特許第6969904号(P6969904)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6969904フォトマスクのウェットエッチング方法及びウェットエッチング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6969904
(24)【登録日】2021年11月1日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】フォトマスクのウェットエッチング方法及びウェットエッチング装置
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/80 20120101AFI20211111BHJP
   G03F 1/54 20120101ALI20211111BHJP
   H01L 21/308 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   G03F1/80
   G03F1/54
   H01L21/308 F
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-106968(P2017-106968)
(22)【出願日】2017年5月30日
(65)【公開番号】特開2018-205355(P2018-205355A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2020年4月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】302003244
【氏名又は名称】株式会社エスケーエレクトロニクス
(74)【代理人】
【識別番号】110002295
【氏名又は名称】特許業務法人森脇特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 昌典
【審査官】 植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−128529(JP,A)
【文献】 特開2000−144454(JP,A)
【文献】 特開2001−271181(JP,A)
【文献】 特開2007−321186(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
G03F 1/00〜1/86
H01L 21/306
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にCr系材料膜を有するフォトマスク基板に、酸性のエッチング液を供給し、前記Cr系材料膜をエッチングする第1の工程と、
前記フォトマスク基板に、前記Cr系材料膜をエッチングしない酸性の第1の薬液を供給する第2の工程と、
前記フォトマスク基板に、純水を供給する第3の工程
とを、この順に含むと共に、
前記エッチング液のpHと前記第1の薬液のpHとが同じである
ことを特徴とするウェットエッチング方法。
【請求項2】
前記エッチング液が、セリウム(IV)イオン及び前記第1の薬液を含むことを特徴とする請求項1記載のウェットエッチング方法。
【請求項3】
前記セリウム(IV)イオンは、硫酸第二セリウム、硝酸第二セリウム及び硝酸第二セリウムアンモニウムより選ばれた1種以上の酸により供給されたセリウム(IV)イオンであり、前記第1の薬液は過塩素酸、硝酸、硫酸、リン酸及び酢酸より選ばれた1種以上の酸であることを特徴とする請求項記載のエッチング方法。
【請求項4】
前記エッチング液に含まれる酸と前記第1の薬液の酸とが同じであることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項記載のエッチング方法。
【請求項5】
前記第1の工程の前に、前記フォトマスク基板に前記Cr系材料膜をエッチングしない酸性の第2の薬液を供給する
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項記載のエッチング方法。
【請求項6】
前記第2の薬液が、前記第1の薬液と同じである
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項記載のエッチング方法。
【請求項7】
第1の処理槽と
第2の処理槽と
第3の処理槽と
第4の処理槽と
フォトマスク基板の搬送装置とを備え、
前記第1の処理槽は、Cr系材料膜をエッチングする酸性のエッチング液を前記フォトマスク基板に供給する供給部を備え、
前記第2の処理槽は、Cr系材料膜をエッチングしない酸性の第1の薬液を前記フォトマスク基板に供給する供給部を備え、
前記第3の処理槽は、純水を前記フォトマスク基板に供給する供給部を備え、
前記第4の処理槽は、Cr系材料膜をエッチングしない酸性の第2の薬液を前記フォトマスク基板に供給する供給部を備え、
前記搬送装置は、前記フォトマスク基板を、前記第4の処理槽、前記第1の処理槽、前記第2の処理槽及び前記第3の処理槽へとこの順に搬送する
ことを特徴とするウェットエッチング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットパネルディスプレイ等に使用されるフォトマスクの製造方法工程におけるウェットエッチング方法及びウェットエッチング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイ等の技術分野において使用されているフォトマスクには、遮光膜、ハーフトーン膜、位相シフト膜等のパターンが形成されている。これらのパターンの材料としては、主にCr系材料、すなわちCr(クロム)、Cr酸化物、Cr酸窒化物などのCr化合物が使用されており、1つのフォトマスク基板に1種類又は複数種類のCr系材料が用いられる。
【0003】
フォトマスクの製造工程において、フォトレジスト等のパターンをマスクにCr系材料の膜(以下Cr系材料膜と称す)をエッチングする場合、製造コストの観点から、ウェットエッチング法を使用することが多い。ウェットエッチング法を採用する場合、上記各種のCr系材料膜は、セリウム(IV)イオン(四価セリウムイオン)を含むエッチング液によりエッチングすることが一般的である。
以下、簡単のために「セリウム(IV)イオン」を「セリウム(IV)」、「セリウム(IV)イオンを含むエッチング液」を「セリウム(IV)エッチング液」と称すことがある。
【0004】
セリウム(IV)エッチング液は、セリウム(IV)と酸(例えば過塩素酸、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸)と水との混合液が使用される。セリウム(IV)として、例えば硫酸第二セリウム、硝酸第二セリウム又は硝酸第二セリウムアンモニウム等のセリウム(IV)錯体(四価セリウム錯体)が使用される。
【0005】
特許文献1には、フォトマスクの製造工程においても使用可能なウェットエッチング装置が開示されている。Cr膜のエッチングには、硝酸第2セリウムアンモニウムを主体とするエッチング液により浸漬処理又は噴霧処理を行った後に、即座に純水で洗浄できるように構成されている。そのため、ウエット処理の制御を確実に行うことができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−37016号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フォトマスクのウェットエッチング工程において、エッチング液が残留すると、パターン欠陥が発生することがあるため、ウェットエッチング液の残渣は十分に除去する必要がある。
特許文献1に開示されているように、エッチング液で処理を行った後に、連続して速やかに純水スプレーで洗浄することにより、エッチング液を排除し(洗い流し)、ウェットエッチング時間を正確に制御することは可能である。
しかしながら、フラットパネルディスプレイの高画質化等によるパターンの微細化に伴い、従来は問題とならなかったような微細なパターン欠陥も、近年は製品歩留まりに影響するようになってきた。
【0008】
発明者は、ウェットエッチング後のパターンを詳細に調査した結果、十分に純水洗浄した場合においても、微細なエッチングの不均一性が存在することを確認し、この微細なエッチングの不均一性の根本原因について鋭意研究した結果、エッチング後の純水による洗浄自体に原因があることを見出した。すなわち、Cr膜をエッチングするために用いていたエッチング液はエッチング後の純水による洗浄工程により液体が中性に近づくと加水分解によって水和物が形成される。この水和物が、エッチングの不均一性を生じさせる原因となっていたのである。
【0009】
本発明は、上記知見に基づきなされたものであり、フォトマスクの製造工程において、エッチングの不均一性を抑制することができるウェットエッチング方法及びウェットエッチング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るウェットエッチング方法は、
表面にCr系材料膜を有するフォトマスク基板に、酸性のエッチング液を供給し、前記Cr系材料膜をエッチングする第1の工程と、
前記フォトマスク基板に、前記Cr系材料膜をエッチングしない酸性の第1の薬液を供給する第2工程と、
前記フォトマスク基板に、純水を供給する第3の工程
とを、この順に含むことを特徴とする。このように、従来エッチング工程の直後に行われていた純水による洗浄の前に、水和物の形成を抑えるため酸性の薬液で洗浄することにより、エッチングの不均一性を生じさせる原因を取り除くことができる。ここで、本発明における「酸性のエッチング液」とは、水和物の発生を抑えることができる溶液の一例であり、水和物の発生を抑えるものであれば、他の溶液でもよく、特に限定されない。
【0011】
また、本発明に係るウェットエッチング方法は、
前記エッチング液が、セリウム(IV)イオン及び第1の薬液を含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るウェットエッチング方法は、
前記セリウム(IV)イオンは、硫酸第二セリウム、硝酸第二セリウム及び硝酸第二セリウムアンモニウムより選ばれた1種以上の酸により供給されたセリウム(IV)イオンであり、前記第1の薬液は過塩素酸、硝酸、硫酸、リン酸及び酢酸より選ばれた1種以上の酸であることを特徴とする。
【0013】
本発明に係るウェットエッチング方法においては、エッチング液を酸性の薬液により、フォトマスク基板から排除するため、セリウム(IV)の加水分解による水和物の形成が防止できる。その結果、Cr系材料膜の不均一なエッチングを抑制することができる。
【0014】
また、本発明に係るウェットエッチング方法は、
前記エッチング液のpHと前記第1の薬液のpHとが同じであることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係るウェットエッチング方法は、
前記エッチング液に含まれる酸と前記第1の薬液の酸とが同じであることを特徴とする。
【0016】
このような薬液を使用することにより、一層効果的に上記水和物の発生を抑制することができる。
【0017】
また、本発明に係るウェットエッチング方法は、
前記第1の工程の前に、前記フォトマスク基板に前記Cr系材料膜をエッチングしない酸性の第2の薬液を供給することを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係るウェットエッチング方法は、
前記第2の薬液が、前記第1の薬液と同じである
ことを特徴とする。
【0019】
このようなウェットエッチング方法とすることで、エッチング液のフォトマスク基板表面での飛散及び付着を防止し、Cr系材料膜の不均一なエッチングを一層抑制することができる。
さらに、微細なエッチングマスクパターンにおいても、エッチング液の湿潤性、浸透性を向上させ、エッチング不均一性を抑制することができる。
【0020】
本発明に係るウェットエッチング装置は、
第1の処理槽と
第2の処理槽と
第3の処理槽と
フォトマスク基板の搬送装置とを備え、
前記第1の処理槽は、Cr系材料膜をエッチングする酸性のエッチング液を前記フォトマスク基板に供給する供給部を備え、
前記第2の処理槽は、Cr系材料膜をエッチングしない酸性の第1の薬液を前記フォトマスク基板に供給する供給部を備え、
第3の処理槽は、純水を前記フォトマスク基板に供給する供給部を備え、
前記搬送装置は、前記フォトマスク基板を、前記第1の処理槽、前記第2の処理槽及び前記第3の処理槽へとこの順に搬送する
ことを特徴とする。
【0021】
このようなウェットエッチング装置の構成とすることで、セリウムの水和物の発生を抑制しながら、エッチング液によるCr系材料膜のエッチングを制御し、均一性のよいCr系材料のウェットエッチング処理を実行することができる。
【0022】
また、本発明に係るウェットエッチング装置は、
第4の処理槽をさらに備え、
前記第4の処理槽は、Cr系材料膜をエッチングしない酸性の第2の薬液を前記フォトマスク基板に供給する供給部を備え、
前記搬送装置は、前記フォトマスク基板を、前記第4の処理槽、前記第1の処理槽、前記第2の処理槽及び前記第3の処理槽へとこの順に搬送する
ことを特徴とする。
【0023】
このようなウェットエッチング装置の構成とすることで、フォトマスク基板表面に
エッチング液のフォトマスク基板表面での飛散及び付着を防止し、Cr系材料膜の不均一なエッチングをさらに抑制することができるウェットエッチング処理を実行することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、フォトマスクのエッチング工程において、エッチングの不均一性を抑制することにより、微細なパターン欠陥の発生を抑制し、それによる製品の歩留まり低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】従来のウェットエッチング方法及び実施形態1のウェットエッチング方法の主要工程を比較して示すフロー図。
図2】実施形態1によるウェットエッチングを実行するためのウェットエッチング装置の主要構成を示す切り欠き斜視図。
図3】実施形態1によるウェットエッチングを実行するためのウェットエッチング装置の主要構成を示す切り欠き斜視図。
図4】実施形態1によるウェットエッチングを実行するためのウェットエッチング装置の主要構成を示す切り欠き斜視図。
図5】実施形態2のウェットエッチング方法の主要工程を示すフロー図。
図6】実施形態2によるウェットエッチングを実行するためのウェットエッチング装置の主要構成を示す切り欠き斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は、いずれも本発明の要旨の認定において限定的な解釈を与えるものではない。また、同一又は同種の部材については同じ参照符号を付して、説明を省略することがある。
【0027】
(実施形態1)
図1(a)及び(b)は、それぞれ従来のウェットエッチング方法及び実施形態1のウェットエッチング方法の主要工程を示す。
【0028】
図1(a)に示す従来のウェットエッチング方法は、Cr系材料膜及びフォトレジスト等のエッチングマスクパターンを備えたフォトマスク基板(以下、単に基板と称することがある)を準備し、
S01(エッチング液処理):基板に対して、セリウム(IV)エッチング液をスプレー等により供給し、Cr系材料膜をエッチングする工程、
S02(純水処理):基板に対して、純水をスプレー等により供給し、セリウム(IV)エッチング液を除去する工程、
S03(乾燥):基板に対して、空気を吹きつけ、純水を除去し、基板を乾燥させる工程
を、上記の順に実行するものである。
【0029】
S01の工程直後は、基板表面にセリウム(IV)エッチング液が残存する状態であり、S02工程においては、基板表面に純水をスプレー等により供給し、セリウム(IV)エッチング液を洗い流し、純水に置き換える処理を行う。この工程により、セリウム(IV)エッチング液が除去されるため、基板表面でのCr系材料膜のエッチングを停止することができる、
その結果、エッチング時間を制御することができ、Cr系材料膜が不必要にエッチングされることを防止し、エッチングマスクパターンにより画定されるCr系材料膜のパターンを形成することができる。
【0030】
上記方法により形成されたCr系材料膜のパターンを詳細に調査したところ、エッチング時間を正確に制御した場合においても、エッチングの微小な不均一性が残存することが判明した。この微小な不均一は、微細化が進むに従いパターンのCD誤差を生じさせる原因となりうる。
【0031】
この不均一性の原因について詳細に研究したところ、従来の常識とは反対に、S02工程に起因するものであることが分かった。すなわちセリウム(IV)は酸性の液体中では安定に存在するが、液体が中性に近づくと加水分解し水和物となる。酸性の液体のpH依存性を調査した結果、セリウム(IV)エッチング液は、添加される酸にも依存するが、典型的にはpHが1.0を超えると加水分解が始まることが判明した。
S02工程においては、基板表面に残存するセリウム(IV)に純水を供給するため、セリウムの水和物が表面に発生する。その結果、基板上ではセリウム(IV)と水和物とが混在する状態となる。
特に、表示装置の大画面化に伴い、フォトマスク基板が大型化(例えば長辺が1.5[m]以上)すると、純水洗浄に使用される純水の流量が増大するため、セリウムの水和物の発生が増加する傾向になる。
【0032】
セリウム(IV)と水和物との混在は、Cr系材料膜のエッチング量に微小な差異、即ち不均一性を発生させる。その結果、形成されたCr系材料膜のパターンにCD誤差が生じ、パターンムラとして視認されることがある。要求されるCD誤差に対する許容値が、微細化に伴い厳しく(小さく)なるにつれ、フォトマスクの製品歩留まりが低下するリスクが生じる。
【0033】
以下では、図1(b)を参照し、上述の水和物の発生を抑制するとともに、Cr系材料膜のエッチングを停止する方法について説明する。
【0034】
図1(b)に示すように、本実施形態によるウェットエッチング方法は、Cr系材料膜及びフォトレジスト等のエッチングマスクパターンを備えたフォトマスク基板を準備し、
S11(エッチング液処理):基板に対して、セリウム(IV)エッチング液をスプレー等により供給し、Cr系材料膜をエッチングする工程、
S12(酸処理):基板に対して、セリウム(IV)を含まず、Cr系材料膜をエッチングしない酸性の液体(以下第1の薬液と称す)をスプレー等により供給し、セリウム(IV)エッチング液を除去する工程、
S13(純水処理):基板に対して、基板に対して、純水をスプレー等により供給し、第1の薬液を除去する工程、
S14(乾燥):基板に対して、空気を吹きつけ、純水を除去し、基板を乾燥させる工程、
を、上記の順に実行するものである。
【0035】
S11工程は、上記S01工程と同じである。
ここで、セリウム(IV)エッチング液は、既述のとおりであり、セリウム(IV)と第1の酸とを含むエッチング液である。上記セリウム(IV)は、例えば、硫酸第二セリウム、硝酸第二セリウム及び硝酸第二セリウムアンモニウムより選ばれた1種以上の酸により供給され、上記第1の酸は過塩素酸、硝酸、硫酸、リン酸及び酢酸より選ばれた1種以上の酸である。エッチング液は、セリウム(IV)を供給する酸と第1の酸と水とを混合し、セリウム(IV)が安定に存在するpHに調整されている。具体的には、セリウム(IV)エッチング液のpHは、好適には、1.0以下である。なお、セリウム(IV)エッチング液は界面活性剤を含んでもよい。
【0036】
S12の工程では、基板上に残存するセリウム(IV)エッチング液を、第1の薬液により洗い流し、基板上のセリウム(IV)エッチング液を第1の薬液と置換する。
第1の薬液としては、例えば、過塩素酸、硝酸、硫酸、リン酸及び酢酸から選択される1種以上の酸を使用することができる。さらに具体的には、セリウム(IV)エッチング液と同じpH(例えば1.0以下)の酸性の液体、例えば、濃度0.1[mol/L]以上の硝酸、過塩素酸や濃度0.05[mol/L]以上の硫酸が好適に使用できるがこれに限定されるものではない。
【0037】
セリウム(IV)は、酸性の液体中では、安定に存在するため、S12工程では水和物は発生しない。その結果、セリウム(IV)エッチング液と第1の薬液が混在した状態においても、セリウムの水和物に起因したCD誤差は発生しない。
また、セリウム(IV)エッチング液が第1の薬液により除去されるため、S12の工程により、Cr系材料膜のエッチングは停止する。
【0038】
第1の薬液は、セリウム(IV)エッチング液に使用されている酸と同じ酸を好適に使用できる。例えば、セリウム(IV)エッチング液が、硝酸第2セリウムアンモニウム、過塩素酸及び水との混合液である場合、硝酸若しくは過塩素酸又は硝酸及び過塩素酸との混合液を使用できるが、これに限定するものではない。セリウム(IV)エッチング液と混合し水和物を発生しなければよい。
【0039】
また、第1の薬液は、セリウム(IV)の加水分解を防止するため、上述のようにセリウム(IV)エッチング液と同じpHの酸性の液体を好適に使用できるが、これに限定するのではない。セリウム(IV)エッチング液と同程度のpHであればよく、セリウム(IV)エッチング液と混合して、基板上に水和物を残存させない範囲のpHであればよい。
予めセリウム(IV)エッチング液と第1の薬液とを混合し、水和物の発生の有無、及び水和物の生成速度を調査しておくことで、第1の薬液として使用可能な酸の種類および濃度を確定することができる。また、たとえ第1の薬液中でセリウム(IV)の加水分解が開始されることがあっても、第1の薬液とともに流されて、基板上に水和物が残存しない程度であればよい。
【0040】
なお、S13工程において、基板表面に純水を供給するが、この段階においては、基板表面上にセリウム(IV)が残存しないため、水和物は発生しない。
【0041】
従来は、純水を用いてセリウム(IV)エッチング液によるエッチングを停止させていたが、本実施形態においては、セリウム(IV)エッチング液と混合して水和物を形成しない酸性の液体によりセリウム(IV)エッチング液によるエッチングを停止することにより、Cr系材料膜のエッチングの不均一性を抑制することができる。
【0042】
(エッチング装置)
次に、本実施形態のウェットエッチング方法を実行するためのウェットエッチング装置について説明する。
図2、3、4は、本実施形態によるウェットエッチングを実行するためのウェットエッチング装置1の主要構成を示す切り欠き斜視図である。
【0043】
図2に示すように、ウェットエッチング装置1は、上記S11の処理を行う第1の処理槽2、S12の処理を行う第2の処理槽3、S13の処理を行う第3の処理槽4を備える。
なお、第1の処理槽2と第2の処理槽3との間、第2の処理槽3と第3の処理槽4との間に、各処理槽を分離するための分離壁を設けてもよい。この場合、分離壁には、フォトマスク基板5を搬送するための、シャッター付き開口部を設ける。フォトマスク基板5を搬送する際に、シャッターを開き、開口部を通過させることで、第1の処理槽2から第2の処理槽3及び第2の処理槽3から第3の処理槽4へのフォトマスク基板5を搬送し、搬送完了後にシャッターを閉じることで、各処理槽間の薬液の混入を防止できる。
【0044】
第1の処理槽2は、セリウム(IV)エッチング液を移送するための第1の薬液配管6を備える。第1の薬液配管6は、図示しない薬液タンクと液体ポンプに接続されており、液体ポンプによって、薬液タンクに貯蔵されたセリウム(IV)エッチング液を第1の薬液配管6へ流入させる。
【0045】
第1の薬液配管6は、セリウム(IV)エッチング液を移送する。第1の薬液配管6は、セリウム(IV)エッチング液を流出させるための流出口7、例えばノズルを備えている。
第1の薬液配管6及び流出口7が、フォトマスク基板5表面へのセリウム(IV)エッチング液の供給部を構成する。
流出口7からセリウム(IV)エッチング液が、フォトマスク基板5上にスプレー又はシャワー状に流出され、S11工程を実行する。
Cr系材料膜の膜厚及びエッチング速度により算出された所定のエッチング時間経過後に、セリウム(IV)エッチング液の流出を停止する。
【0046】
なお、流出されたセリウム(IV)エッチング液は、第1の処理槽2の底部に設けられた図示しない薬液排出口を経由して回収され、液体用循環ポンプにより移送され、異物を濾過するためのフィルターを通して、第1の薬液配管6に戻される。すなわち、セリウム(IV)エッチング液は、循環使用される。
【0047】
また、第1の薬液配管6を、フォトマスク基板5の搬送方向と平行に移動させながら、流出口7からセリウム(IV)エッチング液をフォトマスク基板5に流出してもよい。
【0048】
次に図3に示すように、S12工程を実行するために、フォトマスク基板5は、搬送装置8、例えばベルトコンベア、により第2の処理槽3に搬送される。
なお、搬送装置8は、フォトマスク基板5を吊り上げて搬送するクレーン型の搬送装置であってもよい。この場合、各処理槽を分離する分離壁に、フォトマスク基板5を通過させるための開口部を設ける必要がない。
【0049】
第2の処理槽3は、第1の薬液を移送するための第2の薬液配管9を備える。
第2の薬液配管9は、図示しない液体タンクと液体ポンプに接続されており、液体ポンプによって、液体タンクに貯蔵された第1の薬液を第2の薬液配管9へ流入させる。
【0050】
第2の薬液配管9は、第1の薬液を流出させるための流出口10、例えばノズルを備えている。
第2の薬液配管9及び流出口10が、フォトマスク基板5表面への第1の薬液の供給部を構成する。
流出口10から第1の薬液が、フォトマスク基板5上にスプレー又はシャワー状に流出され、S12工程を実行する。所定の時間第1の薬液を流出し、フォトマスク基板5上からセリウム(IV)エッチング液が除去された後に第1の薬液の流出を停止する。
【0051】
次に図4に示すように、S13工程を実行するために、フォトマスク基板5は、搬送装置8により第3の処理槽4に搬送される。
第3の処理槽4は、純水を移送するための第3の薬液配管11を備える。
第3の薬液配管11は、図示しない液体タンクと液体ポンプに接続されており、液体ポンプによって、液体タンクに貯蔵された純水を第3の薬液配管11へ流入させる。
【0052】
第3の薬液配管11は、純水を流出させるための流出口12、例えばノズルを備えている。
第3の薬液配管11及び流出口12が、フォトマスク基板5表面への純水の供給部を構成する。
流出口12から純水が、フォトマスク基板5上にスプレー又はシャワー状に流出され、S13工程を実行する。所定の時間純水を流出し、フォトマスク基板5上から第1の薬液が除去された(洗い流された)後に純水の流出を停止する。
【0053】
次に、配管13により移送された空気を噴出口14、例えばエアーナイフからフォトマスク基板5に噴出し、S14工程を実行する。
なお、図4においては、噴出口14はフォトマスク基板5の上面側のみに配置されているが、背面側にも配置しフォトマスク基板5の背面を同時に乾燥させてもよい。
【0054】
ただし、例えば次の工程がウェット処理である場合、必ずしもS14工程によりフォトマスク基板5を乾燥させる必要はない。S14工程は、次の工程の処理内容に応じて実行すればよい。
【0055】
なお、上記実施形態においては、フォトマスク基板5は水平に保持して搬送する例を示したが、フォトマスク基板5を傾斜させても、垂直に保持し搬送してもよい。傾斜又は垂直に保持した状態で、液体又は空気を噴出すればよい。
また、フォトマスク基板5に液体を流出する例を示したが、液体中に浸漬してもよく、例えば特許文献1のように、セリウム(IV)エッチング液への浸漬と第1の酸及び純水の流出とを組み合わせてもよい。
【0056】
ウェットエッチング装置1は、連続してフォトマスクのウェットエッチング処理を行うことができる。上記実施形態では1枚のフォトマスク基板5を処理する例を示したが、連続して複数のフォトマスク基板5を処理してもよい。ただしこの場合、S11工程処理後に速やかにS12工程処理を行うことができるように、各処理槽での処理時間を設定する必要がある。
【0057】
なお、ウェットエッチング装置1は、第2の処理槽3と第3の処理槽4とを独立して設けたが、第2の処理槽3を省略してもよい。第3の処理槽4の第3の薬液配管11において、第1の薬液と純水とを切り替えて移送するように構成してもよい。
すなわち、第3の処理槽4の第3の薬液配管11に第1の薬液を流し、基板5上に第1の薬液を所定の時間流出した後に停止し、S12工程を実行後、第3の処理槽4の第3の薬液配管11に純水を流し、基板5上に純水を流出し、S13工程を実行してもよい。このような処理は、第3の薬液配管11と、第1の薬液のタンク及び純水のタンクとの間に切替バルブを設置し、第3の薬液配管11に流す液体を選択することで可能となる。
第2の処理槽3を省略することで、装置を小型化することができる。
【0058】
(実施形態2)
図5は、実施形態2のウェットエッチング方法の主要工程を示す。
本実施形態によるウェットエッチング方法は、Cr系材料膜及びフォトレジスト等のエッチングマスクパターンを備えたフォトマスク基板を準備し、
S21(前処理):基板に対して、Cr系材料膜をエッチングしない酸性の液体(以下第2の薬液と称す)をスプレー等により供給する工程、
S22(エッチング液処理):基板に対して、セリウム(IV)エッチング液をスプレー等により供給し、Cr系材料膜をエッチングする工程、
S23(酸処理):基板に対して、セリウム(IV)を含まず、Cr系材料膜をエッチングしない酸性の液体(以下第1の薬液と称す)をスプレー等により供給し、セリウム(IV)エッチング液を除去する工程、
S24(純水処理):基板に対して、純水をスプレー等により供給し、第1の薬液を除去する工程、
S25(乾燥):基板に対して、空気を吹きつけ、純水を除去し、基板を乾燥させる工程
を、上記の順に実行するものである。
【0059】
実施形態1との違いは、セリウム(IV)エッチング液による処理工程であるS22工程の前に、S21工程が追加されたことである。
S21工程は、フォトマスク基板の表面に第2の薬液をスプレー又はシャワー等により供給し、フォトマスク基板の表面を第2の薬液により覆う(濡らす)工程である。
【0060】
第2の薬液は、第1の薬液と同様の薬液を使用することができ、詳細は実施形態1に記載のとおりである。
すなわち、第2の薬液は、以下のとおりである。
セリウム(IV)エッチング液と同じpHの酸性の液体、例えば、過塩素酸、硝酸、硫酸、リン酸又は酢酸、を好適に使用することができるが、これに限定するものではない。セリウム(IV)エッチング液と同程度のpHであればよい。
セリウム(IV)エッチング液に使用されている酸と同じ酸を好適に使用できるが、これに限定するものではない。
セリウム(IV)エッチング液と混合し水和物を発生しなければよい。
【0061】
S21工程は、フォトマスク基板にセリウム(IV)エッチング液が飛散(付着)して、エッチングムラになることを防止する。
すなわち、基板表面が液体で覆われていない状態でセリウム(IV)エッチング液をフォトマスク基板上に流出した場合、基板表面でセリウム(IV)エッチング液が飛び跳ね、再付着した箇所でのエッチング不均一(ムラ)が発生することがある。
フォトマスク基板表面を第2の薬液で覆うことにより、セリウム(IV)エッチング液の飛び跳ね及び再付着によるエッチング不均一を防止することができる。
さらに、第2の薬液は、セリウム(IV)エッチング液の加水分解を防止するため、水和物がフォトマスク基板表面に発生することはない。
また、予めフォトマスク基板表面を第2の薬液で覆うことにより、フォトマスク基板上の微細なフォトマスクパターン間へのセリウム(IV)エッチング液の湿潤性、浸透性を高め、微細なパターンの寸法ばらつきの発生を防止する効果もある。
【0062】
図6は、実施形態2によるウェットエッチングを実行するためのウェットエッチング装置21の主要構成を示す切り欠き斜視図である。
図6に示すように、ウェットエッチング装置21は、図2に示すウェットエッチング装置1に対して第4の処理槽15を追加した構成である。
すなわち、ウェットエッチング装置21は、上記S21の処理を行う第4の処理槽15、上記S22の処理を行う第1の処理槽2、S23の処理を行う第2の処理槽3、S24の処理を行う第3の処理槽4を備える。
【0063】
第4の処理槽15は、第2の薬液を移送するための第4の薬液配管16を備える。第4の薬液配管16は、図示しない薬液タンクと液体ポンプに接続されており、液体ポンプによって、薬液タンクに貯蔵された第2の薬液を第4の薬液配管16へ流入させる。
【0064】
第4の薬液配管16は、第2の薬液を移送する。第4の薬液配管16は、第2の薬液を流出させるための流出口17、例えばノズルを備えている。
第4の薬液配管16及び流出口17が、フォトマスク基板5表面への第2の薬液の供給部を構成する。
流出口17から第2の薬液が、フォトマスク基板5上にスプレー又はシャワー状に流出され、S21工程を実行する。
その後、搬送装置8がフォトマスク基板5を第1の処理槽2に搬送する。
【0065】
以降は、実施形態1のS11工程と同様であるため、説明は割愛する。
【0066】
なお、第2の薬液は、S23工程で使用する第1の薬液と同じ液体であっても異なった液体であってもよい。同じ液体であれば、液体タンクを共用することができ、装置の小型化が可能となる。
【0067】
(その他の実施形態)−スピン方式−
上記の実施形態では、エッチング液や各種薬液をスプレーにより供給するスプレー方式の例を用いて説明したが、基板を水平に回転して薬液等を供給するスピン方式のエッチング装置においても、エッチング液や各種薬液及び純水の供給配管を適宜設けると共に、上述の実施形態1又は実施形態2同様に、エッチング処理、酸処理、純水処理を順次行うことで、本発明を実施することが可能である。
【0068】
例えば、実施形態1に相当する処理を実行する場合、セリウム(IV)エッチング液を第1のノズルから回転する基板表面に供給し、基板表面全体をセリウム(IV)エッチング液で覆いエッチング処理を行った後に、セリウム(IV)エッチング液の供給を停止する。
その後、第2のノズルから第1の薬液を回転する基板表面に供給し、基板表面全体のセリウム(IV)エッチング液を第1の薬液と置換することでセリウム(IV)エッチング液を除去した後に、第1の薬液の供給を停止する。
その後、第3のノズルから純水を回転する基板表面に供給し、基板表面全体の第1の薬液を純水と置換することで第1の薬液を除去した後に、純水の供給を停止する。
その後、基板を高速回転させ純水を振り切り、スピン乾燥させる。
なお、セリウム(IV)エッチング液によりエッチング処理を行う前に、第2の薬液を第4のノズルから供給し、基板表面全体を第2の薬液により覆う(濡らす)工程を追加し、実施形態2に相当する処理を実行してもよい。
【0069】
回転する基板に純水や各種薬液を供給する際には、基板を低速回転しながら供給することが好ましい。理由は、スピンカップ内で基板の回転により発生するミストをできるだけ抑制するためである。また、高速回転により基板上に一定量の薬液が存在することができなくなるおそれがあるため、その意味でも低速回転が好ましい。
また、エッチング処理を行う場合、セリウム(IV)エッチング液の液膜を基板表面全体に形成した後、一端基板の回転を停止し、エッチング処理を行ってもよい。セリウム(IV)エッチング液の使用量を軽減することができる。
【0070】
また、第2、第3、第4のノズルは共有することが可能である。薬液や純水のタンクから切り替えバルブを介して、共有するノズルに純水や薬液を供給することで、処理工程に合わせて必要な純水や薬液を共有ノズルに供給すればよい。
また、第1、第2、第3、第4のノズルを共有する場合は、共有ノズルにセリウム(IV)エッチング液と純水とが連続して流れないようにする必要がある。例えば、セリウム(IV)エッチング液をノズルに流した直後は、第1の薬液をノズルに流し、純水をノズルに流した後には、第2の薬液をノズルに供給するという処理順とする。この処理は、実施形態2に相当する処理を実行する場合に可能となる。或いは、実施形態1に相当する処理を実行する場合には、純水を共有ノズルに供給した後に、基板を洗浄装置から排出し、基板が装置にない状態で、共有ノズルに第1の薬液を流し、共有ノズルに残存する純水を第1の薬液で排出してもよい。
【0071】
また、基板の下にカップを設け、エッチング処理を行う工程においてセリウム(IV)エッチング液を回収し、循環させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明によれば、フラットパネルディスプレイ等の製造に使用されるフォトマスク基板上のCr系材料膜のパターンを形成するウェットエッチング工程において、エッチングの不均一性を抑制することにより、パタン寸法のCD誤差を低減することができる。特に、高画質で大型のフラットパネルディスプレイ等において、精緻なパターンの実現に寄与し、産業上の利用可能性は高い。
【符号の説明】
【0073】
1 ウェットエッチング装置
2 第1の処理槽
3 第2の処理槽
4 第3の処理槽
5 フォトマスク基板
6 第1の薬液配管
7 流出口
8 移送装置
9 第2の薬液配管
10 流出口
11 第3の薬液配管
12 流出口
13 空気配管
14 エアーナイフ
15 第4の処理槽
16 第4の薬液配管
17 流出口
21 ウェットエッチング装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6