(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
溶接ワイヤ及び母材間に溶接電圧を印加することにより溶接電流を供給する電源回路と、溶接電圧に係る前記電源回路の設定電圧を周期的に変動させる制御部とを備え、溶接電流の供給によって前記溶接ワイヤの先端部及び母材間にアークを発生させ、該アークにより前記母材に形成される凹状の溶融部分によって囲まれる空間に前記先端部を進入させて前記母材を溶接する消耗電極式のアーク溶接装置であって、
前記電源回路にて印加される溶接電圧を検出する電圧検出部と、
前記電源回路にて供給される溶接電流を検出する電流検出部と
を備え、
前記制御部は、
前記電圧検出部及び前記電流検出部にて検出された溶接電圧及び溶接電流に基づいて、定電圧特性が得られるような溶接電流の電流値を算出し、算出された電流値に基づいて、溶接電流の供給を制御する定電圧制御部と、
前記電流検出部にて検出された溶接電流の電流値と、閾値とを比較する比較部と、
溶接電流の低下時においては定電圧特性からの乖離を一時的に許容することにより所定の下限電流値以上の溶接電流を維持するよう、検出された電流値が閾値未満である場合、前記定電圧制御部にて制御される溶接電流の電流値を前記下限電流値以上に制限する制限部と
を備え、
更に、
前記制限部にて前記電流値が制限されている時間を計時する計時部と、
前記下限電流値を前記制限部に設定する下限電流設定部と
を備え、
前記下限電流設定部は、
前記電流値が制限されている時間が所定時間以上である場合、前記下限電流値を増大させる
アーク溶接装置。
溶接ワイヤ及び母材間に溶接電圧を印加することにより溶接電流を供給する電源回路の設定電圧を周期的に変動させて前記溶接ワイヤの先端部及び母材間にアークを発生させ、前記アークにより前記母材に形成される凹状の溶融部分によって囲まれる空間に前記先端部を進入させて前記母材を溶接する消耗電極式のアーク溶接方法であって、
前記電源回路にて印加及び供給される溶接電圧及び溶接電流を検出し、
検出された溶接電圧及び溶接電流に基づいて、定電圧特性が得られるような溶接電流の電流値を算出し、算出された電流値に基づいて溶接電流の供給を制御し、
検出された溶接電流の電流値と、閾値とを比較し、
溶接電流の低下時においては定電圧特性からの乖離を一時的に許容することにより所定の下限電流値以上の溶接電流を維持するよう、検出された電流値が閾値未満である場合、溶接電流の電流値を前記下限電流値以上に制限し、
前記電流値が制限されている時間を計時し、
前記電流値が制限されている時間が所定時間以上である場合、前記下限電流値を増大させる
アーク溶接方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の方法では磁気吹きを検知するための時間が必要であるため、磁気吹きが起こってからアーク切れ防止制御がはたらくまでに遅れが生じ、効果的に磁気吹きを防止できない場合がある。また、400A以上の大電流溶接では、溶接電流自体が作り出す磁界が大きくなり、400A未満の場合と比較して磁気吹きが発生しやすく、従来の電流制御ではアークの硬直性を十分に維持できない場合がある。特に埋もれアーク溶接においては、アーク力により溶融金属内に空間が形成されるため、アーク長を短くすることが困難である。また過度にアーク電圧を下げて強制的にアーク長を短くしたとしても、アークが非常に深く埋れた状態となり、溶接安定性を担保できず、場合によっては短絡が生じてアークが非常に不安定化する。従って、従来の方法では磁気吹きを効果的に抑制することができない。
【0008】
本発明の目的は、定電圧特性の埋もれアーク溶接において溶接電流が所定の下限電流値を下回らないように溶接制御を行うことにより、埋もれアーク溶接における磁気吹き及びアーク切れの発生を効果的に抑制することができるアーク溶接装置及びアーク溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るアーク溶接装置は、溶接ワイヤ及び母材間に溶接電圧を印加することにより溶接電流を供給する電源回路と、溶接電圧に係る前記電源回路の設定電圧を周期的に変動させる制御部とを備え、溶接電流の供給によって前記溶接ワイヤの先端部及び母材間にアークを発生させ、該アークにより前記母材に形成される凹状の溶融部分によって囲まれる空間に前記先端部を進入させて前記母材を溶接する消耗電極式のアーク溶接装置であって、前記電源回路にて印加される溶接電圧を検出する電圧検出部と、前記電源回路にて供給される溶接電流を検出する電流検出部とを備え、前記制御部は、前記電圧検出部及び前記電流検出部にて検出された溶接電圧及び溶接電流に基づいて、定電圧特性が得られるように溶接電流の供給を制御し、溶接電流の低下時においては定電圧特性からの乖離を一時的に許容することにより所定の下限電流値以上の溶接電流を維持する。
【0010】
本発明にあっては、定電圧特性の埋もれアーク溶接において溶接電圧及び溶接電流が周期的に変動する。当該周期的変動により溶接電流が小さくなると、磁気吹きによるアーク切れが発生し易くなる。そこで、制御部は、定電圧特性が得られように溶接電流の供給を制御し、溶接電流の低下時においては定電圧特性からの乖離を一時的に許容することにより所定の下限電流値以上の溶接電流を維持する。一定の溶接電流を確保することによって、アークの硬直性を維持することができ、埋もれアーク溶接における磁気吹き及びアーク切れの発生を効果的に抑制することができる。また、磁気吹きの発生を検知するための演算時間が不要であり、磁気吹き及びアーク切れの発生を、遅れなく効果的に抑制することができる。
【0011】
本発明に係るアーク溶接装置は、前記制御部は、定電圧特性が得られるような溶接電流の電流値を算出し、算出された電流値に基づいて、溶接電流の供給を制御する定電圧制御部と、前記電流検出部にて検出された溶接電流の電流値と、閾値とを比較する比較部と、検出された電流値が閾値未満である場合、前記定電圧制御部にて制御される溶接電流の電流値を前記下限電流値以上に制限する制限部とを備える。
【0012】
本発明にあっては、制御部は、電流検出部にて検出された溶接電流の電流値が閾値以上である場合、定電圧特性が得られるように溶接電流の供給を制御し、溶接電流の電流値が閾値未満である場合、磁気吹きが発生し易い状態にあるとみなし、溶接電流の電流値を所定の下限電流値以上に制限する。
従って、磁気吹きの予兆に対して遅れなく対応することができ、埋もれアーク溶接における磁気吹き及びアーク切れの発生を効果的に抑制することができる。
【0013】
本発明に係るアーク溶接装置は、前記制御部は、定電圧特性が得られるような溶接電流の電流値を算出し、算出された電流値に基づいて、溶接電流の供給を制御する定電圧制御部と、前記定電圧制御部にて算出された電流値と、閾値とを比較する比較部と、算出された電流値が閾値未満である場合、前記定電圧制御部にて制御される溶接電流の電流値を前記下限電流値以上に制限する制限部とを備える。
【0014】
本発明にあっては、制御部は、定電圧特性が得られるような溶接電流の電流値を算出し、算出された電流値に基づいて、溶接電流の供給を制御する。そして、制御部は、算出された電流値が閾値以上である場合、定電圧特性が得られるように溶接電流の供給を制御し、当該電流値が閾値未満である場合、磁気吹きが発生し易い状態にあるとみなし、溶接電流の電流値を所定の下限電流値以上に制限する。
従って、磁気吹きの予兆をより早期に検知し、埋もれアーク溶接における磁気吹き及びアーク切れの発生をより効果的に抑制することができる。
【0015】
本発明に係るアーク溶接装置は、前記制限部にて前記電流値が制限されている時間を計時する計時部と、前記下限電流値を前記制限部に設定する下限電流設定部とを備え、前記下限電流設定部は、前記電流値が制限されている時間が所定時間以上である場合、前記下限電流値を増大させる。
【0016】
本発明にあっては、溶接電流の電流値が制限されている時間が所定時間以上継続した場合、磁気吹きが発生し易い状態にあると考えられるため、下限電流設定部は下限電流値を増大させる。下限電流値を増大させることによって、アークの硬直性をより強くすることができ、埋もれアーク溶接における磁気吹き及びアーク切れの発生をより効果的に抑制することができる。
【0017】
本発明に係るアーク溶接装置は、溶接電流の平均値は400A以上であり、前記下限電流値は前記平均値の4分の1以上である。
【0018】
本発明にあっては、溶接電流の平均値が400A以上の大電流であるため、溶接電流自体が作り出す磁界が大きくなり、400A未満の場合と比較して磁気吹きが発生し易い。そこで、制御部は、溶接電流が、当該溶接電流の平均値の4分の1を下回らないように制御する。
溶接電流の下限電流値をこのように設定することによって、埋もれアーク溶接における磁気吹き及びアーク切れの発生をより効果的に抑制することができる。
【0019】
本発明に係るアーク溶接方法は、溶接ワイヤ及び母材間に溶接電圧を印加することにより溶接電流を供給する電源回路の設定電圧を周期的に変動させて前記溶接ワイヤの先端部及び母材間にアークを発生させ、前記アークにより前記母材に形成される凹状の溶融部分によって囲まれる空間に前記先端部を進入させて前記母材を溶接する消耗電極式のアーク溶接方法であって、前記電源回路にて印加及び供給される溶接電圧及び溶接電流を検出し、検出された溶接電圧及び溶接電流に基づいて、定電圧特性が得られように溶接電流の供給を制御し、溶接電流の低下時においては定電圧特性からの乖離を一時的に許容することにより所定の下限電流値以上の溶接電流を維持する。
【0020】
本発明にあっては、一定の溶接電流を確保しつつ、アークの硬直性を維持することができ、埋もれアーク溶接における磁気吹き及びアーク切れの発生を効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、定電圧特性の埋もれアーク溶接において溶接電流が所定の下限電流値を下回らないように溶接制御を行うことにより、埋もれアーク溶接における磁気吹き及びアーク切れの発生を効果的に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明をその実施形態を示す図面に基づいて詳述する。
(実施形態1)
図1は本実施形態1に係るアーク溶接装置の一構成を示す模式図である。本実施形態1に係るアーク溶接装置は、埋もれアーク溶接を行う消耗電極式のガスシールドアーク溶接機であり、溶接電源1、トーチ2及びワイヤ送給部3を備える。
【0024】
トーチ2は、銅合金等の導電性材料からなり、母材4の被溶接部へ溶接ワイヤ5を案内すると共に、アーク7(
図3参照)の発生に必要な溶接電流Iを供給する円筒形状のコンタクトチップを有する。コンタクトチップは、その内部を挿通する溶接ワイヤ5に接触し、溶接電流Iを溶接ワイヤ5に供給する。また、トーチ2は、コンタクトチップを囲繞する中空円筒形状をなし、被溶接部へシールドガスを噴射するノズルを有する。シールドガスは、アーク7によって溶融した母材4及び溶接ワイヤ5の酸化を防止するためのものである。シールドガスは、例えば炭酸ガス、炭酸ガス及びアルゴンガスの混合ガス、アルゴン等の不活性ガス等である。
【0025】
溶接ワイヤ5は、例えばソリッドワイヤであり、その直径は0.9mm以上1.6mm以下であり、消耗電極として機能する。溶接ワイヤ5は、例えば、螺旋状に巻かれた状態でペールパックに収容されたパックワイヤ、あるいはワイヤリールに巻回されたリールワイヤである。溶接ワイヤ5の材質は、YGW11、YGW12、YGW15、YGW17、YGW18、YGW19等のソリッドワイヤを用いることができる。ただし、フラックスコアードワイヤやメタルコアードワイヤ、その他の新規のワイヤを溶接ワイヤ5として適用しても良い。
【0026】
ワイヤ送給部3は、溶接ワイヤ5をトーチ2へ送給する送給ローラと、当該送給ローラを回転させるモータとを有する。ワイヤ送給部3は、送給ローラを回転させることによって、ペールパック又はワイヤリールから溶接ワイヤ5を引き出し、引き出された溶接ワイヤ5をトーチ2へ定速で供給する。溶接ワイヤ5の送給速度は、例えば、約5〜100m/分である。なお、かかる溶接ワイヤ5の送給方式は一例であり、特に限定されるものでは無い。
【0027】
溶接電源1は、定電圧特性の電源であり、給電ケーブルを介して、トーチ2のコンタクトチップ及び母材4に接続された電源回路11を備える。電源回路11は、PWM制御された直流を出力する回路であり、溶接ワイヤ5及び母材4間に溶接電圧Vを印加することにより、溶接電流Iを供給する。また溶接電源1は、溶接電流Iの供給を制御する制御部12と、電圧検出部13及び電流検出部14と、溶接ワイヤ5の送給速度を制御する送給速度制御部15とを備える。
【0028】
電圧検出部13は、電源回路11にて溶接ワイヤ5及び母材4間に印加される溶接電圧Vを検出し、検出した電圧値Vdを制御部12へ出力する。
【0029】
電流検出部14は、溶接電源1からトーチ2を介して溶接ワイヤ5へ供給され、アーク7を流れる溶接電流Iを検出し、検出した電流値Idを制御部12へ出力する。
【0030】
制御部12は、出力電圧設定部12a、定電圧制御部12b、差分増幅部12c、下限電流設定部12d、比較部12e及び制限部12fを備える。制御部12を構成する各構成部は、ハードウェアで構成しても良いし、ソフトウェアの機能部として構成しても良い。また、言うまでもなく、一部をハードウェアで構成し、その他の部分をソフトとウェア的に構成しても良い。以下、制御部12は、CPU、ROM、RAM、入出力部等を有するコンピュータであって、制御プログラムを実行するCPUの演算処理によって各構成部をソフトウェア的に実現するものとして説明する。
【0031】
出力電圧設定部12aは、定電圧特性を有する溶接電源1の出力電圧Eを示した出力電圧設定値Erを定電圧制御部12bへ出力する。出力電圧設定部12aは、溶接電源1に設定された溶接電流Iの平均電流設定値、周波数設定値及び振幅設定値に基づいて、目標とする周波数、電流振幅及び平均電流で溶接電流Iを周期的に変動させるための任意波形の出力電圧設定値Erを生成し、生成した出力電圧設定値Erを定電圧制御部12bへ出力する。出力電圧設定値Erは、例えば矩形波状の信号で表される周期的に増減する値である。
上記平均電流設定値は、周期的に変動する溶接電流Iの平均電流を設定するための数値である。本実施形態1に係るアーク溶接方法を実施する場合、平均電流設定値は、300A以上の平均電流、好ましくは平均電流を300A以上1000A以下の平均電流、より好ましくは500A以上800A以下の平均電流である。
上記周波数設定値は、母材4及び溶接ワイヤ5間の溶接電圧V及び溶接電流Iを周期的に変動させる周波数を設定するための数値である。本実施形態1に係るアーク溶接方法を実施する場合、周波数設定値は、10Hz以上1000Hz以下の周波数、好ましくは50Hz以上300Hz以下の周波数、より好ましくは80Hz以上200Hz以下の周波数である。
上記振幅設定値は、周期的に変動する溶接電流Iの振幅を設定するための数値である。本実施形態1に係るアーク溶接方法を実施する場合、振幅設定値は、50A以上の電流振幅、好ましくは、100A以上500A以下の電流振幅、より好ましくは200A以上400A以下の電流振幅である。
【0032】
定電圧制御部12bは、溶接電源1のインダクタンスを電子的に変動させることによって、所定の定電圧特性を実現し、溶接電流Iの供給を制御する。定電圧制御部12bは、出力電圧設定値Erに基づいて、所定の定電圧特性が得られるような溶接電流Iを示す溶接電流制御設定値Ircを算出し、算出された溶接電流制御設定値Ircを、制限部12fを介して差分増幅部12cへ出力する。
【0033】
以下、定電圧制御部12bによるインダクタンスの電子制御について説明する。
溶接電源1の通電経路には、電気抵抗R及びリアクトルLが存在する。電気抵抗Rの抵抗値Rmは、溶接電源1の内部の配線及び外部の給電ケーブル等に起因する固定分の抵抗を含めた電子的に形成される抵抗である。リアクトルLのインダクタンス値Lmは、溶接電源1の内部に設けられたコイル及び給電ケーブルの引き回しに起因する固定分のインダクタンスを含めた電子的に形成されるインダクタンスである。通常、抵抗値Rmは0.01〜0.3Ω、インダクタンス値Lmは20〜500μHである。
【0034】
図1に示す溶接電源1は、電源回路11に電気抵抗R、リアクトルL、並びにトーチ2及び母材4が直列接続された回路と等価であり、トーチ2及び母材4における降下電圧を溶接電圧Vとすると、電源回路11の出力電圧は、下記式を満たす。
E=Rm・i+Lm・di/dt+v・・・(1)
但し、
E:電源回路11の出力電圧
Rm:電気抵抗Rの抵抗値
Lm:リアクトルLのインダクタンス値
i:溶接電流Iの値
v:溶接電圧Vの値
t:時間
【0035】
上記式(1)を整理すると、下記式(2)となる。
di/dt=(E−v−Rm・i)/Lm・・・(2)
【0036】
上記式(2)の両辺を積分すると、下記式(3)となる。
i=∫{(E−v−Rm・i)/Lm}・dt・・・(3)
【0037】
ここで、上記式(3)の左辺の電流値iを、電源回路11の出力を制御するための溶接電流制御設定値(Irc)に、出力電圧Eを、出力電圧設定値(Er)に、右辺の電流値iを、検出された溶接電流Iの電流値(Id)に、電圧値vを、検出された溶接電圧Vの電圧値(Vd)に、抵抗値(Rm)を外部特性傾き設定値(Rr)、インダクタンス値(Lm)を、インダクタンス設定値(Lr)にそれぞれ置換すると、上記式(3)は、下記式(4)で表される。
Irc=∫{(Er−Vd−Rr・Id)/Lr}・dt・・・(4)
但し、
Irc:溶接電流制御設定値
Er:出力電圧設定値
Rr:外部特性傾き設定値
Lr:インダクタンス設定値
Vd:溶接電圧Vの検出値
Id:溶接電流Iの検出値
【0038】
定電圧制御部12bは、入力された電圧値Vd、電流値Id及び出力電圧設定値Erと、溶接電源1に設定された外部特性傾き設定値Rr及びインダクタンス設定値Lrとに基づいて、電流設定値の単位時間当たりの変化量(Er−Vd−Rr・Id)/Lrを算出する。そして定電圧制御部12bは、当該変化量を積分し、積分して得た溶接電流制御設定値Ircを制限部12fへ出力する。溶接電流制御設定値Ircが示す溶接電流Iの設定値は、上記式(4)で表される。
【0039】
下限電流設定部12dは、溶接電流Iの下限を制限することにより、磁気吹きによるアーク切れを防止するための下限電流値Iminを制限部12fへ出力する。下限電流値Iminは、溶接電流Iを所定の下限電流値Imin以上に制限するための設定値である。下限電流値Iminは、溶接電流Iの平均電流の1/4以上が望ましく、好ましくは当該平均電流の1/3、より好ましくは当該平均電流の1/2に設定することが望ましい。
例えば、溶接電流Iの平均電流が600A、振幅が300Aである場合、下限電流値Iminを300Aに設定すると良い。
【0040】
比較部12eは、溶接電流Iを制限すべきか否かを判断するための構成部であり、電流検出部14にて検出された溶接電流Iの電流値Idと、所定の閾値とを比較し、比較結果を示す比較値を制限部12fへ出力する。具体的には、比較部12eは、溶接電流Iの電流値Idが閾値未満である場合、負の値の比較値を制限部12fへ出力し、電流値Idが閾値以上である場合、「0」以上の値を制限部12fへ出力する。
閾値は、少なくとも下限電流値Imin以下の値である。
【0041】
制限部12fは、溶接電流Iの下限を制限するための構成部であり、溶接電流制御設定値Irc、下限電流値Imin及び比較値が入力される。制限部12fは、「0」以上の比較値が入力されている場合、定電圧制御部12bから出力される溶接電流制御設定値Ircを選択し、選択された溶接電流制御設定値Ircを差分増幅部12cへ出力する。比較値が負の値である場合、下限電流設定部12dから出力される下限電流値Iminを選択し、選択された下限電流値Iminを差分増幅部12cへ出力する。
【0042】
差分増幅部12cは、電流検出部14から出力された電流値Idと、制限部12fから出力された溶接電流制御設定値Irc又は下限電流値Iminとの差分を増幅し、当該差分を示す増幅された差分値ΔIを電源回路11へ出力する。つまり、溶接電流Iの電流値Idが閾値以上である場合、差分増幅部12cは、溶接電流制御設定値Ircから当該電流値Idを減算して得た差分値ΔIを電源回路11へ出力する。溶接電流Iの電流値Idが閾値未満である場合、差分増幅部12cは、下限電流値Iminから電流値Idを減算して得た差分値ΔIを電源回路11へ出力する。
【0043】
電源回路11は、商用交流を交直変換するAC−DCコンバータ、交直変換された直流をスイッチングにより所要の交流に変換するインバータ回路、変換された交流を整流する整流回路等を備える。電源回路11は、差分増幅部12cから出力された差分値ΔIに従って、差分値ΔIが小さくなるようにインバータをPWM制御し、直流電圧を溶接ワイヤ5へ出力する。その結果、母材4及び溶接ワイヤ5間に、周期的に変動する溶接電圧Vが印加され、溶接電流Iが通電する。電源回路11は、差分値ΔIに従って、上記式(4)が満たされるように出力を制御するため、溶接電源1のインダクタンス設定値Lr、外部特性傾き設定値Rrを電子的に生成することができる。つまり、電源回路11は、基本的には定電圧特性を有する電源として振る舞い、溶接電流Iの低下時においては定電圧特性からの乖離を一時的に許容して所定の下限電流値Imin以上の溶接電流Iが維持されるように、溶接電流Iを溶接ワイヤ5に供給することができる。
【0044】
なお、溶接電源1には、図示しない制御通信線を介して外部から出力指示信号が入力されるように構成されており、制御部12は、出力指示信号をトリガにして、電源回路11に溶接電流Iの供給を開始させる。出力指示信号は、例えば、図示しない溶接ロボットから溶接電源1へ出力される。また、手動の溶接機の場合、出力指示信号は、トーチ2側に設けられた手元操作スイッチが操作された際にトーチ2側から溶接電源1へ出力される。
【0045】
図2は本実施形態1に係るアーク溶接方法の手順を示すフローチャート、
図3は本実施形態1に係るアーク溶接方法を示す模式図である。まず、溶接により接合されるべき一対の母材4をアーク溶接装置に配置し、溶接電源1の各種設定を行う(ステップS11)。具体的には、
図3に示すように板状の第1母材41及び第2母材42を用意し、被溶接部である端面41a、42aを突き合わせて、所定の溶接作業位置に配する。なお、必要に応じて、第1母材41及び第2母材42にY形、レ形、I開先等の任意形状の開先を設けても良い。第1及び第2母材41、42は、例えば軟鋼、機械構造用炭素鋼、機械構造用合金鋼等の鋼板であり、厚みは9mm以上30mm以下である。
そして、溶接電源1は、周波数10Hz以上1000Hz以下、平均電流300A以上、電流振幅50A以上の範囲内で溶接電流Iの溶接条件を設定する。
【0046】
なお、溶接電流Iの条件設定は、全て溶接作業者が行っても良いし、溶接電源1が、本実施形態1に係る溶接方法の実施を操作部にて受け付け、全ての条件設定を自動的に行うように構成しても良い。また、溶接電源1が、平均電流等、一部の溶接条件を操作部にて受け付け、受け付けた一部の溶接条件に適合する残りの溶接条件を決定し、条件設定を半自動的に行うように構成しても良い。
【0047】
各種設定が行われた後、溶接電源1は、溶接電流Iの出力開始条件を満たすか否かを判定する(ステップS12)。具体的には、溶接電源1は、溶接の出力指示信号が入力されたか否かを判定する。出力指示信号が入力されておらず、溶接電流Iの出力開始条件を満たさないと判定した場合(ステップS12:NO)、溶接電源1は、出力指示信号の入力待ち状態で待機する。
【0048】
溶接電流Iの出力開始条件を満たすと判定した場合(ステップS12:YES)、溶接電源1の送給速度制御部15は、ワイヤの送給を指示する送給指示信号を、ワイヤ送給部3へ出力し、所定速度で溶接ワイヤ5を送給させる(ステップS13)。溶接ワイヤ5の送給速度は、定速であり、例えば、約5〜100m/分の範囲内で設定される。送給速度は、定電圧制御部12bから出力される溶接電流制御設定値Ircに応じて、送給速度制御部15が送給速度を決定しても良いし、溶接作業者が、ワイヤの送給速度を直接設定するように構成しても良い。
【0049】
次いで、溶接電源1の制御部12は、電圧検出部13及び電流検出部14にて溶接電圧V及び溶接電流Iを検出し(ステップS14)、溶接電流制御設定値Ircを算出する(ステップS15)。
そして、制御部12は、電流検出部14にて検出された溶接電流Iの電流値Idが閾値未満であるか否かを判定する(ステップS16)。溶接電流Iが閾値未満であると判定した場合(ステップS16:YES)、制御部12は、溶接電流制御設定値Ircが所定の下限電流値Iminを下回らないように制限する(ステップS17)。ステップS17の処理を終えた場合、又は検出された溶接電流Iが閾値以上であると判定した場合(ステップS16:NO)、制御部12は、溶接電流制御設定値Irc又は下限電流値Iminと、溶接電流Iの電流値Idの差分値ΔIを電源回路11へ出力し、溶接電流Iの供給を制御する(ステップS18)。電源回路11は、制御部12から出力された差分値ΔIに従って、溶接電流Iが溶接電流制御設定値Irc又は下限電流値Iminに一致するように溶接電源1の出力をPWM制御する。つまり、溶接電源1は、定電圧特性において、溶接電流Iを下限電流値Imin以上に維持しつつ、溶接電流Iが周波数10Hz以上1000Hz未満、平均電流300A以上、電流振幅50A以上で周期的に変動するように、出力電圧設定値Erを周期的に変動させて出力を制御する。
【0050】
次いで、溶接電源1の制御部12は、溶接電流Iの出力を停止するか否かを判定する(ステップS19)。具体的には、溶接電源1は、出力指示信号の入力が継続しているか否かを判定する。出力指示信号の入力が継続しており、溶接電流Iの出力を停止しないと判定した場合(ステップS19:NO)、制御部12は、処理をステップS13へ戻し、溶接電流Iの出力を続ける。溶接電流Iの出力を停止すると判定した場合(ステップS19:YES)、制御部12は、処理をステップS12へ戻す。
【0051】
上記溶接条件及び手順で溶接電流Iを周期的に変動させると、磁気吹き及びアーク切れが発生していない安定状態においては、
図3に示すように、溶接ワイヤ5の先端部5a及び被溶接部間に発生したアーク7の熱によって溶融した母材4及び溶接ワイヤ5の溶融金属からなる凹状の溶融部分6が母材4に形成され、溶接ワイヤ5の先端部5aが埋もれ空間6aに進入する。そして、アーク7の様子を高速度カメラで撮影したところ、
図3左図に示すように、溶接ワイヤ5が埋もれ空間6aに深く進入し、溶接ワイヤ5の先端部5a及び溶融部分6の底部61間にアーク7が発生する第1状態と、溶接ワイヤ5が埋もれ空間6aに浅く進入し、先端部5a及び溶融部分6の側部62間にアーク7が発生する第2状態とを周期的に変動することが確認された。
【0052】
このように、溶接ワイヤ5の先端部5aは、埋もれ空間6aに進入して溶融部分6に囲まれた状態となり、溶接電流Iを周期的に変動させることにより、埋もれ空間6aにおける先端部5aの位置を上下させることができる。
第1状態においては、溶接ワイヤ5の先端部5aが埋もれ空間6aに深く進入し、溶融部分6の底部61に照射されるアーク7によって、深い溶け込みが得られる。
第2状態においては、溶接ワイヤ5の先端部5aが埋もれ空間6aに浅く進入し、溶融部分6の側部62に照射されるアーク7の力によって溶融部分6が支えられるため、埋もれ空間6aは安定した状態で維持される。
従って、溶接電流Iを周期的に変動させることによって埋もれ空間6aを安定的に維持することができる。
【0053】
図4は溶接電流Iを制限することによるアーク切れ防止効果を示す説明図である。
図4A及び
図4Bに示すグラフの横軸は時間、縦軸は溶接電流Iの値を示している。
図4Aは、溶接電流Iの下限を制限しなかった場合の溶接電流Iの時間変化し示しており、
図4Bは、溶接電流Iの下限を制限したときの溶接電流Iの時間変化を示している。
アーク切れ防止の効果を検証するための埋もれアーク溶接の実施条件は以下の通りである。母材4の板厚は19mm、溶接ワイヤ5のワイヤ径は1.4mm、ワイヤ送給速度は22m/分、溶接電流Iの平均値は600A、出力電圧設定値Erは48Vである。溶接電源1は、溶接電流Iを概ね±300Aの振幅、周波数140Hzで周期的に変動させる。母材4はI開先で、ギャップを4mmとり、裏当てに水冷銅板を用いる。
【0054】
上記溶接条件においては、磁気吹きの発生に伴い溶接電流Iが全体的に低下する。
図4Aに示すように、特に低電流領域において溶接電流Iが200A程度まで減少すると、アーク7の硬直性を維持できずにアーク切れに至る場合がある。
図4Aに示す例では、時間=30(ms)のときにアーク7を維持することができず、アーク7切れが発生している。
これに対して、
図4Bに示すように、同溶接条件で溶接電流Iの下限を300Aに制限すると、低電流領域でも十分にアーク7の硬直性が維持され、アーク切れを防止することができる。
【0055】
図5は溶接電流Iを制限することによってアーク切れ発生回数が低減したことを示す棒グラフである。
図5中、左側の2本のバーは溶接電流Iの電流制限を行わなかった場合のアーク切れ発生回数を示し、右側の2本のバーは溶接電流Iの電流制限を行った場合のアーク切れ発生回数を示す。ハッチングを付したバー及び黒塗りバーは、溶接実験を2回行って得られた結果をそれぞれ示している。
図5に示す実験結果の棒グラフから明らかなように、溶接電流Iを制限することによって、アーク切れの発生回数を劇的に低減させることができる。ハッチングを付したバーで示す実験結果では、電流制限を行うことによって、アーク切れ発生回数を89回から15回にまで低減させることに成功している。
【0056】
実施形態1に係るアーク溶接装置及びアーク溶接方法によれば、定電圧特性の埋もれアーク溶接において溶接電流Iが所定の下限電流値Iminを下回らないように溶接制御を行うことにより、埋もれアーク溶接における磁気吹き及びアーク切れの発生を効果的に抑制することができる。
【0057】
また、本実施形態1に係る制御部12は、電流検出部14にて検出された溶接電流Iの電流値Idが閾値未満である場合、磁気吹きが発生し易い状態にあるとみなし、溶接電流制御設定値Ircを所定の下限電流値Imin以上に制限する。従って、磁気吹きの予兆に対して遅れなく対応することができ、埋もれアーク溶接における磁気吹き及びアーク切れの発生を効果的に抑制することができる。
【0058】
(実施形態2)
実施形態2に係るアーク溶接装置は、下限電流値Iminの設定に係る構成が実施形態1と異なるため、以下では主に上記相違点を説明する。その他の構成及び作用効果は実施形態と同様であるため、対応する箇所には同様の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0059】
図6は本実施形態2に係るアーク溶接装置の一構成を示す模式図である。実施形態2に係るアーク溶接装置は、実施形態1と同様の溶接電源201を備える。実施形態2に係る制御部212は、制限部12fによって溶接電流Iの電流値が制限させている時間を計時する計時部12gを備える。計時部12gには比較部12eから出力された比較値が入力されており、計時部12gは負の比較値が入力されている時間を計時し、所定時間以上を計時した場合、下限電流値Iminを増大させる変更指示を下限電流設定部12dへ出力する。計時部12gに正の比較値が入力された場合、計時をリセットする。また、所定時間以上、負の比較値が入力された後に正の比較値が入力された場合、計時部12gは、下限電流値Iminを変更前の値に変更させる解除指示を下限電流設定部12dへ出力する。
【0060】
下限電流設定部12dは、計時部12gから変更指示が出力された場合、下限電流値Iminを増大させ、増大させた下限電流値Iminを制限部12fへ出力する。また、下限電流設定部12dは、計時部12gから解除指示が出力された場合、下限電流値Iminを増大前の値に戻し、元の下限電流値Iminを制限部12fへ出力する。
【0061】
実施形態2に係るアーク溶接装置及びアーク溶接方法によれば、溶接電流Iの電流値Idが閾値未満の状態が所定時間以上継続している場合、磁気吹きが発生し易い状態にあると考えられ、下限電流設定部12dは下限電流値Iminを増大させる。このように制御することによって、アーク7の硬直性をより強くすることができ、埋もれアーク溶接における磁気吹き及びアーク切れの発生をより効果的に抑制することができる。
【0062】
なお、上記実施形態では下限電流値Iminのみを変更する例を説明したが、下限電流値Iminと共に閾値も増減させても良い。
【0063】
(実施形態3)
実施形態3に係るアーク溶接装置は、磁気吹きの検知方法が実施形態1と異なるため、以下では主に上記相違点を説明する。その他の構成及び作用効果は実施形態と同様であるため、対応する箇所には同様の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0064】
図7は本実施形態3に係るアーク溶接装置の一構成を示す模式図である。実施形態3に係るアーク溶接装置は、実施形態1と同様の溶接電源301を備える。実施形態3に係る制御部312の比較部12eは、電流検出部14にて検出された溶接電流Iの電流値Idでは無く、定電圧制御部12bから出力される溶接電流制御設定値Ircと、所定の閾値とを比較し、比較結果を示す比較値を制限部12fへ出力する。具体的には、比較部12eは、溶接電流制御設定値Ircが閾値未満である場合、負の値の比較値を制限部12fへ出力し、溶接電流制御設定値Ircが閾値以上である場合、「0」以上の値を制限部12fへ出力する。
【0065】
実施形態3に係るアーク溶接装置及びアーク溶接方法によれば、磁気吹きの予兆に対して遅れなく対応することができ、埋もれアーク溶接における磁気吹き及びアーク切れの発生を効果的に抑制することができる。
【0066】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。