特許第6969883号(P6969883)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6969883
(24)【登録日】2021年11月1日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】袋状触覚センサ
(51)【国際特許分類】
   G01L 1/16 20060101AFI20211111BHJP
   G01L 5/00 20060101ALI20211111BHJP
   H01L 41/113 20060101ALI20211111BHJP
   H01L 41/087 20060101ALI20211111BHJP
   H01L 41/193 20060101ALI20211111BHJP
   A41D 13/00 20060101ALI20211111BHJP
   A41D 13/08 20060101ALI20211111BHJP
   A41D 19/015 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   G01L1/16 B
   G01L5/00 Z
   G01L5/00 101Z
   H01L41/113
   H01L41/087
   H01L41/193
   A41D13/00 102
   A41D13/08 107
   A41D13/08 104
   A41D19/015 610Z
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-69888(P2017-69888)
(22)【出願日】2017年3月31日
(65)【公開番号】特開2018-173292(P2018-173292A)
(43)【公開日】2018年11月8日
【審査請求日】2020年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】517069066
【氏名又は名称】ロボセンサー技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】特許業務法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大村 昌良
【審査官】 吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−60922(JP,A)
【文献】 特開2014−145717(JP,A)
【文献】 特開2003−15810(JP,A)
【文献】 特開2009−261116(JP,A)
【文献】 特開2008−276664(JP,A)
【文献】 特開平6−289775(JP,A)
【文献】 特開2006−38710(JP,A)
【文献】 特開2005−245909(JP,A)
【文献】 特開2004−160120(JP,A)
【文献】 特開2001−142631(JP,A)
【文献】 特開2008−175836(JP,A)
【文献】 特開2006−230942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 1/00−5/28
H01L 41/113、41/087、
41/193
A41D 13/00、13/08、
19/015
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柔軟性を備えた細長い円筒状の圧電体と、前記圧電体の内部に形成された内部導体と、前記圧電体の外部に形成された外部導体とからなるセンサ電線を組み付けて形成された布状センサが備わった袋状触覚センサであって
前記センサ電線が、前記圧電体を構成する細長い圧電フィルムの一方の面の幅方向の中央部分に前記内部導体を形成するための内部帯状層を形成し、前記圧電フィルムの幅方向の両縁部を重ねるように巻き付けて円筒状に形成され、かつ、
袋状に形成され、少なくとも被処理物に接触する部分に前記布状センサが配置されるとともに、前記布状センサの表裏両面に、厚みが100μm〜1.2mmの絶縁性の軟質樹脂フィルムからなる保護カバーが形成され、手に装着して手のマッサージ装置として用いられることを特徴とする袋状触覚センサ。
【請求項2】
柔軟性を備えた細長い円筒状の圧電体と、前記圧電体の内部に形成された内部導体と、前記圧電体の外部に形成された外部導体とからなるセンサ電線を組み付けて形成された布状センサが備わった袋状触覚センサであって、
前記センサ電線が、前記圧電体を構成する細長い圧電フィルムの一方の面の幅方向の中央部分に前記内部導体を形成するための内部帯状層を形成し、前記圧電フィルムの幅方向の両縁部を重ねるように巻き付けて円筒状に形成され、かつ、
手袋状に形成され、引出線を介して、圧力信号を文字信号に変換する信号変換部、信号の送受信が可能な通信部および文字を表示する表示部が備わった通信制御部に接続されて、2つの袋状触覚センサ間で互いに交信可能になった手文字の読み取り装置として用いられることを特徴とする袋状触覚センサ。
【請求項3】
手袋状に形成され、指の部分が他の部分よりも高密度に前記センサ電線が配置されている請求項1または2に記載の袋状触覚センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電性を備えたセンサ電線を組み付けて形成された布状センサが備わった袋状触覚センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば人の手に装着される手袋のような袋状の織物に触覚センサを取り付けて織物にかかる圧力を検出したり、触覚センサを変形させて織物を動かしたりすることが行われている(例えば、特許文献1参照)。この触覚センサは、対向する両面が平面になった紐状の圧電材料の両面にそれぞれ電極膜を形成し、両電極膜の外側をそれぞれ絶縁皮膜で覆って構成された圧電性ファイバを縦糸と横糸のように交互に織りあわせて織布状に形成されている。そして、織布状に形成された織物を手袋の甲および甲側の指に取り付けて、各指の運動を個別に検出できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−203996号公報
【発明の概要】
【0004】
このような袋状触覚センサは、指の運動を検出する場合には、有効であるが、手袋をつけた手で被処理物を握ったときの圧力を測定したり、ロボットなどの手の部分につけて所定の圧力で被処理物を把持させたりすることに対しては、対応できないという問題がある。また、触覚センサは、被処理物の表面に沿って撓む必要があるため全方向に対して変形できる柔軟性が要求されるが、前述した圧電性ファイバは、扁平に形成されているため、厚み方向には撓み易いが、幅方向には撓み難くいという問題がある。
【0005】
本発明は、前述した問題に対処するためになされたもので、その目的は、人やロボットの手に装着して所定の処理を行うことに適した袋状触覚センサを提供することである。なお、下記本発明の各構成要件の記載においては、本発明の理解を容易にするために、実施形態の対応箇所の符号を括弧内に記載しているが、本発明の構成要件は、実施形態の符号によって示された対応箇所の構成に限定解釈されるべきものではない。
【0006】
前述した目的を達成するため、本発明に係る袋状触覚センサの構成上の特徴は、柔軟性を備えた細長い円筒状の圧電体(12,32,42,52)と、圧電体の内部に形成された内部導体(13,33,43,53)と、圧電体の外部に形成された外部導体(14,34,44,54)とからなるセンサ電線(11,11a,11b,31,31a,41,51,61,61a)を組み付けて形成された布状センサ(10a,10c,10d,10e,10f,25a,26a,28a)が備わった袋状触覚センサ(10,25,26,28)であって、センサ電線が、圧電体を構成する細長い圧電フィルム(32a)の一方の面の幅方向の中央部分に内部導体を形成するための内部帯状層(33a)を形成し、圧電フィルムの幅方向の両縁部を重ねるように巻き付けて円筒状に形成され、かつ、手袋状に形成され、少なくとも被処理物に接触する部分に布状センサが配置されるとともに、布状センサの表裏両面に、厚みが100μm〜1.2mmの絶縁性の軟質樹脂フィルムからなる保護カバー(15)が形成され、手に装着して手のマッサージ装置として用いられることにある。
【0007】
本発明に係る袋状触覚センサは、被処理物を把持する把持部を覆える袋状に形成され、少なくとも被処理物に接触する部分にセンサ電線からなる布状センサが配置されている。センサ電線は、円筒状の圧電体と、圧電体の内部に形成された内部導体と、圧電体の外部に形成された外部導体とからなっており、圧電体は、変形量に応じた電圧を発生するとともに、電圧がかかったときに変形する。また、センサ電線の断面形状が円形に形成されているため、センサ電線は、軸方向に伸縮できる他、軸周りのどの方向に対しても変形することができる。このため、本発明に係る袋状触覚センサによると、人やロボットなどの手で被処理物を握ったときの圧力を測定したり、被処理物を所定の圧力で把持させたりすることに適した袋状触覚センサを得ることができる。
【0008】
圧電体を構成する材料としては、ポリ乳酸、フッ化ビニリデン、シアン化ビニリデン、ポリアミド、シアン化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンおよびそれらの発泡体や各重合体、それらの共重合体およびそれらの積層体、さらには発泡体などを用いることができる。また、内部導体および外部導体を構成する材料としては、銅、銀、白金、アルミニウムなどの金属やそれらの合金など伝導性を有する種々の材料を用いることができ、銀、アルミニウムを用いる場合には、蒸着によって内部導体および外部導体を層として形成することが好ましい。さらに、内部導体および外部導体を構成する材料として、導電性ポリマー、導電性塗料などを用いることもでき、これによるとさらに柔軟性が増すようになる。また、布状センサは、センサ電線を織物のように織ったセンサ織物や、編物のように編んだセンサ編物で構成される。
【0009】
また、末梢神経の異常などにより手にしびれが生じた人に対して、手指をマッサージ治療して回復させることが行われる。本発明は、このような場合に、センサ電線に電圧を加えて袋状触覚センサを繰り返し同じ動作で変形させることで、手指をマッサージすることができる。これによると、マッサージをするための人手が不要になるとともに、長時間の治療が可能になる。
【0010】
本発明に係る袋状触覚センサのさらに他の構成上の特徴は、柔軟性を備えた細長い円筒状の圧電体と、圧電体の内部に形成された内部導体と、圧電体の外部に形成された外部導体とからなるセンサ電線を組み付けて形成された布状センサ(27a)が備わった袋状触覚センサ(27)であって、センサ電線が、圧電体を構成する細長い圧電フィルムの一方の面の幅方向の中央部分に内部導体を形成するための内部帯状層を形成し、圧電フィルムの幅方向の両縁部を重ねるように巻き付けて円筒状に形成され、かつ、手袋状に形成され、引出線を介して、圧力信号を文字信号に変換する信号変換部、信号の送受信が可能な通信部および文字を表示する表示部が備わった通信制御部に接続されて、2つの袋状触覚センサ間で互いに交信可能になった手文字の読み取り装置として用いられることにある。
【0011】
手文字は、手を用いて平仮名を一文字ずつ表現する方法で、難聴者どうしまたは難聴者と健常者との間で意思伝達を容易にするために用いられている。本発明によると、袋状触覚センサを装着した状態の手で文字を表現すると、袋状触覚センサが、手の動きを検出して文字を判断することができる。このため、通信手段を用いて袋状触覚センサの検出信号を交信することで、遠隔地にいる人と意思の伝達が図れるようになる。この場合、通信手段には、圧力信号を文字信号に変換する変換装置や文字を表示する表示装置を含ませることが好ましいが、音声を発する音声発生装置などを含ませてもよい。また、本発明では、袋状触覚センサの掌側と甲側の双方に布状センサを組み込んでもよい。
【0012】
本発明に係る袋状触覚センサのさらに他の構成上の特徴は、手袋状に形成され、指の部分(25a1)が他の部分(25a2)よりも高密度にセンサ電線が配置されていることにある。被処理物を把持する場合や、手で所定の表現を行う場合には、指の部分が他の部分よりも大きく変形するため、指の部分の検出感度を高くすることが好ましい。本発明では、指の部分のセンサ電線の密度を他の部分よりも高くしたため、より感度の高い袋状触覚センサを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1実施形態に係る袋状触覚センサの掌側を示した斜視図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る袋状触覚センサの甲側を示した斜視図である。
図3】袋状触覚センサの掌側部分を構成するセンサ織物の一部を示した斜視図である。
図4】センサ織物を構成するセンサ電線を示した断面図である。
図5】ロボットに備わっている制御部を示した構成図である。
図6】縦糸と横糸にかかった圧力の位置と圧力の大きさを示した説明図である。
図7】本発明の第2実施形態に係る袋状触覚センサの掌側を示した斜視図である。
図8】本発明の第3実施形態に係る袋状触覚センサの掌側を示した斜視図である。
図9】本発明の第3実施形態に係る袋状触覚センサの甲側を示した斜視図である。
図10】本発明の第4実施形態に係る袋状触覚センサの掌側を示した斜視図である。
図11】本発明の第5実施形態に係る袋状触覚センサの掌側を示した斜視図である。
図12】センサ織物の変形例1の一部を示した概略図である。
図13】センサ織物の変形例2の概略を示した断面図である。
図14】センサ織物の変形例3の一部を示した斜視図である。
図15】センサ織物の変形例4を構成するセンサ電線を示した側面図である。
図16】センサ織物の変形例5を構成するセンサ電線を示した側面図である。
図17】センサ編物の概略を示した平面図である。
図18】センサ電線の変形例1を示した断面図である。
図19】変形例1に係るセンサ電線を用いた布状センサに圧力がかかるときの状態を示しており、(a)は圧力がかかる前の断面図、(b)は圧力がかかったときの断面図である。
図20】圧電フィルムと内部帯状層を示した平面図である。
図21】変形例3に係るセンサ電線を示しており、(a)は側面図、(b)は断面図である。
図22】変形例3に係るセンサ電線の中心部を示した側面図である。
図23】変形例4に係るセンサ電線を示しており、(a)は側面図、(b)は断面図である。
図24】変形例4で用いられる圧電フィルム、内部帯状層および外部帯状層を示した断面図である。
図25】変形例5に係るケーブル状圧力センサを示しており、(a)は側面図、(b)は断面図である。
図26】変形例6に係るセンサ電線を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態を図面を用いて説明する。図1および図2は、本実施形態に係る袋状触覚センサ10を示している。袋状触覚センサ10は、例えば、農作物を収穫するためのロボット(図示せず)の手の形をした把持部に取り付けられて、ロボットの把持部が農作物を把持する際の圧力を検出して、把持部が農作物を把持する際の把持力を制御するために用いられるもので、把持部を覆う手袋の形に形成されている。この袋状触覚センサ10は、手の内側部分(掌側部分)がセンサ織物10aで構成され、手の外側部分(甲側部分)が繊維からなる外側部10bで構成されている。
【0020】
センサ織物10aは、図3に示したように、センサ電線11(図4参照)が縦糸Aと横糸Bになるように織り込まれて織布状に形成されており、その織布の表裏両面を後述する保護カバー15で被覆したものを手袋の内側半分の掌側形状に形成することで製造されている。それぞれの縦糸Aおよび横糸Bを構成するセンサ電線11は、図4に示したように、円筒状の圧電体12の内側に内部導体13を配置するとともに、圧電体12の外周面に外部導体層14を配置して構成されている。
【0021】
圧電体12は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなり柔軟性および伸縮性を有する極細の円筒体で構成されており、その内径は、0.3mmで、外径は0.4mmに設定されている。内部導体13は、複数の極細のスズメッキ軟銅線を撚り合わせて形成されており、その直径は0.3mmに設定されている。外部導体層14は、内部導体13と同様、スズメッキ軟銅線で構成されており、その厚みは0.05mmに設定されている。
【0022】
圧電体12は、例えば、同軸ケーブルの製造方法と同様の方法で、内部導体13の外周に形成することができる。この場合、ポリフッ化ビニリデンからなる成形材料を、成形装置のシリンダー内で、溶解、混練しながらスクリューで押出し、クロスヘッド内を通過する内部導体13の表面に被覆層として形成する。そして、圧電体12の表面に、外部導体層14を形成する。外部導体層14は、スズメッキ軟銅線を、圧電体12の表面に一方向に整列させて巻き付ける横巻きシールド方法によって形成される。
【0023】
また、ポリフッ化ビニリデンは、高い電圧が付与されて分極すると圧電効果が発生する軽量の高分子材料であり、これに外力を加えると電圧が発生し、電圧を加えると歪が発生する特性を備えている。圧電体12には分極処理が施されており、圧電体12に外部から力が加わったときに内部導体13と外部導体層14の間に電圧が誘起される。また、内部導体13と外部導体層14の間に電圧をかけると、圧電体12に変形(歪み)が生じる。
【0024】
なお、センサ織物10aの表裏両面には、絶縁性の軟質樹脂フィルムからなる保護カバー15が形成されている。この保護カバー15は、厚みが100μm〜1.2mmで、硬さが、人の皮膚の硬さまたはそれよしも少し柔らかくなっている。また、センサ織物10aには、センサ電線11を延長して構成された引出線16が備わっている。この引出線16には、70℃〜150℃で10秒〜10分、望ましくは80℃〜120℃で10秒〜60秒、例えば95℃で30秒の処理を行うことで圧電性をなくす、もしくは問題ないレベル(5%以下)まで減少させる。これによって、引出線16の圧電体17には非晶質層が生じて圧電性が低下している。また、外側部10bは、綿、ポリエステル、アクリルなどの繊維で構成されており、袋状触覚センサ10の外側半分の甲形状に形成されている。このように構成されたセンサ織物10aと、外側部10bを縫い合わせて、袋状触覚センサ10の手袋形の本体部分が構成されている。
【0025】
図5は、袋状触覚センサ10に備わった制御部20を示している。この制御部20には、センサ織物10aの他、検出回路21、A/D変換回路22およびCPU23が備わっている。検出回路21は、インピーダンス変換回路、増幅回路およびローパスフィルタを備えている。そして、検出回路21は、ロボットの把持部が農作物を把持したときに、センサ織物10aから引出線16を介して送られる検出信号のレベルを所定のレベルに整合したのちに増幅するとともに、システム応答の限界である遮断周波数よりも高い周波数の成分を減衰させて遮断して遮断周波数よりも低い周波数の成分をA/D変換回路22に送る。
【0026】
A/D変換回路22は、検出回路21から送られた信号をデジタル信号に変換してCPU23に送る。CPU23は、制御部20が行う各種の処理を実行する。また、制御部20には、CPU23が実行するプログラムを記憶するROM、CPU23の処理に使用されるデータなどを一時的に記憶するRAM等が備わっている他、ロボットを操作するための操作ボタンやスイッチを備えた操作部、駆動部および電源などが備わっている。この制御部20のうち、センサ織物10aを除いた各装置等は制御基板20aに設置されており、制御基板20aは外側部10bの甲部分の略中央に取り付けられている。センサ織物10aを構成するセンサ電線11の引出線16は束となって、手首側から甲側に周り込んで、制御基板20aに延び、各引出線16は制御基板20aに形成された接点に接続されている。
【0027】
CPU23は、センサ織物10aに圧力が加わったときに、センサ織物10aを構成する縦糸Aと横糸Bに発生する圧電気から電圧を生じた縦糸Aと横糸Bのそれぞれの位置と電圧の大きさを算出することでセンサ織物10aのどの部分にどの程度の圧力が加わったかを求める。この場合、図6に示したように、複数の縦糸Aと横糸Bはそれぞれ直交しているため、縦糸Aが並んでいる方向を横軸とし、横糸Bが並んでいる方向を縦軸として、センサ織物10aの所定の部分a(図6で丸で囲った部分)に圧力がかかったときに、それぞれの縦糸Aと横糸Bからどのような信号が発生しているかを走査することで圧力の分布を知ることができる。
【0028】
この場合、縦糸Aと横糸Bの交点を検出点とすることができる。また、縦糸Aと横糸Bを一定の時間で走査したときに検出した信号を時間で積分することで、被処理物の形状や圧力のピークの位置を判断することができる。また、センサ電線11は、圧力がかかって変形が生じたときに信号を発生するが、圧力がかかった同じ状態が続くと信号を発生しなくなる。このようなセンサ電線11を用いたセンサ織物10aにおいては、圧力がかからず信号が発生されていない外側に位置するセンサ電線11から測定して、圧力がかかった部分との臨界点を求めていくことで検出処理を簡単にすることが好ましい。
【0029】
この場合、まず、信号が発生していない外側のセンサ電線11から走査して圧力がかかった部分aの輪郭を求め、つぎに、走査する際には、その部分aに圧力がかかっているものとして、前述した輪郭の近傍に位置するセンサ電線11を走査して圧力がかかった部分の輪郭を求めていく。これによって、圧力がかかった部分aの範囲に変化が生じても、圧力がかかった部分を順次求めることができる。この場合、臨界点として求めた値を時間微分することで、前述した所定の部分aの形状を求めることができる。これによると、すべてのセンサ電線11を走査する必要が無くなるため、検出時間の短縮が図れる。また、前述した駆動部は、センサ織物10aが検出した圧力値に基づいて、CPU23の制御によりロボットの把持部を駆動する。
【0030】
このように、本実施形態に係る袋状触覚センサ10は、被処理物を把持する把持部を覆える手袋状に形成され、被処理物に接触する掌部分がセンサ電線11からなるセンサ織物10aで構成されている。このため、袋状触覚センサ10は、被処理物を握ったときの圧力を測定することに適したものとなる。また、センサ電線11は、断面形状が円形に形成されているため、軸方向に伸縮できる他、軸周りのどの方向に対しても均等に変形することができる。このため、袋状触覚センサ10は、被処理物の表面形状が凹凸のあるものであっても、その表面に沿って接触でき、これによって感度のよい検出が可能になる。
【0031】
また、袋状触覚センサ10では、引出線16をセンサ電線11を延長した部分で構成するとともに、この引出線16を加熱処理することで、圧電性を低下させている。このため、引出線16がセンサ織物10aの感度に悪影響を及ぼすことが防止される。また、引出線として、別途部材を用いる必要もなくなる。さらに、制御基板20aを袋状触覚センサ10の外部でなく、袋状触覚センサ10の甲側を構成する外側部10bに取り付けたため、引出線16を短くできるとともに、袋状触覚センサ10における検出に関与できない部分を有効利用することができる。また、センサ織物10aの表面の硬さが人間の皮膚程度になっているため、被処理物を傷めることがない。
【0032】
また、袋状触覚センサ10の他の使用例として、マッサージ装置として用いることができる。この場合、袋状触覚センサ10は、ロボットの把持部でなく、末梢神経の異常により手にしびれが生じた患者の手に装着して、センサ織物10aに電圧をかけることで、センサ織物10aを繰り返し変形させる。袋状触覚センサ10によるマッサージの動作は、予めプログラムとしてROMに記憶させておき、CPU23がこのプログラムを実行することにより、センサ織物10aの所定の部分を順次変形させていく。これによると、人手がない状態で長時間のマッサージが可能になる。
【0033】
(第2実施形態)
図7は、本発明の第2実施形態に係る袋状触覚センサ25を示している。この袋状触覚センサ25は、手袋形の本体部分が、センサ織物25aと外側部(図示せず)とで構成されている。センサ織物25aは、センサ織物10aと同様、センサ電線11からなる縦糸Aと横糸Bを織布状に織った織物で構成されているが、指の部分25a1が掌部分25a2よりもセンサ電線11の密度が高くなるように形成されている。この袋状触覚センサ25のそれ以外の部分の構成は、袋状触覚センサ10と同じである。この袋状触覚センサ25も、袋状触覚センサ10と同様の方法で用いることができる。
【0034】
人の手やロボットの把持部に袋状触覚センサ25を装着して被処理物を把持する場合、掌部分25a2の動きよりも、指の部分25a1の動きの方が大きくなる。このため、掌部分25a2に配置されるセンサ電線11の密度よりも、指の部分25a1に配置されるセンサ電線11の密度を高くすることで、袋状触覚センサ25の感度をより高くすることができる。なお、袋状触覚センサ25は、袋状触覚センサ10と比べて、指の部分25a1に配置されるセンサ電線11を多くしてもよいし、掌部分25a2に配置されるセンサ電線11を少なくしてもよい。この袋状触覚センサ25のそれ以外の作用効果は、袋状触覚センサ10と同様である。
【0035】
(第3実施形態)
図8および図9は、本発明の第3実施形態に係る袋状触覚センサ26を示している。この袋状触覚センサ26は、手袋形の本体部分全体が、手袋繊維26bで構成され、手袋繊維26bの掌側の指先にセンサ織物26aが組み付けられている。手袋繊維26bは、繊維に柔軟物質、例えば、発泡ポリウレタン、シリコンゲル、ウレタンゲル(評価数値が、デュロメータ・タイプC(アスカーC型)で5〜50とし、望ましくは10〜20の範囲のもの)などを含浸または塗布したものを縫製して手袋状に形成したもので構成されており、その甲の部分には、制御基板20aが取り付けられている。そして、手袋繊維26bの掌側の各指先部分に小さなセンサ織物26aをそれぞれ縫い付けて袋状触覚センサ26が構成されている。センサ織物26aもセンサ電線11からなる縦糸Aと横糸Bを織布状に織った織物で構成され、その引出線16は、袋状触覚センサ26の各指26cの内側面に沿って延びて制御基板20aに接続されている。この袋状触覚センサ26のそれ以外の部分の構成は、袋状触覚センサ10と同じである。この袋状触覚センサ26も、袋状触覚センサ10と同様の方法で用いることができる。
【0036】
本実施形態に係る袋状触覚センサ26は、主に、指先を用いて、被処理物を把持する場合に好適である。また、指先以外にはセンサ織物26aを設けないため、センサ織物26aの量を最小にして必要最小限の処理範囲を維持しながら、低コスト化を図ることができる。さらに、センサ電線11の引出線16を指26cの内側面に沿わせているため、引出線16が操作の邪魔になることがない。また、手袋繊維26bは、柔軟物質によって柔らかくなっているため、手に装着した時に、心地よい感触が得られるとともに、被処理物を傷つけることを防止できる。
【0037】
(第4実施形態)
図10は、本発明の第4実施形態に係る袋状触覚センサ27を示している。この袋状触覚センサ27は、本体部分がすべてセンサ織物27aで構成されており、センサ織物27aは、センサ電線11からなる縦糸Aと横糸Bを織布状に織った織物で構成されている。また、センサ織物27aには外部に延びる引出線16を介して通信制御部20bが接続されている。この袋状触覚センサ27は、手文字読み取り装置として用いられるもので、通信制御部20bには、前述した制御基板20aに備わった装置の他、圧力信号を文字信号に変換する信号変換部、信号の送受信が可能な通信部および文字を表示する表示部が備わっている。そして、2つの袋状触覚センサ27間で互いに交信することができる。
【0038】
この場合、離れた距離にある二人の人が、それぞれ手に袋状触覚センサ27を装着し、一方の人が手を動かして手文字を表わすと、袋状触覚センサ27は手から受ける圧力によって文字を検出し、その文字を信号として他方の人の通信制御部20bに送信する。文字信号を受信した袋状触覚センサ27の表示部には、信号に対応する文字が表示される。これを繰り返すことで、文字が文章となり一方の人の意思が他方の人に伝わる。また、双方の操作を逆にすることで、他方の人の意思が一方の人に伝わる。本発明によると、遠隔地にいる難聴者の間での意思伝達が容易になる。なお、本実施形態では、袋状触覚センサ27の本体部分すべてをセンサ織物27aで構成したが、掌側部分や指の部分など一部をセンサ織物27aで構成してもよい。
【0039】
(第5実施形態)
図11は、本発明の第5実施形態に係る袋状触覚センサ28を示している。この袋状触覚センサ28は、人差し指28bの指先を覆える袋状に形成されており、内側部分が、センサ織物28aで、外側部分が外側部(図示せず)で構成されている。センサ織物28aは、センサ電線11からなる縦糸Aと横糸Bを織布状に織った織物で構成されている。また、センサ織物28aには引出線16を介して音声変換制御部20cが接続されている。この袋状触覚センサ28は、点字読み取り装置として用いられるもので、音声変換制御部20cには、前述した制御基板20aに備わった装置の他、圧力信号を音声信号に変換する信号変換部と音声を発生するスピーカーとが備わっている。音声変換制御部20cは、面ファスナーを備えたバンド20dによって、手首に着脱可能になっている。
【0040】
点字による書物を読む場合には、袋状触覚センサ28を装着した指で点字を触る。これによって、袋状触覚センサ28は点字の凸部から受ける圧力によって文字を検出し、その文字を信号として音声変換制御部20cに送る。これによって、音声変換制御部20cの信号変換部は、文字信号を音声信号に変換し、スピーカーから文字に対応する音声が発生する。本発明によると、視覚障害者が書物を読むために用いられる点字による書物が容易に読めるようになる。
【0041】
(センサ織物の変形例1)
前述した各袋状触覚センサ10,25〜28ではそれぞれ、センサ織物10a、25a〜28aをセンサ電線11からなる縦糸Aと横糸Bを織布状に織った織物で構成しているが、これに代えて、図12に示したセンサ織物10cを用いてもよい。このセンサ織物10cは、センサ織物10aにおけるセンサ電線11からなる縦糸Aと横糸Bに加えて、縦糸Aと横糸Bに対して斜めに延びる斜め糸Cが備わっている。この斜め糸Cもセンサ電線11で構成されている。このセンサ織物10cのそれ以外の部分の構成は、センサ織物10aと同じである。
【0042】
このように構成したことにより、センサ織物10cが検出できる方向が増えるため、センサ織物10cに圧力を加える被処理物の形状をより正確に捉えることができる。このセンサ織物10cのそれ以外の作用効果は、センサ織物10aと同じである。なお、図12では、斜め糸Cが、センサ織物10cの表面側に配置されているが、この斜め糸Cは、センサ織物10cの裏面側に配置されていてもよいし、センサ織物10cの表裏にジグザグに位置するように縦糸Aと横糸Bに絡まっていてもよい。また、斜め糸Cの数も適宜設定される。
【0043】
(センサ織物の変形例2)
図13は、変形例2に係るセンサ織物10dの断面図を示している。このセンサ織物10dは、前述したセンサ織物10aにおける保護カバー15に代えて、表面側(図13では上面)に薄い保護カバー15aを貼り付け、裏面側(図13では下面)に、保護カバー15aよりも厚い保護カバー15bを貼り付けて構成されている。保護カバー15a,15bは保護カバー15と同じ材質、同じ硬さのもので構成されており、保護カバー15aの厚みは、20μm〜5mm、望ましくは50μm〜1.5mm、より望ましくは100μm〜800μmで、保護カバー15bの厚みは、20μm〜5mm、望ましくは50μm〜1.5mm、より望ましくは500μm〜1.2mmに設定されていることである。このセンサ織物10dのそれ以外の部分の構成は、センサ織物10aと同じである。
【0044】
このように表面の保護カバー15aを薄くしたことにより、センサ織物10dの触覚感度を高くすることができる。また、センサ織物10dの変形例として、保護カバー15aが貼り付けられた面を裏面とし、保護カバー15bが貼り付けられた面を表面とすることができる。これによると、センサ織物10dの耐久性が向上する。さらに、センサ織物10dの変形例として、両保護カバーの厚さは同じにして、硬さが異なるようにすることもできる。この場合、表面側の保護カバーを硬くすると、耐久性が向上し、表面側の保護カバーを柔らかくすると、触覚感度を高くすることができる。
【0045】
(センサ織物の変形例3)
図14は、変形例3に係るセンサ織物10eの一部を示している。このセンサ織物10eは、前述したセンサ織物10aと同様、センサ電線11と同じ構造の縦糸Aと横糸Bを織り込んで形成されているが、縦糸Aに、外径の異なる縦糸A1,A2が含まれ、横糸Bに外径の異なる横糸B1,B2が含まれている。縦糸A1と横糸B1は、同じセンサ電線で構成され、外径が0.5mm〜1.2mm、望ましくは0.5mm〜0.8mm、より望ましくは0.5mm〜0.6mmである。また、縦糸A2と横糸B2は、同じセンサ電線で構成され、外径が0.3mm〜1.0mm、望ましくは0.3mm〜0.65mm、より望ましくは0.35mm〜0.5mmである。このセンサ織物10eのそれ以外の部分の構成は、センサ織物10aと同じである。
【0046】
このように構成したことにより、センサ織物10eの各部分の感度を変えることができる。この場合、高い感度が必要な部分には、縦糸A1や横糸1が位置するようにし、さほど高い感度が要求されない部分には、縦糸A2や横糸B2が位置するようにする。また、強度が必要な部分には、縦糸A1や横糸1が位置するようにし、さほど強度が要求されない部分には、縦糸A2や横糸B2が位置するようにすることもできる。このセンサ織物10eのそれ以外の作用効果は、センサ織物10aと同じである。
【0047】
(センサ織物の変形例4)
図15は、変形例4に係るセンサ織物(図示せず)を構成するセンサ電線11aを示している。センサ電線11aは、前述したセンサ電線11を曲げることでコイルばねのような螺旋状に形成されている。そして、センサ電線11aは、縦糸と横糸として織り込まれることで織布状に形成されて、センサ織物を構成している。このセンサ電線11aは、センサ電線11を他の繊維と撚糸状にしたのちに他の繊維を溶解したり、センサ電線11を溶解可能な芯に巻き付けたのちに芯を溶解したりすることで螺旋状に形成できる。このセンサ電線11aを用いたセンサ織物のそれ以外の部分の構成は、センサ織物10aと同じである。
【0048】
このように構成したことにより、センサ織物が弾性および柔軟性に富んだものとなる。また、外力がかかったときに、センサ電線11aには大きく変形する部分が生じ、これによって大きな電圧が発生するため、センサ織物の感度が向上する。このセンサ電線11aを用いたセンサ織物のそれ以外の作用効果は、センサ織物10aと同じである。また、センサ電線11aの変形例として、前述した他の繊維を溶解せずにそのまま残して撚糸の状態にしてもよい。これによると、触覚センサの表面が柔軟になる。
【0049】
(センサ織物の変形例5)
図16は、変形例5に係るセンサ織物(図示せず)を構成するセンサ電線11bを示している。センサ電線11bは、前述したセンサ電線11を曲げることで波状に形成されている。そして、センサ電線11bは、縦糸と横糸として織ることで織布状に形成され、センサ織物の本体部分を構成している。このセンサ電線11bは、縦糸または横糸に複数の太い化繊を用いてその化繊の上下を順に通過するようにして波形にしたのちに、化繊を溶解することで波形に形成できる。このセンサ電線11bを用いたセンサ織物のそれ以外の部分の構成は、センサ電線11aと同じである。このように構成したことにより、前述したセンサ電線11aを備えたセンサ織物と同様の作用効果を得ることができる。
【0050】
(センサ編物)
前述した各センサ織物に代えて、図17に示したセンサ編物10fを用いることもできる。センサ編物10fは、前述したセンサ電線11をそれぞれループを形成するようにして絡め合わせることで編物状に形成されている。このセンサ編物10fのそれ以外の構成については、前述したセンサ織物10aと同一である。
【0051】
これによると、各センサ電線11がループを描くように曲がっているため、前後方向または左右方向に対して伸縮できる長さが大幅に増えるようになる。このため、センサ編物10fは、半球状や球状の被検出物の表面に対しても沿えるようになり、処理できる被処理物の範囲が広がる。また、各センサ電線11は結び目を形成するように、曲がりくねっているため、変形し易くなり、これによって検出感度が向上する。このセンサ編物10fのそれ以外の作用効果は、前述したセンサ織物10aと同じである。また、センサ編物10fの変形例として、センサ電線11に代えて、センサ電線11aまたは11bを用いてもよい。さらに、センサ編物10fに斜め糸Cを加えてもよいし、異なる太さのセンサ電線を用いてもよい。
【0052】
(センサ電線の変形例1)
前述した各センサ織物10a、25a〜28a等およびセンサ編物10fは、それぞれセンサ電線11を組み合わせて構成しているが、これに代えて、図18に示したセンサ電線31を用いてもよい。このセンサ電線31は、円筒状の圧電体32の内周面に薄い内部導体層33を形成するとともに、圧電体32の外周面に薄い外部導体層34を形成して構成されている。
【0053】
圧電体12は、ポリフッ化ビニリデンからなり柔軟性および伸縮性を有する極細の円筒体で構成されており、その内径は、0.15mm〜0.60mm、好ましくは、0.30mmで、外径は0.25mm〜0.65mm、好ましくは0.32mmに設定されている。内部導体層33は、銀からなる薄い膜で構成されており、蒸着により圧電体32の内周面に形成されている。内部導体層33の厚みは、0.5μm〜2.0μm、好ましくは0.5μm程度になっている。外部導体層34は、内部導体層33と同様、銀の蒸着によって、圧電体32の外周面に形成されている。外部導体層34の厚みは内部導体層33の厚みと略同じである。
【0054】
圧電体32は、例えば、公知の引き抜き法によって成形される。この場合、ポリフッ化ビニリデンからなる成形材料を、開口を備えた外径ダイスの開口と、その開口の内部に配置された内径プラグとの間の隙間を通過させながら掴み機具で引っ張ることで設定された直径および肉厚の円筒形に成形している。そして、真空チャンバを用いた公知のアーク蒸着法によって、圧電体32の内面および外面に設定された厚みの内部導体層33と外部導体層34を形成している。このように構成されたセンサ電線31を縦糸Dと横糸E(図19(a),(b)参照)として織り、その表裏両面に保護カバーを貼り付けて、センサ織物等が構成される。
【0055】
このように、センサ電線31は、円筒状の圧電体32の内周面に薄い内部導体層33を形成するとともに、圧電体32の外周面に薄い外部導体層34を形成して構成されており、圧電体32は柔軟性および伸縮性を備えたポリフッ化ビニリデンからなる極細の円筒状に形成されている。このため、センサ電線31は、軸周りのどの方向にでも容易に変形でき、軸方向にも伸縮できるとともに、断面形状が変化するように径方向にも容易に変形できる。そして、センサ電線31で構成されるセンサ織物等は、変形自在な薄い織布状になり、被処理物の表面が凹凸に形成されていても、その形状に沿って撓むことができ、被処理物から受ける力およびその分布を感度よく検出できるようになる。
【0056】
また、圧電体32をポリフッ化ビニリデンで構成したため、センサ電線31は、良好な圧電性を得ることができる。図19(a),(b)は、センサ電線31で構成されるセンサ織物に圧力がかかるときの重なり合った縦糸Dと横糸Eを構成する2つのセンサ電線31の状態を示しており、図19(a)は圧力がかかる前の状態を示し、図19(b)は、圧力がかかったときの状態を示している。圧力がかかる前は、各センサ電線31の断面形状は、殆ど変形のない真円に近い状態になっているが、圧力がかかると、各センサ電線31は、圧力の大きさに応じて押し潰されその断面形状は、楕円形に変化していく。
【0057】
このとき、楕円形に変形したセンサ電線31の圧電体32における長軸側の両側部分(図19(b)の断面の左右両側)は、内面側に圧縮応力が生じ、外面側に引っ張り応力が生じるように歪む。このため、図19(b)に断面で示したセンサ電線31の左右両側には、センサ電線31を軸方向に伸縮させた場合や、圧電体32を厚み方向に圧縮させた場合に比べてより大きな変形が生じるようになる。さらに、内部導体層33および外部導体層34を銀の蒸着層で構成したため、極薄の層に形成することができる。これにともなって、センサ電線31の細径化、軽量化およびコストの低減化が図れる。
【0058】
(センサ電線の変形例2)
センサ電線の変形例2として、図20に示した圧電フィルム32aを用いて圧電体32を形成することができる。圧電フィルム32aは、ポリフッ化ビニリデンからなる細長い矩形のシートで構成されており、その一方の面の幅方向の中央部分に、内部導体層33を形成するための内部帯状層33aが形成されている。圧電体32は、圧電フィルム32aの幅方向の両縁部32bを重ねるように巻き付けて円筒状に形成され、内部帯状層33aは、圧電フィルム32aの重ね合される両縁部32bを除いた部分に形成される。そして、圧電体32の外周面には、前述したセンサ電線31と同様、外部導体層34が形成される。
【0059】
圧電フィルム32aを円筒状に巻き付ける場合には、例えば、溶解または蒸発させやすい材料からなる芯線の周囲に、内部帯状層33aが形成された圧電フィルム32aを巻き付けて円筒状に形成したのちに、芯線を溶解または蒸発させて除去する方法を用いることができる。外部導体層34は、前述したように、銀の蒸着によって形成することができるが、他の金属のメッキ層を用いたり、導電体樹脂を塗布することで形成したりしてもよい。導電体樹脂は毛細管現象を利用して含浸させてもよい。
【0060】
(センサ電線の変形例3)
図21(a),(b)は、変形例3に係るセンサ電線41を示している。センサ電線41は、前述したセンサ電線31と同様、円筒状の圧電体42の内周面に薄い内部導体層43を形成するとともに、圧電体42の外周面に薄い外部導体層44を形成して構成されているが、圧電体42と、内部導体層43はそれぞれ細長い材料を螺旋状に巻き付けることで円筒状に形成されている。
【0061】
このセンサ電線41の製造には、図20に示した内部帯状層33aが形成された圧電フィルム32aと同様の内部帯状層が形成された圧電フィルムが用いられる。そして、この圧電フィルムを、内部帯状層が内側になるようにして螺旋状に丸めて円筒状にし、重なり合う圧電フィルムの縁部どうしを接合する。これによって、図22に示した圧電体42と内部導体層43(図21(b)参照)からなるセンサ中心部41aが得られる。なお、内部導体層43の幅方向の縁部間には螺旋状に延びる隙間43aが形成されている。この場合の圧電フィルムの巻き付けも、前述した溶解または蒸発させやすい材料からなる芯線を用いて行うことができる。つぎに、圧電体42の外周面に外部導体層44を形成してセンサ電線41が得られる。外部導体層44も銀の蒸着、他の金属のメッキや導電体樹脂の塗布などで形成することができる。
【0062】
また、圧電体42の内径および外径は前述した圧電体32と略同じで、内部導体層43および外部導体層44の厚みは、前述した内部導体層33および外部導体層34の厚みと略同じである。この変形例3では、予め圧電フィルムに形成された内部帯状層で内部導体層43を形成するため、センサ電線41の形成が容易になる。また、圧電フィルムの巻き付けに用いる芯線の直径や圧電フィルムの巻き方を変更することで、センサ電線41を構成する各部分の形状や内径、外径、厚みなどの寸法を任意に設定できるため、センサ織物やセンサ編物の構造を任意に設定することができる。
【0063】
(センサ電線の変形例4)
図23(a),(b)は、変形例4に係るセンサ電線51を示している。センサ電線51は、円筒状の圧電体52の内周面に薄い内部導体層53を形成するとともに、圧電体52の外周面に薄い外部導体層54を形成して構成されている。このセンサ電線51では、圧電体52、内部導体層53および外部導体層54のすべてが細長い材料を螺旋状に巻き付けることで円筒状または略円筒状に形成されている。圧電体52は円筒状に形成されているが、内部導体層53と外部導体層54はそれぞれコイルばねのように隙間53b,54bのある螺旋状に形成されている。
【0064】
このセンサ電線51を製造する際には、まず、図24に示したように、圧電フィルム52aの一方の面(図24では上面)の幅方向の中央に、銀の薄層からなる内部帯状層53aを形成するとともに、圧電フィルム52aの他方の面(図24では下面)の幅方向の中央に、銀の薄層からなる外部帯状層54aを形成してセンサ材料51aとする。ついで、このセンサ材料51aを、内部帯状層53aが内側、外部帯状層54aが外側になるようにして螺旋状に丸めて円筒状にし、重なり合う圧電フィルム52aの縁部52bどうしを接合する。これによって、圧電体52、内部導体層53および外部導体層54からなるセンサ電線51が得られる。この場合の圧電フィルム52aの縁部52bどうしの接合は、接着や、圧着によって行うことが好ましい。また、センサ材料51aの巻き付けは、前述した溶解または蒸発させやすい材料からなる芯線を用いて行うことができる。
【0065】
また、圧電体52の内径および外径は前述した圧電体32と略同じで、内部導体層53および外部導体層54の厚みは、前述した内部導体層33および外部導体層34の厚みと略同じである。この変形例4によると、センサ電線51を構成する内部導体層53と外部導体層54が、予め圧電フィルム52aに形成された内部帯状層53aと外部帯状層54aで形成されるため内部導体層53と外部導体層54の形成が容易になる。
【0066】
この場合も、センサ材料51aの巻き付けに用いられる芯線の直径やセンサ材料51aの巻き方を変更することで、センサ電線51を構成する各部分の形状や内径、外径、厚みなどの寸法を任意に設定できる。このセンサ電線51のそれ以外の作用効果は、前述したセンサ電線31と同様である。また、他の変形例として、センサ材料51aを螺旋状に巻き付けるのではなく、縁部52bどうしを真っ直ぐにしたまま接合して円筒状に形成することもできる。
【0067】
(センサ電線の変形例5)
また、センサ電線の変形例5として、図25(a),(b)に示したように、複数のセンサ電線61aを撚り合わせて撚糸状のケーブル状圧力センサ61とすることができる。各センサ電線61aは、前述したセンサ電線31と同じもので構成されているが、極細にする必要がある。この変形例5に係るケーブル状圧力センサ61は、強度が大きくなるとともに、感度がよくなる。また、撚りが入ることによって各ケーブル状圧力センサ61は外力によってより曲がり易くなるとともに軸方向に伸縮し易くなるため、ケーブル状圧力センサ61によって構成される布状センサは被処理物に沿ってより撓み易くなる。さらに、ケーブル状圧力センサ61を複数のセンサ電線61aで構成することで、一部のセンサ電線61aが切れても、他のセンサ電線61aで、ケーブル状圧力センサ61としての機能を維持することができる。
【0068】
(センサ電線の変形例6)
図26は、変形例6に係るセンサ電線31aの断面を示している。センサ電線31aは、前述したセンサ電線31の外周面に絶縁性シース35を形成して構成されている。絶縁性シース35は、極薄のポリエステルテープを外部導体層34の外周面に巻き付けて形成されており、厚みは15μm〜100μm、好ましくは50μmに設定されている。この変形例6では、センサ電線31aの強度が増すため、破損が防止され長寿命化が図れる。センサ電線31aのそれ以外の作用効果は、前述したセンサ電線31と同様である。また、センサ電線31aの変形例として、中心部分を、センサ電線31に代えて、センサ電線11,41,51,61のいずれかで構成してもよい。
【0069】
また、本発明に係る袋状触覚センサは、前述した各実施形態および変形例に限定するものでなく、本発明の技術範囲内で、適宜変更して実施することができる。例えば、前述した各実施形態および変形例では、袋状触覚センサを、手袋形または指を覆える袋状としたが、この袋状触覚センサの形状は、手をすっぽり覆える四角形や円形の袋状であってもよいし、親指の部分だけ他の部分から分離した袋状であってもよい。また、袋状触覚センサを構成する各部分の形状、材質、寸法なども適宜変更して実施することができる。さらに、前述した各実施形態および変形例の各構成を組み合わせて実施することもできる。
【符号の説明】
【0070】
10,25,26,27,28…袋状触覚センサ、10a,10c,10d,10e,25a,26a,27a,28a…センサ織物、10f…センサ編物、11,11a,11b,31,31a,41,51,61,61a…センサ電線、12,32,42,52…圧電体、13…内部導体、14,34,44,54…外部導体層、16…引出線、20a…制御基板、25a1…指の部分、25a2…掌部分、26b…手袋繊維、26c…指、33,43,53…内部導体層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26