特許第6969918号(P6969918)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6969918
(24)【登録日】2021年11月1日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】密閉型スクロール圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/02 20060101AFI20211111BHJP
【FI】
   F04C18/02 311W
   F04C18/02 311Y
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-137891(P2017-137891)
(22)【出願日】2017年7月14日
(65)【公開番号】特開2019-19737(P2019-19737A)
(43)【公開日】2019年2月7日
【審査請求日】2020年7月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】316011466
【氏名又は名称】日立ジョンソンコントロールズ空調株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】日置 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】根岸 直樹
【審査官】 山崎 孔徳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−020687(JP,A)
【文献】 特開2003−097457(JP,A)
【文献】 特開2002−295381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器内に、圧縮機構部と、この圧縮機構部を駆動する電動機を収納し、
前記圧縮機構部は、鏡板部に渦巻き状の固定ラップを有する固定スクロールと、鏡板部に渦巻き状の旋回ラップを有する旋回スクロールとを備え、これらを噛み合わせて吸入空間と圧縮室を形成すると共に、前記固定スクロールの外周部から作動ガスを、前記吸入空間を介して前記圧縮室に導き、この圧縮室を中心部に移動させながらその容積を減少させて前記作動ガスを圧縮し、前記旋回スクロールの鏡板部の背面には背圧室が形成され、前記固定スクロールには前記圧縮室に冷却油を注入するための油注入孔を備えている密閉型スクロール圧縮機であって、
前記電動機により回転され、偏心軸部を有するクランク軸を備え、前記圧縮機構部の前記旋回スクロールは前記クランク軸の偏心軸部に旋回軸受を介して係合され、前記圧縮機構部は前記密閉容器に固定されるフレームを備え、前記クランク軸は前記フレームに設けられた主軸受により回転支持され、
更に前記密閉容器内には油溜り部が設けられ、この油溜り部の油は前記クランク軸に形成された給油通路を介して前記旋回軸受及び前記主軸受に供給された後、その油の少なくとも一部は前記背圧室に流入するように構成され、
前記固定スクロールの鏡板部には、前記背圧室側に連通する排油通路と、この排油通路に連通すると共に前記吸入空間にのみ連通し前記圧縮室には連通しない位置に油排出孔を形成し、前記背圧室の油を、前記固定スクロールの鏡板部に設けられた前記排油通路と前記油排出孔を介して前記吸入空間に排出するように構成していることを特徴とする密閉型スクロール圧縮機。
【請求項2】
請求項1に記載の密閉型スクロール圧縮機であって、前記作動ガスはヘリウムガスであることを特徴とする密閉型スクロール圧縮機。
【請求項3】
請求項2に記載の密閉型スクロール圧縮機であって、前記油注入孔は前記固定スクロールの鏡板部に形成され、前記密閉容器内には油溜り部が形成され、この油溜り部内の油を取出すための油出口管を前記密閉容器に設け、前記油出口管から取り出された油は、油冷却器で冷却された後、油ストレーナ及び油流量調整弁を通り、前記密閉容器に設けられた油注入管を介して前記油注入孔に送られることを特徴とする密閉型スクロール圧縮機。
【請求項4】
請求項に記載の密閉型スクロール圧縮機であって、前記排油通路は、前記背圧室側に連通する軸方向の排油路と、この排油路に連通する径方向の排油路を有することを特徴とする密閉型スクロール圧縮機。
【請求項5】
請求項に記載の密閉型スクロール圧縮機であって、前記油注入孔は、旋回ラップ内線側に形成される内線室が、吸入工程を完了し圧縮室が形成された後に、該圧縮室に開口して連通する位置に形成され、前記クランク軸の回転が一定量進むと閉止するように構成されていることを特徴とする密閉型スクロール圧縮機。
【請求項6】
請求項1〜3の何れか一項に記載の密閉型スクロール圧縮機であって、前記油排出孔は、旋回ラップ内線側に形成される内線室が、吸入工程を完了し圧縮室が形成されるタイミングよりも手前で閉止されることを特徴とする密閉型スクロール圧縮機。
【請求項7】
請求項に記載の密閉型スクロール圧縮機であって、前記内線室における冷媒ガスの吸入工程が完了し、旋回ラップ内線側の圧縮室が形成されたタイミングでのクランク軸回転角を0°と定義したとき、前記油排出孔が閉止を開始するタイミングを、−80°から−100°の範囲内としたことを特徴とする密閉型スクロール圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は密閉型スクロール圧縮機に関し、特に作動ガスとしてヘリウムガスを利用した冷凍機器等の冷凍サイクル機器に使用されるものであって、冷却用の油注入孔を備えているヘリウム用密閉型スクロール圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘリウムガスを作動ガス(作動冷媒)として利用する冷凍機器等の冷凍サイクル機器として、冷媒を圧縮するヘリウム用密閉型スクロール圧縮機が用いられている。従来のヘリウム用密閉型スクロール圧縮機は、密閉容器内に、圧縮機機構部と、この機構部を駆動する電動機部を上下に収納し、前記圧縮機機構部は渦巻き状のラップを有する旋回スクロールと固定スクロールを噛み合わせて圧縮室を形成するように構成されている。
【0003】
前記旋回スクロールの背面には、前記圧縮機構部を構成するフレームにより背圧室が形成され、前記圧縮室と前記背圧室を連通する連通孔を旋回スクロールの鏡板部に形成している。前記連通孔は、吸入圧力と吐出圧力の中間のガス圧力を前記背圧室に作用させて、前記旋回スクロールを前記固定スクロールに押付け、軸方向の密封を行うようにしている。
【0004】
前記旋回スクロールは、前記電動機部により回転されるクランク軸の偏心軸部に係合され、前記クランク軸は前記フレームに設けられた軸受によって支持されている。前記軸受の潤滑は、前記密閉容器の下部に形成されている油溜り部から、前記クランク軸の中心に形成された給油通路を介して給油されることにより行われる。
【0005】
作動ガスとしてヘリウムガスが使用される場合、一般の空調冷凍用に使用されている冷媒に比べて比熱比が高く、断熱圧縮時のガス温度が高温になるため、ヘリウム用密閉型スクロール圧縮機では、油注入によるヘリウムガスの冷却手段も必要となる。このため、前記固定スクロールには、圧縮室に連通する油注入孔が形成されており、前記密閉容器下部に設けられた油溜り部から油出口管を介して油を取り出し、油冷却器で冷却した後、この冷却された油を前記油注入孔から圧縮室等に注入するよう構成されている。
【0006】
なお、作動冷媒にヘリウムガスを使用し、ガス冷却用の油注入孔を備えたスクロール圧縮機の従来技術としては、特開2003−97457号公報(特許文献1)に記載されたものなどがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−97457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した従来のヘリウム用スクロール圧縮機では、前記軸受に供給された油の一部は、前記軸受を潤滑した後、前記背圧室に排出される。また、前記油注入孔から注入されてガス冷却に使用された油の一部も、前記背圧室に排出される。このため、前記背圧室に過剰な油が溜まり易く、旋回スクロールが旋回駆動される際に前記背圧室の油が攪拌され、その攪拌抵抗が大きくなって圧縮機の消費電力が増加するという課題がある。
【0009】
また、上記特許文献1に記載されたもののように、前記背圧室に溜まった油の排出通路を、背圧室に近い旋回スクロールに形成するのが構造上簡単である。この特許文献1のものでは、旋回スクロールの鏡板部に軸方向の中間圧穴と放射状(径方向)の排油穴を形成し、これらを前記鏡板部内で連結したものが記載されており、前記中間圧穴と排油穴を介して背圧室の油を、固定スクロールと旋回スクロールで形成される圧縮室や吸入室に排出している。更に、前記油注入孔から注入されてガス冷却に使用された油の一部も、前記排油穴等を介して前記背圧室に排出される。
【0010】
しかし、旋回スクロールに前記中間圧穴や排油穴を設けると、クランク軸が回転することにより、前記旋回スクロールが旋回運動し、これに伴って前記中間圧穴や排油穴が移動するため、前記中間圧穴や排油穴は、圧縮途中の前記圧縮室に連通したり、前記吸入室に連通する。また、前記中間圧穴や排油穴の前記圧縮室や吸入室への連通区間が長くなることにより、前記中間圧穴や排油穴の開口部の圧力変動を伴うので、背圧室と排出空間(圧縮室や吸入室)の圧力が逆転する区間も発生し、圧縮室内の圧縮ガスや油が背圧室側に流出して、背圧室の油の排出に問題を生じるという課題がある。
【0011】
また、上記特許文献1のものでは、油冷却器を介して油注入孔から注入されるガス冷却用の冷却された注入油と、軸受などの摺動部を潤滑した後の高温の排出油とが、同一の圧縮室内で混合するため、冷却されて注入される油によるガス冷却効果が低下するという課題もある。
【0012】
本発明の目的は、背圧室に過剰な油が溜まって油の攪拌損失が増加するのを抑制し、且つ簡単な構成で作動ガスの冷却効果を向上できる密閉型スクロール圧縮機を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため本発明は、密閉容器内に、圧縮機構部と、この圧縮機構部を駆動する電動機を収納し、前記圧縮機部は、鏡板部に渦巻き状の固定ラップを有する固定スクロールと、鏡板部に渦巻き状の旋回ラップを有する旋回スクロールとを備え、これらを噛み合わせて吸入空間と圧縮室を形成すると共に、前記固定スクロールの外周部から作動ガスを、前記吸入空間を介して前記圧縮室に導き、この圧縮室を中心部に移動させながらその容積を減少させて前記作動ガスを圧縮し、前記旋回スクロールの鏡板部の背面には背圧室が形成され、前記固定スクロールには前記圧縮室に冷却油を注入するための油注入孔を備えている密閉型スクロール圧縮機であって、前記固定スクロールには、前記吸入空間にのみ連通し前記圧縮室には連通しない位置に油排出孔を形成し、前記背圧室の油を、前記油排出孔を介して前記吸入空間に排出するように構成していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、背圧室に過剰な油が溜まって油の攪拌損失が増加するのを抑制し、且つ簡単な構成で作動ガスの冷却効果を向上できる密閉型スクロール圧縮機を得ることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ヘリウム用の密閉型スクロール圧縮機を示す縦断面図である。
図2】従来のヘリウム用の密閉型スクロール圧縮機における油排出孔付近の構造を示す要部断面図である。
図3】本発明の実施例1を示すヘリウム用の密閉型スクロール圧縮機を示す図で、油排出孔付近の構造を示す要部断面図である。
図4図2に示す従来の密閉型スクロール圧縮機におけるクランク軸回転角と内線室内圧力との関係を説明する線図である。
図5図3に示す本実施例1の密閉型スクロール圧縮機におけるクランク軸回転角と内線室内圧力との関係を説明する線図である。
図6】クランク軸回転角が0°での固定スクロールと旋回スクロールの噛み合い状態を示す図である。
図7】クランク軸回転角が9°での固定スクロールと旋回スクロールの噛み合い状態を示す図である。
図8】クランク軸回転角が233°での固定スクロールと旋回スクロールの噛み合い状態を示す図である。
図9】クランク軸回転角が267°での固定スクロールと旋回スクロールの噛み合い状態を示す図である。
図10】クランク軸回転角が307°での固定スクロールと旋回スクロールの噛み合い状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の密閉型スクロール圧縮機の具体的実施例を、図面を用いて説明する。なお、各図において、同一符号を付した部分は同一或いは相当する部分を示している。
【実施例1】
【0017】
本発明が適用される密閉型スクロール圧縮機の構成を、図1を用いて説明する。図1は冷媒としてヘリウムガス(以下、作動ガス、作動冷媒、或いは冷媒ガスともいう)を用いたヘリウム用の密閉型スクロール圧縮機を示す縦断面図である。
【0018】
図1において、1は圧縮機構部、2は前記圧縮機構部1を駆動する電動機、3は前記圧縮機構部1や前記電動機2を内蔵する密閉容器である。前記密閉容器3は、上蓋3a、中空の円筒状に形成された胴部3b、及び底蓋3cで構成されている。
【0019】
前記圧縮機構部1は、鏡板部4aに渦巻き状の旋回ラップ4bを有する旋回スクロール4と、鏡板部5aに渦巻き状の固定ラップ5bを有する固定スクロール5を、互いにラップを内側にして噛み合わせ、圧縮室6や吸入室(圧縮室が形成される前の前記両ラップで形成される吸入空間)を形成している。前記旋回スクロール4の背面には、前記圧縮機構部1を構成するフレーム7により背圧室8が形成されている。この図1に示す例では、前記旋回スクロール4の鏡板部4aには、前記圧縮室6と前記背圧室8を連通する連通孔9、排油通路27及び油排出孔28が設けられている。前記連通孔9は、前記背圧室8を吸入圧力と吐出圧力の中間の圧力に保持するものであり、これにより前記旋回スクロール4を前記固定スクロール5に押付けて軸方向の密封を行うものである。また、前記背圧室8と前記吸入室或いは前記圧縮室6を連通する前記排油通路27及び前記油排出孔28が別に設けられている。
【0020】
10は前記電動機により回転されるクランク軸で、このクランク軸10の偏心軸部10aに、前記旋回スクロール4の鏡板部4a背面に形成されている旋回ボス部4cが旋回軸受11を介して係合され、前記クランク軸10が回転すると前記旋回スクロール4が旋回運動するように構成されている。なお、前記クランク軸10は前記フレーム7に設けられた主軸受12及び補助軸受13によって回転支持されている。前記各軸受11〜13への潤滑は、前記密閉容器3底部の油溜り部15の油が、前記クランク軸10の中心に設けられた給油通路14を介して差圧により給油されることにより行われる。前記各軸受11〜13に供給された油の少なくとも一部は前記背圧室8に流入するように構成されている。
【0021】
また、前記密閉容器3の底蓋3cには、密閉容器3の外部に前記油溜り部15の油を取出すための油出口管16が設けられている。この油出口管16から取り出された油は、油冷却器19で冷却された後、油ストレーナ20及び油流量調整弁21を通り、前記密閉容器3の上蓋3aに設けられた油注入管17を介して、固定スクロール5の鏡板部5aに形成されている油注入孔18に送られ、ここから前記圧縮室6に注入される。このように冷却油注入回路が構成されている。
【0022】
前記密閉容器3の上蓋3aには、前記固定スクロール5の吸入口5cに連通する吸入管22が貫通して設けられており、冷凍サイクルの冷媒ガスは、前記吸入管22を通り、固定スクロール5の前記吸入口5cから前記旋回スクロール4と前記固定スクロール5により形成される吸入空間を通って前記圧縮室6に取り込まれる。この圧縮室6に取り込まれた冷媒ガスは、圧縮室6での圧縮行程を経て高温・高圧の冷媒ガスとなり、吐出口23から密閉容器3内の上部に形成された吐出室24に吐出される。このとき、前記圧縮室6には、前記背圧室8からの油や前記油注入孔18から注入された油が流入しているので、前記圧縮された冷媒ガスと共に、前記吐出口23から前記吐出室24に吐出される。
【0023】
前記吐出室24に吐出された冷媒ガスや油は、前記固定スクロール5及び前記フレーム7の外周部に形成されている吐出通路(図示せず)を介して、前記密閉容器3内の前記電動機2側の空間25に流入する。前記吐出通路は、前記密閉容器3の胴部3bに設けられた吐出管26の対角となる位置に形成されており、前記冷媒ガスにより電動機2を冷却した後、前記吐出管26から密閉容器3の外へ吐出され、冷凍サイクルに供給されるように構成されている。
【0024】
上述したヘリウム用密閉型スクロール圧縮機では、旋回軸受11、主軸受12及び補助軸受13等を潤滑した油と、前記油注入孔18から注入されて冷媒ガス冷却用に使用された油の一部が、前記背圧室8に排出される構成となっている。作動冷媒であるヘリウムガスは比熱比が高く、断熱圧縮時のガス温度上昇が著しいので、多量の冷却油を前記油注入孔18から注入する必要がある。このため、前記背圧室8への油の排出量も多くなり、過剰な油が前記背圧室8に溜まりやすく、旋回スクロールが旋回運動する際の攪拌抵抗(攪拌損失)が大きくなり、圧縮機の消費電力が増加する課題がある。
【0025】
また、前記背圧室8に溜まった油の排出通路となる前記油排出孔28を、前記背圧室8に近い旋回スクロール4の鏡板部4aに形成しているが、旋回スクロール4に油の排出通路を設けると、クランク軸10の回転と伴に、旋回スクロールに形成されている油の排出通路(油排出孔28)が旋回運動して移動する。このため、前記背圧室8と前記圧縮室6とが連通する区間が長くなり、軸受潤滑後の高温の油と前記油冷却器19で冷却された注入油とが圧縮室の同一空間内で混合するため、冷却油によるガス冷却効果が低下する課題もある。
【0026】
更に、油の排出通路(油排出孔28)の前記圧縮室6への連通区間が長くなることにより、油が排出される空間(圧縮室6)内の圧縮が進んで圧力が上昇するため、背圧室8と油が排出される空間(圧縮室6)の圧力が逆転する区間が発生し、油の排出に問題が生じるという課題もあることがわかった。
【0027】
次に、従来のヘリウム用の密閉型スクロール圧縮機と、上述した課題を解決する本実施例1におけるヘリウム用の密閉型スクロール圧縮機の具体的実施例を、図2図5を用いて説明する。図2は従来のヘリウム用の密閉型スクロール圧縮機における油排出孔付近の構造を示す要部断面図、図3は本発明の実施例1を示すヘリウム用の密閉型スクロール圧縮機を示す図で、油排出孔付近の構造を示す要部断面図、図4図2に示す従来の密閉型スクロール圧縮機におけるクランク軸回転角と内線室(旋回ラップ内線側に形成される圧縮室または吸入室)内圧力との関係を説明する線図、図5図3に示す本実施例1の密閉型スクロール圧縮機におけるクランク軸回転角と内線室内圧力との関係を説明する線図である。
【0028】
まず、図2を用いて従来のヘリウム用密閉型スクロール圧縮機の構成を図1も参照しつつ説明する。この図2に示すように、固定スクロール5の鏡板部5aには圧縮室6に連通する油注入孔18が形成されている。また、旋回スクロール4の鏡板部4aには、中間圧力に保たれた背圧室8に過剰に溜まった油を圧縮室6に排出するために、背圧室8側に開口する径方向の排油通路27と、この排油通路27に連通すると共に前記圧縮室6に開口する油排出孔28が形成されている。
【0029】
クランク軸10(図1参照)が回転すると、該クランク軸10に係合されている旋回スクロール4が旋回運動し、これに伴い渦巻き状のラップ4b,5bの中心に向かって前記圧縮室6が移動し、圧縮室6内の閉じられた空間が縮小していくことにより圧縮が進み、高温・高圧の冷媒ガスとなって吐出口23から吐出室24に吐出される。
【0030】
図4は、図2に示す従来の密閉型スクロール圧縮機の内線室おけるクランク軸回転角と前記内線室内圧力との関係を説明する線図である。この図4においては、前記内線室における冷媒ガスの吸入工程が完了し、旋回ラップ内線側の圧縮室6が形成されたタイミングでのクランク軸回転角を0°と定義する。冷却油の油注入孔18は、前記内線室側の閉じ込みが完了し、旋回ラップ内線側の圧縮室6が形成された直後に、該圧縮室6に開口して連通する位置に形成されている。また、前記油注入孔18は、前記クランク軸10の回転が一定量進むと、旋回ラップ内線側の前記圧縮室6への連通が閉じられるように構成されている。前記油注入孔18が旋回ラップ内線側の前記圧縮室6に開口して連通している間は、該圧縮室6の圧縮が進み圧力が上昇する。
【0031】
また、前記油排出孔28は、旋回スクロール4の鏡板部4aに形成されているため、旋回ラップ内線側の圧縮室6が形成される前の冷媒ガス吸入工程中の吸入室に連通する位置に開口するように形成されている。この油排出孔28も前記クランク軸10の回転が一定量進むと前記固定スクロール5の固定ラップ5bにより閉止されるが、前記油排出孔28は前記旋回スクロール4に形成されているため、旋回スクロール4の旋回運動と共に移動する。このため油排出孔28の連通区間は図4に示すように長くなるので、前記吸入室だけでなく、旋回ラップ内線側の圧縮室6の形成後も該圧縮室6に連通することになる。従って、前記油排出孔28が開口する油排出空間は圧縮が進行するため、前記油排出空間(圧縮室6)内の圧力が、背圧室8の中間圧力以上になる区間が発生し、背圧室8の圧力変動も大きくなる。
また、前記油冷却器19で冷却された油が注入されている旋回ラップ内線側の圧縮室6に、軸受潤滑後の高温の排出油が流入して、前記注入油と前記排出油が同一空間内で混合するため、冷却された前記注入油によるガス冷却効果も低下する。
【0032】
次に、これらの課題を解決するようにした、本発明の具体的実施例を、図3及び図5を用いて説明する。
図3は、本発明の実施例1におけるヘリウム用の密閉型スクロール圧縮機の構成を示すもので、図3に図示はしていないが、図2に示すものと同様に、固定スクロール5の鏡板部5aには圧縮室6に連通する油注入孔18が形成されている。
【0033】
また、本実施例では、固定スクロール5の鏡板部5aに、中間圧力に保たれた背圧室8側に連通する軸方向の排油路29aと、この排油路29aに連通する径方向の排油路29bを有する排油通路29、及びこの排油通路29に連通すると共に吸入空間31に開口する油排出孔30が形成されている。なお、前記径方向の排油路29bは、固定スクロール5の外周側からドリル等で穴加工されるが、この形成された穴の外周側の開口部を塞ぐために閉止部材(栓)32が設けられている。
【0034】
前記排油通路29及び前記油排出孔30は、前記背圧室8に過剰に溜まった油を固定スクロール5に形成される前記吸入空間31にのみ排出し、旋回ラップ内線側及び外線側の両方の圧縮室6の何れにも排出されないように、前記油排出孔30の位置が形成されている。これにより、中間圧力に保たれた背圧室8に過剰に溜まった油を、前記排油通路29及び前記油排出孔30を介して前記吸入空間31にのみ排出することができる。
【0035】
図5は、図3に示す本実施例1の密閉型スクロール圧縮機におけるクランク軸回転角と内線室内圧力との関係を説明する線図である。この図5においても、図4と同様に、冷媒ガスの吸入工程が完了し、旋回ラップ内線側の圧縮室6が形成されたタイミングでのクランク軸回転角を0°と定義する。
【0036】
冷却油の油注入孔18は、従来のものと同様に、前記内線室側の閉じ込みが完了し、旋回ラップ内線側の圧縮室6が形成された直後に、該圧縮室6に開口して連通する位置(この例では9°の位置)に形成され、前記クランク軸10の回転が一定量進むと閉止するように構成されている。この例では、クランク軸の回転角が233°の位置になると、前記油注入孔18は前記圧縮室6への連通が閉止されるように構成されている。また、前記油注入孔18が旋回ラップ内線側の圧縮室6に開口して連通している間は、該圧縮室6の圧縮が進み圧力が上昇する。
【0037】
本実施例では、前記油排出孔30が前記固定スクロール5に形成されているため、その開口位置は常に一定の位置で静止した状態となっている。このため前記油排出孔30の連通区間を、図5に示すように、短く調整することが可能となり、また前記吸入空間31のみに連通し、圧縮室6には連通しない位置に形成することができる。
【0038】
即ち、前記油排出孔30は、前記背圧室8の油を前記吸入空間31にのみ排出し、旋回ラップ4aの内線側及び外線側に形成される何れの圧縮室6にも排出されない位置に形成されている。つまり、前記油排出孔30の開口位置は、旋回ラップ内線側及び外線側に形成される何れの圧縮室6にも開口せず、前記吸入空間31にのみ開口する位置に形成されている。
【0039】
また、前記油排出孔30は、旋回ラップ内線側に形成される最も外周側の前記内線室の閉じ込み完了時に開口し、クランク軸の回転角が一定量進み、最も外周側の前記内線室が閉じ込み開始するより手前で、前記油排出孔30は前記旋回ラップにより閉止されるように構成されている。即ち、開口後前記クランク軸10の回転が一定量進むと、前記旋回スクロール4の旋回ラップ4bにより閉止されるように構成されている。
【0040】
この図5に示す例では、クランク軸回転角が−93°の位置(内線室の閉じ込み開始より93°手前)で、前記油排出孔30が旋回ラップ4aにより閉止されるように構成されている。なお、前記油排出孔30が開口されるタイミングは、例えばクランク軸回転角が−360°の位置(内線室の閉じ込み開始より360°手前、即ち1つ前に形成される内線室の閉じ込み完了時であって、具体的には後述する図6に示す状態)とすることができる。
【0041】
ここで、図6図10を用いて、本実施例における油注入孔18の位置と油排出孔30の位置との関係、及び従来例における油排出孔28の位置との関係を説明する。図6はクランク軸回転角が0°での固定スクロールと旋回スクロールの噛み合い状態を示す図、図7はクランク軸回転角が9°での固定スクロールと旋回スクロールの噛み合い状態を示す図、図8はクランク軸回転角が233°での固定スクロールと旋回スクロールの噛み合い状態を示す図、図9はクランク軸回転角が267°での固定スクロールと旋回スクロールの噛み合い状態を示す図、図10はクランク軸回転角が307°での固定スクロールと旋回スクロールの噛み合い状態を示す図である。これらの図は、固定スクロール5を旋回スクロール4側から見た図であり、旋回スクロール4については旋回ラップ4bのみ断面で示し、また、図2に示す排油通路27と油排出孔28については想像線(一点鎖線)で図示している。
【0042】
図6に示すクランク軸回転角が0°の状態では、油注入孔18は旋回ラップ外線側の圧縮室6に開口し、本実施例の油排出孔30は旋回ラップ4bによる閉止から吸入空間31に開口開始される状態となっている。なお、従来の油排出孔28は、クランク軸回転角が0°の状態では、旋回ラップ内線側の圧縮室6に開口するように構成されていた。
【0043】
図7に示すクランク軸回転角が9°の状態では、油注入孔18は旋回ラップ外線側の圧縮室6に開口し、且つ旋回ラップ内線側の圧縮室6にも開口開始される状態となっている。本実施例の油排出孔30は吸入空間31に開口した状態となっており、従来の油排出孔28は旋回ラップ内線側の圧縮室6に開口した状態が継続している。
【0044】
従って、従来のものでは、クランク軸回転角が9°の状態から旋回ラップ内線側の圧縮室6において、油注入孔18からの冷却された注入油と背圧室8からの高温の排出油が同一の圧縮室内で混合されるため、ヘリウムガスの冷却効果が低下する。これに対し、本実施例では、背圧室8からの高温の排出油は吸入空間31にのみ排出され、圧縮室6には排出されないので、冷却された注入油によるヘリウムガスの冷却効果を向上できる。
【0045】
図8に示すクランク軸回転角が233°の状態では、油注入孔18は、旋回ラップ外線側の吸入室6Aにのみ開口し、旋回ラップ内線側の圧縮室6への連通は閉止された状態となる。本実施例の油排出孔30は前記吸入空間31にのみ開口した状態が継続している。なお、従来の油排出孔28は旋回ラップ内線側の圧縮室6への連通が閉止される直前の状態を示している。従って、従来のものでは、クランク軸回転角が9°〜233°の区間で、旋回ラップ内線側の圧縮室6において、油注入孔18からの冷却された注入油と背圧室8からの高温の排出油が同一の圧縮室内で混合されるので、冷却効果が低下する。
【0046】
図9に示すクランク軸回転角が267°の状態では、油注入孔18は、旋回ラップ外線側の吸入室6Aにのみ開口している。本実施例の油排出孔30は、旋回ラップ4bにより閉止され、前記吸入空間31への連通が閉止された状態を示している。
【0047】
なお、図9に示すクランク軸回転角が267°の状態は、これから閉じ込まれて圧縮室が形成される旋回ラップ4b内線室(吸入室6A)から見ると、閉じ込み完了前93°(クランク軸回転角−93°)である。同様に、前述した図6はクランク軸回転角−360°の位置にも相当する。
【0048】
従って、本実施例では、前記油排出孔30は、クランク軸回転角が−360°から−93°の位置で吸入空間31にのみ連通し、−93°から0°(内線室の閉じ込み完了時)では閉止されるように構成されている。なお、本実施例では前記油排出孔30の閉止区間を−93°〜0°としたが、その閉止を開始するタイミングを、旋回ラップ内線側に形成される内線室が吸入工程を完了し圧縮室が形成されるタイミングよりも手前であって、−80°から−100°、好ましくは−90°から−95°の範囲内にすれば、背圧室8からの油の排出を十分に行うことができ、且つ吸入ガスの加熱も抑制することができる。
なお、従来の油排出孔28は旋回ラップ内線側の圧縮室6への連通が閉止された状態を示すと共に、旋回内線側の吸入室6Aにこれから連通開始する直前の状態を示している。
【0049】
図10に示すクランク軸回転角が307°の状態は、油注入孔18は旋回ラップ外線側の吸入室6Aに開口し、本実施例の油排出孔30は旋回ラップ4bによって閉止されている状態を示す。なお、従来の油排出孔28は旋回ラップ内線側の吸入室6Aに開口している。図10の状態から更に進み、クランク軸回転角が360°になると、上述した図6に示す図(クランク軸回転角が0°)と同じ状態となり、以下同様に、クランク軸の回転と共に、図6図10の状態を繰り返す。
【0050】
以上説明したように、本実施例では、固定スクロールに、排油通路29及び油排出孔30を形成し、且つ前記油排出孔30を吸入空間31にのみ連通し、旋回ラップ内線側及び外線側の両方の圧縮室6には連通しない位置に形成しているので、背圧室に過剰な油が溜まって油の攪拌損失が増加するのを抑制し、且つ簡単な構成で作動ガスの冷却効果を向上できるヘリウム用の密閉型スクロール圧縮機を得ることができる。
【0051】
つまり、ヘリウムガスの冷却用に使用される注入油を注入する空間と、高温の排出油を排出する空間を分けることができるから、冷媒ガスの冷却性を向上でき、圧縮機内部の温度上昇を抑制して大幅な信頼性向上を図ることができる。また、背圧室に過剰の油が溜まらないようにして油の攪拌損失を低減できるため、省エネルギー性の向上も図ることができる。
【0052】
更に、固定スクロールに油排出孔30を形成したことにより、油を排出する空間への連通区間を短く調整することができ、前記油排出孔30を吸入空間31にのみ開口させることができるので、前記油排出孔30から油が排出される空間は常に吸入圧力となり、圧力変動が少ない。従って、油排出効率を向上でき、背圧室8の圧力変動も抑制できる。
【0053】
また、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記固定スクロールに形成した油排出孔30と背圧室8をパイプ等により連通させるようにしても良い。
更に、上記した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0054】
1…圧縮機構部、2…電動機、
3…密閉容器、3a…上蓋、3b…胴部、3c…底蓋、
4…旋回スクロール、4a…鏡板部、4b…旋回ラップ、4c…旋回ボス部、
5…固定スクロール、5a…鏡板部、5b…固定ラップ、5c…吸入口、
6…圧縮室、6A…吸入室、7…フレーム、8…背圧室、9…連通孔、
10…クランク軸、10a…偏心軸部、
11…旋回軸受、12…主軸受、13…補助軸受、
14…給油通路、15…油溜り部、16…油出口管、17…油注入管、
18…油注入孔、19…油冷却器、20…油ストレーナ、21…油流量調整弁、
22…吸入管、23…吐出口、24…吐出室、25…空間、
26…吐出管、27…排油通路、28…油排出孔、
29…排油通路、30…油排出孔、
31…吸入空間、32…閉止部材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10