特許第6969973号(P6969973)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6969973損傷検知機能付繊維強化プラスチック線状体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6969973
(24)【登録日】2021年11月1日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】損傷検知機能付繊維強化プラスチック線状体
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20211111BHJP
   D07B 1/16 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   C08J5/04
   D07B1/16
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-202811(P2017-202811)
(22)【出願日】2017年10月19日
(65)【公開番号】特開2019-73672(P2019-73672A)
(43)【公開日】2019年5月16日
【審査請求日】2020年4月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003528
【氏名又は名称】東京製綱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001830
【氏名又は名称】東京UIT国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小出 正治
(72)【発明者】
【氏名】眞鍋 大輔
(72)【発明者】
【氏名】木村 宜正
【審査官】 芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−051384(JP,A)
【文献】 特開2004−300609(JP,A)
【文献】 特開2002−173881(JP,A)
【文献】 特開平04−161835(JP,A)
【文献】 特開平10−267866(JP,A)
【文献】 特開2008−081607(JP,A)
【文献】 特開2019−073839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D07B
B29B 11/16,15/08−15/14
C08J 5/04−5/10,5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂が含侵された複数の繊維トウが束ねられており,
隣接する繊維トウ間に形成される谷部が,0.5〜10%の破断伸びを持つ塗料によって長手方向に連続して覆われている,
損傷検知機能付繊維強化プラスチック線状体。
【請求項2】
束ねられた複数の繊維トウの外周面全体が上記塗料によって覆われている,
請求項に記載の損傷検知機能付繊維強化プラスチック線状体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,繊維強化プラスチック線状体,特に損傷検知機能付の繊維強化プラスチック線状体に関する。
【背景技術】
【0002】
長手方向に連続する繊維および上記繊維に含侵された樹脂(プラスチック)の複合材によって構成されるFRP(Fiber Reinforced Plastics )(繊維強化プラスチック)を用いて作製されたケーブル(ロープ,ロッド)は,鋼材を用いて作成されたものに比べて軽量で,高耐食性,非磁性などの優れた特性を持つ。炭素繊維,ガラス繊維,ボロン繊維,アラミド繊維,ポリエチレン繊維,PBO(polyp-phenylenebenzobisoxazole)繊維,その他の繊維(合成繊維)がFRPに使用する繊維の素材として,エポキシ樹脂,ポリアミド樹脂,フェノール樹脂その他の樹脂がFRPに使用する樹脂の素材として,それぞれ用いられる。FRPケーブルは,たとえばプレストレストコンクリートの緊張材といった土木用途,電線(送電線),光ファイバーケーブル,海底ケーブル等の補強材用途に適している。
【0003】
一般にFRPケーブルは長手方向の高い引張強度に対してこれに直交する強度はさほど高くはない。たとえば外力(側圧,面せん断力)が加わると,局所的な損傷(たとえば繊維の断線)が生じ,FRPケーブルの引張強度が低下することがある。
【0004】
特許文献1は音波(超音波)を利用したFRPの損傷評価装置を記載する。FRP試験片に損傷があると試験片を通る音波(超音波)の特に低周波帯域の振幅が変化することを利用して試験片の損傷の有無が評価される。しかしながら,特許文献1に記載の損傷評価装置は試験片に引張負荷を加えたり除いたりすることを繰り返しながら検査を行うので,施工現場や保管現場におけるFRPケーブルの損傷評価には向いていない。また,試験片の長さ(超音波発信源から超音波受信センサまでの距離)がかなり短いので,長尺のFRPケーブルの全長の損傷評価を一度に行うこともできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6165908号公報
【発明の開示】
【0006】
この発明は,特別な装置を必要とすることなく,施工現場や保管現場において繊維強化プラスチック線状体の損傷を見つけることができるようにすることを目的とする。
【0007】
この発明はまた,繊維強化プラスチック線状体の引張強度が低下しているまたはその可能性のあることを,外観上分かりやすく示すことを目的とする。
【0008】
第1の発明による損傷検知機能付繊維強化プラスチック線状体は,樹脂が含侵された複数の繊維トウ(繊維ストランド)を束ねることによって構成されるものであって,隣接する繊維トウ間に形成される谷部が 0.5〜10%の破断伸びを持つ塗料によって長手方向に連続して覆われていることを特徴とする。
【0009】
損傷検知機能付の繊維強化プラスチック線状体は,樹脂(熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂)が含侵された複数の繊維トウを撚り合わせて束ねた撚り線タイプであってもよいし,樹脂が含侵された複数の繊維トウを編んだ組紐タイプであってもよい。樹脂が含侵された複数の繊維トウを撚り合わせることなく束ねた平行線タイプであってもよい。いずれにしてもこの発明による損傷検知機能付の繊維強化プラスチック線状体は,隣接する繊維トウ間に形成される谷部をその表面に有している。
【0010】
線条体は複数の繊維トウを束ねたものであるので,隣接する繊維トウ間に形成される谷部が線条体の長手方向にのび,この長手方向にのびる谷部が塗料によって連続して覆われている。塗料によって谷部を完全に埋めてもよいし,谷部の高さの途中までを塗料によって埋めてもよい。さらに谷部の底に空洞があってもよい(谷部を塗料膜によって覆う態様)。いずれにしても隣接する繊維トウ間に形成される谷部が,塗料によって長手方向に連続して覆われている。
【0011】
第1の発明によると,隣接する繊維トウ間に形成される谷部が 0.5〜10%の破断伸びを持つ塗料によって覆われているので,上記塗料の破断伸びを超える伸びを塗料に生じさせる外力(側圧や面せん断力)(典型的には強い曲げや衝撃)が線条体に加わると,塗料がひび割れる(クラックが発生する)。すなわち,隣接する繊維トウ間の谷部を覆っている塗料にひび割れが発生していることが確認されれば,その線条体は損傷を受けたものであることが分かる。引張強度の低下したまたはその可能性がある線条体を誤って使用してしまうことを未然に防ぐことができる。
【0012】
0.5%程度の破断伸びを塗料が持てば,たとえばリールやドラムに巻き回すために線条体が緩やかに曲げられても,それによって谷部を覆う塗料にひび割れは発生しない。10%程度の破断伸びを塗料が持てば,引張強度が低下する程度の外力が線条体に加わったときに塗料にひび割れを生じさせることができる。谷部を覆う塗料に発生するひび割れを,線条体に損傷(引張強度の低下)がある事実またはその可能性を示す目印とすることができる。
【0013】
塗料は,隣接する繊維トウ間の谷部に設けられれば十分であるが,束ねられた複数の繊維トウの外周面全体を上記塗料によって覆うようにしてもよい。
【0014】
この発明による繊維強化プラスチック線状体は,次のように規定することもできる。すなわち,第2の発明による損傷検知機能付繊維強化プラスチック線状体は,樹脂が含侵された複数の繊維トウを束ねることによって構成されるものであって,隣接する繊維トウ間に形成される谷部が,隣接する繊維トウ間に所定の大きさ以上の位置ずれが作用したときにひび割れが入る塗料によって,長手方向に連続して覆われていることを特徴とする。
【0015】
線条体に外力が加わると,隣接する繊維トウ間の間隔が拡がったり,隣接する繊維トウ同士の長手方向の位置がずれたりする。所定の大きさの位置ずれ(隣接する繊維トウ間の拡がりや長手方向の位置ずれ)が作用することで,隣接する繊維トウ間の谷部の塗料にひび割れが発生する。ひび割れによってその線条体は損傷を受けたものであることが分かる。引張強度が低下しているまたはその可能性のあることを把握することができ,そのような線条体を誤って使用してしまうことを未然に防ぐことができる。
【0016】
さらにこの発明による繊維強化プラスチック線条体は次のように規定してもよい。すなわち,第3の発明による損傷検知機能付繊維強化プラスチック線状体は,樹脂が含侵された複数の繊維トウを束ねることによって構成されるものであって,隣接する繊維トウ間に形成される谷部が,上記繊維強化プラスチック線状体に所定の角度以上の曲げが加えられたときにひび割れが入る塗料によって,長手方向に連続して覆われていることを特徴とする。線条体が強く曲げられたたとえば40°〜50°以上の角度に曲げられたときに塗料に生じるひび割れによって,線条体の引張強度の低下の可能性を把握することができる。
【0017】
塗料が持つ破断伸びによって塗料にひび割れが発生するときの外力の大きさを異ならせる(調整する)ことができる。たとえば,繊維強化プラスチック線状体の周方向に並ぶ複数の谷部のそれぞれを,破断伸びの異なる複数種類の塗料によって埋めてもよい。線状体に所定の大きさ以上の外力が加わった事実のみならず,線条体に加わった外力の大きさを,いずれの塗料にひび割れが生じているかに応じて確認することができる。谷部の深さ方向に破断伸びの異なる複数種類の塗料を複数層に設けてもよい。たとえば,谷部の深い箇所から浅い箇所に向けて破断伸びが大きい順番に複数の塗装を設けておくと,ひび割れの深さによって線条体に加わった外力の大きさを確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】塗料被覆炭素繊維ケーブルの外観を最外周の塗料の一部を破断して示す。
図2図1のII−II線沿う拡大断面図である。
図3】程度の異なる曲げを加えた炭素繊維ケーブルの引張破断荷重の試験結果を示す。
図4】塗料にひび割れが発生している状態を示す写真である。
【実施例】
【0019】
図1は塗料被覆炭素繊維ケーブルの外観を示している。図2図1のII−II線に沿う炭素繊維ケーブルの拡大断面図である。図2において,後述する被覆材5の厚さがかなり強調されて描かれている。
【0020】
塗料被覆炭素繊維ケーブル1は炭素繊維ケーブル10の外周面を塗料6によって覆ったものである。この実施例の炭素繊維ケーブル10は,中心に配置された1本の炭素繊維トウ2(心線,心ストランド)と,その周囲に撚り合わされた6本の炭素繊維トウ2(側線,側ストランド)の,合計7本の炭素繊維トウ2から構成されている(1×7構造)。断面からみて,炭素繊維ケーブル10および炭素繊維トウ2はいずれもほぼ円形の形状を有しており,炭素繊維ケーブル10はたとえば5mm〜20mm程度の直径を持つ。炭素繊維ケーブル10の外層の6本の炭素繊維トウ2は炭素繊維ケーブル10の長手方向にらせん状にのびており,隣接する炭素繊維トウ2の間にはらせん状にのびる谷部2Aが形成されている。
【0021】
炭素繊維ケーブル10を構成する炭素繊維トウ2は,いずれも熱硬化性樹脂(たとえばエポキシ樹脂)または熱可塑性樹脂(たとえばポリアミド)4を含浸させた多数本たとえば数万本の長尺の炭素繊維(炭素繊維製の素線)3を断面円形に束ねたもので,炭素繊維ケーブル10の全体で数十万本程度の炭素繊維3が含まれる。炭素繊維3のそれぞれは非常に細く,たとえば5μm〜7μmの直径を持つ。炭素繊維ケーブル10および炭素繊維トウ2は,炭素繊維強化プラスチック(CFRP)(Carbon Fiber Reinforced Plastics)製のものと言うこともできる。以下,炭素繊維3に含侵される熱硬化性または熱可塑性樹脂4を,単に樹脂4と呼ぶ。
【0022】
炭素繊維トウ2のそれぞれの外周に被覆材5が巻き付けられており,炭素繊維トウ2を構成する多数本の炭素繊維3の束は被覆材5によってその周囲が拘束されている。被覆材5はたとえば樹脂4が完全に硬化していない状態の炭素繊維トウ2に繊維糸を緊密に巻き付けることによって形成され,この場合には被覆材5にも樹脂4が含侵する(染み込む)。繊維糸は無機繊維糸であっても有機繊維糸であってもよい。もっとも被覆材5に樹脂4を含侵させる必要は必ずしもない。
【0023】
炭素繊維トウ2および被覆材5に含侵されている樹脂4は,熱処理(樹脂4が熱硬化性樹脂の場合)または冷却処理(樹脂4が熱可塑性樹脂の場合)を経ることで硬化される。
【0024】
炭素繊維ケーブル10の外周面の全体を被覆する塗料6には,たとえばエポキシ樹脂を主成分とする白色塗料を用いることができる。
【0025】
炭素繊維ケーブル10は,長手方向の高い引張強度と比較して,これと直交する方向から加わる外力に対する強度はさほど高くはない。たとえば,施工現場や保管現場において炭素繊維ケーブル10が不用意に蹴られたり,踏まれたりする,または大きな曲げ角度で炭素繊維ケーブル10が曲げられると,その箇所の炭素繊維ケーブル10(炭素繊維トウ2)が損傷する(典型的には断線する)ことがあり,炭素繊維ケーブル10が損傷することでその引張強度は低下する。
【0026】
炭素繊維ケーブル10は樹脂4が含侵された多数本の炭素繊維3を束ねた炭素繊維トウ2を複数本撚り合わせることによって構成されているので,炭素繊維ケーブル10が真っ二つ完全に分断される(ぽっきりと折れる)ことはほとんどなく,炭素繊維ケーブル10の損傷の有無を外観から判別するのは簡単ではない。
【0027】
図3は,程度の異なる曲げを加えた図1および図2に示す構造を備える直径15.2mmの炭素繊維ケーブル10の引張破断荷重の試験結果(複数の試験結果の平均)を示している。曲げが加えられた炭素繊維ケーブル10は隣接する炭素繊維トウ2間に位置ずれ(隣接する繊維トウ2間の間隔の拡がりや隣接する繊維トウ2同士の長手方向の位置ずれ)が作用し,曲げ角度が大きくなるほど位置ずれは大きくなる。
【0028】
2,200mmの全長を持つ炭素繊維ケーブルを用意し,その中心を治具を用いて固定する。治具の端部から300mm離れた箇所を手で掴んで一方向に力を加えることで,半長の1,100mmの長さの炭素繊維ケーブルに曲げを加えた。曲げを加えることで移動する炭素繊維ケーブルの端部から曲げを加える前の炭素繊維ケーブルのライン位置に至る垂線の長さxを計測する。曲げ角度は,曲げが加えられる炭素繊維ケーブルの長さ( 1,100mm)と上記垂線の長さxとを用いて,逆正弦によって,すなわち θ=arcsin(x/1,100)によって算出した。
【0029】
50°程度までの曲げ角度の曲げを加えるにとどまれば,炭素繊維ケーブル10の引張破断荷重の低下はない。曲げ角度が50°を超える(60°近く)と,炭素繊維ケーブル10の引張破断荷重の低下が生じ始めている。また,50°を超えて曲げ角度が大きくなればなるほど炭素繊維ケーブル10の引張破断荷重は大きく低下している。すなわち,曲げ角度が50°を超えると炭素繊維ケーブル10に損傷が発生し始め,損傷のない炭素繊維ケーブル10の引張強度を保つことができなくなる。
【0030】
炭素繊維ケーブル10の損傷の有無を外観から判別するために塗料6が用いられる。
【0031】
図4の写真は,炭素繊維ケーブル10の表面全体を1%の破断伸びを持つ塗料6によって被覆した塗料被覆炭素繊維ケーブル1に50°の曲げを加えたときの外観を示している。塗料6,特に隣り合う炭素繊維トウ2の間の谷部2Aを覆っている塗料6に複数のひび割れ6Aが発生していることが確認される。他方,谷部2Aではない炭素繊維トウ2の表面を覆っている塗料6にはひび割れ6Aが発生していないことも確認される。
【0032】
1%の破断伸びを有する塗料6を被覆した塗料被覆炭素繊維ケーブル1では,曲げ角度が40°を超えたあたりで谷部2Aを覆っている塗料6にひび割れ6Aが発生し始め,曲げ角度50°を超えると,図4に示すように多数のひび割れ6Aが目立つようになる。すなわち,40°を超える曲げが加えられたまたはそれに相当する外力(側圧,面せん断力)が加えられた塗料被覆炭素繊維ケーブル1であることを,塗料6に発生しているひび割れ6Aによって視覚的に把握することができる。
【0033】
塗料被覆炭素繊維ケーブル1は,搬送のためにリールやドラムに巻き回され,このときに緩やかに曲げられるが,リールやドラムに巻き回されたときの曲げ角度は数度から十数度程度の曲げ角度に相当し,この程度の曲げから生じる外力では炭素繊維ケーブル10の引張強度は低下せず(図3参照),塗料6にひび割れ6Aは発生しない。すなわち,谷部2Aを覆う塗料6に発生するひび割れ6Aを,引張強度の低下が発生し得る程度の大きさの外力が塗料被覆炭素繊維ケーブル1に加わった事実またはその可能性を示す目印とすることができる。
【0034】
破断伸びの異なる塗料6を用いることによって,ひび割れ6Aが発生しはじめる曲げ角度(外力の大きさ)を調整することができる。たとえばより小さい破断伸び(たとえば 0.5%)を有する塗料6であれば,40°よりも小さい曲げ角度でひび割れ6Aを発生させることができるし,より大きい破断伸び(たとえば10%)を有する塗料6であれば,40°よりも大きな曲げ角度に至ったときにひび割れ6Aを発生させることができる。 0.5〜10%の範囲の破断伸びを持つ塗料6を用いれば,リールやドラムに巻き回すために緩やかに曲げられたときに塗料6にひび割れ6Aを発生させずに,かつ引張強度が低下した可能性があるときに塗料6にひび割れ6Aを発生させることが可能である。
【0035】
ひび割れ6Aが発生している塗料被覆炭素繊維ケーブル1は引張強度が低下しているまたはその可能性のある塗料被覆炭素繊維ケーブル1である。引張強度が低下しているまたはその可能性のあることが,ひび割れ6Aによって外観上分かりやすく示されるので,引張強度の低下した塗料被覆炭素繊維ケーブル1を誤って使用してしまうことを未然に防ぐことができる。ひび割れ6Aの有無に着目した外観検査であるから,長尺の塗料被覆炭素繊維ケーブル1を,必要な長さにわたって,さらには全長にわたって検査することができる。また,引張強度の低下検知(損傷検知)のための特別な装置は一切必要とされないので,施工現場や保管現場において塗料被覆炭素繊維ケーブル1の損傷チェックを効率的に行うことができる。
【0036】
引張強度の低下が発生し得る程度の外力が塗料被覆炭素繊維ケーブル1に加わったときに谷部2Aの塗料6に生じるひび割れ6Aであっても,その外力が塗料被覆炭素繊維ケーブル1に加わらなくなると,ひび割れ6Aは目立たなくなる。しかしながら,一度発生したひび割れ6Aは塗料6に残るので,たとえば塗料被覆炭素繊維ケーブル1を緩く曲げるだけで,ひび割れ6Aの存在を容易に確認する(目立たせる)ことができる。
【0037】
上述したように,ひび割れ6Aは,炭素繊維ケーブル10の表面に形成されるらせん状の谷部2Aを覆っている塗料6に発生するので,炭素繊維ケーブル10の全体を塗料6によって覆う必要は必ずしもなく,谷部2Aに沿って,谷部2Aのみを塗料6によって覆うようにしてもよい。もっとも,塗料6の塗布のやり易さやひび割れ6Aをより目立たせることを考慮すれば,谷部2Aのみならず炭素繊維ケーブル10の全体を塗料6によって覆う方がよい。
【0038】
上述した実施例では,炭素繊維トウ2を撚り合わせた撚り線タイプの塗料被覆炭素繊維ケーブル1を説明したが,表面に谷部が形成される構造をもつものであれば撚り線タイプ以外のケーブルにも上述した塗料6を用いた損傷検知は適用することができる。たとえば塗料被覆炭素繊維ケーブルは複数の炭素繊維トウ2を編んだ組紐タイプのものであってもよいし,複数の炭素繊維トウ2を撚り合わせることなく束ねた平行線タイプのものであってもよい。
【0039】
たとえば,炭素繊維ケーブル10の周方向に並ぶ複数の谷部2Aのそれぞれを,破断伸びの異なる塗料6のそれぞれによって覆ってもよい。上述したように塗料6が持つ破断伸び特性によって塗料6にひび割れ6Aが生じるときの外力の大きさを異ならせることができるので,炭素繊維ケーブル10に所定の大きさ以上の外力が加わった事実のみならず,炭素繊維ケーブル10に加わった外力の大きさを,いずれの塗料6にひび割れ6Aが生じているかを確認することで把握することができる。さらに,谷部2Aに破断伸びの異なる複数種類の塗料6を複数層に設けてもよい。たとえば,谷部2Aの深い箇所から浅い箇所に向けて破断伸びが大きい順番に複数の塗料6を設けておくと,ひび割れ6Aの深さによって炭素繊維ケーブル10に加わった外力の大きさを確認することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 塗料被覆炭素繊維ケーブル(損傷検知機能付炭素繊維ケーブル)
2 炭素繊維トウ
2A 谷部
3 炭素繊維(素線)
4 樹脂(熱硬化性樹脂,熱可塑性樹脂)
5 被覆材
6 塗料
6A ひび割れ
10 炭素繊維ケーブル
図1
図2
図3
図4