(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ラチェット機構は、前記インジェクタピストン棒(303、403)上の第1の線形ギアラック構造体(367、467)、及び前記インジェクタ本体(305、405)に付着された爪(469)を備え、この爪(469)は、前記活働の設定において前記第1の線形ギアラック構造体(367、467)の歯部に係合する旋回型ばね付勢フィンガとして設計されることを特徴とする、請求項1に記載のインジェクタ。
前記ラチェット機構は、非働化されると、前記作動要素(19、119、219)上のオペレータの指動作に応じて、前記ピストン棒(3、303、403)の前進及び後退動作が可能であることを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のインジェクタ。
前記作動要素(19、119、219)は、前記インジェクタ本体(5、105、205)の長尺方向での手動による押動または引動により操作され得ることを特徴とする、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のインジェクタ。
第2の歯車(116)によって前記第1の歯車(115)から前記ギアラック(113)に駆動力が伝達されるように、その歯部が一方で前記第1の歯車(115)の歯部に係合し、他方で前記ギアラックの歯部に力を伝達する仕方で係合するような方法で、前記第2の歯車は前記第1の歯車(115)と前記ギアラック(113)との間に配設されることを特徴とする、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のインジェクタ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、既存のものに代わるインジェクタを提供することにある。特に目的は、ねじ型と同様に制御され得る、特に低力覚であると同時に片手操作が可能な、インジェクタを開発することにある。更なる目的は、ピストンの前進動作に対するまたはその時の印加力または少なくとも力覚を可能な限り低減することにある。インジェクタの片手操作の場合の手の過度の振動を、全体として防止しなければならない。特に目的は、片手操作の外科医自身の筋力により提供されたレンズを押動してこれを放出するための駆動力により、片手操作を達成することにある。特に、レンズを押動して放出するための内蔵駆動力(例えば、内蔵駆動ばね、または内蔵電動モータ等)の支援無しに、駆動力が達成される。インジェクタは、比較的簡素で、低コストで製造され得るのが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、眼球中への眼内レンズの注入を目的とした、特に眼内レンズ放出用のインジェクタであって、
インジェクタピストン棒が中で軸方向に変位可能(特にインジェクタ本体の長尺の延長部に沿って変位可能)に案内される長尺インジェクタ本体、
インジェクタ本体の前端部のインジェクタノズルであって、その方向にインジェクタピストン棒が変位される、インジェクタノズル、
インジェクタピストン棒を前方に(即ち、インジェクタノズルに接近する方向に)駆動する(押動する)ための変位機構、及び
変位機構の手動作動のための作動要素、
を含み、
変位機構は伝動機構、好ましくは、手動操作伝動機構、を含み、(特に、作動要素によって、ピストン棒が押し作用を遂行するようにされるように)この伝動機構によって作動要素及びインジェクタピストン棒が関着型駆動接続部に配置され得るかまたは配置されかつ
作動要素の作動のための操作領域はインジェクタ本体の長尺側面に提供(形成)される
ことを更に特徴とする、
インジェクタ、
を提供する点で前述の要件を満たす。
【0012】
被案内インジェクタピストン棒は特に、インジェクタ本体の前端部のインジェクタノズルに接近する方向にインジェクタ本体の長尺延長部に沿って変位可能である。変位機構は伝動機構、好ましくは歯車機構であり、この機構を通して作動要素及びインジェクタピストン棒が関着型駆動接続部、特に力及び/または動作伝達接続部中に配設され、特に作動要素によって、ピストン棒がインジェクタノズルに接近する方向に押動作用を遂行するようにされる。変位機構は、インジェクタノズルに接近する方向へのインジェクタピストン棒の駆動または押動に有用である。作動要素によって、変位機構は手動で作動され得る。インジェクタ本体の長尺側面の操作領域で、作動要素はピストン棒の手動による操作のためにアクセス可能である。
【0013】
本発明によるインジェクタは、ねじ構造と同様に(即ちねじ構造の小さい力覚で)制御され得ると同時に、片手で操作され得る。ピストン棒、したがってレンズの変位動作は、片手の使用時でも上手く制御され得る。本発明によれば、力は歯車、即ちピニオンを経由して(任意選択的に、一連の数個の相互係合する歯車を経由して)印加され、この歯車はギアラックに係合してインジェクタを前方に動かす。インジェクタはこれに関して好ましくは、ボールペンのように保持され、歯車は例えば人差し指で動かされる。操作領域は特に、筐体の前部、即ちノズル最も接近した筐体の部分的区分に存在する。
【0014】
好ましい実施形態では、伝動機構は少なくとも1つの歯車を含み、より好ましくは、伝動機構は少なくとも1つの歯車及びギアラックを含む。力及び動作を伝達するために歯車がギアラックに作用し得、またはギアラックが歯車に作用し得るように、歯車及びギアラックの配設は必要である。
【0015】
好ましい実施形態では、本発明の意味での伝動機構は、例えば少なくとも2つの連結された、力及び/または動作伝達部(例えば1つの歯車及びギアラック等)及び支持部分()例えばインジェクタ本体等)を備える。好ましい実施形態では、インジェクタ本体中に締め込まれ得るねじまたはねじ状手段、例えば、ねじまたはねじ状手段の長尺軸の方向にIOLを押動するための、とりわけ特許文献1に示されるような機構、は伝動機構を構成するものではない。
【0016】
好ましくは、伝動機構は、歯車機構、特に歯車列である。
【0017】
作動要素は、インジェクタ本体の長尺方向への手動による押動または引動により操作され得る。
【0018】
好都合には、歯車列はギアラック伝動装置であり、特に少なくとも1つのギアラック及び少なくとも1つの第1の歯車を含み、これらの歯部は力を伝達するように相互に作用する。
【0019】
好ましくは、作動要素の作動用の操作領域は、インジェクタ本体上のギアラック側に配設される。
【0020】
あるいは、作動要素(219)の作動用の操作領域は、インジェクタ本体上のギアラック裏側に配設される。
【0021】
好ましくは、ギアラック及び第1の歯車の歯部は、相互に、特に歯部の相互係合により、直接作用する。
【0022】
任意選択的に、少なくとも第2の歯車は、力を伝達するために第1の歯車とギアラックとの間に配設され得る。
【0023】
好都合には、第2の歯車は、その歯部が一方で第1の歯車の歯部に係合し他方でギアラックの歯部に係合するように(力伝達状に)、第1の歯車とギアラックとの間に配設される。これにより、第2の歯車によって第1の歯車からギアラックに駆動力が伝達される。
【0024】
ギアラックは、インジェクタピストン棒の部分、特に一体部分であることが好ましい。
【0025】
好都合には、第1の歯車は、作動要素を介して駆動される。
【0026】
好ましくは、作動要素は操作レバーとして第1の歯車に締結される。
【0027】
作動要素、特に操作レバー、は指グリップとして設計され得る。
【0028】
好都合には、操作領域は少なくとも1つの開口部をインジェクタ本体中に有し、この開口部により作動要素は手動作動に対してアクセス可能である。好ましくは、作動要素の少なくとも一部は開口部を通してインジェクタ本体から突出する。
【0029】
任意選択的に、作動要素の手動による引き動作が、ピストン棒の押し動作を、インジェクタノズル方向に、引き動作と実質的に反対にもたらすように、伝動機構は実装される。
【0030】
あるいは、作動要素の手動による押し動作が、ピストン棒の押し動作を、インジェクタノズル方向に、手動押し動作と実質的に平行にもたらすように、伝動機構は実装される。
【0031】
便宜上、インジェクタ本体は、インジェクタノズルに対して、充填装置または充填装置を収容するための凹部を有し、充填装置が配設されるか、または凹部中に配設され得る。
【0032】
便宜上、充填装置は、レンズ用の収容空間、インジェクタピストン棒を挿入するための近位開口部、及びレンズ放出用の遠位開口部を有する。
【0033】
任意選択的に、インジェクタ本体は、インジェクタノズルに至る遠位開口部に加えて、近位開口部を有する。インジェクタピストン棒は、押動により、インジェクタ本体の近位開口部中に導入され、インジェクタピストン棒は、作動要素の作動により、インジェクタノズルの方向に前方に動かされる。
【0034】
便宜上、インジェクタノズルは近位開口部及び遠位開口部が設けられる。インジェクタピストン及びその先端部は、前方に押動されることにより、遠位開口部の方向に近位開口部を通して突き出得る。
【0035】
好都合には、インジェクタノズルは、ホルダ上にインジェクタ本体からある距離を置いて配設される。このホルダは、インジェクタノズルをインジェクタ本体に接続する。インジェクタノズルとインジェクタ本体との間の距離は、充填装置が凹部中に配設され得るように寸法決定される。
【0036】
好ましくは、レンズは眼内レンズである。
【0037】
便宜上、第1の歯車及び任意選択的に第2の歯車は、存在する場合、平歯車として実装される。
【0038】
好都合には、インジェクタは片手操作用に設計される。
【0039】
好ましくは、作動要素の作動のための動作がピストン棒の長さに沿って、特に好ましくは、ピストン棒動作の方向に、またはそれに替えてピストン棒動作と反対方向に、実質的に起こるように、作動要素は設計される。
【0040】
任意選択的に、インジェクタは、インジェクタピストン棒の逆方向動作を抑制するためのラチェット機構を備える。好ましくは、ラチェット機構は、インジェクタピストン棒上の線形ギアラック構造体と、インジェクタ本体に付着された爪とを備える。爪及び線形ギアラックは係合され得、ピストン棒後退方向の運動を阻止するが、ピストン棒の前進方向運動は許容する。このため、ラチェット機構の線形ギアラックの歯部が非対称であることが好ましい。好ましくは各歯は、線形ギアラックの一方向(前進方向)での制約されない動作のための一方の縁部上の緩慢な傾斜面と、線形ギアラックの他方向(逆方向)での爪による動作制約のための他方の縁部上のより急勾配の傾斜面とを有する。爪は、例えば枢動型、任意選択的にばね付勢の突起である。任意選択的に、インジェクタはラチェット機構活働化要素を備え、このラチェット機構活働化要素は、例えば、爪及びギアラックが係合し、それによりラチェット機構が活働状態になる位置に爪を設定するスイッチの形態である。ラチェット機構は少なくとも2つの設定、即ち非働化の爪位置及び活働化の爪位置を含む。ラチェット機構が活働化されると、爪は線形ギアラックの歯部に係合する。ラチェット機構が非働化されると、作動要素(指用回転輪)上のオペレータの指動作に応じてピストン棒の前進及び後退動作が可能である。ラチェット機構が活働化されると、ピストン棒の前進動作のみが実質的に可能である(後退動作はラチェット機構により概ね阻止される)。伝動機構を介した作動要素とピストン棒との間の力及び運動伝達の接続により、ピストン棒の後退動作が阻止されたときも、作動要素は再設定されるのを妨げられる。
【0041】
好都合には、ピストン棒はその先端部に、変形可能なプランジャ、特に例えばシリコーン製プランジャ等の弾性または粘弾性のプランジャを設けられる。
【0042】
好ましくは、ノズルは、3.1416mm
2(平方ミリメートル)未満、より好ましくは3.0mm
2未満、更に好ましくは2.8mm
2未満の横断面を有する遠位端を含む。
【0043】
前述の任意選択的な特徴は、それらが相互に排他的でない限り、任意の所望の組合せで達成され得る。
【0044】
本発明の追加の利点は、以下に続く説明で述べることとする。
【発明の効果】
【0045】
インジェクタは、レンズ用の充填室及びノズルを有する、特に筐体として形成された長尺本体を含み、ノズルを通してレンズが放出され得る。加えて、インジェクタは、特に歯車列またはギアラック伝動装置等の、伝動機構と共に、本体上またはその中に変位可能に支持されたピストン棒を含む。この伝動機構によって、ピストン棒はレンズを放出するために作動され得、ピストン棒は特に充填室を通ってノズル中に前方に駆動され得る。
【0046】
本発明によるインジェクタからレンズを放出するために、レンズは、インジェクタの充填室中に当初は位置するが、ピストン棒によって充填室からインジェクタノズルを通して眼球中に駆動される。本発明によれば、ピストン棒の駆動は伝動機構、特に歯車列またはギアラック伝動装置、を介して行われ、この伝動機構によってピストン棒は前方に駆動され得る。伝動機構は好ましくは手動により動作する。したがって好ましくは、伝動機構は手動による力で駆動されるため、ピストン棒の変位、特にピストン棒の前進動作は手動で、即ち人間オペレータの筋力のみにより行われる。このため、インジェクタを、片手で保持して、同時に同じ手で操作することが可能である。プランジャ棒を駆動し、それによりレンズを眼球に向けて動かしてその中に挿入する上で、人間の筋力以外の駆動力(例えば、ばね駆動等)は要さない。
【0047】
伝動機構、特に歯車列またはギアラック伝動装置によるピストン棒の前進動作の駆動によるレンズ放出が制御された仕方で進行する一方、処置を行う医師は、インジェクタを保持してレンズを放出する際に片手しか必要としない。他方の手は患者に対する他の操作を行う上で自由である。
【0048】
本発明の更なる利点及び特徴は、実寸法とは限らない概略図面の参照により本発明の例示的実施形態の以下の詳細な説明から理解される。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、異なる図中の同一の要素にも同一の参照番号を適用することとする。
【0051】
第1の例示的実施形態において、
図1は、眼内レンズ用の歯車列、特に、ギアラック伝動装置、を有するインジェクタ1を斜視図に概略的に示す。
図2には、インジェクタは分解組立図に示す。
図3、
図4、及び
図5は各々、ピストン棒3の位置が異なるインジェクタ1の断面図を示す。
【0052】
インジェクタ1は、その端部にノズル7が位置する長尺筐体5を含み、ノズル7は、インジェクタの前部を形成する。変位可能なピストン棒3は、筐体5中に支持される。ピストン棒3は、ノズル7を通してレンズを放出するために、ノズル7方向に前方に駆動され得る(
図3)。レンズ(図示せず)用充填室10を有する充填装置9は、ノズル7の後方に設けられる。レンズは、ピストンの前方への駆動または押動により充填室9からノズル7を通して放出され得る。充填装置9は好ましくはカートリッジとして設計され、好ましくはその中に挿入されたレンズと共に使用され得る。レンズを装入したカートリッジは、インジェクタに挿入され得る。充填装置9、または特にカートリッジ10は例えば、2つのシェル半体、即ちクランプ式密閉体11の各々、により形成され得る。
【0053】
ギアラック(即ち線形歯車)13は、歯車(即ちピニオン、好ましくは円形歯車)15と共働し、ピストン3に形成される。ギアラック13及び歯車15は、伝動機構、特にギアラック伝動装置、を形成する。歯車15を手動で作動させることにより、歯車列13の歯部と、歯車15の歯部とが相互に係合するため、ピストン3は前後に動作し得る。ギアラック伝動装置では、ギアラックは、一列の突起、即ち歯部、を有する線形の機械要素であり、歯車(即ちピニオン)がこれに係合する。歯車15は好ましくは、歯車15に堅固に接続された少なくとも1つの作動要素19によって手動で駆動される。作動要素19は、歯車15の直径と比較して拡大されたレバー、好適にはレバー回転輪として、特に半径方向に突出したグリップ部20として形成される。作動要素19は蝶型回転輪としても更に示すこととする。
【0054】
歯車15は回転主軸17を備える。作動要素19もこれと同一の回転主軸17有するのが好都合である。歯車15の回転主軸17は筐体中に支持される。窪み21が例えば筐体5中に設けられて歯車15の回転主軸17を支持する。作動要素19、特に作動要素19の個々のグリップ部20は、筐体5から少なくとも部分的に突出する一方、歯車15は好ましくは、筐体範囲内である筐体5内に位置付けられる。筐体5は、好ましくは伝動機構を筐体5中に完全に収容するように、歯車15の周囲のアーチ構造体として任意選択的に形成される。しかし、筐体は、作動要素19が手動で操作され得るように、作動要素19、特にそのグリップ部20、に対する開口部31、33を有する。
【0055】
歯車15はその機能により、ギアラック13の歯列側(即ちギアラック側)に配設され、任意選択的に、ギアラック13の歯列上方のギアラック変位の軌跡延長部に配設される。これにより、回転輪15の歯部は、ギアラック13の歯部に係合するか、または係合し得る。作動要素19に対するアクセスは、ギアラック側の筐体構造により可能とされる。したがって、1つのみの歯車15を有する本第1の実施形態では、ピストン棒3を前進駆動する作動動作はけん引動作である。指のけん引動作と、その結果のピストン棒3の前進駆動動作は相互に反対である。
【0056】
ピストン棒3は摺動要素23を備えるのが好都合であり、この摺動要素23を介してピストン棒3は正位置から開始位置に手動で変位され得る。この開始位置から、ピストン棒3は作動要素19によって制御された仕方でノズル7の方向に更に変位され得る。摺動要素23は、例えば
図2の実施形態に示すように、ピストン棒の長尺側面に、好ましくはギアラック13後方の側面に取り付けられる。開始位置では、歯車15及びギアラック13の歯部が初めて相互に係合する。即ち、歯車15がギアラック13の1番目(即ち前側)の歯部に係合するか、またはギアラック13の1番目(即ち前側)の歯部を作動要素に係合させ得る。
【0057】
図4は前述の開始位置を示す。この開始位置では、ギアラック13の少なくとも1番目の歯部(即ち前側歯部)が歯車15により係合されるか、または作動要素19を回すことにより係合され得るまで、ピストン棒3は前方に押動される。
【0058】
筐体15は、ピストン棒3の正位置での摺動要素23が筐体5から突出するように形作られる。筐体5は特に、スリット状の開口部35を有する。この開口部35は、筐体の長尺方向と平行に整列し、手動作動が可能なようにこの開口部35を通って摺動要素23が突出する。開始位置に到る筐体箇所には、摺動要素25に対する空隙25を有する反り部が形成される。作動要素19によって開始位置から更にノズル7の方向にピストン3が前進されると、その反り部下で摺動要素23が筐体5中に摺動し得る。
【0059】
筐体5は例えば、少なくとも1つの第1の筐体部分及び第2の筐体部分、好ましくは、上部筐体部分27及び下部筐体部分29、で構成するのが好都合である。これらの両筐体部分は組み合わされ、特に重ね合わされ得る。歯車15の回転主軸17は好ましくは、上部筐体部分27中の窪み21中に支持される。更に、上部筐体部分27は、作動要素19、特に作動要素19のグリップ部20、に対する開口部31、33、35、及びピストン棒3上の摺動要素23を有する。下部筐体部分29はピストン棒3用の収容溝37を備えるのが好都合である。ピストン棒3は、歯車15を有する上部筐体部分27を上に装着する前に、挿入し得る。作動要素19に対するアクセス箇所は上部筐体部分上に設けられ、操作領域36により明示される。
【0060】
本実施形態では、ノズルホルダ41及びカートリッジ収容溝43を有する支持体39は、下部筐体部分29上に形成される。これに代えて、上部筐体部分へのノズルホルダ及び/またはカートリッジ収容溝の配設も考えられ得る。カートリッジ収容溝43は必要に応じて、充填室との一体化充填装置としても形成され得る。
【0061】
ピストン棒3はその先端部45に、プランジャとも呼ぶ、タペット47が設けられ得る。タペットまたはプランジャは、変形可能であり、特に弾性または粘弾性であり得る。好ましくは、ピストン棒3にはシリコーン製プランジャ先端部が設けられる。ピストン棒のノズル側先端部45は、レンズの押動に有用である。
【0062】
インジェクタ1の動作モードは、
図3、
図4、及び
図5から理解され得る。
【0063】
インジェクタは特に、眼球中に眼内レンズを注入するために使用される。これに関して、レンズは、インジェクタの充填室10中に当初は位置し、ピストン棒3によって充填室10からインジェクタノズル7を通して眼球中に放出され得る。本発明によれば、ピストン棒3の駆動は回転輪15を介して行われる。この回転輪15はギアラック13に係合してピストン棒3を前方に動かす。インジェクタ1は、本例では、(例えば、ボールペンのように)片手で保持され、回転輪15、特にその作動要素19、は同じ手の指(例えば、人差し指)によって動かされる。
図1〜
図5による実施形態では、作動要素19は例えばインペラとして形成され、指による数回の引き動作で回転され得る。これにより、ギアラック13、したがってピストン棒3がノズル7に向けて前方に(特に指の引き動作とは反対に)動いてレンズを後者からノズル7の方向に変位させる(
図5)。
【0064】
ピストン棒3自体が眼球中に挿入されないように、ピストン棒3に対する停止手段49を筐体5に設けるのが好都合である。ピストン棒3は特に、停止手段49上での前進動作を阻止する捕獲装置51を備える。好ましくは、捕獲装置51は、ピストン棒から突出して筐体に対して傾斜したばね部材として形成される。前進動作中に、この捕獲装置51は停止手段49に係合する。この停止手段49は筐体狭窄部として、またはそれを用いて任意選択的に形成され、そのばね作用によってピストン棒3の前進動作を緩やかに弱めて最終的にこれを停止させる。ピストン棒の停止端位置を
図5に示す。
【0065】
眼球中への(上述のような)注入の実行前に、通常はインジェクタ1を事前に準備しなければならない。特に、ピストン棒3及びレンズを所定位置に移動しなければならない。以下のようにこれを行うのが好ましい。
【0066】
レンズを充填室10中に配置して、充填室10に挿入した事前充填レンズを有するカートリッジをインジェクタ中に挿入する。疎水性レンズ、即ち乾燥状態で保管したレンズの場合、レンズは、レンズ製造業者により工場で予め保管され得る。ピストン棒3を、摺動要素23により正位置(
図3)から開始位置まで、即ち、歯車15及びギアラック13の歯部が相互係合するまで、前方に押動する(
図4)。開始位置では、歯車15及びギアラック13の歯部は初めて相互に係合する。ピストン棒3が正位置(
図3)から開始位置(
図4)に前方に変位されると、充填室10中のレンズがピストン先端部、特にそこに装着されたタペット47により捕捉されて、第1の部分が充填室10からノズル7の第1の部分的区域中に前方に押動される。正位置(
図3)から開始位置(
図4)にピストン棒3を前方に変位させるためには、摺動要素が例えば筐体5(
図4)と面一になるか、または筐体上のマーカに到達するまで、ピストン棒3をまず摺動要素23によって手動で前方に動かす。必要であれば、レンズ上の圧力は、摺動要素23によるピストン棒3の保持または後退により一時的に開放され得る。正位置(
図3)から開始位置(
図4)へのピストン棒3の前方変位は、例えば助手により、または医師、即ち外科医自身により実行され得る。助手は、開始位置にあるピストン棒3を有するインジェクタ1を医師に手渡す。ピストン棒3の更なる(場合によっては終了位置(
図5)までの)前方変位によりレンズを放出し、そのレンズを眼球中に注入するために、医師は蝶型回転輪19を使用する。蝶型回転輪19の使用に際して、摺動要素23はピストン棒の前方変位の更なる過程で筐体内部に格納される。
【0067】
歯車列によるピストン3の前進動作駆動時にレンズ放出が常時モニタされる一方で、医師は、インジェクタを保持してレンズを放出するのに片手しか必要としない。他方の手は患者に対する他の操作を行う上で自由である。眼球中へのレンズ挿入は、蝶型回転輪上での指の巧みな引き動作で十分に行える。手はグリップする手として解剖学的に計画されているので指のグリップ動作が押し動作より圧力に対する感度が低いため、指の引き動作は特に人間工学的なものと考えられる。
【0068】
しかし、更なる歯車(例えば、中間歯車)を追加することにより多段型伝動機構を形成し得る。例えば、第1の歯車15とギアラック13との間に第2の歯車を挿入した場合、ピストン棒3を前方に(即ち、ノズル7に)駆動するためには、作動要素19、特に蝶型回転輪は今や前方にのみ動かされなければならない。蝶型回転輪19を前方に回すことにより、駆動動作を指で達成し得る。手動による変位動作はこのようにピストンの動作と互いに関連する。代替例インジェクタ中の対応歯車列を
図6〜
図10に示す。
【0069】
第2の例示的実施形態中、
図6は、歯車列、特に2つの歯車及びギアラックを有するギアラック伝動装置、を有する眼内レンズ用のインジェクタ101を概略的に斜視図に示す。インジェクタ1は、
図7では分解組立図に示す。
図8、
図9、及び
図10は各々、ピストン棒103の位置が異なるインジェクタ101の断面図を示す。
図1〜
図5による前述の第1の例示的実施形態と比較して、
図6〜
図10による本第2の例示的実施形態図の差違を以下で検討する。
【0070】
インジェクタ101は、筐体の端部に位置するノズル107を有する長尺筐体105を含む。変位可能なピストン棒103が筐体105中に支持されて、ノズル107を通してレンズを放出するように、ピストン棒103がノズル107の方向に前方に押動され得る(
図8〜
図10)。
【0071】
ピストン103には、ギアラック113が形成される。このギアラック113は、中間的に位置する第2の歯車116によって第1の歯車115と共働する。ギアラック113、第1の歯車115、及び第2の歯車116は、伝動機構、特にギアラック伝動装置を形成する。一方でギアラック113及び第2の歯車116の歯部ならびに他方で第2の歯車116及び第1の歯車115の歯部が相互係合している限り、第1の歯車115を手動で作動させることにより、ピストン103は前後に動かされ得る。第1の歯車115は好ましくは、この第1の歯車115に堅固に接続された少なくとも1つの作動要素119によって手動で駆動される。作動要素119は、レバーとして、好都合には第1の歯車115の直径と比較して拡大されたレバー回転輪として形成される。特に、作動要素119は、半径方向に突出したグリップ部120を有する蝶型回転輪として形成される。
【0072】
第1の歯車115は第1の回転主軸117を有する。作動要素119も同一の回転主軸117を有するのが好都合である。第2の歯車116は第2の回転主軸118を有する。2つの歯車115及び116の回転主軸117及び118は、筐体中で支持される。回転主軸117及び118を支持するために、各々には筐体105中に窪み121及び122が設けられる。歯車115及び116は好ましくは、筐体範囲内または筐体105内に、即ち筐体105の完全に内部に位置付けられる。
【0073】
筐体は近位開口部124を有する。ピストン棒103はその正位置で、筐体105から近位開口部124を越えて突出する(
図8)。好ましくは、ピストン棒103は段差161を有し、この段差161はピストン棒が近位開口部124を通って筐体から抜け出して摺動するのを防止する。ピストン棒103のその近位端123を手で押動することにより、ピストン棒103は正位置(
図8)から開始位置(
図9)に手動で(
図3の第1の例示的実施形態中の摺動要素23の押動と同様に)変位させ得る。開始位置(
図9)から、第2の段差中のピストン棒103は、作動要素119により制御された仕方でノズル107の方向に更に変位させ得る。開始位置(
図9)では、第2の歯車116及びギアラック113の歯部は、初めて相互に係合する。即ち、歯車116はギアラック113の1番目の()即ち、前方)の歯部に係合するか、または作動要素119のある特定の回転後にギアラック113のこの1番目の歯部に係合し得る。
【0074】
筐体105は例えば、少なくとも1つの第1の筐体部分及び第2の筐体部分で、好ましくは上部筐体部分127及び下部筐体部分129で構成するのが好都合であり、これらの両部分は組み合わされるか、または重ね合わされる。第1の回転主軸117及び第2の回転主軸118は好ましくは各々、上部筐体部分127中の対の窪み121、122に各々支持される。加えて、上部筐体部分127は、作動要素119、特に作動要素119のグリップ部120、に対する開口部131、133、及び場合によってはピストン棒123の近位端に対する開口部、を有する。下部筐体部分129はピストン棒103用の収容溝137を有するのが好都合であり、この収容溝137中にピストン棒103が好ましくは、歯車115、116を有する上部筐体部分127が上部に装着される前に、挿入され得る。作動要素119に対するアクセスはギアラック側で許容される。作動要素119に対するアクセスポイントは、操作領域136として示し得る。
【0075】
インジェクタ101の動作モードは、
図8、
図9、及び
図10から理解され得る。
【0076】
図1〜
図5に示したインジェクタ1と同様に、本インジェクタ101は眼球中に眼内レンズを注入するのに特に有用である。このように、レンズは、インジェクタの充填室109中に当初は位置するが、ピストン棒103によってインジェクタノズル107を通して充填室109から眼球中に放出される。本発明によれば、ピストン棒103の駆動は第1の歯車115及び第2の歯車116を介して行われる。第2の歯車116を駆動するために、第1の歯車115は第2の歯車116に係合し、ピストン棒103を動かすために、第2の歯車116は、今度はギアラック113に係合する。インジェクタ101は(例えば、ボールペンのように)片手で保持されると同時に、第1の歯車115、特にその作動要素119は、同じ手の指(例えば、人差し指)で動かされる。第1の歯車115が第2の歯車116に作用してこれが今度はピストン棒103のギアラック113に作用するので、ピストン棒103は作動要素119の作動により動かされ得る。
図5〜
図10による実施形態では、作動要素119は、蝶型回転輪として好都合に形成され、指による数回の押し動作で回し得る。そのため、ギアラック113、したがって(指の押し動作と互いに関連した)ピストン棒103は、ノズル107に接近する方向に動かされ、それによりレンズをノズル107の方向に変位させてそのレンズをノズル107から放出する(
図10)。
【0077】
ピストン棒103それ自体が眼球中に挿入されないように、ピストン棒103の先端部が高々ノズル開口部あたりまで前方に押動され得るのに高々十分な長さにギアラック113を形成するのが好都合である。ピストン棒103中の段差163は、筐体または停止手段149に当接し、ピストン棒3が更に前方に摺動するのを防止し得る。第1の例示的実施形態(
図1〜
図5)の摺動要素23も同様に作用する。これは歯車115に基づいて作用するか、または、このようにまたは同様に作用するように概ね実装され得る。
【0078】
インジェクタ101は通常、(上述のように)眼球中への注入を実行する前に、準備しなければならない。特にピストン棒103及びレンズを適所に移動しなければならない。以下の如くこれを行うのが好ましい。レンズを充填室110中に配置し、特に充填室110中に事前充填したレンズと共にカートリッジをインジェクタ中に挿入する。疎水性レンズ、即ち乾燥状に保管したレンズの場合、レンズは、レンズ製造業者により工場で事前に適所に挿入し得る。筐体から正位置(
図8)に突出するピストン棒103を、ピストン123の後側で手の圧力によって正位置(
図8)から開始位置に、即ち歯車116及びギアラック113の歯部が係合する(
図9)まで、前方に押動する。所望の開始位置(
図9)では、ピストン棒の端部は好ましくは、筐体105に対して面一にある。ピストン棒103全体を筐体105中に挿入する前に、必要であればピストン棒103を維持または後退させることによりレンズ上の圧力を一時的に軽減し得る。正位置(
図8)から開始位置(
図9)へのピストン棒103の前方変位は例えば、助手または医師自身により行い得る。助手により準備を行う場合、前述の開始位置のピストン棒113を好都合に有するインジェクタ101を、処置を行う医師に手渡す。医師は、ピストン棒103の更なる前方変位(任意選択的に終了位置(
図10)まで)によりレンズを放出してそれを眼球中に注入するために、蝶型回転輪119を操作する。
【0079】
第1の例示的実施形態(
図1〜
図5)と同様に、第2の例示的実施形態(
図6〜
図10)によれば、ギアラック歯列を介したピストン棒103の前進動作駆動によるレンズ放出が制御された仕方で進行する一方、医師は、インジェクタを保持してレンズを放出するのに片手しか要さない。他方の手は患者に対する他の操作を行う上で自由である。眼球中へのレンズの挿入には、蝶型回転輪上の巧みな指の押し動作で十分である。
【0080】
上述のいずれの例示的実施形態(
図1〜
図5または
図6〜
図10)でも、インジェクタ1、101は、筐体5、105から突出する作動要素19または119領域に、上面に膨出部として形成される。以下の第3の例示的実施形態(
図11〜
図15)に示すように、歯車がギアラックの下に位置する場合、筐体の上面をより平坦にまたは平坦に(例えば、平坦表面として)形成し得る。
【0081】
第3の例示的実施形態では、
図11は、眼内レンズ用の、歯車列、特にギアラック伝動装置、を有するインジェクタ201を斜視図に示す。
図12はインジェクタ201を分解組立図に示す。
図13、
図14、及び
図15は各々、異なる位置のピストン棒203を有するインジェクタ201の断面図を示す。以下に特に、
図1〜
図5または
図6〜
図10による前述の2つの例示的実施形態と比較した
図11〜
図15による本第3の例示的実施形態の差違を検討する。
【0082】
インジェクタ201は、筐体端部にノズル207を有する長尺筐体205を含む。変位可能なピストン棒203が筐体205中に支持され、ノズル207を通してレンズを放出するために、ピストン棒203はノズル207の方向に前方に変位され得る(
図12〜
図15)。
【0083】
ピストン203上にはギアラック213(例えばギアラック対として実装)が形成される。このギアラック213は歯車215(例えば、歯車対として形成)と共働する。ギアラック213及び歯車215は、伝動機構、特にギアラック伝動装置を形成する。歯車215を手動で作動させることにより、ギアラック213及び歯車215の歯部が相互係合する限りで、ピストン203は前後に動かされ得る。歯車215は好ましくは、少なくとも1つの作動要素219によって手動で駆動される。この作動要素219は歯車215または歯車対に堅固に接続される。作動要素219は、レバーとして、好都合には歯車15の直径と比較して拡大されたレバー回転輪として形成される。作動要素219は特に、半径方向に突出したグリップ部220を有する蝶型回転輪として形成される。
【0084】
歯車215は回転主軸217を有する。作動要素19もこれと同一の回転軸217を有するのが好都合である。歯車215の回転軸217は筐体205中に支持される。歯車215の回転主軸217を支持するために、窪み221が筐体205中に設けられる。作動要素219、特に作動要素の個々のグリップ部220、は筐体205から少なくとも部分的に突出するのに対し、歯車215は好ましくは、筐体の範囲内または筐体205内に、即ち筐体205の内部に完全に位置付けられる。筐体205中の伝動機構の好ましくは完全な収容のために、筐体205は歯車215の周囲にアーチ状に形成される。しかし、作動要素219が手動で操作され得るように、筐体は、作動要素219、特にそのグリップ部220に対する開口部231、233を有する。
【0085】
歯車215はその機能により、ギアラック213の歯部がギアラック213の歯部に係合するか、またはそれに係合し得るように、ギアラック213の歯列の側(即ち、ギアラック側)に、任意選択的に、ギアラック変位部の延長部上に配設される。しかし、筐体構造により、作動要素219に対するアクセスはギアラックの裏面側で許容される。したがって、1つのみの歯車215を有する本第3の実施形態では、ピストン棒203を前進させるための作動動作は、押し動作である。ピストン棒203の指による押し動作及びその結果の前進駆動動作は、互いに関連する。
【0086】
筐体205は近位開口部244を有する。ピストン棒203は、筐体205中にこの開口部244を通して挿入され得、その正位置では筐体205から近位開口部244を越えて突出する(
図13)。
【0087】
ピストン棒203のその近位端223を手動で押動することにより、ピストン棒203は、正位置(
図13)から開始位置に、または押動し続けることにより幾分更なる位置(
図14)に(
図3の第1の例示的実施形態中の摺動要素23の押動と同様に、または
図8の第2の例示的実施形態中の近位端123の押動と同様に)手動で変位され得る。開始位置(
図14)から、その後第2の段差中のピストン棒203は作動要素219により制御された仕方でノズル207の方向に更に前方に変位され得る。
【0088】
筐体205は、例えば少なくとも1つの第1の筐体部分及び第2の筐体部分から、好ましくは上部筐体部分227及び下部筐体部分229から構成されるのが好都合であり、これらの部分は組み合わされるか、または重ね合わされる。歯車215の回転主軸217は好ましくは、下部筐体部分229中の窪み21に支持される。他方、上部筐体部分227は、作動要素219、特に作動要素219のグリップ部220に対する開口部231及び233を有する。近位開口部224は上部筐体部分227中に形成される。開口部224に直接続くこの上部筐体部分227は、ピストン棒203用の収容溝237を有し、この収容溝237中にピストン棒203が挿入され得る。下部筐体部分229は、挿入された歯車215及び作動要素219と共に、上部筐体部分227中へのピストン棒203の挿入前または後に、上部筐体部分227と共に組み合わされ得る。作動要素219に対するアクセスポイントは上部筐体部分上に提供され、操作領域236により明示される。
【0089】
本第3の実施形態では、ノズル穴241及びカートリッジ収容溝243を有する支持体239は、上部筐体部分227のノズル側に形成される。
【0090】
インジェクタ201の動作モードは、
図13、
図14、及び
図15から理解され得る。
【0091】
インジェクタ201もまた、眼内レンズを眼球中に注入するのに特に有用である。第1の例示的実施形態と同様に、第3の例示的実施形態では、ピストン棒203の駆動は少なくとも1つの歯車215介して行われる。この歯車215はギアラック213に係合し、ピストン棒203を前方に動かす。これに関して、インジェクタ201は片手で(例えば、ボールペン状に)保持され、歯車215、特にその作動要素219は同じ手の指(例えば、人差し指)で動かされる。実装例では、
図11〜
図15によれば、作動要素219は、蝶型回転輪として形成され、ギアラック213、したがってピストン棒203がノズル207に接近する方向に(特に、指の引き動作と反対に)動かされ、それによりノズル207の方向にレンズを変位させてレンズをノズル207から放出する(
図15)ように、数回の指による押し動作により回され得る。本第3例示的実施形態(
図13〜
図15)でも、歯車列を介したピストン203の前進動作の駆動に基づくレンズ放出は制御された仕方で進行する一方、医師は、インジェクタを保持してレンズを放出するのに片手しか要さない。他方の手は患者に対する他の操作を行う上で自由である。眼球中へのレンズの挿入には、蝶型回転輪上の指の巧みな押し動作で十分である。
【0092】
レンズ及び/またはプランジャの寸法は通常、遠位ノズル端部(即ち、ノズル出口開口部)より大きい。したがって、レンズ及び/または変形可能なプランジャは、レンズの放出の過程で圧縮されかつ/または変形される。ノズルを通してレンズを押動する目的で、レンズは好ましくは、充填装置内で事前に折り畳まれる。ノズル7とレンズとの間及び/またはノズル7とタペット47との間に、レンズの放出時に摩擦が生じる。摩擦力はレンズ及び/またはタペット47のリバウンド効果、したがって、ピストン棒3のリバウンド効果、を招き得る。
【0093】
実際に、インジェクタ1、101、201の使用時に、作動要素19、119、219を、1本の指(即ち、1本の外科医の指)の数行程により作動し得る。それにより、作動要素19、119、219は、2行程の中間で指により開放されるため、作動要素19、119、219は断続的に動かされる。しかし、作動要素19、119、219が開放された間に、ピストン棒3、103、203の逆摺動が、例えばタペット及び/またはレンズの弾力性、特に上述のリバウンド効果により起こり得る。それにより、作動要素19、119、219を介して印加された順方向圧力が除去されると直ちに、タペット及び/またはレンズが広がり、その結果(即ち、リバウンド効果により)ピストン棒3、103、203は逆方向に押動される。作動要素19、119、219はピストン棒3、103、203と共に回転する。特に蝶型回転輪が使用されるとき、このことは外科医が、例えばリバウンド直前に彼により押圧されていた翼部以外、蝶型回転輪の次の翼部さえつかむことができないことを意味し得る。そのようなリバウンド効果、それによるピストン棒3、103、203の逆方向動作、及び作動要素のそれぞれの動作は、例えばラチェット機構を採用することにより低減または阻止され得る。
【0094】
インジェクタの手動操作時、特に歯車伝動によるレンズの手動による駆動または押動時に、そのようなリバウンド効果、特にタペット及び/またはレンズの弾力性は、特に眼球手術時には高精度を要するため問題となり得る。しかし、この問題は本明細書中に説明したようなラチェット機構の一体化により好都合に克服し得る。
【0095】
ラチェット機構を備えたインジェクタは、小さい切開、例えば2mm以下の切開、例えば1.8mmの切開を通してレンズを注入するのに特に好都合であることが分かった。それぞれの好都合なインジェクタは、3.1416mm
2未満の(即ち、直径2mm以下の円または3.1416mm
2の楕円の表面より小さい)横断面を有する遠位ノズル端部を有するノズルを備える。特に、ラチェット機構は、例えばシリコーン製タペット等の、弾性タペット(即ち、プランジャ)を有するピストン棒を備えたインジェクタ中に存在するのが好ましい。ラチェット機構を用いない場合、例えば放出ノズルまたは眼球組織中の抵抗によりタペット及び/またはレンズが圧縮されると、弾性のタペット及び/またはレンズにより、ばね状にピストン棒が逆方向に押動されることが起こり得る。ピストン棒のそのような逆方向運動は、ラチェット機構により停止または阻止され得る。ラチェット機構は、弾性タペット及び比較的小さい横断面を有する遠位ノズル端部を有するインジェクタに対して特に有利である。
【0096】
ピストン棒先端部が硬質、即ち圧縮不可能であるか、または大型のノズル端部用の大型の弾性タペットを有する場合、リバウンドのリスクはより低い。しかし、安全性の理由で、ラチェット機構はやはり有益であり得る。
【0097】
以下にラチェット機構を有する例示的インジェクタを示す。
【0098】
図16〜
図21に示す第4の例示的実施形態中、
図16は、眼内レンズ用の、歯車列、特にギアラック伝動装置、及びラチェット機構を有するインジェクタ301を斜視図に概略的に示す。
図17には、インジェクタを分解組立図に示す。
図18及び
図19は各々、異なる設定のラチェット機構を有するインジェクタ1の平面図を示し、
図18は非働化状態のラチェット機構を示し、
図19は活働化状態のラチェット機構を示す。
【0099】
図16と同様に、
図20は、眼内レンズ用の、歯車列、特にギアラック伝動装置、及びラチェット機構を有するインジェクタ401を切取り斜視図に概略的に示す。説明目的のために、筐体405の部分を選択的に除去して、内部の特徴、特にラチェット機構の特徴、を見えるように示している。
図21は、筐体405内のラチェット機構の詳細図を示す。
図20及び
図21に示すラチェット機構はその活働化状態の設定である。
【0100】
インジェクタ301、401は長尺の筐体305、405を含み、この筐体305、405は、レンズ用の充填室309、409、及び筐体305、403の端部に位置するノズル307、407を有する。ノズル307、407は、インジェクタ301、401の前部を形成する。変位可能なピストン棒303、403は筐体305、405内に支持される。ピストン棒303、403は、ノズルを通してレンズを放出するために、充填室309、409を通して、ノズル307、407の方向に前方に駆動され得る。これにより、前進するピストン棒303、403が充填室309、409からノズル出口に接近する方向にレンズを押動することになる。
【0101】
ラチェット機構は、ピストン棒303、403の反対方向への運動を阻止しながら、ピストン棒303、403の一方向のみの連続的線形運動、即ち、ピストン棒303、403のノズル307、407に接近する方向への前進動作、を可能にする。ラチェット機構は、
歯部を備える線形ギアラック367、467(ラチェットギアラック)と、このラチェットギアラック367、467の歯部に係合する、例えば旋回型ばね付勢フィンガとして設計され
た爪(または、つめ)46
9とを備える。ラチェットギアラック367、467はピストン棒303、403上に形成された構造体である。ピストン棒先端部に関しては、ラチェットギアラック367、467は好ましくは、ギアラック313、413より更に後部に配置される。爪
469は筐体305、405に固定的に付着されるので、伝動機構のギアラック313及び作動要素319が係合したとき爪469及びギアラック367、467は同時に係合される。ピストン棒303、403、したがってラチェットギアラック367、467が拘束されない方向(即ち、ノズル307、407に接近する前進方向)に動いているとき、爪469は
ラチェットギアラック367、467の歯部の上を容易に摺動する。ばね力が、爪469を
ラチェットギアラック367、467に対して押圧して各歯の先端部を通過するとき歯部の中間に押し下げる。あるいは、歯部を有する
ラチェットギアラックに代えて、高摩擦表面を有する平坦で歯部の無いギアラックを使用し得る。これにより、何らかの逆方向運動により爪が表面に対してつかえて任意の更なる逆方向運動を阻止するように、爪は表面に対して任意の角度で押すのが好ましい。
【0102】
レンズ及び/またはタペット347、447が詰まったかまたは押し付けられた場合、例えばレンズ及びタペットがノズル307、407の狭いチャネル中に押しやられたとき、タペットまたはレンズの固有弾力性によりピストン棒303、403に作用する斥力が生じる。この状況でアクチュエータ319、419に対する手動、順方向の活働化作用を中断した場合、ラチェット機構は、爪469がラチェットのギアラック367に係止するため、ピストン棒303、403のいかなる実質的な逆方向運動をも阻止することになる。
【0103】
任意選択的に、爪がラチェット機構作動要素365、465上に固定され、爪469及びギアラック367、467を解除することによりラチェット機構を手動で非働化することが可能となる。ラチェット機構の作動要素365、465は好ましくは、伝動機構の作動要素319、419よりノズル307、407から更に離れて、したがって伝動機構の作動要素319、419の後に、配置される。
【0104】
ラチェット機構は、上述の目的のために本明細書中に示したいずれの伝動機構とも組み合わせ得る。
【0105】
作動要素の位置に影響する如何なる反発的効果も阻止するための、または作動要素の位置に対する如何なるそのような作用も低減するための上述のラチェット機構に代えてまたはそれに加えて、摺動摩擦力を採用し得る。例えば、摩擦により生じ得る反発的作用が減衰または吸収されるように、余剰摩擦を用いて(例えば、回転主軸17、117、118、217、及び窪み21、121、122、221それぞれの)軸受を設計し得る。
【0106】
特有の実施形態についてこれまで説明したが、例示した実現可能性の異なる組合せもそれらが相互に矛盾しない限り採用し得ることは明らかである。
【0107】
特有の実施形態に関して本発明をこれまで説明したが、本発明の思想から逸脱することなく転換、修正、変形、及び組合せを行い得ることは明らかである。