特許第6969933号(P6969933)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6969933
(24)【登録日】2021年11月1日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】弁装置
(51)【国際特許分類】
   F16K 15/18 20060101AFI20211111BHJP
   G05D 16/06 20060101ALI20211111BHJP
   F16K 1/00 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   F16K15/18 Z
   G05D16/06 Z
   F16K1/00 Z
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-162448(P2017-162448)
(22)【出願日】2017年8月25日
(65)【公開番号】特開2019-39512(P2019-39512A)
(43)【公開日】2019年3月14日
【審査請求日】2020年7月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】中野 哲
(72)【発明者】
【氏名】木原 侑也
(72)【発明者】
【氏名】堀田 裕
(72)【発明者】
【氏名】後藤 荘吾
(72)【発明者】
【氏名】山本 翔太
【審査官】 橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−207744(JP,A)
【文献】 特開2014−181765(JP,A)
【文献】 特開2016−184256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 1/00−1/54
15/00−15/20
17/18−17/34
39/00−51/02
G05D 16/00−16/20
H01M 8/04−8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス流路が形成されたボディと、
前記ガス流路の途中に設けられた弁座と、
前記ガス流路内における前記弁座の上流側に収容され、該弁座に対して接離可能な弁体と、
前記弁体の上流側に設けられ、該弁体の後退位置を規定する支持部材とを備え、
前記弁体は、前記弁座の弁孔を閉塞可能な頭部、及び該弁体の軸線方向に沿った移動を案内する案内部を有し、前記案内部には、前記ガス流路の内周面との間にガスが流通可能な流通空間を形成する流路形成部と、前記ガス流路の内周面に摺接する摺接部とが周方向に交互に並んで形成され、
前記支持部材には、該支持部材の上流側と下流側とを連通する複数の貫通孔が形成され、
前記複数の貫通孔の少なくとも一つは、前記弁体が前記軸線周りの任意の位相にある状態で、該貫通孔における下流側の開口の中心が前記流通空間を軸方向に投影した領域に含まれるように形成され
前記貫通孔の数は前記摺接部の数よりも多い弁装置。
【請求項2】
請求項1に記載の弁装置において、
前記弁体と前記支持部材との間に設けられ、該弁体を前記弁座側に付勢する付勢部材を備え、
前記案内部は、前記付勢部材の一部を収容可能な筒状に形成され、
前記各貫通孔における下流側の開口は、前記軸線方向視で、前記案内部の内周面がなす円よりも径方向外側に位置するように形成された弁装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の弁装置において、
前記各貫通孔における下流側の開口は、前記弁体の一部及び前記ボディにおける前記ガス流路の周縁部の双方と軸方向に対向するように形成された弁装置。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか一項に記載の弁装置において、
前記案内部には、周方向幅が互いに等しい複数の前記流路形成部と、周方向幅が互いに等しい複数の前記摺接部とが形成され、前記複数の流路形成部と前記複数の摺接部とが周方向に交互に並んで設けられた弁装置。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか一項に記載の弁装置において、
前記ガス流路は、前記ボディの一次ポートと二次ポートとを繋ぐものであり、
前記二次ポートの圧力に応じて前記弁体を前記弁座から離間する方向に押圧する押圧機構を備えた弁装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料電池車に用いられる高圧水素ガス等の圧力調整を行う減圧弁(レギュレータ)がある(例えば、特許文献1)。こうした減圧弁では、ボディにおける一次ポートと二次ポートとの間に弁機構(開閉弁)が設けられており、二次ポート側の圧力に応じて弁機構の弁体が弁座に対して接離することで、その開き量(開度)が変化する。これにより、一次ポートから流入した高圧の水素ガスを減圧し、二次ポートから送出する水素ガスの圧力が所定圧を超えないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−185103号公報(第1図等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば上記特許文献1の減圧弁では、有底円筒状の弁体が収容されるガス流路内に円環状の底体(支持部材)が固定されており、一次ポートから流入するガスは、該底体の中央に形成された貫通孔を介してガス流路内の弁体が収容される空間(弁室)に流れ込む。そのため、弁体には、貫通孔を介して流入するガスの流れによって弁座方向に推し進める力(推進力)が作用し易く、弁体が弁座に着座する際に大きな荷重が作用するおそれがある。
【0005】
なお、このような問題は、弁機構から減圧したガスを送出する減圧弁に限らず、例えば弁機構によりガスの流出を止める逆止弁等の弁装置においても同様に生じ得る。
本発明の目的は、弁座に過大な荷重が作用することを抑制できる弁装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する弁装置は、ガス流路が形成されたボディと、前記ガス流路の途中に設けられた弁座と、前記ガス流路内における前記弁座の上流側に収容され、該弁座に対して接離可能な弁体と、前記弁体の上流側に設けられ、該弁体の後退位置を規定する支持部材とを備え、前記弁体は、前記弁座の弁孔を閉塞可能な頭部、及び該弁体の軸線方向に沿った移動を案内する案内部を有し、前記案内部には、前記ガス流路の内周面との間にガスが流通可能な流通空間を形成する流路形成部と、前記ガス流路の内周面に摺接する摺接部とが周方向に並んで形成され、前記支持部材には、該支持部材の上流側と下流側とを連通する複数の貫通孔が形成され、前記複数の貫通孔の少なくとも一つは、前記弁体が前記軸線周りの任意の位相にある状態で、該貫通孔における下流側の開口の中心が前記流通空間を軸方向に投影した領域に含まれるように形成された。
【0007】
上記構成によれば、弁体が軸線周りの任意の位相にある状態で、各貫通孔の少なくとも一つにおける下流側の開口の中心が流通空間を軸方向に投影した領域に含まれるため、該貫通孔を介して流入するガスは、流通空間に流れ込み易い。つまり、例えば支持部材の中央に貫通孔を形成する場合に比べ、各貫通孔を介して流入するガスのうち、弁体の摺接部に当たることで該弁体を弁座方向に推し進める力(推進力)として作用し易いガスの流量が減少すると同時に、流通空間に直接流れ込んで弁体に対して前記推進力として作用し難いガスの流量が増加する。そのため、全体として弁体が各貫通孔を介して流入したガスの流れによって発生する前記推進力が従来よりも減じられ、弁体が弁座に着座する際に大きな荷重が作用することを抑制できる。
【0008】
上記弁装置において、前記貫通孔の数は前記流通空間の数よりも多いことが好ましい。
上記構成によれば、弁体が軸線周りの任意の位相にある状態で、貫通孔の少なくとも一つにおける下流側の開口の中心が流通空間を軸方向に投影した領域に含まれる構成を容易に実現できる。
【0009】
上記弁装置において、前記弁体と前記支持部材との間に設けられ、該弁体を前記弁座側に付勢する付勢部材を備え、前記案内部は、前記付勢部材の一部を収容可能な筒状に形成され、前記各貫通孔における下流側の開口は、前記軸線方向視で、前記案内部の内周面がなす円よりも径方向外側に位置するように形成されることが好ましい。
【0010】
上記構成によれば、各貫通孔を介して流入するガスが筒状に形成された案内部の内側に流れ込むことを抑制できるため、ガスの流れによって発生する推進力がより減じられる。
上記弁装置において、前記各貫通孔における下流側の開口は、前記弁体の一部及び前記ボディにおける前記ガス流路の周縁部の双方と軸方向に対向するように形成されることが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、流通空間と軸方向に対向する貫通孔を介して流入するガスが、該流通空間に好適に流れ込むようになるため、ガスの流れによって発生する前記推進力がより一層減じられる。
【0012】
上記弁装置において、前記案内部には、周方向幅が互いに等しい複数の前記流路形成部と、周方向幅が互いに等しい複数の前記摺接部とが形成され、前記複数の流路形成部と前記複数の摺接部とが周方向に交互に並んで設けられることが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、案内部が軸線周りに対称な形状となるため、流通空間を流通するガスの圧力の不釣り合いによって、例えば弁体がガス流路の内周面に押し付けられることを抑制できる。
【0014】
上記弁装置において、前記ガス流路は、前記ボディの一次ポートと二次ポートとを繋ぐものであり、前記二次ポートの圧力に応じて前記弁体を前記弁座から離間する方向に押圧する押圧機構を備えることが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、弁装置が押圧機構により弁座の開き量(開度)を変化させることで、二次ポートに送出するガスの圧力を減圧する減圧弁として構成される。こうした減圧弁では、二次ポート側の圧力に応じて弁体が弁座に対して繰り返し着座するため、上記各構成のように貫通孔を形成することで弁体から弁座に大きな荷重が作用することを抑制する効果は大である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、弁座に過大な荷重が作用することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】減圧弁の断面図。
図2】弁機構周辺の拡大断面図。
図3】弁体及び支持部材の斜視図。
図4】(a),(b)は本実施形態における貫通孔の弁体に対する配置を示す模式的な断面図(図2のIV−IV線断面図)。
図5】弁体の上流側における水素ガスの流れを示す模式図。
図6】別例における貫通孔の弁体に対する配置を示す模式的な断面図。
図7】別例における貫通孔の弁体に対する配置を示す模式的な断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、弁装置を減圧弁に具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示す減圧弁(レギュレータ)1は、燃料電池自動車に搭載される水素ガスのガスタンク2と燃料電池3とを繋ぐ流体回路の途中に設けられ、高圧(例えば最大80MPa程度)の水素ガスを減圧(例えば1MPa程度)して燃料電池3側に送出する。減圧弁1は、一次ポート4及び二次ポート5が形成されたボディ6と、ボディ6内における一次ポート4と二次ポート5との間に設けられた弁機構7と、弁機構7の開き量(開度)を調整する押圧機構8とを備えている。
【0019】
ボディ6には、一次ポート4及び二次ポート5に連通するとともに、外部に開口した丸穴状の収容穴11が形成されている。一次ポート4から延びるガス流路としての供給流路12は収容穴11の底面における中央に開口し、二次ポート5へ延びるガス流路としての送出流路13は収容穴11の底面と内周面との交差部分に開口している。なお、供給流路12は、一次ポート4に取り付けられる継手14を介してガスタンク2に接続され、送出流路13は、二次ポート5に取り付けられる継手15を介して燃料電池3に接続される。
【0020】
図2に示すように、供給流路12は、断面円形の直線状に形成されるとともに、その上流側(図1中、下側)の開口部分には、上記一次ポート4が同軸上に形成されている。供給流路12における下流側(図1中、上側)の開口部分には、上流側から順に第1及び第2取付部16,17が形成されている。具体的には、第1及び第2取付部16,17は、内径がこの順で大きくなるとともに、それぞれ収容穴11と同軸上に形成されている。
【0021】
一次ポート4に螺着される継手14には、供給流路12と同軸上に貫通した継手孔21が形成されている。継手孔21における下流側の開口端部には、上流側から順に第1及び第2拡径部22,23が形成されている。具体的には、第1及び第2拡径部22,23は、内径がこの順で大きくなるとともに、それぞれ収容穴11と同軸上に形成されている。
【0022】
弁機構7は、供給流路12内に往復動可能に収容される弁体(ポペット)31と、第1取付部16に固定される弁座32と、弁体31を弁座32側に付勢する付勢部材33と、付勢部材33を支持する支持部材34とを備えている。
【0023】
図2及び図3に示すように、支持部材34は、円柱状の支持部41と、支持部41の基端部から径方向外側に延出された円管状のフランジ部42とを有している。フランジ部42には、後述するように、その軸方向両側に開口する、すなわち支持部材34の上流側と下流側とを連通する複数の貫通孔43が形成されている。フランジ部42の外径は、第1拡径部22の内径よりも僅かに大きく設定されている。そして、支持部材34は、フランジ部42が第1拡径部22に設けられた円板状のフィルタ44を挟み込むように第1拡径部22に圧入されることで継手14に固定されている。継手14は、第2拡径部23に設けられた円環状のシール部材45を一次ポート4の底面との間で挟み込むとともに、支持部41の先端部が供給流路12内に挿入されるように、一次ポート4に螺着されている。
【0024】
弁体31は、有底筒状の案内部51と、案内部51の底部から下流側に向かって外径が小さくなるテーパ状の頭部52と、頭部52の下流側端部から突出した円柱状の当接部53とを有している。案内部51、頭部52及び当接部53は、同軸上に一体形成されている。なお、案内部51の内径は、支持部41の外径よりも僅かに大きく設定されている。そして、弁体31は、案内部51内に支持部41の先端部が挿入された状態で、供給流路12内において案内部51により弁体31の軸線L方向に沿って軸線方向移動可能に収容されている。
【0025】
図3図4(a)及び図4(b)に示すように、案内部51の外周面は、円筒の複数箇所(本実施形態では、4箇所)を平坦に切り欠いた形状の複数の流路形成部54と、その余の複数の摺接部55とを、周方向に交互に並べて有している。各流路形成部54の周方向幅は互いに略等しく設定されている。これにより、供給流路12の内周面12aと流路形成部54との間には、水素ガスが流通可能な略半円形の流通空間56が形成されている。各摺接部55は、周方向幅が互いに略等しく設定されており、供給流路12の内周面12aよりも僅かに小さい曲率を有する断面円弧状をなしている。なお、案内部51の外周面は、その軸方向略全域に亘って同一断面を有している。したがって、弁体31は、供給流路12内にその周方向全域に亘って隙間を有して収容されており、軸線L周りに回転可能である。つまり、弁体31は、その往復動等に伴って軸線L周りの位相(周方向位置)が変化し得る(図4参照)。
【0026】
図2に示すように、付勢部材33には、コイルバネが採用されている。付勢部材33の一端は、支持部41に設置され、他端は案内部51の内底面に設置されている。そして、付勢部材33は、圧縮された状態で案内部51内に収容されており、弁体31を弁座32側に付勢している。なお、弁体31の供給流路12における往復動可能な範囲は、弁体31が付勢部材33を最大限圧縮し、支持部材34によって上流側への移動を規制される位置が後端位置となり、頭部52が弁座32に着座し、弁座32によって下流側への移動を規制される位置が前端位置となる。
【0027】
弁座32は、弁孔58を有する円環状に形成されており、第1取付部16内において供給流路12と同軸配置されるように圧入されている。なお、弁座32は、ポリイミド樹脂等の弾性変形可能な硬質樹脂により構成されている。
【0028】
図1に示すように、押圧機構8は、第2取付部17に取着されるプラグ61と、プラグ61内に配置されるピン62と、収容穴11を覆うようにボディ6に固定されるシリンダ63と、シリンダ63内に摺動可能に収容されるピストン64と、シリンダ63とピストン64との間に圧縮状態で配置されるコイルバネ65とを備えている。
【0029】
図2に示すようにプラグ61は、円柱状に形成されており、弁座32を圧縮しつつ第2取付部17の内周に螺着されており、その一部が収容穴11内に突出している。プラグ61の中央には、軸方向に貫通するプラグ孔71が弁孔58と同軸上に形成されている。プラグ孔71は、その大部分が略一定の内径を有する円筒状に形成されるとともに、上流側に近い部分で上流側に向かって小径となるテーパ状に形成され、プラグ孔71における弁孔58に連続する上流側部分は他の部分よりも小径とされている。プラグ61における収容穴11内に突出した突出部72には、径方向に延びてプラグ孔71と収容穴11とを連通する流路孔73が形成されている。
【0030】
ピン62は、円柱状に形成された軸状部74と、軸状部74から下流側に突出する下流端部75と、軸状部74から上流側に突出する上流端部76とを有している。軸状部74の外径は、プラグ孔71の内径よりも僅かに小さく設定されており、プラグ孔71内で軸線方向移動可能である。軸状部74には、軸線方向に延びる複数の流路孔77がその軸線周りに等角度間隔で形成されている。下流端部75の外径は、軸状部74よりも小径の円柱状に形成されている。上流端部76の外径は弁体31における当接部53の外径と略等しく設定されており、上流端部76及び当接部53は弁孔58及びプラグ孔71内に挿通されて互いに当接している。
【0031】
図1に示すように、シリンダ63は、有底円筒状に形成されるとともに、その開口端部には、径方向外側に延出された締結部81を有している。シリンダ63は、収容穴11と同軸上に配置されるように、ボルト82によって締結部81がボディ6に締結されることで固定されている。なお、ボディ6と締結部81との間には、Oリング等のシール部材83が挟み込まれている。
【0032】
ピストン64は有底円筒状に形成されるとともに、その外径はシリンダ63の内径よりも僅かに小さく設定されている。ピストン64は、その底部がシリンダ63の開口端側に位置する姿勢でシリンダ63内に軸方向に摺動可能収容され、シリンダ63内を減圧室84と圧力調整室85とに区画している。なお、ピストン64の外周にはOリング等のシール部材86が装着されており、減圧室84と圧力調整室85との間の気密を確保している。そして、ピストン64は、ピン62の下流端部75に当接している。これにより、ピン62及び弁体31は、ピストン64の摺動に応じて一体で移動する。
【0033】
コイルバネ65は、シリンダ63とピストン64との間で圧縮された状態で収容されている。そして、コイルバネ65は、弁体31が弁座32から離座する、すなわち弁機構7の開き量が大きくなるようにピストン64を付勢している。
【0034】
このように構成された減圧弁1では、減圧室84と圧力調整室85の差圧、付勢部材33及びコイルバネ65の付勢力に応じてピストン64がシリンダ63内を摺動する。そして、ピストン64の軸方向位置に応じて弁機構7の開き量を調整することで、二次ポート5側の圧力(圧力調整室85の圧力)が所定圧を超えないようにしている。弁体31は、燃料電池3への水素ガスの供給に応じて弁座32への着座と離座を繰り返す。
【0035】
ここで、ガスタンク2から継手14を介して供給される水素ガスは、支持部材34の各貫通孔43を通って供給流路12内に流れ込む。そのため、供給流路12内に流れ込む水素ガスの一部は、弁体31を弁座32方向に推し進める推進力を付与することになる。そして、この水素ガスによる推進力が大きくなると、弁体31が着座する際に弁座32に大きな荷重が作用するおそれがある。
【0036】
この点を踏まえ、図4(a),(b)に示すように、複数の貫通孔43の少なくとも1つは、弁体31が軸線L周りの任意の位相(周方向位置)にある状態で、その下流側の開口の中心が流通空間56を軸方向に投影した領域に含まれる、すなわち貫通孔43における下流側の開口の中心が流通空間56と軸方向に対向するように形成されている。なお、図4では、各貫通孔43の開口の中心を黒丸で示している。換言すると、複数の貫通孔43の一における下流側の開口の中心が摺接部55に連なる端縁57と軸方向に対向する場合に、複数の貫通孔43の他の一における下流側の開口の中心が流通空間56と軸方向に対向するように形成されている。
【0037】
具体的には、支持部材34のフランジ部42には、8つの貫通孔43a〜43hが形成されている。各貫通孔43a〜43hは、軸線Lに沿った直線状に形成されており、軸方向全域に亘って円形の一様な断面を有している。そして、図4において二点鎖線で示す各貫通孔43a〜43hの下流側の開口は、軸線L方向視で、案内部51の内周面がなす円Cよりも径方向外側に位置するとともに、案内部51及びボディ6における供給流路12の周縁部6aの双方と軸方向に対向するようにフランジ部42に周方向に等角度間隔で形成されている。なお、本実施形態においては、周縁部6aをシール部材45が覆っており、各貫通孔43a〜43hの下流側の開口は、シール部材45を介して周縁部6aと軸方向に対向している。
【0038】
これにより、弁体31の位相が例えば図4(a)に示す位置にあり、貫通孔43a,43c,43e,43gの下流側の開口の中心が摺接部55に連なる端縁57と軸方向に対向する場合に、貫通孔43b,43d,43f,43hの下流側の開口の中心は、流通空間56と軸方向に対向する。また、弁体31が軸線L周りに回転し、弁体31の位相が例えば同図(b)に示す位置になると、すべての貫通孔43a〜43hの下流側の開口の中心が流通空間56と軸方向に対向する。このように各貫通孔43a〜43hは、弁体31が任意の位相にある状態で、各貫通孔43a〜43hの少なくとも一つにおける下流側の開口の中心が流通空間56と軸方向に対向する。
【0039】
以上記述したように、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
(1)上記のように各貫通孔43を支持部材34に形成したため、図5において太線の矢印で示すように、各貫通孔43の一を介して流入する水素ガスが摺接部55に連なる端縁57に当たり易い場合でも、各貫通孔43の他の一を介して流入する水素ガスは、流通空間56に流れ込み易い。つまり、例えば支持部材34の中央に貫通孔を形成する場合に比べ、各貫通孔43を介して流入する水素ガスのうち、弁体31の摺接部55に連なる端縁57に当たることで該弁体31を弁座32方向に推し進める推進力として作用し易い水素ガスの流量が減少すると同時に、流通空間56に直接流れ込んで弁体に対して前記推進力として作用し難い水素ガスの流量が増加する。そのため、全体として弁体31が各貫通孔43を介して流入した水素ガスによって発生する前記推進力が従来よりも減じられ、弁体31が弁座32に着座する際に大きな荷重が作用することを抑制できる。
【0040】
(2)貫通孔43の数を流通空間56の数よりも多くしたため、弁体31が軸線L周りの任意の位相にある状態で、貫通孔43の少なくとも一つにおける下流側の開口の中心が流通空間56を軸方向に投影した領域に含まれる構成を容易に実現できる。
【0041】
(3)各貫通孔43における下流側の開口を、軸線L方向視で、案内部51の内周面がなす円Cよりも径方向外側に位置するように形成したため、各貫通孔43を介して流入する水素ガスが案内部51の内底面側に流れ込むことを抑制できる。したがって、水素ガスの流れによって発生する前記推進力がより減じられる。
【0042】
(4)各貫通孔43における下流側の開口を、案内部51及びボディ6における供給流路12の周縁部6aの双方と軸方向に対向するように形成したため、流通空間56と軸方向に対向する貫通孔43を介して流入する水素ガスが、流通空間56に好適に流れ込むようになる。したがって、水素ガスの流れによって発生する前記推進力がより一層減じられる。
【0043】
(5)各流路形成部54の周方向幅を互いに等しく形成するとともに、各摺接部55の周方向幅を互いに等しく形成し、これら流路形成部54と摺接部55とを周方向に交互に並んで設けたため、案内部51が軸線L周りに対称な形状となる。したがって、流通空間56を流通する水素ガスの圧力の不釣り合いによって、例えば弁体31が供給流路12の内周面に押し付けられることを抑制できる。
【0044】
(6)減圧弁1では、二次ポート5側の圧力に応じて弁体31が弁座32に対して繰り返し着座するため、上記各構成のように貫通孔43を形成することで弁体31から弁座32に大きな荷重が作用することを抑制する効果は大である。
【0045】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の態様にて実施することもできる。
・上記実施形態では、各貫通孔43の断面を円形状に形成したが、これに限らず、例えば四角形状等の多角形や楕円形状としてもよい。また、例えば各貫通孔43を軸線Lに対して傾斜した直線状等としてもよく、その形状は適宜変更可能である。
【0046】
・上記実施形態で、案内部51を有底筒状に形成したが、これに限らず、例えば中実の柱状に形成してもよい。なお、この場合、弁体31に付勢部材33の内周に挿通される支持部を形成することで、付勢部材33を安定して保持できる。
【0047】
・上記実施形態では、流路形成部54を平面状に形成したが、これに限らず、供給流路12の内周面12aとの間に流通空間56を形成できれば、例えば曲面状等に形成してもよい。
【0048】
・上記実施形態において、各流路形成部54の周方向幅を互いに異なるように形成してもよく、同様に各摺接部55の周方向幅を互いに異なるように形成してもよい。また、流路形成部54及び摺接部55は、それぞれ1つであってもよく、その数は適宜変更可能である。
【0049】
・上記実施形態では、各貫通孔43の下流側の開口を、案内部51及び周縁部6aの双方と軸方向に対向するようにフランジ部42に形成したが、これに限らず、例えば図6に示すように、案内部51のみと軸方向に対向してもよい。なお、この場合において、弁体31が軸線L周りの任意の位相にある状態で、各貫通孔43の少なくとも1つにおける下流側の開口の中心が流通空間56と軸方向に対向することは必ずしも必要ではない。
【0050】
・上記実施形態では、各貫通孔43の下流側の開口を、案内部51の内周面がなす円Cよりも径方向外側に位置するようにフランジ部42に形成したが、これに限らず、例えば図7に示すように、該各開口の一部が円Cよりも径方向内側に位置してもよい。なお、この場合において、弁体31が軸線L周りの任意の位相にある状態で、各貫通孔43の少なくとも1つにおける下流側の開口の中心が流通空間56と軸方向に対向することは必ずしも必要ではない。
【0051】
・上記実施形態において、弁体31が軸線L周りの任意の位相にある状態で、各貫通孔43の少なくとも一つにおける下流側の開口の中心が流通空間56と軸方向に対向すれば、その数(2以上)や配置は適宜変更可能である。なお、貫通孔43の数は、上記実施形態のように流路形成部54(摺接部55)の数よりも多いことが好ましく、さらに流路形成部54(摺接部55)の数の整数倍が好適である。
【0052】
・上記実施形態において、弁機構7が付勢部材33を備えない構成としてもよい。なお、この場合、支持部材34は、付勢部材33を支持せず、弁体31の後端位置を規定するものとして機能する。
【0053】
・上記実施形態では、支持部材34が第1拡径部22に設けられたフィルタ44を挟み込んで固定したが、これに限らず、フィルタを他の位置に設け、支持部材34がフィルタ44を固定しないものとしてもよい。
【0054】
・上記実施形態において、減圧弁1を高圧の水素ガスを減圧する用途に用いたが、これに限らず、水素以外の気体を減圧する用途に用いてもよい。
・上記実施形態では、弁装置を弁機構7から減圧した水素ガスを送出する減圧弁1として構成したが、これに限らず、例えば弁機構7により水素ガスの流出を止める逆止弁等の他の弁装置としてもよい。
【0055】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(イ)ガス流路が形成されたボディと、前記ガス流路の途中に設けられた弁座と、前記ガス流路内における前記弁座の上流側に収容され、該弁座に対して接離する弁体と、前記弁体の上流側に設けられ、該弁体の後退位置を規定する支持部材と、前記弁体と前記支持部材との間に設けられ、該弁体を前記弁座側に付勢する付勢部材とを備え、前記弁体は、前記弁座の弁孔を閉塞可能な頭部、及び該弁体の軸線方向に沿った移動を案内する案内部を有し、前記案内部には、前記ガス流路の内周面との間にガスが流通可能な流通空間を形成する流路形成部と、前記ガス流路の内周面に摺接する摺接部とが周方向に並んで形成され、前記支持部材には、該支持部材の上流側と下流側とを連通する複数の貫通孔が形成され、前記案内部は、前記付勢部材の一部を収容可能な筒状に形成され、前記各貫通孔における下流側の開口は、前記軸線方向視で、前記案内部の内周面がなす円よりも径方向外側に位置するように形成された弁装置。上記構成によれば、各貫通孔を介して流入するガスが筒状に形成された案内部の内側に流れ込むことを抑制できるため、ガスによって発生する推進力が減じられる。
【0056】
(ロ)ガス流路が形成されたボディと、前記ガス流路の途中に設けられた弁座と、前記ガス流路内における前記弁座の上流側に収容され、該弁座に対して接離する弁体と、前記弁体の上流側に設けられ、該弁体の後退位置を規定する支持部材とを備え、前記弁体は、前記弁座の弁孔を閉塞可能な頭部、及び該弁体の軸線方向に沿った移動を案内する案内部を有し、前記案内部には、前記ガス流路の内周面との間にガスが流通可能な流通空間を形成する流路形成部と、前記ガス流路の内周面に摺接する摺接部とが周方向に並んで形成され、前記支持部材には、該支持部材の上流側と下流側とを連通する複数の貫通孔が形成され、前記各貫通孔における下流側の開口は、前記弁体の一部及び前記ボディにおける前記ガス流路の周縁部の双方と軸方向に対向するように形成された弁装置。上記構成によれば、流通空間と軸方向に対向する貫通孔を介して流入するガスが、該流通空間に好適に流れ込むようになるため、ガスの流れによって発生する推進力が減じられる。
【符号の説明】
【0057】
1…減圧弁、4…一次ポート、5…二次ポート、6…ボディ、6a…周縁部、7…弁機構、8…押圧機構、12…供給流路(ガス流路)、12a…内周面、13…送出流路(ガス流路)、14,15…継手、31…弁体、32…弁座、33…付勢部材、34…支持部材、41…支持部、42…フランジ部、43,43a〜43h…貫通孔、51…案内部、52…頭部、53…当接部、54…流路形成部、55…摺接部、56…流通空間、57…端縁、58…弁孔、84…減圧室、85…圧力調整室、C…円、L…軸線。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7