特許第6969921号(P6969921)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6969921
(24)【登録日】2021年11月1日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】手押し式電動運搬車
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20211111BHJP
   B60L 7/14 20060101ALI20211111BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20211111BHJP
   B62B 3/00 20060101ALI20211111BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   B60L15/20 J
   B60L7/14
   B60T7/12 C
   B62B3/00 G
   G08G1/16 C
【請求項の数】15
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2017-139180(P2017-139180)
(22)【出願日】2017年7月18日
(65)【公開番号】特開2019-22338(P2019-22338A)
(43)【公開日】2019年2月7日
【審査請求日】2020年4月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000137292
【氏名又は名称】株式会社マキタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】竹田 幸市
(72)【発明者】
【氏名】加藤 慈
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 次郎
【審査官】 冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−137823(JP,A)
【文献】 特開2014−166117(JP,A)
【文献】 特開2002−225741(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 15/20
B60L 7/14
B62B 3/00
B60T 7/12
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の手押しにより移動可能な手押し式電動運搬車であって、
駆動輪となる車輪を回転させるモータと、
当該手押し式電動運搬車の移動の妨げとなる障害物を検出する障害物検出部と、
前記障害物検出部にて前記障害物が検出されると、当該手押し式電動運搬車の移動を抑制する抑制制御、を行うように構成された制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記モータが駆動されてから所定期間は、禁止条件が成立していると判断して、前記抑制制御を禁止するよう構成されている、手押し式電動運搬車。
【請求項2】
使用者の手押しにより移動可能な手押し式電動運搬車であって、
駆動輪となる車輪を回転させるモータと、
当該手押し式電動運搬車の移動の妨げとなる障害物を検出する障害物検出部と、
前記障害物検出部にて前記障害物が検出されると、当該手押し式電動運搬車の移動を抑制する抑制制御、を行うように構成された制御部と、
を備え、
前記制御部は、当該手押し式電動運搬車が移動し始めてから所定期間は、禁止条件が成立していると判断して、前記抑制制御を禁止するよう構成されている、手押し式電動運搬車。
【請求項3】
使用者の手押しにより移動可能な手押し式電動運搬車であって、
駆動輪となる車輪を回転させるモータと、
当該手押し式電動運搬車の移動の妨げとなる障害物を検出する障害物検出部と、
前記障害物検出部にて前記障害物が検出されると、当該手押し式電動運搬車の移動を抑制する抑制制御、を行うように構成された制御部と、
を備え、
前記制御部は、当該手押し式電動運搬車が前進し始めてから所定期間は、禁止条件が成立していると判断して、前記抑制制御を禁止するよう構成されている、手押し式電動運搬車。
【請求項4】
使用者の手押しにより移動可能な手押し式電動運搬車であって、
駆動輪となる車輪を回転させるモータと、
当該手押し式電動運搬車の移動の妨げとなる障害物を検出する障害物検出部と、
前記障害物検出部にて前記障害物が検出されると、当該手押し式電動運搬車の移動を抑制する抑制制御、を行うように構成された制御部と、
を備え、
前記制御部は、当該手押し式電動運搬車の後退移動時には、禁止条件が成立していると判断して、前記抑制制御を禁止するよう構成されている、手押し式電動運搬車。
【請求項5】
使用者の手押しにより移動可能な手押し式電動運搬車であって、
駆動輪となる車輪を回転させるモータと、
当該手押し式電動運搬車の移動の妨げとなる障害物を検出する障害物検出部と、
前記障害物検出部にて前記障害物が検出されると、当該手押し式電動運搬車の移動を抑制する抑制制御を行い、所定の禁止条件が成立しているときには、前記抑制制御を禁止するよう構成された制御部と、
前記抑制制御による衝突抑制機能を発揮させるか無効にするかを切り替える、衝突抑制スイッチと、
を備え、
前記制御部は、
前記衝突抑制スイッチにより前記衝突抑制機能が無効に切り替えられているときには、前記モータが駆動停止中であるか駆動中であるかを判断し、前記モータが駆動停止中である場合には前記抑制制御を禁止し、前記モータが駆動中である場合には前記抑制制御を禁止しない、ように構成されている、手押し式電動運搬車。
【請求項6】
使用者の手押しにより移動可能な手押し式電動運搬車であって、
駆動輪となる車輪を回転させるモータと、
当該手押し式電動運搬車の移動の妨げとなる障害物を検出する障害物検出部と、
前記障害物検出部にて前記障害物が検出されると、当該手押し式電動運搬車の移動を抑制する抑制制御を行い、所定の禁止条件が成立しているときには、前記抑制制御を禁止するよう構成された制御部と、
前記抑制制御による衝突抑制機能を発揮させるか無効にするかを切り替える、衝突抑制スイッチと、
を備え、
前記制御部は、
前記衝突抑制スイッチにより前記衝突抑制機能が無効に切り替えられているときには、当該手押し式電動運搬車が移動停止中であるか移動中であるかを判断し、当該手押し式電動運搬車が移動停止中である場合には前記抑制制御を禁止し、当該手押し式電動運搬車が移動中である場合には前記抑制制御を禁止しない、ように構成されている、手押し式電動運搬車。
【請求項7】
前記制御部の前記衝突抑制機能が有効であるか無効であるかを報知する報知部、を備えている請求項5又は請求項6に記載の手押し式電動運搬車。
【請求項8】
前記制御部は、当該手押し式電動運搬車の移動速度が所定速度未満のときには、前記禁止条件が成立していると判断して、前記抑制制御を禁止するよう構成されている、請求項1〜請求項7の何れか1項に記載の手押し式電動運搬車。
【請求項9】
前記障害物検出部は、前記障害物との距離を認識する距離認識機能を有し、
前記制御部は、前記障害物検出部にて認識された距離が所定値以下のときには、前記禁止条件が成立したと判断して、前記抑制制御を禁止するよう構成されている、請求項1〜請求項8の何れか1項に記載の手押し式電動運搬車。
【請求項10】
前記制御部は、前記モータの駆動停止中には、前記禁止条件が成立していると判断して、前記抑制制御を禁止するよう構成されている、請求項1〜請求項9の何れか1項に記載の手押し式電動運搬車。
【請求項11】
前記制御部は、当該手押し式電動運搬車の移動停止中には、前記禁止条件が成立していると判断して、前記抑制制御を禁止するよう構成されている、請求項1〜請求項10の何れか1項に記載の手押し式電動運搬車。
【請求項12】
前記制御部は、前記抑制制御において、前記モータに制動力を発生させるよう構成されている、請求項1〜請求項11の何れか1項に記載の手押し式電動運搬車。
【請求項13】
前記制御部は、前記抑制制御において、前記障害物までの距離に応じて、該距離が短いときに制動力が大きくなるよう、前記モータの駆動・制動力を制御するよう構成されている、請求項12に記載の手押し式電動運搬車。
【請求項14】
車輪の回転を直接抑制するブレーキ装置を備え、
前記制御部は、前記抑制制御において、前記ブレーキ装置を駆動するよう構成されている、請求項1〜請求項13の何れか1項に記載の手押し式電動運搬車。
【請求項15】
前記制御部が前記抑制制御によって当該手押し式電動運搬車の移動を抑制していることを報知する報知部、を備えている請求項1〜請求項14の何れか1項に記載の手押し式電動運搬車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータにより駆動可能な車輪を備えた手押し式電動運搬車に関する。
【背景技術】
【0002】
手押し式電動運搬車には、駆動輪となる車輪を駆動するモータと、モータを駆動制御する制御部とが備えられている。このため、使用者が制御部にモータの駆動指令を入力して、モータの駆動を開始させれば、モータの回転により運搬作業を補助させることができる。
【0003】
また、手押し式電動運搬車においては、使用者が運搬作業時に進行方向前方の障害物に気づかないと、車体が障害物に当たってしまう。そして、そのとき、モータを駆動させていると、衝突による衝撃が大きく、車体が変形したり、積載物が落下したりする。
【0004】
そこで、手押し式電動運搬車においては、赤外線センサ等、進行方向前方の障害物を検出する障害物検出部を設けることで、衝突抑制機能を付与することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
つまり、この提案の手押し式電動運搬車においては、障害物検出部にて障害物が検出されると、モータの回転を停止させることで、運搬車が障害物に衝突するのを抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−166117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、手押し式電動運搬車は、各種作業現場で荷物を運ぶのに利用されることから、使用環境によっては、障害物検出部に泥やゴミが付着して、障害物が誤検出されることがある。また、実際に障害物が存在し、障害物検出部にて障害物が検出された場合であっても、使用者は、障害物を避けつつ運搬車を手動で移動させたいことがある。
【0008】
しかし、上記提案の手押し式電動運搬車においては、障害物検出部にて障害物が検出されただけでモータを停止させるため、場合によっては、衝突抑制機能が運搬作業の妨げとなり、運搬作業の作業性を低下させてしまうことがある。
【0009】
本開示の一局面は、障害物検出部にて障害物が検出されたときにモータを停止するように構成された手押し式電動運搬車において、運搬作業の作業性を低下させることなく、モータを停止できるようにすることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一局面の手押し式電動運搬車は、モータと、障害物検出部と、制御部とを備える。
モータは、当該手押し式電動運搬車において、駆動輪となる車輪を回転させるためのものであり、障害物検出部は、当該手押し式電動運搬車の移動の妨げとなる障害物を検出するものである。
【0011】
そして、制御部は、障害物検出部にて障害物が検出されると、当該手押し式電動運搬車の移動を抑制する。また、制御部は、所定の禁止条件が成立しているときには、当該手押し式電動運搬車の移動を抑制する抑制制御を禁止する。
【0012】
従って、本開示の手押し式電動運搬車によれば、使用者の運搬作業の作業性を低下させることのないように禁止条件を設定しておくことで、制御部が当該手押し式電動運搬車の移動を抑制するのを禁止することができる。
【0013】
よって、本開示の手押し式電動運搬車によれば、障害物検出部にて障害物が検出されているときに、運搬作業の作業性を低下させることなく、当該手押し式電動運搬車の移動を抑制することができるようになり、使用者による使い勝手を向上することができる。
【0014】
ここで、制御部は、当該手押し式電動運搬車の移動速度が所定速度未満のときに、禁止条件が成立していると判断して、抑制制御を禁止するよう構成されていてもよい。
このようにすれば、障害物検出部にて障害物が検出されていても、使用者が手押し操作によって、当該手押し式電動運搬車を低速度で移動させているときに、抑制制御によって移動が抑制されるのを禁止することが可能となり、使い勝手を向上できる。
【0015】
また、障害物検出部が、障害物との距離を認識する距離認識機能を有する場合、制御部は、障害物検出部にて認識された距離が所定値以下のときには、禁止条件が成立したと判断して、抑制制御を禁止するよう構成されていてもよい。
【0016】
つまり、例えば、障害物検出部に泥やゴミが付着していて、これらの汚れが障害物として誤検出された場合には、その誤検出された障害物までの距離は極めて短くなる。
しかし、制御部において、障害物検出部にて認識された距離が所定値以下のときに禁止条件が成立したと判断するようにすれば、障害物の誤検出により、手押し式電動運搬車の移動が抑制されることはない。
【0017】
従って、制御部をこのように構成しても、使い勝手を向上できる。
なお、障害物検出部が有する距離認識機能としては、例えば、障害物との間の距離を測定する測距機能であってもよく、或いは、障害物との距離が障害物を認識可能な設定距離以上か否かを判定する距離判定機能であってもよい。
【0018】
また、制御部は、モータが駆動されてから所定期間は、禁止条件が成立していると判断して、抑制制御を禁止するよう構成されていてもよい。
つまり、例えば、周囲に多数の障害物が存在するような狭い場所では、モータの駆動によって手押し式電動運搬車が移動を開始する度に、障害物検出部により障害物が検出されてしまい、運搬作業を良好に実施できないことが考えられる。
【0019】
しかし、上記のように、モータの駆動後所定期間は、禁止条件が成立しているとして、制御部が抑制制御を禁止するようにすれば、狭い場所で運搬作業が頻繁に中断されて、運搬作業の作業性が低下するのを抑制することができる。
【0020】
また同様に、制御部は、当該手押し式電動運搬車が移動し始めてから所定期間、若しくは、当該手押し式電動運搬車が前進し始めてから所定期間は、禁止条件が成立していると判断して、抑制制御を禁止するよう構成されていてもよい。
【0021】
このようにすれば、モータが駆動されたときだけでなく、作業者が手押し操作して、手押し式電動運搬車が移動を開始したときに、障害物検出部により周囲の障害物が検出されて、手押し式電動運搬車を移動できなくなるのを抑制できる。
【0022】
また、制御部は、当該手押し式電動運搬車の後退移動時には、禁止条件が成立していると判断して、抑制制御を禁止するよう構成されていてもよい。つまり、手押し式電動運搬車においては、通常、後退方向に使用者がいるので、後退移動時には、制御部の抑制制御による衝突防止機能を発揮させる必要がない。
【0023】
従って、このように、後退移動時に抑制制御を禁止することにより、手押し式電動運搬車の移動が抑制されて、作業が中断されてしまうのを抑制でき、延いては、使い勝手を向上できる。
【0024】
また、制御部は、モータの駆動停止中には、禁止条件が成立していると判断して、抑制制御を禁止するよう構成されていてもよい。つまり、モータの駆動が停止されているときには、使用者が手押し操作によって運搬車を移動させているので、障害物に衝突する確率は低く、衝突したとしても使用者自らが運搬車の移動を停止させると考えられるので、このような場合には、抑制制御を禁止するのである。
【0025】
また、制御部は、手押し式電動運搬車の移動停止中には、禁止条件が成立していると判断して、抑制制御を禁止するよう構成されていてもよい。このようにすれば、運搬車が停止しているときには、衝突抑制機能が停止しているので、衝突抑制機能によって運搬車の移動を開始できなくなるのを抑制できる。
【0026】
次に、制御部は、抑制制御において、モータに制動力を発生させるよう構成されていてもよい。またこの場合、制御部は、抑制制御において、障害物までの距離に応じて、距離が短いときに制動力が大きくなるよう、モータの駆動・制動力を制御するよう構成されていてもよい。
【0027】
また、手押し式電動運搬車に、車輪の回転を直接抑制するブレーキ装置が備えられている場合には、制御部は、抑制制御において、そのブレーキ装置を駆動するよう構成されていてもよい。
【0028】
そして、このようにモータ若しくは車輪に制動力を発生させるようにすれば、手押し式電動運搬車の移動を抑制して、障害物に衝突するのを抑制できる。
また特に、障害物までの距離に応じて、モータの駆動・制動力を制御するようにすれば、障害物までの距離が長い場合には、モータを減速させ、障害物までの距離が短くなるとモータに制動力を発生させて、最終的にモータを停止させる、といったことが可能となる。
【0029】
次に、本開示の手押し式電動運搬車には、制御部に対し抑制制御による衝突抑制機能を発揮させるか否かを切り替える衝突抑制スイッチが備えられていてもよい。
このようにすれば、例えば、制御部の抑制制御が頻繁に実施されて、衝突抑制機能が効き過ぎる場合に、使用者は衝突抑制スイッチを操作することで、制御部の抑制制御による衝突抑制機能を無効にすることができるようになり、使い勝手を向上することが可能となる。
【0030】
なお、この場合、制御部は、モータの駆動中には、衝突抑制スイッチにより衝突抑制機能を無効にできないように構成されていてもよい。このようにすれば、モータの駆動中、換言すれば、手押し式電動運搬車の移動中に、衝突抑制スイッチが誤操作されて、衝突抑制機能が無効になり、安全性が低下するのを抑制できる。
【0031】
また、この場合、制御部は、当該手押し式電動運搬車の移動中には、衝突抑制スイッチにより衝突抑制機能を無効にできないように構成されていてもよい。このようにすれば、モータの駆動中だけでなく、使用者が手押し操作によって運搬車を移動させているときにも、衝突抑制スイッチが誤操作されて、衝突抑制機能が無効になり、安全性が低下するのを抑制できる。
【0032】
また、上記のように衝突抑制スイッチを設けて、制御部の衝突抑制機能を有効又は無効に切り替えることができるようにした場合には、衝突抑制機能が有効であるか無効であるかを報知する報知部を設けてもよい。このようにすれば、使用者は、報知部を介して、衝突抑制機能が有効であるのか無効であるのかを確認することができるようになる。
【0033】
また、本開示の手押し式電動運搬車においては、制御部が抑制制御によって当該手押し式電動運搬車の移動を抑制していることを報知する報知部が備えられていてもよい。このようにすれば、使用者は、手押し式電動運搬車を移動させているときに、制御部による衝突抑制機能が働いていることを確認することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】実施形態の手押し式電動運搬車の主要部の構成を表す斜視図である。
図2図1に示す手押し式電動運搬車に荷台を装着した状態を表す斜視図であり、図2Aは、パイプにて構成された荷台を装着した状態を表し、図2Bは、金属板をプレス成形することにより構成された荷台を装着した状態を表す。
図3】左右のハンドル部の間に配置されたバッテリボックスを手押し式電動運搬車の上方から見た状態を表す平面図である。
図4】右側のハンドル部に設けられた操作装置の外観を表す斜視図である。
図5】実施形態の手押し式電動運搬車の電気系全体の構成を表すブロック図である。
図6図5における操作装置の詳細構成を表すブロック図である。
図7】制御回路にて実行される制御処理を表すフローチャートである。
図8図7に示す異常状態の確認処理を表すフローチャートである。
図9図8に示す衝突抑制処理を表すフローチャートである。
図10図9に示す衝突抑制機能の許可/禁止の判定処理を表すフローチャートである。
図11図9に示す衝突抑制判定処理を表すフローチャートである。
図12図7に示すモータ制御処理を表すフローチャートである。
図13図7に示す出力制御処理にて実行される衝突抑制機能許可/禁止の報知処理を表すフローチャートである。
図14図7に示す出力制御処理にて実行される衝突抑制動作の報知処理を表すフローチャートである。
図15】衝突抑制判定処理の変形例を表すフローチャートである。
図16】衝突抑制判定処理の他の変形例を表すフローチャートである。
図17】ブレーキ装置を用いて衝突抑制機能を実現するのに用いられる駆動系の構成例を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に本開示の実施形態を図面と共に説明する。
図1に示すように、本実施形態の手押し式電動運搬車1は、駆動輪となる1つの前輪3と、従動輪となる左右の後輪5L,5Rを備える三輪車として構成されている。
【0036】
なお、車輪5に対する添え字Lは、手押し式電動運搬車1の前方に向かって左側に配置されていることを表し、添え字Rは、手押し式電動運搬車1の前方に向かって右側に配置されていることを表しており、以下の説明における添え字L,Rも同様である。また、本実施形態では、手押し式電動運搬車を、単に運搬車ともいう。
【0037】
運搬車1は、上記各車輪3,5L,5Rを回転可能に支持する車体フレーム10と、荷物を載せる荷台を車体フレーム10の上に固定するための荷台フレーム20とを備える。
荷台フレーム20は、図2Aに示すように複数のパイプを連結することで所謂パレットとして構成された荷台20Aや、図2Bに示すように鋼板をプレス成形することで所謂バケットとして構成された荷台20B等、各種荷台を固定できるように構成されている。このため、運搬作業を行う使用者は、作業内容に応じて、使用する荷台を選択できる。
【0038】
車体フレーム10及び荷台フレーム20は、金属製のパイプ材にて構成されており、前輪3を挟んでその回転面を中心に左右対称となるよう、棒状のパイプを屈曲させた形状になっている。
【0039】
すなわち、車体フレーム10は、運搬車1の前方先端部分で前輪3を囲むようにU字状に屈曲されている。そして、その屈曲部分の後方には、前輪3の回転中心部分を左右から挟み、前輪3の回転中心部分に組み付けられたモータ9を挟持する前輪支持部11L,11R(図1は左側の前輪支持部11Lを示す)が設けられている。
【0040】
このため、前輪3は、前輪支持部11L,11Rに回転可能に固定され、使用者による運搬車1の手押し操作だけでなく、モータ9への通電によっても回転駆動されることになる。
【0041】
また、車体フレーム10において、前輪支持部11L,11Rから後方は、前輪3を中心として左右に広がり、且つ、斜め上方に立ち上がるように延びた傾斜部12L,12Rとなっている。
【0042】
そして、この傾斜部12L,12Rよりも更に後方は、略水平となって、荷台フレーム20を載置するための載置部13L,13Rとなっている。
この左右の載置部13L,13Rの間には、荷台フレーム20を載置すると共に、左右の後輪5L,5Rを支持するための後輪フレーム30が設けられている。
【0043】
後輪フレーム30は、左右の後輪5L,5Rが回転自在に固定される後輪支持部7L,7Rを、それぞれ、左右方向に摺動可能に固定するためのフレーム本体32と、フレーム本体32に対し後輪支持部7L,7Rを位置決め固定するための固定部材34L,34Rを備える。このため、使用者は、後輪5L,5Rの間隔を任意に設定することができる。
【0044】
また、車体フレーム10において、後輪フレーム30が取り付けられる載置部13L,13Rよりも更に後方は、使用者が手押し操作可能な高さ位置まで斜め上方に立ち上がった傾斜部14L,14Rとなっている。
【0045】
そして、その傾斜部14L,14Rよりも更に後方は、略水平となって、後端側に使用者が把持するためのグリップ15L,15Rが装着されるハンドル部16L,16Rとなっている。
【0046】
車体フレーム10において、左側の前輪支持部11Lには、前輪3に制動力を与えるブレーキ装置17が設けられている。そして、左側のハンドル部16Lには、ブレーキ装置17を手動で動作させるためのブレーキレバー18が設けられている。
【0047】
また、車体フレーム10の右側のハンドル部16Rには、モータ9の駆動条件を設定したり、モータ9の駆動指令を入力したりするための操作装置90が設けられている。
また、車体フレーム10において、荷台フレーム20を載置するための左右の載置部13L,13Rには、それぞれ、運搬車1の移動の妨げとなる障害物を検出するための障害物検出部40L,40Rが設けられている。
【0048】
この障害物検出部40L,40Rは、運搬車1の前方に向けて超音波を放射し、放射した超音波が前方の障害物に当たって反射してくる反射波を受信することで、障害物の有無及び障害物までの距離を測定する超音波センサにて構成されている。
【0049】
なお、本実施形態では、運搬車1の左右に障害物検出部40L,40Rを配置しているが、障害物検出部は、例えば、運搬車1の先端部分に1つ設けるだけでもよい。
また、障害物検出部40L,40Rは、必ずしも超音波センサにて構成する必要はなく、例えば、レーザ光を利用して前方の障害物を探索するレーザレーダであってもよいし、特許文献1に記載のような赤外線センサであってもよい。つまり、障害物検出部40L,40Rは、運搬車1の前方の障害物を検出できればよい。
【0050】
また、障害物検出部40L,40Rは、運搬車1の前方の路面上に存在する物体に加えて、路面の凹凸についても、障害物として検出するように構成してもよい。なお、路面の凹凸は、例えば、検出に用いる超音波や光信号の受信タイミングの変化に基づき、検出するようにすればよい。
【0051】
また、障害物検出部40は、障害物との間の距離を測定する測距機能ではなく、障害物との距離が障害物を認識可能な設定距離以上か否かを判定する距離判定機能を有するものであってもよい。
【0052】
また、車体フレーム10の傾斜部14L,14Rの間には、バッテリボックス60を固定するための固定フレーム19が設けられている。バッテリボックス60は、運搬車1の電源となる2つのバッテリパックを収納するためのものであり、固定フレーム19に固定されることで、左右のハンドル部16L,16Rの間に配置される。
【0053】
次に、荷台フレーム20は、運搬車1の前方側端部が、車体フレーム10の前輪支持部11L,11Rに固定された固定部材21L,21R(図1には左側の固定部材21Lを示す)を介して、前輪3の回転中心よりも下方の位置で、前輪3周りに回動可能に固定されている。
【0054】
また、荷台フレーム20は、車体フレーム10に載置された状態で、固定部材21L,21Rへ固定される先端部分から、前輪3よりも高く、車体フレーム10の載置部13L,13Rに載置可能な高さ位置まで略鉛直方向に立ち上がる連結部22L,22Rを備える。
【0055】
そして、この連結部22L,23Rの上端は、車体フレーム10の載置部13L,13Rに向けて略直角に屈曲されて、車体フレーム10の載置部13L,13Rに載置可能な荷台固定部23L,23Rとなっている。
【0056】
また、この荷台固定部23L,23Rは、車体フレーム10の傾斜部14,14Rの手前で上方に真っ直ぐ立ち上げられており、その立上がり部24L,24Rの上端は、バッテリボックス60と略同じ高さ位置で連結部25にて連結されている。
【0057】
また、立上がり部24L,24Rの間には、上端の連結部25よりも下方の位置で、荷台20A,20Bに載せられた荷物がバッテリボックス60に当たるのを防止するための保護カバー26が設けられている。
【0058】
荷台フレーム20は、固定部材21L,21Rを介して、前輪3周りに回動可能に固定されることから、使用者は、上端の連結部25を上方に持ち上げ、荷台固定部23L,23Rに固定された荷台を前方に傾斜させることができる。
【0059】
このため、使用者は、必要に応じて、運搬対象物を運搬車1の前方に落とすことができることになるが、車体フレーム10に対し荷台フレーム20が固定されていないと、運搬車1の移動時に荷台フレーム20が上下に変位することがある。
【0060】
そこで、車体フレーム10においてバッテリボックス60が固定される固定フレーム19には、荷台フレーム20の左側の立上がり部24Lに設けられたフック27に係合して、荷台フレーム20を固定するための係合部材28が設けられている。なお、この係合部材28には、使用者が手動で係合・解除するための操作レバーが設けられている。
【0061】
次に、車体フレーム10の右側のハンドル部16Rに設けられたモータ駆動用の操作装置90、及び、左右のハンドル部16L,16Rの間に配置されるバッテリボックス60について説明する。
【0062】
図3図4に示すように、操作装置90は、ハンドル部16Rに装着可能なケースに駆動レバー91や主電源スイッチ92を組み付けることにより構成されている。
そして、主電源スイッチ92は、使用者がハンドル部16Rの上方から操作(押下)できるようにケースの上面に配置されている。
【0063】
また、駆動レバー91は、使用者がグリップ15Rを把持した状態で、指で操作し、その操作量によりモータ9の回転速度(換言すれば運搬車1の走行速度)を指令するための所謂トリガであり、ケースの下方から後方に向けて突出されている。
【0064】
また、主電源スイッチ92が配置されるケースの上面には、前進後退切替スイッチ94、前進後退表示部95、高速低速切替スイッチ96、及び、高速低速表示部97も設けられている。
【0065】
前進後退切替スイッチ94は、運搬車1の進行方向を前進・後退の何れかに設定するためのものであり、前進後退切替スイッチ94が操作(押下)される度に、運搬車1の進行方向(詳しくはモータ9の回転方向)が切り替えられる。
【0066】
また、前進後退表示部95は、前進後退切替スイッチ94を介して設定された運搬車1の進行方向を表示するためのものであり、LED等を用いて前進・後退を示す矢印の何れかを点灯することで進行方向を表示するように構成されている。
【0067】
また、高速低速切替スイッチ96は、モータ9(換言すれば運搬車1)の速度モードを高速又は低速に設定するためのものであり、高速低速切替スイッチ96が操作(押下)される度に速度モードが切り替えられる。
【0068】
なお、この速度モードは、駆動レバー91の操作量に応じてモータ9の回転速度を設定する際の上限速度を、予め設定された高速又は低速に設定するためのものである。そして、モータ9の回転速度は、速度モードに応じた上限速度に駆動レバー91の操作量に応じた比率を乗じることで設定される。
【0069】
また、高速低速表示部97は、高速低速切替スイッチ96を介して設定された速度モード(高速又は低速)を表示するためのものであり、LED等を用いて速度モードを二段階に表示するように構成されている。
【0070】
そして、本実施形態では、操作装置90の製造を容易にするため、主電源スイッチ92、前進後退切替スイッチ94、前進後退表示部95、高速低速切替スイッチ96、及び、高速低速表示部97は、1枚の基板に組み付けられている。
【0071】
バッテリボックス60は、2つのバッテリパック70A,70B(図5参照)を収納できるように、上面が開口したボックス本体61と、ボックス本体61の上面を開閉するための蓋体62とを備える。
【0072】
蓋体62は、ボックス本体61に対しヒンジを介して開閉可能に取り付けられており、ヒンジとは反対側の開放端部には、蓋体62を閉じた状態でボックス本体61に固定するためのロック機構63が設けられている。
【0073】
なお、ロック機構63は、ロック位置或いはアンロック位置に回動させることで、ロック・アンロックを切り替えることができるようになっている。
また、ボックス本体61の上面の一部は、蓋体62の開閉の邪魔にならないように閉塞されており、その閉塞部分には、バッテリ切替スイッチ71及び残容量表示部72A,72Bが設けられている。
【0074】
バッテリ切替スイッチ71は、使用者により操作位置が切り替えられることにより、電源として使用するバッテリパックをバッテリパック70A,70Bの何れかに切り替えるためのものであり、バッテリパック70A,70Bの収納位置の間に配置されている。このため、使用者は、バッテリ切替スイッチ71の操作位置により、電源として使用されるバッテリパックを確認できる。
【0075】
残容量表示部72A,72Bは、バッテリパック70A、70Bに蓄積されている電力量(以下、残容量という)をそれぞれ表示するためのものであり、本実施形態では3つのLEDを一列に配置し、点灯するLEDの個数によって残容量を表示するように構成されている。
【0076】
この2つの各残容量表示部72A,72Bは、それぞれ、異なる基板に組み付けられ、バッテリ切替スイッチ71を挟んで、対応するバッテリパック70A,70Bの収納位置近傍に配置されている。
【0077】
また、一方の残容量表示部72Bが組み付けられた基板には、残容量表示スイッチ73、衝突抑制スイッチ74、及び、衝突抑制表示部75も設けられている。
ここで、残容量表示スイッチ73は、残容量表示部72A,72Bへの残容量の表示を指令するための押しボタン式のスイッチである。
【0078】
そして、残容量表示スイッチ73を介して残容量の表示指令が入力されると、後述の制御回路81によって、バッテリ切替スイッチ71の切替状態にかかわらず、バッテリパック70A、70Bの残容量が、残容量表示部72A,72Bに一定時間表示される。
【0079】
なお、バッテリボックス60の2つのバッテリパック70A,70Bの収納位置のうち、一方にだけバッテリパックが収納されている場合には、実際に収納されているバッテリパックの残容量が、その収納位置に対応した残容量表示部72A又は72Bに表示される。
【0080】
また、本実施形態では、バッテリボックス60内にバッテリパックが一つ収納されている場合には、実際にバッテリパックが収納されている側にバッテリ切替スイッチ71を切り替えることで、収納されたバッテリパックをモータ9の駆動に利用できる。
【0081】
次に、衝突抑制スイッチ74は、障害物検出部40L,40Rにて障害物が検出されたときにモータ9を停止させる衝突抑制機能を、有効にするか無効にするかを切り換えるための押しボタン式のスイッチである。
【0082】
また、衝突抑制表示部75は、衝突抑制機能が有効であるか無効であるかを表示すると共に、有効であるときに、衝突抑制機能によりモータ9の回転が抑制若しくは停止されていることを表示するためのものである。
【0083】
具体的には、衝突抑制表示部75は、LEDにて構成されており、衝突抑制機能が有効であるときに点灯し、衝突抑制機能によりモータ9の回転が抑制若しくは停止されているときに点滅する。このため、衝突抑制表示部75は、本開示の報知部として機能し、使用者に対し衝突抑制機能を報知する。
【0084】
バッテリボックス60において、バッテリ切替スイッチ71や残容量表示部72A,72Bが設けられた閉塞部分の内側には、モータ9や障害物検出部40L,40Rを駆動するための制御回路81が組み込まれた回路基板80が収納されている。
【0085】
図5に示すように、この回路基板80には、本開示の制御部としての制御回路81に加えて、インバータ部82、ゲート回路83、回生防止部84、駆動回路85、電流検出部86、素子温度検出部87、電源制御部88、及び、レギュレータ89が設けられている。
【0086】
ここで、インバータ部82は、バッテリボックス60に収納されたバッテリパック70A又は70Bから電力供給を受けて、モータ9に駆動電流を流すためのものである。本実施形態では、モータ9が3相ブラシレスモータにて構成されているため、インバータ部82は、6つのスイッチング素子Q1〜Q6からなる3相フルブリッジ回路にて構成されている。
【0087】
インバータ部82において、3つのスイッチング素子Q1〜Q3は、モータ9の3つの端子と、バッテリパック70A又は70Bの正極側に接続される正極側通電経路との間に、所謂ハイサイドスイッチとして設けられている。
【0088】
また、他の3つのスイッチング素子Q4〜Q6は、モータ9の3つの端子と、バッテリパック70A又は70Bの負極側に接続される負極側通電経路との間に、所謂ローサイドスイッチとして設けられている。
【0089】
なお、正極側通電経路は、バッテリ切替スイッチ71を介して、バッテリパック70A又は70Bの正極側に接続される。そして、バッテリ切替スイッチ71からインバータ部82に至る正極側通電経路には、キー挿入部65及びトリガスイッチ98が設けられている。
【0090】
キー挿入部65は、バッテリボックス60のボックス本体61内に設けられており、キーが差し込まれることにより、キーの導電部分にて導通状態となって、正極側通電経路を導通させる。また、トリガスイッチ98は、操作装置90に設けられた駆動レバー91(所謂トリガ)が使用者により操作されたときにオン状態となるスイッチである。
【0091】
このため、キー挿入部65にキーが差し込まれていて、駆動レバー91が操作されているときに、バッテリパック70A又は70Bからインバータ部82(延いてはモータ9)に至る正極側通電経路が形成され、モータ9を駆動できるようになる。
【0092】
次に、ゲート回路83は、制御回路81から出力された制御信号に従い、インバータ部82内のスイッチング素子Q1〜Q6をオン/オフさせることで、モータ9の各相巻線に電流を流し、モータ9を回転させるものである。
【0093】
また、回生防止部84は、トリガスイッチ98からインバータ部82に至る正極側通電経路に設けられて、インバータ部82からバッテリパック70A又は70Bの正極側へ回生電流が流れるのを防止するためのものである。
【0094】
回生防止部84は、電流の逆流を防止するためのものであることから、通常、逆流防止用のダイオードが用いられるが、本実施形態では、逆流防止素子として、インバータ部82のスイッチング素子Q1〜Q6と同じスイッチング素子Q8,Q9が用いられている。
【0095】
つまり、スイッチング素子Q8,Q9は、それぞれ、nチャネルのMOSFETにより構成されており、このMOSFETに備えられている寄生ダイオードを利用して回生電流が流れるのを阻止する。
【0096】
このため、スイッチング素子Q8,Q9は、正極側通電経路に対し、寄生ダイオードのアノードが正極側、カソードが負極側となって、モータ9の駆動電流が順方向に流れるように、インバータ部82のスイッチング素子Q1〜Q6とは逆方向に接続されている。
【0097】
なお、回生防止部84において、スイッチング素子Q8,Q9は正極側通電経路に対し直列に設けられるが、これは、一方のスイッチング素子が短絡故障しても、他方のスイッチング素子にて回生電流が流れるのを阻止できるようにするためである。
【0098】
次に、駆動回路85は、トリガスイッチ98がオン状態であるときに、回生防止部84とインバータ部82との間の正極側通電経路に設けられたスイッチング素子Q7をオン状態にするためのものである。
【0099】
つまり、トリガスイッチ98がオフ状態であるときには、スイッチング素子Q7もオフ状態にすることで、正極側通電経路をより確実に遮断できるようにするのである。
また、電流検出部86は、インバータ部82からバッテリパック70A,70Bの負極側に至る負極側通電経路に設けられて、モータ9に流れた駆動電流を検出するためのものであり、電流検出素子としてシャント抵抗を備えている。
【0100】
また、素子温度検出部87は、インバータ部82の温度(詳しくはインバータ部82を構成するスイッチング素子Q1〜Q6の温度)を検出するためのものであり、サーミスタ等の温度検出素子にて構成されている。
【0101】
そして、電流検出部86及び素子温度検出部87からの検出信号は、制御回路81に入力される。
なお、モータ9には、モータ9の回転位置(角度)を検出するための回転位置検出部78や、モータ9の温度を検出するためのモータ温度検出部79が設けられており、これら各検出部78,79からの検出信号も、制御回路81に入力される。
【0102】
次に、電源制御部88は、ダイオードDA,DBを介して、バッテリパック70A,70Bの正極側から直接バッテリ電力を取り込み、レギュレータ89に供給するためのものである。
【0103】
なお、電源制御部88にダイオードDA,DBを介して直接バッテリパック70A,70Bを接続するのは、キー挿入部65からキーが抜かれることによりモータ9への通電経路が遮断されていても、レギュレータ89に電力供給できるようにするためである。
【0104】
また、ダイオードDA,DBは、それぞれ、逆流防止用のダイオードである2つの半導体素子を、バッテリ70A,70Bの正極側をアノード、電源制御部88側をカソードとして、直列接続することにより構成されている。
【0105】
これは、ダイオードDA(又はDB)を構成する2つの半導体素子の内、一方の半導体素子が短絡故障しても、その短絡故障した半導体素子を介して、バッテリパック70B(又は70A)からバッテリパック70A(又は70B)へと充電電流が流れるのを防止するためである。
【0106】
次に、電源制御部88は、制御回路81からの指令に従い、レギュレータ89へのバッテリ電力の供給を遮断する。また、電源制御部88は、バッテリボックス60に設けられた残容量表示スイッチ73、衝突抑制スイッチ74、及び、操作装置90に設けられた主電源スイッチ92の何れかが操作されて、これら各スイッチから信号が入力されると、レギュレータ89へのバッテリ電力の供給を開始する。
【0107】
レギュレータ89は、電源制御部88から供給されるバッテリ電力にて、制御回路81やその周辺回路を動作させるための電源電圧(直流定電圧)Vccを生成し、これら各回路に供給するためのものである。
【0108】
このため、制御回路81は、動作時に、電源制御部88に指令を出力することで、レギュレータ89からの電源供給を停止させて、自身の動作を停止することができる。また、使用者は、制御回路81が動作を停止しているときに、主電源スイッチ92や残容量表示スイッチ73等を操作することで、制御回路81を起動し、各種制御を実施させることができる。
【0109】
制御回路81は、CPU、ROM、RAM等を中心とするMCU(MicroControlUnit)にて構成されており、ゲート回路83を介してモータ9に流れる駆動電流を制御し、モータ9の回転速度や回転方向を制御する。
【0110】
また、制御回路81は、障害物検出部40L,40Rの点灯・消灯、残容量表示部72A,72Bへの残容量表示、操作装置90に設けられた前進後退表示部95及び高速低速表示部97への進行方向及び設定速度の表示、等も行う。
【0111】
このため制御回路81には、回転位置検出部78、モータ温度検出部79、ゲート回路83、電流検出部86、素子温度検出部87、及び、電源制御部88に加えて、障害物検出部40L,40Rや、バッテリボックス60及び操作装置90に設けられた表示部やスイッチ類も接続される。
【0112】
具体的には、制御回路81には、バッテリボックス60に設けられた残容量表示部72A、72B、残容量表示スイッチ73、衝突抑制スイッチ74、及び、衝突抑制表示部75が接続されており、バッテリ切替スイッチ71から、選択したバッテリパックを表す信号も入力される。
【0113】
また、制御回路81には、図6に示すように操作装置90に設けられた、主電源スイッチ92、前進後退切替スイッチ94、前進後退表示部95、高速低速切替スイッチ96、高速低速表示部97、及び、トリガスイッチ98も接続される。
【0114】
また、図5に示すように、バッテリボックス60には、バッテリパック70A、70Bからの出力電圧(つまりバッテリ電圧)をそれぞれ検出するための電圧検出部66A,66Bや、異常時等に報知音を発生するためのブザー68が設けられている。また、バッテリパック70A,70Bには、バッテリに加えて、バッテリ状態を通知するためのバッテリ通信部69A、69Bが内蔵されている。
【0115】
また、ブレーキレバー18には、ブレーキレバー18が操作されているとき(換言すればブレーキ装置17が作動しているとき)にオン状態となるブレーキスイッチ76が設けられている。また、図6に示すように、操作装置90には、駆動レバー91の操作量(トリガ引き量)を検出するトリガ引き量検出部99も設けられている。
【0116】
そして、制御回路81には、これら各部、つまり、電圧検出部66A,66B、ブザー68、バッテリ通信部69A、69B、ブレーキスイッチ76、トリガ引き量検出部99、も接続される。
【0117】
次に、制御回路81は、レギュレータ89から電源供給を受けて起動すると、図7に示す制御処理を、メインルーチンの一つとして所定時間間隔で繰り返し実行する。
図7に示す制御処理では、まずS100(Sはステップを表す)にて、上述した各種スイッチや検出部からの入力信号を取り込み、確認する、入力信号の確認処理を実行する。そして、続くS200では、S100にて取り込み確認した入力信号に基づき異常状態を確認する、異常状態の確認処理を実行し、S300に移行する。
【0118】
S300では、S100、S200による確認結果に基づき、モータ9を駆動、停止、若しくは減速させる、モータ制御処理を実行する。そして、最後に、S400に移行して、上述した各種表示部への表示やブザーの駆動を行う出力制御処理を実行し、当該制御処理を終了する。
【0119】
次に、S200の異常状態の確認処理においては、上述した各種検出部による検出結果に基づき、モータ9の駆動系が正常であるか、異常が発生しているか、を確認する。
すなわち、異常状態の確認処理では、図8に示すように、S210にて温度が正常であるか否かを確認し、S220にて電圧が正常であるか否かを確認し、S230にて電流が正常であるか否かを確認することにより、モータ9の駆動系が正常であるか否かを確認する。
【0120】
また、異常状態の確認処理では、S500にて、障害物検出部40L,40Rによる検出結果に基づき、運搬車1が障害物に衝突するのを回避するための衝突抑制処理を実行する。
【0121】
この衝突抑制処理は、図9に示すように、S510にて、衝突抑制機能を許可するか禁止するかを判定し、S520にて、障害物検出部40L,40Rによる検出結果に基づき運搬車の移動を抑制する抑制制御を実施するか否かを判定する、とった手順で実施される。
【0122】
ここで、S510にて実行される衝突抑制機能の許可/禁止の判定処理においては、図10に示すように、まずS610にて、衝突抑制スイッチ74はオン状態であるか否かを判断する。そして、衝突抑制スイッチ74がオン状態であれば、S620に移行して、現在、衝突抑制機能は許可されているか否かを判断する。
【0123】
S620にて、衝突抑制機能は許可されていると判断されると、S630に移行して、運搬車1の移動速度は予め設定された設定速度以上であるか否かを判断し、移動速度が設定速度以上であれば、当該S510の判定処理を終了する。
【0124】
なお、運搬車1の移動速度は、本実施形態では、モータ9の回転速度から算出される。但し、運搬車1の前輪3、若しくは、左右の後輪5L,5Rに回転センサが設けられていれば、そのセンサからの出力に基づき、運搬車の移動速度を算出するようにしてもよい。
【0125】
次に、S630にて、運搬車1の移動速度は設定速度未満である(換言すれば、低速移動中である)と判断されると、S640に移行して、障害物検出部40L,40Rにて検出された障害物までの距離は、予め設定された設定距離L1以下であるか否かを判断する。
【0126】
なお、設定距離は、障害物検出部40L若しくは40Rに泥やゴミが付着していて、障害物までの距離を正常に測定できていないことを判断するためのものである。
そして、S640においては、障害物検出部40L,40Rにて検出された障害物までの距離の内、短い方の距離を、設定距離L1と比較する。
【0127】
このため、S640にて、障害物までの距離は設定距離L1以下であり、障害物検出部40L若しくは40Rにて距離を正常に測定できていないと判断されると、S650にて、衝突抑制機能を禁止した後、当該S510の判定処理を終了する。
【0128】
また、S640にて、障害物までの距離は設定距離L1よりも長いと判断された場合には、障害物検出部40L及び40Rは正常であるので、そのまま当該S510の判定処理を終了する。
【0129】
次に、S620にて、現在、衝突抑制機能は禁止されていると判断されると、S660に移行し、障害物までの距離は設定距離L2以上であるか否かを判断する。
なお、S660にて判定に用いられる設定距離L2は、S640で用いられる設定距離L1と同じ距離であっても、異なる距離であってもよい。また、S660では、S640と同様、障害物検出部40L,40Rにて検出された障害物までの距離の内、短い方の距離を、設定距離と比較する。
【0130】
そして、S660にて、障害物までの距離は設定距離L2以上であると判断されると、障害物検出部40L、40Rは正常に動作しているので、S670にて、衝突抑制機能を許可した後、当該S510の判定処理を終了する。
【0131】
また、S660にて、障害物までの距離は設定距離L2よりも短いと判断された場合には、障害物検出部40L若しくは40Rに泥やゴミが付着していて、障害物までの距離を正常に測定できていないので、そのまま当該S510の判定処理を終了する。
【0132】
また次に、S610にて、衝突抑制スイッチ74はオフ状態であると判断された場合には、S680に移行して、現在、モータ9の駆動は停止されているか否かを判断する。
そして、S680にて、現在、モータ9の駆動は停止されていると判断されると、S690に移行して、衝突抑制機能を禁止した後、当該S510の判定処理を終了する。また、S680にて、現在、モータ9の駆動は停止されていない(換言すれば駆動中である)と判断された場合には、そのまま当該S510の判定処理を終了する。
【0133】
つまり、S680、S690では、衝突抑制スイッチ74がオフ状態に切り替えられても、モータ9の駆動中は、衝突抑制機能を禁止しないようにする。このため、モータ9の駆動中に、使用者が衝突抑制スイッチ74を誤操作した際に、衝突抑制機能を禁止してしまい、運搬車1の移動中の安全性が低下するのを抑制できる。
【0134】
なお、S680においては、現在、モータ9の駆動は停止されているか否かを判断するのではなく、図10の括弧内に記載のように、運搬車1は移動停止中であるか否かを判断するようにしてもよい。
【0135】
このようにすれば、運搬車1の移動中には、衝突抑制スイッチ74がオフ状態に切り替えられても、衝突抑制機能を禁止しないようにすることができ、上記と同様の効果を得ることができる。
【0136】
次に、図9のS520にて実行される衝突抑制判定処理においては、図11に示すように、まずS710にて、衝突抑制機能は許可されているか否かを判断し、衝突抑制機能が許可されていれば、S720に移行する。
【0137】
S720では、運搬車1の移動速度に基づき、モータ9に制動力を発生させて運搬車1を停止させるのに要する制動距離を算出する。
そして、続くS730では、S720にて算出した制動距離と、障害物検出部40L,40Rにて検出された障害物までの距離(測定距離)とに基づき、運搬車1が障害物に衝突する危険度を算出する。
【0138】
なお、S730においては、障害物検出部40L,40Rにて検出された障害物までの距離の内、短い方の距離を、測定距離として使用し、制動距離と比較することで、障害物に衝突する可能性を表す危険度を算出する。
【0139】
S730にて、衝突の危険度が算出されると、S740に移行して、その算出された危険度に基づき、モータ9に制動力を発生させて停止させるための停止要求を発生し、当該衝突抑制判定処理を終了する。
【0140】
また、S710にて、衝突抑制機能は許可されていないと判断された場合には、S750に移行して、衝突の危険度を所定値(例えば零)に初期化し、当該衝突抑制判定処理を終了する。
【0141】
次に、図7に示したモータ制御処理は、図12に示す手順で実行される。
すなわち、モータ制御処理では、まずS310にて、トリガスイッチ98がオン状態になっており、ブレーキスイッチ76がオフ状態である、といったモータ9の駆動条件が成立しているか否かを確認する。
【0142】
そして、モータ9の駆動条件が成立していれば、S320に移行して、上述した衝突抑制判定処理にて算出された衝突の危険度は、予め設定された判定値に比べて高いか否かを判断し、衝突の危険度が高い場合には、S330に移行する。
【0143】
S330では、上述した衝突抑制判定処理によりモータ9の停止要求があったか否かを判断する。そして、モータ9の停止要求があれば、S340に移行して、例えば、モータ9の相巻線を短絡させることで、モータ9に制動力を発生させて、運搬車1の移動を停止させる、モータ停止処理(1)を実行し、当該モータ制御処理を終了する。
【0144】
また、S330にて、モータ9の停止要求はないと判断されると、S350に移行して、モータ9を減速させるモータ減速処理を実行し、当該モータ制御処理を終了する。なお、S350では、危険度に応じて、例えば、危険度が低い時には、モータ9の駆動力を通常時よりも低下させ、危険度が高いときには、モータ9に制動力を発生させることにより、モータ9を減速させる。
【0145】
次に、S320にて、衝突の危険度は、判定値に比べて低いと判断された場合には、S360に移行し、モータ9を通常駆動する。
つまり、S360では、高速低速切替スイッチ96により設定された速度モード、前進後退切替スイッチ94により設定された進行方向、トリガ引き量検出部99にて検出された駆動レバー91の操作量、等に基づきモータ9の回転方向及び回転速度を設定する。
【0146】
そして、その設定した回転方向、回転速度となるように、ゲート回路83及びインバータ部82を介して、モータ9への通電電流を制御する。
また、S310にて、モータ9の駆動条件は成立していないと判断されると、S370に移行し、モータ9への通電を遮断して、モータ9をフリーラン状態にする、モータ停止処理(2)を実行し、当該モータ制御処理を終了する。
【0147】
このように、モータ制御処理では、障害物検出部40L,40Rにより測定される障害物までの距離(測定距離)と運搬車1を停止させるのに要する制動距離とから求められる危険度が高い場合に、モータ9の駆動・制動力を制御して、運搬車1を減速させる。
【0148】
このため、運搬車1が障害物に衝突することのない範囲内でモータ9を駆動して、運搬車1を移動させることができ、運搬車1による運搬作業を効率よく実施させることができる。また、危険度が更に高くなって、モータ9の停止要求が発生したときには、モータ9により大きな制動力を発生させて、モータ9を停止させることができるので、安全性を確保することができる。
【0149】
次に、出力制御処理では、上述した衝突抑制処理に関連して、図13図14に示す報知処理が実施される。
図13は、衝突抑制機能の許可/禁止を報知する報知処理を表している。
【0150】
図13に示すように、この報知処理では、S410にて、衝突抑制機能は有効であるか否かを判断する。そして、衝突抑制機能は有効であれば、S420に移行して、衝突抑制表示部75を構成するLEDを点灯させて、衝突抑制機能が有効であることを報知し、当該報知処理を終了する。
【0151】
また、衝突抑制機能は無効であれば、S430に移行して、衝突抑制表示部75を構成するLEDを消灯させて、衝突抑制機能が無効であることを報知し、当該報知処理を終了する。
【0152】
なお、本実施形態では、衝突抑制機能が有効であるときにLEDを点灯させ、衝突抑制機能が無効であればLEDを消灯させるものとしているが、衝突抑制機能が無効であるときにLEDを点灯させ、衝突抑制機能が有効であるときにLEDを消灯させるようにしてもよい。
【0153】
次に、図14は、上述したモータ停止処理(1)により、現在、運搬車1の移動を停止させる衝突抑制動作が実施されていることを報知する報知処理を表している。
図14に示すように、この報知処理では、S450にて、上述した衝突抑制判定処理にて算出された衝突の危険度は、予め設定された判定値に比べて高いか否かを判断する。そして、衝突の危険度が高い場合には、S460に移行し、衝突の危険度が高くなければ、そのまま当該報知処理を終了する。
【0154】
S460では、上述した衝突抑制判定処理によりモータ9の停止要求があったか否かを判断する。そして、モータ9の停止要求があった場合には、S470に移行して、衝突抑制表示部75を構成するLEDを所定周期で点滅させて、衝突抑制動作によりモータ9が停止されることを報知する。
【0155】
また、S460にて、モータ9の停止要求はないと判断されると、S480に移行して、衝突抑制表示部75を構成するLEDを、S470での点滅よりも長い周期で点滅させて、衝突抑制動作によりモータ9が減速されることを報知する。
【0156】
つまり、この報知処理では、衝突抑制機能が許可されているときに点灯されるLEDを点滅させて、その点滅周期を切り換えることで、衝突抑制動作によりモータ9が停止されること、及び、モータ9が減速されることを報知する。
【0157】
従って、使用者は、衝突抑制表示部75を構成するLEDの点灯状態から、衝突抑制機能の有効・無効、及び、衝突抑制動作の状態を把握することができる。
なお、S470、S480にて衝突抑制表示部75を構成するLEDを点滅させる際には、例えば、その点滅周期に応じてブザー68を鳴動させるようにしてもよい。
【0158】
また、本実施形態では、衝突抑制機能に関する報知は、衝突抑制表示部75を構成するLEDの点灯・点滅・消灯により行うものとしたが、複数のLEDを用いて報知するようにしてもよい。
【0159】
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示の手押し式電動運搬車は、上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
(第1変形例)
例えば、上記実施形態では、図10に示した衝突抑制機能の許可/禁止の判定処理において、衝突抑制スイッチ74がオフ状態であるときには、モータ9の駆動が停止されていることを条件として、衝突抑制機能を禁止するものとして説明した。
【0160】
しかし、図10に示す衝突抑制機能の許可/禁止の判定処理において、S680の判定処理を除去し、衝突抑制スイッチ74がオフ状態であるときには、そのまま衝突抑制機能を禁止するようにしてもよい。
(第2変形例)
また、図10に示す衝突抑制機能の許可/禁止の判定処理では、衝突抑制スイッチ74がオン状態であるとき、運搬車1の移動速度が設定速度未満で、且つ、障害物までの距離が設定距離以下である場合に、衝突抑制機能を禁止するものとして説明した。
【0161】
これに対し、衝突抑制スイッチ74がオン状態であるときには、運搬車1の移動速度が設定速度未満である場合、或いは、障害物までの距離が設定距離以下である場合に、それぞれ、衝突抑制機能を禁止するようにしてもよい。
(第3変形例)
次に、図11に示す衝突抑制判定処理においては、S710にて、衝突抑制機能が許可されていると判断されると、S720〜S740の処理を実行するものとして説明した。
【0162】
これに対し、図15に示すように、S710にて衝突抑制機能が許可されている場合には、S712にてモータ9は駆動中であるか否かを判断し、駆動中でなければ、S720に移行し、駆動中であれば、S714、S716の判定処理を実施するようにしてもよい。
【0163】
つまり、モータ9が駆動中であれば、S714にて、前進後退切替スイッチ94により運搬車1の進行方向が前進方向(前進モード)であるか否かを判断し、前進モードでなければ(つまり進行方向が後退方向であれば)、S750に移行する。
【0164】
また、S714にて、運搬車の進行方向が前進モードであると判断されると、S716に移行して、モータ9の駆動開始後、所定時間が経過したか否かを判断する。そして、所定時間が経過していれば、S720に移行し、所定時間が経過していなければ、S750に移行する。
【0165】
このようにすれば、運搬車1が後退方向に移動しているときや、モータ駆動開始後所定時間が経過していない時には、S750にて危険度が初期化されて、衝突抑制機能が禁止され、モータ9が通常駆動されることになる。
【0166】
この結果、運搬車1の進行方向に使用者が居る後退移動時に衝突防止機能が働き、運搬車1の移動が中断されるとか、障害物が検出され易い狭い場所で運搬車1を移動させる際に、衝突防止機能によって運搬車1の移動が頻繁に中断されるのを抑制できる。よって、運搬車1による運搬作業の作業性を改善できる。
【0167】
なお、図15に示す衝突抑制判定処理において、S712でモータ9の駆動中ではないと判断された際には、S720に移行するのではなく、図に点線で示すように、S750に移行して、衝突の危険度を初期化するようにしてもよい。
【0168】
このようにした場合には、モータ9の駆動停止中には、使用者の手押し操作によって運搬車1が移動しているときにも、S750で衝突の危険度を初期化して、衝突抑制機能が禁止されることになる。
(第4変形例)
第3変形例では、衝突抑制判定処理において、衝突抑制機能が許可されていれば、モータ9が駆動中で、運搬車の進行方向が前進モードとなっていて、モータ9の駆動開始後所定時間が経過していることを確認する。
【0169】
そして、これらの条件が成立しているときに、S720〜S740による衝突抑制動作を実施させ、これらの条件が成立していなければ、S720〜S740による衝突抑制動作を禁止するようにしている。
【0170】
これに対し、衝突抑制判定処理は、図16に示す手順で実施するようにしてもよい。
すなわち、図16に示す衝突抑制判定処理では、S710にて衝突抑制機能が許可されていると判断すると、S713にて運搬車1は移動中であるか否かを判断し、移動中であれば、S715に移行して、運搬車1は前進中であるか否かを判断する。
【0171】
そして、S715にて、運搬車1は前進中であると判断されると、S717にて、運搬車1の移動開始後、所定時間が経過したか否かを判断し、所定時間が経過していれば、S720に移行して、S720〜S740による衝突抑制動作を実施させる。
【0172】
また、S713、S715、S717にて否定判断された場合には、S750に移行して、衝突抑制機能を禁止する。
従って、衝突抑制判定処理を図16に示す手順で実施するようにした場合には、運搬車1の停止時や、運搬車1が後退方向に移動しているとき、或いは、運搬車1が前進方向に移動していて、移動開始後所定時間経過していないときには、衝突抑制機能が禁止されることになる。このため、本第4変形例においても、上述した第3変形例と同様の効果を得ることができる。
(第5変形例)
上記実施形態では、図12のモータ制御処理において、モータ9の停止要求が発生しているときには、S340にて、モータ9に制動力を発生させて、モータ9を停止させるものとして説明した。
【0173】
これに対し、S340では、ブレーキ装置17を使って、駆動輪である前輪3に直接制動力を与え、運搬車1の移動を停止(若しくは抑制)するようにしてもよい。
なお、この場合には、図17に示すように、ブレーキ装置17から引き出されたブレーキワイヤAを、ブレーキレバー18に代わって引っ張り、ブレーキ装置17を動作させるアクチュエータ50を設けるようにすればよい。
【0174】
この場合、アクチュエータ50は、モータ若しくはソレノイドを利用してワイヤ17Aを引っ張るように構成すればよい。また、アクチュエータ50は、ブレーキレバー18が操作されたときにも、ワイヤ17Aを引っ張るように、制御回路81が制御するようにすればよい。
(他の変形例)
上記実施形態では、障害物検出、衝突抑制機能の有効・無効の切り替え、モータ9の駆動制御、等、全ての制御を制御回路81が実施するものとして説明した。これに対し、例えば、障害物検出、或いは、障害物検出と衝突抑制機能の判定については、モータ9を駆動制御する制御回路(マイコン)とは別の制御回路(マイコン)が実施するように構成してもよい。
【0175】
また上記実施形態の手押し式電動運搬車の構成及び動作は一例であり、本開示は、モータにより駆動される車輪を備えた手押し式電動運搬車であれば、上記実施形態と同様に適用することができる。
【0176】
また、上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。なお、特許請求の範囲に記載した文言のみによって特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本発明の実施形態である。
【符号の説明】
【0177】
1…手押し式電動運搬車、3…前輪(駆動輪)、5L,5R…後輪、9…モータ、16L,16R…ハンドル部、17…ブレーキ装置、74L,74R…衝突検出部、50…アクチュエータ、60…バッテリボックス、66A,66B…電圧検出部、68…ブザー、70A,70B…バッテリパック、72A,72B…残容量表示部、74…衝突抑制スイッチ、75…衝突抑制表示部、78…回転位置検出部、79…モータ温度検出部、80…回路基板、81…制御回路、82…インバータ部、83…ゲート回路、84…回生防止部、86…電流検出部、87…素子温度検出部、88…電源制御部、89…レギュレータ、90…操作装置、91…駆動レバー、98…トリガスイッチ、99…トリガ引き量検出部。
図1
図2
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図10
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