(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(工程1)に記載の赤色発色を行う工程が、イリドイド化合物の総モル当量に対してコハク酸及び/又はリンゴ酸を6モル当量より多量含有する溶液にて行うものである、請求項1に記載のイリドイド化合物由来赤色素組成物の製造方法。
前記(工程1)に記載の工程が、β−グリコシド結合加水分解によるイリドイド配糖体からイリドイドアグリコンの生成反応を、赤色発色に先行して及び/又は並行して行うものである、請求項1〜3のいずれかに記載のイリドイド化合物由来赤色素組成物の製造方法。
イリドイド化合物由来赤色素組成物の製造工程において、請求項1〜4のいずれかに記載の前記(工程1)又は請求項5に記載の前記(工程1’)を行うことを特徴とする、製造されるイリドイド化合物由来赤色素組成物に耐光性を付与する方法。
請求項7若しくは8に記載のイリドイド化合物由来赤色素組成物、又は、請求項9に記載の色素製剤、を含有する飲食品、香粧品、医薬品、医薬部外品、衛生用日用品、又は飼料。
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法によって得られたイリドイド化合物由来赤色素組成物を含有させる工程を含むことを特徴とする、色素製剤、飲食品、香粧品、医薬品、医薬部外品、衛生用日用品、又は飼料の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は、耐光性を備えたイリドイド化合物由来赤色素組成物、その製造方法、及びその利用に関するものである。以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0033】
1.イリドイド化合物由来赤色素組成物の製造
本発明に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物は下記に記載の工程により調製して製造することができる。なお、本発明に係る製造方法においては、本発明に係る技術的特徴が奏する作用効果を実質的に妨げるものでなければ、下記に記載した工程以外の他の工程を含むことを除外するものではない。また、本発明に係る技術的範囲は必須工程以外については下記工程を全て含む態様に限定されるものではない。
【0034】
本発明に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物を製造する方法は、(工程1)イリドイド骨格の4位にカルボキシル基を有するイリドイドアグリコンとアミノ基含有化合物との作用を伴う赤色発色を、イリドイド化合物の総モル当量に対して特定構造を有するジカルボン酸、その類似化合物、又はこれらから選ばれる2以上の化合物、を5モル当量以上含有する溶液にて行って、耐光性を備えた赤色素化合物を生成する工程、を含むことを特徴とする方法に関するものである。
【0035】
[イリドイド化合物]
本明細書中、「イリドイド化合物」とはイリドイド骨格を有する化合物を指す。イリドイド骨格を有する化合物とは酸素を含む複素6員環と融合した5員環からなる構造を含む化合物を指し、具体的には構造式(I)で表される基本骨格構造を有する化合物を指す。ここで、構造式(I)にはイリドイド骨格構成原子にナンバーリングを付して示した。
本明細書におけるイリドイド化合物としては、イリドイド配糖体だけでなくそのアグリコンであるイリドイドアグリコンを含む用語として用いている。また、本明細書におけるイリドイド化合物としては溶解時におけるイオン状態のものも含まれる。
ここで、構造式中のR
1、R
2、R
3、R
4、及びR
5は任意の官能基を指すものであるが、本発明に係る赤色発色での反応基質ではR
1がカルボキシル基となる。また、R
1がメチルエステル基等の低級アルキル化された官能基の場合、エステル加水分解を介してカルボキシル基とすることによって反応基質として用いることが可能である。
植物体や果実等に含まれるイリドイド化合物は、通常は不活性で安定な配糖体の構造をとる場合が多い。この場合、R
2はβ−グリコシド結合を介して結合した糖分子となる。本発明に係る赤色発色の反応基質となるアグリコンの場合は、イリドイド骨格の1位に水酸基(−OH)が付加された構造となる。具体的には構造式(II)で示す構造となる。
R
3、R
4、及びR
5は水素原子(−H)を官能基として含む化合物が多いが、水酸基、アルキル基、フェニル化合物を含む官能基等である化合物の例も報告されている。ここで、イリドイド骨格の6位と7位の炭素、及び/又は、イリドイド骨格の7位と8位の炭素においては、構造式(III)又は構造式(IV)に示す二重結合を有する構造も含まれる。また、イリドイド骨格の6位と7位の炭素、及び/又は、イリドイド骨格の7位と8位の炭素としては、共通する原子又は分子構造物を介して結合した構造であっても良い。例えば酸素を介して結合した構造式(V)、構造式(VI)等の構造を挙げることができる。
更に、本発明中におけるイリドイド化合物としては、本発明に係る赤色素組成物の安定性及び発色特性を実質的に損なわない限りにおいて様々な官能基を備えた化合物であることが許容される。
【0042】
[反応基質]
本発明に係る赤色素組成物の製造方法は、イリドイド骨格の4位にカルボキシル基を有するイリドイドアグリコンとアミノ基含有化合物との作用を伴う赤色発色を行う方法である。ここで、「イリドイド骨格の4位にカルボキシル基を有するイリドイドアグリコン」とは、イリドイド骨格中の第4位にカルボキシル基を有する構造のイリドイド配糖体から生成されるアグリコンを指すものである。
当該化合物としては、具体的にはゲニピン酸等を挙げることができる。ゲニピン酸はクチナシ果実に多く含まれるゲニポシド酸のアグリコンである。また、ゲニピンのイリドイド骨格の4位のメチルエステル基をカルボキシル基に加水分解した化合物でもある。
【0043】
原料植物
本発明に係る赤色素組成物の製造方法としては、原料としてイリドイド化合物を含有する植物を原料として用いることが好適である。本発明に係る原料としては、例えばクチナシ、ウィット、キササゲ、杜仲等を挙げることができる。また植物体の原料部位としては、植物体を構成する地上部及び地下部の如何なる部位を用いることもできるが果実を用いることが好適である。赤色発色特性の優れた色素組成物の製造の点では、好ましくはクチナシ果実を用いることが好適である。
ここで、本明細書中「クチナシ果実」としては、アカネ科クチナシ属に属する植物の果実を含んで指すことができるが、より具体的にはクチナシに属する種の果実を指すものである。クチナシに属する植物としては、詳しくはGardenia jasminoides、Gardenia augusta等を挙げることができる。また、クチナシに属する植物としてはこれらの近縁種や近縁種との雑種等も含まれる。クチナシに属する植物として特にはGardenia jasminoidesを挙げることができる。
赤色発色特性の優れた色素組成物の製造の点では、好ましくはGardenia jasminoidesの果実を用いることが好適である。
【0044】
本発明に係る赤色素組成物の製造方法において植物原料を用いる場合、植物体からのイリドイド化合物含有抽出物を原料として用いることができる。植物体からのイリドイド化合物の抽出手法としては公知の手法にて行うことが可能であり特に制限はないが、イリドイド化合物の収率が多くなる手法を採用して行うことが好適である。植物体からの抽出物の調製例としては、一例を挙げると、原料を破砕、粉砕、磨砕、擂潰、粉末化、乾燥化等を行った後、水、含水アルコール、又はアルコール等での抽出を行い、濾過や精製等の処理を行ったものを植物原料抽出物として用いることができる。
また、植物体について抽出工程を経ずに植物体をそのまま原料として用いる場合、植物体の搾汁物、果汁、ピューレ、これらの乾燥物等を原料として用いることも可能である。
【0045】
前駆物質の加水分解処理
本発明に係る赤色発色は、イリドイド骨格の4位にカルボキシル基を有するイリドイドアグリコンを反応基質として用いることで実施される。
本発明においてはイリドイド骨格の4位にカルボキシル基を有するイリドイドアグリコンを原料として直接用いることが可能であるが、 i)前駆物質としてイリドイド骨格の4位にアルキルエステル基などを有するイリドイド化合物を用いる場合には、エステル加水分解処理によってイリドイド骨格の4位をカルボキシル基に分解して用いることが可能である。ここで4位のアルキルエステル基の具体的な態様としては、メチルエステル基であることが好適である。また、ii)前駆物質としてイリドイド配糖体を用いる場合には、β−グリコシド結合を加水分解してアグリコンを生成させて用いることが可能である。
【0046】
本発明に係る赤色素組成物の製造方法において原料として前駆物質であるイリドイド骨格の4位にアルキルエステル基を有するイリドイド化合物を用いる場合には、 i)エステル加水分解処理によってイリドイド骨格の4位をカルボキシル基に分解する反応を行うことが好適である。
本発明に係るエステル加水分解処理は、イリドイド骨格の4位にアルキルエステル基をカルボキシル基に加水分解する反応を伴う手段であれば良く、例えばアルカリ溶液を用いた処理、イオン交換樹脂での処理、エステラーゼ活性を有する酵素処理等の手段を採用することができる。一例としては水酸化ナトリウム等でpH10〜13程度のアルカリ溶液を調製して当該溶液中で40〜70℃程度にて加温することでエステル加水分解処理とすることができる。
【0047】
本発明に係る赤色素組成物の製造方法において原料として前駆物質であるイリドイド配糖体を用いる場合には、 ii)イリドイド骨格の1位のβ−グリコシド結合を加水分解することによってイリドイドアグリコンを生成させる反応を行うことが好適である。
β−グリコシド結合の加水分解処理は、イリドイド骨格の1位のβ−グリコシド結合を加水分解する反応を伴う手段であれば良く、例えばβ−グルコシダーゼ活性を有する酵素処理、β−グルコシダーゼ活性を有する微生物処理、酸性溶液を用いた処理等の手段を採用することができる。一例としてはpH3〜6程度のβ−グルコシダーゼ活性を有する酵素溶液を調製して当該溶液中で処理することでアグリコン生成反応を行うことができる。ここでβ−グルコシダーゼ活性を有する酵素としては、特に制限なく使用できるが、例えばセルラーゼ等を用いることができる。市販品のセルラーゼ製剤としては、例えば、セルラーゼT「アマノ」、セルラーゼA「アマノ」(以上天野エンザイム社製)、ドリセラーゼKSM、マルチフェクトA40、セルラーゼGC220(以上ジェネンコア協和社製)、セルラーゼGODO−TCL、セルラーゼGODO TCD−H、ベッセレックス、セルラーゼGODO−ACD(以上合同酒精社製)、Cellulase(東洋紡績社製)、セルライザー、セルラーゼXL−522(以上ナガセケムテックス社製)、セルソフト、デニマックス(以上ノボザイムズ社製)、セルロシンAC40、セルロシンAL、セルロシンT2(以上エイチビィアイ社製)、セルラーゼ“オノズカ”3S、セルラーゼY−NC(以上ヤクルト薬品工業社製)、スミチームAC、スミチームC(以上新日本化学工業社製)、エンチロンCM、エンチロンMCH、バイオヒット(以上洛東化成工業社製)などが挙げられる。
【0048】
上記 i)及びii)に記載の前駆物質処理は、前駆物質として用いる原料化合物や原料組成物の種類によって、その物質や組成に適した処理方法にて行うことが好適である。
例えば、イリドイド骨格の4位にアルキルエステル基を有するイリドイド配糖体を前駆物質として用いた場合、上記 i)及び ii)の両方の処理を行う必要がある。当該化合物として具体的には、イリドイド骨格の4位にメチルエステル基を有するイリドイド配糖体であるゲニポシド、ガルデノシド等を挙げることができる。好ましくはクチナシ果実に多く含まれるゲニポシドが好適である。
【0049】
また、イリドイド骨格の4位にカルボキシル基を有するイリドイド配糖体を前駆物質として用いた場合、上記 ii)の処理が必要である。当該化合物としては、具体的にはゲニポシド酸等を挙げることができる。好ましくはクチナシ果実に多く含まれるゲニポシド酸が好適である。ここでゲニポシド酸はクチナシ果実に多く含まれるゲニポシドのイリドイド骨格の4位のメチルエステル基をカルボキシル基に加水分解した化合物である。
【0050】
また、イリドイド骨格の4位にアルキルエステル基を有するイリドイドアグリコンを前駆物質として用いた場合、上記 i)の処理が必要である。当該化合物として具体的には、イリドイド骨格の4位にメチルエステル基を有するイリドイドアグリコンであるゲニピン等を挙げることができる。
【0051】
本発明に係る製造方法においては、植物体や植物抽出物を原料として用いる場合、前駆物質に相当するイリドイド骨格の4位にメチルエステル基を有するイリドイド配糖体の含有割合が多いため、上記 i)及び ii)の両方の処理を行って赤色発色の基質となるイリドイドアグリコンを生成させることが好適である。
ここで、イリドイド化合物の構造と本発明に係る製造方法での処理工程との関係について、クチナシ果実に多く含まれるイリドイド化合物であるゲニポシドやゲニポシド酸等を例にして表に示す。
【0053】
[赤色発色]
本発明に係る赤色素組成物の製造方法は、上記したイリドイド骨格の4位にカルボキシル基を有するイリドイドアグリコンに対してアミノ基含有化合物との作用を伴う赤色発色を行う方法である。
本明細書中における「赤色発色」とは、上記イリドイドアグリコンとアミノ基含有化合物との作用を伴って進行する一連の反応を指す。ここで、「イリドイドアグリコンとアミノ基含有化合物との作用」とは、イリドイド骨格の2位の酸素原子がアミノ基含有化合物中に由来する窒素原子に置換されてアミノ基含有化合物がイリドイド化合物と結合する反応と、イリドイド化合物どうしの酸化重合反応等からなる複合的な反応を指す(特公昭55−5778号公報参照)。
【0054】
溶媒等
本発明に係る赤色発色を行う溶液の溶媒としては、水を使用することが好適である。より好ましくは、精製水、蒸留水、超純水等を用いることが好適であるが、飲食品製造や色素製剤等に用いるグレードの水であれば、当該溶媒として問題なく使用することができる。また当該溶媒としては、赤色発色を実質的に阻害する程度でない限りは、各種塩、有機酸、pH調整剤、pH緩衝剤、低級アルコール等を含む水溶液を用いることも可能である。
【0055】
特定構造を有するジカルボン酸
本発明に係る赤色発色は、反応液中に特定構造を有するジカルボン酸及び/又はその類似化合物が存在する条件にして行うものである。本発明においては、当該化合物が存在する条件において赤色発色を行うことによって、生成される赤色素化合物の構造及び/又は赤色素組成物の組成に変化が生じ、その組成的特徴によって赤色素組成物が耐光性を発揮するものとなる。特に長時間の光照射条件において優れた耐光性を発揮するものとなる。更に本発明においては、当該化合物が存在する条件において赤色発色を行うことによって、得られる赤色素組成物は耐光性を発揮することに加えて明色性を発揮するものとなる。
【0056】
本発明に係る赤色発色は、反応液として、特定構造を有するジカルボン酸、その類似化合物、又はこれらから選ばれる2以上の化合物、を含む溶液中で行うものである。ここで特定構造を有するジカルボン酸とは、具体的には下記構造式(i)にて示される化合物を挙げることができる。なお当該式中のR
11は水素原子又は水酸基を示す。また、当該構造式(i)にて示される化合物としては、溶解時におけるイオン状態のものを含むものとして記載している。
【0058】
本発明においては、上記構造式(i)に係るジカルボン酸を用いることが最適であるが、その類似化合物を用いることも可能である。
本明細書中「その類似化合物」としては、上記ジカルボン酸の類似化合物であって本工程で使用した際に上記ジカルボン酸と比較して遜色のない又は同等以上の耐光性付与作用を発揮する化合物を指す。上記ジカルボン酸の類似化合物としては、上記ジカルボン酸の異性体も含まれる。
更に上記ジカルボン酸の類似化合物としては、上記ジカルボン酸の誘導体又はその異性体の誘導体も含まれる。当該誘導体としては、上記ジカルボン酸又はその異性体の基本骨格構造を維持しつつ官能基置換等を行った化合物等を指すものであるが、本工程で使用した際に上記ジカルボン酸と比較して遜色のない又は同等以上の耐光性付与作用を発揮する化合物であれば使用することが可能である。
また、上記ジカルボン酸の類似化合物としては、上記ジカルボン酸の塩等の化合物、上記例示した化合物の塩等の化合物等も含まれる。また、上記ジカルボン酸の類似化合物としては、上記例示した化合物の溶解時におけるイオン状態のものも含まれる。
【0059】
上記構造式(i)においてR
11が水素原子(−H)である場合、当該化合物はコハク酸となる。ここで、本明細書中「コハク酸」とは、HOOC−(CH
2)
2−COOHの化学式で表される有機酸の一種であり、生体内においては酸素呼吸におけるクエン酸回路を構成する化合物の1つとして機能する。コハク酸は旨味成分、酸味料、pH調整用途での飲食品添加物、及び医薬品の賦形剤としても広く使用される化合物であることから、人体に対する安全性の高い化合物であると認められる。更にコハク酸は原料物質としても安価である。また、水溶解性が高く添加等の製造工程でのハンドリングに関しても扱い易い物質である。
本発明においては、上記特定構造を有する有機酸としてコハク酸を用いることが好適であるが、コハク酸の類似化合物を用いることも可能である。本明細書中「これらの類似化合物」にはコハク酸の類似化合物であって本工程で使用した際にコハク酸と同等の耐光性付与作用を発揮する化合物が含まれる。ここでコハク酸類似化合物としては、コハク酸の基本骨格構造を維持しつつ官能基置換等を行ったコハク酸の類似化合物が含まれる。また、コハク酸類似化合物としては、官能基置換を行った誘導体も含まれる。例えば、本発明に係るコハク酸類似化合物には、骨格炭素2位の水素原子の1つが水酸基となったオキシコハク酸を含めることができる。ここでオキシコハク酸はリンゴ酸の別名である。
本発明におけるコハク酸類似化合物としてはコハク酸の塩又は上記類似化合物の塩等の化合物も含まれる。また、コハク酸類似化合物としてはコハク酸のイオン状態又は上記化合物のイオン状態のものも含まれる。
【0060】
上記構造式(i)においてR
11が水酸基(−OH)である場合、当該化合物はリンゴ酸となる。ここで、本明細書中「リンゴ酸」とは、HOOC−CH(OH)−CH
2−COOHの化学式で表される有機酸の一種であり、L−リンゴ酸(L−(−)−Malic acid)を指す用語として用いている。生体内においては酸素呼吸におけるクエン酸回路を構成する化合物の1つとして機能する。また、植物の葉緑体におけるカルビン回路のCO
2源としても機能する。リンゴ酸は酸味料、pH調整剤、乳化剤等の飲食品添加物として広く利用される化合物であることから、人体に対する安全性の高い化合物であると認められる。更にリンゴ酸は原料物質としても安価である。また、水溶解性が高く添加等の製造工程でのハンドリングに関しても扱い易い物質である。
本発明においては、上記特定構造を有する有機酸としてリンゴ酸を用いることが好適であるが、リンゴ酸の類似化合物を用いることも可能である。
本明細書中「その類似化合物」にはリンゴ酸の類似化合物であって本工程で使用した際にリンゴ酸と同等の耐光性付与作用を発揮する化合物が含まれる。リンゴ酸の類似化合物としては、L−リンゴ酸の光学異性体が含まれる。光学異性体としてはD−リンゴ酸(D−(+)−Malic acid)を挙げることができる。また、ラセミ体であっても良い。
ここでリンゴ酸類似化合物としては、リンゴ酸又はその異性体の基本骨格構造を維持しつつ官能基置換等を行ったリンゴ酸の類似化合物が含まれる。また、リンゴ酸類似化合物としては、官能基置換を行った誘導体も含まれる。例えば、本発明に係るリンゴ酸類似化合物には、骨格炭素2位の水酸基が水素原子となったコハク酸を含めることができる。
本発明におけるリンゴ類似化合物としてはリンゴ酸の塩又は上記類似化合物の塩等の化合物も含まれる。また、リンゴ酸類似化合物としてはリンゴ酸のイオン状態又は上記化合物のイオン状態のものも含まれる。
【0061】
本発明に係る赤色発色において反応液に含有させる上記特定構造を有するジカルボン酸等の量としては、反応液に含まれるイリドイド化合物に対して多量に存在することが必要である。即ち、本発明に係る赤色発色は、通常のコハク酸やリンゴ酸等の使用量からは想到しえない程の高濃度で含有する溶液中で行うことが必要である。
当該反応液に含有させる上記特定構造を有するジカルボン酸等の配合量としては、具体的には、反応液に含まれるイリドイド化合物の総モル当量に対して5モル当量以上であることが好適である。特には反応液に含まれるイリドイド化合物の総モル当量に対して6モル当量以上、より好ましくは6モル当量より多量、更に好ましくは6.5モル当量以上、更により好ましくは7モル当量以上、一層好ましくは8モル当量以上であることが生成される赤色素組成物の耐光性付与の点において好適である。特に優れた耐光性付与の点では、特には反応液に含まれるイリドイド化合物の総モル当量に対して6.5モル当量以上、好ましくは7モル当量以上、より好ましくは8モル当量以上が好適である。また、鮮やかな赤色発色付与の点においても上記範囲にあるモル当量であることが好適である。
上記特定構造を有するジカルボン酸等の配合量の上限としては特に制限はないが、例えば反応液に含まれるイリドイド化合物の総モル当量に対して30モル当量以下、好ましくは25モル当量以下、より好ましくは20モル当量以下を挙げることができる。
【0062】
反応条件等
本発明に係る赤色発色は、イリドイド骨格の4位にカルボキシル基を有するイリドイドアグリコンを反応基質として行うものである。当該イリドイドアグリコンとしては上記にて記載したゲニポシドエステル加水分解物(例えば、ゲニポシド酸等)、ガルデノシドエステル加水分解物、等のアグリコンを用いることができる。
好ましくは、イリドイド骨格の4位にカルボキシル基を有するゲニポシドエステル加水分解物アグリコン及び/又はゲニポシド酸アグリコンを含むものであることが好適である。
【0063】
本発明に係る赤色発色を行う溶液に含有させるイリドイド化合物の配合量としては、赤色発色を行うことが可能であれば特に制限なく如何なる配合量を採用することが可能である。好適な態様としては、例えば、当該溶液に含まれるイリドイド化合物の総量が、当該反応を行う溶液の全質量に対して0.1〜75質量%、好ましくは0.5〜50質量%である配合量を挙げることができる。また、当該溶液としては、赤色発色を実質的に阻害する程度でない限りは、イリドイド化合物以外の原料由来の物質が含まれるものであっても良い。
【0064】
本発明に係る赤色発色は、イリドイド骨格の2位の酸素原子とアミノ基含有化合物のアミノ基の窒素原子との置換により、アミノ基含有化合物がイリドイド化合物と結合する反応を伴う反応である。
当該反応に好適なアミノ基含有化合物としては、第1級アミノ基含有化合物であるアミノ酸又はアミノ酸を含む組成物を用いることができる。例えばタンパク質加水分解物やペプチド等を用いることができる。タンパク質加水分解物としては、例えば、小麦タンパク質、大豆タンパク質、乳タンパク質、コラーゲン等の各種タンパク質の加水分解物を用いることができる。また、グルタミン酸、セリン、アルギニン、リジン、アスパラギン酸、グリシン等の各種アミノ酸を用いることができる。これらナトリウム塩であるグルタミン酸ナトリウム等も好適に用いることができる。当該反応液に含有させるアミノ基含有化合物の量としては特に制限はないが、赤色発色特性が好適な点では例えばイリドイド化合物の総モル当量に対して、アミノ酸として0.7当量以上となる濃度を添加することが望ましく、1モル当量以上となる濃度を添加することが望ましい。イリドイド化合物の総モル当量に対するアミノ基含有化合物の量の上限も特に制限はないが、例えば、10モル当量以下、より好ましくは8モル当量以下、更に好ましくは6モル当量以下を挙げることができる。
【0065】
本発明に係る赤色発色は、製造される色素組成物の赤色発色特性の点で反応液を不活性気体雰囲気下にして反応を行うことが好適である。本反応にて使用可能な不活性気体としては、本反応の進行を実質的に阻害しないものであれば特に制限なく使用可能であるが、例えば窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等を用いることができる。好ましくは窒素ガス等を用いることが好適である。
【0066】
本発明に係る赤色発色は、製造される色素組成物の赤色発色特性の点で酸性条件下にて反応を行うことが好適である。赤色発色を行うpH条件としては、好ましくはpH3〜6、より好ましくはpH4〜5程度であることが好適である。pHを中性又はアルカリ性条件にして当該反応を行った場合、生成される色素組成物は青味を帯びて赤味が減少する傾向があり好適でない。
ここで、酸性条件へのpH調整手段としては、無機酸及び/又は有機酸を配合する公知手段を挙げることができる。好ましくは上記特定構造を有するジカルボン酸等の配合によって反応溶液を酸性化することが望ましい。なお、反応液が酸性化し過ぎた場合は、通常のアルカリ条件へのpH調整手段を行えば良く特に制限されない。一例としては、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸三ナトリウム等を配合する手段等を挙げることができる。
【0067】
本発明に係る赤色発色は、1〜30℃程度の室温や15〜25℃程度の常温で行うことも可能であるが、加熱処理を行うことで飛躍的に赤色発色を促進することが可能となり好適である。加熱処理の条件としては50℃以上、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上である。上限は水溶液の沸点を挙げることができるが、常圧での水溶液の場合100℃以下、加圧条件下の水溶液では150℃以下が好適である。具体的には、50〜150℃、好ましくは50〜100℃である。
反応時間については、温度条件等に応じて決定される要素でもあり適宜決定すれば良いが、室温や常温であれば数時間〜数日程度の長時間をかけて行うことが望ましい。また、加熱条件であれば、例えば1分〜96時間、好ましくは10分〜72時間程度の範囲を挙げることができる。
上記温度及び/又は時間の組み合わせにより反応条件が不十分である場合、赤色色素化合物の生成量が過少となり好適でない。また、上記温度及び/又は時間の組み合わせにより反応条件が過剰すぎる条件の場合、不要な分解等が生じる懸念があり好適でない。
【0068】
本発明に係る赤色発色においては、当該反応工程を所望に応じて複数回行う態様を採用することが可能である。また、反応液中に配合する各種化合物や物質を反応中において複数回に分けて添加する態様も可能である。
【0069】
[精製処理等]
本発明に係る赤色素組成物の製造方法では、上記操作によって得られた反応液をイリドイド化合物由来赤色素組成物とすることができるが、使用用途に応じて固液分離、精製処理、濃縮処理、希釈処理、pH調整、乾燥処理、殺菌処理等を行って所望の品質及び/又は形態となるイリドイド化合物由来赤色素組成物とすることが望ましい。
これらの工程は赤色発色後の最終段階だけでなく、上記各工程や処理後に適宜行うことも可能である。また、所望の処理を組み合わせて行うことも可能であり、所望の処理を複数回行うことも可能である。
【0070】
本発明に係る製造工程における固液分離の手段は常法により用いて行うことが可能である。例えば、濾過、吸引濾過、共沈、遠心分離等を行い、固形物や凝集した不溶物等を取り除くことが可能である。また、濾過を行う場合は、濾過助剤(例えば、珪藻土等)を用いることも好適である。なお、当該固液分離処理は、所望に応じて複数回行うことも可能である。
【0071】
本発明に係る製造方法における精製処理としては、色素化合物の分離精製が可能であれば常法の技術を用いて行うことが可能である。例えば、シリカゲル、多孔性セラミック、スチレン系又は芳香族系の合成樹脂等を用いた吸着処理により行うことができる。また、カチオン性樹脂又はアニオン性樹脂を用いたイオン交換処理により行うこともできる。また、メンブレンフィルター膜、限外濾過膜、逆浸透膜、電気透析膜、機能性高分子膜等を用いた膜分離処理により行うことができる。
本発明に係る製造方法においては、製造した赤色素組成物から未反応の低分子化合物又は分解物等を除去する精製手段を行うことが好適である。例えば、分画分子量が3000以下、好ましくは2000以下の低分子除去を可能とする精製処理を行うことが好適である。本発明において上記反応時に過剰添加した上記特定構造を有するジカルボン酸等は、赤色反応後に除去しておくことが好適である。
【0072】
本発明に係る製造方法においては、濃縮、希釈、乾燥等の処理の操作は、常法により行うことができる。また、精製処理は上記段落と同様に行うことができる。また、pH調整の操作を常法により行うことが可能である。
【0073】
本発明に係る製造工程においては、殺菌処理も常法により行うことが可能である。殺菌処理の手段としては、加熱処理、高圧処理、高圧加熱処理、滅菌フィルター処理、紫外線照射処理、殺菌剤での薬品処理等を挙げることができる。好ましくは、加熱処理又は高圧加熱処理にて殺菌を行うことが好適である。
殺菌加熱を行う際の温度条件としては、例えば60℃以上、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上を挙げることができる。上限温度は、安定性付与機能成分に悪影響がない限り特に制限はないが、加圧条件であれば140℃以下、常圧であれば100℃以下、好ましくは95℃以下を挙げることができる。
【0074】
[耐光性付与方法]
本発明では、イリドイド化合物由来赤色素組成物の製造工程において上記に係る赤色発色を行うことによって、製造されたイリドイド化合物由来赤色素組成物に耐光性を付与することが可能となる。即ち、本発明においては、イリドイド化合物由来赤色素組成物の製造工程において、前記(工程1)を行うことを特徴とする、製造されるイリドイド化合物由来赤色素組成物に耐光性を付与する方法を提供することが可能となる。前記(工程1)における耐光性付与の効果の点においては、上記構造式(i)で示される化合物の中でもコハク酸及び/又はリンゴ酸を用いることが好ましく、特にリンゴ酸を用いることが好適である。製造される赤色素組成物に付与される耐光性の詳細な特性については、下記段落2.に記載した通りである。
また、本発明では、イリドイド化合物由来赤色素組成物の製造工程において上記に係る赤色発色を行うことによって、製造されたイリドイド化合物由来赤色素組成物に耐光性に加えて明色性を付与することが可能となる。前記(工程1)における明色性付与の効果の点においては、上記構造式(i)で示される化合物の中でもコハク酸及び/リンゴ酸を用いることが好ましく、特にコハク酸を用いることが好適である。製造される赤色素組成物に付与される明色性の詳細な特性については、下記段落2.に記載した通りである。
【0075】
2.イリドイド化合物由来赤色素組成物
本発明に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物は、下記に記載の特徴を備えた色素組成物である。本発明に係る赤色素組成物の特性として強調すべき点は耐光性に優れている点であり、特に光照射条件下でも優れた発色安定性を発揮することから、従来技術に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物(クチナシ赤色素組成物)では困難であった用途や製品に対しての幅広い利用が可能となる。
本発明に係る赤色素組成物としては、本発明に係る技術的特徴が奏する作用効果を実質的に妨げるものでなければ、下記に記載した特徴以外の他の特徴を含むことを除外するものではない。また、本発明に係る技術的範囲は必須の技術的特徴以外については下記特徴を全て含む態様に限定されるものではない。
なお、本明細書中、本発明に係る赤色素組成物の特性を表す数値のうちHunter Lab表色系に関する測定値及び当該測定値から算出される値等については、測定機器等によって変動しやすい値であるため、同一の測定装置を用いて比較試料等との比較によって各値を評価することが望ましい。
【0076】
本発明に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物は、上記段落1.に記載の製造方法によって得ることが可能である。ここで本発明に係る赤色発色に関しては、複数の反応系の総合的な結果によって色素化合物の総体が生成されるところ、その作用機序は完全に解明されてはおらず赤色発色を実現する化合物構造や組成の詳細は不明である。本願出願時における当該状況において、生成された色素化合物の物性を分析して赤色発色の原因となる構造的特徴等を特定するためには、質量分析装置等の高額な装置等が必要であり経済的負担が大きく、またこれら装置等を用いた場合であっても化合物構造の特定は困難である。また、特許出願の迅速性と勘案して分析に時間を要する。
従って、本発明に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物に関する発明においては、請求項中の文言に物を生産する工程を含むものであっても、当該記載のみによって発明内容を不明確とする技術的特徴には該当しないものと認められる。
【0077】
[組成的特徴]
本発明に係る赤色素組成物は、イリドイド骨格の4位にカルボキシル基を有するイリドイドアグリコンとアミノ基含有組成物との反応生成物が酸化重合した化合物にて構成されてなる組成物である。なお、本発明に係る赤色素組成物を構成する化合物組成としては、上記特定構造を有するジカルボン酸等を含むことは必須ではなく、製造工程で添加した上記特定構造を有するジカルボン酸等を製造後の組成物から除去したとしても、本発明に係る赤色素組成物が備えた耐光性及び発色特性には影響しない。
また、本発明に係る赤色素組成物の形態としては、例えば液体状、ペースト状、ゲル状、半固形状、固形状又は粉末状等が挙げられるが特に形態に制限はない。
【0078】
化合物構造
本発明に係る赤色素化合物の構成単位となる反応前のイリドイド化合物としては、上記段落1.に記載したイリドイド骨格の4位にカルボキシル基を有するイリドイド化合物のアグリコンを挙げることができる。
当該イリドイドアグリコンとしては、好ましくはゲニポシドエステル加水分解物アグリコン及び/又はゲニポシド酸アグリコンを挙げることができる。
【0079】
[光に対する安定性]
本発明に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物は、光照射に対して高い耐光性を備えた色素組成物であり、光照射条件において発色特性が失われにくい特性を備えている。当該安定性の程度は、従来技術にて製造したイリドイド化合物由来赤色素組成物等と比較して高い耐光性を有するものである。本発明に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物は当該安定性に関する特性により、長時間の蛍光灯照射等への耐性が要求される流通製品や陳列製品等への着色に好適に使用可能となる。
【0080】
色素残存率
本発明に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物は、光照射に対する発色安定性を備えた色素組成物である。具体的には下記(a−1)に記載のように、耐光性試験後の色素残存率を示す値が下に示す範囲であることが好適である。
即ち、本発明に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物は、以下の特徴を有する:
(a−1)色価E
10%1cm値50.5換算で0.05質量%となるように前記イリドイド化合物由来赤色素組成物を含み、果糖ブドウ糖液糖にてBrix10°に調整され、且つpH5.0に調整された酸糖液を、白色蛍光灯照射10000ルクス及び10℃にて5日間保管した場合において、色素残存率が保管前の62%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは68%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは72%以上である。ここで、色素残存率の値が高いほど光照射に対する光安定性が高いと評価でき好適な色素組成物となる。
【0081】
また、本発明に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物は、下記(a−2)に記載のように、赤色発色工程における上記特定構造を有するジカルボン酸等の添加の有無の違いによる耐光性試験後の色素残存率の差が、以下に示す範囲であることが好適である。
即ち、本発明に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物は、以下の特徴を有する:
(a−2)色価E
10%1cm値50.5換算で0.05質量%となるように前記イリドイド化合物由来赤色素組成物を含み、果糖ブドウ糖液糖にてBrix10°に調整され、且つpH5.0に調整された酸糖液を、白色蛍光灯照射10000ルクス及び10℃にて5日間保管した場合において、以下の式(1)を満たす:
式(1):LR
1−LR
0≧6
ここで「LR
1」は、対象である前記イリドイド化合物由来赤色素組成物を配合した酸糖液に対して、前記条件での光照射保管を行った後の色素残存率(%)を示す。また、「LR
0」は、従来法にて調製された市販品を配合したことを除いては前記と同様にして調製した酸糖液に対して前記条件での光照射保管を行った後の色素残存率(%)を示す。
ここで「市販品」とは、上記段落1.に記載のイリドイド化合物由来赤色素組成物の製造における赤色発色を行う工程において、上記特定構造を有するジカルボン酸等を配合せずに赤色発色工程を行って調製した赤色素組成物を挙げることができる。具体的には、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の色素製剤「サンレッド[登録商標]No.2384」を挙げることができる。
本発明において当該式(1)における右辺の値は、耐光性試験における色素残存率の向上度合を示す値である。当該値としては6以上を挙げることができるが、好ましくは10以上、より好ましくは15以上、更に好ましくは18以上であることが好適である。
【0082】
色差ΔE
本発明に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物は、下記(a−3)に記載のように、赤色発色工程における上記特定構造を有するジカルボン酸等の添加の有無の違いによる耐光性試験前後での色差ΔE値の割合が、以下に示す範囲であることが好適である。
即ち、本発明に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物は、以下の特徴を有する:
(a−3)色価E
10%1cm値50.5換算で0.05質量%となるように前記イリドイド化合物由来赤色素組成物を含み、果糖ブドウ糖液糖にてBrix10°に調整され、且つpH5.0に調整された酸糖液を、白色蛍光灯照射10000ルクス及び10℃にて5日間保管した場合において、以下の式(2)を満たす:
式(2):LE
1/LE
0≦0.8
ここで「LE
1」は、対象である前記イリドイド化合物由来赤色素組成物を配合した酸糖液に対して前記条件での光照射保管を行った前後でのΔE値を示す。また、「LE
0」は、従来法にて調製された市販品を配合したことを除いては前記と同様にして調製した酸糖液に対して前記条件での光照射保管を行った前後でのΔE値を示す。ここで「市販品」とは、上記式(1)に記載の市販品と同じものを用いることができる。
本発明における当該式(2)の右辺の値は、耐光性試験における色調変化の抑制度合を示す値である。当該値としては0.8以下を挙げることができるが、好ましくは0.7以下、より好ましくは0.65以下、更に好ましくは0.6以下であることが好適である。
【0083】
耐光性に関する小括
上記数値範囲に関する特徴は、イリドイド化合物由来赤色素組成物の光照射条件下での発色安定性を示す特徴であり、本発明に係る赤色素組成物が長時間の光照射に対する耐光性を備えていることを示す特徴である。ここで従来技術であるクエン酸等の有機酸を用いて製造されたイリドイド化合物由来赤色素組成物では、上記光照射条件での退色及び変色が酷く上記数値範囲にて示される特徴を実現することができない。また、先行技術である特許文献3に係るタウリン添加による耐光性付与技術にて製造した赤色素組成物と比較した場合でも、それと同等若しくは遜色がない又はそれ以上の優れた耐光性が達成可能と認められる(本願明細書実施例1及び3)。なお、ここで特許文献3の先行技術に係る方法は、コスト上の問題が認められ、飲食品等を含む広範な用途へ適用の点での課題が認められる技術である。
【0084】
[発色特性]
本発明に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物の発色特性としては、当該組成物を構成する組成的特徴により優れた明色性を示す色素組成物となる。詳しくは、従来技術に係るイリドイド化合物由来赤色素は青味を帯びた暗い紫色や暗い赤色の色調を呈する傾向があるところ、本発明に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物は明るく鮮やかな赤紫の色調を呈する。
【0085】
CHROMA値(彩度)
本発明に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物は特に彩度に優れた発色特性を備えるため、独特の鮮やかな色調を示す色素組成物となる。本観点から、本発明に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物は、下記(b−1)に記載の方法に従って測定した場合に、Hunter Lab表色系におけるCHROMA値が以下に示す範囲であることが好適である。
即ち、本発明に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物は、以下の特徴を有する:
(b−1)色価E
10%1cm値0.05となるように前記イリドイド化合物由来赤色素組成物を含み且つMcIlvaine緩衝液にてpH5.0の水溶液を調製した場合において、以下の式(3)を満たす:
式(3):C
1−C
0≧4
ここで「C
1」は、対象である前記イリドイド化合物由来赤色素組成物を含む前記水溶液におけるCHROMA値を示す。また、「C
0」は、標準色素を配合したことを除いては前記と同様にして調製した水溶液におけるCHROMA値を示す。ここで「標準色素」とは、上記段落1.に記載のイリドイド化合物由来赤色素組成物の製造における赤色発色を行う工程において、上記特定構造を有するジカルボン酸等を配合せずにクエン酸を配合して赤色発色工程を行って調製した赤色素組成物を、標準色素とすることができる。具体的には、反応液に含まれるイリドイド化合物の総モル当量に対してクエン酸を4.3モル当量配合して赤色発色工程を行って調製した赤色素組成物を、標準色素とすることができる。例えば、本明細書実施例5に記載の試料5−1と同様にして調製した色素を標準色素とすることができる。
本発明における当該式(3)の右辺の値は、CHROMA値の増加度合を示す値である。当該値としては4以上を挙げることができるが、好ましくは5以上、より好ましくは6以上、さらに好ましくは6.5以上であることが好適である。当該値の上限としては特に制限はないが、例えば30以下、好ましくは20以下を挙げることができる。
【0086】
a値(赤色調)
本発明に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物は、優れた赤色発色特性を有するため、独特の赤紫色調を呈する色素組成物となる。本観点から、本発明に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物は、下記(b−2)に記載の方法に従って測定した場合に、Hunter Lab表色系におけるa値が以下に示す範囲であることが好適である。
即ち、本発明に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物は、以下の特徴を有する:
(b−2)色価E
10%1cm値0.05となるように前記イリドイド化合物由来赤色素組成物を含み且つMcIlvaine緩衝液にてpH5.0の水溶液を調製した場合において、以下の式(4)を満たす:
式(4):A
1−A
0≧4
ここで「A
1」は、対象である前記イリドイド化合物由来赤色素組成物を含む前記水溶液におけるa値を示す。また、「A
0」は、標準色素を配合したことを除いては前記と同様にして調製した水溶液におけるa値を示す。ここで「標準色素」とは、上記式(3)に記載の標準色素と同じものを用いることができる。
本発明における当該式(4)の右辺の値は、a値の増加度合を示す値である。当該値としては4以上を挙げることができるが、好ましくは5以上、より好ましくは6以上、さらに好ましくは6.5以上であることが好適である。当該値の上限としては特に制限はないが、例えば30以下、好ましくは20以下を挙げることができる。
【0087】
L値(明度)
本発明に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物は、前記した発色特性に加えて色調全体が明るいため、明色性を示す色素組成物となる。本発明に係る赤色素組成物の明度を示すL値としては、従来技術に係るクチナシ色素と同等若しくは遜色のない又はそれ以上の明色性を示すものであることが好適である。
本観点から、本発明に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物は、下記(b−3)に記載の方法に従って測定した場合に、Hunter Lab表色系におけるL値が以下に示す範囲であることが好適である。
即ち、本発明に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物は、以下の特徴を有する:
(b−3)色価E
10%1cm値0.05となるように前記イリドイド化合物由来赤色素組成物を含み且つMcIlvaine緩衝液にてpH5.0の水溶液を調製した場合において、以下の式(5)を満たす:
式(5):L
1−L
0≧0.8
ここで「L
1」は、対象である前記イリドイド化合物由来赤色素組成物を含む前記水溶液におけるL値を示す。また、「L
0」は、標準色素を配合したことを除いては前記と同様にして調製した水溶液におけるL値を示す。ここで「標準色素」とは、上記式(3)に記載の標準色素と同じものを用いることができる。
本発明における当該式(5)の右辺の値は、L値の増加度合を示す値である。当該値としては0.8以上を挙げることができるが、好ましくは1以上、より好ましくは1.2以上、更により好ましくは1.4以上であることが好適である。当該値の上限としては特に制限はないが、例えば20以下、好ましくは15以下を挙げることができる。
【0088】
全体色調
本発明に係る赤色素組成物としては、上記したHunter Lab表色系の各値として彩度を示すCHROMA値が高いものほど鮮やかな色調となり好適である。また、赤色発色性を示すa値が高い値であるほど赤味を備えた紫色を呈する色調となり好適である。また、青色発色性を示すb値が低い値であるほど青味を備えた紫色を呈する色調となり好適である。また、明度を示すL値も従来技術に係るクチナシ色素と同等若しくは遜色のない又はそれ以上の色調を示すものであることが好適である。
【0089】
本発明に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物の色調としては、pH5において赤みの紫〜黄みの赤の色調を呈する。詳しくは、マンセル表色系におけるHUE値(又はJIS色名)で表現した場合に10P(赤みの紫)〜5RP(赤紫)〜10RP(紫みの赤)の色調を呈する色素組成物である。好適にはpH5においてマンセル表色系におけるHUE値で表現した場合に2RP〜8RPの色調を呈する色素組成物である。
【0090】
本発明に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物の発色特性としては、極大吸収波長の吸光度と他の固定波長の吸光度の比として示すことも可能である。
ここで、本発明に係る赤色素組成物としては、McIlvaine緩衝液にてpH5.0になるように色素組成物含有水溶液を調製した場合において、520〜545nm、好ましくは530〜542nmに極大吸収波長を有する色素組成物である。
【0091】
上記発色特性に関する数値範囲に関する特徴は、本発明に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物が明るく鮮明な赤紫色を呈する発色特性を有することを示す特徴である。ここで従来技術であるクエン酸等の有機酸を用いて製造されたイリドイド化合物由来赤色素組成物では、上記発色特性を実現することができない。例えば耐光性が報告されている特許文献3の先行技術に係る方法で得られるタウリン添加反応物である赤色素組成物は、本発明に係る赤色素組成物と比較して大幅に彩度が劣り、赤味も薄く発色特性が大きく異なる。
【0092】
[熱に対する安定性]
本発明に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物は、熱に対して高い発色安定性を備えた色素組成物であり、熱暴露等において発色特性が失われにくい特性を備えている。当該安定性の程度は、他の従来技術であるクエン酸添加で製造したイリドイド化合物由来赤色素組成物と同等若しくは遜色のない又はそれ以上の高い耐熱性を有するものである。
本発明に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物は当該安定性に関する特性により、高温保管等への耐性が要求される流通製品の着色に好適に使用可能となる。また、レトルト殺菌、加工、調理等の加熱処理を想定する態様にも好適に使用可能となる。
【0093】
色素残存率
本発明に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物は、熱に対する発色安定性を備えた色素組成物である。具体的には下記(c−1)に記載の方法に従って測定した場合に、色素残存率を示す値が以下の範囲を示すものが好適である。
即ち、本発明に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物は、以下の特徴を有する:
(c−1)色価E
10%1cm値50.5換算で0.05質量%となるように前記イリドイド化合物由来赤色素組成物を含み、果糖ブドウ糖液糖にてBrix10°に調整され、且つpH5.0に調整された酸糖液を、暗所及び50℃にて5日間保管した場合において、色素残存率が保管前の60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、更に好ましくは80%以上である。ここで、色素残存率の値が高いほど熱安定性が高いと評価でき好適な色素組成物となる。
【0094】
色差ΔE
本発明に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物は、下記(c−2)に記載のように、赤色発色工程におけるコハク酸又はリンゴ酸等の特定構造を有するジカルボン酸添加の有無の違いによる耐熱性試験前後での色差ΔE値の割合が、以下に示す範囲であることが好適である。
即ち、本発明に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物は、以下の特徴を有する:
(c−2)色価E
10%1cm値50.5換算で0.05質量%となるように前記イリドイド化合物由来赤色素組成物を含み、果糖ブドウ糖液糖にてBrix10°に調整され、且つpH5.0に調整された酸糖液を、暗所及び50℃にて5日間保管した場合において、以下の式(6)を満たす:
式(6):HE
1/HE
0≦1.2
ここで「HE
1」は、対象である前記イリドイド化合物由来赤色素組成物を配合した酸糖液に対して前記条件での高温保管を行った前後でのΔE値を示す。また、「HE
0」は、市販品を配合したことを除いては前記と同様にして調製した酸糖液に対して前記条件での高温保管を行った前後でのΔE値を示す。ここで「市販品」とは、上記式(1)に記載の市販品と同じものを用いることができる。
本発明における当該式(6)の右辺の値は、耐熱性試験における色調変化の抑制度合を示す値である。当該値としては1.2以下を挙げることができるが、好ましくは1以下、より好ましくは0.8以下、さらに好ましくは0.75以下であることが好適である。
【0095】
上記に係る特徴は、本発明に係る赤色素組成物が従来のクチナシ赤色素等と同等若しくは遜色のない又はそれ以上の優れた耐熱性を備えていることを示す。当該安定性は従来技術であるクエン酸等の有機酸存在下のものと同等であり保存性及び加工特性に優れた色素組成物として利用可能であることを示す。
【0096】
[クチナシ赤色素組成物]
本発明に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物としては、具体的にはイリドイド化合物の由来原料としてクチナシ果実又はその抽出物を用いて製造したクチナシ赤色素組成物を挙げることができる。
本明細書中「クチナシ赤色素組成物」とは、上記段落1.に記載のクチナシ果実に由来するイリドイド骨格の4位にカルボキシル基を有するイリドイドアグリコンとアミノ基含有組成物との作用を伴って生成される赤色素化合物を含んでなる色素組成物を指す。
ここで、第8版食品添加物公定書(厚生労働省)における「クチナシ赤色素」の定義では、クチナシ果実から得られるイリドイド配糖体のエステル加水分解物とタンパク質分解物の混合物にβ−グルコシダーゼを添加して得られる色素と定義されるところ、当該定義中の製造工程は本明細書に記載の製造工程の一態様を限定記載しているに過ぎない。従って、本発明に係るクチナシ赤色素組成物は当該一般的定義に基づくクチナシ赤色素組成物よりも広い範囲を含む色素組成物となる。
また、本発明に係るクチナシ赤色素組成物には、クチナシ果実又はその抽出物等を直接原料とすることなく、クチナシ果実から分離又は精製したゲニポシド及び/又はゲニポシド酸を原料として用いて製造された赤色素組成物も含まれる。更には、これらから誘導したゲニピン及び/又はゲニピン酸を原料として用いて製造された赤色素組成物も含まれる。
【0097】
[色素に関する用語]
本明細書中にて用いた色素に関する用語のうち主要なものを以下に説明する。
本明細書中「Hunter Lab表色系(Lab系)」とは、色度を示すa軸及びb軸よりなる直交座標とこれに垂直なL軸とから構成される色立体を成す表色系である。
ここで、「L値」とは明度を数値で表した値である。L値=100の時は白色となり、L値=0の時は黒色となる。「a値」とは赤色と緑色の色調を数値で表現した値である。a値の+の値が大きいほど赤色が強くなり、a値の−の値が大きいほど緑色が強くなる。「b値」とは黄色と青色の色調を数値で表現した値である。b値の+の値が大きいほど黄色が強くなり、b値の−の値が大きいほど青色が強くなることを示す。
【0098】
本明細書中「CHROMA値」とは、Hunter Lab表色系における原点からの距離を下記式(11)によって数値で表した値である。彩度を示す値として用いられる。当該値が大きいほど色彩が鮮やかであることを示す。
【0100】
本明細書中「色差(ΔE)」とは、Hunter Lab表色系において2色をプロットした点である(a
1,b
1,L
1)及び(a
2,b
2,L
2)の間の隔たりの距離を、下記式(12)によって算出して数値で表した値である。
【0102】
本明細書中「HUE値」とは、Hunter Lab表色系におけるa軸及びb軸の直交座標上のプロット(a値、b値)と原点とを結んだ直線の形成角度を、マンセル色相環における色相表記に変換して表現した色相を表す値である。色相を記号及び数値で表した値である。
【0103】
本明細書中「極大吸収波長」(λmax)とは、色素又は色素組成物における可視光領域における吸収度が極大となる光波長(nm)を示す。また、本明細書中「吸光度」とは、物質が光を吸収する度合を表す値である。例えば、極大吸収波長(λmax)の吸光度(A
λ)は、下記式(13)にて求めることができる。当該式中、Aは吸光度を、λは極大吸収波長を、A
λは極大吸収波長における吸光度を、Iは入射光強度を、I
0は透過光強度を意味する。
【0105】
本明細書中「色素残存率」とは、安定性等の試験前及び試験後に測定した各色素の極大吸収波長の吸光度を基にして、下記式(14)によって算出される値である。本明細書においては、極大吸収波長が維持されている色素化合物の残存割合を色素残存率として算出することによって、発色特性が安定維持された色素化合物の割合を評価する値として用いている。
【0107】
本明細書中、「色価」とは、「色価E
10%1cm」を意味し、「色価E
10%1cm」とは、10質量%の色素組成物含有溶液を調製した場合において、光路長が1cmの測定セルを用いて、可視光領域における極大吸収波長(λmax)の吸光度(A:Absorbance)に基づいて算出される値である。
本明細書中、「色価換算」とは、色素(色素組成物)を色価当たりの数値に換算することをいう。例えば、色価60換算で0.05質量%とは、色素(色素組成物)を色価60となるように調整した場合において溶液中に含まれる色素含量が0.05質量%となる量を意味する。
【0108】
本明細書中、「McIlvaine(マッキルベイン)緩衝液」とは、クエン酸及びリン酸塩(Na
2HPO
4)を用いて調製される緩衝液であり、クエン酸緩衝液としても知られている。
【0109】
3.用途
本発明に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物は、上記段落2.に記載の特徴を備えた色素組成物であり長時間の光照射条件において優れた耐光性を発揮する光安定性に優れた赤色素組成物である。そのため本発明に係る赤色素組成物は従来技術に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物(クチナシ赤色素組成物)では困難であった用途や製品に対しての幅広い利用が可能となる。
【0110】
[色素製剤]
本発明に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物は、色素製剤として利用することが可能である。特には本発明に係る赤色素組成物がクチナシ赤色素組成物である場合、クチナシ赤色素製剤として利用することが好適である。
本発明に係る色素製剤の形態としては、例えば液体状、ペースト状、ゲル状、半固形状、固形状、粉末状等が挙げられることができ特に制限されない。また、顆粒状、錠剤等の加工固形形状を挙げることができる。
また、本発明に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物は水溶性であるため、そのまま水溶性色素製剤として利用することが可能であるが、油溶性色素製剤(W/O型)、又は二重乳化色素製剤(W/O/W型)等に加工して用いることも可能である。
【0111】
本発明に係る色素製剤において、イリドイド化合物由来赤色素組成物の配合割合としては、色素製剤の種類や目的に応じて適宜調整することが可能であり、特に制限はないが、例えば、色価E
10%1cm値が20以上、好ましくは30以上、より好ましくは40以上となるように配合することが好適である。本発明に係る色素製剤の色価の上限は特に制限されないが、例えば色価E
10%1cm値800を挙げることができる。
また、色素製剤におけるイリドイド化合物由来赤色素組成物の配合割合は上記色価ベースで計算すれば良いが、質量ベースとしては例えば0.1〜99質量%、好ましくは1〜90質量%、さらに好ましくは5〜75質量%を挙げることができる。
【0112】
本発明に係る色素製剤においては、本発明に係る赤色素組成物が備えている耐光性や発色特性を実質的に損なわない限りは、他の機能成分の配合する態様とすることが可能である。具体的には、本発明に係る色素製剤には発色特性等を安定又は向上させる機能を有する添加剤を配合することが可能である。例えば、酸化防止剤、pH調整剤、増粘多糖類、その他食品素材等を配合することが可能であるが特にこれらに制限されない。
更に本発明に係る色素製剤としては、本発明に係る赤色素組成物に加えて他の色素を配合することが可能である。本発明に係る色素製剤は当該他の色素を配合することによって所望の色調に調整した色素製剤とすることが可能である。ここで配合可能な他の色素としては、本発明に赤色素組成物と同様に発色特性が安定した天然色素であることが好適である。一例としてはクチナシ黄色素、クチナシ青色素、ベニバナ色素、アントシアニン系色素、ベニコウジ色素、ウコン色素、タマリンド色素、カキ色素、カラメル色素、スピルリナ色素、コウリャン色素、コチニール色素、トマト色素等の天然色素を挙げることができるが特にこれらに制限されない。
【0113】
[製品]
本発明に係る赤色素組成物又は色素製剤は、従来技術であるイリドイド化合物由来赤色素組成物(クチナシ赤色素組成物)を用いた着色料としての用途に好適に使用可能であることに加えて、従来技術であるイリドイド化合物由来赤色素組成物(クチナシ赤色素組成物)では添加方法や時期に制限がある用途や使用自体が不可能な製品についても幅広い分野で利用することが可能である。
【0114】
本発明に係る赤色素組成物又は色素製剤は、飲食品、香粧品、医薬品、医薬部外品、衛生用日用品、又は飼料等の製品に使用する天然着色料として、好適に使用することが可能である。即ち、本発明においては、本発明に係る赤色素組成物又は色素製剤を含有する飲食品、香粧品、医薬品、医薬部外品、衛生用日用品、又は飼料を提供することが可能となる。
ここで、本発明に係る赤色素組成物又は色素製剤での着色が可能な製品例の一例を以下に示すが、本発明に係る着色可能な製品としてはこれらに限定されるものではない。
「飲食品」の例としては、飲料、冷菓、デザート、砂糖菓子(例えば、キャンディ、グミ、マシュマロ)、ガム、チョコレート、製菓(例えば、クッキー等)、製パン、農産加工品(例えば、漬物等)、畜肉加工品、水産加工品、酪農製品、麺類、調味料、ゼリー、シロップ、ジャム、ソース、酒類などを挙げることができる。
「香粧品」としては、スキンローション、口紅、日焼け止め化粧品、メークアップ化粧品、などを挙げることができる。
「医薬品」としては、各種錠剤、カプセル剤、ドリンク剤、トローチ剤、うがい薬、などを挙げることができる。
「医薬部外品」としては、栄養助剤、各種サプリメント、歯磨き剤、口中清涼剤、臭予防剤、養毛剤、育毛剤、皮膚用保湿剤、などを挙げることができる。
「衛生用日用品」としては、石鹸、洗剤、シャンプー、リンス、ヘアートリートメント、歯磨き剤、入浴剤、などを挙げることができる。
「飼料」としては、キャットフード、ドッグフード等の各種ペットフード、;観賞魚用や養殖魚用の餌、;などを挙げることができる。
【0115】
本発明に係る色素組成物又は色素製剤は、特に耐光性に優れた特性を有することにより光照射条件において退色及び変色しにくい性質を備え、保管や陳列等における光暴露を前提とした製品等の着色に対しても好適に使用することが可能である。例えば、飲料、冷菓、デザート、砂糖菓子等にも好適に使用することが可能である。
更に、本発明に係る色素組成物又は色素製剤は、耐光性に加えて鮮やかな赤紫色調である明色性に優れた発色特性を有するため、くすんだ色調になり易い乳白色を基本色調とする素材に対しても明るい赤紫色調での着色を行うことが可能である。例えば、乳飲料、乳製品、魚肉加工品等の着色に対しても好適に使用することが可能である。
また、本発明に係る色素組成物又は色素製剤は、耐熱性を備えたものであるため高温保管に晒されることが想定される製品に使用可能である。
【0116】
また、本発明に係る色素組成物又は色素製剤は、コハク酸又はリンゴ酸等の特定構造を有するジカルボン酸等を添加することを技術的特徴とする手法であるため安全性の観点で好適であり、人体への体内摂取を目的とする製品への着色用途での利用に適している。特に飲食品等の着色用途への利用に好適である。
【0117】
本発明に係る色素組成物又は色素製剤は、上記製品の製造工程において着色用途に好適に使用することが可能である。上記製品を着色する工程としては、本発明に係る色素組成物又は色素製剤を天然色素として配合することを除いては、各製品における定法の手段に従って行うことが可能である。また、これらの製品に対する本発明に係る赤色素組成物又は色素製剤の配合割合としては、製品の種類や目的に応じて適宜調整することが可能である。例えば、色価80換算で、製品における色素組成物の含有量が0.001〜1質量%、好ましくは0.005〜0.5質量%、より好ましくは0.01〜0.2質量%、さらに好ましくは0.02〜0.1質量%となるように配合することが可能である。
【0118】
[各種製造方法]
本発明においては、色素製剤や製品等の製造方法が含まれる。詳しくは、上記イリドイド化合物由来赤色素組成物を含有させる工程を含むことを特徴とする、色素製剤、飲食品、香粧品、医薬品、医薬部外品、衛生用日用品、又は飼料、等の製造方法が本発明に含まれる。ここで当該製造方法においては、上記段落1.に記載の製造方法によって得られたイリドイド化合物由来赤色素組成物を含有させる工程が含まれる。
これらの各製造方法における上記イリドイド化合物由来赤色素組成物の配合量等としては、色素製剤や各製品に関する上記段落の記載を参照することが可能である。また、各製造方法における製造工程としては、上記イリドイド化合物由来赤色素組成物を配合することを除いては、色素製剤や各製品における常法を採用することが可能である。
【実施例】
【0119】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の範囲はこれらにより限定されるものではない。
本実施例に係るイリドイド化合物由来赤色素組成物の製造工程における主要工程をフロー図として
図1に示す。なお、本実施例中「GP対モル当量」という記載は、クチナシ赤色素組成物の製造工程において用いた化合物の添加量又は含有量を、原料物質であるゲニポシドに対するモル比で示した値である。本明細書中では「eq」と表記する場合もある。
本実施例中、比較試料として用いた市販のクチナシ赤色素製品としては、赤色発色工程を従来技術にて行って製造した三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の色素製剤「サンレッド[登録商標]No.2384」を用いた。
【0120】
[実施例1]『クチナシ赤色素組成物の製造及び耐光性試験』
クチナシ赤色素組成物の製造工程でコハク酸を添加した場合において、その製造されたクチナシ赤色素組成物への光安定性に与える影響を検討した。
【0121】
(1)「クチナシ赤色素組成物の調製」
精製したゲニポシド(以下GPと略記する場合あり。)を32%含有する水溶液11gに48%水酸化ナトリウム液2.25gを添加してpH12の溶液を調製し液量30mLまで加水した。50℃で2時間攪拌することでエステル加水分解処理を行ってゲニポシド酸を生成させた。
加水分解処理後、グルタミン酸ナトリウム6.6g(GP対4.3モル当量)を加え、有機酸として表2及び3に示す量のコハク酸を添加してpH値を約4.4〜4.6に調整し、水を加えて液重50gの溶液を調製して80℃で10分間の加熱処理を行った。当該酸性調整液について、窒素雰囲気下でセルラーゼ0.6gを添加して緩やかに攪拌し、50℃24時間のβ−グルコシダーゼ反応を行ってゲニポシド酸アグリコンを生成させた。pHを約4.5に再調整し、80℃で5時間の加熱処理を行うことでアミノ基含有化合物との反応及びイリドイド化合物の酸化重合反応を促し、赤色発色を促進させた。なお本実施例における赤色発色は、β−グルコシダーゼ反応中においても生成アグリコンを基質として進行開始されるが、その後の加熱処理によって急激に進行する反応である。
【0122】
室温まで冷却した後、濾過助剤である珪藻土を液量に対して1質量部添加し混合し、前記珪藻土を予め層形成させておいた濾紙(NO.2フィルター、φ150mm、アドバンテック東洋株式会社製)を用いて吸引濾過を行って濾液を回収し、クチナシ赤色素組成物溶液を得た。
【0123】
(2)「耐光性試験」
上記調製した色素組成物を色価E
10%1cm値50.5換算で0.05質量%、Brix10°(果糖ブドウ糖液糖 Brix75°:13.3質量%)、及びpH5.0(クエン酸無水及びクエン酸三ナトリウムにて調整)となるように酸糖液を調製した。クチナシ赤色素組成物としては上記(1)にて調製したものを用いた。調製した酸糖液を93℃達温殺菌し、200mLペットボトルにホットパック充填して得られたペットボトル飲料を調製した。
また、比較試料として市販のクチナシ赤色素製品を添加して上記と同様にしてペットボトル飲料を調製した。ここで比較試料に供した市販のクチナシ赤色素製品はコハク酸を添加せずに赤色発色を行って製造された製品である。また、別の比較試料として、先行技術として耐光性向上作用が報告されているタウリン添加反応物のクチナシ赤色素組成物を特許第4605824号明細書に記載の方法に準じて別途に調製し、当該クチナシ赤色素組成物を添加したペットボトル飲料を同様にして調製した。
各ペットボトル飲料に対して蛍光灯照射機を用いて白色蛍光灯10000Luxを10℃にて10日間照射して耐光性に関する安定性試験を行った。蛍光灯照射機としては、Cultivation chamber CLH-301(株式会社トミー精工製)を用いた。
【0124】
(3)「色素残存率及び色調変化の評価」
上記安定性試験前及び試験後の飲料検液(ペットボトル飲料)について、分光光度計(V−560、日本分光株式会社製、測定セルの光路長1cm)を用いて測定波長380〜780nmにおける透過光測色を行い、安定試験前後を比較した時の色素残存率を上記式(14)にて算出した。結果を表2及び
図2に示した。
また、同様にして測定波長380〜780nmにおける透過光測色を行い、透過光測色を行ってHunter Lab表色系の3刺激値(L値、a値、及びb値)を測定し、安定試験前と安定試験後を比較した色調変化を示す色差ΔE値を上記式(12)にて算出した。結果を表3及び
図3に示した。またペットボトル飲料を目視観察した結果を
図4に示した。
【0125】
その結果、比較品である市販のクチナシ赤色素を添加した飲料(試料1−1:コハク酸未添加反応物)では、光虐待に相当する10000Lux照射環境下に晒された場合、5日後には色素残存率が約54%に減少し、10日後には約37%にまで減少した。また、試験後の色調変化を示すΔE値も高い値を示し、光照射による色調が大きく変化することが示された。
一方、コハク酸添加反応物であるクチナシ赤色素組成物を添加した飲料(試料1−3、試料1−4)では、光虐待に相当する10000Luxの蛍光灯連続照射環境下に晒された場合であっても、5日後でも約7〜8割の色素が安定維持され、10日後でも約6割の色素が維持されていた(
図2)。また、試験後の色調変化を示すΔE値も光照射10日後の比較品(試料1−1)の値と比較して約65%程度に低減され、色調変化の度合いが大幅に低減されていることが示された(
図3)。これら試料1−3及び1−4に係る色素残存率及び色調変化の抑制度合は、先行技術として耐光性向上作用が報告されているタウリン添加反応物のクチナシ赤色素組成物(試料1−2)の効果よりも高い値を示した。
また、ペットボトル飲料の目視観察においても耐光性試験後で退色及び変色が少ないことが確認された(
図4)。
【0126】
以上の結果から、クチナシ赤色素組成物の製造工程においてコハク酸を添加して一連の反応工程を行うことによって、耐光性に優れたクチナシ赤色素組成物を調製できることが示された。
【0127】
【表2】
【0128】
【表3】
【0129】
[実施例2]『クチナシ赤色素組成物の製造及び耐光性試験』
クチナシ赤色素組成物の製造工程におけるコハク酸添加により付与される耐光性について、反応残余物質等を除去しての再試験を行った。
【0130】
(1)「クチナシ赤色素組成物の調製」
クチナシ赤色素組成物の製造工程において、赤色発色時に添加する有機酸としてコハク酸をGP対10モル当量添加して、実施例1に記載の方法と同様にしてクチナシ赤色素組成物溶液(NO.2フィルター濾液)を調製した。ここで、赤色発色はコハク酸添加後にpHを4.5に調整して行った。また、赤色発色時の液量スケールは500g液重に調製して行った。
得られた色素組成物溶液について逆浸透膜を用いた膜処理を行ってMv2500〜3500より低分子の画分を除去して添加した有機酸等の低分子化合物を除去した。当該膜処理により前記添加したコハク酸も除去された。回収した非透過液をエバポレーターで減圧濃縮し、水およびエタノールにて色価E
10%1cm値=約110になるように溶液を調製し、80℃にて10分間の加熱殺菌を行って150メッシュでの篩過を行った後、試料瓶に小分けしてクチナシ赤色素組成物の濃縮液を得た。
【0131】
(2)「耐光性試験」
上記調製した色素組成物を色価E
10%1cm値50.5換算で0.05質量%にて配合して、実施例1に記載の方法と同様にしてペットボトル飲料を調製した。比較試料である市販のクチナシ赤色素製品を添加したペットボトル飲料も実施例1と同様にして調製した。
各ペットボトル飲料に対して蛍光灯照射機を用いて白色蛍光灯10000Luxを10℃にて10日間照射して耐光性に関する安定性試験を行った。安定性試験の手順及び操作は実施例1に記載の方法と同様にして行った。
【0132】
(3)「色素残存率及び色調変化の評価」
上記安定性試験前及び試験後の飲料検液について、安定試験前後を比較した時の色素残存率を実施例1に記載の方法と同様にして算出した。結果を表4及び
図5に示した。
また、安定試験前と安定試験後を比較した色調変化を示す色差ΔE値を実施例1に記載の方法と同様にして算出して評価した。結果を表5及び
図6に示した。またペットボトル飲料を目視観察した結果を
図7に示した。
【0133】
その結果、コハク酸添加反応物であるクチナシ赤色素組成物を添加した飲料(試料2−2)では、10000Luxの蛍光灯連続照射環境下に10日間晒された場合であっても、市販のクチナシ赤色素組成物を添加した飲料(試料2−1:コハク酸未添加反応物)と比較して色素残存率が大幅に高い値を示した(
図5)。また、色調変化も大幅に低減されることが確認された(
図6及び7)。
ここで試料2−2に係るクチナシ赤色素組成物は、色素組成物の製造工程で行った膜処理により反応時に添加した残余コハク酸を除去していることから、試料2−2が備える耐光性作用は、色素組成物中にコハク酸が共存することによって発揮される現象ではないことが確認された。即ち、本発明に係るクチナシ赤色素組成物の耐光性は、製造されたクチナシ赤色素組成物を構成する色素化合物自体の特性によって発揮される現象であることが確認された。
また、試料2−2に係るクチナシ赤色素の製造時に添加したコハク酸の添加量は、原料であるイリドイド化合物の総モル当量に対して10モル当量の多量添加であったが、このような多量添加条件にて赤色発色を行った場合でも、製造されたクチナシ赤色素組成物に耐光性が付与されることが確認された。
【0134】
以上の結果から、本発明に係るコハク酸添加反応物であるクチナシ赤色素組成物が優れた耐光性を備えた色素組成物であることが確認された。これにより、本発明に係るクチナシ赤色素組成物は、従来技術のクチナシ赤色素では劣化しやすい長時間の光照射条件下においても退色及び変色しにくい性質を備えたクチナシ赤色素組成物であることが確認された。
【0135】
【表4】
【0136】
【表5】
【0137】
[実施例3]『クチナシ赤色素組成物の製造及び耐光性試験』
クチナシ赤色素組成物の製造工程においてリンゴ酸を添加した場合において、その製造されたクチナシ赤色素組成物への光安定性に与える影響を検討した。
【0138】
(1)「クチナシ赤色素組成物の調製」
クチナシ赤色素組成物の製造工程において、赤色発色時に添加する有機酸としてリンゴ酸をGP対8モル当量添加して、実施例1に記載の方法と同様にしてクチナシ赤色素組成物溶液(NO.2フィルター濾液)を調製した。ここで、赤色発色はリンゴ酸添加後にpHを4.5に調整して行った。また、赤色発色時の液量スケールは500g液重に調製して行った。
得られた色素組成物溶液について実施例2に記載の方法と同様にして逆浸透膜を用いた膜処理を行ってMv2500〜3500より低分子の画分を除去し、減圧濃縮、色価調整、加熱殺菌、試薬瓶への分注を行ってクチナシ赤色素組成物の濃縮液を得た。
【0139】
(2)「耐光性試験」
上記調製した色素組成物を色価E
10%1cm値50.5換算で0.05質量%にて配合して、実施例1に記載の方法と同様にしてペットボトル飲料を調製した。ここで比較試料として、市販のクチナシ赤色素製品を添加したペットボトル飲料を実施例1と同様にして調製した。ここで比較試料に供した市販のクチナシ赤色素製品はリンゴ酸を添加せずに赤色発色を行って製造された製品である。また別の比較試料として、先行技術として耐光性向上作用が報告されているタウリン添加反応物のクチナシ赤色素組成物を特許第4605824号明細書に記載の方法に準じて別途に調製し、当該クチナシ赤色素組成物を添加したペットボトル飲料を同様にして調製した。
各ペットボトル飲料に対して蛍光灯照射機を用いて白色蛍光灯10000Luxを10℃にて10日間照射して耐光性に関する安定性試験を行った。安定性試験の手順及び操作は実施例1に記載の方法と同様にして行った。
【0140】
(3)「色素残存率及び色調変化の評価」
上記安定性試験前及び試験後の飲料検液について、安定試験前後を比較した時の色素残存率を実施例1に記載の方法と同様にして算出した。結果を表6及び
図8に示した。
また、安定試験前と安定試験後を比較した色調変化を示す色差ΔE値を実施例1に記載の方法と同様にして算出して評価した。結果を表7及び
図9に示した。またペットボトル飲料を目視観察した結果を
図10に示した。
【0141】
その結果、リンゴ酸添加反応物であるクチナシ赤色素組成物を添加した飲料(試料3−3)では、10000Luxの蛍光灯連続照射環境下に10日間晒された場合であっても、市販のクチナシ赤色素組成物を添加した飲料(試料3−1:リンゴ酸未添加反応物)と比較して色素残存率が大幅に高い値を示した(
図8)。また、色調変化も大幅に低減されることが確認された(
図9及び10)。当該試料3−3に係る色素残存率及び色調変化の抑制度合は、先行技術として耐光性向上作用が報告されているタウリン添加反応物のクチナシ赤色素組成物(試料3−2)の効果よりも明確に高い値を示した。
【0142】
以上の結果から、クチナシ赤色素組成物の製造工程においてコハク酸と類似する構造を備えたジカルボン酸の一種のリンゴ酸を添加して一連の反応工程を行った場合であっても、コハク酸と同様に耐光性に優れたクチナシ赤色素組成物を調製できることが確認された。また、その効果は先行技術であるタウリン添加による耐光性付与技術よりも優れた効果を奏することが確認された。
【0143】
【表6】
【0144】
【表7】
【0145】
[実施例4]『発色特性に関する評価』
クチナシ赤色素組成物の製造工程でコハク酸を添加した場合において、その製造されたクチナシ赤色素組成物への発色特性に与える影響を検討した。
【0146】
(1)「クチナシ赤色素組成物の調製」
クチナシ赤色素組成物の製造工程において、赤色発色時に添加するコハク酸を表8に記載の通りに添加して、実施例1に記載の方法と同様にしてクチナシ赤色素組成物溶液(NO.2フィルター濾液)を調製した。ここで、赤色発色はコハク酸添加後にpHを4.5に調整して行った。また、赤色発色時の液量スケールは50g液重に調製して行った。
【0147】
(2)「発色特性評価」
上記調製した色素組成物溶液について発色特性評価を行った。色調評価に用いる測定値は、McIlvaine緩衝液pH5.0を用いて色価E
10%1cm=0.05となる検液を調製して分光光度計(V-560、日本分光社製、測定セルの光路長1cm)を用いて測定波長380〜780nmにおける透過光測色を行い、Hunter Lab表色系の3刺激値(L値、a値、及びb値)を測定した。次いで、当該測定値を用いて明度、彩度、及び色相を評価した。「明度」としては上記測定したL値の値をそのまま用いて評価した。「彩度」は上記式(11)を用いてCHROMA値を算出して評価した。「色相」はHUE値を算出して評価した。結果を表8、
図11、及び
図12に示した。また試薬瓶を目視観察した結果を
図13に示した。
【0148】
その結果、色素製造の赤色発色時に用いるコハク酸の添加量に相関して、明度を示すL値及び彩度を示すCHROMA値が高い値を示した。特にコハク酸の添加量と明確な相関が確認されたのはCHROMA値で、コハク酸添加量が多いほど鮮やかに明色化したクチナシ赤色素が調製されていることが示された(
図11)。詳しくは、コハク酸の添加量とCHROMA値の上昇率との相関について、GP対2モル当量(試料4−1)とGP対5モル当量(試料4−2)の間で大幅なCHROMA値の増加が確認された。また、GP対5モル当量(試料4−2)とGP対10モル当量(試料4−4)の間でも緩やかな上昇相関があることが確認された。
また、色相を示すa値及びb値は、コハク酸添加量と相関を示し、コハク酸添加量の増加と伴に赤色及び青色側にシフトする傾向を示した(
図12)。特に赤色側へのシフトが顕著であった。詳しくは、GP対2モル当量(試料4−1)とGP対5モル当量(試料4−2)の間で大幅なa値の増加(赤色側へのシフト)が確認された。また、GP対5モル当量(試料4−2)とGP対10モル当量(試料4−4)の間でも緩やかな上昇相関があることが確認された。b値の減少(青色側へのシフト)は、GP対2モル当量(試料4−1)とGP対10モル当量(試料4−4)の間で緩やかな減少相関が確認された。
また、上記した発色特性は、HUE値及び充填試薬瓶の目視観察の結果からも確認された(
図13)。
【0149】
以上の結果から、クチナシ赤色素組成物の製造工程においてコハク酸の添加量を増加させることによって、赤紫色に明色化したクチナシ赤色素組成物が製造できることが示された。特にコハク酸添加量を増加することによって、彩度が向上した鮮やかな赤紫色調を呈するクチナシ赤色素組成物が製造できることが示された。
ここでGP対5モル当量以上のコハク酸添加によって達成されるクチナシ赤色素組成物の色調は鮮やかな赤紫色調であり、特にGP対7モル当量以上コハク酸添加によって達成される色調は極めて鮮やかな赤紫色調を呈した。
なお、本実施例の製造工程においては、実施例1と同様に赤色発色を促す加熱処理前の溶液をpH約4.5に再調整していることから、コハク酸の添加によるクチナシ赤色素の明色化作用がpHに起因する作用ではないことが確認された。
【0150】
【表8】
【0151】
[実施例5]『クエン酸添加反応物との発色特性比較』
コハク酸添加反応物であるクチナシ赤色素組成物について、先行技術であるクエン酸添加反応物であるクチナシ赤色素組成物との発色特性の比較を行った。
【0152】
(1)「クチナシ赤色素組成物の調製」
クチナシ赤色素組成物の製造工程において、赤色発色時に添加する有機酸としてはコハク酸をGP対10モル当量添加して、実施例1に記載の方法と同様にしてクチナシ赤色素組成物溶液(NO.2フィルター濾液)を調製した。比較試料として、赤色発色時に添加する有機酸をGP対4.3モル当量(pH約4.5になる量)添加して同様にしてクチナシ赤色素組成物溶液(NO.2フィルター濾液)を調製した。ここで、赤色発色は有機酸添加後にpHを4.5に再調整して行った。また、赤色発色時の液量スケールは500g液重に調製して行った。
得られた色素組成物溶液について実施例2に記載の方法と同様にして逆浸透膜を用いた膜処理を行ってMv2500〜3500より低分子の画分を除去し、減圧濃縮、色価調整、加熱殺菌、試薬瓶への分注を行ってクチナシ赤色素組成物の濃縮液を得た。
【0153】
(2)「発色特性評価」
上記調製した色素組成物溶液について発色特性評価を行った。明度、彩度、及び色相を示す値の算出は、実施例4に記載の方法と同様にしてHunter Lab表色系の3刺激値を測定して算出した。調製した試料どうしの色調の違いを示す色差ΔE値は、試料間どうしの値を比較した以外は実施例1に記載の方法と同様にして式(12)を用いて算出した。結果を表9、
図14、及び
図15に示した。
【0154】
その結果、コハク酸添加反応物であるクチナシ赤色素組成物(試料5−2)は、先行技術であるクエン酸添加反応物であるクチナシ赤色素組成物(試料5−1)と比較して、明度を示すL値及び彩度を示すCHROMA値が高い値を示した。特には彩度を示すCHROMA値が大幅に高い値であった(
図14)。また、色相を示すa値及びb値は赤色及び青色側にシフトする傾向を示し、特に赤色側へのシフトが顕著であった(
図15)。
ここで本実施例に係るクチナシ赤色素組成物は、色素組成物の製造工程で行った膜処理により反応時に添加した残余コハク酸を除去していることから、試料5−2が備える発色特性は色素組成物中にコハク酸が共存することによって発揮される現象ではないことが確認された。即ち、本発明に係るクチナシ赤色素組成物の発色特性は、製造されたクチナシ赤色素組成物を構成する色素化合物自体の特性によって発揮される現象であることが確認された。
【0155】
以上の結果から、クチナシ赤色素組成物製造工程の赤色発色にてコハク酸を添加することによって、先行技術であるクエン酸を添加して得た赤色素組成物とは全く異なる鮮明な赤紫色調を呈する色素組成物が調製されることが示された。
【0156】
【表9】
【0157】
[実施例6]『耐熱性に関する評価』
上記実施例にて調製したクチナシ赤色素組成物について色素化合物の熱安定性に関する評価を行った。
【0158】
(1)「クチナシ赤色素組成物の準備」
実施例2及び3にて調製した膜処理後濃縮液であるクチナシ赤色素組成物を下記試験に供した。
【0159】
(2)「耐熱性試験」
上記調製した色素組成物を色価E
10%1cm値50.5換算で0.05質量%にて配合して、実施例1に記載の方法と同様にしてペットボトル飲料を調製した。また、比較試料として市販品又は先行技術に係る色素組成物を添加したペットボトル飲料を実施例3に記載の方法と同様にして調製した。各ペットボトル飲料に対して50℃の高温条件の暗所に10日間保管して耐熱性に関する安定性試験を行った。
【0160】
(3)「色素残存率及び色調変化の評価」
上記安定性試験前及び試験後の飲料検液について、安定試験前後を比較した時の色素残存率を実施例1に記載の方法と同様にして算出した。結果を表10に示した。
また、安定試験前と安定試験後を比較した色調変化を示す色差ΔE値を実施例1に記載の方法と同様にして算出して評価した。結果を表11に示した。
【0161】
その結果、コハク酸添加反応物であるクチナシ赤色素組成物を添加した飲料(試料6−3)及びリンゴ酸添加反応物であるクチナシ赤色素組成物を添加した飲料(試料6−4)では、熱虐待に相当する50℃の保管環境下に5日間晒された場合であっても、約82〜86%もの色素が安定維持され、市販のクチナシ赤色素組成物を添加した飲料(試料6−1)や先行技術であるタウリン添加反応物のクチナシ赤色素組成物(試料6−2)と比較して高い値を示した。更に、これらのクチナシ赤色素組成物は、10日後でも約78〜84%もの色素が安定維持されていた。また、試験後の色調変化を示すΔE値も比較品である試料6−1や試料6−2より低い値を示した。
【0162】
以上の結果から、コハク酸又はリンゴ酸を反応時に添加して調製したクチナシ赤色素化合物は、市販のクチナシ赤色素と同等以上の熱安定性を有する色素化合物であることが確認された。
【0163】
【表10】
【0164】
【表11】