a)で形成されるRNA−タンパク質結合モチーフが、K-turnモチーフであり、前記(3)のRNA−タンパク質結合モチーフを形成するタンパク質が、L7Aeである、[1]から[4]のいずれか1項に記載のシステム。
[6]前記(3)の細胞表面抗原を特異的に認識するタンパク質が、HER2を認識するタンパク質である、[1]から[5]のいずれか1項に記載のシステム。
[7]前記HER2を認識するタンパク質が、Affibodyである、[6]に記載のシステム。
[8]血清存在下でデリバリーが行われる、[1]から[7]のいずれか1項に記載のシステム。
[9]次の(1)から(4)を含むRNA−タンパク質複合体;
(1)次の(i)から(iii)の配列を含むRNA;
(i)RNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列、
(ii)7塩基以上の配列を2つ、および
(iii)siRNA配列、
(2)次の(a)から(d)の配列を含むRNA;
(a)前記(1)の(i)と共にRNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列
(b)前記(1)の前記(ii)の2つの7塩基以上の配列に連続して相補的な14塩基以上の配列を2つ以上、
(c)5’末端配列、および
(d)3’末端配列であって、
当該(c)の5’末端配列および(d)の3’末端配列が、前記(1)の前記(ii)の7塩基以上の配列に連続して相補的であり、
(3)前記(1)の(i)および前記(2)の(a)で形成されるRNAとRNA−タンパク質結合モチーフを形成するタンパク質を少なくとも1つ、ならびに
(4)前記(1)の(iii)のsiRNA配列に相補的な配列を含むRNA。
[10] 前記(1)のRNAが3つであり、前記(2)の(b)の14塩基以上の配列を2つであり、および前記(4)のRNAが3つである、請求項9に記載のRNA−タンパク質複合体。
[11]前記(1)の(ii)の配列が、7塩基以上85塩基以下であり、前記(2)の(b)の配列が、14塩基以上92塩基以下である、[9]または[10]に記載のRNA−タンパク質複合体。
[12]前記(1)の(i)および前記(2)の(a)で形成されるRNA−タンパク質結合モチーフが、K-turnモチーフであり、前記(3)のタンパク質が、L7Aeである、[9]から[11]のいずれか1項に記載のRNA−タンパク質複合体。
[13]前記(3)のタンパク質が、細胞表面抗原を特異的に認識するタンパク質または膜透過性ペプチドをさらに含む融合タンパク質である、[9]から[12]のいずれか1項に記載のRNA−タンパク質複合体。
[14]前記膜透過性ペプチドが、AntP、HIV由来のTAT、Penetratin、Buforin II、Transportan、MAP、K-FGF、Ku70、Prion、pVEC、Pep-1、Pep-7、SynB1、HN-IおよびHSV由来のVP22から成る群より選択されるペプチドである、[13]に記載のRNA−タンパク質複合体。
[9]から[14]のいずれか1項に記載のRNA−タンパク質複合体による、RNAおよびタンパク質のデリバリーシステム。
[15][9]から[14]のいずれか1項に記載のRNA−タンパク質複合体を含む、RNA阻害剤。
[16][9]から[14]のいずれか1項に記載のRNA−タンパク質複合体と細胞を接触させる工程を含む、細胞内のmRNAを分解する方法。
[17]前記RNA−タンパク質複合体と細胞を血清存在下で接触させる、[16]に記載の方法。
[18](1)次の配列を含むRNA;
(i)RNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列を3つ以上、
(ii)15塩基以上の配列を2つ以上、ならびに
(iii)合わせて15塩基以上の配列から成る5’末端配列および3’末端配列、
(2)次の配列を含むRNA;
(a)前記(1)の(i)と共にRNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列を3つ以上、
(b)前記(1)の(ii)の15塩基以上の配列に相補的な配列を1つ以上、
(c)前記(1)の(iii)の5’末端配列および3’末端配列に連続して相補的な配列、および
(d)前記(1)の(ii)の15塩基以上の配列に連続して相補的な5’末端配列および3’末端配列、ならびに
(3)前記(1)の(i)および前記(2)の(a)で形成されるRNAとRNA−タンパク質結合モチーフを形成するタンパク質および細胞表面抗原を特異的に認識するタンパク質を含む、少なくとも1つの融合タンパク質、
を含むRNA−タンパク質複合体において、細胞表面抗原への結合能を指標として、前記(1)の(ii)の配列、前記(1)の(iii)の配列、前記(2)の(b)の配列、および前記(2)の(d)の配列の塩基長を選択する方法。
[19](1)次の(i)から(iii)の配列を含むRNA;
(i)RNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列、
(ii)7塩基以上の配列を2つ、および
(iii)siRNA配列、
(2)次の(a)から(d)の配列を含むRNA;
(a)前記(1)の(i)と共にRNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列
(b)前記(1)の前記(ii)の2つの7塩基以上の配列に連続して相補的な14塩基以上の配列を2つ以上、
(c)5’末端配列、および
(d)3’末端配列であって、
当該(c)の5’末端配列および(d)の3’末端配列が、前記(1)の前記(ii)の7塩基以上の配列に連続して相補的であり、
(3)前記(1)の(i)および前記(2)の(a)で形成されるRNAとRNA−タンパク質結合モチーフを形成するタンパク質および細胞表面抗原を特異的に認識するタンパク質を含む、少なくとも1つの融合タンパク質、ならびに
(4)前記(1)の(iii)のsiRNA配列に相補的な配列を含むRNA、
を含むRNA−タンパク質複合体において、細胞表面抗原への結合能を指標として、前記(1)の(ii)の配列、および前記(2)の(b)の配列の塩基長を選択する方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、本発明で提供される細胞表面抗原への結合能を有するタンパク質を含むRNA−タンパク質複合体を用いることで、タンパク質単独によって成し得る認識能よりもより強く対象となる細胞を認識することができるため、有利である。また、機能的RNAを含むRNA−タンパク質複合体を用いても当該RNAの機能が発揮されることから、各機能的タンパク質および機能的RNAの組み合わせを用いることで、所望の機能を保持するRNA−タンパク質複合体を提供できるため、有利である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、各RNA−タンパク質複合体のRNA(LS-15 RNA、LS-26 RNA、LS-48 RNA、LS-70 RNA、およびLS-92 RNA)の構造を示す。
図2図2Aは、LS-15 RNAへ各濃度のL7Aeを添加した際のゲルシフトアッセイの結果を示す。図右に、各バンドにおける想定されるRNA−タンパク質複合体の構造を示す。図2Bは、LS-26 RNAへ各濃度のL7Aeを添加した際のゲルシフトアッセイの結果を示す。図右に、各バンドにおける想定されるRNA−タンパク質複合体の構造を示す。図2Cは、LS-48 RNAへ各濃度のL7Aeを添加した際のゲルシフトアッセイの結果を示す。図右に、各バンドにおける想定されるRNA−タンパク質複合体の構造を示す。図2Dは、LS-70 RNAへ各濃度のL7Aeを添加した際のゲルシフトアッセイの結果を示す。図右に、各バンドにおける想定されるRNA−タンパク質複合体の構造を示す。図2Eは、LS-92 RNAへ各濃度のL7Aeを添加した際のゲルシフトアッセイの結果を示す。図右に、各バンドにおける想定されるRNA−タンパク質複合体の構造を示す。図2Fは、LS-26、LS-26mut1、LS-26mut2、LS-26mut3へ各濃度のL7Aeを添加した際のゲルシフトアッセイの結果を示す。図右に、各バンドにおける想定されるRNA−タンパク質複合体の構造を示す。
図3図3は、各RNA−タンパク質複合体のRNA(LS-15 RNA、LS-26 RNA、LS-48 RNA、LS-70 RNA、およびLS-92 RNA)へL7Aeを添加した場合(+ L7Ae)またはL7Aeを添加しなかった場合(- L7Ae)にける高速AFM (HS-AFM)像を示す。各上図は下図を拡大した像を示す。
図4図4は、LS-26、LS-26mut1、LS-26mut2、LS-26mut3へL7Aeを添加した場合(+ L7Ae)またはL7Aeを添加しなかった場合(- L7Ae)にける高速AFM (HS-AFM)像を示す。
図5図5は、LS-26、LS-26mut1、LS-26mut2、LS-26mut3へL7Aeを添加した場合における、RNA−タンパク質複合体中のL7Aeの取り込み量を測定した結果を示す。
図6図6は、LS-26へL7Aeを添加した時の高速AFM (HS-AFM)で解析したタイムラプス像(30 sec、35 sec、および85 sec)を示す。上図には、構造の模式図を示す。
図7図7は、LS-26またはRNA−タンパク質複合体(Tri-26)へPhenol処理および20% FBSを添加して30分、60分または120分インキュベートした後のゲルシフトアッセイの結果を示す。
図8図8は、LS-26またはRNA−タンパク質複合体(Tri-26)へPhenol処理および20% ヒト血清を添加して30分、60分または120分インキュベートした後のゲルシフトアッセイの結果を示す。
図9図9Aは、Affibodyを有するRNA−タンパク質複合体の模式図を示す。図9Bは、L7Ae-Affibody融合体を添加(+L7Ae-Affibody)または非添加(-L7Ae-Affibody)のLS-26の高速AFM (HS-AFM)像を示す。左図は右図の拡大像を示す。
図10図10Aは、LS-15 RNAへ各濃度のL7Ae-Affibody融合体を添加した際のゲルシフトアッセイの結果を示す。図右に、各バンドにおける想定されるRNA−タンパク質複合体の構造を示す。図10Bは、LS-26 RNAへ各濃度のL7Ae-Affibody融合体を添加した際のゲルシフトアッセイの結果を示す。図右に、各バンドにおける想定されるRNA−タンパク質複合体の構造を示す。図10Cは、LS-48 RNAへ各濃度のL7Ae-Affibody融合体を添加した際のゲルシフトアッセイの結果を示す。図右に、各バンドにおける想定されるRNA−タンパク質複合体の構造を示す。図10Dは、LS-70 RNAへ各濃度のL7Ae-Affibody融合体を添加した際のゲルシフトアッセイの結果を示す。図右に、各バンドにおける想定されるRNA−タンパク質複合体の構造を示す。図10Eは、LS-92 RNAへ各濃度のL7Ae-Affibody融合体を添加した際のゲルシフトアッセイの結果を示す。図右に、各バンドにおける想定されるRNA−タンパク質複合体の構造を示す。
図11図11は、乳癌細胞株(SKBR3)へ各Affibodyを有するRNA−タンパク質複合体(Tri-15-AFB、Tri-26-AFB、Tri-48-AFB、Tri-70-AFB、およびTri-92-AFB)を添加した際に、当該細胞へ結合したRNA−タンパク質複合体量を意味する蛍光強度を示す。
図12図12Aは、各乳癌細胞株(SKBR3、MCF-7およびMDA-MB-231)へAffibodyを有するRNA−タンパク質複合体(Tri-26-AFB)を添加した際に、当該細胞へ結合したRNA−タンパク質複合体量を意味する蛍光強度を示す。図12Bは、各乳癌細胞株(SKBR3、MCF-7およびMDA-MB-231)へAffibodyを有するRNA−タンパク質複合体(Tri-26-AFB)を添加した後の染色像(Alexa 647(RNAを呈す)、Hoechst(細胞核を呈す))を示す。
図13図13は、乳癌細胞株(SKBR3)へ各変異モチーフおよびAffibodyを有するRNA−タンパク質複合体(Tri-26-AFB、Tri-26mut1-AFB、Tri-26mut2-AFB、およびTri-26mut3-AFB)を添加した際に、当該細胞へ結合したRNA−タンパク質複合体量を意味する蛍光強度を示す。
図14図14は、RNA−タンパク質複合体のRNA(LS-26-siGFP RNA)の構造を示す。
図15図15は、L7Aeを添加(+L7Ae)または非添加(-L7Ae)のLS-26-siGFP RNAの高速AFM (HS-AFM)像を示す。左図は右図の拡大像を示す。
図16図16は、LS-26-siGFP RNAの構成要素であるL1、L2、L3、SおよびASを各組み合わせで含むRNAにL7Aeを添加または非添加の場合もしくは陽性対照としてsh-GFPをDicerの存在下または非存在下で基質であるsh-GFPに接触させた際のゲルシフトアッセイの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を、実施形態を挙げて詳細に説明する。以下の実施形態は本発明を限定するものではない。
【0013】
本発明の一実施形態によれば、RNA−タンパク質複合体による、RNAおよびタンパク質のデリバリーシステムを提供する。デリバリーシステムとは、標的物へ所望の物質を送達させるシステムであり、本発明においては、RNAおよび/またはタンパク質を細胞へ送達するためのRNA−タンパク質複合体と言い換えることもできる。
【0014】
本発明のRNA−タンパク質複合体の一実施形態は、次の(1)から(3)を含む第一のRNA−タンパク質複合体である;
(1)次の(i)から(iv)の配列を含む第一のRNA;
(i)RNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列を3つ以上、
(ii)15塩基以上の配列を2つ以上、
(iii)5’末端配列、および
(iv)3’末端配列であって、
当該(iii)の5’末端配列および(iv)の3’末端配列が合計して15塩基以上の配列であり、
(2)次の(a)から(e)の配列を含む第二のRNA;
(a)前記(1)の(i)と共にRNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列を3つ以上、
(b)前記(1)の(ii)の15塩基以上の配列に相補的な配列を1つ以上、
(c)前記(1)の(iii)の5’末端配列および3’末端配列に連続して相補的な配列、
(d)5’末端配列、および
(e)3’末端配列であって、
当該(d)の5’末端配列および(e)の3’末端配列が、前記(1)の(ii)の15塩基以上の配列に連続して相補的であり、ならびに
(3)前記(1)の(i)および前記(2)の(a)で形成されるRNAとRNA−タンパク質結合モチーフを形成するタンパク質および細胞表面抗原を特異的に認識するタンパク質を含む、少なくとも1つの融合タンパク質。
【0015】
本発明において、(1)の(i)RNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列を含むRNAとは、天然または既知のRNA−タンパク質複合体における、RNAとタンパク質との結合モチーフに含まれるRNA側、または試験管内進化法(in vitro selection法)により得られた人工的なRNA−タンパク質結合モチーフに含まれるRNA側である。
【0016】
天然のRNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列は、通常、約5〜30塩基で構成されており、特定のアミノ酸配列を保有するタンパク質と、非共有結合的に、すなわち水素結合により、特異的な結合を形成することが知られている。このような天然のRNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列は、以下の表1及び表2、及びウェブサイト上で利用できるデータベース:http://gibk26.bse.kyutech.ac.jp/jouhou/image/dna−protein/RNA/RNA.htmlから、所望の構造変化を生ずるモチーフを適宜選択して入手することができる。本実施形態において好ましく用いられるRNA−タンパク質結合モチーフは、X線結晶構造解析またはNMRによる構造解析が既に行われているモチーフ、あるいは構造解析がなされている相同タンパク質の立体構造から立体構造を推定可能なモチーフである。さらに、タンパク質がRNAの二次構造及び塩基配列を特異的に認識するモチーフであることが好ましい。
【0017】
【表1】
【0018】
【表2】
【0019】
人工のRNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列を含むRNAとは、人工的に設計したRNA−タンパク質複合体における、RNAとタンパク質との結合モチーフ中のRNA側である。このようなRNAの塩基配列は、通常、約10〜80塩基で構成されており、特定のタンパク質の特定のアミノ酸配列と、非共有結合的に、すなわち水素結合により、特異的な結合を形成するよう設計する。このような人工的なRNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列を含むRNAとしては、特定のタンパク質に特異的に結合するRNAアプタマーが例示される。標的となる所望のタンパク質に対し特異的に結合するRNAアプタマーは、例えば、in vitro selection法またはSELEX法として知られている進化工学的手法より得ることができる。このときのトリガータンパク質は、当該RNAアプタマーが結合するタンパク質となる。例えば、以下の表3に挙げるRNA配列が知られており、これらもまた本発明のRNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列として用いることができる。
【0020】
【表3】
【0021】
本実施形態において、RNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列は、対応するタンパク質との解離定数Kdが、約0.1nM〜約1μM程度であるものが好ましい。
【0022】
また、これらのRNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列自体に加え、このような配列の変異体も本発明による当該配列に包含される。本発明で述べる変異体とは、RNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列に特異的に結合するタンパク質との間の解離定数Kdが10%、20%、30%、40%または50%以上高い変異体もしくは10%、20%、30%、40%または50%以下の変異体である。このような変異体は、RNA−タンパク質複合体が形成できる限り、適宜選択して用いることができる。また、このような変異体の塩基配列は、当該RNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列(正鎖)に対する相補的な配列を有する核酸(相補鎖)とストリンジェントな条件でハイブリダイズすることができる程度の塩基配列でもよい。ここでストリンジェントな条件は、Berger and Kimmel(1987,Guide to Molecular Cloning Techniques Methods in Enzymology,Vol.152,Academic Press,San Diego CA)に教示されるように、結合する核酸の融解温度(Tm)に基づいて決定することができる。例えばハイブリダイズ後の洗浄条件として、通常「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度の条件を挙げることができる。相補鎖は、かかる条件で洗浄しても対象とする正鎖とハイブリダイズ状態を維持するものであることが好ましい。特に制限されないが、より厳しいハイブリダイズ条件として「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度の洗浄条件、さらに厳しくは「0.1×SSC、0.1%SDS、65℃」程度の洗浄条件で洗浄しても正鎖と相補鎖とがハイブリダイズ状態を維持する条件を挙げることができる。具体的には、上述のRNA−タンパク質結合モチーフに含まれるRNAの配列と少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有する塩基配列からなる。かかる変異体は、RNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列に特異的に結合するタンパク質との間で、一定の結合を保持し、RNA−タンパク質複合体の形成に寄与することができる。
【0023】
本実施形態によるRNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列の具体的な例としては、L7Ae(Moore T et al., Structure Vol. 12, pp. 807−818 (2004))が結合する配列である、boxC motif(5’−GGCGUGAUGAGC−3’)(配列番号1)、kink−loop(配列番号2)、kink−loop2(配列番号3)が挙げられる。
【0024】
別の具体例としては、MS2コートタンパク質が特異的に結合する配列であるMS2ステムループモチーフ(22:Keryer-Bibens C, Barreau C, Osborne HB (2008) Tethering of proteins to RNAs by bacteriophage proteins. Biol Cell 100:125-138)、バチルスのリボソームタンパク質S15が結合する配列であるFr15(24:Batey RT, Williamson JR (1996) Interaction of the Bacillus stearothermophilus ribosomal protein S15 with 16 S rRNA: I. Defining the minimal RNA site. J Mol Biol 261:536-549)が挙げられる。
【0025】
さらなる具体例には、アミノアシル化を行う酵素であって、自身のmRNAに結合し、翻訳を阻害するフィードバック阻害を持つことが知られているThreonyl−tRNA synthetase(Cell (Cambridge, Mass.) v97, pp.371−381 (1999))が結合する配列である、5’−GGCGUAUGUGAUCUUUCGUGUGGGUCACCACUGCGCC−3’(配列番号4)、およびその変異体がある。また、癌細胞特異的な内在性タンパク質であるBcl−2ファミリーCED−9由来のRNA−タンパク質結合モチーフを形成する塩基配列である、R9−2;5’−GGGUGCUUCGAGCGUAGGAAGAAAGCCGGGGGCUGCAGAUAAUGUAUAGC−3’ (配列番号5)、およびその変異体、NF−kappaBに結合するRNA配列のアプタマー由来の塩基配列およびその変異体が挙げられる。
【0026】
本発明の第一のRNA−タンパク質複合体に含まれる第一のRNAに含まれる、(ii)15塩基以上の配列、(iii)5’末端配列、および(iv)3’末端配列は任意の配列であって良いが、好ましくは互いに相補的な配列を含まず、第一のRNA単独で3次構造を取らない配列が例示される。
【0027】
本発明の第一のRNA−タンパク質複合体に含まれる第一のRNAに含まれる、(iii)の5’末端配列および(iv)の3’末端配列が合計して15塩基以上とは、当該5’末端配列と3’末端配列とが連結した場合において、15塩基以上であることを意味し、例えば、5’末端配列が、1塩基であった場合、3’末端配列は14塩基以上であることを意味する。
【0028】
本発明の第一のRNA−タンパク質複合体に含まれる第一のRNAは、例えば、(5’末端配列)−(RNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列)−[(15塩基以上の配列)−(RNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列)]−(3’末端配列)の順に構成され、ここで「−」は連結を意味し、[(15塩基以上の配列)−(RNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列)]は連結した配列がn回繰り返されることを意味する。当該繰り返しは、例えば、2回から10回が例示されるが、好ましくは、[(15塩基以上の配列)−(RNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列)]は2回の繰り返しであり、すなわち第一のRNAは、RNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列を3つ、15塩基以上の配列を2つ有する1つのRNAである。
【0029】
本発明の第一のRNA−タンパク質複合体に含まれる第二のRNAに含まれる、第一のRNAに含まれる配列と共にRNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列とは、上述したRNA−タンパク質結合モチーフを形成する場合において、当該モチーフの形成を補助する配列であり、選択するRNA−タンパク質結合モチーフによっては、当該配列は省略することもでき、例えば、RNA−タンパク質結合モチーフの一部に相補的な配列を含む配列である。例えば、第一のRNAに含まれるRNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列が、boxC motif(配列番号1)である場合、当該配列は、boxD motif(配列番号6)であり、この場合のRNA−タンパク質結合モチーフを形成する二本鎖RNAをK-turnと称することもある。
【0030】
本発明の第一のRNA−タンパク質複合体に含まれる第二のRNAに含まれる、第一のRNAに含まれる5’末端配列および3’末端配列に連続して相補的な配列とは、当該5’末端配列と3’末端配列とが連結して3’末端配列−5’末端配列の順で成るRNAの配列に対して相補的な配列を意味する。第一のRNAに含まれる5’末端配列および3’末端配列は、合わせて15塩基以上であることが望ましいことから、第二のRNAに含まれる相補的な配列も15塩基以上であることが望ましい。
【0031】
本発明の第一のRNA−タンパク質複合体に含まれる第二のRNAに含まれる、5’末端配列および3’末端配列が、第一のRNAに含まれる15塩基以上の配列に連続して相補的であるとは、当該5’末端配列と3’末端配列とが連結して3’末端配列−5’末端配列の順で成るRNAの配列が、第一のRNAに含まれる15塩基以上の配列に対して相補的であることを意味する。従って、第二のRNAに含まれる5’末端配列および3’末端配列は、合わせて15塩基以上であることが望ましい。
【0032】
本発明の第一のRNA−タンパク質複合体に含まれる第二のRNAは、例えば、(5’末端配列)−(第一のRNAと共にRNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列)−[(第一のRNAに含まれる15塩基以上の配列に相補的な配列)−(第一のRNAと共にRNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列)]−(3’末端配列)の順に構成され、いずれか、一つの(第一のRNAに含まれる15塩基以上の配列に相補的な配列)を、(第一のRNAに含まれる5’末端配列および3’末端配列に連続して相補的な配列)に置き換えることによって得られる。第二のRNAにおける“[”および“]”で囲まれる部分の繰り返しの数nは、第一のRNAの繰り返しの数nと同一であり、2回の繰り返しの場合、第二のRNAは、第一のRNAと共にRNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列を3つ、第一のRNAに含まれる15塩基以上の配列に相補的な配列を1つ有する1つのRNAである。
【0033】
第一のRNA−タンパク質複合体に含まれるタンパク質は、少なくとも1つが、(3)の融合タンパク質であれば、残りの2つ以上は、RNA−タンパク質結合モチーフを形成するタンパク質であればよく、融合タンパク質でなくてもよい。本発明において融合タンパク質とは、2種類以上のタンパク質が機能的に連結しているタンパク質を意味する。機能的に連結しているとは、当該タンパク質が機能するように連結されていることを意味し、例えば、スペーサー配列を介しての連結が挙げられる。スペーサー配列は、任意の2〜200アミノ酸の配列とすることが好ましい。スペーサー配列のアミノ酸配列は、融合タンパク質に含まれるタンパク質の機能に悪影響を与えない配列であれば特に制限されないが、配列番号28に記載のアミノ酸配列である。(3)の融合タンパク質は、RNA−タンパク質結合モチーフを形成するタンパク質を少なくとも含んでなる。当該タンパク質は、RNA−タンパク質結合モチーフのRNAに合わせて適宜選択することができる。特に限定されないが、例えば、表1、表2、表3に記載のタンパク質(蛋白質)である。本発明の一実施態様において、RNA−タンパク質結合モチーフがK-turnである場合、L7Ae(Moore T et al., Structure Vol. 12, pp. 807-818 (2004))が例示される。
【0034】
本発明の第一のRNA−タンパク質複合体に含まれる(3)の少なくとも一つの融合タンパク質は、RNA−タンパク質結合モチーフを形成する機能に加え、細胞表面抗原を特異的に認識する機能を有する融合タンパク質であり、例えば、RNA−タンパク質結合モチーフを形成するタンパク質と細胞表面抗原を特異的に認識する機能を有するタンパク質との融合タンパク質である。
【0035】
本発明において、細胞表面抗原を特異的に認識する機能を有するタンパク質とは、細胞表面抗原と特異的に結合するタンパク質であり、例えば、抗体、リガンドタンパク質、およびAffibodyが挙げられる。Affibodyは、Protein A のIgG 結合ドメインの一部を改変して作製したタンパク質であり、スクリーニングによって所望の細胞表面抗原と結合するAffibodyを適宜選択することができる。細胞表面タンパク質が、HER2であるとき、Affibodyとして、(ZHER2:342)2(Lina E., et al., PLOS ONE 2012, 7, 11, e49579)、Anti-ErbB2 Affibody Molecule (ab31889)(アブカム社)などが例示される。
【0036】
本発明において、RNA−タンパク質複合体に含まれるタンパク質の数は、第一のRNAに含まれるRNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列の数に依存するため、3つ以上を含有させることが可能である。3つ以上のタンパク質のうち、少なくとも1つが、(3)の融合タンパク質であればよく、2つ以上の(3)の融合タンパク質を含んでいてもよい。2つ以上の(3)の融合タンパク質を含む場合、これらは、同種の(3)の融合タンパク質であってもよく、異なる(3)の融合タンパク質であってもよい。RNA−タンパク質結合モチーフを形成するタンパク質は、RNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列に依存し結合する、特異的なタンパク質を用いることが可能であるため、RNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列を適宜変更し、かつ、これに所望のタンパク質を融合させることで、所望のタンパク質をRNA−タンパク質複合体に含ませることが可能となる。RNA−タンパク質複合体に含まれるタンパク質は、任意選択的に、RNA−タンパク質結合モチーフを形成するタンパク質および他の機能的タンパク質を含む融合タンパク質を1種または2種以上含んでも良い。
【0037】
本発明において、他の機能的なタンパク質とは、膜透過性ペプチド、シグナルペプチド、エンドソームリリースペプチドまたは細胞障害性タンパク質などが例示される。
【0038】
本発明において、融合タンパク質は、互いに機能の異なる他の機能的なタンパク質を2種以上含んで成るタンパク質でもよく、例えば、RNA−タンパク質結合モチーフを形成するタンパク質、細胞表面抗原を特異的に認識するタンパク質および膜透過性ペプチドの融合タンパク質でも良い。あるいは、これらと、エンドソームリリースペプチド含むタンパク質の融合タンパク質であっても良い。
【0039】
本発明において、膜透過性ペプチドとは、ショウジョウバエ由来のAntP、HIV由来のTAT (Frankel, A. et al, Cell 55,1189-93 (1988)又はGreen, M. & Loewenstein, P. M. Cell 55, 1179-88 (1988))、Penetratin (Derossi, D. et al, J. Biol. Chem. 269, 10444-50 (1994))、Buforin II (Park, C. B. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 97, 8245-50 (2000))、Transportan (Pooga, M. et al. FASEB J. 12, 67-77 (1998))、MAP (model amphipathic peptide) (Oehlke, J. et al. Biochim. Biophys. Acta. 1414, 127-39 (1998))、K-FGF (Lin, Y. Z. et al. J. Biol. Chem. 270, 14255-14258 (1995))、Ku70 (Sawada, M. et al. Nature Cell Biol. 5, 352-7 (2003))、Prion (Lundberg, P. et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 299, 85-90 (2002))、pVEC (Elmquist, A. et al. Exp. Cell Res. 269, 237-44 (2001))、Pep-1 (Morris, M. C. et al. Nature Biotechnol. 19, 1173-6 (2001))、Pep-7 (Gao, C. et al. Bioorg. Med. Chem. 10, 4057-65 (2002))、SynB1 (Rousselle, C. et al. Mol. Pharmacol. 57, 679-86 (2000))、HN-I (Hong, F. D. & Clayman, G L. Cancer Res. 60, 6551-6 (2000))、及びHSV由来のVP22等のタンパク質の細胞通過ドメインなどが例示される。膜透過性ペプチドを、RNA−タンパク質複合体に含ませることにより、RNA−タンパク質複合体を、細胞膜を透過させることにより細胞内部に輸送することが可能である。
【0040】
本発明において、シグナルペプチドとは、タンパク質の細胞内の特定のオルガネラに輸送または局在化に係わるアミノ酸配列であり、オルガネラとしては、核、細胞質、小胞体、ミトコンドリア、ゴルジ体、またはペルオキシソームなどが例示され、機能を発揮させたい所望のオルガネラに輸送および局在化するシグナルペプチドを適宜選択することができる。例えば、後述する第二のRNA−タンパク質複合体に含まれるsiRNAの機能を発揮させたい場合、細胞質輸送を成し得るシグナルペプチが好ましく、そのようなシグナルペプチドとして核外輸送シグナル(NES)が例示される(WO 2012/008361)。NESの具体例としては、下記の配アミノ酸配列を有するペプチドが挙げられるが、これらに限定されない。
LPPLERLTL [配列番号7](HIV-1 Revタンパク由来NES配列)
ALQKKLEELELDE [配列番号8](MAPKK由来NES配列)
LALKLAGLDI [配列番号9](PKI-α由来NES配列)
SLEGAVSEISLRD [配列番号10](Dsk-1由来NES配列)
LPVLENLTL [配列番号11](TFIIIA由来NES配列)
LASLMNLGMS [配列番号12](Matrin3由来NES配列)
【0041】
本発明において、細胞障害性タンパク質とは、免疫細胞を誘因するタンパク質、細胞死を誘発するタンパク質、細胞膜に孔を生じさせるタンパク質などが例示される。免疫細胞を誘因するタンパク質として、抗体のFc部位、補体などが例示され、細胞死を誘発するタンパク質として、β−ガラクトシダーゼ、ジフテリア毒素、シュードモナス毒素、リシン、コレラ毒素、網膜芽細胞腫遺伝子、p 53、単純ヘルペスチミジンキナーゼ、水痘−帯状疱疹チミジンキナーゼ、シトシンデアミナーゼ、ニトロレダクターゼ、シトクロムp-4502 B1、チミジンホスホリラーゼ、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ、アルカリホスファターゼ、カルボキシペプチダーゼAおよびG2、リナマラーゼ(linamarase)、β−ラクタマーゼおよびキサンチンオキシダーゼが例示され、細胞膜に孔を生じさせるタンパク質として、パーフォリン、Bacillus thuringiensis A1470 株が産生するパラスポリンなどが例示される。細胞障害性タンパク質を、RNA−タンパク質複合体に含ませることにより、RNA−タンパク質複合体がデリバリーされた細胞において、免疫細胞の誘因、細胞死、細胞膜に孔を生じさせるなどの機能を発揮させることができる。
【0042】
本発明において、エンドソームリリースペプチドとは、エンドサイトーシスにより取り込まれた構造体が、このペプチドの効果によりエンドソームから脱出し、構造体を細胞質へ移行させることで、リソソームによる分解を回避する効果などを有するペプチドが例示される。例えば、インフルエンザウイルスのヘマグルチニンおよびGALAなどが例示される。エンドソームリリースペプチドをRNA−タンパク質複合体に含ませることにより、当該複合体を細胞質へ移行させることができる。例えば、標的細胞にデリバリーされるRNA−タンパク質複合体が細胞表面より内部に輸送され、エンドソームにトラップされた場合、細胞質に移行することで標的遺伝子の発現をノックダウンする機能を発揮させることができる。
【0043】
本発明の第一のRNA−タンパク質複合体に含まれる15塩基以上の配列とは、特に上限はなくとも良いが、例えば、150塩基以下、100塩基以下、92塩基以下、90塩基以下、80塩基以下、70塩基以下、60塩基以下、50塩基以下、48塩基以下の配列であり、より好ましくは、26塩基の配列である。
【0044】
本発明の第一のRNA−タンパク質複合体は、これを構成する第一のRNA、第二のRNA、融合タンパク質もしくはタンパク質のそれぞれを、上記の分子的特徴を備えるように設計する工程と、第一のRNA、第二のRNA、融合タンパク質もしくはタンパク質のそれぞれを通常の遺伝子工学的手法によって得る工程と、当業者に公知の条件下において第一のRNA、第二のRNA、融合タンパク質を混合し、複合体を形成させる工程とにより得ることができる。遺伝子工学的手法によって得る工程は、第一のRNA、第二のRNA、融合タンパク質もしくはタンパク質のそれぞれは、プロモーター配列を含むテンプレートDNAを鋳型として用いたin vitro合成法により、得ることができる。複合体を形成させる工程は、自体公知のRNA鎖をハイブリダイズする条件によりRNA二重鎖を作製後、タンパク質と接触させることによって行い得る。このように形成された第一のRNA−タンパク質複合体は、水溶液系でRNA及び蛋白質のデリバリーシステムを実施するために用いられる。
【0045】
本発明の第一のRNA−タンパク質複合体を利用したデリバリーシステムを用いる場合、タンパク質のみを用いるデリバリーシステムよりも細胞認識効率が上がることが確認されている。従って、より効率的なデリバリーを成し得るため、適宜RNA−タンパク質複合体に含まれるRNAまたはタンパク質を選択することができる。好ましくは、RNAの配列の長さを適宜選択することによって、細胞認識効率を上げることができる。RNAの配列は、当該RNAに含まれる15塩基以上の配列、5’末端配列、および3’末端配列を適宜変更することで行い得る。特には、当該RNAに含まれる15塩基以上の配列の塩基数、及び、5’末端配列、および3’末端配列の合計の塩基数を適宜変更することで行い得る。変更は、特には、細胞表面抗原の結合能を高める観点から実施することができる。したがって、塩基数を適宜変更した第一のRNA−タンパク質複合体を用いて、所望の細胞表面抗原に対する結合能を測定することで、細胞認識能が高くなる塩基数を決定することができる。この点で、本発明は、一実施形態によれば、第一のRNA−タンパク質複合体において、細胞表面抗原への結合能を指標として、前記(1)の(ii)の配列、前記(1)の(iii)の配列、前記(2)の(b)の配列、および前記(2)の(d)の配列の塩基長を選択する方法ということもできる。
【0046】
第一のRNA−タンパク質複合体を含むデリバリーシステムにおいて、RNAは通常血清の存在下では分解されやすいが、当該複合体を形成させることにより本発明は、血清存在下で実施することができ。血清としては、特に限定されないが、デリバリーシステムにおいて、対象となる細胞と同種起源の血清が例示され、例えば、ウシ胎児血清、ヒト血清等が挙げられる。血清存在下での実施の一つの態様として、第一のRNA−タンパク質複合体を対象となる生体に、静脈内投与することが例示される。
【0047】
本発明のRNA−タンパク質複合体の他の実施形態は、次の(1)から(4)を含む第二のRNA−タンパク質複合体である;
(1)次の(i)から(iii)の配列を含む第一のRNA;
(i)RNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列、
(ii)7塩基以上の配列を2つ、および
(iii)siRNA配列、
(2)次の(a)から(d)の配列を含む第二のRNA;
(a)前記(1)の(i)と共にRNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列
(b)前記(1)の前記(ii)の2つの7塩基以上の配列に連続して相補的な14塩基以上の配列を2つ以上、
(c)5’末端配列、および
(d)3’末端配列であって、
当該(c)の5’末端配列および(d)の3’末端配列が、前記(1)の前記(ii)の7塩基以上の配列に連続して相補的であり、
(3)前記(1)の(i)および前記(2)の(a)で形成されるRNAとRNA−タンパク質結合モチーフを形成するタンパク質を少なくとも1つ、ならびに
(4)前記(1)の(iii)のsiRNA配列に相補的な配列を含む第三のRNA。
【0048】
本発明の第二のRNA−タンパク質複合体において用いられる第一のRNAに含まれるRNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列、および第一のRNAと共にRNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列は、上述の第一のRNA−タンパク質複合体と同一のものが用いられ得る。
【0049】
本発明の第二のRNA−タンパク質複合体の第一のRNAに含まれる7塩基以上の配列は、任意の配列であって良いが、好ましくは他の7塩基以上の配列に相補的な配列を含まず、第一のRNA単独で3次構造を取らない配列が例示される。
【0050】
本発明の第二のRNA−タンパク質複合体の第一のRNAに含まれるsiRNA配列とは、siRNAを構成する二本鎖RNAの一方のRNA配列であって、RNA干渉の標的となる任意のmRNAの一部であり、好ましくは、18塩基から35塩基の配列である。このような配列は、種々のwebサイト上に無料で提供される検索ソフトを用いて検索が可能である。このようなサイトとしては、例えば、いずれもAmbionが提供するsiRNA Target Finder(http://www.ambion.com/jp/techlib/misc/siRNA_finder.html)及びpSilencerTM Expression Vector用 インサート デザインツール(http://www.ambion.com/jp/techlib/misc/psilencer_converter.html)、RNAi Codexが提供するGeneSeer(http://codex.cshl.edu/scripts/newsearchhairpin.cgi)が挙げられるがこれらに限定されず、QIAGEN、タカラバイオ、SiSearch、Dharmacon、Whitehead Institute、Invitrogen、Promega等のwebサイト上でも同様に検索が可能である。
【0051】
本発明の第二のRNA−タンパク質複合体の第一のRNAは、例えば、5’(siRNA配列)−(7塩基以上の配列)−(RNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列)−(7塩基以上の配列)3’の順または、5’(7塩基以上の配列)−(RNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列)−(7塩基以上の配列)−(siRNA配列)3’の順に構成される。
【0052】
本発明の第二のRNA−タンパク質複合体において、第一のRNAは、少なくとも3つ以上含まれることが好ましく、例えば、10、9、8、7、6、5、4などが挙げられる。最も好ましくは、3である。RNA−タンパク質複合体の第一のRNAは、互いに異なる配列を有しても良く、また、同じ配列で構成されても良い。ただし、当該第一のRNA同士で結合することを避けるため、互いに相補的な配列を含まないことが望ましい。
【0053】
本発明の第二のRNA−タンパク質複合体の第二のRNAに含まれる、第一のRNAに含まれる2つの7塩基以上の配列に連続して相補的な14塩基以上の配列とは、第一のRNAに含まれる7塩基以上の配列のうち3’末端側にある配列と他の第一のRNAに含まれる7塩基以上の配列のうち5’末端側にある配列とが連結して生じる配列に相補的な配列を意味する。第一のRNAに含まれる2つの7塩基以上の配列に連続して相補的な14塩基以上の第二のRNAに含まれる配列の数は、第二のRNA−タンパク質複合体に含まれる第一のRNAの数に依存しており、当該第一のRNAが3つの場合、当該第二のRNAに含まれる14塩基以上の配列は、2つである。
【0054】
本発明の第二のRNA−タンパク質複合体の第二のRNAに含まれる、5’末端配列、および3’末端配列が、第一のRNAに含まれる7塩基以上の配列に連続して相補的であるとは、当該5’末端配列と3’末端配列とが連結して3’末端配列−5’末端配列の順で成るRNAの配列の一部であって、5’末端配列および3’末端配列のいずれの配列も含む配列が第一のRNAに含まれる7塩基以上の配列に相補的であることを意味し、より好ましくは、3’末端配列−5’末端配列の順で成るRNAの配列が、第一のRNAに含まれる7塩基以上のうち3’末端側にある配列と他の第一のRNAに含まれる7塩基以上のうち5’末端側にある配列とが連結して生じる配列に相補的な配列である。従って、第二のRNAに含まる3’末端配列および5’末端配列は、合わせて14塩基以上となり、例えば、第二のRNAに含まれる3’末端配列が、13塩基である場合、第二のRNAに含まれる5’末端配列は1塩基以上である。
【0055】
本発明の第二のRNA−タンパク質複合体の第二のRNAは、例えば、(5’末端配列)−(第一のRNAと共にRNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列)−[(第一のRNA2つの7塩基以上の配列に連続して相補的な14塩基以上の配列)−(第一のRNAと共にRNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列)]−(3’末端配列)の順に構成され、いずれか、一つの(第一のRNAに含まれる15塩基以上の配列に相補的な配列)を、(第一のRNAに含まれる5’末端配列および3’末端配列に連続して相補的な配列)に置き換えることによって得られる。第二のRNAにおける“[”および“]”で囲まれる部分の繰り返しの数mは、第一のRNAの数よりも1だけ少なく、2回の繰り返しの場合、第一のRNAと共にRNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列を3つ有するRNAである。
【0056】
本発明の第二のRNA−タンパク質複合体に含まれるタンパク質は、上述の第一のRNA−タンパク質複合体において説明した、(3)のタンパク質もしくはタンパク質融合体と同一のものが用いられ得る。したがって、本発明の一実施態様におけるRNA−タンパク質複合体に含まれるタンパク質は、RNA−タンパク質結合モチーフを形成するタンパク質に加え、他の機能的なタンパク質を含むタンパク質融合体を含み得る。
【0057】
本発明の第二のRNA−タンパク質複合体に含まれるタンパク質は、第一のRNAの数に依存するため、3種以上である。RNA−タンパク質結合モチーフを形成するタンパク質は、RNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列に依存して特異的なタンパク質を用いることが可能であるため、RNA−タンパク質結合モチーフを形成する配列を適宜変更することで、所望のタンパク質をRNA−タンパク質複合体に含ませることが可能となる。例えば、RNA−タンパク質結合モチーフを形成するタンパク質および細胞表面抗原を特異的に認識するタンパク質を含む融合タンパク質を1種含み、RNA−タンパク質結合モチーフを形成するタンパク質および他の機能的タンパク質を含む融合タンパク質を2種以上含むRNA−タンパク質複合体を形成することができる。
【0058】
本発明の第二のRNA−タンパク質複合体のRNAに含まれる、siRNA配列に相補的な配列を含む第三のRNAは、前述した(1)(iii)のsiRNA配列に相補的な配列であり、当該siRNA配列と二重鎖を形成することでsiRNAを構成し、その効果を発揮することができる配列である。したがって、第三のRNAは、その3’末端側に位置する2塩基が、(1)(iii)のsiRNA配列とは相補鎖を形成しない配列となっていることが好ましい。第三のRNAは、第一のRNAと同数が、RNA−タンパク質複合体に含まれることが望ましい。
【0059】
本発明の第二のRNA−タンパク質複合体に含まれる第一のRNAの5’末端または第三のRNAの3’末端には、さらに、当該複合体の細胞質への輸送を促進する配列を付加してもよく、このような細胞質への輸送を促進する配列には、tRNAの配列がある。tRNAは、RNA ポリメラーゼを認識するプロモーターの一つであるととともに、細胞質輸送シグナルとしての機能も果たすため、本発明の第二のRNA−タンパク質複合体のsiRNA機能の発揮を補助する可能性がある(日本特許第3831785号)。
【0060】
本発明の第二のRNA−タンパク質複合体は、複合体に含まれるsiRNAによる機能を有することから、RNA阻害剤として用いることができる。さらに、第二のRNA−タンパク質複合体を細胞内に導入することで当該細胞におけるsiRNA配列に対応するmRNAを抑制する方法に用いることができる。第二のRNA−タンパク質複合体を細胞内に導入する方法としては、第一のRNA−タンパク質複合体を細胞内に導入する方法と同様にして実施することができる。かかる方法は、RNA−タンパク質複合体と細胞を接触させる工程を含む、細胞内のmRNAを分解する方法ともいうことができる。このとき、細胞との接触は、in vivoで行うこともできるし、in vitroで行うこともできる。
【0061】
本発明の一実施態様において、第二のRNA−タンパク質複合体に含まれる、RNA−タンパク質結合モチーフを形成するタンパク質と細胞表面抗原を特異的に認識するタンパク質の融合タンパク質を含む場合、デリバリーシステムに用いることができる。デリバリーの実施は、第一のRNA−タンパク質複合体と同様の態様で行うことができる。そこで、より効率的なデリバリーを成し得るため、適宜RNA−タンパク質複合体に含まれるRNAまたはタンパク質を選択することができる。好ましくは、RNAの配列の長さを適宜選択することによって、細胞認識能を上げることができる。RNAの配列の変更は、当該RNAに含まれる2つの7塩基以上の配列、5’末端配列、および3’末端配列を適宜変更することで行い得る。
【0062】
特には、当該RNAに含まれる2つの7塩基以上の配列の塩基数、及び、5’末端配列、および3’末端配列の合計の塩基数を適宜変更することで行い得る。変更は、特には、細胞表面抗原の結合能を高める観点から実施することができる。したがって、塩基数を適宜変更した第二のRNA−タンパク質複合体を用いて、所望の細胞表面抗原に対する結合能を測定することで、細胞認識能が高くなる塩基数を決定することができる。この点で、本発明は、一実施形態によれば、第二のRNA−タンパク質複合体において、細胞表面抗原への結合能を指標として、前記(1)の(ii)の配列、前記(1)の(iii)の配列、前記(2)の(b)の配列、および前記(2)の(d)の配列の塩基長を選択する方法ということもできる。
【実施例】
【0063】
以下に、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。以下の実施例は本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0064】
RNA−タンパク質複合体の作製
三角形構造RNA−タンパク質複合体(Tri-RNP、図1)を、Ohno, H. et al.,. Nat. Nanotechnol. 2011, 6, 116.の記載に従い作製した。詳細には、K-turn RNAモチーフを頂点に有し、一辺が、それぞれ、15塩基、26塩基、48塩基、70塩基および92塩基の長鎖(L-RNA)および短鎖(S-RNA)からなるdsRNAsを設計した。それぞれ、LS-15(L-15:配列番号13およびS-15:配列番号14)、LS-26(L-26:配列番号15およびS-26:配列番号16)、LS-48(L-48:配列番号17およびS-48:配列番号18)、LS-70(L-70配列番号19およびS-70配列番号20)およびLS-92(L-92配列番号21およびS-92配列番号22)と称す(図1)。RNAは、前述のDNAテンプレートを元にMEGAshortscript T7 kit(Ambion)を用いて作製した。得られたL-RNAとS-RNAをRNP結合溶媒(150ml KCl、1.5mM MgCl2および20mM HEPES-KOH(pH 7.5)から成る溶液)にて、80℃で3分間処理した後、室温にて10分間冷却することで、RNAどうしをハイブリダイズさせ、ループ構造を有する二重鎖RNA (LS-RNA)を作製した。
【0065】
さらに、Ohno, Hらの記載に従い、LS-RNAへL7Aeを添加することで、相互作用により5つの異なる大きさの三角形構造を形成させた。L7Aeは、プラスミド(L7Ae配列を導入したpET-28(+) vector (Novagen))を大腸菌(Rosetta(DE3)/pLysSpRARE2)にトランスフェクションすることで作製した。
【0066】
得られた5種のTri-RNPを、Tri-15、Tri-26、Tri-48、Tri-70およびTri-92と称し、1辺は、およそ13.7、16.7、22.6、28.5および34.4 nmの長さと考えられる。
【0067】
続いて、電気泳動移動度シフト解析(EMSA)より、L7Aeと当該LS-RNAの相互作用を分析した。ポリアクリルアミドゲルを用いて電気泳動後、ポリアクリルアミドゲルを、SYBR Green IおよびII(Lonza)で染色し、RNA-タンパク質複合体の形成を観察した。その結果、期待通り、全てのLS-RNAにおいてL7Aeとの相互作用により三角形構造体を形成していることが確認された(図2)。
【0068】
続いて、Tri-RNPを視覚的に観察した。Tri-RNP (Tri-26およびTri-48)を、高速AFM (HS-AFM)(Nano Live Vision, Research Institute of Biomolecules Metrology)および10×2×0.1μMのカンチレバー(BL-AC10EGS, Olympus)を用いて液相で観察した。400-1000 kHz共鳴周波数で0.1-0.2 N/mのバネ定数にてカンチレバーを設定した。プローブは、電子ビームでカンチレバーに沈着させた。0.1% APTESでマイカ表面をコーティングし、RNP結合溶媒とAFM観察溶媒(20mM Tris-HCl (pH7.6)および10 mM MgCl2)に溶解させた50 nMのサンプルをマイカ上に静置した。画像は、ImageJおよびWSxMなどのソフトウエアを用いて解析した。
【0069】
その結果、L7Aeと接触させない場合、5つの異なる大きさのLS-RNAは二重鎖RNAの構造でループ構造を呈した。一方、L7Aeと接触させた場合、三角形構造を呈することが確認された。RNA がK-turnモチーフと結合している様子が、Tri-RNPの頂点のドットとして確認され、3辺で囲まれた三角形内部は空洞で確認され、L7Aeと接触させた場合は、単一構造を呈することが確認された(図3)。ただし、Tri-92では、三角形構造が、少し変形することが確認された。
【0070】
続いて、変異K-turnモチーフ(mut box C:配列番号23、mut box D:配列番号24)を1つ、2つまたは3つ有するLS-RNA(Tri-26mut1、Tri-26mut2およびTri-26mut3)をEMSAより確認した。その結果、それぞれの変異K-turnモチーフの数に応じた構造変化が確認された(図4)。このとき、それぞれ n=114,135, 93, 188個の構造体を計測し、構造形成の割合を算出した結果、L7AeとK-turnモチーフの含有比率と、確認された実際の構造の比率は、統計的に一致していた(図5)。これらの結果より、3つのL7AeとK-turnモチーフの相互作用が、三角形の頂点で行われていることが確認された。
【0071】
タイムラプス画像によるRNA−タンパク質複合体(RNP)の構造変化の検出
上述したHS-AFMを用いて、L7Ae添加後のRNA構造における変化をタイムラプス撮像より観察した(図6)。タイムラプス画像により、L7Aeが直接3つのLS-26のK-turnモチーフに結合すると、K-turnモチーフが60度の角度に折り曲げられ、この構造変化より、三角形構造へ移行することを確認した。一方、RNAからタンパク質が解離することで、三角形構造からループ構造へと移行することも確認された。
【実施例2】
【0072】
タンパク質との相互作用によるRNAの安定性の改良
血清の存在下におけるRNA−タンパク質複合体(RNP)の構造安定性について確認した。詳細には、50 nM LS-26または50 nM LS-26と300nM L7Aeとの混合物に20% FBSを添加し、37℃で0分、30分、60分および120分インキュベート後、10 mM EDTA (pH8.0)およびフェノールを添加し、ポリアクリルアミドゲルを用いて電気泳動し、RNAの安定性を観察した。その結果、LS-26においてL7Aeの存在下でRNPを形成させることで、血清含有緩衝液における、その安定性が亢進することが確認された(図7)。一方、L7Aeの非存在下では、LS-26は、30分間の血清処理で分解することが確認された。また、Tri-26mut3を用いた場合、分解は抑制されなかった。同じ結果が、ヒト血清(20%)においても観察された(図8)。これらの結果より、三角形構造を形成することで、血清存在下などの生理的条件下においても、RNAの安定性が高まることが確認された。
【実施例3】
【0073】
細胞認識能を有する機能的RNP
Tri-RNPに特定の癌細胞を認識する機能を付加した。詳細には、affibodyZHER2:342ペプチド(配列番号25および26)のN末端でSSSGSSSGSSSG(配列番号27および28)を介しL7AeのC末端と融合したタンパク質(L7Ae-AFB)を、上述のとおり、Ohno, Hらの記載に従い、プラスミドを大腸菌にトランスフェクションすることで用意した。このL7Ae-AFBをLS-RNAに添加し、RNPを構築した(Tri-AFB、図9A)。LS-26をRNAとして用いた場合(Tri-26-AFB)の三角形構造をHS-AFMにて確認し、各頂点にAFBと推定される物質が付加されていることも確認できた(図9B)。さらに、EMSAを用いてTri-26と同様にL7Ae-AFBが、K-turnモチーフに結合することが確認された(図10)。
【0074】
続いて、当該Tri-AFBが、乳癌細胞に結合するか否かについて確認した。詳細には、乳癌細胞株(SKBR3)(ATCC)の培養液を除去し、Opti-MEMを加えた後、Alexa-647でラベルした10 nM LS- RNA、または10 nM Tri-AFBを添加し、37℃、5%CO2下で1時間培養した。インキュベート後の細胞へのTri-AFBの結合は、フローサイトメーターで分析した。その結果、Tri-26-AFBが、最も認識能が高かった(図11)。Tri-26-AFBの選択的認識能を調べるため、3つの異なる乳癌細胞株(SKBR3(HER2強陽性株)、MCF-7(HER2弱陽性株)およびMDA-MB-231(HER2陰性株))を用いて同様に調べたところ、Tri-26-AFBは予想通りSKBR3を選択的に認識することが確認された(図12)。
【0075】
さらに、変異K-turmモチーフを有するTri-26変異体(Tri-26mut1、Tri-26mut2およびTri-26mut3)を用いて同様に調べたところ、変異K-turmモチーフの数に応じて、SKBR3との結合能が弱くなることが確認された(図13)。このことは、AFBとHER2との結合数の増加が認識能に影響したためと示唆される。
【0076】
これらの結果より、Tri-AFBを用いることで、RNAを対象細胞表面へと輸送することが可能であることが示唆された。ただし、細胞への結合能を有するRNPは最適な大きさがあることも確認された。
【実施例4】
【0077】
siRNA機能を有する機能的RNP
三角形構造を有するRNPが、siRNAとしての機能を有するかについて検討を行うため、図14に示すRNPを構築した。詳細には、LS-26の3辺にGFPに対するsiRNAを有するように、S-26、L-26-1(配列番号29)、L-26-2(配列番号30)、L-26-3(配列番号31)およびantisense-GFP(配列番号32)との5つのRNAを上述と同様にハイブリダイズしてLS-26-siGFPを作製した。続いて、LS-26-siGFPとL7Aeとを混合することで三角形構造を有するTri-26-siGFPを作製し、HS-AFMを用いて構造を確認したところ、三角形の各辺に、GFPに対するsiRNAと思われる構造物が確認され、予想された形状を取ることが確認された(図15上段)。一方、L7Aeの非存在下では、不均一なRNA構造を取ることが確認された(図15下段)。以上より、siRNA機能を有する3つの二重鎖を含有する構造を持つ三角形構造(Tri-26-siGFP)を構築することができた。
【0078】
このTri-26-siGFPが、Dicerによる基質認識に関与するかについて検討した。詳細には、500 nM LS-26-siGFP類(L-26-1、S-26およびantisense-GFPのハイブリダイズしたRNA、L-26-2、S-26およびantisense-GFPのハイブリダイズしたRNA、L-26-3、S-26およびantisense-GFPのハイブリダイズしたRNAならびにLS-26-siGFP)または500 nM LS-26-siGFPと3 μM L7Aeの混合物を1 μL の10 mM ATP、0.5μL の50 mM MaCl2、4 μL のDicer Reaction buffer、1 μL のリコンビナントDicer(Genlantis)に水を加え、10 μLとし、37℃で16時間インキュベートした。インキュベート後、Dicer Stop Solutionを加え、Dicerにより切断されたRNAと切断されずに残存したRNAを、ポリアクリルアミドゲル電気泳動にて、確認した。Tri-26-siGFPは、対照として用いたsh-GFP(配列番号33)と同様にDicerによるRNA切断に寄与することが確認された(図16)。従って、L7AeとK-turnモチーフの相互作用により三角形構造をとるTri-26-siGFPであっても、立体障害なくsiRNAの効果を有することが示唆された。
【0079】
以上より、三角形構造を有するRNPは、RNAを安定化し、細胞認識能とsiRNAによるmRNAの分解、並びに阻害の機能を保有させることができることが示唆された。
【0080】
次いで、Tri-26-siGFPによる細胞内でのノックダウン活性を調べた。GFPを安定的に発現するHela細胞(Hela-GFP)に、1 nM及び5 nMのTri-26-siGFP、1 nM及び5 nMのLS-26-siGFP、及び3 nM及び15 nMの陽性対照としてのsh-GFPをそれぞれトランスフェクトした。GFPのノックダウン活性は、GFPの発現レベルにより、フローサイトメトリーを用いて測定した。その結果、Tri-26-siGFP、LS-26-siGFPともに、sh-GFPの3倍程度の活性にて、GFPをノックダウンできることが示された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]